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特開2023-1161736,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する化合物、液晶性化合物、およびこれらの合成中間体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116173
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する化合物、液晶性化合物、およびこれらの合成中間体
(51)【国際特許分類】
   C07C 13/547 20060101AFI20230815BHJP
   C07C 43/21 20060101ALI20230815BHJP
   C07C 255/52 20060101ALI20230815BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20230815BHJP
   C07C 25/22 20060101ALI20230815BHJP
   C07C 43/215 20060101ALI20230815BHJP
   C07C 255/50 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C07C13/547
C07C43/21
C07C255/52
C09K19/32
C07C25/22
C07C43/215
C07C255/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018819
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】下村 祥通
(72)【発明者】
【氏名】小西 玄一
【テーマコード(参考)】
4H006
4H027
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB64
4H006EA34
4H006GP03
4H027BA01
4H027BD02
4H027BE04
4H027DM01
4H027DM04
(57)【要約】
【課題】相転移温度が低く、加工性に優れた液晶性化合物とその製造方法を提供すること。
【解決手段】この液晶性化合物は、以下の化学式(1)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格をメソゲンとして有する。この液晶性化合物は、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格の3位と9位に置換基を有してもよい。置換基は、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格に直接、またはフェニレン基若しくはエチニル基とフェニレン基を順に介して結合してもよい。
【化1】

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格をメソゲンとして有する液晶性化合物。
【化1】
【請求項2】
以下の化学式(1)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する化合物であり、
【化2】

前記6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格の3位と9位に置換基を有し、
前記置換基は、前記6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格に直接、またはフェニレン基若しくはエチニル基とフェニレン基を順に介して結合し、
前記置換基は、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択される化合物。
【請求項3】
下記の一般式(2)で表され、
【化3】

とRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、または炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
とRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
以下の化学式(3)から(6)のいずれかで表される、請求項2に記載の化合物:
【化4】
【請求項6】
下記の一般式(7)で表され、
【化5】

とRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、または炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
とRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
以下の化学式(8)または(9)で表される、請求項6に記載の化合物:
【化6】
【請求項9】
下記の一般式(10)で表され、
【化7】

とRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、または炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項10】
とRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基である、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
以下の化学式(11)または(12)で表される、請求項9に記載の化合物:
【化8】
【請求項12】
請求項1に記載の液晶性化合物、または請求項2に記載の化合物を含む材料。
【請求項13】
以下の化学式(13)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン。
【化9】
【請求項14】
以下の化学式(14)で表される3,9-ジブロモ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン。
【化10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、環状構造をコアに有するビフェニル骨格を含む化合物に関する。例えば、本発明の実施形態の一つは、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する化合物または液晶性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性を示す化合物は、その特異的な特性に起因し、液晶表示装置や電波反射装置、光学シャッター、センサーなどの電子デバイスのほか、液晶エラストマーや位相差フィルム、偏光フィルムなどに例示される各種機能性材料など、様々な分野で利用されている。液晶性を示す化合物の構造は多岐にわたるが、典型的な例として、ビフェニルや1,2-ジフェニルアセチレン、フルオレンなどをメソゲンとして有する液晶性化合物が広く用いられている(例えば、非特許文献1から4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】荒川優樹,小西玄一,有機合成化学協会誌,公益社団法人有機合成化学協会,平成31年,第76巻,第10号,p.1076-1085
【非特許文献2】Hao Wu、外2名、ACS Applied Materials&Interfaces,(米),2020年,第12巻,p.29497-29504
【非特許文献3】Gray,G.W.、外2名、Journal of the Chemical Society, Chemical Communications,(英),1974年,第11巻,p.431-432
【非特許文献4】Pecyna,J.他4名、Journal of Material chemistry C,(英),2015年,第3巻,p11412-11422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新規構造を有する化合物または液晶性化合物とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、相転移温度が低く、加工性に優れた液晶性化合物とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記化合物または液晶性化合物を製造するために利用可能な合成中間体とその製造方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、以下の化学式(1)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格をメソゲンとして有する液晶性化合物である。さらに、本発明の実施形態の一つは、上記液晶性化合物を含む材料である。
【化1】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、以下の化学式(1)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する化合物である。この化合物は、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格の3位と9位に置換基を有する。上記置換基は、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格に直接、またはフェニレン基若しくはエチニル基とフェニレン基を順に介して結合する。上記置換基は、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択される。さらに、本発明の実施形態の一つは、上記化合物を含む材料である。
【化2】
【0007】
本発明の実施形態の一つは、以下の化学式(13)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンである。
【化3】
【0008】
本発明の実施形態の一つは、以下の化学式(14)で表される3,9-ジブロモ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンである。
【化4】
【0009】
本発明の実施形態の一つは、上記化学式(13)で表される6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンの製造方法である。この製造方法は、2’-ブロモアセトフェノンと2-ブロモベンズアルデヒドを縮合して2’-ブロモフェニル-2-(2-ブロモフェニル)エテニルケトンを生成すること、2’-ブロモフェニル-2-(2-ブロモフェニル)エテニルケトンを還元して1,3-ビス(2’-ブロモフェニル)プロパンを生成すること、および1,3-ビス(2’-ブロモフェニル)プロパンを分子内カップリングすることを含む。
【0010】
本発明の実施形態の一つは、上記化学式(14)で表される3,9-ジブロモ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンの製造方法である。この製造方法は、2’-ブロモアセトフェノンと2-ブロモベンズアルデヒドを縮合して2’-ブロモフェニル-2-(2-ブロモフェニル)エテニルケトンを生成すること、2’-ブロモフェニル-2-(2-ブロモフェニル)エテニルケトンを還元して1,3-ビス(2’-ブロモフェニル)プロパンを生成すること、1,3-ビス(2’-ブロモフェニル)プロパンを分子内カップリングすることで6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンを生成すること、および6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンを臭素と反応させること含む。
【0011】
上記6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンの製造方法および3,9-ジブロモ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンの製造方法において、還元はトリエチルシランを用いて行うことができ、分子内カップリングは、ニッケル触媒を用いて行うことができる。臭素との反応では、鉄触媒を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の一つに係る化合物、9-(4-ペントキシフェニル)エチニル-3-ペンチル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]O5PhT)の示差走査熱量(DSC)測定結果。
図2】本発明の一実施形態の一つに係る化合物である5B[7]O5PhTの偏光顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0014】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明の実施形態の一つに係る化合物および液晶性化合物について説明する。これらの化合物は、橋かけされたビフェニル基を有する。具体的には、これらの化合物は、ビフェニル基の2位と2´位を三つのメチレン鎖でリンクすることで環状構造が形成された6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン骨格を有する。ここで、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンは、以下の化学式(1)で表される。式中の番号は置換位置である。以下、本発明の実施形態の一つに係る化合物および液晶性化合物を単に本アニュレン誘導体と記すことがある。
【化5】
【0015】
本アニュレン誘導体は、3位と9位に置換基を有することができる。これにより、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンはメソゲンとして機能し、本アニュレン誘導体は液晶性を示すことが可能である。置換基は、3位と9位に直接結合してもよく、あるいはフェニレン基若しくはエチニル基とフェニレン基を順に介して3位と9位に導入されてもよい。置換基としては、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択することができる。
【0016】
なお、以下の記載では、アルキル基、アルコキシ基、チオアルコキシ、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基は、直鎖でもよく、分岐構造を有していてもよい。あるいは、これらの置換基は環状構造を有してもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。フッ素を用いることで、粘性の低減、比抵抗の増大、屈折率異方性の低減を図ることができる。
【0017】
例えば、本アニュレン誘導体は、以下の一般式(2)で表される化合物でもよい。ここで、RとRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択することができる。RとRは、互いに同一でも異なってもよい。また、RとRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基でもよい。
【化6】
【0018】
本アニュレン誘導体は、以下の化学式(3)から(6)のいずれかで表される化合物でもよい。
【化7】
【0019】
あるいは、本アニュレン誘導体は、下記の一般式(7)で表される化合物でもよい。ここで、RとRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択することができる。RとRは、互いに同一でも異なってもよい。RとRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基であってもよい。
【化8】
【0020】
本アニュレン誘導体は、以下の化学式(8)または(9)で表される化合物でもよい。
【化9】
【0021】
あるいは、本アニュレン誘導体は、下記の一般式(10)で表される化合物でもよい。ここで、RとRは、それぞれ独立に、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のチオアルコキシ基、炭素数1から8のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基、シアノ基、イソチオシアニル基、ハロゲン、炭素数1から8のパーフルオロアルキル基、炭素数1から8のパーフルオロアルコキシ基、ホルミル基、および炭素数1から8のアルキル基を有するオキシカルボニル基から選択することができる。RとRは、互いに同一でも異なってもよい。RとRの少なくとも一方は、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、または炭素数1から8のチオアルコキシ基であってもよい。
【化10】
【0022】
本アニュレン誘導体は、以下の化学式(11)または(12)で表される化合物でもよい。
【化11】
【0023】
本アニュレン誘導体を含む材料は、本アニュレン誘導体の単体でもよく、本アニュレン誘導体から選択される二種類以上の化合物の混合物でもよい。あるいは、本材料は、本アニュレン誘導体および他の液晶性化合物または液晶性を示さない他の化合物の混合物でもよい。本アニュレン誘導体を含む材料は、液晶性を示してもよい。
【0024】
実施例において示すように、本アニュレン誘導体は、液晶性を示すことができる。また、液晶性を示す本アニュレン誘導体は、橋かけ構造に起因し、橋かけ構造を持たないビフェニル骨格や1,2-ジフェニルアセチレン骨格をメソゲンとして有する液晶性化合物、あるいは一つのメチレンで橋かけされたフルオレン骨格をメソゲンとして有する液晶性化合物と比較して融点や相転移温度が低く、加工性に優れる。したがって、本アニュレン誘導体を利用することで、優れた特性を示す電子デバイスや機能性材料を提供することが可能となる。
【0025】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で述べた本アニュレン誘導体の製造方法の一例について説明する。
【0026】
1.合成中間体の製造方法
本アニュレン誘導体の多くは、共通の合成中間体である6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(以下の化合物5)、および化合物5から得られる3,9-ジブロモ-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(以下の化合物6)を用いて製造することができる。したがって、本発明の実施形態の一つに係る化合物5、6は、融点や相転移温度が低い液晶性化合物を提供するための有用な合成中間体であると言える。ただし、本アニュレン誘導体の製造方法に制約はなく、化合物5または6を用いない製造方法を適用してもよい。
【化12】

【0027】
化合物5、6の製造方法の一つとして、以下のスキームに従った方法が挙げられる。
【化13】
【0028】
このスキームでは、まず、2’-ブロモアセトフェノン(化合物1)と2-ブロモベンズアルデヒド(化合物2)を塩基性条件下で縮合させ、2’-ブロモフェニル-2-(2-ブロモフェニル)エテニルケトン(化合物3)を得る。縮合に用いることができる塩基としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムエトキシドやカリウムエトキシド、マグネシウムエトキシドなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコキシド、水素化ナトリウムなどが例示される。
【0029】
その後、化合物3のカルボニル基とαβ二重結合を還元し、1,3-ビス(2’-ブロモフェニル)プロパン(化合物4)を得る。還元剤としては、トリエチルシランやトリメチルシランなどのシラン類を用いてもよく、パラジウム触媒存在下水素と作用させてもよい。
【0030】
引き続き、化合物4を分子内カップリングさせることで、化合物5を得ることができる。分子内カップリングではニッケル触媒や銅触媒が有効であり、特にビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)やビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)などのニッケル触媒が有用である。また、この反応は比較的選択性が高く、高希釈条件を採用しなくても分子間カップリングに対して分子内カップリングが優先的に進行する。例えば、反応時の化合物4の濃度は、0.05Mから0.15Mの範囲から適宜選択すればよい。
【0031】
その後、化合物5を臭素化することで化合物6を得ることができる。臭素化では、0価の鉄や臭化鉄(III)を触媒として用い、臭素を臭素源として用いればよい。
【0032】
2.化合物6への置換基の導入方法
化合物6に種々の置換基を導入する方法に制約はないが、例えば以下に示す方法を用いることができる。
【0033】
上記一般式(2)と(7)の置換基RとRとしてアルキル基を導入する場合には、例えば以下のスキームに示すように、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)などのパラジウム触媒を用いて炭素数2から8の1-アルケンと化合物6を反応させればよい。ここで、nは0から6より選択される整数であり、mは2から8より選択される整数であり、m-nは2である。あるいは、図示しないが、アルキルハロゲン化物から誘導されるグリニャール試薬をニッケルまたはパラジウム存在下で化合物6と反応させてもよい。
【化14】
【0034】
上記一般式(2)と(7)の置換基RとRとしてシアノ基を導入する場合には、例えば以下のスキームに示すように、一方の臭素をホルミル化し、その後、アンモニアを用いるイミノ化と引き続く酸化反応を行えばよい。ホルミル化は、例えばブチルリチウムを用いて得られるモノリチオ体、またはマグネシウムと反応させて得られるグリニャール試薬をN,N-ジメチルホルムアミドと反応させればよい。酸化反応で用いられる酸化剤としては、ヨウ素や酸化鉄(III)、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【化15】
【0035】
一般式(2)で表される本アニュレン誘導体の置換フェニル基(C-R)は、例えば以下のスキームに示すように、パラジウム触媒を用い、化合物(6)または化合物(6)の一方の臭素が置換基Rで置換された化合物を置換基Rが導入されたフェニルボロン酸またはフェニルボロン酸エステルと反応させればよい。ここで、Rは水素またはアルキル基であり、このアルキル基は互いに結合してホウ素と酸素を含む環状構造を形成してもよい。あるいは、図示しないが、ボロン酸またはボロン酸エステルに替わってグリニャール試薬を用いてもよい。
【化16】
【0036】
一般式(7)で表される本アニュレン誘導体の置換エチニル基(C≡CC-R)も、パラジウム触媒を用いるカップリング反応を利用して導入することができる。例えば以下のスキームに示すように、パラジウム触媒、銅触媒、および塩基存在下、化合物(6)または化合物(6)の一方の臭素が置換基Rで置換された化合物をベンゼン環上に置換基Rを有するフェニルアセチレンと反応させればよい。
【化17】
【0037】
一般式(9)で表される本アニュレン誘導体の置換エチニル基(C≡CC-R)も同様の方法で導入することができる。例えば以下のスキームに示すように、化合物(6)と等量の置換基Rを有するフェニルアセチレンを反応させて一方の置換エチニル基を導入し、その後、置換基Rを有するフェニルアセチレンを加えて他方の置換エチニル基を導入すればよい。この時、分子内に置換基RまたはRを二つ有する対称構造の本アニュレン誘導体が副生することがあるが、これらはクロマトグラフィーで分離すればよい。あるいは、化合物(6)に対して二等量以上の置換基RまたはRを有するフェニルアセチレンを反応させることで、対称構造を有する本アニュレン誘導体を選択的に得ることができる。
【化18】
【0038】
なお、本アニュレン誘導体の製造方法は上述した方法に限られず、予め4位に置換基が導入された2’-ブロモアセトフェノン、および/または予め4位に置換基が導入された2-ブロモベンズアルデヒドを用いて上述した縮合、還元、分子内カップリングを行ってもよい。
【実施例0039】
1.実施例1
本実施例では、本アニュレン誘導体の製造に有用な合成中間体の製造(合成)例、およびこれらの合成中間体を用いる本アニュレン誘導体の製造(合成)例について説明する。
【0040】
(1)装置と試薬
H-NMRスペクトルは、テトラメチルシランを内部標準として用いたCDCl溶液をBRUKER 500(500MHz)分光光度計またはJEOL 400(400MHz)分光光度計で測定した。H-NMRのデータは化学シフト(δ、単位ppm)、シグナルの多重度(sは一重線、dは二重線、tは三重線、mは多重線)、積分比、カップリング定数(J、単位Hz)によって記述される。相転移温度は偏光顕微鏡Leica DM2500Pを用いて測定した。DSC測定は、Intra CoolerIIが備え付けられたPerkin Elmer DSC8500を用い、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度または降温速度で行った。
【0041】
すべての溶媒および化学物質は市販のものを使用し、さらに精製することなく使用した。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル(関東化学株式会社製シリカゲル60N、粒径63から210μm)を用いて行った。2’-ブロモアセトフェノン、2-ブロモベンズアルデヒド、トリフルオロ酢酸、トリエチルシラン、ビピリジル、1、5-ジシクロオクタジエン、臭素、1-ペンテン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、4-ペンチルフェニルボロン酸、4-ペントキシフェニルボロン酸、塩化アンモニウム、ヨウ素、1-ブロモ-4-ペンチルベンゼン、1-ブロモ-4-ペントキシベンゼン、トリメチルシリルアセチレン、トリフェニルホスフィン、および炭酸カリウムは、東京化成工業株式会社から購入した。エタノール、ヘキサン、ビス(1.5-ジシクロオクタジエン)ニッケル(0)、ジメチルホルムアミド、トルエン、塩酸、酢酸エチル、クロロホルム、リン酸三カリウムn水和物、メタノール、テトラヒドロフラン、2.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液、ヨウ化銅(I)、およびジエチルエーテルは関東化学株式会社から購入した。水酸化ナトリウムとトリエチルアミンはナカライテスクから購入した。硫酸マグネシウムと0.5Mの9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9-BBN)テトラヒドロフラン溶液は、シグマアルドリッチジャパン合同会社から購入した。鉄とチオ硫酸ナトリウム一水和物は、富士フィルム和光純薬株式会社から購入した。メチレンクロリドはAGC株式会社化学品カンパニーから購入した。
【0042】
(2)化合物5と6の合成
化合物5と6は、以下のスキームに従って合成した。
【化19】

【0043】
ステップ1:ナスフラスコ中、化合物1(2.67mL、20mmol)、化合物2(2.31mL、20mmol)をエタノール(100mL)と1.0M水酸化ナトリウム水溶液(30mL)の混合溶媒に溶解し、室温で30分撹拌した。エタノールを減圧下で留去し、残渣をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去し、化合物3を黄色の液体として得た。収率は99%以上であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.82(d、J=16.2Hz、1H)、7.70(dd、J=7.9、1.5Hz、1H)、7.66(dd、J=7.9、0.9Hz、1H)、7.61(dd、J=7.9、1.2Hz、1H)、7.46(dd、J=7.5、2.0Hz、1H)、7.44-7.41(m、1H)、7.37-7.33(m、2H)、7.25(td、J=7.7、1.6Hz、1H)、7.03(d、J=16.2Hz、1H)。
【0044】
ステップ2:ナスフラスコ中、化合物3(7.58g、20.7mmol)をトリフルオロ酢酸/トリエチルシラン(v/v=3/1)混合溶媒(80mL)に溶解し、室温で30分撹拌した。水を加え、反応溶液をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、無色の固体として化合物4を得た。収率は73%であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.52(d、J=7.9Hz、2H)、7.22(m、4H)、7.06(m、2H)、2.82(t、J=7.8Hz、4H)、1.98-1.92(m、2H)。
【0045】
ステップ3:アルゴン置換された三口フラスコ中、ビピリジル(1.14g、7.3mmol)、ビス(1、5-ジシクロオクタジエン)ニッケル(0)(2.00g、7.3mmol)、1、5-ジシクロオクタジエン(0.6mL、5.8mmol)をジメチルホルムアミド/トルエン(v/v=1/2)混合溶媒(20mL)に溶解し、80℃で30分撹拌した。その後、ジメチルホルムアミド/トルエン(v/v=1/2)混合溶媒(40mL)に溶解した化合物4(2.83g、8.0mmol)を加え、1日撹拌した。5%塩酸(70mL)を加え、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、無色の液体として化合物5を得た。収率は82%であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.40(d、J=7.3Hz、2H)、7.35(t、J=7.3Hz、2H)、7.30(t、J=7.3Hz、2H)、7.27-7.25(m、2H)、2.52(t、J=6.9Hz、4H)、2.23-2.18(m、2H)。
【0046】
ステップ4:化合物5(1.95g、10.0mmol)、鉄(0.06g、0.11mmol)、およびクロロホルム(17mL)を含む反応混合物をナスフラスコ中0℃で撹拌した。クロロホルム(8.4mL)に溶解した臭素(3.35g、21.0mmol)を反応混合物に滴下し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。その後、チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応混合物をクロロホルムで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、無色の固体として化合物6を得た。収率は99%以上であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.46(d、J=7.9Hz、2H)、7.39(s、2H)、7.19(d、J=7.9Hz、2H)、2.45(t、J=6.4Hz、4H)、2.17(m、2H)。
【0047】
化合物5と6の合成にはそれぞれ3ステップ、4ステップが必要であるが、化合物5と6のトータル収率はいずれも59%であった。この結果は、本発明の実施形態を適用することで、本アニュレン誘導体の合成中間体である化合物5、6が効率よく合成できることを示している。
【0048】
(3)9-ペンチル-3-(4-ペンチルフェニル)-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]T)の合成
5B[7]Tは、以下のスキームに従って合成した。
【化20】
【0049】
アルゴン置換された二口フラスコ中、0.5Mの9-BBNテトラヒドロフラン溶液(10mL)を0℃で撹拌し、その後、1-ペンテン(0.55mL、5.0mmol)を加え室温で4時間撹拌した。3M水酸化ナトリウム水溶液(5mL、15mmol)、化合物6(3.52g、10.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(PPh(0.14g、0.1mmol)を反応溶液に加え、70℃で一晩還流した。その後、水を加え、反応混合物をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製したのち、ヘキサンを溶媒として再結晶を行い、ろ液を回収して無色の液体として3-ブロモ-9-ペンチル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(化合物7)と未反応の化合物6の混合物を得た。化合物6と化合物7のモル比(化合物6:化合物7)は約1:2であった。合計収量は2.38gであった。化合物7のH-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.50-7.46(m、1H)、7.41(d、J=7.9Hz、1H)、7.31-7.28(m、1H)、7.26-7.21(m、1H)、7.17(t、J=7.0Hz、1H)、7.08(s、1H)、2.66(t、J=7.8Hz、2H)、2.49(s、4H)、2.23-2.17(m、2H)、1.69(t、J=6.1Hz、2H)、1.39(s、4H)、0.94(t、J=6.0Hz、3H)。
【0050】
アルゴン置換された二口フラスコ中、化合物6と7の混合物、4-ペンチルフェニルボロン酸(化合物6と7の混合物に対して2当量)、りん酸三カリウム(化合物6と7の混合物に対して3当量)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(5mol%)をトルエン/メタノール/水(v/v=5/2/1)の混合溶媒(15mL)に溶解し、100℃で3時間撹拌した。その後、反応混合物を室温に冷却し、水を加え、反応混合物をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、5B[7]Tを無色液体として得た。収率は69%であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(400MHz、CDCl):δ7.58-7.53(m、3H)、7.46(s、1H)、7.42(d、J=8.2Hz、1H)、7.33(d、J=7.8Hz、1H)、7.27-7.25(m、2H)、7.17(dd、J=7.5、1.6Hz、1H)、7.08(s、1H)、2.67-2.63(m、4H)、2.55(t、J=7.1Hz、4H)、2.51(t、J=7.1Hz、4H)、2.25-2.18(m、2H)、1.67(td、J=14.1、6.7Hz、4H)、1.39-1.34(m、8H)、0.92(td、J=7.0、4.3Hz、6H)。
【0051】
(4)3-(4-ペントキシフェニル)-9-ペンチル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]05T)の合成
以下の化学式で表される5B[7]05Tは、化合物6、7の混合物と反応させる基質として4-ペントキシフェニルボロン酸を用い、5B[7]Tと同様の方法によって無色個体として得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製の展開溶媒はヘキサン/ジクロロメタン(v/v=2/1)であった。収率は84%であり、H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.58(d、J=7.6Hz、2H)、7.51(d、J=7.6Hz、1H)、7.41(d、J=9.8Hz、2H)、7.32(d、J=7.9Hz、1H)、7.16(d、J=7.6Hz、1H)、7.07(s、1H)、6.98(d、J=7.6Hz、2H)、4.01(t、J=6.4Hz、2H)、2.64(t、J=7.8Hz、2H)、2.56(t、J=6.7Hz、2H)、2.52(t、J=6.9Hz、2H)、2.24-2.19(m、2H)、1.85-1.79(m、2H)、1.71-1.64(m、2H)、1.49-1.38(m、8H)、0.96-0.91(m、6H)。
【化21】
【0052】
(5)3-(4-シアノフェニル)-9-ペンチル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]CT)の合成
以下の化学式で表される5B[7]CTは、化合物6、7の混合物と反応させる基質として4-シアノフェニルボロン酸を用い、5B[7]Tと同様の方法によって無色個体として得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製の展開溶媒はヘキサン/ジクロロメタン(v/v=2/1)であった。収率は27%であり、H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.77(t、J=9.5Hz、4H)、7.58(d、J=7.9Hz、1H)、7.50(d、J=8.2Hz、2H)、7.35(d、J=7.6Hz、1H)、7.21(d、J=7.9Hz、1H)、7.11(s、1H)、2.67(t、J=7.6Hz、2H)、2.61(t、J=6.6Hz、2H)、2.54(t、J=6.9Hz、2H)、2.28-2.23(m、2H)、1.72-1.68(m、2H)、1.40(s、4H)、0.95(t、J=5.6Hz、3H)。
【化22】
【0053】
(6)9-シアノ-3-(4-ペンチルフェニル)-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5CB[7]T)の合成
以下の化学式で表される(5CB[7]T)は、以下に示すスキームに従って合成した。
【化23】
【0054】
アルゴン置換された二口フラスコ中、化合物6(1.07g、3.0mmol)、4-ペンチルフェニルボロン酸(化合物8、0.29g、1.5mmol)、リン酸三カリウム(0.93g、4.4mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.09g、0.08mmol)をトルエン/メタノール/水(v/v=5/2/1)混合溶媒(15mL)に溶解し、100℃で2時間還流した。その後、水を加え、反応混合物をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製し、無色固体として9-ブロモ-3-(4-ペンチルフェニル)-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(化合物9)を得た。収率は72%であり、H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.56(d、J=7.3Hz、3H)、7.47(d、J=8.9Hz、2H)、7.41-7.38(m、2H)、7.29-7.26(d、J=6.7Hz、3H)、2.65(t、J=7.6Hz、2H)、2.57-2.55(m、2H)、2.51(t、J=6.9Hz、2H)、2.25-2.19(m、2H)、1.66(s、2H)、1.36(m、4H)、0.92-0.90(m、3H)。
【0055】
アルゴン置換された二口フラスコ中、化合物9(0.45g、1.1mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(5mL)に溶解し、-78℃で撹拌した。その後、2.6Mのn―ブチルリチウムヘキサン溶液(0.45mL、1.2mmol)を滴下し、-78℃で30分撹拌した。その後、乾燥ジメチルホルムアミド(0.10mL、1.2mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を反応混合物に加え、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=9/1))で精製し、無色固体として9-ホルミル-3-(4-ペンチルフェニル)-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(化合物10)を得た。収率は61%であり、H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ10.05(s、1H)、7.86(d、J=7.3Hz、1H)、7.78(s、1H)、7.59(t、J=7.8Hz、4H)、7.50(s、1H)、7.47(d、J=7.9Hz、1H)、7.28(d、J=7.6Hz、2H)、2.68-2.63(m、4H)、2.57(s、2H)、2.29-2.24(m、2H)、1.68-1.66(m、2H)、1.36(m、4H)、0.92(m、3H)。
【0056】
ナスフラスコ中、化合物10(0.18g、0.5mmol)にテトラヒドロフラン(1mL)と30%アンモニア水(5mL)を加え、得られた反応溶液を室温で撹拌した後、ヨウ素(0.14g、0.6mmol)を加え、暗室で3時間撹拌した。その後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応溶液をジクロロメタンで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン(v/v=1/1))と再結晶(メタノール/ジクロロメタン(v/v=3/1))で精製し、無色固体として5CB[7]Tを得た。収率は45%であり、H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.64(dd、J=7.8、1.7Hz、1H)、7.59(dd、J=7.9、1.8Hz、1H)、7.57(dd、J=6.4、1.8Hz、2H)、7.55(d、J=1.5Hz、1H)、7.51-7.49(m、2H)、7.41(d、J=7.9Hz、1H)、7.28(d、J=8.2Hz、2H)、2.66(t、J=7.8Hz、2H)、2.58-2.54(m、4H)、2.28-2.22(m、2H)、1.70-1.64(m、2H)、1.37-1.35(m、4H)、0.91(t、J=7.0Hz、3H)。
【0057】
(7)9-ペンチル-3-(4-ペンチルフェニル)エチニル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]PhT)と3,9-ビス[(4-ペンチルフェニル)エチニル]-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]BPhTB)の合成
以下の化学式で表される5B[7]PhTと5B[7]BPhTBは、以下に示すスキームに従って合成した。
【化24】
【0058】
アルゴン置換された二口フラスコ中、4-ブロモペンチルベンゼン(化合物11)、トリメチルシリルアセチレン(4-ブロモペンチルベンゼンに対して1.5当量)、トリフェニルホスフィン(5mol%)、ヨウ化銅(I)(5mol%)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(5mol%)をテトラヒドロフラン/トリエチルアミン(v/v=1/1)混合溶媒(20mL)に溶解し、50℃で一晩還流した。その後、反応混合物に5%塩酸を加え、反応混合物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、無色液体として4-トリメチルシリルエチニルペンチルベンゼン(化合物12)を99%以上の収率で得た。
【0059】
引き続き、ナスフラスコ中、化合物12と炭酸カリウム(化合物12に対して3当量)をテトラヒドロフラン/メタノール(v/v=1/1)混合溶媒(30mL)中で室温で2時間撹拌した。反応混合物を酢酸エチルで抽出した後、有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、無色液体として5-ペンチルフェニルアセチレン(化合物13)を収率84%で得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.40(d、J=7.6Hz、2H)、7.13(d、J=7.3Hz、2H)、3.03(s、1H)、2.60(t、J=7.8Hz、2H)、1.63-1.57(m、2H)、1.35-1.27(m、4H)、0.89(t、J=6.7Hz、3H)。
【0060】
アルゴン置換された二口フラスコ中、化合物6と7の混合物(化合物6:化合物7=約1:2)、化合物13(化合物6と7の混合物に対して1.5当量)、トリフェニルホスフィン(5mol%)、ヨウ化銅(I)(5mol%)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(5mol%)にテトラヒドロフラン/トリエチルアミン(v/v=1/1)混合溶媒(20mL)を加え、50℃で一晩還流した。その後、5%塩酸を加え、反応混合物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水、ろ過し、減圧下で溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)で精製した。5B[7]BPhTBは、さらに再結晶(メタノール/ジクロロメタン(v/v=3/1))で精製した。5B[7]PhTは無色固体であり、その収率は62%であった。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.50(dd、J=7.8、1.7Hz、1H)、7.49-7.47(m、2H)、7.43(d、J=1.5Hz、1H)、7.36(d、J=7.6Hz、1H)、7.31(d、J=7.9Hz、1H)、7.20-7.17(m、3H)、7.08(d、J=1.5Hz、1H)、2.65(dd、J=15.9、8.9Hz、4H)、2.51(q、J=7.3Hz、4H)、2.24-2.18(m、2H)、1.72-1.62(m、4H)、1.41-1.33(m、8H)、0.96-0.93(m、6H)。5B[7]BPhTBは無色固体として収量50mgで得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.51-7.49(m、2H)、7.46(dd、J=6.4、1.8Hz、4H)、7.43(s、2H)、7.36(d、J=7.9Hz、2H)、7.17(d、J=8.2Hz、4H)、2.62(t、J=7.6Hz、4H)、2.50(t、J=7.0Hz、4H)、2.23-2.17(m、2H)、1.66-1.60(m、4H)、1.36-1.30(m、8H)、0.90(t、J=7.2Hz、6H)。
【0061】
(8)3-(4-ペントキシフェニル)エチニル-9-ペンチル-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(5B[7]O5PhT)と3,9-ビス[(4-ペントキシフェニル)エチニル]-6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレン(O5B[7]BPhTB)の合成
以下の化学式で表される5B[7]O5PhTとO5B[7]BPhTBは、5B[7]PhTと5B[7]BPhTBの合成と同様の方法で合成した。すなわち、上記方法と同様の方法によって4-ペントキシフェニルアセチレンを合成し、これを化合物6と7の混合物と反応させることで5B[7]O5PhTとO5B[7]BPhTBを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製の展開溶媒はヘキサン/ジクロロメタン(v/v=6/1)であり、O5B[7]BPhTBはさらに再結晶(メタノール/ジクロロメタン(v/v=3/1))で精製した。5B[7]O5PhTとO5B[7]BPhTBは、それぞれ収率36%、収量57mgで無色固体として得られた。5B[7]O5PhTのH-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.46(d、J=7.3Hz、3H)、7.39(s、1H)、7.33(d、J=7.0Hz、1H)、7.29(d、J=8.5Hz、1H)、7.15(d、J=7.6Hz、1H)、7.06(s、1H)、6.87(d、J=7.6Hz、2H)、3.98(t、J=5.6Hz、2H)、2.63(t、J=7.8Hz、2H)、2.48(m、4H)、2.21-2.16(m、2H)、1.83-1.77(m、2H)、1.70-1.64(m、2H)、1.46-1.37(m、8H)、0.95-0.88(m、6H)。O5B[7]BPhTBのH-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.50-7.46(m、6H)、7.41(d、J=1.5Hz、2H)、7.35(d、J=7.6Hz、2H)、6.88(dt、J=9.3、2.3Hz、4H)、3.98(t、J=6.6Hz、4H)、2.50(t、J=6.9Hz、4H)、2.23-2.17(m、2H)、1.83-1.77(m、4H)、1.48-1.36(m、8H)、0.94(t、J=7.2Hz、6H)。
【化25】

【0062】
2.実施例2
本実施例では、本アニュレン誘導体の特性を評価した結果について述べる。代表例として、5B[7]O5PhTのDCS測定結果を図1に示す。図1から理解されるように、昇温過程で36.2℃に吸熱ピークが見られ、78.9℃と94.6℃に発熱ピークが見られた。一方、降温過程で92.5℃に吸熱ピークが観察された。5B[7]O5PhTの82℃で取得した偏光顕微鏡像を図2に示す。図2から理解されるように、ネマチック相が出現していることが確認される。このことから、昇温過程での36.2℃のピークは、アモルファス相から結晶相への相転移であり、78.9℃と94.6℃に観察された二つの発熱ピークは、それぞれ結晶層からネマチック相への相転移、ネマチック相から等方相への総転移であることが分かる。また、降温過程における92.5℃のピークは、等方相からネマチック相への相転移温度であることが分かる。なお、降温過程でネマチック相から結晶層への相転移温度は確認できなかった。これは、結晶化速度が比較的小さいためであると考えられる。
【0063】
表1に本アニュレン誘導体の相転移挙動を纏める。表1に示すように、本アニュレン誘導体の結晶相からネマチック相への相転移温度は、おおよそ室温から150℃の範囲であることが分かった。以下に示すビフェニル構造と1,2-ジフェニルアセチレンをそれぞれメソゲンとして有する液晶性化合物である4-シアノ-4’’-ペンチル-p-ターフェニル(化合物14)と4-ペンチル-4’-[(4-(オクチルオキシ)フェニル)エチニル]-1,1’-ビフェニル(化合物15)は、それぞれ5CB[7]Tと5B[7]O5PhTに対応する。化合物14の結晶相からネマチック相への相転移温度は130℃であり(非特許文献3参照。)、5CB[7]Tのそれ(52.9℃)と比較して80℃近く高い。同様に、化合物15の結晶相からスメクチックB相への相転移温度は156℃であり、スメクチックB相からネマチック相への相転移は177℃であるのに対し(非特許文献4参照。)、5B[7]O5PhTの結晶相からネマチック相への相転移温度は78.9℃である。このような大きな相転移温度の差から、6,7-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,c][7]アニュレンをメソゲンとして有する本アニュレン誘導体が低い相転移温度を示す液晶材料として機能できることが確認できる。この低い相転移温度は、橋かけ構造がもたらす分子構造の柔軟性に起因するものと考えられる。特に5B[7]O5Tの降温過程におけるネマチック相から結晶相への相転移温度は室温近辺である点は注目すべきことである。また、5B[7]Tは室温で等方相を示すため偏光顕微鏡観察は行っていないが、DSC測定から、昇温過程において10.9℃で大きな発熱ピーク(ΔH=0.25kJ/mol)が観測されたことから、5B[7]Tも室温以下で相転移する液晶性化合物であることが示唆される。
【表1】

【化26】
【0064】
なお、5B[7]PhTは、偏光顕微鏡観察では降温過程でネマチック相から結晶相への相転移温度は確認できなかったが、物理的刺激を加えることで結晶化することが確認された。5CB[7]Tもユニークな挙動を示すことが分かった。具体的には、昇温過程においてネマチック相は出現せずに三つの結晶相が出現することが確認されたが、降温過程では等方相からネマチック相への転移が確認され、さらにこのネマチック相から初期の結晶相(Cry1)へ相転移することが分かった。また、5B[7]CTは、DSC測定では明確なピークは観測することはできなかったものの、偏光顕微鏡観察では、降温過程を経過してから室温で数日間静置することでネマチック相が出現することが確認された。
【0065】
以上の結果は、本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体は、低い相転移温度を示し、かつ、加工性に優れた液晶性化合物として機能できることを示している。
【0066】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0067】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
図1
図2