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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116176
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】植物種子の発芽誘導剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/08 20060101AFI20230815BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A01N43/08 H
A01P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018825
(22)【出願日】2022-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月1日、学校法人加計学園岡山理科大学理学部生物化学科勝部隼斗の卒業論文発表会、秘密状態を解除 〔刊行物等〕 令和3年6月1日、学校法人加計学園岡山理科大学理学部生物化学科勝部隼斗の卒業論文要旨、閲覧を開始 〔刊行物等〕 令和3年10月28日、一般社団法人植物化学調節学会発行、植物化学調節学会第56回大会研究発表記録集、5A欄で発表 〔刊行物等〕 令和3年11月14日、一般社団法人植物化学調節学会主催、植物化学調節学会第56回大会、オンライン発表
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 康祐
(72)【発明者】
【氏名】北岡 花奈
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 義哉
(72)【発明者】
【氏名】岡部 聖真
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011AB03
4H011BB08
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】低濃度でも効果を奏する高活性の化合物を含む発芽誘導剤を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤とする。式(1)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子あるいは置換基である。
【選択図】図9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤。
【化1】
[式(1)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Y、Y、Y及びYのそれぞれに含まれる炭素数は20以下である。Y、Y、Y及びYが相互に結合していてもよい。]
【請求項2】
、Y、Y及びYのうちの3つが水素原子であり、他の1つがハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である、請求項1に記載の発芽誘導剤。
【請求項3】
下記式(2)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤。
【化2】
[式(2)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Z、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Z、Z、Z、Z及びZのそれぞれに含まれる炭素数は14以下である。Z、Z、Z、Z及びZが相互に結合していてもよい。]
【請求項4】
Xがニトロ基である請求項1~3のいずれかに記載の発芽誘導剤。
【請求項5】
下記式(3)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤。
【化3】
[式(3)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Wはハロゲン原子である。]
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の発芽誘導剤を含む水溶液に植物種子を浸漬して発芽させる、植物種子の発芽誘導方法。
【請求項7】
前記水溶液中の前記ラクトンの含有量が1pM~100μMである、請求項6に記載の発芽誘導方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の発芽誘導剤を含むコーティング剤で被覆されてなる、植物種子。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の発芽誘導剤を含む水溶液を土壌に散布して有害植物の種子を発芽させてから、該有害植物を駆除する、有害植物駆除方法。
【請求項10】
下記式(2)で表される化合物。
【化4】
[式(2)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Z、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Z、Z、Z、Z及びZのそれぞれに含まれる炭素数は14以下である。Z、Z、Z、Z及びZが相互に結合していてもよい。]
【請求項11】
下記式(3)で表される化合物。
【化5】
[式(3)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Wはハロゲン原子である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子の発芽誘導剤に関する。また、当該発芽誘導剤を用いる発芽誘導方法、当該発芽誘導剤を含むコーティング剤で被覆されてなる植物種子、及び当該発芽誘導剤を用いる有害植物駆除方法に関する。さらに、植物種子の発芽誘導効果に優れた新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
Strigolなどのストリゴラクトンは、ストライガ(Striga)属の根寄生植物の発芽を誘導する化合物として知られている。ストライガ属の植物は、宿主が根から出すストリゴラクトンをHTL受容体で検出することによって発芽し、宿主に寄生して成長する。このように、植物種子の発芽誘導に関連する受容体としてHTL受容体が知られている。
【0003】
【化1】
【0004】
また、ストリゴラクトンと類似骨格を有し、D14受容体のアゴニストであるGR24という合成ラクトン化合物が知られている。ここで、D14受容体はHTL受容体のパラログ受容体であり、分枝抑制に関連する受容体であることが知られている。非特許文献1には、GR24のラクトン環からメチル基を除いたデスメチルGR24(dGR24)は、D14受容体に対する親和性が低減し、HTL受容体に対する親和性が増加すると記載されている。
【0005】
【化2】
【0006】
特許文献1に示されるように、本願の発明者らは、ストリゴラクトン様の活性を有し分枝抑制効果を有する化合物として、debranoneについて報告した。下記式中、Aはベンゼン環上の置換基であり、複数の置換基を有していてもよい。
【0007】
【化3】
【0008】
また、非特許文献2に示されるように、本願の発明者らは、HTL受容体に結合して高い生理活性を示す化合物としてgerminone Aを開発し、その発芽誘導活性について報告した。しかしながら、germinone AはHTL受容体のみならずD14受容体にも結合性を示し、植物試験では副作用としてD14受容体を介した応答も惹起してしまうため、標的選択性に改善の余地があった。また、その発芽誘導活性は未だ不十分であった。
【0009】
【化4】
【0010】
非特許文献1では、パラ位にシアノ基を有するdebranone(CN-deb)と、そのラクトン環からメチル基を除いたデスメチル体であるdCN-debについても、D14受容体とHTL受容体に対する親和性を検討していて、CN-debはD14受容体に対する親和性が大きく、dCN-debはHTL受容体に対する親和性が大きいことが示されている。しかしながら、dCN-debの発芽誘導活性については記載されていない。
【0011】
【化5】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2012/043813A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yao et al., New Phytologist, 2021, doi: 10.1111/nph.17224
【非特許文献2】Fukui et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 29 (2019) 2487-2492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、低濃度でも効果を奏する高活性の化合物を含む発芽誘導剤を提供することを目的とするものである。また、当該発芽誘導剤を用いる発芽誘導方法を提供すること、当該発芽誘導剤を含むコーティング剤で被覆されてなる植物種子を提供すること、及び当該発芽誘導剤を用いる有害植物駆除方法を提供することも、本発明の目的である。さらに、植物種子の発芽誘導効果に優れた新規化合物を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記式(1)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤である。
【0016】
【化6】
【0017】
[式(1)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Y、Y、Y及びYのそれぞれに含まれる炭素数は20以下である。Y、Y、Y及びYが相互に結合していてもよい。]
【0018】
このとき、Y、Y、Y及びYのうちの3つが水素原子であり、他の1つがハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基であることが好ましい。
【0019】
本発明において、下記式(2)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤が好適である。
【0020】
【化7】
【0021】
[式(2)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Z、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Z、Z、Z、Z及びZのそれぞれに含まれる炭素数は14以下である。Z、Z、Z、Z及びZが相互に結合していてもよい。]
【0022】
また、前記発芽誘導剤において、Xがニトロ基であることが好ましい。
【0023】
本発明において、下記式(3)で表されるラクトンを有効成分として含む、植物種子の発芽誘導剤も好適である。
【0024】
【化8】
【0025】
[式(3)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Wはハロゲン原子である。]
【0026】
前記発芽誘導剤を含む水溶液に植物種子を浸漬して発芽させる植物種子の発芽誘導方法が、好適な実施態様である。このとき、前記水溶液中の前記ラクトンの含有量が1pM~100μMであることが好ましい。前記発芽誘導剤を含むコーティング剤で被覆されてなる植物種子も、好適な実施態様である。また、前記発芽誘導剤を含む水溶液を土壌に散布して有害植物の種子を発芽させてから、該有害植物を駆除する、有害植物駆除方法も、好適な実施態様である。
【0027】
また、本発明は、下記式(2)で表される化合物である。
【0028】
【化9】
【0029】
[式(2)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Z、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。Z、Z、Z、Z及びZのそれぞれに含まれる炭素数は14以下である。Z、Z、Z、Z及びZが相互に結合していてもよい。]
【0030】
また、本発明は、下記式(3)で表される化合物である。
【0031】
【化10】
【0032】
[式(3)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。Wはハロゲン原子である。]
【発明の効果】
【0033】
本発明の発芽誘導剤に含まれるラクトンは活性が高いので、当該ラクトンの濃度が低くても効果的に発芽を誘導することができる。これによって、土壌や作物への残留が少ない、安全性の高い発芽誘導剤を提供することができる。また、比較的簡単な化学構造を有している上に微量で効果を奏するので、合成しやすく安価な発芽誘導剤を提供することもできる。そしてこのような特性を有する本発明の発芽誘導剤は、発芽誘導方法、コーティングされた植物種子、有害植物駆除方法などにも用いることができる。
【0034】
これにより、難発芽性の植物種子を発芽誘導することができるため、発芽しにくいために未利用となっていた植物資源を利用可能にすることもできる。また、発芽の斉一性を高めることができるため、農作業の効率を高めるとともに、収穫量の増加も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】0.1 μMの化合物k1~k7又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図2】10 μMの化合物k8~k13又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図3】0.1 μMの化合物k8~k13又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図4】1 μMの化合物k14~k19又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図5】0.1 μMの化合物k14~k19又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図6】1 μMの化合物k5, k9, k11, k17, k20, k21, k23又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図7】0.1 μMの化合物k5, k9, k11, k17, k20, k21, k23又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図8】0.01 μMの化合物k5, k9, k17, k23又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図9】0.001 μMの化合物k5, k9, k17, k23又はgerminone A(ger A)を含む水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図10】化合物k23, germinone A(ger A)又はdCN-debを含み、それらの濃度を変えた水溶液で処理した時の発芽率を示したグラフである。
図11】germinone Aと化合物k23のそれぞれについて、D14受容体及びHTL受容体への結合性を評価したDSFアッセイの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の発芽誘導剤は、下記式(1)で表されるラクトンを有効成分として含む。当該ラクトンは、植物種子において、発芽に関連する受容体のアゴニストとして働いていると考えられる。
【0037】
【化11】
【0038】
式(1)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基である。すなわち、フェノキシ基のオルトの位置にニトロ基又はシアノ基という強い電子吸引基を有することが重要である。発芽誘導効果の観点からは、Xがニトロ基であることが好ましい。
【0039】
また、式(1)中、Y、Y、Y及びYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。
【0040】
、Y、Y及びYのそれぞれに含まれる炭素数は20以下である。当該炭素数は、好適には12以下であり、より好適には8以下である。Y、Y、Y及びYが相互に結合していてもよい。相互に結合する場合には、脂環骨格を形成してもよいし、芳香環骨格を形成してもよい。例えば隣接する置換基でベンゼン環を形成する場合には元々のベンゼン環とともにナフタレン環を形成することになる。このとき、結合した置換基全体として前記炭素数を満足する。
【0041】
、Y、Y及びYとして好適なものとしては、水素原子、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子及びアルキルカルボニル基が挙げられる。ここで、置換基を有してもよいアリール基としては、置換基を有してもよいフェニル基が好ましく、当該アリール基の有する置換基としては、前記Y、Y、Y及びYとして例示された置換基が例示される。アリール基の有する置換基に含まれる炭素数は14以下であり、6以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。また、アルキルカルボニル基の炭素数は5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。2のときの代表例がアセチル基である。このとき、アルキルカルボニル基がハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0042】
、Y、Y及びYのうちの3つ以下が水素原子であることが好ましい。すなわち、X以外に少なくとも一つの置換基を有するフェノキシ基であることが好ましい。また、Y、Y、Y及びYのうちの1つ以上が水素原子であることが好ましく、2つ以上が水素原子であることがより好ましい。最適には、Y、Y、Y及びYのうちの3つが水素原子であり、他の1つがハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基であることが好ましい。すなわち、2置換のフェノキシ基を含むことが好ましい。
【0043】
本発明の発芽誘導剤が、下記式(2)で表されるラクトンを有効成分として含むことが好ましい。
【0044】
【化12】
【0045】
式(2)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基であり、より好適にはニトロ基である。Z、Z、Z、Z及びZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ホルミル基、保護されていてもよいカルボキシル基又はその塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、保護されていてもよいアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、保護されていてもよいチオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、保護されていてもよいスルフィン酸基又はその塩、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、保護されていてもよいスルホン酸基又はその塩、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルアゾ基、アリールアゾ基、保護されていてもよいリン酸基又はその塩、保護されていてもよい亜リン酸基又はその塩、シアノ基、ニトロ基又はアジド基である。
【0046】
、Z、Z、Z及びZのそれぞれに含まれる炭素数は14以下である。当該炭素数は、好適には6以下であり、より好適には2以下である。Z、Z、Z、Z及びZが相互に結合していてもよい。相互に結合する場合には、脂環骨格を形成してもよいし、芳香環骨格を形成してもよい。例えば隣接する置換基でベンゼン環を形成する場合には元々のベンゼン環とともにナフタレン環を形成することになる。ここで、結合した置換基全体として前記炭素数を満足する。
【0047】
本発明の発芽誘導剤が、下記式(3)で表されるラクトンを有効成分として含むことが好ましい。
【0048】
【化13】
【0049】
式(3)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基であり、シアノ基が好適である。Wはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が好適なものとして例示されるが、フッ素原子がより好適である。
【0050】
さらに、本発明の発芽誘導剤が、下記式(4)で表されるラクトンを有効成分として含むことが好ましい。
【0051】
【化14】
【0052】
式(4)中、Xは、ニトロ基又はシアノ基であり、ニトロ基が好適である。Vはアルキルカルボニル基である。アルキルカルボニル基の炭素数は5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。2のときの代表例がアセチル基である。このとき、アルキルカルボニル基がハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0053】
本発明の発芽誘導剤は、有効成分として式(1)で表されるラクトンを含んでいればよく、その形態は限定されない。ラクトンをそのまま用いても構わないが、希釈した組成物として流通させることが好ましい。液剤にするのであれば、溶液、分散液、ペーストなどにすることができる。このときの溶媒や分散媒などの希釈剤としては、水、アルコールなど環境負荷の小さい液体が好ましく、特に水が好ましい。水を用いるときには、水に溶解可能な有機溶媒を少量含んでいても構わない。また、粉剤、顆粒、錠剤などとすることもでき、その場合には賦形剤を含むことが好ましい。賦形剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチンなどの有機物や、シリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム等の無機物を適宜選択して使用することができる。さらに、着色剤、酸化防止剤、分散剤などを適宜含むこともできる。
【0054】
本発明の好適な実施態様は、前記発芽誘導剤を含む水溶液に植物種子を浸漬して発芽させる、植物種子の発芽誘導方法である。このとき、当該水溶液に植物種子を浸漬して、水溶液中で発芽させてもよい。また、当該水溶液に植物種子を浸漬した後に水溶液から取り出して発芽させてもよく、この場合には取り出した後に土壌などの培地に播種して発芽させることができる。当該水溶液中の前記ラクトンの含有量が1pM~100μMであることが好ましい。式(1)で表されるラクトンは活性が高いので、当該ラクトンの濃度が低い水溶液を用いても、効果的に発芽を誘導することができる。これによって、土壌や作物への残留が少ない、安全性の高い発芽誘導剤を提供することができる。効果的な発芽誘導の観点からは、水溶液中の前記ラクトンの含有量は、10pM以上であることがより好ましく、100pM以上であることがさらに好ましい。一方、安全性の観点やコストの観点からは、水溶液中の前記ラクトンの含有量は、1μM以下であることがより好ましく、100nM以下であることがさらに好ましく、10nM以下であることが特に好ましい。当該水溶液の中に、肥料、農薬、安定剤、分散剤などを本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することもできる。水溶液中で発芽させるのであれば、水溶液に浸漬する際の温度は通常5~40℃であり、浸漬時間は通常1日~1ヶ月である。一方、一旦水溶液に浸漬した後に水溶液から取り出して、その後発芽させるのであれば、浸漬時間はより短くてもよく、温度範囲はより広くてもよい。
【0055】
また、本発明の他の好適な実施態様は、前記発芽誘導剤を含むコーティング剤で被覆されてなる植物種子である。当該コーティング剤は、式(1)で表されるラクトンと基材を含む組成物からなる。当該基材としては、樹脂や、樹脂と無機粒子の混合物を用いることができる。当該樹脂としては、水溶性樹脂、分解性樹脂、崩壊性樹脂などが好適に用いられ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチンなどが代表的なものとして例示される。また、樹脂と無機粒子の混合物を用いる際には、前記樹脂と、シリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム等の無機粒子が混合され、当該樹脂が無機粒子同士を接着するバインダーとして機能する。コーティング剤としては、式(1)で表されるラクトンと基材を含み、さらに水や有機溶媒を含んで、溶液、分散液又はスラリーとすることが好ましい。このようなコーティング剤を植物種子にコーティングし、必要に応じて乾燥させて、本発明のコーティング剤で被覆されてなる植物種子が得られる。
【0056】
また、本発明の他の好適な実施態様は、前記発芽誘導剤を含む水溶液を土壌に散布して有害植物の種子を発芽させてから該有害植物を駆除する、有害植物駆除方法である。多くの農薬は発芽後の植物に対しては有効であるものの、発芽前の種子に対しては効果を奏さない。したがって、種子の状態で長期間休眠するような植物を駆除することは困難である。例えばストライガ属の根寄生植物のように宿主の根から分泌されたアゴニストを感知するまで10年以上も種子のまま休眠するような植物であれば、宿主となる作物を生育させる前に駆除することは極めて困難である。これに対し、作物を生育させる前に式(1)で表されるラクトンを含む水溶液を土壌に散布して有害植物の種子を発芽させて、発芽後の当該有害植物を駆除すれば、その後に作物を生育させる際に、土壌中に未発芽の種子がほとんどないので有害植物による被害を防ぐことができる。駆除するために農薬を使用することもできるし、発芽後に生育不可能な環境に曝して枯らすこともできる。式(1)で表されるラクトンは、微量であっても植物種子の発芽を効果的に誘導することができるので、土壌への当該ラクトンの残留の問題も少ないし、コスト面でも有利である。
【0057】
なお、前記式(2)、式(3)及び式(4)で表されるラクトンは、いずれも新規化合物である。今回、優れた発芽誘導活性を有することが明らかになったが、他にも有用な用途を有する可能性が期待される。
【実施例0058】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0059】
[化合物k23の合成]
100 mL丸底フラスコに2(5H)-furanone(Mol.Wt.:84.07,2500 mg,29.7 mmol)を量り取り、四塩化炭素を30 ml加えた。その後、NBS(Wol.Wt.:177.99,5293 mg,29.7 mmol)及び、AIBN(Mol.Wt.:164.21,243 mg,1.48 mmol)を加え、この反応液を90℃で加熱還流した。30分後、この反応の進行をTLC(ヘキサン:酢酸エチル=3 : 1)で確認し、反応を終了させた。反応液を綿ろ過し、四塩化炭素で洗い込みをしてエバポレーターで減圧濃縮した。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)を用いて精製し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮を行い溶媒を留去した。さらに真空乾燥させ、5-bromo-2(5H)-furanone (Mol.Wt.:162.97、20.3 mmol、3313 mg、68.4 %yield)を回収した。
【0060】
【化15】
【0061】
25 ml丸底フラスコに5-bromo-2(5H)-furanone (Mol.Wt.:162.97、1.11 mmol、181.1 mg)を量り取り、アセトン2 mlを加えた。さらに、4-hydroxy-3-nitrobiphenyl(Mol.Wt.:215.21、1.16 mmol、191.7 mg)を入れ、アセトン 2 mlで洗い込みした後、K2CO3(Mol.Wt.:138.21、1.26 mmol、173.8 mg)を加え、室温で1.5時間攪拌した。TLC(ヘキサン/酢酸エチル= 3/1)で反応の進行を確認し、1 M塩酸を10 mL加えて反応を終了させた。酢酸エチル10 mlを加え分液操作を行い有機層を回収した。さらに酢酸エチル 10 mlを用いた同様の抽出操作を2回行った。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、綿ろ過により無水硫酸ナトリウムを除き、溶液をエバポレーターで減圧濃縮した。ヘキサン/酢酸エチル= 3/1の展開溶媒を用いてシリカゲルカラム精製を行い、目的物を含むフラクションを回収し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。さらに真空乾燥させ、目的物を黄色粉末(k23: Mol.Wt:297.27、0.91 mmol、 270 mg、81.7 %yield)として得た。1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.08 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.80 (dd, J = 8.6, 2.2 Hz, 1H), 7.57-7.54 (m, 3H), 7.51 (dd, J = 5.8, 1.0 Hz, 1H), 7.49-7.45 (m, 2H), 7.42-7.38 (m, 1H), 6.44 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.39 (dd, J = 5.8, 1.0 Hz, 1H)
【0062】
【化16】
【0063】
[化合物k1~k21の合成]
原料のフェノール化合物を変更した以外は上記化合物k23と概ね同様にして、下記化合物k1~k21を合成した。各化合物の1H-NMR分析データは以下のとおりである。
k1:1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.46 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 7.26 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.95 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 6.78 (dd, J = 9.2, 2.8 Hz, 1H), 6.33 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 6.28 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 3.79 (s, 3H)
k2: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.90 (dd, J = 8.2, 1.8 Hz, 1H), 7.63 (ddd, J = 8.0, 7.2, 1.2 Hz, 1H), 7.53 (dd, J = 8.0, 1.2 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 6.0, 1.2 Hz, 1H), 7.30 (ddd, J = 8.2, 7.2, 1.2 Hz, 1H), 6.43 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.40 (dd, J = 6.0, 1.2 Hz, 1H)
k3: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.75 (dt, J = 8.0, 2.0 Hz, 1H), 7.54 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 7.47 (ddd, J = 9.6, 8.4, 1.8 Hz, 1H), 7.34 (td, J = 8.4, 4.8 Hz, 1H), 6.49 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.8, 1.4 Hz, 1H)
k4: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.86 (ddd, J = 9.6, 5.2, 2.4 Hz, 1H), 7.56 (dd, J = 6.0, 1.2 Hz, 1H), 7.21 (ddd, J = 9.6, 8.4, 7.0 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.41 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H)
k5: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.51 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 8.26 (dd, J = 9.2, 2.8 Hz, 1H), 7.54 (dd, J = 6.0, 1.6 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 6.50 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.47 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H)
k6: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.10 (ddd, J = 9.0, 2.8, 1.8 Hz, 1H), 8.06 (dd, J = 10.0, 2.8 Hz, 1H), 7.51-7.46 (m, 2H), 6.51 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.8, 1.2 Hz, 1H)
k7: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.18 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.89 (dd, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 7.66 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.52 (dd, J = 5.8, 1.4 Hz, 1H), 6.49 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.8, 1.0 Hz, 1H)
k8: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.88 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.62 (dd, J = 8.8, 2.8 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.39 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.38 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 1.35 (s, 9H)
k9: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.46 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 8.21 (dd, J = 9.0, 1.8 Hz, 1H), 7.60 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.52 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.44 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 2.65 (s, 3H)
k10: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.89 (dd, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 7.80 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.48 (dd, J = 5.8, 1.4 Hz, 1H), 7.33 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 6.48 (s, 1H), 6.38 (dd, J = 5.4, 0.8 Hz, 1H), 3.95 (s, 3H)
k11: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.14 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.95 (dd, J = 8.4, 1.6 Hz, 1H), 7.90 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.50 (dd, J = 6.0, 1.2 Hz, 1H), 6.50 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.44 (dd, J = 5.6, 1.6 Hz, 1H), 3.99 (s, 3H)
k12: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.50 (dd, J = 9.4, 1.4 Hz, 1H), 7.44 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.40 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 7.14 (dd, J = 9.2, 3.2 Hz, 1H), 6.36 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 6.34 (t, J = 1.0 Hz, 1H), 3.86 (s, 3H)
k13: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.40-7.36 (m, 2H), 7.31 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.6, 1.4 Hz, 1H), 2.31 (s, 3H)
k14: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.40 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 5.8, 1.4 Hz, 1H), 7.28 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 7.01 (dd, J = 9.0, 3.0 Hz, 1H), 6.38 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 6.36 (t, J = 1.2 Hz, 1H)
k15: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.46 (dd, J = 5.8, 14. Hz, 1H), 7.13-7.02 (m, 2H), 7.00-6.94 (m, 1H), 7.01 (dd, J = 9.0, 3.0 Hz, 1H), 6.41 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.37 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H)
k16: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.61 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.51 (dd, J = 5.8, 1.0 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 0.8 Hz, 1H), 7.09 (dd, J = 8.2, 1.0 Hz, 1H), 6.35 (dd, J = 5.4, 1.0 Hz, 1H), 6.33 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 2.41 (s, 3H), 2.38 (s, 3H)
k17: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.60 (td, J = 8.4, 6.4 Hz, 1H), 7.52 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 7.22 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.00 (td, J = 8.6, 1.0 Hz, 1H), 6.48 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.44 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H)
k18: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.84 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.51 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 7.31 (s, 1H), 7.09 (dd, J = 8.2, 1.0 Hz, 1H), 6.52 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.43 (dd, J = 5.6, 1.6 Hz, 1H),
k19: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.26 (dd, J = 7.2, 2.4 Hz, 2H), 7.46 (dd, J = 5.4, 1.4 Hz, 1H), 7.24 (dd, J = 6.8, 2.4 Hz, 2H), 6.50 (t, J = 1.2 Hz, 1H), 6.47 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H)
k20: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.14-8.10 (m, 2H), 7.42 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 7.31 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 6.51 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.6, 1.4 Hz, 1H), 2.31 (s, 3H)
k21: 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.07 (dd, J = 6.4, 3.2 Hz, 1H), 7.42 (dd, J = 5.6, 1.2 Hz, 1H), 7.06-7.03 (m, 2H), 6.51 (t, J = 1.4 Hz, 1H), 6.45 (dd, J = 5.6, 1.6 Hz, 1H), 2.63 (s, 3H)
【0064】
【化17】
【0065】
[発芽誘導試験]
シロイヌナズナ種子を次亜塩素酸滅菌し、クリーンベンチ内で滅菌蒸留水にて4回洗浄した。その後、24wellプレートに40-50粒/wellとなるように、種子を懸濁した100 μL滅菌蒸留水を分注した。各化合物の10 mM, 1 mM, 0.1 mM, 0.01 mM, 0.001 mM DMSO溶液を調製し、滅菌蒸留水1.2 mLに1.5 μL加えて希釈した。この化合物溶液を400 μLずつ各wellに分注し、プレートをセロハンテープとパラフィルムで二重に封じ、培養器に静置した。
【0066】
培養器に投入した直後から2日間は、31℃で連続光を照射し、高温による発芽抑制処理を行った。2日後に温度を23℃に変更し、連続光の照射を継続した。4日後、5日後及び6日後に写真撮影をし、発芽率をカウントした。化合物や濃度を変更した結果を、図1~10に示す。
【0067】
中でも、極めて微量で発芽誘導効果を奏することが示されているのは、水溶液の濃度を0.001 μMにまで希釈した図9に示された結果である。1 nM(0.001 μM)という濃度は、1 m3の水に対してk23が僅か0.3 mg含まれるだけの濃度であるから、極めて微量で発芽誘導効果を奏したことがわかった。これまでに報告したgerminone Aよりもはるかに低い濃度で発芽誘導効果を奏しており驚きである。また、図10に示されるように、非特許文献1で報告されたdCN-debは、発芽誘導性能がほとんど認められなかった。
【0068】
[DSFアッセイ]
AtD14タンパク質及びHTLタンパク質を、MBP, Hisタグ融合タンパク質として大腸菌を用いて異種発現させアフィニティカラムで精製した。それぞれのタンパク質を10 μg、Sypro Orangeを0.015 μL含むPBS buffer(pH7.4)に、germinone Aまたはk23のアセトン溶液を終濃度が250 μMになるように加え、計20 μLの反応液を調製した。反応液をリアルタイムPCR用サーマルサイクラー(Roche; LightCycler480)を用いて25℃から90℃まで0.02℃/secの割合で加熱し、温度が上昇する間の蛍光強度の変化を測定した。得られたデータは、機器内蔵のソフトウェアを用いてデータ処理を行い、germinone A及び化合物k23のD14受容体及びHTL受容体との親和性を評価した。このようにして得られたDFSアッセイの結果を、図11に示す。
【0069】
図11に示されるように、germinone Aは、D14受容体及びHTL受容体の両方に対して結合性を示した。一方、化合物k23は、D14受容体への結合性をほとんど示さず、HTL受容体に対する結合性のみを示した。このことから、化合物k23は、HTL受容体への選択的リガンドであるということができる。

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