(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116218
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置、工作機械の制御プログラム、工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4063 20060101AFI20230815BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20230815BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20230815BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G05B19/4063 L
G05B19/18 W
B23Q17/24 B
B23Q17/00 E
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018898
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000191180
【氏名又は名称】新日本工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】池田 武司
(72)【発明者】
【氏名】道下 真也
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029AA24
3C029AA40
3C029EE02
3C029FF05
3C269AB01
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF39
3C269JJ09
3C269JJ20
3C269MN07
3C269MN16
3C269MN27
3C269MN28
3C269MN46
3C269QB03
(57)【要約】
【課題】暖気運転における発熱量の影響を受けにくく、適切なタイミングで工作機械の暖気運転を終了する。
【解決手段】制御装置1Sは、カメラ61と、PC55とを含む。カメラ61は、工具100の先端位置の位置情報を取得する。PC55は、事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行する。事前データ取得処理では、主軸40Sを回転させ、工具100の先端位置の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記先端位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する。暖気運転処理では、取得した比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における現在の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて暖気運転処理の残り時間に関する情報を取得する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部とを有する工作機械の制御装置であって、
前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得することが可能な位置情報取得部と、
事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行することが可能な制御部と、
を備え、
前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理であり、
前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理であり、
前記制御部は、前記暖気運転処理において、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
入力される指令信号に応じた所定の情報を表示することが可能な表示部を更に備え、
前記制御部は、前記時間情報として、前記対応時刻と前記ターゲット時刻との差に基づいて前記暖気運転処理の残り時間を取得し、当該残り時間に関する前記指令信号を前記表示部に入力する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記暖気運転処理中に、前記組情報を累積することで前記比較情報を更新し、当該更新した比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記対応時刻を更新し、当該更新した対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記時間情報を更新する、請求項1または2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した前記比較情報に基づいて前記基準情報を更新する、請求項1乃至3の何れか1項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した前記比較情報に基づく機械学習によって前記基準情報を更新する、請求項4に記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記暖気運転処理が終了する度に、前記暖気運転処理において取得した前記比較情報をそれぞれ記憶する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項7】
ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部とを有する工作機械の制御装置が実行可能な工作機械の制御プログラムであって、
前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得する位置情報取得処理と、
事前データ取得処理と、
暖気運転処理と、を前記制御装置に実行させる指示を備え、
前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理であり、
前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理であり、
前記暖気運転処理は、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得することを含む、工作機械の制御プログラム。
【請求項8】
ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、
当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部と、
前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得することが可能な位置情報取得部と、
事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行することが可能な制御部と、
を備え、
前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理であり、
前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理であり、
前記制御部は、前記暖気運転処理において、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得する、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置、工作機械の制御プログラム、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを加工することが可能な工具を含む主軸と、前記主軸を移動および回転させることが可能な駆動部とを有する工作機械が知られている。このような工作機械では、主軸の回転によって工具の温度が上昇すると当該工具に熱変形が生じるため、その変形量を考慮した上で工具先端位置を制御する必要があった。
【0003】
特許文献1には、ワークと工具とを相対変位させて前記ワークの加工を行う工作機械のワーク加工方法が開示されている。当該加工方法は、第1の工程と、第2工程と、第3の工程と、第4の工程と、第5の工程を有する。第1の工程では、主軸に装着された工具の先端の位置を連続的に測定する。第2の工程では、前記第1の工程における測定結果に基づいて、順次工具の先端位置の変位量を算出する。第3の工程では、温度変化に伴って移動する工具先端の位置が安定したか否かを判定するために、前記変位量が予め設定された許容変位量内にある時間を監視する。第4の工程では、前記変位量が前記許容変位量内にある時間が予め設定された時間である範囲時間より短い場合は暖気運転を継続する一方、前記変位量が許容変位量内にある時間が前記範囲時間に達した場合は暖気運転を終了する。第5の工程では、前記第4の工程において暖気運転が終了した場合に前記ワークの加工を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、第3の工程において、前記変位量が予め設定された許容変位量内にある時間を監視し、第4の工程において、前記変位量が前記許容変位量内にある時間が予め設定された範囲時間に達した場合に工具の温度が安定したと判断して、暖気運転を終了する。すなわち、当該技術では、刻々と工具が熱変形することに対応して、その変位量が許容変位量まで変位する時間を常に監視し、暖機運転の終了を判断する必要がある。たとえば、暖機運転開始直後において、時刻0を基準とする工具の変位量が時刻ts1に許容変位量に達した場合には、その差分、すなわち、Δts=ts1-0を前記範囲時間と比較する。更に、時刻ts2を基準とする工具の変位量が時刻ts3において許容変位量に達した場合には、その差分、すなわち、Δts=ts3-ts2を前記範囲時間と比較する。このように、予め設定された変位量に対応する経過時間に基づいて暖機運転の定常状態を判定する構成では、たとえば軸受部分に異常が発生し定常温度が変化してしまうと、暖機運転を適切なタイミングで終了させることが困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、暖気運転における発熱量の影響を受けにくく、適切なタイミングで暖気運転を終了することが可能な工作機械の制御装置、工作機械の制御プログラム、工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る工作機械の制御装置は、ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部とを有する工作機械の制御装置であって、前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得することが可能な位置情報取得部と、事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行することが可能な制御部と、を備える。前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理である。前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理である。前記制御部は、前記暖気運転処理において、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得する。
【0008】
本構成によれば、暖気運転処理中の特定位置情報の変化から、現在のアタッチメントの熱変位状態が、事前に取得した基準情報のいずれの時刻に相当するかを判定し、その結果得られる対応時刻とターゲット時刻とに基づいて、暖気運転処理の運転時間に関する時間情報を取得することができる。このため、暖気運転処理において最終的に収束する定常状態の温度が変化することがあっても、前記基準情報と、現在までの比較情報とを用いて前記時間情報を精度良く取得することができる。
【0009】
上記の構成において、入力される指令信号に応じた所定の情報を表示することが可能な表示部を更に備え、前記制御部は、前記時間情報として、前記対応時刻と前記ターゲット時刻との差に基づいて前記暖気運転処理の残り時間を取得し、当該残り時間に関する前記指令信号を前記表示部に入力することが望ましい。
【0010】
本構成によれば、対応時刻とターゲット時刻との差に基づいて暖気運転処理の残り時間を取得し、表示部に表示させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記制御部は、前記暖気運転処理中に、前記組情報を累積することで前記比較情報を更新し、当該更新した比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記対応時刻を更新し、当該更新した対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記時間情報を更新することが望ましい。
【0012】
本構成によれば、暖気運転が進むにつれて、比較情報を構成する組情報の数が増すため、前記時間情報をより精度良く取得することができる。
【0013】
上記の構成において、前記制御部は、前記暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した前記比較情報に基づいて前記基準情報を更新することが望ましい。
【0014】
本構成によれば、暖気運転処理が繰り返される度に、基準情報のばらつき誤差を抑えることが可能になるため、前記時間情報を更に精度良く取得することができる。
【0015】
上記の構成において、前記制御部は、前記暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した前記比較情報に基づく機械学習によって前記基準情報を更新することが望ましい。
【0016】
本構成によれば、機械学習を用いて、基準情報を高い精度で更新することができる。
【0017】
上記の構成において、前記制御部は、前記暖気運転処理が終了する度に、前記暖気運転処理において取得した前記比較情報をそれぞれ記憶するものでもよい。
【0018】
本構成によれば、制御部に記憶された過去の比較情報の推移、変化に基づいて、工作機械の経年劣化を把握し、保守メンテナンス情報として利用することができる。
【0019】
本発明によって提供されるのは、ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部とを有する工作機械の制御装置が実行可能な工作機械の制御プログラムであって、前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得する位置情報取得処理と、事前データ取得処理と、暖気運転処理と、を前記制御装置に実行させる指示を備え、前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理であり、前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理であり、前記暖気運転処理は、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得することを含む。
【0020】
本構成によれば、暖気運転処理中の特定位置情報の変化から、現在のアタッチメントの熱変位状態が、事前に取得した基準情報のいずれの時刻に相当するかを判定し、その結果得られる対応時刻とターゲット時刻とに基づいて、暖気運転処理の運転時間に関する時間情報を取得することができる。このため、暖気運転処理において最終的に収束する定常状態の温度が変化することがあっても、前記基準情報と、現在までの比較情報とを用いて前記時間情報を精度良く取得することができる。
【0021】
本発明によって提供されるのは、ワークに加工を施すことが可能なアタッチメントを着脱可能に支持する主軸と、当該主軸を所定の回転数で回転させることが可能な駆動部と、前記アタッチメントの特定位置の位置情報である特定位置情報を取得することが可能な位置情報取得部と、事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行することが可能な制御部と、を備える。前記事前データ取得処理は、前記主軸を前記回転数で回転させ、前記特定位置情報の時間推移である基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記特定位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻を特定する処理である。前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、前記アタッチメントによる前記ワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って前記主軸を前記回転数で回転させることで前記アタッチメントの熱変位を安定化させる処理である。前記制御部は、前記暖気運転処理において、所定の時刻と当該時刻における前記特定位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記特定位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応時刻を決定し、当該対応時刻と前記ターゲット時刻とに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得する。
【0022】
本構成によれば、暖気運転処理中の特定位置情報の変化から、現在のアタッチメントの熱変位状態が、事前に取得した基準情報のいずれの時刻に相当するかを判定し、その結果得られる対応時刻とターゲット時刻とに基づいて、暖気運転処理の運転時間に関する時間情報を取得することができる。このため、暖気運転処理において最終的に収束する定常状態の温度が変化することがあっても、前記基準情報と、現在までの比較情報とを用いて前記時間情報を精度良く取得することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、暖気運転における発熱量の影響を受けにくく、適切なタイミングで暖気運転を終了することが可能な工作機械の制御装置、工作機械の制御プログラム、工作機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工作機械の制御装置の模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る工作機械の事前データ取得処理のフローチャートである。
【
図4】事前データ取得処理における工具先端位置の時間推移を示すグラフである。
【
図5】事前データ取得処理におけるターゲット時刻の決定方法を説明するためのグラフである。
【
図6】事前データ取得処理におけるターゲット時刻の決定方法を説明するためのグラフである。
【
図7】事前データ取得処理における主軸温度の時間推移を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る工作機械の暖気運転処理のフローチャートである。
【
図9】暖気運転処理において初期推定残り時間を決定するためのグラフである。
【
図10】暖気運転処理における工具先端位置の時間推移を表示するためのグラフである。
【
図11】暖気運転処理における工具先端位置の時間推移を示すグラフである。
【
図12】暖気運転処理における工具先端位置の時間推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の各実施形態について詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る工作機械1の斜視図である。工作機械1は、ワークに所定の加工を施すものであって、一例として門型工作機械である。
図1を参照して、工作機械1は、ベッド10と、左右一対の受け台11と、テーブル20と、テーブル駆動部21と、パレット30と、フレーム40と、加工部41と、サドル42とを備える。なお、
図1では、テーブル20の移動方向を基準として前後方向が定義され、当該前後方向と直交する水平な方向が左右方向と定義される。更に、前後方向および左右方向とそれぞれ直交する方向が上下方向と定義される。これらの方向の定義は、工作機械1の構造、機能および使用態様を説明するためのものであり、本発明に係る工作機械を限定するものではない。
【0026】
ベッド10は、左右方向に所定の幅を有するとともに前後方向に長く延びる矩形形状を有しており、工作機械1のベース部分を構成する。ベッド10は、工作機械1の作業現場に設置(固定)される。ベッド10は上方向を向く上面部(支持面)を有する。
【0027】
加工部41は、ベッド10の上面部の上方に配置され、ワークを加工することが可能とされている。なお、本実施形態のような門型工作機械では、加工部41は、フレーム40によって支持される。加工部41は、上下方向に延びる主軸40S(
図2参照)を有する。当該主軸40Sには工具100(加工アタッチメント)が着脱可能に装着される。
【0028】
テーブル20は、前後方向および左右方向に延びる板状部材である。テーブル20は、上方向を向く載置面を有し、加工部41の下方において前後方向に沿って移動可能なようにベッド10の前記上面部に支持されている。テーブル20は、鉄などの金属材料から構成される。
【0029】
テーブル駆動部21は、テーブル20を前後方向に沿って移動させる。テーブル駆動部21は、モータ22と、ボールねじ23とを有する。ボールねじ23は、前後方向に延びるようにベッド10に装着されており、モータ22の回転駆動力を受けて回転するとともに、テーブル20を前後方向に沿って移動させる。このため、テーブル20は、ボールねじ23のねじ部と係合する不図示のナット部を有する。
【0030】
パレット30は、テーブル20と一体で前後方向に移動可能なようにテーブル20の前記載置面に着脱可能に載置され、ワークを保持する。
【0031】
フレーム40は、
図1に示すように門型形状を有しており、加工部41が上下方向および左右方向を含む移動面上で移動可能なように加工部41を支持する。フレーム40は、左右一対のコラム40Aと、当該左右一対のコラム40A同士を左右方向に沿って互いに接続するクロスレール40Bとを有する。
【0032】
サドル42は、フレーム40のクロスレール40Bに左右方向に移動可能に支持されており、前述の加工部41を支持している。
【0033】
更に、工作機械1は、左右一対のモータ451およびボールねじ452と、モータ461およびボールねじ462と、モータ471およびボールねじ472と、操作部48とを有する。
【0034】
左右一対のモータ451およびボールねじ452は、クロスレール40Bを左右一対のコラム40Aに対して上下に移動させる。また、モータ461およびボールねじ462は、クロスレール40B上においてサドル42を左右方向に移動させる。更に、モータ471およびボールねじ472は、サドル42に対して加工部41を上下方向に移動させる。なお、本実施形態では、上記の各モータは公知のサーボモータから構成される。また、各モータが駆動させる駆動対象には、前述のテーブル20と同様に各ボールねじと係合する不図示のナット部が配置されている。
【0035】
操作部48は、工作機械1にNCプログラムによる加工指令や各種の手動操作を行うために、作業者(機械オペレータ)によって操作される。操作部48は、作業者の移動とともに移動可能なように、フレーム40に揺動可能に支持されている。
【0036】
工作機械1は、制御装置1Sを更に備える。
図2は、本実施形態に係る工作機械1の制御装置1Sの模式図である。制御装置1Sは、NC装置50と、駆動部51と、温度計52と、PC(パーソナルコンピュータ)55(制御部、表示部)と、照明用電源56と、カメラ61(位置情報取得部)と、テレセントリックレンズ62と、照明装置63とを有する。
【0037】
前述のように、工作機械1の加工部41(
図1、
図2)には、主軸40Sが設けられており、当該主軸40Sはワークに加工を施すことが可能な工具100(アタッチメント)
を着脱可能に支持する。工具100は、ワークに接触し切削処理などの所定の処理を施す。
【0038】
NC装置50は、工作機械1の制御を統括的に司る。駆動部51は、NC装置50によって制御され、前述の各モータを回転駆動する。また、駆動部51は、主軸40Sを所定の回転数で回転させる。温度計52は、主軸40Sの温度を測定し、検出された温度に対応する信号をNC装置50を通じてPC55に入力する。
【0039】
PC55は、NC装置50との間で指令信号の入出力が可能なようにNC装置50に接続されている。また、PC55は、照明用電源56、カメラ61に指令信号を入力するとともに、カメラ61が撮像した画像情報を受信する。更に、PC55は、本実施形態における制御部として、事前データ取得処理と暖気運転処理とをそれぞれ実行することが可能である。また、PC55は、本実施形態における表示部として機能する不図示の液晶ディスプレイを含む。また、照明用電源56は、照明装置63に電圧を供給する。
【0040】
カメラ61は、テレセントリックレンズ62を介して、
図2の撮像領域Sにおける画像情報を取得する。照明装置63は、撮像領域Sの背部に配置され、所定の照明光を照射する。駆動部51によって加工部41が移動され、主軸40Sが
図2の撮像領域Sに配置されると、カメラ61によって工具100が撮影可能とされる。この際、テレセントリックレンズ62の特性によって、工具100の先端(刃先)の位置(座標)を精度良く測定することができる。換言すれば、カメラ61は、工具100の先端(特定位置)の位置情報である特定位置情報を取得する。なお、カメラ61は、工具100の工具長、工具径に関する情報を取得することも可能である。
【0041】
次に、本実施形態に係る制御装置1Sが実行する工作機械1の暖気運転について説明する。暖気運転とは、工具100によってワークに加工を施す際に、予め工具100、主軸40Sの温度が安定するまで、主軸40Sを回転させる動作である。更に、本実施形態では、このような暖気運転の終了タイミングを決定するために、予め事前データ取得処理が実行される。当該事前データ取得処理は、ワークに対する加工時に採用する、工具100の種類(アタッチメント番号)および主軸回転数に応じてそれぞれ実行されることが望ましい。
【0042】
図3は、本実施形態に係る工作機械1の事前データ取得処理のフローチャートである。なお、
図3において破線で囲まれる処理はPC55が実行するものであり、それ以外の処理はNC装置50が実行するものである。作業者がNC装置50を操作して事前データ取得処理を開始するための指令を入力すると(ステップS01)、駆動部51が主軸40Sを前記撮像領域Sに移動させるとともに、予め設定された回転数で主軸40Sを回転させる(ステップS02)。
【0043】
次に、NC装置50からPC55に事前データ取得処理の指令信号が入力され、事前データの取得が開始される(ステップS03)。PC55は、前記指令信号を受け付けると、カメラ61、照明装置63などを制御して、工具100の先端位置情報を取得する(ステップS04)。この際、センサ情報として、温度計52が検出する主軸40Sの温度情報もPC55に入力される。取得されたこれらの情報は、PC55内のメモリに保存される(ステップS05)。
【0044】
次に、PC55は、事前データ取得処理が開始されてから経過した時間tが、予め設定された閾値時間tb以上であるか否かを判定する(ステップS06)。ここで、tb≦tの場合(ステップS06でYES)、PC55は事前データ取得処理を終了し(ステップS07)、当該事前データ取得処理が終了したことを示す信号をNC装置50に入力する。NC装置50は、駆動部51を制御して主軸40Sを前記撮像領域Sから退避させるとともに、主軸40Sの回転を停止させる(ステップS08)。なお、ステップS06においてtb>tの場合、PC55はステップS04に戻って事前データ取得処理を継続する。
【0045】
次に、PC55が、事前データ取得処理において取得する情報について詳述する。
図4は、事前データ取得処理における工具100の先端位置の時間推移を示すグラフである。前述のように、事前データ取得処理において主軸40Sが回転すると、その駆動に伴う発熱によって工具100が熱膨張し、
図2の工具100の先端位置が下方に移動し、やがてその変位が収束する。
図4のグラフでは、カメラ61が所定の時間間隔で撮像する工具100の先端位置が白丸で示され、その回帰曲線が破線で示されている。この破線で示すグラフは、本発明の基準情報に相当する。当該基準情報は、工具100の先端位置(特定位置)の位置情報(特定位置情報)の時間推移である。
【0046】
PC55は、
図4の破線グラフに基づいて工具100の先端の変位が収束する時刻であるターゲット時刻tgを特定する。
図5および
図6は、事前データ取得処理におけるターゲット時刻tgの決定方法を説明するためのグラフである。
【0047】
例えば、PC55は、
図5に示すように、前記破線グラフにおける前半部分を直線回帰し直線L1を特定する。同様に、PC55は、前記破線グラフにおける後半部分を直線回帰し直線L2を特定する。更に、PC55は、直線L1と直線L2との交点Qにおける基準時刻tfを取得する。PC55には、事前に実行される複数の実験などから、前記交点Qから工具100の変位が収束するまでの時間である収束時間Δtaが記憶されている。したがって、PC55は、基準時刻tfに収束時間Δtaを加えることで、ターゲット時刻tgを算出することができる。
【0048】
また、PC55は、
図6に示すように、時刻t2と時刻t1との差であるΔtpの間における工具100の先端の変位量ΔPを演算し、当該ΔPが予め設定された閾値よりも小さくなった時刻t2をターゲット時刻tgとしてもよい。なお、事前データ取得処理において工具100の先端の変位が安定したことを示すターゲット時刻tgの決定方法は、その他の方法に基づくものでも良い。たとえば、
図4の破線グラフにおいて、工具先端位置Pが充分に飽和した飽和変位値を決定し、当該飽和変位値に対して所定の許容値を加算し、この加算された工具先端位置P(飽和変位値+許容値)に対応する時刻を、ターゲット時刻tgとしてもよい。また、飽和変位値となった時刻、すなわち、工具先端位置Pが飽和(収束)した時刻をターゲット時刻tgとしてもよい。
【0049】
更に、
図7は、事前データ取得処理における主軸温度Tの時間推移を示すグラフである。
図7では、温度計52によって測定される実温度を白丸で示し、その回帰曲線が破線で示されている。PC55は、上記の
図4における工具100の先端位置の変位の時間推移と並行して、温度計52によって測定される主軸温度Tの時間推移を記憶する。そして、PC55は、
図6と同様の手法に基づいて、主軸温度Tの温度上昇が収束した時刻を暖気運転終了推定時刻tsとして、記憶する。
【0050】
事前データ取得処理では、上記のように取得された各種の情報がPC55の記憶部に記憶される。
【0051】
次に、NC装置50およびPC55が実行する暖気運転処理について詳述する。暖気運転処理は、事前データ取得処理が実行された後、工具100によるワークに対する加工が行われる際に当該加工に先立って主軸40Sを所定の回転数で回転させることで工具100の熱変位を安定化させる処理である。なお、暖気運転処理と、当該暖気運転処理において参照される事前データ取得処理とは、工具100の種類、回転数などの条件において一致する。
図8は、本実施形態に係る工作機械1の暖気運転処理のフローチャートである。なお、
図3と同様に、
図8において破線で囲まれる処理はPC55が実行するものであり、それ以外の処理はNC装置50が実行するものである。
【0052】
作業者がNC装置50を操作して暖気運転処理を開始するための指令を入力すると(ステップS11)、駆動部51が主軸40Sを前記撮像領域Sに移動させるとともに、ワークを加工するために予め設定された回転数で主軸40Sを回転させる(ステップS12)。更に、NC装置50は、暖気運転処理が開始されてから経過した時間sが、予め設定された閾値時間sb未満であるか否かを判定する(ステップS13)。ここで、s<sbの場合(ステップS06でYES)、NC装置50からPC55に暖気運転処理の指令信号が入力され、暖気運転処理が実行される(ステップS14)。暖気運転処理が実行されると、PC55は、刻みカウントnが1であるか否かを判定する(ステップS15)。すなわち、PC55は、これから取得する工具100の先端位置および主軸40Sの温度の情報が、当該暖気運転処理における最初のデータに相当する(n=1)か否かを判定する。なお、刻みカウントnは暖気運転処理における先端位置測定の繰り返し回数に相当する。
【0053】
ここでn=1の場合(ステップS15でYES)、PC55は、初期推定残り時間Δtdを算出し、その時間をPC55のディスプレイに表示する。又、NC装置50のディスプレイでも参照可能とする。
図9は、暖気運転処理において初期推定残り時間Δtdを決定するためのグラフである。なお、
図9の破線グラフは、
図7の破線グラフに等しい。初期推定残り時間Δtdは、現時点で推定される、暖気運転の残り時間である。PC55は、暖気運転処理の開始時に温度計52によって測定される主軸40Sの温度Tiniを
図7の回帰曲線(破線)に当てはめることで(
図9参照)、対応初期時刻tcを決定する。この対応初期時刻tcは、暖気運転処理における現在の時刻が、事前データ取得処理におけるいずれの時刻に相当するかを意味する。更に、PC55は、決定された対応初期時刻tcと、前述の暖気運転終了推定時刻tsとの差から、初期推定残り時間Δtdを算出する。
【0054】
図10は、暖気運転処理において工具先端位置の時間推移を表示するためのグラフである。なお、
図10の破線グラフは、
図4の破線グラフに等しい。すなわち、
図10の時間軸は、事前データ取得処理における時間軸を示している。PC55は、上記のように決定された対応初期時刻tcを用いて、事前データ取得処理の工具先端位置Pの回帰曲線上に暖気運転処理の初期開始点をプロットする。
【0055】
暖気運転が開始された直後は、工具100の先端位置の情報が存在しない一方、何らかの目安時間を作業者に報知することが望ましい。このため、本実施形態では、上記のように、PC55が温度Tiniに基づいて暖気運転の残り時間を暫定的に報知する。なお、他の実施形態において、PC55は、初期推定残り時間Δtdに、所定の係数を乗じたもの、あるいは、所定の定数を足し引きしたものを採用してもよい。
【0056】
ステップS16において、初期推定残り時間Δtdが算出、表示されると、PC55は、カメラ61、照明装置63などを制御して、工具100の先端位置情報を取得する(ステップS17)。この際、センサ情報として、温度計52が検出する主軸40Sの温度情報もPC55に入力される。取得されたこれらの情報は、PC55内のメモリに保存される(ステップS18)。なお、前述のステップS15において、n≠1の場合(ステップS15でNO)には、ステップS16をスキップして、ステップS17、S18が実行される。
【0057】
図11および
図12は、暖気運転処理における工具先端位置Pの時間推移を示すグラフである。なお、いずれのグラフにおいても、その時間軸は、事前データ取得処理における時刻に換算して示している。
【0058】
ステップS18において各種の情報が保存されると、PC55は、推定残り時間Δtrを算出する(ステップS19)。この推定残り時間Δtrは、2≦nを条件として、PC55が推定する暖気運転の残り時間である。本実施形態では、PC55は、時刻s(暖気運転処理における時刻)と、当該時刻sにおける工具100の先端位置P(特定位置情報)との組み合わせである組情報を複数の組情報について取得する。
図11では、暖気運転処理において取得された5つの組情報が、事前データ取得処理における工具先端位置Pの時間推移グラフ上に太破線で示されている。このように、前記複数の組情報から取得される、暖気運転処理における工具100の先端位置Pの時間推移は、本発明の比較情報を構成する。
【0059】
PC55は、上記のように得られた比較情報を、事前データ取得処理における基準情報(
図11の破線曲線)の一部に矢印のようにマッチングさせる(トレースする)ことで、前記基準情報の時間軸tにおける前記組情報の対応時刻を決定する。前記マッチングとは、5つの組情報によって描かれる短いグラフの傾き、形状(プロファイル)が最も高い精度で重なる部分に当てはめることをいう。当該マッチングには、最小二乗法などの公知の手法を採用することができる。
【0060】
図11に示すように、PC55は、比較情報を基準情報の一部にマッチングさせると、複数の組情報の中で最も新しい時刻sを対応現在時刻teとして決定する。この結果、暖気運転処理における現在の時刻が、事前データ取得処理における何れの時刻に相当するかを特定することができる。このため、PC55は、予め設定されているターゲット時刻tgと対応現在時刻teとの差分から、推定残り時間Δtrを算出する(ステップS19)。算出された残り時間Δtrは、PC55のディスプレイに表示される。又、NC装置50のディスプレイでも参照可能とする。なお、残り時間Δtrは、暖気運転処理の運転時間に関する、本発明の時間情報に相当する。
【0061】
次に、PC55は、上記のΔtrが0以下であるか否かを判定する(ステップS20)。換言すれば、PC55は、
図11の対応現在時刻teが、ターゲット時刻tgに到達したか否かを判定する。ここで、Δtr≦0の場合(ステップS20でYES)、PC55は暖気運転を終了し(ステップS21)、当該暖気運転処理が終了したことを示す信号をNC装置50に入力する。NC装置50は、駆動部51を制御して主軸40Sを前記撮像領域Sから退避させるとともに、主軸40Sの回転を停止させる(ステップS22)。
【0062】
一方、ステップS20においてΔtr>0の場合(ステップS20でNO)、PC55は、nを1だけカウントアップして(ステップS23)、NC装置50にnの値を戻す。そして、NC装置50およびPC55は、ステップS13以降の処理を繰り返す。なお、ステップS13においてsb≦sの場合(ステップS13でNO)、NC装置50は、タイムオーバーと判断し、ステップS22に進み暖気運転処理を強制終了する。
【0063】
図12を参照して、nの値がカウントアップされながら、暖気運転が継続されると、前述の組情報の数が増えていくため、PC55が比較情報をより高い精度で基準情報にマッチングさせることができる。この結果、推定残り時間Δtrの精度もより高くなる。
【0064】
上記のような暖気運転処理が終了すると、PC55のディスプレイまたはNC装置50の所定の表示部に表示された終了報知情報に基づいて、作業者がそのままNC装置50を操作してワークに対する加工処理を開始することができる。なお、暖気運転の終了に伴って、NC装置50が自動で加工処理を開始してもよい。
【0065】
以上のように、本実施形態では、暖気運転処理における現在時刻が、事前データ取得処理におけるどの時刻に相当するかを判定し、前記事前データ取得処理において予め決定したターゲット時刻tgを基準として、暖気運転処理の運転時間を推測することができる。より詳しくは、PC55は、暖気運転処理中の工具100の先端位置の変化の推移から、現在の工具100の熱変位状態が事前に取得した基準情報のいずれの時刻に相当するかを判定し、その結果得られる対応現在時刻te(対応時刻)とターゲット時刻tgとに基づいて、暖気運転処理の運転時間に関する時間情報(推定残り時間Δtr)を取得することができる。このため、暖気運転処理において最終的に収束する定常状態の温度が変化することがあっても、事前データ取得処理における基準情報と、暖気運転処理における現在までの比較情報とを用いて前記時間情報を精度良く取得することができる。
【0066】
また、本実施形態では、PC55が、入力される指令信号に応じた所定の情報を表示することが可能な表示部(ディスプレイ)を更に備えている。そして、PC55は、前記時間情報として、対応現在時刻teとターゲット時刻tgとの差に基づいて暖気運転処理の推定残り時間Δtrを取得し、当該推定残り時間Δtrに関する指令信号を前記表示部に入力する。このような本構成によれば、対応現在時刻teとターゲット時刻tgとの差に基づいて暖気運転処理の推定残り時間Δtrを取得し、表示部に表示させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、PC55は、暖気運転処理中に、前記組情報を累積することで前記比較情報を更新し、当該更新した比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで対応現在時刻teを更新する。そして、PC55は、当該更新した対応現在時刻teとターゲット時刻tgとに基づいて推定残り時間Δtrを更新する。このような構成によれば、暖気運転が進むにつれて、比較情報を構成する組情報の数が増すため、推定残り時間Δtrをより精度良く取得することができる。
【0068】
なお、PC55は、暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した比較情報に基づいて、前記基準情報を更新することが望ましい。このような構成によれば、暖気運転処理が繰り返される度に、基準情報のばらつき誤差を抑えることが可能になるため、推定残り時間Δtrを更に精度良く取得することができる。
【0069】
なお、PC55は、暖気運転処理が終了すると、当該暖気運転処理において取得した比較情報に基づく機械学習(再学習)によって、前記基準情報を更新してもよい。このような構成によれば、機械学習を用いて、基準情報を高い精度で更新することができる。当該機械学習には、公知の教師あり学習、教師なし学習、強化学習などを用いても良い。
【0070】
また、PC55は、暖気運転処理が終了する度に、当該暖気運転処理において取得した比較情報を履歴としてそれぞれ個別に記憶してもよい。このような構成によれば、PC55に記憶された過去の比較情報の推移、変化に基づいて、作業者が工作機械1の経年劣化を把握し、保守メンテナンス情報として利用することができる。たとえば、比較情報が時系列に大きくずれていく傾向がある場合、作業者はカメラ61や温度計52に何らかの不具合が生じていると判断することができる。また、作業者は、主軸40Sの軸受部に異常が発生している可能性を見出すこともできる。
【0071】
なお、本発明は、ワークに加工を施すことが可能な工具100を着脱可能に支持する主軸40Sと、当該主軸40Sを所定の回転数で回転させることが可能な駆動部51とを有する工作機械1の制御装置1Sが実行可能な工作機械1の制御プログラムを含む。
【0072】
当該制御プログラムは、工具100の先端位置(特定位置)の位置情報である特定位置情報を取得する処理(位置情報取得処理)と、事前データ取得処理と、暖気運転処理と、を前記制御装置に実行させる指示を備えている。
【0073】
前記事前データ取得処理は、主軸40Sを所定の回転数で回転させ、工具100の先端の基準情報を取得するとともに、前記基準情報に基づいて前記先端位置の変位が収束する時刻であるターゲット時刻tgを特定する処理である。
【0074】
前記暖気運転処理は、前記事前データ取得処理が実行された後、工具100による前記ワークに対する加工が行われる際に、当該加工に先立って主軸40Sを前記回転数で回転させることで工具100の熱変位を安定化させる処理である。
【0075】
また、前記暖気運転処理は、所定の時刻と当該時刻における工具100の先端の位置情報との組み合わせである組情報を複数の前記組情報についてそれぞれ取得するとともに、当該複数の組情報から前記暖気運転処理における前記先端の位置情報の時間推移である比較情報を取得し、当該比較情報を前記基準情報の一部にマッチングさせることで前記基準情報の時間軸における前記組情報の対応現在時刻teを決定し、当該対応現在時刻teとターゲット時刻tgとに基づいて前記暖気運転処理の運転時間に関する情報である時間情報を取得することを含む。なお、前述の制御装置1Sにおいて実行されるその他の処理も、上記の制御プログラムに含まれる。
【0076】
以上、本発明に係る工作機械1の制御装置1S、工作機械1の制御プログラム、工作機械1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、下記のような変形例が可能である。
【0077】
(1)上記の実施形態では、工作機械1が門型の工作機械である場合に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構造からなる工作機械でもよい。
【0078】
(2)また、上記の実施形態では、工作機械1における事前データ取得処理、暖気運転処理が、NC装置50およびPC55によって実行される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記の各処理は、NC装置50のみ又はPC55のみによって実行されるものでもよいし、その他の制御部によって実行されるものでもよい。
【0079】
(3)また、上記の実施形態では、カメラ61およびテレセントリックレンズ62の組み合わせによって工具100の先端を撮像する態様にて説明したが、本発明の位置情報取得部は、その他の構成からなるものでもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 工作機械
10 ベッド
100 工具(アタッチメント)
11 受台
1S 制御装置
40S 主軸
50 NC装置
51 駆動部
52 温度計
55 PC
56 照明用電源
61 カメラ
62 テレセントリックレンズ
63 照明装置