(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116250
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】草刈払機用回転刃とそれを備えた草刈払機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/73 20060101AFI20230815BHJP
A01D 34/90 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A01D34/73 101
A01D34/90 A
A01D34/90 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018948
(22)【出願日】2022-02-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】522054640
【氏名又は名称】山本 雅弘
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅弘
【テーマコード(参考)】
2B083
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA02
2B083CA02
2B083CA08
2B083CA30
2B083HA52
(57)【要約】
【課題】刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味を長時間にわたって保つことが可能な草刈払機用回転刃とそれを備えた草刈払機を提供する。
【解決手段】本発明の草刈払機用回転刃1は、平面視した場合に輪郭線が円形をなす軸孔2aが中央に設けられた本体部2と、この本体部2の外縁から軸孔2aの半径方向の外側へ向かって突出するように設けられた3枚の切込刃3からなる。また、切込刃3は、第1の刃部3aと、この第1の刃部3aよりも回転方向(矢印Cを参照)の前方側及び後方側となる箇所にそれぞれ設けられるとともに第1の刃部3aよりも肉厚が薄い第2の刃部3b及び第3の刃部3cを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
草刈払機に取り付けられて草や低木を刈り払う際に用いられる草刈払機用回転刃であって、
平面視した場合に輪郭線が円形をなす軸孔が中央に設けられた本体部と、
この本体部の端縁から前記軸孔の半径方向の外側へ向かって突出するように設けられた複数の切込刃と、からなり、
前記切込刃は、第1の刃部と、この第1の刃部よりも回転方向の前方側となる箇所に設けられた第2の刃部と、を備え、
前記第2の刃部は前記第1の刃部の肉厚よりも薄いことを特徴とする草刈払機用回転刃。
【請求項2】
前記第2の刃部との境界となる前記第1の刃部の第1の側縁は、直線状をなすとともに先端が前記回転方向の前記前方側へ倒れるように前記先端と前記軸孔の前記輪郭線の中心を通る直線に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の草刈払機用回転刃。
【請求項3】
前記切込刃は、前記第1の刃部よりも前記回転方向の後方側となる箇所に設けられた第3の刃部を備え、
前記第3の刃部は前記第1の刃部の前記肉厚よりも薄いことを特徴とする請求項2に記載の草刈払機用回転刃。
【請求項4】
前記第3の刃部との境界となる前記第1の刃部の第2の側縁は前記第1の側縁と平行をなしていることを特徴とする請求項3に記載の草刈払機用回転刃。
【請求項5】
前記切込刃は、前記第1の刃部よりも前記回転方向の前記前方側となる箇所に、下方へ曲折されるように前記第1の刃部の前記第1の側縁から延設された第1の接続部を備え、
前記第1の刃部と前記第2の刃部は、互いに平行な2つの仮想平面上に配置され、
前記第2の刃部の側縁は前記第1の接続部を介して前記第1の刃部の前記第1の側縁に接続されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の草刈払機用回転刃。
【請求項6】
前記切込刃は、前記第1の刃部よりも前記回転方向の後方側となる箇所に、下方へ曲折されるように前記第1の刃部の前記第2の側縁から延設された第2の接続部を備え、
前記第1の刃部と前記第3の刃部は、互いに平行な2つの前記仮想平面上に配置され、
前記第3の刃部の側縁は前記第1の刃部の前記第2の側縁に前記第2の接続部を介して接続されていることを特徴とする請求項4に記載の草刈払機用回転刃。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載される草刈払機用回転刃を備えることを特徴とする草刈払機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草や低木等を切除する際に用いられる草刈払機と草刈払機用回転刃に係り、特に、刃を使用し終わるまで切れ味を長時間にわたって保つことが可能な草刈払払機用回転刃とそれを備えた草刈払機に関する。
【背景技術】
【0002】
草や低木等を切除する際には、例えば、
図6(a)に示すような草刈払機50が用いられる。なお、
図6(a)は草刈払機の外観を示した斜視図であり、
図6(b)乃至
図6(d)はそれぞれ2枚刃、3枚刃及び4枚刃と呼ばれる回転刃の外観を示した平面図である。
草刈払機50は、外周に複数の小さな刃が設けられた真円状の丸鋸刃などからなる回転刃51と、この回転刃51を回転自在に保持するギヤケース52と、このギヤケース52が先端に取り付けられた細長いシャフト53と、回転刃51の回転によって跳ね上げられた小石等の飛散を防ぐためにシャフト53に設置されたカバー54と、シャフト53の後端に取り付けられたエンジン55及び燃料タンク56と、シャフト53の中央よりも後端に近い箇所に取り付けられたハンドル57を備えており、回転刃51にエンジン55の回転駆動力を伝達するための伝達軸(図示せず)がシャフト53に内蔵された構造となっている。
なお、草刈払機50の回転刃51には、
図6(a)に示したような丸鋸刃以外に、回転軸が挿通される軸孔が中心に設けられた円板と、この円板の円周方向へ均等に配置されるとともに半径方向へ突出するように円板の周縁にボルトを用いて固定される4個の切刃を備えたものや
図6(b)乃至
図6(e)に示すように中心に回転軸が挿通される円形の軸孔58aを有する本体部58と、本体部58の外縁から軸孔58aの半径方向の外側へ向かって突出するように設けられた複数の切込刃59を備えたものが知られている。
【0003】
草刈払機50の回転刃51が摩耗すると、回転刃51そのものの交換や刃先の研磨を行う必要があるが、これらの作業には多くの労力を要していた。このような課題に対処するものとして、例えば、特許文献1には「刈払い機用回転刃」という名称で、鋼材に刃付けをした回転刃に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、外径方向へ突出する6枚の刃部を有し、刃先線の先端ポイントにおける刃先線接線と本体の回転方向接線とのなす角が鈍角を形成することを特徴としている。
このような構造の回転刃においては、刃先の外径側端が回転方向接線に対して耐久性のある形状をなしているため、刃部の鋭い切れ味が比較的長期にわたって維持されるという作用を有する。
【0004】
また、特許文献2には「刈り払い機用回転刃」という名称で、ススキのような太い株や小径の雑木が混じるような叢もスムーズに刈り払いが可能であり、砂礫の多い土壌であっても丸鋸刃とは異なり、短時間で大きく摩耗することのない回転刃に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、中心に刈り払い機取り付け孔が穿設されるとともに、複数の突出部が略放射状に外周方向へ突出し、この突出部の回転方向側の辺部に切れ刃が形成され、突出部の反回転方向側の辺部の少なくとも一部に所定の起立角度を有する草掻き寄せガイドが形成されたことを特徴としている。
このような構造の回転刃においては、草掻き寄せガイドが回転刃中心側に草を引き込んだ後、その草をガイド後方のリリース領域で解放するため、掻き寄せられた草が後方の切刃の刃先に勢いよく衝突して切断されるとともに、先端側の部位が摩耗した場合でも深い部位では比較的鋭利な状態が維持されるという作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-176746号公報
【特許文献2】特開2021-16392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術である特許文献1に開示された発明では、大きな曲率半径を有する円弧状に刃先の先端部が摩耗することにより刃部の切れ味が落ちてしまうため、刃先の外径側端の摩耗の程度に関わらず、短いスパンで回転刃の交換や刃先の研磨を行わなければならないという課題があった。
また、特許文献2に開示された発明では、切れ刃の先端部に大きな曲率半径の円弧をなすような摩耗が生じて切れ味が落ちてしまうため、回転刃の交換や刃先の研磨を頻繁に行わなければならないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に対処してなされたものであり、刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味を長時間にわたって保つことが可能な草刈払機用回転刃とそれを備えた草刈払機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、草刈払機に取り付けられて草や低木を刈り払う際に用いられる草刈払機用回転刃であって、平面視した場合に輪郭線が円形をなす軸孔が中央に設けられた本体部と、この本体部の端縁から軸孔の半径方向の外側へ向かって突出するように設けられた複数の切込刃と、からなり、切込刃は、第1の刃部と、この第1の刃部よりも回転方向の前方側となる箇所に設けられた第2の刃部と、を備え、第2の刃部は第1の刃部の肉厚よりも薄いことを特徴とする。
このような構造の第1の発明では、第1の刃部よりも薄い第2の刃部が第1の刃部に比べて速く摩耗するとともに、従来の切込刃に比べて幅の狭い第1の刃部が従来の切込刃よりも速く摩耗することから、切込刃において端縁の半径方向の摩耗が刃先の先端の円周方向の摩耗よりも速く進行する結果、刃先の先端に曲率半径の小さい円弧状の摩耗が生じるという作用を有する。このとき、第1の刃部及び第2の刃部はそれぞれ主切断刃及びからみ防止切断刃として機能する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、第2の刃部との境界となる第1の刃部の第1の側縁は、直線状をなすとともに先端が回転方向の前方側へ倒れるように先端と軸孔の輪郭線の中心を通る直線に対して傾斜していることを特徴とする。
このような構造の第2の発明では、第1の発明の作用に加え、第2の刃部の摩耗によって刃先となった第1の刃部の第1の側縁において先端が回転方向の前方側へ倒れるように傾斜しているため、切断対象物である草や低木等が刃先である第1の側縁によって確実に捉えられるという作用を有する。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、切込刃は、第1の刃部よりも回転方向の後方側となる箇所に設けられた第3の刃部を備え、第3の刃部は第1の刃部の肉厚よりも薄いことを特徴とする。
このような構造の第3の発明では、第3の刃部の肉厚が第1の刃部の肉厚よりも薄いため、第3の刃部が第1の刃部に比べて速く摩耗するとともに、第1の刃部は従来の切込刃よりもさらに幅が狭くなることから、第1の刃部が従来の切込刃よりも速く摩耗する。したがって、第3の発明においては、第2の発明の作用に加え、切込刃において端縁の半径方向の摩耗が刃先の先端の円周方向の摩耗よりも速く進行する結果、刃先の先端に生じる摩耗が曲率半径の小さい円弧状になるという第1の発明の作用がより一層発揮される。また、第3の発明においては、第3の刃部によって切込刃の強度が高められるという作用も有する。すなわち、第3の刃部は切込刃の補強部として機能する。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、第3の刃部との境界となる第1の刃部の第2の側縁は第1の側縁と平行をなしていることを特徴とする。
回転方向における第1の刃部の幅が半径方向に見て一定でないと、回転方向と平行な端縁が摩耗して第1の刃部の半径方向の長さが短くなっていく速度が速くなったり遅くなったりする。例えば、回転方向における第1の刃部の幅が狭い場合には上記速度が速く、刃先の先端に曲率半径の大きな円弧状の摩耗が生じ難いのに対し、回転方向における第1の刃部の幅が広い場合には上記速度が遅くなるため、刃先の先端に曲率半径の大きな円弧状の摩耗が生じ易い。
第4の発明においては、回転方向における第1の刃部の幅が一定であるため、第3の発明の作用に加え、回転方向と平行な端縁が摩耗することによって第1の刃部が一定の速度で半径方向へ短くなっていくという作用を有する。
【0012】
第5の発明は、第2の発明乃至第4の発明のいずれかの発明において、切込刃は、第1の刃部よりも回転方向の前方側となる箇所に、下方へ曲折されるように第1の刃部の第1の側縁から延設された第1の接続部を備え、第1の刃部と第2の刃部は、互いに平行な2つの仮想平面上に配置され、第2の刃部の側縁は第1の接続部を介して第1の刃部の第1の側縁に接続されていることを特徴とする。
このような構造の第5の発明においては、切込刃の下面が切込刃の上面に比べて速く摩耗することから、第2の発明乃至第4の発明のいずれかの発明の作用に加え、第2の刃部が第1の刃部よりも速く摩耗するという作用を有する。
【0013】
第6の発明は、第4の発明において、切込刃は、第1の刃部よりも回転方向の後方側となる箇所に、下方へ曲折されるように第1の刃部の第2の側縁から延設された第2の接続部を備え、第1の刃部と第3の刃部は、互いに平行な2つの仮想平面上に配置され、第3の刃部の側縁は第1の刃部の第2の側縁に第2の接続部を介して接続されていることを特徴とする。
このような構造の第6の発明においては、切込刃の下面が切込刃の上面に比べて速く摩耗することから、第4の発明の作用に加え、第3の刃部が第1の刃部よりも速く摩耗するという作用を有する。
【0014】
第7の発明に係る草刈払機は、第1の発明乃至第6の発明のいずれか1項に記載される草刈払機用回転刃を備えることを特徴とする。
第7の発明においては、第1の発明乃至第6の発明のいずれかの発明と同様の作用を有する。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、刃先の先端に大きな曲率半径を有する円弧状の摩耗が形成され難いため、刃先の機能が失われることがなく、刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味が長時間にわたって保たれるという効果を奏する。
【0016】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加え、第1の刃部の第1の側縁が刃先となって草や低木等を切断する性能が向上するという効果を奏する。
【0017】
第3の発明によれば、第2の発明の効果に加え、切込刃が第3の刃部によって補強されることで破損し難くなるため、使用時の安全性が高められるという効果を奏する。また、第3の発明では、第1の発明に比べて、刃先の先端に曲率半径の小さい円弧状の摩耗が生じ易くなるため、刃先の機能が失われることがなく、刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味が長時間にわたって保たれるという第1の発明の効果がより一層発揮される。
【0018】
従来の回転刃のように回転方向と平行な端縁が摩耗して切込刃の半径方向の長さが短くなっていく速度が一定でない場合には、刃先の先端に生じる円弧状の摩耗の曲率半径が一定とならない。例えば、切込刃の半径方向の長さが短くなっていく速度が速い場合、刃先の先端には小さな曲率半径の摩耗が生じるが、切込刃の半径方向の長さが短くなっていく速度が遅い場合には、刃先の先端に大きな曲率半径の摩耗が生じてしまう。この場合、切込刃を交換せずに、あとどれくらい使用し続けることができるかという予測が難しい。これに対し、第4の発明によれば、回転方向と平行な端縁が摩耗することによって第1の刃部が一定の速度で半径方向へ短くなっていくため、第3の発明の効果に加え、切込刃を交換せずに使用し続けることができる時間の予測が容易になるという効果を奏する。
【0019】
第5の発明によれば、第1の発明に比べて、第2の刃部が第1の刃部よりも速く摩耗し易くなることから、第2の発明乃至第4の発明のいずれかの発明の効果に加え、刃先の先端に大きな曲率半径を有する円弧状の摩耗が形成され難いため、刃先の機能が失われることがなく、刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味が長時間にわたって保たれるという第1の発明の効果がより一層発揮される。
【0020】
切込刃の下面が切込刃の上面に比べて速く摩耗することから第3の発明よりもさらに第3の刃部が第1の刃部よりも速く摩耗し易いという作用を有する第6の発明によれば、第4の発明の効果に加え、刃先の先端に大きな曲率半径を有する円弧状の摩耗が形成され難いため、刃先の機能が失われることがなく、刃を使用し終わるまで切込刃の切れ味が長時間にわたって保たれるという第1の発明の効果がより一層発揮される。
【0021】
第7の発明によれば、第1の発明乃至第6の発明のいずれかの発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(a)は本発明の実施の形態に係る草刈払機用回転刃の平面図であり、(b)は同図(a)におけるX-X線矢視断面図である。
【
図2】
図1(a)において破線で囲まれた部分の拡大図である。
【
図3】(a)は従来の回転刃において摩耗が進行する様子を模式的に示した平面図であり、(b)は同図(a)におけるY-Y線矢視断面図である。
【
図4】本発明の草刈払機用回転刃が実際に摩耗した状態を示した平面図である。
【
図5】(a)は
図1(a)に示した草刈払機用回転刃において摩耗が進行する様子を示した模式図であり、(b)は
図1(b)に示した草刈払機用回転刃の変形例である。
【
図6】(a)は草刈払機の外観を示した斜視図であり、(b)乃至(d)はそれぞれ2枚刃、3枚刃及び4枚刃と呼ばれる回転刃の外観を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の草刈払機用回転刃の構造とそれに基づいて発揮される作用及び効果並びにその草刈払機用回転刃を備えた草刈払機について
図1乃至
図5を参照しながら具体的に説明する。
なお、本発明の草刈払機用回転刃は草刈払機に取り付けられて草や低木を刈り払う際に用いられるものであるため、本明細書では、実際に草刈払機に取り付けられて回転させられる状態を想定して、「上方」や「下方」あるいは「回転方向」などの表現を用いている。また、以下の実施例では、3枚の切込刃を有する回転刃(
図6(c)を参照)を例に挙げているが、2枚又は4枚の切込刃を有する回転刃についても以下に説明する本発明の作用及び効果は同様に発揮される。さらに、本発明の草刈払機用回転刃では、切込刃の端縁も草や低木等を切断する刃先として機能するが、当該機能は切込刃の回転方向前方側の側縁において最も発揮されるため、以下の実施例では主に上記側縁を刃先として説明している。
【実施例0024】
図1(a)は本発明の実施の形態に係る草刈払機用回転刃の平面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるX-X線矢視断面図である。また、
図2は
図1(a)において破線で囲まれた部分の拡大図である。
なお、
図1(b)では断面であることを示すハッチングの図示を省略している。また、
図6(a)乃至
図6(d)を用いて既に説明した構成要素については、同一の符号を付するとともに、その説明を適宜省略する。
図1(a)及び
図1(b)に示すように本発明の草刈払機用回転刃1は、平面視した場合に輪郭線が円形をなす軸孔2aが中央に設けられた本体部2と、この本体部2の外縁から軸孔2aの半径方向の外側へ向かって突出するように設けられた3枚の切込刃3からなる。また、切込刃3は、第1の刃部3aと、この第1の刃部3aよりも回転方向(矢印Cを参照)の前方側及び後方側となる箇所にそれぞれ設けられるとともに第1の刃部3aよりも肉厚が薄い第2の刃部3b及び第3の刃部3cを備えている。
図1(b)に示すように第1の刃部3a、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの下面は同一の仮想平面上に配置されているが、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの肉厚は第1の刃部3aよりも薄い。例えば、第1の刃部3aの肉厚をtとすると、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの肉厚は1/3t~2/3tであることが望ましい。ただし、第1の刃部3a、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの肉厚は
図1(b)に示したものに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0025】
図2に示すように、切込刃3の端縁において矢印Cで示す回転方向の前方側の点をA、本体部2と切込刃3の境界線において矢印Cで示す回転方向の前方側及び後方側の点をそれぞれB及びFとする。さらに、点Oを中心とする軸孔2aの同心円に点Aから接線を引いた場合の接点をH、線分AHと線分BFの交点をC、点Fを通り線分ACに平行な直線と切込刃3の端縁の交点をG、線分AGの中点Dを通り線分GFに平行な直線と線分BFの交点をEとする。このとき、平行四辺形ACED、三角形ABC及び平行四辺形DEFGがそれぞれ第1の刃部3a、第2の刃部3b及び第3の刃部3cとなり、角BAOは絡み防止角に相当する。
また、軸孔2aの同心円の半径Rは軸孔2aの半径よりも大きい。なお、実験の結果、線分OAの長さが127.5mm(市販品の回転刃の半径)の場合、線分OHの長さ(上述の半径R)の最適値は20mm~25mmであることが分かった。ただし、上記同心円の半径Rはこの長さに限定されるものではなく、線分OAの長さや切込刃3の枚数に応じて適宜設定することが望ましい。また、線分ADと線分DGの長さも同一である必要はなく、切込刃3の長さ(線分ABの長さ)や幅(線分BFの長さ)に応じて適宜設定することが望ましい。
【0026】
図3(a)は従来の回転刃51において摩耗が進行する様子を模式的に示した平面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるY-Y線矢視断面図である。なお、図中の破線は使用によって摩耗した後の切込刃59の端縁を示している。また、
図3(a)では、切込刃59の端縁において回転方向(
図2の矢印Cを参照)の前方側及び後方側の点をそれぞれP及びQ、本体部58と切込刃59の境界線において上記回転方向の前方側及び後方側の点をそれぞれR及びSとしている。さらに、
図3(b)では断面であることを示すハッチングの図示を省略している。
図3(a)に示すように、回転刃51では切込刃59の回転方向前方側の側縁(線分PR)が草や低木などを切断する際の刃先として機能するため、刃先の先端(点P)は速く摩耗する。一方、刃先に沿って移動した草や低木は刃先の先端(点P)を超えた後、回転方向と平行な端縁(線分PQ)に沿って回転方向後方側へ移動するため、この草や低木との摩擦により上記端縁(線分PQ)も摩耗するが、刃先の先端(点P)に比べると、摩耗が進行する速度は遅い。すなわち、端縁(線分PQ)が摩耗して切込刃59の半径方向の長さが短くなる速度は、刃先の先端(点P)の摩耗が回転方向後方側へ進行する速度よりも遅い。そのため、切込刃59では図中に破線で示すように刃先の先端が大きな曲率半径を有する円弧状に摩耗し、切込刃59の回転方向前方側の側縁は刃先として機能しなくなる。すなわち、従来の回転刃51では切込刃59の大部分が摩耗せずに残っている状態であっても切込刃59の回転方向前方側の側縁が早い段階で刃先として機能しなくなるため、回転刃51を反転させたり、刃先を研磨したりする作業を頻繁に行う必要が生じてしまうのである。
なお、
図3(b)に示すように切込刃59では草や低木等に接触する頻度の大きい下面59bの方が上面59aよりも速く摩耗することが知られている。
【0027】
図4は本発明の草刈払機用回転刃が実際に摩耗した状態を示した平面図である。
図4に示すように草刈払機用回転刃1の切込刃3では、第2の刃部3bが第1の刃部3aに比べて速く摩耗している。これは、第2の刃部3bの肉厚が第1の刃部3aの肉厚よりも薄く、しかも
図3(b)を用いて既に説明したように切込刃3は下面59bの方が上面59aに比べて速く摩耗することによるものと考えられる。
切込刃3の回転方向(
図2の矢印Cを参照)前方側の側縁(
図2の線分AB)は草や低木などを切断する際の刃先として機能するが、第2の刃部3bが摩耗した後は、第1の刃部3aの回転方向(
図2の矢印Cを参照)前方側の側縁(
図2の線分AC)が刃先として機能する。したがって、刃先の先端(
図2の点A)は切込刃59の刃先の先端(
図3の点P)の場合と同様に摩耗が速く進行する。なお、従来の切込刃59(
図6(c)を参照)では草を半径方向に逃がすことで草が絡まないようにしているのに対し、本発明の草刈払機用回転刃1では第2の刃部3bで草を切断するとともに、絡み防止角(
図2の角BAO)を設けて草が刃先の先端(
図2の点A)側に逃げ易くすることで草の絡み付きを防いでいる。
また、第1の刃部3aの刃先の先端(
図2の点A)には小さい曲率半径を有する円弧状の摩耗が生じている。この原因については
図5を用いて詳しく説明する。
【0028】
図5(a)は
図1(a)に示した草刈払機用回転刃において摩耗が進行する様子を示した模式図であり、
図5(b)は
図1(b)に示した草刈払機用回転刃の変形例である。
図3(a)を用いて既に説明したように従来の回転刃51では、切込刃59の刃先(
図3(a)の線分PQ)の先端(
図3(a)の点P)の摩耗が回転方向後方側及び本体部58側へ進行する速度よりも端縁(
図3(a)の線分PQ)が摩耗して切込刃59の半径方向の長さが短くなる速度の方が遅くなる傾向にあるが、草刈払機用回転刃1では第3の刃部3cの肉厚が第1の刃部3aの肉厚よりも薄いため、端縁が摩耗して半径方向の長さが短くなる速度は第1の刃部3aよりも第3の刃部3cの方が速い。さらに、第1の刃部3aの幅(線分ADの長さ)が従来の回転刃51の切込刃59の幅(
図3(a)に示した線分PQの長さ)よりも狭いため、第1の刃部3aの端縁(線分AD)における摩耗(
図5(a)に破線で示される摩耗後の切込刃3の端縁が矢印Zで示すように本体部2の方へ近づくことにより切込刃3の半径方向の長さが短くなっていくような摩耗)は刃先の先端(点A)の円周方向の摩耗(回転方向後方側へ進行する摩耗)よりも速く進行する。その結果、切込刃3においては、刃先の先端(線分ACと摩耗後の第1の刃部3aの端縁の交点)に生じる摩耗が破線で示すように曲率半径の小さい円弧状になる。なお、本願の出願人による実験では、切込刃3において端縁の半径方向の摩耗(切込刃3の半径方向の長さが短くなる方向への摩耗)は、刃先の先端(点A)の円周方向の摩耗の3倍の速さで進行した。
【0029】
既に説明したように、従来の回転刃51のように刃先の先端が大きな曲率半径を有する円弧状に摩耗してしまうと、切込刃59の回転方向前方側の側縁が刃先として機能しなくなるため、切込刃59の大部分が摩耗せずに残っている状態でも回転刃51の反転使用や刃先の研磨・整形という作業が発生してしまう。
これに対し、本発明の草刈払機用回転刃1では、切込刃3の長さが短くなっていくような第1の刃部3aにおける摩耗が速く進行するものの、刃先の先端に大きな曲率半径を有する円弧状の摩耗が形成され難いため、刃先の機能が失われることがなく、刃を使用し終わるまで切込刃3の切れ味が長時間にわたって保たれる。例えば、草刈払機用回転刃1において、軸孔2aの中心から切込刃3の端縁までの長さが127.5mmである場合、切込刃3の摩耗によって上記長さが100mm程度になるまで、交換や研磨・整形などの作業を行う必要がない。すなわち、草刈払機用回転刃1によれば、刃を使用し終わるまで切込刃3の切れ味を長時間にわたって保つことが可能である。
【0030】
また、草刈払機用回転刃1では、第2の刃部3bとの境界となる第1の刃部3aの直線状をなす側縁(
図5(a)に示した線分AC)の先端(
図5(a)に示した点A)が回転方向(
図2に示した矢印C)の前方側へ倒れ、当該先端(
図5(a)に示した点A)と軸孔2aの輪郭線をなす円の中心を通る直線に対して傾斜していることから、第2の刃部3bの摩耗によって新たに刃先となった第1の刃部3aの上記側縁によって切断対象物である草や低木等が確実に捉えられる。したがって、草刈払機用回転刃1では、切込刃3によって草や低木等を容易に切断することができる。
さらに、草刈払機用回転刃1では、第3の刃部3cとの境界となる第1の刃部3aの側縁(
図5(a)に示した線分DE)が第2の刃部3bとの境界となる第1の刃部3aの側縁(
図5(a)に示した線分AC)と平行をなし、第1の刃部3aの幅が一定となっている。すなわち、草刈払機用回転刃1では、回転方向における第1の刃部3aの幅が一定であるため、切込刃3aの半径方向の長さが短くなっていくような第1の刃部3aにおける摩耗が一定の速度で進行する。したがって、切込刃3を交換せずに、あとどれくらい使用し続けることができるかという予測を容易に行うことができる。
【0031】
なお、第2の刃部3b及び第3の刃部3cを第1の刃部3aよりも速く摩耗させるためには、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの肉厚を第1の刃部3aの肉厚よりも薄くして切込刃3を
図5(b)に示す構造とすることもできる。
すなわち、切込刃3において第1の刃部3aよりも回転方向の前方側及び後方側となる箇所に下方へ曲折されるように第1の刃部3aの第1の側縁(
図5(a)に示した線分AC)及び第2の側縁(
図5(a)に示した線分DE)からそれぞれ延設された第1の接続部3d及び第2の接続部3eを設けるとともに、第2の刃部3b及び第3の刃部3cと第1の刃部3aが互いに平行な2つの仮想平面上に配置されるように、第2の刃部3bの側縁が第1の接続部3dを介して第1の刃部3aの第1の側縁に接続され、第3の刃部3cの側縁が第2の接続部3eを介して第1の刃部3aの第2の側縁に接続された構造とするのである。
この場合、第2の刃部3b及び第3の刃部3cの肉厚を第1の刃部3aの肉厚よりも薄くすれば、第2の刃部3b及び第3の刃部3cが第1の刃部3aよりも速く摩耗するという作用がより一層発揮される。
【0032】
なお、第3の刃部3cを第1の刃部3aよりも速く摩耗させる代わりに、第3の刃部3cに相当する箇所を切り欠いても良いように思われるが、この場合、切込刃3の強度低下に繋がるため、好ましくない。すなわち、草刈払機用回転刃1は、切込刃3が第3の刃部3cによって補強されることで破損し難くなるため、使用時の安全性が高いという効果を有している。
【0033】
また、第2の刃部3bを第1の刃部3aよりも速く摩耗させる代わりに、第2の刃部3bに相当する箇所を切り欠くという方法も考えられるが、この場合、切り欠かれた場所に草や低木等が絡まり易くなってしまう。すなわち、草刈払機用回転刃1では、前述の絡み防止角(
図2に示した角BAO)を設けて切込刃3の刃先と本体部2の外縁が鈍角をなすようにすることにより、草や低木等の切込刃3に対する絡み付きを防止することが可能となっている。
【0034】
本発明の草刈払機は、
図6を用いて既に説明した草刈払機50において回転刃51の代わりに上述の草刈払機用回転刃1を備えたことを特徴とする。このような構造の草刈払機においては、草刈払機用回転刃1の作用及び効果が同様に発揮される。
1…草刈払機用回転刃 2…本体部 2a…軸孔 3…切込刃 3a…第1の刃部 3b…第2の刃部 3c…第3の刃部 3d…第1の接続部 3e…第2の接続部 50…草刈払機 51…回転刃 52…ギヤケース 53…シャフト 54…カバー 55…エンジン 56…燃料タンク 57…ハンドル 58…本体部 58a…軸孔 59…切込刃 59a…上面 59b…下面
前記切込刃は、前記第1の刃部よりも前記回転方向の前記前方側となる箇所に、下方へ曲折されるように前記第1の刃部の前記第1の側縁から延設された第1の接続部を備え、
前記第1の刃部と前記第2の刃部は、互いに平行な2つの仮想平面上に配置され、
前記第2の刃部の側縁は前記第1の接続部を介して前記第1の刃部の前記第1の側縁に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の草刈払機用回転刃。