(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116283
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】破断寿命の推定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/32 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
G01N3/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019006
(22)【出願日】2022-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年11月5日公開日本ばね学会発行 2021年度日本ばね学会秋季定例講演会 講演論文集 http://jsse-web.jp/kouen/kouen21au.html (2)令和3年11月5日~12日主催(発表日11月12日) 日本ばね学会主催 2021年度日本ばね学会秋季定例講演会 オンライン開催(http://jsse-web.jp/kouen/kouen21au.html) (3)令和3年12月15日発行日本材料学会発行 材料 2021年,70巻,12号,p.876-880 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/70/12/70_876/_article/-char/ja/ https://doi.org/10.2472/jsms.70.876
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】長島 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】升田 博之
(72)【発明者】
【氏名】早川 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長井 寿
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA02
2G061CB02
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】機械学習によるS-N曲線(応力振幅-破断寿命の関係)の推定を行なうことで、精度の良い推定が得られる破断寿命の推定方法及び装置を提供すること。
【解決手段】疲労限度推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部(310)と、
疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む機能部(320)と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)とを備え、
前記教師付き機械学習を行った機械学習演算部により、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力するものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疲労限度推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部と、
疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む機能部と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部とを備え、
前記教師付き機械学習を行った機械学習演算部により、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力するように構成した破断寿命の推定装置。
【請求項2】
前記機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習を行い、前記教師付き機械学習を行う前処理部を有する請求項1に記載の破断寿命の推定装置。
【請求項3】
前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含む請求項2に記載の破断寿命の推定装置。
【請求項4】
前記疲労限度推定の種類としては、107回疲労限の推定、106回疲労限の推定、S-N曲線の推定、及び低サイクル疲労寿命の推定の少なくとも一つを含む請求項1乃至3の何れかに記載の破断寿命の推定装置。
【請求項5】
前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞り、応力比、又は疲労試験法の少なくとも一つを含む請求項1乃至4の何れかに記載の破断寿命の推定装置。
【請求項6】
前記疲労試験法には、回転曲げ試験データ、軸荷重試験データ、およびねじり試験データが含まれる請求項5に記載の破断寿命の推定装置。
【請求項7】
前記鋼種には、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材の少なくとも一つを含む請求項1乃至6の何れかに記載の破断寿命の推定装置。
【請求項8】
前記鋼種には、炭素鋼鋼材についてS25C、S35C、S55Cがあり、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材についてSNCM439、マンガン鋼鋼材についてSMn438、SMn443、ステンレス鋼鋼材についてSUS403、SUS304の少なくとも一つを含む請求項7に記載の破断寿命の推定装置。
【請求項9】
さらに、校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った前記機械学習演算部の疲労限度推定の正確性を評価する機械学習評価部を有する請求項1乃至8の何れかに記載の破断寿命の推定装置。
【請求項10】
さらに、前記機械学習評価部の評価結果から、前記機械学習演算部の疲労限度推定の正確性を高めるような、前記機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨するアシスト機能部を有する請求項9に記載の破断寿命の推定装置。
【請求項11】
疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程と、
疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む工程と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力する工程とを備える、
破断寿命の推定方法。
【請求項12】
さらに、前記機械学習演算部に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習を行なって、教師付き機械学習を行う工程を有する、請求項11に記載の破断寿命の推定方法。
【請求項13】
前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルの何れかを含む、
請求項12に記載の破断寿命の推定方法。
【請求項14】
前記疲労限度推定の種類としては、107回疲労限の推定、106回疲労限の推定、S-N曲線の推定、又は低サイクル疲労寿命の推定の何れかを含む、
請求項11乃至13の何れかに記載の破断寿命の推定方法。
【請求項15】
前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞り、応力比、又は疲労試験法の少なくとも一つを含む請求項11乃至14の何れかに記載の破断寿命の推定方法。
【請求項16】
前記疲労試験法には、回転曲げ試験データ、軸荷重試験データ、およびねじり試験データが含まれる、請求項15に記載の破断寿命の推定方法。
【請求項17】
前記鋼種には、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材の少なくとも一つを含む請求項11乃至16の何れかに記載の破断寿命の推定方法。
【請求項18】
前記鋼種には、炭素鋼鋼材についてS25C、S35C、S55Cがあり、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材についてSNCM439、マンガン鋼鋼材についてSMn438、SMn443、ステンレス鋼鋼材についてSUS403、SUS304の少なくとも一つを含む請求項17に記載の破断寿命の推定方法。
【請求項19】
さらに、校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部の疲労限度推定の正確性を評価する工程を有する請求項11乃至18の何れかに記載の破断寿命の推定方法。
【請求項20】
さらに、前記機械学習評価工程の評価結果から、前記機械学習演算部の疲労限度推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨する工程を有する請求項19に記載の破断寿命の推定方法。
【請求項21】
さらに、前記推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記疲労データシートで読み込む鋼種を考慮して、請求項11の疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程で用いるために指定する疲労限度推定の種類と、前記機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する工程を有する請求項20に記載の破断寿命の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物や構造材料に用いて好適な破断寿命の推定方法及び装置に関し、特に機械学習法と各種構造材料の107回疲労限の測定データを用いた破断寿命の推定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料は機械、構造物の主要部材であり、維持管理および破損、不具合への対応において、疲労特性は重要課題の一つである。本出願人は約40年にわたり各種構造材料の10
7回疲労限をNIMS疲労データシート(FDS)として蓄積してきた。これらのFDSからは疲労限と他の機械的性質(例えば、対ビッカース硬度、対引張強さ等)の間に相関性があることが経験的に知られている(
図11)。また、疲労限のみでは無く、応力振幅を基準化することによる破断寿命(S-N曲線)の推定についても試みている。
なお、特許文献1では鋼材の疲労特性推定方法が開示されている。特許文献2ではタイヤの耐摩耗性能を向上させるゴム材料の解析方法がが開示されている。特許文献3では機械学習ソフトウェアを用いた計測データに対する高精度の分類分析方法が開示されている。
【0003】
図12は、本出願人が提案する、材料の疲労特性に関し指標となる特性(Index Property)について示している。簡単のため以下では指標特性と呼ぶ。指標特性とは、例えば材料強度の評価基準として引張強度が指標にされる様に、疲労の指標特性を参照すれば、「その材料の疲労特性がほぼ分かる」ような値として定義される。
図12において、まず疲労を寿命範囲に従い、高サイクル疲労と低サイクル疲労に分ける。高サイクル疲労寿命特性は、一般に応力振幅と寿命の関係曲線σ
a-Nfで表される。この場合、参照すべき指標は強度特性であり、静的指標としては引張強度σ
B、動的指標としては繰り返し降伏応力σ
ycを採用する。その理由については後説で述べる。
【0004】
一方、低サイクル疲労寿命特性は、ひずみと寿命の関係曲線εa-Nfで表される。従って、参照すべき指標には変形特性を考える。この場合、静的指標として破断延性εf、動的指標としては繰り返し応力-ひずみ曲線の指数n’を採用する(参考文献1)。引張強度σBと疲労限度σwの間には良い相関が成立することが、経験的に知られている。降伏応力σy(または0.2%耐力σ0.2)とσwの相関も調べられているが、σB-σwの関係ほどではない。これはσyが降伏という不安定現象の影響を受けるからである。ところが、繰り返し降伏応力σycとσwの間には直線関係が成立する。これは、繰り返し降伏応力σycが塑性ひずみを多数回繰り返すことである定常状態となった内部組織に対応しているためと考えられる。このように、高サイクル疲労強度の静的指標としては引張強度σB、動的指標としては繰り返し降伏応力σycを採用することが妥当と考えられる。
【0005】
疲労が塑性ひずみの繰り返しにより起こる以上、本質的には動的指標を採用するべきと考えられるが、繰り返し降伏応力σ
ycの採用には障壁がある。まず、σ
ycの測定には多数試験法(companion specimens method)または応力振幅変動法(Incremental step method)によるひずみ制御試験で求める必要があり、測定数も決して豊富とは言えないという課題があった。
ところで、
図13に示す通り、引張強度σ
Bと繰り返し降伏応力σ
ycの二つの指標特性同士は比例関係にあるので、実用的には静的指標を用いても差し支えないとも思える。そこで、引張強度σ
Bで基準化したσ
a/σ
B-Nfで材料の疲労特性を評価したところ、
図14に示すような結果を得た。現実には、引張強度σ
Bで基準化したσ
a/σ
B-Nfの全体は広いバンドになり、決して精度の良い推定とはならないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-187408号公報
【特許文献2】特開2021-071803号公報
【特許文献3】国際公開第2018-207524号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Matsuoka, N,Nagashima and S. Nishijima, “Index property for the fatigue of engineering alloys”, NIMS Materials Strength Data Sheet Technical Document, No.17(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決したもので、機械学習によるS-N曲線(応力振幅-破断寿命の関係)の推定を行なうことで、精度の良い推定が得られる破断寿命の推定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、NIMS疲労データシートから入手できる実験データを用いて機械学習法によって解析することで、応力振幅-破断寿命の関係の推定が精度よく行えるのではないかと考え、本発明を想到するに至った。応力振幅-破断寿命の関係の推定対象としては、107回疲労限の推定精度と、S-N曲線の推定値として106回以下の破断寿命の推定値と現実の測定値との差異が許容範囲に入る蓋然性の検証である。
【0010】
〔1〕本発明の破断寿命の推定装置は、例えば
図3に示すように、疲労限度推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能部(310)と、
疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む機能部(320)と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)とを備え、
前記教師付き機械学習を行った機械学習演算部により、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力するものである。
〔2〕本発明の破断寿命の推定装置〔1〕において、好ましくは、前記機械学習演算部(330)に対して、前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習を行い、前記教師付き機械学習を行う前処理部(325)を有するとよい。
〔3〕本発明の破断寿命の推定装置〔2〕において、好ましくは、前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルを含むとよい。
【0011】
〔4〕本発明の破断寿命の推定装置〔1〕~〔3〕において、好ましくは、前記疲労限度推定の種類としては、107回疲労限の推定、106回疲労限の推定、S-N曲線の推定、及び低サイクル疲労寿命の推定を含むとよい。
〔5〕本発明の破断寿命の推定装置〔1〕~〔4〕において、好ましくは、前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞り、応力比、又は疲労試験法を含むとよい。
〔6〕本発明の破断寿命の推定装置〔5〕において、好ましくは、前記疲労試験法には、回転曲げ試験データ、軸荷重試験データ、およびねじり試験データが含まれるとよい。
〔7〕本発明の破断寿命の推定装置〔1〕~〔6〕において、好ましくは、前記鋼種には、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材を含むとよい。
〔8〕本発明の破断寿命の推定装置〔7〕において、好ましくは、前記鋼種には、例えば炭素鋼鋼材についてS25C、S35C、S55Cがあり、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材についてSNCM439、マンガン鋼鋼材についてSMn438、SMn443、ステンレス鋼鋼材についてSUS403、SUS304を含むとよい。
【0012】
〔9〕本発明の破断寿命の推定装置〔1〕~〔8〕において、好ましくは、校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を評価する機械学習評価部(335)を有するとよい。
〔10〕本発明の破断寿命の推定装置〔9〕において、好ましくは、機械学習評価部(335)の評価結果から、機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を高めるような、前記機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、前記疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨するアシスト機能(340)を有するとよい。
【0013】
〔11〕本発明の破断寿命の推定方法は、例えば
図4に示すように、疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする工程(S400)と、
疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む工程(S405)と、
前記指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習済の教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)に対して、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力する工程(S415)とを備えている。
〔12〕本発明の破断寿命の推定方法〔11〕において、好ましくは、指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、機械学習を行なって、教師付き機械学習を行う工程(S410)を有するとよい。
〔13〕本発明の破断寿命の推定方法〔12〕において、好ましくは、前記機械学習に用いるモデルはランダムフォレスト法、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、又はLASSO回帰を用いたモデルを含むとよい。
【0014】
〔14〕本発明の破断寿命の推定方法〔11〕~〔13〕において、好ましくは、前記疲労限度推定の種類としては、107回疲労限の推定、106回疲労限の推定、S-N曲線の推定、及び低サイクル疲労寿命の推定を含むとよい。
〔15〕本発明の破断寿命の推定方法〔11〕~〔14〕において、好ましくは、前記機械学習の決定木で用いる機械特性には、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞り、応力比、又は疲労試験法を含むとよい。
〔16〕本発明の破断寿命の推定方法〔15〕において、好ましくは、前記疲労試験法には、回転曲げ試験データ、軸荷重試験データ、およびねじり試験データが含まれるとよい。
〔17〕本発明の破断寿命の推定方法〔11〕~〔16〕において、好ましくは、前記鋼種には、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材を含むとよい。
〔18〕本発明の破断寿命の推定方法〔17〕において、好ましくは、前記鋼種には、例えば炭素鋼鋼材についてS25C、S35C、S55Cがあり、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材についてSNCM439、マンガン鋼鋼材についてSMn438、SMn443、ステンレス鋼鋼材についてSUS403、SUS304を含むとよい。
【0015】
〔19〕本発明の破断寿命の推定方法〔11〕~〔18〕において、好ましくは、校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を評価する工程(S425)を有するとよい。
〔20〕本発明の破断寿命の推定方法〔19〕において、好ましくは、機械学習評価工程(S425)の評価結果から、機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨する工程(S430)を有するとよい。
〔21〕本発明の破断寿命の推定方法〔20〕において、好ましくは、推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、疲労データシートで読み込む鋼種を考慮して、前記破断寿命の推定方法〔11〕のS400で用いるために指定する疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する工程(S435)を有するとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の破断寿命の推定方法及び装置によれば、疲労データシートに含まれる各種鋼種のデータを用い、ランダムフォレスト法により、107回疲労限および106回以下の破断寿命の推定を試みると共に、S-N曲線の推定可能性について検討したところ、次の効果が得られる。
(1)複数の学習要素を関連づけられる機械学習による回帰モデルは、疲労限推定に優れている。
(2)S-N曲線の機械学習による推定は破断寿命と疲労限を分けて推定することにより高精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の実施形態に係る疲労限度推定システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す装置の疲労寿命推定演算処理部をコンピュータを用いて構成する場合の例示的なコンピューティング装置200を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す機能ブロックを有するコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図である。
【
図4】
図3に示すソフトウェアの機能ブロック図による装置の疲労限度推定アルゴリズムの説明図である。
【
図5A】S25CおよびS55Cに対する、回転曲げ疲労試験およびねじり疲労試験の10
7回連続データを用いたAI予測による疲労限度と、実験による疲労限度の関係を示す図で、HVのみの決定木モデルによる予測を示す図である。
【
図5B】S25CおよびS55Cに対する、回転曲げ疲労試験およびねじり疲労試験の10
7回連続データを用いたAI予測による疲労限度と、実験による疲労限度の関係を示す図で、HVおよび試験方法に対する決定木モデルを用いた予測を示す図である。
【
図6A】S25CおよびS55Cに対する、回転曲げ疲労試験およびねじり疲労試験の軸荷重試験(R=0,-1)の10
7回連続データ(合計306回)を用いたAI予測による疲労限度と、実験による疲労限度の関係で、引張強度と試験方法による予測図である。
【
図6B】S25CおよびS55Cに対する、回転曲げ疲労試験およびねじり疲労試験の軸荷重試験(R=0,-1)の10
7回連続データ(合計306回)を用いたAI予測による疲労限度と、実験による疲労限度の関係で、引張強さ、試験法、応力比による予測図である。
【
図7】疲労データシートに含まれる鋼種のデータを用いた10
7回の疲労限度の予測図である。
【
図8】S25CとS55Cのデータを用いた破壊寿命の予測結果(破壊寿命が10
6回以下のデータのみを使用)である。
【
図9】疲労データシートに含まれる鋼種のデータを用いた破壊寿命の予測結果(破壊寿命が10
6回以下のデータのみを使用)である。
【
図10】疲労データシートに含まれる鋼種のデータを用いた破壊寿命のS-N曲線の予測(破壊寿命が5×10
6倍以下のデータ、疲労限度は硬さのみを考慮)である。
【
図11A】機械的特性と疲労限度との関係を示す図で、対ビッカース硬度を示している。
【
図11B】機械的特性と疲労限度との関係を示す図で、対引張強さを示している。
【
図12】本出願人の提案する、材料の疲労特性に関し指標となる特性(Index Property)を示す図である。
【
図13】引張強度σ
Bと繰り返し降伏応力σ
ycという二つの指標特性同士の関係を示す図である。
【
図14】S-N曲線を引張強度で規格化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本開示の実施形態に係る疲労限度推定システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
【0019】
疲労限度推定システム10は、疲労試験機20、及び疲労限度推定装置30を含む。疲労試験機20は、試験機本体22、及びコントローラを備えている。また、疲労限度推定装置30は、推定演算処理部32、及び伸び計34を備えている。疲労試験機20のコントローラ、及び伸び計34は、疲労限度推定装置30の推定演算処理部32に接続されている。
【0020】
疲労試験機20は、疲労限度を試験する試験片SPを取り付けて、所定の負荷を繰返して与え、疲労試験を行う。疲労限度推定装置30は、疲労試験機20により負荷が与えられた試験片SPの伸びを伸び計34を用いて測定し、疲労限度を推定する。
【0021】
次に、疲労限度推定装置30を構成する推定演算処理部32のハードウェア構成の一例を説明する。
図2は、
図1に示す装置の疲労寿命の推定演算処理部をコンピュータを用いて構成する場合の例示的なコンピューティング装置200を示すブロック図である。
図1の疲労寿命の推定演算処理部32は、コンピューティング装置200の全部または一部を使用して実施することができる。
非常に基本的な構成901では、コンピューティング装置200は通常、1つまたは複数のプロセッサ210とシステムメモリ220とを含む。メモリバス930は、プロセッサ210とシステムメモリ220との間の通信に使用され得る。
【0022】
所望の構成に応じて、プロセッサ210は、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ(μC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意のタイプのものであり得る。プロセッサ210は、レベル1キャッシュ211およびレベル2キャッシュ212などのもう1つのレベルのキャッシング、プロセッサコア213、およびレジスタ214を含むことができる。例示的なプロセッサコア213は、算術論理演算装置(ALU)、浮動小数点ユニット(FPU)、デジタル信号処理コア(DSPコア)、またはそれらの任意の組み合わせなどを含むことができる。例示的なメモリ制御部215もプロセッサ210と共に使用することができ、またはいくつかの実装形態では、メモリ制御部215はプロセッサ210の内部部分とすることができる。
【0023】
所望の構成に応じて、システムメモリ220は、揮発性メモリ(RAMなど)、不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリなど)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない任意のタイプのものとすることができる。システムメモリ220は、オペレーティングシステム221、1つまたは複数のアプリケーション222、および決定木モデル機械学習部232を含み得る。アプリケーション222は、107回疲労限の推定部223、106回疲労限の推定部224、S-N曲線の推定225、及び低サイクル疲労寿命推定部226を含み得る。
【0024】
決定木モデル機械学習部232は、機械学習の一類型であるランダムフォレスト法に用いられる決定木モデルとして、ビッカース硬さ233、引張強度234、破断伸び235、破断絞り236、応力比237、疲労試験法238を含みえる。疲労試験法238には、例えば、回転曲げ試験データ、軸荷重試験データ、およびねじり試験データが含まれる。
【0025】
コンピューティング装置200は、追加の特徴または機能性、および基本構成201と任意の必要な装置およびインターフェースとの間の通信を容易にするための追加のインターフェースを有することができる。例えば、バス/インターフェース制御部240を使用して、ストレージインターフェースバス241を介した基本構成201と1つまたは複数のデータ記憶装置250との間の通信を容易にすることができる。データ記憶装置250は、取り外し可能な記憶装置251、取り外しができない記憶装置252、またはそれらの組み合わせである。取り外し可能な記憶装置および取り外しができない記憶装置の例には、フレキシブルディスクドライブおよびハードディスクドライブ(HOD)などの磁気ディスク装置、コンパクトディスク(CD)ドライブまたはデジタル多用途ディスク(DVD)ドライブなどの光ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)、テープドライブが含まれる。例示的なコンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能および固定の媒体を含み得る。
【0026】
システムメモリ220、取外し可能記憶装置251、および固定記憶装置252はすべてコンピュータ記憶媒体の例である。コンピュータ記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、CDROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置を含むがこれらに限定されない。所望の情報を格納するために使用され得、かつコンピューティング装置200によってアクセスされ得る任意のそのようなコンピュータ記憶媒体は、デバイス900の一部であり得る。
【0027】
また、コンピューティング装置200はバス/インターフェース制御部240を介して様々なインターフェース装置(例えば、出力インターフェース、周辺インターフェース、および通信インターフェース)から基本構成201への通信を容易にするためのインターフェースバス242を含むことができる。
出力デバイス260では、画像処理ユニット261および音声処理ユニット262が、1つまたは複数のAVポート263を介して表示装置291またはスピーカなどの様々な外部装置と通信するように構成され得る。
【0028】
例示的な周辺インターフェース270は、入力装置(例えば、キーボード、マウス、ペン、音声入力装置、タッチ入力装置など)のような外部装置と通信するように構成され得るシリアルインターフェース制御部271またはパラレルインターフェース制御部272を含む。周辺インターフェース270は、I/Oポート273を介して疲労試験機292や疲労データシート293を格納した外部データベース機器と通信するように構成され得る。
例示的な通信装置280は、ネットワーク制御部281を含み、ネットワーク制御部281は、1つまたは複数の通信ポート282を介したネットワーク通信リンクを介して、1つまたは複数の他のコンピューティング装置290との通信を容易にするように構成されてもよい。
疲労データシート293には、炭素鋼鋼材のデータシート294、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材のデータシート295、マンガン鋼鋼材のデータシート296、ステンレス鋼鋼材のデータシート297がある。炭素鋼鋼材には、例えばJIS G 4051に規定される機械構造用炭素鋼鋼材であるS25C、S35C、S55C等の各種鋼種の疲労データシートがあり、これらは本出願人の提供するFDS-No.1~16等で入手可能である。
【0029】
ネットワーク通信リンクは、通信媒体の一例であり得る。通信媒体は、通常、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または搬送波もしくは他の搬送機構などの変調データ信号内の他のデータによって具現化することができ、任意の情報配信媒体を含むことができる。「変調データ信号」は、信号内に情報を符号化するような方法で設定または変更されたその特性のうちの1つまたは複数を有する信号であり得る。限定ではなく例として、通信媒体は、有線ネットワークまたは直接配線接続などの有線媒体、ならびに音響、無線周波数(RF)、マイクロ波、赤外線(IR)および他の無線媒体などの無線媒体を含み得る。本明細書で使用されるコンピュータ可読媒体という用語は、記憶媒体と通信媒体の両方を含み得る。
【0030】
コンピューティング装置200は、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDA)、パーソナルメディアプレーヤデバイス、ワイヤレスウェブウォッチデバイス、パーソナルコンピュータなどのスモールフォームファクタポータブル(またはモバイル)電子デバイス、上記の機能のいずれかを含むヘッドセットデバイス、特定用途向けデバイス、またはハイブリッドデバイスの一部として実装され得る。また、コンピューティング装置200は、ラップトップコンピュータ構成および非ラップトップコンピュータ構成の両方を含むパーソナルコンピュータとして実装され得る。
【0031】
図3は
図2に示す機能ブロックを有するコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図で、例示的なコンピュータプログラム製品300を示している。プログラム担持媒体302は、コンピュータ読取可能媒体306、記録可能媒体308、通信媒体309、またはそれらの組み合わせとして実装することができるもので、処理ユニットのすべてまたは一部の処理を実行するように構成することができるプログラム命令格納部304を有する。
【0032】
プログラム命令格納部304に格納されたプログラム命令は、例えば、疲労限度推定の種類の指定と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定を読込む機能(310)、疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む機能(320)、指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、ランダムフォレスト法による機械学習を行い、教師付き機械学習を行う前処理部(325)を有する。更に、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)に対して、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力する機械学習演算部(330)を有する。
なお、機械学習におけるランダムフォレスト法は、複数の決定木を使用して「分類」または「回帰」をする、周知のランダムフォレスト法を用いたモデルを用いるとよい。また、機械学習で用いるモデルは、ランダムフォレスト法を用いたモデルに限定されるものではなく、例えば周知のディープラーニングに代表されるニューラルネットワークを用いたモデル、及びLASSO回帰を用いたモデルを含む。また、疲労限度推定の回帰式は直線関数に限定されるものではなく多項式あるいはクリギング、RBF(Radial Base Function)を用いた非線形関数を用いることもできる。
【0033】
また、プログラム命令格納部304に格納されたプログラム命令は、例えば、校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を評価する機械学習評価部(335)を有する。更に、機械学習評価部(335)の評価結果から、機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨するアシスト機能(340)を有する。
【0034】
図4は、
図3に示すソフトウェアの機能ブロック図による装置の疲労限度推定アルゴリズムの説明図で、(A)は基本的なアルゴリズム、(B)は追加的なアルゴリズムである。
まず、基本的なアルゴリズムでは、疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性の指定をする(S400)。疲労限度推定の種類としては、10
7回疲労限の推定、10
6回疲労限の推定、S-N曲線の推定、及び低サイクル疲労寿命の推定がある。機械学習の決定木で用いる機械特性には、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞り、応力比、並びに疲労試験法等がある。
【0035】
次に、疲労データシートから、指定された鋼種の疲労データを読込む(S405)。鋼種には、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、及びステンレス鋼鋼材のデータシートがあり、各鋼種の細分化された鋼種には、例えば炭素鋼鋼材についてS25C、S35C、S55Cがあり、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材についてSNCM439、マンガン鋼鋼材についてSMn438、SMn443、ステンレス鋼鋼材についてSUS403、SUS304がある。
指定された機械特性を用いて、読み込んだ鋼種の疲労データに対して、ランダムフォレスト法による機械学習を行い、教師付き機械学習を行う(S410)。なお、既に教師付き機械学習が行われている場合には、この工程は省略してよい。
次に、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)に対して、指定された機械特性を用いて、指定された疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を出力する(S415)。
【0036】
基本的なアルゴリズムに追加される追加的なアルゴリズムには、次の工程が含まれる。
校正対象に用いる疲労限度推定の種類に応じた疲労限度推定の演算結果を用いて、教師付き機械学習を行った機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を評価する(S425)。
また、機械学習評価部(335)の評価結果から、機械学習演算部(330)の疲労限度推定の正確性を高めるような、機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、疲労データシートで読み込む鋼種の疲労データの種類を推奨する(S430)。
推奨された機械学習の決定木で用いる機械特性の種類と、疲労データシートで読み込む鋼種を考慮して、S400で用いるために指定する疲労限度推定の種類と、機械学習の決定木で用いる機械特性を修正する(S435)。
【0037】
次に、上記の疲労限度推定アルゴリズムで用いられる教師付き機械学習について、説明する。ランダムフォレスト法は機械学習のアルゴリズムの一つで、複数の決定木モデルの弱学習器を統合させて汎化能力を向上させるアンサンブル学習アルゴリズムであり、主に分類(判別)・回帰(推定)の用途で使用される。ここで重要なのは、対象となるデータ集団について、(i)正確なデータをより多くサンプリングできること、(ii)決定木モデルを学習要素ごとに作成することである。
これまでの数学的モデルの回帰では、対象とする二つのデータ集団の相関を求める最小自乗近似により回帰されたが、機械学習は複数の学習要素の決定木モデルを関連づけた回帰モデルをつくることができることから、さらに精度の高い推定が期待できる。
【0038】
107回疲労限の推定に用いたデータ集団は、JIS G 4051に規定される機械構造用炭素鋼鋼材であるS25C(FDS-No.1)とS55C(FDS-No.4)の回転曲げ疲労試験の実験データをベースとした。ランダムフォレスト法で学習要素ごとの効果を調べた。次に、そのデータ集団にねじり疲労試験の疲労限データを追加し、疲労試験法の違いの影響を調べた。さらに、応力比R=-1の他、R=0の疲労試験データを追加して、応力比の影響を調べた。
ここまでの検討の成果の上に立って、S25CとS55Cの他に、機械構造用炭素鋼鋼材S35C(FDS-No.2)、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材SNCM439(FDS-No.25)、マンガン鋼SMn438(FDS-No.16)、マンガン鋼SMn443(FDS-No.17)、JIS G 3446に規定される機械構造用ステンレス鋼鋼管等のマルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS403(FDS-No.30)、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304(FDS-No.33)の各種鋼材の疲労データを用いた場合の推定精度を調べた。
【0039】
次に各種鋼材の106回以下の破断データを用い、破断寿命推定を試みた。最後に、S45C(FDS-No.3)550℃焼戻し、Heat Aに絞って、応力振幅ごとの106回以下の破断寿命を推定し、S-N曲線の推定を試みた。
これまで、疲労限の推定は引張強度や硬さと良い相関があるため、「破断伸び」「破断絞り」は注目されていなかったが、S-N曲線の有限寿命範囲、特に短寿命の低サイクル域では、破断延性が低サイクル疲労の指標となっていることから、引張強度、硬さ、破断伸び、破断絞りを関連させた決定木モデルを採用した。
【0040】
機械学習には市販のパーソナルコンピュータをコンピューティング装置200として用い、Python(登録商標)3.6.1および外部ライブラリのAnaconda(登録商標)を利用して、
図2~
図4に示す疲労限度推定アルゴリズムを含むソフトウェアの機能ブロックを有するシステムを構築した。
【0041】
対象としたデータは疲労データシート記載の疲労試験結果である。解析の公平性のため、8割を訓練データとして2割を試験データとし、毎回ランダムに抽出した。そのため試験データがどのデータに当たるかは判別できない。また、解析結果の評価の一つとして平均絶対誤差率(MAPE:Mean absolute percentage error)を試験データによる解析結果から求めた。
【数1】
ここで
は解析に使ったデータの値である。
は解析データから得られる推定値である。
【0042】
回帰分析で得られるモデルの適合の良さを評価する指標として、二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)や平均誤差(RSE:Mean Squared Error)や決定係数R
2などが用いられる。しかし、RMSEおよびMSEの誤差関数で計算した場合、+と-のデータを合計するため相殺された平均誤差となる。一方、MAPEは絶対値のため、予測データの不一致を局在化させることができる。MAPEの問題点として取り上げられるのは、実測値が0の場合、予測値が小さ過ぎる場合などがあるが、本発明の対象とする実測値ならびに予測値は疲労限であり、上記の場合に当てはまらない。また、交差検証、グリッドサーチを行わないと偏った結論になることが考えられるが、全ての予測において、
図5A、
図5Bの様な、実験値と予測値の関係図を作成し目視することで、交差検証、グリッドサーチの代用になっていると考える。この様な理由から、本発明において誤差関数としてRMSEおよびMSEより、MAPEを用いることが妥当と考えた。
【0043】
[機械学習による疲労限の推定]
S25CおよびS55Cの回転曲げ疲労試験データ(総数218)を用いて、学習要素としてビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断絞りの4つの決定木モデルを作成し、学習要素毎に10
7回疲労限を推定し、実験値の10
7回疲労限との対応関係を求めた。表1には、S25CとS55Cについての回転曲げ試験の機械学習による疲労限解析結果を示している。表1に示す解析結果からは、ビッカース硬さおよび引張強度ではMAPEが2%以下となり、高い推定精度となっている。これらの結果はデータシート資料No.5(
図11A、
図11B)での硬さおよび引張強度と疲労限の良い相関関係が機械学習によっても確認されたと言えるが、推定精度は格段に上昇している。
【表1】
【0044】
試験法の影響
【表2】
前節で実施したS25CとS55Cの回転曲げ試験データにねじり試験データを加えた(総数279)。学習要素として試験法の項目を追加した。解析結果を表2と
図5A、
図5Bに示す。以下の
図5A、
図5B、
図6A、
図6B、
図7、
図8、
図9では、訓練データ(Training data)を『+』、試験データ(Test data)を『▲』で示している。
図5Aに示すビッカース硬さのみによる疲労限の推定は、MAPEが12%程度であった。一方、
図5Bに示すビッカース硬さと試験法の決定木モデルを連携した回帰モデルから推定した疲労限のMAPEは2.23%と飛躍的に推定精度が向上した。この結果は、複数の学習要素を関連づけられる機械学習による回帰モデルが、疲労限推定に有効であることを示す。なお、上述の回転曲げ試験データ又はねじり試験データに代えて、軸荷重試験データを用いてもよい。
【0045】
応力比の影響
前節で実施したS25CとS55Cの回転曲げ、ねじり試験結果に軸荷重試験(R=0と-1)の試験データを応力比とし決定木モデルを追加した(総数306)。解析結果を表2と
図6A、
図6Bに示す。
図6Aに示す引張強度と試験法のみによる疲労限の推定のMAPEは3.02%であった。
図6Bに示す引張強度と試験法に加え応力比の決定木モデルを連携した3つの学習要素による回帰モデルから推定した疲労限のMAPEは2.35%と推定精度が向上した。
【0046】
各種鋼材データの影響
疲労データシートに含まれる鋼種として、S25CとS55Cの疲労試験結果に加え、S35C、SNCM439、SMn438、SMn443、SUS403、SUS304の回転曲げ疲労試験の疲労限データ(総数892)を加えた。解析結果を表2と
図7に示す。硬さと試験法の決定木モデルを連携した回帰モデルから推定した疲労限のMAPEは2.94%と高い推定精度が得られた。
【0047】
機械学習による10
6回以下の破断寿命の推定
S25CとS55Cの10
6回以下の破断データ(総数515)に限定して、ビッカース硬さ、引張強度、破断絞り、破断伸びの決定木モデルを作成し、すべての決定木の学習要素を関連づけて10
6回以下の破断寿命を推定した。解析結果を表3と
図8に示す。
【表3】
【0048】
ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断しぼりのすべての決定木モデルを連携した回帰モデルによる推定は訓練データの場合92.0%と高い推定精度であるが、ランダムに抽出した試験データの場合65.8%、MAPEは38.7%と推定精度は低下した。これは、訓練データではS25CとS55Cの破断データが区別されるため、破断寿命推定は元データに近い値となるためと考えられる。一方、試験データはランダムに抽出されるため、疲労強度の異なるS25CとS55Cの区別がされないため、推定データはバラついたと考えられる。S25C、S55Cのそれぞれの解析したデータがどれに相当するのかは不明である(データはランダムに抽出されているため)が、おそらく、図中の○で示したバンドになっていると考えている。
【0049】
次に、疲労データシートに含まれる各種鋼材(S25C、S35C、S55C、SNCM439、SMn438、SMn443、SUS403、SUS304)の10
6回以下の破断データ(総数24784)により、ビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断しぼりの各決定木モデルを連携して推定した。解析結果を表3と
図9に示す。
図8のS25CとS55Cの2鋼種の解析結果に比べ、
図9に示すMAPEは29.8%と僅かではあるが推定精度が向上した。この結果はデータ総数が
図8の5倍に増加したことにより、推定精度が向上したと考えられ、今後さらに実験データを増すことで推定精度の向上が期待できる。
【0050】
S45C鋼のS-N曲線の推定
各種鋼材(表3参照)の5×10
6回以下の破断データ(総数2834)によるビッカース硬さ、引張強度、破断伸び、破断しぼりの各決定木モデルを連携した機械学習により5×10
6回以下の破断寿命の関係を求め、上記の関係により、S45Cの機械的性質から各応力振幅における破断寿命を推定した。また、各種鋼材から機械学習により求めたビッカース硬さと2.12×10
7回疲労限の関係により、S45Cのビッカース硬さから2.12×10
7回疲労限を求めた。解析結果を
図10に示す。実験データを△、推定データを●で示す。まず、疲労限の推定を見ると、ビッカース硬さから推定した疲労限は表1で示す様に推定精度が99%、MAPE1.76であることから、極めてよく一致した。5×10
6回以下の破断寿命の推定もMAPEは29.8%であるにも関わらず、よく一致した。
この結果は、
図8および
図9の様にテストデータに強度が異なる鋼種が混じっていないため、予測精度にばらつきがなかったためと考えられる。このようにS-N曲線の機械学習による推定には、破断寿命と疲労限度を分けて推定することにより高精度で推定できる。この結果は、蓄積された疲労データシート記載の実験データを活用することにより、S-N曲線の推定が可能であることを示す。
【0051】
なお、上記の実施の形態においては、疲労データシートに含まれる各種鋼種として、炭素鋼鋼材、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、マンガン鋼鋼材、ステンレス鋼鋼材を含む場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アルミ合金、チタン合金、プラスチック材料と各種金属の複合材料や、各種セラミックス材料と各種金属の複合材料を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の破断寿命の推定方法及び装置によれば、疲労の指標特性を参照すれば「該当する材料の疲労特性がほぼ分かる」ような、機械学習によるS-N曲線(応力振幅-破断寿命の関係)の推定によって、実験値の107回疲労限との対応関係が精度良く得られる。そこで、該当する金属材料や各種複合材料を使用している各種機械や構造物の長期の信頼性を評価できると共に、安全率の設計に対しても利用でき、各種機械や構造物の設計や信頼性評価に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
300 コンピュータプログラム製品
302 プログラム担持媒体
304 プログラム命令格納部
306 コンピュータ読取可能媒体
308 記録可能媒体
309 通信媒体
310 指定読込み機能部
320 疲労データシート読込み機能部
325 教師付き機械学習を行う前処理部
330 機械学習演算部
335 機械学習評価部
340 アシスト機能部