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  • 特開-蓄電池の劣化診断システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116291
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】蓄電池の劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20230815BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20230815BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20230815BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20230815BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230815BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
H01M10/42 P
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019019
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】大島 正稔
(72)【発明者】
【氏名】渡部 孝
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB04
2G216AB05
2G216BA23
2G216BA56
2G216CB34
2G216CB55
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503EA09
5H030AA09
5H030AS08
5H030BB03
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】 劣化を診断するのに好ましい周波数を探す必要のない蓄電池の劣化診断システムを提供する。
【解決手段】 蓄電池1に交流電流を供給する電流供給部2と、供給した電流により蓄電池1に発生する電圧を計測する電圧計測部3と、供給する交流電流と計測した電圧とから蓄電池の劣化を判定する劣化判定部4とを有し、電流供給部2は複数の周波数の交流電流を蓄電池1に供給すると共に、劣化判定部4は、インピーダンスを算出するインピーダンス算出部41と、電流供給部2が供給する電流の周波数毎の劣化したと判定するインピーダンスの閾値を記憶する記憶部42とを有し、劣化判定部CPU43は算出したインピーダンスが閾値の少なくとも1つの値を超えたら劣化したと判定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池に交流電流を供給する電流供給部と、供給した電流により前記蓄電池に発生する電圧を計測する電圧計測部と、供給する前記交流電流と計測した電圧とから前記蓄電池の劣化を判定する劣化判定部とを有する蓄電池の劣化診断システムであって、
前記電流供給部は周波数の異なる交流電流を個別に前記蓄電池に供給すると共に、
前記劣化判定部は、インピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、
劣化判定するインピーダンスの前記周波数毎の閾値を記憶する記憶部と、
算出したインピーダンスの少なくとも1つが前記閾値を超えたら劣化したと判定する判定部とを有することを特徴とする蓄電池の劣化診断システム。
【請求項2】
前記記憶部は、閾値を実数抵抗値と虚数抵抗値とに分けて記憶していると共に、
前記インピーダンス算出部は、前記蓄電池のインピーダンスを算出する際に、実数抵抗値と虚数抵抗値とを算出し、
前記判定部は、算出した実数抵抗値と虚数抵抗値に関わらず、少なくとも一方が前記閾値を超えたら、劣化したと判定することを特徴とする請求項1記載の蓄電池の劣化診断システム。
【請求項3】
前記判定部は、算出したインピーダンスの少なくとも2つが前記閾値を超えたら、劣化したと判定することを特徴とする請求項1又は2記載の蓄電池の劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常用電源や余剰電力の蓄電に使用される蓄電池の劣化状態を診断する劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
停電時の非常用電源、太陽光発電電力の蓄電等に蓄電池が使用されている。このような目的で使用される蓄電池は、劣化すると蓄電可能な電力が減少し、その機能を十分発揮できなくなるため、ある程度劣化が進んだら交換する必要がある。
そのため、この劣化度を診断する技術として、蓄電池に交流電流を供給してインピーダンスを計測し、計測したインピーダンス値から劣化状態を診断する方式がある。
例えば、特許文献1では、交流電流を蓄電池に供給する際に、周波数を変更して各周波数毎のインピーダンスを計測し、周波数特性曲線に基づいて虚数部が0となるインピーダンスを求め、このときのインピーダンスに基づいて蓄電池の劣化状態を判断した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-333494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の劣化判定方式は、インピーダンスの虚数部が0となる周波数を選択しなければならないため、周波数を探すのに時間を要し、劣化度の診断は簡単ではなかった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、周波数を探すことなく劣化を診断できる蓄電池の劣化診断システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、蓄電池に交流電流を供給する電流供給部と、供給した電流により蓄電池に発生する電圧を計測する電圧計測部と、供給する交流電流と計測した電圧とから蓄電池の劣化を判定する劣化判定部とを有する蓄電池の劣化診断システムであって、電流供給部は周波数の異なる交流電流を個別に供給すると共に、
劣化判定部は、インピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、劣化判定するインピーダンスの周波数毎の閾値を記憶する記憶部と、算出したインピーダンスが閾値の少なくとも1つの値を超えたら劣化したと判定する判定部とを有することを特徴とする。
この構成によれば、周波数の異なる交流電流を個別に供給して蓄電池内部のインピーダンスをそれぞれ算出し、求めた複数の周波数のインピーダンスで劣化を判定する。よって、インピーダンスを算出するための周波数を探すこと無く蓄電池特有の変化を検出することができ、劣化診断を実施できる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、記憶部は、閾値を実数抵抗値と虚数抵抗値とに分けて記憶していると共に、インピーダンス算出部は、蓄電池のインピーダンスを算出する際に、実数抵抗値と虚数抵抗値とを算出し、判定部は、算出した実数抵抗値と虚数抵抗値に関わらず、少なくとも一方が閾値を超えたら、劣化したと判定することを特徴とする。
この構成によれば、インピーダンスの実数抵抗値と虚数抵抗値とを独立に判定するため、蓄電池の種類や温度の違い等の条件が違っても精度の高い判定が可能となる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、判定部は、算出したインピーダンスの少なくとも2つが閾値を超えたら、劣化したと判定することを特徴とする。
この構成によれば、ノイズの影響を受け難くでき、より確実な判定を実施できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、周波数の異なる交流電流を供給して蓄電池内部のインピーダンスを算出し、求めた複数の周波数のインピーダンスで劣化を判定する。よって、インピーダンスを算出するための周波数を探すこと無く蓄電池特有の変化を検出することができ、劣化診断を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る蓄電池の劣化診断システムの一例を示す構成図である。
図2】閾値の表図である。
図3】蓄電池のSOHと充放電サイクルの関係の一例を示すグラフである。
図4】蓄電池のインピーダンスと周波数の関係の一例を示す特性図であり、インピーダンスを線形目盛で表示したグラフである。
図5】蓄電池のインピーダンスと周波数の関係の一例を示す特性図であり、インピーダンスを対数目盛で表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る蓄電池の劣化診断システム10の一例を示す構成図であり、蓄電池1に交流電流を供給する電流供給部2、蓄電池1に発生した電圧を計測する電圧計測部3、劣化を判定する劣化判定部4等を備えている。
劣化判定部4は、蓄電池1の内部のインピーダンスを算出するインピーダンス算出部41、劣化を判断するための閾値を記憶する記憶部42、劣化判定部4を制御する劣化判定部CPU43等を備えている。劣化判定部CPU43は、電流供給部2を制御して、例えば100ミリアンペアで複数種類の異なる周波数の交流電流を蓄電池1に供給させる。
【0012】
尚、矢印I1は蓄電池1が負荷(図示せず)に供給する放電電流、矢印I2は電源(図示せず)から供給され蓄電池1を充電する電流、矢印i1は電流供給部2が蓄電池1に供給する交流電流、5は負荷及び電源から蓄電池1を開放する開閉器を示している。交流電流i1を蓄電池1に供給する際に放電電流I1或いは充電電流I2の影響を受ける場合は、開閉器5を開状態とし蓄電池1は電源及び負荷から開放される。
【0013】
上記の如く構成された蓄電池の劣化診断システム10動作は以下のようである。
ここでは、電流供給部2から、1Hz、10Hz、20Hzの3つの周波数の交流電流が蓄電池1に個別に供給される場合を説明する。劣化の判定は、SOH(State of Health)により行い、SOHが一定数値まで低下したら劣化したと判定する。ここでは、後述する理由からSOHが74%まで低下したら劣化したと判定する場合を説明する。
図2は記憶部42が記憶する診断対象の蓄電池1の閾値を示し、算出したインピーダンスがこの数値を超えたらSOHが74%まで低下したと判断する。尚、使用する閾値はSOH74%の数値であるが、参考のため100%、90%のインピーダンスデータも示している。
【0014】
判定部である劣化判定部CPU43は、インピーダンス算出部41が算出した3つの周波数の実数抵抗値と虚数抵抗値(全6個の数値)を、記憶している6個の数値と対比して、少なくとも1つが閾値を超えたら劣化発生と判定する。
例えば、周波数1Hzの実数抵抗値が他の閾値より先に閾値5.69mΩを超えたら劣化したと判断する。
尚、劣化判定部4が劣化したと判定したら、図示しない報知手段が報知動作して、蓄電池1の交換を促す知動が成される。
【0015】
図3はSOHと充放電サイクル数の関係の一例を示している。図3に示すように、SOHは充放電を繰り返すほど小さくなり、ここでは充放電を400回繰り返すとSOHが90%となり、1000回繰り返すと74%まで低下することを示している。
【0016】
また、図4,5は、100ミリアンペアの交流電流を供給して計測したインピーダンスの周波数特性の一例を示し、図4は周波数を対数目盛、インピーダンスを線形目盛で表示したグラフ、図5は周波数及びインピーダンスの双方を対数目盛で表示したグラフである。
図4,5において、R1~R6は実数抵抗値、X1~X6は虚数抵抗値を示し、
R1,X1はSOH100%
R3,X3はSOH90%
R4,X4はSOH74%
のデータをそれぞれ示している。
図4,5に示すように、充放電の回数が増加するとインピーダンスが上昇する。そして、インピーダンスの実数成分は1Hz前後の低周波で変化が大きく、虚数成分は10Hz前後で変化が大きいため、インピーダンスを計測するために供給する電流の周波数を変更することで、実数成分及び虚数成分の双方の変化特性を抽出し易く、劣化の程度を精度良く判定することが可能となる。
【0017】
このように、周波数の異なる交流電流を供給して蓄電池1内部のインピーダンスを算出し、求めた複数の周波数のインピーダンスで劣化を判定する。よって、インピーダンスを算出するための周波数を探すこと無く蓄電池1特有の変化を検出することができ、劣化診断を実施できる。
また、インピーダンスの実数抵抗値と虚数抵抗値とを独立に判定するため、蓄電池1の種類や温度の違い等の条件が違っても精度の高い判定が可能となる。
【0018】
尚、上記実施形態では、算出したインピーダンスの1つが閾値を超えたら劣化したと判定しているが、1つの値が超えただけでは劣化したと判定せず、2つ以上の計算値が閾値を超えたら初めて劣化したと判定しても良い。この判定の場合、ノイズの影響を受け難くでき、より確実な判定を実施できる。
また、1Hz、10Hz、20Hzの3種類の周波数でインピーダンスを計測したが、計測する周波数をこの数値に限定するものではない。周波数の数も3種類ではなく2種類でも良いし、4種類以上であっても良い。
更に、供給する電流値も、100ミリアンペアとしているが、計測するインピーダンスが小さい場合は電流値を大きくすると良い。
また、インピーダンスの実数抵抗値と虚数抵抗値とを独立に閾値と比較して判定しているが、実数と虚数に分けずに1つのインピーダンス値で判定しても良く、周波数の異なる複数のインピーダンス値で判定することで、劣化の判定は可能である。
また、劣化診断は開閉器5を閉状態にして実施しているが、蓄電離1の放電電流I1又は充電電流I2により、診断値のばらつき、変動等の影響を与える場合は、開閉器5は開状態であっても良い。
【符号の説明】
【0019】
1・・蓄電池、2・・電流供給部、3・・電圧計測部、4・・劣化判定部、10・・蓄電池劣化診断システム、41・・インピーダンス算出部、42・・記憶部、43・・劣化判定部CPU(判定部)。
図1
図2
図3
図4
図5