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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116297
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】デュアルイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/05 20100101AFI20230815BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230815BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20230815BHJP
【FI】
H01M10/05
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/583
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019029
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 宜之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】稲本 純一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK07
5H029AL06
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM09
5H029HJ02
5H029HJ10
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA15
5H050CB07
5H050HA02
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】充放電容量に優れるデュアルイオン電池の提供
【解決手段】アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極と、カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極と、非水電解液と、を備え、前記正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含み、前記非水電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むデュアルイオン電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極と、
カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極と、
非水電解液と、を備え、
前記正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含み、前記非水電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むデュアルイオン電池。
【請求項2】
前記炭素材料は、下記一般式(1)で表される炭素材料である請求項1に記載のデュアルイオン電池。
・・・・(1)
(式(1)中、xは0.10~1.50、yは0~1.00である。)
【請求項3】
前記炭素材料に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率は、0.010~0.200である請求項1又は請求項2に記載のデュアルイオン電池。
【請求項4】
前記負極活物質は、炭素材料を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のデュアルイオン電池。
【請求項5】
前記非水電解液におけるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度は、1mol/L~5mol/Lである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のデュアルイオン電池。
【請求項6】
前記非水電解液は、エチレングリコールエーテルを含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のデュアルイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デュアルイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種モビリティ、スマートグリッド等向けに高性能な二次電池が必要とされている。中でも小型電気自動車のようなパーソナルモビリティ、電力周波数平準化等に用いられる二次電池にはさらなる入出力特性の改善が求められている。
【0003】
入出力特性に優れる二次電池としてデュアルイオン電池(DIB)が注目されている。デュアルイオン電池は、正極に電解質中のアニオンが挿入脱離し、負極に電解質中のカチオンが挿入脱離することで充放電が進行する二次電池である。DIBの中でも特に正極及び負極に炭素材料が用いられる電池をデュアルカーボン電池(DCB)という。
【0004】
例えば、非特許文献1には、正極活物質として、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水溶媒及びLiPFを含む非水電解液を有することを特徴とする非水系蓄電素子が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Inamoto, K. Sekito, N. Kobayashi, Y. Matsuo, J. Electrochem. Soc. 168 (2021) 010528.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1で開示されている非水系蓄電素子では、充放電容量が不充分であり、充放電容量のさらなる向上が求められる。
【0007】
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、充放電容量に優れるデュアルイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極と、
カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極と、
非水電解液と、を備え、
前記正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含み、前記非水電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むデュアルイオン電池。
<2> 前記炭素材料は、下記一般式(1)で表される炭素材料である<1>に記載のデュアルイオン電池。
・・・・(1)
(式(1)中、xは0.10~1.50、yは0~1.00である。)
<3> 前記炭素材料に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率は、0.010~0.200である<1>又は<2>に記載のデュアルイオン電池。
<4> 前記負極活物質は、炭素材料を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のデュアルイオン電池。
<5> 前記非水電解液におけるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度は、1mol/L~5mol/Lである<1>~<4>のいずれか1つに記載のデュアルイオン電池。
<6> 前記非水電解液は、エチレングリコールエーテルを含む<1>~<5>のいずれか1つに記載のデュアルイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、充放電容量に優れるデュアルイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び2並びに比較例1及び2における充放電試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例3における充放電試験の結果を示すグラフである。
図3】比較例3における充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、本開示中の技術的思想の範囲内において、当業者による様々な変更及び修正が可能である。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、正極合剤又は負極合剤の「固形分」とは、正極合剤のスラリー又は負極合剤のスラリーから有機溶媒等の揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。
本開示において、「アニオンを挿入脱離可能な正極活物質」とは正極活物質の結晶子中にアニオンが可逆的に挿入及び脱離することが可能な正極活物質を意味する。
本開示において、「カチオンを挿入脱離可能な負極活物質」とは負極活物質の結晶子中にカチオンが可逆的に挿入及び脱離することが可能な負極活物質を意味する。
【0012】
<デュアルイオン電池>
本開示のデュアルイオン電池は、アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極と、カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極と、非水電解液と、を備え、前記正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含み、前記非水電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む。
【0013】
一般的にデュアルイオン電池の正極活物質には黒鉛系炭素材料が利用されている。一方、本発明者らは酸化黒鉛を熱処理することによって得られる、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料(以下、「特定の炭素材料」とも称する。)を正極活物質に用いることを見出した(非特許文献1)。さらに、特定の炭素材料を用いて正極を作製することで、黒鉛系炭素材料よりも低電位でヘキサフルオロリン酸イオン(PF イオン)を挿入でき、その挿入量も大きいことを見出した。
【0014】
非特許文献1に記載の特定の炭素材料では、酸化黒鉛の合成方法、熱処理温度等を変更することで、ナノ孔量、酸素量等を調整することが可能であるが、特定の炭素材料の組成、物性等によってPF イオンの貯蔵量が極端に低下する場合があることが分かった。
【0015】
一方、本開示のデュアルイオン電池では、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む非水電解液を用いることで、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含まず、かつヘキサフルオロリン酸リチウムを含む非水電解液を用いた場合と比較して、イオンの貯蔵量の増加を図ることができ、充放電容量に優れる。
【0016】
本開示のデュアルイオン電池が充放電容量に優れる理由は以下のように推測される。
特定の炭素材料はグラフェンが規則積層した構造を有するため、充電時にグラフェン層の間にイオンが収まることで安定化され、グラフェン層の間に挟まっていたイオンが放電時に放出される。しかし、規則積層されたグラフェンの表面にはナノ孔が導入されていることが原因で、グラフェン層が規則配列されていない領域が発生しており、充電時にグラフェン層の間にイオンが収まらず、イオンが不安定になりやすい。特に、PF イオンのような球対称性の高いイオンが正極活物質に挿入される場合、充電時にグラフェン層の間にPF イオンが収まらずに不安定化する場合があり、その結果、充放電容量が低くなりやすい。
一方、本開示のデュアルイオン電池では、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む非水電解液を用いることで、充電時にビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(FSIイオン)が正極活物質である特定の炭素材料に挿入される。このとき、規則積層されたグラフェンの表面にナノ孔が導入され、グラフェン層が規則配列されていない領域が発生し、FSIイオンがグラフェン層の間に収まらない場合であっても、FSIイオンがナノ孔の端部と結合等の相互作用をすることで安定化が可能となる。その結果、本開示のデュアルイオン電池は充放電容量に優れる、と推測される。
上記の推測は、本開示のデュアルイオン電池を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0017】
さらに、本開示のデュアルイオン電池では、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む非水電解液を用いることで、サイクル安定性が向上する傾向にある。
【0018】
本開示のデュアルイオン電池にて用いる正極、負極及び非水電解液の好ましい構成について以下に説明する。
【0019】
(正極)
本開示のデュアルイオン電池は、アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極を備える。正極に含まれる正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料(特定の炭素材料)を含む。例えば、正極は、正極集電体及びその表面に配置され、かつ正極活物質を含む正極合剤層を有する構成であってもよい。
【0020】
正極活物質は、特定の炭素材料を含むものであれば特に限定されない。正極活物質は特定の炭素材料のみからなるものであってもよく、特定の炭素材料とその他の正極活物質との組み合わせであってもよい。
特定の炭素材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
特定の炭素材料は、下記一般式(1)で表される炭素材料であることが好ましい。
・・・・(1)
式(1)中、xは0.10~1.50、yは0~1.00である。
【0022】
xは、0.20~0.80であってもよく、xは、0.25~0.60であってもよい。
yは、0又は0.30~0.80であってもよく、0又は0.50~0.70であってもよい。
【0023】
例えば、一般式(1)においてyが0.30以上であることにより、充放電容量に優れる傾向にある。特に、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む非水電解液と、yが0.30以上である一般式(1)で表される炭素材料とを組み合わせることで、充放電特性が向上する傾向にある。
【0024】
特定の炭素材料に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率(酸素原子/炭素材料)は、電気伝導性及び還元安定性の観点から、0.010~0.200であってもよく、0.020~0.150であってもよく、0.030~0.080であってもよい。
【0025】
特定の炭素材料を表す化学式、及び特定の炭素材料に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率については、従来公知の元素分析の手法によって求めることができる。例えば、燃焼法、二次イオン質量分析法(SIMS)、エネルギー分散型X線分析(EDX)等の手法によって求めることができる。
【0026】
特定の炭素材料では、X線回折法により求めた平均面間隔d002は、アニオンの貯蔵電位を低下させる観点から、0.330nm~0.440nmであってもよく、0.334nm~0.380nmであってもよい。
平均面間隔d002の値は、0.3354nmが黒鉛結晶の理論値であり、この値を超えるとエネルギー密度が大きくなる傾向にある。
【0027】
特定の炭素材料の平均面間隔d002は、X線(CuKα線)を特定の炭素材料に照射し、回折線をゴニオメーターにより測定し得た回折プロファイルより、回折角2θ=24°~27°付近に現れる炭素002面に対応した回折ピークより、ブラッグの式を用いて算出することができる。
【0028】
X線(CuKα線)を特定の炭素材料に照射した際の炭素002面に対応した回折ピークの半値全幅(FWMH)は、0.30~2.50であってもよく、0.50~1.60であってもよい。
【0029】
特定の炭素材料の平均粒子径は、不可逆容量の低減及び急速充放電性の向上の観点から、1μm~50μmであってもよく、5μm~20μmであってもよい。
粒子の平均粒子径(d50)は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(例えば、SALD-3000、株式会社島津製作所)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、d50(メジアン径)として求められる体積平均粒子径である。
【0030】
特定の炭素材料の比表面積は、不可逆容量の低減及び急速充放電性の向上の観点から、1m/g~100m/gであってもよく、5m/g~50m/gであってもよい。
比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。窒素吸着を多点法で測定し、BET法により比表面積を算出する。
【0031】
特定の炭素材料の製造方法は、特に限定されず、例えば、前述の非特許文献1(J. Inamoto, K. Sekito, N. Kobayashi, Y. Matsuo, J. Electrochem. Soc. 168 (2021) 010528.)に基づいて特定の炭素材料を製造することができる。
【0032】
例えば、グラファイト、グラフェン等の炭素材料を準備し、炭素材料と濃硫酸、発煙硝酸等の強酸と混合し、混合物に塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等の酸化剤を添加する。酸化剤の作用により炭素材料を酸化させて酸化炭素材料を得る。酸化炭素材料を高温処理する、例えば、真空下において300℃~1100℃で熱処理することで特定の炭素材料が得られる。
【0033】
特定の炭素材料における、特定の炭素材料に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率、水素原子等の導入については、特定の炭素材料の製造条件を適宜変更することで調整可能である。例えば、酸化炭素材料の高温熱処理を水素ガス雰囲気下で行うことで、特定の炭素材料に水素原子を導入することができる。
【0034】
特定の炭素材料の含有率は、正極活物質全量に対して、50質量%~100質量%であってもよく、80質量%~100質量%であってもよい。
【0035】
正極活物質は、特定の炭素材料とその他の正極活物質との組み合わせであってもよい。その他の正極活物質としては、特に限定されず、グラファイト、カーボンナノチューブ、特定の炭素材料以外のグラフェン、ナノカーボン、酸化グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。
その他の正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
正極は、正極集電体、及び、その表面に配置され、かつ正極活物質を含む正極合剤層を有する構成であってもよい。
【0037】
正極合剤層が正極活物質を含む場合、正極活物質の含有率は、電池の高容量化の観点から、正極合剤層全量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
次に、正極合剤層及び正極集電体について詳細に説明する。正極合剤層は、正極活物質、結着剤等を含有し、正極集電体上に配置される。正極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を乾式で混合してシート状にし、これを正極集電体に圧着する(乾式法)ことで正極合剤層を形成することができる。あるいは、正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて正極合剤のスラリーとし、これを正極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで正極合剤層を形成することができる。
【0039】
正極用の導電剤としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などが挙げられる。なお、正極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
正極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、0.01質量%~10質量%であってもよく、0.1質量%~5質量%であってもよく、1質量%~3質量%であってもよい。導電剤の含有率が0.01質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が10質量%以下であれば、電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0041】
正極用の結着剤としては、特に限定されず、湿式法により正極合剤層を形成する場合には、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、セルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子、ポリアクリロニトリル骨格にアクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した共重合体;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、正極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
正極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましく、1質量%~3質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、正極活物質を充分に結着でき、充分な正極合剤層の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が向上する傾向にある。結着剤の含有率が10質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0043】
湿式法又は乾式法を用いて正極集電体上に形成された正極合剤層は、正極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス又はローラープレスにより圧密化することが好ましい。
【0044】
正極集電体の材質としては特に制限はなく、中でも金属材料が好ましく、アルミニウム、モリブデン、窒化チタンをコートしたステンレス鋼がより好ましい。正極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。金属材料については、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられ、中でも、金属薄膜を用いることが好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0045】
(負極)
本開示のデュアルイオン電池は、カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極を備える。例えば、負極は、負極集電体及びその表面に配置され、かつ負極活物質を含む負極合剤層を有する構成であってもよい。
【0046】
負極活物質は、特に限定されず、炭素材料を含むことが好ましい。負極活物質に含まれる炭素材料としては、例えば、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、ナノカーボン、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。グラフェンは、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料(前述の特定の炭素材料)であってもよく、前述の特定の炭素材料以外のグラフェンであってもよい。
負極活物質は、特定の炭素材料を含むことがより好ましい。
負極活物質は、炭素材料のみからなるものであってもよく、炭素材料と炭素材料以外の負極活物質との組み合わせであってもよい。
負極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
負極活物質として用い得る炭素材料としては、正極活物質の項目にて説明した炭素材料と同様である。負極活物質において、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料の好ましい構成としては、前述の正極の項にて説明した特定の炭素材料の好ましい構成と同様である。
【0048】
負極合剤層が負極活物質を含む場合、負極活物質の含有率は、電池の高容量化の観点から、負極合剤層全量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
次に、負極合剤層及び負極集電体について詳細に説明する。負極合剤層は、負極活物質、結着剤等を含有し、負極集電体上に配置される。負極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。負極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて負極合剤のスラリーとし、これを負極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで負極合剤層を形成することができる。
【0050】
負極用の導電剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素などを用いることができる。負極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このように、負極合剤に導電剤を添加することにより、電極の抵抗を低減する等の効果が得られる傾向にある。
【0051】
負極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、導電性の向上及び初期不可逆容量の低減の観点から、1質量%~10質量%であることが好ましく、2質量%~7質量%であることがより好ましく、3質量%~5質量%であることがさらに好ましい。導電剤の含有率が1質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が10質量%以下であると電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0052】
負極用の結着剤としては、非水電解液又は電極の形成の際に用いる分散溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、負極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、0.6質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、負極活物質を充分に結着でき、充分な負極合剤層の機械的強度が得られる傾向にある。結着剤の含有率が20質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0054】
なお、結着剤として、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として用いる場合の負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、1質量%~15質量%であることが好ましく、2質量%~10質量%であることがより好ましく、3質量%~8質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
増粘剤は、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
負極合剤層の質量に対する増粘剤の含有率は、入出力特性及び電池容量の観点から、0.1質量%~5質量%であることが好ましく、0.5質量%~3質量%であることがより好ましく、0.6質量%~2質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、負極活物質、結着剤、及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒又は有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。有機系溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤を用いることが好ましい。
【0058】
負極集電体の材質としては特に制限はなく、具体例としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。中でも、加工のし易さとコストの観点から銅が好ましい。
【0059】
負極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。具体例としては、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられる。中でも、金属箔が好ましく、銅箔がより好ましい。銅箔には、圧延法により形成された圧延銅箔と、電解法により形成された電解銅箔とがあり、どちらも負極集電体として好適である。
【0060】
(非水電解液)
本開示のデュアルイオン電池は、非水電解液を備え、非水電解液はLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)を含む。
非水電解液はリチウム塩としてLiFSIを含む。非水電解液では、リチウム塩1種を単独で用いてもよく、リチウム塩2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
リチウム塩2種以上を組み合わせて用いる場合、非水電解液はLiFSIと、LiFSI以外のその他のリチウム塩を含んでいてもよい。
【0062】
その他のリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCFCF等が挙げられる。その他のリチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
非水電解液は、LiFSIを含む構成に限定されず、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を含んでいてもよい。非水電解液が、LiTFSIを含む場合、LiTFSI以外のリチウム塩を含んでいてもよい。
【0064】
LiFSIの含有率は、リチウム塩全量に対して、50質量%~100質量%であってもよく、70質量%~100質量%であってもよく、90質量%~100質量%であってもよい。
【0065】
非水電解液におけるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度(「非水電解液におけるリチウム塩の濃度」と読み替えてもよい)は、1mol/L~5mol/Lであることが好ましく、2mol/L~4mol/Lであることがより好ましく、2.5mol/L~3.5mol/Lであることがさらに好ましい。
【0066】
非水電解液は、非水溶媒を含んでいてもよい。非水溶媒としては、特に限定されず、リチウム塩の溶解性の観点から、鎖状カーボネートが好ましい。
【0067】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピオネート等が挙げられる。中でも、耐酸化性及び耐還元性の観点から、エチルメチルカーボネートが好ましい。
鎖状カーボネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
非水電解液は、環状カーボネートを含んでいてもよい。環状カーボネートとしては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)が挙げられる。
環状カーボネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
環状カーボネートの含有率は、非水電解液全量に対して、0質量%~90質量%であってもよく、0質量%~20質量%であってもよい。
【0070】
非水電解液は、エチレングリコールエーテルを含んでいてもよい。これにより、正極表面に非水電解液が吸着する際に非水電解液の分解を抑制できる傾向にある。エチレングリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。中でも、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
エチレングリコールエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
エチレングリコールエーテルの含有率は、非水電解液全量に対して、0.5質量%~15質量%であってもよく、1質量%~5質量%であってもよい。
【0072】
(セパレータ)
本開示のデュアルイオン電池は、正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、正極及び負極間を絶縁しつつ、イオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物等が用いられる。
樹脂としては、オレフィン系高分子、フッ素系高分子、セルロース系高分子、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布などを用いることが好ましい。
無機物としては、アルミナ、二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物類、ガラスなどが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布としたもの、織布としたもの又は微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。薄膜形状の基材としては、孔径が0.01μm~1μmであり、平均厚さが5μm~50μmのものが好適に用いられる。また、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、樹脂等の結着剤を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることもできる。また、この複合多孔層を他のセパレータの表面に形成し、多層セパレータとしてもよい。さらに、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。
【0073】
(デュアルイオン電池の製造方法)
本開示のデュアルイオン電池の製造方法は、アニオンを挿入脱離可能な正極活物質を含む正極と、カチオンを挿入脱離可能な負極活物質を含む負極と、非水電解液と、を電池容器に収容する工程(収容工程)を有する。このとき、正極活物質は、酸素及びナノ孔が導入されたグラフェンが規則積層した構造を有する炭素材料を含み、非水電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む。
【0074】
収容工程では、デュアルイオン電池の各構成部材が電池容器に収容される。正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータが配置されるように、セパレータを電池容器に収容してもよい。
【0075】
例えば、正極及び負極、並びに必要に応じて正極と負極との間にセパレータを電池容器内に配置した状態にて、電池容器内に前述の非水電解液を供給すればよい。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(炭素材料1の作製)
10gの黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製Z-5F、平均粒径5μm)を500mLのビーカーに入れ、さらに200mLの発煙硝酸を加えて混合物を60℃に加熱した。その後、混合物を撹拌しながら80gの塩素酸カリウムをゆっくりと加え、3時間保持した。その後、得られた反応溶液を2Lの水に移し、吸引ろ過し、純水でpHが5以上になるまで洗浄することで酸化黒鉛粉末を得た。得られた酸化黒鉛粉末を60℃で一晩乾燥した。この酸化黒鉛粉末をアルミナ容器に入れ、真空下、1℃/分で170℃まで昇温したのち、0.1℃/分で250℃まで昇温し、さらに1℃/分で700℃まで昇温して5時間保持することで炭素材料1を得た。
【0078】
(炭素材料2の作製)
5gの黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製Z-5F、平均粒径5μm)と200mLの濃硫酸とを混合し25℃で30分間撹拌した。その後、60分間超音波を混合物に照射し、これに0℃で2時間かけて60gの過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)を加えた。室温で4日撹拌後、反応溶液をすべて750mLの蒸留水中に投入し、さらに30%過酸化水素水25mLを少しずつ加えた後、1時間撹拌した。反応物を遠心分離し、水で洗浄することにより酸化黒鉛粉末を得た。得られた酸化黒鉛粉末を60℃で一晩乾燥した。この酸化黒鉛粉末をアルミナ容器に入れ、真空下、1℃/分で170℃まで昇温したのち、0.1℃/分で250℃まで昇温し、さらに1℃/分で700℃まで昇温して5時間保持することで炭素材料2を得た。
【0079】
得られた炭素材料1及び炭素材料2の組成及び物性を以下の表1に示す。表1中のO/C比は、「炭素材料1又は炭素材料2に含まれる炭素原子に対する酸素原子のモル比率」を意味し、d(002)は、「X線回折法により求めた平均面間隔d002」を意味し、FWMHは、「X線(CuKα線)を炭素材料1又は炭素材料2に照射した際の炭素002面に対応した回折ピークの半値全幅」を意味する。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例1]
(電池セル1の作製)
得られた炭素材料1を90質量部、アセチレンブラックを5質量部、ポリテトラフルオロエチレンを5質量部混合して混合物を得た。炭素材料1を含む混合物をアルミニウムメッシュ(株式会社ニラコ、100mesh)に圧着させて正極1(作用極)を作製した。
得られた作用極を、参照極及び対極として金属リチウムを用いた三極式セルに設置し、電解液である3mol/Lリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)-エチルメチルカーボネート5mLを三極式セルに注入して電池セル1を作製した。
【0082】
(充放電測定)
作製した電池セル1を用いて充放電測定を行った。充放電測定は2.0V~4.8V vs Li/Liの範囲で10mA/gの定電流法で行い、充電容量及び放電容量を測定し、さらに充放電効率を求めた。結果を図1及び表2に示す。
【0083】
[実施例2]
実施例1にて炭素材料1を炭素材料2に変更した以外は、実施例1と同様にして電池セル2を作製し、かつ電池セル2を用いた充放電測定を行った。結果を図1及び表2に示す。
【0084】
[比較例1]
実施例1にて電解液を3mol/Lヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)-エチルメチルカーボネートに変更した以外は、実施例1と同様にして電池セル3を作製し、かつ電池セル3を用いた充放電測定を行った。結果を図1及び表2に示す。
【0085】
[比較例2]
実施例2にて電解液を3mol/Lヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)-エチルメチルカーボネートに変更した以外は、実施例2と同様にして電池セル4を作製し、かつ電池セル4を用いた充放電測定を行った。結果を図1及び表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示すように、リチウム塩としてLiFSIを使用した実施例1及び2では、リチウム塩としてLiPFを使用した比較例1及び2よりも、充電容量及び放電容量に優れていた。実施例1及び2並びに比較例1及び2では、デュアルイオン電池にて用いる正極及び電解液の組み合わせた際の正極の性能を評価する充放電測定を行ったものであり、正極、負極及び電解液を用いてデュアルイオン電池とした際の充放電測定においても実施例1及び2並びに比較例1及び2と同様の結果が得られる、と推測される。
なお、比較例2にて充放電効率が100%を超えた理由としては、酸素が脱離、若しくは溶媒和したリチウムイオンが挿入して放電に寄与したことが推測される。
【0088】
以下、炭素材料1を含む正極、負極及び電解液を用いてデュアルイオン電池を作製し、作製したデュアルイオン電池の充放電特性を検討した。
【0089】
[実施例3]
(電池セル5の作製)
実施例1と同様にして正極1を作製した。
炭素材料1を90質量部、アセチレンブラックを5質量部、ポリフッ化ビニリデンを5質量部混合して混合物を得た。混合物をN-メチル-2-ピロリドンでスラリー化し、スラリー化した混合物を銅箔に塗布し、次いで乾燥させて負極1を作製した。
正極1及び負極1を二極式セルに設置し、電解液である3mol/Lリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)-エチルメチルカーボネート5mLを注入して電池セル5を作製した。
【0090】
(充放電測定)
作製した電池セル5を用いて充放電測定を行った。充放電測定は1.0V~4.2Vの範囲で6mA/gの定電流法で行った。1サイクル充放電を行うことにより電池セル5を活性化させた後で充放電測定を行い、充電容量及び放電容量を測定し、さらに充放電効率を求めた。結果を図2及び表3に示す。
【0091】
[比較例3]
実施例3にて電解液を3mol/Lヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)-エチルメチルカーボネートに変更した以外は、実施例3と同様にして電池セル6を作製し、かつ電池セル6を用いた充放電測定を行った。結果を図3及び表3に示す
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示すように、リチウム塩としてLiFSIを使用した実施例3では、リチウム塩としてLiPFを使用した比較例3よりも、充電容量及び放電容量に優れており、実施例1及び2並びに比較例1及び2と同様の傾向が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示のデュアルイオン電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、ゲーム機器、時計等が挙げられる。本開示のデュアルイオン電池は、例えば、電力貯蔵用、電気自動車、ハイブリット自動車等の輸送機器用などの用途にも応用可能である。
図1
図2
図3