(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116301
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】水性ОPニス及び水性フレキソインキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/102 20140101AFI20230815BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C09D11/102
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019035
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】白杉 繭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良城
【テーマコード(参考)】
4J026
4J039
【Fターム(参考)】
4J026HA11
4J026HA20
4J026HA22
4J026HA29
4J026HA32
4J026HA35
4J026HA39
4J026HA48
4J026HB11
4J026HB20
4J026HB22
4J026HB45
4J026HB48
4J026HB50
4J026HE01
4J026HE02
4J039AB12
4J039AD01
4J039AD09
4J039AE11
4J039BE01
4J039BE22
4J039EA36
4J039EA48
(57)【要約】
【課題】密着性、耐湿摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れているとともに、加熱収縮時の白化が抑制された塗膜を様々な被印刷基材に形成しうるシュリンクラベル用の水性オーバープリント(ОP)ニスを提供する。
【解決手段】バインダー樹脂、水、及び水溶性有機溶剤を含有し、バインダー樹脂が、下記要件(1)等を満たすシュリンクラベル用の水性ОPニスである。
[要件(1)]:メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、(i)A鎖及びB鎖を有するA-Bジブロックコポリマー、又は(ii)A鎖及びB鎖を有するとともに、下記一般式(1)で表される基をA鎖中に含むB-A-Bトリブロックコポリマーである。
【0110】
(Rは、炭素数2~18のアルキレン基等を示し、X及びYは、O又はNHを示し、「*」はA鎖中の結合位置を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、水、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記バインダー樹脂が、下記要件(1)~(5)を満たすシュリンクラベル用の水性ОPニス。
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、(i)A鎖及びB鎖を有するA-Bジブロックコポリマー、又は(ii)A鎖及びB鎖を有するとともに、下記一般式(1)で表される基を前記A鎖中に含むB-A-Bトリブロックコポリマーである。
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はA鎖中の結合位置を示す)
[要件(2)]:
前記A鎖が、酸価が20mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度が30℃以下であり、数平均分子量が15,000~35,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である。
[要件(3)]:
前記B鎖が、メタクリル酸に由来する構成単位を含み、酸価が50~200mgKOH/gであり、数平均分子量が1,000~15,000である。
[要件(4)]:
ガラス転移温度が40℃以下であり、数平均分子量が20,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
[要件(5)]:
少なくとも一部のカルボキシ基が、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及びアミノメチルプロパノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ物質で中和されて自己乳化し、その数平均粒子径が50~500nmのエマルジョン粒子を形成している。
【請求項2】
前記A鎖が、酸性基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含まず、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなるモノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、及びベヘニルメタクリレートからなるモノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含み、
前記B鎖が、メタクリル酸に由来する構成単位と、前記モノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、前記モノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含む請求項1に記載の水性OPニス。
【請求項3】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン、シリコーン、及びこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基を有するポリマーの前記カルボキシ基がアルカリ物質で中和され、自己乳化して形成されたエマルジョン粒子をワックス成分としてさらに含有する請求項1又は2に記載の水性OPニス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水性OPニス、顔料、及び前記顔料を分散させる顔料分散剤を含有するシュリンクラベル用の水性フレキソインキ。
【請求項5】
前記顔料の含有量が1~60質量%であり、
前記水の含有量が20~80質量%であり、
前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、
前記顔料分散剤の含有量が0.5~10質量%であり、
前記バインダー樹脂の含有量が10~30質量%である請求項4に記載の水性フレキソインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュリンクラベル用の水性ОPニス及び水性フレキソインキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料、化粧品、日用雑貨等をパッケージするための手段として、紙容器、スチール缶、アルミ缶、ガラス容器、及びプラスチック容器などの包装手段がそれぞれの特性を生かしながら利用されている。自社の商品と他社の類似品とを消費者が容易に区別できるように、このような包装手段には、色調や表示方法の他、形状等にも多くの工夫がなされている。
【0003】
多様な形状の各種物品を包装するための手段として、シュリンクラベルが広く利用されている(特許文献1)。シュリンクラベルは、所望とする画像等を印刷した筒状の熱収縮性プラスチックフィルムを容器等の表面に配置した後、熱収縮させて装着及び包装するものである。熱収縮性プラスチックフィルムとしては、収縮性ポリ塩化ビニル、収縮性ポリスチレン、収縮性ポリエチレンテレフタレート、及び収縮性ポリプロピレン等が使用されている。
【0004】
シュリンクラベルの印刷には、各種フィルムの特性に適した溶剤及びバインダー樹脂を含有するインキが用いられている。例えば、収縮性ポリ塩化ビニル、収縮性ポリスチレン、及び収縮性ポリエチレンフタレートに対しては、有機溶剤と、アクリル樹脂及びニトロセルロースを併用したバインダー樹脂とを含有するインキが提案されている(特許文献2)。また、収縮性ポリプロピレンに対しては、トルエンと、バインダー樹脂としての塩素化ポリプロピレンとを含有するインキが用いられている。
【0005】
近年、環境配慮型の製品の開発が要求されており、なかでも水性インキが注目を集めている。樹脂製のフィルム基材への印刷に用いるインキに対しても水性化が求められており、油性グラビアインキから水性フレキソインキへの移行が数多く検討されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-226468号公報
【特許文献2】特開2009-286974号公報
【特許文献3】特開2018-131548号公報
【特許文献4】特開2019-203051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水性インキは揮発性の有機溶剤を実質的に含有しないために環境への負担は少ないが、形成される塗膜の湿潤状態での耐摩擦性(耐湿摩擦性)に課題がある場合が多い。実用上では、シュリンクラベルが湿潤状態で輸送されると、インキ塗膜が剥がれやすくなるといった課題が発生することがある。
【0008】
また、シュリンクラベル用のオーバープリント(OP)ニスやインキに含有させるバインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が比較的高いと、シュリンクラベルの加熱収縮時に塗膜の透明性が損なわれ、白化しやすくなることがある。このような白化は、ガラス転移温度が比較的低いバインダー樹脂を用いることで抑制されることが多い。しかし、ガラス転移温度が比較的低いバインダー樹脂を用いると、塗膜の耐ブロッキング性が低下し、塗膜同士が粘着するといった課題が生じやすくなる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、密着性、耐湿摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れているとともに、加熱収縮時の白化が抑制された塗膜を様々な被印刷基材に形成しうるシュリンクラベル用の水性オーバープリント(ОP)ニスを提供することにある。
【0010】
また、本発明の課題とするところは、密着性、耐湿摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れた塗膜を様々な被印刷基材に形成しうるシュリンクラベル用の水性フレキソインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す水性OPニスが提供される。
[1]バインダー樹脂、水、及び水溶性有機溶剤を含有し、前記バインダー樹脂が、下記要件(1)~(5)を満たすシュリンクラベル用の水性ОPニス。
【0012】
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、(i)A鎖及びB鎖を有するA-Bジブロックコポリマー、又は(ii)A鎖及びB鎖を有するとともに、下記一般式(1)で表される基を前記A鎖中に含むB-A-Bトリブロックコポリマーである。
【0013】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はA鎖中の結合位置を示す)
【0014】
[要件(2)]:
前記A鎖が、酸価が20mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度が30℃以下であり、数平均分子量が15,000~35,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である。
[要件(3)]:
前記B鎖が、メタクリル酸に由来する構成単位を含み、酸価が50~200mgKOH/gであり、数平均分子量が1,000~15,000である。
[要件(4)]:
ガラス転移温度が40℃以下であり、数平均分子量が20,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
[要件(5)]:
少なくとも一部のカルボキシ基が、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及びアミノメチルプロパノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ物質で中和されて自己乳化し、その数平均粒子径が50~500nmのエマルジョン粒子を形成している。
【0015】
[2]前記A鎖が、酸性基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含まず、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなるモノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、及びベヘニルメタクリレートからなるモノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含み、前記B鎖が、メタクリル酸に由来する構成単位と、前記モノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、前記モノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含む前記[1]に記載の水性OPニス。
[3]ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン、シリコーン、及びこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基を有するポリマーの前記カルボキシ基がアルカリ物質で中和され、自己乳化して形成されたエマルジョン粒子をワックス成分としてさらに含有する前記[1]又は[2]に記載の水性OPニス。
【0016】
また、本発明によれば、以下に示す水性フレキソインキが提供される。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の水性OPニス、顔料、及び前記顔料を分散させる顔料分散剤を含有するシュリンクラベル用の水性フレキソインキ。
[5]前記顔料の含有量が1~60質量%であり、前記水の含有量が20~80質量%であり、前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり、前記顔料分散剤の含有量が0.5~10質量%であり、前記バインダー樹脂の含有量が10~30質量%である前記[4]に記載の水性フレキソインキ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、密着性、耐湿摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れているとともに、加熱収縮時の白化が抑制された塗膜を様々な被印刷基材に形成しうるシュリンクラベル用の水性ОPニスを提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、密着性、耐湿摩擦性、及び耐ブロッキング性に優れた塗膜を様々な被印刷基材に形成しうるシュリンクラベル用の水性フレキソインキを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<水性OPニス>
本発明のシュリンクラベル用の水性OPニスの一実施形態は、バインダー樹脂、水、及び水溶性有機溶剤を含有する。そして、バインダー樹脂が、下記要件(1)~(5)を満たす。以下、本実施形態の水性OPニスの詳細について説明する。
【0020】
[要件(1)]:
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量が90質量%以上である、(i)A鎖及びB鎖を有するA-Bジブロックコポリマー、又は(ii)A鎖及びB鎖を有するとともに、下記一般式(1)で表される基をA鎖中に含むB-A-Bトリブロックコポリマーである。
【0021】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はA鎖中の結合位置を示す)
【0022】
[要件(2)]:
A鎖が、酸価が20mgKOH/g以下であり、ガラス転移温度が30℃以下であり、数平均分子量が15,000~35,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である。
【0023】
[要件(3)]:
B鎖が、メタクリル酸に由来する構成単位を含み、酸価が50~200mgKOH/gであり、数平均分子量が1,000~15,000である。
【0024】
[要件(4)]:
ガラス転移温度が40℃以下であり、数平均分子量が20,000~50,000であり、分子量分布が1.6以下である。
【0025】
[要件(5)]:
少なくとも一部のカルボキシ基が、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及びアミノメチルプロパノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ物質で中和されて自己乳化し、その数平均粒子径が50~500nmのエマルジョン粒子を形成している。
【0026】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、水性OPニスを塗工及び乾燥して形成される皮膜(塗膜)の主構成成分であり、プラスチックフィルム等の基材への密着性、耐摩擦性、耐水性、耐薬品性、耐溶剤性、及び表面保護性等の効果を発揮しうるポリマー成分である。バインダー樹脂は、A-Bジブロックコポリマー又はB-A-Bトリブロックコポリマー中の少なくとも一部のカルボキシ基がアルカリ物質で中和されて自己乳化し、水系媒体中に分散した状態のエマルジョン粒子を形成している。A-Bジブロックコポリマー及びB-A-Bトリブロックコポリマー(以下、纏めて単に「ブロックコポリマー」とも記す)中のA鎖は水不溶性のポリマー鎖であり、プラスチックフィルム等の基材への密着性、柔軟性、及び耐摩擦性等の特性を発揮しうるポリマー鎖である。一方、ブロックコポリマー中のB鎖はカルボキシ基を有するポリマー鎖である。このカルボキシ基が中和されてイオン化することで、B鎖は水に親和して溶解する。すなわち、B鎖はブロックコポリマーを水系媒体中に分散及び乳化させる機能を有するポリマー鎖である。また、B鎖はカルボキシ基を有するので、プラスチックフィルム等の基材に対する密着性の向上にも寄与する。水性OPニス中のバインダー樹脂の含有量は、水性OPニスの全体を基準として、10~50質量%であることが好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態の水性OPニスは、必要に応じて、上記のバインダー樹脂以外の水性樹脂をさらに含有してもよい。バインダー樹脂以外の水性樹脂としては、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性スチレン-アクリル樹脂、水性スチレン-無水マレイン酸樹脂、水性セルロース系樹脂、及び水性塩化ビニル共重合樹脂等を挙げることができる。
【0028】
[A-Bジブロックコポリマー及びB-A-Bトリブロックコポリマー]
バインダー樹脂は、(i)A鎖及びB鎖を有するA-Bジブロックコポリマー、又は(ii)A鎖及びB鎖を有するとともに、一般式(1)で表される基をA鎖中に含むB-A-Bトリブロックコポリマーである。ブロックコポリマー中のメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位の含有量は90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0029】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるバインダー樹脂(ブロックコポリマー)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、20,000~50,000であり、好ましくは25,000~45,000である。数平均分子量を上記の範囲内とすることで、プラスチックフィルム等の基材に対する密着性が良好であるとともに、耐湿摩擦性に優れた塗膜を形成することができる。バインダー樹脂の数平均分子量が20,000未満であると、形成される塗膜の物性を十分に向上させることができない。一方、数平均分子量が50,000超のブロックコポリマーは、重合に過剰な時間を要するとともに、樹脂溶液の粘度が過度に高くなる等の不具合が生ずることがある。
【0030】
バインダー樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))(以下、「PDI」とも記す)は1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。バインダー樹脂の分子量分布が1.6超であると、プラスチックフィルム等の基材に対する密着性に優れた塗膜を形成することが困難になる。
【0031】
バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は40℃以下であり、好ましくは30℃以下である。ガラス転移温度を40℃以下とすることで、バインダー樹脂の軟質性が向上し、耐湿摩擦性、密着性、造膜性、及び加熱収縮時のフィルムへの追従性などの特性に優れた塗膜を形成することができる。ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析装置等を使用して測定される値(実測値)及びホモポリマーのTgから算出される値(理論値)のいずれであってもよい。但し、本明細書におけるガラス転移温度(Tg)は、ホモポリマーのTgから算出される値(理論値)である。例えば、x種類のモノマーを共重合したポリマー(共重合体)の場合、それぞれモノマーの質量(g)を「W1、W2、・・・Wx」と仮定し、それぞれのモノマーのホモポリマーのTg(℃)を「T1、T2、・・・Tx」と仮定すると、以下の式(A)からこの共重合体のTg(T(℃))を算出することができる。
1/T=W1/(T1+273)+W2/(T2+273)+・・・Wx/(Tx+273) ・・・(A)
【0032】
ホモポリマーのTgの値は、「ポリマーハンドブック 第4版」に記載の値を使用してもよいし、その他、様々な文献の値を使用してもよい。本明細書においては、「ポリマーハンドブック 第4版」に記載の値を使用する。
【0033】
[A鎖]
A鎖は、耐久性を有する水不溶性の皮膜(塗膜)となるポリマー鎖(ポリマーブロック)である。このため、A鎖を構成する構成単位は、疎水性の高いモノマーに由来する構成単位が適している。具体的に、A鎖は、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びメチルメタクリレートからなるモノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、及びベヘニルメタクリレートからなるモノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含むことが好ましい。
【0034】
A鎖のガラス転移温度(Tg)は30℃以下であり、好ましくは20℃以下である。上述のモノマー群(ii)含まれるモノマーは、いずれも長鎖アルキル基を有する、Tgを低下させる傾向にあるモノマーである。このため、A鎖は、モノマー群(i)のモノマーに由来する構成単位の含有量に比して、モノマー群(ii)のモノマーに由来する構成単位の含有量が多いことが好ましい。但し、モノマー群(ii)のモノマーに由来する構成単位のみでA鎖を構成すると、バインダー樹脂が軟質になりすぎてしまい、耐ブロッキング性がやや低下することがある。このため、Tgを上昇させる傾向にあるモノマー群(i)のモノマーに由来する構成単位をA鎖に含ませることでバインダー樹脂のTgを調整し、耐ブロッキング性をさらに向上させることができる。
【0035】
A鎖は、メタクリル酸等の酸性基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含んでいてもよい。但し、A鎖中の酸性基を有するメタクリレートに由来する構成単位の含有量は、中和されることでA鎖が水に溶解しない程度とすることが好ましい。A鎖の酸価は20mgKOH/g以下であり、好ましくは10mgKOH/g以下、さらに好ましくは0mgKOH/gである。すなわち、A鎖は、酸性基を有するメタクリレートに由来する構成単位を実質的に含まないことが好ましい。
【0036】
A鎖は、モノマー群(i)のモノマー及びモノマー群(ii)のモノマー以外のメタクリル酸系モノマー(その他のメタクリル酸系モノマー)に由来する構成単位をさらに含んでもよい。その他のメタクリル酸系モノマーとしては、エチル、プロピル、ブチル、へキシル、オクチル、デシル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル、グリシジル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングコリールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン等の置換基を有する単官能メタクリレートを挙げることができる。
【0037】
GPCにより測定されるA鎖のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、15,000~35,000であり、好ましくは17,000~30,000である。A鎖の数平均分子量を上記の範囲とすることで、密着性及び耐湿摩擦性等の性能に優れた塗膜を形成することができる。A鎖の数平均分子量が15,000未満であると、形成される塗膜のプラスチックフィルム等の基材への密着性が不十分になる。一方、数平均分子量が35,000超のA鎖は、重合に過剰な時間を要するとともに、形成される粒子の粒径が大きくなりすぎることがある。
【0038】
A鎖の分子量分布(PDI)は1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。A鎖の分子量分布が1.6超であると、プラスチックフィルム等の基材に対する密着性に優れた塗膜を形成することが困難になる。
【0039】
バインダー樹脂がB-A-Bトリブロックコポリマーである場合、このB-A-Bトリブロックコポリマーを構成するA鎖は、下記一般式(1)で表される基を含む。下記一般式(1)で表される基は、例えば、後述するリビングラジカル重合によりB-A-Bトリブロックコポリマーを製造する場合に用いる重合開始化合物に由来して導入される基(残基)である。すなわち、特定の重合開始化合物を用いてメタクリル酸系モノマーをリビングラジカル重合することで、下記一般式(1)で表される基をA鎖の主鎖中に導入することができる。下記一般式(1)で表される基は、3級炭素原子を持ったエステル結合を有する、加水分解しにくい基である。このため、下記一般式(1)で表される基は、アルカリを含有するpHの高い条件下であっても加水分解しにくく、比較的安定に存在しうる基である。したがって、下記一般式(1)で表される基を主鎖に含むA鎖を有するB-A-Bトリブロックコポリマーは、長期間の保存安定性等の耐久性に優れたバインダー樹脂である。
【0040】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示し、「*」はA鎖中の結合位置を示す)
【0041】
一般式(1)中、Rで表される基としては、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、ヘキシレルジメチレン基、フェニルジメチレン基、デカメチレン基、オクタメチレン基、ジエチレングリコール基、トリエチレングコール基、テトラエチレングリコール基、ジプロピレングリコール基、トリプロピレングリコール基、テトラプロピレングリコール基、ジテトラメチレングリコール基等を挙げることができる。一般式(1)中、Rは、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基が好ましい。一般式(1)中、X及びYは、いずれも「O」であることが好ましい。
【0042】
例えば、一般式(1)で表される基を有する重合開始化合物を用いて、後述するリビングラジカル重合によりB-A-Bトリブロックコポリマーを製造する場合、一般式(1)で表される基の両端(一般式(1)中の「*」の部分)からポリマー鎖が延伸する。両端から延伸する2つのポリマーの分子量は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
[B鎖]
B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位を含むポリマー鎖(ポリマーブロック)である。すなわち、B鎖中にはメタクリル酸に由来するカルボキシ基が存在しており、このカルボキシ基がアルカリ物質で中和されてイオン化することで、B鎖は水に親和して溶解する。水系媒体中では、水不溶性のA鎖が粒子化し、水に溶解したB鎖が粒子化したA鎖を安定化させる。これにより、バインダー樹脂を水系媒体中に乳化及び分散させることができる。また、B鎖は水に溶解するので、乾燥した場合であっても、ブロックコポリマーを再度水に溶解させる性質(再溶解性)を有する。さらに、カルボキシ基がプラスチックフィルム等の基材と水素結合等するので、密着性に優れた塗膜を形成することができる。
【0044】
B鎖の酸価は50~200mgKOH/gであり、好ましくは60~150mgKOH/gである。B鎖の酸価が50mgKOH/g未満であると、B鎖が水に溶解せず、バインダー樹脂を水系媒体中に分散及び乳化させることが困難になる。一方、B鎖の酸価が200mgKOH/g超であると、B鎖の親水性が高すぎて塗膜の耐水性や耐薬品性等の特性が低下しやすくなるとともに、重合中の粘度が過度に高くなることがあり、ブロック構造を形成することが困難になる。
【0045】
B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位と、前述のモノマー群(i)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、前述のモノマー群(ii)より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位と、を含むことが好ましい。B鎖は、モノマー群(i)のモノマー及びモノマー群(ii)のモノマー以外のメタクリル酸系モノマー(前述の「その他のメタクリル酸系モノマー」)に由来する構成単位をさらに含んでもよい。
【0046】
GPCにより測定されるB鎖のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、1,000~15,000であり、好ましくは2,000~10,000である。B鎖の数平均分子量が1,000未満であると、水溶解性のB鎖が短すぎてしまい、粒子化したA鎖の分散性や乳化性が低下するとともに、全体の粒子径が大きくなる場合がある。一方、B鎖の数平均分子量が15,000超であると、親水性が高くなりすぎてしまい、形成される塗膜の耐水性が低下するとともに、水性OPニスの粘度が過度に高くなることがある。
【0047】
[ブロックコポリマーの製造方法]
ブロックコポリマーは、従来公知の方法によって合成することができる。なかでも、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、及びリビングラジカル重合法等のリビング性を有する重合法が好ましく、条件、材料、及び装置等の観点からリビングラジカル重合法が特に好ましい。リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキサイド法(NMP法)、有機テルル法(TERP法)、可逆的移動触媒重合法(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合法(RCMP法)等を挙げることができる。なかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用し、重金属や特殊な化合物を使用せず、コスト及び精製の面で有利である。さらに、成長末端を第3級のヨウ素とすることで、精度のよいブロック構造を一般的なの設備で容易に形成することができる。
【0048】
重合は、熱重合及び光重合のいずれであってもよく、アゾ系ラジカル発生剤、過酸化物系ラジカル発生剤、光増感剤等を重合反応系に添加してもよい。重合形式は、無溶剤、溶液重合、及び乳化重合のいずれであってもよく、なかでも溶液重合が好ましい。得られるブロックコポリマーを水系媒体中に分散させてポリマーエマルジョンを製造する場合、水系媒体に用いる水溶性有機溶剤と同一の有機溶剤を溶液重合の際に用いることで、重合反応後の反応液をそのまま使用できるために好ましい。
【0049】
A-Bジブロックコポリマーを製造する場合、A鎖とB鎖のいずれを先に重合してもよい。但し、B鎖を先に重合すると、重合系にメタクリル酸が残存する場合がある。この場合、その後に重合するA鎖にメタクリル酸に由来する構成単位が導入されてしまうことがあるので、A鎖を先に重合した後、B鎖を重合することが好ましい。
【0050】
B-A-Bトリブロックコポリマーの製造方法は、好ましくは、下記一般式(2)で表されるヨウ素を含む有機化合物を重合開始化合物(重合開始剤)として用いる重合工程を有する。下記一般式(2)で表されるヨウ素を含む有機化合物(重合開始化合物)の存在下、A鎖、B鎖の順に有機溶剤中でリビングラジカル重合することで、B-A-Bトリブロックコポリマーを得ることができる。A-Bジブロックコポリマーを製造する場合と同様に、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。
【0051】
(前記一般式(2)中、Rは、炭素数2~18の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキレン基、又はジ、トリ、若しくはテトラアルキレン(炭素数2~4)グリコール基を示し、X及びYは、相互に独立に、O又はNHを示す)
【0052】
一般式(2)中のR、X、及びYは、一般式(1)中のR、X、及びYと同義である。一般式(2)で表される有機化合物は、従来公知の方法で合成することができる。例えば、Rで表される基を有するジオール、アミノオール、及びジアミン(以下、纏めて「ジオール等」とも記す)を用意する。用意したジオール等と、ブロモイソ酪酸ブロミドとを反応させて、ジブロモ体を得る。その後、得られたジブロモ体にヨウ化ナトリウム等の化合物を反応させてハロゲン交換することで、一般式(2)で表される有機化合物を得ることができる。また、上記のジオール等と、メタクリル酸クロライド若しくはメタクリル酸無水物とを反応させる、又はメタクリル酸メチルとエステル交換して、水酸基やアミノ基をメタクリレート化する。その後、ヨウ化水素を付加することで、一般式(2)で表される化合物を得ることができる。
【0053】
[ポリマーエマルジョン]
バインダー樹脂(ブロックコポリマー)は、少なくとも一部のカルボキシ基がアルカリ物質で中和されて自己乳化し、水及び水溶性有機溶剤を含む水性媒体中でエマルジョン粒子を形成している。エマルジョン粒子の数平均粒子径は50~500nmであり、好ましくは70~350nmである。エマルジョンの数平均粒子径が50nm未満であると、水性OPニスの粘度が過度に高くなるとともに、親水性が高くなるので、形成される塗膜の物性が低下する。一方、エマルジョンの数平均粒子径が500nm超であると、形成される塗膜に、いわゆる「ブツ」と呼ばれる異物等が形成されやすくなる。エマルジョン粒子の数平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置により測定及び算出される値である。
【0054】
ブロックコポリマー中のカルボキシ基を中和するアルカリ物質は、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及びアミノメチルプロパノールからなる群より選択される少なくとも一種である。アルカリ物質の量は、ブロックコポリマー中のカルボキシ基等の酸性基の一部又は全部を中和する量とすることが好ましい。
【0055】
ブロックコポリマーを中和し、乳化及び分散させる方法は、従来公知である。例えば、溶液重合によりブロックコポリマーを合成した後、重合溶液を撹拌しながらアルカリ水を添加して分散乳化することができる。また、重合後に(i)乾燥する;(ii)貧溶剤中に析出させる;又は(iii)中和して水に溶解させた後に酸を添加して析出させる;等の方法によって取り出したブロックコポリマーを中和しながら水に乳化及び分散させてもよく、必要に応じて加熱してもよい。
【0056】
(水)
本実施形態の水性OPニスは、水を必須成分として含有する。水としては、イオン交換水、蒸留水、及び精製水等を用いることが好ましい。水性OPニス中の水の含有量は、水性OPニス全量を基準として、30~70質量%であることが好ましい。
【0057】
(水溶性有機溶剤)
本実施形態の水性OPニスは、水溶性有機溶剤を含有する。水溶性有機溶剤としては、基材(被印刷基材)であるプラスチックフィルムに対する濡れ性が良好なものを用いることが好ましい。さらには、基材表面のレベリング剤として機能しうるとともに、バインダー樹脂の造膜性を向上させる造膜助剤としても機能しうる水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0058】
水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルキレングリコール系溶媒;エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶媒;グリセリン、ジグリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物等のグリセリン系溶媒;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶媒;テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等の尿素系溶媒;エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。
【0059】
水性OPニス中の水溶性有機溶剤の含有量は、水性OPニス全量を基準として、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が1質量%未満であると、レベリング性が低下して塗膜物性(密着性、耐湿摩擦性)がやや低下する場合がある。一方、水溶性有機溶剤の含有量が30質量%超であると、塗膜の乾燥不良が発生しやすくなることがあり、塗膜物性(密着性、耐湿摩擦性、耐ブロッキング性)がやや低下する場合がある。
【0060】
(ワックス成分)
本実施形態の水性OPニスは、ワックス成分をさらに含有することが好ましい。ワックス成分をさらに含有することで、形成される塗膜の耐湿摩擦性をさらに向上させることができる。
【0061】
ワックス成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィン、シリコーン、及びこれらの共重合体からなる群より選択される少なくとも一種のカルボキシ基を有するポリマーの前記カルボキシ基がアルカリ物質で中和され、自己乳化して形成されたエマルジョン粒子を用いることが好ましい。コールターカウンター法により測定されるエマルジョンの平均粒子径は、0.5~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがさらに好ましい。ワックス成分の具体例としては、以下商品名で、ケミパールW100、W200、W300、W308、W310、W400、W410、W500、W700、W800(以上、三井化学社製)等を挙げることができる。水性OPニス中のワックス成分の含有量は、水性OPニス全量を基準として、1~7質量%であることが好ましい。
【0062】
(添加剤)
本実施形態の水性OPニスには、必要に応じて、各種添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、前述の水溶性有機溶剤以外の有機溶剤、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、硬化剤、染料、フィラー、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、帯電防止剤、金属微粒子、磁性粉等を挙げることができる。
【0063】
<水性フレキソインキ>
本発明のシュリンクラベル用の水性フレキソインキの一実施形態は、前述の水性OPニス、顔料、及びこの顔料を分散させる顔料分散剤を含有する。すなわち、本実施形態の水性フレキソインキは、前述のバインダー樹脂、水、水溶性有機溶剤、顔料、及び顔料分散剤を含有する。水性フレキソインキ中のバインダー樹脂の含有量は、インキ全量を基準として、10~30質量%であることが好ましい。水性フレキソインキ中の水の含有量は、インキ全量を基準として、20~80質量%であることが好ましい。また、水性フレキソインキ中の水溶性有機溶剤の含有量は、インキ全量を基準として、30質量%以下であることが好ましい。
【0064】
(顔料)
顔料としては、一般的なインキ、塗料、及び記録材などに用いられる従来公知の有機顔料及び無機顔料を挙げることができる。有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系顔料等の有彩色顔料;ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、ベンガラ、マイカ(雲母)等を挙げることができる。
【0065】
水性フレキソインキ中の顔料の含有量は、水性フレキソインキ全量を基準として、1~60質量%であることが好ましい。なお、有機顔料を顔料として用いる場合、水性フレキソインキ中の有機顔料の含有量は、水性フレキソインキ全量を基準として、1~35質量%であることが好ましい。また、酸化チタンや硫酸バリウム等の無機顔料を顔料として用いる場合、水性フレキソインキ中の無機顔料の含有量は、水性フレキソインキ全量を基準として、10~60質量%であることが好ましい。
【0066】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、インキ中に顔料を分散させる成分である。顔料分散剤としては、顔料を安定的に分散させることが可能な分散剤であればよく、特に制限されない。なかでも、優れた顔料吸着能及び分散安定性の観点から、その酸価が50~250mgKOH/gであるビニル系ポリマーがアルカリ物質で中和され、微分散又は溶解した状態の顔料分散剤を用いることが好ましい。
【0067】
ビニル系ポリマーは、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基等の酸性基を有することが好ましい。カルボキシ基等の酸性基をアルカリ物質で中和することでビニル系ポリマーを水に親和させ、インキ中に微分散又は溶解させることができる。
【0068】
酸性基を有するビニル系ポリマーは、通常、酸性基を有するモノマーに由来する構成単位を有する。酸性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、スチレンカルボン酸、水酸基を有する(メタ)アクリレート系モノマーに無水カルボン酸、二塩基酸、又はポリカルボン酸を反応させてモノエステル化したモノマー、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロピンスルホン酸、ビニルリン酸、メタクリロイルオキシエチルリン酸等を挙げることができる。
【0069】
ビニル系ポリマーは、ビニル系モノマーに由来する構成単位を有する。ビニル系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸系モノマー;前述の「その他のメタクリル酸系モノマー」;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環ビニルモノマー;等を挙げることができる。
【0070】
ビニル系ポリマーとしては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エトキシエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸2-ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ベンジル-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸ジメチルアミノエチル-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-マレイン酸-マレイン酸のポリエチレングリコールプロピレングリコールモノブチルエーテルモノアミンのアミド化物共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸2-エチルヘキシル-メタクリル酸共重合体等を挙げることができる。
【0071】
顔料分散剤の市販品としては、以下商品名で、Dispex AA 4030、4040、4140、CX 4230、4231、4234、4240、4320、Ultra FA 4404、4416、4425、4431、4437、4480、4483、Ultra PA 4550、4560、Ultra PX 4575、4585(以上、BASF社製);DYSPERBYK180、184、185、187、190、191、192、193、194N、199、2010、2012、2013、2015、2055、2060、2061、2081、2096(以上、ビックケミー社製);TEGO Dispers 715W、740W、741W、750W、755W、757W、760W、761W、765W(以上、EVONIK社製);等を挙げることができる。
【0072】
水性フレキソインキ中の顔料分散剤の含有量は、インキ全量を基準として、0.5~10質量%であることが好ましい。また、顔料分散剤の量は、顔料100質量部に対して、5~60質量部とすることが好ましい。顔料100質量部に対する顔料分散剤の量が5質量部未満であると、顔料の分散安定性が低下しやすくなり、水性フレキソインキの分散安定性及び保存安定性が低下する場合がある。一方、顔料100質量部に対する顔料分散剤の量が60質量部超であると、水性フレキソインキの粘度が過度に上昇することがあり、保存安定性が低下する場合があるとともに、形成される塗膜の耐水性、耐薬品性、及び密着性等の特性に影響する可能性がある。
【0073】
(水性フレキソインキの製造)
本実施形態の水性フレキソインキは、従来公知の方法に従って製造することができる。以下、水性フレキソインキの製造方法の一連の手順を例示する。まず、顔料、顔料分散剤、水、及び水溶性有機溶剤を混合して混合物を得る。次いで、ビーズミル、パールミル、サンドミル、ボールミル、ロールミル、アトライター等を使用して得られた混合物を分散処理する。その後、バインダー樹脂及び各種添加剤を添加し、必要に応じて水及び水溶性有機溶剤で希釈することで、目的とする水性フレキソインキを得ることができる。
【0074】
(被印刷基材)
本実施形態の水性OPニス及び水性フレキソインキは、いずれも、シュリンクラベル用のOPニス及びフレキソインキとして好適である。シュリンクラベルの構成材料となる基材(被印刷基材)としては、熱処理によって収縮するプラスチックフィルムを用いることができる。なかでも、機械的強度及び化学的強度が高く、良好な印刷適性を有する熱収縮性のプラスチックフィルムを用いることが好ましい。このような熱収縮プラスチックフィルムとしては、延伸ポリエステル系フィルム、収縮性ポリ塩化ビニルフィルム、収縮性ポリスチレンフィルム、収縮性ポリエチレンテレフタレートフィルム、収縮性ポリプロピレンフィルム等を挙げることができる。プラスチックフィルムの表面(印刷面)は、無処理であってもよいし、プラズマ処理、コロナ処理、放射線処理、及びシランカップリング処理等の表面処理が施されていてもよい。プラスチックフィルムは、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。さらに、プラスチックフィルムには、アルミ蒸着や透明蒸着が施されていてもよい。
【0075】
(硬化剤)
本実施形態の水性フレキソインキで印刷する際には、インキに硬化剤を添加することが好ましい。硬化剤を添加することで、密着性及び耐湿摩擦性等の物性がさらに向上した塗膜を形成することができる。硬化剤としては、ポリイソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系、エポキシ系等の水性インキ用の架橋剤を用いることが好ましい。
【0076】
水性フレキソインキ100質量部に対して、0.1~8質量部の硬化剤を添加することが好ましく、0.5~5質量部の硬化剤を添加することがさらに好ましい。硬化剤の添加量が水性フレキソインキ100質量部に対して0.1質量部未満であると、架橋反応が十分に進行せず、形成される塗膜の物性がさほど向上しない。一方、硬化剤の添加量が水性フレキソインキ100質量部に対して8質量部超であると、印刷中に水性フレキソインキの粘度が大きく上昇することがあるとともに、形成される塗膜の耐ブロッキング性がやや低下する場合がある。
【0077】
硬化剤の市販品としては、以下商品名で、デュラネートWB40-100、WB40-80D、WT20-100、WT30-100、WL70-100、WE50-100(以上、旭化成社製);エポクロスK-2010E、K-2020E、K-2030E、WS-300、WS-500、WS-700(以上、日本触媒社製);カルボジライトV-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10、E-02、E-05(以上、日清紡ケミカル社製);デナコールEX-612、EX-614、EX-614B、EX-622、EX-313、EX-314、EX-421、EX-521、EX-321、EX-321L、EX-411(以上、ナガセケムテックス社製);等を挙げることができる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0079】
<バインダー樹脂(ポリマーエマルジョン)の製造>
(合成例1)
反応容器に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)335.9部、ヨウ素0.8部、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-70」、富士フィルム和光純薬製)(V-70)2.8部、ジフェニルメタン(DPM)0.1部、ベンジルメタクリレート(BzMA)45.5部、及び2-エチルへキシルメタクリレート(EHMA)128.9部を入れた。窒素をバブリングしながら撹拌し、45℃で4時間重合してポリマー(A鎖)を合成した。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は28.4%であり、固形分に基づいて算出した重合転化率は82.0%であった。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにより測定したA鎖のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は18,000、分散度(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.37であった。
【0080】
得られたA鎖のポリマー溶液を40℃まで降温した後、V-70 2.8部、メタクリル酸(MAA)12.9部、BzMA29.9部、及びEHMA51.2部を添加した。40℃で4時間重合してB鎖を形成し、A-Bジブロックコポリマーを得た。B鎖の酸価(理論酸価)は89.4mgKOH/gであった。B鎖の理論酸価は、以下の手順に従って算出した。
【0081】
まず、B鎖1部当たりのMAAの量(部)を下記式にしたがって算出する。
12.9/(12.9+29.9+51.2)=0.137(部)
【0082】
次いで、MAAの分子量「86.1」及びKOHの分子量「56.1」を用い、下記式にしたがってB鎖の理論酸価(mgKOH/g)を算出することができる。
(0.137/86.1)×56.1×1,000=89.4(mgKOH/g)
【0083】
反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は44.6%であり、重合転化率は約100%であった。得られたA-BジブロックコポリマーのMnは28,000、PDIは1.38であった。エタノール性0.1N水酸化カリウム溶液で滴定して算出したA-Bジブロックコポリマーの酸価(実測酸価)は31.3mgKOH/gであった。
【0084】
室温条件下、28%アンモニア水10部とイオン交換水397部の混合液を添加して中和し、ポリマーエマルジョンD-1を得た。ポリマーエマルジョンD-1の固形分は26.5%であった。動的光散乱式の粒子径分布測定装置(粒度測定器、商品名「nanoSAQRA」、大塚電子社製)を使用して測定したエマルジョン粒子の数平均粒子径は77.7nmであった。
【0085】
(合成例2~5、比較合成例1及び2)
表1及び2に示す処方としたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、ポリマーエマルジョンD-2~D-5、H-1及びH-2を得た。表1及び2中の略号の意味を以下に示す。
・MFG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・PFG:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
・IPA:2-プロパノール
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
・StMA:ステアリルメタクリレート
・LMA:ラウリルメタクリレート
・IBXMA:イソボルニルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・DMAE:ジメチルアミノエタノール
・AMP:アミノメチルプロパノール
【0086】
【0087】
【0088】
(合成例6)
反応容器に、BDG344.4部、エチレングリコールビス(2-アイオドイソブチレート)(EBIB)2.3部、V-703.1部、N-アイオドスクシンイミド(NIS)0.3部、BzMA46.2部、及びEHMA173.4部を入れた。窒素をバブリングしながら撹拌し、40℃で4時間重合してポリマー(A鎖)を合成した。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は34.4%であり、重合転化率は87.0%であった。A鎖のポリスチレン換算のMnは21,000、PDIは1.44であった。
【0089】
V-70 1.4部、MAA13.2部、BzMA31.0部、及びEHMA10.9部を添加した。40℃で4時間重合してB鎖を形成し、B-A-Bトリブロックコポリマーを得た。B鎖の酸価(理論酸価)は156.2mgKOH/gであった。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は43.9%であり、重合転化率は約100%であった。得られたB-A-BトリブロックコポリマーのMnは26,000、PDIは1.48であった。B-A-Bトリブロックコポリマーの酸価(実測酸価)は31.3mgKOH/gであった。室温条件下、28%アンモニア水10.2部とイオン交換水407.0部の混合液を添加して中和し、ポリマーエマルジョンT-1を得た。ポリマーエマルジョンT-1の固形分は26.1%であり、エマルジョン粒子の数平均粒子径は63.6nmであった。
【0090】
(合成例7~10、比較合成例3及び4)
表3及び4に示す処方としたこと以外は、前述の合成例6と同様にして、ポリマーエマルジョンT-2~T-5、H-3及びH-4を得た。
【0091】
【0092】
【0093】
<水性OPニスの製造>
(実施例1)
ポリマーエマルジョンD-1 270部、水22.5部、ポリエチレンワックス分散体(商品名「ケミパールW500」、三井化学社製)6部、消泡剤(商品名「テゴフォーメックス805N」、エボニック社製)0.6部、界面活性剤(商品名「テゴウェット500」、エボニック社製)0.3部、及び増粘剤(商品名「SNシックナー623N」、サンノプコ社製)0.6部を混合した。ディスパーを使用して十分撹拌して、水性OPニスNS-1を得た。
【0094】
(実施例2~10、比較例1~4)
表5に示す種類のポリマーエマルジョンを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、水性OPニスNS-2~NS-10、HNS-1~HNS-4を得た。
【0095】
<シュリンクラベルの製造(1)>
被印刷基材(基材フィルム)として、ポリスチレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された熱収縮性プラスチックフィルム(商品名「HST」、グンゼ社製)の表面をコロナ処理したものを用意した。水性のカラーインキ(商品名「ハイドリック FCFシリーズ」、大日精化工業社製)を、ザーンカップ#4(離合社製)で計測した25℃における粘度が14秒となるように水道水で希釈して、塗工用カラーインキを調製した。アニロックスロール(セルボリューム4.5cm3/m2)を搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、調製した塗工用カラーインキを基材フィルム上に塗工してカラーインキ層を形成した。
【0096】
水性OPニス100部にエポキシ硬化剤(商品名「デナコールEX-612」、長瀬ケムテックス社製)5部を添加した後、ザーンカップ#4(離合社製)で計測した25℃における粘度が15秒となるように水道水で希釈して、塗工用OPニスを調製した。アニロックスロール(セルボリューム8.5cm3/m2)を搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、基材フィルム上に形成したカラーインキ層上に調製した塗工用OPニスを塗工した。次いで、25℃で48時間乾燥させて塗膜を形成し、試験用塗工物(シュリンクラベル)を得た。
【0097】
<水性OPニスの評価>
(密着性)
ドライヤーを使用してシュリンクラベルを十分に乾燥させた後、塗膜(画像)のベタ部分にセロハンテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」、ニチバン社製)を十分に押し当ててから剥離した。そして、塗膜の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって塗膜の密着性を評価した。結果を表5に示す。
◎:塗膜が全く剥がれなかった。
○:塗膜が僅かに剥がれた。
△:剥がれた塗膜の面積の方が、剥がれずに残った塗膜の面積よりも小さかった。
×:剥がれた塗膜の面積の方が、剥がれずに残った塗膜の面積よりも大きかった。
【0098】
(耐ブロッキング性)
未処理の基材フィルムとシュリンクラベルを積層し、7kg/cm2の荷重をかけた状態で、40℃の恒温槽内に24時間放置した。そして、未処理フィルムとシュリンクラベルを剥離した際の剥離抵抗と、シュリンクラベルの塗膜の外観を確認し、以下に示す評価基準にしたがって塗膜の耐ブロッキング性を評価した。結果を表5に示す。なお、以下に示す評価基準のうち、「◎」及び「〇」を使用可能なレベル(合格)とした。
◎:未処理面への塗膜の転移がなく、剥離抵抗もなかった。
〇:未処理面への塗膜の転移がほとんどなく、剥離抵抗僅かに感じた。
△:未処理面への塗膜の転移がやや認められ、剥離抵抗をやや感じた。
△×:未処理面への塗膜の転移が認められ、剥離抵抗を感じた。
×:未処理面への塗膜の激しい転移が認められ、強い剥離抵抗を感じた。
【0099】
(耐湿摩擦性)
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、シュリンクラベルの塗膜表面を、水で湿らせた白布によって荷重200gの条件で100往復させた。100往復後の塗膜の状態を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって塗膜の耐湿摩擦性を評価した。結果を表5に示す。
◎:塗膜が全く剥がれなかった。
○:塗膜が僅かに剥がれた。
△:剥がれた塗膜の面積の方が、剥がれずに残った塗膜の面積よりも小さかった。
×:剥がれた塗膜の面積の方が、剥がれずに残った塗膜の面積よりも大きかった。
【0100】
(収縮白化)
カラーインキ層を形成しなかったこと以外は、前述の「シュリンクラベルの製造」と同様にして、塗工用OPニス単体の試験用塗工物(シュリンクラベル)を製造した。製造したシュリンクラベルを85℃の熱水に5秒間浸漬し、50%収縮させた収縮フィルムを得た。積分球式ヘイズメーターを使用して収縮フィルムのヘイズ値(全光線透過量に対する、拡散光線透過量の割合(%))を測定し、以下に示す評価基準にしたがって塗膜の収縮白化を評価した。結果を表5に示す。
○:ヘイズ値が30未満であった。
△:ヘイズ値が30以上40未満であった。
×:ヘイズ値が40以上以上であった。
【0101】
【0102】
<水性フレキソ白インキの製造>
(実施例11)
白色顔料である酸化チタン(商品名「R-960」、デュポン社製)40部、水7.5部、及び顔料分散剤(商品名「DYSPERBYK190」、ビックケミー社製)2部を混合して混合物を得た。ビーズミルを使用して得られた混合物を混錬分散処理した後、ポリマーエマルジョンD-1 45部、ポリエチレンワックス分散体(商品名「ケミパールW500」、三井化学社製)5部、消泡剤(商品名「テゴフォーメックス805N」、エボニック社製)0.2部、界面活性剤(商品名「テゴウェット500」、エボニック社製)0.1部、及び増粘剤(商品名「SNシックナー623N」、サンノプコ社製)0.2部を添加し、十分撹拌して水性フレキソ白インキF-1を得た。
【0103】
(実施例12~20、比較例5~8)
表6に示す種類のポリマーエマルジョンを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、水性フレキソ白インキF-2~F-10、HF-1~HF-4を得た。
【0104】
<シュリンクラベルの製造(2)>
被印刷基材(基材フィルム)として、ポリスチレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された熱収縮性プラスチックフィルム(商品名「HST」、グンゼ社製)の表面をコロナ処理したものを用意した。水性のカラーインキ(商品名「ハイドリック FCFシリーズ」、大日精化工業社製)を、ザーンカップ#4(離合社製)で計測した25℃における粘度が14秒となるように水道水で希釈して、塗工用カラーインキを調製した。アニロックスロール(セルボリューム4.5cm3/m2)を搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、調製した塗工用カラーインキを基材フィルム上に塗工してカラーインキ層を形成した。
【0105】
水性フレキソ白インキ100部にエポキシ硬化剤(商品名「デナコールEX-612」、長瀬ケムテックス社製)5部を添加した後、ザーンカップ#4(離合社製)で計測した25℃における粘度が15秒となるように水道水で希釈して、塗工用水性フレキソ白インキを調製した。アニロックスロール(セルボリューム13cm3/m2)を搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、基材フィルム上に形成したカラーインキ層上に調製した塗工用水性フレキソ白インキを塗工した。次いで、25℃で48時間乾燥させて塗膜を形成し、試験用塗工物(シュリンクラベル)を得た。
【0106】
<水性フレキソ白インキの評価>
前述の「水性OPニスの評価」の同様にして、「密着性」、「耐ブロッキング性」、及び「耐湿摩擦性」を評価した。結果を表6に示す。
【0107】
(保存安定性)
水性フレキソ白インキを40℃で1週間保存して粘度の経時変化を測定し、以下に示す評価基準にしたがって保存安定性を評価した。インキの粘度は、ザーンカップ(No.4)を使用して測定した。結果を表6に示す。
◎:粘度変化が±10%未満であった。
○:粘度変化が±10%以上±15%未満であった。
△:粘度変化が±15%以上±20%未満であった。
×:粘度変化が±20%以上であった。
【0108】