(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116328
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20230815BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20230815BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230815BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230815BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20230815BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/32
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019069
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 康英
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038DL031
4J038HA216
4J038JB35
4J038JB36
4J038KA04
4J038KA12
4J038NA01
4J038NA19
4J038PA17
4J038PA20
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】シリコーン系コーティング組成物であって、紫外線遮蔽能と近赤外線遮蔽能の両方を有しながら、特定の界面活性剤による分散が不要なため汎用性が高く、良好なコーティング溶液と塗膜透明性を得ることができる紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物および紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法を提供する。
【解決手段】下記(a)~(d)成分を含有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)有機系紫外線吸収剤;
(d)導電性金属酸化物、
であって、(a)アミノ基を含むシラン化合物1モルに対する(b)ホウ素化合物の量が、0.02から1.0モルである、上記紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(d)成分を含有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)有機系紫外線吸収剤;
(d)導電性金属酸化物、
であって、(a)アミノ基を含むシラン化合物1モルに対する(b)ホウ素化合物の量が、0.02から1.0モルである、上記紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項2】
(b)ホウ素化合物の量が、0.1から0.75モルである、請求項1に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項3】
(b)ホウ素化合物の量が、0.2から0.59モルである、請求項1に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項4】
(c)有機系紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、及びベンゾフェノン系化合物からなる群より選択される、請求項1から3に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項5】
(c)有機系紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、又はトリアジン系化合物である請求項4に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項6】
更に光安定化剤を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項7】
更に(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項8】
(e)有機官能基含有シラン化合物が、アルコキシ基含有シラン化合物を含む、請求項7に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項9】
(d)導電性金属酸化物がITO(インジウムスズオキサイド)及びATO(アンチモンスズオキサイド)から成る群から選択される少なくとも1種の酸化物である、請求項1から8のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項10】
(c)有機系紫外線吸収剤の添加量が、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物全体を100質量部として、0.5~5.0質量部である、請求項1から9のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項11】
リン酸エステル系界面活性剤及びアクリル系界面活性剤のいずれをも実質的に含有しない、請求項1から10のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の紫外線赤外線遮蔽コーティング用組成物を塗布する工程を有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
【請求項13】
波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、かつ、波長780~2500nmにおける光線透過率が40%以下であるコーティング層を形成する、請求項12に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
【請求項14】
透明基板上にコーティング層を形成する、請求項12又は13に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物及びその用途に関し、より具体的には紫外線及び近赤外線を有効に遮蔽するとともに、特定の界面活性剤による分散が不要なため汎用性が高く、良好なコーティング溶液と塗膜透明性を得ることができる紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシラン、あるいはこれらの重合体、これらの加水分解物等のシリコーン系組成物は、常温で硬化することができるため、ガラス、セラミックス、プラスチック等のコーティング剤として使用されている。
コーティングに紫外線遮蔽機能を付与するために有機系紫外線吸収剤をコーティング剤に添加することができるが、この場合ヘーズが高くなりやすく(塗膜透明性が低下しやすく)、ヘーズを小さくするために有機系紫外線吸収剤の種類や添加量の調整を行うことが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
一方、太陽光中の熱効果に大きく寄与する近赤外線を除去・減少し、なおかつ可視光を透過させる日射遮蔽材料としては、伝導性金属酸化物であるATOやITOが知られている。ATOやITOを応用した透明性を有する近赤外線遮蔽コーティング組成物は、ガラス、セラミックス及び透明プラスチックへ利用されてきた(例えば、特許文献2及び3参照)。
紫外線および近赤外線をともに遮蔽できるコーティング組成物として、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物が知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、当該技術において紫外線遮蔽材料として用いられる酸化亜鉛は2次凝集による溶液安定性の低下等の不都合な現象を引き起こしやすく、特定の界面活性剤を選定し分散させる必要があるため、処方設計の自由度に制限があり汎用性に乏しかった。さらに、光触媒作用によっては塗膜に不具合を発生させる可能性が考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-80106号公報
【特許文献2】特開2008-111048号公報
【特許文献3】国際公開2008/029620 A1号パンフレット
【特許文献4】特開2021-176943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術の限界に鑑み、本発明は、シリコーン系コーティング組成物であって、紫外線遮蔽能と近赤外線遮蔽能の両方を有しながら、特定の界面活性剤による分散が不要なため汎用性が高く、良好なコーティング溶液と塗膜透明性を得ることができる紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物および紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造を有するアミノ基を有するシラン化合物と特定の構造を有するホウ素化合物とから形成される基本構造に有機系紫外線吸収剤及び導電性金属酸化物を組み合わせた紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物において、上記シラン化合物と上記ホウ素化合物との割合を特定のモル比の範囲内に設定することで、特定の界面活性剤を必要とせずに高い汎用性を実現するとともに、良好な安定性のコーティング溶液と透明性の優れた塗膜を実現し、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
下記(a)~(d)成分を含有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)有機系紫外線吸収剤;
(d)導電性金属酸化物、
であって、(a)アミノ基を含むシラン化合物1モルに対する(b)ホウ素化合物の量が、0.02から1.0モルである、上記紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物、に関する。
【0006】
また、下記[2]から[13]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
(b)ホウ素化合物の量が、0.1から0.75モルである、[1]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[3]
(b)ホウ素化合物の量が、0.2から0.59モルである、[1]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[4]
(c)有機系紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、及びベンゾフェノン系化合物からなる群より選択される、[1]から[3]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[5]
(c)有機系紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、又はトリアジン系化合物である[4]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[6]
更に光安定化剤を含有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[7]
更に(e)有機官能基含有シラン化合物(上記(a)成分に該当するものを除く)を含む、[1]から[6]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[8]
(e)有機官能基含有シラン化合物が、アルコキシ基含有シラン化合物を含む、[7]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[9]
(d)導電性金属酸化物がITO(インジウムスズオキサイド)及びATO(アンチモンスズオキサイド)から成る群から選択される少なくとも1種の酸化物である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[10]
(c)有機系紫外線吸収剤の添加量が、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物全体を100質量部として、0.5~5.0質量部である、[1]から[9]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[11]
リン酸エステル系界面活性剤及びアクリル系界面活性剤のいずれをも実質的に含有しない、[1]から[10]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物。
[12]
[1]から[11]のいずれか一項に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング用組成物を塗布する工程を有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
[13]
波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、かつ、波長780~2500nmにおける光線透過率が40%以下であるコーティング層を形成する、[12]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
[14]
透明基板上にコーティング層を形成する、[12]又は[13]に記載の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い汎用性と良好な溶液安定性とを有するコーティング組成物であって、紫外線遮蔽機能及び近赤外線遮蔽機能を有しかつ透明性の優れた塗膜を実現できるコーティング組成物、及びコーティング層の製造方法が提供される。
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング用組成物は、上記の好ましい諸特性を従来技術の限界を超えた高いレベルで兼ね備えるので、調製、保管、塗工等の自由度が高く、建物、車窓等のガラス面、フィルム面、透明プラスチック面等に塗工してコーティング層を形成することで、高い視認性を保ちつつ、太陽光の紫外線や赤外線が侵入することを低減又は防止し、紫外線による人体の日焼けや商品・展示物の劣化・損傷を防止するとともに、室内、車内などの内部の温度上昇を抑制することができる等、実用上高い価値を有する技術的効果を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、下記(a)~(d)成分を含有する、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物である。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)有機系紫外線吸収剤;
(d)導電性金属酸化物。
本発明においては、(a)アミノ基を含むシラン化合物1モルに対する(b)ホウ素化合物の量が、0.02から1.0モルの範囲内である。
【0009】
すなわち本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、上記(a)から(d)成分を含有し、かつ、(a)成分と(b)成分とを特定のモル比、具体的には(b)成分/(a)成分のモル比が0.02から1.0の範囲内となるモル比、で含有する。
(a)成分と(b)成分とを上記特定の割合で含有することで、本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、特定の界面活性剤等を必要とすることなく(c)有機系紫外線吸収剤及び(d)導電性金属酸化物を、硬化前のコーティング組成物においても、硬化後のコーティング層においても、安定的に分散させることができ、これによりに高い汎用性を実現するとともに、良好な安定性のコーティング溶液と透明性の優れた塗膜を実現するという顕著な技術的効果を実現することができる。
上記(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)を、上記特定の割合で含有することで、(c)有機系紫外線吸収剤及び(d)導電性金属酸化物を安定的に分散させることができるメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下の事項と何らかの関係が有ることが推定される。
【0010】
上記(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)を、それぞれ必須成分として、特定の割合で含有する。本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物を硬化させて得られる紫外線近赤外線遮蔽コーティング層は、通常、これら(a)成分及び(b)成分を反応させ得られる化学構造を、その少なくとも一部に含む化合物を含有する。また、本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、硬化前においても(a)成分及び(b)成分が一部反応していてもよく、(a)成分及び(b)成分の反応生成物を一部含有していてもよい。
上述の(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)及び(b)成分(ホウ素化合物)を特定の割合で反応させて得られる化学構造は、多くの場合、高分子構造を形成する。典型的には、(b)ホウ素化合物が、(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、(a)アミノ基を含むシラン化合物から導かれる構成単位と(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位とを有する高分子構造が形成される。このような高分子構造の架橋密度等の具体的な構造は、(a)成分と(b)成分の割合に応じて変化し、(b)成分/(a)成分のモル比が0.02から1.0の範囲内にあるとき、(c)有機系紫外線吸収剤及び(d)導電性金属酸化物を分散させるのに適した高分子構造が形成され得ることが推定される。
【0011】
(b)成分/(a)成分のモル比は、0.1から0.75モルであることが好ましく、0.2から0.59モルであることが特に好ましい。
上述の(c)成分及び(d)成分を効果的に分散させる観点に加えて、充分に固化しなかったりすることや塗膜の形成に不具合を発生させる等の問題を効果的に抑制する観点からも、(b)成分/(a)成分のモル比は上記下限値以上であることが好ましく、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまうことや溶液安定性等の問題を効果的に抑制する観点からも、(b)成分/(a)成分のモル比は上記上限値以下であることが好ましい。
(b)成分/(a)成分のモル比は、コーティング組成物の調製の際の各成分の配合割合によって調整/特定することができる。また、既に調整されたコーティング組成物については、重量分析等の化学分析により特定することができる。
【0012】
(a)アミノ基を含むシラン化合物
本発明において用いられる(a)成分は、以下の式で表わされる特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物である。
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)
【0013】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、及びこれらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0014】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0015】
(a)成分中のnは1~3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2~3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
したがって、(a)成分としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが特に好ましい。
【0016】
(b)成分/(a)成分のモル比が上記数値範囲内にある限りにおいて(a)成分の使用量には特に制限は無いが、コーティング組成物全体の質量に基づき、0.5から25質量%使用することが好ましく、2から15質量%使用することが特に好ましい。
【0017】
(b)ホウ素化合物
本発明において用いられる(b)成分は、H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、H3BO3である。
(b)成分/(a)成分のモル比が上記数値範囲内にある限りにおいて(a)成分の使用量には特に制限は無いが、コーティング組成物全体の質量に基づき、0.04から1.2質量%使用することが好ましく、0.1から0.9質量%使用することが特に好ましい。
【0018】
(a)アミノ基を含むシラン化合物と(b)ホウ素化合物とを反応させる際の混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なるため、(c)有機系紫外線吸収剤、(d)導電性金属酸化物等のそれ以外の成分や、得るべき反応生成物やコーティングの物性や使用目的に応じて、これらの条件を適宜調節することが好ましい。
【0019】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1~7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液の形態で用いることができる。炭素数1~7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分中に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0020】
前記好ましい態様における(a)成分と(b)成分との反応生成物は、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。このとき、水を添加して加水分解する工程を要さないため、ゾル・ゲル形成等の複雑な工程を要せず、しかも、長時間を要することなく、上記反応生成物を製造することができる。
【0021】
(c)有機系紫外線吸収剤
本発明において用いられる(c)有機系紫外線吸収剤は、紫外線吸収能を有する有機化学物質であればよく、それ以外の制限は特に課せられないが、入手の容易さ等の観点から、従来より慣用されている有機系紫外線吸収剤を使用することが好ましい。より具体的には、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等を挙げることができ、中でもベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好ましく使用することができる。
【0022】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(TINUVIN 928、BASF製)、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(TINUVIN PS、BASF製)、ベンゼンプロパン酸及び3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ(C7-9側鎖及び直鎖アルキル)のエステル化合物(TINUVIN 384-2、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(TINUVIN 900、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(TINUVIN 928、BASF製)、メチル-3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物(TINUVIN 1130、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(TINUVIN P、BASF製)、2(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(TINUVIN 234、BASF製)、2-〔5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル〕-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール(TINUVIN 326、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール(TINUVIN 328、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(TINUVIN 329、BASF製)、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300との反応生成物(TINUVIN 213、BASF製)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(TINUVIN 571、BASF製)等を挙げることができる。
【0023】
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、具体的には、2,4-ビス-[{4-(4-エチルヘキシルオキシ)-4-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(Tinosorb S、BASF製)、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(TINUVIN 460、BASF製)、2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヒドロキシフェニルと[(C10-C16(主としてC12-C13)アルキルオキシ)メチル]オキシランとの反応生成物(TINUVIN 400、BASF製)、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[3-(ドデシルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ]フェノール)、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと(2-エチルヘキシル)-グリシド酸エステルの反応生成物(TINUVIN 405、BASF製)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(TINUVIN 1577、BASF製)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]-フェノール(ADK STAB LA46、ADEKA製)、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン(TINUVIN 479、BASF社製)等を挙げることができる。
【0024】
ベンゾフェノン系、オキシベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸(無水及び三水塩)、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、4-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンジルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2´,4,4´-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2´-ジヒドロキシ-4,4-ジメトキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0025】
(c)有機系紫外線吸収剤の吸収スペクトルの最大吸収波長は、300~400nmの波長領域に存在することが好ましく、320~380nmの波長領域に存在することがより好ましい。
(c)有機系紫外線吸収剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
(c)有機系紫外線吸収剤の使用量には特に制限は無いが、活性物質(Active ingredient)基準で、コーティング組成物全体の質量に基づき、0.5から5.0質量%使用することが好ましく、1.0から4.0質量%使用することが特に好ましい。(c)有機系紫外線吸収剤の添加量を前記範囲とすることで、紫外線吸収機能を十分に発揮することでき、かつ、コーティング組成物やそれから得られるコーティング層の外観等に問題を生じにくい。
【0026】
(d)導電性金属酸化物
本発明において用いられる(d)成分は、導電性金属酸化物である。(d)成分の導電性金属酸化物は、(近)赤外線遮断材料であり、(d)成分を添加することにより、赤外線、特に近赤外線を効果的に遮断することができる。
【0027】
本発明における(d)成分の導電性金属酸化物としては、導電性を有する金属酸化物であればよく、それ以外の制限はないが、例えば、Au、Ag、Ni、Cu、In、Sn、及びSbから選択される少なくとも1種の金属の酸化物を挙げることができ、好ましくは、ITO(インジウムスズオキサイド)及びATO(アンチモンスズオキサイド)から成る群から選択される少なくとも1種の酸化物である。
【0028】
コーティングが可視光に対して透明であるためには、可視光線に対し、反射及び吸収が十分に小さいことに加え、散乱ができるだけ少ないことが望ましい。したがって、(d)導電性金属酸化物は、散乱を小さくするために可視光の波長の1/2、すなわち、平均粒径が200nmよりも小さい超微粒子であることが特に好ましい。
【0029】
コーティング組成物から得られる膜の可視光における透明性は濁度全透過光に占める散乱光成分の割合)により判断されるが、濁度が10%を超えると曇りを感じるため、透明性であるためには、濁度は10%以下とすることが好ましい。そのような10%以下の濁度を達成するには、ITO(インジウムスズオキサイド)やATO(アンチモンスズオキサイド)の超微粒子などの屈折率が約2の粒子を使用する場合には、平均粒径を100nm以下に分散したものを使用するのが好ましい。ただし、平均粒径を小さくし過ぎた場合、透明性は高くなるものの、近赤外線の遮断性が減少してしまうことがあるので、近赤外線の一定レベルの遮断性を得るためには、当該超微粒子を適切に分散させながらも、分散粒径を10nm以上に保つことが好ましい。したがって、可視光における透明性と近赤外線遮断性とのバランスを考慮して、平均粒径を適切な範囲に調整して利用することが好ましい。
【0030】
本実発明における(d)成分の導電性金属酸化物の使用量は、特に限定されないが、紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物全体を100質量部として、好ましくは1~30質量部、より好ましくは5~25質量部、より更に好ましくは10~20質量部である。
【0031】
本発明においては、(d)成分の導電性金属酸化物に加えて、近赤外線吸収色素を併用してもよい。この場合の近赤外線吸収色素は、近赤外線吸収能を有する色素であれば特に限定されないが、例えば、アゾ系、アルミニウム系、アントラキノン系、シアニン系、ジイモニウム系、ジオール金属錯体系、ノスクアリリウム系及びフタロシアニン系の近赤外線吸収色素から選択される少なくとも1種の近赤外線吸収色素を挙げることができる。その中でも、ジイモニウム系及びフタロシアニン系の近赤外線吸収色素が好ましい。このよう近赤外線吸収色素としては、[ビス(4-t-ブチル-1,2-ジチオフェノレート)銅-テトラ-n-ブチルアンモニウム](住友精化株式会社製BBT)、1,1,5,5-テトラキス[4-(ジエチルアミノ)フェニル]-1,4-ペンタジエン-3-イリウム-P-トルエンスルホナート(昭和電工株式会社製Karenz IR-T)、フタロシアニン化合物(山本化成社製TKR-2040)などを挙げることができる。
【0032】
(e)有機官能基含有シラン化合物
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、好ましくは更に(e)有機官能基含有シラン化合物((a)成分に該当するものを除く)を含有することができる。
したがって、本実施形態のコーティング組成物の反応により形成され得る高分子物質は、上記(a)成分及び(b)成分の反応生成物である高分子構造が、更に(e)有機官能基含有シラン化合物で変性された構造を有していてもよい。
すなわち、前記(a)成分及び(b)成分の反応に際して、あるいは、反応後、有機官能基含有シラン化合物((e)成分)を添加することができる。(e)有機官能基含有シラン化合物、好ましくは金属アルコキシド、を添加することにより、高分子構造を適宜調整したり、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めるたりすることができ、機械特性、化学特性等をより向上させることができるとともに、(e)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態とすることができるので、コーティングの性状、物性を用途に応じて適宜調整することができる。
【0033】
本実施形態においては、(e)有機官能基含有シラン化合物は、アルコキシ基含有シラン化合物(以下、「金属アルコキシド」ともいう)であることが好ましい。コーティングの性状、物性を調整する等の観点からは、アルコキシ基含有シラン化合物を使用することが好ましい。一方、良好な基板密着性を実現する等の観点からは、エポキシ基含有シラン化合物を使用することもできる。
(e)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドからは、上記(a)成分に該当する化合物(特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物)は除外されるが、それ以外の制限は適用されず、上記(a)成分に該当しない限り、一般に金属アルコキシドに分類される化合物、すなわち少なくとも1の金属原子と、少なくとも1のアルコキシ基を有する化合物を、金属アルコキシドとして使用することができる。
【0034】
(e)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドの金属としては、Siに加えて、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、アルコキシドの形成の容易さなどから、Si、Ti、Zrであり、また、(e)成分は液体であることが好ましいため、これを実現する観点からSi、Tiが特に好ましい。金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。特に好ましい金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
金属アルコキシドは多量体であってもよく、例えばテトラエトキシシランの5量体等を好適に使用することができる。単量体と5量体とを組み合わせて使用してもよい。
【0035】
(e)成分として好ましく用いられるエポキシ基含有シラン化合物にも特に制限はないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、エポキシ基はとしては、グリシドキシプロピル基、エポキシシクロヘキシル基等のエポキシ基含有アルキル基の形態で存在することが好ましい。
より具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が特に好ましく使用される。
【0036】
(e)有機官能基含有シラン化合物の使用量には特に制限はなく、得られる紫外線近赤外線遮蔽コーティングの用途、所望の特性等に応じて適宜設定することができるが、例えば(a)成分1モルに対して10モル以下の比率で用いることが好ましい。より好ましくは、(a)成分1モルに対して0.1モル~5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(e)成分が0.1モル以上とすることで、基板密着性の向上や、(d)成分(又は所望により(c)成分)を安定的に分散させる等の、(e)成分を添加する効果を十分に発現することができる。また、(e)成分を10モル以下とすることで、白濁の発生等を効果的に抑制することができる。
(e)成分がアルコキシ基含有シラン化合物である場合、その含有量は、コーティング組成物全体の質量を基準として、1~30質量%であることが好ましく、2~15質量%であることが特に好ましい。
【0037】
合成樹脂
本発明のコーティング組成物は、前記(e)金属アルコキシドの代わりにあるいはそれに加えて、合成樹脂を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分、及び(b)成分等の反応に際して、あるいは、反応後、合成樹脂を添加することができる。合成樹脂を加えることで、得られるコーティングにクラック防止性等を付与することができ、本発明のコーティング組成物から形成されるコーティング層の耐久性を向上させることができる。
【0038】
本実施形態において使用することができる合成樹脂は、特に限定されないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。また、ビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなども好ましく使用することができる。その中でも、強度等の樹脂としての特性や、他の成分との反応性、安定性等の観点から、(f)エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0039】
(f)エポキシ樹脂
本発明のコーティング組成物は、各必須成分に加えて、(f)エポキシ樹脂を含有していてもよい。
(f)エポキシ樹脂は、硬化にあたって、上記(a)成分及び(b)成分で構成される高分子構造に取り込まれて高分子構造の一部を構成してもよく、また、該高分子構造を架橋するなどして、(a)成分及び(b)成分の反応生成物の化学構造や物性を変更したりすることができる。本態様のコーティング組成物は、この様に(f)エポキシ樹脂を含有することで、硬化後のコーティングを構成する反応生成物の化学構造や物性に影響を与え、コーティングの反応性や機械的性質等を制御することができる。
【0040】
本実施形態において好ましく使用することができる(f)エポキシ樹脂には特に限定はなく、当業界においてエポキシ樹脂に分類される樹脂、すなわち、高分子構造中のエポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化することが可能な熱硬化性樹脂であればよく、様々な重合度(分子量)を有するエポキシ樹脂を使用することができる。その中でも、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及び、ポリグリコール型エポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂などを好ましく使用することができる。
【0041】
(f)エポキシ樹脂の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(f)エポキシ樹脂の使用量は、前記(a)成分1gに対し、0.01~5gであるのが好ましく、0.1~2gであるのが、より好ましい。すなわち、(f)エポキシ樹脂の添加量が過大でなければ、硬度の低下が抑制される傾向があり、逆に過小でなければ、化学的耐久性の維持が容易となる傾向がある。
【0042】
(g)有機溶媒
本発明のコーティング組成物は、反応の速度や均一性、コーティング塗工の容易性などの観点から、(g)有機溶媒を含むことが好ましい。
上記(g)有機溶媒には特に制限はなく、常温において液体であり、上記各成分、とりわけ(a)から(d)成分を溶解又は分散することができる有機溶媒を適宜使用することができる。
【0043】
一部極性基を有する上記各成分との親和性や、コーティングの被塗工物との親和性との観点からは、上記(g)有機溶媒が、一定の極性を有し水と相溶性を有する、いわゆる水溶性有機溶媒であることが好ましい。
(g)成分として好ましく用いられる水溶性有機溶媒は、希釈剤として働き、水溶性であれば特に限定されないが、例えばアルコール類、エステル類を好ましく使用することができる。なかでも炭素数2から5のアルコールを含む有機溶媒を、(g)成分として用いることが好ましい。
また、メトキシメチルブタノール(MMB)、2-エチル-1-ヘキサノール等の、より高分子量のアルコールを使用又は併用することもできる。
【0044】
有機溶媒は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、あらかじめ混合溶媒を形成してから使用してもよいし、2種以上の溶媒それぞれに、上記各成分の一部を溶解又は分散させてから、それらを組み合わせてもよい。特に、上記(a)成分と(b)成分との反応を進行させるのに好適な溶媒と、上記(c)成分や(d)成分を分散/溶解させるのに好適な溶媒とは異なる場合があるので、そのような場合には後者の態様が好ましい。
【0045】
(g)有機溶媒の使用量には特に制限はなく、上記(a)成分及び(b)成分をはじめとする各成分間の反応効率や、コーティングの塗工における効率や作業性、得られるコーティングの品質等を考慮しながら適宜設定すればよい。
紫外線近赤外線遮蔽コーティングの一般的な使用形態を前提とすれば、(g)有機溶媒の使用量が、コーティング組成物全体の30~90質量%であることが好ましく、40~75質量%であることがより好ましい。
【0046】
(h)界面活性剤
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物には、平滑なコーティング層形成のためのレベリング性の向上や基板密着性の向上等を目的として、更に(h)界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤の種類には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や、他の成分、とりわけ(g)有機溶媒との親和性などに応じて適宜選択することができる。(h)界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0047】
レベリング性や浸透性向上等の観点から、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤等を使用することが特に好ましい。中でも、レベリング性等の観点から、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。
好ましいシリコーン系界面活性剤の具体例としては、DOW社製「VORASURF SZ-1919」、ビックケミー・ジャパン社製「BYK-307」等を、好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン」シリーズ、DIC株式会社製「メガファック」シリーズ、株式会社ネオス製「フタージェント」シリーズ等を挙げることができる。
【0048】
なお、本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、リン酸エステル系界面活性剤及びアクリル系界面活性剤を使用せずとも、(c)有機系紫外線吸収剤及び(d)導電性金属酸化物を安定的に分散させることができる、汎用性の高いコーティング組成物である。
【0049】
(h)界面活性剤の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(h)界面活性剤の使用量が、コーティング組成物の0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
【0050】
(i)光安定化剤
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、形成されたコーティング層の光劣化を防止するため、あるいは(c)有機系紫外線吸収剤の紫外線吸収能を増進するため、(i)光安定化剤を含有することが好ましい。
(i)光安定化剤としては、ラジカル補足機能を有する各種化合物を使用可能であるが、実用的にはヒンダードアミン光安定剤を好ましく用いることができる。ヒンダードアミン光安定剤は通称HALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼ばれ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造を基本骨格とする化合物である。
【0051】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) スクシネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス(N-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) セバケート、ビス(N-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(N-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、ビス(1-アクロイル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル) 2,2-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルデカンジオエート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル メタクリレート、4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-1-[2-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールおよび1-トリデカノールとの混合エステル化物が挙げられる。
【0052】
(i)光安定化剤の使用量には特に制限は無いが、コーティング組成物全体の質量に基づき、0.01から5.0質量%使用することが好ましく、0.1から1.0質量%使用することが特に好ましい。また、(c)有機系紫外線吸収剤1質量部に対して、0.002から10.0質量部、より好ましくは0.02から2.0質量部使用することが好ましい。
【0053】
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物には、必須構成成分である(a)から(d)成分、及び上記にて説明した各任意成分以外にも、その用途に応じて、酸化亜鉛等の(c)有機系紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤、着色剤、防黴剤、光触媒材料、防錆剤、防食剤、防藻剤、撥水剤、撥油剤、導電性材料、基材湿潤剤、親水性材料、吸水性材料等の各種添加剤を配合することができる。
【0054】
紫外線近赤外線遮蔽コーティング層及びその製造方法
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物を、基材上に塗布して硬化させることで、紫外線近赤外線遮蔽コーティング層を製造することができる。
すなわちこの実施形態の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法は、上記(c)有機系紫外線吸収剤及び(d)導電性金属酸化物の存在下、上記(a)成分、及び(b)成分を反応させる工程を有する。コーティング組成物を製造する工程は、コーティング層を製造する工程より予め前に終了しておいても良いし、コーティング層を製造する工程の直前に行っても良い。コーティング層を製造する工程の直前に行う場合には、それぞれコーティング組成物の成分の一部を含有する第1液と第2液とからなる2液タイプのコーティング剤を用意し、コーティング層を製造する工程の直前に第1液と第2液とを混合してコーティング組成物を製造してもよい。この場合において第1液と第2液とが含有すべき成分には特に制限は無いが、第1液が上記(a)成分、(b)成分等を含有することが好ましく、第2液が上記(c)成分、(d)成分等を含有することが好ましい。
上記(a)成分、と(b)成分とを反応させる工程は、(g)有機溶媒中で実施されることが好ましい。
上記(a)成分及び(b)成分を反応させる工程においては、更に(e)有機官能基含有シラン化合物((a)成分に該当するものを除く)、(f)エポキシ樹脂等の合成樹脂、(h)界面活性剤等を併用することができる。
【0055】
本実施形態の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の製造方法においては、本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物をディッピング、スプレー塗布、ロール塗布、刷毛塗り等の方法で基材の表面に塗布することができる。1回の塗布でコーティング層を形成してもよいし、2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成してもよい。2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成する場合には、塗布後にコーティング組成物を硬化させた後に、更に塗布を行ってもよいし、硬化させないまま塗布を繰り返し、全ての塗布が終了した後に、コーティング組成物を硬化させてもよい。
硬化にあたり加熱は必須ではないが、加熱することにより硬化時間を短縮することができる。
【0056】
紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物の塗布量には特に制限は無いが、基材の面積100cm2あたり、1g~50gであることが好ましく、2g~40gであることが特に好ましく、5.0g以上であることがとりわけ好ましい。塗布量が基材の面積100cm2あたり、5.0g以上であることで、十分な厚さの紫外線近赤外線遮蔽コーティング層を形成することができる。
【0057】
硬化後の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層の厚みには特に限定はなく、紫外線近赤外線遮蔽コーティングの目的、要求物性、コーティング付き部材の使用態様等に応じて適宜設定することが可能であるが、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることが特に好ましい。
硬化後の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層は、良好な紫外線遮蔽能及び好ましくは良好な近赤外線遮蔽能をも実現することが可能であり、例えば波長280~380nmにおける光線透過率が20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下、かつ、波長780~2500nmにおける光線透過率が40%以下であることが好ましい。
なお、高い遮熱効果を実現する観点からは、長波長側で2500nm程度までの赤外線を遮蔽することが好ましく、例えば、波長780~2500nmにおける光線透過率が35%以下であることが特に好ましい。
【0058】
本実施形態の紫外線近赤外線遮蔽コーティング層が形成される基材は、特に限定されないが、紫外線遮蔽コーティングの特質を有効に発揮する観点からは、可視光の透過性が高い透明基材上に形成されることが好ましく、例えばガラス基材、透明プラスチック基材、透明セラミック基材上に形成することが特に好ましいが、これらには限定されない。
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング組成物は、それから得られるコーティングの塗膜透明性、紫外線遮蔽機能及び近赤外線遮蔽機能を従来技術の限界を超えた高いレベルで実現できるので、建築物の窓材、自動車等の輸送機械の窓材等の、太陽光にさらされる一方で高い視認性が求められる部材において特に好適に使用することができる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例/比較例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0060】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(溶液外観)
各実施例/比較例においてコーティング組成物として調製した試料の外観を目視観察した。
(試験片作製)
各実施例/比較例で得られたコーティング組成物を、ガラス板にローラで約40g/m2の塗布量になるように塗布して20℃、相対湿度60%または室温で自然硬化させることで試験片を作製し、塗膜透明性、近赤外線、可視光線、及び紫外線透過率、濁度、及び指触乾燥時間を評価した。
(塗膜透明性)
上述の方法に従って作製した試験片を目視にて観察し、以下の基準に従って評価した。
〇:曇りや白濁現象が無く、ガラスの反対側が透けて見える状態。
△:若干の曇りや白濁現象が有り、ガラスの反対側が透けて見える状態。
×:曇りや白濁現象が有り、ガラスの反対側が透けて見えない状態。
(近赤外線透過率)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長780nm~2500nmの光線の透過率を測定した。
(可視光透過率)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長380nm~780nmの光線の透過率を測定した。
(濁度)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計(日立ハイテクサイエンス製、型番:UH5700及びφ60積分球付属装置)で可視光(380~780nm)の濁度を測定した。
(紫外線透過率)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、分光光度計で波長280nm~380nmの光線の透過率を測定した。
(指触乾燥時間)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、試料が指先に付着しなくなるまでに要した時間を測定した。
(耐光性)
上述の方法に従って作製した試験片を用いて、メタルハライドランプ式スーパーUVテスター(岩崎電気製、型番:SUV-W262)で275時間照射後の塗膜外観を目視観察した。
【0061】
(実施例1)
表1に示す質量比で各成分を混合してコーティング組成物を調製し、上記各評価に供した。調製の際、ホウ素化合物((b)成分)にシラン化合物((a)成分及び(e)成分)を十分に反応させた後、他の成分を添加した。
結果を表1に示す。
なお、表1に示す「モル比」は、(a)成分の量1モルに対する、各成分の相対的なモル数である。
また、表1に記載の各成分の詳細は、以下のとおりである。
(e) エチルシリケート40
テトラエトキシシラン5量体(平均) コルコート株式会社製エチルシリケート40
(e) エチルシリケート28
テトラエトキシシラン単量体 コルコート株式会社製 エチルシリケート28
(a) KBE-903
γ-アミノプロピルトリエトキシシラン 信越化学工業株式会社製 KBE-903
(b) ホウ酸
H3BO3
(f) EX-252
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂 ナガセケムテックス株式会社製 EX-252
(g) MMB
メトキシメチルブタノール
(h) VORASURF SZ-1919
シリコーン系界面活性剤 DOW社製 VORASURF SZ-1919
(c) Tinuvin384-2 (A.I. 95%)
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 BASF社製 Tinuvin 384-2
活性物質95質量%
(c) Tinuvin400 (A.I. 85%)
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤 BASF社製 Tinuvin 400 活性物質85質量%
(i) Tinuvin249
>N-Rタイプヒンダードアミン系光安定化剤 BASF社製 Tinuvin 249
(d) ATO-MMB分散液
ATO(スズ-アンチモン系酸化物)-MMB(メトキシメチルブタノール)分散液
ATO含量30%
平均粒径:20nm
三菱マテリアル株式会社製
【0062】
(実施例2から11、比較例1から5)
各成分の配合を表1に示すものにそれぞれ変更したことを除くほか、実施例1と同様にしてコーティング組成物を調製し、上記各評価に供した。
結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
【表2】
本発明の条件を満たす各実施例においては、良好な溶液外観を有するコーティング溶液、及び良好な塗膜透明性を有するともに十分な紫外線遮蔽機能及び近赤外線遮蔽機能を有するコーティング層が実現された。(a)アミノ基を含むシラン化合物に対する(b)ホウ素化合物のモル数が本発明の条件を満たさない比較例1及び2は、溶液外観又は塗膜透明性に問題を生じた。(c)有機系紫外線吸収剤及び/又は(d)導電性金属酸化物を使用しない比較例3から5は、十分な紫外線遮蔽機能及び/又は近赤外線遮蔽機能を実現することができなかった。
本発明の紫外線近赤外線遮蔽コーティング用組成物は、調製、保管、塗工等の自由度が高く、紫外線遮蔽機能及び近赤外線遮蔽機能を有しかつ可視光における透明性に優れるコーティング層を形成可能なので、建築物、自動車等の窓材等の、太陽光にさらされる一方で高い視認性が求められる部材において特に好適に使用することができ、建築、建設、自動車等の輸送機械、電気電子機器等の産業の各分野において、高い利用可能性を有する。