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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116377
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】故障予測装置、及び、故障予測方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D19/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141772
(22)【出願日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2022018629
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】田邊 史夏
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA09
3H131BA11
3H131BA16
3H131CA41
(57)【要約】
【課題】真空ポンプの故障の可能性を予測するためのデータを生成する。
【解決手段】故障予測装置10は、記憶部101と、制御部102と、を備える。制御部102は、真空ポンプ1で発生した異常の履歴を表す異常発生履歴HISを、複数の真空ポンプ1から取得し、異常発生履歴HISを集計することで、真空ポンプ1で発生した異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報CIを生成し、発生回数情報CIに基づいて、複数の真空ポンプ1について異常の発生状態を相対比較可能な分類データCDを生成して記憶部101に記憶する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータをモータにより回転駆動してガスを排気する真空ポンプの故障を予測する故障予測装置であって、
記憶部と、制御部と、を備え、
前記制御部は、
真空ポンプで発生した異常の発生履歴を表す異常発生履歴を、複数の真空ポンプから取得し、
前記異常発生履歴を集計することで、真空ポンプで発生した前記異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報を生成し、
前記発生回数情報に基づいて、複数の真空ポンプについて前記異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成して記憶部に記憶する、
故障予測装置。
【請求項2】
前記制御部は、複数の真空ポンプを異常の発生状態が類似しているグループ毎にグループ分けしたデータを前記分類データとして生成する、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記発生回数情報に含まれる異常の種類毎の発生回数を説明変数として教師なし学習によるクラスタリングを実行することで、前記グループ分けを実行する、請求項2に記載の故障予測装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記クラスタリングを実行する前に、前記発生回数に対して標準化処理を実行する、請求項3に記載の故障予測装置。
【請求項5】
前記制御部は、真空ポンプの異常発生履歴を入力したときに、当該真空ポンプが故障する可能性についての判定結果を出力する学習モデルを用いて、真空ポンプが故障する可能性を予測し、
前記学習モデルは、分類データの特定のグループに含まれる真空ポンプの過去の異常発生履歴と、当該真空ポンプが故障する可能性についての判定結果と、を教師データとして用いて学習される、
請求項2に記載の故障予測装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記発生回数情報に含まれる異常の種類毎の発生回数を多い順に並べたデータを前記分類データとして生成する、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項7】
前記制御部は、発生回数により表示色を異ならせた前記分類データを生成する、請求項6に記載の故障予測装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記分類データに基づいて、真空ポンプが故障する可能性を予測する、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項9】
前記異常には、真空ポンプの振動に関する異常が含まれる、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項10】
前記異常には、真空ポンプの温度に関する異常が含まれる、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項11】
前記異常には、真空ポンプの負荷に関する異常が含まれる、請求項1に記載の故障予測装置。
【請求項12】
ロータをモータにより回転駆動してガスを排気する真空ポンプの故障を予測する故障予測方法であって、
真空ポンプで発生した異常の履歴を表す異常発生履歴を、複数の真空ポンプから取得するステップと、
前記異常発生履歴を集計することで、真空ポンプで発生した前記異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報を生成するステップと、
前記発生回数情報に基づいて、複数の真空ポンプについて前記異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成するステップと、
を備える、故障予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプの故障の発生を予測する異常予測装置、及び、故障の発生を予測する故障予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプには、ロータをモータにより回転駆動してガスを排気するものがある。この真空ポンプでは、例えば、ロータシャフトの振動、ロータの回転数、モータ電流値、ポンプ温度などを稼働データとしてロギングし、稼働データに異常が見られればウォーニングやアラームを発報している(例えば、特許文献1を参照)。これにより、真空ポンプにおいて発生している異常を早急に認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-287573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、真空ポンプでは、例えば、ロータに備わるロータ翼が破損する、真空ポンプが起動できないなどの故障が発生することがある。従来、これらの故障の多くは、上記の稼働データからは発生の予測が難しいと考えられていた。なぜなら、稼働データは、センサ等の測定結果に過ぎず、故障の発生を把握可能な状態で出力されていないからである。このように、従来、故障の多くは予兆なく発生し、故障の予兆を事前に把握することができないと考えられていた。この結果、故障に対して事前に対応することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る故障予測装置は、ロータをモータにより回転駆動してガスを排気する真空ポンプの故障を予測する装置である。故障予測装置は、記憶部と、制御部と、を備える。制御部は、真空ポンプで発生した異常の履歴を表す異常発生履歴を、複数の真空ポンプから取得し、異常発生履歴を集計することで、真空ポンプで発生した異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報を生成し、発生回数情報に基づいて、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成して記憶部に記憶する。
【発明の効果】
【0006】
上記の故障予測装置では、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成している。これにより、異常の発生状態を複数の真空ポンプについて相対比較して、いずれの真空ポンプにおいて故障する予兆が見られるかを、異常が発生しているが故障には至っていない段階で把握することができる。その結果、例えば、故障の予兆が見られる真空ポンプに対して、真空ポンプの修理等の対応を事前にとることができる。また、上記の分類データから、真空ポンプが適切に使用されているか否かを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】真空ポンプシステムの構成を示す図である。
図2】真空ポンプの構成を示す図である。
図3】ポンプ制御装置の構成を示す図である。
図4】故障予測装置の構成を示す図である。
図5】異常発報動作を示すフローチャートである。
図6】異常発生履歴の一例を示す図である。
図7】真空ポンプの分類動作を示すフローチャートである。
図8A】各真空ポンプから取得された異常発生履歴の一例を示す図である。
図8B】各真空ポンプから取得された異常発生履歴の一例を示す図である。
図8C】各真空ポンプから取得された異常発生履歴の一例を示す図である。
図8D】各真空ポンプから取得された異常発生履歴の一例を示す図である。
図8E】各真空ポンプから取得された異常発生履歴の一例を示す図である。
図9】発生回数情報の一例を示す図である。
図10】分類データの一例を示す図である。
図11】分類データの他の例を示す図である。
図12】分類データのさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<真空ポンプシステム>
以下、真空ポンプ1が故障する可能性を予測する故障予測装置10を説明する。まず、図1を用いて、故障予測装置10を備える真空ポンプシステム100を説明する。図1は、真空ポンプシステム100の構成を示す図である。真空ポンプシステム100は、例えば、プロセスチャンバー(図示せず)内で各種プロセスを実行することで、半導体素子等を製造する半導体工場に設けられる。真空ポンプシステム100は、複数の真空ポンプ1と、故障予測装置10と、を備える。
【0009】
複数の真空ポンプ1は、プロセスチャンバーなどの排気対象の真空排気を行う。なお、真空ポンプシステム100において、1つの排気対象が1台の真空ポンプ1で真空排気されてもよいし、1つの排気対象が複数の真空ポンプ1のうちのいくつかの真空ポンプ1で真空排気されてもよい。
【0010】
故障予測装置10は、ネットワークNを介して、複数の真空ポンプ1に接続され、複数の真空ポンプ1のいずれかが故障する可能性を予測する。故障予測装置10は、複数の真空ポンプ1のそれぞれから、各真空ポンプ1で発生した異常の発生履歴(以下、異常発生履歴HISと呼ぶ)を取得し、取得した異常発生履歴HISに基づいて、複数の真空ポンプ1を、異常の発生状態が類似しているグループ毎に分類する。故障予測装置10は、この分類結果に基づいて、複数の真空ポンプ1のいずれかが故障する可能性を予測する。
【0011】
故障予測装置10は、CPU、記憶装置(RAM、ROM、HDD、SSDなど)、通信インタフェースなどの各種インタフェースにて構成されたコンピュータシステムである。故障予測装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、携帯端末である。その他、故障予測装置10は、例えば、クラウドサーバなどのサーバであってもよい。ネットワークNは、例えば、無線LAN、有線LAN、WANなどのネットワーク回線、真空ポンプ1に備わる独自の通信線などである。
【0012】
ここで、真空ポンプ1で発生する「異常」とは、真空ポンプ1に設けられたセンサの測定値が、通常の値からはずれていることを意味する。一方、真空ポンプ1の「故障」とは、真空ポンプ1の部品(の一部)が破損等することで真空ポンプ1が動作しない状態となることを意味する。
【0013】
<真空ポンプ>
図2を用いて、真空ポンプシステム100に備わる真空ポンプ1を説明する。図2は、真空ポンプ1の構成を示す図である。真空ポンプ1は、ハウジング2と、ベース3と、ロータ4と、ステータ5と、ポンプ制御装置6と、を含む。
【0014】
ハウジング2は、第1端部11と、第2端部12と、第1内部空間SP1とを含む。第1端部11には吸気口13が設けられている。第1端部11は、排気対象(図示せず)に取り付けられる。第1内部空間SP1は、吸気口13に連通している。第2端部12は、ロータ4の軸線A1の延長方向において、第1端部11の反対に位置している。第2端部12は、ベース3に接続される。ベース3は、ベース端部14を含む。ベース端部14は、ハウジング2の第2端部12に接続される。
【0015】
ロータ4は、シャフト21に接続されている。シャフト21は、軸線A1の延長方向に延びている。シャフト21は、ベース3に回転可能に収納されている。ロータ4は、複数段のロータ翼22と、ロータ円筒部23と、を含む。複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21に接続されている。複数のロータ翼22は、軸線A1の延長方向に互いに間隔をおいて配置されている。図示を省略するが、複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のロータ翼22の1つのみに符号が付されており、他のロータ翼22の符号は省略されている。ロータ円筒部23は、複数段のロータ翼22の下方に配置されている。ロータ円筒部23は、軸線A1の延長方向に延びている。
【0016】
ステータ5は、複数段のステータ翼31と、ステータ円筒部32と、を含む。複数段のステータ翼31は、ハウジング2の内面に接続されている。複数段のステータ翼31は、軸線A1の延長方向において、互いに間隔をおいて配置されている。複数段のステータ翼31は、それぞれ複数段のロータ翼22の間に配置されている。図示を省略するが、複数段のステータ翼31は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のステータ翼31の2つのみに符号が付されており、他のステータ翼31の符号は省略されている。ステータ円筒部32は、ベース3に熱的に接触した状態で固定されている。ステータ円筒部32は、ロータ円筒部23の径方向において、わずかな隙間を空けてロータ円筒部23と向かい合って配置されている。ステータ円筒部32の内周面には、らせん状溝が設けられている。
【0017】
図2に示すように、ロータ円筒部23とステータ円筒部32の排気下流側の端部のさらに下流側には、第2内部空間SP2が形成されている。第2内部空間SP2には、取付対象から排気されたガスが排気される。第2内部空間SP2は、排気口16に連通している。排気口16は、ベース3に設けられる。排気口16には、他の真空ポンプ(図示せず)が接続される。
【0018】
ポンプ制御装置6は、ベース3の下部に設けられた筐体33の内部に収納され、真空ポンプ1を制御する。また、ポンプ制御装置6は、後述する変位センサ44A~44Cにて測定されたシャフト21の浮上位置、電流値測定装置にて測定されたモータ42に供給される電流値、回転数センサ43にて測定されたロータ4の回転数が正常値の範囲にない場合に、真空ポンプ1にて異常が発生したことを通知するアラーム又はウォーニングを発報する。ポンプ制御装置6は、CPU、ROMなどの記憶装置、各種インタフェース等を備えるコンピュータシステムである。
【0019】
真空ポンプ1は、複数の軸受41A~41Eと、モータ42と、回転数センサ43を含む。複数の軸受41A~41Eは、ベース3のシャフト21を収納した位置に取り付けられている。複数の軸受41A~41Eは、ロータ4を回転可能に支持する。軸受41A、41Eは、例えば、ボールベアリングである。一方、他の軸受41B~41Dは、磁気軸受である。磁気軸受である軸受41B~41Dは、それぞれ、軸受電磁石と変位センサ44A~44C(図3)とを備えおり、変位センサ44A~44Cによりシャフト21の浮上位置等が検出される。
【0020】
モータ42は、ロータ4を回転駆動する。モータ42は、モータロータ42Aとモータステータ42Bとを含む。モータロータ42Aは、シャフト21に取り付けられている。モータステータ42Bは、ベース3に取り付けられている。モータステータ42Bは、モータロータ42Aと向かい合って配置されている。モータ42には、モータ42に供給される電流値を測定するモータ電流測定装置45(図3)が接続されている。回転数センサ43は、シャフト21(すなわち、ロータ4)の回転数を測定する。
【0021】
ベース3の外壁には、ベース3の温度を制御するためのヒータ51および不図示の冷却水配管が設けられている。ベース3の温度は温度センサ52によって検出される。温度センサ52によって検出された温度に基づいて、ヒータ51によるベース3の加熱と冷却水配管を流れる冷却水による冷却とのバランスにより、ベース3の温度が制御される。また、ヒータ51には、ヒータ51に供給される電流を測定するヒータ電流測定装置53(図3)が接続されている。
【0022】
真空ポンプ1では、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とは、ターボ分子ポンプ部を構成する。また、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とは、ネジ溝ポンプ部を構成する。真空ポンプ1では、モータ42によってロータ4が回転することで、吸気口13から第1内部空間SP1へガスが流入する。第1内部空間SP1のガスは、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部を通過して、第2内部空間SP2に排気される。第2内部空間SP2のガスは、排気口16から排気される。この結果、吸気口13に取り付けられた取付対象の内部が、高真空状態となる。
【0023】
<ポンプ制御装置の構成>
図3を用いて、ポンプ制御装置6の構成を説明する。図3は、ポンプ制御装置6の構成を示す図である。ポンプ制御装置6は、記憶部61と、ポンプ制御部62と、を有する。記憶部61は、ポンプ制御装置6を構成する記憶装置に設けられた記憶領域の一部又は全部である。記憶部61は、真空ポンプ1に関する各種パラメータ、真空ポンプ1を制御するためのプログラム等を記憶する。具体的には、記憶部61は、異常発報条件CONを記憶している。異常発報条件CONは、真空ポンプ1にて発生した異常を発報する条件を定める。具体的には、異常発報条件CONは、以下の異常を発報することを定める。
【0024】
異常発報条件CONは、回転数センサ43にて測定されたロータ4の回転数が所定の回転数以下となったときに、ロータ4の回転数の異常を発報することを定める。この回転数の異常は、真空ポンプ1の負荷に関する異常であり、真空ポンプ1が過負荷状態であることを示している。「過負荷状態」とは、ロータ4を決められた回転数まで回転するために必要なモータ42のトルクが通常よりも過大となっている状態を意味する。真空ポンプ1が過負荷状態であることは、例えば、真空ポンプ1の内部に生成物が多く堆積している状態であることを示している。この状態が長期間継続すると、堆積した生成物が真空ポンプ1のロータ翼22に接触してロータ翼22を破損する故障が発生する可能性がある。
【0025】
異常発報条件CONは、変位センサ44A~44Cにて測定されたシャフト21の位置が所定の変動幅以上で変動しているとき、又は、シャフト21の位置が軸線A1から所定の範囲でずれているときに、シャフト21(ロータ4)の位置の異常を発報することを定める。シャフト21の位置の異常は、真空ポンプ1の振動に関する異常であり、真空ポンプ1が振動している状態であることを意味する。真空ポンプ1に振動が生じている場合、例えば、真空ポンプ1のロータ翼22が他の部品(例えば、ステータ翼31)などに接触する可能性がある。この結果、真空ポンプ1に振動が生じていると、ロータ翼22(及びステータ翼31)が破損する可能性がある。
【0026】
異常発報条件CONは、モータ電流測定装置45にて測定されたモータ42の電流値が所定の値以上となったときに、モータ42の電流の異常を発報することを定める。このモータ42の電流の異常は、モータ42が過大なトルクを発生した状態で動作していることを示している。すなわち、モータ42の電流の異常は、真空ポンプ1の負荷に関する異常であり、真空ポンプ1が過負荷状態であることを示している。
【0027】
異常発報条件CONは、温度センサ52にて測定されたベース3の温度が所定の温度以下であり、及び/又は、ヒータ電流測定装置53にて測定されたヒータ51の電流値が所定の値以下であるときに、真空ポンプ1の温度に関する異常を発報する。真空ポンプ1の温度に関する異常は、真空ポンプ1の温度調節が適切にできていない状態を示している。真空ポンプ1の温度調節が適切にできていないと、真空ポンプ1の内部に生成物が堆積し、この生成物がロータ翼22に接触してロータ翼22が破損する可能性がある。温度に関する異常は、例えば、ヒータ51の断線、ヒータ51の接続忘れ、温度センサ52の故障などに起因することが多い。
【0028】
ポンプ制御部62は、ポンプ制御装置6を構成するCPUと各種インタフェースにより構成されるハードウェア部分であり、真空ポンプ1の制御を実行する。ポンプ制御部62は、真空ポンプ1の制御に関する機能を、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することにより実現する。また、一部の機能は、ポンプ制御部62に含まれるハードウェアにより実現されてもよい。
<故障予測装置>
以下、図4を用いて、故障予測装置10の構成を説明する。図4は故障予測装置10の構成を示す図である。故障予測装置10は、記憶部101と、制御部102と、を有する。記憶部101は、故障予測装置10を構成する記憶装置に設けられた記憶領域の一部又は全部である。記憶部101は、故障予測のための情報及びデータ、制御部102を動作させるためのプログラム等を記憶する。
【0029】
制御部102は、故障予測装置10を構成するCPUと各種インタフェースにより構成されるハードウェア部分であり、真空ポンプ1の故障予測に関する機能を実現する。制御部102は、真空ポンプ1の故障予測に関する機能を、記憶部101に記憶されたプログラムを実行することにより実現する。また、一部の機能は、制御部102に含まれるハードウェアにより実現されてもよい。
【0030】
<異常発報動作>
以下、図5を用いて、真空ポンプ1の異常の発報動作を説明する。図5は、異常発報動作を示すフローチャートである。この異常発報動作は、真空ポンプシステム100に含まれる各真空ポンプ1のポンプ制御装置6で実行される。
【0031】
真空ポンプ1が起動されると、ポンプ制御部62が、回転数センサ43にて測定されたロータ4の回転数、変位センサ44A~44Cにて測定されたシャフト21の位置、モータ電流測定装置45にて測定されたモータ42の電流値、温度センサ52にて測定されたベース3の温度、及び、ヒータ電流測定装置53にて測定されたヒータ51の電流値、を取得する(ステップS1)。
【0032】
次に、ポンプ制御部62が、ステップS1で取得したロータ4の回転数、シャフト21の位置、モータ42の電流値、ベース3の温度、及びヒータ51の電流値と、異常発報条件CONに示された異常発報の条件となる各測定値と、を比較する(ステップS2)。この比較の結果、上記のいずれかのセンサの測定値が、異常発報条件CONに示された異常発報の条件となる測定値と一致するか、又は、異常発報の条件となる測定値の範囲内に含まれている場合(ステップS2で「Yes」)、ポンプ制御部62は、異常発報の条件と合致する測定値を示している項目(ロータ4の回転数、シャフト21の振動、モータ42の電流値、ベース3の温度、ヒータ51の電流値)に関する異常を発報する(ステップS3)。その後、ポンプ制御部62は、発報した異常を、異常発生履歴HISに記憶する(ステップS4)。異常の発報と異常発生履歴HISの記録を行った後、ポンプ制御部62は、真空ポンプ1の動作中に、上記のステップS1~S4を所定の周期で繰り返し実行する。
【0033】
上記のステップS1~S4を実行することにより、ポンプ制御部62は、例えば、図6に示すような異常発生履歴HISを生成できる。異常発生履歴HISは、真空ポンプ1でいつどのような異常が発報されたかを表すデータである。異常発生履歴HISは、例えば、異常の発報日時を表す時刻情報TIと、時刻情報TIの各時刻に発報した異常の種類を表す種類情報KIと、が互いに関連付けられたデータである。種類情報KIに含まれる「VIBR.WARN」は、真空ポンプ1に小さな振動が見られていることを示すウォーニングである。「VIBRATION」は、真空ポンプ1に比較的大きな振動が見られていることを示すアラームである。「SENSOR ERROR」は、温度センサ52の測定値が異常であることを示すアラームである。「R.SPEED ERROR」は、ロータ4の回転数が異常であることを示すアラームである。「OVERCURRENT」は、モータ42の電流が過大であることを示すアラームである。図6は、異常発生履歴HISの一例を示す図である。
【0034】
一方、ステップS2の比較の結果、上記のセンサの測定値のいずれもが、異常発報の条件となる測定値と一致しないか又は測定値の範囲内に含まれない場合(ステップS2で「No」)、異常発報動作はステップS1に戻る。
【0035】
<真空ポンプの故障予測動作>
次に、図7を用いて、故障予測装置10において実行される真空ポンプ1の故障予測動作を説明する。図7は、真空ポンプ1の故障予測動作を示すフローチャートである。
【0036】
まず、故障予測装置10の制御部102が、各真空ポンプ1のポンプ制御装置6で生成された異常発生履歴HISを取得し、記憶部101に記憶する(ステップS11)。制御部102は、取得した異常発生履歴HISに、当該異常発生履歴HISを生成した真空ポンプ1の識別子(例えば、真空ポンプ1の識別番号)を関連付ける。これにより、記憶部101に記憶された異常発生履歴HISが、いずれの真空ポンプ1から出力されたものであるかを認識できる。
【0037】
以下の説明では、ステップS11を実行することで、例えば、各真空ポンプ1から、図8A図8Eに示すような異常発生履歴HISが取得されたと仮定する。図8Aの異常発生履歴HISは、「真空ポンプ#1」との識別子を有する真空ポンプ1から取得されたと仮定する。図8Bの異常発生履歴HISは、「真空ポンプ#2」との識別子を有する真空ポンプ1から取得されたと仮定する。図8Cの異常発生履歴HISは、「真空ポンプ#3」との識別子を有する真空ポンプ1から取得されたと仮定する。図8Dの異常発生履歴HISは、「真空ポンプ#4」との識別子を有する真空ポンプ1から取得されたと仮定する。図8Eの異常発生履歴HISは、「真空ポンプ#5」との識別子を有する真空ポンプ1から取得されたと仮定する。図8A図8Eは、各真空ポンプ1から取得された異常発生履歴HISの一例を示す図である。
【0038】
次に、制御部102が、記憶部101に記憶された異常発生履歴HISを集計して、真空ポンプ1で発生した異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報CIを生成し、記憶部101に記憶する(ステップS12)。具体的には、制御部102は、例えば、真空ポンプ1の異常発生履歴HISに含まれる異常の種類毎の発生回数を計数し、各異常の発生回数と真空ポンプ1の識別子とを関連付けて、図9に示すような発生回数情報CIを生成する。図9は、発生回数情報CIの一例を示す図である。図9に示す発生回数情報CIは、図8A図8Eに示す5つの異常発生履歴HISを集計して生成された発生回数情報CIである。
【0039】
発生回数情報CIを生成後、制御部102が、ステップS12で生成した発生回数情報CIに基づいて、分類データCDを生成して、記憶部101に記憶する(ステップS13)。分類データCDは、複数の真空ポンプ1について異常の発生状態を相対比較可能なデータである。本実施形態では、制御部102は、複数の真空ポンプ1を、異常の発生状態が類似しているグループ毎にグループ分けしたデータを分類データCDとして生成し、記憶部101に記憶する。制御部102は、発生回数情報CIに含まれる異常の種類毎の発生回数を説明変数として、教師なし学習によるクラスタリング処理を実行することで、複数の真空ポンプ1をグループ分けして分類データCDを生成する。
【0040】
クラスタリングにより、複数の真空ポンプ1を異常の発生状態が類似しているグループ毎に適切にグループ分けするために、制御部102は、クラスタリングを実行する前に、発生回数情報CIに含まれる発生回数に対して標準化処理を実行する。具体的には、例えば、同一種類の異常の発生回数を、実際の発生回数と発生回数の平均値の差を発生回数の標準偏差で割った値に変換することで、標準化を行う。この標準化により、異常の発生回数の平均値と標準偏差を異常の種類によらず同じ値とできるので、複数の真空ポンプ1を、「異常の発生回数が多い/少ない」ではなく、「異常が発生しているか否か」を基準としてグループ分けできる。この結果、複数の真空ポンプ1を、異常の発生状態が類似しているか否かにより正確にグループ分けできる。
【0041】
上記のステップS13を実行することで、制御部102は、例えば、図10に示すような分類データCDを生成できる。図10は、分類データCDの一例を示す図である。図10に示す分類データCDは、図9に示す発生回数情報CIに基づいて生成されたものである。図10に示す分類データCDにおいて、「グループ1」は、「VIBR.WARN」とのウォーニングの発生が顕著である真空ポンプ1が属するグループである。「グループ2」は、「VIBRATION」とのアラームの発生が顕著である真空ポンプ1が属するグループである。「グループ3」は、「OVERCURRENT」とのアラームの発生が顕著である真空ポンプ1が属するグループである。「グループ4」は、「SENSOR ERROR」とのアラームの発生が顕著である真空ポンプ1が属するグループである。
【0042】
なお、分類データCDにおいては、複数の異なる種類の異常の発生傾向が類似しているグループが生成されることがある。このグループに属する真空ポンプ1は、例えば、複数の異常が発生しており、複数の要因で故障する可能性があると判断できる。このように、上記のクラスタリングでは、複数の異常が同時に発生している真空ポンプ1をグループ分けすることができ、複数の要因で故障する可能性があることを予測できる。
【0043】
分類データCDを生成後、制御部102は、記憶部101に記憶された分類データCDに基づいて、複数の真空ポンプ1のいずれかが故障する可能性を予測する。分類データCDを用いた故障の可能性の予測は、例えば、「異常の発生状態がどのような状態のときに故障が発生する可能性が高いか」との知見に基づいて、行うことができる。具体的には、制御部102は、故障予測の対象である真空ポンプ1が分類データCDのいずれのグループに属するかにより、当該真空ポンプ1が故障する可能性を予測できる。
【0044】
例えば、制御部102は、図10に示す分類データCDのグループ2(「VIBRATION」の発生が顕著であるグループ)に属する真空ポンプ1は、振動が大きく、故障が発生する可能性があると予測できる。グループ3(「OVERCURRENT」の発生が顕著であるグループ)に属する真空ポンプ1は、過負荷状態で動作しており、故障が発生する可能性があると予測できる。グループ4(「SENSOR ERROR」の発生が顕著であるグループ)に属する真空ポンプ1は、真空ポンプ1の温度に関する異常があり生成物が堆積しやすい状態となっているため、故障が発生する可能性があると予測できる。また、制御部102は、グループ1(「VIBR. WARN」の発生が顕著であるグループ)に属する真空ポンプ1は、振動が見られるもののその大きさは小さく、故障が発生する可能性はまだ低いと予測できる。
【0045】
さらに、制御部102は、分類データCDに基づいて、使用状態が適切でない真空ポンプ1を特定できる。例えば、分類データCD中の特定のグループに属する真空ポンプ1において、ヒータ51などの温調装置が適切に接続されていないとの異常の発生が顕著である場合、当該特定のグループに属する真空ポンプ1は、ヒータ51により温度が調整されていない状態で使用されており、故障する可能性があると予測できる。
【0046】
上記のように真空ポンプ1が故障する可能性を予測した後、制御部102は、上記の予測結果を通知する。例えば、特定の真空ポンプ1が故障する可能性があると判断した場合、制御部102は、例えば、その真空ポンプ1で故障が発生する可能性がある旨の警報を出力できる。例えば、故障予測装置10から音を発する、故障予測装置10に備わる表示装置(図示せず)に、真空ポンプ1で故障が発生する旨を表示するなどして警報を出力できる。このように、故障の可能性がある真空ポンプ1を故障の発生前に事前に予測できることにより、その故障に対して修理等の対応をとることをユーザに促すことができる。
【0047】
<真空ポンプの他の故障予測方法1>
上記では、分類データCDを用いて真空ポンプ1の故障の可能性を予測していたが、これに限られず、他の方法によっても故障の可能性を予測できる。制御部102は、特定の真空ポンプ1の異常発生履歴HISを入力したときに、当該真空ポンプ1が故障する可能性についての判定結果を出力する学習モデルを用いて、当該真空ポンプ1が故障する可能性があるか否かを予測できる。学習モデルは、例えば、真空ポンプ1の異常発生履歴HISが入力される入力層と、この真空ポンプ1が故障する可能性についての判定結果を出力する出力層と、を有するニューラルネットワークである。このニューラルネットワークは、入力層と出力層との間に中間層を有してもよい。また、ニューラルネットワークは、記憶部101に記憶され制御部102にて実行可能なプログラムにより実現されてもよいし、制御部102の一部であるハードウェアにより実現されてもよい。
【0048】
なお、出力層は、故障が発生する確率を判定結果として出力してもよい。これにより、学習モデルは、故障が発生する可能性があるか否かだけでなく、故障の発生確率を表す判定結果も出力できる。また、出力層は、故障の種類に応じて複数の出力を有してもよい。この場合、学習モデルは、真空ポンプ1で発生する可能性がある故障の種類を特定でき、また、どの故障がどの程度の確率で発生しうるかを判定結果として出力できる。
【0049】
学習モデルを用いて真空ポンプ1の故障の可能性を予測する場合、学習モデルは、分類データCD中の特定のグループに含まれる真空ポンプ1の過去の異常発生履歴HISと、当該真空ポンプ1が故障する可能性についての判定結果と、を教師データとして用いて学習される。
【0050】
具体的には、例えば、図10に示す分類データCDの「グループ2」に属する真空ポンプ1の過去の異常発生履歴HISと、真空ポンプ1の振動が大きく故障が発生する可能性が高いとの判定結果と、を教師データとして学習モデルを学習する。このようにして学習された学習モデルは、例えば、「VIBRATION」とのアラームの発生が顕著な異常発生履歴HISを入力すると、当該異常発生履歴HISを出力した真空ポンプ1は振動により故障する可能性が高いとの判定結果を出力できる。
【0051】
また、上記の教師データに加えて、例えば、図10に示す分類データCDの「グループ1」に属する真空ポンプ1の過去の異常発生履歴HISと、真空ポンプ1の振動が小さく故障が発生する可能性が低いとの判定結果と、を教師データとして用いてさらに学習させることにより、学習モデルは、例えば、「VIBR.WARN.」とのウォーニングの発生が顕著な異常発生履歴HISを入力すると、当該異常発生履歴HISを出力した真空ポンプ1は振動が小さく故障する可能性が低いとの判定結果も出力できる。
【0052】
同様に、他のグループに属する真空ポンプ1の過去の異常発生履歴HISと、当該真空ポンプ1が故障する可能性についての情報と、を教師データとしてさらに学習させることにより、学習モデルは、他の異常(ウォーニング、アラーム)の発生が顕著である異常発生履歴HISを入力したときに、当該異常発生履歴HISを出力した真空ポンプ1が故障する可能性が高いか否かの判定結果も出力できる。
【0053】
さらに、真空ポンプ1の故障予測を行う上記の学習モデルは、その学習が進むと、異常発生履歴HISに内在する未知の特徴的な異常の発生傾向から、真空ポンプ1が故障する可能性が高いか否かの判定結果も出力できる。
【0054】
<真空ポンプの他の故障予測方法2>
その他、制御部102は、真空ポンプ1の稼働時間が所定の時間以上であるか否か、及び、当該真空ポンプ1における特定の異常の発生回数が所定の回数以上であるか否かに基づいて、当該真空ポンプ1が故障する可能性を判定することもできる。真空ポンプ1においてどの異常が何回以上発生したら故障する可能性があるかは、上記の分類データCDを参照し、どのグループに属する真空ポンプ1で故障が発生し、そのグループに属する真空ポンプ1において特定の異常が何回発生しているかを特定することで決定できる。
【0055】
<分類データの他の実施形態>
上記実施形態では、制御部102は、真空ポンプ1の故障の可能性や使用状態の予測に用いる分類データとして、複数の真空ポンプ1を、異常の発生状態が類似しているグループ毎にグループ分けしたデータを生成していた。分類データは、複数の真空ポンプ1について異常の発生状態を相対比較できるデータであれば、他の形態のデータであってもよい。
【0056】
例えば、制御部102は、図11に示すように、発生回数情報CIに含まれるデータを、異常の種類毎に発生回数の多い順に並べかえたデータを分類データCD’として生成してもよい。図11は、分類データCD’の他の例を示す図である。なお、図11に示す分類データCD’は、図9に示す発生回数情報CIに含まれるデータのうち、「VIBR.WARN」との異常(真空ポンプ1に小さな振動が見られていることを示すウォーニング)について、この異常の発生回数の多い順に並べたデータである。分類データCD’では、各異常の発生回数と真空ポンプ1の識別情報とが関連付けられている。
【0057】
「VIBR.WARN」に関する分類データCD’に限られず、例えば、「SENSOR ERROR」(温度センサ52の測定値が異常であることを示すアラーム)に関する分類データCD’、 モータ42が過負荷状態であることを示すアラーム(例えば、「OVERLOAD」)に関する分類データCD’も、上記と同様に、各異常(ウォーニング、アラーム)の発生回数が多い順にデータを並びかえることで生成できる。
【0058】
このような分類データCD’を、例えば、故障予測装置10に備わる表示装置、故障予測装置10に接続された携帯端末、パーソナルコンピュータなどに表示させることで、ユーザは、各異常について、複数の真空ポンプ1のうち、いずれの真空ポンプ1の発生回数が他の真空ポンプ1と比較して大きいかを視覚的に認識できる。分類データCD’を確認したユーザは、例えば、他の真空ポンプ1と比較して異常の発生回数が多い真空ポンプ1、つまり、分類データCD’において上位に配置された真空ポンプ1については、当該異常に関連する故障発生の可能性が高いと予測できる。このように、複数の真空ポンプ1の異常の発生状態(発生回数)を相対比較することで、いずれの真空ポンプ1において故障が発生する可能性が高いかを予測できる。
【0059】
また、制御部102は、図11に示すように、分類データCD’の各データについて異常の発生回数により表示色を異ならせて表示できるよう、分類データCD’を生成する。例えば、分類データCD’の各データを、発生回数が大きいほど濃い色で表示できる。これにより、どの真空ポンプ1において発生回数が多いかを視覚的により認識しやすくなる。例えば、濃い色で表示されている真空ポンプ1については、異常の発生回数が多く、故障の可能性が高いと予測できる。
【0060】
なお、複数の真空ポンプ1における異常の発生回数を相対比較して故障の可能性を予測する際に、他の真空ポンプ1における異常の発生回数と比較してどの程度発生回数が突出していれば、故障の可能性が高いとするかは、相対比較する異常の種類、真空ポンプシステム100における真空ポンプ1の使用環境等に応じて、適宜設定できる。例えば、複数の真空ポンプ1における異常の発生回数の平均値よりも所定の値だけ大きい発生回数以上、所定の閾値以上の発生回数を、他の真空ポンプ1と比較して突出した発生回数と判断し、当該発生回数の真空ポンプ1において故障の可能性が高いと判断できる。
【0061】
いずれの真空ポンプ1において故障の可能性が高いかを、制御部102が自動的に予測することもできる。例えば、故障の可能性が高いと判断する発生回数の基準値(例えば、発生回数の平均値よりも所定の値だけ大きい値、所定の閾値)を異常の種類毎に記憶部101に記憶しておき、制御部102が、いずれかの異常について上記基準値以上の発生回数を有する真空ポンプ1が存在しているか否かを判断し、存在している場合には、当該真空ポンプ1において故障の可能性が高いと予測できる。
【0062】
複数の真空ポンプ1における異常の発生回数を相対比較する分類データとして、制御部102は、例えば、図12に示すような、特定の種類の異常について、各真空ポンプ1の発生回数を棒グラフで表示する分類データCD’’を生成することもできる。図12は、分類データCD’’のさらに他の例を示す図である。なお、図12に示す分類データCD’’は、図9に示す発生回数情報CIに含まれるデータのうち「VIBR.WARN」との異常についての発生回数を、真空ポンプ1毎に棒グラフとして表したデータである。
【0063】
このような分類データCD’’においては、棒グラフの高さを比較することで、複数の真空ポンプ1における異常の発生回数を相対比較できる。例えば、棒グラフの高さが他の棒グラフよりも高い場合には、当該棒グラフで表されている発生回数が他の発生回数よりも突出しており、当該棒グラフを有する真空ポンプ1において故障の可能性が高いと予測できる。
【0064】
図12に示すような分類データCD’’においては、発生回数の最小値(Min)と、最大値(Max)と、平均値(Avg)と、が表示されている。これにより、発生回数の相対比較をしやすくなる。例えば、ある真空ポンプ1における異常の発生回数が、発生回数の平均値と比較してどの程度大きいか(すなわち、平均値からどの程度突出しているか)又はどの程度小さいかを判断しやすくなる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0066】
例えば、発生回数情報CIにおいて、発生回数の数値及び分布が、異常の種類によらず大きく異ならない場合は、クラスタリング前の標準化処理は特に必要でない。
【0067】
真空ポンプ1から発生する異常の種類、及び/又は、真空ポンプ1が故障する可能性を予測するために用いる異常の種類は、真空ポンプ1の使用状況等に応じて適宜変更できる。
【0068】
同一種類の異常について、センサの取り付け位置等に応じて複数の異常(ウォーニング、アラーム)を発報してもよい。
【0069】
上記の実施形態に係る真空ポンプ1において、ターボ分子ポンプ部は省略されてもよい。すなわち、真空ポンプ1は、ネジ溝ポンプであってもよい。
【0070】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0071】
(第1態様)故障予測装置は、ロータをモータにより回転駆動してガスを排気する複数の真空ポンプの故障を予測する装置である。故障予測装置は、記憶部と、制御部と、を備える。制御部は、真空ポンプで発生した異常の履歴を表す異常発生履歴を、複数の真空ポンプから取得し、異常発生履歴を集計することで、真空ポンプで発生した異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報を生成し、発生回数情報に基づいて、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成して記憶部に記憶する。
【0072】
第1態様に係る故障予測装置では、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成している。これにより、異常の発生状態を複数の真空ポンプについて相対比較して、いずれの真空ポンプにおいて故障する予兆が見られるかを、異常が発生しているが故障には至っていない段階で把握することができる。その結果、例えば、故障の予兆が見られる真空ポンプに対して、真空ポンプの修理等の対応を事前にとることができる。また、上記の分類データから、真空ポンプが適切に使用されているか否かを判定できる。
【0073】
(第2態様)第1態様に係る故障予測装置において、制御部は、複数の真空ポンプを異常の発生状態が類似しているグループ毎にグループ分けしたデータを分類データとして生成してもよい。第2態様に係る故障予測装置では、異常の発生状態が類似しており故障する予兆がある真空ポンプを特定することができる。
【0074】
(第3態様)第2態様に係る故障予測装置において、制御部は、発生回数情報に含まれる異常の種類毎の発生回数を説明変数として教師なし学習によるクラスタリングを実行することで、グループ分けを実行してもよい。第3態様に係る故障予測装置では、複数の真空ポンプを、異常の発生状態に応じて適切にグループ分けできる。
【0075】
(第4態様)第3態様に係る故障予測装置において、制御部は、クラスタリングを実行する前に、発生回数に対して標準化処理を実行してもよい。第3態様に係る故障予測装置では、異常の発生状態が類似しているか否かによる真空ポンプのグループ分けをより正確に行うことができる。その結果、分類データを用いた真空ポンプ1の故障の予測を適切に行うことができる。
【0076】
(第5態様)第2態様~第4態様のいずれかに係る故障予測装置において、制御部は、真空ポンプの異常発生履歴を入力したときに、当該真空ポンプが故障する可能性についての判定結果を出力する学習モデルを用いて、真空ポンプが故障する可能性を予測してもよい。この場合、学習モデルは、分類データの特定のグループに含まれる真空ポンプの過去の異常発生履歴と、当該真空ポンプが故障する可能性についての判定結果と、を教師データとして用いて学習されてもよい。第7態様に係る故障予測装置では、真空ポンプの異常発生履歴に基づいて、当該真空ポンプが故障する可能性を予測できる。
【0077】
(第6態様)第1態様に係る故障予測装置において、制御部は、発生回数情報に含まれる異常の種類毎の発生回数を多い順に並べたデータを分類データとして生成してもよい。第6態様に係る故障予測装置では、各異常について、複数の真空ポンプのうち、いずれの真空ポンプの発生回数が他の真空ポンプと比較して大きいかを視覚的に認識できる。
【0078】
(第7態様)第6態様に係る故障予測装置において、制御部は、発生回数により表示色を異ならせた分類データを生成してもよい。第7態様に係る真空ポンプでは、どの真空ポンプにおいて発生回数が多いかを視覚的により認識しやすくなる。
【0079】
(第8態様)第1態様~第7態様のいずれかに係る故障予測装置において、制御部は、記憶部に記憶された分類データに基づいて、真空ポンプが故障する可能性を予測してもよい。第8態様に係る真空ポンプでは、分類データに基づいた故障の可能性の予測を自動的に実行できる。
【0080】
(第9態様)第1態様~第8態様のいずれかに係る故障予測装置において、異常には、真空ポンプの振動に関する異常が含まれていてもよい。第9態様に係る故障予測装置では、真空ポンプの振動に起因した故障の発生を事前に予測できる。
【0081】
(第10態様)第1態様~第9態様のいずれかに係る故障予測装置において、異常には、真空ポンプの温度に関する異常が含まれていてもよい。第10態様に係る故障予測装置では、真空ポンプの温度に起因した故障の発生を事前に予測できる。
【0082】
(第11態様)第1態様~第10態様のいずれかに係る故障予測装置において、異常には、真空ポンプの負荷に関する異常が含まれていてもよい。第6態様に係る故障予測装置では、真空ポンプにかかる負荷に起因した故障の発生を事前に予測できる。
【0083】
(第12態様)第12態様に係る故障予測方法は、ロータをモータにより回転駆動してガスを排気する複数の真空ポンプで発生する故障を予測する方法である。故障予測方法は、真空ポンプで発生した異常の履歴を表す異常発生履歴を、複数の真空ポンプから取得するステップと、異常発生履歴を集計することで、真空ポンプで発生した異常の種類毎の発生回数を表す発生回数情報を生成するステップと、発生回数情報に基づいて、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成するステップと、を備える。
【0084】
第12態様に係る故障予測方法では、複数の真空ポンプについて異常の発生状態を相対比較可能な分類データを生成している。これにより、異常の発生状態を複数の真空ポンプについて相対比較して、いずれの真空ポンプにおいて故障する予兆が見られるかを、異常が発生しているが故障には至っていない段階で把握することができる。その結果、例えば、故障の予兆が見られる真空ポンプに対して、真空ポンプの修理等の対応を事前にとることができる。また、上記の分類データから、真空ポンプが適切に使用されているか否かを判定できる。
【0085】
上記では、種々の実施形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
100 :真空ポンプシステム
1 :真空ポンプ
2 :ハウジング
3 :ベース
4 :ロータ
5 :ステータ
6 :ポンプ制御装置
11 :第1端部
12 :第2端部
13 :吸気口
14 :ベース端部
16 :排気口
21 :シャフト
22 :ロータ翼
23 :ロータ円筒部
31 :ステータ翼
32 :ステータ円筒部
33 :筐体
41A~41E :軸受
42 :モータ
42A :モータロータ
42B :モータステータ
43 :回転数センサ
44A~44C :変位センサ
45 :モータ電流測定装置
51 :ヒータ
52 :温度センサ
53 :ヒータ電流測定装置
SP1 :第1内部空間
SP2 :第2内部空間
10 :故障予測装置
101 :記憶部
102 :制御部
CD、CD’、CD’’ :分類データ
CI :発生回数情報
CON :異常発報条件
HIS :異常発生履歴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9
図10
図11
図12