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特開2023-116382函体連結構造、及び連結函体構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116382
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】函体連結構造、及び連結函体構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 13/02 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
E21D13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166606
(22)【出願日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022018491
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐磨
(72)【発明者】
【氏名】野口 真未
(72)【発明者】
【氏名】粥川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朗太
(72)【発明者】
【氏名】富岡 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄一
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 正佳
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA04
2D155BB03
2D155GB01
2D155GC01
2D155GC02
2D155KB04
2D155LA02
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、隣接するトンネルの函体を容易に連結することができる技術を提供することである。
【解決手段】本願発明の函体連結構造は、地中に構築される2以上の個別函体が連結された連結函体のうち隣接する個別函体どうしを連結する構造であって、継手材と隅角体を備えたものである。隣接する先行個別函体と後続個別函体それぞれの個別函体のフランジ溝にフランジが挿入されるとともに、先行個別函体と後続個別函体それぞれの腹板溝に腹板の一部が挿入されることで、継手材によって先行個別函体と後続個別函体が連結される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に構築される2以上の個別函体が連結された連結函体のうち、隣接する該個別函体どうしを連結する構造であって、
隣接する先行個別函体と後続個別函体とを連結する継手材と、
前記先行個別函体と前記後続個別函体の隅角部に設けられる隅角体と、を備え、
断面視が四角形又は略四角形の前記先行個別函体と前記後続個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し、
前記継手材は、腹板と、該腹板の両端に配置されるフランジと、からなる断面視がH字状であり、
前記隅角体は、フランジ溝が設けられた隅角主桁板と、腹板溝が設けられた継手受材と、からなり、
隣接する前記先行個別函体と前記後続個別函体それぞれの前記フランジ溝に、前記フランジが挿入されるとともに、該先行個別函体と該後続個別函体それぞれの前記腹板溝に前記腹板の一部が挿入されることで、該先行個別函体と該後続個別函体が前記継手材によって連結される、
ことを特徴とする函体連結構造。
【請求項2】
前記主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前方の該側部主桁と後方の該側部主桁に挟まれて配置される中央主桁と、を含み、
前記隅角主桁板は、前記中央主桁の位置に配置されるとともに、前記側部主桁の位置に配置される、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項3】
前記腹板溝よりも広幅の当接板と、該当接板に取り付けられ該腹板溝よりも細幅の突起体と、からなる開口部蓋材を、さらに備え、
前記突起体は前記フランジ溝と前記腹板溝に挿入可能であって、前記開口部蓋材は該フランジ溝と該腹板溝から取外し可能であり、
前記開口部蓋材が取り外された前記フランジ溝と前記腹板溝に、前記継手材が設置可能である、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項4】
前記継手受材の前記腹板溝が、断面視で外側に向かって拡径していくテーパー形状である、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項5】
前記継手材の前記フランジが、先端ほど細幅となるテーパー形状である、
ことを特徴とする請求項4記載の函体連結構造。
【請求項6】
前記継手受材に切欠き部が設けられ、
前記切欠き部は、前記継手受材の一部をトンネル軸方向に切欠くことで形成され、
前記隅角主桁板は、前記切欠き部が設けられない位置に配置され、
前記継手材のトンネル軸方向長さが、前記切欠き部のトンネル軸方向長さよりも短い、
ことを特徴とする請求項1記載の函体連結構造。
【請求項7】
前記主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前方の該側部主桁と後方の該側部主桁に挟まれて配置される中央主桁と、を含み、
前記切欠き部は、前記中央主桁と前記側部主桁との間に形成され、
前記隅角主桁板は、前記中央主桁の位置に配置されるとともに、前記側部主桁の位置に配置される、
ことを特徴とする請求項6記載の函体連結構造。
【請求項8】
2以上の個別函体が連結された連結函体を、地中に構築する方法であって、
地盤を掘削しながら、先行個別函体を設置していく先行個別函体設置工程と、
地盤を掘削しながら、前記先行個別函体に併設されるように、後続個別函体を設置していく後続個別函体設置工程と、
隣接する前記先行個別函体と前記後続個別函体を、継手材と隅角体とによって連結する連結工程と、を備え、
断面視が四角形又は略四角形の前記先行個別函体と前記後続個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられるとともに、該開口部の周囲に配置される主桁を有し
前記継手材は、腹板と、該腹板の両端に配置されるフランジと、からなる断面視がH字状であり、
前記隅角体は、前記先行個別函体と前記後続個別函体の隅角部に設けられるとともに、フランジ溝が設けられた隅角主桁板と、腹板溝が設けられた継手受材と、からなり、
前記連結工程では、前記先行個別函体と前記後続個別函体それぞれの前記フランジ溝に前記フランジを挿入するとともに、該先行個別函体と該後続個別函体それぞれの前記腹板溝に前記腹板の一部を挿入する、
ことを特徴とする連結函体構築方法。
【請求項9】
前記先行個別函体設置工程では、前記フランジ溝と前記腹板溝に開口部蓋材を設置した状態で前記先行個別函体を設置し、
前記後続個別函体設置工程では、前記フランジ溝と前記腹板溝に前記開口部蓋材を設置した状態で前記後続個別函体を設置し、
前記連結工程では、前記フランジ溝と前記腹板溝から前記開口部蓋材を取り外した後に、前記継手材を設置し、
前記開口部蓋材は、前記フランジ溝よりも広幅の当接板と、該当接板の中間に取り付けられ該フランジ溝よりも細幅の突起体と、からなり、
前記フランジ溝と前記腹板溝に前記突起体を挿入することによって、前記開口部蓋材は該フランジ溝と該腹板溝に設置され、
前記フランジ溝と前記腹板溝から前記突起体を抜き取ることによって、前記開口部蓋材は該フランジ溝と該腹板溝から取り外される、
ことを特徴とする請求項8記載の連結函体構築方法。
【請求項10】
前記連結工程では、地中発進部又は地中到達部に設置された牽引装置によって、前記フランジ溝と前記腹板溝をトンネル軸方向に走行させながら前記継手材を牽引する、
ことを特徴とする請求項8記載の連結函体構築方法。
【請求項11】
前記隅角主桁板に被せるように、隅角部型枠を設置する隅角部型枠設置工程と、
前記隅角部型枠と前記隅角主桁板に囲まれた空間であって、前記継手材の一部が配置された空間に、充填材を充填する充填工程と、をさらに備え、
前記主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前方の該側部主桁と後方の該側部主桁に挟まれて配置される中央主桁と、を含み、
前記隅角主桁板は、前記中央主桁の位置に配置されるとともに、前記側部主桁の位置に配置された、
ことを特徴とする請求項8記載の連結函体構築方法。
【請求項12】
前記継手受材の一部に、該継手受材をトンネル軸方向に切欠いた切欠き部が設けられ、
前記隅角主桁板は、前記切欠き部が設けられない位置に配置され、
前記連結工程では、トンネル軸方向長さが前記切欠き部よりも短い前記継手材を、該切欠き部から挿入しながら、前記腹板溝に前記腹板を挿入するとともに、前記フランジ溝に前記フランジの一部を挿入する、
ことを特徴とする請求項8記載の連結函体構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の函体からなる覆工体によって地下空間を形成する技術に関するものであり、より具体的には、隣接する函体どうしを連結する構造と、その構造を用いて連結函体を構築する連結函体構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部における道路トンネルや地下鉄道トンネル、電力線等をまとめて収容する共同溝などは、通常、道路の地下に設置される。この道路トンネルなどは、あらかじ地中発進部や地中到達部を設置したうえで推進工法やシールド工法により掘進したトンネルを利用して構築するのが一般的である。そして道路トンネルなどは、1本のトンネルを掘進することで、換言すれば地中に1本の貫通孔を設けることで構築されることが多い。
【0003】
これに対して大径の道路トンネル(特に分岐合流部)や地下街、地下鉄の駅部などは、歩行者用の通路のほか店舗やホームといった様々な施設を配置するための相当の地下空間が必要とされ、したがって大規模な内空断面を有するトンネルの構築が求められる。しかしながら、推進工法やシールド工法によって掘削できる断面積には限界があり、1本のトンネル掘進のみでは地下街のような大規模空間を確保することは難しい。
【0004】
そこで、このように大規模な空間を地下に形成する場合、図16に示すようなトンネル構造が採用されることがある。この図に示すトンネル構造では複数(図では19)の函体PBからなる覆工体LNが形成されており、この覆工体LNが地山からの荷重を支持することによって安定した地下空間USを確保している。以下、図16に示すような覆工体LNを形成する手順について説明する。
【0005】
まず図17(a)に示すように、推進工法やシールド工法によって掘進しながら、トンネル軸方向に並ぶように複数の函体PBを設置することで第1のトンネルを構築する。なお、函体PBは四角形(特に、長方形)とされることが多いことから、四角形断面の掘削が可能なマシンを利用して掘進するとよい。第1のトンネルが構築されると、これに隣接する位置に第1のトンネルと同様の要領で第2のトンネルを構築する。このとき第2のトンネルの函体PBは、第1のトンネルの函体PBに連結しながら(あるいは、後でまとめて連結して)設置される。そして、所定の数(図16の場合は19)だけこのトンネル構築を繰り返すことによって、複数(図16では19)の函体PBからなるいわばリング状の覆工体LNを形成する。さらに、図17(b)に示すように函体PBの内側には空間SPが形成されているため、この空間SPに主筋と配力筋を設置したうえでコンクリートを打込む。以上の工程を経ることで、鉄筋コンクリート造の覆工体LNが形成され、安定した地下空間USが確保されるわけである。
【0006】
上記したとおり覆工体LNを形成するにあたっては、隣接するトンネルの函体PBどうしを連結する必要がある。従来、函体PBどうしを連結するにあたっては、図18に示すように長ボルトLBを利用した連結構造が主流とされていた。長ボルトLBを双方のトンネルの函体PBに挿通するとともに、長ボルトLBの両端に配置された支圧板(プレート)をナットで締め付けることによって、これらの函体PBを連結するわけである。例えば特許文献1では、函体PBどうしが接しているものの、図18と同様、鉄筋等で接合面を接続する構造について提案している。また非特許文献1では、「MMST工法(Multi-Micro Shield Tunneling Method)」について開示しており、このMMST工法もやはり図18と同様の構造であって、函体PBどうしが離れた状態で接続する構造とされている。なお、特許文献1では接合面の主桁の位置で接続しているのに対して、MMST工法では主桁ではなく隅角部において接続している。
【0007】
図18に示す連結技術のほかにも、函体PBどうしを連結するための種々の技術がこれまで提案されている。例えば特許文献2では、先行函体の溝部2に後続函体の突条部3を挿入させることによって双方の函体を連結する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5351676号公報
【特許文献2】特開2011-256538号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「MMST工法によるトンネル構造の部材実験(土木学会第58回年次学術講演会 平成15年9月)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図18に示す連結技術や特許文献1に開示される連結技術など従来の連結技術は、隣接するトンネルの函体PBの相対的な配置(以下、単に「相対配置」という。)に依存していた。すなわち、相対配置が計画どおり(あるいは、計画との誤差が極めて小さいケース)であれば、長ボルトLBを挿通することが可能となり、あるいは突条部3を挿入させることが可能になり、その結果、双方の函体を連結することができる。一方、計画に対して大きな誤差をもって隣接するトンネルの函体PBが配置されたとき、つまり相対配置に相当の「ズレ」が生じているときは、長ボルトLBを挿通することができず、あるいは突条部3を挿入させることができず、その結果、双方の函体PBを連結することができない。双方の函体PBを連結することができない場合、いずれかの函体PBの位置を調整する必要があるが、地中のしかも著しく狭隘な環境下でこのような調整作業を行うことは、相当の労力と時間を要し、想像以上に困難を極める作業である。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、隣接するトンネルの函体を容易に連結することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、個別函体の側面に設けられたフランジ溝にH字状の継手材を挿入することによって個別函体どうしを容易に連結するこができ、しかもフランジ溝と継手材との間に設けられたクリアランス(いわば、遊び)によって相対配置のズレを吸収する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の函体連結構造は、地中に構築される2以上の個別函体が連結された連結函体のうち隣接する個別函体どうしを連結する構造であって、継手材と隅角体を備えたものである。このうち継手材は、隣接する先行個別函体と後続個別函体を連結するものであり、隅角体は、先行個別函体と後続個別函体の隅角部に設けられるものである。なお、断面視が略四角形(四角形を含む)の先行個別函体と後続個別函体は、断面視した中央に開口部が設けられ、開口部の周囲には主桁が配置される。また、断面視がH字状の継手材は、腹板とこの腹板の両端に配置されるフランジからなるものであり、隅角体は、フランジ溝が設けられた隅角主桁板と腹板溝が設けられた継手受材からなるものである。そして、隣接する先行個別函体と後続個別函体それぞれの個別函体のフランジ溝にフランジが挿入されるとともに、先行個別函体と後続個別函体それぞれの腹板溝に腹板の一部が挿入されることで、継手材によって先行個別函体と後続個別函体が連結される。
【0014】
本願発明の函体連結構造は、隅角主桁板が中央主桁と側部主桁の位置に配置されたものとすることもできる。この場合の主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前方の側部主桁と後方の側部主桁に挟まれて配置される中央主桁を含んで構成される。
【0015】
本願発明の函体連結構造は、開口部蓋材をさらに備えたものとすることもできる。この開口部蓋材は、腹板溝よりも広幅の当接板と、当接板に取り付けられ腹板溝よりも細幅の突起体からなるものである。なお、突起体はフランジ溝と腹板溝に挿入可能であって、開口部蓋材はフランジ溝と腹板溝から取外し可能であり、開口部蓋材が取り外されたフランジ溝と腹板溝に継手材を設置することができる。
【0016】
本願発明の函体連結構造は、継手受材の腹板溝を、断面視で外側に向かって拡径していくテーパー形状とすることもできる。
【0017】
本願発明の函体連結構造は、継手材のフランジを、先端ほど細幅となるテーパー形状とすることもできる。
【0018】
本願発明の函体連結構造は、継手受材に切欠き部が設けられたものとすることもできる。この切欠き部は、継手受材の一部をトンネル軸方向に切欠くことで形成される。この場合、隅角主桁板は切欠き部が設けられない位置に配置され、継手材のトンネル軸方向長さは切欠き部のトンネル軸方向長さよりも短い寸法とされる。
【0019】
本願発明の函体連結構造は、主桁が側部主桁と中央主桁を含むものとすることもできる。この側部主桁はトンネル軸方向における前方と後方に配置され、中央主桁は、前方と後方の側部主桁に挟まれて配置される。この場合、切欠き部は中央主桁と側部主桁との間に形成され、隅角主桁板は中央主桁と側部主桁の位置に配置される。
【0020】
本願発明の連結函体構築方法は、2以上の個別函体が連結された連結函体を地中に構築する方法であって、先行個別函体設置工程と後続個別函体設置工程、連結工程を備えた方法である。先行個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら先行個別函体を設置していき、後続個別函体設置工程では、地盤を掘削しながら先行個別函体に併設されるように後続個別函体を設置していく。また連結工程では、継手材と隅角体によって隣接する先行個別函体と後続個別函体を連結する。なお連結工程では、先行個別函体と後続個別函体それぞれのフランジ溝にフランジを挿入するとともに、先行個別函体と後続個別函体それぞれの腹板溝に腹板の一部を挿入する。
【0021】
本願発明の連結函体構築方法は、開口部蓋材を利用した方法とすることもできる。この開口部蓋材は、隅角体のフランジ溝と腹板溝に挿入可能であって取り外し可能なものである。この場合、先行個別函体設置工程では、フランジ溝と腹板溝に開口部蓋材を設置した状態で先行個別函体を設置し、後続個別函体設置工程では、フランジ溝と腹板溝に挿入開口部蓋材を設置した状態で後続個別函体を設置していく。また連結工程では、フランジ溝と腹板溝から挿入開口部蓋材を取り外した後に、継手材を設置する。
【0022】
本願発明の連結函体構築方法は、地中発進部(あるいは、地中到達部)に設置された牽引装置によってフランジ溝と腹板溝をトンネル軸方向に走行させながら継手材を牽引する方法とすることもできる。
【0023】
本願発明の連結函体構築方法は、隅角部型枠設置工程と充填工程をさらに備えた方法とすることもできる。隅角部型枠設置工程では、2以上の隅角主桁板に被せるように隅角部型枠を設置する。また充填工程では、隅角部型枠と2以上の隅角主桁板に囲まれた空間であって継手材の一部が配置された空間に、充填材を充填する。この場合の主桁は、トンネル軸方向における前方と後方に配置される側部主桁と、前後の側部主桁に挟まれて配置される中央主桁を含み、隅角主桁板は中央主桁と側部主桁の位置に配置される。
【0024】
本願発明の連結函体構築方法は、継手材を切欠き部から挿入しながら、腹板溝に腹板を挿入するとともに、フランジ溝にフランジの一部を挿入する方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0025】
本願発明の函体連結構造、及び連結函体構築方法には、次のような効果がある。
(1)フランジ溝や腹板溝に継手材を挿入するだけで、後続の個別函体が適正位置で設置されるとともに、隣接する函体どうしを連結することができ、すなわち従来技術に比して施工手間を軽減することができる。
(2)フランジ溝と継手材との間にクリアランス(いわば、遊び)を設けた効果で、先行個別函体と後続個別函体の相対配置にある程度のズレが生じたとしても、継手材をフランジ溝や腹板溝に挿通することができ、すなわち先行個別函体と後続個別函体を連結することができる。
(3)さらに、継手受材の腹板溝を断面視で外側に向かって拡径していくテーパー形状としたり、継手材のフランジを先端ほど細幅となるテーパー形状としたりすることによって、先行個別函体と後続個別函体の相対配置のズレをより吸収することができる。
(4)個別函体を構成する鋼材を適切に設計することで、すなわち適切な材質(例えば、SM570など)や形状、寸法の鋼材を採択することにで、目的の剛性や強度を有する個別函体を得ることができる。その結果、複数の個別函体からなる連結函体を本設構造として評価することができる。
(5)また、連結函体の剛性(特に、鋼製部材)を適正に評価することから、個別函体内の空間に主筋を配置する必要がなく、従来技術に比して作業性が向上する。
(6)さらに、連結函体を鉄筋コンクリート造として設計する必要がないため、連結函体の梁高(梁せい)を抑えることができ、その結果、打込むコンクリート量を低減することができるうえに、地盤の掘削量も低減することができ、施工コスト全体を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は連結函体を模式的に示す断面図、(b)は連結函体の一部を模式的に示す縦断図。
図2】(a)は個別函体をトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体の壁体の一部を示すA-A矢視断面図、(c)は個別函体の壁体の一部を示すB-B矢視断面図。
図3】(a)はスキンプレートが設置された個別函体を横断方向に見た側面図、(b)はスキンプレートが取り外された個別函体を横断方向から見た側面図。
図4】本願発明の函体連結構造によって連結された左個別函体と右個別函体を模式的に示す断面図。
図5】(a)はトンネル軸方向に見た隅角体を模式的に示す部分正面図、(b)は横断方向に見た隅角体を模式的に示す部分側面図。
図6】(a)は継手材を模式的に示す断面図、(b)は継手材を模式的に示す平面図、(c)は継手材を模式的に示す斜視図。
図7】(a)は継手材によって連結された左個別函体と右個別函体を模式的に示す部分正面図、(b)は継手材によって連結された左個別函体と右個別函体を模式的に示す部分斜視図。
図8】(a)はトンネル軸方向に見たテーパー式の隅角体を模式的に示す部分正面図、(b)はテーパー式の継手材を模式的に示す断面図、(c)は鉛直方向のズレが生じた左個別函体と右個別函体をテーパー式の隅角体と継手材によって連結した状態を模式的に示す部分正面図。
図9】(a)は横断方向に見た継手受材の切欠き部を模式的に示す部分正面図、(b)はトンネル軸方向に見た継手受材の切欠き部を模式的に示す部分側面図。
図10】(a)は継手材が下側から切欠き部に挿入される状況を模式的に示す断面図、(b)はトンネル軸方向に断続的に配置された複数の継手材を示す部分斜視図。
図11】(a)は開口部蓋材を模式的に示す斜視図、(b)は開口部蓋材を模式的に示す部分正面図。
図12】本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図。
図13】地盤改良が施された接続部をトンネル軸方向に見た正面図。
図14】スキンプレートが取り外された個別函体を模式的に示す斜視図。
図15】隅角部に隅角部型枠を設置する状況を模式的に示す斜視図。
図16】19の函体からなる覆工体と覆工体によって確保された地下空間を模式的に示す断面図。
図17】(a)はトンネル軸方向に並ぶように設置された複数の函体を模式的に示す縦断図、(b)は断面方向に隣接する函体を模式的に示す斜視図。
図18】連結ボルトを利用して隣接する函体どうしを連結した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明の函体連結構造、及び連結函体構築方法の例を図に基づいて説明する。
【0028】
1.全体概要
図1は、連結函体100を模式的に示す図であり、(a)は鉛直面で切断した断面図、(b)は連結函体100の一部を示す縦断図である。この図1(a)に示すように連結函体100は、複数(図では19)の函体(以下、便宜上ここでは「個別函体200」という。)が連結された構造であり、周辺地山からの荷重を支持することで(つまり、覆工体として機能することで)安定した地下空間USを形成することができるものである。
【0029】
また図1(b)に示すように、複数の個別函体200が連続配置されることによってトンネル構造(以下、便宜上ここでは「単位トンネル110」という。)が形成される。この単位トンネル110は、地中発進部(例えば、発進立坑)や地中到達部(例えば、到達立坑)を設けたうえで推進工法やシールド工法により掘進し、中空の個別函体200を連続して配置していくことで構築される。つまり、連結函体100は複数(図1では19)の単位トンネル110によって構成される立体的な構造であり、地下空間USはいわば大規模断面のトンネルとして形成されるわけである。なお便宜上ここでは、図1に示すように、トンネル(単位トンネル110や地下空間US)の軸方向のことを「トンネル軸方向」と、このトンネル軸方向に直交する水平方向のことを「横断方向」ということとする。
【0030】
2.函体連結構造
本願発明の函体連結構造について説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、本願発明の函体連結構造を用いて連結函体100を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の函体連結構造について説明し、その後に本願発明の連結函体構築方法について説明することとする。
【0031】
図2は、個別函体200を模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た正面図、(b)は個別函体200を構成する壁体の一部を示すA-A矢視(図1(a))の断面図、(c)は壁体の一部を示すB-B矢視(図1(a))の断面図である。また図3は、個別函体200を横断方向に見た側面図であり、(a)はスキンプレート220が設置された状態を示し、(b)はスキンプレート220が取り外された状態を示している。
【0032】
図2(a)や図3に示すように個別函体200は、断面視が略四角形(四角形を含む)であり、その内部に空間(以下、「開口部」という。)が設けられた概ね箱型の形状である。より詳しくは、上下左右に配置された4つの壁体をそれぞれ端部で連結することによって個別函体200が形成されており、これら4つの壁体によってトンネル軸方向に貫通する開口部が形成される。換言すれば、開口部の周囲には4つの壁体が配置されているわけである。例えば個別函体200は、長さ(横断方向)寸法を5m、幅(トンネル軸方向)寸法を1m、高さ寸法を2.5mなどとして設計することができる。
【0033】
開口部の周囲に配置されるそれぞれの壁体は、主桁210とスキンプレート220によって形成される。より詳しくは、左側に配置される壁体(以下、「左壁体」という。)や右側に配置される壁体(以下、「右壁体」という。)は、図2(b)に示すように主桁210とスキンプレート220によって形成され、概ね左壁体(右壁体)の全長にわたって配置される主桁210にスキンプレート220が溶接等によって取り付けられた構成とされる。また上側に配置される壁体(以下、「上壁体」という。)や下側に配置される壁体(以下、「下壁体」という。)も、図2(c)に示すように左壁体や右壁体と同様の構成とされる。なお、後述するようにスキンプレート220は施工中に取り外される(図3(b))ため、比較的取り外しやすい手法によってスキンプレート220を主桁210に取り付けるとよい。主桁210は、例えば鋼板などの鋼材を利用することができ、一方のスキンプレート220も鋼板などの鋼材を利用することができる。
【0034】
壁体を構成する主桁210は、中央主桁211と側部主桁212によって形成することができる。例えば図3(b)に示すように、トンネル軸方向における前方と後方にそれぞれ配置される側部主桁212と、これら側部主桁212に挟まれた位置(つまり、トンネル軸方向における中間付近)に配置される中央主桁211によって、主桁210を形成することができる。あるいは、中央主桁211のみによって主桁210を形成したり、前後の側部主桁212のみによって主桁210を形成したりするなど、中央主桁211と側部主桁212からなる種々の組み合わせ(中央主桁211や側部主桁212の配置数など)によって主桁210を形成することができる。
【0035】
当然ながら個別函体200は、想定される種々の荷重に耐え得るように設計される。具体的には、個別函体200の長さ寸法や幅寸法、高さ寸法が設計計算に基づいて決定され、壁体(左壁体と右壁体、上壁体、下壁体)の材料や寸法といった仕様も設計計算に基づいて決定される。特に、壁体を構成する主桁210は、供用時における外力を主に負担する部材とされることから、利用する鋼材の材質(例えば、SM570など)と、肉厚寸法や幅寸法などが詳細に設計される。例えば、主桁210を相当な剛性や強度を有するものとして設計することで、最終的に開口部内にコンクリートを充填した連結函体100を、構造鉄筋の配置を省略した無筋のコンクリート造としたり、あるいは構造鉄筋のうちせん断補強筋のみを配置したコンクリート造としたりすることができる。
【0036】
図4は、隣接する個別函体200が本願発明の函体連結構造300によって連結された状態を模式的に示す断面図である。連結函体100を構成する個別函体200は、図1に示すように左右に隣接することもあれば、上下あるいは斜方向に隣接することもあるが、便宜上ここでは個別函体200が左右に隣接する例で説明する。そこで図4に示すように、隣接する2つの個別函体200のうち左側に配置されたもの(例えば、先行の個別函体200)を左個別函体200L、右側に配置されたもの(例えば、後続の個別函体200)を右個別函体200Rということとする。
【0037】
本願発明の函体連結構造300は、図4に示すように隅角体310と継手材320を含んで構成され、さらに後述する開口部蓋材を含んで構成することもできる。この隅角体310は、図2(a)に示すように個別函体200のうち4つの壁体(左壁体と右壁体、上壁体、下壁体)が連結される端部(つまり、隅角部)にそれぞれ設けられる。
【0038】
以下、本願発明の函体連結構造300を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0039】
(隅角体)
図5は、隅角体310を模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た断部分正面図、(b)は開口部側から横断方向に見た部分側面図である。図5(a)に示すように隅角体310は、隅角主桁板311と継手受材312を含んで構成される。また図5(b)に示すように、板状の隅角主桁板311は、中央主桁211と側部主桁212の配置位置に合わせて設置され(つまり、個別函体200の軸方向に間隔をあけて配置され)、柱状あるいは環状の継手受材312は、概ね壁体の幅方向(トンネル軸方向)全体にわたって配置される。隅角主桁板311は、例えば平鋼や鋼板などの鋼材を利用することができ、一方の継手受材312も鋼板や鋼管などの鋼材を利用することができる。
【0040】
また隅角主桁板311には、後述する継手材320のフランジ322を収容することができる空間(以下、「フランジ溝311G」という。)が設けられており、継手受材312には、同じく後述する継手材320の腹板321を収容することができる空間(以下、「腹板溝312G」という。)が設けられている。例えば、板状の隅角主桁板311のうち中央付近の一部をくり貫くことによってフランジ溝311Gを形成することができ、離隔を設けたうえで上方の継手受材312(以下、「上部受材312T」という。)と下方の継手受材312(以下、「下部受材312B」という。)を配置することによって腹板溝312G(つまり、その離隔)を形成することができる。すなわち1つの隅角体310には、連続する溝状の腹板溝312Gが形成されるとともに、中央主桁211と側部主桁212の設置数だけフランジ溝311Gが形成される。ただし、いずれのフランジ溝311Gも腹板溝312Gと連通しており、フランジ溝311Gの高さ寸法(図5(a)では上下方向の寸法)は、腹板溝312Gの幅寸法(図5(a)では上下方向の寸法)よりも大きい(長い)寸法で形成される。
【0041】
(継手材)
図6は、連結函体100を構成する継手材320を模式的に示す図であり、(a)は断面図、(b)は上方から見た平面図、(c)は斜視図である。この図に示すように継手材320は、腹板321と、この腹板321の両端に配置される2つのフランジ322を含んで構成され、図6(a)から分かるように断面視がH字状の形状とされる。この継手材320は、鋼材や合成樹脂材など相当の強度を有する材料で形成され、例えば鋼板を加工(部品の溶接固定やくり貫きなど)することで、あるいはI形鋼やH形鋼を利用することで製作することができる。
【0042】
既述したように連結函体100は、複数の単位トンネル110によって構成される立体的な構造である。この連結函体100を構築する手順としては、後に詳述するが、それぞれの単位トンネル110を完成させながら施工していく。より詳しくは、最初の単位トンネル110を地中発進部から地中到達部まで構築し、その後にその単位トンネル110(つまり、先行の単位トンネル110)に隣接する位置に後続の単位トンネル110を構築する。その結果、2つの単位トンネル110が併設され、それぞれの単位トンネル110を構成する個別函体200どうしが隣接配置されることとなる。そして、これら隣接する2つの個別函体200を連結する際に、図6に示す継手材320が利用される。この一連の手順(単位トンネル110の構築~個別函体200を連結)を繰り返すことによって、図1(a)に示すような連結函体100が構築されるわけである。
【0043】
図7は、継手材320によって連結された左個別函体200Lと右個別函体200Rを模式的に示す図であり、(a)はトンネル軸方向に見た部分正面図、(b)は部分斜視図である。この図に示すように継手材320は、一方の個別函体200(例えば、左個別函体200L)の隅角体310に係止されるとともに、他方の個別函体200(例えば、右個別函体200R)の隅角体310に係止されることによって、隣接する2つの個別函体200を連結する。より詳しくは、継手材320のうち左側のフランジ322が左個別函体200Lのフランジ溝311Gに挿入されるとともに、継手材320の腹板321の一部が左個別函体200Lの腹板溝312Gに挿入され、同様に、継手材320のうち右側のフランジ322が右個別函体200Rのフランジ溝311Gに挿入されるとともに、継手材320の腹板321の一部が右個別函体200Rの腹板溝312Gに挿入されることによって、左個別函体200Lと右個別函体200Rが連結される。したがって継手材320は、例えば坑口側(地中発進部側)からトンネル軸方向にスライドさせるように設置するとよい。なお継手材320を設置すると、図15を参照して後述するように、継手材320と個別函体200(特に、フランジ322と隅角部)が一体化するように、4箇所の隅角部にはセメント系充填材(例えば、高強度モルタルやコンクリート)を充填するとよい。
【0044】
左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結するにあたっては、1組の個別函体200(左個別函体200Lと右個別函体200R)に対して1つの継手材320を設置することもできるし、2以上の継手材320を設置することもできる。例えば、左個別函体200Lと右個別函体200Rの壁体の幅寸法(トンネル軸方向の寸法)がそれぞれ1mであれば、長さ寸法(図6(b)では上下方向の寸法)が1mの継手材320を用いるときは1つだけ設置し、長さ寸法が0.5mの継手材320を用いるときはトンネル軸方向に並ぶように2つ設置するわけである。
【0045】
ところで、既述したとおり左個別函体200Lと右個別函体200Rは、計画に対して相当の誤差をもって、つまり相対配置に相当の「ズレ」が生じた状態で配置されることもある。なおここでいう「ズレ」には、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に生ずるトンネル軸方向の較差(つまり、水平方向のズレ)や、高さ方向の較差(つまり、鉛直方向のズレ)などが含まれる。この場合、フランジ322とフランジ溝311Gとの間や、腹板321と腹板溝312Gとの間に、隙間(クリアランス)がなければ(あるいは極めて小さければ)、相対配置にズレが生じたことによって継手材320を設置することができないこともあり、その結果、左個別函体200Lと右個別函体200Rを適切に連結することができない。そこで、フランジ322とフランジ溝311Gとの間や、腹板321と腹板溝312Gとの間に、相当のクリアランス(いわば、遊び)が形成されるように、フランジ322と腹板321の寸法(特に、せいや板厚)、そしてフランジ溝311Gと腹板溝312Gの寸法(特に、溝高さや溝幅)を設計するとよい。これにより、相対配置にある程度のズレが生じたとしてもクリアランスによってそのズレが吸収され、その結果、継手材320を設置することができ、すなわち左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結することができるわけである。
【0046】
(テーパー式の隅角体)
上記したとおり、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの相対配置にある程度の「ズレ」が生じたとしても、フランジ322とフランジ溝311Gとの間にクリアランス設け、腹板321と腹板溝312Gとの間にクリアランスを設けることによって、継手材320を設置することができ、すなわち左個別函体200Lと右個別函体200Rを連結することができる。とはいえ、これらクリアランスで吸収できる相対配置のズレには限界がある。そこで、相当程度のズレが生じると予想されるケースでは、図8(a)に示すようなテーパー式の隅角体310を利用するとよい。図8(a)はトンネル軸方向に見たテーパー式の隅角体310を模式的に示す部分正面図である。
【0047】
テーパー式の隅角体310は、図8(a)に示すようにその腹板溝312Gが外側(図では右側)に向かって拡径していくテーパー形状とされる。より詳しくは、腹板溝312Gを断面視(横断方向の鉛直断面で切断)すると、個別函体200の開口部側(図では左側)から外側に向かって徐々にその孔寸法(図では上下幅)が大きくなるようなテーパー形状とされる。なおこの図では、腹板溝312Gのテーパー形状が直線状となる例を示しているが、これに限らず曲線状(いわゆるR加工)のテーパー形状とすることもできる。
【0048】
テーパー式の隅角体310を利用すると、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの相対配置に相当程度の「ズレ」が生じたとしても、継手材320をフランジ溝311Gや腹板溝312Gに挿入することができる。例えば図8(c)では、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に鉛直方向のズレが生じているが、隅角体310の腹板溝312Gをテーパー形状とした効果で、鉛直方向に傾斜(図では右下がりに傾斜)した状態で継手材320をフランジ溝311Gや腹板溝312Gに挿入することができるわけである。
【0049】
(テーパー式の継手材)
図6(a)に示す継手材320は、そのフランジ322の先端(図では上下端)部分が角形(いわゆるハンチ加工されていない形状)とされている。このような継手材320を用いると、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの相対配置にある程度の「ズレ」が生じたとときに、フランジ322の先端部が隅角体310の隅角主桁板311や個別函体200の主桁210に干渉するため、継手材320をフランジ溝311Gや腹板溝312Gに挿入することができないこともある。そこで、相当程度のズレが生じると予想されるケースでは、図8(b)に示すようなテーパー式の継手材320を利用するとよい。図8(b)はテーパー式の継手材320を模式的に示す断面図である。
【0050】
テーパー式の継手材320は、図8(b)に示すようにそのフランジ322が先端(図では上下端)に向かって細幅となるテーパー形状とされる。以下、フランジ322を断面視したときの内側(腹板321側)の壁面を「内面」とし、外側(腹板321の反対側)の壁面を「外面」としたうえで、フランジ322のテーパー形状について詳しく説明する。フランジ322を断面視すると、その内面が腹板321から遠ざかるほど(図では、上端や下端に向かうほど)外面の方に傾斜し、すなわち腹板321から遠ざかるほど(上端や下端に向かうほど)フランジ322の肉厚(図では左右方向の寸法)が小さくなるようなテーパー形状とされる。なおこの図では、フランジ322の内面が曲線状(いわゆるR加工)に傾斜するテーパー形状の例を示しているが、これに限らず内面が直線状に傾斜するテーパー形状とすることもできる。
【0051】
テーパー式の継手材320を利用すると、フランジ322の先端部が隅角主桁板311や主桁210と干渉し難くなり、より容易に継手材320をフランジ溝311Gや腹板溝312Gに挿入することができる。例えば図8(c)では、左個別函体200Lと右個別函体200Rとの間に鉛直方向のズレが生じているが、継手材320のフランジ322をテーパー形状とした効果で、継手材320が鉛直方向に傾斜しているものの、隅角主桁板311などに干渉することなく継手材320をフランジ溝311Gや腹板溝312Gに挿入することができるわけである。
【0052】
(切欠き部)
図5に示す隅角体310は、その継手受材312が個別函体200の壁体の幅方向(トンネル軸方向)全体にわたって配置されている。そのため、この隅角体310の腹板溝312Gはトンネル軸方向に連続することとなる。換言すれば、腹板溝312Gは両端(いわば、両坑口)のみで外部と連絡しており、途中では外部から腹板溝312G内に寄り付くことができない。そのため、継手材320を設置するにあたっては、例えばウィンチなどの牽引装置を利用することによって、継手材320を坑口側からトンネル軸方向にスライドさせる必要がある。しかしながら単位トンネル110の延長(つまり、連結函体100の延長)が相当に長い場合、相当規模の牽引装置が必要になるうえ、継手材320の設置に時間を要し、しかも走行中の継手材320が途中で止まってしまうなどの不具合が生じるおそれもある。そこで、特に連結函体100の延長が相当に長いケースなどは、図9に示すように隅角体310の継手受材312に切欠き部313を設けるとよい。
【0053】
切欠き部313は、継手受材312の一部をトンネル軸方向に切欠くことで形成される。例えば図9では、継手受材312のうち下側の一部(図では、下部受材312B)を切欠くことによって切欠き部313が形成されている。継手受材312に切欠き部313を設ける場合、隅角体310の隅角主桁板311は、継手受材312のうち切欠き部313が形成されていない位置に設置される。例えば主桁210が中央主桁211と側部主桁212からなる場合、継手受材312のうち中央主桁211と側部主桁212の間に切欠き部313を形成するとともに、中央主桁211と側部主桁212の設置位置に隅角主桁板311を設けるとよい。なお、図9では継手受材312のうち下部受材312Bのみを切欠くことによって切欠き部313を形成しているが、これに限らず下部受材312Bに加えて(あるいは、代えて)上部受材312Tの一部を切欠くことによって切欠き部313を形成することもできる。
【0054】
また継手受材312に切欠き部313を設ける場合、継手材320の長さ寸法(図6(b)では上下方向の寸法)を、切欠き部313のトンネル軸方向の長さよりも小さい(短い)寸法にするとよい。これにより、図10(a)に示すように継手材320を切欠き部313から挿入することができ、ウィンチなどで継手材320をトンネル軸方向にスライドさせる必要がない。図10(a)の例では、継手材320を下側から切欠き部313(隅角主桁板311が設置されていない部分)内に収容し、腹板321の一部を腹板溝312Gに挿入した状態で、トンネル軸方向(図では左右方向)にスライドさせることによって、継手材320を所定位置、すなわち隅角主桁板311(つまり、フランジ溝311G)が設置されている個所に配置することができる。したがってこの場合の継手材320は、トンネル軸方向に連続して配置されるのではなく、図10(b)に示すようにいわば断続的に配置されることになる。
【0055】
(開口部蓋材)
図11は、函体連結構造300を構成する開口部蓋材330を模式的に示す図であり、(a)は斜視図、(b)はトンネル軸方向に見た部分正面図である。この図に示すように開口部蓋材330は、当接板331と、この当接板331の中央付近に取り付けられる突起体332を含んで構成される。この開口部蓋材330は、鋼材や合成樹脂材などの材料で形成され、例えば鋼板や鋼管を加工することで製作することができる。また開口部蓋材330はフランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容されることから、当接板331の高さ寸法(図11では上下方向の寸法)はフランジ溝311Gの高さ寸法(図11では上下方向の寸法)よりも若干小さい寸法(細幅)とされ、突起体332の幅寸法(図11では上下方向の寸法)も腹板溝312Gの幅寸法(図11では上下方向の寸法)よりも若干小さい寸法(細幅)とされる。ただし、フランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容された開口部蓋材330が外側(図11(b)では右側)に抜け出さないように、当接板331の高さ寸法は腹板溝312Gの幅寸法よりも大きい寸法(広幅)とされる。
【0056】
連結函体100は、単位トンネル110ごとに施工され、2つの単位トンネル110が併設されたときに個別函体200どうしが連結される。換言すれば、隣接する位置に単位トンネル110が構築されるまでは個別函体200は連結されず、したがってそれまではフランジ溝311Gと腹板溝312Gは空隙のままの状態が維持される。この場合、個別函体200を設置するとき(推進工法の場合は、個別函体200をトンネル軸方向に移動させるとき)、フランジ溝311Gや腹板溝312G内に土砂や地下水が浸入するおそれもあり、その結果、継手材320が適切に設置できないおそれもある。そこで、開口部蓋材330をフランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容した状態で、すなわちフランジ溝311Gと腹板溝312Gの空隙を開口部蓋材330によって封鎖した状態で、個別函体200を設置するわけである。これにより、フランジ溝311Gや腹板溝312G内に土砂等が浸入することを防ぐことができ、開口部蓋材330を取り外すことによって継手材320の設置スペースが適切に確保されて好適となる。そのため、開口部蓋材330はフランジ溝311Gや腹板溝312Gから取外しやすい構成とすることが望ましく、例えば図11のケースではトンネル軸方向にスライドさせながら取り外す構成としている。
【0057】
3.連結函体構築方法
続いて、本願発明の連結函体構築方法ついて説明する。なお、本願発明の連結函体構築方法は、ここまで説明した本願発明の函体連結構造300を用いて連結函体100を構築する方法である。したがって、函体連結構造300について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の連結函体構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.函体連結構造」で説明したものと同様である。
【0058】
図12は、本願発明の連結函体構築方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、連結函体100を構築するにあたっては、まず地中発進部(例えば、発進立坑)と地中到達部(例えば、到達立坑)を構築する(図12のStep501)。また、計画された他の仮設備や装置も設置し、その後、最初の単位トンネル110を構築する(図12のStep502)。以下、単位トンネル110を構築する手順について説明する。なお、単位トンネル110の掘進は、推進工法やシールド工法、その他の従来工法によって実施することができるが、便宜上ここでは推進工法によって掘進する例で説明する。
【0059】
単位トンネル110を構築するには、まず地中発進部内に推力設備を設置する。そして、地中発進部内に降ろされた推進機によって地盤を掘削していく。ただし、連結函体100を構成する個別函体200が断面視で略四角形であることから、矩形断面用の推進機(矩形推進機)を利用するとよい。推進機が地盤を掘進していくと、同時に推力設備が個別函体200を切羽方向(トンネル軸方向)に押していく。このとき、開口部蓋材330をフランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容した状態で、個別函体200を押していくとよい。なお個別函体200は、推進機の坑口(地中発進部)側からトンネル軸方向に並ぶように設置され、掘進が進むたびに地中発進部から個別函体200が供給されながら、推力設備が個別函体200全体を押していく。このように、推進機が地中到達部に到達するまで「地盤の掘進~個別函体200の推進」を繰り返すことで、単位トンネル110が構築される。
【0060】
最初の単位トンネル110が構築されると、その隣接する位置に後続の単位トンネル110を構築していく。具体的には、上記したように推進機(矩形推進機)によって地盤を掘進し(図12のStep503)、推力設備によって個別函体200を切羽方向に移動させる(図12のStep504)。このとき、開口部蓋材330をフランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容した状態で、個別函体200を移動させるとよい。この一連の工程(地盤の掘進~個別函体200の推進)を、推進機が地中到達部に到達するまで繰り返し行うことで後続の単位トンネル110を構築する(図12のStep505)。
【0061】
後続の単位トンネル110が構築され、すなわち先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が併設されると、図13に示すように2つの単位トンネル110の間には地山部分(以下、「接続部分」という。)が残される。最終的には、この接続部分にもコンクリートが充填されるため接続部分を掘削する必要があるが、掘削作業を行う者の安全を図るため、さらには止水のために周辺地盤の地盤改良を行う(図12のStep506)。例えば図13では、接続部分の上方箇所と下方箇所に対して薬液注入を行うことで当該地盤を改良している。
【0062】
接続部分の地盤改良を行うと、個別函体200の開口部側からスキンプレート220を取り外す。このとき、図14に示すように個別函体200が向かい合っている壁体のスキンプレート220のみを取り外す。例えば、2つの個別函体200が左右に隣接している場合、左個別函体200Lの右壁体のスキンプレート220を取り外し、右個別函体200Rの左壁体のスキンプレート220を取り外すわけである。所定のスキンプレート220を取り外すと、開口部側から接続部分の地盤を掘削する(図12のStep507)。
【0063】
接続部分の地盤掘削を行うと、隣接するそれぞれの個別函体200から、フランジ溝311Gと腹板溝312Gに収容された開口部蓋材330を取り外し、空隙とされたフランジ溝311Gと腹板溝312Gに継手材320を設置する(図12のStep508)。より詳しくは、既述したように2つのフランジ322をフランジ溝311Gに挿入するとともに、腹板321の一部を腹板溝312Gに挿入することによって、隣接する2つの個別函体200を連結する。なお、継手材320は、それぞれの個別函体200ごとに設置され、つまり単位トンネル110全体にわたって設置される。そのため、地中発進部あるいは地中到達部にウィンチなどの牽引装置を設置し、この牽引装置を利用して継手材320を設置するとよい。具体的には、地中発進部(あるいは地中到達部)に設置された牽引装置が継手材320を牽引することによって、継手材320がフランジ溝311Gと腹板溝312Gを通ってトンネル軸方向に走行しながら移動し、所定位置で順次設置されていくわけである。開口部蓋材330も、継手材320の設置と同様の要領で牽引装置を利用して取り外すことができる。
【0064】
一方、継手受材312に切欠き部313が設けられたケースでは、既述したとおり継手材320を切欠き部313から挿入するとよい。より詳しくは図10(a)に示すように、継手材320を下側から切欠き部313内に収め、腹板321の一部を腹板溝312Gに挿入した状態で、トンネル軸方向にスライドさせることによって、継手材320を所定位置、すなわちフランジ溝311Gが設置されている個所に配置するわけである。この場合、ウィンチなどで継手材320をトンネル軸方向にスライドさせる作業を回避することができて好適となる。
【0065】
継手材320を設置すると、4箇所の隅角部にセメント系充填材(例えば、高強度モルタルやコンクリート)を充填する(図12のStep509)。このとき、図15に示す隅角部型枠400を利用するとよい。この隅角部型枠400は、板状の部材からなり断面視が略直角のL字状として形成され、例えば鋼板を加工したり、山形鋼を利用したりすることで製作することができる。図15に示すように、中央主桁211や側部主桁212の設置位置に配置された隅角主桁板311に被せるように隅角部型枠400を設置すると、この隅角部型枠400と隅角主桁板311に囲まれた空間であって、継手材320の一部が配置された空間が形成される。そして、この空間に例えば高強度モルタルを充填するわけである。なお、高強度モルタル等を充填するにあたっては、隅角部型枠400に設けられた注入孔などを利用するとよい。また、図15に示すような隅角部型枠400に代えて、「特許第3554698号公報」に示されるチューブ型枠を利用することもできる。このチューブ型枠は、水や空気を注入することで所定の形状に膨張し、特に狭隘で複雑な部分の型枠として効果的に機能するものである。さらに、使用後は内部に設置されたワイヤを引張するだけで、チューブ型枠全体を巻き取っていくことができるため、作業性にも優れた型枠である。
【0066】
ここまで説明した一連の工程(図12のStep503~Step509)を行うことによって先行の単位トンネル110と後続の単位トンネル110が連結され、さらにこの一連の工程を繰り返し行うことによって例えば図1に示すような連結函体100が構築される(図12のStep510)。なお、この段階では連結函体100を構成する個別函体200の開口部は中空のままであり、連結函体100はいわば「外郭体」である。設計条件等によってはこの外郭体を連結函体100の完成形とすることもできるが、通常は個別函体200の開口部や、隣接する個別函体200間の接続部にはコンクリートが充填される。この場合、まずは必要な鉄筋(例えば、せん断補強筋)を配置し(図12のStep511)、開口部と接続部に所定強度を有するコンクリート(例えば、高強度コンクリート)を充填する(図12のStep512)。
【0067】
充填したコンクリートが十分硬化するとコンクリート造の連結函体100が完成し(図12のStep513)、連結函体100の内部を掘削する(図12のStep514)ことによって、地下空間USが形成される(図12のStep515)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明の連結函体、及び連結函体構築方法は、地下街や地下鉄の駅舎のほか、地下に構築される道路トンネルや鉄道トンネル、上下水道用のトンネル、共同溝や電力通信用のトンネルの構築に際して利用することができる。本願発明によれば効率的にトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を構築することができることを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0069】
100 連結函体
110 (連結函体の)単位トンネル
200 (連結函体の)個別函体
200L (個別函体のうちの)左個別函体
200R (個別函体のうちの)右個別函体
210 (個別函体の)主桁
211 (主桁のうちの)中央主桁
212 (主桁のうちの)側部主桁
220 (個別函体の)スキンプレート
300 本願発明の函体連結構造
310 (函体連結構造の)隅角体
311 (隅角体の)隅角主桁板
311G (隅角主桁板の)フランジ溝
312 (隅角体の)継手受材
312B (継手受材の)下部受材
312G (継手受材の)腹板溝
312T (継手受材の)上部受材
313 (隅角体の)切欠き部
320 (函体連結構造の)継手材
321 (継手材の)腹板
322 (継手材の)フランジ
330 (連結函体の)開口部蓋材
331 (開口部蓋材の)当接板
332 (開口部蓋材の)突起体
400 隅角部型枠
LB 長ボルト
LN 覆工体
PB 函体
SP 空間
US 地下空間
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