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特開2023-116397地震動観測システム及び地震動観測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116397
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】地震動観測システム及び地震動観測方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20230815BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G01H1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203812
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2022018347
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 さやか
(72)【発明者】
【氏名】森川 隆
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB19
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM02
2G105NN02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測システムを提供する。
【解決手段】地震動の推定装置20は、第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1を推定し、第2地震波形W2を調整、調整された第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形S2を推定し、第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲R1、当該時間範囲を第2範囲R2と設定し、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における波形特性に対する第2範囲R2における波形特性の関連を表す関数を定義し、当該波形特性を基に補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、を用いた地震動観測システムであって、
前記地震計で観測された第1地震波形を基に、前記加速度センサで観測された第2地震波形を補正して、前記スマートデバイスの位置する場所の地震動を推定する地震動の推定装置を備え、
前記地震動の推定装置は、
前記第1地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形を推定する第1主要動波形推定部と、
前記第2地震波形を、時間及び方位が前記第1地震波形と一致するように調整し、調整された前記第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形を推定する第2主要動波形推定部と、
前記第2主要動波形内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲、当該時間範囲を第2範囲と設定し、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における波形特性に対する前記第2範囲における波形特性の関連を表す関数を定義し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における波形特性と前記関数を基に、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を導出し、当該波形特性を基に補正波形を導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正する、波形補正部と、
を備えることを特徴とする地震動観測システム。
【請求項2】
前記波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、
前記波形補正部では、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに対する前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルの割合により前記関数を定義し、前記関数に対して振幅スペクトルのみ平滑化し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに平滑化した平滑化関数を適用して、前記第2主要動波形の前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルを導出し、これをフーリエ逆変換して、前記補正波形を導出することを特徴とする請求項1に記載の地震動観測システム。
【請求項3】
前記波形補正部は、前記第2主要動波形の前記第2範囲の振幅が振幅閾値以下の場合には、
前記第2主要動波形の前記第1範囲における前記波形特性を前記関数に適用して、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を、前記第2主要動波形の前記第2範囲において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性として導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の、前記加速度センサによって実際に取得された波形の波形特性である取得波形特性と前記正常想定波形特性との比較関数を計算し、
前記取得波形特性と前記比較関数を基に、前記補正波形を導出し、
前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の地震動観測システム。
【請求項4】
前記波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、
前記波形補正部は、
前記第1主要動波形の、前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに対する前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルの割合により前記関数を定義し、
前記第2主要動波形の前記第1範囲における前記加速度フーリエスペクトルと前記関数を乗算した結果を、前記正常想定波形特性として、これを加速度フーリエスペクトルである前記取得波形特性によって除算して、前記比較関数を計算し、
前記比較関数を指数関数式または多次元多項式により近似して近似関数を計算し、
前記近似関数と前記取得波形特性を乗算した結果をフーリエ逆変換して、前記補正波形を導出する
ことを特徴とする請求項3に記載の地震動観測システム。
【請求項5】
加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、を用いて、地震動を観測する、地震動観測方法であって、
前記地震計で観測された第1地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形を推定し、
前記加速度センサで観測された第2地震波形を、時間及び方位が前記第1地震波形と一致するように調整し、調整された前記第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形を推定し、
前記第2主要動波形内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲、当該時間範囲を第2範囲と設定し、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における波形特性に対する前記第2範囲における波形特性の関連を表す関数を定義し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における波形特性と前記関数を基に、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を導出し、当該波形特性を基に補正波形を導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正して、前記スマートデバイスの位置する場所の地震動を推定する
ことを特徴とする地震動観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物や地盤に固定して設けられた地震計とを用いた地震動観測システム及び地震動観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震が生じた際に、広い範囲内に位置する複数の地点の各々において、地震動を観測することが行われている。
例えば、特許文献1には、複数の構造物のそれぞれに対して少なくとも1つずつ設置され、対象となる構造物の物理量を検出する複数のセンサ装置と、複数の構造物のうち少なくとも1つの構造物をそれぞれ含む構造物群毎に対応付けて設けられ、各センサ装置が検出した物理量のデータを無線により収集する複数の収集装置と、複数の収集装置に接続され、収集された物理量のデータを複数の収集装置から受信するデータ処理装置と、を備える構造ヘルスモニタリングシステムが開示されている。
特許文献1のような構成においては、複数の構造物の各々に対応付けてセンサ装置を固定して設けるため、多くのセンサ装置を必要とする。したがって、コストが嵩む。
【0003】
これに対し、特許文献2には、評価対象における地震の揺れに関する評価を行う評価システムが開示されている。当該評価システムは、評価対象に設けられている端末装置で特定した、評価対象における地震の揺れを示す第1情報と、評価対象の周囲に設けられている端末装置で特定した評価対象の周囲における地震の揺れを示す第2情報とを取得する取得手段と、取得手段が取得した第1情報及び第2情報に基づいて、評価対象における前記地震の揺れに関する評価を行う評価手段と、を備えている。端末装置は、例えばスマートフォンやタブレット端末である。
また、特許文献3には、階層を有する構造物内の高さ方向に配置され近隣の携帯端末機に向けて各々の高さ位置を報知する多数の高度報知器と、自機の振動を検出するセンサを備えるとともに自機の現在地及び高度を取得する位置情報取得部を備えた複数のスマートフォンと、スマートフォンの姿勢を検出しその姿勢の継続時間に基づいてセンサによる振動の検出を開始させる観測制御部と、振動の検出を開始したスマートフォンの数、及びそれぞれの現在位置を取得するとともに、各携帯端末のセンサによる検出結果を収集する情報収集部と、情報収集部が収集した検出結果に基づいて、振動を検出したスマートフォン本体の数が所定数を超えたときに地震による振動であると判定する判定部とを備える構成が開示されている。
特許文献2、3のように、多くの人間が所有する、スマートフォンやタブレット端末等のスマートデバイスを用いて、地震を検知する構成とすれば、広い範囲内に位置する複数の地点の各々において地震動を観測するに際し、設置するセンサの数を低減してコストを低減することができる可能性がある。
【0004】
しかし、地震が生じた際に、スマートデバイスが、精度よく、地震動を観測できるとは限らない。
例えばスマートデバイスが机上に置かれている状況において地震が生じた場合に、地震が小さければ、スマートデバイスと机の間の摩擦力によりスマートデバイスは机に追従して動き、机に対して相対移動しないため、地震動を精度よく観測することができる。しかし、スマートデバイスと机の間の摩擦力を越える力がスマートデバイスに作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイスは机に対して相対移動し、あるいは机から落下することがある。このような場合には、スマートデバイスは、地震動を精度よく観測することができない。
広範囲の地震動を精度よく観測することができるシステムを、低コストで実現することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-167883号公報
【特許文献2】特開2020-193935号公報
【特許文献3】国際公開第2018/174296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測システム及び地震動観測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、を用いた地震動観測システムであって、前記地震計で観測された第1地震波形を基に、前記加速度センサで観測された第2地震波形を補正して、前記スマートデバイスの位置する場所の地震動を推定する地震動の推定装置を備え、前記地震動の推定装置は、前記第1地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形を推定する第1主要動波形推定部と、前記第2地震波形を、時間及び方位が前記第1地震波形と一致するように調整し、調整された前記第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形を推定する第2主要動波形推定部と、前記第2主要動波形内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲、当該時間範囲を第2範囲と設定し、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における波形特性に対する前記第2範囲における波形特性の関連を表す関数を定義し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における波形特性と前記関数を基に、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を導出し、当該波形特性を基に補正波形を導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正する、波形補正部と、を備えることを特徴とする地震動観測システムを提供する。
上記のような構成によれば、加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、を備え、地震が生じた際には、地震計によって地震を第1地震波形として観測し、スマートデバイスに内蔵された加速度センサによって地震を第2地震波形として観測する。すなわち、スマートデバイスが位置する各地点の地震動を、スマートデバイスに内蔵された加速度センサにより観測するため、広範囲の地震動を観測することができる。
また、各地点の地震動をスマートデバイスにより観測するため、多くの地震計を設ける必要がない。したがって、地震動観測システムを、低コストで実現可能である。
ただし、スマートデバイスを用いて地震動を観測する場合には、地震動を精度よく観測できないことがある。例えば、スマートデバイスと机の間の摩擦力を越える力がスマートデバイスに作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイスは机に対して相対移動し、あるいは机から落下することがある。このような場合においては、スマートデバイスが机に対して相対移動し、または落下している間の、スマートデバイスに内蔵された加速度センサによって観測された第2地震波形は、地震を正常に観測したものとはなっていない。このような場合において、第2地震波形の、地震を正常に観測していない部分は、振幅が一定となるような傾向を示すことが多い。
ここで、地震動の推定装置は、地震計で観測された第1地震波形を基に、加速度センサで観測された第2地震波形を補正して、スマートデバイスの位置する場所の地震動を推定する。
より詳細には、第1地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形を推定する。また、第2地震波形を、時間及び方位が第1地震波形と一致するように調整したうえで、調整された第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形を推定する。この第2主要動波形内に、振幅が一定となる時間範囲が有るとすれば、それは、上記のように、地震を正常に観測していない、強い振動が生じた部分であると考えられる。この、強い振動が生じたと考えられる時間範囲を第2範囲と設定し、第2範囲よりも前の時間範囲を、地震が正常に観測された、第1範囲と設定する。
第1範囲における振動が震源の第1破壊域で生じた地震の振動であり、第2範囲における振動が、第1破壊域とは異なる、震源の第2破壊域で生じた地震の振動であるとすると、地震計が設けられた場所とスマートデバイスが設けられた場所との間の距離が、第1破壊域と第2破壊域との間の距離よりも十分に小さければ、第1破壊域で生じた地震の振動の伝搬特性は、上記の2つの場所において、ほぼ同等であり、なおかつ第2破壊域で生じた地震の振動の伝搬特性も、上記の2つの場所において、ほぼ同等であると考えられる。したがって、第1主要動波形の、第1範囲における波形特性に対する第2範囲における波形特性の関連を表す関数を定義すれば、第2主要動波形においても第1範囲における波形特性に対する第2範囲における波形特性の関連は第1主要動波形と同様であると考えられるから、第2主要動波形の第1範囲における波形特性と関数を基に、第2主要動波形の第2範囲における波形特性を導出することができる。このようにして導出された、第2主要動波形の第2範囲における波形特性を基に、補正波形を導出し、第2主要動波形の第2範囲の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形を補正することができる。
このようにして、第2地震波形に、地震を正常に観測していない部分があるとしても、これを補正することができるため、スマートデバイスが設けられた場所の地震動を精度よく観測することができる。
したがって、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測システムを提供することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、前記波形補正部では、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに対する前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルの割合により前記関数を定義し、前記関数に対して振幅スペクトルのみ平滑化し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに平滑化した平滑化関数を適用して、前記第2主要動波形の前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルを導出し、これをフーリエ逆変換して、前記補正波形を導出する。
上記のような構成によれば、地震動観測システムを適切に実現することができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、前記波形補正部は、前記第2主要動波形の前記第2範囲の振幅が振幅閾値以下の場合には、前記第2主要動波形の前記第1範囲における前記波形特性を前記関数に適用して、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を、前記第2主要動波形の前記第2範囲において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性として導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の、前記加速度センサによって実際に取得された波形の波形特性である取得波形特性と前記正常想定波形特性との比較関数を計算し、前記取得波形特性と前記比較関数を基に、前記補正波形を導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正する。
地震時にスマートデバイスに内蔵された加速度センサによって観測された第2地震波形が、地震を正常に観測したものとはなっておらず、振幅が一定となる時間範囲があるような場合において、その一定となっている振幅の値は、地震時におけるスマートデバイスの状況に応じて異なっている。例えば、スマートデバイスが机上に載置された状態で地震が生じた際に、地震力がスマートデバイスと机との間の最大静止摩擦力を越えて、スマートデバイスが机上で滑るように、机に対して相対移動するような場合と、地震力が過大となりスマートデバイスが机の端から落下している場合とでは、振幅の値が一定となる点においては共通しているが、その振幅の値は、前者の滑り移動中よりも、後者の落下中の方が大きくなる傾向にある。後者のような場合においては、第2主要動波形の第2範囲の、加速度センサによって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形とは大きく異なっていることが想定されるから、補正波形を導出するに際して参考にはしにくいが、前者のような場合においては、第2主要動波形の第2範囲の、加速度センサによって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形に近い特性を有している可能性が高く、補正波形を導出するに際して参考にすれば、より正確な補正波形を導出することができる可能性がある。このため、前者のような場合、すなわち第2主要動波形の第2範囲の振幅が所定の振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形の第2範囲の、加速度センサによって実際に取得された波形を用いて、補正波形を導出する。
既に説明したように、第2主要動波形での、第1範囲における波形特性に対する第2範囲における波形特性の関連は、第1主要動波形での、第1範囲における波形特性に対する第2範囲における波形特性の関連と同様であるため、この関連を表す関数に、第2主要動波形の第1範囲における波形特性を適用して、第2主要動波形の第2範囲における波形特性が導出される。このようにして導出される波形特性は、第2主要動波形の第2範囲において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性ともいえる。
ここで、上記のように、第2主要動波形の第2範囲の振幅が振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形の第2範囲の、加速度センサによって実際に取得された波形は、正常に取得された場合に想定される波形に近い特性を有している可能性が高い。このため、実際に取得された波形の特性である取得波形特性と、正常想定波形特性との比較関数を計算し、この比較関数と取得波形特性を基にすれば、取得波形特性を正常想定波形特性に近い形態に調整するように、取得波形特性が反映された補正波形を導出することができる。
このようにして、上記のような構成においては、第2主要動波形の第2範囲の、加速度センサによって実際に取得された波形が、正常に取得された場合に想定される波形に近い特性を有している可能性が高い場合に、この特性を補正波形に適切に反映して、精度をより高めることができる。
【0010】
本発明の別の態様においては、前記波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、前記波形補正部は、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における加速度フーリエスペクトルに対する前記第2範囲における加速度フーリエスペクトルの割合により前記関数を定義し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における前記加速度フーリエスペクトルと前記関数を乗算した結果を、前記正常想定波形特性として、これを加速度フーリエスペクトルである前記取得波形特性によって除算して、前記比較関数を計算し、前記比較関数を指数関数式または多次元多項式により近似して近似関数を計算し、前記近似関数と前記取得波形特性を乗算した結果をフーリエ逆変換して、前記補正波形を導出する。
上記のような構成によれば、比較関数をより適切な形状の近似関数としたうえで、近似関数と取得波形特性から補正波形を導出するため、補正波形の精度がより向上する。
【0011】
また、本発明は、加速度センサが内蔵されたスマートデバイスと、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、を用いて、地震動を観測する、地震動観測方法であって、前記地震計で観測された第1地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形を推定し、前記加速度センサで観測された第2地震波形を、時間及び方位が前記第1地震波形と一致するように調整し、調整された前記第2地震波形のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形を推定し、前記第2主要動波形内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲、当該時間範囲を第2範囲と設定し、前記第1主要動波形の、前記第1範囲における波形特性に対する前記第2範囲における波形特性の関連を表す関数を定義し、前記第2主要動波形の前記第1範囲における波形特性と前記関数を基に、前記第2主要動波形の前記第2範囲における波形特性を導出し、当該波形特性を基に補正波形を導出し、前記第2主要動波形の前記第2範囲の波形を前記補正波形に置換することで、前記第2地震波形を補正して、前記スマートデバイスの位置する場所の地震動を推定することを特徴とする地震動観測方法を提供する。
上記のような構成によれば、上記の地震動観測システムの場合と同様に、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測システム及び地震動観測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における地震動観測システムの説明図である。
図2】上記地震動観測システムにおけるスマートデバイスのブロック図である。
図3】上記スマートデバイスの説明図である。
図4】上記地震動観測システムにおける地震動の推定装置のブロック図である。
図5】スマートデバイスにおいて正常に地震が観測された場合の第2地震波形を示す図である。
図6】スマートデバイスにおいて正常に地震が観測されなかった場合の第2地震波形を示す図である。
図7】主要動の進行と、地震計とスマートデバイスによって観測される波形との関係を説明する図である。
図8】第1地震波形の、主要動の第1範囲における波形特性に対する主要動の第2範囲における波形特性の関連を表す関数を示す図である。
図9】上記関数を平滑化した平滑化関数を示す図である。
図10】本発明の実施形態における地震動観測方法のフローチャートである。
図11】上記実施形態における地震動観測システムの第1の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。
図12】上記第1の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
図13】上記地震動観測システムの第2の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。
図14】上記第2の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
図15】上記地震動観測システムの第3の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。
図16】上記第3の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
図17】地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにおいて、正常に地震が観測された場合の第2地震波形である正常波形と、正常に地震が観測されなかったものの、振幅が一定となる時間範囲が大きくはない場合の第2地震波形である異常波形の例を示す図である。
図18図17の正常波形と異常波形の各々の加速度フーリエスペクトルの比と、上記実施形態の第1変形例における比較関数とを示すグラフである。
図19図18の比較関数を指数関数式によって近似した近似関数を示すグラフである。
図20図18の比較関数を多次元多項式によって近似した近似関数を示すグラフである。
図21】上記第1変形例における地震動観測方法のフローチャートである。
図22】上記第1変形例における地震動観測システムの第1の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び、比較関数を指数関数式によって近似した近似関数を用いた場合の、補正後の第2地震波形の各々を示す図である。
図23】上記第1の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
図24】上記第1変形例における地震動観測システムの第2の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び、比較関数を多次元多項式によって近似した近似関数を用いた場合の、補正後の第2地震波形の各々を示す図である。
図25】上記第2の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、建物または地盤に固定して設けられた地震計と、机等の上面に設置された加速度センサが内蔵されたスマートデバイスを用いて、スマートデバイスで得られていない加速度データの欠損部分(非信頼区間)を、地震計で観測された加速度データから推定する地震動観測システム、及びその地震動観測方法である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態における地震動観測システムの説明図である。
本実施形態の地震動観測システム1は、地震計2と、スマートデバイス10を用いて、地震動を観測する。
地震計2は、建物または地盤に固定して設けられている。地震計2は、本実施形態においては、地震時においてこれを観測し、例えば南北方向及び東西方向の各々における加速度データを、第1地震波形W1として取得する。地震計2は、本実施形態においては、公共機関等により設置された固定地震計であり、この固定地震計により観測され、公開された加速度データが、第1地震波形W1として取得される。公共機関により設置された地震計としては、例えば防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KiK-net)として設けられた地震計が使用され得る。
例えばK-NETにおいては、強震観測施設が全国を約20km間隔で均質に覆うように設けられている。したがって、例えばK-NETによって任意の場所の地震動を観測しようとする場合においては、当該場所に最も近い強震観測施設において観測された地震動を参照することとなる。しかし、この場合においては、地震動を観測しようとする場所と、最も近い強震観測施設との間の距離が、10km以上離れる場合がある。地震の揺れは、例えば2つの場所が10m程度のわずかな距離しか離れていない場合であっても、大きく異なる態様として観測される場合がある。このため、上記のように10km以上離れた場所で観測された地震波形は、当該場所の地震動を表す地震波形として十分に高い精度を有しているとは言えない。すなわち、例えばK-NETを用いた場合であっても、任意の場所の、精度の高い地震波形を取得するには、空間的な密度が十分ではない。
あるいは、地震計2としては、地震動観測システム1の運用者が、建物や地盤に設置した地震計であってもよい。しかし、このような場合においても、高密度に複数の地震計2を設けることは、コスト面において容易なものではない。コストを考慮すると、地震計2から離間した場所の各々において、精度の高い地震波形を取得する程度に、地震計2の空間的な密度を高めることは、難しい。
【0015】
地震動観測システム1は、空間的な密度を高めるために、地震計2に加えて、スマートデバイス10を用いて地震動を観測する。スマートデバイス10は多くの量が流通し、多くの人間が所有しており、通常、広い範囲にわたって、高い密度で分布している。したがって、その各々において十分に精度が高い地震動が観測されれば、任意の場所の地震動を精度よく観測することが可能となる。
図2は、本地震動観測システムにおけるスマートデバイスのブロック図である。図3は、スマートデバイスの説明図である。
スマートデバイス10は、加速度センサ11、記憶部12、及び送信部13を備えている。
加速度センサ11は、例えば、スマートデバイス10の、表示面10aの横方向であるX方向、表示面10aの縦方向であるY方向、及び表示面10aに直交するZ方向方向の各々における加速度を取得する。
加速度センサ11によって取得された加速度データは、微小な所定の時間間隔ごとに、あるいは連続的に、記憶部12に記憶される。スマートデバイス10が、所定の時間間隔ごとに、あるいは連続的に、加速度データを記憶部12に格納する機能を有していなければ、当該機能を実現するアプリケーションを作成し、これをスマートデバイス10に追加するようにしてもよい。
送信部13は、記憶部12に、所定の間隔ごとに記憶された加速度データを、第2地震波形W2として、ネットワーク100を介して、次に説明する地震動の推定装置20に送信する。ネットワーク100は、例えば、スマートデバイス10と地震動の推定装置20の受信部21との間で、無線や有線による通信を行うことのできる公衆通信網等である。
【0016】
(地震動観測システムの概要)
地震動観測システム1は、地震動の推定装置20を備えている。図4は、本地震動観測システムにおける地震動の推定装置のブロック図である。
地震動の推定装置20は、受信部21、記憶部22、第2地震波形判定部23、第1主要動波形推定部24、第2主要動波形推定部25、及び波形補正部26を備えている。
受信部21は、地震動を観測しようとする場所に最も近い場所に位置する地震計2を特定し、ネットワーク100を介して、当該地震計2から第1地震波形W1を取得する。
また、受信部21は、地震動を観測しようとする場所に最も近い場所に位置するスマートデバイス10を特定し、ネットワーク100を介して、当該スマートデバイス10から第2地震波形W2を取得する。
受信部21は、受信した第1地震波形W1と第2地震波形W2を、記憶部22に記憶する。
【0017】
第2地震波形判定部23は、受信した第2地震波形W2が使用可能なものであるか否かを判定する。
地震が生じた際に、スマートデバイス10は、利用者によって運搬されている場合もあり得るし、机上に載置されている場合もあり得る。スマートデバイス10が利用者によって運搬されている場合においては、取得された第2地震波形W2には、地震動以外の運搬によって生じる加速度が混入しているため、地震動の観測を目的として使用するには適さない。他方、スマートデバイス10が机上に載置されている場合には、基本的に地震動のみが第2地震波形W2に反映されていると考えられる。
このため、第2地震波形判定部23は、スマートデバイス10が、机上などの水平面に載置されているか否かを判定する。具体的には、第2地震波形判定部23は、スマートデバイス10のZ方向の加速度が、重力加速度と一致しているか否かを判定する。Z方向の加速度が重力加速度と一致している場合には、スマートデバイス10が水平面上に載置されており、第2地震波形W2には地震動のみが反映されていると判断する。Z方向の加速度が重力加速度と一致していない場合には、スマートデバイス10が水平面上に載置されていないため、第2地震波形W2には地震動以外の何らかの加速度が反映されている可能性があると判断し、以降の処理を実行しない。
【0018】
第2地震波形判定部23は、スマートデバイス10が、机上などの水平面に載置されていると考えられる場合には、次に、第2地震波形W2が正常か否かを判定する。
地震が生じた際に、スマートデバイス10の加速度センサ11によって取得された第2地震波形W2が、精度よく、地震動を観測したものとなっているとは限らない。
例えばスマートデバイス10が机上に置かれている状況において地震が生じた場合に、地震が小さければ、スマートデバイス10と机の間の摩擦力によりスマートデバイス10は机に追従して動き、机に対して相対移動しないため、地震動を精度よく観測することができる。しかし、スマートデバイス10と机の間の摩擦力を越える力がスマートデバイス10に作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイス10は机に対して相対移動し、あるいは机から落下することがある。このような場合には、スマートデバイス10は、地震動を精度よく観測することができない。
【0019】
図5は、スマートデバイスにおいて正常に地震が観測された場合の第2地震波形を示す図である。図6は、スマートデバイスにおいて正常に地震が観測されなかった場合の第2地震波形を示す図である。また、図1においては、スマートデバイス10A、10Bでは正常な第2地震波形W2A、W2Bが取得されたが、スマートデバイス10Cでは正常ではない第2地震波形W2Cが取得された状況が示されている。
例えば強震時には、スマートデバイス10と机の間の摩擦力を上回るような大きな力が瞬間的に作用して、内蔵された加速度センサ11が加速度を正常に計測できず、図6に区間R2として示されるように、第2地震波形W2の振幅が頭打ちになることがある。
あるいは、スマートデバイス10が例えば机から落下した場合においても、第2地震波形W2の振幅が頭打ちになることがある。
このように、スマートデバイス10において正常に地震が観測されなかった場合には、第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2が生じる傾向がある。この時間範囲R2は、地震の揺れに対する加速度データが欠損した時間範囲であるといえる。
第2地震波形判定部23は、このような、第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2があるか否かを判定する。第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2がなければ、第2地震波形W2は正常に時間が観測された加速度データであるとして、第2地震波形W2を解析して地震動を把握する処理、操作に適用される。第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2がある場合には、地震動の推定装置20は、第1主要動波形推定部24、第2主要動波形推定部25、及び波形補正部26を用いた以降の処理を実行することにより、第1地震波形W1を基に、第2地震波形W2を補正して、スマートデバイス10が位置する場所の地震動を推定する。
【0020】
第2地震波形判定部23において、第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2があり、第2地震波形W2が部分的に欠損したものであると考えられる場合には、地震動の推定装置20の第1主要動波形推定部24は、主要動が到達した時刻を推定する。
これには、気象庁の走時により震源位置と計測点の位置関係から、主要動のはじまる時刻を推定するのが最も簡便で好ましい。その他、地震波のSTA(Short Time Average)とLTA(Long Time Average)の比を用いて、データの形状が急に変わる部分を検出する方法等、他の方法が用いられても構わない。
このようにして、第1主要動波形推定部24は、主要動が到達した時刻を推定することにより、第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1(図1参照)を推定する。
【0021】
次に、第2主要動波形推定部25は、第1地震波形W1にあわせて、第2地震波形W2を調整する。
まず、第2主要動波形推定部25は、第2地震波形W2の時間を、第1地震波形W1と一致するように調整する。
また、第2主要動波形推定部25は、第2地震波形W2の方位が、第1地震波形W1と一致するように調整する。例えば、スマートデバイス10が、Y方向が北西方向に向くように、北から45°時計回りに回転した状態で机上に水平に置かれている場合には、測定値を45°だけ反時計回りに回転させるように座標変換することで、第2地震波形W2の方位を調整する。
そのうえで、第2主要動波形推定部25は、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整された第2地震波形W2のなかから、第1主要動波形推定部24によって第1地震波形W1を基に推定された、主要動が到達した時刻以降の時間範囲を、第2地震波形W2における主要動に相当する波形成分である第2主要動波形S2と推定する。
【0022】
波形補正部26は、第2地震波形W2内に、すなわち第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲R2があれば、第2主要動波形S2における、当該時間範囲R2よりも前の時間範囲を第1範囲R1、及び当該時間範囲R2を第2範囲R2と設定する。
これには、例えば図6の第2地震波形W2において、最初に出現する振幅が一定となる部分AM1を検出し、この前に、最後に加速度の値が0となる時刻T1を計算し、第2主要動波形S2の時刻T1よりも前の時間範囲を第1範囲R1、第2主要動波形S2の時刻T1よりも後の時間範囲を第2範囲R2と設定する。
このように設定された第1範囲R1は、スマートデバイス10において正常に地震が観測され、加速度データが欠損していない時間範囲である。また、第2範囲R2は、スマートデバイス10において正常に地震が観測されず、加速度データが欠損した時間範囲である。すなわち、 第2範囲R2においては、第1範囲R1よりも強い揺れが生じている。
波形補正部26は、上記のように計算された第1範囲R1及び第2範囲R2について、これと同じ時間の範囲を、第1主要動波形S1に対しても適用し、第1主要動波形S1の第1範囲R1と第2範囲R2を設定する。
【0023】
第2範囲R2の開始時刻の計算は、上記以外の方法によって行われても構わない。例えば、スマートデバイス10がジャイロセンサを備えているような場合においては、その結果を利用することが考えられる。
スマートデバイス10が机上に載置されている場合において、地震が発生し、スマートデバイス10と机との間に最大静止摩擦力以上の力が作用すると、スマートデバイス10は机に対して相対移動する。この際に、スマートデバイス10は、机の表面から僅かに離れ、浮いた状態となる。このような場合に、ジャイロセンサにおいては、静止状態においては観測されないZ方向の軸周りの回転が少なからず観測される。したがって、例えば地震動が観測され始めてから、最初に回転量が一定の閾値を上回った時刻を、第2範囲R2の開始時刻とするように構成してもよい。この場合には、例えば、地震の観測が終了するまでに、回転量が上記一定の閾値を下回った最後の時刻を、第2範囲R2の終了時刻とするようにしてもよい。
【0024】
(地震計とスマートデバイスで観測された地震波形の関係)
ここで、第1主要動波形S1と第2主要動波形S2の相関について検討する。図7は、主要動の進行と、地震計とスマートデバイスによって観測される波形との関係を説明する図である。
震源Eにおいて地震が生じ、これが第1破壊域Dα、第2破壊域Dβへと順次進行する場合を考える。震源Eで地震が生じると、まずこれが第1破壊域Dαに伝達し、第1破壊域Dαおいて生じた揺れが地震計2及びスマートデバイス10へと伝達して、図1に示すように第1範囲R1における波形データに対応する揺れを生じさせる。その後、地震が第2破壊域Dβに伝達し、第2破壊域Dβおいて生じた揺れが地震計2及びスマートデバイス10へと伝達して、前記図1に示すように第2範囲R2における波形データに対応する、第1範囲R1よりも強い揺れを生じさせる。
図7に示す地震計2の位置する場所P1の、第1破壊域Dαに対応する第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)は、次式(1)により表すことができる。
【数1】
上式において、Sα(ω)は第1破壊域Dαにおける震源スペクトル、Pα(ω)は第1破壊域Dαに関する伝播特性、G(ω)は場所P1における主要動の地盤特性である。
また、図7に示すようにスマートデバイス10の位置する場所P2の、第1破壊域Dαに対応する第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)は、次式(2)により表すことができる。
【数2】
上式において、G(ω)は場所P2における主要動の地盤特性である。本実施形態における地震計2とその周辺に位置するスマートデバイス10との距離は、第1破壊域Dαと第2破壊域Dβの間の距離(例えば数10km)よりも、十分に小さい。このため、地震計2の位置する場所P1と、スマートデバイス10の位置する場所P2において、伝播特性は実質的に同一であると考えてよい。したがって、式(1)と式(2)においては、伝播特性として同一の関数Pα(ω)が用いられている。
【0025】
また、地震計2の位置する場所P1の、第2破壊域Dβに対応する第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)は、次式(3)により表すことができる。
【数3】
上式において、Sβ(ω)は第2破壊域Dβにおける震源スペクトル、Pβ(ω)は第2破壊域Dβに関する伝播特性である。
スマートデバイス10の位置する場所P2の、第2破壊域Dβに対応する第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)は、次式(4)により表すことができる。
【数4】
式(1)と式(2)の場合と同様に、式(3)と式(4)においても、伝播特性として同一の関数Pβ(ω)が用いられている。
【0026】
上式(3)を変形すると、次式(5)が得られる。
【数5】
また、上式(1)、式(2)から、次式(6)が得られる。
【数6】
【0027】
これらの式(5)、式(6)を、式(4)の右辺に順次適用すると、式(4)は、次のように変形することができる。
【数7】
すなわち、スマートデバイス10によって取得された第2地震波形W2において、データが欠損していると考えられる、主要動の強い部分である第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)は、データが欠損していない、主要動の弱い部分である第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)に対し、地震計2によって取得された第1地震波形W1の、第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)を第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)に変換する関数D β(ω)/D α(ω)を乗算することで、推定することができる。このようにして、第2地震波形W2の、データが欠損していると考えられる、主要動の強い部分である第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を推定し、これを基に、第2範囲R2における補正波形を導出する。
図8は、第1地震波形の、主要動の第1範囲における波形特性に対する主要動の第2範囲における波形特性の関連を表す関数を示す図である。
【0028】
具体的には、図4に示す波形補正部26では、第1主要動波形S1の第1範囲R1と第2範囲R2の波形をそれぞれフーリエ変換し、スペクトル特性D α(ω)、D β(ω)を導出する。
次に、波形補正部26は、これらの導出されたスペクトル特性D α(ω)、D β(ω)から、関数D β(ω)/D α(ω)を定義する。この関数D β(ω)/D α(ω)は、実際には、後に説明するように平滑化して平滑化関数とし、これを関数として以降用いることとなる。
波形補正部26は、更に、第2主要動波形S2の第1範囲R1の波形をフーリエ変換し、スペクトル特性D α(ω)を導出する。そして、波形補正部26は、このスペクトル特性D α(ω)に、上記のように導出(されて更に平滑化された)関数D β(ω)/D α(ω)を適用して、第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を推定する。
そして、波形補正部26は、スペクトル特性D β(ω)をフーリエ逆変換し、第2地震波形W2の、第2範囲R2における補正波形を導出する。
【0029】
このようにして、波形補正部26は、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義する。
また、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を基に、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性D β(ω)を導出し、当該波形特性を基に補正波形を導出する。
本実施形態においては、波形特性は、より詳細には、加速度フーリエスペクトルである。
すなわち、波形補正部26では、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に対する第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)の割合により関数D β(ω)/D α(ω)を定義し、関数D β(ω)/D α(ω)に対して後に説明するように振幅スペクトルのみ平滑化し、第2主要動波形S2の第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に平滑化した平滑化関数を適用して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)を導出し、これをフーリエ逆変換して、補正波形を導出する。
波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、データが欠損した部分の波形の全体を、上記のようにして得られた補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する。
【0030】
次に、関数D β(ω)/D α(ω)の平滑化について説明する。図9は、図8に示される関数を平滑化した平滑化関数を示す図である。
上記のようにして得られた関数D β(ω)/D α(ω)は、必ずしも、安定したものとなっているわけではない。例えば、関数D β(ω)/D α(ω)は、分母となるD α(ω)の値が小さくなることなどの理由に拠り、値が極端に大きくなってしまうような周波数帯を有する場合がある。このような場合には、関数D β(ω)/D α(ω)を第2主要動波形S2の第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)に適用するに際し、当該周波数に対応する成分が特に大きくなるような、補正波形が導出されてしまう。
このような現象を抑制するために、波形補正部26は、関数D β(ω)/D α(ω)を平滑化する。
【0031】
本実施形態においては、関数D β(ω)/D α(ω)として得られるフーリエスペクトルのうち、フーリエ振幅スペクトルに関してのみ、平滑化を行う。既に説明したように、関数D β(ω)/D α(ω)を適用して生成されるスペクトル特性D β(ω)は、フーリエ逆変換されて、補正波形すなわち時刻歴波形として使用される。このため、本実施形態においては、フーリエ位相スペクトルに関しては何の処理も行わず、そのまま用いる。このように、位相スペクトルに関しては平滑化処理を実行しないため、関数D β(ω)/D α(ω)においては、振幅スペクトルが平滑化されたとしても、第1範囲R1から第2範囲R2への位相の変化を示す情報としては地震計2が設けられた場所P1のものがそのまま維持されており、この場所P1の位相の変化を示す情報がそのまま、スマートデバイス10が設けられた場所P2における第2範囲R2にも適用される。
同じ震源域から同じ地点に到達するまでの位相は相似している。したがって、地震計2が設けられた場所P1とスマートデバイス10が設けられた場所P2が同一の基盤上にあるとすれば、少なくとも震源から基盤までは位相は同一であるはずである。また、地震計2が設けられた場所P1とスマートデバイス10が設けられた場所P2の各々の表層地盤が異なっていたとしても、式(7)においては地震計2が設けられた場所P1における第1範囲R1から第2範囲R2への位相の変化のみをスマートデバイス10が設けられた場所P2に適用(スペクトル特性D α(ω)に乗算)して第2範囲R2のスペクトル特性D β(ω)を算出しているので、第2範囲R2のスペクトルが有する位相情報としては、スマートデバイス10が設けられた場所P2の第1範囲R1のものが維持されている。
平滑化は、ハニングウィンドウやParzenウィンドウ等の平滑化関数を用いて行われてよい。図9においては、図8に示される関数D β(ω)/D α(ω)に対し、振幅にバンド幅0.1HzのParzenウィンドウを適用したものとなっている。
【0032】
(地震動観測方法)
次に、図1図9、及び図10を用いて、上記の地震動観測システム1を用いた地震動観測方法を説明する。図10は、本実施形態における地震動観測方法のフローチャートである。
地震が生じた後に、受信部21は、地震動を観測しようとする場所に最も近い場所に位置する地震計2を特定し、ネットワーク100を介して、当該地震計2から第1地震波形W1を取得する。
また、受信部21は、地震動を観測しようとする場所に最も近い場所に位置するスマートデバイス10を特定し、ネットワーク100を介して、当該スマートデバイス10から第2地震波形W2を取得する。
受信部21は、受信した第1地震波形W1と第2地震波形W2を、記憶部22に記憶する(ステップS1)。
【0033】
第2地震波形判定部23は、受信した第2地震波形W2が使用可能なものであるか否かを判定する(ステップS3)。使用できないと判定された場合(ステップS3のNo)には、処理を終了する(ステップS5)。この場合には、例えば、地震動を観測しようとする場所に、次に近い場所に位置するスマートデバイス10を特定し、当該スマートデバイス10から第2地震波形W2を取得して、これに対しステップS1以降の処理を改めて行うようにしてもよい。
第2地震波形W2が使用可能であると判定された場合(ステップS3のYes)には、第2地震波形判定部23は、第2地震波形W2が正常か否かを判定する(ステップS7)。より具体的には、第2地震波形判定部23は、第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2があるか否かを判定する。第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2がなく、第2地震波形W2が正常であると判定された場合には(ステップS7のYes)、第2地震波形W2は正常に時間が観測された加速度データであるとして、第2地震波形W2を解析して地震動を把握する処理、操作に適用される(ステップS23)。
【0034】
第2地震波形判定部23において、第2地震波形W2の振幅が一定となる時間範囲R2があり、第2地震波形W2が部分的に欠損したものであると考えられる場合(ステップS7のNo)には、地震動の推定装置20の第1主要動波形推定部24は、主要動が到達した時刻を推定することにより、第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1を推定する(ステップS9)。
次に、第2主要動波形推定部25は、第2地震波形W2を、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整する。
そのうえで、第2主要動波形推定部25は、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整された第2地震波形W2のなかから、第1主要動波形推定部24によって第1地震波形W1を基に推定された、主要動が到達した時刻以降の時間範囲を、第2地震波形W2における主要動に相当する波形成分である第2主要動波形S2と推定する(ステップS11)。
【0035】
波形補正部26は、第2地震波形W2内に、すなわち第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲R2があれば、第2主要動波形S2における、当該時間範囲R2よりも前の時間範囲を第1範囲R1、及び当該時間範囲R2を第2範囲R2と設定する(ステップS13)。
そして、波形補正部26は、第1主要動波形S1の、第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)に対する第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義する(ステップS15)。
波形補正部26は、関数D β(ω)/D α(ω)を平滑化して平滑化関数を導出し(ステップS17)、以降、この平滑化関数を用いて処理を行う。
波形補正部26は、第2主要動波形S2の第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に平滑化関数を適用して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)を導出し、これをフーリエ逆変換して、補正波形を導出する(ステップS19)。
波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、データが欠損した部分の波形の全体を、上記のようにして得られた補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する(ステップS21)。
このようにして補正された波形を、第2地震波形W2として、加速度データを解析して地震動を把握する処理、操作に適用する(ステップS23)。
【0036】
(地震動観測システム及び地震動観測方法作用効果)
次に、上記の地震動観測システム及び地震動観測方法の効果について説明する。
本実施形態の地震動観測システム1は、加速度センサ11が内蔵されたスマートデバイス10と、建物または地盤に固定して設けられた地震計2と、を用いた地震動推定システム1であって、地震計2で観測された第1地震波形W1を基に、加速度センサ11で観測された第2地震波形W2を補正して、スマートデバイス10の位置する場所P2の地震動を推定する地震動の推定装置20を備え、地震動の推定装置20は、第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1を推定する第1主要動波形推定部24と、第2地震波形W2を、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整し、調整された第2地震波形W2のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形S2を推定する第2主要動波形推定部25と、第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲R1、当該時間範囲を第2範囲R2と設定し、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義し、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を基に、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性D β(ω)を導出し、当該波形特性D β(ω)を基に補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する、波形補正部26と、を備える。
上記のような構成によれば、加速度センサ11が内蔵されたスマートデバイス10と、建物または地盤に固定して設けられた地震計2と、を備え、地震が生じた際には、地震計2によって地震を第1地震波形W1として観測し、スマートデバイス10に内蔵された加速度センサ11によって地震を第2地震波形W2として観測する。すなわち、スマートデバイス10が位置する各地点の地震動を、スマートデバイス10に内蔵された加速度センサ11により観測するため、広範囲の地震動を観測することができる。
また、各地点の地震動をスマートデバイス10により観測するため、多くの地震計2を設ける必要がない。したがって、地震動観測システム1を、低コストで実現可能である。
ただし、スマートデバイス10を用いて地震動を観測する場合には、地震動を精度よく観測できないことがある。例えば、スマートデバイス10と机の間の摩擦力を越える力がスマートデバイス10に作用する程度に、地震が大きければ、スマートデバイス10は机に対して相対移動し、あるいは机から落下することがある。このような場合においては、スマートデバイス10が机に対して相対移動し、または落下している間の、スマートデバイス10に内蔵された加速度センサ11によって観測された第2地震波形W2は、地震を正常に観測したものとはなっていない。このような場合において、第2地震波形W2の、地震を正常に観測していない部分は、振幅が一定となるような傾向を示すことが多い。
ここで、地震動の推定装置20は、地震計2で観測された第1地震波形W1を基に、加速度センサ11で観測された第2地震波形W2を補正して、スマートデバイス10の位置する場所P2の地震動を推定する。
より詳細には、第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1を推定する。また、第2地震波形W2を、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整したうえで、調整された第2地震波形W2のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形S2を推定する。この第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲が有るとすれば、それは、上記のように、地震を正常に観測していない、強い振動が生じた部分であると考えられる。この、強い振動が生じたと考えられる時間範囲を第2範囲R2と設定し、第2範囲R2よりも前の時間範囲を、地震が正常に観測された、第1範囲R1と設定する。
第1範囲R1における振動が震源の第1破壊域Dαで生じた地震の振動であり、第2範囲R2における振動が、第1破壊域Dαとは異なる、震源の第2破壊域Dβで生じた地震の振動であるとすると、地震計2が設けられた場所P1とスマートデバイス10が設けられた場所P2との間の距離が、第1破壊域Dαと第2破壊域Dβとの間の距離よりも十分に小さければ、第1破壊域Dαで生じた地震の振動の伝搬特性は、上記の2つの場所において、ほぼ同等であり、なおかつ第2破壊域Dβで生じた地震の振動の伝搬特性も、上記の2つの場所において、ほぼ同等であると考えられる。したがって、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義すれば、第2主要動波形S2においても第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性の関連は第1主要動波形S1と同様であると考えられるから、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を基に、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性D β(ω)を導出することができる。このようにして導出された、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性D β(ω)を基に、補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正することができる。
このようにして、第2地震波形W2に、地震を正常に観測していない部分があるとしても、これを補正することができるため、スマートデバイス10が設けられた場所P2の地震動を精度よく観測することができる。
したがって、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測システム1を提供することができる。
【0037】
特に本実施形態においては、地震計2は、公共機関等により設置された固定地震計であるため、地震動観測システム1を設けるに際して、地震計2を特段に設置する必要がない。これにより、地震動観測システム1の設置コストを更に低減可能である。
このようにした場合においても、地震計2と地震計2の間の位置には、多くのスマートデバイス10が位置しており、これらスマートデバイス10の各々において地震動を観測することができるため、多くの観測点において地震動を観測することが可能な、高密度の観測ネットワークを構築することができる。
【0038】
第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正するに際し、例えば、図6に破線Vとして示したように、振幅が一定となる部分に対し、この一定となる部分の両端に繋がる、波形の立ち上がり線と立ち下り線をそれぞれ延伸させることで、第2範囲R2の全体ではなく、振幅が一定となる部分のみを調整して、補正波形を生成することも考えられる。
しかし、例えばスマートデバイス10が落下するような場合においては、長い時間範囲にわたって振幅が一定となるが、このような場合において、上記のように振幅が一定となる部分のみを調整すると、調整後の波形が、本来の地震動の波形とは乖離した性質のものとなる可能性が高い。
これに対し、本実施形態においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2における補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換している。これにより、本来の地震動の波形と近しい性質の補正波形を生成することができる。
【0039】
また、波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、波形補正部26では、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に対する第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)の割合により関数D β(ω)/D α(ω)を定義し、関数D β(ω)/D α(ω)に対して振幅スペクトルのみ平滑化し、第2主要動波形S2の第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に平滑化した平滑化関数を適用して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)を導出し、これをフーリエ逆変換して、補正波形を導出する。
上記のような構成によれば、地震動観測システム1を適切に実現することができる。
【0040】
また、本実施形態の地震動観測方法は、加速度センサ11が内蔵されたスマートデバイス10と、建物または地盤に固定して設けられた地震計2と、を用いて、地震動を観測する、地震動観測方法であって、地震計2で観測された第1地震波形W1のなかから、主要動に相当する波形部分である第1主要動波形S1を推定し、加速度センサ11で観測された第2地震波形W2を、時間及び方位が第1地震波形W1と一致するように調整し、調整された第2地震波形W2のなかから、主要動に相当する波形部分である第2主要動波形S2を推定し、第2主要動波形S2内に、振幅が一定となる時間範囲が有れば、当該時間範囲よりも前の時間範囲を第1範囲R1、当該時間範囲を第2範囲R2と設定し、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義し、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を基に、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性D β(ω)を導出し、当該波形特性D β(ω)を基に補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正して、スマートデバイス10の位置する場所の地震動を推定する。
上記のような構成によれば、上記の地震動観測システム1の場合と同様に、低コストで実現可能で、広範囲の地震動を精度よく観測することができる、地震動観測方法を提供することができる。
【0041】
(実施形態の検討例)
次に、上記実施形態として説明した地震動観測システム1の検討例を説明する。まず、第1の検証結果として、2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震における、K-NET及びKiK-netで得られた2地点の記録を用いた実験の結果を示す。本第1の検証結果においては、上記実施形態として説明したように、平滑化処理におけるバンド幅を0.1Hzとしている。
図11は、上記地震動観測システムの第1の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。図12は、上記第1の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
地震計2において、図11の上に示される第1地震波形W1が得られ、異なる地点において、スマートデバイス10によって、図11の中段に示される第2地震波形W2が得られたものとする。この第2地震波形W2においては、第1範囲R1のデータは正常なものとなっているが、第2範囲R2のデータは欠損し、正常なものとはなっていない。
図11の下に示した波形W2´が、上記実施形態の地震動観測システム1によって得られた、第2地震波形W2を補正した波形である。図12においては、これらの各々に対応するスペクトルが描かれている。波形W2´は、波形W2の包絡性状とほぼ等しく、工学的に十分な精度を持つ波形となっている。
【0042】
次に、第2の検証結果を説明する。第2の検証結果においては、基本的には上記の第1の検証と同様な検証内容であるが、関数の平滑化処理を実行していない点が異なっている。
図13は、第2の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。図14は、第2の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
図13の下に示された波形W2´からわかるように、推定された波形は不自然な形となっている。また、図14に示されるように、応答スペクトルは短周期部分が過大評価された結果となっている。
【0043】
更に、第3の検証結果を説明する。第3の検証結果においては、基本的には上記の第1の検証と同様な検証内容であるが、関数の平滑化処理におけるバンド幅を1.0Hzとしている点が異なっている。
図15は、第3の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の各々を示す図である。図16は、第3の検証結果における、第1地震波形、第2地震波形、及び補正後の第2地震波形の応答スペクトルを示す図である。
本第3の検証結果においても、第1の検証結果と同様に、十分な精度を有する波形が得られていることがわかる。
【0044】
(実施形態の第1変形例)
次に、上記実施形態の第1変形例を説明する。上記の実施形態においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形が、正常な状態から大きく乖離しており、補正波形を導出する際に参考にはできないと見做し、第1範囲R1の波形のみが補正波形の導出に使用され、第2範囲R2の波形は使用されない。本変形例においては、一定の条件を満たす場合には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形が参考にできるものと考え、これを使用して補正波形を導出することで、補正波形の精度をより高めることを趣旨としている。
【0045】
地震時にスマートデバイス10に内蔵された加速度センサ11によって観測された第2地震波形W2が、地震を正常に観測したものとはなっておらず、振幅が一定となる時間範囲があるように、欠損している場合において、その一定となっている振幅の値は、地震時におけるスマートデバイス10の状況に応じて異なっている。例えば、スマートデバイス10が机上に載置された状態で地震が生じた際に、地震力がスマートデバイス10と机との間の最大静止摩擦力を越えて、スマートデバイス10が机上で滑るように、机に対して相対移動するような場合と、地震力が過大となりスマートデバイス10が机の端から落下している場合とでは、振幅の値が一定となる点においては共通しているが、その振幅の値は、前者の滑り移動中よりも、後者の落下中の方が大きくなる傾向にある。後者のような場合においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形とは大きく異なっていることが想定されるから、補正波形を導出するに際して参考にはしにくいが、前者のような場合においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形に近い特性を有している可能性が高く、補正波形を導出するに際して参考にすれば、より正確な補正波形を導出することができる可能性がある。このため、前者のような場合、すなわち第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が所定の振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形を用いて、補正波形を導出する。
【0046】
図17は、地震計により観測された第1地震波形と、スマートデバイスにおいて、正常に地震が観測された場合の第2地震波形である正常波形と、正常に地震が観測されなかったものの、振幅が一定となる時間範囲が大きくはない場合の第2地震波形である異常波形の例を示す図である。
図17に示されるような、地震計2において第1地震波形W1として測定された地震が、スマートデバイス10で正常に観測された場合の第2地震波形である正常波形W2Dの、第2範囲R2の部分の波形DDの波形特性、すなわち加速度フーリエスペクトル特性をDc β(ω)とする。また、上記と同一の地震が、スマートデバイス10で正常に観測されなかったものの、振幅が一定となる時間範囲が大きくはない場合の第2地震波形である異常波形W2Eの、第2範囲R2の部分の波形DEの波形特性、すなわち加速度フーリエスペクトル特性をDm β(ω)とする。
この場合に、これらのスペクトル特性の比Fは、次式(8)として表すことができる。
【数8】
すなわち、正常に地震が観測されなかったとしても、加速度センサ11によって実際に取得された波形が、正常に取得された場合の波形に近い特性を有していると考えられる場合であれば、このスペクトル特性Dm β(ω)に対して、上記Fに相当する値を乗ずれば、適切な、すなわち正常に地震が観測された場合のスペクトル特性Dc β(ω)を得ることができる。
【0047】
ここで、上記実施形態においては、第2地震波形W2の、データが欠損していると考えられる、主要動の強い部分である第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を、式(7)によって推定している。すなわち、式(7)のスペクトル特性D β(ω)は、概念的には正常に地震が観測された場合のスペクトル特性Dc β(ω)に等しいものであるから、スペクトル特性D β(ω)をスペクトル特性Dc β(ω)に置換すると、次式(9)のようになる。
【数9】
この式(9)を式(8)に代入すると、次の式(10)のようになる。ただし、式(9)の左辺と右辺は厳密には異なるため、式(10)においては左辺をF´として表現している。
【数10】
【0048】
上式(10)の、D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}の部分は、データが欠損していない、主要動の弱い部分である第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)に対し、地震計2によって取得された第1地震波形W1の、第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)を第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)に変換する関数D β(ω)/D α(ω)を乗算することで推定された、第2地震波形W2での、主要動の強い部分である第2範囲R2において正常に得られたと想定される波形である正常想定波形のスペクトル特性、すなわち正常想定波形特性である。したがって、この正常想定波形特性を、加速度センサ11によって実際に取得された、データが欠損していると考えられる、主要動の強い部分である第2範囲R2における波形である取得波形の特性、すなわち取得波形特性Dm β(ω)によって除算した上記F´は、取得波形特性と正常想定波形特性との比較関数F´といえる。
【0049】
図18は、図17の正常波形と異常波形の各々の加速度フーリエスペクトルの比と、上記実施形態の第1変形例における比較関数とを示すグラフである。図18においては、図17の正常波形W2Dの、第2範囲R2の部分の波形DDと、異常波形W2Eの、第2範囲R2の部分の波形DEとの加速度フーリエスペクトルの比、すなわち上式(8)における比Fに対し、符号Fが付されている。同様に、上式(10)における比較関数F´に対し、符号F´が付されている。
【0050】
図18から、以下の特徴が読み取れる。
まず、比Fは、低い周波数では一定の値となり、1~10Hz周辺でやや大きくなり、更に高い周波数になると、減少することがわかる。加速度データが欠損して地震波の振幅が一定となると、欠損した部分は、図6に示されるように、正弦波ではなく、矩形波に近い形状となる。矩形波のフーリエスペクトルは、正弦波に一定の割合で高周波を加えたものから形成される。すなわち、加速度データが矩形波に近い形状となるために加えられた高周波の分だけ、取得波形特性Dm β(ω)の高い周波数における値が大きくなり、比Fはこの取得波形特性Dm β(ω)により除算されて計算されるために、比Fの高い周波数の値が減少していると考えられる。
また、比Fと、比較関数F´は、全体的に、同じ形状を有していることがわかる。
更に、図17によると、正常波形W2Dと異常波形W2Eは、全体的に波形の形状が同様であり、欠損したとしても異常波形W2Eの波形の形状は正常波形W2Dと近いものとして維持されている。したがって、これらの第2範囲R2の部分の波形DD、DEのスペクトル特性Dc β(ω)、Dm β(ω)も概ね相似した形状となると考えられる。このため、比Fの形状も、図18に示されるように、比較的なだらかな、凹凸が少ない形状となっていると考えられる。
これに対し、比較関数F´は、これを算出するに際して式(10)からもわかるように、第2地震波形W2とは異なる地点の地震波形である第1地震波形W1を使用していることもあり、比Fに比べると凹凸が大きな形状となっている。
【0051】
スマートデバイス10で第2地震波形W2を取得し、それが欠損していることが判明した場合においては、スマートデバイス10で正常に観測された場合の波形特性である上記の波形特性Dc β(ω)は、当然ながら、取得することはできない。すなわち、これを用いて上式(8)により算出される比Fも、実際には取得することができない。
ただし、上記のように、比較関数F´は、比Fに比べると凹凸が大きな形状となっているため、この比較関数F´を使用して補正波形を導出しても、精度が低くなる可能性がある。
したがって、本変形例においては、上記のような比Fと比較関数F´の特徴を用いて、比較関数F´から、できるだけ比Fに近い、凹凸が小さくなめらかな形状となるように、比較関数F´を関数近似した近似関数Ffuncを計算し、これを用いる。本変形例においては、次の式(11)、(12)のように、比較関数F´を指数関数式または多次元多項式により近似して、近似関数Ffuncを定義する。
【数11】
【数12】
上式(11)、(12)において、a、b、c、d、p~pn+1は係数である。
【0052】
図19は、図18の比較関数を指数関数式(11)によって近似した近似関数を示すグラフである。図19においては、a=2.0094、b=-0.0508、c=1.0930、d=0.7772とした場合の関数となっている。
図20は、図18の比較関数を多次元多項式(12)によって近似した近似関数を示すグラフである。図20においては、次数nを20とした場合の関数となっている。
これらいずれの場合においても、近似関数Ffuncは比Fの形状をよく近似したものとなっており、比較関数F´にみられる値のばらつきが低減され、これを用いた計算における悪影響を低減することができると考えられる。
【0053】
このようにして得られた近似関数Ffuncを、次式(13)のようにして取得波形特性Dm β(ω)に乗算することにより、第2地震波形W2の第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を、推定することができる。
【数13】
【0054】
上記のような考えに基づき、本変形例においては、波形補正部26は、まず上記実施形態と同様に、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に対する第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)の割合により、関数D β(ω)/D α(ω)を定義する。
そのうえで、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下の場合には、まず、上式(10)により、第2主要動波形S2の第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を乗算して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性を、第2主要動波形S2の第2範囲R2において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}として導出し、この結果を、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形の波形特性である取得波形特性Dm β(ω)で除算して、取得波形特性Dm β(ω)と正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}との比較関数F´を計算する。
そして、波形補正部26は、上式(11)、(12)により、比較関数F´を、指数関数式または多次元多項式により近似して、近似関数Ffuncを計算する。
更に、波形補正部26は、上式(13)により、近似関数Ffuncと取得波形特性Dm β(ω)を乗算して、第2地震波形W2の第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を推定し、これをフーリエ逆変換して、補正波形を導出する。
最後に、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する。
【0055】
(地震動観測方法)
次に、図21を用いて、本変形例の地震動観測システムを用いた地震動観測方法を説明する。図21は、本変形例における地震動観測方法のフローチャートである。本変形例の地震動観測方法においては、図10に示されるフローチャートに対し、ステップS31、S33、S35、S37が追加されたものとなっている。より詳細には、本変形例においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が所定の振幅閾値以下であるか否かを判定し、振幅閾値以下であれば、図10を用いて上記実施形態で説明したステップS17、S19に替えて、ステップS33、S35、S37を行う点が、上記実施形態とは異なっている。したがって、ここではこれらステップS31、S33、S35、S37のみについて詳説する。
【0056】
ステップS15において、波形補正部26が、第1主要動波形S1の、第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)に対する第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)の関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)を定義する。
その後に、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下であるか否かを判定する(ステップS31)。
第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下でない場合(ステップS31のNo)には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形とは大きく異なっており、補正波形を導出するに際して参考にならない場合であるため、ステップS17へと遷移し、上記実施形態の処理を続行する。
第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下である場合(ステップS31のYes)には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形に近い特性を有している可能性が高く、補正波形を導出するに際して参考にすれば、より正確な補正波形を導出することができる可能性がある場合であるため、本変形例に関するステップS33へと遷移する。
【0057】
波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下の場合には、まず、上式(10)により、第2主要動波形S2の第1範囲R1におけるスペクトル特性D α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を乗算して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性を、第2主要動波形S2の第2範囲R2において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}として導出し、この結果を、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形の波形特性である取得波形特性Dm β(ω)で除算して、取得波形特性Dm β(ω)と正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}との比較関数F´を計算する(ステップS33)。
そして、波形補正部26は、上式(11)、(12)により、比較関数F´を、指数関数式または多次元多項式により近似して、近似関数Ffuncを計算する(ステップS35)。
更に、波形補正部26は、上式(13)により、近似関数Ffuncと取得波形特性Dm β(ω)を乗算して、第2地震波形W2の第2範囲R2におけるスペクトル特性D β(ω)を推定し、これをフーリエ逆変換して、補正波形を導出する(ステップS37)。
その後、ステップS21へと遷移し、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する。
【0058】
本変形例のような地震動観測システム1においては、波形補正部26は、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)を関数D β(ω)/D α(ω)に適用して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性を、第2主要動波形S2の第2範囲R2において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}として導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形の波形特性である取得波形特性Dm β(ω)と正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}との比較関数F´を計算し、取得波形特性Dm β(ω)と比較関数F´を基に、補正波形を導出し、第2主要動波形S2の第2範囲R2の波形を補正波形に置換することで、第2地震波形W2を補正する。
地震時にスマートデバイス10に内蔵された加速度センサ11によって観測された第2地震波形W2が、地震を正常に観測したものとはなっておらず、振幅が一定となる時間範囲があるような場合において、その一定となっている振幅の値は、地震時におけるスマートデバイス10の状況に応じて異なっている。例えば、スマートデバイス10が机上に載置された状態で地震が生じた際に、地震力がスマートデバイス10と机との間の最大静止摩擦力を越えて、スマートデバイス10が机上で滑るように、机に対して相対移動するような場合と、地震力が過大となりスマートデバイス10が机の端から落下している場合とでは、振幅の値が一定となる点においては共通しているが、その振幅の値は、前者の滑り移動中よりも、後者の落下中の方が大きくなる傾向にある。後者のような場合においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形とは大きく異なっていることが想定されるから、補正波形を導出するに際して参考にはしにくいが、前者のような場合においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合の波形に近い特性を有している可能性が高く、補正波形を導出するに際して参考にすれば、より正確な補正波形を導出することができる可能性がある。このため、前者のような場合、すなわち第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が所定の振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形を用いて、補正波形を導出する。
既に説明したように、第2主要動波形S2での、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連は、第1主要動波形S1での、第1範囲R1における波形特性D α(ω)に対する第2範囲R2における波形特性D β(ω)の関連と同様であるため、この関連を表す関数D β(ω)/D α(ω)に、第2主要動波形S2の第1範囲R1における波形特性D α(ω)を適用して、第2主要動波形S2の第2範囲R2における波形特性が導出される。このようにして導出される波形特性は、第2主要動波形S2の第2範囲R2において正常に取得された場合に想定される波形の特性である正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}ともいえる。
ここで、上記のように、第2主要動波形S2の第2範囲R2の振幅が振幅閾値以下の場合には、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形は、正常に取得された場合に想定される波形に近い特性を有している可能性が高い。このため、実際に取得された波形の特性である取得波形特性Dm β(ω)と、正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}との比較関数F´を計算し、この比較関数F´と取得波形特性Dm β(ω)を基にすれば、取得波形特性Dm β(ω)を正常想定波形特性D α(ω){D β(ω)/D α(ω)}に近い形態に調整するように、取得波形特性Dm β(ω)が反映された補正波形を導出することができる。
このようにして、上記のような構成においては、第2主要動波形S2の第2範囲R2の、加速度センサ11によって実際に取得された波形が、正常に取得された場合に想定される波形に近い特性を有している可能性が高い場合に、この特性を補正波形に適切に反映して、精度をより高めることができる。
【0059】
また、波形特性は、加速度フーリエスペクトルであり、波形補正部26は、第1主要動波形S1の、第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)に対する第2範囲R2における加速度フーリエスペクトルD β(ω)の割合により関数D β(ω)/D α(ω)を定義し、第2主要動波形S2の第1範囲R1における加速度フーリエスペクトルD α(ω)と関数D β(ω)/D α(ω)を乗算した結果を、正常想定波形特性として、これを加速度フーリエスペクトルである取得波形特性Dm β(ω)によって除算して、比較関数F´を計算し、比較関数F´を指数関数式または多次元多項式により近似して近似関数Ffuncを計算し、近似関数Ffuncと取得波形特性Dm β(ω)を乗算した結果をフーリエ逆変換して、補正波形を導出する。
上記のような構成によれば、比較関数F´をより適切な形状の近似関数Ffuncとしたうえで、近似関数Ffuncと取得波形特性Dm β(ω)から補正波形を導出するため、補正波形の精度がより向上する。
【0060】
(第1変形例の検討例)
次に、上記第1変形例として説明した地震動観測システム1の検討例を説明する。
図22は、上記第1変形例における地震動観測システムの第1の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形W1と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形W2、及び、比較関数を指数関数式によって近似した近似関数を用いた場合の、補正後の第2地震波形W2´の各々を示す図である。図23は、第1の検証結果における、第1地震波形W1、第2地震波形W2、及び補正後の第2地震波形W2´の応答スペクトルを示す図である。
図24は、上記第1変形例における地震動観測システムの第2の検証結果であり、地震計により観測された第1地震波形W1と、スマートデバイスにより観測された第2地震波形W2、及び、比較関数を多次元多項式によって近似した近似関数を用いた場合の、補正後の第2地震波形W2´の各々を示す図である。図24は、第2の検証結果における、第1地震波形W1、第2地震波形W2、及び補正後の第2地震波形W2´の応答スペクトルを示す図である。
これら双方の場合において、上記実施形態に関して図14図16として説明した検討例よりも、高い精度で応答スペクトルが得られていることがわかる。
【0061】
なお、本発明の地震動観測システム及び地震動観測方法は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、計算された関数D β(ω)/D α(ω)は平滑化して用いたが、十分な精度の関数D β(ω)/D α(ω)が得られているようであれば、平滑化の処理は省略してもかまわない。また、平滑化を行う場合において、その手法は上記実施形態で説明したものに限られない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記各実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 地震動観測システム 24 第1主要動波形推定部
2 地震計 25 第2主要動波形推定部
10 スマートデバイス 26 波形補正部
11 加速度センサ W1 第1地震波形
12 記憶部 W2 第2地震波形
13 送信部 S1 第1主要動波形
20 地震動の推定装置 S2 第2主要動波形
21 受信部 R1 第1範囲
22 記憶部 R2 第2範囲
23 第2地震波形判定部
図1
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