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特開2023-116406結晶性酸化物膜、積層構造体および半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116406
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】結晶性酸化物膜、積層構造体および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20230815BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230815BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230815BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20230815BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230815BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230815BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C30B29/16
B32B9/00 A
C23C16/40
G06F3/041 495
H01L29/78 618B
H01L21/365
H01L21/368 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011846
(22)【出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022018494
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 安史
(72)【発明者】
【氏名】松田 慎平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 弘紀
(72)【発明者】
【氏名】松木 英夫
【テーマコード(参考)】
4F100
4G077
4K030
5F045
5F053
5F110
【Fターム(参考)】
4F100AA17A
4F100AA17B
4F100AA19A
4F100AA19C
4F100AA33B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100EH662
4F100EH66B
4F100GB41
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100YY00B
4G077AA03
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4G077HA06
4K030AA02
4K030AA14
4K030AA16
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4K030JA01
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5F045AD14
5F045AD15
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5F045AE01
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5F110NN71
5F110NN72
5F110QQ06
(57)【要約】
【課題】工業的に有用であり、かつ半導体特性に優れた結晶性酸化物膜を提供する。
【解決手段】 c面から傾斜した面を主面とし、ガリウムおよび周期表第9族金属を含む結晶性酸化物膜であって、膜中の全ての金属元素中の前記の周期表第9族金属の原子比が23%以下である結晶性酸化物膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面から傾斜した面を主面とし、ガリウムおよび周期表第9族金属を含む結晶性酸化物膜であって、膜中の全ての金属元素中の前記の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
【請求項2】
コランダム構造を有する請求項1記載の結晶性酸化物膜。
【請求項3】
前記主面が、c面と直交する面である請求項1または2に記載の結晶性酸化物膜。
【請求項4】
前記主面が、m面である請求項1~3のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項5】
周期表第9族金属が、イリジウムを含む請求項1~4のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項6】
温度上昇に伴って抵抗率が減少する請求項1~5のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項7】
前記結晶性酸化物膜中の前記の周期表第9族金属の原子比が、10%以下である請求項1~6のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項8】
膜厚が100nm以上である請求項1~7のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項9】
表面粗さ(Ra)が10nm以下である請求項1~8のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項10】
p型の導電型を有する請求項1~9のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項11】
バンドギャップが5.0eV以上である請求項1~10のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項12】
アルミニウム、インジウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物を主成分とする第1の結晶性酸化物膜と、該第1の結晶性酸化物膜上に形成されている第2の結晶性酸化物膜とを少なくとも備える積層構造体であって、前記第1の結晶性酸化物膜の主面がc面から傾斜した面であり、前記第2の結晶性酸化物膜が、ガリウムおよび周期表第9族金属を含み、前記第2の結晶性酸化物膜中の全ての金属元素中の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特徴とする積層構造体。
【請求項13】
前記第1の結晶性酸化物膜が、コランダム構造を有する請求項12記載の積層構造体。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の結晶性酸化物膜または請求項12もしくは13に記載の積層構造体と、電極とを少なくとも備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項15】
パワーデバイスである請求項14記載の半導体装置。
【請求項16】
半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が、請求項14または15に記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にパワー半導体に有用な、結晶性酸化物膜、積層構造体および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInAlGa(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる(特許文献1)。
【0003】
そして、近年においては、酸化ガリウム系のp型半導体が検討されており、例えば、特許文献2には、β-Ga系結晶を、MgO(p型ドーパント源)を用いてFZ法により形成したりすると、p型導電性を示す基板が得られることが記載されている。また、特許文献3には、MBE法により形成したα-(AlGa1-x単結晶膜にp型ドーパントを添加してp型半導体を形成することが記載されている。しかしながら、特許文献2や特許文献3に記載の方法では、半導体装置に適用可能な半導体特性を有するp型半導体を実現することは困難であった。そのため、バンドギャップの大きな酸化ガリウムを含むn型半導体層を用いた半導体装置に適用可能なp型半導体が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/050793号公報
【特許文献2】特開2005-340308号公報
【特許文献3】特開2013-58637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、半導体特性に優れた結晶性酸化物膜を提供することを目的の1つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のバッファ層(例えばm面α-Ga層)を用いてガリウムおよび周期表第9族金属を含む結晶性酸化物膜を成膜する場合であって、膜中の全ての金属元素中の周期表第9族金属の原子比が特定の範囲内(23%以下)である場合において、良好な半導体特性を有する結晶性酸化物膜(ガリウムの酸化物と周期表第9族金属の酸化物との混晶膜)が得られることを知見し、このような結晶性酸化物膜が、上記した従来の問題を解決できるものであることを見出した。
【0007】
また、本発明者らは、上記知見を得たのち、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1] c面から傾斜した面を主面とし、ガリウムおよび周期表第9族金属を含む結晶性酸化物膜であって、膜中の全ての金属元素中の前記の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[2] コランダム構造を有する前記[1]記載の結晶性酸化物膜。
[3] 前記主面が、c面と直交する面である前記[1]または[2]に記載の結晶性酸化物膜。
[4] 前記主面が、m面である前記[1]~[3]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[5] 周期表第9族金属が、イリジウムを含む前記[1]~[4]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[6] 温度上昇に伴って抵抗率が減少する前記[1]~[5]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[7] 前記結晶性酸化物膜中の前記の周期表第9族金属の原子比が、10%以下である請求項1~6のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[8] 膜厚が100nm以上である前記[1]~[7]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[9] 表面粗さが10nm以下である前記[1]~[8]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[10] p型の導電型を有する前記[1]~[9]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[11] バンドギャップが5.0eV以上である前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[12] アルミニウム、インジウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物を主成分とする第1の結晶性酸化物膜と、該第1の結晶性酸化物膜上に形成されている第2の結晶性酸化物膜とを少なくとも備える積層構造体であって、前記第1の結晶性酸化物膜の主面がc面から傾斜した面であり、前記第2の結晶性酸化物膜が、ガリウムおよび周期表第9族金属を含み、前記第2の結晶性酸化物膜中の全ての金属元素中の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特徴とする積層構造体。
[13] 前記第1の結晶性酸化物膜が、コランダム構造を有する前記[12]記載の積層構造体。
[14] 前記[1]~[11]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜または前記[12]もしくは[13]に記載の積層構造体と、電極とを少なくとも備えることを特徴とする半導体装置。
[15] パワーデバイスである前記[14]記載の半導体装置。
[16] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が、前記[14]または[15]に記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の結晶性酸化物膜は、半導体特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例において用いられる成膜装置(ミストCVD装置)の概略構成図である。
図2】実施例における抵抗率の温度依存性の測定結果を示す図である。
図3】実施例における抵抗率の温度依存性の測定結果を示す図である。
図4】比較例における抵抗率の温度依存性の測定結果を示す図である。
図5】本発明の実施態様における好適な半導体装置を模式的に示す断面図である。
図6】本発明の実施態様における好適な半導体装置を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の実施態様における好適な半導体装置を模式的に示す断面図である。
図8】パワーカードの好適な一例を模式的に示す図である。
図9】電源システムの好適な一例を模式的に示す図である。
図10】システム装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図11】電源装置の電源回路図の好適な一例を模式的に示す図である。
図12】実施例におけるXRD測定結果を示す図である。
図13】実施例における、膜深さとラザフォード後方散乱分光法(RBS)で測定したIr比率(Ir/(Ga+Ir))の値(%)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
本発明の結晶性酸化物膜は、c面から傾斜した面を主面とし、ガリウムおよび周期表第9族金属を含む結晶性酸化物膜であって、膜中の全ての金属元素中の前記の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特長とする。
【0012】
本発明の実施態様において、c面は、{0001}面をいう。また、c面から傾斜した面とは、例えば、{11-20}面(a面)、{10-10}面(m面)、{-1012}面(r面)、{10-14}面(R面)、{11-23}面(n面)、{10-11}面(S面)等をいう。本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜の主面が、c面と直交する面であるのが好ましく、m面またはa面であるのがより好ましく、m面であるのが最も好ましい。このような好ましい主面とすることにより、よりバンドギャップが大きい(例えば、バンドギャップ5.0eV以上の)場合であっても、p型の導電型を有する混晶の結晶性酸化物膜を得ることができる。なお、前記結晶性酸化物膜の主面には、上記した面からオフ角を有する面も含まれる。すなわち、例えば前記主面がa面である場合、前記主面には、a面からオフ角を有する面も含まれる。前記オフ角の範囲は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記オフ角の範囲は、例えば、0.2°~12.0°の範囲内である。
【0013】
前記結晶性酸化物膜は、ガリウムおよび周期表第9族金属を含んでおり、膜中の全ての金属元素中の前記の周期表第9族金属(以下、単に「第9族金属」ともいう。)の原子比が23%以下である。周期表第9族金属としては、例えばコバルト(Co)、ロジウム(Rh)およびイリジウム(Ir)が挙げられる。本発明の実施態様においては前記第9族金属が、イリジウムであるのが好ましい。なお、「周期表」は、国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC)にて定められた周期表を意味する。
また、前記結晶性酸化物膜中の全ての金属元素中の前記第9族金属の含有割合(原子比)は、23%以下であれば、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記第9族金属の含有率が、10%以下であるのが好ましい。なお、前記結晶性酸化物膜中の前記第9族金属の含有率(原子比)の下限は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜中の前記第9族金属の含有率(原子比)は、通常、1%以上であり、好ましくは、3%以上である。また、前記結晶性酸化物膜中のガリウムの含有率(原子比)は、77%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。前記結晶性酸化物膜中のガリウムの含有率(原子比)の上限は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜中ガリウムの原子比は、例えば、95%以下である。上記した好ましい主面とこのようなガリウムと周期表第9族金属(例えば、イリジウム等)との含有比率の好ましい範囲とを組み合わせることにより、よりバンドギャップが大きく(例えば、5.0eV以上)且つp型の導電型を有するガリウム酸化物と第9族金属の酸化物との混晶膜を得ることができる。前記結晶性酸化物膜のバンドギャップは、例えば、4.7eV以上であり、好ましくは、5.0eV以上であり、より好ましくは、5.1eV以上である。
【0014】
前記結晶性酸化物膜の結晶構造も、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記結晶性酸化物膜の結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β-ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造)、直方晶構造(例えば、κ型構造)、立方晶構造、または正方晶構造等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜がコランダム構造を有するのが好ましい。また、前記結晶性酸化物膜の膜厚は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、前記、膜厚が100nm以上であるのが好ましい。また、前記結晶性酸化物膜の表面粗さも、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記表面粗さ(Ra)が、10nm以下であるのが好ましく、5nm以下であるのがより好ましい。ここで、表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)による10μm角の領域についての表面形状測定結果を用い、JIS B0601に基づき算出して得た値をいう。このような好ましい膜厚および表面粗さとすることにより、混晶膜であってもより良好に半導体装置等に適用することができる。
【0015】
本発明の結晶性酸化物膜は、好適には以下の方法により得られる。本発明の実施態様において、結晶性酸化物膜の製造方法は、例えば、図1のようなコールドウォール式のミストCVD装置を用いて、周期表第9族金属(以下、単に「第9族金属」ともいう。)及びガリウムを含む原料溶液を霧化して液滴を浮遊させて霧化液滴(ミストを含む)を生成し(霧化工程)、キャリアガスによって、基体の表面まで前記霧化液滴を搬送し(搬送工程)、ついで、前記霧化液滴を熱反応させることにより、前記基体の表面上にイリジウムとガリウムを含有する金属酸化物の混晶を形成すること(成膜工程)を特長とする。
【0016】
(霧化工程)
霧化工程は、第9族金属及びガリウムの少なくとも2種類の金属を含む原料溶液を霧化する。なお、前記原料溶液は所望によりさらに他の金属を含んでいてもよい。霧化方法は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の方法であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化方法が好ましい。超音波を用いて得られた霧化液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能な霧化液滴であるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。霧化液滴の液滴のサイズは、特に限定されず、数mm程度であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm~10μmである。
【0017】
(原料溶液)
前記原料溶液は、第9族金属及びガリウムを含んでいれば特に限定されず、無機材料が含まれていても、有機材料が含まれていてもよい。また、前記原料溶液は、所望により、さらに他の金属を含んでいてもよい。前記原料溶液が第9族金属及びガリウム及びさらに他の金属を含む場合には、該他の金属が、周期表の第2族金属、第9族金属および/又はガリウム以外の第13族金属であるのが好ましい。また、前記原料溶液が第9族金属およびガリウムを含有していてもよいし、第9族金属を含む原料溶液と、ガリウムを含む原料溶液とに分けてそれぞれ霧化工程に付し、搬送工程又は成膜工程にてそれぞれの原料溶液から得られた第9族金属を含有する霧化液滴とガリウムを含有する霧化液滴を合流させてもよい。本発明の実施態様においては、第9族金属および/またはガリウムを錯体又は塩の形態で有機溶媒または水に溶解又は分散させたものを前記原料溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。なお、本発明の実施態様で用いられるミストCVD法によれば、原料濃度が低くても、好適に成膜することができる。
【0018】
前記原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒の混合溶液であってもよい。本発明においては、他の従来の成膜方法とは異なり、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水と酸の混合溶媒であるのも好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。また、前記酸としては、より具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などが挙げられるが、本発明の実施態様においては、酢酸が好ましい。
【0019】
(基体)
前記基体は、前記結晶性酸化物膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。また、基体として、後述するように、基板上にバッファ層等の他の層を積層してもよい。異なる電気導電を有する半導体層を含めて基体として用いてもよい。
【0020】
前記基板は、板状であって、前記結晶性酸化物膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板としては、好適には例えば、コランダム構造を有する基板などが挙げられる。基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板などが挙げられ、より具体的には例えば、サファイア基板(好ましくはm面サファイア基板)やα型酸化ガリウム基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0021】
(搬送工程)
搬送工程では、前記キャリアガスによって前記ミストを基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられるが、本発明においては、キャリアガスとして酸素を用いるのが好ましい。酸素が用いられているキャリアガスとしては、例えば空気、酸素ガス、オゾンガス等が挙げられるが、とりわけ酸素ガス及び/又はオゾンガスが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。本発明においては、霧化室、供給管及び成膜室を用いる場合には、前記霧化室及び前記供給管にそれぞれキャリアガスの供給箇所を設けるのが好ましく、前記霧化室にはキャリアガスの供給箇所を設け、前記供給管には希釈ガスの供給箇所を設けるのがより好ましい。また、キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~5L/分であるのが好ましく、0.1~3L/分であるのがより好ましい。
【0022】
(成膜工程)
成膜工程では、前記ミストを前記基体表面近傍で反応させて、前記基体表面の一部または全部に成膜する。前記熱反応は、前記霧化液滴から膜が形成される熱反応であれば特に限定されず、熱でもって前記ミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、あまり高すぎない温度以下が好ましい。本発明においては、前記熱反応を、1200℃以下で行うのが好ましく、300℃~700℃または750℃~1200℃の温度で行うのがより好ましく、350℃~600℃または750℃~1100℃で行うのが最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸化雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、酸化雰囲気下で行われるのが好ましく、大気圧下で行われるのも好ましく、酸化雰囲気下でかつ大気圧下で行われるのがより好ましい。なお、「酸化雰囲気」は、前記結晶性酸化物膜が前記熱反応により形成できる雰囲気であれば特に限定されない。例えば、酸素を含むキャリアガスを用いたり、酸化剤を含む原料溶液からなるミストを用いたりして酸化雰囲気とすること等が挙げられる。また、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができ、本発明においては、膜厚が1nm~1mmであるのが好ましく、1nm~100μmであるのが、半導体特性がより向上するのでより好ましく、1nm~10μmであるのが最も好ましい。
【0023】
本発明の実施態様においては、前記基体上にそのまま成膜してもよいが、前記基体上に、前記結晶性酸化物膜とは異なる半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層、n-型半導体層等)や絶縁体層(半絶縁体層も含む)、バッファ層等の他の層を積層したのち、前記基体上に他の層を介して成膜してもよい。半導体層や絶縁体層としては、例えば、前記第13族金属を含む半導体層や絶縁体層等が挙げられる。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層または導電体層などが好適な例として挙げられる。前記のコランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α―Fe、α―Ga、α―Alなどが挙げられる。前記バッファ層の積層方法は特に限定されず、前記p型酸化物半導体の形成方法と同様であってよい。
【0024】
なお、本発明の実施態様においては、前記結晶性酸化物膜の成膜前又は成膜後に、n型半導体層を形成するのが好ましい。より具体的には、前記半導体装置の製造方法において、少なくとも前記結晶性酸化物膜(p型半導体層)とn型半導体層とを積層する工程を含むのが好ましい。n型半導体層の形成方法は特に限定されず、公知の方法であってよいが、本発明においては、ミストCVD法が好ましい。前記n型半導体層は、酸化物半導体を主成分とするのが好ましく、周期表の第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とするのがより好ましい。また、前記n型半導体層は、結晶性酸化物半導体を主成分とするのも好ましく、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とするのがより好ましく、コランダム構造を有し且つGaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とするのが最も好ましい。なお、「主成分」とは、前記酸化物半導体が、原子比で、n型半導体層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0025】
なお、上記した好ましい製造方法によれば、アルミニウム、インジウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の金属の酸化物を主成分とする第1の結晶性酸化物膜と、該第1の結晶性酸化物膜上に形成されている第2の結晶性酸化物膜とを少なくとも備える積層構造体であって、前記第1の結晶性酸化物膜の主面がc面から傾斜した面であり、前記第2の結晶性酸化物膜が、ガリウムおよび周期表第9族金属を含み、前記第2の結晶性酸化物膜中の全ての金属元素中の周期表第9族金属の原子比が23%以下であることを特徴とする積層構造体を好適に得ることができる。
【0026】
上記の好適な製造方法によって得られた特定の組成を有する結晶性酸化物膜は、工業的に有用であり、また、半導体特性に優れている。上記した好適な製造方法によれば、前記結晶性酸化物膜の抵抗率の温度特性が半導体的である結晶性酸化物膜を得ることができる。より具体的には、前記結晶性酸化物膜の抵抗率が、温度とともに減少することがわかった。また、上述した好ましい製造方法によれば、前記結晶性酸化物膜として、上記した半導体特性に加えて、p型の導電型を有する前記結晶性酸化物膜を得ることができる、ここで、「p型」とは、ホール効果測定や走査型静電容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscopy)、走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM:Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy)等によって判定されるキャリアタイプをいう。前記結晶性酸化物膜のキャリア密度(ホール効果測定にて得られる半導体膜中のキャリア密度)の下限は特に限定されないが、約1.0×1015/cm以上が好ましく、約1.0×1018/cm以上がより好ましい。本発明の実施態様においては、周期表第9族金属が含まれる場合であっても、キャリア密度が5.0×1019/cm以下で且つp型の導電型を有する結晶性酸化物膜を得ることができる。特に、膜中の金属元素中のIr比率を10%以下とすることで、上記のような好ましいキャリア密度の結晶性酸化物膜を得ることができる。また、本発明の実施態様においては、膜中の金属元素中のIr比率を9.5%以下とすることで、キャリア密度が2.0×1019/cm以下の結晶性酸化物膜が得られる。なお、膜中の金属元素中のIr比率の下限は、特に限定されないが、例えば、5%以上であり、好ましくは、6.8%以上である。
【0027】
上記した主面および前記第9族金属とガリウムとの含有率を好ましい範囲とすることにより、前記結晶性酸化物膜の温度特性を半導体的な特性とできる点について、実施例を用いて以下のとおり説明する。
【0028】
本実施例においては、上述の製造方法に従い、図1に示すミストCVDを用いて、表面にm面α-Ga膜が形成されたサファイア基板上にα-(Ir,Ga)膜を成膜した。膜中のイリジウムの含有比率を変えて成膜を行い、表1に示す特性のα-(Ir,Ga)膜を得た。なお、実施例2の膜について、X線回折測定の結果を図12に示す。また、膜中のIr比率はエネルギー分散型X線分光法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて算出した。また、キャリアタイプはホール効果測定により確認した。なお、実施例2で得られた結晶性酸化物膜のキャリア密度は、1.0×1017/cmであり、表面粗さ(Ra)は1.2nmであった。また、断面TEM(透過電子顕微鏡)観察を行った結果、良好な膜状のα-(Ir,Ga)が得られていることが分かった。また、温度特性については、抵抗率の温度依存性を測定することによって確認した。なお、実施例1においても表面粗さ(Ra)等の結果は実施例2と同等の結果であった。実施例1、実施例2および比較例1の抵抗率の温度依存性を常温から250℃の範囲で測定した結果を、図2図3および図4にそれぞれ示す。図2図4の結果から、温度特性において半導体的な挙動を示すIr比率の範囲を算出したところ、傾きが正から負になるIr比率23%以下の場合に、温度特性が半導体的な挙動を示すことが分かった。このような境界値は、実際にm面のα-(Ir,Ga)膜を作製して初めて明らかとなった新知見である。このような好ましい範囲とすることにより、半導体装置のp型半導体層として有用なm面のα-(Ir,Ga)膜を得ることができる。また、再現性を確かめるためにさらに実験を行った結果、膜中の金属元素中のIr比率が9.5%、11.7%および14.3%の場合にも、実施例1および実施例2と同様のキャリアタイプ、抵抗率の温度特性および表面粗さ(Ra)となることを確認した。なお、膜中の金属元素中のIr比率が9.5%の場合には、キャリア密度は1.98×1019/cmであった。
【0029】
【表1】
【0030】
これら実施例1および実施例2の結果から、第1の層としては、例えばIr比率が10%以下のα-(Ir,Ga)膜を成膜し、第2の層として、第1の層よりIr比率の大きいα-(Ir,Ga)膜を成膜することで、結晶性がより良好で、p型半導体層として有用な第2の結晶性酸化物膜が得られることがわかる。本発明の実施態様においては、第2層のIr比率が第1層のIr比率よりも大きくなるように、第1の結晶性酸化物膜および第2の結晶性酸化物膜を成膜してもよい。このように成膜した場合の膜深さと膜中のIr比率(Ir/(Ga+Ir))の値(%)との関係を、実施例3および実施例4として図13に示す。
【0031】
上記のようにして得られる結晶性酸化物膜は、例えばp型半導体層として半導体装置に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。前記結晶性酸化物膜および/または積層構造体を半導体装置に用いることにより、ラフネス散乱を抑制することができ、半導体装置のチャネル移動度を優れたものとすることができる。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。
【0032】
前記結晶性酸化物膜をp型半導体層に用いた例を図5~7に示す。なお、n型半導体層は、前記結晶性酸化物膜と同じ主成分であってn型ドーパントを含むものであってもよいし、前記結晶性酸化物膜とは主成分等が異なるn型半導体層であってもよい。本発明の実施態様においては、前記n型半導体層は、前記結晶性酸化物膜とは主成分が異なるものであるのが好ましい。また、前記n型半導体は、例えば、n型ドーパントの含有量を調整することにより、n-型半導体層、n+型半導体層などとして適宜用いられる。
【0033】
図5は、本発明の好適な半導体装置の一例を示す。図5の半導体装置は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)であり、n+型半導体層(ドレイン層)1、n-型半導体層(ドリフト層)2、p+型半導体層(ディープp層)6、p-型半導体層(チャネル層)7、n+型半導体層(n+ソース層)11、ゲート絶縁膜13、ゲート電極3、p+型半導体層16、ソース電極24およびドレイン電極26を備えている。なお、p+型半導体層(ディープp層)6は、少なくともその一部が、ゲート電極3の埋設下端部3aよりも深い位置にまで前記n-型半導体層2内に埋設されている。図5の半導体装置のオン状態では、前記ソース電極24と前記ドレイン電極26との間に電圧を印加し、前記ゲート電極3に前記ソース電極24に対して正の電圧を与えると、前記p-型半導体層7とゲート絶縁膜13との界面にチャネルが形成され、ターンオンする。オフ状態は、前記ゲート電極3の電圧を0Vにすることにより、チャネルができなくなり、ターンオフする。また、図5の半導体装置は、p+型半導体層6が、ゲート電極3よりも深くn-型半導体層2に埋め込まれている。このような構成とすることにより、ゲート電極下部近傍の電界を緩和することができ、ゲート絶縁膜13やn-型半導体層2内の電界分布をより良好なものとすることができる。なお、本発明においては、p+型半導体層(ディープp層)6として、前記結晶性酸化物膜を用いるのが好ましい。
【0034】
前記ゲート電極、前記ソース電極および前記ドレイン電極(以下、単に「電極」ともいう。)の材料は、それぞれ電極として用いることができるものであれば、特に限定されず、導電性無機材料であってもよいし、導電性有機材料であってもよい。本発明においては、前記電極の材料が、金属、金属化合物、金属酸化物、金属窒化物であるのが好ましい。前記金属としては、好適には例えば、周期表第4族~第11族から選ばれる少なくとも1種の金属などが挙げられる。周期表第4族の金属としては、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などが挙げられる。周期表第5族の金属としては、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などが挙げられる。周期表第6族の金属としては、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)等から選ばれる1種または2種以上の金属などが挙げられる。周期表第7族の金属としては、例えば、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などが挙げられる。周期表第8族の金属としては、例えば、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)などが挙げられる。周期表第9族の金属としては、例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)などが挙げられる。周期表第10族の金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などが挙げられる。周期表第11族の金属としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などが挙げられる。
【0035】
前記電極の形成手段としては、例えば公知の手段などが挙げられ、より具体的には例えば、ドライ法やウェット法などが挙げられる。ドライ法としては、例えば、スパッタ、真空蒸着、CVD等の公知の手段が挙げられる。ウェット法としては、例えば、スクリーン印刷やダイコート等が挙げられる。
【0036】
前記ゲート絶縁膜(層間絶縁膜)の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。前記ゲート絶縁膜の材料としては、例えば、SiO膜、SiON膜、AlON膜、AlN膜、Al2O3膜、HfO2膜、リン添加SiO膜(PSG膜)、ボロン添加SiO膜、リンーボロン添加SiO膜(BPSG膜)等が挙げられる。前記ゲート絶縁膜の形成方法としては、例えば、CVD法、大気圧CVD法、プラズマCVD法、ALD法、ミストCVD法等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記ゲート絶縁膜の形成方法が、ミストCVD法または大気圧CVD法であるのが好ましい。また、前記ゲート電極の構成材料は、特に限定されず、公知の電極材料であってよい。前記ゲート電極の構成材料としては、例えば、上記した前記ソース電極の構成材料等が挙げられる。前記ゲート電極の形成方法は、特に限定されない。前記ゲート電極の形成方法としては、具体的には例えば、ドライ法やウェット法などが挙げられる。ドライ法としては、例えば、スパッタ、真空蒸着、CVD等が挙げられる。ウェット法としては、例えば、スクリーン印刷やダイコート等が挙げられる。前記n+型半導体層1および前記n-型半導体層2の材料は、上記したn型半導体層の材料と同様であってよい。
【0037】
図5の半導体装置の各層の形成手段は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の手段であってよい。例えば、真空蒸着法やCVD法、スパッタ法、各種コーティング技術等により成膜した後、フォトリソグラフィー法によりパターニングする手段、または印刷技術などを用いて直接パターニングを行う手段などが挙げられるが、本発明においては、ミストCVD法が好ましい。
【0038】
図6は、本発明の好適な半導体装置の他の一例を示す。図6の半導体装置は、金属酸化膜半導体電界効果トラジスタ(MOSFET)であり、p+型半導体層(ディープp層)6とn-型半導体層(ドリフト層)2との間にi型半導体層28が設けられている点で、図6の半導体装置と異なる。i型半導体層28は、n-型半導体層2よりもキャリア密度が小さいものであれば、特に限定されない。本発明の実施態様においては。前記p+型半導体層6として、前記結晶性酸化物膜を用いるのが好ましい。本発明の実施態様においては、前記i型半導体層28の主成分がn-型半導体層2の主成分と同一であるのが好ましい。
【0039】
図7は、本発明の好適な半導体装置の他の一例を示す。図7の半導体装置は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)であり、ゲート底部付近にp型半導体層27を備える点で図6の半導体装置と異なる。前記p型半導体層27は、前記p-型半導体層(チャネル層)7の主成分であるp型酸化物半導体と異なるp型酸化物半導体を主成分として含むのが好ましい。本発明においては、前記p型半導体層27の主成分が、前記p+型半導体層6と同様であってもよい。
【0040】
本発明の半導体装置は、上記した事項に加え、さらに公知の方法を用いて、パワーモジュール、インバータまたはコンバータとして好適に用いられ、さらには、例えば電源装置を用いた半導体システム等に好適に用いられる。前記電源装置は、公知の方法を用いて、前記半導体装置を配線パターン等に接続するなどして作製することができる。図9に電源システムの例を示す。図9は、複数の前記電源装置171、172と制御回路173を用いて電源システム170を構成している。前記電源システム170は、図10に示すように、電子回路181と組み合わせてシステム装置182に用いることができる。なお、電源装置の電源回路図の一例を図11に示す。図11は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ192(MOSFET A~Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランス193で絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET194で整流後、DCL195(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器197で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路196でインバータ192及び整流MOSFET194を制御する。
【0041】
本発明においては、前記半導体装置が、パワーカードであるのが好ましく、冷却器および絶縁部材を含んでおり、前記半導体層の両側に前記冷却器がそれぞれ少なくとも前記絶縁部材を介して設けられているのがより好ましく、前記半導体層の両側にそれぞれ放熱層が設けられており、放熱層の外側に少なくとも前記絶縁部材を介して前記冷却器がそれぞれ設けられているのが最も好ましい。図8は、本発明の好適な実施態様の一つであるパワーカードを示す。図8のパワーカードは、両面冷却型パワーカード201となっており、冷媒チューブ202、スペーサ203、絶縁板(絶縁スペーサ)208、封止樹脂部209、半導体チップ301a、金属伝熱板(突出端子部)302b、ヒートシンク及び電極303、金属伝熱板(突出端子部)303b、はんだ層304、制御電極端子305、ボンディングワイヤ308を備える。冷媒チューブ202の厚さ方向断面は、互いに所定間隔を隔てて流路方向に延在する多数の隔壁221で区画された流路222を多数有している。このような好適なパワーカードによればより高い放熱性を実現することができ、より高い信頼性を満たすことができる。
【0042】
半導体チップ301aは、金属伝熱板(突出端子部)302bの内側の主面上にはんだ層304で接合され、半導体チップ301aの残余の主面には、金属伝熱板(突出端子部)303bがはんだ層304で接合され、これによりIGBTのコレクタ電極面及びエミッタ電極面にフライホイルダイオード301bのアノード電極面及びカソード電極面がいわゆる逆並列に接続されている。金属伝熱板(突出端子部)302bおよび303bの材料としては、例えば、MoまたはW等が挙げられる。金属伝熱板(突出端子部)302bおよび303bは、半導体チップ301aと301bの厚さの差を吸収する厚さの差をもち、これにより金属伝熱板302bおよび303bの外表面は平面となっている。
【0043】
樹脂封止部209は例えばエポキシ樹脂からなり、これら金属伝熱板302bおよび303bの側面を覆ってモールドされており、半導体チップ301aおよびフライホイルダイオード301bは樹脂封止部209でモールドされている。但し、金属伝熱板302bおよび303bの外主面すなわち接触受熱面は完全に露出している。金属伝熱板(突出端子部)302bおよび303bは樹脂封止部209から図8中、右方に突出し、いわゆるリードフレーム端子である制御電極端子305は、例えばIGBTが形成された半導体チップ301aのゲート(制御)電極面と制御電極端子305とを接続している。
【0044】
絶縁スペーサである絶縁板208は、例えば、窒化アルミニウムフィルムで構成されているが、他の絶縁フィルムであってもよい。絶縁板208は金属伝熱板302bおよび303bを完全に覆って密着しているが、絶縁板208と金属伝熱板302bおよび303bとは、単に接触するだけでもよいし、シリコングリスなどの良熱伝熱材を塗布してもよいし、それらを種々の方法で接合させてもよい。また、セラミック溶射などで絶縁層を形成してもよく、絶縁板208を金属伝熱板上に接合してもよく、冷媒チューブ上に接合または形成してもよい。
【0045】
冷媒チューブ202は、アルミニウム合金を引き抜き成形法あるいは押し出し成形法で成形された板材を必要な長さに切断して作製されている。冷媒チューブ202の厚さ方向断面は、互いに所定間隔を隔てて流路方向に延在する多数の隔壁221で区画された流路222を多数有している。スペーサ203は、例えば、はんだ合金などの軟質の金属板であってよいが、金属伝熱板302bおよび303bの接触面に塗布等によって形成したフィルム(膜)としてもよい。この軟質のスペーサ203の表面は、容易に変形して、樹脂封止部209の微小凹凸や反り、冷媒チューブ202の微小凹凸や反りになじんで熱抵抗を低減する。なお、スペーサ203の表面等に公知の良熱伝導性グリスなどを塗布してもよく、スペーサ203を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の実施態様における結晶性酸化物膜は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、p型の半導体特性に優れているため、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 n+型半導体層
2 n-型半導体層(ドリフト層)
3 ゲート電極
3a 埋設下端部
6 p+型半導体層(ディープp層)
7 p-型半導体層(チャネル層)
11 n+型半導体層
13 ゲート絶縁膜
16 p+型半導体層
24 ソース電極
25 層間絶縁膜
26 ドレイン電極
27 p型半導体層
28 i型半導体層
29 ミストCVD装置
30 基板
32a キャリアガス供給装置
32b キャリアガス(希釈)供給装置
33a 流量調節弁
33b 流量調節弁
34 ミスト発生源
34a 原料溶液
34b ミスト
35 容器
35a 水
36 超音波振動子
37 供給管
38 ヒーター
40 成膜室
170 電源システム
171 電源装置
172 電源装置
173 制御回路
180 システム装置
181 電子回路
182 電源システム
192 インバータ
193 トランス
194 整流MOSFET
195 DCL
196 PWM制御回路
197 電圧比較器
201 両面冷却型パワーカード
202 冷媒チューブ
203 スペーサ
208 絶縁板(絶縁スペーサ)
209 封止樹脂部
221 隔壁
222 流路
301a 半導体チップ
301b フライホイルダイオード
302b 金属伝熱板(突出端子部)
303 ヒートシンク及び電極
303b 金属伝熱板(突出端子部)
304 はんだ層
305 制御電極端子
308 ボンディングワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13