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特開2023-116419二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法
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  • 特開-二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116419
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20230815BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230815BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
B01D53/14 100
B01J20/34 H
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017294
(22)【出願日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022018562
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトのアドレス:https://www.cc.kitami-it.ac.jp/(北見工業大学内ネットワーク)、ウェブサイトの掲載日:令和3年2月10日 2.集会名:令和2年度北見工業大学工学部社会環境系卒業研究発表会、公開日:令和3年2月17日(開催期間令和3年2月10日~17日) 3.ウェブサイトのアドレス:https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-20K12269/20K122692020hokoku/、ウェブサイトの掲載日:令和3年12月27日 4.発行者名:公益社団法人日本雪氷学会、刊行物名:雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)講演要旨集、発行日:令和3年8月31日 5.集会名:雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)、公開日:令和3年9月14日(開催期間令和3年9月13日~16日) 6.発行者名:公益社団法人日本雪氷学会、刊行物名:雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)講演要旨集、発行日:令和3年8月31日 7.集会名:雪氷研究大会(2021・千葉-オンライン)、公開日:令和3年9月6日(オンライン討論期間令和3年9月6日~9月21日、発表日(コアチャット)令和3年9月14日) 8.集会名:2021年度JPIJS講演会、開催日:令和3年11月13日
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】木田 真人
(72)【発明者】
【氏名】坂上 寛敏
(72)【発明者】
【氏名】南 尚嗣
【テーマコード(参考)】
4D020
4G066
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA15
4D020BA16
4D020BA30
4D020BB01
4D020BC01
4D020CA05
4D020CC05
4D020CC10
4D020CC21
4D020DA01
4D020DA03
4D020DB04
4D020DB06
4D020DB10
4G066AA14C
4G066AB09B
4G066AB19B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA32
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA04
4G066GA01
4G066GA32
(57)【要約】
【課題】クラスレートハイドレートを利用した新規の二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素分離方法は、メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する方法であって、大気圧下で水溶液をクラスレートハイドレートの分解温度以下で固化させることで得られるクラスレートハイドレートの粒子と、混合ガスとを、クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で気固接触させることで、粒子に二酸化炭素を包蔵させる包蔵工程を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスから前記二酸化炭素を分離する方法であって、
大気圧下で水溶液をクラスレートハイドレートの分解温度以下で固化させることで得られるクラスレートハイドレートの粒子と、前記混合ガスとを、前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で気固接触させることで、前記粒子に前記二酸化炭素を包蔵させる包蔵工程を含む、二酸化炭素分離方法。
【請求項2】
前記クラスレートハイドレートは、結晶構造中に水分子が形成する5角12面体のかご型構造を有し、且つ他の水分子が形成するかご型構造にカチオンをゲストとする少なくとも1種のクラスレートハイドレートである、請求項1に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項3】
前記カチオンは、第4級アンモニウムカチオンである、請求項2に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項4】
前記カチオンは、第4級ホスホニウムカチオンである、請求項2に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項5】
前記包蔵工程は、1メガパスカル以下の圧力下で行う、請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項6】
前記粒子の粒径は、300マイクロメートル以下である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項7】
前記包蔵工程で得られた、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を前記混合ガスと隔離する隔離工程と、
前記隔離工程で前記混合ガスから隔離した前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を前記クラスレートハイドレートの分解温度以上に加熱することで前記二酸化炭素を再生する再生工程と、
を更に含む、請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を保持する保持工程と、
を含む、二酸化炭素貯蔵方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を輸送する輸送工程と、
を含む、二酸化炭素輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンと二酸化炭素を主成分とするバイオガスまたは天然ガスのアップグレーディングのためには、二酸化炭素を分離して目的ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる必要がある。メタンと二酸化炭素の分離法としては、アミン吸収法をはじめとする化学吸収法、PSA法等の物理吸着法、深冷分離法、膜分離法などがある。
【0003】
アミン吸収法は、モノエタノールアミンなどのアミン系化合物を二酸化炭素吸収液として用いる方法である。40~50℃の温度で吸収液と二酸化炭素が反応してアミノ炭酸塩を形成することで二酸化炭素を分離することができる。吸収液から二酸化炭素を回収するためには、100℃以上に加温する必要があり(非特許文献1)、二酸化炭素再生のために熱源が必要になるという問題がある(非特許文献2)。
【0004】
PSA法は、比表面積の大きな固体の吸着剤に二酸化炭素を吸着させ、減圧によって二酸化炭素を脱離させて回収する方法である。PSA法では、水分によって吸着剤の二酸化炭素吸着能力が著しく低下するため、二酸化炭素の分離回収の前に除湿の工程が必要となり、除湿のために高いエネルギーが必要であるという問題がある(非特許文献2)。
【0005】
深冷分離法は、気体の沸点の差を利用して二酸化炭素を分離する方法である。深冷分離法は、低温下で加圧するなどして二酸化炭素を液化して分離するため、複雑な設備を必要とするという問題がある(非特許文献2)。
【0006】
膜分離法は、高分子膜等の気体分子の透過速度の差を利用して二酸化炭素を分離する技術である。膜分離法は、二酸化炭素の再生のためのエネルギーが必要なく、省エネルギー的に二酸化炭素を分離回収できる方法であるが、膜の劣化による分離能力の低下などが問題となる(非特許文献2)。
【0007】
一方、二酸化炭素の分離法のひとつにクラスレートハイドレートを用いた二酸化炭素分離法がある(特許文献1および非特許文献3)。クラスレートハイドレートとは、水素結合した水分子がつくる多面体ケージによって構成される格子状の構造にガス分子などが取り込まれた包接化合物である。
【0008】
特許文献1には、メタンおよび二酸化炭素を含有する混合ガスの分離方法として、ハイドレート生成容器内に、混合ガスと、水と、を供給することにより、二酸化炭素を水に溶解させ、かつ、少なくともその一部をハイドレート化し、生成した二酸化炭素ハイドレートをスラリーの状態で前記ハイドレート生成容器から連続的に排出するとともに、気相から濃縮されたメタン含有ガスを回収することにより、前記混合ガス中のメタンと二酸化炭素を分離する方法が開示されている。
【0009】
非特許文献3には、テトラヒドロフラン水溶液とメタンおよび二酸化炭素を含有する混合ガスを接触させ、メタンを濃縮してハイドレート化することにより、気相から濃縮された二酸化炭素を得る方法が開示されている。
【0010】
また、クラスレートハイドレートは、その高いガス包蔵性を利用して、天然ガス(特許文献2および特許文献3)、水素(特許文献4)等のガス輸送・貯蔵媒体として利用することが提案されている。
【0011】
特許文献2には、天然ガスなどのメタンを主成分とするガスと水から構成されているガスハイドレートを運搬するためのガスハイドレート輸送船が開示されている。
【0012】
特許文献3には、貯蔵のためのガス水和物、特に陸上及び沖での輸送又は貯蔵のための、天然ガス又は会合した天然ガスの水和物の製造方法として、反応器中にガスを供給し、さらに、この反応器にガス中に分散する小滴の形態で水を供給して、ガス及び水の小滴を反応せしめてガス水和物粒子を形成させ、このようにして形成された該ガス水和物粒子を集塊化する方法が開示されている。
【0013】
特許文献4には、水素貯蔵方法として、水素と二酸化炭素または軽質炭化水素とを混合したガスを水に混合攪拌してハイドレートとする、加圧下で容器内に水素を貯蔵する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4462976号明細書
【特許文献2】国際公開第2003/006308号
【特許文献3】特許第3173611号明細書
【特許文献4】特開2001-56099号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】乾、「CO2固定化・隔離技術」、シーエムシー出版、2006年
【非特許文献2】「平成25年度シャトルシップによるCCSを活用した二国間クレジット制度実現可能性調査委託業務報告書」、環境省、2014年
【非特許文献3】Lee et al.,Phase Equilibrium Studies of Tetrahydrofuran(THF)+CH4,THF+CO2,CH4+CO2,and THF+CO2+CH4 Hydrates,J.Chem.Eng.Data,2012年,Vol.57,p.3543
【非特許文献4】CSMHYD,a phase-equilibrium calculation program package accompanying the following book,E.D.Sloan Jr.,Clathrate Hydrates of Natural Gases,Marcel Dekker,New York,Second Edition,1998年
【非特許文献5】Kida et al.,CO2 capture from CH4-CO2 mixture by gas-solid contact with tetrahydrofuran clathrate hydrate,Chem.Phys.,2020年,Vol.538,p.110863
【非特許文献6】高沖、「NGHによる天然ガス輸送技術」、石油技術協会誌、2008年、第73巻2号、p.158
【非特許文献7】木田、「自然冷熱と包接水和物を活用したバイオガス精製技術に向けた基礎研究」、ノーステック財団研究開発助成事業研究成果報告書2019、2019年、p.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来のクラスレートハイドレートを用いた二酸化炭素分離法は、低温高圧条件下でメタンと二酸化炭素を含むガスからクラスレートハイドレートを製造し、メタンと二酸化炭素がクラスレートハイドレートの結晶構造内に固定される時の熱力学的安定性の差を利用して二酸化炭素を選択的にクラスレートハイドレートに固定するという技術である。この方法で製造されたクラスレートハイドレートに固定した二酸化炭素は、系内圧力を脱圧するか温度をクラスレートハイドレートの分解温度以上にすることにより簡便に回収できるという特徴がある。
【0017】
また、このような従来のクラスレートハイドレートを用いたガス分離技術では、主にガスと水または添加剤を含む溶液を「気液接触」させてスラリー状のクラスレートハイドレートを製造する方法が用いられている(特許文献1および非特許文献3)。クラスレートハイドレートの気液接触には、氷点以上の比較的温和な温度条件でクラスレートハイドレートを製造できるという特徴がある。
【0018】
しかしながら、クラスレートハイドレートの気液接触では、高圧条件を必要とすること、製造時に気液界面を撹拌するための設備を必要とすること、ハイドレートスラリーによる撹拌の停止や配管の閉塞などの流動障害を防止することなどが問題となる。また、クラスレートハイドレートの気液接触によるガス分離技術においては、二酸化炭素よりメタンが選択的にクラスレートハイドレートに固定されてしまう場合があり(非特許文献3)、多段工程を用いてメタンを濃縮するためには、クラスレートハイドレートを一度分解させて、メタンを回収する工程が必要となる問題がある。
【0019】
一方、メタンと二酸化炭素からなる混合ガスと、氷(非特許文献4)またはクラスレートハイドレート(非特許文献5)とを気固接触させることで、二酸化炭素をクラスレートハイドレート相へ選択的に固定することができる。
【0020】
非特許文献4には、メタンと二酸化炭素からなる混合ガスと氷を接触させて生じるクラスレートハイドレートに二酸化炭素が濃縮されることが開示されている。
【0021】
非特許文献5には、メタンと二酸化炭素の混合物と、化学量論的テトラヒドロフラン(THF)ハイドレートとの気固接触の二酸化炭素分離特性が開示されている。
【0022】
気固接触を行う場合、粉末状のクラスレートハイドレートとガスを接触させるだけでクラスレートハイドレートにCOを濃縮することができるので、撹拌機等の複雑な設備は不要となる。
【0023】
また、バイオガスや天然ガスから分離回収した二酸化炭素は、化学製品の原料や温室栽培の光合成等に利用することができる。したがって、高濃度で回収した二酸化炭素を貯蔵したり、化学製品の製造プラントや温室まで輸送したりする必要がある。しかし、アミン吸収法等の化学吸収法、PSA法等の物理吸着法、深冷分離法、膜分離法などの従来の二酸化炭素分離法は、定置の分離システムに適用することが想定されていて、高濃度で分離回収した二酸化炭素を輸送したり貯蔵したりするためには、二酸化炭素分離設備とは別に輸送や貯蔵のための二酸化炭素の液化設備等が必要となるという問題がある。
【0024】
前述のとおり、クラスレートハイドレートは、そのガス包蔵選択性をガス分離に応用可能であるだけでなく、その高いガス包蔵性を利用して、天然ガス、水素等のガス輸送・貯蔵媒体として利用できる可能性がある。
【0025】
ここで、特許文献2乃至4に開示されている技術では、輸送または貯蔵するガスからクラスレートハイドレートを製造し、固体状態でガスを扱う。この技術は従来の液化技術に比べ、冷却にかかるエネルギーを抑えることができる。しかし、気液系を用いたガスを包蔵したクラスレートハイドレートの製造においては、脱水・成形が必要となり(非特許文献6)、工程が複雑であるという問題がある。
【0026】
ガスを包蔵したクラスレートハイドレートを製造可能な圧力条件(ハイドレート平衡圧力)は、ガスの種類や組成によって異なり、温度によって決まる。ガスを包蔵したクラスレートハイドレートを製造するためには、製造温度においてハイドレート平衡圧力より高い圧力条件が必要となる。ガスを包蔵したクラスレートハイドレートのハイドレート平衡圧力は、高温ほど高くなる(非特許文献4)。したがって、より高温で冷却エネルギーを低減させてガスを包蔵したクラスレートハイドレートを製造するためには、より耐圧性の高い製造設備が必要になるという問題がある。
【0027】
一方で、ハイドレート平衡圧力は、添加剤を加えた水溶液または添加剤を加えた水溶液から製造したクラスレートハイドレートを用いることによって下げることが可能である。添加剤を用いてガスを包蔵したクラスレートハイドレートを製造する場合の圧力条件は、取り扱うガスの成分・組成および添加剤の成分・濃度を考慮した既知のハイドレート平衡圧力を基に設定する必要がある。
【0028】
気固接触は、ガスと氷との接触、または添加剤を含む水溶液から生じるクラスレートハイドレート結晶との接触によってガスを包蔵したクラスレートハイドレートを製造する方法である。気固接触は、気液接触と比較するとハイドレート平衡圧力が低くなるため(非特許文献4)、より低圧でクラスレートハイドレートを扱うことができるが、添加剤を含む気固接触系のハイドレート平衡圧力はほとんどが未知であり、ハイドレート平衡圧力に基づく設備の設計または最適化ができず、その利用の障害となってきた。具体的には、ハイドレート平衡圧力が未知であるため、気固接触を適用可能な最低圧力が不明であった。
【0029】
これまでに、テトラヒドロフラン(THF)を添加剤とするクラスレートハイドレートと模擬バイオガス(メタン:61パーセント、CO:39パーセント)を3メガパスカルの圧力で気固接触させることにより二酸化炭素が優先的にTHFクラスレートハイドレートに固定されることがわかっていた(非特許文献5)。非特許文献5において、-20℃で気固接触させた場合、系に導入した二酸化炭素の約80パーセントがTHFクラスレートハイドレートに固定されるのに対し、系に導入されたメタンは約30パーセント程度しか固定されず、THFクラスレートハイドレートに二酸化炭素を濃縮して固定できることが明らかにされている。この二酸化炭素分離性能は、接触温度が高いほど低下する。0℃では、系に導入された二酸化炭素が固定される割合は約56パーセントに低下し、系に導入されたメタンが固定される割合は、約35パーセントに上昇するため、THFクラスレートハイドレートの二酸化炭素分離性能が低下する。一方、気固接触時の圧力がより低圧の0.9メガパスカルでは、3メガパスカルにおける気固接触に比べて二酸化炭素分離性能が著しく低下する。0℃においては、系に導入されたメタンと二酸化炭素からそれぞれ約60パーセントずつ固定されるため、初期に封入したガスと固定されたガスの組成がほとんど変化せず、二酸化炭素の分離濃縮が著しく低いという問題がある。
【0030】
これらの問題に鑑み、本発明は、クラスレートハイドレートを利用した新規の二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明者らは、ガスを包蔵するクラスレートハイドレートのガス包蔵性評価を重ねた結果、水溶液から作製したクラスレートハイドレート結晶と、メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスとを気固接触させると、1メガパスカル以下の圧力下でクラスレートハイドレート結晶に二酸化炭素を分離濃縮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0032】
すなわち、本発明の第一の観点に係る二酸化炭素分離方法は、
メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスから前記二酸化炭素を分離する方法であって、
大気圧下で水溶液をクラスレートハイドレートの分解温度以下で固化させることで得られるクラスレートハイドレートの粒子と、前記混合ガスとを、前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で気固接触させることで、前記粒子に前記二酸化炭素を包蔵させる包蔵工程を含む。
【0033】
前記クラスレートハイドレートは、結晶構造中に水分子が形成する5角12面体のかご型構造を有し、且つ他の水分子が形成するかご型構造にカチオンをゲストとする少なくとも1種のクラスレートハイドレートである、と好ましい。
【0034】
前記カチオンは、第4級アンモニウムカチオンである、と好ましい。
【0035】
前記カチオンは、第4級ホスホニウムカチオンである、と好ましい。
【0036】
前記包蔵工程は、1メガパスカル以下の圧力下で行う、と好ましい。
【0037】
前記粒子の粒径は、300マイクロメートル以下である、と好ましい。
【0038】
前記包蔵工程で得られた、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を前記混合ガスと隔離する隔離工程と、
前記隔離工程で前記混合ガスから隔離した前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を前記クラスレートハイドレートの分解温度以上に加熱することで前記二酸化炭素を再生する再生工程と、
を更に含む、と好ましい。
【0039】
本発明の第二の観点に係る二酸化炭素貯蔵方法は、
前記二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を保持する保持工程と、
を含む。
【0040】
本発明の第三の観点に係る二酸化炭素輸送方法は、
前記二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレートの粒子を輸送する輸送工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、クラスレートハイドレートを利用した新規の二酸化炭素分離方法、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】製造例1のクラスレートハイドレートの調製の流れ図。
図2】本発明における第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートのメタンおよびCO回収率に与える効果を示すグラフ。
図3】本発明における第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートのCO分離係数に与える効果を示すグラフ。
図4】本発明における第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートのメタンおよびCO回収率に与える効果を示すグラフ。
図5】本発明における第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートのCO分離係数に与える効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の第一の観点に係る二酸化炭素分離方法は、メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスから前記二酸化炭素を分離する方法であって、
大気圧下で水溶液をクラスレートハイドレートの分解温度以下で固化させることで得られるクラスレートハイドレートの粒子と、前記混合ガスとを、前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で気固接触させることで、前記粒子に前記二酸化炭素を包蔵させる包蔵工程を含む。
【0044】
(クラスレートハイドレート)
本発明の二酸化炭素分離方法では、大気圧下で水溶液を固化させることで得られるクラスレートハイドレートを、メタンと二酸化炭素を含む混合ガスと気固接触させ、前記クラスレートハイドレートを二酸化炭素の分離濃縮媒体として利用する。
【0045】
本発明に係るクラスレートハイドレートは、大気圧下で水溶液をクラスレートハイドレートの分解温度以下で固化させることで得られるクラスレートハイドレートであれば特に限定されない。
【0046】
ここで、クラスレートハイドレートとは、水素結合した水分子がつくる多面体ケージによって構成される格子状の構造にガス分子などが取り込まれた包接化合物である。
【0047】
また、本発明に係るクラスレートハイドレートは、結晶構造中に水分子が形成する5角12面体のかご型構造を有し、且つ他の水分子が形成するかご型構造にカチオンをゲストとする少なくとも1種のクラスレートハイドレートであると好ましい。本発明において、クラスレートハイドレートは、1種または2種以上を用いることができる。
【0048】
水分子が形成するかご型構造のゲストとなるカチオンとしては、第4級アンモニウムカチオンおよび第4級ホスホニウムカチオンが好ましい。
【0049】
本発明に係る結晶構造中に水分子が形成する5角12面体のかご型構造を有し、且つ他の水分子が形成するかご型構造にカチオンをゲストとするクラスレートハイドレートは、大気圧下で水溶液を固化させることで得られるが、その水溶液の溶質としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0050】
第4級アンモニウム塩としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)、水酸化テトラブチルアンモニウム、臭化テトライソアミルアンモニウムなどが挙げられる。
【0051】
第4級ホスホニウム塩としては、臭化テトラブチルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム、水酸化テトラブチルホスホニウムなどが挙げられる。
【0052】
これらのクラスレートハイドレートの中でも、第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートが好ましく、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレート、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートおよび臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートがより好ましい。
【0053】
また、これらのクラスレートハイドレートの中でも、第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートが好ましく、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートおよび臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートがより好ましい。
【0054】
(クラスレートハイドレートの調製)
本発明に用いるクラスレートハイドレートは、大気圧下でクラスレートハイドレートを生成する塩の水溶液を、クラスレートハイドレート固有の分解温度以下に冷却して固化させることで得られる。
【0055】
クラスレートハイドレートを生成する塩の水溶液の水溶液濃度は、クラスレートハイドレートの種類によって異なり、好適には、各クラスレートハイドレートの調和融点濃度を用いることができるが、調和融点濃度以外の水溶液濃度も用いることができる。調和融点濃度より低い水溶液濃度を用いる場合は、水溶液中に析出したクラスレートハイドレート結晶を回収して用いることができる。また、調和融点濃度より高い水溶液濃度を用いる場合は、析出した塩を含むクラスレートハイドレート結晶を用いることができる。
【0056】
例えば、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレートは、調和融点濃度が3.4モルパーセントであり、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)の3.4モルパーセント水溶液を+27℃以下で冷却することで、TBAFクラスレートハイドレートが生成する。なお、ここで、xモルパーセント水溶液とは、TBAF/(TBAF+HO)がxモルパーセントの水溶液であることを意味する。
【0057】
また、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートは、調和融点濃度が3.3モルパーセントであり、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)の3.3モルパーセント水溶液を+15℃以下で冷却することで、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートが生成する。
【0058】
臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートは、調和融点濃度が3.7モルパーセントであり、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の3.7モルパーセント水溶液を+12℃以下で冷却することで、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートが生成する。
【0059】
また、例えば、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートは、調和融点濃度が3.3モルパーセントであり、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)の3.3モルパーセント水溶液を+10℃以下で冷却することで、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートが生成する。なお、ここで、xモルパーセント水溶液とは、TBPC/(TBPC+HO)がxモルパーセントの水溶液であることを意味する。
【0060】
また、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートは、調和融点濃度が2.8モルパーセントであり、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)の2.8モルパーセント水溶液を+9℃以下で冷却することで、TBPBクラスレートハイドレートが生成する。
【0061】
このようにして得られたクラスレートハイドレートは、例えば塊状で得られる。本発明において、クラスレートハイドレートは、混合ガスと気固接触できるように、粉末状のクラスレートハイドレートの粒子を使用する。
【0062】
クラスレートハイドレートの粒子は、クラスレートハイドレートの分解温度以下で塊状のクラスレートハイドレートを事前に粉砕したものを気密容器に封入することができ、また、塊状のクラスレートハイドレートを粉砕するための機構を有する気密容器を用い、その気密容器内で粉砕することもできる。
【0063】
クラスレートハイドレートの粒子の粒径は、混合ガスと気固接触することで、クラスレートハイドレートの粒子に前記二酸化炭素を包蔵する速度が、発明の効果を損なわない範囲で限定されないが、粒径300マイクロメートル以下であると、クラスレートハイドレート単位量当たりの二酸化炭素を包蔵する量の点で好ましい。ここで、本明細書では、粒径300マイクロメートル以下のクラスレートハイドレートの粒子とは、目開き300マイクロメートルのふるいを通過したクラスレートハイドレートの粒子を意味する。
【0064】
(混合ガス)
本発明に適用できる混合ガスは、メタンおよび二酸化炭素を含むガス混合物であれば特に限定されないが、例えば、バイオガスや二酸化炭素を含む天然ガスなどが挙げられる。バイオガスは、例えば、61パーセントのメタンと39パーセントの二酸化炭素からなる混合ガスである。
【0065】
(包蔵工程)
包蔵工程では、メタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスをクラスレートハイドレートの粒子と前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で気固接触させることで、前記クラスレートハイドレートの粒子に前記二酸化炭素を包蔵させる。
【0066】
例えば、クラスレートハイドレートの粒子を、クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で、二酸化炭素分離濃縮のための気密容器に封入し、次いで気密容器にメタンおよび二酸化炭素を含む混合ガスを所定の圧力で導入し、温度条件を維持する。
【0067】
混合ガスをクラスレートハイドレート粒子と気固接触させる場合、粉末状のクラスレートハイドレートとガスを接触させるだけでクラスレートハイドレートに二酸化炭素を濃縮することができる。したがって、気液接触で必要とされる撹拌機等の複雑な設備は不要となる。なお、本発明の包蔵工程において、撹拌を行うこともできる。
【0068】
包蔵工程の温度は、クラスレートハイドレートの粒子の分解温度未満であれば特に限定されないが、低温であるほどクラスレートハイドレートの二酸化炭素吸収率が増加する傾向があり、低温であるほどクラスレートハイドレートのメタン吸収率が微減する傾向があるので、二酸化炭素の吸収量、選択性の観点で、低温である程好ましく、例えば0℃以下であると好ましく、-10℃以下であるとより好ましく、-20℃以下であると更に好ましい。
【0069】
クラスレートハイドレートの粒子の分解温度は、用いるクラスレートハイドレートにより異なるが、第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートの場合は、約+12~+27℃未満であり、より具体的には、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレートの分解温度は+27℃であり、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートの分解温度は+15℃であり、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートの分解温度は+12℃である。
【0070】
また、クラスレートハイドレートの粒子の分解温度は、第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートの場合は、約+9~+10℃未満であり、より具体的には、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートの分解温度は+10℃であり、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートの分解温度は+9℃である。
【0071】
包蔵工程の圧力は、特に限定されないが、例えば、3メガパスカル以下、2メガパスカル以下、または1メガパスカル以下とすることができる。本発明に係るクラスレートハイドレートは大気圧下で固化し得るので、低圧で包蔵を行うことができる。気固接触が適用可能な条件は、従来の気液接触より低圧であるため、気液接触の場合と比較して、耐圧性の低い気密容器を用いることができる。
【0072】
包蔵工程によって、気密容器内の混合ガスから二酸化炭素が選択的にクラスレートハイドレートに包蔵されることで、二酸化炭素が分離される。気密容器内の混合ガスの組成は、二酸化炭素濃度が減少し、メタン濃度が増加する。
【0073】
本発明の二酸化炭素分離方法により、1メガパスカル以下の低圧でメタンと二酸化炭素を含む混合ガスとクラスレートハイドレートを気固接触させる際に問題となる二酸化炭素分離性能の低下を抑制し、メタンと二酸化炭素の混合ガスから高濃度の二酸化炭素を分離固定することが可能となる。
【0074】
気固接触によるガス分離のための接触温度条件の維持には、空調機や冷凍機等による冷却だけでなく、冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することができるので、分離システムの省エネルギー化が可能である。
【0075】
本発明の二酸化炭素分離方法の包蔵工程で得られるクラスレートハイドレート粒子は、メタンと二酸化炭素を含む混合ガスとクラスレートハイドレートを気固接触させて得られる高濃度の二酸化炭素が取り込まれた粒子である。従って、この粒子は、後述する、二酸化炭素貯蔵方法および二酸化炭素輸送方法に使用することができる。
【0076】
(二酸化炭素の再生)
本発明の二酸化炭素分離方法は、包蔵工程で得られた、二酸化炭素を包蔵したクラスレートハイドレート粒子を混合ガスと隔離する隔離工程と、隔離工程で混合ガスから隔離した二酸化炭素を包蔵したクラスレートハイドレート粒子をクラスレートハイドレートの分解温度以上に加熱することで二酸化炭素を再生する再生工程と、を更に含むことができる。
【0077】
隔離工程では、二酸化炭素を包蔵したクラスレートハイドレート粒子を混合ガスと隔離する。例えば、気密容器を減圧して、気密容器中の混合ガスを気密容器外に排出する。排出された混合ガスの組成は、包蔵工程によって、二酸化炭素濃度が減少し、メタン濃度が増加している。気密容器内のクラスレートハイドレート粒子には、高濃度で、二酸化炭素を包蔵されている。
【0078】
再生工程では、隔離工程で混合ガスから隔離した二酸化炭素を包蔵したクラスレートハイドレート粒子をクラスレートハイドレートの分解温度以上に加熱することで二酸化炭素を再生する。クラスレートハイドレート粒子の分解温度は、第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートの場合には、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレートの分解温度が+27℃、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートの分解温度が+15℃、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートの分解温度が+12℃であるので、例えば、系内圧力を減圧後、約+12~+27℃以上に昇温することで、クラスレートハイドレートが分解し、固定した二酸化炭素を簡便に再生できる。これは、従来のアミン吸収法と比べ、劇的に低い二酸化炭素再生温度であるため、二酸化炭素再生に係るエネルギーを低減できる。さらに、二酸化炭素再生後の水溶液は、再度冷却し、再結晶化させることで、繰り返し利用可能である。
【0079】
また、クラスレートハイドレートの粒子の分解温度は、第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートの場合には、塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートの分解温度が+10℃であり、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートの分解温度が+9℃であるので、例えば、系内圧力を減圧後、約+9~+10℃以上に昇温することで、クラスレートハイドレートが分解し、固定した二酸化炭素を簡便に再生できる。
【0080】
(二酸化炭素貯蔵方法)
本発明の第二の観点に係る二酸化炭素貯蔵方法は、前記二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレート粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレート粒子を保持する保持工程と、
を含む。
【0081】
保持工程における系内の温度は、用いるクラスレートハイドレート粒子の分解温度未満であれば特に限定されない。例えば、クラスレートハイドレート粒子が第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートである場合には、保持工程における系内の温度を、約+12~+27℃未満、より具体的には、クラスレートハイドレート粒子がフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレートであるときは+27℃未満、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートであるときは+15℃未満、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートであるときは+12℃未満とする。
【0082】
また、例えば、クラスレートハイドレート粒子が第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートである場合には、保持工程における系内の温度を、約+9~+10℃未満、より具体的には、クラスレートハイドレート粒子が塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートであるときは+10℃未満、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートであるときは+9℃未満とする。
【0083】
保持工程における系内の圧力は、特に限定されないが、大気圧以上であると好ましく、1メガパスカル以下であると好適である。
【0084】
本発明の二酸化炭素貯蔵方法によれば、幅広い温度範囲で、且つ1メガパスカル以下の低圧で二酸化炭素を高濃度で貯蔵できる。また、貯蔵中のクラスレートハイドレートの冷却は、比較的高温で行うことができるので、空調機や冷凍機等による冷却だけでなく、冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することができ、貯蔵システムの省エネルギー化が可能である。
【0085】
本発明の二酸化炭素貯蔵方法を行う貯蔵設備は、空調機や冷凍機等を備えることができ、また冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することもできる。
【0086】
また、本発明の二酸化炭素貯蔵方法によって貯蔵される、クラスレートハイドレート粒子に包蔵されて固定されている二酸化炭素を再生するためには、例えば、系内を減圧後、クラスレートハイドレート粒子の分解温度以上に昇温し、クラスレートハイドレートを分解させることで簡便に二酸化炭素を再生できる。
【0087】
(二酸化炭素輸送方法)
本発明の第三の観点に係る二酸化炭素貯蔵方法は、前記二酸化炭素分離方法で、前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレート粒子を得る工程と、
前記クラスレートハイドレートの分解温度未満の温度条件下で前記二酸化炭素を包蔵した前記クラスレートハイドレート粒子を輸送する輸送工程と、
を含む。
【0088】
輸送工程における系内の温度は、用いるクラスレートハイドレート粒子の分解温度未満であれば特に限定されない。例えば、クラスレートハイドレート粒子が第4級アンモニウム塩クラスレートハイドレートである場合には、輸送工程における系内の温度を、約+12~+27℃未満、より具体的には、クラスレートハイドレート粒子がフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)クラスレートハイドレートであるときは+27℃未満、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)クラスレートハイドレートであるときは+15℃未満、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)クラスレートハイドレートであるときは+12℃未満とする。
【0089】
また、例えば、クラスレートハイドレート粒子が第4級ホスホニウム塩クラスレートハイドレートである場合には、輸送工程における系内の温度を、約+9~+10℃未満、より具体的には、クラスレートハイドレート粒子が塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)クラスレートハイドレートであるときは+10℃未満、臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)クラスレートハイドレートであるときは+9℃未満とする。
【0090】
輸送工程における系内の圧力は、特に限定されないが、大気圧以上であると好ましく、1メガパスカル以下であると好適である。
【0091】
本発明の二酸化炭素輸送方法によれば、幅広い温度範囲で、且つ1メガパスカル以下の低圧で二酸化炭素を高濃度で輸送できる。また、輸送中のクラスレートハイドレートの冷却は、比較的高温で行うことができるので、空調機や冷凍機等による冷却だけでなく、冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することができ、輸送システムの省エネルギー化が可能である。
【0092】
本発明の二酸化炭素貯蔵方法を行う輸送手段は、本発明の二酸化炭素貯蔵方法を行う貯蔵設備と同様の冷却設備を備える自動車、船舶等とすることができる。
【0093】
本発明の二酸化炭素輸送方法によって輸送される、クラスレートハイドレート粒子に包蔵されて固定されている二酸化炭素を再生するためには、例えば、系内を減圧後、クラスレートハイドレート粒子の分解温度以上に昇温し、クラスレートハイドレートを分解させることで簡便に二酸化炭素を再生できる。
【0094】
このように、本発明では、メタンと二酸化炭素を含む混合ガスとクラスレートハイドレートを気固接触させて得られる高濃度の二酸化炭素が取り込まれた粒子を輸送・貯蔵し、貯蔵設備では、空調機や冷凍機等を備えることができ、また冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することもでき、また、輸送手段は、貯蔵設備と同様の冷却設備をもつ自動車、船舶等である。
【0095】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲は限定されない。
【0096】
(二酸化炭素分離性能の評価)
CO分離性能は、CO回収率、メタン回収率およびCO分離係数を用いて評価した。CO回収率、メタン回収率およびCO分離係数は、以下の式により得られる。
CO回収率={(クラスレートハイドレートに固定されたCO量)/(初期封入CO量)}×100
メタン回収率={(クラスレートハイドレートに固定されたメタン量)/(初期封入メタン量)}×100
CO分離係数={(最終気相メタン組成)×(分解ガスCO組成)}/{(最終気相CO組成)×(分解ガスメタン組成)}
【0097】
ここで、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびメタン量は、以下の方法で求めた。
クラスレートハイドレートのガス吸収前後の系内の圧力差およびTCD型ガスクロマトグラフィーを用いて得られる、ガス吸収後の気相中およびクラスレートハイドレートを加熱して放出されるガス中のCO組成およびメタン組成からクラスレートハイドレートに固定されたCO含有量およびメタン含有量を測定する。
【0098】
(製造例1)
臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の3.7モルパーセント水溶液を+12℃以下で冷却して塊状のTBABクラスレートハイドレートを得た。得られたTBABクラスレートハイドレートを粉砕して粒径分布の広いTBABクラスレートハイドレートの粒子を得た。得られたTBABクラスレートハイドレートの粒子を+12℃以下で粒径300マイクロメートル以下に分級して、粒径300マイクロメートル以下のTBABクラスレートハイドレートの粒子を得た。図1に流れ図を示す。
【0099】
(実施例1-1)
製造例1で得られた粒径300マイクロメートル以下のTBABクラスレートハイドレートの粒子を気密容器に入れ、典型的なバイオガスの成分組成を模擬したメタンおよびCOからなる混合ガス(メタン約61パーセント、CO約39パーセント)と約9日間気固接触させて、二酸化炭素分離を行った。初期接触圧力は、0.9メガパスカルとした。接触温度は、-20℃(253K)の一定温度とした。約9日間の気固接触後のクラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は45.1パーセント、メタン回収率は6.9パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、11.6であった。結果を図3に示す。
【0100】
(実施例1-2)
接触温度を-10℃(263K)の一定温度とした以外は、実施例1―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は38.5パーセント、メタン回収率は8.7パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、7.1であった。結果を図3に示す。
【0101】
(実施例1-3)
接触温度を0℃(273K)の一定温度とした以外は、実施例1―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は31.0パーセント、メタン回収率は8.6パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、5.1であった。結果を図3に示す。
【0102】
(実施例1-4)
接触温度を+5℃(278K)の一定温度とした以外は、実施例1―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は26.1パーセント、メタン回収率は8.1パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、4.3であった。結果を図3に示す。
【0103】
(製造例2)
塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)の3.3モルパーセント水溶液を+15℃以下で冷却して塊状のTBACクラスレートハイドレートを得た。得られたTBACクラスレートハイドレートを粉砕して粒径分布の広いTBACクラスレートハイドレートの粒子を得た。得られたTBACクラスレートハイドレートの粒子を+15℃以下で粒径300マイクロメートル以下に分級して、粒径300マイクロメートル以下のTBACクラスレートハイドレートの粒子を得た。
【0104】
(実施例2-1)
製造例2で得た粒径300マイクロメートル以下のTBACクラスレートハイドレートの粒子を気密容器に入れ、典型的なバイオガスの成分組成を模擬したメタンおよびCOからなる混合ガス(メタン約61パーセント、CO約39パーセント)と約9日間気固接触させて、二酸化炭素分離を行った。初期接触圧力は、0.9メガパスカルとした。接触温度は、-20℃(253K)の一定温度とした。約9日間の気固接触後のクラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は40.6パーセント、メタン回収率は5.0パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、13.9であった。結果を図3に示す。
【0105】
(実施例2-2)
接触温度を-10℃(263K)の一定温度とした以外は、実施例2―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は41.4パーセント、メタン回収率は7.5パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、9.2であった。結果を図3に示す。
【0106】
(実施例2-3)
接触温度を0℃(273K)の一定温度とした以外は、実施例2―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は36.8パーセント、メタン回収率は9.1パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、6.1であった。結果を図3に示す。
【0107】
(実施例2-4)
接触温度を+10℃(283K)の一定温度とした以外は、実施例2―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は29.5パーセント、メタン回収率は9.2パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、4.5であった。結果を図3に示す。
【0108】
(製造例3)
フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)の3.4モルパーセント水溶液を+20℃以下で冷却して塊状のTBAFクラスレートハイドレートを得た。得られたTBAFクラスレートハイドレートを粉砕して粒径分布の広いTBAFクラスレートハイドレートの粒子を得た。得られたTBAFクラスレートハイドレートの粒子を+27℃以下で粒径300マイクロメートル以下に分級して粒径300マイクロメートル以下のTBAFクラスレートハイドレートの粒子を得た。
【0109】
(実施例3-1)
製造例3で得た粒径300マイクロメートル以下のTBAFクラスレートハイドレートの粒子を気密容器に入れ、典型的なバイオガスの成分組成を模擬したメタンおよびCOからなる混合ガス(メタン約61パーセント、CO約39パーセント)と約9日間気固接触させた。初期接触圧力は、0.9メガパスカルとした。接触温度は、-20℃(253K)の一定温度とした。約9日間の気固接触後のクラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は33.7パーセント、メタン回収率は6.1パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、8.1であった。結果を図3に示す。
【0110】
(実施例3-2)
接触温度を-15℃(258K)の一定温度とした以外は、実施例3―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は39.3パーセント、メタン回収率は8.0パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、7.5であった。結果を図3に示す。
【0111】
(実施例3-3)
接触温度を-10℃(263K)の一定温度とした以外は、実施例3―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は37.2パーセント、メタン回収率は9.0パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、6.3であった。結果を図3に示す。
【0112】
(実施例3-4)
接触温度を0℃(273K)の一定温度とした以外は、実施例3―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は30.6パーセント、メタン回収率は8.6パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、4.9であった。結果を図3に示す。
【0113】
(実施例3-5)
接触温度を+10℃(283K)の一定温度とした以外は、実施例3―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は25.8パーセント、メタン回収率は10.1パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、3.2であった。結果を図3に示す。
【0114】
(実施例3-6)
接触温度を+20℃(293K)の一定温度とした以外は、実施例3―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は18.1パーセント、メタン回収率は9.4パーセントであった。結果を図2に示す。また、CO分離係数を求めたところ、2.2であった。結果を図3に示す。
【0115】
参考として、図3に、非特許文献5のTHFクラスレートハイドレートの初期接触圧力3メガパスカルにおけるCO分離係数、非特許文献5のTHFクラスレートハイドレートの初期接触圧力0.9メガパスカルにおけるCO分離係数(×)、非特許文献7のTBACクラスレートハイドレートの初期接触圧力3メガパスカルにおけるCO分離係数を示す。
【0116】
(製造例4)
臭化テトラブチルホスホニウム(TBPB)の2.8モルパーセント水溶液を+9℃以下で冷却して塊状のTBPBクラスレートハイドレートを得た。得られたTBPBクラスレートハイドレートを粉砕して粒径分布の広いTBPBクラスレートハイドレートの粒子を得た。得られたTBPBクラスレートハイドレートの粒子を+9℃以下で粒径300マイクロメートル以下に分級して、粒径300マイクロメートル以下のTBPBクラスレートハイドレートの粒子を得た。
【0117】
(実施例4-1)
製造例4で得られた粒径300マイクロメートル以下のTBPBクラスレートハイドレートの粒子を気密容器に入れ、典型的なバイオガスの成分組成を模擬したメタンおよびCOからなる混合ガス(メタン約61パーセント、CO約39パーセント)と約9日間気固接触させて、二酸化炭素分離を行った。初期接触圧力は、0.9メガパスカルとした。接触温度は、-20℃(253K)の一定温度とした。約9日間の気固接触後のクラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は59.1パーセント、メタン回収率は15.2パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、8.8であった。結果を図5に示す。
【0118】
(実施例4-2)
接触温度を-10℃(263K)の一定温度とした以外は、実施例4―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は56.1パーセント、メタン回収率は23.2パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、4.7であった。結果を図5に示す。
【0119】
(実施例4-3)
接触温度を0℃(273K)の一定温度とした以外は、実施例4―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は47.9パーセント、メタン回収率は29.4パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、2.6であった。結果を図5に示す。
【0120】
(実施例4-4)
接触温度を+5℃(278K)の一定温度とした以外は、実施例4―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は43.4パーセント、メタン回収率は27.8パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、2.1であった。結果を図5に示す。
【0121】
(製造例5)
塩化テトラブチルホスホニウム(TBPC)の3.3モルパーセント水溶液を+10℃以下で冷却して塊状のTBPCクラスレートハイドレートを得た。得られたTBPCクラスレートハイドレートを粉砕して粒径分布の広いTBPCクラスレートハイドレートの粒子を得た。得られたTBPCクラスレートハイドレートの粒子を+10℃以下で粒径300マイクロメートル以下に分級して、粒径300マイクロメートル以下のTBPCクラスレートハイドレートの粒子を得た。
【0122】
(実施例5-1)
製造例5で得られた粒径300マイクロメートル以下のTBPCクラスレートハイドレートの粒子を気密容器に入れ、典型的なバイオガスの成分組成を模擬したメタンおよびCOからなる混合ガス(メタン約61パーセント、CO約39パーセント)と約9日間気固接触させて、二酸化炭素分離を行った。初期接触圧力は、0.9メガパスカルとした。接触温度は、-20℃(253K)の一定温度とした。約9日間の気固接触後のクラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は61.9パーセント、メタン回収率は24.9パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、5.7であった。結果を図5に示す。
【0123】
(実施例5-2)
接触温度を-10℃(263K)の一定温度とした以外は、実施例5―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は53.2パーセント、メタン回収率は23.1パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、4.5であった。結果を図5に示す。
【0124】
(実施例5-3)
接触温度を0℃(273K)の一定温度とした以外は、実施例5―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は38.6パーセント、メタン回収率は16.5パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、3.5であった。結果を図5に示す。
【0125】
(実施例5-4)
接触温度を+5℃(278K)の一定温度とした以外は、実施例5―1と同様の手順で、二酸化炭素分離を行った。約9日間の気固接触後の、クラスレートハイドレートに固定されたCO量およびクラスレートハイドレートに固定されたメタン量を測定し、CO回収率およびメタン回収率を求めたところ、CO回収率は36.8パーセント、メタン回収率は15.7パーセントであった。結果を図4に示す。また、CO分離係数を求めたところ、3.3であった。結果を図5に示す。
【0126】
実施例で明らかにしたように、クラスレートハイドレートとメタンおよび二酸化炭素混合ガスを1メガパスカル以下の圧力で気固接触させると、二酸化炭素がクラスレートハイドレートに分離濃縮されることが判明した。
【0127】
上記実施例によれば、1メガパスカル以下の気固接触で二酸化炭素を高濃度で固定できることがわかる。1メガパスカル以下の気固接触で二酸化炭素を高濃度で固定できる利点としては、次のことが挙げられ、実用面の大きなメリットがある。
【0128】
まず、1メガパスカル以下の低圧で扱うことができることは、耐圧が1メガパスカル以下の低耐圧性の簡易な気密容器を用いて二酸化炭素分離を行うことができるというメリットがある。また、気相とクラスレートハイドレートとの接触界面を撹拌する必要がないため、撹拌機等の設備が不要となり、設備の簡素化が可能であるというメリットがある。さらに本発明で固相として用いるクラスレートハイドレートは、クラスレートハイドレートを生成する塩の水溶液を大気圧下において氷点以上で固化させることにより製造可能であり、その製造には、空調機や冷凍機等による冷却だけでなく、冷涼な外気、地中熱、雪氷等の自然冷熱を利用することができる。同様に、二酸化炭素を高濃度で固定するためのクラスレートハイドレートとメタンおよび二酸化炭素混合ガスの気固接触の温度維持のためにも空調機や冷凍機等による冷却以外に自然冷熱を利用でき、分離システムの省エネルギー化が可能である。
【0129】
クラスレートハイドレートとメタンおよび二酸化炭素混合ガスの気固接触では、実施例の通り、二酸化炭素がメタンより選択的に固定されるため、原料ガスから多段の分離工程を用いて二酸化炭素を濃縮する場合、二酸化炭素濃度が低減した気相を次の段に移送することで、連続して二酸化炭素の分離濃縮を進めることができる。また、原料タンクにクラスレートハイドレートを封入した気密容器を接続し、二酸化炭素を固定後、気密容器内のクラスレートハイドレートを新たなクラスレートハイドレートに交換するか、新たなクラスレートハイドレートを封入した別の気密容器を接続することにより、原料タンク内の二酸化炭素濃度を連続的に低減できる。さらに、クラスレートハイドレートに固定された二酸化炭素は、気密容器ごと原料タンクから切り離し、貯蔵したり輸送したりすることができる。
【0130】
固定した二酸化炭素を再生する際には、クラスレートハイドレートが封入された気密容器内を減圧するか、減圧して二酸化炭素を固定したクラスレートハイドレートの分解温度以上に昇温し、当該クラスレートハイドレートを分解させるだけで簡便かつ省エネルギー的に二酸化炭素を回収できる。二酸化炭素再生後の水溶液は、再度冷却し再結晶化せることで繰り返し二酸化炭素の分離濃縮および輸送・貯蔵に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、1メガパスカル以下の圧力下でメタンと二酸化炭素からなる混合ガスとクラスレートハイドレートを気固接触させ、クラスレートハイドレートに二酸化炭素を固定することで二酸化炭素を分離濃縮することを可能とする技術であり、固定した二酸化炭素を固体状態で輸送または貯蔵することができる。この技術は、自然冷熱等を活用することにより分離、輸送貯蔵時の冷却に係るエネルギーを低減させることができる。また、二酸化炭素再生時の省エネルギー化が可能であり、産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5