(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116428
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】含ハロゲン有機半導体材料
(51)【国際特許分類】
C07D 495/14 20060101AFI20230815BHJP
H10K 10/46 20230101ALI20230815BHJP
【FI】
C07D495/14 CSP
H10K10/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018453
(22)【出願日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2022018778
(32)【優先日】2022-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】片桐 洋史
(72)【発明者】
【氏名】松永 周
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 翔
(72)【発明者】
【氏名】熊木 大介
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【テーマコード(参考)】
4C071
【Fターム(参考)】
4C071AA02
4C071AA08
4C071BB02
4C071BB05
4C071CC23
4C071EE13
4C071FF23
4C071GG01
4C071HH01
4C071LL10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有機薄膜トランジスタ等に用いる有機電子材料として、高溶解性及び高性能を示す非対称型の拡張π共役系縮合環化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されることを特徴とする、含ハロゲン縮合環化合物である。
(式中、A及びA’は、-S-C(R)=CH-で表される2価の基であり、ここで、硫黄原子はベンゾチオフェン環のC2、C3、C5、C6の炭素のいずれとも結合を形成していてもよく、Rは、各々独立して、基-R1-R2-R3で表され、R1、R2は、各々独立して、直接結合、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数5~20のアリーレン基、又は3つまでの環が縮合していてもよい、炭素数2~20の2価の複素環式基であり、R3は、各々独立して、水素、ハロゲン、シアノ基等である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする、含ハロゲン縮合環化合物;
【化1】
(一般式(1)中、
A及びA’は、-S-C(R)=CH-で表される2価の基であり、ここで、硫黄原子はベンゾチオフェン環のC2、C3、C5、C6の炭素のいずれとも結合を形成していてもよく、
Rは、各々独立して、基-R1-R2-R3で表され、
R1、R2は、各々独立して、直接結合、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数5~20のアリーレン基、又は3つまでの環が縮合していてもよい、炭素数2~20の2価の複素環式基であり、
R3は、各々独立して、水素、ハロゲン、シアノ基、-NR
aR
b基(ここで、R
a及びR
bは各々独立して、水素、直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であるか、R
a及びR
bは、これらが結合している窒素と一緒になって、4~7員の環を形成していてもよい)、ハロゲンで置換されていてもよい炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよい炭素数3~20のシクロアルキル基、ハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基、又はハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよく、3つまでの環が縮合していてもよい、炭素数2~20の複素環式基であり、
2つのR3のうち少なくとも一方は、ハロゲンであるか、又はハロゲンで置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である。)
【請求項2】
2つの基R3が、ハロゲン又はハロゲンで置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である、請求項1記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【請求項3】
ハロゲンとしてヨウ素を少なくとも一つ有する、請求項1記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【請求項4】
2つの基Rの少なくとも一方が、各々独立して、ヨウ素又は下記一般式(s1)~(s7)で表される置換基である、請求項1記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【化2】
【請求項5】
2つの基R1、R2がともに直接結合であり、2つの基R3がともにヨウ素である、請求項1記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【請求項6】
2つの基Rのうち一方が、ハロゲンを有していない、請求項1記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【請求項7】
基R3のうち一方が、ヨウ素又はヨウ素で置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である、請求項6記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機電子材料。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機半導体単結晶。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ハロゲン有機半導体材料に関し、具体的には、有機トランジスタ用の新規含ハロゲン縮合環化合物、及びこれを用いた有機電子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体から導体までの様々な電気特性を有する有機電子材料は、無機材料と比較して軽量、柔軟であり、材料選択の幅が広いという利点を有している。有機電子材料は、フレキシブルディスプレイ・多機能スイッチ・多機能センサー・有機太陽電池・有機電極など、有機化合物を用いた、薄くて曲がる電子デバイス、all-organic electronicsの実現に直接つながることから分子エレクトロニクスの中枢を担っている。特に、導電性材料や有機半導体を用いた薄膜トランジスタに関する研究は大きな注目を集めている。
【0003】
有機化合物は比較的溶液状態を調製しやすく、薄膜状の電子材料の製造において有利である。有機化合物の持つ本来の魅力はインクジェット法などのウエットプロセスによる大面積デバイスの作製であり、高溶解性及び高性能を示す材料のさらなる開発が望まれている。高性能の実現には、三次元的な電荷輸送を可能とするような、活性層の結晶性薄膜における高次の分子配列が求められる。これまでπ電子系の拡張による強い分子間相互作用を期待した直線的な縮合環数の増加等が試みられてきた。しかし、π電子系の拡張と分子の溶解性とはトレードオフの関係にあり、ウエットプロセスにおいて大きな障害となっている。このような背景で高い分子配向制御を試みた例として、インディゴを基本骨格とした対称型の有機導電性材料が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、近年、高い溶解性の獲得に分子骨格の非対称化が着目され、分子の片末端にアルキル基を導入した可溶性有機半導体材料が報告されている(非特許文献2~5)。非対称な分子の設計として、分子の片末端にヨウ素をもつナフチルチエノチオフェン(NTT)、アントラセニルチエノチオフェン(ATT)において分子配向性と電荷移動度の向上が報告されている(非特許文献6、特許文献1)。また、非対称な分子骨格であるジチエノベンゾチオフェン(DTBT)を含む、複素環式芳香族化合物が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-43936号公報
【特許文献2】米国特許第9,318,713号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Pitayatanakul, O., Iijima, K., Ashizawa, M., Kawamoto, T., Matsumoto, H., & Mori, T. (2015), Journal of Materials Chemistry C, 3(33), 8612-8617.
【非特許文献2】Tian, H.; Han, Y.; Bao, C.; Yan,D.; Geng, Y.; Wang, F. Chem. Commun. 2012, 48 (29), 3557-3559.
【非特許文献3】Iino, H.; Kobori, T.; Hanna,J.-I. Jpn. J. Appl. Phys. 2012, 51 (11S), 11PD02.
【非特許文献4】Iino, H.; Usui, T.; Hanna, J.-I. Nature Communications 2015, 6, (1), 1-5.
【非特許文献5】Ogawa, Y.; Yamamoto, K.; Miura,C.; Tamura, S.; Saito, M.; Mamada, M.; Kumaki, D.; Tokito, S.; Katagiri, H. ACSAppl. Mater. Interfaces 2017, 9 (11), 9902-9909.
【非特許文献6】Matsunaga, A., Ogawa, Y., Kumaki, D., Tokito, S., & Katagiri, H. (2021), The Journal of Physical Chemistry Letters, 12 (1), 111-116.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1ではインディゴの分子構造が対称型であるため材料の溶解性が乏しく、蒸着プロセスでのデバイス作製に限られるという問題点があった。また、非特許文献6や特許文献1の化合物でも溶解性の向上は見られず、両末端への化学修飾と三次元電荷輸送への展開は達成されていない。非特許文献2~5記載の化合物にあるようなアルキル基による配向制御にも困難が伴い、未だ分子配向における相互作用には不明な点が多い。よって、分子の溶解性と配向性の両立に向けた明確なメカニズムの解明と該メカニズムに基づく新しい材料群の設計コンセプトが求められている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機薄膜トランジスタ等に用いる有機電子材料として、高溶解性及び高性能を示す非対称型の拡張π共役系縮合環化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、[1]下記一般式(1)で表されることを特徴とする、含ハロゲン縮合環化合物に関する。
【化1】
(一般式(1)中、
A及びA’は、-S-C(R)=CH-で表される2価の基であり、ここで、硫黄原子はベンゾチオフェン環のC2、C3、C5、C6の炭素のいずれとも結合を形成していてもよく、
Rは、各々独立して、基-R1-R2-R3で表され、
R1、R2は、各々独立して、直接結合、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数5~20のアリーレン基、又は3つまでの環が縮合していてもよい、炭素数2~20の2価の複素環式基であり、
R3は、各々独立して、水素、ハロゲン、シアノ基、-NR
aR
b基(ここで、R
a及びR
bは各々独立して、水素、直鎖若しくは分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基であるか、R
a及びR
bは、これらが結合している窒素と一緒になって、4~7員の環を形成していてもよい)、ハロゲンで置換されていてもよい炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよい炭素数3~20のシクロアルキル基、ハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン若しくはアルキル基で置換されていてもよく、3つまでの環が縮合していてもよい、炭素数2~20の複素環式基であり、
2つのR3のうち少なくとも一方は、ハロゲンであるか、又はハロゲンで置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である。)
また本発明は、以下の[2]~[10]に関する。
[2]2つの基R3が、ハロゲン又はハロゲンで置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である、前記[1]の含ハロゲン縮合環化合物。
[3]ハロゲンとしてヨウ素を少なくとも一つ有する、前記[1]又は[2]の含ハロゲン縮合環化合物。
[4]2つの基Rの少なくとも一方が、各々独立して、ヨウ素又は下記一般式(s1)~(s7)で表される置換基である、前記[1]~[3]のいずれか記載の含ハロゲン縮合環化合物。
【化2】
[5]2つの基R1、R2がともに直接結合であり、2つの基R3がともにヨウ素である、前記[1]~[4]のいずれか記載の含ハロゲン縮合環化合物。
[6]2つの基Rのうち一方が、ハロゲンを有していない、前記[1]の含ハロゲン縮合環化合物。
[7]基R3のうち一方が、ヨウ素又はヨウ素で置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基である、前記[6]記載の含ハロゲン縮合環化合物。
[8]前記[1]~[7]のいずれか記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機電子材料。
[9]前記[1]~[7]のいずれか記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機半導体単結晶。
[10]前記[1]~[7]のいずれか記載の含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機薄膜。
【0010】
本発明の有機電子材料は、上記含ハロゲン縮合環化合物を用いたものであることを特徴とする。本発明は、ジチエノベンゾチオフェン骨格の両末端が選択的に化学修飾可能なことを見出したことに端を発し、ハロゲン化された非対称分子が従来材料よりも高い溶解性と分子配向性をもつ有機半導体材料であることを示したものである。特に、本発明の化合物を用いての溶液プロセスでのデバイス作製が可能であり、有機トランジスタ材料として優れた特性を示すことを見出し、分子配向におけるハロゲン-ハロゲン相互作用の有用性に基づく非対称型含ハロゲン有機電子材料の優位性を明らかにしている。ハロゲンを含まないジチエノベンゾチオフェンは交互にずれたスリップ・スタック型をとるが、ハロゲンを含んだジチエノベンゾチオフェンは分子が同方向に整然と配列したヘリンボーン(herringbone)構造を形成する。これによって薄膜状態での高い分子配向性が実現し、高い半導体性能を示す。特に、ハロゲン間に移動積分が得られたことは高い電荷移動度をもつルブレンに見られる三次元電荷輸送性を明確に示唆しており、これまでの有機半導体材料の材料物性と比較して大きな優位性をもっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、ハロゲン原子を含むジチエノベンゾチオフェン骨格が高い溶解性と高い分子配向性とを示すため、溶液プロセスでのデバイス作製が可能である。よって、上記含ハロゲン縮合環化合物は、有機導電性材料、特に有機薄膜トランジスタ用の有機半導体材料として、優れた性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例の項で合成した各化合物の、クロロホルム溶液及び薄膜の状態における、UV-vis吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例の項で合成した各化合物の、CV(サイクリックボルタモグラム)を示す図である。
【
図3】実施例の項で合成した各化合物の、単結晶によるX線構造解析の結果を示す図である。
【
図4】DI-DTBT1及びI-C8DTBT1の、ドロップキャスト法で作製した素子のFET特性を評価した結果を示す図である。
【
図5】実施例の項で合成した各化合物の、薄膜における偏光顕微鏡画像を示す図である。
【
図6】実施例の項で合成した各化合物の、薄膜におけるAFM(原子間力顕微鏡)画像を示す図である。
【
図7】実施例の項で合成した各化合物の、XRD(X線回折)を測定した結果を示す図である。
【
図8】実施例12におけるCVの測定チャートを示す図である。
【
図9】DTBT異性体とDI-DTBT異性体の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【
図10】DTBT異性体とDI-DTBT異性体の単結晶構造の解析結果を示す図である。
【
図11】実施例の項で合成した各化合物におけるOFET素子の、偏光顕微鏡写真の図である。
【
図12】実施例の項で合成した各化合物における薄膜のX線回折を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、前記一般式(1)で表される。
【0014】
アルキル基は、具体的には、炭素原子数1~30、好ましくは炭素原子数1~18、より好ましくは炭素原子数1~12の直鎖又は分岐を有していてもよい炭化水素基である。アルキル基の価数は、それが結合する態様に応じて適切な価数をとることが理解される。1価のアルキル基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。2価のアルキル基は、アルキレンと表記することがあり、具体的な基の名称は上記アルキル基の語尾を「レン」に置き換えて表記される。
【0015】
シクロアルキル基は、炭素原子数3~20、好ましくは炭素原子数3~12、より好ましくは炭素原子数3~8の、少なくとも一つの環状構造を有する炭化水素骨格の基である。環構造は、2つ以上の環が縮合していてもよい。また、シクロアルキル基としては、環状構造を少なくとも一つ有していればよい。結合手は環構造に存在している必要はなく、環構造に加えて直鎖又は分岐のアルキル基が存在していてもよい。このようなシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0016】
アリール基は、炭素原子数5~20、好ましくは炭素原子数6~14、より好ましくは炭素原子数6~10の、少なくとも1つの芳香族性を有する環状構造を有する炭化水素骨格の基である。環構造は、2つ以上の環が縮合していてもよい。また、アリール基としては、環状構造を少なくとも一つ有していればよい。結合手は環構造に存在している必要はなく、環構造に加えて直鎖又は分岐のアルキル基等が存在していてもよい。このようなアリールの例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0017】
複素環式基は、炭素原子数2~20、好ましくは炭素原子数3~14、より好ましくは炭素原子数4~10の、少なくとも1つの環状構造を有し、該環状構造が、窒素、酸素、硫黄、セレンから選択されるヘテロ原子を少なくとも1つ有する骨格の基である。環構造は、2つ又は3つの環が縮合していてもよい。また、複素環式基としては、ヘテロ原子を含む環構造を少なくとも一つ有していればよい。結合手は環構造に存在している必要はなく、環構造に加えて直鎖又は分岐のアルキル基等が存在していてもよい。このような複素環式基を構成する環構造の例としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、チアジン、インドール、イミダゾール、キノリン、キノキサリン、ベンゾピラン、アクリジン、キサンテン、カルバゾール、オキシタン、オキセタン、オキソラン、オキセパン、チオラン、チラン、フラン、チオフェン、チエノチオフェン、ジオキサン、モルホリン、チアジアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾフラン、ベンゾイミダゾール、チアゾロチアゾール等が挙げられる。
【0018】
本明細書において「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素のいずれかを指す。ある基が「ハロゲンで置換されている」というときは、その基がハロゲンを有する位置は限定されないが、本発明においては、分子構造の末端、すなわちジチエノベンゾチオフェン環から見て最も離れた位置にハロゲンがあることが好ましい。また、ある基が幾つのハロゲンで置換されているかは制限されず、1つからその基が置換可能な最大数まで、任意の数のハロゲンを有することができる。
【0019】
本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、上記一般式(1)で表されるジチエノベンゾチオフェン誘導体である。縮合環の両端にある2つのチオフェン環は、ベンゾチオフェン環のC2及びC3、又はC5及びC6に対して、どのように縮合していてもよい。すなわち、本発明の含ハロゲン縮合環化合物には、以下の4つの異性体を有する化合物が含まれる。以下、各異性体をDTBT1~DTBT4と表記することがある。
【化3】
【0020】
基Rは、上記定義のとおりであり、分子の末端に相当する部分、即ち一般式(1)における2つのRのうち少なくとも一方にハロゲンを含む置換基を有している。ハロゲンを少なくとも1つ有することで、ハロゲン-ハロゲン相互作用による分子配向がより高度に制御される。ハロゲン原子は、一般式(1)で表される化合物の末端に位置していれば、DTBTに直接結合していなくてもよい。例えば、2つの基Rが、各々独立して、ハロゲン又はハロゲンで置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール若しくは複素環式基であることができる。アリール又は複素環式基は、複数の環構造が連結していてもよい。
【0021】
DTBTは、例えば特許文献2に記載された方法により調製することができるが、公知の方法を組み合せて、DTBT1~DTBT4をそれぞれ合成することができる。より具体的な調製方法の例は、実施例を参照されたい。
【0022】
ハロゲンの種類としては、ヨウ素を少なくとも一つ有することが、分子配向、分子配列、結晶性、電荷輸送特性の観点からは好ましい。ヨウ素を有する一般式(1)で表される化合物の例としては、2つの基Rが、各々独立して、ヨウ素又は下記一般式(s1)~(s7)で表される置換基である、化合物である。
【化4】
【0023】
上記一般式(1)の2つのRは、ともにハロゲンを含む基であると分子の溶解性がより高くなるため好ましいが、分子配向をより高度に制御する観点からは、アルキル基やアリール基などの炭化水素基であることもできる。ここでの炭化水素基は、ハロゲン原子を有していなくてもよい。分子配向性と溶解性のバランスがより良好になるため、炭化水素基としては炭素数3~10のアルキル基又はフェニル基が好ましく、炭素数3~8の直鎖状アルキル基がより好ましい。
【0024】
これらのうち、含ヨウ素縮合環化合物として具体的な化合物を例示するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【化5】
【0025】
上記含ハロゲン縮合環化合物は、リチオ化したジチエノベンゾチオフェンに対してハロゲンを作用させる工程を含む方法により、得ることができる。一例として、非対称型構造を有するジチエノベンゾチオフェンの合成方法を示す。
【化6】
【0026】
上記例では、不活性ガス雰囲気下で、ジチエノベンゾチオフェンをTHF等の溶媒に溶解させ、n-ブチルリチウムを加えてリチオ化した後、ハロゲン化アルキルを加えて攪拌することで、片末端にアルキル基を導入したジチエノベンゾチオフェンを得る。さらにリチオ化を行い、ヨウ素を反応させ、クエンチ後、濃縮、精製することにより、目的の化合物を得ることができる。
【0027】
また、リチオ化を過剰に行うことで、下記スキームのように、両末端にハロゲンを有する化合物を得ることもできる。下記スキームの例は、ヨウ素を導入した反応の例である。
【化7】
【0028】
ジチエノベンゾチオフェンは、末端チエノチオフェン部位の選択的なリチオ化が可能であり、スズ化した後にStilleカップリング反応を用いて、ヨウ素原子を有するチオフェン骨格を導入することも可能である。
なお、本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、上記した方法に限られず、種々の公知の方法で合成することができる。
【0029】
本発明の含ハロゲン縮合環化合物のように、ハロゲン原子を含むアセン骨格を持つ分子は、クロロホルム、トルエン及びテトラヒドロフラン等、種々の溶媒に対して高い溶解性を示す。例えば、実施例において合成したDI-DTBT1は、熱クロロホルム(55℃)に対して、3.0g/Lの溶解度を示し、I-C8DTBT1は、熱クロロホルムに対して、19.0g/Lの溶解度を示す。
【0030】
また、上記含ハロゲン縮合環化合物は、高い分子配向性を示す。無置換のDTBTは交互にずれたスリップ・スタック型をとるが、ハロゲンを含むDTBTは、分子が同方向に整然と配列したヘリンボーン(herringbone)構造を形成する。これにより、本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、結晶状態ではもちろんのこと、薄膜状態でも高い分子配向性を実現し、有機電子材料として優れた特性を示す。よって本発明の一つの態様は、前記一般式(1)で表される含ハロゲン縮合環化合物を含む、有機電子材料に関する。
【0031】
上記含ハロゲン縮合環化合物は、半導体のような有機電子材料として、結晶、非結晶いずれの性状でも、固体であれば用いることができる。再結晶により得た単結晶であってもよく、真空蒸着などの手段を用いて結晶を得てもよい。また、塗布した溶液から溶媒を除去して製膜するなどの手段で薄膜化してもよい。
【0032】
上記含ハロゲン縮合環化合物は、溶液プロセスが可能な高い溶解性を示し、かつ、薄膜状態における分子配向性も高く、トランジスタ特性を示す。したがって本発明の一つの態様は、上記含ハロゲン縮合環化合物を用いた、有機薄膜に関する。
上記含ハロゲン縮合環化合物の示すトランジスタ特性の例として、DTBT1のジヨード体(DI-DTBT1)をドロップキャスト法により製膜した薄膜を用いたトップコンタクト型電界効果トランジスタ(FET)では、移動度(μ
FET)が0.12cm
2/Vs(濃度0.5wt%)であり、高いp型特性を示す。薄膜X線回折(XRD)の結果から、DI-DTBT1は、基板に垂直にend-on配向し、ヘリンボーン構造を形成している。また、単結晶X線構造解析の結果、DI-DTBT1のレイヤー間に明確なヨウ素-ヨウ素相互作用があることを確認することができる。2分子のDI-DTBT1間での大きなトランスファー積分(最大で73meV)が得られ、ヨウ素原子間で相互作用することも確認された。つまり、
図3に示すとおり、ヨウ素-ヨウ素相互作用が高い秩序構造に寄与している。
【0033】
ここで、ドロップキャスト法とは、スピンコート法と同じく代表的なウエットプロセスである。ゆっくりと溶媒を蒸発させ時間をかけて製膜するため、スピンコート法に比べて結晶性に優れる膜を形成することができる。トップコンタクト型FETの場合は、ゲート絶縁膜上に製膜され、ボトムコンタクト型FETの場合はゲート絶縁膜上、及び、ソース電極及びドレイン電極が形成された基板上に製膜される。なお、絶縁膜材料の種類やその表面状態、有機半導体層を形成する基板の表面状態、並びにソース電極及びドレイン電極の材料は様々であってよい。
【0034】
一方、無置換のDTBTを用いた場合、同じくドロップキャスト法で製膜したDTBTデバイスではトランジスタ特性を示さず、薄膜状態における分子配向性も低い。
【0035】
本発明の含ハロゲン縮合環化合物は、高い溶解性を有するため、均一な薄膜状に成型するプロセスにおいて有利である。また、高い分子配向性を有しているため、薄膜状で優れたトランジスタ特性を発揮することができる。このため、本発明は、半導体素子として有用であり、特に、溶液プロセスによる薄膜の形成において有利であるため、有機薄膜トランジスタの材料として有用である。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0037】
合成に用いた試薬は、関東化学、東京化成工業、ナカライテスク、Aldrichから購入し、市販のものをそのまま利用した。THF、ジエチルエーテル、トルエンは蒸留によって脱水したものを用いた。他の試薬、溶媒は、市販のものをそのまま使用した。また、得られた化合物の測定は以下に示す装置を用いて行った。
・1H NMRスペクトル:日本電子社製 JEOL JNM 400 (400MHz),JEOL ECX 500 (500MHz),JEOL ECZ 600 (600MHz)
・13C NMRスペクトル:日本電子社製 JEOL ECX 500 (125MHz)
測定溶媒には重クロロホルム(CDCl3)、重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を用い、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いてδ(ppm)=0ppmとした。
・カラムクロマトグラフィー:関東化学社製 シリカゲル60N(球状、中性)、粒子径40-100μm
・薄層クロマトグラフィー: Merck製 TLC Plates (Silica-gel 60 F254)
・分子軌道計算:Gaussian 09 Revision C.01
・半導体パラメーター :KEITHLEY 4200-SCS
・薄膜X線結晶構造解析 : Rigaku Smartlab system
・AFM : Bruker Dimension Icon
・イオン化エネルギー: 理研計器社製 AC-3
【0038】
【0039】
[製造例1-1]2-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化9】
窒素雰囲気下100mL三口フラスコに2,3-ジブロモチオフェン1.2mL(d=2.19)、THF 54mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートにn-ブチルリチウム8.2mL(1.55M ヘキサン溶液)を5分かけて滴下し、30分撹拌した。その後、2-ホルミルチエノチオフェンを2.0g加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後、精製水(20mL)を入れて撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物(茶色液体)を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム)による精製を行うことで2-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(無色液体)を収量2.58g、収率70%で得た。
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 7.36 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.23 (m, J = 5.1 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 6.43 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 2.72 (d, J = 3.4 Hz, 1H)
【0040】
[製造例1-2]2-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化10】
還流管を備え付けた100mL三口フラスコを窒素置換し、氷浴中で0℃とした後、ジエチルエーテル(57.4mL)、LiAlH
4(483mg)、AlCl
3(1.72g)の順に加え撹拌した。その後、ナスフラスコでジエチルエーテル(20mL)に2-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを溶かし、三口フラスコに加え、室温で1時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチル、精製水を入れて撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥、次いで濃縮することで粗生成物(赤色液体)を得た。その後、ヘキサンでのデカンテーション、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:4)による精製を行うことで、2-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(淡黄色液体)を収量2.08g、収率85%で得た。
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 7.31 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 7.19 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 7.07 (s, 1H), 6.95 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 4.36 (s, 2H)
【0041】
[製造例1-3]2-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化11】
窒素雰囲気下、100mL三口フラスコに2-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを600mg、ジエチルエーテル28mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム1.35mL(1.55M ヘキサン溶液)を滴下し、30分撹拌した。その後、N-メチルホルムアニリドを0.26mL加え、-78℃で2時間撹拌した。反応終了後、塩酸を入れて30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物(黒色固体)を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=2:1)による精製を行うことで、2-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(茶色固体)を収量384mg、収率76%で得た。
1H-NMR (600 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 10.10 (s, 1H), 7.43 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.33 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.18 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 7.10 (s, 1H), 4.78 (s, 2H)
13C-NMR (125 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 184.68, 153.56, 143.56, 138.61, 138.43, 136.61, 128.22, 126.56, 124.13, 119.43, 118.23, 29.56
【0042】
[製造例1-4]DTBT1の合成
【化12】
50mL三口フラスコに2-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを250mgとポリリン酸25mLを入れ、80℃で3時間撹拌した。その後、氷水を含む1L三角フラスコに移し替え、0℃から室温になるまで撹拌し、吸引ろ過した。得られたろ物にクロロホルムを加え、再び吸引ろ過した。この操作を複数回繰り返して得られたろ液を濃縮し、展開溶媒としてジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。その結果、DTBT1を183mg、収率79%で得た。
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 8.32 (s, 1H), 8.28 (s, 1H), 7.52 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 5.2 Hz, 1H)
13C-NMR (125 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 184.68, 153.56, 143.56, 138.61, 138.43, 136.61, 128.22, 126.56, 124.13, 119.43, 118.23, 29.56
【0043】
[実施例1]DI-DTBT1の合成
【化13】
窒素雰囲気下50mL三口フラスコにDTBT1 115mg、ジエチルエーテル29mLを入れ、氷浴中で0℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム0.85mL(1.55M ヘキサン溶液)を滴下し、30分撹拌した。その後、I
2を1.11g加え、室温℃で16時間撹拌した。反応終了後、10wt%亜硫酸ナトリウム100mLを含む200mL三角フラスコに移し替え、30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物(茶色固体)を得た。その後、吸引ろ過にてDI-DTBT1(淡黄色固体)を収量170mg、収率78%で得た。
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 8.18 (s, 1H), 8.08 (s, 1H), 7.61 (s, 1H), 7.47 (s, 1H)
【0044】
[実施例2]I-C8DTBT1の合成
<工程1>C8DTBT1の合成
【化14】
窒素雰囲気下200mL三口フラスコにDTBT1 450mg、THF113mLを入れ、氷浴中で0℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム1.1mL(1.55M ヘキサン溶液)を滴下し、30分撹拌した。その後、1-ブロモオクタンを5.92mL加え、80℃で3時間撹拌した。反応終了後、精製水(450mL)を含む1L三角フラスコに移し替え、30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウム乾燥することで粗生成物(焦げ茶色固体)を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=2:1)、再結晶(ヘキサン)による精製を行うことでC8DTBT1(黄色固体)を収量384mg、収率28%で得た。
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 8.29 (s, 1H), 8.18 (s, 1H), 7.45 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.41 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.00 (s, 1H), 2.94 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 1.73-1.79 (m, 2H), 1.28-1.45 (m, 11H), 0.89 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
13C-NMR (125 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 149.56, 139.44, 137.53, 136.98, 136.33, 131.78, 130.90, 126.34, 123.62, 117.39, 117.03, 114.41, 31.86, 31.64, 31.29, 29.34, 29.23, 29.08, 22.67, 14.12
【0045】
<工程2>I-C8DTBT1の合成
【化15】
窒素雰囲気下100mL三口フラスコにC8DTBT1 100mg、ジエチルエーテル50mLを入れ,氷浴中で0℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム0.54mL(1.55M ヘキサン溶液)を滴下し、30分撹拌した。その後、I
2を0.54mg加え、室温で16時間撹拌した。反応終了後、10wt%亜硫酸ナトリウム100mLを含む1L三角フラスコに移し替え、30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウム乾燥することで粗生成物(茶色固体)を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:1)による精製を行うことでI-C8DTBT1(淡黄色固体)を収量122mg、収率90%で得た.
1H-NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 8.17 (s, 1H), 8.06 (s, 1H), 7.60 (s, 1H), 7.00 (s, 1H), 2.94 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.73-1.79 (m, 2H), 1.28-1.45 (m, 11H), 0.88 (t, J = 6.9 Hz, 3H)
【0046】
[実施例3]吸収スペクトル測定
各化合物の溶液と薄膜状態のUV-vis吸収スペクトルを、島津製作所(株)製 UV-2600iを用いて測定した。測定対象は、クロロホルムに溶解させた各化合物の8.0×10
-5M溶液、及び同化合物のドロップキャスト膜とした。その結果、誘導体化した全てのDTBTは溶液よりも薄膜状態においてDTBT1の吸収ピークより長波長化を示した(表1)。特にDI-DTBT1の長波長化の度合いが大きいことから電荷輸送に有利なJ会合体の形成が示唆される。加えて、吸収端から算出したHOMO-LUMOエネルギーギャップは、DI-DTBT1、I-C8DTBT1、C8DTBT1、DTBT1の順に大きくなっており、密度汎関数法(DFT)による計算結果を支持するものとなった。溶液、薄膜それぞれのスペクトルチャートを
図1に示す。
【0047】
【0048】
[実施例4]電気化学特定評価
各化合物について、大気中光電子分光及びサイクリックボルタンメトリー(CV)によってイオン化エネルギー(IP)と電気化学特性を調査した。測定は、ジクロロメタンにテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートを添加して調整した0.1Mの溶液(6mL)にフェロセン(2.8mg)を添加して大気下で測定した。CVによって見積もられた酸化電位は、各々0.86V、0.78V、0.82V、1.00Vと量子化学計算の傾向と一致した。CVから見積もったHOMO準位はすべて-5.0eVよりも深い値となっており、これら化合物の大気安定性と、HOMO準位への電荷注入が示唆される。また、大気中光電子分光による薄膜のIPでも全ての化合物が-5.0eVよりも深い値となり、CVの結果と同様、高い大気安定性とHOMO準位への電荷注入が示唆される。結果をまとめたものを表2に、CVの測定チャートを
図2に示す。
【0049】
【0050】
吸収スペクトル及び酸化電位より、DTBT1に比べて誘導体化した化合物の方が、分子間の強い相互作用を有する会合体を形成し、また、電気化学的に安定であることがわかる。特にDI-DTBT1では、ヨウ素原子の導入により、配向性及び安定性は明らかに向上している。
【0051】
[実施例5]単結晶X線構造解析
各化合物について、単結晶X線構造解析(Rigaku Saturn724)を行った。蒸気拡散法により作製した各化合物の結晶構造を示す(
図3)。DTBT1は層状構造を示さず、スリップ・スタックした配向を示した。C8DTBT1は軌道の重なりが小さいアンチパラレル、I-C8DTBT1はパラレル配向とアンチパラレル配向が混在した配向を示し、軌道の重なりが小さな構造となった。一方で、DI-DTBT1はディスオーダーせず、大きな軌道の重なりを持つパラレル構造を示した。特にI-C8DTBT1及びDI-DTBT1においては、
図3に示すように、これら化合物は単結晶中で分子間ヨウ素-ヨウ素相互作用を示した。ヨウ素無置換のDTBT1はアンチパラレルな配向であるから、配向におけるヨウ素原子の寄与は明らかである。
【0052】
[実施例6]半導体特性評価
半導体特性評価のため、DI-DTBT1、I-C8DTBT1、C8DTBT1、DTBT1を用いてトップコンタクト-ボトムゲート型OFET素子を作製した。トップコンタクト-ボトムゲート型OFET素子は、Si/SiO2基板をピラニア溶液(H2SO4:H2O2=4:1)溶液で酸処理の後、純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順に超音波洗浄し、100℃のオーブンで乾燥した。その後、エタノール煮沸、オゾン処理した後、ポリスチレン(PS)を溶解したm-キシレン溶液をスピンコート法によって表面処理を施した。PSを成膜した基板に対して、各化合物の0.5wt%テトラリン溶液を窒素雰囲気においてドロップキャスト法により製膜し、Au電極を真空蒸着により50nm積層した。電極作製には、チャネル長100μm、チャネル幅1500μmのマスクを使用し金を蒸着した。結果を以下の表3に示す。
【0053】
【0054】
ドロップキャスト法により作製したDTBT1、C8DTBT1の半導体素子は半導体特性を示さなかったのに対し、DI-DTBT1、I-C8DTBT1はドロップキャスト濃度0.5wt%でそれぞれμ
max=0.12cm
2/Vs、μ
max=2.5×10
-5cm
2/Vsの移動度を示し、p型半導体特性を示した。本結果は、無置換のDTBTが半導体特性を示さないことを考えると、分子両側へのヨウ素の導入がFET特性の発現及び特性向上に効果的であることが示された。濃度0.5wt%の試料における半導体特性評価のチャートを
図4に示す。左側のチャートは伝達特性、右側のチャートはゲート電圧による移動度、DI-DTBT1において中央は出力特性を、それぞれ示す。
【0055】
[実施例7]薄膜構造解析
作製した薄膜の表面を偏光顕微鏡画像及び原子間力顕微鏡画像(AFM)(Bruker社製Dimension Icon)により解析した。測定には半導体特性評価で使用したデバイスを用いた。DTBT1の偏光顕微鏡画像からは小さなグレインが確認され、金電極間に均一な薄膜が形成されていない一方で、C8DTBT1、I-C8DTBT1、DI-DTBT1は金電極間に均一な結晶性薄膜の形成が示唆された(
図5)。
AFM画像からも、DTBTの薄膜において小さなグレインの形成が推察される(
図6)。DTBT1においては、この小さなグレインにより不均一な薄膜が形成され、半導体特性が得られなかったと考えられる。対照的にC8DTBT1、I-C8DTBT1、DI-DTBT1はAFM画像からもなめらかな薄膜が形成されていることが示唆される。
【0056】
[実施例8]XRD測定
薄膜状態における分子配向性を評価するため、OFETデバイスと同様に作製した薄膜のX線回折を測定した(
図7)。
図7において各チャートは、上から順にDI-DTBT1、I-C8DTBT1、C8DTBT1、DTBT1のものを示す。DTBT1は面外方向(
図7左)及び面内方向(
図7右)ともにピークを示さず、低い配向性が示唆される。C8DTBT1、I-C8DTBT1、DI-DTBT1は面外方向で分子長に起因する回折ピーク(C8DTBT1:2θ=4.34°、d=20.4Å、I-C8DTBT1:2θ=4.24°、d=20.8Å、DI-DTBT1:2θ=5.93°、d=14.9Å)が得られ、分子がend-on配向したラメラ構造が確認された。C8DTBT1、I-C8DTBT1は単結晶X線構造解析から得られた配向を採用しておらず、面内方向からは電荷輸送に有利なヘリンボーン構造由来の回折ピークを示さなかった。一方で、DI-DTBT1は面内方向から典型的なヘリンボーン構造由来の回折ピークを示し、単結晶X線構造解析から得られた配向を採用していることが明らかとなった。これらの結果は、分子末端にヨウ素を導入することで、薄膜状態においても分子間ヨウ素-ヨウ素相互作用がパッキング構造の安定化に寄与し、電荷輸送に有利な分子配向が得られることを示唆している。
【0057】
ハロゲンを導入しないジチエノベンゾチオフェンは、溶液プロセスで作製したFETデバイスではトランジスタ特性を示さず、薄膜状態における分子配向性も低い。一方、化学修飾を施したジチエノベンゾチオフェンは種々の溶媒に対して高い溶解性を示し、ドロップキャスト法により成膜した薄膜を用いるトップコンタクト型FETデバイスはp型特性を示した。また、基板に垂直にend-on配向し、ヘリンボーン構造を形成していることが明らかになった。また、単結晶構造解析の結果、レイヤー間に明確なヨウ素-ヨウ素相互作用が確認された。分子間に大きな移動積分が得られ、ヨウ素原子間にも移動積分が確認された。以上の結果から、ヨウ素-ヨウ素相互作用が高い秩序構造に寄与していることが明らかであり、非対称構造がもたらす高い溶解性と分子配向性、三次元電荷輸送特性を兼ね備えた新規な分子設計に基づく材料群であるといえる。上記実施例ではヨウ素を用いて実証したが、ハロゲンは最外殻が同じ電子配置をとるため、電気的特性は近しいものになることが推定される。このため、ハロゲンを有する一般式(1)で表される化合物は、実施例で具体的に示したものと類似の効果を奏するであろうことが認識される。
【0058】
【0059】
[製造例2-1]3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化17】
窒素雰囲気下30mL三口フラスコに2,3-ジブロモチオフェン0.43mL(d=2.19)、THF 19mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートにn-ブチルリチウム2.86mL(1.55M ヘキサン溶液)を5分かけて滴下し、5分撹拌した。その後、3-ホルミルチエノチオフェンを0.7g加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後、精製水(20mL)を入れて撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム)による精製を行うことで3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(黄緑色粘性液体)を収量1.12g、収率81%で得た。
1H NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm)7.39-7.35 (m, 2H), 7.30 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.24 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 6.35 (s, 1H), 2.64 (s, 1H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm)140.20, 139.66, 137.00, 134.66, 130.00, 128.12, 125.85, 123.90, 119.40, 109.18, 68.03; IR (ATR): n = 3362 (C-OH), 3101 (Ar-H), 682 (C-H); HRMS (FD
+) m/z calcd. for C
11H
7Br
1O
1S
3[M
+]: 331.88201, found 331.88124.
【0060】
[製造例2-2]3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化18】
還流管を備え付けた50mL三口フラスコを窒素置換し、氷浴中で0℃とした後、ジエチルエーテル(10mL)、LiAlH
4(205mg)、塩化アルミニウム(735mg)の順に加え撹拌した。その後、ナスフラスコでジエチルエーテル(10mL)に3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを溶かし、三口フラスコに加え、室温で1時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルと精製水で分液しエバポレーターで有機成分から溶媒を除去した.ジクロロメタン:ヘキサン=1:2を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで得られた化合物を精製し、3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(淡黄色液体)を収量0.9g、収率86%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 7.35 (dd, J = 5.3 Hz, 1H), 7.24 (d, 1H), 7.19 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.12 (s, 1H), 6.97 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 4.24 (s, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 139.20, 139.16, 135.79, 131.13, 129.94, 127.32, 124.44 123.74, 119.80, 110.27, 29.53; IR (ATR): n = 3085 (Ar-H) 695, 680 (C-H).
【0061】
[製造例2-3]3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンの合成
【化19】
窒素雰囲気下、100mL三口フラスコに3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを896mg、ジエチルエーテル41mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム2.34mL(1.55Mヘキサン溶液)を滴下し、10分撹拌した。その後、N-メチルホルムアニリド(d=1.1)を0.385mL加え、-78℃で2時間撹拌した。反応終了後、10%塩酸を加えて30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム)による精製を行うことで、3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェン(黄色粘性液体)を収量675mg、収率90%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 10.11 (s, 1H), 7.45 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.36 (dd, J = 5.3, 1.6 Hz, 1H), 7.24 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.17 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.15 (s, 1H), 4.65 (s, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 184.58, 152.51, 139.47, 139.02, 137.34, 131.15, 127.89, 127.41, 124.21, 124.04, 119.91, 28.28; IR (ATR): n = 3083 (Ar-H), 1665 (C=O), 688 (C-H); HRMS (FD
+) m/z calcd. for C
12H
8O
1S
3[M
+]: 263.97373, found 263.97375.
【0062】
[製造例2-4]DTBT2の合成
【化20】
50mL三口フラスコに3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[3,2-b]チオフェンを171mgとポリリン酸17mLを入れ、80℃で1.5時間撹拌した。その後、氷水を含む500mL三角フラスコに移し替え、0℃から室温になるまで撹拌し、吸引ろ過した。得られたろ物にクロロホルムを加え、再び吸引ろ過した。この操作を複数回繰り返して得られたろ液を濃縮し、展開溶媒としてクロロホルム:ヘキサン=1:1を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。その結果、DTBT2を148mg、収率93%で得た。
mp 135℃;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 8.35 (s, 1H), 8.28 (s, 1H), 7.53 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.49 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.37 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 5.0 Hz, 1H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 140.16, 138.36, 137.36, 137.30, 133.75, 130.29, 128.13, 127.01, 123.03, 120.61, 118.32, 114.25; IR (ATR): n = 3102, 3076 (Ar-H), 709, 650 (C-H); HRMS (FD
+) m/z calcd. for C
12H
6S
3[M
+]: 245.96316, found 245.96245.
【0063】
【0064】
[製造例3-1]3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンの合成
【化22】
窒素雰囲気下50mL三口フラスコに2,3-ジブロモチオフェン1.58g(d=2.19)、THF 27mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートにn-ブチルリチウム4.22mL(1.55Mヘキサン溶液)を5分かけて滴下し、5分撹拌した。その後、2-ホルミルチエノ[2,3-b]チオフェンを1g加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後、精製水(10mL)を入れて撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(クロロホルム)による精製を行うことで3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[2,3-b]チオフェン(黄緑色粘性液体)を収量1.43g、収率72%で得た。
1H NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D)δ(ppm) 7.32 (s, 2H), 7.16 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 6.41 (s, 1H), 2.72 (d, J = 4.0 Hz, 1H); elemental analysis calcd. (%) for C
11H
6S
3O
1Br
1: C 39.88, H 2.13, found: C 39.91, H 2.19.
【0065】
[製造例3-2]3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンの合成
【化23】
還流管を備え付けた100mL三口フラスコを窒素置換し、氷浴中で0℃とした後、ジエチルエーテル(38mL)、LiAlH
4(245mg)、AlCl
3(876mg)の順に加え撹拌した。その後、ナスフラスコでジエチルエーテル(10mL)に3-[(3-ブロモ-2-チエニル)ヒドロキシメチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンを1.31g溶かし、三口フラスコに加え、室温で1時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルと精製水で分液しエバポレーターで有機成分から溶媒を除去した。ジクロロメタン:ヘキサン=2:1を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで得られた化合物を精製し,3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェン(淡黄色液体)を収量517mg、収率41%で得た。
1H NMR (500 MHz,CDCl
3) δ(ppm) 7.29 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.19 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.14 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 6.95 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 4.35 (d, J = 1.1 Hz, 2H); elemental analysis calcd. (%) for C
11H
7S
3Br: C 41.91, H 2.24, found: C 41.90, H 2.25.
【0066】
[製造例3-3]3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンの合成
【化24】
窒素雰囲気下、30mL三口フラスコに3-[(3-ブロモ-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンを140mg、ジエチルエーテル6.5mLを入れ、クーラントで-78℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム0.32mL(1.55Mヘキサン溶液)を滴下し、30分撹拌した。その後、N-メチルホルムアニリドを0.06mL加え、-78℃で2時間撹拌した。反応終了後、10%塩酸を加えて30分撹拌し、酢酸エチルを用いて分液、硫酸ナトリウムで乾燥することで粗生成物を得た。その後、カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=2:1)による精製を行うことで、3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェン(黄色粘性液体)を収量77mg、収率66%で得た。
1H NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 10.09-10.11 (1H), 7.41-7.44 (1H), 7.29-7.32 (1H), 7.16-7.19 (1H), 7.13-7.16 (1H), 7.05-7.08 (1H), 4.76-4.78 (2H)
【0067】
[製造例3-4]DTBT3の合成
【化25】
30mL三口フラスコに3-[(3-ホルミル-2-チエニル)メチル]-チエノ[2,3-b]チオフェンを290mgとポリリン酸30mLを入れ、80℃で3時間撹拌した。その後、氷水を含む1L三角フラスコに移し替え、0℃から室温になるまで撹拌し、吸引ろ過した。得られたろ物にクロロホルムを加え、再び吸引ろ過した。この操作を複数回繰り返して得られたろ液を濃縮し、展開溶媒としてクロロホルム:ヘキサン=1:1を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。その結果、DTBT3を166mg、収率67%で得た。
1H NMR (500 MHz,CDCl
3) δ(ppm) 8.35 (s, 1H), 8.29 (s, 1H), 7.59 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.43 (dd, J = 4.9, 1.4 Hz, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ(ppm) 141.5, 141.4, 137.6, 137.3, 136.9, 130.7, 127.7, 126.5, 123.8, 119.4, 116.6, 115.7; elemental analysis calcd. (%) for C
12H
6S
3: C 58.50, H 2.45, found: C 58.49, H 2.38.
【0068】
【0069】
[製造例4-1]2-(3-ブロモチエニル)-1,3-オキサレンの合成
【化27】
200mL三口フラスコに3-ブロモチオフェン-2-カルボキシアルデヒド5gとエチレングリコール7.3mL、p-トルエンスルホン酸・一水和物(100mg)、トルエン40mLを加え、Dean-Starkトラップを用いて水を取り除きながら24時間加熱還流撹拌した。その後、水を100mL加え、酢酸エチルを用いて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を除去した。その後カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)によって2-(3-ブロモチエニル)-1,3-オキサレンを6.55g、収率98%で得た。
1H NMR (500 MHz,CDCl
3) δ(ppm) 7.36 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.23 (d, J = 5.1 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 6.43 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 2.72 (d, J = 3.4 Hz, 1H)
【0070】
[製造例4-2]2-(3-ホルミルチエニル)-1,3-オキサレンの合成
【化28】
200mL三口フラスコに2-(3-ブロモチエニル)-1,3-オキサレンを1.5g入れ窒素雰囲気下とした後、ジエチルエーテル(10mL)を加えて、クーラントで-78℃とした。その後、n-ブチルリチウム3.19mL(1.55M ヘキサン溶液)を加えて、30分撹拌した。その後、N-メチルホルムアニリド0.78mLを加えて18時間室温で撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を加えた後、酢酸エチルと水を用いて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を除去した。その後カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)によって2-(3-ホルミルチエニル)-1,3-オキサレンを625mg、収率69%で得た。
1H NMR (600 MHz,CDCl
3) δ(ppm) 10.15 (s, 1H), 7.47 (d, J = 6.2 Hz, 1H), 7.27 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 6.58 (s, 1H), 4.18-4.13 (m, 2H), 4.11-4.06 (m, 2H);
13C NMR (126 MHz, CHLOROFORM-D) δ(ppm) 184.7, 151.8, 138.7, 127.7, 125.7, 98.4, 65.6; elemental analysis calcd. (%) for C
7H
8S
1O
3: C 52.16, H 4.38, found: C 51.93, H 4.28.
【0071】
[製造例4-3](3-(1,3-ジオキソラン-2-イル)チオフェン-2-イル)(チエノ[2,3-b]チオフェン-2-イル)メタノールの合成
【化29】
200mL三口フラスコにチエノ[2,3-b]チオフェン1gを入れ窒素雰囲気下とした後、ジエチルエーテル36mLを加えて、氷浴で0℃とした。その後、n-ブチルリチウム4.93mL(1.55Mヘキサン溶液)を加えて、30分撹拌した。その後、ジエチルエーテル36mLに溶解させた1.3gの2-(3-ホルミルチエニル)-1,3-オキサレンを10分間かけて滴下して12時間室温で撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を加えた後、酢酸エチルと水を用いて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を除去した。その後カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)によって(3-(1,3-ジオキソラン-2-イル)チオフェン-2-イル)(チエノ[2,3-b]チオフェン-2-イル)メタノール1.84gを淡黄色固体として得た(収率79%)。
1H NMR (500 MHz,CDCl
3) δ(ppm) 7.29 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.25 (s, 1H), 7.13 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 5.2 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 6.28 (dd, J = 5.7, 1.1 Hz, 1H), 6.25 (s, 1H), 4.16-4.09 (m, 2H), 4.06-3.99 (m, 2H), 3.34 (d, J = 5.2 Hz, 1H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ(ppm) 146.7, 146.2, 137.6, 135.6, 135.0, 129.4, 127.3, 124.7, 119.7, 117.6, 71.2, 65.5, 61.9, 29.8; HRMS (FD+): m/z calcd. for C
14H
12O
3S
3 [M+]: 323.99486; found: 323.99480.; elemental analysis calcd. (%) for C
14H
12S
3O
3: C 51.83, H 3.73, found: C 51.79, H 3.62.
【0072】
[製造例4-4]DTBT4の合成
【化30】
30mL二口フラスコに塩化トリメチルシラン500mgを入れた後、アセトニトリル10mL、ヨウ化ナトリウム693mgを加えて、氷浴で0℃とした。アセトニトリル10mLに溶解させた(3-(1,3-ジオキソラン-2-イル)チオフェン-2-イル)(チエノ[2,3-b]チオフェン-2-イル)メタノール1.31gを10分間かけて滴下して2時間0℃で撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液100mLを加えた後、酢酸エチルと水を用いて分液し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を除去した。その後カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ジクロロメタン=1:1)によって、無色固体としてDTBT4を59mg(26%)得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl
3, 25℃) δ(ppm) 8.42 (s, 1H), 8.25 (s, 1H), 7.58 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.49 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 7.44 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 5.5 Hz, 1H);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3, 25℃) δ(ppm) 141.4, 140.8, 137.8, 137.3, 137.0, 130.4, 127.6, 126.9, 123.0, 119.3, 117.6, 114.8. HRMS (FD+): m/z calcd. for C
12H
6S
3[M+]: 245.96316; found: 245.96333. elemental analysis calcd. (%) for C
12H
6S
3: C 58.50, H 2.45, found: C 58.47, H 2.45.
【0073】
[実施例9]DI-DTBT2の合成
【化31】
50mL三口フラスコにDTBT2を加え窒素雰囲気下にし、氷浴下でジエチルエーテル(25.0mL,240mmol)を加えた。n-ブチルリチウム0.787mL(1.22mmol,1.55Mヘキサン溶液)を滴下し、30分間攪拌した。その後I
2(1.03g,4.06mmol)を加え室温で20時間攪拌した。10%亜硫酸ナトリウム水溶液100mLを入れた200mL三角フラスコに反応溶液を移し替え30分間室温で攪拌し、吸引ろ過した。得られたろ物をジクロロメタン:ヘキサン=3:1を展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った後トルエンを用いた再結晶で得られた化合物を精製し、DI-DTBT2(100mg,収率49.6%,濃黄色固体)を得た。
mp 201℃ (decomp.);
1H NMR (500 MHz, CDCl
3, 21℃) δ(ppm) 8.14 (s, 1H), 8.14 (s, 1H), 7.57 (s, 1H), 7.47 (s, 1H); IR (ATR): n = 3089 (Ar-H), 846, 806 (C-H); HRMS (FD
+) m/z calcd. for C
12H
4I
2S
3[M
+]: 497.75645, found 497.75690.
【0074】
[実施例10]DI-DTBT3の合成
【化32】
窒素雰囲気下100mL三口フラスコにジエチルエーテル50mL、DTBT3 251mgを入れ、氷浴下で0℃とした後、滴下ロートでn-ブチルリチウム1.8mL(1.52Mヘキサン溶液)を5分かけて滴下し、30分攪拌した。その後、ヨウ素1.23gを加え、室温で4.5時間攪拌した。反応終了後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(250mL)中に入れ攪拌し、ジエチルエーテルを用いて分液、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し溶媒を留去した。また、水層をろ過によって淡黄色固体を得た。その後、両固体を合一しカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)を行うことで粗生成物を得た。最後に、トルエンによる再結晶を行うことで3,7-ジヨード-ジチエノ[2,3-b:3’,2’-f][1]ベンゾチエノチオフェンを収量352mg、収率74%で得た。
1H NMR (500 MHz, CHLOROFORM-D) 8.15 (s, 1H), 8.14 (s, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.62 (s, 1H);,HRMS (FD+) m/z calcd. for C
12H
4I
2S
3 [M+]: 497.75645, found 497.75635.;elemental analysis calcd. (%) for C
12H
4I
2S
3: C 28.93, H 0.81, found: C 28.99, H 0.63.
【0075】
[実施例11]DI-DTBT4の合成
【化33】
50mL三口フラスコにDTBT4(90mg,0.365mmol)を加え窒素雰囲気下にし、氷浴下でジエチルエーテル(22mL)を加えた。n-ブチルリチウム720μL(1.10mmol,1.52Mヘキサン溶液)を滴下し、30分間攪拌した。その後I
2(927mg,3.65mmol)を加え室温で16時間攪拌した。10%亜硫酸ナトリウム水溶液100mLを入れた。反応溶液を分液ロートに移してジクロロメタンで分液した。有機層を濃縮し得られた固体をカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)によって精製し、溶媒を留去し洗浄濾過(ジクロロメタン)によって化合物を精製した。DI-DTBT4(74mg,収率78%,淡黄色固体)を得た。
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ(ppm) 8.22 (s, 1H), 8.11 (s, 1H), 7.71 (s, 1H), 7.57 (s, 1H); HRMS (FD+): m/z calcd. For C
12H
4S
3I
2[M+]: 497.75645; found: 497.75650; elemental analysis calcd. (%) for C
12H
4I
2S
3: C 28.93, H 0.81, found: C 29.01, H 0.87.
【0076】
[実施例12]DTBT及びDI-DTBTの電気化学特性の比較
DTBTとDI-DTBT異性体について、CVによって電気化学特性を調査した。測定は、ジクロロメタンにテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートを添加して調整した0.1Mの溶液(6mL)にフェロセン(2.8mg)を添加して大気下で測定した。CVによって見積もられた酸化電位(V
OX
onset)は、各々+0.63V(DTBT1)、+0.62V(DTBT2)、+0.55V(DTBT3)、+0.60(DTBT4)、+0.73(DI-DTBT1)、+0.73V(DI-DTBT2)、+0.67V(DI-DTBT3)、+0.70(DI-DTBT4)であった。CVから見積もったHOMO準位はすべて-5.0eVよりも深い値となっており、これら化合物の大気安定性と、HOMO準位への電荷注入が示唆される。CVの測定チャートを
図8に示す。
【0077】
DTBT異性体とDI-DTBT異性体の紫外可視吸収スペクトルを比較したところ,DTBT1及びDTBT2においては,ほかの異性体と比較して顕著な長波長化を示した。また,溶液状態と薄膜状態のどちらにおいてもヨウ素化により長波長化が見られた。これは,電子求引性基の導入に起因した効果と考えられる。
図9、表4にそれぞれスペクトル、極大吸収波長及びエネルギーギャップの数値を示す。
【0078】
【0079】
DTBT異性体とDI-DTBT異性体の単結晶構造を比較したところ、DTBT1及びDTBT4においてはsandwich-herringboneと類似した配向を与え電荷輸送に対しては不利な分子配向性となった。DTBT2はγ-Structureを形成し1次元的電荷輸送に有利な結晶構造であった。DTBT3ではLayered-Herringbone構造が得られ2次元的な電荷輸送に優位性を示した。一方で、DI-DTBT1、DI-DTBT3、DI-DTBT4はLayered herringbone構造であるのに対してDI-DTBT2はγ-structureを形成し、電荷輸送に有利な分子配向性が得られた(
図10)。
【0080】
[実施例13]半導体特性評価によるヨウ素化の効果
半導体特性評価のため、DTBT異性体とDI-DTBT異性体の化合物についてトップコンタクト-ボトムゲート型OFET素子を作製した。トップコンタクト-ボトムゲート型OFET素子は、Si/SiO2基板をピラニア溶液(H2SO4:H2O2=4:1)溶液で酸処理の後、純水、アセトン、イソプロピルアルコールの順に超音波洗浄し、100℃のオーブンで乾燥した。その後、エタノール煮沸、オゾン処理した後、ポリスチレン(PS)を溶解したm-キシレン溶液をスピンコート法によって表面処理を施した。PSを成膜した基板に対して、各化合物のテトラリン溶液を窒素雰囲気においてドロップキャスト法又はSolution-Shearing法により製膜し、Au電極を真空蒸着により50nm積層した。電極作製には、チャネル長100μm、チャネル幅1500μmのマスクを使用し金を蒸着した。結果を以下の表5に示す。
【0081】
【0082】
DTBT異性体の中では、DTBT2のみにおいてOFET特性が発現した。また、DI-DTBT誘導体においては全てにおいてOFET特性が発現した。特に、DI-DTBT1及びDI-DTBT2ではドロップキャスト法で作成した場合においてもOFET特性を発現することができており、ドロップキャスト法で作製したOFETではDI-DTBT1において0.12cm
2/Vsの高い正孔移動度が得られている。一方でSolution-Shearing法で作製した薄膜においてはDI-DTBT1、DI-DTBT2、DI-DTBT3及びDI-DTBT4においてそれぞれ8.3×10
-3、5.1×10
-4、2.4×10
-2及び3.8×10
-5cm
2/Vsの移動度が観察された。偏光顕微鏡写真について比較するとDI-DTBT1とDI-DTBT3において均一な薄膜形成が得られていることから高い移動度につながったと考えられる。偏光顕微鏡写真を
図11に示す。
【0083】
デバイスと同様に作製した薄膜のX線回折を測定したところDTBT3及びDTBT4においてend-onとヘリンボーン構造に特徴的なプロファイルが得られた。また、両側ヨウ素体においてはDI-DTBT1、DI-DTBT3及びDI-DTBT4においてend-on配向に特徴的なピークプロファイルが確認された。特に、ヘリンボーン構造を形成する化合物においては、面外方向のピークにおける半値幅が非常に小さいことから、高い結晶性薄膜が得られていると考えられる。薄膜X線回折を
図12に示す。