(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116466
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】植込み医療装置と血管形成膜のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61D 7/00 20060101AFI20230815BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230815BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
A61D7/00 G
C12N5/071
A61L27/38
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023081563
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021540389の分割
【原出願日】2019-09-24
(31)【優先権主張番号】62/735,697
(32)【優先日】2018-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/736,244
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】521122407
【氏名又は名称】プロキオン・テクノロジーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】PROCYON TECHNOLOGIES LLC
(71)【出願人】
【識別番号】521122418
【氏名又は名称】アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・アリゾナ
【氏名又は名称原語表記】Arizona Board of Regents on Behalf of the University of Arizona
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・ケント・ノイエンフェルト
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・シー・ジョンソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単層勾配膜、例えば、非自然発生的な単層の高分子材料又は同様な材料の勾配膜を提供する。
【解決手段】植込み医療装置50、ならびにその製造及び使用のための方法が提供される。種々の実施形態において、この装置は、細胞及び治療材料を含むことができる少なくとも1つのハウジング又はポッド51と連通する中央ハブ構造52を含む。また、膜構造及びその形成方法も提供され、この膜は、本開示の装置で使用するための種々の多孔性の勾配を含み、また他の用途にも使用される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側領域及び外側領域を備え、
前記内側領域及び前記外側領域が、前記内側領域から前記外側領域に向かって孔径の勾配を有する孔を備え、
前記内側領域が約0.1ミクロンから約1.0ミクロンの孔径を有し、前記外側領域が約3.0ミクロンから約15ミクロンの孔径を有する、免疫隔離膜。
【請求項2】
高分子材料を含む、請求項1に記載の免疫隔離膜。
【請求項3】
厚さは約20ミクロン以上約150ミクロン以下である、請求項1に記載の免疫隔離膜。
【請求項4】
前記外側領域は、ランダムに分散された電気紡糸の高分子材料の繊維及び不織布の免疫適合性材料のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の免疫隔離膜。
【請求項5】
前記高分子材料はポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項2に記載の免疫隔離膜。
【請求項6】
内膜領域、外膜領域、及びその間の遷移勾配領域を含む免疫隔離膜の製造方法であって、
電界紡糸された前記内膜領域を堆積させる工程であって、前記内膜領域は、0.1ミクロンから1.0ミクロンの孔径を有する多孔質構造からなる工程と、
電気紡績された前記外膜領域を堆積させる工程であって、外膜領域は、2.0ミクロンから50.0ミクロンの間の孔径を有する多孔質構造からなる工程と、
を含み、
前記内膜領域と前記外膜領域は、領域間の積層や溶着を伴わない連続した孔径の勾配で形成されている、免疫隔離膜の製造方法。
【請求項7】
前記免疫隔離膜は高分子材料を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記高分子材料はポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
動物の組織内に移植するために、免疫隔離膜を植込み医療装置に適用する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記内膜領域と前記外膜領域の間に遷移領域を堆積させる処理をさらに含み、前記遷移領域が、約1.0ミクロンから約10.0ミクロンの間の細孔を有する多孔質構造を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
動物の皮下に埋め込むことができる植込み医療装置であって、
内部空洞を有するハブと、
前記ハブと連通する少なくとも1つのポッドであって、細胞、ガス、及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内腔と、前記内腔に隣接して外部に設けられた免疫隔離部材と、該免疫隔離部材に隣接して外部に設けられた血管形成膜とを含むポッドと、
を備え、
前記ハブと前記ポッドは、前記ハブの内部空洞と前記少なくとも1つのポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって互いに連通するように設けられている、植込み医療装置。
【請求項12】
前記ポッドは、動物から内腔への細胞の侵入を防ぐために、血管形成膜内に免疫バリアをさらに備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項13】
少なくとも1つのポッドの内部空洞が、生細胞の集団を備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項14】
前記生細胞が、膵島細胞、天然由来の初代細胞、細胞株、遺伝子操作された細胞、及び幹細胞由来の細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項13に記載の植込み医療装置。
【請求項15】
少なくとも2つのポッドを備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項16】
前記ハブはマニホールドと流体連通している、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項17】
前記ポッドはテーパ構造からなり、前記ポッドの一端が他端よりも大きな幅である、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項18】
前記ハブはポンプを備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項19】
前記ポンプは酸素ポンプを含む、請求項18に記載の植込み医療装置。
【請求項20】
前記少なくとも2つのポッドは、隣接するポッドと部分的に重なるポッドからなる、請求項15に記載の植込み医療装置。
【請求項21】
前記ハブ及び前記ポッドの少なくとも一方は電子装置を含む、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項22】
前記ハブ及び前記ポッドは、少なくとも1つのエネルギー貯蔵庫及び電源を備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項23】
前記ポッドはセンサを備える、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項24】
少なくとも1つの追加の装置と電子通信する、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項25】
前記ポッドは2つのポートを備え、前記2つのポートのそれぞれがハブと連通している、請求項11に記載の植込み医療装置。
【請求項26】
動物に皮下移植するために動作可能な植込み医療装置であって、
内部空洞を有するハブと、
前記ハブと連通する少なくとも1つのポッドであって、細胞、ガス及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内部空隙と、前記内部空隙に隣接して外部に設けた免疫隔離部材と、前記免疫隔離部材に隣接して外部に設けた血管形成膜とを有するポッドと、
を備え、
前記血管形成膜は内側領域と外側領域からなり、前記内側領域と前記外側領域がそれぞれ細孔からなり、前記内側領域から前記外側領域に向かって孔径の勾配が設けられ、
前記内側領域の孔径が約0.1ミクロン以上約2.0ミクロン以下であり、前記外側領域の孔径が約2.0ミクロン以上約20ミクロン以下であり、
前記ハブと前記ポッドは、前記ハブの内部空洞と前記少なくとも1つのポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって、互いに連通するように設けられている、植込み医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、植込み医療装置のための膜コーティング、膜コーティングされた少なくとも1つの表面を有する植込み医療装置、及び医療移植装置の一部での線維性被覆及び血管構造の形成を阻害するための方法に関する。本開示の実施形態はまた、宿主への血管形成を促進する植込み装置、及び被包性の生細胞を提供する免疫隔離された装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外部血管形成膜と内部同種細胞保護膜を備えた、細胞内科治療を行うための免疫隔離装置は、比較的困難で労働集約的な工程で製造されている。一般に、外部血管形成膜は、細胞が膜材料を通過できるように十分に開放された三次元構造を有する。これは通常、生体高分子が膜を自由に拡散できるが、患者の細胞が膜を通過するのを防ぐのに十分な大きさの孔を持つ内部免疫隔離膜に積層又はその他の方法で貼り付けられている。これらの膜は通常、別々に製造され、貼り合わされた後、組立工程の一部として植込み医療装置に貼り付けられる。このような膜を貼り合わせる工程は、時間がかかる上、困難であり、膜の剥離、層間剥離、分解などの問題が発生する。このような剥離や層間剥離が発生すると、移植周囲の組織は、局所的な線維化領域を形成することによって、移植された医療装置に反応する虞がある。移植装置が治療製品を生産する生細胞を含んでいる場合、局所的な線維化は、封入された細胞の機能障害や、場合によってはそれらの細胞の死をもたらす環境につながる虞がある。したがって、外部血管形成膜と、装置から剥離したり剥がれたりすることのない内側の高密度な免疫隔離層とを組み合わせて形成する手段があれば、より安定した予測可能な機能を持つ移植を開発することができる。
【0003】
植込み医療装置には、多層・積層の膜構造に伴う制限やその他の制限を克服するコーティングや膜が必要とされている。
【0004】
I型及びII型糖尿病の患者数は、世界人口の約4.6%と推定される。糖尿病の治療法としては、膵臓移植や膵島移植が公知である。しかしながら、ヒトの膵臓や膵島が不足しているため、移植により恩恵を受けられる患者の数が限られている。近年、ヒトの幹細胞からインスリンを分泌する細胞が開発され、インスリン依存性糖尿病患者への移植治療の可能性が出てきた。しかし、このような細胞は、免疫抑制剤を生涯にわたって投与しなければ、患者の免疫システムによって拒絶される虞がある。代わりに、インスリン分泌細胞に免疫隔離用の移植装置を設けて糖尿病患者に装着することで、インスリンの供給源として機能させることもできる。
【0005】
このため、ポート型の免疫隔離された移植装置において、膵島細胞や膵島前駆細胞の生存率を向上させるための研究が行われている。
【0006】
膵島移植のプロトコルが確立されて以来、臨床的な膵島移植はI型糖尿病患者の治療法として評価されてきた。しかしながら、移植された膵島細胞の生着率が低いことが、長期的に血糖値を調整できない大きな原因となっている。移植では、移植後数日以内に血行再建と血流調整を行い、膵島細胞を正常に生着させることが必要である。しかしながら、移植された膵島細胞は、血管密度が低く、酸素不足の状態にさらされるため、膵島細胞を正常に生着させ、患者のインスリン分泌を調整できるようにするのは困難である。
【0007】
現在、生体内で免疫隔離装置を含む生細胞を効果的に移植するための手段や材料は限られている。被包性細胞への十分な酸素の供給、被包性細胞への十分な栄養の供給、移植された装置の不十分な血管形成、移植物への免疫反応に関連する制限は、細胞を含む植込み装置を使用する障害となっている。
【発明の概要】
【0008】
本開示の実施形態は、単層勾配膜、例えば、非自然発生的な単層の高分子材料又は同様な材料の勾配膜を提供する。単層勾配膜は、材料密度とミクロンサイズの孔径とが徐々に変化する勾配を有する。この単層勾配膜は、厚さ全体に亘って連続的に可変で異なる孔径を有することを特徴とする(
図1a)。
【0009】
本明細書では、「勾配」及び「勾配膜」という用語は、徐々に変化する孔径からなる内部構造を有する高分子材料又は同様な材料の膜に関するものである。勾配膜の徐々に変化する孔径は、ミクロンサイズである。本明細書では、「ミクロン」という用語はマイクロメートルを指す。
【0010】
本開示の単成分膜(すなわち、非積層構造の単層膜)は、緊密すなわち高密度の(相対的に小さな孔径を有する)絡み合い構造領域から、より開放すなわちルーズな(相対的に大きな孔径を有する)絡み合い繊維の網状組織へと孔径が徐々に変化する連続的な勾配を有することを特徴とする。膜の内側の構造/表面から外側の構造/表面へと進むと、より開放的な構造/構成へと勾配が明確に変化する。同様に、孔は、膜の外表面に向かって、一方の表面(内表面など)で約0.1から約1.0ミクロンなど、小さいものから大きいものへと徐々に変化し、単層成分膜を介して、約2.0から約100ミクロン(一部の実施形態では、約5から約15ミクロン)の孔径の勾配を備えた膜領域を有する。
【0011】
当業者であれば、本明細書で使用する「孔径」という用語を容易に理解できるであろう。さらに、当業者であれば、孔径を測定及び評価するための異なる方法及び装置を理解及び認識するであろう。いくつかの実施形態では、本開示の実施形態の孔径は、バブルポイント試験法又は走査型電子顕微鏡の使用によって評価、測定及び/又は確認される。
【0012】
本開示の単層勾配膜は、植込み医療装置のために当業者が適切と考えるものを含む種々の材料を備える。例えば、本開示の膜は、高分子材料から作製することが考えられる。そのような実施形態では、単層勾配膜は、ポリスルホン、ポリアリルエーテルスルホン(PAES)、ポリエーテルスルホン(PES)、セルロースエステル(セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート)、ナノセルロース、再生セルロース(RC)、シリコン、ポリアミド(ナイロン)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドウレア、ポリカーボネート、セラミック、酸化チタン、酸化アルミニウム、シリコン、ゼオライト(アルミノシリケート)、ポリアリロニトリル(PAN)、ポリエチレン(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリピペラジンアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン、及びそれらの任意の複合体又は混合物のような高分子材料から作製される。特定の実施形態では、単層勾配膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む高分子材料からなる。特定の好ましい実施形態では、PTFEは、本開示の装置の少なくとも血管形成層に設けられている。PTFEに加えて、又はPTFEの代わりに、追加の材料を本開示の膜及び移植に提供することが考えられる。
【0013】
いくつかの実施形態では、勾配膜は、植込み医療装置の表面などに直接適用される電界紡糸PTFE膜などの電界紡糸高分子膜を備える。本開示の植込み医療装置は、生細胞の内部チャンバを含むものとして考えられている。単層勾配膜は、適切な勾配の孔径により、免疫攻撃から細胞を保護すると同時に、収容された生細胞に栄養分/酸素を流動させることができるので、生細胞が収容される可能性のある植込み医療装置の内部チャンバに保護層/フィルムを提供するための別の組立処理は必要としない。また、本開示の単層勾配膜は、単層膜の他方の表面(例えば、外面)に延びる膜領域内でわずかに大きい孔径を設けることにより、宿主に植込み医療装置の外面を血管化するのに適した表面を提供する。
【0014】
種々の実施形態において、単層の勾配膜は、相反転法、界面重合法、溶液コーティング法及び/又は相堆積法で形成される。これらの工程及び他の工程は、Baker(Baker, R. Membrane Technology and applications. John Wiley & Sons, 2004)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
種々の実施形態では、電界紡糸は、単層の膜構造で密度が変化し、画定された繊維状マットの製造を制御する工程として提供される。
【0016】
本開示の一態様は、2層膜構造を有する先行製造技術の剥離問題を解消する材料及び工程を提供することである。さらに、単層勾配膜を作製する方法は、2つの別々に作製された膜の間に別の被覆及び/又は融合工程を必要とする、例えば、米国特許第6060640号に記載され、全体を参照として組み込まれる他の2つの処理工程よりも好ましい。
【0017】
種々の実施形態では、勾配構造を有する単層膜材料が使用された少なくとも1つの表面を含む植込み医療装置が提供される。表面は、生細胞(例えば、幹細胞)からなる内腔を有する植込み装置など、植込み医療装置の表面を構成するものとして考えられている。単層膜の勾配孔径は、生体内環境における栄養分などの所望の分子が膜を通過し、植込み医療装置の内腔に封入された生細胞に移動することを可能にする。また、単層勾配膜は、植込み医療装置の内腔に含まれる治療用製品/試薬などの分子を、植込み医療装置の内腔から外に出すことも可能にする。このようにして、勾配のある単層膜は、植込み医療装置が治療製品/試薬を植込み医療装置から放出し、患者の吸収に利用できるように作用することを可能にする。
【0018】
種々の実施形態において、膜は、植込み医療装置の任意の又は全ての表面コーティングとして採用されている。移植装置のいくつかの表面は膜を含まない場合がある。例えば、線維性腫瘤があまり形成されていない表面は、膜がないものとして考えられている。膜が存在しない追加の表面としては、例えば、移植用医療装置のアクセスポートの音波溶接接合部の表面が挙げられる。
【0019】
一実施形態では、全体的な線維化を低減するための単層勾配膜は、約0.1から約100ミクロン(又は、約0.1又は約5ミクロンから約15ミクロン)のサイズを有する細孔からなる。いくつかの実施形態では、生体細胞を含む内腔を備える植込み医療が提供される。単層勾配膜は、(収容された膵島細胞によって産生されるインスリンなどの)分子が(独自のチャンバ内張りを有する)内腔チャンバから出て、植込み医療装置から体内に出る際、その通過を妨げない孔径である。この点において、膜は、植込み医療装置からの分子の迅速な拡散が可能となるように十分に薄い。別の例として、単層勾配膜は、複数部品を植込み医療装置部品の一部の表面に設けられ、他の表面には設けられていない。
【0020】
特定の実施形態では、高分子材料からなる膜などの単層勾配膜を有する表面を含む移植システムが提供される。例えば、高分子材料は、PTFEとすることが考えられ、PTFE膜は孔径の勾配を持っている。この単層のPTFE勾配膜は、植込み医療装置システムの外表面に設けられる。PTFE勾配膜の外面(宿主血管系の界面)は、(1ミクロン以上約15ミクロン以下の)細胞の侵入を可能にする。PTFE勾配膜は、植込み医療装置の細胞含有内室への細胞の侵入を禁止するような適切なサイズ(約0.1ミクロン以上約1ミクロン以下)まで相対的な孔径を漸減させる。PTFE勾配膜の孔径は、移植された細胞に対して植込み医療装置を免疫隔離する。
【0021】
さらなる実施形態では、上述したような免疫隔離と血管形成の特徴を組み合わせた電界紡糸PTFE勾配膜を有する表面を備える移植システムが提供される。電界紡糸PTFE多エレメント層は、繊維芽細胞層の形成を阻害するのに十分な大きさの、比較的大きな繊維を備える。この特徴は、直径が約25ミクロン以上約200ミクロン以下の太い繊維を形成するための複数の繊維からなる最終的な外側の勾配層の形態とすることができる。このような太い繊維を勾配膜の外面にランダムに配向することで、この層は、融合線維性層を形成することから線維芽細胞を抑制する表面として機能する。
【0022】
別の態様では、生細胞の免疫隔離チャンバを備える植込み医療装置を生産するための製造工程及び/又は方法が提供される。一実施形態では、この方法は、電界紡糸PTFE単層勾配膜などの単層勾配膜を、植込み医療装置の表面に採用する一連の工程を備える。またこの方法は、単一の電界紡糸堆積工程を提供することもできる。この工程では、PTFEなどの材料が表面上に押し出される。それは、勾配孔膜の表面にランダムに配向された大径(約25ミクロンから約200ミクロン)の繊維を形成する勾配膜に改変を加えるような方法である。勾配膜は、次第に密度が低下し、従ってより大きな孔径の単層膜内の領域を形成し、植込み医療装置/組織界面に近い宿主組織領域内の線維芽細胞の緊密層の形成を防ぐのを補助する。
図2Aは、血管形成を誘導する大きな孔の表面を上に向けた勾配膜を示す。10ミクロンから15ミクロンの孔の表面には、緊密な血管構造が形成されるが、線維芽細胞層の領域は、発達する血管化された界面に形成することができる。
図2Bは、勾配膜の表面に大径繊維のランダムな網状組織が固定されている様子を示す。これらの繊維は、形成され始めた密着した線維芽細胞の層を破壊する役割を果たし、さらに追加の血管構造を形成することができる。この繊維は、ポリエステルなどの不織布メッシュであってもよいし、比較的大きな直径の繊維を形成するために互いに平行に配置された電界紡糸PTFE繊維で形成してもよい。このような繊維は、ランダムな繊維の独立した網状組織として形成してから、勾配膜に適用することもできるし、電界紡糸勾配膜の場合は、勾配膜の厚さに到達した時点で、電界紡糸工程をプログラムして、繊維を敷設する別のモードに切り替えることもできる。電界紡糸の新しいモードでは、勾配膜の表面に、勾配膜と連続した、又は勾配膜と非連続の比較的大きな繊維が形成される。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、2つの別個の構成エレメントの膜層を一緒にシールするための組立処理を必要としないという利点がある。先行する構造体では、種々の孔径を有する膜コーティングを製造するために、この種の別の処理を必要としていた。本発明の単層勾配膜には、孔径の異なる領域を分離する膜内の明確な区分け領域がない。
【0024】
本開示の種々の実施形態では、本開示の膜を植込み装置に提供することが考えられている。膜の外側膜領域はさらに、膜の外側に最も近い表面を有するものとして形成してもよく、いくつかの実施形態では、植込み医療装置の表面に設けたとき、動物又はヒトの生体内環境と調和することが期待される。膜の内側の膜領域は、さらに、膜の内部に最も近い表面を有するものと定義され、いくつかの実施形態では、植込み医療装置の表面又は内腔と調和する。このような内腔は、生細胞又は治療剤を含むように設計される。本開示のいくつかの実施形態では、内膜領域と外膜領域との間に移行段階膜領域が存在する。
【0025】
いくつかの実施形態では、内膜領域は、約0.1から約1ミクロンの孔径の勾配など、比較的小さい孔径の勾配を有することを特徴とする。いくつかの実施形態では、外膜領域は、約2ミクロンから約100ミクロン(又は約5から約15ミクロン)の勾配など、比較的大きな孔径の勾配を有することを特徴とする。この実施形態では、内膜領域と外膜領域の間の移行勾配膜領域は、内膜領域に最も近い界面で約1ミクロン、外膜領域に最も近い界面で約5ミクロンの間の孔径の緩やかな勾配を有するという特徴がある。
【0026】
いくつかの実施形態では、上述した外膜領域との界面に最も近い領域で約15から約50ミクロンの孔径を有する勾配膜領域をさらに備えるか、代わりに約190ミクロンまでの勾配孔径を有する単層電界紡糸勾配膜を備える。
【0027】
いくつかの実施形態では、膜はさらに、単層免疫分離電界紡糸PTFE勾配膜として形成され、単層膜は、単層内に勾配のある個々の膜領域を含み、1つの膜領域は、約0.1から約1ミクロンの目盛り付き孔径を有し、その間の移行膜領域は、約2ミクロンから約100ミクロン(又は約15ミクロン)の目盛り付き孔径を有する。約0.1から約1ミクロンの段階的な孔径を有する膜領域と、約2ミクロンから約100ミクロン(又は約15ミクロン)の孔径を有する膜領域と、その間の約5ミクロンから約50ミクロン(又はこれに代えて約5ミクロンから約15ミクロン)の勾配孔径を有する移行膜領域とを含む。
【0028】
単層膜は、織布層又は不織布層からなる外層をさらに含むように構成することができる。外層は、単層勾配膜に取り付けられていても、取り付けられていなくてもよい。外層は、ポリエステル繊維の不織布メッシュ、又は不織布メッシュを構成するより太い繊維を備えてもよい。外層は、約200ミクロン以上の孔径を備える。いくつかの実施形態では、外層は、PTFEなどの電気紡績高分子材料のランダムに分散された繊維、又はポリエステルなどの不織布の免疫適合性材料を備える。
【0029】
別の実施形態では、本明細書に記載の単層免疫隔離電界紡糸勾配膜を有する表面を備える免疫隔離移植医療装置が提供される。この単層免疫隔離電界紡糸勾配膜は、電界紡糸PTFEを備えてもよく、勾配孔径を有する内膜領域及び外膜領域を備える。膜領域は、例えば、約0.1から約1ミクロンの範囲の勾配孔径を有する第1最内PTFE膜領域、約5ミクロンから約50ミクロン(又は約5から約15ミクロン)の範囲の孔径を有する外側勾配PTFE膜領域、及び約1ミクロンから約15(又は10)ミクロンの段階的な勾配孔径を有する遷移領域を備えてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、内腔を備え、この内腔が生細胞の母集団又は治療剤を備える免疫隔離植込み医療装置が提供される。例として、生細胞は、膵島細胞などのヒト細胞、天然由来の初代細胞、細胞株、遺伝子操作された細胞、幹細胞由来の細胞、又はそれらの組み合わせを備えてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、単層勾配膜が植込み医療装置の表面全体に設けられている。
【0032】
さらに別の実施形態では、高分子材料を備える単層免疫隔離電界紡糸勾配膜の製造方法が提供される。この単層免疫隔離電界紡糸勾配膜は、電界紡糸工程によって単層で製造された勾配孔径を有する膜領域を備え、孔径が増大する連続的かつ段階的な勾配を形成するように、異なる孔径の複数の勾配膜領域を有する単層膜が形成される。一実施形態では、単層膜は、約0.1から約1ミクロンの勾配の孔径を有する内膜領域、約5ミクロンから約50ミクロン(又は約5ミクロンから約15ミクロン)の勾配の孔径を有する外膜領域、及びその間に約5ミクロンから約40ミクロン(又は約5ミクロンから約10ミクロン)の勾配の孔径を有する遷移膜領域を有する。
【0033】
単層免疫分離電界紡糸勾配膜は、比較的薄い厚さであるのが好ましい。いくつかの実施形態では、単層勾配膜の厚さは、約20ミクロンから150ミクロンの間、又は20ミクロンから150ミクロンの間の任意のサブレンジである。単層免疫隔離電界紡糸勾配膜は、種々の勾配の内膜領域と外膜領域との間、又は遷移膜領域との界面に、急激な境界線を備えていない。単層勾配膜構造の孔径の連続的な勾配は、より優れた均一な拡散特性を示し、単層勾配膜を含む植込み医療装置の内腔内に含まれる治療剤及び化合物のより予測可能で安定した放出を容易にする。このような特徴は、大きな利点をもたらし、米国特許第6060640号に記載されているような先行する植込み構造に関連する問題を回避する。
【0034】
種々の実施形態において、本開示は、多数の改善された特性及び特徴を有する植込み装置を提供する。いくつかの実施形態では、宿主動物による血管形成に利用可能な表面積の最大化を容易にする独自の構成を有する植込み装置が提供される。移植装置の構成は、いくつかの実施形態では、1又は複数の個別エレメント部材と、ハブ及び/又はマニホールドとを備える多エレメント構造からなり、個別エレメント部材は、ハブ及び/又はマニホールドと連通している。これに関連して、装置の複数の個別エレメント部材が、ハブやマニホールドなどの装置の少なくとも1つの共通部品と連通可能とする手段が設けられている。このように、各エレメント部材が内腔を備える場合、各エレメント部材の内腔とハブ及び/又はマニホールドへのアクセスが提供される。
【0035】
本開示の移植装置は固有の構成を備え、患者の手術部位の単位面積当たりの装置の数を最適化する方法で移植することができる。植込み装置の構成は、切れ味の悪い組織の切開によって形成された手術挿入部位を厳密に模倣するなど、患者に挿入される特定の手術部位の形状及びサイズに最適化することができる。また、植込み装置の各エレメント部材の設計は、エレメント部材の内腔領域へのアクセスを強化し、宿主に送達するのに適した治療薬などの目的物質の添加、又は代わりに、内腔への生細胞集団の装填に装置を容易に利用できるようにしている。
【0036】
種々の実施形態において、本開示の植込み装置は、1以上のエレメント部材(すなわち、免疫隔離装置)から装置のハブに連通させる手段を有するマニホールドを備える。マニホールドとエレメント部材との間の連通手段は、酸素、治療剤、栄養剤、電気信号、電力、又はそれらの複数の組み合わせをエレメント部材に選択的に転送するように実装してもよい。特定の実施形態では、マニホールドからエレメント部材(複数可)への連通手段は、具体的にはエレメント部材の内腔に気体又は液体を供給するためのチューブ又はカテーテルを備える。この接続用連通手段は、電気信号又は電力を伝達するために電気ワイヤ又は回路導線を接続するため、又は、材料の組み合わせをエレメント部材の内腔に送達するために、移植装置の一部として利用してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、移植のハブすなわち中央部は、移植装置が酸素発生器、治療剤又は栄養剤のポンプ、リザーバ、電子装置、電源、又はそれらの組み合わせを収容し、マニホールドを介してエレメント部材に連通するための部品を備える。
【0038】
ある実施形態の移植装置のマニホールドとハブは、装置に多くの明確な機能を付与するものである。例えば、マニホールドは、エレメント部材(免疫隔離装置)とハブとの間を連通する経路を提供する。いくつかの実施形態では、ハブは、移植装置の機能エレメントが収容される構造を提供する。いくつかの実施形態では、移植装置はマニホールドとハブの両方を備え、マニホールドはハブと連通している。また、エレメント部材が、例えば、マニホールドとエレメント部材の内腔との間の1以上の接続手段を介して、1以上のハブ及び(又は1以上の)マニホールドと連通する移植装置の構成が提供されている。いくつかの実施形態では、移植装置は、複数のアクセスポート及び内腔を有するエレメント部材を備える。
【0039】
いくつかの実施形態では、ハブ及び/又はマニホールドは、血管形成材料からなる表面を備える。例えば、このような血管形成材料は、免疫隔離膜、例えば、公称孔径5ミクロンの拡張PTFE膜を備えてもよい。この膜は、移植装置が動物の皮下に提供されると、宿主の炎症反応を軽減する役割を果たす。
【0040】
現在開示されている免疫隔離移植装置の利点は、宿主による血管形成に利用可能な装置の表面積を最大化することである。特に、免疫隔離装置を構成する植込み装置又はその一部は、移植されたときに宿主によって血管が形成される可能性のある表面領域を有する。この構造は、動物における装置全体の血管形成を最大化する。本開示の植込み装置は、少なくとも1つのマニホールド及びハブを備える。マニホールドは、1又は複数のポッド部材と連通する。ポッド部材は、連通経路を提供する少なくとも1つの内腔を備える。いくつかの実施形態では、各内腔は、内部に少なくとも1つの異なるチャンバを備える。
【0041】
いくつかの実施形態では、本開示のポッドエレメントは、(i)マニホールドと連通する複数の移植装置の重なりを最小限にするために近位端で先細りになっていること、(ii)移植時にポッドエレメントの少なくとも1つの横断面(及びその中に含まれる内腔)が一端で先細りになり、内腔を有する複数のポッドエレメントを、体内宿主環境と接触するように単一の手術部位で移植可能にすること、(iii)任意の隣接するポッド部材からの距離を最小化するために一端がテーパ状になっていること、(iv)移植手術で一般的な切れ味の悪い外科器具によって生成されるのと同様な全体形状を有するように形成されていること、(v)マニホールドと、ポッド部材又は単一の手術部位に移植された2以上のポッド部材との間のアクセス及び/又は通信を確立するために提供される連通手段(チューブ又はカテーテルなど)の長さを最適化及び最小化するように形成されていること、を特徴とする。
【0042】
複数部品の植込み装置はさらに、免疫隔離装置として記載してもよい。いくつかの実施形態では、各ポッド部材は、ポッドの少なくとも1つの内腔と連通する少なくとも1つのアクセスポートを有するテーパ状の端部を備える。このテーパは、複数の装置を、(i)1つずつ積み重ねる構成、(ii)端から端まで扇状に並べる構成、(iii)上下の一部を宿主の生体内環境に露出させるように重ねる構成によって移植することを可能にする。各ポッド部材の少なくとも1つの近位ポートは、内腔にマニホールドをアクセスさせるようにマニホールドと連通してもよい。他のポートは、免疫隔離装置の各エレメント部材に配置することができる。これらの追加のポートは、ポッド部材の内腔への追加のアクセスを容易にするために使用してもよい。各ポッド部材及びその内腔には、特定量の所望の細胞又は治療剤が充填されている。所望の細胞集団は、例えば、治療剤を分泌するように設計された細胞を備えてもよい。例えば、細胞は、宿主循環のグルコースレベルに応じて、内腔膜を介して宿主の生体内環境にインスリンを分泌することができる膵島細胞に濃縮された細胞集団を備えてもよい。これに代えて、チャンバは空の状態であってもよく、薬剤は、複数の付属チャンバに分配するためにハブに注入すなわち送液により導入してもよい。
【0043】
種々の実施形態において、本開示の免疫隔離装置の1又は複数のポッド部材は、ハブ及びマニホールドと連通するように設けた電気化学センサ又は光学センサを備える。電気配線、ポンプ、及びその他の機能を含むがこれらに限定されないマニホールドの連通手段は、電力、プレパルス信号、測定信号、及び/又は酸素をセンサとの間で伝送するように動作可能である。プレパルス信号は、少なくとも電気化学センサを備える実施形態では、測定を開始するためのものとして考えられている。1以上のポッド部材と多孔質膜を含む本開示の装置は、装置表面に隣接する血管構造からカプセル化されたセンサに流体又は薬剤を搬送する手段を提供する。
【0044】
これに代えて、本開示の1又は複数の内腔は、1又は複数の治療剤を宿主に分散させるように動作可能である。例えば、ポッドの内腔には、活性生物学的薬剤、インスリン、第VIII因子、第IX因子、HGHホルモン、又はタンパク質などの活性剤を、マニホールドを介してハブから供給してもよい。その後、活性剤は、移植装置のポッドの内腔を介して放出され、移植装置の周囲に形成された血管構造を介して迅速に分散される。
【0045】
また、上記の方法と、ポッドのポートの相互接続とにより、ヒトなどの動物の軟部組織に移植された免疫隔離装置は、利用可能な装置のポッドのポートの1以上を介して、他の移植免疫隔離装置、装置マニホールド、カテーテル、又は他の所望材料と連通するように構成してもよい。
【0046】
一実施形態では、内側領域と外側領域を備えた免疫隔離膜が提供される。内側領域と外側領域は、内側領域から外側領域に向かって勾配を持つ孔径の孔をそれぞれ備える。内側領域は、約0.1ミクロンから約1.0ミクロンの孔径からなり、外側領域は、約3.0ミクロンから約15ミクロンの孔径からなる。
【0047】
種々の実施形態では、膜及び装置を形成及び製造する方法が提供される。一実施形態では、内膜領域、外膜領域、及びその間の遷移勾配領域を含む免疫隔離膜の製造方法が提供されている。この方法は、前記内膜領域が、0.1ミクロンから1.0ミクロンの間の孔径を有する多孔質構造を備えた電界紡糸内膜領域を堆積させる処理と、前記外膜領域が、2.0ミクロンから50.0ミクロンの間の孔径を有する多孔質構造を備えた電界紡糸外膜領域を堆積させる処理と、を含み、前記内膜領域及び前記外膜領域は、領域間の被覆又は溶接を含まない連続的な孔径勾配で形成されている。
【0048】
一実施形態では、内部空洞を含むハブと、ハブと連通する少なくとも1つのポッドとを備える、動物の皮下への植込み医療装置が提供されている。前記ポッドは、細胞、ガス、及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内腔を備える。内腔に隣接する外側に免疫隔離部材が設けられている。免疫隔離部材の外側に隣接して血管形成膜が設けられている。ハブとポッドは、ハブの内部空洞と少なくとも1つのポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって互いに連通している。
【0049】
一実施形態では、動物に皮下移植するために操作可能な植込み医療装置が提供される。この装置は、内部空洞を有するハブと、ハブと連通する少なくとも1つのポッドとを備える。ポッドは、細胞、ガス、及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内腔を備える。免疫隔離部材は、内腔の外部に隣接して設けられ、血管形成膜は、免疫隔離部材の外部に隣接して設けられている。血管形成膜は、内側領域と外側領域を備える。内側領域と外側領域はそれぞれ細孔を備える。内側領域から外側領域に向かって孔径が勾配している。内側領域は、約0.1ミクロンから約2.0ミクロンの孔径を備え、外側領域は、約2.0ミクロンから約20ミクロンの孔径を備える。ハブとポッドは、ハブの内部空洞とポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって互いに連通するように設けられている。
【0050】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されている全ての技術的及び/又は科学的な用語は、本発明が関連する技術分野の通常の技術者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと同様又は同等の方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を以下に記載する。さらに、材料、方法、及び例は例示に過ぎず、必ずしも限定的であることを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1A】本開示の一実施形態に係る電界紡糸膜構造体の正面図である。
【
図1B】先行技術に係る積層膜構造体の正面図である。
【
図2A】本開示の一実施形態に係る電界紡糸膜の斜視図である。
【
図2B】本開示の一実施形態に係る電界紡糸膜の斜視図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る植込み可能な免疫隔離装置の構成エレメントの平面図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る植込み可能な免疫隔離装置の構成エレメントの平面図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る植込み装置の部品の断面図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る植込み可能な装置の部品の正面断面図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る植込み可能な装置の平面図である。
【
図8】
図7の実施形態に係る植込み装置の側面図である。
【
図9】
図7の実施形態に係る植込み装置の斜視図である。
【
図10】
図7に於ける植込み装置の構成エレメントの正面断面図である。
【
図11】患者に移植された本開示の一実施形態に係る植込み装置の正面図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る移植の部分詳細断面図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係る移植の部分詳細断面図である。
【
図14】本開示の一実施形態に係る移植の部分詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
単数形で記載されたエレメントは、文脈上明らかに1つだけのエレメントであることが要求されない限り、複数のエレメントが存在する可能性を排除するものではない。単数形での記載は、少なくとも1つであることを意味する。
【0053】
本明細書では、「約」とは、濃度、長さ、分子量、pH、配列の同一性、時間、温度、体積などの値が、統計的に意味のある範囲内にあることを意味する。このような値や範囲は、一桁以内、一般的には20%以内、より一般的には10%以内、さらに一般的には5%以内とすることができる。「約」に包含される許容変動は、研究中の特定のシステムに依存し、当業者であれば容易に理解することができる。
【0054】
図1Aは、電界紡糸PTFE膜2の正面図である。膜2は、ある実施形態で、生細胞を保持すべく、チャンバに内腔を設けるために使用することが考えられている。膜2の最外層すなわち領域4は、ランダムに配置された複数の高分子繊維からなり、約5から50ミクロンオーダーの比較的大きな細孔空間を形成する。いくつかの実施形態では、膜の外側領域4、又はその近辺の孔のサイズは約15ミクロンである。膜構造体2の最も内側の表面6は、約0.1から1.0ミクロンの孔径を有する複数の緊密に織られたPTFE繊維からなる。最も内側の領域6と最も外側の領域4との間には孔径の勾配が存在し、最も内側の領域から最も外側の領域へと移動する際に密度が徐々に減少する。
図1Aの膜2は、孔径の勾配を有する単層エレメントからなり、膜2の一部6は、免疫保護領域として作動可能であり、膜2の外側部4は、血管形成構造として作動可能である。
【0055】
図1Bは、2つの異なる層12、14からなる非勾配膜10を示す。第1層12は、全体に約0.1から1ミクロンの小さな孔を有する膜からなり、免疫保護層として機能するように動作可能である。第2層14は、約5.0から約10.0ミクロンの細孔を有する材料の外膜からなり、血管形成層として機能するように動作可能である。
図1Bは、2つの異なる孔径の2つの層から構成される公知の膜構造を示す。層12,14は、互いに積層、接着、又はその他の方法で接続されている。
【0056】
一般に、生細胞のチャンバを搬送するのに適した植込み免疫隔離医療装置は、血管形成膜で構成され、別々に作られた2つの層を使用して組み立てた後、一体的に接合される(
図1B)。
図1Aの膜2を含む本開示の実施形態は、高分子材料を電界紡糸して、ランダムに積層された繊維8のマットにすることによって製造された勾配膜2を提供する。製造の初期段階では、繊維8は、紡糸口金(図示しないシリンジ又はノズル)から出た後、収集され、高電圧下で収集器に導かれ、そこで緊密なマット状構造が形成されるように、非常に近い間隔で積み重ねられて互いに交差する。これにより、免疫系の細胞が膜構造の第1領域6を通過しないような小さな孔の層が生成される。連続して繊維を射出する装置は、重なり合ってランダムに組織化された密度の低い一連の繊維8を徐々に堆積させるようにプログラムされて操作可能であるため、繊維間の有効な孔のサイズが開き始め、より大きな孔が形成される。この工程は、所望の厚さのマット状繊維になるまで続けられ、公称孔径は約10ミクロンから約15ミクロンとなる。
図1Aは、膜2の底部領域6での緊密なマット構造と、上面4で到達した約10ミクロンから約15ミクロンの最終的に大きな孔を有する、より開放的な勾配構造を示す。
【0057】
対照的に、
図1Bは、2つの別個の膜12、14を積層して複合体10を生成することによって形成される公知の構造を示す。下膜12は、膜の中を細胞が通過するのを防ぐ細孔の密構造を備える。上層14は、密な下層まで細胞の通過を可能にする開放構造を備える。この2つの膜は、接着剤によって、あるいは膜の焼結によって貼り合わされる。それにも拘わらず、この構造は剥がれたり剥離したりしやすいため、積層膜の機能に悪影響を及ぼす。2つの層12、14が接合されている部分には、急激な遷移領域が形成されている。これらの2つの層は、外側層14(血管形成層)と、別の内側の、より高密度の免疫隔離膜層12とを提供する。
【0058】
本開示の方法によれば、ある程度までの細胞の浸透を可能にし、かつ剥離が起こりにくい単層膜2が構築されるという利点がある。本開示の実施形態は、血管形成を可能にする第1勾配領域と、より緊密に織られた電界紡糸膜(PTFE膜など)を提供する第2勾配領域(内側の領域)とを有する単層を提供する。そのような孔径の勾配がある種々の多孔性の単層膜は、本明細書に示され、記載されたものを含むが、それに限定されることがなく、植込み医療装置に形成することが考えられている。
【0059】
特定の実施形態では、単層勾配膜は、別個に作成された後、植込み医療装置の製造中、例えば、本明細書に記載されているような予め製造された単層勾配膜のシートを所望の表面に適用することにより、植込み医療装置の所望の表面に設けられる。本発明の単層勾配膜には、他の二重膜システムに特徴的な、膜内の急激な移行領域はない。
【0060】
本開示の電界紡糸膜は、免疫隔離機能及び血管形成機能を具体化する単一部品として働き、約20ミクロン以上約200ミクロン以下の厚さを備える。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの膜が、細胞を含むがこれに限定されない治療剤を受け入れるように動作可能な内部空隙を形成する方法で設けて溶接することが考えられている。内部空隙に対向又は隣接して設けた膜2の表面は、約0.1ミクロンから約1ミクロンの孔を形成する密に絡み合った繊維からなる。この密に絡み合った構造から、より開放的な、すなわち緩く絡み合った繊維の網状組織へと、内側構造から外面へと進むにつれて勾配が連続的に変化する。同様に、細孔は、内腔に面する内面6から膜4の外面に向かって約0.1ミクロンから約1ミクロン、約5ミクロンから50ミクロン、好ましくは約10ミクロンから約15ミクロンへと徐々に変化する。
【0061】
図2Aは、外面4が約5ミクロンから約50ミクロン、好ましくは約5ミクロンから約15ミクロンの孔径の電界紡糸材料からなる一成分勾配膜2の斜視図である。
【0062】
図2Bは、表面に沿ってランダムに配向した電界紡糸繊維8の大きな繊維を有する一成分勾配膜2の斜視図である。これに代えて、繊維8は、表面に沿ってランダムに配向した高分子材料の不織布メッシュから構成してもよい。そのようなランダムに配向した繊維は、直径が約25ミクロンから約200ミクロンであればよい。
【0063】
図2Aは、植込み医療装置/組織の界面に近い宿主組織領域において、線維芽細胞の稠密な層の形成を防止又は最小化する孔勾配膜2を図示する。
図2Aは、膜の上方領域4で血管形成を誘発する大きな孔面を有する孔勾配膜2を示す。外側領域4は、好ましくは、約10ミクロンから15ミクロンの間の細孔を有する細孔構造からなり、細孔構造は、密接な血管構造の形成を誘発する。線維芽細胞層の領域は、発達する血管化された界面の上に形成することができる。
図2Bは、勾配膜表面4上に固定した比較的大きな直径の繊維8のランダムな網状組織を有する勾配膜2を示す。これらのより大きな繊維8は、移植領域に形成され始める密着した繊維芽細胞の層を破壊し、さらに追加の血管構造を形成可能とする。より大きな繊維8には、ポリエステルなどの不織布メッシュからなるもの、又は、より大きな直径の繊維を形成するために互いに平行に配置された電界紡糸PTFE繊維からなるものが考えられる。このような大きな繊維は、ランダムな繊維の別の網状組織として形成した後、勾配膜に適用することができる。別の方法として、電気紡糸勾配膜の場合、電気紡糸工程を用いて、勾配膜の上に比較的大きな繊維の層を設けることができる。これは、勾配膜が所望の厚さに達した時点で、繊維を敷設する異なるモード又はパターンに切り替えるように電界紡糸装置をプログラムすることによって達成することができる。したがって、電界紡糸のこの新しいモード又は設定は、勾配膜の表面に大きな繊維を作成するために使用することができ、この大きな繊維を含む構成エレメントは、下にある勾配膜に連続して設けられる。
【0064】
特定の実施形態では、複数の部品を有する植込み医療装置が提供され、その部品の1つ、例えば、免疫隔離膜を有する生細胞(例えば、幹細胞又は他の所望の材料)の集団を内包するのに適した内腔チャンバは、植込み医療装置の全て又は一部に亘って本明細書に記載された単層勾配膜を含むように処理することができる。それは、生体内で植込み医療装置への血管形成を強化するのに適した表面を提供する。単層勾配膜を植込み医療装置の表面に接触させて固定するために、例えば、音波溶接技術を使用することができる。種々の実施形態において、約5ミクロン以下の繊維8サイズ、5ミクロンの孔径、及び約5ミクロンから1000ミクロン、より好ましくは約15ミクロンから90ミクロンの厚さからなる電界紡糸膜が設けられている。膜の孔径が、膜の外側に近い部分では約5ミクロンから15ミクロンであり、膜の内側では約0.4ミクロン以下に減少する勾配が設けられている。
【0065】
図3から
図11は、植込み医療装置及びその一部を示す。本開示の実施形態は、膜2をその構成エレメントとして備える植込み医療装置を含むが、これに限定されない。図示された装置は、例えば、
図1Bに示すものを含む本開示の勾配膜に適している。しかしながら、
図3から
図11に示すものを含む本開示の装置は、これに限定されず、必ずしも膜構造と組み合わせる必要はない。
【0066】
図3は、植込み免疫隔離装置20の特徴を示す平面図である。図示されるように、装置2は、複数のポート22、24、26を備える。第1ポート22は、免疫隔離装置20の少なくとも1つの内腔すなわちポッド21と連通するように設けられている。移植前又は移植後のいずれかでの装置の内腔へのアクセスは、ハブ(
図3には図示せず)及びポートの少なくとも1つに接続することによって達成される。本実施形態では、遠位ポートは、1又は複数のポッドへのアクセスを容易にする。
【0067】
装置の側面又は周辺をシールするための好ましい方法には、超音波溶接、ヒートシール、オーバーモールド、ガスケット圧縮、圧縮、シリコン、接着剤、スピン溶接、レーザ溶接、及びそれらの種々の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ポッドの周りをシールするために、装置の周囲又は周辺に充填されるポリエチレンインサートが設けられている。いくつかの実施形態では、側面又は周辺のシールはまた、ポート22、24、26をポッド21に固定する。Neuenfeldt等の米国特許5545223号は、移植をシールするための装置及び方法を開示しており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
図3に示すように、本開示のポッドエレメント21は、組織への装置の挿入を容易にするために先細りの形状で構成されるとともに、表面積及び内容積も最大化されている。ポッド21の内容積は、ポート22、24、26の各内部チャネルと連通するように設けられている。いくつかの実施形態では、ポート22、24、26のうちの1又は複数が28ゲージのチューブからなり、ポートの第1端がポッド21と連通し、ポートの第2端が中央部材又はハブと連通する(例えば、
図7参照)。
【0069】
図4は、本開示の別の実施形態に係る植込み装置20の部分平面図である。装置2は、単一のポート28を備える。図示のように、ポートは、免疫隔離装置の少なくとも1つのポッド21と連通している。
【0070】
図5は、単一の内腔すなわち内部空隙を備えるポッド21の断面図である。ハウジングすなわちポッド21は、好ましくは多孔質材料からなる外層30と、外層30内に設けた血管形成構造体32とを備え、表面での血管形成を誘発し、患者による免疫反応を低減する。血管形成構造32内には、患者からポッド21の内腔36に細胞が侵入するのを防止するために、免疫バリア34が設けられている。特定の実施形態では、血管形成構造体32と、免疫障壁すなわち免疫保護層34は、別個の層からなる(例えば、
図1B参照)。代替的な実施形態では、血管形成構造体32及び免疫保護バリア34は、異なる特性を有する異なる領域のある単一エレメントを備える。例えば、血管形成構造体32及び免疫保護バリア34は、
図1Aの膜2に設けることが考えられる。したがって、血管形成構造体32及び免疫保護バリア34は、必ずしも2つの別々の層又はエレメントを備える必要はなく、孔径の勾配を有する単一層で構成することが考えられ、その層は免疫保護バリア及び血管形成構造の両方を提供するように動作可能である。
【0071】
また
図5は、装置の周囲に延びる周辺シール35を示す。シール35は、例えば音波溶接によって形成してもよく、広く装置21にシール構造を提供する。
【0072】
種々の実施形態において、内容積すなわち空隙を有するポッド21は、超音波溶接、ヒートシール、オーバーモールド、ガスケット圧縮、圧縮、シリコン、接着剤、スピン溶接、及びレーザ溶接のうちの1以上によって形成された周辺シールを備える。種々の実施形態において、外側多孔質構造体30は、表面積の少なくとも約20%に多孔質な表面領域を備える。血管形成構造体32は、直径が約0.1mmから50mmの間の細孔を有する多孔質構造体からなる。免疫障壁34は、直径が約1.0mm未満の孔を有する多孔質構造からなる。内腔36は、細胞、組織、治療薬、酸素、センサ、栄養剤、ポンプ、電子装置、電気コネクタ、又はそれらの組み合わせを収容又は受容するための空洞を備える。
【0073】
図6は、本開示の一実施形態に係るポッド21の部分断面図である。図示するように、ポッド21は複数の層状エレメントを備える。具体的には、ポッド21は、第1外側ポリエステル織布メッシュ層40aを備える。第1血管形成膜42aは、外層40内に設けられ、第1免疫隔離部材44aは、第1血管形成膜42a内及び隣接部分に設けられている。第1内腔すなわち内部空隙46aは、第1免疫隔離部材44a及び第2免疫隔離部材44b内に設けられている。第2内部空隙46bは、第2免疫隔離部材44bと第3免疫隔離部材44cの間に設けられている。第3内部空隙46cは、第3免疫隔離部材44cの間に設けられている。第4免疫隔離層44dは、第2血管形成膜42bに隣接して設けられている。(少なくとも
図6に示すように)装置の下部は、第2ポリエステルメッシュ層40bを備える。種々の実施形態において、層及び装置21は、超音波溶接、ヒートシール、オーバーモールド、ガスケット圧縮、圧縮、シリコン、接着剤、スピン溶接、レーザ溶接、及びそれらの種々の組み合わせのうちの少なくとも1つによって形成されるサイドシール35によって固定される。
【0074】
図5に関して示され、記載されるように、
図6の実施形態(及び本開示の他の実施形態)は、血管形成層(例えば42a)に隣接又は近位の免疫保護層(例えば44a)を備えるものとして考えられている。免疫保護層(複数可)及び血管形成層(複数可)は、異なる特性を有する単一のエレメント(例えば、
図1Aの膜など)を備えてもよいし、代わりに、形成、接続、若しくは接着されるか、又は単に互いに隣接して設けられる別々の層(例えば、
図1Bの膜など)を備えてもよい。
【0075】
図6は、材料を収容して受け取るために動作可能な3つの内腔又は空隙を備えた装置を示す。いくつかの実施形態では、
図6の実施形態に従った装置が、中央空洞46b内に酸素ガスをさらに備えて設けられ、追加の内腔部材46a、46cが細胞を備えることが考えられている。複数の膜44a、44b、44c、44dは、好ましくは、約0.4ミクロンの細孔を有するPTFEを備える。血管形成膜層42a、42bは、PTFE電界紡糸不織布ポリエステルメッシュ層を備えるのが好ましい。外側の織布ポリエステル構造体40a、40bは、ポッド構造体21全体に強度を与え、これを支持するために設けられている。
【0076】
内部の空隙部材46は、空隙又は内腔を備えるものとして記載されているが、これらの領域は、材料を受け入れるものとして考えられており、装置の完全な組み立て時には、必ずしも「空隙」を備えなくてもよい。内部の空隙部材46a、46b、46cは、細胞、ガス、及び/又は種々の治療剤を備えることが考えられている。さらに、いくつかの実施形態では、内部空隙部材46a、46b、46cのうちの1又は複数は、ポンプ、センサ(例えば酸素センサ)、電力貯蔵(例えば電池)、及び電子装置(例えばコントローラ)のうちの1又は複数を備える、又は受け入れるものとして考えられている。前述のことは、本開示の種々の実施形態の内腔及び内部空隙に当てはまり、3つの別々の内部空隙空間を図示する
図6の実施形態に限定されない。
【0077】
図7から
図9は、本開示の一実施形態に係る植込み医療装置50を図示する。図示されるように、装置50は、ハブ52を中心に複数のポッド51が同心円状にかつ重なり合うように配置された扇状の構成を備える。
図7から
図9の実施形態では、ハブを中心に分配された12個のポッド51が図示されているが、本開示は、ポッド51の任意の特定の数、間隔、又は配置には限定されない。好ましい実施形態では、ポッド51は、ハブ52の周りに少なくとも部分的に延びるマニホールド54と連通する。ポッド51は、1又は複数のポート56を介して、ハブ52及びマニホールド54に接続されている。ハブ、マニホールド、及びポッドは、流体を伝達するように動作可能な通路又は導管によって、互いに流体連通するように設けられている。また通路や導管は、配線やバルブなどの機械部品を収容したり、受け入れたりすることができる。
【0078】
図7に示すものを含む本開示の植込み装置は、インスリン依存症の患者、血友病の患者、癌の患者、慢性疼痛の患者、腎疾患の患者、薬剤注入及びシャントを必要とする患者、心血管疾患の患者、電子移植を有する患者、及び他の多くの長期的な疾患及び/又は疼痛管理のための植込み免疫隔離装置として使用するために動作可能である。
【0079】
図7の植込み装置50の扇状構成は、例えば、
図4及び
図5のポッド21の構造を有する複数のポッド51からなり、患者の皮下に移植することが考えられている。特定の実施形態では、ポッド21、51の内腔36には、治療用分子を分泌する、又は分泌するように誘発される生細胞が収容されている。そして、これらの分子は、装置の層(例えば、
図6の44a、42a、40a及び
図5の34、32、30)を通って、宿主の周囲の組織に拡散する。このようにして、治療用分子は周囲の血管系に取り込まれ、より効率的に宿主の体全体に分配される。つまり、患者を治療し、薬物を投与する方法が考えられており、その方法は、本開示の植込み装置に、生細胞及び治療剤のうちの少なくとも1つを提供し、その後、植込み装置50を患者の皮下内に提供することが考えられている。さらなる実施形態では、装置50は、移植に続いて細胞又は薬剤を提供すなわち補充するようにしてもよい。
【0080】
図10は、ハブ52とマニホールド54の断面図である。図示するように、ハブ52は内部空洞60を備える。ハブ52は、ポンプ、リザーバ、酸素発生器、電子装置、電源、注入ポート、及びこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない種々のエレメントのためのハウジングを提供する。マニホールド54は、治療剤、栄養分、酸素、電気信号、電力、流体、ガス、及びこれらの組み合わせを、マニホールド内の通路すなわち開口部62を介してハブから1又は複数のポッド51(
図10には図示せず)に連通する経路を備える。
【0081】
細胞療法の場合、本開示の植込み装置のポッド21、51は、患者の病状を治療することを意図した治療分子を分泌する細胞を備える。それらの細胞は、ヒトのドナーから得られた初代天然細胞、特定のヒト組織に由来する不死化細胞株、治療分子を産生しないが特定のタンパク質を分泌するように実験室で遺伝子操作された組織に由来するヒト細胞株、又は幹細胞が実験室で特定の組織に変換された幹細胞由来組織であってもよい。
【0082】
例えば、体内に自然に存在する一次組織の場合、人間のドナーから採取した副甲状腺組織をポッドの内腔36に充填することにより、副甲状腺機能不全に悩む人に副甲状腺ホルモンを提供することができる。
【0083】
種々の実施形態において、本開示の移植が種々の内部構造及び特徴を備えることが考えられている。例えば、
図10に示すように、装置50のハブ52及びマニホールド54の少なくとも一方は、ポンプ80及び酸素センサ82を備える。
図10のポンプ及び酸素センサは、ハブ52及び/又はマニホールド54内にあるものとして示されているが、本開示のポッド21内に設けることも考えられている。さらに本開示の装置は、ポンプ及びセンサを備えるものには限定されない。ポンプ及びセンサに加えて、又はポンプ及びセンサの代わりに、本開示の植込み装置は電子部品及び蓄電装置を含むものとして考えられる。例えば、いくつかの実施形態では、移植が追加の外部装置と通信する能力を提供する電子部品が設けられている。より具体的には、本開示の植込み装置は、基地局又は中央コンピュータに信号を送受信するように動作可能な、Bluetooth、RFID、及び/又はWiFi対応の部品を含むことが考えられる。このような装置は、例えば、装置の電力レベル、治療薬(例えば、インスリン)の充填レベル、及び他の情報を含む情報を通信することができる。
【0084】
図11は、マニホールド54を備えたハブ52と、そこから延びるポッド51とからなる植込み装置50の断面図である。装置50は、患者の組織70に移植するものとして示されている。種々の実施形態において、装置が皮下、好ましくは患者の外側真皮層内の1インチ未満の深さに移植され、装置50が、取外し、再充填、メンテナンスなどのために比較的容易にアクセスできるようにする方法が提供される。
【0085】
細胞株の場合、本開示の装置には、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)などの貯蔵所で培養された、治療用タンパク質を発現する細胞を充填することが考えられている。線維芽細胞株は、病気の治療に必要なタンパク質を分泌する細胞を生成するために、遺伝子工学的手法によって1以上の遺伝子が挿入される可能性がある、遺伝子工学のための一般的な細胞タイプとして使用してもよい。例えば、血友病の一種である第IX因子や、腎臓病に起因する貧血患者のためのエリスロポエチンを生成するように設計された細胞などが挙げられる。現在では、幹細胞が特定の種類の細胞になるまでの経過に沿って成熟するように誘発させることが可能である。例えば、実験室で幹細胞を操作して、インスリンを分泌するβ細胞のような膵臓細胞に変えることができる。このような細胞をポッド21の内腔36に装填することで、糖尿病の治療法を提供することができる。
【0086】
図12から
図14は、本開示の一実施形態に係る移植80の部分詳細断面図である。
図12から
図14は、図示された種々の構成エレメントのおおよその距離及び大きさを示す目盛りを含む。図示のように、移植は不織布メッシュ構造層82を備える。血管形成を可能にするように動作可能な繊維の層86が、織布メッシュ82にほぼ隣接して設けられている。いくつかの実施形態では、繊維層86は、
図12において左から右に向かって減少する孔径勾配を備える。免疫保護層88は、繊維層86に隣接して設けられている。いくつかの実施形態では、繊維層86及び免疫保護層88は、積層されるか、又は他の方法で接着される別々の層からなる(例えば、
図1B参照)。他の実施形態では、繊維層86及び免疫保護層88は、例えば、PTFEを電界紡糸又はその他の方法で堆積させることによって形成されたエレメントを含む単一のエレメントからなり、免疫保護層は、繊維層86よりも小さい孔径領域を備える(例えば、
図1A参照)。
【0087】
上述した例は、当業者に、目的生体分子に行われる選択された改変の予測のための方法の実施形態をどのように作成し、使用するかの完全な開示及び説明のために提供されるものであり、本発明者らが本開示の範囲とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。本開示を実施するための上述の態様の変更は、当業者が使用することができ、以下の請求項の範囲内であることが意図されている。
【0088】
本開示は、特定の方法やシステムに限定されるものではなく、当然、種々の方法やシステムであってもよい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図したものではない。
【0089】
本開示の多数の実施形態を説明してきた。それにも拘わらず、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができる。したがって、他の実施形態は、以下の請求項の範囲内である。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の皮下に埋め込むことができる植込み医療装置であって、
内部空洞を有するハブと、
前記ハブと連通する少なくとも1つのポッドであって、細胞、ガス、及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内腔と、前記内腔に隣接して外部に設けられた免疫隔離部材と、該免疫隔離部材に隣接して外部に設けられた血管形成膜とを含むポッドと、
を備え、
前記ハブと前記ポッドは、前記ハブの内部空洞と前記少なくとも1つのポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって互いに連通するように設けられている、植込み医療装置。
【請求項2】
前記ポッドは、動物から内腔への細胞の侵入を防ぐために、血管形成膜内に免疫バリアをさらに備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項3】
少なくとも1つのポッドの内部空洞が、生細胞の集団を備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項4】
前記生細胞が、膵島細胞、天然由来の初代細胞、細胞株、遺伝子操作された細胞、及び幹細胞由来の細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の植込み医療装置。
【請求項5】
少なくとも2つのポッドを備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項6】
前記ハブはマニホールドと流体連通している、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項7】
前記ポッドはテーパ構造からなり、前記ポッドの一端が他端よりも大きな幅である、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項8】
前記ハブはポンプを備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項9】
前記ポンプは酸素ポンプを含む、請求項8に記載の植込み医療装置。
【請求項10】
前記少なくとも2つのポッドは、隣接するポッドと部分的に重なるポッドからなる、請求項5に記載の植込み医療装置。
【請求項11】
前記ハブ及び前記ポッドの少なくとも一方は電子装置を含む、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項12】
前記ハブ及び前記ポッドは、少なくとも1つのエネルギー貯蔵庫及び電源を備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項13】
前記ポッドはセンサを備える、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項14】
少なくとも1つの追加の装置と電子通信する、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項15】
前記ポッドは2つのポートを備え、前記2つのポートのそれぞれがハブと連通している、請求項1に記載の植込み医療装置。
【請求項16】
動物に皮下移植するために動作可能な植込み医療装置であって、
内部空洞を有するハブと、
前記ハブと連通する少なくとも1つのポッドであって、細胞、ガス及び治療剤のうちの少なくとも1つを受け入れるように動作可能な内部空隙と、前記内部空隙に隣接して外部に設けた免疫隔離部材と、前記免疫隔離部材に隣接して外部に設けた血管形成膜とを有するポッドと、
を備え、
前記血管形成膜は内側領域と外側領域からなり、前記内側領域と前記外側領域がそれぞれ細孔からなり、前記内側領域から前記外側領域に向かって孔径の勾配が設けられ、
前記内側領域の孔径が約0.1ミクロン以上約2.0ミクロン以下であり、前記外側領域の孔径が約2.0ミクロン以上約20ミクロン以下であり、
前記ハブと前記ポッドは、前記ハブの内部空洞と前記少なくとも1つのポッドの内部空隙との間に延びる少なくとも1つのチャネルによって、互いに連通するように設けられている、植込み医療装置。
【外国語明細書】