(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116475
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィー-質量分析を用いるタンパク質分析のシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230815BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20230815BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230815BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230815BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230815BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
G01N27/62 G ZNA
G01N27/62 V
G01N27/62 X
H01J49/16 500
H01J49/04 400
H01J49/04 450
H01J49/00 310
G01N30/72 G
G01N30/88 J
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082905
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2019224176の分割
【原出願日】2019-12-12
(31)【優先権主張番号】62/778,521
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エレクトロスプレーイオン化源を用いてタンパク質の特性解析を行う方法およびシステムを提供する。
【解決手段】インレットラインポート160およびアウトレットラインポート170を有するキャップ150を有する容器110と、インレットラインポートにシースガスを提供するためのシースガスインレットライン120と、アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブ140のシースガスインレット180に接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットライン130とを含む、エレクトロスプレーイオン化源100及びこれを用いた質量分析法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有し、有機溶媒および塩基を含む、容器と、
インレットラインポートにシースガスを提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を含む、エレクトロスプレーイオン化源であって、
該エレクトロスプレーイオン化プローブが陽イオンモードで作動し、該有機溶媒および塩基が分析物イオンの荷電状態を低下させることができる、該エレクトロスプレーイオン化源。
【請求項2】
有機溶媒がアセトニトリルである、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項3】
塩基がトリエチルアミンである、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項4】
エレクトロスプレーイオン化プローブが補助ガスインレットを含む、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項5】
補助ガスインレットに補助ガスが供給される、請求項4記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項6】
エレクトロスプレーイオン化プローブが、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含む、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項7】
エレクトロスプレーイオン化プローブが、シースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されている、請求項6記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項8】
エレクトロスプレーイオン化プローブが、補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されている、請求項6記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項9】
シースガスインレットラインが部分的にインレットラインポートに挿入されている、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項10】
改質脱溶媒ガスアウトレットラインが部分的にアウトレットラインポートに挿入されている、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項11】
シースガスが、シースガスインレットラインから、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込む、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項12】
容器が第2容器によって囲まれている、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項13】
液体クロマトグラフィーシステムに接続されることができる、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
【請求項14】
インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有し、有機溶媒および塩基を含む、容器と、
インレットラインポートにシースガスを提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を備えたエレクトロスプレーイオン化源のインレットに試料を供給する工程、
エレクトロスプレーイオン化源のアウトレットで試料中のタンパク質の構成成分のイオンを生成する工程、ならびに
質量分析計を用いてイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程
を含む、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法であって、
該エレクトロスプレーイオン化プローブが陽イオンモードで作動し、該有機溶媒および塩基がイオンの荷電状態を低下させる、該方法。
【請求項15】
タンパク質の特性解析を行う工程がインタクト質量分析を行う工程を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
タンパク質の特性解析を行う工程がペプチドマッピング分析を行う工程を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
エレクトロスプレーイオン化源がエレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与える、請求項14記載の方法。
【請求項18】
試料の流れをエレクトロスプレーイオン化源に方向付けるように構成された液体クロマトグラフィー装置であって、
エレクトロスプレーイオン化源が、
インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有し、有機溶媒および塩基を含む、容器と、
シースガスをインレットラインポートに提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を含み、かつ
エレクトロスプレーイオン化源が、試料の構成成分のイオンを形成させるために試料を帯電させ脱溶媒するように構成されている、
液体クロマトグラフィー装置、ならびに
イオンを受け取ってイオンの質量電荷比の特性解析を行うように構成された質量分析装置
を含む、液体クロマトグラフィー質量分析システムであって、
該エレクトロスプレーイオン化プローブが陽イオンモードで作動し、該有機溶媒および塩基がイオンの荷電状態を低下させる、該システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、タンパク質の特性解析を行う方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィー分離技法および電気泳動分離技法とカップリングされたエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析(MS)は、プロテオミクスにおけるキー技術である。これは、分析室においてタンパク質生物製剤を詳細に特性解析してそれらの開発および規制当局への申請をサポートするための重要なツールになっている。タンパク質生物製剤は非常に高い純度規格を満たさなければならないので、医薬品の開発および生産のさまざまな段階においてタンパク質を監視し、特徴づけることは重要である。
【0003】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)に基づくタンパク質生物製剤の分析は、データ品質の改良から多大な恩恵を受けると考えられ、それは続いて、信頼性が高く曖昧さの低い、改良された医薬品特性解析につながりうる。さまざまなタンパク質属性の特性解析を行うために、多種多様なLC-MSベースのアッセイを行うことができ、中でも、ペプチドマッピング分析およびインタクト質量分析は、最も日常的に広く応用されている。分析の信頼性を改良し、データ解釈に伴う曖昧さを低減するには、LC-MS分析からのデータ品質を改良するために、最適化された実験手順、微調整された計器パラメータ、およびより高度な質量分析計を使うことを含めて、絶え間ない努力を行う必要がある。
【0004】
上記から、タンパク質特性解析を改良するために、改良された方法およびシステムが必要とされていることは、理解されるであろう。
【発明の概要】
【0005】
タンパク質ベースの生物製剤製品の開発、製造および販売の発展により、タンパク質の特性解析を行うための方法およびシステムに対する需要が高まっている。
【0006】
本明細書に開示する態様は、タンパク質の特性解析のための方法およびシステムを提供することによって、上述の需要を満たす。
【0007】
本開示は、少なくともその一部において、例えば、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインと、シースガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブとを備えたエレクトロスプレーイオン化源のインレットに試料を供給する工程、エレクトロスプレーイオン化源のアウトレットで試料中のタンパク質の構成成分のイオンを生成する工程、ならびに、質量分析計を使いイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程を含む、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法を提供する。
【0008】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートにシースガスを提供することができるシースガスインレットラインとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0009】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0010】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、第2容器によって囲まれた容器を備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0011】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、正極性モードのエレクトロスプレーイオン化プローブを持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0012】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、負極性モードのエレクトロスプレーイオン化プローブを持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0013】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インタクト質量分析を行う工程を含むことができる。
【0014】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、ペプチドマッピング分析を行う工程を含むことができる。
【0015】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、抗体の特性解析を行う工程を含むことができる。
【0016】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、有機溶媒を含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0017】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、有機溶媒および酸を含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0018】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、有機溶媒および塩基を含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0019】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、アセトニトリルを含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0020】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、トリエチルアミン(TEA)を含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0021】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、トリフルロ酢酸(trifluroacetic acid)を含有する容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0022】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0023】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーエミッターニードルを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0024】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートに窒素ガスを提供することができるシースガスインレットラインとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0025】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、補助ガスインレットには補助ガスを供給することができうる。
【0026】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、補助ガスインレットには窒素ガスを供給することができうる。
【0027】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0028】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブはシースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0029】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0030】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは加熱エレクトロスプレーイオン化プローブであることができる。
【0031】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートを持つキャップと、シースガスインレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、シースガスインレットラインは部分的にインレットラインポートに挿入されうる。
【0032】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、アウトレットラインポートを持つキャップと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、改質脱溶媒ガスアウトレットラインは部分的にアウトレットラインポートに挿入されうる。
【0033】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインに流れ込むことを許すように構成されうる。
【0034】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0035】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒と追加の化学的構成成分とを含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0036】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、エレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与えることができるエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0037】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、容器を有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、容器は耐圧容器であることができる。
【0038】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、液体クロマトグラフィーシステムに接続されることができるエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0039】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、タンパク質の消化産物の特性解析を行う工程を含むことができる。
【0040】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、質量分析計を用いてイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程を含むことができ、質量分析計はタンデム質量分析計であることができる。
【0041】
この開示は、少なくともその一部において、液体クロマトグラフィー装置、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインと、エレクトロスプレーイオン化プローブとを有するエレクトロスプレーイオン化源、ならびに質量分析装置を備えた、液体クロマトグラフィー質量分析システムを提供する。
【0042】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートにシースガスを提供することができるシースガスインレットラインとを備えた、エレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0043】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0044】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、正極性モードで作動させることができうるエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0045】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、負極性モードで作動させることができうるエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0046】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、有機溶媒で満たされうる容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0047】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、有機溶媒と追加の化学的構成成分とで満たされうる容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、追加の化学的構成成分は、酸、塩基、塩、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0048】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、有機溶媒と酸とで満たされうる容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0049】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、有機溶媒と塩基とで満たされうる容器を持つエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0050】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0051】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーエミッターニードルを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0052】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートに窒素ガスを提供することができるシースガスインレットラインとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0053】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、補助ガスインレットには補助ガスを供給することができうる。
【0054】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、補助ガスインレットには窒素ガスを供給することができうる。
【0055】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0056】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは、シースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0057】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは、補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0058】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーイオン化プローブを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは加熱エレクトロスプレーイオン化プローブであることができる。
【0059】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートを持つキャップと、シースガスインレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、シースガスインレットラインは部分的にインレットラインポートに挿入されうる。
【0060】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、アウトレットラインポートを持つキャップと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、改質脱溶媒ガスアウトレットラインは部分的にアウトレットラインポートに挿入されうる。
【0061】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインに流れ込むことを許すように構成されうる。
【0062】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0063】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒と追加の構成成分とを含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0064】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、エレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与えることができるエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0065】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、第2容器によって囲まれた容器を有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができる。
【0066】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、容器を有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、容器は耐圧容器であることができる。
【0067】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー質量分析システムは、質量分析計を用いてイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程を含むことができ、質量分析計はタンデム質量分析計であることができる。
【0068】
この開示は、少なくともその一部において、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、シースガスインレットと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインと、シースガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブとを備えたエレクトロスプレーイオン化源を提供する。
【0069】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートにシースガスを提供することができるシースガスインレットラインとを含むことができる。
【0070】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを含むことができる。
【0071】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、正極性モードで作動させることができうるエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0072】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、負極性モードで作動させることができうるエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0073】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、有機溶媒で満たされうる容器を含むことができる。
【0074】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、有機溶媒と酸とで満たされうる容器を含むことができる。
【0075】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、有機溶媒と塩基とで満たされうる容器を含むことができる。
【0076】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0077】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、エレクトロスプレーエミッターニードルを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0078】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを有する容器と、インレットラインポートに窒素ガスを提供することができるシースガスインレットラインとを含むことができる。
【0079】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができ、補助ガスインレットには補助ガスを供給することができうる。
【0080】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、補助ガスインレットを持つエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができ、補助ガスインレットには窒素ガスを供給することができうる。
【0081】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができる。
【0082】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは、シースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0083】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは、補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0084】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源はエレクトロスプレーイオン化プローブを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは加熱エレクトロスプレーイオン化プローブであることができる。
【0085】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートを持つキャップを有する容器と、シースガスインレットラインとを含むことができ、シースガスインレットラインは部分的にインレットラインポートに挿入されうる。
【0086】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、アウトレットラインポートを持つキャップと改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを有するエレクトロスプレーイオン化源を含むことができ、改質脱溶媒ガスアウトレットラインは部分的にアウトレットラインポートに挿入されうる。
【0087】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインに流れ込むことを許すように構成されうる。
【0088】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0089】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを持つキャップを備えた容器と、シースガスインレットラインと、改質脱溶媒ガスアウトレットラインとを含むことができ、エレクトロスプレーイオン化源は、シースガスインレットラインからのシースガスが、有機溶媒と追加の構成成分とを含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0090】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は、第2容器によって囲まれた容器を含むことができる。
【0091】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源は容器を含むことができ、容器は耐圧容器であることができる。
【0092】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1] インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有する容器と、
インレットラインポートにシースガスを提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を含む、エレクトロスプレーイオン化源;
[2] 容器が有機溶媒および追加の化学的構成成分を含む、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[3] 追加の化学的構成成分が酸である、[2]のエレクトロスプレーイオン化源;
[4] 追加の化学的構成成分が塩基である、[2]のエレクトロスプレーイオン化源;
[5] 有機溶媒がアセトニトリルである、[2]のエレクトロスプレーイオン化源;
[6] 酸がトリフルロ酢酸である、[3]のエレクトロスプレーイオン化源;
[7] 塩基がトリエチルアミンである、[4]のエレクトロスプレーイオン化源;
[8] エレクトロスプレーイオン化プローブが補助ガスインレットを含む、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[9] エレクトロスプレーイオン化プローブがエレクトロスプレーエミッターニードルを含む、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[10] シースガスが窒素ガスである、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[11] 補助ガスインレットに補助ガスが供給される、[8]のエレクトロスプレーイオン化源;
[12] エレクトロスプレーイオン化プローブが、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含む、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[13] エレクトロスプレーイオン化プローブが、シースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されている、[12]のエレクトロスプレーイオン化源;
[14] エレクトロスプレーイオン化プローブが、補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されている、[12]のエレクトロスプレーイオン化源;
[15] エレクトロスプレーイオン化プローブが加熱エレクトロスプレーイオン化プローブである、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[16] シースガスインレットラインが部分的にインレットラインポートに挿入されている、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[17] 改質脱溶媒ガスアウトレットラインが部分的にアウトレットラインポートに挿入されている、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[18] シースガスが、シースガスインレットラインから、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込む、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[19] エレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与えることができる、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[20] 容器が第2容器によって囲まれている、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[21] 液体クロマトグラフィーシステムに接続されることができる、[1]のエレクトロスプレーイオン化源;
[22] 以下の工程を含む、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法:
インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有する容器と、
インレットラインポートにシースガスを提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を備えたエレクトロスプレーイオン化源のインレットに試料を供給する工程、
エレクトロスプレーイオン化源のアウトレットで試料中のタンパク質の構成成分のイオンを生成する工程、ならびに
質量分析計を用いてイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程;
[23] 容器が第2容器によって囲まれている、[22]の方法;
[24] エレクトロスプレーイオン化源が液体クロマトグラフィーシステムに接続される、[22]の方法;
[25] シースガスが5psi~75psiの圧力で供給される、[22]の方法;
[26] エレクトロスプレーイオン化プローブが正極性モードである、[22]の方法;
[27] エレクトロスプレーイオン化プローブが負極性モードである、[22]の方法;
[28] タンパク質の特性解析を行う工程がインタクト質量分析を行う工程を含む、[22]の方法;
[29] タンパク質の特性解析を行う工程がペプチドマッピング分析を行う工程を含む、[22]の方法;
[30] タンパク質が抗体である、[22]の方法;
[31] エレクトロスプレーイオン化源がエレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与える、[22]の方法;
[32] 以下を含む、液体クロマトグラフィー質量分析システム: および
試料の流れをエレクトロスプレーイオン化源に方向付けるように構成された液体クロマトグラフィー装置であって、
エレクトロスプレーイオン化源が、
インレットラインポートおよびアウトレットラインポートを有するキャップを有する容器と、
シースガスをインレットラインポートに提供するためのシースガスインレットラインと、
アウトレットラインポートをエレクトロスプレーイオン化プローブのシースガスインレットに接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットラインと
を含み、かつ
エレクトロスプレーイオン化源が、試料の構成成分のイオンを形成させるために試料を帯電させ脱溶媒するように構成されている、
液体クロマトグラフィー装置、ならびに
イオンを受け取ってイオンの質量電荷比の特性解析を行うように構成された質量分析装置。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】
図1は、トップダウンプロテオミクスとボトムアッププロテオミクスの相違の概略図である。
【
図2】
図2は、例示的一態様による質量分析計での脱溶媒ガス改質に使用することができるエレクトロスプレーイオン化源の図である。
【
図3】
図3は、例示的一態様に従ってギ酸(FA)ベースの方法を使用したNISTmAb消化物のLC-MS分析からの基準ピーククロマトグラムである。
【
図4】
図4は、例示的一態様に従ってトリフルオロ酢酸ベースの方法を使用したNISTmAb消化物のLC-MS分析からの基準ピーククロマトグラムである。
【
図5】
図5は、例示的一態様に従ってトリフルオロ酢酸(TFA)ベースの方法をPA/IPA改質脱溶媒ガスと共に使用したNISTmAb消化物のLC-MS分析からの基準ピーククロマトグラムである。ここで、TFA対照実験からのMSシグナルは、見やすいように、2倍に増幅されている。
【
図6】
図6は、対照法(実験1~2)および脱溶媒ガス改質法(実験3~39)を使ったNISTmAb消化物からの6つの代表的トリプシンペプチドのMS強度を表し、脱溶媒ガス改質法は例示的一態様に従って行われる。
【
図7】
図7は、例示的一態様に従って実行される対照法を使ったNISTmAbの還元重鎖のマススペクトルである。
【
図8】
図8は、例示的一態様に従って実行される電荷低減法を使ったNISTmAbの還元重鎖のマススペクトルである。
【
図9】
図9は、例示的一態様に従って実行される対照法(上図)および電荷低減法(下図)を使ったNISTmAbの還元重鎖のデコンボリューションマススペクトルである。
【
図10】
図10は、例示的一態様に従って実行される対照法(上図)および電荷低減法(下図)を使ったNISTmAbの還元軽鎖デコンボリューションマススペクトルである。
【
図11】
図11は、例示的一態様に従って通常法(上図)および電荷低減法(下図)を使って取得されるLC-MS分析を使った、複数のO-グリカンを持つ高度に不均質なタンパク質の生マススペクトルである。
【
図12】
図12は、例示的一態様に従って電荷低減法を使って取得されるLC-MS分析を使った複数のO-グリカンを持つ高度に不均質なタンパク質のデコンボリューションマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0094】
詳細な説明
LC-MSに基づくペプチドマッピング分析はタンパク質生物製剤の一次配列を確認するために日常的に応用されている。ここでは、タンパク質分子がまず、公知の特異性を持つプロテアーゼを使って(ただし時には非特異的プロテアーゼを適用することもできる)小さなペプチドフラグメントに加水分解され、次に各ペプチドフラグメントのアミノ酸配列が、cDNA予測配列と使用したプロテアーゼの特異性とを考慮して、LC-MS/MS分析によって決定される(Dick et al. Journal of chromatography. B, Analytical technologies in the biomedical and life sciences 2009, 877, 230-236、Bongers et al. Journal of pharmaceutical and biomedical analysis 2000, 21, 1099-1128、Mouchahoir and Schiel, Analytical and bioanalytical chemistry 2018, 410, 2111-2126)。ペプチドマッピング分析からのデータは、翻訳後修飾の同定および定量、ジスルフィド結合による連結の確認、さらには極めて低レベル(<0.1%)に存在するアミノ酸置換事象の検出にも利用しうる(Zeck et al. PloS one 2012, 7, e40328)。タンパク質生物製剤のペプチドマッピング分析では、いわゆるUVフィンガープリントを生成するために、LC-MSが紫外(UV)検出と組み合わせて行われることも多く、これは、品質管理(QC)および医薬品リリース(drug release)における同定アッセイとして、単独で使用することができる。逆相カラムにおいてペプチドを良好なピーク形状で効果的に分離するために、トリフルオロ酢酸(TFA)が、その優れたイオン対形成能力ゆえに、移動相改質剤としてよく使用される(Shibue, et al. Journal of chromatography. A 2005, 1080, 68-75)。
【0095】
しかしTFAは、残念ながら、表面張力の増加によるエレクトロスプレー(ESI)プロセス中のそのイオン抑制効果や、気相中の分析物とイオン対を形成するその能力でも知られており、これらはMS感度の著しい減少につながる(Annesley, T.M. Clinical chemistry 2003, 49, 1041-1044)。過去20年にわたって、TFAに関係するMS感度損失を緩和するために、さまざまな戦略が研究され、履行されてきた。例えば、酢酸またはプロピオン酸によるTFA含有移動相の改質は、いくつかの塩基性化合物の生物分析について、クロマトグラフィーの完全性を損なうことなく、著しいMSシグナル増強を示した(Shou and Naidong, Journal of chromatography. B, Analytical technologies in the biomedical and life sciences 2005, 825, 186-192)。プロピオン酸とイソプロパノールとの混合物のポストカラム添加は、もう一つのよく使用される戦略であり、これはLC法の改変を必要としない。しかし、この機構は追加のポンプを必要とし、大量の化学薬品を消費し、大きな試料セットの連続分析には適さない(Apffel et al. Journal of chromatography. A 1995, 712, 177-190)。閉じたスプレーチャンバー内での酸蒸気支援ESI(acid vapor assisted ESI)は、TFAのシグナル抑制効果に対抗するための方策である(Chen et al. Chemical communications 2015, 51, 14758-14760)。しかし、タンパク質生物製剤の特性解析におけるその有用性は、今のところ限定的であり、それはおそらく特別なESI源が必要だからだろう。
【0096】
最後に、ペプチドマッピング分析において良好なピーク形状を得るためにTFAを使用することへの依存度は、逆相カラム化学の進歩、特に荷電表面C18固定相の開発によって大きく低減した(Lauber et al. J. Analytical chemistry 2013, 85, 6936-6944)。しかし、TFAをMSフレンドリーな移動相改質剤(例えばギ酸)で置き換えると、大半のペプチドの保持は不可避的に低減することになり、いくつかの短い親水性ペプチドは溶媒先端と共溶出するために検出不可能になって、配列カバレッジの減少を招く。それにもかかわらず、これらの新しいカラムがタンパク質生物製剤の特性解析に日常的に広く採用されるようになるまでは、TFAベースのLC-MS法は、依然として、ペプチドマッピング分析における主流である。既存の方法の制約を考慮して、本明細書に開示するとおり、タンパク質の特性解析のための効果的かつ効率的なシステムおよび方法を開発した。LC-MS分析中のTFAイオン抑制に対抗するための簡単なアプローチを、脱溶媒ガスを酸/塩基蒸気およびイソプロパノールで改質することによって実行した。
【0097】
別段の記載がある場合を除き、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。実施または試験には、本明細書に記載するものと類似するか等価である任意の方法および材料を使用しうるが、以下に特定の方法および材料を説明する。言及する刊行物はいずれも参照により本明細書に組み入れられる。
【0098】
用語「ある/1つの(a)」は「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、用語「約」および「およそ」は、当業者には理解されるであろうとおり、標準偏差を許容すると理解されるべきである。また、範囲が与えられている場合、端点は含まれる。
【0099】
タンパク質生物製剤は、高レベルの力価、純度および低レベルの構造不均一性を示す必要がある。構造不均一性は、しばしば、医薬品の生物活性および効力に影響を及ぼす。それゆえに、タンパク質および/または不純物の特性解析および定量は、医薬開発において重要である。
【0100】
いくつかの例示的態様において、本開示は、試料中の不純物の特性解析を行うための方法を提供する。
【0101】
本明細書において使用する用語「タンパク質」は、共有結合のアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを包含する。タンパク質は、当技術分野において一般に「ポリペプチド」と呼ばれる1つまたは複数のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」とは、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、その関連天然構造変異体および合成非天然類似体で構成されたポリマー、その関連天然構造変異体ならびに合成非天然類似体を指す。「合成ペプチドまたは合成ポリペプチド」とは、非天然ペプチドまたは非天然ポリペプチドを指す。合成ペプチドまたは合成ポリペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成装置を用いて合成することができる。さまざまな固相ペプチド合成方法が当業者には公知である。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つまたは複数のポリペプチドを含有しうる。タンパク質は、生物治療薬タンパク質、研究または治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質(trap protein)および他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体ならびに二重特異性抗体をいずれも包含しうる。もう一つの例示的局面において、タンパク質は、抗体フラグメント、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを包含しうる。タンパク質は、組換え細胞ベースの生産系、例えば昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えばピキア属(Pichia sp.))、哺乳類系(例えばCHO細胞およびCHO-K1細胞のようなCHO派生細胞)を使って生産されうる。生物治療タンパク質およびそれらの生産に関する最近の総説として、Ghaderiら著「Production platforms for biotherapeutic glycoproteins. Occurrence, impact, and challenges of non-human sialylation」(Biotechnol. Genet. Eng. Rev.(2012)147-75)を参照されたい。いくつかの態様において、タンパク質は、修飾、付加物および他の共有結合部分を含む。これらの修飾、付加物および部分としては、例えばアビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えばN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、および他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGtag、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光ラベルおよび他の色素などが挙げられる。タンパク質は組成および溶解度に基づいて分類することができ、したがってタンパク質は、球状タンパク質および繊維状タンパク質などの単純タンパク質;ヌクレオタンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質およびリポタンパク質などの複合タンパク質;ならびに一次誘導タンパク質および二次誘導タンパク質などの誘導タンパク質を包含しうる。
【0102】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体フラグメント、モノクローナル抗体、またはそれらの組み合わせでありうる。
【0103】
本明細書において使用する用語「抗体」は、4本のポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって互いにつながれた2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖とを含む免疫グロブリン分子、およびその多量体(例えばIgM)を包含する。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記する)と重鎖定常領域とを含む。重鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略記する)と軽鎖定常領域とを含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域およびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存度の高い領域が間に挿入された相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された3つのCDRと4つのFRで構成される: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明のさまざまな態様において、抗big-ET-1抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系配列と同一であってもよいし、天然の修飾または人工的な修飾を受けていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRを並べて行われる分析に基づいて規定されうる。本明細書において使用する用語「抗体」は、完全な抗体分子の抗原結合性フラグメントも包含する。本明細書において使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などといった用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、天然の、または酵素的に得ることができる、または合成の、または遺伝子改変されたポリペプチドまたは糖タンパク質をいずれも包含する。抗体の抗原結合性フラグメントは、例えば完全な抗体分子から、任意の適切な標準的技法を使って、例えばタンパク質加水分解消化または抗体の可変ドメインおよび任意で定常ドメインをコードするDNAの操作と発現とを伴う組換え遺伝子工学技法などを使って、誘導することができる。そのようなDNAは公知であり、かつ/または例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手することができるか、合成することができる。DNAは、配列決定して、例えば1つまたは複数の可変ドメインおよび/または定常ドメインを適切な構成に配置するために、あるいはコドンを導入し、システイン残基を作出し、アミノ酸を修飾し、付加しもしくは欠失させるなどのために、化学的に、または分子生物学技法を使って、操作することができる。
【0104】
本明細書にいう「抗体フラグメント」には、例えば抗体の抗原結合領域または可変領域などといった、インタクト抗体の一部分が包含される。抗体フラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFvフラグメント、Fvフラグメント、dsFvダイアボディ(diabody)、dAbフラグメント、Fd’フラグメント、Fdフラグメント、および単離された相補性決定領域(CDR)、ならびにトリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、線状抗体(linear antibody)、一本鎖抗体分子、および抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。Fvフラグメントは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによってつながれている組換え一本鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的態様において、抗体フラグメントは、その元となった親抗体のアミノ酸配列のうち、親抗体と同じ抗原に結合するのに十分なアミノ酸配列を含有する。いくつかの例示的態様において、フラグメントは親抗体に匹敵するアフィニティーで抗原に結合し、かつ/または抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体フラグメントは任意の手段によって生産されうる。例えば抗体フラグメントは、インタクト抗体の断片化によって、酵素的または化学的に生産することができ、かつ/または部分的抗体配列をコードする遺伝子から組換え生産することができる。上記に代えて、または上記に加えて、抗体フラグメントは、全部または一部を合成的に生産することもできる。抗体フラグメントは、任意で、一本鎖抗体フラグメントを含みうる。上記に代えて、または上記に加えて、抗体フラグメントは、例えばジスルフィド結合などによって1つに連結された複数の鎖を含みうる。抗体フラグメントは、任意で、多分子複合体を含みうる。機能的抗体フラグメントは、典型的には少なくとも約50アミノ酸、より典型的には少なくとも約200アミノ酸を含む。
【0105】
「二重特異性抗体」という語句は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を包含する。二重特異性抗体は一般的には2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば抗原)上のまたは同じ分子上(例えば同じ抗原上)の、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1エピトープおよび第2エピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1エピトープに対する第1重鎖のアフィニティーは一般に、第2エピトープに対する第1重鎖のアフィニティーより、少なくとも1桁~2桁または3桁または4桁は低く、逆もまた同じである。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ標的または異なる標的(例えば同じタンパク質または異なるタンパク質)上にあることができる。二重特異性抗体は、例えば同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製することができる。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列を、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合し、そのような配列を、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞中で発現させることができる。典型的な二重特異性抗体は、それぞれが3つの重鎖CDRと、それに続くCH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインとを有する2本の重鎖と、抗原結合特異性は付与しないが各重鎖と会合することができるか、または各重鎖と会合することができ、かつ重鎖抗原結合領域によって結合されるエピトープのうちの1つまたは複数に結合することができるか、または各重鎖と会合することができ、かつ重鎖の一方または両方が一方または両方のエピトープに結合することを可能にすることができる、免疫グロブリン軽鎖とを有する。BsAbは、Fc領域を保持するもの(IgG様)と、Fc領域を欠くものという、2つの主要クラスに分割することができ、後者は通常、Fcを含むIgGおよびIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、限定するわけではないが、トリオマブ(triomab)、ノブ・イントゥ・ホール(knobs into holes)IgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメイン(Dual-variable domains)Ig(DVD-Ig)、ツー・イン・ワン(Two-in-one)もしくは二重作用(dual action)Fab(DAF)、IgG-一本鎖Fv(IgG-scFv)、またはκλボディ(κλ-body)など、さまざまなフォーマットを有することができる。非IgG様のさまざまなフォーマットとしては、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重アフィニティーリターゲティング分子(Dual-affinity retargeting molecule)(DART)、DART-Fc、ナノボディ、またはドック・アンド・ロック(dock-and-lock)(DNL)法によって生産される抗体が挙げられる。Fanらと、KontermannおよびBrinkmannは、二重特異性抗体について詳細な総説を発表している(Fan et al.“Bispecific antibodies and their applications”J. Hematol. Oncol.(2015)8:130、Kontermann and Brinkmann,“Bispecific antibodies”Drug Discov. Today(2015)20:838-847)。BsAbを生産する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の対細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を必要とする化学的コンジュゲーション、および組換えDNA技術を利用する遺伝学的アプローチに限定されない。bsAbの例としては以下の特許出願に開示されているものが挙げられ、これらの特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる: 2010年6月25日出願の米国特許第8,586,713号、2012年6月5日出願の米国特許出願公開第2013/0045492号、2013年9月19日出願の米国特許第9,657,102号、2015年7月24日出願の米国特許出願公開第2016/0024147号、2017年9月22日出願の米国特許出願公開第2018/0112001号、2017年9月22日出願の米国特許出願公開第2018/0104357号、2016年12月21日出願の米国特許出願公開第2017/0174779号、2016年12月21日出願の米国特許出願公開第2017/0174781号、2016年7月29日出願の米国特許第10,179,819号、および2017年11月15日出願の米国特許出願公開第2018/0134794号。二重特異性抗体の製造中は、いくつかの工程において、低レベルのホモ二量体不純物が存在しうる。そのようなホモ二量体不純物の検出は、ホモ二量体不純物の存在量が低いこと、および常用の液体クロマトグラフィー法を使って実行した場合にはこれらの不純物が主要化学種と共溶出することから、インタクト質量分析を使って行う場合には、難易度が高くなる場合がある。
【0106】
本明細書にいう「多重特異性抗体」または「Mab」は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を持つ抗体を指す。そのような分子は通常は2つの抗原に結合するだけだが(すなわち二重特異性抗体、BsAb)、三重特異性抗体およびKIH Trispecificなど、さらなる特異性を持つ抗体も、本明細書に開示するシステムおよび方法によって対処することができる。
【0107】
本明細書において使用する用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術によって生産される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用できるまたは公知の任意の手段によって、任意の真核クローン、原核クローンまたはファージクローンを含む単一クローンから得ることができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換え技術およびファージディスプレイ技術の使用またはそれらの組み合わせを含む、当技術分野において公知の多種多様な技法を使って調製することができる。
【0108】
不純物は生物製剤生産の多くの段階において形成されうる。生物工学に由来する不純物は、特性解析と定量を行うことが極めて困難な場合がある。なぜなら、それらは多くの場合、存在レベルが極めて低く、またそれらは非常に複雑な化学種または化学種の混合物に相当する場合があるからである。不純物ピークの標品を得ることが極めて困難な場合もある。しかし、痕跡量の不純物タンパク質の完全な特性解析を行うことは、時間のかかる、長々しい、そしてしばしば非常に費用のかかるプロセスになる。多くの場合、不純物は、変異体、アイソフォーム、分解産物、目的物質由来不純物、製造工程由来不純物、軽微な翻訳後修飾、凝集物、またはインタクト組換えタンパク質の短縮(clipped)フラグメントを含みうる。
【0109】
いくつかの例示的態様において、本開示は、試料中のタンパク質の特性解析を行うための方法を提供する。
【0110】
本明細書において使用する用語「不純物」は、生物製剤製品中に存在する任意の望ましくないタンパク質を包含しうる。不純物には、製造工程由来不純物および目的物質由来不純物が包含されうる。不純物はさらに、公知の構造、部分的に特性解析が行われたもの、または未同定のものでありうる。製造工程由来不純物は製造プロセスに由来しうるものであり、細胞基材由来、細胞培養物由来および下流工程由来の3つの主要カテゴリーを含みうる。細胞基材由来不純物としては、宿主生物由来のタンパク質および核酸(宿主細胞ゲノムDNA、ベクターDNA、または総DNA)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。細胞培養物由来不純物としては、誘導物質、抗生物質、血清および他の培地構成成分が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。下流工程由来不純物としては、酵素、化学的および生化学的処理試薬(例えば臭化シアン、グアニジン、酸化剤および還元剤)、無機塩(例えば重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えばモノクローナル抗体)および他の漏出物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。目的物質由来不純物(例えば前駆体、一定の分解産物)は、活性、効力および安全性に関して目的物質のそれに匹敵する特性を有しない製造および/または貯蔵中に生じる分子変異体でありうる。そのような変異体は、修飾のタイプを同定するために、単離および特性解析にかなりの努力を必要としうる。目的物質由来不純物は、切断体、修飾体および凝集物を含みうる。切断体は、ペプチド結合の開裂を触媒する加水分解酵素または化学薬品によって形成される。修飾体としては、脱アミド体、異性体、S-S結合ミスマッチ体、酸化体または改変型複合体(例えばグリコシル化、リン酸化)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。修飾体には任意の翻訳後修飾体も含まれうる。凝集物には目的物質の二量体および高次多量体が含まれる。(Q6B「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定」(Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products), ICH August 1999, U.S. Dept. of Health and Humans Services)。
【0111】
本明細書において使用する一般用語「翻訳後修飾」、すなわち「PTM」とは、ポリペプチドがそれぞれのリボソーム合成中(翻訳時修飾)またはリボソーム合成後(翻訳後修飾)に受ける共有結合的修飾を指す。PTMは一般に特異的酵素または特異的酵素経路によって導入される。その多くはタンパク質主鎖内の特別な特徴的タンパク質配列(例えばシグネチャー配列)で起こる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾はタンパク質の構造または機能の何らかの局面に必ず影響を及ぼす(Walsh, G.「Proteins」(2014),第2版, Wiley and Sons, Ltd.刊, ISBN:9780470669853)。さまざまな翻訳後修飾として、開裂、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(アセチル基の付加、通常はタンパク質のN末端で起こる)、アルキル化(アルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル)の付加、通常はリジンまたはアルギニン残基で起こる)、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内またはポリペプチド鎖間での共有結合による架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存的修飾(プロリンおよびリジンのヒドロキシル化およびカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンKがグルタミン酸残基のカルボキシル化における補因子になってγ-カルボキシグルタミン酸(glu残基)の形成をもたらすビタミンK依存的修飾、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(グリシン残基の共有結合)、グリコシル化(糖タンパク質をもたらすアスパラギン、ヒドロキシリジン、セリンまたはスレオニンのいずれかへのグリコシル基の付加)、イソプレニル化(ファルネソールおよびゲラニルゲラニオールなどのイソプレノイド基の付加)、リポイル化(リポ酸官能性の付加)、ホスホパンテテイニル化(補酵素Aからの4’-ホスホパンテテイニル部分の付加、脂肪酸、ポリケチド、非リボソームペプチドおよびロイシン生合成において起きるもの)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニンまたはヒスチジンへの、リン酸基の付加)および硫酸化(通常はチロシン残基への、硫酸基の付加)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。アミノ酸の化学的性質を変化させる翻訳後修飾としては、シトルリン化(例えば脱イミノ化によるアルギニンのシトルリンへの転化)および脱アミド(例えばグルタミンのグルタミン酸への転化またはアスパラギンのアスパラギン酸への転化)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。構造変化を伴う翻訳後修飾としては、ジスルフィド架橋の形成(2つのシステインアミノ酸の共有結合)およびタンパク質分解的開裂(ペプチド結合におけるタンパク質の開裂)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。ISG化(ISG15タンパク質(インターフェロン刺激遺伝子)への共有結合)、SUMO化(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン様修飾因子(Small Ubiquitin-related MOdifier))への共有結合)およびユビキチン化(タンパク質ユビキチンへの共有結合)など、一定の翻訳後修飾は、他のタンパク質またはペプチドの付加を伴う。UniProtが管理するPTMのより詳細な統制語彙については、http://www.uniprot.org/docs/ptmlistを参照されたい。
【0112】
本明細書にいう「変異体タンパク質」または「タンパク質変異体」または「変異体」には、少なくとも1つのアミノ酸修飾ゆえにターゲットタンパク質とは異なるタンパク質が包含されうる。タンパク質変異体とは、タンパク質そのもの、そのタンパク質を含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指しうる。好ましくは、タンパク質変異体は、親タンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば親と比較して約1~約10個のアミノ酸修飾、好ましくは約1~約5個のアミノ酸修飾を有する。本明細書におけるタンパク質変異体配列は、親タンパク質配列に対して、好ましくは少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性、さらに好ましくは少なくとも約95%の相同性を有するであろう。
【0113】
タンパク質の包括的な特性解析は、規制当局によって設定されたタンパク質の安全基準を満たすことができ、タンパク質医薬品の効力を保証するのに役立ちうる。したがって、プロテオミクスアプローチがタンパク質の同一性確認(identity confirmation)、PTMなどのタンパク質修飾およびタンパク質変異体のモニタリング、酸化または脱アミド化などの分解事象のモニタリングなどに役立つ生物製剤産業では、プロテオミクスアプローチが重要である。プロテオミクスアプローチは、分析が行われるレベルによって区別することができる(
図1参照)。
【0114】
本明細書にいう「インタクト質量分析」には、タンパク質がインタクトタンパク質として特定解析されるトップダウン実験が含まれる(
図1、左図参照)。インタクト質量分析は、試料調製を最低限に削減することができ、例えば複数のPTMの結合性(connectivity)などといった、他のプロテオミクス戦略では時として見失われることもある情報を保存することができる。
【0115】
いくつかのプロテオミクス実験は、MS分析前に行われるタンパク質のペプチドへの消化に依存する。本明細書にいう「ペプチドマッピング分析」は、タンパク質が消化を受けた後、結果として生じたペプチドの分離とそれらの分析とが、好ましくはLC-MSを用いて行われる実験を含む(
図1、右図参照)。いくつかの例示的態様において、ペプチドマッピング分析は、タンパク質生物製剤の一次配列を確認するために応用することができ、この場合は、タンパク質分子がまず、加水分解剤を用いて小さなペプチドフラグメントに加水分解され、次に各ペプチドフラグメントのアミノ酸配列が、cDNA予測配列と使用したプロテアーゼの特異性とを考慮して、LC-MS/MS分析によって決定される。ペプチドマッピング分析からのデータは、翻訳後修飾の同定および定量、ジスルフィド結合による連結の確認、さらには極めて低レベル(<0.1%)に存在するアミノ酸置換事象の検出にも利用しうる(Zeck et al. PloS one 2012, 7, e40328)。タンパク質生物製剤のペプチドマッピング分析では、いわゆるUVフィンガープリントを生成するために、しばしば、LC-MSが紫外(UV)検出と組み合わせて行われる場合があり、これは、品質管理(QC)および医薬品リリースにおける同定アッセイとして、単独で使用することができる。
【0116】
本明細書において使用する用語「消化」は、タンパク質の1つまたは複数のペプチド結合の加水分解を指す。適当な加水分解剤を用いて試料中のタンパク質の消化、例えば酵素的消化または非酵素的消化を実行するには、いくつかのアプローチがある。本明細書において使用する用語「加水分解剤」は、タンパク質の消化を行うことができる多数のさまざまな作用物質のいずれか1つまたは任意の組み合わせを指す。酵素的消化を実行することができる加水分解剤の非限定的な例としては、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼ T(OmpT)、化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモライシン、パパイン、プロナーゼ、およびアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼが挙げられる。非酵素的消化を実行することができる加水分解剤の非限定的な例としては、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、溶媒(非限定的な例はエタノールおよびアセトニトリルである)、固定化酵素消化(IMER)、磁気粒子固定化酵素およびオンチップ固定化酵素の使用が挙げられる。利用可能なタンパク質消化のための技法を論じる最近の総説として、Switazarら著「Protein Digestion: An Overview of the Available Techniques and Recent Developments」(J. Proteome Research 2013, 12, 1067-1077)を参照されたい。加水分解剤の1つまたは組み合わせは、タンパク質またはポリペプチド中のペプチド結合を配列特異的に開裂して、より短いペプチドの予測可能な集合物を生成する。
【0117】
タンパク質を消化するために使用することができるアプローチはいくつかある。試料中のタンパク質を消化するための広く受け入れられている方法の1つは、プロテアーゼの使用を伴う。多くのプロテアーゼを利用することができ、それらのそれぞれは、特異性、効率および至適消化条件に関して、それぞれの特徴を有している。プロテアーゼとは、ペプチド内の非末端アミノ酸または末端アミノ酸で開裂を行うプロテアーゼの能力に基づいて分類されるエンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの両方を指す。あるいは、プロテアーゼは、触媒機序に基づいて分類される6つの相異なるクラス、すなわちアスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼならびにメタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、セリンプロテアーゼおよびスレオニンプロテアーゼも指す。「プロテアーゼ」および「ペプチダーゼ」という用語は、ペプチド結合を加水分解する酵素を指すために相互可換的に使用される。プロテアーゼは、特異的プロテアーゼと非特異的プロテアーゼとに分類することもできる。本明細書において使用する用語「特異的プロテアーゼ」は、ペプチドの特異的アミノ酸側鎖でペプチド基質を開裂する能力を持つプロテアーゼを指す。本明細書において使用する用語「非特異的プロテアーゼ」は、ペプチドの特異的アミノ酸側鎖でペプチド基質を開裂する能力が低減しているプロテアーゼを指す。開裂優先度は、タンパク質配列中の開裂されたアミノ酸の総数に対する開裂部位としての特定アミノ酸の数の比に基づいて決定しうる。
【0118】
タンパク質は、任意で、特性解析を行う前に調製することができる。いくつかの例示的態様において、タンパク質調製はタンパク質消化の工程を含む。いくつかの具体的な例示的態様において、タンパク質調製はタンパク質消化の工程を含み、そのタンパク質消化はトリプシンを用いて実行することができる。
【0119】
いくつかの例示的態様において、タンパク質調製は、タンパク質消化工程の前に、タンパク質を変性させ、タンパク質を還元し、タンパク質を緩衝化し、かつ/または試料を脱塩するための工程を含むことができる。これらの工程は、所望に応じて、任意の適切な方法で達成することができる。
【0120】
ペプチドマッピング分析またはインタクト質量分析を使ってさまざまなタンパク質属性の特性解析を行うために、多種多様なLC-MSベースのアッセイを行うことができる。
【0121】
本明細書において使用する用語「液体クロマトグラフィー」は、液体によって運ばれる化学物質混合物が、それらが定常相または固定相の周りまたは上を流れる時の化学物質の分布の相違の結果として、構成成分に分離されうるプロセスを指す。液体クロマトグラフィーの非限定的な例として、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーが挙げられる。
【0122】
本明細書において使用する用語「質量分析計」は、特定の分子種を検出し、それらの質量を正確に測定することができる装置を指す。この用語は、任意の分子検出器であって、検出および/または特性解析のために、その中にポリペプチドまたはペプチドを溶出させることができる分子検出器を包含するものとすることができる。質量分析計は、イオン源、質量分析装置および検出器という3つの主要部分からなる。イオン源の役割は気相イオンを作出することである。分析物である原子、分子またはクラスターを気相に移し、(エレクトロスプレーイオン化の場合には)同時にイオン化することができる。イオン源の選択は応用に依存する。
【0123】
本明細書において使用する用語「エレクトロスプレーイオン化」、すなわち「ESI」は、溶解状態にあるカチオンまたはアニオンが、溶液を含有するエレクトロスプレーエミッターニードルの先端と対電極との間に電位差を印加することによって得られる高度に帯電した液滴流の大気圧における形成および脱溶媒によって気相に移される、スプレーイオン化のプロセスを指す。溶解状態にある電解質イオンからの気相イオンの生成には主要工程が3つある。それらは、(a)ES注入チップ(infusion tip)における帯電液滴の生成、(b)溶媒蒸発による帯電液滴の縮小、および気相イオンを生成することができる高度に帯電した小さな液滴をもたらす液滴分裂の繰り返し、および(c)極めて小さく高度に帯電した液滴から気相イオンが生成する機序である。段階(a)~(c)は一般に機器の大気圧領域で起こる。
【0124】
本明細書において使用する用語「エレクトロスプレーイオン化源」は、タンパク質の質量分析に使用される質量分析計と適合しうるエレクトロスプレーイオン化システムを指す。エレクトロスプレーイオン化において、エレクトロスプレーエミッターニードルは、分析計の入射口近くに配置されたその開口部を有する。関心対象のタンパク質を含有する試料はエレクトロスプレーエミッターニードルを通って注入されうる。エレクトロスプレーエミッターニードル開口部と質量分析装置につながる開口部との間の電位が、溶液のスプレー(「エレクトロスプレー」)を形成する。エレクトロスプレーは大気圧で実行することができ、溶液の高度に帯電した液滴を与える。エレクトロスプレーイオン化源は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、加熱エレクトロスプレーイオン化(H-ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)など、いくつかある大気圧イオン化(API)モードのうちのいずれかで作動するように構成されうる。エレクトロスプレー注入機構は、任意で、試料吸引、試料分配、試料送達を実行するために、かつ/または試料をスプレーするために、自動化されうる。エレクトロスプレーイオン化プローブは、試料イオンを含有する帯電エアロゾル液滴を生成することができる。ESIプローブはスプリットなしで5μL/分~1mL/分の液流に適応することができる。
【0125】
ESIプローブは、ESI試料チューブ、エレクトロスプレーエミッターニードル、ノズル、および多岐管を含むことができる。試料および溶媒は試料チューブを通ってESIプローブに進入することができる。試料チューブは、ステンレス鋼接地からESIニードルの端部に至るOD溶融シリカ管の短い区画であることができる。エレクトロスプレーエミッターニードルは、そこに大きな負または正の電圧を印加することができ、試料溶液をスプレーして帯電液滴の微細な霧にすることができる。ESIノズルはシースガスおよび補助ガスの流れを液滴に向かわせることができる。ESI多岐管は、ESIノズル、エレクトロスプレーエミッターニードル、シースガスインレット、補助ガスインレット、シースガス配管、および補助ガス配管を収容することができる。シースガス配管および補助ガス配管は乾燥ガスをノズルに送達することができる。多岐管におけるシースガスインレットおよび補助ガスインレットは、それぞれシースガスインレットラインおよび補助ガスインレットラインに接続することができる。あるいは、多岐管におけるシースガスインレットおよび補助ガスインレットは、それぞれ改質脱溶媒ガスアウトレットラインおよび補助ガスインレットラインに接続することができる。ガスインレットとガスインレットラインとの接続はアダプタ取付具を用いて行うことができる。
【0126】
本明細書において使用する用語「ナノエレクトロスプレー」または「ナノスプレー」は、極めて低い溶媒流量での、典型的には毎分数百ナノリットル以下の試料溶液で、多くの場合、外からの溶媒送達を使用せずに行われる、エレクトロスプレーイオン化を指す。
【0127】
本明細書にいう「質量分析装置」は、化学種、すなわち原子、分子、またはクラスターを、それらの質量に従って分離することができる装置を指す。迅速なタンパク質シーケンシングに使用しうる質量分析装置の非限定的な例は、飛行時間型(TOF)、磁場/電場セクター型、四重極マスフィルター型(Q)、四重極イオントラップ型(QIT)、オービトラップ型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FTICR)、そしてまた加速器質量分析(AMS)の技法である。
【0128】
本明細書にいう「質量電荷比」、すなわち「m/z」は、統一原子質量単位で表したイオンの質量をその電荷数(符号は問わない)で割ることによって形成される無次元量を表すために使用される。一般に、荷電状態は、イオン化の方法(エレクトロスプレーイオン化、ESIは、多重イオン化を促進する傾向があるが、この多重イオン化はMALDIではそれほど頻繁ではない)、ペプチドの長さ(長いペプチドほど追加のプロトンを結合させることができる基(塩基性残基)が多い)、ペプチドの配列(一部のアミノ酸(例えばArgまたはLys)は他のアミノ酸よりイオン化を起こしやすい)、計器設定、溶媒pH、および溶媒組成に依存する。
【0129】
本明細書において使用する用語「タンデム質量分析」は、多段階の質量選択および質量分離を使って試料分子に関する構造情報を得ることができる技法を指す。必要条件は、試料分子を気相に移行させることができ、試料分子がインタクトな状態でイオン化されうること、および最初の質量選択工程後にそれらを予測可能かつ制御可能な様式で分裂するように誘導しうることである。多段階MS/MS、すなわちMSnは、まず、前駆体イオンを選択して単離し(MS2)、それを断片化して一次フラグメントイオンを単離し(MS3)、それを断片化して二次フラグメントを単離する(MS4)というように、意味のある情報を得ることが可能である限り、またはフラグメントイオンシグナルが検出可能である限り、行うことができる。タンデムMSは、多種多様な分析装置の組み合わせでうまく行われている。一定の応用のためにどんな分析装置を組み合わせるかは、例えば感度、選択性および速度の他、サイズ、費用および利用可能性などといった数多くの異なる因子によって決定されうる。タンデムMS法の2つの主要カテゴリーは空間的タンデム(tandem-in-space)および時間的タンデム(tandem-in time)であるが、時間的タンデム分析装置が空間的にカップリングされるかまたは空間的タンデム分析装置とカップリングされるハイブリッド型もある。
【0130】
空間的タンデム質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化装置、および少なくとも2つの非トラップ型質量分析装置で構成される。特定m/z分離機能は、計器の一区画においてイオンが選択され、それを中間領域で解離させ、次に生成物イオンをm/z分離およびデータ取得のためにもう一つの分析装置に送るように、設計されうる。
【0131】
時間的タンデム質量分析計では、イオン源で生成したイオンが、同じ物理的装置においてトラップされ、単離され、断片化され、m/z分離されうる。
【0132】
本明細書において使用する用語「四重極-オービトラップハイブリッド質量分析計」は、四重極質量分析計をオービトラップ質量分析装置にカップリングすることによって作製されるハイブリッドシステムを指す。四重極-オービトラップハイブリッド質量分析計を用いる時間的タンデム実験は、四重極質量分析計からの選択された狭いm/z範囲内のイオンを除くすべてのイオンの排出から始まる。選択されたイオンはオービトラップに挿入され、ほとんどの場合、低エネルギーCIDによって断片化されうる。トラップのm/z許容範囲内のフラグメントはトラップ内に残るはずであり、MS-MSスペクトルを得ることができる。限定するわけではないがQIT-FTICRおよびQq-FTICRなどといった同様のハイブリッドシステムを、迅速なタンパク質シーケンシングに使用することができる。
【0133】
本発明は上述の液体クロマトグラフィー、質量分析計のいずれかに限定されるわけではなく、任意の液体クロマトグラフィーまたは質量分析計を任意の適切な手段によって選択することができると理解される。
【0134】
タンパク質の特性解析
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトタンパク質およびそれらの翻訳後修飾の代理標本(surrogate representative)として使用することができる。それらは、実験的MS/MSデータを、タンパク質配列データベース中の考えうるペプチドから生成させた理論的MS/MSデータと相関させることによって、タンパク質特性解析に使用することができる。特性解析としては、タンパク質フラグメントのアミノ酸を配列決定すること、タンパク質シーケンシングを決定すること、タンパク質デノボシーケンシングを決定すること、翻訳後修飾の場所を特定すること、もしくは翻訳後修飾を同定すること、もしくは同等性/同質性分析(comparability analysis)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0135】
本明細書において使用する用語「タンパク質デノボシーケンシング」は、他の情報源から得られる情報に頼らずにペプチドのアミノ酸配列を決定するための手順を指す。質量分析の感度のレベルは高いので、この技法は、従来のシーケンシング法の性能では及ばないことが多い極めて重要な情報を提供することができる。
【0136】
本明細書において使用する用語「タンパク質配列カバレッジ」は、同定されたペプチドによってカバーされるタンパク質配列のパーセンテージを指す。パーセントカバレッジは、見いだされたすべてのペプチド中のアミノ酸の数を全タンパク質配列中のアミノ酸の総数で割ることによって算出することができる。
【0137】
本明細書において使用する用語「データベース」は、未解釈のMS-MSスペクトルを、データベース中の考えうる全配列に対して検索できるようにするバイオインフォマティクスのツールを指す。そのようなツールの非限定的な例は、Mascot(http://www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(http://www.chem.agilent.com)、PLGS(http://www.waters.com)、PEAKS(http://www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(http://download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(http://www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(http://www.sagenresearch.com)、OMSSA(http://www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(http://www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(http://www.http://prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(https://www.proteinmetrics.com/products/byonic)またはSequest(http://fields.scripps.edu/sequest)である。
【0138】
例示的態様
本明細書に開示する態様は、試料中のタンパク質の迅速な特性解析のための組成物、方法およびシステムを提供する。
【0139】
本明細書において使用する用語「include」、「includes」および「including」(含む、包含する)は、非限定的であることを意味し、それぞれ「comprise」、「comprises」および「comprising」(含む、備える)を意味すると理解される。
【0140】
いくつかの例示的態様において、本開示は、(i)液体クロマトグラフィー装置、(ii)エレクトロスプレーイオン化源および(iii)質量分析装置を含む、液体クロマトグラフィー質量分析システムを提供する。
【0141】
いくつかの例示的態様において、本開示は、(i)容器110、(ii)シースガスインレットライン120、(iii)改質脱溶媒ガスアウトレットライン130、および(iv)エレクトロスプレーイオン化プローブ140を含むエレクトロスプレーイオン化源100を提供する(
図2参照)。
【0142】
いくつかの例示的態様において、本開示は、(i)エレクトロスプレーイオン化源100のインレットに試料を供給する工程、(ii)エレクトロスプレーイオン化源のアウトレットで試料中のタンパク質の構成成分のイオンを生成する工程、および(iii)質量分析計を用いてイオンを分析し、タンパク質の構成成分を同定して、タンパク質の特性解析を行う工程を含む、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法を提供する。
【0143】
液体クロマトグラフィー装置の非限定的な例としては、逆相液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、および疎水性クロマトグラフィーを挙げることができる。
【0144】
いくつかの例示的態様において、シースガスインレットライン120はTeflonチューブであることができる。
【0145】
いくつかの例示的態様において、シースガスインレットライン120は、フレキシブルステンレス鋼管であることができる。
【0146】
いくつかの例示的態様において、シースガスインレットライン120は、ポリエーテルエーテルケトンを用いて作製されたチューブであることができる。
【0147】
いくつかの例示的態様において、改質脱溶媒ガスアウトレットライン130はTeflonチューブであることができる。
【0148】
いくつかの例示的態様において、改質脱溶媒ガスアウトレットライン130はフレキシブルステンレス鋼管であることができる。
【0149】
いくつかの例示的態様において、改質脱溶媒ガスアウトレットライン130は、ポリエーテルエーテルケトンを用いて作製されたチューブであることができる。
【0150】
いくつかの例示的態様において、容器110はキャップ150を含むことができる。キャップは移動相と共に安全に使用することができる。
【0151】
いくつかの例示的態様において、容器110はキャップ150を含むことができ、キャップはキャップと容器との間に気密シールを形成することができうる。使用することができるキャップの非限定的な例として、Analytical SalesのCanary-Safe Cap、RestekのEco-capボトルトップ、RestekのOpti-capボトルトップおよびVWRの不活性移動相ボトルキャップ(inert mobile phase bottle cap)キャップが挙げられる。
【0152】
いくつかの例示的態様において、キャップ150はスクリューキャップを含むことができる。
【0153】
いくつかの例示的態様において、キャップ150はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料製であることができる。
【0154】
いくつかの例示的態様において、キャップ150は、キャップと容器110との間の気密シールを保証するために、Oリングをさらに含むことができる。
【0155】
いくつかの例示的態様において、容器110におけるキャップ150は、管用のポートを少なくとも1つは有することができる。一局面において、容器110におけるキャップ150は、管用のポートを2つ有することができる。
【0156】
いくつかの例示的態様において、容器110におけるキャップ150は、少なくとも1つのインレットポート160を有することができる。
【0157】
いくつかの例示的態様において、容器110におけるキャップ150は、少なくとも1つのアウトレットポート170を有することができる。
【0158】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100のエレクトロスプレーイオン化プローブ140は、シースガスインレット180を含むことができる。
【0159】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100は、インレットラインポート160およびアウトレットラインポート170を持つキャップ150を有する容器110と、インレットラインポート160にシースガスを提供することができるシースガスインレットライン120とを含むことができる。
【0160】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100は、インレットラインポート160およびアウトレットラインポート170を持つキャップ150を有する容器110と、アウトレットラインポート170をエレクトロスプレーイオン化プローブ140のシースガスインレット180に接続することができる改質脱溶媒ガスアウトレットライン130とを含むことができる。
【0161】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は正極性モードで作動させることができうる。
【0162】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は負極性モードで作動させることができうる。
【0163】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は補助ガスインレット190を含むことができる。
【0164】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140はエレクトロスプレーエミッターニードルをさらに含むことができる。
【0165】
いくつかの例示的態様において、シースガスは、シースガス源200によって、インレットラインポート160を持つキャップ150を有する容器110に、シースガスインレットライン120を通して提供されうる。シースガスの非限定的な例として、空気、窒素が挙げられる。
【0166】
いくつかの例示的態様において、補助ガスは、補助ガス源210によって、エレクトロスプレーイオン化プローブ140の補助ガスインレット190に、補助ガスインレットライン220を通して提供されうる。補助ガスの非限定的な例として、空気、窒素が挙げられる。
【0167】
いくつかの例示的態様において、シースガス源200によって、インレットラインポート160を持つキャップ150を有する容器110に、シースガスインレットライン120を通して提供されうるシースガスは、窒素ガスであることができる。
【0168】
いくつかの例示的態様において、補助ガス源210によって、エレクトロスプレーイオン化プローブ140の補助ガスインレット190に、補助ガスインレットライン220を通して提供されうる補助ガスは、窒素ガスであることができる。
【0169】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は、エレクトロスプレーエミッターニードル、シースガス流配管、および補助ガス流配管を含むことができる。
【0170】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源110は、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含むことができるエレクトロスプレーイオン化プローブ140を含むことができ、エレクトロスプレーイオン化プローブは、シースガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0171】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は、補助ガス流配管中の流れをエレクトロスプレーエミッターニードルに対して同軸に方向付けるように構成されうる。
【0172】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は加熱エレクトロスプレーイオン化プローブであることができる。
【0173】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化プローブ140は、試料吸引、試料分配、試料送達を実行するために、かつ/または試料をスプレーするために、自動化されうる。
【0174】
いくつかの例示的態様において、容器110はインレットラインポート160を持つキャップ150とシースガスインレットライン120とを有し、シースガスインレットライン120は部分的にインレットラインポート160に挿入されうる。
【0175】
いくつかの例示的態様において、アウトレットラインポート170を持つキャップ150と改質脱溶媒ガスアウトレットライン130、改質脱溶媒ガスアウトレットライン130は部分的にアウトレットラインポート170に挿入されうる。
【0176】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100は、シースガスインレットライン120からのシースガスが容器100を通って脱溶媒ガスアウトレットライン130へと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0177】
いくつかの例示的態様において、容器100は第2容器230に囲まれうる。いくつかの具体的な例示的態様において、第2容器230はポリエチレン製であることができる。一局面において、第2容器230は、ガラスボトルに飛散防止のための保護を与えることができうる。別の一局面において、第2容器230は上端に開口を有することができる。
【0178】
いくつかの例示的態様において、容器110はホウケイ酸ガラス材料製であることができる。
【0179】
いくつかの例示的態様において、容器110の容積は約10ml~約5000mlの範囲であることができる。一局面において、容器110の容積は、約10ml、約20ml、約30ml、約40ml、約50ml、約60ml、約70ml、約80ml、約90ml、約100ml、約110ml、約120ml、約130ml、約140ml、約150ml、約160ml、約170ml、約180ml、約190ml、約200ml、約210ml、約220ml、約230ml、約240ml、約250ml、約260ml、約270ml、約280ml、約290ml、約300ml、約310ml、約320ml、約330ml、約340ml、約350ml、約360ml、約370ml、約380ml、約390ml、約400ml、約410ml、約420ml、約430ml、約440ml、約450ml、約460ml、約470ml、約480ml、約490ml、約1000ml、約1100ml、約1200ml、約1300ml、約1400ml、約1500ml、約1600ml、約1700ml、約1800ml、約1900ml、約2000ml、約2500ml、約3000ml、約3500ml、約4000ml、約4500ml、または約5000mlであることができる。
【0180】
いくつかの例示的態様において、容器110は耐圧容器であることができる。
【0181】
いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも約0.5バール(ゲージ圧)の耐圧性を有することができる。一局面において、容器110は、少なくとも約0.5バール(ゲージ圧)、少なくとも約0.6バール(ゲージ圧)、少なくとも約0.7バール(ゲージ圧)、少なくとも約0.8バール(ゲージ圧)、少なくとも約0.9バール(ゲージ圧)、少なくとも約1バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.1バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.2バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.3バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.4バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.5バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.6バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.7バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.8バール(ゲージ圧)、少なくとも約1.9バール(ゲージ圧)、または少なくとも約2.0バール(ゲージ圧)の耐圧性を有することができる。
【0182】
いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも1種の有機溶媒で満たされることができうる。有機溶媒の非限定的な例として、アセトニトリル、プロパノール、イソプロパノール、水およびメタノールが挙げられる。
【0183】
いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも1種の酸で満たされることができうる。酸の非限定的な例として、酢酸、プロピオン酸、およびギ酸が挙げられる。
【0184】
いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも1種の塩基で満たされることができうる。塩基の非限定的な例として、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、およびピペリジンが挙げられる。いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも1種の有機溶媒および少なくとも1種の酸で満たされることができうる。
【0185】
いくつかの例示的態様において、容器110は少なくとも1種の有機溶媒および少なくとも1種の塩基で満たされることができうる。
【0186】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100は、シースガスインレットライン120からのシースガスが有機溶媒と追加の化学的構成成分とで満たされうる容器110を通って脱溶媒ガスアウトレットライン130へと流れ込むことを許すように構成されうる。
【0187】
いくつかの例示的態様において、エレクトロスプレーイオン化源100は、エレクトロスプレーに約5μL/分を上回る溶媒流量を与えることができうる。一局面において、エレクトロスプレーイオン化源100は、エレクトロスプレーに、約5μL/分を上回る、約6μL/分を上回る、約7μL/分を上回る、約8μL/分を上回る、約9μL/分を上回る、約10μL/分を上回る、約11μL/分を上回る、約12μL/分を上回る、約13μL/分を上回る、約14μL/分を上回る、約15μL/分を上回る、約16μL/分を上回る、約17μL/分を上回る、約18μL/分を上回る、約19μL/分を上回る、約20μL/分を上回る、約25μL/分を上回る、約30μL/分を上回る、約35μL/分を上回る、約40μL/分を上回る、約45μL/分を上回る、約50μL/分を上回る、約55μL/分を上回る、約60μL/分を上回る、約65μL/分を上回る、約70μL/分を上回る、約75μL/分を上回る、約80μL/分を上回る、約85μL/分を上回る、約90μL/分を上回る、約95μL/分を上回る、約100μL/分を上回る、約110μL/分を上回る、約120μL/分を上回る、約130μL/分を上回る、約140μL/分を上回る、約150μL/分を上回る、約160μL/分を上回る、約170μL/分を上回る、約180μL/分を上回る、約190μL/分を上回る、約200μL/分を上回る、約225μL/分を上回る、約250μL/分を上回る、約275μL/分を上回る、約300μL/分を上回る、約325μL/分を上回る、約350μL/分を上回る、約375μL/分を上回る、約700μL/分を上回る、約425μL/分を上回る、約450μL/分を上回る、または約500μL/分を上回る溶媒流量を与えることができうる。
【0188】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30は、タンパク質の特性解析を行うために、タンパク質の構成成分を同定することができうる。
【0189】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30はタンデム質量分析計であることができる。
【0190】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30は時間的タンデム質量分析計であることができる。
【0191】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30は空間的タンデム質量分析計であることができる。
【0192】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30はハイブリッド型であることができ、その場合、時間的タンデム分析装置は空間的にカップリングされうるかまたは空間的タンデム分析装置とカップリングされうる。
【0193】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30は四重極-オービトラップハイブリッド質量分析計であることができる。四重極-オービトラップハイブリッド質量分析計は、Q Exactive(商標)Focus Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)BioPharma Platform、Q Exactive(商標)UHMR Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)HF Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、Q Exactive(商標)HF-X Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計、およびQ Exactive(商標)Hybrid Quadrupole-Orbitrap(商標)質量分析計であることができる。
【0194】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30はQIT-FTICRであることができる。
【0195】
いくつかの例示的態様において、質量分析計30はQq-FTICRであることができる。
【0196】
いくつかの例示的態様において、試料中のタンパク質の特性解析を行う方法は、試料中のタンパク質を検出または定量する工程を含むことができる。
【0197】
例示的一態様において、タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、抗体フラグメントまたは多重特異性抗体を含むことができる。
【0198】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は治療用抗体であることができる。
【0199】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は免疫グロブリンタンパク質であることができる。
【0200】
例示的一態様において、免疫グロブリンタンパク質はIgG1であることができる。
【0201】
例示的一態様において、免疫グロブリンタンパク質はIgG4であることができる。
【0202】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は二重特異性抗体であることができる。
【0203】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は、抗体を消化した時に形成される抗体フラグメントであることができる。
【0204】
例示的一態様において、タンパク質はタンパク質変異体であることができる。
【0205】
例示的一態様において、タンパク質は翻訳後修飾されたタンパク質であることができる。
【0206】
例示的一態様において、翻訳後修飾されたタンパク質は、開裂、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化、C末端のアミド化、酸化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化、アルキル化、メチル化、アデニル化、ADP-リボシル化、ポリペプチド鎖内またはポリペプチド鎖間での共有結合による架橋、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存的修飾、ビタミンK依存的修飾、グルタミル化、グリシル化、グリコシル化、脱グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイニル化、リン酸化、硫酸化、シトルリン化、脱アミド、ジスルフィド架橋の形成、タンパク質分解的開裂、ISG化、SUMO化またはユビキチン化(タンパク質ユビキチンの共有結合)によって形成されうる。
【0207】
例示的一態様において、翻訳後修飾されたタンパク質はタンパク質が酸化した時に形成されうる。
【0208】
別の例示的一態様において、分解産物は治療用タンパク質の翻訳後修飾を含むことができる。
【0209】
別の例示的一態様において、タンパク質はタンパク質の分解産物であることができる。
【0210】
さらに別の例示的一態様において、タンパク質は生物製剤製品に見いだされる不純物であることができる。
【0211】
別の例示的一態様において、タンパク質は生物学的製剤の製造中に見いだされる不純物であることができる。
【0212】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は、約4.5~約9.0の範囲内のpIを持つタンパク質であることができる。一局面において、タンパク質は、約4.5、約5.0、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1 約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1 約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1 約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、または約9.0のpIを持つタンパク質であることができる。
【0213】
いくつかの例示的態様において、タンパク質は目的物質由来不純物であることができる。目的物質由来不純物は、分子変異体、前駆体、分解産物、断片化したタンパク質、消化産物、凝集物、翻訳後修飾体、またはそれらの組み合わせであることができる。
【0214】
いくつかの具体的な例示的態様において、タンパク質は製造工程由来不純物であることができる。製造工程由来不純物は、製造プロセスに由来する不純物、例えば核酸および宿主細胞タンパク質、抗生物質、血清、他の培地構成成分、酵素、化学的および生化学的処理試薬、無機塩、溶媒、担体、リガンド、および製造プロセスにおいて使用される他の漏出物を含みうる。
【0215】
いくつかの具体的な例示的態様において、タンパク質は不純物であることができる。例示的一態様において、試料中の不純物の数は少なくとも2種であることができる。
【0216】
いくつかの例示的態様において、タンパク質を溶出するために使用される移動相は、質量分析計と適合しうる移動相であることができる。
【0217】
いくつかの例示的態様において、液体クロマトグラフィー装置において使用される移動相は、水、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸、ギ酸、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0218】
いくつかの例示的態様において、移動相は、液体クロマトグラフィー装置において約0.1ml/分~約0.4ml/分の流量を有することができる。一局面において、液体クロマトグラフィー装置における移動相の流量は、約0.1ml/分、約0.15ml/分、約0.20ml/分、約0.25ml/分、約0.30ml/分、約0.35ml/分、または約0.4ml/分であることができる。
【0219】
本システムは、上述のタンパク質、不純物、移動相、質量分析計、有機溶媒、酸、塩基、またはクロマトグラフィーカラムに限定されないと理解される。
【0220】
本明細書において数字および/または文字が与えられている方法工程の連番は、当該方法およびその任意の態様を、示された特定の順序に限定するものではない。
【0221】
本明細書の全体を通して、特許、特許出願、特許出願公開、アクセッション番号、技術論文および学術論文を含むさまざまな刊行物に言及する。言及されたこれらの参考文献のそれぞれは、その全体があらゆる目的のために、本明細書に組み入れられる。
【0222】
本開示は、本開示をさらに詳しく説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。実施例は例証を目的としており、本開示の範囲を限定していると解釈してはならない。
【実施例0223】
材料. 脱イオン水は、MilliPak Express 20フィルターを取り付けたMilli-Q Integral水精製システム(Millipore Sigma、マサチューセッツ州バーリントン)によって得た。NISTモノクローナル抗体標準物質8671(NISTmAb、ヒト化IgG1κモノクローナル抗体)は、National Institute of Standards and Technology(メリーランド州ゲイサーズバーグ)から購入した。ラピッドペプチドN-グリコシダーゼF(Rapid PNGase F)は5×Rapid PNGase F緩衝液と共に、New England Biolabs Inc.(マサチューセッツ州イプスウィッチ)から購入した。TCEP-HCl(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、Tris-HCl pH7.5(UltraPure)、トリフルオロ酢酸(LC-MSグレード)、ギ酸(LC-MSグレード)およびアセトニトリル(Optima LC/MSグレード)は、Thermo Fisher Scientific(マサチューセッツ州ウォルサム)から購入し、トリプシン(シーケンシンググレード)はPromega(ミシガン州マディソン)から購入した。ヨードアセトアミド、プロピオン酸および酢酸はSigma Aldrich, Co.(ミズーリ州セントルイス)から購入した。2-プロパノール(HPLCグレード)はVWR International, LLC(ペンシルベニア州ラドノー)から購入した。
【0224】
安全性配慮. 脱溶媒ガス改質実験では、シースガスを15任意単位に設定した。これより高い設定も可能かもしれないが、ボトル内の圧力を測定して、決してボトルの圧力定格を超えないようにすべきである。この応用には耐圧ボトル(例えばDuran pressure plusボトル、圧力定格:+1.5バール)が強く推奨された。考えうる酸漏れまたは塩基漏れを防止するために、この機構には二次容器も必要であった。
【0225】
実施例1
1.1 試料調製
NISTmAb保存試料(100μg)を5mM酢酸に希釈し、5mM TCEP-HClを用いて、80℃で10分間、還元した。1M Tris-HCl(pH7.5)を用いてpHを7.5に調節した後、10mMヨードアセトアミドおよび5μgのトリプシン(E/S比1:20)を加え、試料を37℃で3時間インキュベートした。最後に、消化を止めるために、溶液を1%TFAで酸性化した。
【0226】
1.2 LC-MS分析
NISTmAbのペプチドマッピング分析のために、消化物の一部(2μg)を、Q-Exactive質量分析計でのオンラインLC-MS/MS分析のために、ACQUITY UPLC Peptide BEH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm)(Waters、マサチューセッツ州ミルフォード)を用いて分離した。分離には、移動相Aを水中の0.1%FA(v/v)とし、移動相Bはアセトニトリル(ACN)中の0.1%FAとした。詳しいLC勾配およびMSパラメータをそれぞれ表1および表2に掲載する。
【0227】
【0228】
(表2)ペプチドマッピング分析のためのMSパラメータ
a:溶媒ボトル内の圧力を低減するためにシースガス設定を15任意単位に下げた。
【0229】
1.3 結果
図3に、BEH C18カラムでFAを移動相として用いたNISTmAbのトリプシン消化物のLC-MS分析から得られた基準ピーククロマトグラム(BPC)を示す。
【0230】
実施例2
2.1 試料調製
試料調製は1.1で述べたように実行した。
【0231】
2.2 LC-MS分析
NISTmAbのペプチドマッピング分析のために、消化物の一部(2μg)を、Q-Exactive質量分析計でのオンラインLC-MS/MS分析のために、ACQUITY UPLC Peptide BEH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×150mm)(Waters、マサチューセッツ州ミルフォード)を用いて分離した。分離には、移動相Aを水中の0.05%TFA(v/v)とし、移動相BをACN中の0.045%TFA(v/v)とした。履行したLC勾配およびMSパラメータを、それぞれ表1および表2に掲載する。
【0232】
2.3 結果
図4に、BEH C18カラムでTFAを移動相として用いたNISTmAbのトリプシン消化物のLC-MS分析から得られた基準ピーククロマトグラム(BPC)を示す。
図3と
図4のBPCを比較すると、移動相改質剤としてFAまたはTFAのどちらかを使用することで、C18カラムでのトリプシンペプチドの分離および保持が著しく相違したことは明白である。一般に、クロマトグラフィー性能面では、TFAはFAより優れていて、親水性ペプチドのより良い保持、より良いピーク形状および総合的に高いピーク容量を呈する。例えば、小さなトリプシンペプチドEYK(P1、
図4)は、FAを使用した場合にはC18カラム上に保持されず、一方、TFAを適用した場合には同じカラムに保持される。この特徴は、ペプチドマッピング分析でのタンパク質生物製剤の配列カバレッジを改良するかもしれない。他方、TFAに基づく分析は、FAに基づく分析と比較して、MS感度の著しい喪失を呈した。
【0233】
実施例3
3.1 試料調製
試料調製は1.1で述べたように実行した。
【0234】
3.2 LC-MS分析
LS-MS分析は2.2で述べたように実行した。
【0235】
3.3 脱溶媒ガスの改質
1/8”TEFLON管を使用し、Canary-Safeキャップ(Analytical Sales and Services, Inc.、ニュージャージー州フランダース)を通して、Q-Exactive質量分析計からのシースガス流を、Duran pressure plusボトル(SCHOTT North America, Inc.、ニューヨーク州エルムスフォード)に転送した(
図1)。次に、ボトルから出ていく管を、Thermo Scientific Ion Maxイオン源のHESI-IIプローブに再接続した。ペプチドマッピング分析のために、150mLのプロピオン酸(PA)および50mLのイソプロパノール(IPA)を混合し、ボトルに移した。次に、PAおよびIPAを含有するボトルを、管を挿入するための16mmの開口を上端に持つポリエチレン製二次容器(BEL-ART酸/溶媒ボトルキャリア、ニュージャージー州ウェイン)に入れた。改質を無効にするには、この装置を通さずに、シースガス管を直接HESI-IIプローブに接続した。
【0236】
3.4結果
図5に、脱溶媒改変を有効にして、BEH C18カラムでトリフルオロ酢酸を移動相として用いたNISTmAbのトリプシン消化物のLC-MS分析から得られた基準ピーククロマトグラム(BPC)を示す。
図5におけるBPC(TFA含有移動相、脱溶媒ガス改質有効)を
図3(FA含有移動相、脱溶媒ガス改質無効)および
図4(TFA含有移動相、脱溶媒ガス改質無効)と比較すると、PAおよびIPAからの酸蒸気による脱溶媒ガスの改質が、TFAに基づく分析について、MS感度の著しい増加につながったことは明白である。
【0237】
サイズと保持時間が異なる6つの代表的トリプシンペプチドによって実証されるとおり(下記表3)、このアプローチにより、ペプチドのサイズおよび移動相の組成とは無関係に、MS感度の4.9~5.8倍の増加が容易に達成された。加えて、脱溶媒ガス改質後は、荷電状態のわずかな増加も一貫して観察された。この特徴は、高度に帯電した化学種の断片化効率の向上により、タンデムMSのスペクトル品質の改良につながり、続いて信頼性が向上した同定をもたらすかもしれない。総合すると、開発された装置を用いて酸蒸気で脱溶媒ガスを改質することにより、感度が著しく向上したペプチドマッピング法を、容易に達成することができる。獲得されたMS感度は、タンパク質生物製剤中に存在する存在量の低い属性、例えばPTMおよび配列変異体の特性解析を行うのに、大きな価値がある。
【0238】
(表3)3つの条件下で分析されたNISTmAbからの6つの代表的トリプシンペプチドのMS強度および平均荷電状態の比較
【0239】
実施例4
4.1 試料調製
初期試料調製は1.1で述べたように実行した。ただし、新しいアプローチを連続分析に応用できるかどうか、および改良された感度がペプチドマッピング分析のために長期間にわたって維持されうるかどうかを評価するために、NISTmAb消化を2日連続して反復して行った。
【0240】
4.2 LC-MS分析
LS-MS分析は2.2で述べたように実行した。
【0241】
4.3 脱溶媒ガスの改質
脱溶媒ガスの改質は3.3で述べたように実行した。
【0242】
4.4 結果
ここでも、3.3で述べたように酸蒸気による脱溶媒ガス改質を有効にすると、対照法(実施例3で述べたもの)と比較してMS感度の向上が直ちに達成され、それは試験した少なくとも37連続実験(約3800分)にわたって維持された(
図6参照)。PAとIPAとの混合物の消費は、適用した実験条件では、毎時1mLと見積もられた。結果として、開発されたアプローチは、大きな試料セットの連続分析がしばしば要求されうるタンパク質生物製剤のルーチンペプチドマッピング分析に、極めて適している。
【0243】
実施例5
実施例1~4は、ペプチドマッピング分析のために脱溶媒ガスアプローチを使った結果を例証している。電荷低減によってタンパク質生物製剤のインタクト質量分析を改良する目的で同じアプローチを利用することができるかどうかを評価するために、弱塩基による脱溶媒ガスアプローチを使った実験を行った。
【0244】
5.1 試料調製
希釈したNISTmAb溶液(1μg/μL)に10mM TCEP-HClを加え、試料を50℃で30分間インキュベートした。試薬タンパク質X上に存在するN-グリカンを除去するために、タンパク質試料をまず5×Rapid PNGase F緩衝液(還元剤含有)を用いて0.25μg/μLに希釈し、次にその溶液を80℃で10分間インキュベートした。次に、その溶液にRapid PNGase Fを加え、その試料を50℃で30分間インキュベートした。
【0245】
5.2 RPLC分析
還元されたNISTmAbおよび試薬タンパク質Xのインタクト質量分析のために、各試料の一部(4μg)を、Q-Exactive質量分析計でのオンラインLC-MS分析のために、BioResolve RP mAbポリフェニルカラム(50mm×2.1mm、2.7μm)(Waters、マサチューセッツ州ミルフォード)を用いて分離した。詳しいLC勾配およびMSパラメータをそれぞれ表4および表5に掲載する。
【0246】
【0247】
(表5)還元されたNISTmAbおよび試薬タンパク質Xのインタクト質量分析のためのMSパラメータ
a:溶媒ボトル内の圧力を低減するためにシースガス設定を15任意単位に下げた。
b:電荷低減ゆえにスキャン範囲を変更した。
【0248】
5.3 脱溶媒ガスの改質
1/8”TEFLON管を使用し、Canary-Safeキャップ(Analytical Sales and Services, Inc.、ニュージャージー州フランダース)を通して、Q-Exactive質量分析計からのシースガス流を、Duran pressure plusボトル(SCHOTT North America, Inc.、ニューヨーク州エルムスフォード)に転送した(
図1参照)。次に、ボトルから出ていく管を、Thermo Scientific Ion Maxイオン源のHESI-IIプローブに再接続した。インタクト質量分析のために、アセトニトリル200mL中の1%トリエチルアミン(TEA)(v/v)をボトルに移した。次に、濃酸または塩基を含有するボトルを、管を挿入するための16mmの開口を上端に持つポリエチレン製二次容器(BEL-ART酸/溶媒ボトルキャリア、ニュージャージー州ウェイン)に入れた。改質を無効にするには、この装置を通さずに、シースガス管を直接HESI-IIプローブに接続した。
【0249】
5.4 結果
脱溶媒ガス改質によって同様の改良を達成することができるかどうかを評価するために、還元されたNISTmAbを試験品として使用した。アセトニトリル(ACN)を用いてトリエチルアミン(TEA)を1%(v/v)に希釈し、それを用いて脱溶媒ガス中に塩基蒸気を送達した。逆相(RP)ポリフェノールカラムでのクロマトグラフィー分離後に、対照法および脱溶媒ガス改質法で取得されたNISTmAbの還元重鎖のMSスペクトルを、共に、
図7(対照法)および
図8(電荷低減法)に示した。改質を有効にした後は、荷電状態+23~+55から荷電状態+14~+28へと、NISTmAb重鎖での有意な電荷低減が達成された。対照法からの荷電状態+39の詳細な検討により、高レベルのバックグラウンドノイズが明らかになった。これは、おそらくMS分析中の高荷電重鎖種の崩壊、例えば水(-18Da)、アンモニア(-17Da)およびカルボン酸(-44Da)のニュートラルロス、ならびにタンパク質主鎖断片化損失に起因すると考えられた。
【0250】
これに対して、改質法からの荷電状態+21の拡大図は、著しく改良された信号対雑音比を呈したので、対照法では検出されない数種の低存在量グリコフォームの同定が可能になった。デコンボリューションされたマススペクトル(
図9参照)および質量分析(表6)により、改良法は、NISTmAbの重鎖上にわずか0.3%の低率で存在するグリコフォームを正確に同定できることが、さらに実証された。スペクトル品質の改良は、より疎らな荷電状態エンベロープゆえに著しく簡略化されたスペクトルによるだけでなく、より重要なことに、安定化されたタンパク質分析物の結果でもある。これは、MS分析においてタンパク質イオンと関連する衝突エネルギーは、その荷電状態に比例するという確立された知見と合致する。具体的には、低い荷電状態は、オービトラップ内での分析中に、高い荷電状態の同じ分析物よりも、ゆっくり崩壊する。特に、対照法からの高荷電重鎖種の甚だしい崩壊を緩和する努力は、ソース誘起解離(source-induced dissociation)(SID)エネルギーを完全に取り除いた後でさえ、奏効しなかった。これに対して、電荷低減法では高レベルのSIDエネルギー(この実験において使用した75eV)を容易に許容することができて、重鎖の目立った崩壊または断片化は起こらず、それが、より効率の良い脱溶媒および付加物除去により、スペクトル品質をさらに改良する。スペクトル品質の同様の改良はNISTmAbの還元軽鎖についても達成された(
図10参照)。MSスペクトル品質を改良するための電荷低減戦略の応用が、完全に変性し還元されたタンパク質に最も有用であることは注目に値する。というのも、それらは、ESI-MS分析中に(増加したタンパク質表面積ゆえに(Kaltashov and Mohimen. Analytical chemistry 2005, 77, 5370-5379))高度に帯電することが多く、望ましくない断片化および崩壊を最も起こしやすいからである。
【0251】
【0252】
実施例6
加えて、TEAで脱溶媒ガスを改質することによって達成される開発された電荷低減法は、複雑なタンパク質試料中に存在する高い質量不均一性と取り組むために利用することもできる。それらには、タンパク質生物製剤の開発中にさまざまなアッセイをサポートするのに決定的に重要な種々のタンパク質試薬が含まれうる。それらタンパク質試薬の実体を確認するためのインタクト質量分析の使用は、それらが商業的供給源から得られたものであれ、組織内で生産されたものであれ、後続の研究をサポートするために必要になることが多い。一部のタンパク質試薬は甚だしいグリコシル化ゆえに分子量が高度に不均質であり、それが、ルーチンのインタクト質量法にとって著しい課題になりうる。開発した電荷低減法の有用性を実証するために、質量不均一性が高い複雑な試薬タンパク質(タンパク質X)を試験品として使用した。
【0253】
6.1 試料調製
分析に先だって、N-グリカンの存在によって導入される質量不均一性を取り除くために、タンパク質Xをまず、PNGase Fにより、変性かつ還元条件下で処理した。
図11に示すとおり、PNGase F処理後でさえ、タンパク質Xは、通常のインタクト質量法では解読することができない高度に重なり合った(convoluted)MSスペクトルを呈した。これは、おそらく、低m/z領域におけるこの分子のさまざまな同時溶出質量体からのオーバーラップした電荷エンベロープに原因があると考えられた。
【0254】
6.3 脱溶媒ガスの改質
脱溶媒ガス改質は5.3で述べたように実行した。
【0255】
6.4 結果
実施例6.1で得られた結果とは対照的に、TEAによる脱溶媒ガス改質を有効にした後は、同じ試料のMSシグナルが直ちに高m/z領域にシフトして、はるかによく分割された荷電状態を呈した。次に、デコンボリューションされたスペクトル(
図12参照)から、このタンパク質はO-グリカンによって甚だしく修飾されており、異なるグリコシル化部位はおそらく10箇所。異なるO-グリカン型は4種であることが、明確に判明した。総合すると、このタンパク質からの35種に近い異なる質量種が、高い信頼性で同定され、帰属された。この分子の多糖部分は、通常のESI-MS条件下では不安定であるだろうから、劇的に改良されたスペクトル品質が、電荷低減後の、より安定化されたタンパク質イオンにも原因があると考えうることは、注目に値する。
【0256】
最後に、クロマトグラフィー性能を確保するためにTFAの使用が不可避である他のいくつかのLC-MSベースのインタクト質量法についても、PA/IPA改質脱溶媒ガスを用いてタンパク質レベルでTFAイオン抑制に対抗するために、開発されたアプローチを試験した。例えばアセトニトリル、TFAおよびギ酸を含有する移動相を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)のMSへのハイフネーションは、還元mAb分析に使用されてきた(Liu et al. Journal of the American Society for Mass Spectrometry 2009, 20, 2258-2264)。TFA含有移動相を用いた親水性相互作用クロマトグラフィーのMSへのハイフネーションは、mAb試料中の低分子量不純物を研究するために使用されてきた(Wang et al. Journal of pharmaceutical and biomedical analysis 2018, 154, 468-475)。どちらの方法でも、PA/IPA改質脱溶媒ガスを用いて、多くのmAbフラグメント(例えば重鎖、軽鎖およびより小さいフラグメント)について、MS感度の著しい改良を達成することができる。しかし、インタクトmAb(約150kDa)のMS感度は、この改質の結果としては改良されなかった。この知見は、大きいタンパク質ほど多数のTFAアニオンを収容して、それらをESIプロセス中にPAで効果的に置き換えることはできないかもしれないという仮説を立てた以前の研究とも合致している(Apffel et al. Journal of chromatography. A 1995, 712, 177-190)。
【0257】
このように、簡単な装置を用いた脱溶媒ガス改質によって、ペプチドマッピング分析およびインタクト質量分析からのデータ品質をどちらも改良するための効果的なアプローチが実証される。PA/IPA改質脱溶媒ガスを使用することにより、典型的ペプチドマッピング法からのTFAイオン抑制を効果的に緩和し、よって著しく改良されたMS感度をもたらすことができる。開発されたアプローチはLC法を変えずに容易に履行することができ、大きな試料セットの連続分析が可能であることから、タンパク質生物製剤のルーチン特性解析には特に適している。TEA改質脱溶媒ガスを使用することにより、この新しいアプローチは、電荷低減によってタンパク質のインタクト質量分析を改良するためにも利用することができた。スペクトル品質の著しい改良は、改良がなければノイズに埋没してしまう微量質量体の検出を可能にするだけでなく、高度に不均質なタンパク質の質量測定も可能にする。最後に、LC-MS技法がタンパク質生物製剤の特性解析に果たす役割は増大し続けていることから、開発されたアプローチは、分析能を改良し、医薬品開発をより良くサポートするための低コストかつ実用的な方策として役立つことによって、より深く、より広く貢献することができる。
エレクトロスプレーイオン化プローブが、エレクトロスプレーエミッターニードルと、シースガス流配管と、補助ガス流配管とを含む、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。
シースガスが、シースガスインレットラインから、有機溶媒を含有する容器を通って脱溶媒ガスアウトレットラインへと流れ込む、請求項1記載のエレクトロスプレーイオン化源。