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特開2023-116490バイオディーゼル、ディーゼルレンジ炭化水素を製造するための方法及び装置並びに生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116490
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】バイオディーゼル、ディーゼルレンジ炭化水素を製造するための方法及び装置並びに生成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20230815BHJP
   C11C 3/10 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
C10L1/02
C11C3/10
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023084237
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2020561753の分割
【原出願日】2019-05-01
(31)【優先権主張番号】62/666,503
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514317142
【氏名又は名称】リニューアブル エナジー グループ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,ジェームズ マシュー
(72)【発明者】
【氏名】スレイド,デイビッド エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイバリー,マーチン アール.
(72)【発明者】
【氏名】アバーリ,ラミン
(72)【発明者】
【氏名】エレンズ,コーディー ジェイ.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不けん化材料を含有する再生可能な供給原料(油脂、油、グリース等)から粗バイオディーゼルを生成する方法を提供する。
【解決手段】方法は、純化プロセスを通じて粗バイオディーゼルを純化し、純化された生物学的蒸留物の流れと揮発性の低いバイオディーゼル残留物の流れとを回収し、バイオディーゼル残留物から有益な化学物質を回収することを含む。具体的には、本発明の技術は、バイオディーゼル製造のバイオディーゼル残留生成物中の有益な化学物質の濃縮と、これらの有益な化学物質の回収とに関する。方法は、水素化を利用してバイオディーゼル残留物をディーゼルレンジ炭化水素に転換すること、及びそれによって生成された炭化水素フラクションを純化することをさらに含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純化されたバイオディーゼルを、不けん化材料を含有する供給原料から製造する方法であって、
a.供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程と、
b.不けん化材料を、前記粗バイオディーゼルから分離して、純化されたバイオディーゼルを生成する工程と、
c.前記不けん化材料の少なくとも一部分を回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
不けん化材料は、有益な化学物質として、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記有益な化学物質の少なくとも1つを、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、不けん化材料から除去する工程をさらに含む、請求項2の方法。
【請求項4】
分離する工程は、低温濾過、蒸留、膜分離、吸着及び樹脂濾過のうちの少なくとも1つを使用することを含む、請求項1の方法。
【請求項5】
不けん化材料は、溶媒抽出によって回収される、請求項1の方法。
【請求項6】
エステル交換反応の前に、供給原料を前処理工程に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項7】
純化されたバイオディーゼルを、不けん化材料を含有する供給原料から製造する方法であって、
a.供給原料を前処理工程に導入して、前処理された供給原料を生成する工程と、
b.前記前処理された供給原料をFFA精製工程に導入して、精製された供給原料を生成する工程と、
c.前記精製された供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程と、
d.前記粗バイオディーゼルを純化して、純化されたバイオディーゼル及びバイオディーゼル残留物を生成する工程と、
e.前記バイオディーゼル残留物から不けん化材料を回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
不けん化材料は、有益な化学物質として、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項7の方法。
【請求項9】
前記有益な化学物質の少なくとも1つを、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、不けん化材料から除去する工程をさらに含む,請求項8の方法。
【請求項10】
分離する工程は、低温濾過、蒸留、膜分離、吸着及び樹脂濾過のうちの少なくとも1つを使用することを含む、請求項7の方法。
【請求項11】
純化は蒸留によって行われる、請求項7の方法。
【請求項12】
バイオディーゼルの蒸留は170~300℃及び800~0Torrで行われる、請求項11の方法。
【請求項13】
粗バイオディーゼルから不けん化材料を分離する前に、アルコールストリッパーを使用して粗バイオディーゼルを乾燥し、水とアルコールを除去することをさらに含む、請求項7の方法。
【請求項14】
不けん化材料は、溶媒抽出によって回収される、請求項7の方法。
【請求項15】
純化されたバイオディーゼルを供給原料から生成すると共に有益な化学物質を回収する方法であって、
a.供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルの流れを生成する工程と、
b.前記粗バイオディーゼルの流れを、蒸留によって純化し、純化されたバイオディーゼルの流れと蒸留ボトムとを生成する工程と、
c.前記蒸留ボトムから有益な化学物質を回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項16】
有益な化学物質は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項15の方法。
【請求項17】
有益な化学物質を、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、沈殿、沈降、結晶化、蒸留、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて不けん化材料から除去する工程をさらに含む、請求項16の方法。
【請求項18】
バイオディーゼルの蒸留は170~300℃及び800~0Torrで行われる、請求項15の方法。
【請求項19】
粗バイオディーゼルから不けん化材料を分離する前に、アルコールストリッパーを使用して粗バイオディーゼルを乾燥し、水とアルコールを除去することをさらに含む、請求項15の方法。
【請求項20】
不けん化材料は、溶媒抽出によって回収される、請求項15の方法。
【請求項21】
生物学的供給原料から炭化水素を生成する方法であって、
a.不けん化材料を2wt%を超える濃度で含む生物学的供給原料を、炭化水素油で希釈し、希釈された生物学的供給原料を生成する工程と、
b.前記希釈された生物学的供給原料を、水素リッチガス及び触媒と高温高圧で接触させることにより、希釈された生物学的供給原料に水素化脱酸素処理を行い、反応器排出液を生成する工程と、
c.前記反応器排出液から炭化水素フラクションを回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項22】
生物学的供給原料は、遊離脂肪酸及び脂肪酸グリセリドエステルを含む、請求項21の方法。
【請求項23】
高温は、約260℃~371℃であり、高圧は、約500~2500psigである、請求項21の方法。
【請求項24】
生物学的供給原料は、バイオディーゼル蒸留工程で回収された蒸留ボトムを含む、請求項21の方法。
【請求項25】
生物学的供給原料は、少なくとも20wt%の高分子量成分を含む、請求項21の方法。
【請求項26】
高分子量成分は、希釈された生物学的供給原料が、ASTM D2887-18又はASTM D7169-11の少なくとも1つによる測定で、20wt%が約400℃を超える温度で沸騰することによって示される、請求項25の方法。
【請求項27】
炭化水素油は、C15、C16、C17及びC18のn-パラフィンを含む、請求項21の方法。
【請求項28】
炭化水素油は、石油フラクションである、請求項21の方法。
【請求項29】
反応器排出液は、ASTM D2887-18による測定で、5%未満が380℃を超える温度で沸騰する炭化水素である、請求項21の方法。
【請求項30】
反応器排出液は、酸価が0.05mgKOH/gより低い炭化水素である、請求項21の方法。
【請求項31】
バイオディーゼル蒸留工程は、脂質供給原料のエステル交換反応及びエステル化の少なくとも1つによって得られたバイオディーゼルを純化することであって、前記脂質供給原料が、少なくとも20wt%のC20+脂肪酸の脂肪酸プロファイルを有する非従来型脂質を10wt%より多く含む、請求項24の方法。
【請求項32】
蒸留ボトムは、C20+脂肪酸アルキルエステルを有する脂肪酸鎖長を少なくとも15wt%を含む、請求項24の方法。
【請求項33】
バイオディーゼル供給原料から炭化水素を生成する方法であって、
a.生物学的供給原料を、炭化水素油で希釈し、希釈された生物学的供給原料を生成する工程であって、前記生物学的供給原料が脂肪酸アルキルエステルフラクションを含み、前記脂肪酸アルキルエステルフラクションの40wt%超が、C16及びそれより短い炭素の脂肪酸鎖を有する脂肪酸鎖長さからなる、工程と、
b.前記希釈された生物学的供給原料を、高温高圧で水素リッチガス及び触媒と接触させることにより、前記希釈された生物学的供給原料に水素化脱酸素処理を行い、反応器排出液を生成する工程と、
c.前記反応器排出液から炭化水素フラクションを回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項34】
高温は、約260℃~371℃であり、高圧は、約500~2500psigである、請求項33の方法。
【請求項35】
反応器排出液を、炭化水素相、気相、及び含水相に分離し、炭化水素ストリッパーを使用して、前記炭化水素相をオーバーヘッドフラクションと炭化水素フラクションとに分離することをさらに含む、請求項33の方法。
【請求項36】
炭化水素フラクションを、ディーゼル燃料に添加することをさらに含む、請求項33の方法。
【請求項37】
再生可能なディーゼル燃料を製造するために、炭化水素フラクションを、水素化分解及び水素化異性化工程のうちの少なくとも1つの工程に導入することをさらに含む、請求項33の方法。
【請求項38】
不純化されたバイオディーゼルを、けん化材料を含有する供給原料から生成する方法であって、
a.供給原料を前処理工程に導入して、前処理された供給原料を生成する工程と、
b.前記前処理された供給原料をFFA精製工程に導入して、精製された供給原料を生成する工程と、
c.前記精製された供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程と、
d.前記粗バイオディーゼルを、蒸留によって純化し、純化されたバイオディーゼルと蒸留ボトムとを生成する工程と、
e.前記蒸留ボトムを炭化水素油で希釈し、希釈された生物学的供給原料を生成する工程と、
f.前記希釈された生物学的供給原料を、高温高圧で、水素リッチガス及び触媒と接触させることにより、前記希釈された生物学的供給原料に水素化脱酸素処理を行い、反応器排出液を生成する工程と、
g.前記反応器排出液から炭化水素フラクションを回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項39】
反応器排出液を、炭化水素相、気相、及び含水相に分離し、炭化水素ストリッパーを使用して、前記炭化水素相をオーバーヘッドフラクションと炭化水素フラクションとに分離することをさらに含む、請求項38の方法。
【請求項40】
炭化水素フラクションを、ディーゼル燃料に添加することをさらに含む、請求項38の方法。
【請求項41】
再生可能なディーゼル燃料を製造するために、炭化水素フラクションを、水素化分解及び水素化異性化工程のうちの少なくとも1つの工程に導入することをさらに含む、請求項38の方法。
【請求項42】
生物学的供給原料から、剥離された炭化水素を生成する方法であって、
a.生物学的供給原料を炭化水素油で希釈し、希釈された生物学的供給原料を生成する工程と、
b.前記希釈された生物学的供給原料を、高温高圧で水素リッチガス及び触媒と接触させることにより、前記希釈された生物学的供給原料に水素化脱酸素処理を行い、反応器排出液を生成する工程と、
c.前記反応器排出液を、炭化水素相、気相、及び含水相に分離する工程と、
d.炭化水素ストリッパーを使用して、前記炭化水素相を、ストリッパーオーバーヘッドフラクションと、剥離された炭化水素フラクションとに分離する工程と、
を含む、方法。
【請求項43】
生物学的供給原料は、遊離脂肪酸、脂肪酸グリセリドエステル及び不けん化材料を、2wt%を超える濃度で含む、請求項42の方法。
【請求項44】
高温は、約260℃~371℃であり、高圧は、約500~2500psigである、請求項42の方法。
【請求項45】
剥離された炭化水素フラクションを、ディーゼル燃料に添加することをさらに含む、請求項42の方法。
【請求項46】
再生可能なディーゼル燃料を製造するために、剥離された炭化水素フラクションを、水素化分解及び水素化異性化工程のうちの少なくとも1つの工程に導入することをさらに含む、請求項42の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年5月3日に提出された米国仮出願62/666,503号に基づいており、その全ての開示が、参照によって明示的に本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般的に、野菜油及び他の脂質供給原料を高品質のバイオディーゼルに処理し、同時に有益な化学的結合生産物(co-products)を回収することに関する。
【背景技術】
【0003】
長年にわたり、植物油に存在する有益な化学物質は、製薬、栄養品、及び化粧品などの用途のために回収されてきた。有益な化学物質は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、フラボノイド、カロテノイド、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス、並びに植物油(plant oil)及び野菜油(vegetable oil)に微量に存在するその他の成分を含む。標的とする有益な化学物質の多くは、初期油の2%に満たないため、経済的且つ効率的にそれらを分離することは難しい。
【0004】
過去50年間に、これらの有益な化学物質について2つの主要な商業的供給源が登場した。1つは植物油の精製(refining)から得られるものであり、もう1つはトール油の生成から得られるものである。
【0005】
野菜油の精製では、脱ガム、化学的精製、ブリーチング(bleaching)、及び脱臭を含む不純物を除去するために、異なる原料油の処理工程が使用される。脱ガムの工程では、酸溶液を原料油と混合してガムを水和させる。化学的精製では、塩基溶液を原料油と混合し、遊離脂肪酸と反応させて石けん原料(soapstock)を生成する。石けん原料及び水和ガムは、両方とも遠心分離により原料油から除去される。原料油はその後、ブリーチング工程及び脱臭工程でさらに精製され、ステロール及びトコフェロールも除去される。原料油の脱臭は、高真空(1~8mbar)及び、高温度(180~270℃)の下で行われる。脱臭後、原料油は不純物が殆ど含まれず、主にトリグリセリドを含み、完全な精製油に処理される。脱臭時の揮発物は、遊離脂肪酸、不けん化物及びモノグリセリドを含む脱臭蒸留生成物に濃縮される。不けん化物は、主としてトコフェロール、ステロール、テルペン及びステリルエステルを含む。
【0006】
有益な化学物質の第2の商業的供給源は、パルプ製紙産業でのトール油である。硫酸塩パルプ又はクラフトパルプの製造工程では、木材チップは、硫酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合物の中で蒸解される。これらの化学物質によりリグニン及びヘミセルロースの一部が溶かされ、セルロース繊維が残る。木材パルプが除去されると、黒液と呼ばれる残りの液体に、リグニンフラグメント、セルロースの分解による炭水化物、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及び無機塩類が含まれている。黒液を加熱すると、液体が蒸発し、固形物が濃縮される。この工程で、アルカリ混合物が黒液中の脂肪酸及び樹脂酸と反応し、樹脂石けんが生成され、樹脂石けんは上昇してすくい取られる。すくい取られた物質はトール油石けんとして知られている。次いで、トール油石けんは鉱酸で酸性化され、含水相(aqueous phase)と油相(粗トール油)が生成される。粗トール油は、不けん化物、遊離脂肪酸及び樹脂酸を含む。不けん化物は、ワックス、アルコール、脂肪酸エステル、ステロール、及びステリルエステルが異なる濃度で構成されている。
【0007】
この点では、有益な化学物質の回収は、野菜油の精製による脱臭蒸留物とクラフトパルプ工程による粗トール油は大部分が同じである。どちらの場合も、有益な化学物質は、蒸留及び/又は加水分解、エステル化、けん化、酸化などの様々な化学反応、並びに濾過及び溶媒抽出などの物理的分離により、不けん化物にさらに濃縮される。
【0008】
例えば、米国特許第2,263,550号には、ビタミンE(トコフェロール)及びステロールを製造するために、粗油脂から不けん化物質を分離するプロセスが記載されている。この発明は、アルコールを添加して供給原料中のグリセリドをエステルに転換するものである。このエステルは、元のグリセリドよりも沸点が低いため、蒸留によって除去されることができる。ビタミンEが含まれる残留物は、アルカリでけん化し、エーテル、クロロホルム、二塩化エチレン、又は他の適当な溶媒で最終的に抽出することによって濃縮される。
【0009】
Smithに付与された米国特許第3,335,154号には、脱臭蒸留物からトコフェロール及びステロールを分離するプロセスが記載されている。脱臭蒸留物はけん化反応を経て、脂肪酸エステルを除去する。次いで、蒸留物は酸化され、遊離脂肪酸、遊離トコフェロール、遊離ステロール、グリセロール、水、過剰ミネラル酸及びアルカリ塩の混合物が生成される。グリセロール、水及び過剰の酸は相分離によって除去され、次いで、油相はアルコール及び酸触媒でエステル化される。この時点で、混合物に冷水を加えて、ステロールを結晶化させる。ステロールは、その後濾過によって除去される。最後に、濾過ケーキをアセトン及びアルコール溶媒で洗浄して、結晶ステロールが生成される。得られた濾液を加熱して、アセトン及びアルコール除去し、濃縮されたトコフェロール残留物が残る。
【0010】
Fizetに付与された米国特許5,487,817号には、脱臭蒸留物からトコフェロール及びステロールを回収するための別のプロセスが記載されている。このプロセスでは、ステロールは脱臭蒸留物中の脂肪酸とエステル化される。次いで、得られた混合物は2回蒸留される。1回目に脂肪酸の大部分を除去した後、続く2回目は高温で蒸留し、トコフェロール及びエステル化されていないステロールリッチの脂肪酸混合物を除去する。エステル化反応で生成されたステリルエステルは蒸留ボトムに残る。次に、2回目の蒸留での蒸留物を、メタノールを用いて2回目のエステル化反応に付し、酸触媒の存在下で、脂肪酸をメチルエステルに変換する。次いで、2回目のエステル化による生成物中のトコフェロールは、吸着によりイオン交換樹脂中に回収される。高純度のトコフェロールが、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いて脱着され、酢酸/イソプロパノール混合物及び樹脂が再生成される。1回目のエステル化反応及び蒸留ボトムから得られたステリルエステル(及び少量のトコフェロールエステル)は、アルコール及び酸触媒を用いたステリルエステル(及びトコフェロールエステル)のエステル交換反応により得られる。これにより、ステロール、トコフェロール及び脂肪酸アルキルエステルが生成する。エステル交換反応による生成物は冷却され、結晶化し、濾過されてステロールが回収される。
【0011】
Barnicki et al.に付与された米国特許第5,512,691号には、野菜油の蒸留物からトコフェロール濃縮物を生成する方法が記載されている。蒸留物質は、まず、エステル化され、ステロールが、混合物中に存在する遊離脂肪酸と反応してステリルエステルを生成し、そして、全てのモノグリセリド及びジグリセリドが遊離脂肪酸によりトリグリセリドに変換される。次いで、混合物は一連の蒸留工程に付される。第1の工程は、蒸留物として未反応の遊離脂肪酸を除去するもので、トコフェロールリッチボトムが残る。第2の蒸留は、第2の蒸留物としてのトコフェロールリッチの生成物を除去し、ステリルエステル及びグリセリドが第2のボトム生成物として残る。
【0012】
また、Rohr et al.に付与された米国特許6,846,941号には、動物性及び植物性の供給原料から不けん化生成物を分離するプロセスが記載されている。不けん化材料は、供給原料を、最初に、亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム、銅、鉛、コバルト又はアルミニウムの石けんにけん化することによって得られる。なお、これらの石けんは、カリウム又はナトリウムの石けんよりも融点が低い。これらの石けんは、けん化によって直接生成されることができる。カリウム及びナトリウム石けんをイオン交換によって、融点の低い石けんに変換することによって生成されてもよい。低融点の石けんは乾燥された後、一連の蒸留工程を経て、所望純度の不けん化材料が蒸留物又は残留物(蒸留ボトム)として得られる。不けん化生成物の純度を向上させるために、クロマトグラフィー、濾過、及び結晶化技術を使用することもできる。
【0013】
野菜油の精製工程又はクラフトパルプ工程での不けん化材料から、有益な化学物質を得る際の課題の1つは、有益な化学物質が、各工程において多くの不純物が含まれる副生成物の流れの中で、少数の成分としてしか存在しないことである。そのため、それらの処理作業で十分な純度の生成物を得るためには、高資本の設備と複雑な精製プロセスが必要である。
【0014】
技術的には、脱臭蒸留物及び粗トール油の不けん化材料から有益な化学物質を得ることは可能であるが、最終生成物は比較的少量でしか得られないため、それらを純化する(purify)のに必要な装置及び処理を商業的規模で実施するほどの商業的価値は、必ずしも存在しない。そのため、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、フラボノイド、カロテノイド、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス及びその他の成分を含む有益な化学物質の入手可能性は限られていた。
【0015】
同時に、バイオディーゼル産業が発達し、バイオディーゼルの品質仕様は、初期の生産工程の設計者が予想していたよりも厳しくなり、バイオディーゼルに関わる経済は競争がより激しくなってきた。その結果、バイオディーゼルの生産者は、経済的に生き残るために、新たな供給原料及び/又は低コストの供給原料を使用できるようにするか、又は結合生産物の価値を向上させるか、好ましくはその両方を行うことにより、生産工程の経済性を改善することが急務となっている。しかし、ASTM D6751-18、CAN/CGSB 3.524を含む商業用バイオディーゼル規格及び多くの顧客固有の規格によると、低コストの供給原料には、バイオディーゼルの品質に悪影響を及ぼす可能性のある不けん化材料が含まれていることが多い。この業界で必要とされているものは、以前にも増して厳しくなる商業的期待に応え得る高品質のバイオディーゼルを生産する方法だけでなく、以前にも増して厳しいバイオディーゼル生産の経済性を高めることができる有益な結合生産物を生産する方法である。
【0016】
経済的な制限及び広範な処理の制限があるために、これまでは、油脂中の不けん化材料に存在する有益な化学物質をより大量に、商業規模で製造することができなかったが、高純度のバイオディーゼル製造の態様を、有益な化学物質を製造するための商業規模でのプロセスと組み合わせることにより、前記制限を克服する発明が必要とされている。バイオディーゼル製造工程に関するさらなる情報は、出願人に付与された2018年5月1日に発行の米国特許番号9,957,464号に記載され、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0017】
本発明の一態様は、不けん化材料を含有する供給原料から純化されたバイオディーゼルを製造する方法に関する。この方法は、供給原料を前処理工程に導入して供給原料を前処理する工程と、前処理された供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程とを含む。粗バイオディーゼルが分離(純化)されると、不けん化材料を含むバイオディーゼル残留物と純化されたバイオディーゼルが生成される。幾つかの実施形態では、分離工程は、低温濾過、膜濾過及び樹脂濾過のうちの少なくとも1つを使用することを含む。幾つかの実施形態では、分離工程は、純化されたバイオディーゼルと、不けん化材料を含む蒸留ボトムとを生成するための蒸留を含んでもよい。不けん化材料の少なくとも一部は回収される。不けん化材料は、溶媒抽出によって回収される。不けん化材料は、有益な化学物質として、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含むことができる。方法は、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、不けん化材料から有益な化学物質のうちの少なくとも1つを除去することをさらに含むことができる。
【0018】
本発明の別の態様は、生物学的供給原料(biological feedstock)から炭化水素を生成する方法に関する。この方法は、生物学的供給原料を炭化水素油で希釈し、次いで、希釈された生物学的供給原料を水素リッチガス及び触媒と高温高圧で接触させることにより、希釈された生物学的供給原料に水素化脱酸素処理を行い、反応器排出液(reactor effluent)を生成することを含む。反応器排出液を冷却して、冷却された反応器排出液から炭化水素フラクションを回収する。生物学的供給原料は、遊離脂肪酸、脂肪酸グリセリドエステル、及び不けん化材料を、2wt%より高い濃度で含む。幾つかの実施形態では、生物学的供給原料は、バイオディーゼル蒸留工程で回収された蒸留ボトムなどのバイオディーゼル残留物を含む。幾つかの実施形態では、冷却された反応器排出液は、炭化水素相、気相、及び含水相に分離される。幾つかの実施形態では、炭化水素ストリッパーを使用して、炭化水素相をオーバーヘッドフラクションと炭化水素フラクションとに分離する。炭化水素フラクションは、ディーゼル燃料に添加されてもよい。幾つかの実施形態では、炭化水素フラクションは、水素化分解及び水素化異性化工程のうちの少なくとも1つの工程に導入され、再生可能なディーゼル燃料を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
記載された技術の利点は、添付の図面と共に以下の説明を参照することにより、よりよく理解されるであろう。図面は縮尺どおりではなく、技術の一般的な原理を説明する例示的な構成を表しており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。図中の破線は、異なる実施形態の代表的なものであり、幾つかの実施形態では工程の一部として含まれてもよい。
【0020】
図1図1は、粗供給原料からバイオディーゼル及び有益な化学物質を生成するための幾つかの実施形態を示す工程フロー図である。
図2図2は、図1に示された粗供給原料からバイオディーゼル及び有益な化学物質を生成するための実施形態のより具体的な実施形態を示す工程フロー図である。
図3図3は、水素化脱酸素反応器システムを含む実施形態を示すプロセスフロー図である。
図4図4は、生物学的供給原料に存在する400℃+成分の濃度(ASTM D2887-18により測定)に及ぼす水素化脱酸素の効果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
例示目的の図を含む様々な非限定的な実施形態を参照して、本発明の装置、機器、システム、生成物、及び方法を、詳細に説明する。
【0022】
別段の記載がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される寸法、容量などを表す全ての数値は、全ての場合において「約」という用語によって修正されるものと理解されるべきである。用語の使用が当業者にとって明らかでない場合、その用語が使用されている文脈を考慮するものとし、「約」は、特定の用語のプラス又はマイナス10%までを意味する。
【0023】
本発明の実施は、本明細書に具体的に記載されている順序とは異なる順序でプロセスの工程を実行することもできる。「工程」に関する全ての記載は、工程の意味の範囲において、複数の工程(又は副工程)を含むことができる。同様に、「複数の工程」に関する全ての記載は、単一のプロセスの工程又は工程の様々な組合せを意味するものと解されることができる。
【0024】
本発明の実施は、本明細書に具体的に記載されている順序とは異なる順序でプロセスユニットを実行することもできる。「ユニット」に関する全ての記載は、ユニットの意味の範囲において、複数のユニット(又はサブユニット)を含むことができる。同様に、「複数のユニット」に関する全ての記載は、単一のプロセスのユニット又はユニットの様々な組合せと解されることができる。
【0025】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈において明確に別のことを示さない限り、複数を意味する。
【0026】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される「油脂」という用語は、植物性及び動物性である生物由来のあらゆる生物学的材料のことをいい、バイオディーゼルの製造に有用な供給原料である。供給原料は、不純物を含有する原材料の形態であってよく、「粗供給原料(crude feedstock)」又は「原料油(crude oil)」とみなされる。一方、供給原料は、他の設備を使用して前処理を行い、不純物が除去されてもよい。前処理工程は、バイオディーゼル製造施設若しくは供給源、又はその両方で行われてもよく、「前処理された供給原料」又は「前処理された油」が製造される。
【0027】
「精製された供給原料(refined feedstock)」という用語は、遊離脂肪酸含有量が十分に低く、エステル交換反応に直接使用することができる供給原料のことをいう。精製された供給原料は、粗アルキルエステルを含んでもよい。
【0028】
「遊離脂肪酸(free fatty acid)」という用語は、約6乃至約24個の炭素原子を有する炭素鎖を持つ脂肪族カルボン酸のことをいう。遊離脂肪酸(FFA)は0乃至100wt%の間で油脂中に存在し、エステル化条件下でアルコールと反応してエステルを生成しやすい。
【0029】
「エステル」という用語は、脂肪酸部位がエステル結合によってアルコール部位に結合している有機エステルのことをいい、モノエステル、ジエステル、トリエステル、及びより一般的にはマルチエステルを含む。
【0030】
「バイオディーゼル」という用語は、油脂に由来する長鎖脂肪酸の脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を含む燃料を記載するのに用いられる。また、本明細書で使用されるバイオディーゼルは、FAAE以外の少量の「不純物」又は化合物を含有する場合もある。
【0031】
「バイオディーゼル残留物」という用語は、粗バイオディーゼルが純化バイオディーゼルに変換される際に除去される粗バイオディーゼルの部分のことをいう。
【0032】
「蒸留ボトム(distillation bottoms)」という用語は、バイオディーゼルを蒸留して得られる揮発性の低いボトム生成物のことをいい、バイオディーゼルを目的とする蒸留物又はオーバーヘッド生成物(overhead product)である。「蒸留ボトム」は、粗バイオディーゼルの純化に蒸留が使用される実施形態においては、「バイオディーゼル残留物」である。
【0033】
「アルコール」という用語は、一般的に、一価アルコール、二価アルコール及び多価アルコールを含む有機アルコールのことをいう。
【0034】
「ワックス」又は「ワックス化合物(waxy compounds)」という用語は、少なくとも1つの長い飽和炭素鎖を有する比較的大きな分子のことをいい、前記分子はコーン油、キャノーラ油、ヒマワリ油、オリーブ油、家禽油、グンバイナズナ油、及び藻類又は微生物油などの油に存在する。ワックス化合物は、全ての油よりも融点が高く(80℃)、冷却されると油が白濁することがある。ワックスは、本明細書で記載する目的においては、不けん化材料に分類される。ワックス化合物は、0.1wt%未満の濃度であっても、試験によってはバイオディーゼルを不合格にする原因となる。
【0035】
「不けん化材料(unsaponifiable material)」及び「不けん化物(unsaponifiables)」という用語は、本明細書では、バイオディーゼル製造方法において、脂質原料中に元々微量で存在し、FAAEへ容易に変換されない成分のことをいう。一次生成物(バイオディーゼル)の不けん化材料は、バイオディーゼルのFAAE含有量及び/又は収量及び/又は品質を低下させる不純物であると考えることができる。不けん化材料及び不けん化物には、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ワックス、フラボノイド、カロテノイド、ヒドロキシケイ皮酸、並びにFFA及び脂肪酸のグリセリルエステル以外の、他の成分が含まれる。
【0036】
「不けん化物質(unsaponifiable matter)」という用語は、本明細書ではAOCS Ca 6a-40の「油脂中の不けん化物質」試験法で検出される「不けん化材料」の部分のことをいい、ステロール、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、フラボノイド、カロテノイド、及び強塩基との反応性が低い他の成分を含む。AOCSの不けん化物質試験は、本明細書で「不けん化材料」として定義される全ての物質を定量化することはできない。
【0037】
様々な化学反応や分離技術を使用して、不けん化材料を有益な化学物質へ純化することができる。「有益な化学物質(valuable chemicals)」という用語は、純化された不けん化材料のことをいい、該不けん化材料は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、フラボノイド、カロテノイド、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス及び他の成分を含む。
【0038】
「ガム」又は「(複数の)ガム」という用語は、粗供給原料中に存在し得る化合物(例えば、リン脂質)のことをいい、当該化合物は、塩基触媒によるエステル交換反応の工程において、水や乳剤と接触すると、不溶性の沈殿物(precipitates)を生成する傾向がある。水を適切な条件で粗供給原料に添加すると、ガムは水和(吸水)して不溶性となり、遠心分離機で除去されることができる。
【0039】
「酸価(acid number)」という用語は、サンプル中の分子の酸官能基の量について、共通の測定値のことをいう。特にサンプル中の酸官能基を滴定するのに必要な強塩基(典型的にはKOH)の量のことをいう。酸価は通常、サンプル1グラムあたりの水酸化カリウムのミリグラムで表される。
【0040】
「硫黄」という用語は、液体燃料又は供給原料中の硫黄の合計量のことをいい、合計量はmg/kg又はパーツパーミリオン(ppm)で定義される。
【0041】
「低温浸漬濾過性能試験(cold soak filterability tests)」という用語は、ASTM D6751-18、CAN/CGSB 3.524 appendix A、及びEN 14214などの商業用規格に含まれる試験方法であり、バイオディーゼル及びバイオディーゼルブレンドの寒冷気候での潜在的性能を評価するために使用されるものをいう。
【0042】
本明細書で使用される「パラフィン」という用語は、非環状の、分岐又は非分岐アルカンを意味する。非分岐パラフィンはn-パラフィンであり、分岐パラフィンはイソパラフィンである。
【0043】
本明細書で使用される「芳香族」と言う用語は、「芳香物」と同義であり、ヘテロ原子を含まない環状芳香族炭化水素及び複素環式芳香族化合物の両方を意味する。この用語は、単環式、二環式及び多環式環系を含む(本明細書では、二環式及び多環式環系は、総称して、「多環式芳香族」又は「多環式芳香物」と称する)。この用語はまた、アルキル基及びシクロアルキル基を有する芳香族種を含む。従って、芳香族は、ベンゼン、アズレン、ヘプタレン、フェニルベンゼン、インダセン、フルオレン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレン、ナフタセン、クリセン、アントラセン、インデン、インダン、ペンタレン、及びナフタレンの他にこれらの化合物のアルキル及びシクロアルキルで置換された変種を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、芳香族種は、基の環状部分に6乃至14個の炭素原子を含み、他の実施形態では、6乃至12個の炭素原子、又は6乃至10個の炭素原子を含む。前記記載には、芳香族-脂肪族の縮合環系(例えば、インダン、テトラヒドロナフテン等)などの縮合環を含む基が含まれる。
【0044】
本明細書で使用される「オキシジェネート(oxygenates)」は、酸素との共有結合を少なくとも1つ含む炭素含有化合物を意味する。この用語に包含される官能基の例として、カルボン酸、カルボキシレート、酸無水物、アルデヒド、エステル、エーテル、ケトン、及びアルコールの他にリン酸エステル及びリン酸無水物などのヘテロ原子エステル及び無水物などが挙げられるが、これらに限定されない。オキシジェネートはまた、本明細書に記載される芳香族、シクロパラフィン及びパラフィンの酸素含有変種であってもよい。
【0045】
本明細書で使用される「水素化プロセス(hydroprocessing)」は、水素が無限に存在する中で起こる様々な種類の触媒反応を意味する。最も一般的な水素化プロセスの例として、水素化、水素化脱硫(HDS)、水素化脱窒素(HDN)、水素化処理(HT)、水素化分解(HC)、芳香族飽和化又は水素化脱芳香族(HDA)、水素化脱酸素(HDO)、脱炭酸(DCO)、水素化異性化(HI)、水素化脱ワックス(HDW)、水素化脱金属(HDM)、脱カルボニル、メタン化、及び改質が挙げられるが、これらに限定されない。純粋な熱化学反応(すなわち、触媒を必要としない)から触媒反応の範囲で起こり得る複数の反応は、触媒の種類、反応器の構成、反応器の条件、及び供給原料の組成に依存する。特定の水素化プロセス用ユニット、例えばHDO反応システムの主な機能に関する記載は、例えば、HDO反応は、主要な反応の一つに過ぎず、他の反応も起こり得ることは理解されるであろう。
【0046】
本明細書で使用される「水素化処理(hydrotreating)」(HT)は、有機化合物から元素周期表の3、5、6及び/又は7族の元素を除去することを含む。水素化処理はまた、水素化脱金属(HDM)反応を含んでもよい。従って、水素化処理は、水素化プロセスを通じて酸素、窒素、硫黄、及びそれらの任意の2以上の組合せなどのヘテロ原子を除去することを含む。例えば、水素化脱酸素(HDO)は、触媒水素化プロセス反応による酸素の除去を意味すると理解され、副生成物として水が生成する。同様に、水素化脱硫(HDS)及び水素化脱窒素(HDN)は、水素化プロセスを介して、指定された元素を夫々除去することを意味する。
【0047】
本明細書で使用される「水素化分解(hydrocracking)」(HC)は、水素存在中で分子炭素-炭素結合が破壊され、少なくとも2つの分子を生成することを意味する。そのような反応は、典型的には、続いて二重結合の水素化が起こる。
【0048】
本明細書で使用される「水素化異性化(hydroisomerization)」(HI)は、水素存在中における炭素-炭素結合の骨格転位と定義され、異性体(isomer)が生成される。水素化分解は、多くのHI触媒反応と競合する反応であり、HC反応経路は、副次反応として、「HI」という用語の使用に含まれることが理解される。水素化脱ワックス(HDW)は、炭化水素流体の低温特性を向上させるための水素化分解及び水素化異性化の特定の形態である。
【0049】
「再生可能ディーゼル(renewable diesel)」とは、化学的には石油ディーゼルと同様であるが、油脂から生成される炭化水素燃料のことである。
【0050】
組成物が、C-C12のn-パラフィンなどの「C-C炭化水素」を含むと記載されている場合、組成物が、x乃至yの範囲にある炭素数を有する1つ又は複数のパラフィンを含むことを意味することは理解されるであろう。
【0051】
本明細書で使用される「熱分解(pyrolysis)」は、熱化学反応において、2原子酸素又は2原子水素がほとんど存在しないか又は全く存在しない炭素質材料の熱化学的分解を意味すると理解される。熱分解における触媒の任意選択的使用は、典型的には触媒分解と称され、これは熱分解という用語に含まれ、水素化分解と混同されるべきでない。
【0052】
本発明の方法は、広範囲の供給原料に対応することができる。本発明の幾つかの実施形態では、供給原料の非限定的な例として、ココナッツ油、パーム油、パーム核油、綿実油、菜種油、落花生油、オリーブ油、亜麻仁油、ババス油、茶油、ナンキンハゼ油、オリーブ核油、メドウフォーム油、大風子油、コリアンダー油、キャノーラ油、大豆油、コーン油、ツバキ油、カリナタ油、ひまし油、グンバイナズナ油、ラード油、ジャトロファ油、ヒマワリ油、藻類や他の微生物油、使用済み食用油、ベーコン油脂、選択ホワイトグリース、黄色油脂、褐色油脂、家禽脂、牛脂、ラード、魚油等が挙げられる。さらに、供給原料は、パーム脂肪酸蒸留物などの脂肪酸蒸留物を含有する純化油脂又は蒸留油脂を含んでもよい。幾つかの実施形態では、蒸留ボトムは、有益な化学物質の生成のための粗供給原料と考えることができ、粗バイオディーゼルの蒸留ボトムを含んでもよい。
【0053】
種々の不純物を含有する粗供給原料(105)は、精製された供給原料を粗バイオディーゼル(150)に変換するためのエステル交換反応工程が施される前に、前処理及び/又はFFA精製を行う必要であり、最終的には、バイオディーゼル純化工程(243)を経て、複数の商業的規格を満たす高品質の純化バイオディーゼル(160)を製造する。この工程の間に、不けん化材料に含まれる有益な化学物質は、様々な処理条件を経て、純化バイオディーゼル(160)の結合生産物として、最終的にバイオディーゼル残留物(180)から分離される。図1を参照すると、粗供給原料(105)を処理して、商業的製品仕様を満たすグリセリン(145)及び純化バイオディーゼル(160)並びにバイオディーゼル残留物(180)に至る例示的な方法(100)が示されている。
【0054】
粗供給原料(105)は、バイオディーゼル製造施設に運ばれ、粗供給原料の貯蔵庫に収容される。相溶性(compatible)の供給原料は、処理される前に混合され、共有のタンクに貯蔵されてもよい。粗供給原料(105)は、まず、供給原料の前処理(110)がFFA含有量及び他の特性に応じて行われ、前処理された供給原料(115)が生成される。代替的に、他の場所で既に精製された供給原料がバイオディーゼル製造施設に運ばれた場合は、精製された供給原料の貯蔵庫に収容することもできる。
【0055】
前処理された供給原料(115)は、次いで、FFAストリッピング(破線2)によるFFA精製処理(120)が施され、残りのFFAが除去される。脂肪酸蒸留物のエステル化がFFAストリッピングの後に行われる場合、FFA精製(120)は、粗バイオディーゼル(150)の流れを生成することもできる。別の選択肢として、脂肪酸蒸留物のグリセリン分解がFFAストリッピングの後に行われる場合、FFA精製(120)は、グリセリド(125)の流れを生成することもできる。一実施形態では、破線1で示されるように、前処理された供給原料(115)が、FFAのレベルが十分に低く、精製された供給原料に分類される場合(すなわち、粗供給原料が、供給原料の前処理(110)で化学的に精製されてFFAが除去されているか、又は他の場所で精製されている場合)、FFA精製ユニット(120)を回避することができる。
【0056】
精製された供給原料(125)は、エステル交換反応工程(130)で処理され、粗バイオディーゼル(150)及び粗グリセリン(135)を生成する。粗グリセリン(135)は、グリセリン精製ユニット(140)で精製されてグリセリンを生成し、該グリセリンはFFA精製工程(120)の中へリサイクルされてグリセリンの分解が行われる。粗バイオディーゼル(150)は、最終のバイオディーゼル精製工程(155)を経て、商業的に受け入れられる純化バイオディーゼル物(160)及び不けん化材料中に富化されたバイオディーゼル残留物(180)を生成する。バイオディーゼル精製(155)及びグリセリン精製(140)で得られた湿アルコール(wet alcohol)は、アルコール回収ユニット(165)に送られ、水(175)を分離して、乾アルコール(dry alcohol)(170)を回収する。図1のユニット操作の実施形態は、図2にさらに詳細に記載されている。
【0057】
図2は、図1に示された実施形態と類似したプロセスの実施形態を示しているが、図2では、追加の実施形態及びプロセスの工程をより詳細に示している。粗供給原料(105)は、バイオディーゼル製造施設の貯蔵庫で受け取る。相溶性の供給原料は、更なる処理を行う前に混合され、共有タンク内に貯蔵されてもよい。粗供給原料(105)は、FFA含有量及び他の供給原料特性の状態によって、前処理され、精製される。粗供給原料(105)は、物理的及び化学的特性の状態によって、前処理工程の処理として、化学的精製(201)(破線A)、脱ガム(202)(破線B)、又はブリーチング及びポリッシュ(206)(破線C)のいずれかの処理を施すことができる。前述した両方の実施形態において、化学精製ユニット(201)又は脱ガムユニット(202)を出た供給原料は、遠心分離機(204)で処理される。遠心分離機ユニット(204)は、あらゆる固形物に加えて、ユニット(201)又は(202)で生成された粗供給原料から、含水相及びあらゆる水和性化合物又は極性化合物を除去する。含水相は、両方の実施形態において、石けん原料(205)と称されることがある。
【0058】
粗供給原料(105)が遠心分離機(204)を通過すると、熱ブリーチング又は粘土ブリーチング工程を含むユニット(206)で、乾燥、ブリーチング及びポリッシュ工程のうち1つ又は複数の処理を行ない、部分的に精製された供給原料の色、固形物、残留石けん、水分及び他の不純物を減少させる。一実施形態では、供給原料は、同じユニットでブリーチング及び乾燥される。別の実施形態では、供給原料は、ブリーチングユニットに入る前及び/又は後に、真空乾燥機、フラッシュドラム、又は他の手段によって、所望の含水量まで乾燥される。所望の含水量は、ブリーチングユニットで使用されるフィルター材料の種類、及びこの時点で供給原料中に存在する不純物によって変動する。
【0059】
供給原料は乾燥及びブリーチングが行われた後、ポリッシュフィルターに入り、ブリーチング工程におけるフィルター材料の微粒子と共に、残りの濾過可能な全ての不純物が除去される。ワックス化合物を含有する供給原料の場合、低温(例えば、<140°F)で稼働することにより、前記の工程で少量のワックスを除去することができる。しかし、ワックスは比較的低温であっても多少は油に可溶性であるため、ワックスの相当量が供給原料に残留し、バイオディーゼルへ運ばれる。また、油脂の粘度は温度が下がると劇的に高くなるため、精製温度を下げて低温で操業すると、どんな濾過工程ユニットも、処理能力が劇的に減少してしまう。
【0060】
この時点で、粗供給原料(105)中の少なくとも一部の不けん化材料は、前処理をした供給原料(115)中に残存している。
【0061】
前処理された供給原料(115)は、最初の粗供給原料の前処理プロセスの有効性及び前処理された供給原料のFFA含有量に応じて、任意選択的に、更なる処理を行うことができる。化学精製ユニット(201)及び遠心分離機(204)において、遊離脂肪酸が石けん原料(205)の形態で除去された場合、前処理された供給原料(115)は、破線1で示されるように、精製された供給原料(125)として直接、エステル交換反応工程に送られることができる。しかし、粗供給原料(105)が脱ガム工程(202)(破線B)及び/又はブリーチング及びポリッシュ工程(206)(破線C)で前処理されたために、有意な量(例えば、>0.2wt%)の遊離脂肪酸が残っている場合、前処理された供給原料(115)は、FFAストリッピングユニット(210)又はFFA変換ユニット(250)の何れかで更なる処理をする必要がある。粗供給原料(105)中の遊離脂肪酸は、エステル交換反応工程(130)では一般的に好ましくないが、その理由は、遊離脂肪酸がエステル交換反応を駆動するために用いられた塩基触媒と反応して、油中に石けんを生成するためである。従って、遊離脂肪酸は、除去又は変換されるか、除去と変換の両方が行われなければならない。前処理された供給原料(115)中のFFAレベルを低下させるためには、2つの主要な処理の選択肢があり、それは、1)供給原料からFFAを物理的に除去するためのストリッピング(又は脱酸)(210)と、2)エステル化又はグリセリン分解(250)の何れかによる化学変換、である。グリセリン分解は、エステル化のサブカテゴリーであり、アルコールであるグリセロールが、FFAsを、グリセロールの脂肪酸エステルであるグリセリドに変換するのに用いられる。本発明が先行技術より利点を有するのは、あらゆるFFA含有量(0~100wt%)の供給原料を、適当な供給原料の前処理(110)で処理され得るという点にある。
【0062】
破線2によって示される一実施形態において、前処理された供給原料(115)は、蒸留(210)を使用する物理的なFFA精製工程において、トリグリセリドよりも低分子量の他の成分(トコフェロール及びステロールを含む)と共に遊離脂肪酸から剥離される(stripped)。FFAストリッピング工程は、任意のFFAレベルを有する供給原料に対して実行されることができるが、好ましいFFAレベルは、約0.5wt%~約30wt%である。FFAストリッピング工程(210)では、粗供給原料を加熱するために、スチーム、熱油、又は他の熱流体を用いることができる。蒸留は、真空下で行い、ユニット(210)内の蒸発によって油相から遊離脂肪酸を除去してもよい。FFAストリッピング工程(210)は、蒸留塔、ワイプドフィルム蒸発器(wiped-film evaporator)、又は他のそのような装置を利用することができ、任意選択的に、供給原料の残部からFFAsの分離を容易にするために、スチームを蒸留ユニットの中へ注入することもできる。FFAストリッピング(210)から2つの生成物の流れを生じさせることができ、1つは、約50wt%を超えるFFA並びに少量のトコフェロール及びステロールから構成される比較的純粋な脂肪酸蒸留物(211)の流れであり、もう1つは約0.5wt%未満のFFA及び少量のステリルエステルを含む剥離された供給原料(212)の流れである。剥離された供給原料の流れ(212)は、FFAストリッピング(210)の間に十分に純化され、精製された供給原料(125)としてエステル交換反応工程へ進むことができる。脂肪酸蒸留物の流れ(211)は、最終製品として販売されてもよいし、ユニット(250)内で更なる処理を施し、FFAを化学的に変換することもできる(破線4)。
【0063】
別の実施形態において、前処理された供給原料(115)は少量の不けん化材料を含み、ユニット(250)で直接処理される。0.1~100wt%のFFAを有する供給原料は、FFA変換ユニット(250)で処理され、FFAを、エステル化によってエステルに変換するか、又はグリセリン分解によってグリセリドに変換する(破線3)。FFAストリッピング(210)により生じた脂肪酸蒸留物(211)もまた、FFA変換ユニット(250)の中で処理されてもよい(破線4)。
【0064】
一実施形態において、前処理された供給原料(115)(破線矢印3を進む)、及び/又は脂肪酸蒸留物(211)(破線矢印4を進む)は、エステル化され、ユニット(213)でアルキルエステルを生成する。この実施形態では、遊離脂肪酸は、均一及び/又は不均一な触媒を用いてアルコール(例えば、ユニット170の乾アルコール)とエステル化され、脂肪酸アルキルエステルを生成する。前処理された供給原料(115)又は脂肪酸蒸留物(211)がFFA変換ユニット(213)でエステル化により処理される場合、不けん化物もまた、ある程度反応することもある。例えば、ステロールは、遊離脂肪酸とのステリルエステルを生成することがある。従って、前処理された供給原料(115)がエステル化する場合の精製供給原料(125)、又は脂肪酸蒸留物(211)がエステル化する場合の粗バイオディーゼル(150)は、どちらも、生成物は、トコフェロール、ステロール、テルペン、及びステリルエステルの組合せを含む可能性が高い。
【0065】
別の実施形態では、前処理された供給原料(115)(破線矢印3を進む)及び/又は脂肪酸蒸留物(211)(破線矢印4を進む)は、ユニット(213)でグリセリンが分解され、グリセリドを生成する。この実施形態では、前処理された供給原料(115)又は脂肪酸蒸留物(211)からの遊離脂肪酸は、FFA変換ユニット(250)でユニット(145)のグリセリンと反応して、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを生成することができ、これらは、次いで、エステル交換反応により、バイオディーゼルを生成することもできる。FFA変換ユニット(250)内で様々な工程の装置を使用することで、精製された供給原料(125)としてエステル交換反応が行われる前に、グリセリン分解の出力ストリーム中のFFAを、約5wt%、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%、0.5wt%、0.3wt%又は0.1wt%未満に低減することができる。
【0066】
同様に、粗供給原料若しくは前処理された供給原料(115)又は脂肪酸蒸留物(211)中の不けん化材料は、グリセリン分解条件下で反応させてもよい。具体的には、遊離ステロールは、粗供給原料又は前処理された供給原料中に存在する遊離脂肪酸とステリルエステルを生成することができる。最近では、ステリルエステルは、栄養補助食品産業において、有益な化学物質として関心が高まってきている。
【0067】
従って、任意の量のFFAを含有する供給原料(105)は、上記の前処理(110)及びFFA精製(120)方法のうちの少なくとも1つによって処理され、FFAは化学的精製ユニット(201)、物理的精製ユニット(210)で除去され、及び/又はFFA変換ユニット(213)の中でエステル化若しくはグリセリン分解によって変換される。しかしながら、前処理(110)及びFFA精製(120)の方法では、典型的には、少量の遊離脂肪酸が残り、最終的にはバイオディーゼル生成物中に残存するため、バイオディーゼルの酸価を上昇させることになる。
【0068】
供給原料が前処理(110)され、精製(120)されると、エステル交換反応工程へ送られ、次いで、バイオディーゼル精製工程で処理される。油脂からバイオディーゼルを製造するのに用いられるプロセスは幾つかあり、例えば、塩基触媒によるエステル交換反応、酸触媒によるエステル交換反応及び酵素によるエステル交換反応がある。
【0069】
一実施形態において、バイオディーゼルは、1つ、2つ、3つ又はそれ以上の反応器の中で、塩基触媒によるエステル交換反応を用いて、供給原料から製造される。一実施形態では、精製された供給原料(125)は、エステル交換反応工程で処理され、次いで、精製されて、純化されたバイオディーゼル(160)及びグリセリン(145)が生成される。エステル交換反応の反応混合物は、反応器(220)を出て、相分離ユニット(222)に入る。相分離ユニット(222)では、反応混合物は、エステルリッチ相とグリセリンリッチ相の2つの相に分離される。エステルリッチ相(粗バイオディーゼル)は、追加の反応器(223)に移送され、グリセリンリッチ相(粗グリセリン)はユニット(135)の中に集められる。粗グリセリン(135)は、粗バイオディーゼル(150)よりも密度が高く、2つの相は、デカント容器内での比重分離により、又は必要若しくは所望に応じて、遠心分離によって分離されることができる。不けん化材料は、分離工程中に、粗バイオディーゼル(150)中に残存する傾向がある。
【0070】
エステル交換反応が第2の反応器(223)で完了すると、反応混合物は第2の相分離ユニット(224)に入る。一実施形態では、酸(225)は、反応混合物と混合され、反応器(223)を出て、相分離ユニット(224)に入る前に、エステル交換反応の触媒を不活性化させる。他の実施形態では、触媒は、相分離ユニットの後で不活性化される。酸は、反応混合物に導入される前に、酸希釈容器(226)内で水(175)で希釈されることができる。相分離ユニット(224)において、反応混合物は、再び、エステルリッチ相又は粗バイオディーゼル(150)の相と、ユニット(230)に送られたグリセリンリッチ相又は粗グリセリン(135)の相の2つの相に分離される。これらの未精製相(crude phase)の各々は、反応に使用された有意な量の過剰アルコールを含んでいてもよい。さらに、粗反応生成物は、過剰の触媒、石けん、塩類、水及び高沸点不純物などの他の不純物を含んでもよい。一実施形態では、これら不純物の一部又は全部は、ユニット(224)でバイオディーゼル相とグリセリン相が分離される前に、処理されるか又は粗反応生成物から除去されてもよい。しかしながら、不けん化材料は、他の不純物が、粗グリセリン(135)で処理又は除去された後であっても、粗バイオディーゼル(150)に残存する傾向がある。
【0071】
相分離ユニット(224)を出た粗バイオディーゼル(150)は、依然として不純物及び不けん化材料を含むため、1つ又は複数のユニット操作において純化されなければならない。これらの操作の順序及び数は、粗供給原料の特性、前処理工程、エステル交換反応工程、及び経済的実現可能性に応じて変化し得る。粗バイオディーゼル(150)がユニット(224)で粗グリセリン(135)から分離された後、典型的には、更なるバイオディーゼル精製(155)の処理が行われる。例えば、分離後、粗バイオディーゼルは、残留アルコール、グリセリン、少量の触媒、塩類、及び石けんを含んでいてもよい。粗反応生成物が分離前に精製され、不純物が除去又は中和された場合であっても、これはあり得るかも知れない。
【0072】
供給原料、その不純物、及び不けん化材料によっては、バイオディーゼル精製ユニット(243)は異なる場合がある。一実施形態では、粗バイオディーゼル(150)はユニット(243)で低温濾過処理が行われ、タンパク質、ワックス、及び特定の不けん化材料などの高融点成分が、溶解点より低い温度に冷却され、濾過によって除去される。低温濾過技術は、濾過の効果を高めるために、珪藻土(DE)又は他の濾過媒体を使用することができる。このようにして、粗バイオディーゼル(150)を、商業的な低温浸漬濾過性能能試験に適合させることができる。低温濾過工程では、濾過ケーキ中に捕捉された不けん化材料は、様々な分離及び抽出工程を用いて回収され、有益な化学物質を生成することができる。一般的に、低温濾過を、供給原料の前処理(110)及びFFA精製(120)と組み合わせることは多くの利点を有する。しかしながら、供給原料によっては、フィルターがすぐに目詰まりを起こすことがあり、フィルター交換のために多大なダウンタイムを必要とし、運転コストが高くなる可能性がある。このため、合理的な運転条件下の望ましい生産速度では、十分な量の成分を除去することができない可能性がある。このような供給原料には、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、グンバイナズナ油、特定の家禽油脂、及び一部の藻類油又は微生物油などの不けん化材料を含有するものを挙げることができる。それらは広い温度範囲でFAAEに溶解するため、ワックスやその他の特定の不けん化材料は、前処理工程(110)、FFA精製工程(120)及び低温濾過工程又は同様な脱ワックス(winterization)技術の組合せを使用した費用効果の高い方法でも、必ずしも、バイオディーゼル生成物から完全に除去され得るとは限らない。
【0073】
別の実施形態では、粗バイオディーゼル(150)は、ユニット(243)で膜濾過処理され、タンパク質、ワックス、及び特定の不けん化材料などの高融点成分が凝縮され、融点より低い温度で除去される。膜濾過は、凝縮した物質がより容易に濾過されるような低温で行われるか、又は、大きな分子又は極性の高い分子を溶液から分離することができる極く小さな細孔を有する膜を使用して高温で行うこともできる(例えば、ナノ濾過)。このようにして、粗バイオディーゼル(150)を、特定の商業的バイオディーゼル規格を満たすようにできる。膜濾過技術は、セラミック膜、ポリマー膜、分子篩、及び炭素繊維又はナノチューブを挙げることができる。一実施形態では、相分離ユニット(241)を出た生成物は、バイオディーゼルアルコールストリッパー(242)を通過するのではなく、メタノールと水の両方を除去する膜濾過ユニットに直接入ることができる。この方法を用いると、様々な溶媒抽出技術を使用して、不けん化材料を膜から回収し、有益な化学物質を得ることができる。
【0074】
別の実施形態では、粗バイオディーゼル(150)は、ユニット(243)で樹脂濾過処理することで、残留水を含む不純物が除去される。このようにして、粗バイオディーゼル(150)を、特定の商業的バイオディーゼル仕様に適合するよう製造することができる。樹脂濾過技術は、ドライウォッシュ樹脂、イオン交換樹脂、及び他の吸収剤又は吸収性樹脂を含むことができる。一実施形態では、相分離ユニット(224)又は(241)を出た生成物は、追加の純化ユニットを通過するのではなく、メタノール、グリセリン、水、及び他の不純物を除去する樹脂濾過ユニットに直接入ることができる。なお、不けん化材料の一部は、様々な溶媒を使用して樹脂フィルターから回収され、有益な化学物質が生成され得る。これら同じ溶媒が、樹脂を再生又は再活性化するのに有用な場合もある。
【0075】
別の実施形態では、粗バイオディーゼル(150)は、ユニット(243)で蒸留によって純化され、不けん化材料、石けん、リン脂質、タンパク質、着色化合物、硫黄化合物、酸官能基又は塩基官能基を有する高沸点化合物、並びに蒸留ボトムの形態であるモノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを除去又はそれらのレベルを低下させることができる。蒸留されたバイオディーゼル(160)は純化され、最初の粗供給原料中に問題となる成分が含まれていたとしても、商業的に許容されるはずである。このような蒸留工程は、様々な処理装置によって実施されることができ、前記装置には、フラッシュ容器、蒸留容器、蒸留塔、短経路蒸留器、ワイプドフィルム蒸発器、薄膜蒸発器、流下フィルム型蒸発器、及び他の熱分離手段が含まれる。
【0076】
バイオディーゼル残留物(180)の中で回収される不けん化材料は、一般的に、バイオディーゼル純化ユニット(243)に入る粗バイオディーゼル(150)の約10wt%未満、約8wt%未満、約6wt%未満、約4wt%未満、約2wt%未満、及び約1wt%未満である。しかしながら、バイオディーゼル工場の容量が大きいため、これはかなりの量になるであろう。それゆえ、バイオディーゼル残留物(180)中の不けん化材料は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス、フラボノイド、カロテノイド、及び他の有益な化学物質などの成分の供給源となり得る。
【0077】
一実施形態では、バイオディーゼル純化ユニット(243)での純化は、追加の純化(260)を行うことにより、バイオディーゼル残留物(180)の生成物が得られ、当該生成物は濃縮されており、有益な化学物質(261)の経済的な供給源である。ユニット(260)でバイオディーゼル残留物(180)を純化し、該バイオディーゼル残留物から有益な化学物質(261)を得るための様々な方法として、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、沈殿、沈降、結晶化、蒸留、及び溶媒分離技術が挙げられる。
【0078】
一実施形態において、バイオディーゼルは、ユニット(243)で、粗バイオディーゼルを蒸留することによって純化され、純化されたバイオディーゼル生成物は低温浸漬濾過性能能試験に合格することができるように、タンパク質と不けん化材料の含有量を低減する。一実施形態では、ASTM D664-17 Method Bによる滴定において、第2変曲点を生じて酸価の上昇を引き起こすヒドロキシケイ皮酸及びの他の化合物を、ユニット(243)で粗バイオディーゼルを純化することによって除去する。一実施形態において、ユニット(243)での粗バイオディーゼルの蒸留による純化は、純化されたバイオディーゼル生成物がFAAE含有量が増加するように、及び/又は濾過性が向上するように、粗バイオディーゼルの不けん化材料を除去する。一実施形態において、ユニット(243)でのバイオディーゼル蒸留による純化は、純化されたバイオディーゼル生成物が最初の供給原料よりも薄い色になるように、粗バイオディーゼルの着色化合物を低減させる。一実施形態において、ユニット(243)でのバイオディーゼル蒸留による純化は、純化されたバイオディーゼル生成物が顧客に受け入れられる色の要件を満たすように、及び/又は、オフロード用に染色されたディーゼルと同じようには見えないように、粗バイオディーゼルの着色化合物を減少させる。一実施形態において、ユニット(243)でのバイオディーゼル蒸留による純化は、純化されたバイオディーゼル生成物が、ASTM D6751-18の新しいモノグリセリド規格及び将来導入された場合のグリセリド規格などの商業的なモノグリセリド規格に適合するように、粗バイオディーゼルのグリセリドを除去する。一実施形態において、ユニット(243)でのバイオディーゼル蒸留による純化は、純化されたバイオディーゼル生成物が、ASTM D6751-18の商業的硫黄制限値及び現在の制限値が強化された場合の将来の硫黄仕様に適合するように、粗バイオディーゼルの硫黄含有種の一部分を除去する。
【0079】
一実施形態では、バイオディーゼルの蒸留は170~300℃及び800~0Torrで行われる。別の実施形態では、バイオディーゼルの蒸留は、200~300℃及び800~0Torrで行われる。別の実施形態では、バイオディーゼルの蒸留は230~290℃及び40~0Torrで行われる。さらに別の実施形態では、バイオディーゼルの蒸留は、240~280℃及び5~0.01Torrで行われる。
【0080】
一実施形態では、バイオディーゼル純化工程(243)で製造されるバイオディーゼル生成物(160)は、ワックス含有量が約0.1wt%未満、不けん化物質含有量が約2wt%以下の、石けん含有量が約50ppm以下、硫黄含有量が約500ppm以下、モノグリセリド含有量が約0.6wt%未満であり、低温浸透濾過の結果が約360秒以下であり、最初の供給原料よりも薄い色を有するであろう。
【0081】
別の実施形態では、バイオディーゼル純化工程(243)で製造されるバイオディーゼル生成物(160)は、ワックス含有量が約0.05wt%未満、不けん化物質含有量が約1wt%以下、石けん含有量が約20ppm以下、硫黄含有量が約15ppm以下、モノグリセリド含有量が約0.5wt%未満、低温浸透濾過の結果が240秒以下であり、最初の供給原料よりも薄い色を有するであろう。
【0082】
一実施形態では、バイオディーゼル純化工程(243)で製造されるバイオディーゼル生成物(160)は、ワックス含有量が約0.01wt%未満、不けん化物質含有量が約0.5wt%以下、石けん含有量が約10ppm以下、硫黄含有量が約10ppm以下、モノグリセリド含有量が約0.4wt%未満、低温浸透濾過の結果が約200秒以下であり、最初の供給原料よりも薄い色を有するであろう。
【0083】
従来の供給原料の前処理技術では、不けん化材料をほとんど除去することができない。一実施形態では、脂肪酸蒸留物と称される生成物の中の不けん化材料の一部が、FFAストリッパーで除去される。脂肪酸蒸留物は、主にFFAを含有するが、トコフェロール、ステロール、モノグリセリド及びジグリセリド、並びに他の不けん化材料も含む。例えばステリルエステルなどの一部の化合物は、沸点が十分に高いため、主にグリセリド中に残留し、剥離される供給原料と一緒に移動するため、結局は粗バイオディーゼルになる。
【0084】
脂肪酸蒸留物を処理するために幾つかの選択肢がある。一実施形態では、グリセリン分解反応でグリセリンが脂肪酸蒸留物に添加される。反応中、FFAはモノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドに生成され、一方、ステロールの一部はFFAと反応してステリルエステルを生成する。FFAがグリセリン分解反応で十分に消費され、水分が除去されると、生成物はグリセリド、トコフェロール、ステリルエステル及び残留水を含有する供給原料として生成される。
【0085】
一実施形態では、粗バイオディーゼルを、アルコールストリッパー(242)で乾燥し、水とアルコールを湿アルコールとして除去する。乾燥バイオディーゼルは、次いで、ユニット(243)で幾つかの技術を用いて純化され、不けん化物を回収することができる。一実施形態において、乾燥バイオディーゼルは、ユニット(243)内で蒸留によって純化され、不けん化材料及び不純物を蒸留ボトム(180)の中で濃縮して分離する。蒸留ボトム(180)には、相当量の不けん化材料が含まれているので、不けん化材料から、トコフェロール、ステロール、ステリルエステル、テルペン、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス、フラボノイド、カロテノイドなどの有益な化学物質、及びその他の有益な化学物質を回収することができる。
【0086】
目的の有益な化学物質は、様々な溶媒における溶解度の予期せぬ違いを利用して、バイオディーゼル残留物(180)から回収されることができる。一実施形態では、バイオディーゼル残留物(180)は、最初に、ヘキサン又はヘプタンなどの極性が非常に小さく、分子量の小さい溶媒で処理され、沈降(sedimentation)により、ワックス、テルペン、及び他の成分を除去することができる。回収された液相は、次いで、極性が大きく、密度の高いアルコールなどの溶媒で処理して、重質(アルコール)相の中にバイオディーゼルブレンド原料を回収することができる。バイオディーゼル残留物(180)から得られたステロール及びステリルエステルは、最初の溶媒中に濃化されており、溶媒を蒸発させることにより、沈殿した固体又はゲルが残って回収される。
【0087】
別の実施形態では、バイオディーゼル残留物(l80)は、最初に、アセトン又は酢酸エチルのように極性が中程度の溶媒で処理され、ワックス、テルペン及び他の成分の中に濃化された沈殿物と上澄み液が生成する。沈殿物は、極性がマイルドな溶媒で少なくとも第2の処理が行われ、追加の目的成分を上澄み液相の中に回収する。このような液相を全て組み合わせて、バイオディーゼル、グリセリド、ステロール、及びステリルエステルの中に濃化された溶媒の流れを生成する。次いで、溶媒の流れを水で処理することにより、水層と、ステロール及びステリルエステルの中で濃化された沈殿物を生成することができる。この水層の上には、バイオディーゼル及びグリセリドの中に濃化された有機相があり、当該有機相は、残留溶媒を除去した後、その組成に応じて、バイオディーゼルブレンド原料又はバイオ燃料供給原料として再利用されることができる。
【0088】
不けん化材料の少なくとも一部分は、バイオディーゼル残留物(180)から除去されるが、バイオディーゼル残留物(l80)の残部もまた、バイオディーゼルブレンド原料又はバイオ燃料供給原料としての価値が向上する。幾つかの実施形態において、バイオディーゼル残留物(l80)の残部は、バイオ燃料製造プロセスの供給原料の一部として再利用されることができる。他の実施形態において、バイオディーゼル残留物(l80)の少なくとも一部分は、不けん化材料を除去すると、バイオディーゼルブレンド原料としての品質が向上するため、バイオディーゼル生成物と混合されることができる。
【0089】
本発明の別の態様は、バイオディーゼル残留物(180)(又は不けん化材料含有量の多い他の生物学的供給原料(301))を、水素化脱酸素処理を通じてディーゼルレンジ炭化水素に変換することに関する。蒸留ボトム及び他の生物学的供給原料などのバイオディーゼル残留物(180)が、少なくとも2%、好ましくは少なくとも4%の比較的高濃度の不けん化材料を含有し、少なくとも20%の重質(heavies)(本明細書では、ASTM D2887-18又はASTM D7169-11などの試験方法により約400℃より高い沸点を有する質量フラクションとして定義される)を含み、ディーゼルレンジ炭化水素に変換され得ることが観察されたのは驚くべきことであった。幾つかの実施形態では、不けん化含有量の多い生物学的供給原料は、粗トール油を含む。
【0090】
本発明を説明するために、好ましい実施形態を図3に示す。図3を参照すると、生物学的供給原料(301)は、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル(モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを含む)、及び2%以上、好ましくは4%より高い濃度の不けん化材料を含み、炭化水素油希釈剤(311)と混合されて、希釈された生物学的供給原料(301A)が得られる。幾つかの実施形態において、生物学的供給原料(301)は、蒸留ボトムなどのバイオディーゼル残留物(180)を含む。希釈剤-供給原料の比率は(すなわち、301からの流れに対する311からの流れの体積比)は1対1乃至20対1であり、好ましくは2対1乃至4対1である。幾つかの実施形態では、生物学的供給原料(301)は、ステロール及びステリルエステル(ステロールとカルボン酸の反応生成物)などの不けん化材料を含む。ステリルエステル中の不けん化物の割合を定量化するために、ステリルエステルの質量の60%が不けん化ステロールであると仮定する。(これは、ステロールがC28のカンペステロールであり、カルボン酸がC18のオレイン酸であることに基づいている)。生物由来の生物学的供給原料は、さらに遊離グリセリンを0~1%含有してもよい。けん化成分は、遊離脂肪酸と、脂肪酸エステルとを含み、前記脂肪酸エステルは、脂肪酸メチル/エチルエステル、及びグリセリド(すなわち、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリド)を含む。全酸素ヘテロ原子に関しては、生物学的供給原料(301)は好ましくは、8~14wt%の元素酸素を含む。
【0091】
炭化水素油希釈剤(311)は、主として炭化水素である。幾つかの実施形態では、炭化水素油希釈剤(311)は、炭化水素が99%より多い。これらは、石油、石炭、天然ガス、ビチューメン(タールサンド)、又は生物由来の生物学的供給源からの炭化水素を含む。炭化水素油は、添加剤(例えば、防錆剤、抗酸化剤など)からのものを含めて、酸素、窒素、及び硫黄を、夫々、最大0.1wt%まで含んでもよい。幾つかの実施形態では、炭化水素油は、飽和物(saturates)が90%以上である。幾つかの実施形態では、炭化水素油は、5%以下の芳香族炭化水素、好ましくは1%以下の芳香族炭化水素を含む。幾つかの実施形態では、炭化水素希釈剤は、10%以下のオレフィン、好ましくは2%以下のオレフィンを含む。炭化水素油は、好ましくは、蒸留物範囲の中央で、初期沸点が177℃より高く、90%蒸留温度が330℃未満であり、C15-C18パラフィンを含む。
【0092】
再び図3を参照すると、301及び311からの流れは、水素化脱酸素反応(HDO)の反応器システム(300)に送られる。希釈された生物学的供給原料(301A)及び水素(H)リッチガス供給原料(302)は、反応器システムの圧力又はそれ以上の圧力で、HDO反応器システム(300)へ導入される。幾つかの実施形態では、Hリッチガス(302)は、70~100mol%の水素濃度を有する。そこでは、供給原料が混合され、反応器入口温度まで加熱される。幾つかの実施形態では、HDO反応器システムは、供給原料(302)及び(301A)を一緒に又は別々に加熱するための設備を備える。幾つかの実施形態では、生物学的供給原料(301)は、直接加熱されるのではなく、予め加熱された供給原料(311)及び/又は(302)との接触により加熱される。幾つかの実施形態では、希釈された生物学的供給原料(301A)及びHリッチガス(302)は、500°F(260℃)~700°F(371℃)の温度、及び500~2500psigの反応器圧力で、水素化処理触媒と接触する。HDO反応器は、水素化処理触媒が充填された固定床反応器である。水素化処理触媒は、一般的には、Ni(1~20%)、Mo(2~40%)、Co(1~20%)、又はW(2~40%)が含浸したアルミナ押出成形物である。これらの触媒は、硫化物形態(すなわち、Ni;MoS;WS;Coとして)であり、所望のHDO活性/選択性を有する。触媒が所望の硫化物状態に維持するために、ジメチルジスルフィドなどの硫黄化合物を、典型的には100~1000wppm(生物学的供給原料の硫黄)で供給原料に添加する。固定床HDO反応器は、典型的には、断熱的に運転されており、反応の熱が反応器から直接除去されることはない。そのような動作実施形態では、反応の熱による反応器全体の温度上昇は、加熱されていないHリッチガス(流れ302)、又は加熱されていない液体供給原料(流れ301、311、又は301A)をクエンチ用として反応器に導入することによって調整される。
【0093】
幾つかの実施形態では、HDO反応器は、スラリー反応器(例えば、スラリー気泡塔型反応器)である。スラリー反応器は、典型的に、押出成形物の代わりに40~100ミクロンの粉末タイプの触媒を使用する。しかしながら、触媒の組成は、卑金属(base metal)を含有する点で押出物に類似している。
【0094】
再び図3を参照すると、反応生成物及び副生成物を含む反応器排出液(304)は冷却システム(303)において冷却される。反応生成物は、酸素が低減された生物学的生成物と、反応副生成物、水、及び酸化炭素(CO/CO)を含む蒸気相と、を含む。幾つかの実施形態では、反応器排出液(304)の温度は、550°F(288℃)~800°F(427℃)である。冷却システム(303)は、酸素低減生成物が冷却され、凝縮可能な蒸気相の副生成物が凝縮されるように、反応器排出液(304)を200°F(93℃)~350°F(177℃)の温度に冷却する。冷却された反応器排出液(304A)は液相と気相を含み、3相分離器305に送られ、気相(306)と、炭化水素相(307)と含水相(306A)に分離される。3相分離器(305)は、HDO反応器システムの圧力からラインフローの圧力降下を差し引いた圧力で動作する。幾つかの実施形態では、冷却/凝縮及び分離は、「高温分離器」及び「低温分離器」を含む複数の段階で実行される。
【0095】
気相(306)は、反応の副産物/副生成物であるプロパン、CO、CO、及びHSと共に、未反応のHを含む。多くの生物学的供給原料は窒素化合物を含有するため、気相(306)は、典型的には、NHも同様に含む。幾つかの実施形態では、気相(306)は、Hリッチガス(302)と混合され、HDO反応器システム(241)に再利用される。幾つかの実施形態では、気相(306)は、例えば、苛性溶液又はアミン溶液を通してスクラビング(すなわち、ガスの吸収)によって純化され、CO、HS、及びNHの少なくとも一部分を除去する。
【0096】
含水相(306A)は、生物学的供給原料中の酸素ヘテロ原子の水素化脱酸素処理中に生成された水を含む。溶解した硫化物、炭酸塩、及びアンモニウム種が含まれるにも拘わらず、含水相(306A)のpHは、中性にほぼ近い(6.5~7.5)。
【0097】
炭化水素相(307)は、生物学的供給原料(301)の水素化脱酸素により酸素が低減した生成物であり、0.1wt%未満の酸素を含む。さらに、酸素低減生成物は、少なくとも90%の飽和炭化水素(パラフィン、イソパラフィン及びシクロパラフィンの組合せ)、5%未満のオレフィン炭化水素、1%未満の芳香族炭化水素を含み、C15-C18のパラフィンを含む。炭化水素相(307)は、ストリッパー(308)において、溶解したHS、H0、及びNHから分離されることもできる。ストリッパー(308)は、3相分離器(305)よりも低い圧力、典型的には、0~150psigの圧力で動作する。幾つかの実施形態では、溶解したサワーガス及び水の除去を向上させるために、スチーム又は窒素などのストリッピングガスが使用される。HS、H0、NHを含むストリッパーのオーバーヘッド蒸気流(310)は、このようにして、分離された炭化水素生成物(309)から除去される。
【0098】
幾つかの実施形態において、剥離された炭化水素生成物(309)は、0.1wt%未満の酸素、10ppm未満の硫黄、10ppm未満の窒素、及び200ppm未満、好ましくは100ppm未満の水を含む炭化水素である。炭化水素は、初期沸点が177℃より高く、90%蒸留温度が338℃より低く(標準試験法ASTM D86又はその等価方法により測定)、C15-C18のパラフィンを含む。
【0099】
幾つかの実施形態において、炭化水素希釈剤(311)は、炭化水素相(307)を含む。幾つかの実施形態では、炭化水素希釈剤(311)は、剥離された炭化水素生成物(309)を含む。幾つかの実施形態において、剥離された炭化水素生成物(309)は、ディーゼル燃料の添加剤として使用される。幾つかの実施形態では、剥離された炭化水素生成物(309)は、先行技術の方法に従って、水素化分解及び/又は水素化異性化(312)の処理が施されることで、ディーゼル燃料として使用するための炭化水素生成物(309)の低温特性(例えば、曇点)が向上する。幾つかの実施形態では、水素化分解及び/又は水素化異性化された炭化水素(313)は、再生可能なディーゼル燃料、ジェット燃料、及びナフサフラクションに分画される。
【0100】
関連する一態様において、蒸留ボトムなどのバイオディーゼル残留物(180)は、非従来型(unconventional)の脂質のエステル交換反応又はエステル化の少なくとも1つから回収されることができる。一実施形態では、バイオディーゼル残留物(180)は、上述の工程を用いて回収されることができる。非従来型の脂質は、本明細書において、炭素鎖長が20又はそれより長い脂肪酸を少なくとも20wt%含む脂肪酸プロファイル(すなわち、C20+脂肪酸を20%含有)によって特徴づけられる脂質として定義される。そのような脂質の例としては、C20+脂肪酸を55~57%有するカリナタ油、C20+脂肪酸を52%~60%有する高エルカ酸菜種油、及びC20+脂肪酸を65%~68%有するレスケレラ・フェンデレリ(Lesquerella Fendleri)(アブラナ科の顕花植物)が含まれる。これらの非従来型の脂質は、一般的には人の飲食には適さず、一般に農耕に適さない土地で生育し、従来の野菜油や動物性油脂よりも高いエネルギー含有量(燃焼熱)を有する。そのため、これらの油料種子を生成する植物は、しばしば「エネルギー作物」と呼ばれている。原理的には、このような非従来型の脂質は、バイオ燃料の生産にとって魅力的なものである。しかし、そのような脂質から製造されたバイオディーゼルは、通常、90%蒸留回収温度(ASTM D1160-15によるT90)が360℃を超えるため、T90を最大360℃に制限しているASTMD6751-18バイオディーゼル仕様に適合しない。
【0101】
幾つかの実施形態では、非従来型の脂質を含む供給原料にメタノールによるエステル交換反応処理を施し、脂肪酸鎖長の範囲を有する脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成する。従来型のCl6/C18脂肪酸脂質と混合した場合でも、エステル交換反応処理を施した脂質ブレンド中のC20+脂肪酸は、少なくとも10wt%である。エステル交換反応の方法及びシステムは、本明細書前半の背景技術の項に記載されている。当業者であれば、非従来型な脂質とのエステル交換反応のための軽質アルコールとしてメタノールが記載されているが、例えば、エタノール及びC3/C4アルコール(例えば、イソブタノール)などの他の軽質アルコールについて、脂肪酸アルキルエステルを生成するために使用され得ることを認識するであろう。エステル交換反応の反応器からの排出液は、軽質エステル(例えば、C16又はそれより短い脂肪酸鎖を有するFAAE)、Cl8脂肪酸アルキルエステル(例えば、オレイン酸メチル及びリノール酸メチル)、重質エステル(例えば、C20+脂肪酸を有するFAAE)、グリセリン、並びに未変換のグリセリド及び不けん化材料を含む。この流れに対して、前述したグリセリン分離及びバイオディーゼル蒸留の処理が施される。本実施形態では、蒸留を行うことにより、C18脂肪酸エステルを主に含むバイオディーゼル蒸留物が、加熱油として又は発電機燃料として、圧縮点火エンジン内で使用するために回収される。バイオディーゼル生成物は、非従来型の脂質から得たC18脂肪酸を含むが、標準試験法(ASTM D 1160-15)で測定された最高温度360℃のT90値を含むASTM D6751-18のバイオディーゼル仕様に完全に適合する。
【0102】
本実施形態における蒸留ボトムフラクションは、C20+脂肪酸のFAAE、未変換グリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリド)、及び本開示の中で前述した不けん化物を含む。幾つかの実施形態では、蒸留ボトムは、少なくとも15wt%のC20+脂肪酸のFAAEを含む。幾つかの実施形態では、蒸留ボトムのC20+脂肪酸のFAAEの含有量は、15~90wt%である。
【0103】
概括的には図3を参照し、具体的には図3のHDO反応器システム(300)を参照すると、蒸留ボトムには、前述した水素化脱酸素処理が施される。本実施形態におけるHDO生成物は、(C20+脂肪酸FAME中間体を介して)非従来型脂質の脂肪酸の水素化脱酸素によるn-パラフィンを含む。蒸留ボトムの水素化脱酸素処理により、酸素が低減した生成物を生成する。生成物は、0.1wt%未満の酸素、少なくとも90%の飽和炭化水素(パラフィン、イソパラフィン、及びシクロパラフィンの組合せ)、5%未満のオレフィン炭化水素、1%未満の芳香族炭化水素を含む。飽和炭化水素は、C15-C18のn-パラフィン及びC20+のn-パラフィンを含む。幾つかの実施形態において、飽和炭化水素は、C15-C24のn-パラフィンを含む。幾つかの実施形態において、酸素低減生成物は、少なくとも5wt%のC20+のn-パラフィンを含む。幾つかの実施形態では、酸素低減生成物は、少なくとも10wt%のC20+のn-パラフィンを含む。幾つかの実施形態では、酸素低減生成物は、少なくとも20wt%のC20+のn-パラフィンを含む。
【0104】
蒸留ボトムの水素化脱酸素処理により酸素が低減した生成物は、次いで、ユニット(308)において剥離され、C1-C3炭化水素、H2S、NH3、水、CO及びC02を含むあらゆる気相副生成物(310)を除去する。幾つかの実施形態では、剥離された炭化水素生成物(309)は、次いで、公知の方法により、水素化分解及び/又は水素化異性化(312)の処理が施され、ディーゼル燃料として使用するために酸素低減生成物の低温特性(例えば曇点)を向上させる。幾つかの実施形態では、水素化分解及び/又は水素化異性化の処理が行われた炭化水素(313)は、再生可能なディーゼル燃料、ジェット燃料、及びナフサフラクションに分画される。C20+のn-パラフィンは高濃度にも拘わらず、ディーゼル生成物の90%回収温度(D86-l6a法による)は、338℃以下である。
【0105】
本発明の他の実施形態では、軽質エステル(C16又はそれより短い脂肪酸鎖を有し、AOCS CE 1-62によって決定されるFAAE)は、軽蒸留カット(light distillation cut)として分離され、バイオディーゼル(大部分がC18脂肪酸のFAAE)はハートカット(heart-cut)として分離される。C16及びそれより短い脂肪酸(すなわち軽質エステル)は、飽和脂肪酸の比率がC18及びそれより長い脂肪酸よりも大きいため、バイオディーゼルの低温フロー特性に悪影響を及ぼす。従って、軽質エステルを除去することにより、バイオディーゼル生成物の価値が向上する。この実施形態では、軽質エステルと蒸留ボトムとを組み合わせて、水素化脱酸素用の供給原料を提供する。別の実施形態において、軽質エステルは、Cl6又はそれより短い炭化水素を生成するための水素化脱酸素反応器システムの生物学的供給原料として使用されてもよい。
【0106】
他の実施形態では、蒸留ボトムの一部又は残部は、微生物による消化、水素化プロセス、熱分解、又は、燃料若しくは他の有益な化合物に対する他の処理などのその後の生物学的、化学的又は熱的処理のための供給原料として使用されることができる。
【0107】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0108】
<実施例1:バイオディーゼルの生成及び純化工程による不けん化材料の回収>
ドライミルエタノール工場から得たコーン油をバイオディーゼル処理施設で処理した。供給原料の前処理は、粗コーン油の供給原料をブリーチング及びポリッシュして、少量の汚染物質を除去することにより行なった。次いで、前処理された供給原料をFFAストリッピングすることによりFFAを除去し、脂肪酸蒸留物及び剥離された供給原料を生成した。剥離された供給原料は、エステル交換反応により粗バイオディーゼルに変換され、脂肪酸蒸留物は別の場所でエステル化して粗バイオディーゼルを生成した。次いで、粗バイオディーゼルを乾燥して、アルコールと水を除去した後、蒸留して、純化されたバイオディーゼル及び蒸留ボトムを生成した。
【0109】
<実施例2:バイオディーゼル蒸留ボトムの特徴づけ>
バイオディーゼルの蒸留により得られたボトムフラクション(残留物)をガスクロマトグラフィーを用いて分析することにより特徴づけを行なった。その結果は表1に報告される。
【表1】
【0110】
バイオディーゼル蒸留ボトムの元素分析を行ったところ、表2に示すような元素組成であった。
【表2】
【0111】
<実施例3:遊離ステロール/ステリルエステル混合物のバイオディーゼル蒸留ボトムから純化の実施例でアセトンの使用>
4mL(4g)のバイオディーゼル蒸留ボトム及び10mL(7.3g)のアセトンを14mLの遠心管に加えた。次いで、遠心管を混合し、遠心分離を行った。遠心分離後、アセトン液(9g)を別の14mL遠心管にデカントした。残存したスラッジ層(2.3g)を再利用し、再びアセトンで抽出した。0.5mLの脱イオン水を14mL遠心分離管の中のアセトン液に加えて混合し、遠心分離した。次いで、上相の液体をデカントし、生じた残留スラッジ(2.7g)層を、FTIRにより決定されたステロール/ステロールエステル成分の中で富化した。乾燥固体の中でステロール/ステロールエステル成分の富化は、1250~1000cmの領域において、800cmのステロール吸光度の保持と1742cmでの吸光度の低下によって示された。デカントされたアセトン/水相から得られた固体は、1250~1000cmの領域において、800cmでの吸光度の低下と1742cmでの吸光度の上昇を示した。
【0112】
<実施例4:バイオディーゼル蒸留ボトムから回収した遊離ステロール/ステリルエステル混合物からエステル及び芳香族成分の除去の実施例で、ヘプタン及びメタノールの使用>
4mLのバイオディーゼル蒸留ボトムと10mLのヘプタンを14mLの遠心管に加えた。次いで、内容物を混合し、遠心分離を行った。ヘプタン可溶性液体を別の14mL遠心管にデカントした。残存するスラッジ層は、この時点でワックスと芳香族成分の中で富化されており、次いで、乾燥させた。次いで、1アリコートのメタノールをヘプタン可溶性液体に加えて、混合し、遠心分離した。次いで、得られた層を分離した。各層を乾燥させ、FTIRで分析した。ヘプタン層中の固体はステロールの吸光度を維持したが、エステル領域では吸光度の低下を示した。メタノール層中の固体は、開始時のバイオディーゼル蒸留ボトムと比較して、ステロールの吸光度が低下し、エステルの吸光度を保持した。
【0113】
<実施例5:バイオディーゼル蒸留ボトムの前処理>
バイオディーゼル蒸留ボトムは、使用済み食用油、非食用コーン油及び褐色油脂を含む組成の供給原料で稼働するバイオディーゼル製造施設から入手した。粗メチルエステルは、メタノールとカリウムメトキシド触媒の存在下でのエステル交換反応を通じて、脂質供給原料から製造した。カリウムメトキシド触媒を氷酢酸で中和し、酢酸カリウム塩を生成した。粗メチルエステルを、ワイプドフィルム蒸発器にて、約240℃及び5.5Torrの真空圧の条件で蒸留した。バイオディーゼル蒸留ボトムの収率は、蒸留供給原料ベースで約9wt%であった。
【0114】
バイオディーゼル蒸留ボトムに、前処理を施し、無機不純物(例えば、主に酢酸カリウム)の濃度を低下させた。前処理プロセスの第1工程は、蒸留ボトムを約80~85℃に加熱し、50wt%のクエン酸水溶液を5wt%及び水を約5wt%投入し、撹拌タンク中で約30分間混合することであった。次いで、混合物を3相横型遠心分離機で約6000g-forceで遠心分離した。洗浄された蒸留ボトムを含む遠心分離軽液相5ガロンを回収し、アルカリ度及び金属組成を分析した。第1工程の金属低減の概要を表3に示す。
【表3】
【0115】
前処理プロセスの第2工程では、追加の水洗浄を3回行なった。洗浄毎に、5wt%の水を追加し、80℃で30秒間のせん断混合し、卓上型バケット遠心機でバッチ遠心分離を行うことが含まれている。遠心分離後、ピペット操作により油相を回収した。完全に精製された蒸留ボトム及び洗浄された蒸留ボトムの不純物負荷(impurity loading)を表4に示す。
【表4】
【0116】
<実施例6:バイオディーゼル蒸留ボトムの水素化脱酸素>
バイオディーゼルのバイオディーゼル残留物(実施例5により処理されたもの)1重量部をキャノーラ油4重量部とブレンドすることにより、本発明に係る水素化脱酸素(HDO)用の生物学的供給原料を調製した。400ccの反応器に、容量が等しい2つの触媒床を配備した。上部床は低活性触媒(アルミナに3%の卑金属)を含み、下部床は高活性NiMo触媒(アルミナに18.5%の総卑金属)を含む。両触媒は、夫々、水素化脱金属と水素化脱硫とに使用される市販の石油精製触媒である。HDO反応器は、液体供給原料及び水素が、上部から入り、下部から出て行くように構成されている。触媒は、卑金属酸化物の形態で供給され、反応器の起動時に硫化された。
【0117】
不けん化材料リッチの生物学的供給原料を炭化水素希釈剤と混合した。炭化水素希釈剤はGCにより分析した。n-テタデカンを1.18%、n-ペンタデカンを1.99%、n-ヘキサデカンを15.46%、n-ヘプタデカンを8.11%、n-オクタデカンを65.61%含み、残部は、微量濃度のC14-C18の直鎖状オレフィン/イソパラフィン、「Cl9プラス」及び「Cl3マイナス」のパラフィン/オレフィンである。硫黄含有量は1.15ppm、窒素含有量は0.61ppmであった。希釈剤及び希釈された生物学的供給原料の沸点分布データ(ASTM D2887-18の疑似蒸留法に基づいて測定)を表5に示す。
【表5】
【0118】
3日間の連続運転におけるHDO反応条件を表6に示す。
【表6】
【0119】
反応器排出液を冷却し、高圧分離器に送り、そこで、排出液から水素リッチのブリードガスを分離した後、液体を大気圧のストリッパー塔で処理した。高圧分離器及びストリッパー塔の両方からのガス/蒸気の流れと組成を、湿式ガスメータ及びオンラインGC分析装置を用いて測定した。ガス流れの組成は、5~10mol%のC1-C6+炭化水素と共に1~2mol%のC02の存在を示した。ストリッパー塔の液体をアキュムレータに集め、そこで液体を8時間ごとに排出した。8時間ごとの組成物サンプルについて、沸点分布(ASTM D2887-18)、密度、硫黄、窒素、及び酸価を、少なくとも1日に1回分析した。結果を表5に示す。
【0120】
反応器の供給原料及び生成物に対する表5の沸点分布結果は、図4にも示されている。
【0121】
密度について、0.8263から0.7889~0.7899への低下は、酸素が実質的に除去されたことを示している。これは、全ての生成物サンプルにおける酸価が低下したことによっても裏付けられる。高分子量種の低下についても、沸点分布データ(ASTM D2887-18分析)から観察される。図4は、400℃+フラクションが25%から5%未満に低下していることを示している。バイオディーゼル蒸留ボトムには高分子量/重質沸点種を多く含まれていることから、これらの結果は、不けん化材料を含むバイオディーゼル蒸留ボトムの実質的な変換を示している。
【0122】
<実施例7:バイオディーゼル蒸留ボトムのHDO生成物の水素化異性化>
実施例6の脱酸素された生成物の低温特性を試験した。曇点は26℃であり、流動点は21℃と測定された。
【0123】
ディーゼル燃料の用途としての低温特性を向上させるために、炭化水素に水素化異性化処理を施した。パイロットプラントの管状反応器には、2官能性異性化触媒を充填した。該触媒は、酸機能をもたらすゼオライト含有シリカアルミナ支持体と、水素化-脱水素化活性をもたらすPt/Pd貴金属の組合せと、を含む。反応パラメータを表7に示す。
【表7】
【0124】
収率(水素化異性化剤供給原料の体積当たりの水素化異性化ディーゼルの体積)は97%であった。水素化異性化されたディーゼルフラクションの選択された品質パラメータを表8に示す。
【表8】
【0125】
バイオディーゼル用の供給原料中、特に低コストの粗供給原料中に存在する不けん化材料は、その材料と量のばらつきの程度が大きい。しかし、本発明の実施形態に開示される複数の処理工程を、本明細書に開示されているように用いることにより、不純物の多い供給原料は、不けん化材料から、仕様を完全に満たす高品質のバイオディーゼル及び有益な化学物質へと変換することができる。これらの様々な実施形態は、当業者が本発明を実施することができるように十分に詳細に記載されており、開示された様々な実施形態への改変が当業者によって行われ得ることは理解されるであろう。上述の方法及び工程が、特定の順序で行われることを示している場合でも、当業者は、その順序が変更され得ること、及びそのような変更が本発明の原理に基づくものであることを認識するであろう。さらに、特定のプロセスについては、可能な場合には、並列の工程で同時に実行されてもよく、また、逐次的に実行されてもよい。
【0126】
本明細書の中で引用されている全ての刊行物、特許、及び特許出願は、それぞれの刊行物、特許、又は特許出願が具体的かつ個別に本明細書に記載されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0127】
上述の実施形態、変形形態、及び図は、本発明の有用性及び汎用性を示すものである。本明細書に記載された全ての特徴及び利点をもたらさない他の実施形態であっても、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく利用されることができる。そのような変更及び変形形態は、特許請求の範囲によって規定される発明の原理の範囲内であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純化されたバイオディーゼルを、不けん化材料を含有する供給原料から製造する方法であって、
a.供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程と、
b.前記粗バイオディーゼルを分離する工程であって、前記分離を、低温濾過、蒸留、膜分離、吸着及び樹脂濾過のうちの少なくとも1つを用いて行うことで、純化されたバイオディーゼルと不けん化材料を含有するバイオディーゼル残留物を生成する、分離する工程と、
c.前記バイオディーゼル残留物から前記不けん化材料の少なくとも一部分を回収する工程であって、前記不けん化材料が1又は2種以上の有益な化学物質を含む、回収する工程と、
d.前記1又は2種以上の有益な化学物質のうちの少なくとも1つを、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、前記不けん化材料から除去する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記1又は2種以上の有益な化学物質は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、脂肪酸のミリシルエステル、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記不けん化材料の前記一部分は、溶媒抽出によって回収される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記エステル交換反応の前に、前記供給原料を、前処理工程に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項5】
純化されたバイオディーゼルを、不けん化材料を含有する供給原料から製造する方法であって、
a.供給原料を前処理工程に導入して、前処理された供給原料を生成する工程と、
b.前記前処理された供給原料をFFA精製工程に導入して、精製された供給原料を生成する工程と、
c.前記精製された供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルを生成する工程と、
d.前記粗バイオディーゼルを純化して、純化されたバイオディーゼル及びバイオディーゼル残留物を生成する、純化する工程と、
e.前記バイオディーゼル残留物から不けん化材料を回収して、バイオディーゼル残留物の残りと、1又は2種以上の有益な化学物質を含む不けん化材料リッチのフラクションとを生成する工程と、
f.(i)前記バイオディーゼル残留物の残りをバイオディーゼル供給原料又はバイオディーゼルブレンド原料に導入する工程、及び(ii)前記バイオディーゼル残留物の残りを前記純化されたバイオディーゼルと混合する工程、のうちの少なくとも1つの工程と、
を含む、方法。
【請求項6】
前記不けん化材料リッチのフラクションは、前記有益な化学物質として、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項5の方法。
【請求項7】
前記有益な化学物質の少なくとも1つを、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、前記不けん化材料リッチのフラクションから除去する工程をさらに含む、請求項6の方法。
【請求項8】
前記純化する工程は、低温濾過、蒸留、膜濾過及び樹脂濾過のうちの少なくとも1つを使用することを含む、請求項5の方法。
【請求項9】
前記純化は蒸留によって行われる、請求項5の方法。
【請求項10】
前記バイオディーゼルの蒸留は170~300℃及び800~0Torrで行われる、請求項9の方法。
【請求項11】
前記不けん化材料を分離する前に、アルコールストリッパーを用いて前記粗バイオディーゼルを乾燥し、水とアルコールを除去することをさらに含む、請求項5の方法。
【請求項12】
前記不けん化材料は、溶媒抽出によって回収される、請求項5の方法。
【請求項13】
純化されたバイオディーゼルを供給原料から生成する際に有益な化学物質を回収する方法であって、
a.供給原料をエステル交換反応器の中でアルコールと反応させて粗バイオディーゼルの流れを生成する工程と、
b.前記粗バイオディーゼルの流れを、蒸留によって純化して、純化されたバイオディーゼルの流れと蒸留ボトムとを生成する工程と、
c.前記蒸留ボトムから不けん化材料を回収して、バイオディーゼル残留物の残りと、1又は2種以上の有益な化学物質を含む不けん化材料リッチのフラクションとを生成する工程と、
d.前記1又は2種以上の有益な化学物質を、けん化、エステル交換反応、エステル化、加水分解、及び溶媒分離のうちの少なくとも1つを用いて、前記不けん化材料リッチのフラクションから回収する工程と、
e.(i)前記バイオディーゼル残留物の残りをバイオディーゼル供給原料又はバイオディーゼルブレンド原料に導入する工程、及び(ii)前記バイオディーゼル残留物の残りを前記純化されたバイオディーゼルと混合する工程、のうちの少なくとも1つの工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
前記有益な化学物質は、ステロール、ステリルエステル、ステリルグルコシド、テルペン、トコフェロール、ビタミン、スルホリピド、タンパク質、ヒドロキシケイ皮酸、脂肪酸ミリシルエステル、ワックス、フラボノイド及びカロテノイドの少なくとも1つを含む、請求項13の方法。
【請求項15】
前記バイオディーゼルの蒸留は170~300℃及び800~0Torrで行われる、請求項13の方法。
【請求項16】
前記有益な化学物質を分離する前に、アルコールストリッパーを用いて前記粗バイオディーゼルを乾燥し、水とアルコールを除去することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項17】
前記有益な化学物質は、溶媒抽出によって回収される、請求項13の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
前処理された供給原料(115)は、最初の粗供給原料の前処理プロセスの有効性及び前処理された供給原料のFFA含有量に応じて、任意選択的に、更なる処理を行うことができる。化学精製ユニット(201)及び遠心分離機(204)において、遊離脂肪酸が石けん原料(205)の形態で除去された場合、前処理された供給原料(115)は、破線1で示されるように、精製された供給原料(125)として直接、エステル交換反応工程に送られることができる。しかし、粗供給原料(105)が脱ガム工程(202)(破線B)及び/又はブリーチング及びポリッシュ工程(206)(破線C)で前処理されたために、有意な量(例えば、>0.2wt%)の遊離脂肪酸が残っている場合、前処理された供給原料(115)は、FFAストリッピングユニット(210)又はFFA変換ユニット(213)の何れかで更なる処理をする必要がある。粗供給原料(105)中の遊離脂肪酸は、エステル交換反応工程(130)では一般的に好ましくないが、その理由は、遊離脂肪酸がエステル交換反応を駆動するために用いられた塩基触媒と反応して、油中に石けんを生成するためである。従って、遊離脂肪酸は、除去又は変換されるか、除去と変換の両方が行われなければならない。前処理された供給原料(115)中のFFAレベルを低下させるためには、2つの主要な処理の選択肢があり、それは、1)供給原料からFFAを物理的に除去するためのストリッピング(又は脱酸)(210)と、2)エステル化又はグリセリン分解の何れかによる化学変換(213)、である。グリセリン分解は、エステル化のサブカテゴリーであり、アルコールであるグリセロールが、FFAsを、グリセロールの脂肪酸エステルであるグリセリドに変換するのに用いられる。本発明が先行技術より利点を有するのは、あらゆるFFA含有量(0~100wt%)の供給原料を、適当な供給原料の前処理(110)で処理され得るという点にある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
破線2によって示される一実施形態において、前処理された供給原料(115)は、蒸留(210)を使用する物理的なFFA精製工程において、トリグリセリドよりも低分子量の他の成分(トコフェロール及びステロールを含む)と共に遊離脂肪酸からストリッピングされる(stripped)。FFAストリッピング工程は、任意のFFAレベルを有する供給原料に対して実行されることができるが、好ましいFFAレベルは、約0.5wt%~約30wt%である。FFAストリッピング工程(210)では、粗供給原料を加熱するために、スチーム、熱油、又は他の熱流体を用いることができる。蒸留は、真空下で行い、ユニット(210)内の蒸発によって油相から遊離脂肪酸を除去してもよい。FFAストリッピング工程(210)は、蒸留塔、ワイプドフィルム蒸発器(wiped-film evaporator)、又は他のそのような装置を利用することができ、任意選択的に、供給原料の残部からFFAsの分離を容易にするために、スチームを蒸留ユニットの中へ注入することもできる。FFAストリッピング(210)から2つの生成物の流れを生じさせることができ、1つは、約50wt%を超えるFFA並びに少量のトコフェロール及びステロールから構成される比較的純粋な脂肪酸蒸留物(211)の流れであり、もう1つは約0.5wt%未満のFFA及び少量のステリルエステルを含むストリッピングされた供給原料(212)の流れである。ストリッピングされた供給原料の流れ(212)は、FFAストリッピング(210)の間に十分に純化され、精製された供給原料(125)としてエステル交換反応工程へ進むことができる。脂肪酸蒸留物の流れ(211)は、最終製品として販売されてもよいし、ユニット(213)内で更なる処理を施し、FFAを化学的に変換することもできる(破線4)。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
別の実施形態において、前処理された供給原料(115)は少量の不けん化材料を含み、ユニット(213)で直接処理される。0.1~100wt%のFFAを有する供給原料は、FFA変換ユニット(213)で処理され、FFAを、エステル化によってエステルに変換するか、又はグリセリン分解によってグリセリドに変換する(破線3)。FFAストリッピング(210)により生じた脂肪酸蒸留物(211)もまた、FFA変換ユニット(213)の中で処理されてもよい(破線4)。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
別の実施形態では、前処理された供給原料(115)(破線矢印3を進む)及び/又は脂肪酸蒸留物(211)(破線矢印4を進む)は、ユニット(213)でグリセリンが分解され、グリセリドを生成する。この実施形態では、前処理された供給原料(115)又は脂肪酸蒸留物(211)からの遊離脂肪酸は、FFA変換ユニット(213)でユニット(145)のグリセリンと反応して、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドを生成することができ、これらは、次いで、エステル交換反応により、バイオディーゼルを生成することもできる。FFA変換ユニット(213)内で様々な工程の装置を使用することで、精製された供給原料(125)としてエステル交換反応が行われる前に、グリセリン分解の出力ストリーム中のFFAを、約5wt%、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%、0.5wt%、0.3wt%又は0.1wt%未満に低減することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3
【外国語明細書】