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特開2023-116657安定な滅菌性且つ結晶性O-アセチルサリチル酸(アスピリン)のバイアル内堆積物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116657
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】安定な滅菌性且つ結晶性O-アセチルサリチル酸(アスピリン)のバイアル内堆積物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/616 20060101AFI20230815BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230815BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230815BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K31/616
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/26
A61K9/19
A61K47/18
A61K47/04
A61P7/02
A61P9/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023096643
(22)【出願日】2023-06-13
(62)【分割の表示】P 2020517288の分割
【原出願日】2018-05-29
(31)【優先権主張番号】62/512,367
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519426885
【氏名又は名称】ローシャン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パレプ,ナゲシュ アール.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定形態の注射用アスピリンを含有するキット、凍結乾燥アスピリン組成物およびそれを用いた治療方法を提供する。
【解決手段】第1の容器と第2の容器とを含み、第1の容器が遊離酸形態の結晶性アスピリンの凍結乾燥混合物及び増量剤を含み、第2の容器が水及び塩基性化剤を含み、第2の容器中の塩基性化剤が、少なくとも5.5のpHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られるアスピリン溶液を提供するのに十分な量で存在する、アスピリンキットとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスピリン及び有機溶媒と水とを含有する共溶媒を含む、長期安定性を有する液体アスピリン含有組成物であって、前記有機溶媒と前記水との比が、約95/5~50/50である、液体アスピリン含有組成物。
【請求項2】
有機溶媒がアルコールである、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項3】
アルコールが、t-ブチルアルコール(TBA)、n-ブタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項4】
アルコールが、t-ブチルアルコールである、請求項3に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項5】
アルコールと水との比が、約60:40~約80:20、好ましくは約65:35~約75:25である、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項6】
組成物中のアスピリンの濃度が、約25mg/ml~約115mg/ml、好ましくは約45mg/ml~約75mg/ml又は約50mg/mlである、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項7】
界面活性剤を、好ましくは約0.05~約0.5mg/mlの量で更に含む、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項8】
界面活性剤が、ポリソルベート80又はTween80である、請求項7に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項9】
溶解促進剤を、好ましくは約2~約30mg/ml、好ましくは約5~約20mg/mlの量で更に含む、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項10】
溶解促進剤が、スクロース又は糖アルコール、好ましくはマンニトールである、請求項9に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項11】
pKa8超のトリス、グリシン又は他のアミノ塩基からなる群から好ましくは選択される緩衝剤を更に含む、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項12】
周囲温度で24時間後のアスピリンのサリチル酸への分解量が≦約2%、好ましくは≦約1.5%又は≦約1.0である、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項13】
共溶媒が、約65:35~約75:25の比でTBAと水とを含む混合物であり、アスピリンが約45~約75mg/mlの量で存在し、約0.05~約0.5mg/mlのポリソルベート80及び約5~約25mg/mlのマンニトールを更に含む、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項14】
有機溶媒と水とを含有する共溶媒が、TBA/水、n-ブタノール/水、エタノール/水、PEG-エタノール/水、DMSO/水、DMF/水及びPEG/n-ブタノール/水からなる群から選択される、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物。
【請求項15】
凍結乾燥アスピリンを製造するためのバルク溶液としての、請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物の使用。
【請求項16】
請求項1に記載の液体アスピリン含有組成物を用意すること、前記組成物を凍結乾燥すること、及び得られた凍結乾燥アスピリンを回収することを含む、凍結乾燥アスピリンを製造する方法。
【請求項17】
液体アスピリン含有組成物が、約20~約100mg/mlのアスピリンを含有し、共溶媒がt-ブチルアルコールと水とを含み、t-ブチルアルコールと水との比が、約80:20~約60:40、好ましくは約65:35である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
凍結乾燥アスピリンが結晶性である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
結晶性アスピリンの示差走査熱量計又はDSCで決定される融点が、136℃~144℃の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法により製造される凍結乾燥アスピリン。
【請求項21】
周囲貯蔵条件下で少なくとも2年の貯蔵寿命を有する、請求項20に記載の凍結乾燥アスピリン。
【請求項22】
25℃で2年後、約2.0%未満の総分解生成物、好ましくは25℃で2年後、約1.5重量%又は1.0重量%未満のサリチル酸を含む、請求項20に記載の凍結乾燥アスピリン。
【請求項23】
前記凍結乾燥アスピリン中の残留t-ブチルアルコールの量が、約0.5%未満、好ましくは約500~約10,000ppm又は約1,000~約3,000ppmである、請求項20に記載の凍結乾燥アスピリン。
【請求項24】
アスピリンが、約50、75又は100mg/mlの濃度を有するバルク溶液から凍結乾燥され、各濃度で作られた前記凍結乾燥アスピリンが、以下:
【表1】
の粒径分布を有する、請求項20に記載の凍結乾燥アスピリン。
【請求項25】
治療量の凍結乾燥アスピリンを含む第1の容器と、水及び塩基性化剤を含む第2の容器とを含む、アスピリン療法のためのキット。
【請求項26】
第2の容器が、界面活性剤を、好ましくは約0.01~約0.4mg/ml、好ましくは約0.2mg/mlの濃度で更に含む、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
界面活性剤が、ポリソルベート80である、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
塩基性化剤が、アミノ酸、有機塩基、並びに無機塩基、又はアルカリ及びアルカリ金属の塩基性塩からなる群から選択される、請求項25に記載のキット。
【請求項29】
アミノ酸又は有機塩基が、8.5以上のpKaを有する、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
アミノ酸が、アルギニン、リジン及びグリシンからなる群から選択される、請求項28に記載のキット。
【請求項31】
有機塩基が、トリスである、請求項28に記載のキット。
【請求項32】
無機塩基又は塩の形態が、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム及び二塩基性リン酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項28に記載のキット。
【請求項33】
塩基性化剤の量が、少なくとも約5.5、好ましくは約6.0、より好ましくは約6.0~約7.4のpH、又はおよその若しくはほぼ生理的なpHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られる溶液を提供するのに十分な量である、請求項25に記載のキット。
【請求項34】
請求項25に記載のキットの第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより製造される、静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
【請求項35】
前記組成物が、約270~約1300mOsm/kgの等張性を有する、請求項34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
【請求項36】
約20~約140mg/ml、好ましくは約100mg/mlのアスピリン、糖アルコール、好ましくはマンニトール及び界面活性剤を含み、前記組成物が組成物中に約0.1%未満のTBAを有する、請求項34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
【請求項37】
有効量の請求項34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物を、それを必要とする哺乳動物に静脈内投与することを含む、アスピリン療法を提供する方法。
【請求項38】
静脈内投与されるアスピリンの量が、約80~約1200mg、好ましくは約300~約1000mgである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
静脈内投与される組成物のアスピリン濃度が、約20~約50mg/mlである、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
投与される静脈注射用アスピリン含有組成物の量が、約1ml~約10mlである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
静脈注射用アスピリン含有組成物が、約90秒以内の期間にわたって、好ましくは約60秒の期間にわたって静脈内投与される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物が、ヒトである、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年5月30日に出願された米国仮特許出願第62/512,367号の優先権の利益を主張するものであり、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、安定形態の注射用アスピリン、それを含有するキット及びそれを用いた治療方法を対象とする。
【背景技術】
【0003】
アスピリン(O-アセチルサリチル酸、ASA)は、100年より長く治療的に用いられてきた。サリチル酸誘導体として、アスピリンは、関節炎、神経痛及び筋肉痛の治療において、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の3つの特性:鎮痛、解熱及び抗炎症性を有する。これらの3つの特性に加えて、アスピリンは、血小板凝集の阻害にも有効である。
【0004】
NSAID、例えば、アスピリンの主な治療効果は、プロスタグランジン産生を阻害するその能力である。アスピリンは、COX-1とCOX-2の両方を共有結合的に修飾するので、シクロオキシゲナーゼ活性を不可逆的に阻害し、COXに可逆的に結合する他のNSAIDとは異なる。COX-1の阻害は、血小板凝集を阻害するが、また胃内膜及び腎機能を刺激する場合がある。COX-2の阻害は抗炎症、解熱及び鎮痛作用をもたらす。
【0005】
軽度から中程度の疼痛及び発熱の治療、慢性疾患、例えば、血栓性心血管系イベントリスクの低減、並びに新規エビデンスにより示唆されるように、結直腸癌リスクの低減を含む、アスピリン及びサリチル酸(SA)の複数の治療活性のために、アスピリンは様々な形と大きさをとってきた。アスピリンは、最初、1897年に合成され、数十年にもわたり錠剤として販売されたが、過去30又は40年間にわたって、素錠、チュアブル錠、発泡錠、徐放錠、顆粒剤及び懸濁剤、即放/崩壊性錠、坐剤、粉剤、クリーム剤及びローション剤を含む様々な剤形が導入されている。
【0006】
アスピリンは、水(約0.3%)にわずかに可溶な、非解離形態で主に存在する薬物として、酸性pHで不溶であり、溶解度はpH約5.5以上で大幅に増加する。アスピリンの溶解度は、pH5.5以上で100mg/ml超である。アスピリンは、あらゆるpH条件下で加水分解されて、サリチル酸が形成される。加水分解速度はpH約2.5で最も遅い。アスピリンの加水分解は、4.5~8.5のpH領域で同じ状態のままである。分解半減期は約6日であり、アスピリンの溶液製剤の開発には不十分である。アスピリンの分解半減期が非常に短いので、10%の効力の喪失が約1.3時間で観察され得るため、濃縮バルク溶液を凍結乾燥することも不可能である。任意の薬物を凍結乾燥するためには、バルク溶液は、効力を周囲条件下で少なくとも12時間全く喪失してはならない。アスピリンの加水分解が最も遅いpH2.5でも、アスピリンは、1日当たり約2%の速度で分解する。低い溶解度に加えて溶液安定性に乏しいことから、商業的に有望な凍結乾燥物を開発することができない。したがって、水性媒体中の溶液の形態又は凍結乾燥形態のアスピリン注射の開発は極めて困難である。
【0007】
注射用剤形でのこのような溶解度及び安定性の問題により、経口剤形のアスピリンのみが、先に言及した様々な適応症の治療に広く用いられている。しかし、経口投与されたアスピリンは完全に吸収されず、薬理作用の発現が遅い。その一方で、静脈内投与されたアスピリン溶液の有効性は、経口投与された等量のアセチルサリチル酸の有効性より4倍高いと言われていた。
【0008】
この分解反応はpH依存性であることが知られていた。pHが低下すると、放出されるリジンのプロトン化の増加が引き起こされるので、O-アセチルサリチル酸とのその後の反応に利用できないか、又は非常に限られた程度でしか利用できない。
【0009】
O-アセチルサリチル酸(ASA)の安定な注射用製剤を開発するためのあらゆる試みは、過去50年にわたる広範な開発努力にもかかわらず、失敗に終わった。本発明者らの見解では、O-アセチルサリチル酸と、2つの塩基性基を含有するアミノ酸との塩は、塩の構成部分の不均化により不安定である。塩を水に溶解した場合、これは残留し得、イオン化平衡が生じ、アスピリン及びアミン塩形成体が形成される。
【0010】
このように形成されたアスピリンの水溶解度は、塩の水溶解度と比較すると極めて低く、沈殿する傾向にあり、したがってこれを元に戻すために平衡が生じるが、同時にアミン塩形成体が更に形成される。このようにして、溶液のpHは増加し、より不安定になる。高いpH条件により、O-アセチルサリチル酸はアミド分解され、O-アセチルサリチル酸及びO-サリチル酸のアミノ酸誘導体が形成される。アスピリンの注射用製剤中、このような不純物の存在は望ましくない。
【0011】
1859年にアスピリンが発見され、その後1899年にBayerにより世界的に商業化されて以来、O-アセチルサリチル酸(ASA、アスピリン;アスピリン(登録商標)はBayerの登録商標である)は、疼痛、発熱、炎症の治療及び血栓(血餅)の状況における血小板凝集の阻害のための医療上根幹となる薬物であった。
【0012】
アスピリンは、血液中の血小板凝集を阻害し、したがって、血管、組織及び生体器官における血小板による血餅を予防、減少又は除去する固有の能力も有する唯一の一般的な低分子薬である。アスピリンは、経口錠剤又はカプセル剤としてしか利用できず、口で摂取し、その後胃及びGI管に吸収させる必要があり、血小板凝集の阻害の発現は、経口投与の約40分後に生じる。
【0013】
心臓発作又は卒中の状況において血小板性血栓症を治療した場合、数分で命を救える。即効性のIV投与血栓溶解薬、例えば、TPA、低分子量ヘパリン及び糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤と比較して、救急車又はERで投与される経口錠剤アスピリンは即効性がない。
【0014】
数億人もの人々が、頭痛、片頭痛、関節炎、筋骨格又は皮膚の外傷、骨折、歯科及び外科処置による創痛の状況において、並びに癌及び糖尿病の合併症から急性(突発性)疼痛を経験している。アスピリンを含む多くの鎮痛剤は、経口錠剤として利用でき、疼痛緩和の発現開始に約30分かかる。オピオイド鎮痛剤は、即効性及び徐放性剤形として現在利用でき、疼痛緩和の発現開始に約30分かかる。しかし、オピオイドは、中毒性が高いことが広く知られており、標準的な投薬量又は過剰な投薬量で心臓呼吸系の不全を起こすおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、血小板性血栓症の阻害のための効果の高い「即効性」の予測可能な忍容性のある薬剤、並びに急性疼痛、発熱、炎症の治療のための非中毒性の薬物の探求が続いている。したがって、急性冠症候群及び他の血管適応症において即座に治療作用をもたらす非経口剤形のアスピリンが医学上の必要性が大いにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様において、安定性が強化された液体アスピリン含有組成物が提供される。バルク溶液の組成物は、アスピリン及び有機溶媒と水とを含有する共溶媒を含む。有機溶媒と水との比は、約95/5~50/50である。
【0017】
本発明の別の態様において、凍結乾燥アスピリンを製造するためのバルク溶液としての、液体アスピリン含有組成物の使用が提供される。本発明のより更なる態様は、凍結乾燥アスピリンを製造する方法を含む。該方法は、本明細書に記載の液体アスピリン含有組成物を得、組成物を凍結乾燥し、得られた凍結乾燥アスピリンを回収することを含む。液体アスピリン含有組成物は、約20~約100mg/mlのアスピリンを含有し得、共溶媒は、t-ブチルアルコールと水とを含み得る。本明細書に記載の方法により製造される凍結乾燥アスピリンも本発明の一態様である。このような凍結乾燥アスピリンは、周囲貯蔵条件下で少なくとも2年の貯蔵寿命を有する。
【0018】
本発明のより更なる態様は、治療量の凍結乾燥アスピリンを含む第1の容器と、水及び塩基性化剤、並びに場合により界面活性剤、例えば、ポリソルベート80を含む第2の容器とを含む、アスピリン療法のためのキットを含む。好適な塩基性化剤としては、アミノ酸、又は有機塩基、並びに無機塩基、又はアルカリ及びアルカリ金属の塩基性塩を含み、pKaは8.5以上である。塩基性化剤の量は、少なくとも約5.5及び好ましくは6.0のpH、又はほぼ生理的pHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られる溶液を提供するのに十分な量である。
【0019】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されるキットの第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより製造される、静脈注射用液体アスピリン含有組成物である。有効量の本明細書に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物を、それを必要とする哺乳動物に静脈内投与することを含む、アスピリン療法を提供する方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1a】本発明及び実施例18に従って様々な濃度で作られたアスピリンAPI及び凍結乾燥物のX線回折像を示す図である。
図1b】本発明及び実施例18に従って様々な濃度で作られたアスピリンAPI及び凍結乾燥物のX線回折像を示す図である。
図1c】本発明及び実施例18に従って様々な濃度で作られたアスピリンAPI及び凍結乾燥物のX線回折像を示す図である。
図1d】本発明及び実施例18に従って様々な濃度で作られたアスピリンAPI及び凍結乾燥物のX線回折像を示す図である。
図2】実施例21の試験試料のXRDのオーバーレイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
アスピリンの水溶解度は約3mg/mlである。この濃度は十分な用量のアスピリンを投与するにはかなり低い。例えば、100mgを投与するには、約33.3mlのアスピリン溶液を投与する必要がある。この量はボーラス注射として投与するには多い。希釈した溶液は、急速投与注射で投与されねばならない。用量が多ければ多いほど、大量のアスピリン溶液が必要とされる。更に、溶液は酸性であり、溶液のpHは約2.5である。したがって、アスピリン溶液は、注射部位の疼痛及び溶血を回避するためにほぼ生理的pHで製剤化されねばならない。アスピリン溶液は本質的に酸性であるため、酸性溶液を中和する一つの方法としては、無機塩基での処理がある。当技術分野で公知の第2のアプローチは、アスピリンの塩基性有機塩を製造することである。過去40年にわたって、数名の科学者が、アスピリンの塩基性塩の製造に着目してきた。注目に値する又は広く人気があるアスピリンの塩形態は、リジン塩である。この塩形態について広範な研究開発活動が行われたが、アスピリンほど安定でないことが示された。したがって、この塩形態の臨床使用は、ドイツの幾つかの病院に制限された。Bayerはこの製品を1年の貯蔵寿命で幾つかの病院に販売している。Bayerが販売する製品は、500mgのアスピリン及び406mgのl-リジンに相当する906mgのアスピリンリジン塩からなる滅菌乾燥粉末である。更に、市場に提供された製品は、安定剤として約50~100mgのグリシンを含んでいた。該製品は、アスピリンリジン塩とグリシンの滅菌乾燥充填混合物であると考えられる。この滅菌乾燥混合物は、100mg/mlのASAを含有する溶液を得るために5mlの注射用水で構成されている。5mlの溶液は2分未満で注射された。トロンボキサンB2は、ボーラス注射後5分以内に95%超阻害された。トロンボキサンの阻害は、血小板凝集を防止するので、注射用ASAは、心臓発作を患う人々の命を救うと予想される。
【0022】
本発明者らの目標は、100mg/mlのASA溶液を得るために特別な希釈剤で再構成され得る、バイアル中の安定な滅菌注射用形態の純アスピリンを開発することであった。アスピリンとアミノ酸の物理的混合物、及びアミノ酸との共凍結乾燥、並びに非水性凍結乾燥について広範な研究を行った。試験したアミノ酸の中には、アルギニン、リジン及びグリシンがあった。また、無機塩基性化剤、例えば、二塩基性リン酸ナトリウム及び三塩基性リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、並びに水酸化カルシウムも試験した。アセチルサリチル酸を脱プロトン化するためのアミノ酸と、バルク溶液のpHを制御するための無機塩基性化剤との組合せも試験した。
【0023】
本発明の第1の態様において、安定性が強化された液体アスピリン含有組成物が提供される。この組成物は、凍結乾燥アスピリンを製造するためのバルク溶液として有用である。組成物は、アスピリン及び有機溶媒と水とを含有する共溶媒を含む。有機溶媒と水との比は、約95/5~50/50である。
【0024】
有機溶媒は、好ましくはアルコール、例えば、C2~C4アルコールである。例えば、好適なアルコールとしては、t-ブチルアルコール(TBA)、n-ブタノール、エタノール及びこれらの混合物が挙げられる。本発明の多くの態様において、アルコールはt-ブチルアルコールである。アルコールと水との比は、約60:40~約80:20であり得る。幾つかの態様において、これは好ましくは約65:35~約75:25である。
【0025】
組成物中のアスピリンの濃度は約25mg/ml~約115mg/mlであり得る。幾つかの態様において、これは好ましくは約45mg/ml~約75mg/ml又は約50mg/mlである。
【0026】
液体アスピリン含有組成物は、界面活性剤を、好ましくは約0.05~約0.5mg/mlの量で更に含み得る。好適な界面活性剤としては、凍結乾燥製剤に有用であることが公知の全ての薬学的に許容される界面活性剤が挙げられる。幾つかの態様において、界面活性剤はポリソルベート80又はTween80である。
【0027】
液体アスピリン含有組成物はまた、溶解促進剤を、好ましくは約2~約30mg/ml、好ましくは約5~約20mg/mlの量で含み得る。好適な溶解促進剤としては、スクロース又は糖アルコール、例えば、マンニトール又は当業者に公知の他の薬学的に許容される糖アルコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の液体アスピリン含有組成物は、pKa8超の緩衝剤、例えば、トリス、即ちトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシン又は他のアミノ塩基も含み得る。
【0029】
液体アスピリン含有組成物は、凍結乾燥アスピリンの製造においてバルク溶液としての使用に好適である。得られた凍結乾燥組成物は、驚くべきことに、アスピリンのサリチル酸への分解が最小量で安定である。例えば、本発明による組成物は、周囲温度で24時間後、≦約2%、好ましくは≦約1%、≦約0.5%又は≦約0.25%の分解量を示す。
【0030】
本発明による1つの好ましい液体アスピリン含有組成物は、共溶媒が、約65:35~約75:25の比でTBAと水の混合物であるものである。アスピリンは約45~約75mg/mlの量で存在し、組成物は約0.05~約0.5mg/mlのポリソルベート80及び約5~約25mg/mlのマンニトールを更に含む。
【0031】
本発明の別の態様において、バルク液体アスピリン含有組成物は、TBA/水、n-ブタノール/水、エタノール/水、PEG-エタノール/水、DMSO/水、DMF/水又はPEG/n-ブタノール/水を含有する共溶媒の組合せを含む。
【0032】
本発明は、凍結乾燥アスピリンを製造する方法も含む。該方法は、記載の液体アスピリン含有組成物を用意すること、組成物を凍結乾燥すること、及び得られた凍結乾燥アスピリンを回収することを含む。アスピリンを凍結乾燥する技術は、実施例に記載の開示に基づき当業者には明らかであると予想される。凍結乾燥前の液体アスピリン含有組成物は、約20~約100mg/mlのアスピリンを含有し得、共溶媒はt-ブチルアルコールと水とを含み、t-ブチルアルコールと水との比は、約80:20~約60:40である。本発明の幾つかの態様において、凍結乾燥アスピリンは結晶性であり、示差走査熱量計又はDSCで決定される融点は、136℃~144℃の範囲である。
【0033】
本発明に従って製造される凍結乾燥アスピリンは周囲貯蔵条件下で少なくとも2年の貯蔵寿命を有し得、好ましくは25℃で2年後、約2.0%未満の総分解生成物、より好ましくは25℃で2年後、約1.5重量%未満又は更にそれを下回るサリチル酸を有する。
【0034】
多くの態様において、本発明の凍結乾燥アスピリンは、約0.5%未満、好ましくは約500~約10,000ppm又は約1,000~約3,000ppmの量で、凍結乾燥アスピリン中に低レベルの残留t-ブチルアルコールも有する。
【0035】
本発明に従って製造される凍結乾燥アスピリンの別の特徴は、これをバルク溶液から凍結乾燥した場合、約50、75又は100mg/mlの濃度を有することである。凍結乾燥アスピリンは、例えば以下に示すような粒径分布を有し得る。
【0036】
【表1】
【0037】
バルク溶液から、単位投薬量の凍結乾燥アスピリンを収容する個々の容器への変換の例示的実施例において、バルク溶液は以下の比で共溶媒を含むことが示される。
【0038】
【表2】
【0039】
次いで、溶液を含有するバイアルは、凍結乾燥される。充填量は、1バイアル当たり350mgのアスピリンに基づき計算される。これは、例えば、キットの第2の容器にある3.5mlの希釈剤で100mg/mlに再構成される。この過剰量により、施術者は、3.25mlの溶液、したがって325mgのアスピリンをバイアルから回収できる。
【0040】
本発明は、治療量の凍結乾燥アスピリン、例えば、約325mgを含む第1の容器と、凍結乾燥アスピリンを再構成するための水及び塩基性化剤を含む第2の容器とを含有するアスピリン療法のためのキットも含む。第2の容器は、界面活性剤を、好ましくは約0.01~約0.4mg/ml、より好ましくは約0.2mg/mlの濃度で更に含む。本発明の多くの態様において、界面活性剤はポリソルベート80である。
【0041】
塩基性化剤は、好適なアミノ酸、有機塩基、並びに無機塩基、又はアルカリ及びアルカリ金属の塩基性塩、例えば、pKaが8.5以上であるものから選択され得る。幾つかの好適なアミノ酸としてはアルギニン、リジン及びグリシンが挙げられる。好適な一例としてはトリスがある。好適な無機塩基又は塩の形態の例としては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム及び二塩基性リン酸ナトリウムが挙げられる。
【0042】
第2の容器中に含まれる塩基性化剤の量は、少なくとも約5.5、好ましくは約6.0、より好ましくは約6.0~約7.4のpH、又はおよその若しくはほぼ生理的なpHで第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られる溶液を提供するのに十分な量である。
【0043】
本発明は、キットの第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより製造される、静脈注射用液体アスピリン含有組成物を更に含む。このような組成物は、約270~約1300mOsm/kgの等張性を好ましくは有する。
【0044】
前述によれば、1つの静脈注射用液体アスピリン含有組成物は、組成物中に約0.1%未満のTBAと共に、約20~約140mg/ml、好ましくは約100mg/mlのアスピリン、糖アルコール、好ましくはマンニトール及び界面活性剤を含む。
【0045】
本発明は、アスピリン療法を提供する方法も含む。該方法は、有効量の本明細書に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物を、それを必要とする哺乳動物、例えば、ヒトに静脈内投与することを含む。実際に、該方法は、場合によりアスピリン組成物の使用説明書を含む好ましくはキットの形態で提供される2つの容器の内容物を組み合わせ、得られた組成物を静脈内投与することも含む。静脈内投与されるアスピリンの量は、約80~約1200mgであり得、好ましくは約300~約1000mgであり得る。本発明の幾つかの態様において、凍結乾燥アスピリンを入れる容器は、3.25ml用量中325mgのアスピリンを送達するのに十分な量を含有する。
【0046】
静脈内投与される組成物のアスピリン濃度は、約20~約100mg/ml、又は所望される場合、より高い濃度であり得、投与される静脈注射用アスピリン含有組成物の量は、約1ml~約10mlである。幾つかの好ましい態様において、投与されるアスピリンの濃度は、約100mg/mlである。
【0047】
静脈注射用アスピリン含有組成物は、約120秒以内の期間にわたって、好ましくは約90秒以内の期間にわたって静脈内投与され得る。このような投与方法は、心臓発作又は卒中の状況における血小板性血栓症の治療に特によく適している。したがって、本発明の組成物は、急性冠症候群状態に対して即座に治療作用をもたらすために、救急車、並びに病院及び救急救命室用途で用いられる救急カートに有利に備えられ得る。
【0048】
更なる治療方法
本明細書に記載の再構成されたアスピリン組成物は、当業者に公知の任意のアスピリン療法で用いられ得る。例えば、アスピリン療法は、以下の少なくとも1つを治療するために用いられ得るが、これらに限定されない:
a)虚血性卒中、TIA、急性MI、再発性MIの予防、不安定狭心症、慢性安定狭心症を含む血管適応症;
b)致死性及び非致死性卒中の複合リスクの低減又はフィブリン血小板塞栓による一過性脳虚血の減少;
c)急性MIが疑われる患者における血管性死亡リスクの低減;
d)MI又は不安定狭心症既往患者における致死性及び非致死性MIの複合リスクの低減、並びに(4)慢性狭心症患者におけるMI及び突然死の複合リスクの低減;
b)血管再建術(冠動脈バイパス移植(CABG)、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)及び頸動脈内膜剥離術):アスピリンが既に適応とされる既往歴がある場合、アスピリンは、血管再建術(即ち、CABG、PTCA又は頸動脈内膜剥離術)を受けた患者に適応とされる;
c)リウマチ性疾患適応症(関節リウマチ、若年性関節リウマチ、脊椎関節症、骨関節炎及び全身性エリテマトーデス(SLE)による関節炎及び胸膜炎):アスピリンは、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、骨関節炎、脊椎関節症、並びにSLEに関連する関節炎及び胸膜炎の症状の緩和に適応とされる;並びに
d)川崎病又は皮膚粘膜リンパ節症候群。
【0049】
適応症が川崎病である場合、投与されるアスピリンの量は1kg当たり1日約80~約100mg、又は体重1kg当たり1日約3~5mgである。他の投与計画は、過度に実験するまでもなく当業者には明らかであると予想される。
【実施例0050】
[実施例1]
最初に、アスピリンとリジン及びアスピリンとグリシンのモル当量の物理的ブレンドの化学安定性を評価した。最初の実験において、5gのアスピリン及び4.06gのl-リジンを乳鉢と乳棒で十分に混合し、ブレンドを100メッシュスクリーンに通した。物理的ブレンド(906mg、500mgのアスピリンに相当)を幾つかの5mL、I型フリントガラスバイアルに秤量し、栓をして、蓋をした。これらのバイアルを40℃及び25℃で配置し、最大3カ月貯蔵してアスピリン及びサリチル酸(アスピリンの主な分解物)について分析した。
【0051】
同様に、5gのアスピリン及び2.08gのグリシンからなる物理的混合物を調製し、この物理的混合物の安定性を同様に評価した。安定性データを表1に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
安定性データから、アスピリンの主要分解物であるサリチル酸の相応の増加と共に約6%の効力の喪失が観察されたため、アスピリン-リジンの物理的ブレンドが、それほど安定ではないことが示唆された。安定性評価は、貯蔵中のサリチル酸の形成に基づくものである。サリチル酸の量は、貯蔵寿命中3%を超えてはならない。しかし、25℃で貯蔵されたアスピリン-リジンの物理的ブレンドの3カ月の分析から約5%のサリチル酸が、1年間の貯蔵の最後には約7.5%のサリチル酸の形成が示され、物理的ブレンドが不安定であることを示している。
【0054】
しかし、アスピリン-グリシンの物理的ブレンドでは、40℃で3カ月、及び25℃で1年の貯蔵後、分解がなかったことが示され、滅菌アスピリン粉末を滅菌グリシンと無菌でブレンドし、バイアルに無菌で充填し得る場合、アスピリン-グリシンの物理的ブレンド(モルベースで1:1)の堅牢な製剤の開発が実現可能であることを示唆している。これは、大きな労働力を要する費用のかかる方法であり、滅菌等級のアスピリン並びにグリシンを供給するのは困難であり得る。原則的に、物理的ブレンドは、バイアルに非無菌充填され得、完成品が、γ照射により滅菌され得る。しかし、アスピリンのγ照射により3つの分解物が見られることを文献(30)中に見出した。したがって、γ照射は、アスピリン-グリシンの物理的ブレンドを滅菌するのに実行可能なオプションではない。
【0055】
[実施例2]
アスピリンとリジンの凍結乾燥も試みた。等モル量のアスピリン及びリジンを、溶液中での目標アスピリン濃度50mg/mlまで水に溶解した。15分の撹拌後、ASAの一部が溶解しなかったことが観察された。溶液のpHは4.5であった。追加量のリジンを添加し、バルク溶液のpHを6.5に上昇させた。薬物が全て溶解した場合、透明な溶液になった。次いで、溶液を濾過し、10mlのアリコートの溶液を20ccバイアルに入れ、凍結乾燥し、1バイアル当たり500mgのASAの用量を得た。しかし、生成物は適切に凍結乾燥されなかった。凍結乾燥ケーキは崩壊した。HPLC分析から、約40%のASAが凍結乾燥方法中分解されたことが示唆された。これらのデータ、並びにASAを溶解するための水及び有機塩基を用いて安定な凍結乾燥製剤を製造するために行われた広範な実験室での研究に基づき、溶解媒体として水を用いたASAとリジン又は他の有機塩基の凍結乾燥は、実現不可能であるという結論が出された。
【0056】
[実施例3]
その後の一連の実験において、ASAを溶解するための水中の無機塩基/緩衝剤を調べた。20mg/mlのASAスラリーを製造し、そこでは3つの異なる技術を用いてpHを6.5に増加させることによりASAを可溶化させた:
3A 水酸化ナトリウムペレットの使用
3B リン酸水素二ナトリウムの使用
3C pHを5.0に上昇させるための水酸化ナトリウム粉末、次いでpHを6.5に調整するためのリン酸水素二ナトリウムの使用。この手順により、3Aよりも良好にpHを制御できた。
【0057】
3つの溶液を全て濾過し、各5mlをI型フリントバイアルに入れ、凍結乾燥した。凍結乾燥の終了後、物理的外観についてバイアルを観察した。全てのバイアル中の凍結乾燥ケーキは収縮し、崩壊した。HPLC分析から、10%超のASAがその主要分解物であるサリチル酸に変換されたことが示唆された。ASA-リジン溶液の凍結乾燥は約-30℃で行われたため、この低温での昇華により、水は全て除去された。分解が凍結乾燥中に起こるのか、若しくはバルク溶液の調製中に起こるのか、又は両方の組合せで起こるのかは不明である。したがって、25℃での例3Cのバルク溶液安定性を調べた。安定性データを以下の表2に示す:
【0058】
【表4】
【0059】
上記の表に示すように、ASAが全て溶解した場合、最初に約3%のサリチル酸が形成された。サリチル酸のレベルは4時間以内に約9%に上昇した。これらの実験から、ASAの水性凍結乾燥は実現不可能であることが明白であった。堅牢な製造方法では、凍結乾燥用のバルク溶液中でASAの分解が少なくとも24時間全く観察されてはならない。
【0060】
[実施例4]
弱酸性(pH4~6.5)及び弱塩基性(pH7.0超)の範囲でのASAの水性凍結乾燥は不可能であるため、ASAのバルク溶液安定性を改善するための非水溶媒の使用を調べた。アスピリンはエタノール(80mg/ml)、ジメチルスルホキシドDMSO(41mg/ml)及びジメチルホルムアミドDMF(30mg/ml)に十分に可溶である。純エタノールは凍結せず、最終完成品を損傷せずに凍結乾燥方法中に除去することが非常に困難であるため、純エタノールは凍結乾燥に使用できない。DMSO及びDMFはいずれも苛性溶媒であり、これは、凍結乾燥機のチャンバー内のポリマー材料、例えば、ガスケット、及び他の筐体材料に損傷を与える。したがって、これらの2つの溶媒が凍結乾燥方法で用いられることはほとんどなかった。凍結乾燥方法において水との共溶媒としてエタノールを使用した製品は幾つかあるが、エタノールレベルは10~15体積%に制限されている。
【0061】
[実施例5]
前述の溶媒を用いた凍結乾燥に関する問題を克服するために、t-ブチルアルコール(TBA)の使用を調べた。しかし、TBAはエタノール、DMSO又はDMFのように強力な非プロトン性溶媒ではない。第1の工程において、純t-ブチルアルコール中、及び水とTBAとを様々な比で含有する二成分溶媒中でのASAの飽和溶解度を測定した。驚くべきことに、アスピリンはTBAに高度に可溶であり、エタノール、DMSO及びDMF中でのアスピリンの報告された溶解度よりもはるかに高い(約1.5~4倍)ことが判明した。また、他のC3~C4脂肪族アルコール、例えば、n-ブタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール中のアスピリンの溶解度も測定した。他の非プロトン性溶媒、例えば、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール400中でのアスピリンの溶解度も測定した。データは表3に要約されている。
【0062】
TBA/水(60/40)混合物中でもアスピリンの溶解度は、純エタノール中でのアスピリンの溶解度よりも高かった。水の溶媒混合物への取り込みは、凍結乾燥用のバルク溶液中での水溶性賦形剤、例えば、増量剤の存在を可能にするため、これは実に重要な発明又は知見である。例えば、ASAを任意の塩基性アミノ酸と又は幾つかの無機塩基性化剤若しくは増量剤、例えば、マンニトール若しくはスクロースと共凍結乾燥したい場合、これらの賦形剤は、TBA単独では不溶であるため、これらの賦形剤を溶解するために溶媒系に水が必要である。様々な溶媒及びTBA/水系中でのASAの溶解度データを表3に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
上記の表に示すように、ASAの溶解度は、80%/20%TBA/水(v/v)系中でのその目標濃度の100mg/mLに到達した。この文献においてTBA/水の比への言及は全て、(v/v)ベースに基づくことに留意されたい。一般に、水の割合が増加すると、水に難溶である薬物の溶解度は、混合溶媒系中で低下する。TBA/水系中で同じ挙動が観察された。
【0065】
溶解度の決定手順:
小分けしたAPIをビヒクルに添加し、マグネチックスターラー上に置いたままにし、500RPMで撹拌し、必要な場合、溶解するまで加熱した。透明な溶液を得たら、少量の薬物を更に添加して、薬物の更なる溶解を促進した。この方法を繰り返して、飽和溶解度を得た。溶液を濾過し、バイアルに移し、栓をし、クリンプし、物理的観察及びHPLC分析に使用した。
【0066】
[実施例6]
先に言及したように、凍結乾燥の一次基準はバルク溶液中でのASAの安定性である。堅牢な凍結乾燥方法では、薬物が凍結乾燥用のバルク溶液中で少なくとも24時間分解してはならない。80/20、70/30及び60/40TBA/水溶液中でのASAの24時間の安定性を調べた。試験した系全てにおいて周囲貯蔵条件下で24時間の貯蔵にわたって明らかな分解が観察されることはなかった。安定性データを以下の表4に示した。
【0067】
【表6】
【0068】
バルク溶液の物理的外観は貯蔵期間中変化がない。溶液は透明であり無色である。
【0069】
[実施例7]
TBA/水系中でのASAの溶解度及び安定性について得られた情報に基づき、以下の凍結乾燥試験を行った。80%TBA/20水中の20mg/mlバッチのアスピリンを調製した。そこでバルク溶液の見掛けpHは2.9であった。1N水酸化ナトリウムを用いて、溶液のpHを6.5に上昇させた。おそらくTBA/水系からの無機塩基の塩析により、相分離が観察された。次の試行において、最初に1N水酸化ナトリウムを用いて、溶液のpHを5.0に上昇させ、次いで二塩基性リン酸ナトリウムを用いて、pHを6.5に上昇させた。二塩基性リン酸ナトリウムを、pHの良好な制御のために用いた。相分離が依然観察されたため、無機塩基又は緩衝剤は80%TBA/20%水系と適合性がないと思われる。アルカリ化剤を溶解するためには系中に更なる水、例えば、70%TBA/30%水が必要とされ得る。
【0070】
[実施例8]
その後、凍結乾燥方法において有機アミノ酸塩基、例えば、アルギニン、リジン又はグリシンとASAとを取り込む可能性を調べた。リジンとアルギニンの両方が、80/20TBA水混合物に難溶であるため、凍結乾燥用の溶媒として70/30TBA/水を使用した。この溶媒系中でのアルギニンの溶解度は約10mg/mlであり、リジンの溶解度は2mg/mlであり、グリシンの溶解度は3mg/mlであり、トリスの溶解度は5mg/mlである。無機緩衝剤、例えば、二塩基性リン酸ナトリウムはこの溶媒系に不溶である。しかし、これらの溶解度値は、アスピリンを中和するのに十分でない。水性滴定試験から、100mgのASAを中和してpH約6.0で20mg/mlのアスピリン溶液を製造するためには、約90mgのアルギニンが必要とされることが示された。したがって、アミノ酸緩衝剤の中でアルギニン及びトリスは、70/30TBA/水系中での溶解度が妥当である唯一のアミノ酸緩衝剤であった。したがって、ASAの共凍結乾燥のためにTBA/水溶媒中でASAを中和するのに十分な濃度のアルギニン若しくはトリス以外のアミノ酸又は無機塩基の取り込みは、実現不可能である。この量のアルギニンでも、ASAを完全に中和するのに十分でない。ASAなしで、上記試験において、アミノ酸の純遊離塩基の溶解度も測定した。ASAを70%TBA/30%水系中でアルギニン遊離塩基で中和する場合、アルギニンの溶解度は異なり得る。
【0071】
本発明者らの仮説を試験するために、2gのASAを80mlの70/30TBA/水溶媒系に添加した。アルギニンを透明な溶液にゆっくりと添加して、アスピリンを中和した。完全に溶解させるために、約1.8gのアルギニンを添加した。70/30TBA/水の添加で、バッチ量を最大100mlにした。測定されたアルギニンの溶解度は18mg/mlであり、これは、アルギニン遊離塩基単独(約10mg/ml)の溶解度よりも大幅に高い。バルク溶液の見掛けpHは6.28であった。
【0072】
5mlのアリコートをフリントバイアルに入れ、凍結乾燥した。凍結乾燥の終了後、バイアルの内容物を5mlの注射用水で再構成した。薬物は全て溶解したが、わずかな濁りが見られた。再構成された溶液のpHは4.71であった。凍結乾燥用のバルク溶液は70%TBAを有しており、したがって、6.24のpH値は、70/30TBA/水系中の見掛けpHであった。再構成された溶液は、本質的にTBAを含まず、20mg/mlのアスピリン溶液の真の固有pHであることが観察され、ASAが全て完全に中和されたわけではないことを示唆している。水溶液中6超のpHは、アスピリンの完全な中和を意味する。
【0073】
[実施例9]
次の試行において、完全な中和を促進するための水酸化ナトリウムの取り込みを調べた。80mlの70/30TBA/水溶媒系及び2gのアスピリンスラリーに、100mgの水酸化ナトリウムを添加した。次いで、アルギニンをスラリーにゆっくりと添加して、アスピリンを中和した。完全に溶解させるために、約1.6gのアルギニンを添加した。70/30TBA/水の添加で、バッチ量を最大100mlにした。バルク溶液の見掛けpHは6.49であった。5mlのアリコートをフリントバイアルに入れ、凍結乾燥した。凍結乾燥の終了後、バイアルの内容物を5mlの注射用水で再構成した。薬物は全て溶解したが、わずかな濁りが観察された。再構成された溶液のpHは4.8であった。水酸化ナトリウムのような遊離塩基を取り込んでも、70%TBA/30%水系中でアスピリンは中和されなかった。
【0074】
上記の試験に基づき、好ましい溶媒系中でASAを中和するためには大量の塩基が必要であることが明らかになった。より多くの塩基をバルク溶液中に取り込むために、凍結乾燥用の溶媒として60/40TBA/水の使用を調べた。80mlの60/40TBA/水溶媒系及び2gのASA溶液に、400mgの水酸化ナトリウムを添加した。60/40TBA/水の添加で、バッチ量を最大100mlにした。バルク溶液の見掛けpHは6.31であった。5mlのアリコートをフリントバイアルに入れ、凍結乾燥した。凍結乾燥の終了後、各バイアルの内容物を5mlの注射用水で再構成した。薬物はほぼ全て溶解したが、わずかな濁りが見られた。再構成された溶液のpHは4.41であった。水酸化ナトリウムのような塩基を大量に取り込んでも、凍結乾燥用のバルク溶液中でアスピリンは可溶化されなかった。凍結乾燥ケーキの外観は良好ではなく、ケーキは収縮し、一部はメルトバックした。凍結乾燥物を、様々な濃度のリン酸二ナトリウムを含有する5mlの緩衝剤溶液で再構成した。滴定データを表5に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
滴定データから、凍結乾燥用の溶媒系は、再構成される溶液のpHを5超に上昇させるために、400mgの水酸化ナトリウムに加えて、少なくとも350mgの二塩基性リン酸ナトリウムを保持する必要があることが示唆された。
【0077】
[実施例10]
上記の実施例全てにおいて、再構成された溶液は濁っていた。濁りが、低pHによるものであるのか、又は凍結乾燥物の固有の性質によるものであるのかは定かでなかった。実施例8で引用したバッチを製造し、中性及び両親媒性の界面活性剤あり又はなしで二塩基性リン酸ナトリウムを用いて様々な濃度に再構成した。再構成された溶液のpHは4.71である。様々な媒体中での様々な濃度への凍結乾燥物の再構成を表6に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
再構成された溶液は全て、目標pHを達成したにもかかわらず、全ての濃度で濁りを示した。濁りがバルク溶液中でのアスピリンの分解による可能性があり得ることが推測された。したがって、効力及び可能性のある分解生成物について凍結乾燥物を試験した。HPLC分析から、17.4%の効力の喪失が示された。サリチル酸形成は7.2面積%であった。0.2面積%未満で他の未知の分解物が観察された。おそらく、濁りは、これらの未知の分解物によるものであった。凍結乾燥中の顕著な効力の喪失は、塩基性中和剤でのASAの堅牢及び安定な凍結乾燥製剤の開発にとって大きな懸案事項であった。不安定性がこのバッチのみに見られるのか、又は他のバッチでも見られるのかを確認するため、周囲条件下で1カ月にわたって貯蔵した凍結乾燥用の溶媒として70/30TBA/水を用いて調製した2つのバッチを分析した。安定性データを表7に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
上記の表に示すように、約50%の効力の喪失が、周囲条件下で1カ月の貯蔵にわたって観察された。サリチル酸に加えて、3つの追加の分解生成物が観察され、サリチル酸は主な分解物であった。試験から、TBA/水を含有する溶媒系中でアミノ酸若しくは無機塩基又は両方の組合せを用いた部分的又は完全な中和を介したASAの凍結乾燥は実現不可能であることが示唆された。更に、上記の例で得られた凍結乾燥物は本質的に非晶質であり、ASAはその非晶質形態で不安定である。
【0082】
[実施例11]
ASAを様々な塩基性化剤、好ましくはアルギニン、リジン及びトリスと共凍結乾燥して、水で再構成するとpH約6以上の透明な溶液になり得る凍結乾燥物を製造するために、広範な製剤スクリーニング試験を行った。これらの試験から、バルク溶液の安定性が、方法を拡大するのに十分でないことが示された。更に、これらの凍結乾燥物の固体状態安定性は、商業的に有望な製品を製造するには低すぎた。更に、十分な量の水溶性塩基性化剤を、凍結乾燥用の80%TBA/20%水であるバルク溶液中に取り込んで、再構成された溶液凍結乾燥生成物の最終pHを6超の値にすることができなかった。
【0083】
残された唯一の他のアプローチは、塩基性化剤を一切添加せずに、(遊離酸形態の)TBA/水溶媒系中でASAを「そのまま」凍結乾燥することである。このアプローチは、本質的に酸性で、再構成時水に不溶である純ASAの凍結乾燥物を製造するものである。したがって、凍結乾燥物には、酸性ASAを中和し、溶液の最終pHが6以上である透明な溶液を製造することができる、再構成用の特別な希釈剤が必要である。
【0084】
これらの考察に基づき、アスピリンを80%TBA/20%水(v/v)溶媒系に20mg/mlの濃度まで溶解することにより、2つの凍結乾燥バッチを製造した。5mlのアリコートを10ccバイアルに移し、凍結乾燥した。バッチサイズは第1のバッチ(例11A、2013年5月31日製造)については90ml及び第2のバッチ(例11B、2013年9月3日)については220mlであった。これらの2つのバッチの固体状態安定性を様々な温度で評価した。安定性データは表8に要約されている。
【0085】
【表10】
【0086】
上記の表に示すように、40℃で6カ月の貯蔵期間にわたって観察された効力の喪失がわずかであり、非常に安定な生成物が得られた。凍結乾燥生成物がこの促進条件下で効力の喪失を示さないことは稀である。
【0087】
純ASAの凍結乾燥により安定な凍結乾燥物が得られたため、凍結乾燥サイクルを最適化した。最終凍結乾燥条件を表9に示す。
【0088】
【表11】
【0089】
[実施例12]
凍結乾燥サイクルの最適化後、アスピリンを80%TBA/20%水(v/v)溶媒系に20mg/mlの濃度まで溶解することにより、2つの凍結乾燥バッチを製造した。5mlのアリコートを10ccバイアルに移し、凍結乾燥した。バッチサイズは第1のバッチ(例12A)については1000ml及び第2のバッチ(例12B)については900mlであった。これらの2つのバッチの固体状態安定性を様々な温度で評価した。安定性データは表10に要約されている。バッチ12Aについては、安定性試験を40℃で最大6カ月、30℃及び25℃で9カ月行った。バッチ12Bについては、安定性試験を40℃で最大6カ月、30℃で最大12カ月、25℃で最大2年行った。両方のバッチで優れた安定性が示された。バッチ12Bについては、25℃で24カ月の貯蔵後、サリチル酸含有量は0.1%から0.48%に増加したが、効力の喪失はわずか1.4%であった。方法の定量限界を上回る他の分解物ピークは観察されていない。40℃/6カ月の貯蔵後でも、分解が促進条件下でも全く観察されず、ケーキの収縮もなかった。凍結乾燥生成物が、40℃/6カ月の貯蔵条件で並外れた安定性を示すことはかなり珍しく、予想外であった。データは、ASAが非イオン化形態で主に存在する凍結乾燥方法により、驚くべきことに、且つ予想外にも、非常に安定なASA製品が得られることを明確に示している。安定性データを表10に示す。
【0090】
【表12】
【0091】
[実施例13]
本発明の一態様は、無菌処理及び凍結乾燥方法に耐えるのに十分なバルク溶液安定性を有する、安定な凍結乾燥生成物及び溶媒系を製造することであった。これらの試験の大部分で製造された凍結乾燥生成物は、80%TBA/20%~60%TBA/40%水溶媒系で作られており、凍結乾燥用のバルク溶液は24時間安定であり、分解は最小限に抑えられた。この目標は達成された。本発明の第2の態様は、凍結乾燥物を約20mg/ml~約100mg/mlのASAの濃度に再構成するのに適した希釈剤を同定することである。希釈剤の基準は、中和剤が、注射用製剤に許容され、広く用いられることであり、再構成された溶液のpHは、20~100mgASA/mlの目標濃度で(生理的なpHに近い)pH5.5~7.4の間でなくてはならない。これらの境界条件を用いて、ASA凍結乾燥物を再構成するための希釈剤中で様々な有機及び無機塩基性化剤をスクリーニングした。100mgバイアルを、緩衝剤若しくは塩基性化剤又は両方の組合せを含有する5mlの溶液で再構成することにより、再構成試験を行った。試験した塩基性化剤全てを表11に示す。
【0092】
【表13】
【0093】
塩基性化剤は、試験したものに限定されない。塩基性酸化物、水酸化物及び任意の無機アルカリ及びアルカリ金属の塩が使用できる。同様に、アスピリン凍結乾燥物を再構成するために、pKa8.5超の有機塩基を使用してもよい。アスピリンを全て溶解し、溶液のpHを約6.0にするのに必要とされる塩基性化剤の量は、20mg/ml~100mg/mlのアスピリンスラリーを塩基性化剤で滴定することにより求められ得る。
【0094】
[実施例14]
ASAの溶解度はpH5.5以上で100mg/ml超である。本発明の次の段階において、様々な濃度のASA溶液を得るのに必要な塩基の量を求めた。100mg/mlまでの様々な濃度のアスピリンを得るために、様々な濃度の二塩基性リン酸ナトリウムを用いて試験を行った。データを表12に示す。
【0095】
【表14】
【0096】
ASAの濃度が増加すると、ASA溶液を中和するための塩基性化剤の濃度が比例して増加することに留意されるべきである。他のアミノ酸の滴定データは同様に得ることができる。
【0097】
[実施例15]
実施例13及び14に示す再構成された溶液は全てわずかな濁りを示した。濁りの存在は濃度に無関係である。しかし、ASA APIを同一条件下で構成した場合、得られた溶液は濁りを全く示さなかった。幾つかの試験が行われたが、濁りの起源を同定することができなかった。再構成された溶液を0.2μフィルターに通して濾過した場合、濁りは消失した。しかし、濾過前後でASAの濃度は変化せず、濁りが本質的に凍結乾燥物中に存在することを示唆している。0.01%又は0.05%ポリソルベート80を含有する塩基性化剤で再構成した場合、濁りは消失した。濁りはおそらく凍結乾燥物中の残留TBAの存在によるものである。したがって、再構成用の希釈剤又は溶液は、0.01%~0.05%ポリソルベート80を含有する。
【0098】
アスピリン製品はIVボーラス経路を介して投与されるので、再構成された最終溶液の等張性は注射部位の疼痛を回避するのに重要な因子である。したがって、1バイアル当たり500mgを含有する凍結乾燥物を選択された希釈剤で様々な濃度に再構成し、その等張性を測定した。データを表13に示す。
【0099】
【表15】
【0100】
表に示すように、50mg/mlのASA溶液のオスモル濃度値は、25mg/mlの溶液と比較して高い。リン酸緩衝剤は、再構成された溶液の等張性が高いため、理想的な塩基性化剤でないと予想される。これらのデータに基づき、トリス若しくはリジン又はトリスとリジンの組合せは、ASA凍結乾燥物を再構成するために希釈剤中に含まれ得る理想的な塩基性化剤であると予想される。
【0101】
様々なオスモル濃度(300~1300mOsm/kg)のASA溶液をウサギ耳静脈内に注射することによりIV刺激性試験を行った。驚くべきことに、1300の高いオスモル濃度の溶液でも刺激は観察されなかった。これは予想外の発見又は知見である。
【0102】
[実施例16]
開発の次の工程は、選択された緩衝剤系により、透明無色の溶液が得られるだけでなく、十分な溶液安定性ももたらされることを確実にすることである。1g強度の凍結乾燥バイアルを採用し、25、50及び100mg/mlのASA濃度になるように、バイアルを適切な量の緩衝剤溶液で再構成した。再構成された最終溶液のpH及び等張性値を測定した。溶液安定性試験を8時間の期間にわたって行った。データを表14に示す。
【0103】
【表16】
【0104】
表に示すように、高濃度のASA溶液の等張性値は高かった。25及び50mg/mlの濃度に再構成された溶液については、約6%の効力の喪失が8時間にわたって生じた。16Fを除き、8時間の貯蔵期間後、再構成された溶液は全て透明である。16Fの場合、バイアルをポリソルベート80なしの緩衝剤のみで再構成した。溶液は濁っており、8時間後濁ったままであった。
【0105】
[実施例17]
実施例12において、2バッチの凍結乾燥物の安定性データを示した。これらの2バッチ及び2つの他の先の試験的バッチの並外れた安定性は、ASAとTBAとの溶媒和物の形成によるか、又は結晶性ASA凍結乾燥物の形成による可能性がある。凍結乾燥物は全て1000~3000ppmの範囲で残留TBAを有する。これらの試料の示差走査熱量計(Perkin-Elmer、モデル番号DSC4000)分析から、別個の融解吸熱が示され、薬物が結晶形態で存在し得ることを示唆している。様々な濃度のアスピリン、即ち25mg/ml、50mg/ml及び100mg/mlでASAバルク溶液の凍結乾燥試験を行って、バルク溶液中のアスピリン濃度が、安定性に影響を与えるか否かを決定した。これらのバッチは全て優れた化学安定性を示した。40℃で6カ月の貯蔵にわたって、これらのバッチ全てで効力の喪失は見られなかった。これらのデータから、ASA凍結乾燥物の安定性が、バルク溶液中のアスピリン濃度に無関係であることが示唆される。熱分析データを表15に示した。
【0106】
【表17】
【0107】
表に示すように、TBA/水又はエタノール/水のいずれかを用いて、様々な濃度で作られた凍結乾燥アスピリンの融点及び融解エンタルピー(ΔfusH)は、APIと異なる。凍結乾燥物の融点は低く、エンタルピーは高い。凍結乾燥物のエンタルピーは、バルク溶液中のASAの濃度の増加と共に増加した。凍結乾燥ASAの低い融点に加えて高いエンタルピーから、ASAのAPIとして新しい結晶形又は結晶性物質が凍結乾燥中に形成され得ることが示唆される。凍結乾燥アスピリン製品の結晶性又は晶癖を理解するための更なる調査を行った。
【0108】
更に、凍結乾燥物及びAPIの粒径分布を測定した。乾燥粉末体積分布法を用いて、全試料の粒径の測定(Malvern、Master sizer2000)を行った。データを表14に示す。表に示すように、TBA/水溶媒系中で様々な濃度のアスピリンで作られた凍結乾燥生成物の粒径分布は、これらのバッチを製造するために使用したAPIと比較して大幅に小さい。例えば、APIについては10%の粒子の平均粒径が約11.4μmであり、100mg/mlのアスピリン濃度で作られた凍結乾燥生成物の粒径は1.4μmであった。これは10倍の粒径の減少であった。同様の傾向がD50%、D90%及びD100%で見られた。また、凍結乾燥物の粒径は、バルク溶液中のアスピリン濃度の増加と共に減少した。
【0109】
【表18】
【0110】
[実施例18]
凍結乾燥生成物の熱データが大幅に異なるため、凍結乾燥物を製造するために使用したAPI及び別個の融解吸熱の存在から、TBA/水溶媒系中でのASAの凍結乾燥により、バイアル中で結晶性物質が得られ得ることが示唆される。TBA/水中で50及び100mg/mlのアスピリン濃度、並びにエタノール/水系中で50mg/mlのアスピリン濃度で作られた凍結乾燥試料を、X線分析用に提出した。これらの試料のX線(Burker AXS)回折像を図1a~1dに示す。図に示すように、X線回折像では、TBA/水溶媒系中でのASAの凍結乾燥により、結晶性物質が得られ、これはAPIの結晶性に類似していることが明確に示されている。
【0111】
[実施例19]
実施例17において、80%TBA/20%水中で様々な濃度のASAで調製された凍結乾燥物を評価した。X線分析データから、凍結乾燥用のバルク溶液中でのASA濃度に関わらず、凍結乾燥方法中、結晶性物質が一貫して得られることが示唆された。これらの凍結乾燥物全てのX線回折像パターンは類似している。本発明の次の部分において、凍結乾燥方法中100mg/mlの一定のASA濃度で、凍結乾燥用のバルク溶液中の様々な濃度のTBAによる影響を評価した。純TBAから70:30TBA:水系(以下の例19A~19E)で作られた凍結乾燥物を試験した。凍結乾燥物は全て本質的に結晶性である。X線回折像パターンは、先の実施例で観察されたものと一致していた。これらのデータから、凍結乾燥方法が堅牢であり、凍結乾燥に使用した溶媒系中でのASA又はTBAの濃度に関わらず、同じ結晶形のASAが一貫して得られることが示唆される。本発明は、従来の凍結乾燥方法で結晶形を製造するだけでなく、このようにして形成された結晶性凍結乾燥物は、凍結乾燥に使用した溶媒系中のASA濃度又はTBAの濃度のどちらにも無関係である。これらの知見はかなり独特であり、本発明者らの知る限りでは、凍結乾燥用の溶媒としてTBAを用いる他の分子は一切観察されたことがない。
【0112】
これらの凍結乾燥物の固体状態安定性を評価した。安定性データを表16に示す。表に示すように、凍結乾燥物は全て先のバッチで既に観察されたように優れた安定性を示した。
【0113】
これらの凍結乾燥物を特別な希釈剤で100mg/mlのASA濃度に再構成した場合、ゆっくりと溶解する。再構成時間は3~5分で変動する。再構成中、凍結乾燥物を破壊するために勢いよく振とうする必要があることが観察された。これは、ケーキの湿潤性に起因していた。したがって、凍結乾燥物の多孔性を改善するために、10mg/mlのマンニトールを含有する凍結乾燥物(例19F)を調製した。マンニトールの水溶解度がかなり高いため、再構成中、マンニトールは最初に溶解し、それにより、希釈剤の流路が得られ、ASAは湿って、溶解する。予想通り、再構成時間は3~5分から約3分に改善された。マンニトールの存在は、ASAの安定性に悪影響を与えなかった。
【0114】
【表19】
【0115】
[実施例20]
本発明者らの発見の一態様は、必須成分、例えば、TBA、水及びASAの濃度に関わらず、凍結乾燥中一貫して結晶性ASAを製造できる堅牢な凍結乾燥方法を得ることであった。本発明のこの態様の実現に成功した。本発明の第2の重要な態様は、特別な希釈剤で100mg/mlのASA濃度に再構成した場合、1分未満の再構成時間で凍結乾燥物を製造することである。この剤形の意図は、緊急の医療介入を必要とする急性冠症候群(ACS)患者を治療することであるため、迅速な溶解は本発明に極めて重要である。先に言及したように、凍結乾燥用のバルク溶液として80:20TBA:水を用いて製造した凍結乾燥物では高密度ケーキが得られた。特別な希釈剤で再構成した場合、ケーキは湿らず、勢いよく振とうする必要がある。5分間勢いよく振とうした後、凍結乾燥物は完全に溶解する。
【0116】
迅速に溶解する凍結乾燥物を開発するには、ケーキの多孔性及び湿潤性を改善する必要がある。凍結乾燥用のバルク溶液1mL当たりの固体含有量を減少させることにより、ケーキの多孔性を改善することができる。例えば、固体含有量を減少させた場合、凍結乾燥物の多孔性は増大する。したがって、凍結乾燥用のバルク溶液中でのASA濃度を100mg/mlから50mg/mlに低下させた。少量の界面活性剤、例えば、ポリソルベート80の取り込みにより、ケーキの湿潤性が改善される。低濃度のASA及び少量の界面活性剤の存在の影響を決定するため、50mg/mlのASA濃度及び様々なレベルのポリソルベート80で80:20TBA:WFI(-20A~-20D)を含有するバルク溶液を調製した。これらの凍結乾燥物を特別な希釈剤で再構成した場合、-20A、B及びCについては、再構成時間が約5分であり、再構成された溶液がわずかに濁っていたことが観察された。しかし、-20Dについては再構成時間が3分に改善され、溶液は透明である。これらの凍結乾燥物の固体状態安定性データを表17に示す。表に示すように、ポリソルベート80の存在はASAの安定性に影響を与えない。
【0117】
【表20】
【0118】
[実施例21]
本発明の別の態様は、低レベルの残留TBA及び1分未満の再構成時間で凍結乾燥物を製造することである。例19(19B~19D)において、凍結乾燥用のバルク溶液中での水の割合の増加により、凍結乾燥物中の残留TBA含有量が低下することが観察された。例20(20A~20D)において、バルク溶液中でのASAの濃度を低下させ、少量のポリソルベート80を取り込むことにより、再構成時間が低減される。凍結乾燥製剤を更に微調整するために、凍結乾燥用のバルク溶液として65:35TBA:水、50mg/mlのASA、0.1mg/mlのポリソルベート80を使用して、様々な増量剤、例えば、スクロース、ラクトース及びマンニトールの存在下でケーキの湿潤性を高めた。3つの例全てにおいて、多孔性ケーキを有する凍結乾燥物が得られ、再構成時間は瞬時であった。特別な希釈剤を添加しているので、バイアルの内容物は、瞬時に溶液になった。これらの製剤に対する安定性を限定したので、安定性は先のバッチに相当する。
【0119】
【表21】
【0120】
[実施例21]
本発明者らの知見を確認するために、選択されたバッチのASAを調製し、最終凍結乾燥試料(500mg/バイアル)を2-D X線分析、DSC及びTGA用にミネソタ大学に提出した。提出されたバッチ
【0121】
【表22】
【0122】
[実施例22]
本実施例において、
a)2D X線回折(2D XRD)
を用いて追加試験を行った。
【0123】
D8 Discover 2D X線マイクロ回折計は2次元Vantec検出器、ビデオカメラ/レーザーアライメントシステム、グラファイトモノクロメーターで調整されるCoΚα X線照射ポイントソース(λ=1.79Å)を備えている。様々な大きさ及びx、y、z試料ステージの焦点コリメーターも備えている。反射モード用に粉末試料を試料ホルダーに装填し、800μmコリメーターを使用した。測定フレームを各々20/10°2θ/ωでスキャンした。平均化積分アルゴリズムを用いて、エリアディテクターの画像を1次元強度対2θのデータセットに最終的に変換した。2つの値は、CoΚα照射(λ=1.79Å)及びCuΚα照射(λ=1.54Å)に関する。
b)示差走査熱量計(DSC)
冷蔵した冷却アクセサリーを備える示差走査熱量計(Q2000、TA Instruments、New Castle、DE)を使用した。乾燥窒素ガスを50mL/分でパージした。装置をインジウムで較正した。粉末試料を秤量し、アルミニウムパンに充填し、密閉した。試料を室温から-10℃に冷却し、1分間平衡化し、10℃/分で160℃に加熱した。
c)熱重量分析(TGA)
熱重量分析機(Q50、TA Instruments、New Castle、DE)を使用した。測定中、乾燥窒素ガスを50mL/分でパージした。粉末試料をアルミニウムパンに充填した。試料を10℃/分で220℃に加熱した。
【0124】
結果
熱分析
試料は溶融温度付近で顕著な重量喪失を示した。したがって、アスピリンは、分解で溶融する可能性が高い。アスピリンの融点は、135℃であることが報告されている(pubchem.ncbi.nlm.nih.gov)。アスピリンの溶融エンタルピーは、162~172J/gの範囲であることが報告されている(webbook.nist.gov)。
【0125】
【表23】
【0126】
凍結乾燥試料のXRDパターンは国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data)(ICDD)の粉末解析ファイルにおける参照解析パターンに相当するアスピリンのXRDパターンと一致する。
1.アスピリンの融点は約135℃であり、凍結乾燥試料は全て136~140℃の範囲で溶融を示す。Rho_11は、わずかに高い溶融温度(144℃)を示す。
2.凍結乾燥系の溶融エンタルピーは文献と一致するが、溶融エンタルピーは信頼性の高いパラメーターではない。(TGAで得られた)10%の重量喪失が、(DSCで得られた)融点で観察される。溶融温度で分解が起こり得る。
3.凍結乾燥系は、バッチ間で一貫性を示す。
4.全ての系が結晶挙動を示す。図2参照。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1の容器と第2の容器とを含み、第1の容器が遊離酸形態の結晶性アスピリンの凍結乾燥混合物及び増量剤を含み、第2の容器が水及び塩基性化剤を含み、第2の容器中の塩基性化剤が、少なくとも5.5のpHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られるアスピリン溶液を提供するのに十分な量で存在する、アスピリキット。
【請求項2】
第1の容器中の凍結乾燥混合物が、80~1200mgのアスピリン、又は300~1000mgのアスピリンを含む、請求項1に記載のアスピリンキット。
【請求項3】
増量剤が、糖アルコール、ラクトース、スクロース、及びマンニトールからなる群から選択される、請求項1又2に記載のアスピリンキット。
【請求項4】
第2の容器中の塩基性化剤が、有機塩基であり、且つ塩基性化剤の量が、少なくとも5.5、好ましくは6.0、より好ましくは6.0~7.4のpH、又はおよその若しくはほぼ生理的なpHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られる溶液を提供するのに十分な量である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアスピリンキット。
【請求項5】
遊離酸形態の結晶性アスピリンの凍結乾燥混合物、増量剤及び界面活性剤を含む、凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項6】
25℃で2年後に、2.0重量%未満又は1.5重量%未満又は1.0重量%未満のサリチル酸を含む、請求項5に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項7】
0.5%未満、又は500~約10,000ppm又は1,000~3,000ppmのt-ブチルアルコールをさらに含む、請求項5又は6に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項8】
結晶性アスピリンが、26.733°、26.838°及び26.911°からなる群から選択される2θのピークを有する粉末X線回折パターン、又は
7.573°、12.000°、15.382°、16.532°、20.443°、22.426°、24.777°、26.733°、32.385°及び39.073°からなる群から選択される2θのピークを有する粉末X線回折パターン、又は
6.966°、7.684°、13.965°、15.494°、16.644°、20.544°、22.525°、26.838°、32.494°及び39.172°からなる群から選択される2θのピークを有する粉末X線回折パターン、又は
6.939°、7.683°、13.934°、15.463°、22.488°、26.911°、31.284°及び37.286°からなる群から選択される2θのピークを有する粉末X線回折パターン、
によって特徴付けられる、請求項5~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項9】
結晶性アスピリンが、136℃~144℃の範囲又は136℃~140℃の範囲又は144℃の示差走査熱量計で決定される融点を有する、請求項5~7のいずれか一項に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項10】
増量剤が、スクロース、ラクトース、及びマンニトールからなる群から選択され、且つ界面活性剤が、ポリソルベート80である、請求項5~9のいずれか一項に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項11】
0.5%未満、又は500~約10,000ppm又は1,000~3,000ppmのt-ブチルアルコールをさらに含む、請求項5に記載の凍結乾燥アスピリン組成物。
【請求項12】
れを必要とする哺乳動物に静脈内投与することによるアスピリン療法のための医薬の製造における、請求項5~11のいずれか一項に記載の凍結乾燥アスピリン組成物の使用であって、前記製造が、凍結乾燥アスピリン組成物を、少なくとも5.5のpHで得られるアスピリン溶液を提供するのに十分な量で存在する塩基性化剤を含む水と再構成することを含む、前記使用
【請求項13】
静脈内投与されるアスピリンの量が、80~1200mg、又は300~1000mgである、請求項12に記載の使用
【請求項14】
血小板性血栓症、急性冠症候群状態、虚血性卒中、TIA、急性MI、再発性MIの予防、不安定狭心症、及び慢性安定狭心症からなる群から選択される状態を治療するための、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
a)致死性及び非致死性卒中の複合リスク;b)フィブリン血小板塞栓による一過性脳虚血;c)急性MIが疑われる患者における血管性死亡リスク;d)MI又は不安定狭心症既往患者における致死性及び非致死性MIの複合リスク、並びにe)慢性狭心症患者におけるMI及び突然死の複合リスクからなる群から選択される状態を低減するための、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項16】
a)冠動脈バイパス移植(CABG);b)経皮経管冠動脈形成術(PTCA);c)頸動脈内膜剥離術からなる群から選択される血管再建術に関連する、又は川崎病又は皮膚粘膜リンパ節症候群の治療に関連する療法のための、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項17】
関節リウマチ、若年性関節リウマチ、脊椎関節症、骨関節炎、及び全身性エリテマトーデス(SLE)による関節炎及び胸膜炎からなる群から選択されるリウマチ性疾患を治療するための、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項18】
アスピリン療法が、鎮痛を提供するため、又は片頭痛若しくは頭痛の治療に関連して投与するためのものである、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項19】
アスピリンが、解熱のためのものである、請求項12又は13に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0126
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0126】
凍結乾燥試料のXRDパターンは国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data)(ICDD)の粉末解析ファイルにおける参照解析パターンに相当するアスピリンのXRDパターンと一致する。
1.アスピリンの融点は約135℃であり、凍結乾燥試料は全て136~140℃の範囲で溶融を示す。Rho_11は、わずかに高い溶融温度(144℃)を示す。
2.凍結乾燥系の溶融エンタルピーは文献と一致するが、溶融エンタルピーは信頼性の高いパラメーターではない。(TGAで得られた)10%の重量喪失が、(DSCで得られた)融点で観察される。溶融温度で分解が起こり得る。
3.凍結乾燥系は、バッチ間で一貫性を示す。
4.全ての系が結晶挙動を示す。図2参照。
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(実施形態1)
アスピリン及び有機溶媒と水とを含有する共溶媒を含む、長期安定性を有する液体アスピリン含有組成物であって、前記有機溶媒と前記水との比が、約95/5~50/50である、液体アスピリン含有組成物。
(実施形態2)
有機溶媒がアルコールである、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態3)
アルコールが、t-ブチルアルコール(TBA)、n-ブタノール、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される、実施形態2に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態4)
アルコールが、t-ブチルアルコールである、実施形態3に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態5)
アルコールと水との比が、約60:40~約80:20、好ましくは約65:35~約75:25である、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態6)
組成物中のアスピリンの濃度が、約25mg/ml~約115mg/ml、好ましくは約45mg/ml~約75mg/ml又は約50mg/mlである、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態7)
界面活性剤を、好ましくは約0.05~約0.5mg/mlの量で更に含む、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態8)
界面活性剤が、ポリソルベート80又はTween80である、実施形態7に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態9)
溶解促進剤を、好ましくは約2~約30mg/ml、好ましくは約5~約20mg/mlの量で更に含む、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態10)
溶解促進剤が、スクロース又は糖アルコール、好ましくはマンニトールである、実施形態9に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態11)
pKa8超のトリス、グリシン又は他のアミノ塩基からなる群から好ましくは選択される緩衝剤を更に含む、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態12)
周囲温度で24時間後のアスピリンのサリチル酸への分解量が≦約2%、好ましくは≦約1.5%又は≦約1.0である、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態13)
共溶媒が、約65:35~約75:25の比でTBAと水とを含む混合物であり、アスピリンが約45~約75mg/mlの量で存在し、約0.05~約0.5mg/mlのポリソルベート80及び約5~約25mg/mlのマンニトールを更に含む、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態14)
有機溶媒と水とを含有する共溶媒が、TBA/水、n-ブタノール/水、エタノール/水、PEG-エタノール/水、DMSO/水、DMF/水及びPEG/n-ブタノール/水からなる群から選択される、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物。
(実施形態15)
凍結乾燥アスピリンを製造するためのバルク溶液としての、実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物の使用。
(実施形態16)
実施形態1に記載の液体アスピリン含有組成物を用意すること、前記組成物を凍結乾燥すること、及び得られた凍結乾燥アスピリンを回収することを含む、凍結乾燥アスピリンを製造する方法。
(実施形態17)
液体アスピリン含有組成物が、約20~約100mg/mlのアスピリンを含有し、共溶媒がt-ブチルアルコールと水とを含み、t-ブチルアルコールと水との比が、約80:20~約60:40、好ましくは約65:35である、実施形態16に記載の方法。
(実施形態18)
凍結乾燥アスピリンが結晶性である、実施形態16に記載の方法。
(実施形態19)
結晶性アスピリンの示差走査熱量計又はDSCで決定される融点が、136℃~144℃の範囲である、実施形態18に記載の方法。
(実施形態20)
実施形態16に記載の方法により製造される凍結乾燥アスピリン。
(実施形態21)
周囲貯蔵条件下で少なくとも2年の貯蔵寿命を有する、実施形態20に記載の凍結乾燥アスピリン。
(実施形態22)
25℃で2年後、約2.0%未満の総分解生成物、好ましくは25℃で2年後、約1.5重量%又は1.0重量%未満のサリチル酸を含む、実施形態20に記載の凍結乾燥アスピリン。
(実施形態23)
前記凍結乾燥アスピリン中の残留t-ブチルアルコールの量が、約0.5%未満、好ましくは約500~約10,000ppm又は約1,000~約3,000ppmである、実施形態20に記載の凍結乾燥アスピリン。
(実施形態24)
アスピリンが、約50、75又は100mg/mlの濃度を有するバルク溶液から凍結乾燥され、各濃度で作られた前記凍結乾燥アスピリンが、以下:
【表24】
の粒径分布を有する、実施形態20に記載の凍結乾燥アスピリン。
(実施形態25)
治療量の凍結乾燥アスピリンを含む第1の容器と、水及び塩基性化剤を含む第2の容器とを含む、アスピリン療法のためのキット。
(実施形態26)
第2の容器が、界面活性剤を、好ましくは約0.01~約0.4mg/ml、好ましくは約0.2mg/mlの濃度で更に含む、実施形態25に記載のキット。
(実施形態27)
界面活性剤が、ポリソルベート80である、実施形態25に記載のキット。
(実施形態28)
塩基性化剤が、アミノ酸、有機塩基、並びに無機塩基、又はアルカリ及びアルカリ金属の塩基性塩からなる群から選択される、実施形態25に記載のキット。
(実施形態29)
アミノ酸又は有機塩基が、8.5以上のpKaを有する、実施形態28に記載のキット。
(実施形態30)
アミノ酸が、アルギニン、リジン及びグリシンからなる群から選択される、実施形態28に記載のキット。
(実施形態31)
有機塩基が、トリスである、実施形態28に記載のキット。
(実施形態32)
無機塩基又は塩の形態が、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム及び二塩基性リン酸ナトリウムからなる群から選択される、実施形態28に記載のキット。
(実施形態33)
塩基性化剤の量が、少なくとも約5.5、好ましくは約6.0、より好ましくは約6.0~約7.4のpH、又はおよその若しくはほぼ生理的なpHで、第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより得られる溶液を提供するのに十分な量である、実施形態25に記載のキット。
(実施形態34)
実施形態25に記載のキットの第1及び第2の容器の内容物を組み合わせることにより製造される、静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
(実施形態35)
前記組成物が、約270~約1300mOsm/kgの等張性を有する、実施形態34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
(実施形態36)
約20~約140mg/ml、好ましくは約100mg/mlのアスピリン、糖アルコール、好ましくはマンニトール及び界面活性剤を含み、前記組成物が組成物中に約0.1%未満のTBAを有する、実施形態34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物。
(実施形態37)
有効量の実施形態34に記載の静脈注射用液体アスピリン含有組成物を、それを必要とする哺乳動物に静脈内投与することを含む、アスピリン療法を提供する方法。
(実施形態38)
静脈内投与されるアスピリンの量が、約80~約1200mg、好ましくは約300~約1000mgである、実施形態37に記載の方法。
(実施形態39)
静脈内投与される組成物のアスピリン濃度が、約20~約50mg/mlである、実施形態37に記載の方法。
(実施形態40)
投与される静脈注射用アスピリン含有組成物の量が、約1ml~約10mlである、実施形態37に記載の方法。
(実施形態41)
静脈注射用アスピリン含有組成物が、約90秒以内の期間にわたって、好ましくは約60秒の期間にわたって静脈内投与される、実施形態37に記載の方法。
(実施形態42)
哺乳動物が、ヒトである、実施形態37に記載の方法。
【外国語明細書】