(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116676
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/36 20060101AFI20230815BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230815BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230815BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230815BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230815BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230815BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230815BHJP
【FI】
C07K16/36
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 N
A61P7/04
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023097183
(22)【出願日】2023-06-13
(62)【分割の表示】P 2021561772の分割
【原出願日】2020-04-15
(31)【優先権主張番号】19169704.4
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19213867.5
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】プラフル・エス・ガンディー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ブラインホルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク・ウスタゴー
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、血液凝固関連疾患を治療するために用いられる、より少ない頻度での投与およびSC投与で予防的治療をサポートできる改善された化合物を提供することである。
【解決手段】本発明は、第VII(a)因子を結合することができる第1の抗原結合部位と、TLT-1を結合することができる第2の抗原結合部位とを含む二重特異性抗体、そのような二重特異性抗体を含む医薬製剤、およびそれらの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体であって、
(i)第VII(a)因子に結合することができる第1の抗原結合部位と、
(ii)TREM様転写物1(TLT-1)に結合することができる第2の抗原結合部位と、
を含む、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗体が、Fc領域を含む、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1の抗原結合部位が、以下に示す軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗FVII(a)抗体のうちのいずれか1つと、FVII(a)への結合について競合する、請求項1または2に記載の二重特異性抗体:
・mAb0522(VL:配列番号846およびVH:配列番号850)、
・Fab0883(VL:配列番号814およびVH:配列番号818)、
・mAb0005(VL:配列番号750およびVH:配列番号754)、
・mAb0004(VL:配列番号14およびVH:配列番号18)、
・mAb0013(VL:配列番号46およびVH:配列番号50)、
・mAb0018(VL:配列番号62およびVH:配列番号66)、
・mAb0544(VL:配列番号694およびVH:配列番号698)、
・mAb0552(VL:配列番号702およびVH:配列番号706)、
・mAb0001(VL:配列番号710およびVH:配列番号714)、
・mAb0007(VL:配列番号718およびVH:配列番号722)、
・mAb0578(VL:配列番号726およびVH:配列番号730)、
・mAb0701(VL:配列番号734およびVH:配列番号738)、および
・mAb0587(VL:配列番号742およびVH:配列番号746)。
【請求項4】
前記第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)のアミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392を含むエピトープに結合することができる、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)の以下のアミノ酸残基R113、C114、H115、E116、G117、Y118、S119、L120、T130、V131、N184、T185、P251、V252、V253、Q388、M391、およびR392を含むエピトープを結合することができる、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第1の抗原結合部位が、以下を含む、請求項1または2に記載の二重特異性抗体:
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基RASQGISDYLH(配列番号847)により表されるCDRL1、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基YTSQPAT(配列番号848)により表されるCDRL2、
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基QNGHSFPLT(配列番号849)により表されるCDRL3、
・アミノ酸残基SDSAWS(配列番号851)により表されるCDRH1、
・0または1個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基YIQYSGST NYNPSLKS(配列番号852)により表されるCDRH2、
・0、1、2、および3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基SVNYYGNSFAVGY(配列番号853)により表されるCDRH3。
【請求項7】
前記第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含む、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第2の抗原結合部位が、以下に示す軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗TLT-1抗体のうちのいずれか1つと、TLT-1への結合について競合する、請求項1または2に記載の二重特異性抗体:
・mAb0524(VL:配列番号854およびVH:配列番号858)、
・mAb0012(VL:配列番号862およびVH:配列番号866)、
・mAb0023(VL:配列番号870およびVH:配列番号874)、
・mAb0051(VL:配列番号878およびVH:配列番号882)、および
・mAb0062(VL:配列番号894およびVH:配列番号898)。
【請求項9】
前記第2の抗原結合部位が、TLT-1(配列番号13)の以下のアミノ酸残基K8、I9、G10、S11、L12、A13、N15、A16、F17、S18、D19、P20、A21を含むエピトープに結合することができる、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記第2の抗原結合部位が、以下を含む、請求項1または2に記載の二重特異性抗体:
・配列番号855により表されるCDRL1、
・配列番号856により表されるCDRL2、
・配列番号857により表されるCDRL3、
・配列番号859により表されるCDRH1、
・配列番号860により表されるCDRH2、
・配列番号861により表されるCDRH3。
【請求項11】
前記第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとによって構成される、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、前記第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとによって構成される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される第1の軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される第1の重鎖可変ドメインとを含み、前記第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される第2の軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される第2の重鎖可変ドメインとによって構成され、前記第1および第2の重鎖可変ドメインに結合した重鎖定常ドメインは、それぞれ配列番号943および942によって特定され、前記第1および第2の軽鎖可変ドメインに結合した軽鎖定常ドメインは、両方とも、配列番号12によって特定される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体と、医薬的に許容可能な担体と、を含む、医薬製剤。
【請求項15】
凝固異常の治療に使用するための請求項1~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、または請求項14に記載の医薬製剤であって、前記凝固異常が、インヒビター保有もしくは非保有血友病A、またはインヒビター保有もしくは非保有血友病B、FVII(a)欠損症およびグランツマン血小板無力症からなる群から選択される、二重特異性抗体、または医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された医薬特性を示す二重特異性抗体、かかる抗体を含む組成物、ならびにこのような抗体および組成物の使用、例えば、医薬的および治療的使用に関する。
【0002】
配列表
本出願は、電子形式の配列表と共に提出される。配列表の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
血液凝固の過程は、血管損傷後に一緒に作用して、体液の重度の喪失および/または病原性侵襲を防止する血栓を生成するいくつかのタンパク質を伴う。血栓の形成につながる事象のカスケードは、内因性(接触)および外因性(組織因子)経路として知られる2つの経路を介して開始され得る。各経路は、新たに活性化された酵素が、プロトロンビンがトロンビンに変換されるまで、一連の中の次の酵素前駆体の活性化を触媒する一連の酵素前駆体活性化ステップで構成されている。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリン網目構造に変換し、血小板を活性化して血小板血栓を形成し、一緒になって安定した血栓を形成する。外因性凝固経路の開始は、血管壁への損傷の結果として曝露される膜結合組織因子(TF)と、低レベルの循環因子VIIa(FVIIa)の間の複合体の形成によって媒介される。FVIIa:TF複合体は、少量の凝固第IX因子(FIX)および第X因子(FX)を活性化することによって、凝固カスケードを開始する。初期の段階の間、低濃度のFXaは、第XI因子および補因子VIIIおよびVを活性化することができる微量のトロンビンを産生する。増殖段階の間、凝固促進性複合体が組み立てられ、それらは、それぞれ、テナーゼ(FIXa、FVIIIa、Ca2+、リン脂質)およびプロトロンビナーゼ(FXa、FVa、Ca2+、リン脂質)複合体によるFXaおよびトロンビンの生成を著しく強化する。
【0004】
血友病AおよびB(それぞれ、HAおよびHB)の患者では、機能的FVIIIおよびFIXのそれぞれが存在しないか、または不十分な存在のために、凝固カスケードの様々なステップが機能不全に陥る。これは、血液凝固障害および不十分な血液凝固、ならびに生命を脅かす可能性のある出血または関節などの内臓への損傷につながる。
【0005】
組み換えFVIIa(rFVIIa)は、インヒビター(HwI)保有血友病(AおよびB)患者における出血のオンデマンド(OD)治療のためのバイパス薬剤として広く使用されている。rFVIIaは、静脈内(IV)に投与された場合、2~3時間の短い全身半減期を有し、皮下(SC)に投与された場合、低い生物学的利用能を有する。rFVIIaの短い全身半減期は、血漿インヒビターであるアンチトロンビンIII(AT)(Agersφ H et al.(2010)J.Thromb.Haemost.9:333-8.)およびアルファ-2-マクログロブリン(α2M)による阻害ならびに腎クリアランスを含むいくつかの機序の関与によると考えられている。rFVIIaの短い全身半減期および低SC生物学的利用能は、予防的治療のためにrFVIIaを利用することを困難にする。さらに、rFVIIaの低固有活性は、より高いrFVIIa用量の投与を必要とする。
【0006】
したがって、より少ない頻度での投与およびSC投与で予防的治療をサポートできる改善された化合物が必要とされている。
【0007】
Rocheは最近、二重特異性抗体であるエミシズマブを発売した。これは、HAおよびインヒビター保有HA(HAwI)を有する人々に対して、SC投与により週1回投与されるルーチン的予防に適応されている。それにもかかわらず、代替的な作用機序を備えた安全で有効な分子の開発は、血友病患者の標準的なケアを改善し、補完するために重要な関心分野である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、改善された医薬特性を示す二重特異性抗体に関し、特に、先天性および/または後天性凝固異常を有する対象の治療、例えば、インヒビター保有または非保有血友病AまたはBを有する人々の治療に使用され得る二重特異性抗体に関する。さらに、本発明は、凝固第VII因子(FVII(a))およびTREM様転写物1(TLT-1)を結合することができる二重特異性抗体に特に関連する。
【0009】
一態様では、本発明の二重特異性抗体は、(i)FVII(a)に結合する第1の抗原結合部位、および(ii)TLT-1に結合する第2の抗原結合部位を含む。
【0010】
本発明の一態様では、二重特異性抗体は、内因性FVIIa活性を失うことなく内因性FVIIaの活性循環半減期を延長し、活性化された血小板に選択的に局在化することによって内因性FVIIa活性を刺激する。
【0011】
本発明の一実施形態では、二重特異性抗体は、Fc領域を含む。Fc領域は、二重特異性抗体のリサイクルを媒介し、循環中のその半減期を延長する。
本発明の一実施形態では、第1の抗原結合部位は、以下に示す、軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗FVII(a)抗体のうちのいずれか1つと、競合ELISAアッセイにおいてFVII(a)への結合について競合する。
・mAb0522(VL:配列番号846およびVH:配列番号850)、
・Fab0883(VL:配列番号814およびVH:配列番号818)、
・mAb0005(VL:配列番号750およびVH:配列番号754)、
・mAb0004(VL:配列番号14およびVH:配列番号18)、
・mAb0013(VL:配列番号46およびVH:配列番号50)、
・mAb0018(VL:配列番号62およびVH:配列番号66)、
・mAb0544(VL:配列番号694およびVH:配列番号698)、
・mAb0552(VL:配列番号702およびVH:配列番号706)、
・mAb0001(VL:配列番号710およびVH:配列番号714)、
・mAb0007(VL:配列番号718およびVH:配列番号722)、
・mAb0578(VL:配列番号726およびVH:配列番号730)、
・mAb0701(VL:配列番号734およびVH:配列番号738)、および
・mAb0587(VL:配列番号742およびVH:配列番号746)
【0012】
本発明のさらなる実施形態では、二重特異性抗体の第1の抗原結合部位は、FVII(a)(配列番号1)のアミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392を含むエピトープを結合することができる。
【0013】
本発明の一態様では、二重特異性抗体は、本発明の二重特異性抗体および医薬的に許容可能な担体を含む医薬製剤に製剤化される。
【0014】
本発明の一態様では、二重特異性抗体は、静脈内、筋肉内、または皮下など、非経口的に投与される。本発明の一態様では、二重特異性抗体は、血友病A、血友病B、インヒビター保有血友病A、またはインヒビター保有血友病Bなどの先天性および/または後天性の凝固異常を有する対象の予防的治療を可能にする。したがって、二重特異性抗体は、出血に対する止血適用範囲を提供するよう設計される。本発明の一態様では、二重特異性抗体は、週に1回、月1回、またはそれ以下の頻度での投与に適しているように設計される。
【0015】
本発明の二重特異性抗体を用いた治療は、注射間のより長い持続時間、より簡便な投与、および注射間の止血保護の潜在的改善など、多くの利点を提供し得る。したがって、本明細書に記載される二重特異性抗体は、インヒビター保有または非保有血友病AまたはBを有する個体の生活の質に実質的な影響を与え得る。
【0016】
配列表の簡単な説明
表1は、抗体および対応するVLおよびVLドメイン配列に対するその対応する配列番号の概要である。重鎖定常ドメインのタイプは、表2aに定義されるとおりである(「M」はマウスIgG1定常ドメインを示す)。
【0017】
表2aは、二価抗体、一価(OA)抗体、および二重特異性抗体の組み換え型発現に使用される様々なフォーマットの概要である。第1の重鎖(HC-1)および第2の重鎖(HC-2、またはOA抗体については切断された(Truncated)重鎖(trHC))に対応する配列番号が列挙されている。軽鎖定常ドメインは、すべての場合において、配列番号 12に対応するヒトカッパであった。
【0018】
表2bは、本発明のマウス抗FVII(a)抗体の概要である。クローン名、完全マウス(組み換え発現されたmAb0765を除く、ハイブリドーマ由来)抗体および、対応するマウス/ヒトキメラバリアント(マウス可変ドメイン、ヒトIgG4 S228P定常ドメイン)の間の対応。
【0019】
表2cは、マウスおよびヒト化11F2系統における抗体の概要である
【0020】
表2dは抗TLT-1 mAb0012系統の抗体の概要である
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0021】
本発明では、組み換え産生抗体はすべてヒトIgG4バックグラウンドで発現され、すべて標準ヒンジ安定化置換S228P(EUナンバリング)を含有した。いくつかのバリアントでは、重鎖のC末端リジン(K447、インビボで急速に切断される;Cai et al.Biotechnol.Bioeng.2011 vol.108,pp404-412を参照されたい)を省略した(デルタ-lysと称する)。表2aによれば、追加の置換が、二重特異性および一価抗体における所望の鎖対形成を確保するために、重鎖定常ドメインに導入された。(デュオボディ(Duobody)変異F405L R409K(Labrijn et al.PNAS 2013,vol.110,pp.5145-5150)およびノブ・イン・ホール(knob-in-hole)変異(Carter et al.J.Imm.Methods 2001,,vol.248,pp.7-15を参照されたい)T366W(ノブ)およびT366S L368A Y407V(ホール))、またはインビボでの半減期を延長する(YTE変異M252Y S254T T256E(Dall’Acqua et al.J.Biol.Chem.2006,vol.18,pp.23514-23524))。本発明のすべての組み換え産生抗体は、ヒトカッパ軽鎖定常ドメイン(配列番号12)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、改善された医薬特性を呈する抗体組成物の設計および使用に関する。特に、凝固FVII(a)およびTLT-1を結合することができる二重特異性抗体に関する。
【0023】
抗体
本明細書において「抗体」という用語は、抗原またはその一部分に結合することができる免疫グロブリン配列に由来するタンパク質を指す。抗体という用語は、任意のクラス(またはアイソタイプ)の完全長抗体、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、および/またはIgYを含むが、これらに限定されない。
【0024】
治療用抗体にとって特に興味深いのは、IgGサブクラスであり、ヒトでは、それらの重鎖定常領域の配列に基づいて、4つのサブクラスであるIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4に分類される。軽鎖は、それらの配列組成物の差異に基づいて、2つのタイプ、カッパ鎖およびラムダ鎖に分けることができる。IgG分子は、2つ以上のジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖、および各々がジスルフィド結合によって重鎖に付着した2つの軽鎖で構成されている。IgG重鎖は、重鎖可変ドメイン(VH)および最大3つの重鎖定常(CH)ドメイン:CH1、CH2、およびCH3を含み得る。軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)を含み得る。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域へとさらに細分化することができ、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が点在する。VHおよびVLドメインは、典型的に3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。超可変領域(CDR)を含有する重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインは、抗原と相互作用することができる構造を形成する一方で、抗体の定常領域は、Fc受容体、および古典的補体系のC1複合体の第1の成分であるC1qへの結合を媒介し得る。
【0025】
「抗原結合部位」または「結合部分」という用語は、抗原結合を可能にする抗体の部分を指す。
【0026】
抗体の「抗原結合断片」という用語は、本明細書に説明されるように、FVII(a)、TLT-1などのその同族の抗原または別の標的分子に結合する能力を保持する抗体の断片を指す。抗原結合断片の例としては、Fab、Fab’、Fab2、Fab’2、Fv、単鎖Fv(scFv)、または単一のVHドメインもしくはVLドメインが挙げられる(が、これらに限定されない)。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ワンアームド抗体(one-armed antibody)」という用語は、抗体重鎖、Fab領域を欠いている切断された重鎖、および単一軽鎖によって構成される特定のタイプの一価抗体断片を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「単一特異性」抗体という用語は、1つの特定のエピトープに結合することができる抗体(二価抗体を含むがこれらに限定されない)を指す。
【0029】
本明細書における、「二重特異性抗体」および「biAb」という用語は、FVII(a)およびTLT-1などの2つの異なる抗原、または同じ抗原上の2つの異なるエピトープに結合することができる抗体を指す。
【0030】
本発明の二重特異性抗体は、抗体またはその抗原結合断片に由来する。本発明の二重特異性抗体は、抗体および抗体の抗原結合断片、例えばFab、Fab’、Fab2、Fab’2、またはscFvなどの、融合物またはコンジュゲートであってもよい。本発明の二重特異性抗体は、抗体断片の融合物またはコンジュゲートであってもよい。抗体および抗体断片に由来する二重特異性抗体の広範な分子形式は、当技術分野で公知であり、例えば、(Spiess et al.:Molecular Immunology 67,(2015),pp.95-106)および(Brinkmann and Kontermann:MABS,9(2017),pp182-212)を参照されたい。
【0031】
二重特異性抗体は、当技術分野に記載される様々な方法で作製されてもよく、例えば、(Spiess et al.:Molecular Immunology 67,(2015),pp.95-106)および(Brinkmann and Kontermann:MABS,9(2017),pp182-212)を参照されたい。例えば、所望の重鎖対形成は、ヘテロ二量体化を促進するためにFc領域の二量体化界面(interface)を操作することによって達成することができる。この一例は、いわゆるノブ・イン・ホール変異であり、立体的に嵩高い側鎖(ノブ)が、対向するFc上の立体的に小さい側鎖(ホール)に一致する1つのFcに導入され、それによってヘテロ二量体化を促進する立体的相補性を作製する。操作されたヘテロ二量体化Fc界面についての他の方法は、静電相補性、非IgGヘテロ二量体化ドメインへの融合、またはヒトIgG4の天然Fabアーム交換現象を利用してインビトロでヘテロ二量体化を行うことである。ヘテロ二量体化二重特異性抗体の例は、文献、例えば、(Klein C,et al.;MAbs.2012 4,pp653-663)に詳しく説明されている。ヘテロ二量体抗体の軽鎖には、特別な注意を払う必要がある。LCとHCとの正しい対形成は、共通の軽鎖の使用によって達成することができる。この場合も、LC/HC界面の操作を使用して、CrossMabの場合のように、ヘテロ二量体化または軽鎖クロスオーバー操作を促進することができる。適切な変異を含有する2つの個別IgGからの穏やかな還元条件下での抗体のインビトロ再構築も、二重特異性抗体の生成に使用できる(例えば、Labrijnet al.,PNAS,110(2013),pp5145-5150)。また、正しい軽鎖の対形成を確実にするための、天然Fabアーム交換方法も報告されている。
【0032】
本明細書で使用される場合、「多重特異性」抗体という用語は、2つ以上の異なる抗原または同じ抗原上の2つ以上の異なるエピトープに結合することができる抗体を指す。したがって、多重特異性抗体は、二重特異性抗体を含む。
【0033】
本明細書の抗体は、当該技術分野で公知の他の抗体および抗体断片と組み合わせて、二重特異性、三重特異性、または多重特異性抗体分子を作り出すことができる。
【0034】
一態様では、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト抗体、またはヒト化抗体である。このような抗体は、例えば、適切な抗体ディスプレイまたは免疫化プラットフォーム、または当分野で公知のその他の適切なプラットフォームまたは方法を使用することによって生成することができる。
【0035】
さらに、抗体が定常領域を含有する場合、定常領域またはその一部分も、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含んでもよい(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)。
【0036】
ヒト抗体は、ヒト生殖系列配列の選択に基づいて構築された配列ライブラリから単離されてもよく、天然および合成の配列多様性でさらに多様化されている。
ヒト抗体は、ヒトリンパ球のインビトロでの免疫化に続いて、リンパ球のエプスタイン・バーウイルスでの形質転換によって調製され得る。ヒト抗体は、当該技術分野で公知の組み換え方法によって産生されてもよい。
【0037】
本明細書で使用される「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する配列(CDR領域またはその部分)を含有するヒト/非ヒト抗体を指す。したがって、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの少なくとも超可変領域からの残基が、所望の特異性、アフィニティー、配列組成および機能性を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類など非ヒト種(ドナー抗体)からの抗体の超可変領域からの残基で置換される。一部の事例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク(FR)残基は、対応する非ヒト残基で置換される。そのような修飾の例は、1つ以上のいわゆる逆突然変異の導入であり、これは典型的にはドナー抗体に由来するアミノ酸残基である。抗体のヒト化は、当業者に公知の組み換え技法を使用して実施されてもよい(例えば、Antibody Engineering、Methods in Molecular Biology,vol.248,Benny K.Lo編を参照)。軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方に対する適切なヒトレシピエントフレームワークは、例えば、配列または構造相同性によって識別され得る。あるいは、例えば、構造、生物物理学特性および生化学特性の知識に基づいて、固定レシピエントフレームワークを使用してもよい。レシピエントフレームワークは、生殖系列由来または成熟抗体配列由来とすることができる。ドナー抗体からのCDR領域は、CDR移植によって移すことができる。CDR移植ヒト化抗体は、ドナー抗体からのアミノ酸残基の再導入(逆突然変異)がヒト化抗体の特性に有益な影響を与える重要なフレームワーク位置の特定により、例えば、アフィニティー、機能性、および生物物理学特性をさらに最適化することができる。ドナー抗体由来の逆突然変異に加えて、ヒト化抗体を、CDRまたはフレームワーク領域への生殖系列残基の導入、免疫原性エピトープの除去、部位特異的変異誘発、アフィニティー成熟などによって操作することができる。
【0038】
さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能をさらに精緻化するためになされる。ヒト化抗体はまた、任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのその部分も含むことができる。
【0039】
「キメラ抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、2種以上の種に由来する抗体の部分を含む抗体を指す。例えば、こうした抗体をコードする遺伝子は、2つの異なる種から生じた、可変ドメインをコードする遺伝子および定常ドメインをコードする遺伝子を含む。例えば、マウスモノクローナル抗体の可変ドメインをコードする遺伝子は、ヒト起源の抗体の定常ドメインをコードする遺伝子に結合されてもよい。
【0040】
抗体またはその断片は、それらの相補性決定領域(CDR)の観点から画定され得る。「相補性決定領域」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合に関与するアミノ酸残基が典型的位置する抗体の領域を指す。CDRは、抗体可変ドメイン間の最も高い可変性を有する領域として特定することができる。KabatデータベースなどのデータベースをCDR識別に使用することができ、このCDRは、例えば、軽鎖可変ドメインのアミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)、ならびに重鎖可変ドメインのアミノ酸残基31~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3)を含むものとして画定される(Kabat et al.1991;Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。典型的には、この領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、上述のKabat et al.に説明される方法によって実施される。本明細書において、「Kabat位置」、「Kabat残基」、および「Kabatによれば」などの語句は、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのためのこのナンバリングシステムを指す。Kabatナンバリングシステムを使用すると、ペプチドの実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのフレームワーク(FR)もしくはCDRの短縮化、またはそれらへの挿入に対応する、より少ないか、または追加のアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後のアミノ酸挿入(Kabatによる、残基52a、52b、および52c)、および重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatによる、残基82a、82b、および82cなど)を含み得る。残基のKabatナンバリングは、抗体の配列と「標準的な」Kabatナンバリング配列との相同性領域でのアライメントにより、所与の抗体について決定され得る。ナンバリングは、具体的に記載されている場合のみKabatに従うが、そうでない場合、ナンバリングは指定された配列番号に従って連続する。
【0041】
「フレームワーク領域」または「FR」残基という用語は、本明細書に定義されるように、CDR内にないこれらのVHまたはVLアミノ酸残基を指す。
【0042】
本発明の抗体は、本明細書に開示される特定の抗体のうちの1つ以上からのCDR領域を含み得る。
【0043】
「抗原」(Ag)という用語は、Agを認識する抗体(Ab)を生成するために、免疫応答性の脊椎動物の免疫化のために使用される分子実体を指す。本明細書において、Agはより広く呼称され、概して、Abによって認識される標的分子を含むことが意図される。
【0044】
本発明は、本明細書に開示される特定の配列に1、2、3、4、または5個のアミノ酸置換ならびに/または欠失および/もしくは挿入を含み得る本発明の抗体のバリアントまたはその抗原結合断片を包含する。
【0045】
「置換」バリアントは、好ましくは、1つ以上のアミノ酸を同数のアミノ酸で置換することを含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体(Ab)などの「抗原結合ポリペプチド」とその対応する抗原(Ag)の間の分子相互作用に関して定義される。一般に、「エピトープ」は、Abが結合するAg上の区域または領域、すなわちAbと物理的接触する区域または領域を指す。本発明において、エピトープは、X線導出結晶構造を使用して決定され、例えばFab断片などのAbとそのAg間の複合体の空間座標を定義する。本明細書において、エピトープという用語は、別段の指定がない限り、または文脈によって矛盾しない限り、Fab中の重原子から4Åの距離内に重原子(すなわち、非水素原子)を有することを特徴とするAg(ここではFVII(a)またはTLT-1)残基として定義される。
【0047】
例えば、X線構造から判定されるアミノ酸レベルで記載されるエピトープは、同一のアミノ酸残基の組を含有する場合には同一であると言われる。少なくとも1つのアミノ酸残基がエピトープによって共有される場合、エピトープは重複すると言われる。アミノ酸残基がエピトープによって共有されない場合、エピトープは分離されている(固有である)と言われる。
【0048】
「パラトープ」という用語の定義は、見方を逆転することによって「エピトープ」の上述の定義から導き出される。したがって、「パラトープ」という用語は、抗原が結合する、すなわち抗原と物理的接触をする、抗体またはその断片上の区域または領域を指す。パラトープという用語は、本明細書では、別段の指定がない限り、または文脈によって矛盾しない限り、FVII(a)またはTLT-1の重原子から4Åの距離内に重原子(すなわち、非水素原子)を有することを特徴とするAb残基として定義される。
【0049】
抗原上のエピトープは、1つ以上のホットスポット残基、すなわち、同族抗体との相互作用に特に重要な残基を含んでもよく、前記ホットスポット残基の側鎖によって媒介される相互作用は、抗体/抗原相互作用の結合エネルギーに著しく寄与する(Peng et al.PNAS 111,(2014),E2656-E2665)。ホットスポット残基は、抗原のバリアントを試験することによって識別することができ、単一エピトープ残基が、例えば、同族抗体への結合のためにアラニンによって置換されている。アラニンへのエピトープ残基の置換が、抗体への結合に強い影響を及ぼす場合、前記エピトープ残基はホットスポット残基とみなされ、したがって抗原への抗体の結合に特に重要である。
【0050】
同じ抗原に結合する抗体は、それらの共通抗原に同時に結合する能力に関して特徴付けることができ、「競合結合」/「ビニング」の対象となる場合がある。本文脈では、「ビニング」という用語は、同じ抗原に結合する抗体をグループ化する方法を指す。抗体の「ビニング」は、標準技法に基づくアッセイにおける2つの抗体のそれらの共通抗原に対する競合結合に基づくことができる。抗体の「ビン」は、参照抗体を使用して定義される。二次抗体が参照抗体と同時に抗原に結合することができない場合、二次抗体は、参照抗体と同じ「ビン」に属すると言われる。この場合、参照抗体および二次抗体は、抗原の同一部分に競合的に結合し、「競合抗体」と呼ばれる。二次抗体が参照抗体と同時に抗原に結合することができる場合、二次抗体は、別々の「ビン」に属すると言われる。この場合、参照抗体および二次抗体は、抗原の同一部分に競合的に結合せず、「非競合抗体」と呼ばれる。
【0051】
抗体が本明細書に開示される抗FVII(a)または抗TLT-1抗体との結合について競合するかどうかを決定するための競合アッセイは、当該技術分野で公知である。例示的な競合アッセイとしては、免疫アッセイ(例えば、ELISAアッセイ、RIAアッセイ)、表面プラズモン共鳴解析(例えば、BIAcore(商標)機器の使用)、バイオレイヤー干渉法(ForteBio(登録商標))、およびフローサイトメトリーが挙げられる。
【0052】
典型的には、競合アッセイは、固体表面に結合した、または細胞表面上に発現した抗原、試験FVII-またはFVIIa結合抗体、および参照抗体の使用を含む。参照抗体は標識化され、試験抗体は標識化されない。競合阻害は、試験抗体の存在下での固体表面または細胞に結合した標識化された参照抗体の量を決定することによって測定される。通常、試験抗体は、過剰に存在する(例えば、1倍、5倍、10倍、20倍、100倍、1000倍、10000倍または100000倍)。競合アッセイで競合的であると特定される抗体(すなわち、競合抗体)は、参照抗体と同じエピトープ、または重複エピトープに結合する抗体、および立体障害が生じるために参照抗体が結合するエピトープに十分に近位の隣接するエピトープに結合する抗体が含まれる。
【0053】
例示的な競合アッセイでは、参照抗FVIIまたは抗FVIIa抗体は、市販の試薬を使用してビオチン化される。ビオチン化参照抗体は、試験抗体または標識化されていない参照抗体の段階希釈液と混合し(自己競合対照)、標識化された参照抗体に対して、試験抗体(または標識化されていない参照抗体)の様々なモル比の混合物(例えば、1、5、10、20、100、1000、10000または100000倍)が得られる。抗体混合物を、FVIIまたはFVIIaポリペプチドコーティングELISAプレートに添加する。次いで、プレートを洗浄し、検出試薬としてセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)-ストレプトアビジン(strepavidin)をプレートに添加する。標的抗原に結合された標識された参照抗体の量は、当技術分野で公知の発色基質(例えば、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)またはABTS(2,2”-アジノ-ジ-(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸塩)の添加後に検出される。光学密度の読み取り(OD単位)は、分光計(例えば、SpectraMax(登録商標)M2分光計(Molecular Devices))を使用して行われる。ゼロパーセント阻害に対応する応答(OD単位)は、競合抗体を有さないウェルから決定される。100%阻害に対応する応答(OD単位)、すなわちアッセイバックグラウンドは、標識された参照抗体または試験抗体を有さないウェルから決定される。各濃度での試験抗体(または標識されていない参照抗体)による、FVIIまたはFVIIaに対する標識された参照抗体の阻害率を、以下のように計算する:%阻害=(1-(OD単位-100%阻害)/(0%阻害-100%阻害))*100。
【0054】
当業者であれば、2つ以上の抗TLT-1抗体が、結合領域、ビンを共有するか、かつ/または競合的に抗原を結合するかどうかを決定するために、類似のアッセイを実施し得ることを理解するであろう。当業者であれば、競合アッセイが、当該技術分野で公知の様々な検出システムを使用して実施することができることも理解するであろう。
【0055】
過剰な1つの抗体(例えば、1、5、10、20、100、1000、10000または100000倍)が他の抗体の結合を阻害する場合、例えば、競合結合アッセイで測定されるように、少なくとも50%、75%、90%、95%、または99%阻害する場合、試験抗体は、抗原への結合について参照抗体と競合する。
【0056】
特に明記しない限り、競合は、上記の、および実施例7および32に提示されるように競合ELISAアッセイを使用して決定される。
【0057】
「結合親和性」という用語は、本明細書では、2つの分子間、例えば、抗体またはその断片と抗原との間の非共有相互作用の強度の尺度として使用される。「結合親和性」という用語は、一価の相互作用を説明するために使用される。
【0058】
2つの分子間、例えば、一価の相互作用による、抗体またはその断片と抗原との間の結合親和性は、平衡解離定数(KD)を決定することによって定量化され得る。KDは、複合体形成および解離の動態を、例えば、実施例6および16で行われるような表面プラズモン共鳴(SPR)法または当技術分野で知られている他の方法によって測定することによって決定することができる。一価の複合体の会合および解離に対応する速度定数は、それぞれ、会合速度定数ka(またはkon)、および解離速度定数kd(またはkoff)と呼ばれる。KDは、式KD=kd/kaを介して、kaおよびkdと関連する。
【0059】
上記の定義にしたがって、所与の抗原に対する異なる抗体の結合親和性の比較など、異なる分子相互作用に関連する結合親和性は、個別の抗体/抗原複合体のKD値の比較によって比較されてもよい。
【0060】
その標的に対する本発明の抗体のKDは、1pM未満、例えば10pM未満、例えば100pM未満、例えば200pM未満、例えば400pM未満、例えば600pM未満、例えば1nM未満、例えば5nM未満、例えば10nM未満、例えば20nM未満、例えば50nM未満、例えば100nM未満、例えば200nM未満、例えば400nM未満、例えば600nM未満、例えば800nM未満、などであってもよい。
【0061】
このような一実施形態では、抗体は、1pM未満、例えば10pM未満、例えば100pM未満、例えば200pM未満、例えば400pM未満、例えば600pM未満、例えば1nM未満、例えば5nM未満、例えば10nM未満、例えば20nM未満、例えば50nM未満、例えば100nM未満、例えば200nM未満、例えば400nM未満、例えば600pM未満、例えば800pM未満などのFVIIaに対するKDを有する抗FVII(a)アームと、1pM未満、例えば10pM未満、例えば100pM未満、例えば200pM未満、例えば400pM未満、例えば600pM未満、例えば1nM未満、例えば5nM未満、例えば10nM未満、例えば20nM未満、例えば50nM未満、例えば100nM未満、例えば200nM未満、例えば400nM未満、例えば600nM未満、例えば800nM未満などのTLT-1に対するKDを有する第2の抗TLT-1アームと、を含む、二重特異性抗体である。
【0062】
当該技術分野で既知の「同一性」という用語は、配列を比較することによって決定される、2つ以上のポリペプチドの配列間の関係を指す。当該技術分野では、「同一性」はまた、2つ以上のアミノ酸残基の文字列の間の一致の数によって決定されるような、ポリペプチド間の配列の関連性の程度も意味する。「同一性」は、特定の数学的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって対処されたギャップアラインメント(存在する場合)を有する2つ以上の配列の小さい方の間の完全一致の割合を測定する。関連するポリペプチドの同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。本発明では、EMBOSS-6.6.0からのNeedleman(Needleman et al,J.Mol.Biol.1970;48:443-453)を使用し、ギャップ開始およびギャップ伸長についてそれぞれパラメータ10および0.5を使用して(gapopen=10、gapextend=0.5)、類似性および同一性が決定された。
【0063】
抗体の断片結晶可能領域(「Fc領域」/「Fcドメイン」)は、抗体のC末端領域であり、これはヒンジおよび定常CH2およびCH3ドメインを含む。
【0064】
本発明の抗体は、野生型アミノ酸配列を有し得るFc領域を含み得るか、または抗体のエフェクター機能を調節するアミノ酸置換を含み得、例えば、(Wang et al.:Protein Cell.9(2018),pp.63-73)を参照されたい。修飾エフェクター機能を有するFcバリアントの特定の例は、Fcγ受容体への結合が低減されているバリアントである。そのようなバリアントの1つの具体的な例は、特定のFcγ受容体およびC1qに対する親和性が低下したL234A、L235E、G237A、A330SおよびP331S(EUインデックスによる残基ナンバリング)の置換を含むIgG1である。
【0065】
二重特異性分子
本明細書中の「二重特異性分子」という用語は、FVII(a)およびTLT-1などの異なる標的に結合することができる分子を指す。二重特異性分子の結合部分は、抗体由来であってもよく、または非抗体起源であってもよい。二重特異性分子の1つの特定の例は、二重特異性抗体である。
【0066】
本発明の一態様では、二重特異性分子は、第VII因子(a)を結合することができる第1の抗原結合部位と、TREM様転写物1(TLT-1)を結合することができる第2の抗原結合部位とを含む。
【0067】
本発明の二重特異性分子は、非抗体由来結合部分を含んでもよく、これは代替的足場とも呼ばれる。本発明の二重特異性分子は、代替的足場の融合物またはコンジュゲートであってもよい。本発明の二重特異性分子は、抗体および代替的足場の融合物またはコンジュゲートであってもよい。本発明の二重特異性分子はまた、抗体断片および代替的足場の融合物またはコンジュゲートであってもよい。
【0068】
多数の様々な代替的足場が当技術分野で公知であり、例えば、(Simeon and Chen:Protein Cell 9(2018),pp.3-14)、(Konning and Kolmar:Microbial Cell Factories(2018),pp.17-32)、および(Nygren and Skerra:Journal of Immunological Methods 290(2004),pp3-28)を参照されたい。
【0069】
代替的な足場の具体的な例は、アドネクチン(Adnectin)、アフィリン(Affilin)、アンティカリン(Anticalin)、アヴィマー(Avimer)、アトリマー(Atrimer)、FN3足場、フィノマー(Fynomer)、オボディ(Obody)、クリングル(Kringle)ドメイン、クニッツ(Kunitz)ドメイン、ノッティン(Knottin)、アフィボディ(Affibody)、ダーピン(DARPin)、二環性ペプチド、およびシステインノット(Cys-knot)である。
【0070】
第VII(a)因子
本明細書中の「第VII因子」および「FVII」という用語は、凝固第VII因子の酵素前駆体を指す。本明細書中の「第VIIa因子」および「FVIIa」という用語は、セリンプロテアーゼである活性化凝固第VII因子を指す。本明細書中の「第VII(a)因子」および「FVII(a)」という用語は、非切断の酵素前駆体である第VII因子(FVII)、ならびに切断されて活性化されたプロテアーゼである第VIIa因子(FVIIa)を包含する。本明細書中の「第VII(a)因子」および「FVII(a)」という用語は、存在し得るFVII(a)の天然対立遺伝子バリアントを含む。1つの野生型ヒト第VII(a)因子配列が、配列番号 1に提示される。
野生型ヒト凝固第VII(a)因子(配列番号1):
ANAFLEELRPGSLERECKEEQCSFEEAREIFKDAERTKLFWISYSDGDQCASSPCQNGGSCKDQLQSYICFCLPAFEGRNCETHKDDQLICVNENGGCEQYCSDHTGTKRSCRCHEGYSLLADGVSCTPTVEYPCGKIPILEKRNASKPQGRIVGGKVCPKGECPWQVLLLVNGAQLCGGTLINTIWVVSAAHCFDKIKNWRNLIAVLGEHDLSEHDGDEQSRRVAQVIIPSTYVPGTTNHDIALLRLHQPVVLTDHVVPLCLPERTFSERTLAFVRFSLVSGWGQLLDRGATALELMVLNVPRLMTQDCLQQSRKVGDSPNITEYMFCAGYSDGSKDSCKGDSGGPHATHYRGTWYLTGIVSWGQGCATVGHFGVYTRVSQYIEWLQKLMRSEPRPGVLLRAPFP
【0071】
野生型FVII(a)は、406個のアミノ酸残基からなり、4つのドメインから構成されている。N末端のガンマ-カルボキシグルタミン酸リッチ(Gla)ドメインがあり、ここで、10個のグルタミン酸残基(上の配列では太字で強調表示されている)は、ガンマ-カルボキシル化されてもよい。glaドメインに続いて、2つの上皮成長因子(EGF)様ドメインと、C末端セリンプロテアーゼドメインとが続く。FVIIおよびFVIIaの両方は循環中に存在するが、FVIIaは少量のみである(FVII(a)プール全体の約1%、Marder VJ,Aird WC,Bennett JS,Schulman S,White II GC,editors.Hemostasis and thrombosis:basic principles and clinical practice.6th ed.Wolters Kluwer & Lippincott Williams & Wilkins:Philadelphia;2013.p.163-78中のMorrissey JH,Broze Jr GJ.Tissue factor and the initiation and regulation(TFPI)of coagulation.)。FVIIは、残基Arg152とIle153との間のタンパク質分解切断によってFVIIaに活性化され、軽鎖および重鎖からなる2鎖FVIIa分子をもたらすことができる。FVIIa中の2つの鎖は、ジスルフィド結合によって繋がれている。軽鎖は、GlaおよびEGF様ドメインを含有し、ならびに重鎖はプロテアーゼドメインを含有する。FVIIaは、その完全な生物活性に達するために、その細胞表面補因子組織因子(TF)への結合を必要とする。
【0072】
予測全長カニクイザル(Macaca fascicularis)FVIIアイソフォームX1は、NCBI参照配列ID XP_015295043.1を有する406アミノ酸で構成されている。本明細書中の用語「cFVIIa-キメラ」は、キメラカニクイザルFVIIa構築物を指す。cFVIIa-キメラのアミノ酸配列は、Glaおよび第1のEGF様ドメイン(ヒトFVIIa配列と整列した場合にアミノ酸1~88)がヒトFVII配列(Uniprot ID P08709)で構成され、一方で第2のEGF様ドメインおよびプロテアーゼドメイン(ヒトFVIIa配列と整列した場合にアミノ酸89-406)がカニクイザルFVIIアイソフォームX1配列(NCBI参照配列ID XP_015295043.1)で構成される。
【0073】
ヒトにおける組み換えFVIIa(および内因性FVIIa)の活性半減期は、静脈内に投与した場合、約2~3時間である。第VII(a)因子は、生産および精製の周知の方法を使用して、内因性、血漿由来、または組み換え的に産生され得る。グリコシル化、ガンマカルボキシル化、および他の翻訳後修飾の程度および位置は、選択された宿主細胞およびその成長条件に応じて変化し得る。
【0074】
第VIIa因子は、様々なコンフォメーションで見出され得る。第VIIa因子は、不活性なコンフォメーションまたは不活性な形態で血液中に循環する。このコンフォメーションは、触媒活性を有しない。FVIIaはまた、活性コンフォメーションまたは活性形態で見出されてもよく、本明細書では、完全に活性または完全に活性化されたFVIIaとも呼ぶ。FVIIaという用語は、不活性形態またはコンフォメーションのFVIIa、および活性形態またはコンフォメーションのFVIIaを包含する。例えば、FVIIaの活性コンフォメーションは、例えば、FVIIa/sTF(1~219)の形態で、FVIIaと組織因子(FVIIa/TF)との間の複合体を含んでもよく、ここでsTF(1~219)は、組織因子の切断されたおよび可溶性形態であり、または、FVIIaの活性コンフォメーションは、活性部位阻害FVIIa(FVIIai)を含んでもよい。FVIIaiは、ダンシル-Glu-Gly-ArgクロロメチルケトンまたはPhe-Phe-Arg-クロロメチルケトン(FFR-クロロメチルケトン)(Wildgoose et al(1990)Biochemistry 29:3413-3420およびShφrensen et al(1997)J Biol Chem 272:11863-11868)を用いたFVIIaの処理によって産生され得る、FVIIaの触媒的に不活性な形態である。FVIIaiは、TFに対するその親和性を保持しており、TF結合によってFVIIaに誘導されるのと同じコンフォメーションを採用すると考えられている。したがって、FVIIaiは、活性化コンフォメーションを有し、試験化合物のFVIIaiへの結合は、試験化合物が野生型FVIIaの活性化形態にも結合することを示唆する。
【0075】
抗FVII(a)抗体の標的分子は、本明細書に記載される任意のFVII(a)分子であってもよい。
【0076】
TREM様転写物1(TLT-1)
骨髄細胞(TREM)上に発現されるトリガー受容体は、様々な骨髄系遺伝子の生物学において十分に確立された役割を有し、自然免疫および適応免疫の調節において重要な役割を果たしている。TREM様転写物(TLT)-1は、このタンパク質ファミリーに属するが、TLT-1遺伝子は、単系統、すなわち巨核球および血小板(thrombocyte)(血小板(platelet))でのみ発現し、巨核球および血小板のアルファ顆粒にのみ見られる。TLT-1は、アルファ顆粒放出時に活性化された血小板の表面上に露出される膜貫通型タンパク質である。これまでのところ、TLT-1は、休止(resting)血小板の表面または他の細胞型の表面上には見出されていない。
【0077】
TLT-1は、細胞外球状頭部、ストーク領域(stalk region)、膜貫通ドメイン、および免疫受容体チロシン系阻害性モチーフを含有する細胞内ドメインを含有する(Washington et al.Blood,2002;100:3822-3824)。ヒトTLT-1(hTLT-1)の細胞外球状頭部は、単一の免疫グロブリン様(Ig様)ドメインである。これは、ストーク(stalk)と呼ばれる37個のアミノ酸リンカー領域によって血小板膜に接続される(Gattis et al.,Jour Biol Chem,2006,281,19,13396-13403)。
【0078】
hTLT-1の推定上の膜貫通セグメントは、20アミノ酸長である。TLT-1はまた、細胞内シグナル伝達モチーフとして機能し得る細胞質の免疫受容体チロシン系阻害性モチ-フ(ITIM)を有する。
【0079】
TLT-1の小部分は、血小板活性化時に脱落し、可溶性形態(sTLT-1)を形成する(Gattis et al.,Jour Biol Chem,2006,281,19,13396-13403)。切断部位は、血小板膜に近接して位置する。切断された細胞内ドメインを有するTLT-1のより短いアイソフォームも、血小板中に存在する。
【0080】
TLT-1は、損傷部位における凝固およびおそらく炎症の制御に関与する。TLT-1は、いくつかの血小板アゴニストの最適以下の濃度に応答して、血小板凝集において役割を果たす(Giomarelli et al,Thromb Haemost 2007;97:955-963.)。TLT-1に対し最もよく説明されるリガンドはフィブリノーゲンである(Washington et al.J Clin Invest 2009;119:1489-3824.)。最近TLT-1は、フォン・ヴィルブランド因子にも結合することが示された(Doerr A et al,abstract PB359 at International Society of Thrombosis and Haemostasis 2019)。sTLT-1は、白血球活性化を弱め、血小板-好中球クロストークを調節することによって敗血症に関連する出血に関与することが示唆されている(Derive,J Immunol 2012,188:5585-5592)。
【0081】
本発明に関して、TLT-1は、げっ歯類(マウス、ラット、またはモルモットなど)、ウサギ目(ウサギなど)、偶蹄目(ブタ、ウシ、ヒツジ、またはラクダなど)、または霊長類(サルまたはヒトなど)などの任意の哺乳動物などの任意の脊椎動物由来のものであってもよい。TLT-1は、好ましくはヒトTLT-1である。TLT-1は、機能性TLT-1タンパク質を生じさせる任意の天然由来の遺伝子型または対立遺伝子から翻訳されてもよい。1つのヒトTLT-1の非限定的な例は、配列番号 2のポリペプチド配列である。
【0082】
TLT-1抗体の標的分子は、本明細書に記載される任意のTLT-1分子であってもよい。
【0083】
抗FVII(a)抗体
本明細書中の「抗FVII(a)抗体」という用語は、その標的としてFVII(a)を有する抗体を指す。抗FVII(a)抗体は、本明細書に記載のFVII(a)分子に結合することができ、それらは限定されないが、ヒト血漿中に存在する内因性FVII(a)、組み換え野生型ヒトFVII(a)のような外因性FVII(a)、例えば、ウサギ、マウス、ラット、イヌ、またはサルなどの動物血漿中に存在する内因性FVII(a)などが含まれる。
【0084】
抗FVII(a)抗体は、その標的としてFVII(a)を有するモノクローナル、単一特異性抗体であり得る。単一特異性抗FVII(a)抗体は、典型的には、FVII(a)に結合する2つの同一の抗原結合部位を含み、非限定的な例では、モノクローナルIgG4抗FVII(a)抗体である。
【0085】
適切な抗FVII(a)抗体は、限定されるものではないが、表3に示される抗FVII(a)抗体のいずれか1つを含む。
【表6】
【0086】
抗FVII(a)抗体は、FVII(a)への結合について、表3に示す抗体のいずれか1つと競合する可能性があり得る。抗FVII(a)抗体が、FVII(a)への結合について表3に示される抗体のいずれか1つと競合するか否かは、表面プラズモン共鳴(SPR)、ELISAまたはフローサイトメトリーなどの周知の方法(すなわち、競合結合アッセイ)を使用して決定され得る。実施例7は、競合ELISAを使用して、FVII(a)への競合結合がどのように決定され得るかを記載する。
【0087】
一実施形態では、抗FVII(a)抗体は、高い親和性でFVII(a)に結合する。抗FVII(a)抗体は、1pM未満、例えば10pM未満、例えば100pM未満、例えば200pM未満、例えば400pM未満、例えば600pM未満、例えば1nM未満、例えば5nM未満、例えば10nM未満、例えば20nM未満、例えば50nM未満、例えば100nM未満、例えば200nM未満、例えば400nM未満、例えば600nM未満、例えば800nM未満、などのその標的に対するKDを有し得る。インビボでは、高親和性抗FVII(a)抗体は、それと複合体を形成することによって、FVII(a)のクリアランスを減少させる。それによって、FVII(a)の半減期を延ばし、循環中に蓄積させる。このようにして、抗体は、FVII(a)の定常状態濃度の上昇をもたらすことができる。
【0088】
一実施形態では、抗FVII(a)抗体は、FVII(a)の生物学的機能を妨害しない。一実施形態では、抗FVII(a)抗体は、内因性FVIIがFVIIaに活性化されることを妨げない。例えば、抗FVII(a)抗体は、TFに結合されている間(実施例12に記載されるように)、FVIIaに変換する(すなわち、自動活性化する)FVIIの能力を妨害しない。また、抗FVII(a)抗体は、(実施例10に記載されるように)FVII(a)が組織因子(TF)といわゆる開始複合体を形成するのを妨げず、TF依存的または非依存的にで第X因子(FX)を活性化するのを妨げないことも好ましい。一実施形態では、抗FVII(a)抗体は、FVII(a)基質または補因子と競合しない。しかしながら、抗FVII(a)抗体は、(実施例11に記載されるように)アンチトロンビン(AT)およびアルファ-2-マクログロブリンなどのFVIIaのインヒビターと競合する場合がある。
【0089】
抗TLT-1抗体
本明細書中の「抗TLT-1抗体」という用語は、その標的としてTLT-1を有する抗体を指す。抗TLT-1抗体は、本明細書に記載されるようにTLT-1分子に結合することができる。TLT-1抗体は、モノクローナル、単一特異性抗体であり得る。
【0090】
適切な抗TLT-1抗体には、限定されるものではないが、表4に示される抗TLT-1抗体が含まれる。
【表7】
【0091】
抗TLT-1抗体は、TLT-1への結合について、表4に示す抗体のいずれか1つと競合する可能性があり得る。抗TLT-1抗体が、TLT-1への結合について、表4に示される抗体のいずれか1つと競合するか否かは、表面プラズモン共鳴(SPR)、ELISA、またはフローサイトメトリーなどの周知の方法(すなわち、競合結合アッセイ)を使用して決定され得る。TLT-1への競合結合は、競合ELISAを使用して決定されてもよい。実施例32は、競合ELISAを使用して、TLT-1への競合結合がどのように決定され得るかを記載する。
【0092】
抗TLT-1抗体は、1pM未満、例えば10pM未満、例えば100pM未満、例えば200pM未満、例えば400pM未満、例えば600pM未満、例えば1nM未満、例えば5nM未満、例えば10nM未満、例えば20nM未満、例えば50nM未満、例えば100nM未満、例えば200nM未満、例えば400nM未満、例えば600nM未満、例えば800nM未満などのその標的に対するKDを有し得る。
【0093】
抗TLT-1抗体は、TLT-1の機能を妨害せず、特に血小板凝集を阻害しないことが好ましい。
【0094】
好ましい一実施形態では、抗TLT-1抗体は、血小板凝集を妨害することなく、TLT-1に結合することができる。
【0095】
別の好ましい実施形態では、抗TLT-1抗体は、TLT-1への結合についてフィブリノーゲンと競合することなく、TLT-1に結合することができる。
【0096】
別の好ましい実施形態では、TLT-1抗体は、TLT-1の脱落を妨害しない。
【0097】
抗TLT-1抗体が、TLT-1以外の任意の他の骨髄細胞上に発現されるトリガー受容体(TREM)、または任意の他の休止血小板もしくは活性化血小板上の受容体、に結合しないか、またはそれらに対してほとんど親和性を示さないことが好ましい。
【0098】
一実施形態では、抗TLT-1抗体は、TLT-1のストークに結合する。
【0099】
二重特異性抗FVII(a)/抗TLT-1抗体
本発明の二重特異性抗体は、FVII(a)を結合することができる第1の抗原結合部位、およびTLT-1を結合することができる第2の抗原結合部位を含む。
【0100】
抗FVII(a)抗原結合部位
一態様では、本発明の二重特異性抗体は、FVII(a)を結合することができる第1の抗原結合部位を含む。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第1の抗原結合部位は、表3に識別された抗FVII(a)抗体のいずれか1つとFVII(a)への結合について競合し、表3に識別された抗体のいずれか1つと同一のエピトープを有し、表3に識別された抗体のいずれか1つと同一のCDR領域を有し、表3に識別された抗体のいずれか1つと同一のVL領域およびVH領域を有する。
【0102】
抗TLT-1抗原結合部位
一態様では、本発明の二重特異性抗体は、TLT-1を結合することができる第2の抗原結合部位を含む。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合部位は、表4に識別された抗TLT-1抗体のいずれか1つとTLT-1への結合について競合し、表4に識別された抗体のいずれか1つと同一のエピトープを有し、表4に識別された抗体のいずれか1つと同一のCDR領域を有し、表4に識別された抗体のいずれか1つと同一のVL領域およびVH領域を有する。
【0104】
修飾エフェクター機能
本発明の二重特異性抗体は、野生型アミノ酸配列を有し得るFc領域を含むことができ、または抗体のエフェクター機能を調節するアミノ酸置換を含んでもよい。例えば、(Wang et al.:Protein Cell.9(2018),pp.63-73)を参照されたい。修飾エフェクター機能を有するFcバリアントの具体例は、Fcγ受容体への結合が低減されているバリアントである。そのようなバリアントの一具体例は、特定のFcγ受容体およびC1qに対する親和性が低下した、置換L234A、L235E、G237A、A330SおよびP331S(EUインデックスによる残基ナンバリング)を含むIgG1である。
【0105】
本発明の二重特異性抗体の所望の特性は、インビボでの長い半減期である。Fc領域を含む二重特異性抗体は、FcRn受容体を介してリサイクルされ、レスキューされてもよく、それにより所望の長い半減期をもたらし得る。Fc領域を欠く本発明の二重特異性抗体については、半減期は他の手段によって延長され得る。ポリペプチドおよび抗体の半減期の延長を取得するための様々な方法および原理が当該技術分野で公知であり、例えば、Kontermann:Expert Opinion on Biological Therapy,16(2016),pp.903-915)およびその参考文献を参照されたい。
【0106】
ポリペプチドおよび抗体のFcベースの半減期延長に加えて、アルブミンまたはアルブミンバリアントへの融合またはコンジュゲーションは、半減期の延長において効果的であることが実証されている。別のアプローチは、XTENまたはPEGなどのポリマーの付着である(参照を挿入)。さらに、インビボでの半減期の延長は、アルブミン結合部分の付着によって得ることができ、例えば、Tan et al.:Current Pharmaceutical Design 24(2018),pp.4932-4946、Kontermann:Expert Opinion on Biological Therapy,16(2016),pp.903-915)およびKontermann:Current Opinion in Biotechnology 22(2011),pp868-876)を参照されたい。
【0107】
機能的特徴
FVII(a)に結合することにより、本発明の二重特異性抗体は、循環中に存在するFVIIaの活性循環半減期を延長することができ、TLT-1に結合することにより、二重特異性抗体および結合FVII(a)は、活性化された血小板の表面に向けられる。これは次に、活性化された血小板上のFVIIaの蓄積の増加をもたらし、したがって血管損傷部位におけるFVIIa凝固促進活性を増強する。したがって、本明細書に記載される二重特異性抗体は、薬物動態(PK)および薬力学(PD)特性が改善された、FVII(a)の内因性プールを与えることができる。
【0108】
ヒトにおいて、投与された組み換えFVIIaの活性半減期は約2~3時間であることが知られている。組み換えFVIIaの短い半減期は、アンチトロンビンIII(AT)による阻害、アルファ-2-マクログロブリン(α2M)による阻害、および腎クリアランスを含む、いくつかの機序の関与によると考えられる。同様の機序は、内因性FVIIaにも当てはまり、したがってそれに同様の短い半減期を与えると考えられる。
【0109】
内因性FVIIaの半減期を含む、FVIIaの活性半減期を延長するために、本明細書に記載される二重特異性抗体は、内因性FVIIa活性を失うことなく、その抗FVIIアームまたはいわゆる「第1の抗原結合部位」によって、これらのクリアランス機構のうちの1つ以上を遮断することを目指す。biAb:FVIIa複合体のFc部分は、エンドソーム中で、FcRnへの結合を介して、複合体のリサイクルを媒介し、分解からレスキューする。さらに、二重特異性抗体の高親和性抗FVIIアームは、遊離内因性FVIIaのサイズと比較して、biAb:FVIIa複合体の分子サイズが増加するため、内因性FVIIaをα2M阻害および腎クリアランスから保護する。二重特異性抗体の抗TLT-1アームは、長期化された内因性FVIIaを活性化された血小板に選択的に局在させる。活性化された血小板に対するFVIIaのこの局在化は、AT阻害に対する感受性を増加させることなく、FVIIa活性を増強する。
【0110】
本発明の二重特異性抗体は、内因性または外因性FVII(a)の平均滞留時間(MRT)を増加させることができる。二重特異性抗体は、インビボでFVII(a)の活性を増強することができることが好ましい。
【0111】
平均滞留時間
平均滞留時間(MRT)は、分子が体内に留まり、治療活性に利用可能な平均時間である。MRTは、全身クリアランス(CL)で割った定常状態での分布容積(Vss)の関数として、式1に従って計算される。
MRT=Vss/CL 式 1
【0112】
結果は、時間で表される。MRTは、式2に従って、有効血漿内半減期(t1/2)と相関する。
MRT=ln(2)*t1/2 式 2
【0113】
FVII(a)のMRTを増加させる抗体の能力は、例えば、例えばPharmacokinetic and Pharmacodynamic Data Analysis:Concepts & Applications(Gabrielsson and Weiner)に記載されるものなど、周知の方法によって決定され得る。例えば、実験動物、例えばマウス、ラット、またはサルへのIVまたはSC投与後のFVII(a)の血漿濃度または活性プロファイルの分析による。FVII(a)の機能的MRTを増加させる抗体の能力は、限定されるものではないが、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイなどのアッセイで測定される、FVII(a)の血漿活性プロファイルの分析によって決定され得る。
【0114】
FVII(a)のMRTおよび機能的MRTを増加させる抗体の能力は、例えば、実施例9および18に記載されるように決定されてもよい。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、本発明の抗体(FVII(a))の非存在下でのFVII(a)の投与(FVII(a)ポリペプチドのみ)と比較して、FVII(a)のMRTを、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、または少なくとも40倍増加させることができる。
【0116】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイで測定されたように、本発明の二重特異性抗体の非存在下でのFVII(a)の投与と比較して、FVII(a)の機能的MRTを、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、または少なくとも40倍増加させることができる。
【0117】
内因性FVIIaの蓄積
本発明の二重特異性抗体が、循環する内因性機能的活性FVIIaのレベルを増加させる能力は、例えば、これに限定されないが、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイなどのアッセイで測定される、例えばマウス、ラットまたはサルなどの実験動物への抗体の投与の前後で内因性FVIIaのレベルを測定することによって決定され得る。
【0118】
循環する内因性機能的活性FVIIaのレベルを増加させる抗体の能力は、例えば、実施例27および28に記載されるように決定され得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、投与された二重特異性抗体の非存在下での循環する内因性FVIIaのレベルと比較して、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも40倍、少なくとも80倍、少なくとも160倍、少なくとも320倍、少なくとも640倍、循環する内因性FVIIaのレベルを増加させることができる。
【0120】
TLT-1およびTF非依存性トロンビン生成
一態様では、本発明の二重特異性抗体は、トロンビンを生成する第VIIa因子のTLT-1およびTF非依存性能力を維持または増加させることができる。
【0121】
FVII(a)ポリペプチドのトロンビン生成を増加させる抗体の能力は、例えば、実施例5に記載されるようなトロンビン生成アッセイなど、当該技術分野で周知の方法によって決定され得る。このアッセイでは、このアッセイではトロンビン生成を、リン脂質、25nMのFVIIa、および添加されたFVIIaの飽和に近い濃度の抗体の存在下での血友病A誘発性ヒト血漿で測定する。例えば、実施例6に例示されるようなSPRによってFVIIa-抗体相互作用について決定された測定された解離定数に従って、FVIIaの>90%が抗体によって結合された場合に飽和に近づく。抗体の存在下および非存在下でのピークトロンビン形成の比率に基づき、抗体は、刺激性(>120%)、阻害性(<90%)、または中性(90~120%)に分類される。
【0122】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、抗体の非存在下でのFVII(a)と比較して、トロンビン生成アッセイで測定されるように、第VII(a)ポリペプチドのトロンビンを生成する能力を維持する(中性)/増加させる(刺激)ことができる。
【0123】
一部の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、トロンビン生成アッセイで測定される、第VII(a)因子のトロンビンを生成する能力を、抗体の非存在下でのFVII(a)と比較して、少なくとも20%まで増加させることができる。
【0124】
アンチトロンビンおよび/またはアルファ-2-マクログロブリンによる阻害
一態様では、本発明の二重特異性抗体は、アンチトロンビン(AT)および/またはアルファ-2-マクログロブリンによる阻害に対するFVIIaの感受性を低減させることができる。
【0125】
アンチトロンビン(AT)および/またはアルファ-2-マクログロブリンによるFVIIaの阻害を低減させる抗体の能力は、実施例5および11に記載されるような当技術分野で周知の方法によって決定され得る。
【0126】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、抗体の非存在下でのFVIIaの阻害と比較して、アンチトロンビン(AT)および/またはアルファ-2-マクログロブリンによるFVIIaの阻害を低減させることができる。
【0127】
TLT-1依存性FXa生成(刺激活性アッセイ)
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、TLT-1含有凝固促進性膜表面の存在下でFX活性化を促進するFVIIaポリペプチドの能力を維持または増加させることができる。
【0128】
FX活性化を促進するFVIIaポリペプチドの能力を増加させる、本発明の二重特異性抗体の能力は、例えば、実施例21に記載されるTLT-1依存性刺激活性アッセイなど、当技術分野で周知の方法によって決定され得る。このアッセイでは、FX活性化は、FX(150nM)、FVIIa(2.5nM)、TLT-1(4nM)を含有するリン脂質膜、および抗FVII(a)/抗TLT-1二重特異性抗体の存在下で測定される。二重特異性抗体のいわゆる刺激活性(倍数増加として表される)は、二重特異性抗体の非存在下でのFVIIaによって生成される量に対する、100nMの二重特異性抗体の存在下で生成されたFXaの量である。
【0129】
一部の実施形態では、本発明の二重特異性抗体の刺激活性は、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも60倍、少なくとも80倍、少なくとも100倍、または少なくとも150倍である。
【0130】
TLT-1依存性全血栓形成
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、血友病A条件下で、組み換えFVIIaの治療有効濃度に類似またはそれよりも良好に血栓形成を促進することができる。
【0131】
全血血栓形成を改善する二重特異性抗体の能力は、例えば、実施例29に記載されるようなトロンボエラストグラフィーアッセイなど、当技術分野で周知の方法によって決定され得る。このアッセイでは、実施例27、28、および29に記載されるような二重特異性抗体の反復投与時に対応する内因性因子のインビボ定常状態血漿レベルを模倣する濃度で、二重特異性抗体がFVII、FVIIa、およびFVIIa:ATと共に添加される、ヒト血友病-A誘発全血において、血栓形成が測定される。凝固は、PAR1アゴニストペプチドSFLLRNおよびカルシウムの添加によって誘導される。これらの条件下での凝固時間は、抗体の非存在下での25nMのFVIIaの添加によって達成される凝固時間と比較される。
【0132】
いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、ヒト血友病A誘発全血における凝固時間を、25nMのFVIIaの添加によって達成されるレベルと類似の、またはそれを下回るレベルに低減させることができる。いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、ヒト血友病A誘発全血における凝固時間を、2nMのFVIIa、4nMのFVIIa、6nMのFVIIa、8nMのFVIIa、10nMのFVIIa、12nMのFVIIa、16nMのFVIIa、または20nMのFVIIaの添加によって達成されるレベルと類似の、またはそれを下回るレベルに低減することができる。
【0133】
医薬製剤
一態様では、本発明は、本明細書に記載される二重特異性抗体を含む組成物および製剤を提供する。例えば、本発明は、医薬的に許容可能な担体と共に製剤化された、二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。
【0134】
本発明の一実施形態では、医薬製剤は、80mg/mL~200mg/mL、例えば100~180mg/mLの濃度で存在する二重特異性抗体を含み、当該製剤は2.0~10.0のpHを有する。製剤は、緩衝系、保存剤、等張化剤、キレート剤、安定剤、または界面活性剤、ならびにそれらの様々な組み合わせのうちの1つ以上をさらに含んでもよい。医薬組成物に保存剤、等張剤、キレート剤、安定剤、および界面活性剤を使用することは、当業者には周知である。Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19th edition,1995が参照され得る。
【0135】
一実施形態では、医薬製剤は水性製剤である。そのような製剤は典型的には溶液または懸濁液であるが、コロイド、分散剤、乳濁液、および多相材料も含み得る。「水性製剤」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む製剤として定義される。同様に、「水溶液」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む溶液として定義され、「水性懸濁液」という用語は、少なくとも50%w/wの水を含む懸濁液として定義される。
【0136】
別の実施形態では、医薬製剤は、使用前に医師または患者が溶媒および/または希釈剤を加える凍結乾燥製剤である。
【0137】
さらなる態様では、医薬製剤は、製剤は、FVII(a)ポリペプチド、本明細書に記載の二重特異性抗体、および緩衝液の水溶液を含み、この抗体は1mg/mL以上の濃度で存在し、当該製剤は約2.0~約10.0のpHを有する。
【0138】
本発明の組成物は、非経口的に、例えば静脈内、例えば筋肉内、例えば皮下など、好ましくは皮下に、投与されてもよい。本発明の組成物は、予防的に投与されてもよい。
【0139】
本発明の医薬組成物は、凝固異常を有する対象を治療するために使用され得る。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、凝固異常を有する任意のヒト患者または非ヒト脊椎動物を含む。
【0140】
医療用途
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、は、それを必要とする任意のヒトまたは他の動物対象の医学的療法を指す。当該対象は、当該特定の治療の使用が当該ヒトまたは他の動物対象の健康に有益であることを示す、暫定的または決定的な診断を与えた医師による身体検査を受けていることが期待されている。前述の治療のタイミングおよび目的は、対象の健康状態の現状に応じて、個人によって異なり得る。本発明の凝固促進剤化合物の予防的または予防的投与も企図されており、予防は、疾患または障害の1つ以上の症状の発現もしくは悪化を遅延または回避することとして定義される。したがって、前述の治療は、予防的、緩和的、対症的(「オンデマンド」)および/または治癒的であり得る。
【0141】
本発明に関して、予防的、緩和的および/または対症療法は、本発明の別個の態様を表し得る。
【0142】
出血性傾向の増加をもたらす凝固異常は、正常な凝固カスケードの任意の凝固促進成分の任意の質的または量的欠損、または線維素溶解の任意の発現上昇によって引き起こされる可能性がある。こうした凝固異常は、先天性および/または後天性および/または医原性であり得、当業者によって識別される。
【0143】
先天性低凝固障害(hypocoagulopathy)の非限定的な例としては、血友病A、血友病B、第VII因子欠損症、第X因子欠損症、第XI因子欠損症、フォン・ヴィルブランド病、およびグランツマン血小板無力症およびベルナール・スーリエ症候群などの血小板減少症が挙げられる。
【0144】
後天性凝固異常の非限定的な例は、ビタミンK欠乏症によって引き起こされるセリンプロテアーゼ欠乏症であり、そのようなビタミンK欠乏症は、例えばワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の投与によって引き起こされる場合がある。後天性凝固異常は、広範な外傷後にも起こり得る。この場合、別名、「血性の悪循環」として知られているが、これは、血液希釈(希釈性血小板減少症および凝固因子の希釈)、低体温症、凝固因子の消費、および代謝異常(アシドーシス)によって特徴付けられる。輸液療法および線維素溶解の増加は、この状況を悪化させる可能性がある。当該出血は、身体の任意の部分からの出血であってもよい。
【0145】
「インヒビター」保有血友病A(すなわち、第VIII因子に対する同種抗体)および「インヒビター」保有血友病B(すなわち、第IX因子に対する同種抗体)は、部分的に先天性かつ部分的に後天性の凝固異常の非限定的な例である。
【0146】
医原性凝固異常の非限定的な例は、輸血によって誘発され得るものなど、過剰および/または不適切な輸液療法によって誘発されるものである。
【0147】
本発明の好ましい一実施形態では、出血は血友病Aに関連する。本発明の別の好ましい実施形態では、出血は血友病Bに関連する。別の好ましい実施形態では、出血は、後天性インヒビター保有する血友病AまたはBに関連する。別の好ましい実施形態では、出血はFVII欠損症と関連している。別の好ましい実施形態では、出血はグランツマン血小板無力症と関連している。別の実施形態では、出血はフォン・ヴィルブランド病と関連している。別の実施形態では、出血は重度の組織損傷と関連する。別の実施形態では、出血は重度の外傷と関連する。別の実施形態では、出血は手術と関連する。別の実施形態では、出血は出血性胃炎および/または腸炎と関連している。別の実施形態では、出血は、胎盤早期剥離など、多量の子宮出血である。別の実施形態では、出血は、例えば頭蓋内、耳内、または眼内などの機械的止血の可能性が限られている器官で発生する。別の実施形態では、出血は抗凝固療法と関連する。
【0148】
さらなる実施形態では、出血は、血小板減少症と関連し得る。血小板減少症を有する固体では、本明細書に記載の二重特異性抗体は、血小板と同時投与することができる。
【0149】
投与経路
本明細書に記載される二重特異性抗体は、非経口投与、好ましくは静脈内および/または皮下投与に適している可能性がある。皮下投与が好ましい投与経路である
【0150】
投与レジメン
本明細書に記載される二重特異性抗体の生物学的利用能および半減期は、後天性および/または先天性凝固異常症を有する対象の予防的、皮下治療のため、それらに特に魅力的な薬剤にする。本明細書に記載される二重特異性抗体は、後天性および/または先天性凝固異常を有するが出血のない対象に、週に1回、例えば、2週間に1回、好ましくは月に1回投与することができる。本明細書に記載される二重特異性抗体は、凝固異常症を有し、外科手術などの侵襲的処置が必要な対象に、術前に投与されてもよい。本明細書に記載される二重特異性抗体は、凝固異常症を有し、外科手術などの侵襲的処置を受けている対象に投与されてもよい。
【0151】
本明細書に記載される二重特異性抗体はまた、凝固異常症を有する、または出血エピソードを経験している対象のオンデマンドまたは予防的治療のために、血漿由来または組み換えで産生されたFVIIaなどの外因性FVIIaと同時投与されてもよい。
【0152】
凝固異常症を有する対象に投与される用量は、投与経路、それが予防的にまたはオンデマンドで投与されるか、および個人差に依存する。皮下投与は、静脈内投与よりも高用量を必要とする。
【0153】
本発明の一実施形態では、二重特異性抗体は、1.0~30.0nmol/kgの用量で皮下投与される。
【0154】
本明細書に別段示されない限り、単数形で提示される用語は、複数の状態も含む。
【0155】
実施形態のリスト
本発明は、本発明の実施形態の以下の非限定的リストによってさらに説明される。
1.二重特異性抗体であって、
(i)第VII(a)因子を結合することができる第1の抗原結合部位と、
(ii)TREM様転写物1(TLT-1)を結合することができる第2の抗原結合部位と、を含む、二重特異性抗体。
2.第1の抗原結合部位が、表3の抗FVII(a)抗体のうちのいずれか1つとFVII(a)への結合について競合する、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
【表8】
3.抗体が、実施例7に記載されるような競合ELISAアッセイにおいて競合する、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
4.第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)のアミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
5.第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)のアミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392のうちの1つ以上を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
6.第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)の以下のアミノ酸残基R113、C114、H115、E116、G117、Y118、S119、L120、T130、V131、N184、T185、P251、V252、V253、Q388、M391、およびR392を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
7.第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)の以下のアミノ酸残基R113、C114、H115、E116、G117、Y118、S119、L120、T130、V131、N184、T185、P251、V252、V253、Q388、M391、およびR392のうちの1つ以上を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
8.第1の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号847により表されるCDRL1、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号848により表されるCDRL2、
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、配列番号849により表されるCDRL3、
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号851により表されるCDRH1、
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号852により表されるCDRH2、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号853により表されるCDRH3
9.第1の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・配列番号 847により表されるCDRL1、
・配列番号 848により表されるCDRL2、
・配列番号 849により表されるCDRL3、
・配列番号 851により表されるCDRH1、
・配列番号852により表されるCDRH2、
・配列番号 853により表されるCDRH3
10.第1の抗原結合部位が、表13または14に列挙された抗体による可変重鎖ドメイン配列および可変軽鎖ドメイン配列を含み、親和性(K
D)が1nM以下である、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
11.第1の抗原結合部位が、表13または14に列挙された抗体による可変重鎖ドメイン配列および可変軽鎖ドメイン配列を含み、親和性(K
D)が5nM以下である、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
12.第1の抗原結合部位が、表13または14に列挙された抗体による可変重鎖ドメイン配列および可変軽鎖ドメイン配列を含み、親和性(K
D)が10nM以下である、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
13.第1の抗原結合部位が、表13または14に列挙された抗体による可変重鎖ドメイン配列および可変軽鎖ドメイン配列を含み、親和性(K
D)が25nM以下である、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
14.抗体が、1pM未満の、例えば10pM未満の、例えば100pM未満の、例えば200pM未満の、例えば400pM未満の、例えば600pM未満の、例えば1nM未満の、例えば5nM未満の、例えば10nM未満の、例えば20nM未満の、例えば50nM未満の、例えば100nM未満の、例えば200nM未満の、例えば400nM未満の、例えば600nM未満の、例えば800nM未満の、FVII(a)に対する親和性(K
D)を有する、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
15.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
16.軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメイン配列が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個のアミノ酸置換を有する、実施形態15に記載の二重特異性抗体。
17.第2の抗原結合部位が、表4の抗TLT-1抗体のうちのいずれか1つとTLT-1への結合について競合する、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
【表9】
18.抗体が、実施例32に記載されるような競合ELISAアッセイにおいて競合する、実施形態17に記載の二重特異性抗体。
19.第2の抗原結合部位が、TLT-1(配列番号13)の以下のアミノ酸残基K8、I9、G10、S11、L12、A13、N15、A16、F17、S18、D19、P20、A21を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
20.第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号855により表されるCDRL1、
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、配列番号856により表されるCDRL2、
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、配列番号857により表されるCDRL3、
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号859により表されるCDRH1、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号860により表されるCDRH2、
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号861により表されるCDRH3
21.第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・配列番号 855により表されるCDRL1、
・配列番号 856により表されるCDRL2、
・配列番号 857により表されるCDRL3、
・配列番号 859により表されるCDRH1、
・配列番号 860により表されるCDRH2、
・配列番号 861により表されるCDRH3
22.第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・配列番号 871により表されるCDRL1、
・配列番号 872により表されるCDRL2、
・配列番号 873により表されるCDRL3、
・配列番号 875により表されるCDRH1、
・配列番号876により表されるCDRH2、および
・配列番号 877により表されるCDRH3
23.第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・配列番号 879により表されるCDRL1、
・配列番号 880により表されるCDRL2、
・配列番号 881により表されるCDRL3、
・配列番号 883により表されるCDRH1、
・配列番号884により表される前記CDRH2、および
・配列番号 885により表されるCDRH3
24.第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・配列番号 895により表されるCDRL1、
・配列番号 896により表されるCDRL2、
・配列番号 897により表されるCDRL3、
・配列番号 899により表されるCDRH1、
・配列番号900により表されるCDRH2、および
・配列番号 901により表されるCDRH3
25.第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
26.軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメイン配列が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個のアミノ酸置換を有する、実施形態25に記載の二重特異性抗体。
27.抗体が、1pM未満の、例えば10pM未満の、例えば100pM未満の、例えば200pM未満の、例えば400pM未満の、例えば600pM未満の、例えば1nM未満の、例えば5nM未満の、例えば10nM未満の、例えば20nM未満の、例えば50nM未満の、例えば100nM未満の、例えば200nM未満の、例えば400nM未満の、例えば600nM未満の、例えば800nM未満の、TLT-1に対する親和性(K
D)を有する、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
28.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
29.抗体が、Fc領域を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
30.Fc領域が、L234A、L235E、G237A、A330SおよびP331Sの置換を含むIgG1のFc領域のFcバリアントである、実施形態29に記載の二重特異性抗体。
31.抗体が、抗体の抗原結合断片の融合またはコンジュゲートである、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
32.結合断片のうちの1つ以上が、Fab、Fab’、Fab2、Fab’2、およびscFvの群から選択される、実施形態31に記載の二重特異性抗体。
33.抗体が、多重特異性抗体である、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
34.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号5および4によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
35.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号943および942によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
36.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号7および6によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
37.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号4および5によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
38.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号942および943によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
39.第1の抗原結合部位が、配列番号846によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号850によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第2の抗原結合部位が、配列番号854によって特定される軽鎖可変ドメインと、配列番号858によって特定される重鎖可変ドメインとを含み、第1および第2の重鎖可変ドメインに付着された重鎖定常ドメインが、それぞれ配列番号6および7によって特定され、第1および第2の軽鎖可変ドメインに付着された軽鎖定常ドメインが、両方とも配列番号12によって特定される、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
40.抗体が、FVII(a)への結合について競合し、表5に記載されるような1つ以上の二重特異性抗体とTLT-1への結合について競合する(定常ドメインの略語は、表2aに従って定義される)、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
【表10】
41.抗体が、競合ELISAにおいて、FVII(a)への結合について競合し、表5に記載されるような1つ以上の二重特異性抗体とTLT-1への結合について競合する、実施形態38に記載の二重特異性抗体。
42.抗体が、実施例7および実施例32に記載されるような競合ELISAアッセイにおいて競合する、実施形態38に記載の二重特異性抗体。
43.第1の抗原結合部位が、FVII(a)(配列番号1)のアミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392を含むエピトープを結合することができ、第2の抗原結合部位が、TLT-1(配列番号13)の以下のアミノ酸残基K8、I9、G10、S11、L12、A13、N15、A16、F17、S18、D19、P20、A21を含むエピトープを結合することができる、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
44.第1の抗原結合部位が、以下を含み、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基(配列番号847)により表されるCDRL1
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基(配列番号848)により表されるCDRL2
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基(配列番号849)により表されるCDRL3
・アミノ酸残基(配列番号851)により表される前記CDRH1、
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基(配列番号852)により表されるCDRH2、
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、アミノ酸残基(配列番号853)により表されるCDRH3、
かつ第2の抗原結合部位が、以下を含む、実施形態1に記載の二重特異性抗体。
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号855により表されるCDRL1
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、配列番号856により表されるCDRL2
・0、1、または2個のアミノ酸置換を有する、配列番号857により表されるCDRL3
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号859により表されるCDRH1
・0、1、2、または3個のアミノ酸置換を有する、配列番号860により表されるCDRH2
・0、または1個のアミノ酸置換を有する、配列番号861により表されるCDRH3
45.抗体が、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイで測定されるように、FVII(a)の機能的MRTを増加させる、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
46.抗体が、本発明の二重特異性抗体の非存在下でのFVII(a)の投与と比較して、FVII(a)の機能的MRTを、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、または少なくとも40倍増加させる、実施形態41に記載の二重特異性抗体。
47.抗体が、投与された二重特異性抗体の非存在下での循環する内因性FVIIaのレベルと比較して、実施例27および28に従って決定される循環する内因性機能的活性FVIIaのレベルを増加させることができる、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
48.抗体が、循環する内因性機能的活性FVIIaのレベルを、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも40倍、少なくとも80倍、少なくとも160倍、少なくとも320倍、少なくとも640倍増加させる、実施形態45に記載の二重特異性抗体。
49.抗体が、実施例21に記載される刺激活性アッセイによって決定されるFX活性化を促進するFVIIaポリペプチドの能力を増加させることができる、先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
50.刺激活性が、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも60倍、少なくとも80倍、少なくとも100倍、または少なくとも150倍である、実施形態43に記載の二重特異性抗体。
51.先行する実施形態のいずれか1つに記載の二重特異性抗体および医薬的に許容可能な担体を含む医薬製剤。
52.実施形態49に記載の医薬製剤が、皮下投与によって投与される、実施形態1~48に記載の二重特異性抗体。
53.薬剤として使用するための、実施形態1~48に記載の二重特異性抗体、または実施形態49に記載の医薬製剤。
54.凝固異常の治療に使用するための、実施形態1~48および50~51のいずれか1つに記載の二重特異性抗体、または実施形態49に記載の医薬製剤であって、当該凝固異常が、先天性および/または後天性である、二重特異性抗体または医薬製剤。
55.当該凝固異常が、インヒビター保有もしくは非保有血友病A、またはインヒビター保有もしくは非保有血友病B、FVII(a)欠損症およびグランツマン血小板無力症からなる群から選択される、実施形態52に記載の二重特異性抗体。
56.出血の治療のための、実施形態1~48および50~51に記載の二重特異性抗体であって、出血が、先天性もしくは後天性の血友病A、先天性もしくは後天性の血友病B、インヒビター保有血友病A、インヒビター保有血友病B、または第VII(a)因子欠損症に関連する、二重特異性抗体。
57.実施形態49に記載の当該二重特異性抗体または医薬製剤が、静脈内、筋肉内、または皮下投与などの非経口投与される、実施形態1~48のいずれか1つに記載の使用。
【実施例0156】
実施例1:ハイブリドーマ技術を使用した抗FVII(a)マウスモノクローナル抗体の生成
モノクローナル抗体は、公開番号WO07/115953の国際特許出願に記載される、FVIIa Q64C-sTF(1-219)G109Cジスルフィド結合複合体を用いたNMRCF1マウス(Charles River)の免疫化で調製された。
【0157】
マウスに、FCA(Freund完全アジュバント)での20ugの最初の皮下注射を与え、その後に、20ugの抗原のIFA(Freund不完全アジュバント)でのブースター腹腔内注射を行った。脾臓を無菌的に取り出し、単細胞懸濁液に分散させた。脾臓細胞は、電気融合を使用してX63Ag8.653骨髄腫細胞に融合された。
【0158】
細胞をマイクロタイタープレートに播種し、37℃、5%CO2で培養した。選択のためのHAT(Sigma)を含有する組織培養培地(RPMI 1640+10%ウシ胎仔血清)を2回交換した。10日間の増殖後、特定の抗体産生ハイブリドーマクローンを、以下のプロトコルを使用したELISAスクリーニングにより特定した。NUNC Maxisorbプレートを、FVIIa Q64C-sTF(1-219)G109Cジスルフィド結合複合体、またはFVIIa(Thim et al.(1988)Biochemistry 27:7785-7793およびPersson et al.(1996)FEBS Lett 385:241-243に記載されているように発現および精製された)で、1μg/mL(5mM CaCl2を含有するHEPES緩衝液)、50μl/ウェルでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートを5回洗浄し、洗浄緩衝液(HEPES緩衝液、5mM CaCl2、0.05%TWEEN 20)中で15分間ブロッキングした。50μLの上清を各ウェルに移し、1時間インキュベートした。プレートを5回洗浄し、50μlのHRP標識ヤギ抗マウスを添加した(Fcガンマ断片特異的、Jackson、作業希釈1/10000)。プレートを1時間インキュベートし、5回洗浄し、50μlのTMB(使用準備済みTMB ONE、Kem-En-Tec)で10分間発色させた。反応を50μlの4M H3PO4を添加して停止し、FLUOStar Optimaプレートリーダーにて450および620nmで読み取った。
【0159】
陽性結果をもたらすハイブリドーマ細胞を、単クローン性を確保するために限界希釈法によって少なくとも2回サブクローニングした。抗体精製は、標準的なプロテインA精製を使用して行った。
【0160】
PK研究で使用するための抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、RPMI1640+10%FBS培地で、Tフラスコまたは振とうフラスコにアップスケールした。条件培地を遠心分離により採取し、抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、次いで脱塩した。
【0161】
実施例2:マウス抗FVII(a)抗体のクローニングおよび配列決定
本実施例は、抗FVII(a)抗体の可変ドメインをコードするマウス重鎖(HC)および軽鎖(LC)cDNA配列のクローニングおよび配列決定を記載する。
【0162】
QiagenからのRNeasy-Mini Kitを使用して、全RNAをハイブリドーマ細胞から抽出し、cDNA合成の鋳型として使用した。ClontechからのSMARTer RACE cDNA増幅キットを使用して、5’-RACE反応でcDNAを合成した。HC(指定VH)配列の可変ドメインおよびLC(指定VL)配列の可変ドメインのその後の標的増幅を、Phusion Hot Startポリメラーゼ(Finnzymes)およびフォワードプライマーとしてSMARTer(商標)RACEキットに含まれるユニバーサルプライマーミックス(UPM)を使用したPCRにより行った。VH増幅に使用されたリバースプライマーの配列は、5’agctgggaaggtgtgcacac3’であった。VL増幅に使用されたリバースプライマーの配列は、5’gctctagactaacactcattcctgttgaagctcttg3’であった。
【0163】
PCR産物を、ゲル電気泳動により分離し、GE Healthcare Bio-SciencesのGFX PCR DNA & Gel Band Purification Kitを使用して抽出し、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kitおよび化学的に応答能のあるTOP10 E.coli(Invitrogen)を使用して配列決定のためにクローニングした。M13uni(-21)/M13rev(-29)シーケンシングプライマーを使用して、MWG Biotech、Martinsried Germanyで配列決定を行った。すべてのキットおよび試薬を、製造業者の指示に従って使用した。
【0164】
実施例3:二価抗体、一価抗体(OA抗体)、および抗体Fab断片の組み換え発現
二価抗体、一価抗体(ワンアームド、OA抗体と呼ばれる)、および抗体Fab断片は、基本的に製造元の指示に従って、HEK293懸濁細胞(293Expi、Invitrogen)の一過性トランスフェクションを使用して発現された。293Expi細胞は、1%のP/S(GIBCOカタログ番号15140-122)で補充されたExpi293F発現培地(Invitrogen、カタログ番号A1435104)で、3~4日ごとに継代培養された。Expi293F細胞は、Expifectamineを使用して250万~300万個/mLの細胞密度でトランスフェクトされた。Expi293F細胞の各1リットルに対して、合計1mgのプラスミドDNAを、50mLのOptimem(GIBCO、カタログ番号51985-026、希釈物A)へと希釈することによって、および2.7mLのExpifectamineを50mLのOptimem(希釈物B)へと希釈することによって、トランスフェクションを実施した。二価抗体は、VH-CH1-CH2-CH3(HC)およびVL-CL(LC)プラスミド(1:1の比率)をコトランスフェクトすることによって産生され、Fab断片プラスミドについては、VH-CH1およびLC(1:1の比率)であった。OA抗体の産生については、細胞を3つのプラスミド、すなわちLCプラスミドHCプラスミド、および切断されたHC(trHC)をコードする第3のプラスミドでトランスフェクトした。OA抗体のHCは、ホールの変異(T366S、L368A、Y407V)を含有し、trHCはノブ(T366W)の変異であったが、ノブとホールを逆転させることもできる。ノブ/ホール変異は、国際特許EP0979281B1に記載されており、所望のヘテロ二量体、すなわちHCとtrHCとの対形成を最適化し、ホモ二量体の望ましくない形成、すなわちtrHCとtrHCおよびHCとHCとの対形成を抑制するために、導入される。希釈物AおよびBを混合し、かつ室温で10~20分間インキュベートした。この後、トランスフェクション混合物をExpi293F細胞に加え、細胞を軌道回転(85~125rpm)を備えた加湿インキュベーター中で、37℃でインキュベートした。トランスフェクションの1日後、トランスフェクトされた細胞に、5mlのExpiFectamine293トランスフェクションエンハンサー1および50mlのExpiFectamine293トランスフェクションエンハンサー2を補充した。細胞培養上清は、トランスフェクションの4~5日後に遠心分離とそれに続く濾過によって回収した。
【0165】
二価抗体および一価抗体は、当業者に公知の標準的なプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、および必要に応じて、ゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーなどの追加の精製ステップによって精製された。Fab断片を、Fabのカッパ鎖を認識するアフィニティー樹脂を使用したアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0166】
実施例4:インビトロアセンブリによる二重特異性抗体およびOA抗体の調製
インビトロアセンブリによって調製された二重特異性抗体
二重特異性抗体は、Labrijn et al.PNAS 2013,vol.110,pp.5145-5150に記載されているのと類似の方法、およびDuoBody(登録商標)技術(Genmab)として知られる方法による、2つの親抗体のインビトロアセンブリによって生成された。Labrijn et al.によって使用されたIgG1サブタイプの代わりに、IgG4を本発明で使用した。交換反応を、75mMの2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)の存在下で、30℃で4時間行った。得られた二重特異性抗体を、イオン交換クロマトグラフィーにより精製し、残留親抗体を二重特異性抗体から分離した。本実施例では、第1の親抗体(抗FVII(a))の重鎖定常領域は IgG4 S228P F405L R409K であり、第2の親抗体(抗TLT-1)の重鎖定常領域はIgG4 S228P(両方ともEUナンバリングを使用)であった。軽鎖定常ドメインはヒトカッパであった。2つの親抗体は、実施例3に記載されているように産生された。二重特異性抗FVII(a)/抗TLT-1抗体は、抗FVII(a)抗体の定常ドメインがIgG4 S228Pであり 抗TLT-1抗体の定常ドメインがIgG4 S228P F405L R409Kである、親抗体のセットから構築されてもよい。
【0167】
インビトロアセンブリによって調製された一価抗体
一価抗体は、(1)2つの抗体を組み合わせて二重特異性抗体を形成する代わりに、抗体とtrHC二量体を組み合わせて一価抗体を形成することを除いて、二重特異性抗体について上述したと同様にインビトロアセンブリによって生成された。本実施例では、trHCは、IgG4 S228P F405L R409Kであり、HCは、IgG4 S228Pであった(両方ともEUのナンバリングを使用)。また、軽鎖定常領域はヒトカッパであった。典型的には、反応混合物中の二価抗体の量を最小限にするために、20~50%モル過剰でtrHC二量体を用いてアーム交換反応を実施した。一価抗体を、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製し、任意選択で、所望に応じて、イオン交換クロマトグラフィーなどの追加の精製ステップにより補充した。
【0168】
実施例5:機能的アッセイにおける抗FVIIa(a)のインビトロ特性評価
内因性FVIIaの蓄積を促進し、その凝固促進活性を発揮できるようにするために、本発明の抗FVII(a)抗体は、好ましくは、FVIIaの活性を損なうべきでなく、同様に好ましくは、その主要な血漿インヒビターであるアンチトロンビンによる、FVIIaの不活性化を促進するべきではない(Agersφ H,et al.(2011)J Thromb Haemost 9:333-338)。これらの態様を探索するために、FVIIaの凝固促進活性およびアンチトロンビンによるFVIIaの不活性化に対する抗FVII(a)抗体の効果を、以下に記載されるアッセイを使用してインビトロで決定した。
【0169】
血友病A誘発ヒト血漿におけるトロンビン生成に対する抗FVII(a)抗体の効果
トロンビン生成に対する二価または一価の抗FVII(a)抗体の効果を、96ウェルセットアップのカオリントリガード(kaolin-triggered)トロンビン生成アッセイ(TGT)で測定した。簡潔に述べると、血友病A誘導血漿は、抗hFVIII抗体4F30(公開番号WO2012/035050の国際特許出願に記載)を最終濃度37.5μg/mlまで添加することによって調製した。最終濃度10μM(Rossix)のリン脂質を血友病A血漿に添加し、37℃で15分間インキュベートした。 精製抗体(100nM)およびFVIIa(25nM)を混合物に加え、室温で10分間インキュベートした。抗FVII(a)抗体は、実施例1、2、および3に記載されるように生成された。トリガリングは、10μlのカオリン(Haemonetics)を添加し、続いて10μlのFIIa FluCa-kit(Thrombinoscope BV)を添加して行い、蛍光(390nmでの励起および460nmでの発光)をEnVisionマルチラベルリーダー上で2時間測定した。
【0170】
測定された蛍光の一次導関数としてトロンボグラムを計算した。トロンビンのピーク高さを、トロンボグラム中の最大値として計算した。続いてこれを正規化し、観察されたピーク高さを、抗体の非存在下で25nMのFVIIaについて観察された対応するピーク高さで割ることによってパーセンテージとして表された。これに基づいて、抗体は、刺激性(>120%)、阻害性(<90%)、または中性(90%~120%)に分類された。表6に示すように、すべてのカテゴリーからの抗体が特定された。好ましい抗体は、TGTアッセイにおいて刺激性または中性であった。
【0171】
血漿由来アンチトロンビンによるFVIIa不活性化に対する抗FVII(a)抗体の効果
二価または一価の抗FVII(a)抗体の存在下での血漿由来アンチトロンビン(AT)によるFVIIa活性の 阻害は、FVIIa(200 nM)を、低分子量ヘパリン(エノキサパリン、12 μM)および抗体(200-1000 nM)と共に、50mMのHEPES、100mMのNaCl、10mMの CaCl2、0.1%のPEG8000、1mg/mlのBSA、pH7.3中で10分間インキュベートすることによって測定した。次にAT(5μM)を添加し、10、20、30、40、60、および80分の時点で、試料を新しいマイクロタイタープレートに移し、そこで残留活性を、1mMのS-2288発色基質(Chromogenix社)、200nMの可溶性組織因子(sTF、Freskgard et al.(1996)Protein Sci 5:1531-1540に記載されたように産生した)、およびポリブレン(0.5mg/ml)の存在下、Spectramax装置(Molecular Devices)で、405nmで5分間測定した。ATの代わりに緩衝液を用いた試料は、阻害されていないFVIIaの活性を提供した。
【0172】
残留アミド分解活性を、阻害剤の非存在下での活性に対する時間の関数として決定した。阻害定数(kinh)は、データを一相減衰モデル(one phase decay model)にフィッティングすることによって推定した。FVII(a)抗体の存在下でのkinhの値(抗体の非存在下で決定された値のパーセント)は、kinh%と称され、表6の各抗体について報告される。
【0173】
推定kinh%<60%の抗体は、AT阻害からFVIIaを保護するものとして分類された。推定60%≦kinh%≦150%の抗体は、中性として分類され、一方で推定kinh%>150%の抗体は、ATによるFVIIaの阻害を加速するものとして分類された。表6に報告されるように、3つのカテゴリーすべてからの抗体が特定された。好ましい抗体は、中性であるか、またはAT阻害からFVIIaを保護した。
【0174】
試験された抗体のうち、11F2(それぞれ、完全マウスおよびマウス/ヒトキメラに対応するmAb005およびmAb0048)を含む抗体のサブセットは、上述のように所望のインビトロ特性を有することが見出された。
【表11】
【0175】
実施例6:FVIIaに結合する抗体のSPR分析とpHおよびカルシウムの影響
実施例5からの抗体のFVIIaへの結合を、表面プラズモン共鳴(Biacore T200)によりプローブした。抗マウスIgG(GE Healthcare製)を、標準のアミンカップリングケミストリーキット(両方ともGE Healthcareから供給)を使用して CM4 センサーチップ上に固定した。表7に従って精製された抗FVII(a)抗体(0.25nM)を、10μl/分の流量で1分間注入した。続いて、5、15、45および135nMのFVIIaを30μl/分の流量で7分間注入し、抗FVII(a)抗体への結合を可能にし、続いて9分間の緩衝液注入により抗FVII(a)抗体から解離させた。10xHBS-P 緩衝液(GE Healthcare提供)を10倍に希釈することによってランニング緩衝液を調製し、1mg/mlのBSAおよび5mMの CaCl2 で補充して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%v/vのポリソルベート20(P20)、pH7.4、5mMの CaCl2 、1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を得た。ランニング緩衝液はまた、抗FVII(a)抗体およびFVII試料の希釈にも使用された。10mMのGly-HCl、pH1.7(GE Healthcare提供)からなる再生緩衝液を使用して、チップの再生を達成した。結合データを、製造元(Biacore AB, Uppsala, Sweden)によって供給されたBiaEvaluation 4.1を使用する1:1モデルに従って解析した。分析の結果、表7に報告された結合定数が得られ、11F2(mAb005およびmAb0048、それぞれ完全マウスおよびマウス/ヒトキメラに対応する)を含む、いくつかの抗体がFVIIaへの高親和性結合を示した。
【表12】
【0176】
実施例5からの選択された抗体のFVIIaおよびcFVIIa-キメラへの結合に対するpHおよび CaCl2 の影響を、37℃で表面プラズモン共鳴(Biacore T200)によってプローブした。cFVIIa-キメラ配列は、本発明の詳細な説明と題されたセクションに示され、実施例16および26に概説されるように表される。抗マウスIgG(GE Healthcare製)を、標準アミンカップリングケミストリーキット(両方ともGE Healthcareから供給)を使用して CM4 センサーチップ上に固定した。1.2nMのFVIIaおよび 0.5nMの4F9(FVIIa EGF1ドメインに結合するNN内部抗FVIIマウスAb)の事前に平衡化された混合物を、10μl/分の流量で1分間注射した。 続いて、540、180、60、20、6.66、2.22、0.74、0.25nMの抗FVII(a)抗体を、30μl/分の流量で7分間注入してFVIIaへの結合を可能にし、続いて9分間の緩衝液注入によりFVIIaから解離させた。2つのランニング緩衝液を調製した。緩衝液1を、10×HBS-P+(GE Healthcare提供)を10倍希釈することによって調製し、1mg/mlのBSAおよび5mMの CaCl2 で補充して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%v/vのポリソルベート20、pH7.4、5mMの CaCl2、1 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を得た。緩衝液2を、10xHBS-P+(GE Healthcare提供)を10倍に希釈することによって調製し、1mg/mLのBSA、5μMの CaCl2 および6.0に調整したpH(4M のHClを用いて調整した)で補充して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%のv/vのポリソルベート20、pH6.0、5 μMの CaCl2、1 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を得た。FVIIa、抗FVII抗体4F9、および抗FVII(a)抗体を、両方のランニング緩衝液で別々に希釈した。10mMのGly-HCl、pH1.7(GE Healthcare提供)からなる再生緩衝液を使用して、チップの再生を達成した。結合データを、製造元(Biacore AB, Uppsala, Sweden)によって供給されたBiaEvaluation 4.1を使用する1:1モデルに従って解析した。分析の結果、表7bに報告された結合定数が得られ、FVIIaと抗FVII(a)抗体との間の保持された高親和性結合を示した。
表7bは、実施例6による表面プラズモン共鳴(SPR)分析によって決定される、2つの異なる緩衝液におけるFVIIa抗体と抗FVII(a)抗体の相互作用に対する推定結合定数および倍率差(fold-difference)。
【表13】
【0177】
実施例7:競合ELISAにおけるFVII(a)への結合についてmAb0005(11F2)と競合する抗体の特定
実施例5からの所望のインビトロ特性を有する抗FVII(a)抗体が、FVIIa(a)への結合について、mAb0005(11F2)およびそれに由来する抗体と競合するかどうかを決定するため、対応するFab断片、Fab0076を用いて競合研究を行った。FVIIa、H-D-Phe-Phe-Argクロロメチルケトン(FFR-cmk、Bachem、スイス)活性部位阻害FVIIa(FVIIai、実施例9を参照)を、希釈緩衝液(20mM HEPES、5mM CaCl2 NaCl、pH7.2)中125ng/mlの濃度で、NUNC maxisorpプレート上に4℃で一晩固定した。プレートを洗浄し、洗浄緩衝液(20mM HEPES、5mM CaCl2、150mM NaCl、0.5mL/L Tween 20、pH 7.2)で15分間ブロッキングした。11F2-Fab0076を、製造元の指示に従って使用される標準ビオチン化キット(EZ-Link、Thermo)を使用してビオチン化した。競合研究では、最終固定濃度10ng/mlのビオチン化Fab0076を、一連の抗FVIIa(a)抗体の希釈と組み合わせて。希釈緩衝液で100mg/ml~9.5ng/mlの範囲の最終濃度を得た。混合物をプレートのウェルに加え、1時間インキュベートした。次いで、プレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン-HRPO(希釈緩衝液で1:2000、Kirkegaard & Perry Labs)を添加し、1時間インキュベートした。最後に、プレートを洗浄し、TMB ONE(KEMENTEC)で10分間発色させた。反応は、H3PO4(4M)を添加して停止し、プレートを、620nmで測定されたバックグラウンドシグナルを差し引いて450nmでFLUOStarオプティマプレートリーダーで読み取った。別段の指定がない限り、すべてのインキュベーションを室温で行い、プレートを洗浄緩衝液を使用して5回洗浄した。
【0178】
測定されたシグナル(OD単位)から、任意の所与の抗体濃度での競合を、以下のように計算し、
阻害率%=(1-(OD単位-100%阻害)/(0%阻害-100%阻害))* 100
式中、0%の阻害は、競合する抗FVII(a)抗体を全く含まないウェルでのシグナルから決定され、100%の阻害は、ビオチン化Fab0076を含まないウェルからのシグナルとして決定した(すなわち、アッセイバックグラウンドに対応する)。抗体の濃度をビオチン化Fab0076の最大10000倍過剰で試験したときに、少なくとも50%の阻害(阻害%)が観察された場合、FVII(a)への結合について抗体は11F2(mAb0005)と競合するとみなされた。結果を表8に要約する。
【表14】
【0179】
実施例8:FVIIa活性アッセイ
FVIIa活性は、基本的にMorissey JH et al Blood,1993;81:734-44に記載されているように、STAclot(登録商標)VIIa-rTFキット(Diagnostica Stago)からの試薬を使用して測定した。アッセイは、Instrumentation Laboratoryからの ACLTOP500 自動凝固装置で実施された。アッセイでは、40μl希釈動物血漿試料、キャリブレータ(国際WHO基準に対して較正された組み換えFVIIa(rFVIIa)標準物質)、または40μlのFVII欠損血漿および40μlの可溶性組織因子(sTF)とリン脂質とを混合した品質管理(QC)試料であった。反応を開始するため、40μlの体積の25mM CaCl2を加え、装置によって凝固時間を測定した。試料およびQCの凝固時間を、血漿の干渉を軽減するために、希釈した試料と同じ濃度の血漿を用いたrFVIIa検量線と比較した。検量線範囲は、5~1000mIU/mLであり、三次多項式を用いて適合させた。QCおよび試料の結果を、ACLTOP500機器上のソフトウェアによって計算した。IU/mLでの結果を、投与された化合物の特異的活性(IU/Pmol)を使用してnMに変換した。
【0180】
実施例9:抗FVII(a)抗体との共製剤化における組み換えFVIIaのラットにおける薬物動態
実施例5からの所望のインビトロ特性を有するモノクローナル抗体抗FVII(a)抗体を、20nmol/kgのヒトFVIIaとの共製剤でオスのスプラーグドーリーラットにIV投与した。表9に示されるように、FVIIaと抗体とのモル比は1:1または1:5であった。実験中、動物は飼料および水を自由に摂取できるようにした。FVIIa血漿活性を、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイを使用して測定した。
【0181】
薬物動態解析は、WinNonlinを使用した非コンパートメント法によって実施された。データから、平均滞留時間(MRT)を計算した。結果を表9に示す。
【0182】
実施例5の所望の特性を有する抗体のうち、mAb0005(11F2)およびmAb0001(11F26)は、遊離ヒトFVIIaに対する遊離平均滞留時間1.1時間と比較して、それぞれ7.9および7.5時間の最長の平均滞留時間をヒトFVIIaに与えた(表9を参照)。mAb0005およびmAb0001(mAb0759)は、FVIIa(実施例7)への結合に対する競合を示す、高親和性抗体(実施例6)である。
【表15】
【0183】
実施例10:遊離FVIIまたはTF複合体化FVIIaによるFXの活性化に対する11F2抗FVII(a)抗体の効果
好ましくは、本発明の抗FVII(a)抗体は、膜表面上のFVIIaの薬理作用、または凝固の開始、すなわち、FVIIa-TF複合体によるFXの活性化を妨害してはならない。これらの態様を調査するために、FVIIaのTF非依存性およびTF依存性タンパク質分解活性に対する11F2の効果を、それぞれ、脂質化TFの非存在下または存在下で決定した。2つのFVIIa分子の正常な二価抗体への同時結合から生じる結合活性の影響を回避するために、ワンアームド一価抗体フォーマットを使用した。
【0184】
リン脂質膜の存在下でのFVIIaによるFX活性化に対する11F2抗体の効果
活性測定を、10nMのFVIIa、0または200nMの抗体(表10参照)、および25μMの25:75ホスファチジルセリン:ホスファチジルコリン小胞(Haematologic Technologies Inc.)を含有する、アッセイ緩衝液(50mM HEPES、100mM NaCl、10mM CaCl2 pH7.3、0.1% PEG8000および1mg/ml BSA)中で実施した。反応は、0~300nMのヒト血漿由来第X因子(FX)の添加によって開始され、96ウェルプレート(n=2)中、総反応体積100μlで、室温で20分間インキュベートされた。インキュベーション後、反応を、50 μlのクエンチ緩衝液(50mM HEPES、100mM NaCl、10mM CaCl2 、80mM EDTA、pH7.3)の添加によりクエンチし、続いて水中50μlの 1mM S-2765発色基質(Chromogenix)を添加した。生成されたFXaによる発色基質の変換は、Spectramaxマイクロプレート分光光度計を使用して、405nmで10分間、線形吸光度増加の傾きとして測定した。測定された傾きを、既知の量の血漿由来ヒトFXaを用いて同様の条件下で生成されたた傾きに関連付けることによって、モルベースのFXa生成の初期速度を推定することができた。酵素反応速度パラメータを、GraphPad Prismを使用して、データをミカエリスメンテン式(v=kcat * [FX] * [FVIIa-TF] /(Km + [FX]))に非線形曲線適合することによって推定した。
【0185】
表10に示されるように、一価の11F2は、リン脂質小胞の存在下での遊離FVIIaによるFX活性化の速度に影響を与えなかった。
【0186】
TFの存在下でのFVIIaによるFX活性化に対する11F2抗体の効果
活性測定を、100pM FVIIa、0または200nM抗体(表10を参照されたい)、およびSmith and Morrissey(2005)J.Thromb.Haemost.,2:1155-1162に記載されているような25:75ホスファチジルセリン:ホスファチジルコリン(PS:PC)小胞に組み込まれた2pM E.coli由来TF断片1-244を含むアッセイ緩衝液(50 mM HEPES、100mM NaCl、10mM CaCl2、pH7.3、0.1%PEG8000および1mg/ml BSA)で実施した。反応は、0~30nMのヒト血漿由来第X因子(FX)の添加によって開始され、96ウェルプレート(n=2)中、総反応体積100μlで室温で20分間インキュベートされた。インキュベーション後、反応をクエンチし、上述のようにFXaを定量した。
【0187】
表10に示されるように、一価の11F2(mAb0077(OA))は、FVIIa/TF複合体によるFX活性化の速度に影響を与えなかった。
【表16】
【0188】
実施例11:血漿阻害剤によるFVIIaの阻害に対する11F2抗体の効果
FVIIaは、豊富な血漿阻害剤アンチトロンビン(AT)によるその不活性化のために、部分的には循環中比較的短い半減期を呈する。同様に、動物試験では、FVIIaの不活性化において、別の血漿阻害剤であるアルファ-2-マクログロブリンが関連している。精製血漿由来阻害剤を使用して、これらの阻害剤によるFVIIaの不活性化に対する一価の11F2抗体の効果を研究した。
【0189】
アンチトロンビンによるFVIIaの阻害に対する11F2抗体の効果
一価の11F2抗体(mAb0048、mAb0077(OA))の存在下でのヒト血漿由来ATによるFVIIaの阻害を、疑一次条件下で実施した。アッセイを、室温で、200nMのFVIIa、12μMの低分子量ヘパリン(エノキサパリン、欧州薬局方参照、コードE0180000 バッチ5.0、Id 00CK18)、および0または1000nMのいずれかの抗体を含有するアッセイ緩衝液(50mM HEPES、100mM NaCl、10mM CaCl2、0.1%PEG8000、1 mg/ml BSA、pH7.3)中の200μlの体積で行った。10分間のプレインキュベーション後、反応は、5μM AT(アンチトロンビンIII, Baxter, Lot VNB1M007; 製剤中の血清アルブミンを除去するためにヘパリン-セファロースカラム上で再精製)の添加により開始された。選択された時点で、10μLのアリコートを、0.5mg/mlのポリブレン(ヘキサジメトリンブロミド、シグマ、カタログ番号 H9268 ロット SLBC8683V)、200nMのsTF、および1mMのS-2288(Chromogenix社)を含有する総体積200μlに移し、反応をクエンチし、sTFでFVIIaを飽和させ、これにより、405nmで5分間モニターされた発色基質の加水分解による残留FVIIa活性の測定が可能となった。残留アミド分解活性を、ブランク減算後の線形進行曲線の傾きとして決定し、その後、これらをGraphPad Prismソフトウェアを使用して、一次指数減衰関数にフィッティングし、反応に対する疑一次速度定数(kapp)を導出した。見かけの二次速度定数(kinh)を、kappをAT濃度で割ったものとして推定した。
【0190】
この解析から、一価の11F2(mAb0077(OA))の存在下でのFVIIaの阻害速度は、遊離FVIIaの阻害に対する124±7M-1s-1と比較して、133±10M-1s-1であることが分かった。
【0191】
アルファ-2-マクログロブリンによるFVIIaの阻害に対する11F2抗体の効果
0または1000nMの一価の11F2抗体(mAb0077(OA))の存在下でのヒト血漿由来アルファ-2-マクログロブリンによるFVIIaの阻害を、疑一次条件下で実施した。アッセイを、室温で、200nMのFVIIa、および0または1000nMのいずれかの抗体を含有するアッセイ緩衝液(50mM HEPES、100mM NaCl、5mM CaCl2、0.1%PEG8000、0.01%Tween 80、pH7.3)中の100μlの体積で行った。反応は、Banbula et al.(2005)J.Biochem.,138:527-537に従って、ヒト血漿から精製した0または1000nMのアルファ-2-マクログロブリンの添加によって開始した。選択された時点で、10μlのアリコートを、200nMのsTFと1mMの S-2288(Chromogenix社)を含有する、190μlの緩衝液(50mMのHEPES、100mMのNaCl、5mMの CaCl2、0.1%のPEG8000、1mg/mlのBSA、pH 7.3)に移し、これにより405nmで5分間モニターされた発色基質の加水分解による残留FVIIa活性の測定が可能となった。 残留アミド分解活性を、ブランク減算後の線形進行曲線の傾きとして決定し、その後、これらをGraphPad Prismソフトウェアを使用して、一次指数減衰関数にフィッティングし、反応に対する疑一次速度定数(kapp)を導出した。見かけの二次速度定数(kinh)を、kappをアルファ-2-マクログロブリン濃度で割ったものとして推定した。
【0192】
抗体の非存在下では、アルファ-2-マクログロブリンによるFVIIaの阻害に対する見かけの二次速度定数は、475±21M-1s-1であることが判明した。しかしながら、一価の11F2抗体(mAb0077(OA))の存在下では、FVIIaの明白な阻害は、125分での最後の時点まで観察されなかった。これらの研究から、11F2は、アンチトロンビンによるFVIIaの阻害に影響を与えないが、アルファ-2-マクログロブリンによる阻害からFVIIaを保護すると結論付けられる。
【0193】
実施例12:FVII自己活性化に対する11F2抗体の効果
血管損傷時、内因性FVIIは、血管内皮を取り囲む細胞上に露出される補因子組織因子(TF)と高い親和性で結合する。この過程の間、FVIIは、タンパク質限定加水分解によってFVIIaに変換される。活性化は、自己活性化とも呼ばれるTF介在性FVIIa-FVIIトランス活性化の結果として起こると考えられる。FVII自己活性化に対する11F2抗体の効果を決定するために、FVIIの活性化を、脂質化TF、FVII、限定濃度のFVIIa、および一価の11F2抗体の存在下で測定した。
【0194】
活性測定を、2nMのFVIIa、145nMのFVII、0または200nMの一価の11F2抗体(mAb0077(OA))を含有するアッセイ緩衝液(0.1%のPEG8000と1mg/mlのBSAを含有する50mMのHEPES、100mMのNaCl、5mMのCaCl2、pH7.3)中で実施した。反応は、Smith and Morrissey(2005)J.Thromb Haemost.,2:1155-1162によって記載されるように、25:75のPS:PC小胞に組み込まれた2nMの脂質化大腸菌由来TF断片1~244の添加によって開始された。総反応体積は100μlであった。選択された時点(典型的には5、10、15、20、30、40、50および60分)で生成されたFVIIaを、以下に記載されるサブサンプリング手順に従って定量した。
【0195】
サブサンプリングによるFVIIaの定量 - 選択された時点で、10μlの試料を、140 μlの、50mMのHEPES、100mMのNaCl、0.1%のPEG8000を含有する5mMのEDTA、1mg/mlのBSAおよび215nMの可溶性組織因子(sTF)に移すことによってクエンチした。すべての試料の収集後、FVIIa発色活性を、60mMのCaCl2に50μlのS-2288(4mM)を添加することによって測定した。生成されたFVIIaによる発色基質の変換は、Spectramaxプレートリーダーを使用して、405nmで10分間の線形吸光度増加の傾きとして測定された。測定された傾きを、既知の量のFVIIaと類似の条件下で生成された傾きに関連付けることによって、FVIIaのモル濃度を推定することができる。
【0196】
FVIIaの自己活性化はTF依存性であることが見出され、表11の測定されたFVIIa活性から、一価の11F2抗体の存在によって損なわれないことが示されている。
【表17】
【0197】
実施例13:活性部位阻害FVIIaおよび可溶性組織因子と複合体を形成した11F2-Fab0076の結晶構造
FVII(a)上のマウス抗体11F2によって認識されるエピトープを決定するために、対応するFab断片(Fab0076)を、Kirchhofer.D.,et al.,Proteins Structure Function and Genetics.(1995)、22、419~425に従う、ハンギングドロップ法(hanging-drop method)を使用して、H-D-Phe-Phe-Argクロロメチルケトン(FFR-cmk;Bachem,Switzerland)活性部位阻害FVIIa(FVIIai)および可溶性組織因子断片1~219(sTF)と複合体を形成して結晶化した。
【0198】
結晶化
FVIIai/sTF複合体と1:1のモル比で混合されたFab0076の結晶を、18°Cでのハンギングドロップ蒸気拡散技術を使用して成長させた。10mMのHEPES、50mMのNaCl、5mMの CaCl2、pH 7.0中の4.6mg/mlのタンパク質複合体1μlのタンパク質溶液を、0.5μlの100mMのクエン酸ナトリウム、pH 6.2および沈殿剤として20%のPEG 6000と混合し、沈殿物溶液1mlで18℃の温度でインキュベートして、複合体の結晶を得た。
【0199】
回折データ収集
結晶は、液体窒素でフラッシュ冷却する前に、75mMのクエン酸ナトリウム、pH 6.2 、15%のPEG 6000、4%のグリセロール、4%のエチレングリコール、4.5%のスクロース、および1%のグルコースからなる溶液中で凍結保護された。回折データを、MAR Research社の marCCD225 検出器を使用して、MAX-lab(スウェーデン、ルンド)ビームラインI911-3で100Kで収集した。データの自動インデックス作成、統合、およびスケーリングは、XDSパッケージからのプログラムを用いて実施された(回析データ統計を表12に要約する)。
【0200】
構造の決定と精緻化
構造は、タンパク質データバンクエントリ1YY8およびタンパク質データバンクエントリ3ELAのA鎖およびB鎖を用いて、プログラムスイートPhenixで実装されたPhaserを使用した分子置換によって決定された。非対称ユニットは、2つのFab:FVIIai/sTF複合体を含む。モデルは、COOTにおいて、Phenix改良および手動再構築のステップを使用して改良された。精緻化統計が表12に示される。
【表18】
【0201】
エピトープ(Fab0076の非水素原子から4Å以下の距離内に位置付けられた非水素原子を有するFVIIai中の残基として定義される)は、配列番号1に従う以下の残基を含むことが見出された:
R113
C114
H115
E116
G117
Y118
S119
L120
T130
V131
N184
T185
I186
P251
V252
E265
M391
R392
E394
パラトープ(FVIIai中の非水素原子から4Å以下の距離内に位置付けられた非水素原子を有するFab0076中の残基として定義される)は、配列番号64に従う以下の軽鎖残基:
Q27
G28
S30
D31
Y32
K49
Y50
Q53
H92
S93
F94
および配列番号63に従う以下の重鎖残基を含むことが見出された。
D32
Y54
N59
N101
Y102
Y103
G104
N105
【0202】
実施例14:ヒト化マウス11F2
配列番号754および配列番号750にそれぞれ対応するVHおよびVLドメイン配列でマウス抗体11F2(mAb0005)をヒト化するために、それぞれFVII(a)に対する高い結合親和性を保存しながら、ヒト生殖系列に関連する配列同一性、Fab0076(実施例12)と活性部位阻害FVIIa(実施例9)との間の複合体の結晶構造、およびインビトロ結合データからの情報を組み合わせた。最初に、我々は、ブラストアルゴリズム(blast algorithm)を使用して、ヒト生殖系列のデータベースで、11F2のマウス可変ドメイン配列に対して高い配列同一性を有するVH、VL、およびVJのヒト配列(重鎖(HC)および軽鎖(LC)の両方について)を検索した。HCのVHの配列同一性が最も高い配列は、IGHV4-30-4*01、IGHV4-28*01、IGHV4-28*06、およびIGHV459*01であり、HC上位生殖系列のVJセグメントでは:IGHJ5*01、IGHJ4*01である。LCについて、VLの上位配列は、IGKV6D-41*01およびIGKV3-11*01であり、VJセグメントでは:IGKJ2*01およびIGKJ2*02(表12)である。次に、ヒト生殖系列とマウスVH配列およびVL配列との間の差異を、Fab0076/FVIIa複合体の結晶構造上にマッピングした。エピトープ中の残基から10Å以上の距離で離れているマウス可変ドメイン中の残基は、結合親和性に全くまたはほとんど影響しないと予想され、対応するヒト生殖系列アミノ酸実体と交換された。次いで、パラトープを構成する残基は、親和性に影響を与えることなく置換することがより問題であると考えられ、ここでマウスアミノ酸実体が保存された。結合親和性に影響を及ぼす可能性のある結合界面近くの残基のサブセットが特定された。ヒト化バリアントは、エピトープの遠位の残基を、生殖系列アライメントからのヒトアミノ酸実体に変異させることによって生成された。さらに、パラトープに近い残基を、サブセット中のヒト実体に変異させて、バリアントを可能な限りヒト生殖系列に近づけた。セットに含まれたバリアントは、マウスCDRが、HCおよびLCの完全ヒト生殖系に移植されたものであった。表13に従って、最初の解析から、12個のLCおよび13個のHCを生成し、23個のバリアントに対形成した。
【0203】
ヒト化抗体について、FVIIaへの結合の親和性(表13に列挙される)を、Bio-Layer Interferometry(Fortebio社)を使用して測定した。すべてのステップを、ランニング緩衝液(20mM HEPES緩衝液(pH7.4)、150mM NaCl、5mM CaCl2、0.03%Tween 20、1mg/ml IgG-遊離BSA)中、30℃で行った。抗体は、10μg/mlの濃度で、抗ヒトチップ(AHC、Fortebio)に3分間捕捉した。続いて3分間のインキュベーションを行い、ベースラインを確立した。これに続いて、4つの異なる濃度のFVIIa(25nm、50nM、100nM、および200nM)を使用して3分間会合をモニターし、続いて3分間の解離を行った。センサグラムを、Fortebioデータ解析ソフトウェアを使用して解析した。Fortebioデータがランク付けに使用されたため、絶対親和性値がSPRによって決定された値から逸脱する場合がある(実施例6、表7)。
【表19】
【表20】
【0204】
親マウス抗体と同等以上の親和性を有するヒト化の第1ラウンドからのバリアントが同定され、結合親和性を維持または改善することが見出されたそれらの変異が、第2ラウンドのバリアントを設計するために使用された。この一連の変異から、既に所望の親和性を有するヒト化HCおよびLC上にこれらの変異の多くを挿入することによって、第2のラウンドのバリアントを生成した。解析から、19個のVH配列(配列番号314、514、522、530、538、546、554、562、570、578、586、594、602、610、618、626、634、642および650に相当)および25個のVL配列(配列番号310、318、326、334、342、350、358、366、374、382、390、398、406、414、422、430、438、446、454、462、470、478、486、494および502に相当)が設計され、すべてのVLをVLと組み合わせて実験的に試験した結果、合計475個の組み合わせが得られた。上述のように、Bio-Layer Interferometry(Fortebio)を使用して、得られた475個のヒト化抗体について、FVIIaに結合する解離定数(KD)値を測定した。測定されたKD値を表14に列挙する。
【表21】
【表22】
【表23】
【0205】
ヒト化11F2バリアントのSPR分析
選択されたヒト化11F2バリアントの親和性を、実施例6に詳述されるSPR分析によって決定した。測定された解離定数を表15に列挙し、バリアントのヒトFVIIaへの高親和性結合が保持されていることを示す。
【表24】
【0206】
ヒト化11F2バリアントの機能的特性評価
FVIIaの活性およびアンチトロンビンによる阻害に対する感受性に対する選択されたヒト化11F2バリアントの効果を、実施例5に詳述されるように決定した。結果を表16に列挙し、ヒト化バリアントがこれらのパラメータに関して望ましい特性を保持することを示す。
【表25】
【0207】
ヒト化11F2バリアントとの共製剤化におけるFVIIaのラットにおける薬物動態
ヒト化 11F2 バリアントファミリーを、20nmol/kgのFVIIaとの共製剤で、実施例9に詳述したように、オスのスプラーグドーリーラットにIV投与した。
【0208】
結果は表17に示され、ヒト化11F2バリアントのいくつかが、親抗体と同じ長い半減期をFVIIaに与えることを示す。
【表26】
【0209】
実施例15:活性部位阻害FVIIaおよび可溶性組織因子と複合体を形成した11F2Fab0883の結晶化およびエピトープマッピング
ヒト化11F2、すなわちmAb0705(OA)およびmAb0842(OA)によって認識されるFVII(a)上のエピトープを決定するために、対応するFab断片Fab0883を、Kirchhofer.D.,et al.,Proteins Structure Function and Genetics.(1995),22,419-425に従う、ハンギングドロップ法を使用して、H-D-Phe-Phe-Argクロロメチルケトン(FFR-cmk;Bachem、Switzerland)活性部位阻害FVIIa(FVIIai)および可溶性組織因子断片1~219(sTF)と複合体を形成して結晶化した。
【0210】
結晶化
FVIIai/sTFと複合体を形成したFabのSEC精製された複合体の結晶を、18℃でのシッティングドロップ(sitting drop)蒸気拡散技術を使用して成長させた。20mMのHEPES、150mMのNaCl、0.1mMのCaCl2、pH7.4中の360nlのタンパク質複合体(4.5mg/ml)のタンパク質溶液を、0.15MのCsClと15%(w/v)のポリチレングリコール3350を含有する360nlの沈殿物溶液および360nlの水と混合し、80μlの沈殿物溶液に対して平衡化した。結晶は6週間以内に成長した。
【0211】
回折データ収集
結晶は、液体窒素でフラッシュ冷却する前に、0.15M CsCl、15%(w/v)のポリエチレングリコール3350、および20%(v/v)のグリセロールからなる溶液中で凍結保護された。回折データは、Dectris Pilatus 1M検出器を備えたRigaku FRX回転アノードジェネレーターで100Kで収集された。XDSパッケージからのプログラムを用いてデータ削減を実施した(回折データの統計を表18に要約する)。
【0212】
構造の決定と精緻化
すべての結晶学的計算は、結晶学的プログラムのPhenixスイートを使用して実行された。構造は、検索モデルとして実施例13に記載されるように取得された複雑な構造の座標を有するプログラムPhaserを使用した分子置換によって決定された。非対称ユニットは、4つのFab:FVIIai/sTF複合体を含む。COOTおよびPhenix改良を使用した手動再構成の反復サイクルにより、最終モデルが得られた(表18)
【表27】
【0213】
エピトープマッピング
残基は、結晶中の4つの独立して決定されたFVIIa分子のすべてが、Fab中の非水素原子から4Å以下の距離内に位置付けられた前記残基の非水素原子を有する場合、エピトープの一部であるとみなされる。したがって、エピトープは、配列番号1に従って以下の残基を含むことが見出された:
R113
C114
H115
E116
G117
Y118
S119
L120
T130
V131
N184
T185
P251
V252
V253
Q388
M391
R392
【0214】
パラトープ決定
結晶中の4つの独立して決定されたFab分子のすべてが、FVIIa中の非水素原子から4Å以下の距離内に位置付けられた前記残基の非水素原子を有する場合、残基はパラトープの一部とみなされる。パラトープは、以下の軽鎖残基(配列番号814に従う):
Q27
G28
Y32
Y50
H92
S93
F94
および以下の重鎖残基(配列番号818に従う)、を含むことが見出された。
D32
Y54
Y103
N105
【0215】
実施例16:SPRを使用した 11F2 mAb0842(OA)のホットスポット分析
FVIIaのアラニンバリアントの発現
hFVIIアラニンバリアントを、安定したエピソーム発現系であるQMCF技術(Icosagen)を用いて生成した。CHOEBNALT85 細胞を CO2 振とうインキュベーター中の E125 フラスコ中の Qmix1 培地(1L=1:1のCD-CHOおよびSFM II(NVO11514701)+10mlのPen/Strep(Gibco、15140-122)+2mlのピューロマイシン(Gibco, A11138-03))で培養した。トランスフェクションの日に、1×10e7 CHOEBNALT85 細胞を、エレクトロポレーション(Bio-Rad Gene Pulser Xcell Electroporation System、300V、900μF、4mmキュベット)を使用して、2μgのhFVIIバリアントコードプラスミドおよび50μgのサーモン精子DNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの1日後、細胞を Qmix2 培地(1L=1:1のCD-CHOおよびSFM II(NVO11514701)+10mlのPen/Strep(Gibco、15140-122)+1mlのK-ビタミン(K.vit 13A 01311)+14mlの G418(Gibco、10131-027))に移すことによって、G418選択を開始した。G418選択細胞の10~14日後、>95%の生存率に達した(Vi-Cell XR細胞カウンター)。細胞を、2×E1000フラスコで、0.4×10e6細胞/mlから2×250mlのQmix2に分割した。3~4日後、細胞は、約4~5×10e6細胞/mLの密度に達した。発現は、20% CHO CD Efficient Feed B(Gibco A10240)+6mM GlutaMax(Gibco、35050)を加えることによって開始された。開始4日後、さらに10% CHO CD Efficient Feed B+6mM GlutaMAXを添加した。開始後6日目に、培養物を収穫し、スピンダウンした(200g、5分)。上清を収集し、15mMのHEPES(Gibco、15630)および5mMのCaCl2(Sigma、21115)を添加した。上清を、0.22μmのボトルトップフィルター(Corning、CLS430049)を使用して滅菌濾過した。
【0216】
cFVIIa-キメラの発現および精製(22017-051)
cFVIIa-キメラは、上記に概説したものと同様の発現系を使用して生成された。実施例26に記載されるように、社内抗FVII(a)抗体(F1A2)をセファロースビーズにカップリングすることによって調製されたアフィニティーカラムを使用して、酵素前駆体cFVII-キメラを培地から精製した。抗FVII(a)抗体F1A2は、Ca++依存的にFVII(a)のGlaドメインに結合する。酵素前駆体cFVII-キメラは、ヒトFIXaを使用して活性化され、F1A2 アフィニティー精製を使用して再精製されて、最終的なcFVIIa-キメラを得た。
【0217】
ホットスポット分析
一価ヒト化抗体 mAb0842(OA)を使用したホットスポット分析は、表面プラズモン共鳴(Biacore T200)を使用した、25℃での19個のFVII(a)バリアントのパネルとの結合研究によって実施された。FVII(a)glaドメインを標的とする、25μg/mlの抗FVII(a)抗体(NN内部Ab 4F6(Nielsen AL et al,PNAS 114(47)12454-12459, 2017))を、標準アミンカップリングケミストリーキットを使用して CM4 センサーチップ上に固定した(どちらもGE Healthcareから供給)。表19によると、細胞培養上清中のFVII(a)バリアント(上述のとおり)を、ランニング緩衝液で希釈し、10 μl/分の流量で1分間注入して、5~55RUの捕捉レベルを達成した。各FVII(a)バリアントを、固定化抗FVII(a)gla Abによって捕捉した。続いて、540nM(3倍希釈)のmAb0842(OA)を、30μl/分の流量で7分間注入して、捕捉されたFVII(a)バリアントへと結合させ、その後9分間の緩衝液注入によってワンアームド抗FVII(a)抗体の解離を可能にした。ランニング緩衝液を 10xHBS-P 緩衝液(GE Healthcare提供)を希釈することによって調製し、1mg/mlのBSAおよび5mMの CaCl2 で補充して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%v/vのポリソルベート20、pH7.4、5mMのCaCl2、1 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を得た。ランニング緩衝液はまた、抗FVII(a)抗体およびFVII(a)試料の希釈にも使用された。 10mMのHEPES、150mMのNaCl、20mMのEDTA、0.05v/vのポリソルベート20、pH7.4を使用して、チップの再生を達成した。結合データを、製造元(Biacore AB, Uppsala, Sweden)によって供給されたBiaEvaluation 4.1を使用する1:1反応速度(Kinetic)モデルおよび定常状態分析により解析した。可能な限り、1:1の反応速度適合モデルからのka、kd、およびKD値が報告される。4つのFVII(a)バリアントについて、定常状態適合モデルを使用したKD値を報告した。さらに、捕捉シグナルは、すべてのFVII(a)バリアントについて報告される。アミノ酸残基が、そのアミノ酸残基をアラニンと置換すると、野生型に対して10倍以上の親和性低下をもたらす場合、アミノ酸残基はホットスポット残基とみなされる。表19に提示されたデータに基づいて、アミノ酸残基H115、T130、V131、およびR392がホットスポットであると結論付けられる。
【表28】
【0218】
実施例18:カニクイザルにおけるヒト化 11F2 抗体との共製剤化における組み換えFVIIaの薬物動態
FVIIa血漿活性時間プロファイルは、組み換えFVIIa(rFVIIa)のみ、または1価のワンアームド11F2 mAb0705(OA)との1:3モル比の共製剤のいずれかの、IV投与またはSC投与後のカニクイザル研究で推定された。製剤は、5.4nmol/kgのFVIIa(共製剤用の16.2nmol/kgのmAb0705(OA)を含む)の単回投与として投与され、3週間にわたって血液試料を採取した。
【0219】
実験中、動物は現地の保健当局の標準手順に従って飼育および扱われ、飼料および水を自由に摂取できるようにした。FVIIa血漿活性を、実施例8に記載されるFVIIa活性アッセイを使用して測定した。内因性カニクイザルFVIIaは、投与前にLLOQ(0.1nM)未満であり、その結果無視された。
【0220】
FVIIa血漿活性時間プロファイルの薬物動態解析は、Phoenix WinNonlin 6.4を使用した非コンパートメント法によって実施された。データから次のパラメータを推定した:クリアランス(CL)、平均滞留時間(MRT)、およびSC生物学的利用能(F)。パラメータを表20に列挙し、抗体の非存在下でのFVIIaと比較して、IV投与およびSC投与後の両方において、mAb0705(OA)との共製剤によるFVIIa活性の実質的な延長を示す。
【表29】
【0221】
実施例19:マウス抗TLT-1抗体mAb0012のヒト化および最適化
ヒト化
WO2012/117091に開示されたマウス抗ヒトTLT-1抗体mAb0082は、ヒト化プロセスの出発点として使用された。mAb0082は、VLのC41AおよびVHのT61Aを組み込む2つの点変異により、VLのFR1中の不対のシステインと、VHのCDR2中のN-グリコシル化部位をそれぞれ除去する、mAb0012に由来するものである。ヒト化プロセスは、当業者に公知の標準分子生物学方法に基づくものであった。
【0222】
簡潔に述べると、mAb0082のCDRH1、CDRH2、および CDRH3配列を、IMGTデータベースに定義されるVH3_74/JH1配列に基づいてヒト生殖系列配列上に移植した。さらに、3つのVH3_74/JH1ヒトアミノ酸置換を、このCDR配列:P62D、L64VおよびD66Gをさらにヒト化するために、移植されたCDRH2配列に導入した。mAb0082 の結合親和性に匹敵する結合親和性を得るために、3つの復帰変異を、位置 S49G、D62PおよびR98SでVL配列に導入した。VLのヒト化に関して mAb0082のCDRL1、 CDRL2およびCDRL3 配列を、IMGTデータベースに定義されるVKII_A23/JK2 配列に基づいてヒト生殖系列配列上に移植した。VL配列は、CDR1中に潜在的な脱アミド化ホットスポット(NGモチーフ)を含有する。この位置で飽和変異誘発を使用すると、TLT-1に対する親和性を損なわずにN33Q置換によってNGモチーフを除去できることが見出された。
【0223】
mAb0082の最終的なヒト化および最適化されたバリアントは、配列番号934(VL)および938(VH)に対応し、mAb1076と称される。
【0224】
ヒト化TLT1バリアントのSPR分析
(実施例4)からの sTLT1(C末端に6個のヒスチジン残基が付加された配列番号3に相当)のbiAbへの結合を、25℃で表面プラズモン共鳴(Biacore T200)によりプローブした。 抗ヒトIgGを、標準アミンカップリングケミストリーを使用してCM5センサーチップ(両方ともGE Healthcareが供給)上に固定した。表21(1nM)に従って精製されたbiAbを、10 μl/分の流量で1分間注入した。 続いて、0~60μMの間の sTLT1 を、30μl/分の流量で3分間注入し、biAbへの結合を可能にし、続いて3分間の緩衝液注入により、biAbからの解離を可能にした。ランニング緩衝液を 10xHBS-P 緩衝液(GE Healthcare提供)を10倍希釈することによって調製し、1mg/mlのBSAおよび5mMの CaCl2 で補充して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%v/vのポリソルベート20、pH7.4、5mMのCaCl2、1mg/ml のウシ血清アルブミン(BSA)を得た。ランニング緩衝液はまた、biAbおよびsTLT1試料の希釈にも使用された。チップの再生は 3M MgCl2(GE Healthcare提供)で構成される推奨再生緩衝液を使用して達成された。結合データを、製造元(Biacore AB, Uppsala, Sweden)によって供給されたBiaEvaluation 4.1を使用する1:1モデルにより解析した。分析により、表21に報告された結合定数は、biAbによるsTLT1結合に対する2.9nM~320nMの親和性の範囲を示した。
【表30】
【0225】
実施例20:Hz-TLT1およびTLT-1ペプチド複合体調製の結晶構造
TLT-1ストークペプチドとの複合体での結晶化に使用されるFab断片は、mAb1076(それぞれ配列番号854および858)、ヒト IgG4 CH1ドメイン、および単一の点変異(G157C)を有するヒトカッパCLに対応するVLおよびVHドメイン配列を含む。GからCへの置換は、Fab断片の定常ドメイン内、すなわち抗原結合部位からは遠く、TLT-1への結合に影響を与えない。配列番号2の残基111~147に対応する37merストークペプチド、EEEEETHKIGSLAENAFSDPAGSANPLEPSQDEKSIP(配列番号13)は、当業者に公知の標準ペプチド合成方法によって調製された。Fabペプチドとストークペプチドとを、Hepes緩衝液(20mM Hepes(pH 7.3)、150mM NaCl)中で1:2モルの比で混合した。1:1のFab:ペプチド複合体を、hepes緩衝液で溶出されたsuperdex200カラム上でゲル濾過を使用して単離し、その後、約11mg/mLに濃縮し、結晶化に使用した。
【0226】
結晶化
ゲル濾過した1:1モルのFab/ペプチド複合体の結晶を、18℃でのシッティングドロップ蒸気拡散法を使用して成長させた。 20mM のHepes、pH7.3および 150mM のNaCl中の150nlの10.8mg/mlのFab:ペプチド複合体のタンパク質溶液を、沈殿剤として50nlの 、1M のLiCl、0.1M のNaクエン酸-クエン酸、pH4および20%(w/v)のPEG 6000と混合し、60μlの沈殿剤上でインキュベートした。
【0227】
回折データ収集
結晶は、液体窒素中でフラッシュ冷却する前に、結晶化ドロップに20%のエチレングリコールを加えた1μlの沈殿剤の添加によって凍結保護した。回折データは、Dectris社のEiger 16M Hybrid-pixel検出器を使用して、MAX IVシンクロトロン(Lund, Sweden)のBioMAXビームラインで 100K で収集された。データの自動インデックス、統合、およびスケーリングは、XDSパッケージからのプログラムを用いて実施された(回析データ統計を表22に要約する)。
【0228】
構造の決定と精緻化
非対称ユニットは、Matthews係数解析から判断されるように2つのFab:ペプチド複合体を含有する。構造を、分子置換によって決定した。プログラムスイートPhenixに実装されたPhaserは、2つのFabを局在化する検索モデルとして、タンパク質データバンクエントリ5KMVのH鎖とL鎖と併用された。これらは、COOT を使用して正しいアミノ酸配列を用いて構築され、その後Phenix改良を使用して改良された。ペプチド由来のアミノ酸7~21は、差異電子密度マップに明確に見られ、COOTを使用して手動で構築したモデルとすることができる。モデルは、COOTにおいて、Phenix改良および手動再構築のステップを使用して改良された。精緻化統計が表22に示される。
【表31】
【0229】
Fab/ペプチド複合体エピトープおよびパラトープ
エピトープは、非対称なユニットの複合体の両方においてFabの重原子から4.0Åの距離内に重原子(すなわち、非水素原子)を有すること特徴とするTLT-1ストーク-ペプチドの残基として定義される。同様に、パラトープは、非対称ユニットの両方の複合体のTLT-1ストークペプチドの重原子から4.0Åの距離内に重原子を有することを特徴とするFab断片の残基として定義され、エピトープは配列番号 13に従う、37aa TLT-1ペプチドからの以下の残基を含むことが見出され、
K8
I9
G10
S11
L12
A13
N15
A16
F17
S18
D19
P20
A21
(これは、配列番号2および3のK118、I119、G120、S121、L122、A123、N125、A126、F127、S128、D129、P130およびA131に相当する)。
パラトープは、重鎖可変ドメイン(配列番号938)からの以下の残基を含み:
V2
F27
R31
Y32
W33
E50
T57
N59
S98
G99
V100
T102
S103
、および軽鎖可変ドメイン(配列番号934)からの:
H31
Y37
H39
Y54
F60
S61
S96
T97
V99
Y101、を含む。
【0230】
実施例21:抗FVII(a)/抗TLT-1二重特異性抗体刺激活性に対する親和性の効果
二重特異性抗体活性に対する親和性の効果を決定するために、11F2 mAb0005(実施例14を参照)および mAb0012(実施例19を参照)のヒト化からの、それぞれFVIIaおよび TLT-1に対する様々な親和性を有するいくつかの抗FVII(a)および 抗TLT-1mAbを、WO2011/023785に記載される脂質化TLT-1を使用したFXa生成アッセイで二重特異性フォーマットで試験した。
【0231】
第1のステップでは、FX活性化を、10:90ホスファチジルセリン:ホスファチジルコリン小胞(WO2011023785)に組み込まれた4nMの組み換えTLT-1、2.5nMのFVIIa、および二重特異性抗体(biAb)の存在下で、0~300nMの濃度系列で測定した。アッセイ緩衝液(50mMのHEPES、100mMのNaCl、10mM CaCl2、pH7.3+1mg/mLのBSAおよび0.1%PEG8000)中で室温で10分間プレインキュベーションした後、150nMの血漿由来FX(Heamatologic Technologies)を添加して、総体積50μlを得、20分間活性化させた。次いで、活性化を、25μlのクエンチ緩衝液(50mM HEPES、100mMのNaCl、80mMのEDTA、pH7.3)の添加によって終了し、生成されたFXaは、0.5 mM S-2765(Chromogenix)発色基質(25μlの体積に2mMストックとして添加)を加水分解する能力から定量化され、SPECTRAmax Plus384プレートリーダーで405nmで5分間追跡された。線形吸光度増加の傾きから、biAbの非存在下でのバックグラウンド活性の減算およびアッセイ中のFVIIa濃度による除算によって、100nMの濃度で各biAbに対して正規化された活性(AbiAb)を計算した。
【0232】
第2のステップでは、biAbをアッセイ緩衝液に置き換え、0~80nMのFVIIaの濃度系列にして、同じアッセイを実行した。バックグラウンド減算されたFXa生成とアッセイ中のFVIIaの濃度との間の線形関係の傾きは、採用されたアッセイ条件下での遊離FVIIa(AFVIIa)の比活性の尺度をもたらした。
【0233】
測定された活性に基づいて、100nMでの各biAbの刺激活性を、AbiAb/AFVIIaの比率として計算した。刺激活性は、100nMのbiAbを添加した時の、FVIIaによる生成されたFXaの倍率増加の尺度を提供する。
【0234】
刺激活性が表23に提供され、FVIIaおよびTLT-1がそれぞれ結合される強度(解離定数(KD)値として表される)に対するbiAb刺激の依存性を示す。試験されたbiAbの中で、biAb0001は最も高い刺激活性を示す。
【表32】
【0235】
実施例22:抗FVII(a)/抗TLT-1二重特異性抗体刺激活性に対するエピトープ位置の効果
二重特異性抗体活性に対するエピトープ位置の効果を決定するために、TLT-1およびFVIIa上の異なるエピトープにそれぞれ結合するいくつかの抗TLT-1および抗FVIIa mAbを、実施例21で行われたように、FXa生成アッセイにおける二重特異性フォーマットで試験した。
【0236】
結果を表24に提示し、エピトープ位置に対するbiAb刺激活性の依存性を示す。特に 抗FVIIa mAbである、mAb0865と組み合わせた、抗TLT-1mAbである、 mAb1076 、 mAb0023 、 mAb0051 および mAb0062 は、同等の刺激活性を呈する。
【表33】
【0237】
実施例23:ヒトIgG(LOCI)に対する抗原アッセイ
カニクイザル血漿中のヒトIgG(hIgG)の存在を、発光酸素チャネリングイムノアッセイ(Luminescent Oxygen Channelling Immunoassay)(LOCI)により測定した。簡潔に述べると、LOCI試薬は、2つのラテックスビーズ試薬(ドナーおよびアクセプタービーズ)、およびhIgGに対するビオチン化モノクローナル抗体(Biosite、カタログ番号 AFC4249)が含まれていた。感光性色素を含有するドナービーズ試薬をストレプトアビジンでコーティングした。第2のビーズ試薬であるアクセプタービーズを、サンドイッチを構成するhIgGに対する社内モノクローナル抗体(0421)と結合した。アッセイ中、3つの反応物は、血漿中のhIgGと組み合わされて、ビーズ凝集免疫複合体を形成した。複合体の励起により、ドナービーズから一重項酸素分子が放出され、アクセプタービーズに送られ、化学発光応答が誘発された。次に、これをEnVisionプレートリーダーで測定した。生成された光の量は、1秒当たりのカウント(cps)として報告され、hIgGの濃度に比例した。試料をアッセイ緩衝液中で少なくとも100倍希釈し、1%のカニクイザル血漿に添加したhIgGに基づいて検量線を調製した。
【0238】
実施例24:FVII(a)に対する抗原アッセイ(LOCI)
FVII酵素前駆体、FVIIa、およびFVIIa:アンチトロンビン(FVIIa:AT)複合体を含む、FVII(a)抗原は、実施例23に記載されるLOCIアッセイによって測定された(ただし、FVII(a)のアッセイが、社内抗FVII(a)抗体(4F9)および社内ビオチン化抗FVIIモノクローナル抗体(4F7)でコーティングされたアクセプタービーズでから構成されたことを除く)。試料をアッセイ緩衝液中で少なくとも100倍希釈し、既知の量のヒトrFVIIaをアッセイ緩衝液に添加することによって検量線を調製した。
【0239】
実施例25:FVIIa:AT(アンチトロンビン)(EIA)に対する抗原アッセイ
FVIIa:AT(アンチトロンビン)複合体を、Agersφ H et al,J Thromb Haemost 2011;9:333-8に記載されているように酵素イムノアッセイ(EIA)を使用して測定した。N末端EGFドメインに結合し、アンチトロンビン結合をブロックしないモノクローナル抗FVIIa抗体(Dako Denmark A/S、Glostrup、デンマーク、製品コード O9572)を、FVIIa:AT複合体の捕捉に使用した。ヒトFVIIaおよびカニクイザルアンチトロンビン(FVIIa:AT)の予め形成された複合体を、10μMの低分子量ヘパリン(エノキサパリン)の存在下で、2倍モル過剰のアンチトロンビンとFVIIaをインキュベーションすることにより調製した。室温で一晩インキュベーションした後のFVIIaの残留アミド分解活性(実施例11を参照)は、最初のFVIIa活性の10%未満であることが検証された。複合体を使用して、EIA検量線を構築した。ポリクローナル抗ヒトアンチトロンビン抗体ペルオキシダーゼコンジュゲート(Siemens Healthcare Diagnostics ApS、Ballerup、Denmark、製品コード OWMG15)を検出に使用した。TMBを添加し、十分な発色が得られるまで発色を進行させ、H2SO4を添加して停止し、吸光度プレートリーダー(BioTek)を用いて、650nmを基準として450nmの吸光度を測定した。色強度は、FVIIa:ATの濃度に比例する。
【0240】
実施例26:ヒトFVIIa、FVII(酵素前駆体)、およびFVIIa:AT(アンチトロンビン)複合体の調製
ヒトFVIIa(活性化FVII)の調製
別段の記載がない限り、組み換えヒト活性化FVII(FVIIa)は、Thim et al.(1988)Biochemistry 27:7785-7793およびPersson et al.(1996)FEBS Lett 385:241-243に記載されているように調製された。
【0241】
ヒトFVII(酵素前駆体FVII)の調製
CHO細胞で産生された組み換えヒトFVIIは、Thim et al.(1988)Biochemistry 27:7785-7793 によって記載されているようにシングルステップカルシウム依存性アフィニティークロマトグラフィーによって精製された。精製後、酵素前駆体FVIIを10mMのMES、100mMのNaCl、10mMのCaCl2、pH6.0の緩衝液に透析した。調製物中の活性化FVII(FVIIa)のレベルは、1mMの発色基質S-2288および200nMのsTFの存在下でのアミド溶解活性を測定することによって決定された(実施例11を参照されたい)。これを、既知の濃度のFVIIaを用いて調製された標準曲線に関連付けることによって、測定された活性を、酵素前駆体FVII調製物中のFVIIaのモル濃度に変換することができる。
【0242】
ヒトFVIIa:AT(アンチトロンビン)複合体の調製
FVIIa:AT(アンチトロンビン)複合体を、ヒト組み換えFVIIa、ヒト血漿由来AT(Baxter)、および低分子量ヘパリン(エノキサパリンナトリウム)の等モル濃度を4℃で16時間インキュベートすることによって調製した。汚染された賦形剤を除去するために、使用前にATを、ヘパリンセファロース6ファストフロー(GEヘルスケア)カラムで塩化ナトリウム勾配を適用して再精製した。溶出されたATを限外濾過により濃縮し、50%グリセロールを含有する10mMのHEPES、25mMのNaCl、pH7.3で最終調製物を得た。FVIIa:AT複合体を、20mMのMES、100mMのNaCl、1mMのEDTA、pH5.5で4℃でのSECクロマトグラフィーにより精製し、複合体の安定性を最大化した。調製物中のFVIIaの残留レベルを、上述のように決定した。複合体の分解を最小限に抑えるために、調製物をアリコートで-80℃で保存し、使用前に直ちに解凍し、氷上で保持した。
【0243】
実施例27:カニクイザルにおける抗FVII(a)/抗TLT-1 biAbの単回投与薬物動態
biAb0001および、追加的な3つの半減期延長置換(M252Y、S254TおよびT256E)が定常重鎖ドメインに導入されている、対応するYTEバリアントであるbiAb0352は、カニクイザルに3.0、9.49または30nmol/kgで静脈内(iv)に投与されるか、または9.49nmol/kgで皮下(sc)投与した。各群は、2匹のサル(雄1匹および雌1匹)から構成された。1mLのクエン酸ナトリウム安定化血液試料を、投与前、およびiv群に対して、投与後0.5時間、2.5時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、および8日目、10日目および15日目に採取した。sc群については、血液試料を、投与前、および投与後0.5時間、3時間、6時間、12時間、16時間、24時間、30時間、38時間、48時間、54時間、72時間、78時間、96時間、120時間、および8日目、10日目、および15日目に採取した。血液試料を2000gで10分間遠心分離し、血漿を除去し、アリコートに分割し、hIgG(実施例23を参照)、総FVII(a)抗原(実施例24を参照)、FVIIa活性(実施例8を参照)、およびFVIIa:AT複合体(実施例25)の分析まで-80℃で保存した。hIgGの濃度対時間プロファイルの薬物動態(PK)解析を、Phoenix WinNonlin 6.4を使用した非コンパートメント法によって実施した。以下のPKパラメータを表24に示す:半減期(t1/2)、クリアランス(Cl)、分布容積(Vz)、平均滞留時間(MRT)およびSC生物学的利用能(F)。
【表34】
【0244】
内因性FVII(a)の蓄積は、BiAb0001または対応するYTEバリアント、biAb0352を投与されたサルで観察された。表25は、FVII(a)抗原、FVIIa活性、およびFVII:ATの投与前レベルと、投与後72~240時間の間に測定された平均累積レベルを示す。FVII(a)抗原、FVIIa活性、およびFVIIa:ATの抗体用量依存的な蓄積が観察された。FVII(a)抗原は、投与前レベルと比較して最大3倍まで増加し、FVIIaおよびFVIIa:ATは最大で5倍まで増加した。データは、biAb0001またはbiAb0352の単回用量のivまたはsc投与が、YTE変異を有すると、インビボでの内因性FVII(a)抗原、FVIIa活性、およびFVIIa:AT複合体の蓄積につながることを実証している。
【表35】
【0245】
実施例28:カニクイザルにおける一価の 11F2 抗FVII(a)抗体であるmAb0705(OA)の単回投与および反復投与薬物動態
FVII、FVIIa、およびFVIIa:ATのインビボでの蓄積は、カニクイザルへの一価の11F2抗FVII(a)抗体mAb0705(OA)の投与、続いて血漿試料中のFVII抗原、FVIIa活性、およびFVIIa:ATの測定をすることによって分析した。約2.5kgのオスのカニクイザル2匹に40nmol/kg mAb0705(OA)で尾部の伏在静脈、橈側皮静脈、または外側尾静脈にiv投与し、3匹のオスのカニクイザルに1日おきに2週間、大腿部(左大腿部と右大腿部の間で交互に)の皮下(sc)に20nmol/kgのワンアームド抗FVIIa抗体を投与した(すなわち、抗体を1、3、5、7、9、11、13、および15日目に投与した)。血液は、投与後21日までの時点で、橈側皮静脈または大腿静脈から3.8%クエン酸三ナトリウムに採取された。
【0246】
血液を、2300gで10分間遠心分離し、血漿を分注し、hIgG(実施例23を参照)、総FVII(a)抗原(実施例24を参照)、FVIIa活性(実施例8を参照)、およびFVIIa:AT複合体(実施例25を参照)の分析まで-80℃で保存した。濃度対時間プロファイルのPK解析を、Phoenix WinNonlin 6.4を使用した非コンパートメント法によって実施した。iv投与のPKパラメータを表26に示す。ワンアームド抗体の半減期(t1/2)は、単回IV投与後の平均116時間(4.8日)であった。sc投与抗体の推定半減期は、181±20時間(n=3の平均およびSD)であった。抗体は、投与の2週間の間に蓄積し、最初の投与後の336~366時間の間の時点で、1179±140nMの最大レベルをもたらした(n=3の動物および3つの時点でのデータの平均およびSD)。
【表36】
【0247】
mAb0705(OA)の単回IVまたは反復sc投与は、内因性FVII(a)の蓄積をもたらした。40nmol/kgの単回投与後の総FVII(a)抗原、FVIIa:ATおよびFVIIaを表27に示す。総FVII抗原は、7~14日目に、投与前7.0nMから35.0±4.7nMに増加した。同様に、FVIIaは、検出限界未満(0.009nM)から2.3±0.7nMに増加し、FVIIa:ATは、7~14日目に1.0から6.3±0.8nMに増加した。40nmol/khのワンアームド抗体投与後の酵素前駆体FVIIレベルは、FVIIaおよびFVIIa:ATを総FVII(a)抗原から差し引くことによって計算した場合、26.4nMであった。
【表37】
【0248】
複数回のsc投与後の総FVII(a)、FVIIa、およびFVIIa:ATの定常状態レベルを、表28に示す。総FVII(a)抗原は、投与前の6.5±1.5nMから、12~21日目に36.9±9.8nMに増加した。同様に、FVIIaは、検出限界未満(0.009nM)から、12~21日目に3.9±1.6nMに増加し、FVIIa:ATは、12~21日目に1.0±0.3から9.1±0.6nMに増加した。総FVII(a)抗原からFVIIaおよびFVIIa:ATを差し引くことによって計算された定常状態の酵素前駆体FVIIレベルは24nMであった。
【0249】
データは、ワンアームド抗FVII(a)抗体mAb0705(OA)の投与が、インビボで内因性FVII(a)、FVIIaおよびFVIIa:ATの蓄積をもたらしたことを実証する。ワンアームド抗FVII(a)抗体のクリアランス(0.42~0.49mL/kg×kg、表26)は、静脈内投与後のbiAb0001のクリアランス(0.33~0.64mL/kg×kg、実施例27、表24)と同等であった。したがって、ワンアームド抗FVII(a)抗体の反復投与後に測定されたFVII(a)抗原、FVIIaおよびFVIIa:ATの定常状態レベルは、同じFVII(a)結合アームを有するbiAbの反復投与後に定常状態で達成されるであろうレベルを表すものと予想される。
【表38】
【0250】
実施例29:抗FVII(a)/抗TLT-1 biAb0001 および酵素前駆体FVII、FVIIaおよびFVIIa:ATの定常状態レベルを追加したヒト全血中の血友病A様状態におけるトロンボエラストグラフィー
二重特異性抗FVII(a)/抗TLT-1抗体biAb0001(親抗FVII(a)がmAb0865であり、親抗TLT-1抗体がmAb1076である)および蓄積されたレベルの酵素前駆体FVII、FVIIaおよびFVIIa:ATの実施例28からの効果が、血友病A様状態でのヒト全血中のトロンボエラストグラフィーにより評価された。トロンボエラストグラフィー解析は、TEG(登録商標)機器(Thrombelastograph Coagulation Analyzer, Haemoscope Corp.)を使用して、原則として、Viuff D, et al.Thromb Res 2010; 126:144-9に記載されているように実施された。健康なドナーからのクエン酸安定化全血を、1mg/mL中和抗FVIIIヒツジポリクローナル抗体(Haematological Technologies Inc, カタログ番号、PAHFVIII-S-C)および5μg/mL中和抗TFマウスモノクローナル抗体(1F44 、社内で調製)と共に30分間、インキュベートした。HBS/BSA緩衝液(20mMのHepes、 140mMのNaCl、 pH7,4、2%のBSA)中の最終血漿濃度100nMのbiAb0001を、rFVIIa(Novo Seven(登録商標)、 Novo Nordisk、 最終的な血漿濃度 3.9nM)、 酵素前駆体FVII(実施例26で調製されたとおり)、 最終血漿濃度24nM)およびFVIIa:AT複合体(実施例26で調製されたとおり)、最終的血漿濃度9nM)と混合し、血液試料に添加した。FVIIa:ATの前希釈を、冷20mMのMES、100mMのNaCl、1mMのEDTA、pH5.5+2%のBSA中で行い、アッセイを開始する直前に残りのタンパク質に添加した。FVII酵素前駆体およびFVIIa:AT調製物は、微量のFVIIaを含有していたため、これとドナー血液中のFVIIaの予想血漿濃度を補うため、対応するより低い量のFVIIaを添加した(0.1nM、Morissey JH et al Blood,1993;81:734-44)。同様に、添加された酵素前駆体FVIIの量は、ドナー血液中の10nM酵素前駆体FVIIaの予想される血漿濃度を補償した。別の試料には、血友病Aのヒト対象に90μg/kgのrFVIIa(NovoSeven(登録商標))を投与した後の理論上の最大血漿濃度に対応する25nM rFVIIaが含まれていた(Lindley CM et al.Clin Pharmacol Ther 1994;55:638-48)。対照には、biAbのみ、およびBiAbを含まないFVII/FVIIa/FVIIa:AT混合物が含まれていた。血小板は、PAR1アゴニストペプチドSFLLRN(Tocris Biosciencesカタログ番号3497)を最終濃度30μMまで、GPVIアゴニストコンブルキシン(5-Diagnostics、カタログ番号5D-1192-50UG)を最終濃度10 ng / mLまで、添加することで最大限に活性化された。20mMのHepes、pH7.4中の20μlの0.2MのCaCl2の容量を、TEGカップに添加し、続いて340μlの血液試料を添加し、直ちに分析を開始した。TEGトレースの2mm振幅までの時間として定義される凝固時間(R時間)は、ソフトウェア(TEG(登録商標)Analytical Software、バージョン4.1.73)によって計算された。4人のドナーからのデータを表29に示す。凝固時間は、FVIIIを中和することによって血友病A様状態を誘発した後、正常血液中の290±12秒から3506±1561秒に遅延した。25nMのrFVIIaを加えると、擬似血友病A血液の凝固時間が694±158秒に短縮した。100nMのbiAbを血液に追加すると、凝固時間が2198±712秒にわずかに短縮され、これは、おそらく血液中の内因性FVIIaの効果の増強が増強されたためである。FVII/FVIIa/FVIIa:ATの定常状態レベルを加えると、凝固時間が1440±275秒に減少した。100nMのbiAbおよび定常状態レベルのFVII/FVIIa/FVIIa:ATを組み合わせることにより、凝固時間が495±39秒に短縮された。すなわち、25nMのFVIIaを追加した後の凝固時間と同等またはわずかに低いレベルまで減少した。データは、biAbが、FVII/FVIIa/FVIIa:ATの蓄積されたレベルの効果を増強し、治療有効濃度のrFVIIaで達成された凝固時間の減少と類似またはわずかに良い凝固時間の減少をもたらすことを示す。
【表39】
【0251】
実施例30:異なるTLT-1親和性および酵素前駆体FVII、FVIIaおよびFVIIa:ATの定常状態レベルを有する二重特異性抗FVII(a)/抗TLT-1抗体を追加したヒト全血中の血友病A様状態でのトロンボエラストグラフィー
本実施例では、TLT-1に対して異なる親和性を有する以下の二重特異性抗FVII(a)/抗TLT-1抗体を試験した。
【表40】
【0252】
100nMの濃度の二重特異性抗体を、実施例29に記載されるようにトロンボエラストグラフィーにより評価した。凝固時間(R-時間)を表30に列挙する。血友病A(HA)の誘発時に、抗FVIII抗体を添加することによって、凝固時間は340秒から5433秒に遅延した。TLT-1(biAb0001)に対する最も高い親和性を有するbiAbの存在は、凝固時間を2465秒に短縮させた。すなわち、3つの他のbiAbのみについて観察された凝固時間の短縮より大きかった(biAb0015は、凝固時間を3645秒に、-biAb0090は、4335秒に、biAb0095は、4110秒に短縮させた)。同様に、biAbと、定常状態レベルのFVII、FVIIa、およびFVII:ATの組み合わせは、3つの他のbiAbよりも、biAb0001の凝固時間のより顕著な減少(540秒に)をもたらした(すなわち、biAb0015では1100秒に、biAb0090では1040秒に、およびbiAb0095では815秒に)。データは、TLT-1に対して最も高い親和性(すなわち最低のKD)を有するbiAb0001が凝固時間の短縮に最も効果的であることを示している。
【表41】
【0253】
実施例31:FVIII欠損トランスジェニックヒトTLT-1マウスにおける尾静脈切断モデルにおける抗FVII(a)/抗TLT-1二重特異性抗体biAb0001のインビボ効果
抗FVII(a)/抗TLT-1二重特異性抗体biAb0001のインビボ有効性を、トランスジェニックFVIIIノックアウト(すなわち、血友病A)、マウスTLT-1ノックアウト、ヒトノックインマウスにおける尾静脈切断(TVT)モデルを使用して決定した。抗FVII(a)はマウスFVII(a)を認識しないため、biAbを、ヒトFVIIa、FVII、FVII:ATと同時投与して、実施例28よるそれらの予想される臨床定常状態血漿レベルを模倣する、マウスでのこれらの成分の標的血漿レベル(それぞれ、3.8、26.2および9.0nM)を得た。biAbの濃度は、40または100nMのいずれかであった。要するに、マウスにイソフルランで麻酔をかけ、加温パッド上に置き、尾部を生理食塩水(37℃)に浸した状態で、動物の体温を37℃に保つように設定した。負傷5分前に、右側尾静脈に投与を行った。本TVTモデル(Johansen et al.,Haemophilia,2016,625-31)では、外側静脈が切断される。10、20、または30分で出血が停止した場合、尾部を生理食塩水から取り出し、かつ傷口を生理食塩水で濡らしたガーゼスワブで穏やかに拭き取った。生理食塩水中のヘモグロビンの量を定量化することにより、総出血量を40分後に決定した。投与後40分で、眼窩神経叢から3.8%のクエン酸三ナトリウムで血液試料を採取した。血液を4000gで5分間遠心分離し、血漿を分注し、hIgG(実施例23を参照)、総FVII(a)抗原(実施例24を参照)、およびFVIIa活性(実施例8を参照)の分析まで、-80℃で保存した。
【0254】
表31に示されるように、FVIIaとbiAbのすべての組み合わせは、biAb単独またはbiAbなしで投与されたFVII(a)と比較して、失血の有意な減少をもたらした。すべての組み合わせについて、処置の45分後に測定された血小板数は、ビヒクル群について観察されたものと同等であった。
【0255】
結論として、これらのデータは、期待される定常状態レベルのFVIIa、FVII、およびFVII:ATの存在下での biAb0001 の有意なインビボ止血効果を示す。
表31.示すように、biAb0001、FVIIa、FVIIa、およびFVIIa:ATの組み合わせを投与されたFVIIIノックアウト/マウスTLT-1ノックアウト/ヒトTLT-1ノックインマウスにおける尾静脈切断(TVT)後の失血。投与用量、予想および測定された血漿濃度、ならびに決定された失血は、平均±SEM(n=10)として示される。 一元配置分散分析、それに続くダネットの多重比較検定を使用して、群3~5の失血は、群1および2と有意差があることが分かった。総FVII(a)抗原濃度(実施例23に従って測定)は、「FVII」と標識された行に列挙され、値はアスタリスクで示されている。
【表42】
【0256】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例示および記載されているが、ここで、多くの修正、置換、変更、および同等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるこうしたすべての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
【0257】
実施例32:競合ELISAでの TLT-1への結合について抗TLT-1 mAb1076と競合する抗体の特定
競合実験に使用されるFab断片(抗TLT-1 Fab)は mAb1076(それぞれ配列番号938および934)に相当するVHおよびVLドメイン配列、ヒト IgG4 CH1 ドメイン、および単一点変異(G157C)を有するヒトカッパCLを含む。GからCへの置換は、Fab断片の定常ドメイン内、すなわち抗原結合部位からは遠く、TLT-1への結合に影響を与えない(実施例20を参照されたい)。組み換え体は、WO2011/023785に記載されるようにTLT-1として生産される。抗TLT-1 Fabは、製造元の指示に従うビオチン化キット(EZ-link、Thermo)の適用を含む標準的な方法を使用してビオチン化される。
【0258】
抗TLT-1抗体が、抗TLT-1Fabおよびそれに由来する抗体と競合するかどうかを決定するために、TLT-1への結合に対する競合研究が行われた。組み換えTLT-1は、希釈緩衝液(20mM HEPES、5mM CaCl2、150mM NaCl、pH7.2)中、4℃で一晩、NUNC maxisorpプレートに固定される。プレートを、洗浄緩衝液(20mM HEPES、5mM CaCl2、150mM NaCl、0.5mL/L Tween 20、pH 7.2)中で15分間洗浄し、ブロッキングする。 競合研究では、最終固定濃度でのビオチン化 抗TLT-1 Fabを、一連の抗TLT-1抗体の希釈液と組み合わせて、希釈緩衝液で0から最大100mg/mlの範囲の最終濃度を得る。混合物をプレートのウェルに加え、1時間インキュベートする。次いでプレートを洗浄し、HRP標識ストレプトアビジン-HRPO(希釈緩衝液中1:2000、Kirkegaard & Perry Labs)を添加し、1時間インキュベートする。最後に、プレートを洗浄し、TMB ONE(KEMENTEC)で10分間発色させる。反応を、H3PO4(4M)を添加することによって停止し、プレートを、620nmで測定されたバックグラウンドシグナルを減算して、450nmでFLUOStarオプティマプレートリーダーで読み取られる。別段の指定がない限り、すべてのインキュベーションは室温で行われ、プレートは洗浄緩衝液を使用して5回洗浄される。
【0259】
競合研究のために競合抗体と混合されるビオチン化 抗TLT-1 Fabの固定濃度と同様に、NUNC maxisorpプレートに固定される組み換えTLT-1の濃度は、競合抗体による競合の検出(すなわち、シグナルの減少)を可能にするのに十分なシグナルを与えることを目的として、2つの成分の個々のタイトレーション(titration)によって決定される。固定化のためのTLT-1の濃度は通常、125ng/mlなど、0~1mg/mlの範囲内である。ビオチン化抗TLT-1 Fabの濃度は通常、10ng/mlなどの0~1mg/mlの範囲内である。
【0260】
測定されたシグナル(OD単位)から、任意の所与の抗体濃度での競合は、
阻害率=(1-(OD単位-100%阻害)/(0%阻害-100%阻害))*100
式中、0%阻害は、競合する a抗TLT-1抗体を有さないウェルのシグナルから決定され、100%阻害は、ビオチン化抗TLT-1 Fabを有さないウェルからのシグナルとして決定される(すなわち、前記アッセイバックグラウンドに対応する)。抗体の濃度が、ビオチン化 抗TLT-1 Fabの最大10000倍過剰で試験されるときに、少なくとも50%の観察された阻害(阻害%)がある場合、抗体は TLT-1への結合について 抗TLT-1 Fabと競合すると考えられる。