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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116748
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】眼疾患の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/165 20060101AFI20230815BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230815BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230815BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230815BHJP
【FI】
A61K31/165
A61K9/06
A61K9/107
A61P27/02
A61P27/06
A61P9/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100597
(22)【出願日】2023-06-20
(62)【分割の表示】P 2021081095の分割
【原出願日】2017-09-29
(31)【優先権主張番号】62/401,725
(32)【優先日】2016-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506107726
【氏名又は名称】彦臣生技藥品股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NatureWise Biotech & Medicals Corporation
【住所又は居所原語表記】6F., No.36, Sec.3, Bade Rd., Songshan Dist., Taipei City 105,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・チャン-イー・チョウ
(72)【発明者】
【氏名】チェン・チア-ナン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】眼疾患、特に加齢黄斑変性症(AMD)および糖尿病関連眼疾患、例えば糖尿病網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)または緑内障を処置する方法を提供する。
【解決手段】下式に代表される化合物又はその医薬的に許容される塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグ又は溶媒和物を投与することを含む、眼疾患を処置するための方法を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の式A1:
【化1】
[式中、
R1は、水素、アルキル、アルケニル、C5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環;(CH2)m R4であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C1-C4アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R2およびR3は、独立してC1-C6アルキルであり;
R4は、ハロゲン、-CF3、-OR7または-NR7R8で置換されていてもよいC5-C6シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R7およびR8は、独立して水素またはC1-C6アルキルであり;
R5は、OH、NH2またはC5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH2、NO2、C1-C6アルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR7''、NR7R8またはCF3で置換されていてもよく;そして
R6は、H、またはヒドロキシもしくはC2-C10アルケニルで置換されていてもよいC1-C10アルキルであるか、またはR1と一緒になって-C2H2-である]
で示される構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を、処置を必要とする対象体に投与することを含む、眼疾患を処置するための方法。
【請求項2】
眼疾患が、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
眼疾患が、糖尿病関連眼疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
糖尿病関連眼疾患が、糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)からなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
化合物が、対象体の眼に局所投与されるか、または対象体に経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化合物が、眼用軟膏剤、眼用ゲル剤、眼用クリーム剤または点眼剤に製剤化される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
化合物が、局所投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
化合物が、経口投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
化合物が、
【化2】
化合物I
である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
対象体において眼疾患を処置するための医薬の製造のための、式A1:
【化3】
[式中、
R1は、水素、アルキル、アルケニル、C5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環;(CH2)m R4であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C1-C4アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R2およびR3は、独立してC1-C6アルキルであり;
R4は、ハロゲン、-CF3、-OR7または-NR7R8で置換されていてもよいC5-C6シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R7およびR8は、独立して水素またはC1-C6アルキルであり;
R5は、OH、NH2またはC5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH2、NO2、C1-C6アルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR7''、NR7R8またはCF3で置換されていてもよく;そして
R6は、H、またはヒドロキシもしくはC2-C10アルケニルで置換されていてもよいC1-C10アルキルであるか、またはR1と一緒になって-C2H2-である]
で示される構造を有する化合物の使用。
【請求項11】
眼疾患が、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)からなる群より選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
眼疾患が、糖尿病関連眼疾患である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
糖尿病関連眼疾患が、糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)からなる群より選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
医薬が、対象体の眼に局所投与されるか、または対象体に経口投与される、請求項10に記載の使用。
【請求項15】
医薬が、眼用軟膏剤、眼用ゲル剤、眼用クリーム剤または点眼剤の形態である、請求項10に記載の使用。
【請求項16】
医薬が、局所投与される、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
医薬が、経口投与される、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
化合物が、
【化4】
化合物I
である、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼疾患の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)は、成人の失明の主要原因であり、糖尿病の最も一般的な合併症である(Aiello LP et al. Diabetic retinopathy. Diabetes Care 21:143-156, 1998)。それは、糖尿病患者の30%超に影響を及ぼし、最終的には多くの患者において網膜浮腫、血管新生および視力喪失を引き起こす。血液網膜関門(BRB)の崩壊、毛細基底膜の肥厚ならびに周辺細胞数の減少および無細胞毛細血管数の増加を含む、血管の変化は、DRにおいて広く実証されている(Yang LP et al. Baicalein reduces inflammatory process in a rodent model of diabetic retinopathy. Inv. Opthalmol. Vis. Sci 50:2319-2327, 2009)。毛細細胞は、糖尿病においてアポトーシス死を受ける唯一の網膜細胞でない。正常より高い頻度の新生血管細胞が、糖尿病のヒトおよび動物の網膜においてTUNEL(BrdU-Red DNA断片化)陽性になったことが報告された。網膜脈管構造が、糖尿病網膜症の発症の中心であるが、神経網膜機能もまた、本疾患進行中、しばしば明白な血管変化の前に損なわれるという証拠が蓄積している(Barbe AJ et al. Neural apoptosis in the retina during experimental and human diabetes. Early onset and effect of insulin. J. Clin Invest. 102:783-791, 1998)。
【0003】
例えば、視覚機能の欠損、例えば色覚の喪失、コントラスト感度および網膜電図の異常は、糖尿病の診断直後および臨床的に明らかな血管網膜症の検出前の患者において実証されている(Phipps JA et al. Paired-fflash identification of rod and cone dysfunction in the diabetic rat. Inv Ophthalmol Vis Sci 45:4592-4600, 2004)。初期のニューロン変化はまた、糖尿病の実験的げっ歯類モデルの網膜において明らかであり、これはヒト糖尿病において記載されるものと同様の神経生理学的欠損を含む。神経網膜変化が疾患過程の初期段階にて生じるため、それらが、糖尿病網膜症に関連する血管病理の発生または進行において原因となるかまたは寄与する役割を果たし得ることが提案されている(Ward MM et al. Glutamate uptake in retinal glial cells during diabetes. Diabetologia 48:351-360, 2005)。
【0004】
以前の研究において、蓄積された証拠により、ミクログリアおよびアストログリアの活性化により特徴付けられる網膜における炎症が、DRの病因に関連するという概念が確認された。DRは、慢性低度炎症疾患である(Fan JW et al. Pharmacologic induction of heme oxygenase -1 plays a protective role in diabetic retinopathy in rats. Inv Ophthalmol Vis. Sci. 53: 6541-6556, 2012)。糖尿病状態は、網膜内における炎症性サイトカイン発現の増加を引き起こし、これはミクログリア細胞を活性化する。活性化刺激の応答において、静止ミクログリアは、一連のステレオタイプの形態学的、表現型的および機能的な変化を受ける。それにより活性化ミクログリアは、白血球を補充し、血管崩壊を引き起こし、細胞毒性物質の放出によりグリア機能不全およびニューロン細胞死を直接誘導する炎症のサイクルを刺激する(Steinle JJ et al. Intra-ophthalmic artery chemotherapy triggers vascular toxicity through endothelial cell inflammation and leukosasis. Inv Ophthalmol Vis Sci 53: 2439-2445, 2012)。ミュラー細胞は、網膜の主要なグリアである。それらは、内境界膜から光受容体層までの網膜全厚に及び、過程は、大部分の神経細胞と接触する(Bringmann A & Wiedemann P. Muller glial cells in retinal disease. Ophthalmologica 227:1-19, 2012)。それらはまた、網膜血管土台の内側および外側で大血管および毛細血管の両方においてエンドフィートを形成する(Distler C and Dreher Z. Glia cells of the monkey retian-II. Muller cells. Vision Res 36:2381-2394, 2012)。ミュラーグリアは、網膜において正常なニューロンおよび血管機能を維持するのに重要である。過去20年にわたるいくつかの研究は、ミュラーグリアが糖尿病の過程において初期に悪影響を受けるという証拠を提供した。ヒトおよび実験的糖尿病の両方におけるミュラーグリアは、細胞過形成およびグリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)の上方制御により特徴付けられる反応性表現型を獲得する(Yong, PH et al. Evidence supporting a role for N'-(d-formyl-3,4-dehydropiperidino) lysine accumulation in Muller glia dysfunction and death in diabetic retinopathy. Molecular Vision 16:2524-2538, 2010)。糖尿病動物において、これらの生物変化は、細胞外空間におけるカリウムおよびグルタミン酸を制御する能力の変化、γ-アミノ酪酸の蓄積、炎症性サイトカインの上方制御、ならびに血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生増殖因子の発現増加を含む、いくつかの機能不全応答を伴う(Ferrara N. Vascular endothelial growth factor. ArteriosclerThromb Vasc Biol. 29:789-791, 2009)。
【0005】
いずれにせよ、眼疾患を処置するいくつかの新しいアプローチを見出すことが依然として望ましい。
【発明の概要】
【0006】
本発明において、いくつかの新しい化合物が、糖尿病黄斑浮腫ならびに糖尿病網膜症によるVGEFおよびGFAPの産生により誘導される血液眼関門の崩壊を防止するのに有効である、強力な抗酸化剤および眼血流促進剤であることが予想外にも見出された。予想外の発見は、眼疾患、特に加齢黄斑変性症(AMD)および糖尿病関連眼疾患、例えば糖尿病網膜症(DR)、糖尿病黄斑浮腫(DME)または緑内障の処置のための強力な薬物としてこれらの化合物につながる。
【0007】
したがって、一態様において、本発明は、有効量の式A1:
【化1】
式A1
[式中、
R1は、水素、アルキル、アルケニル、C5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環、または(CH2)mR4であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C1-C4アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R2およびR3は、独立してC1-C6アルキルであり;
R4は、ハロゲン、-CF3、-OR7または-NR7R8で置換されていてもよいC5-C6シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R7およびR8は、独立して水素またはC1-C6アルキルであり;
R5は、OH、NH2またはC5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH2、NO2、C1-C6アルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR7''、NR7R8またはCF3で置換されていてもよく;そして
R6は、H、またはヒドロキシもしくはC2-C10アルケニルで置換されていてもよいC1-C10アルキルであるか、またはR1と一緒になって-C2H2-である]
で示される構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を、処置を必要とする対象体に投与することを含む、眼疾患を処置するための方法を特徴とする。
【0008】
別の一態様において、本発明は、眼疾患、特に糖尿病関連眼疾患の処置における医薬を製造するための式1Aで示される構造を有する化合物の使用を提供する。
【0009】
更なる一態様において、本発明は、式A1で示される構造を有する化合物および医薬的に許容される担体を含む、眼疾患、特に糖尿病関連眼疾患の処置における使用のための医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明の一の実施態様において、眼疾患は、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障または加齢黄斑変性症(AMD)である。
【0011】
本発明の一の特定の実施態様において、糖尿病関連眼疾患は、糖尿病網膜症(DR)または糖尿病黄斑浮腫(DME)である。
【0012】
前述の全体的説明および以下の詳細説明の両方は、例示的および説明的なものに過ぎず、本発明を限定するものではないと解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、ARPE-19細胞の増殖に対する化合物I(以下、「BMX」と称する)の影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXと72時間インキュベートした。
図1B図1Bは、HUVECの増殖に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXと72時間インキュベートした。データを平均±SEMで表し、各群n=6であった。BMX群対ビヒクル対照群で、**はP<0.01である。
図2A図2Aは、ARPE-19細胞における低酸素誘発傷害に対するBMXの影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXと72時間インキュベートした。
図2B図2Bは、HUVECにおける低酸素誘発傷害に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXと72時間インキュベートした。対照群を、低酸素条件下(1%02、5%CO2および94%N2)72時間ビヒクルで処理した。データを平均±SEMで表した。各群n=6;対照群に対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
図3A図3Aは、ARPE-19細胞におけるNaIO3誘発傷害に対するBMXの影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXおよびNaIO3と72時間インキュベートした。
図3B図3Bは、HUVECにおけるNaIO3誘発傷害に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXおよびNaIO3と72時間インキュベートした。データを平均±SEMで表した。各群n=6;NaIO3群に対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
図4A図4Aは、ARPE-19細胞におけるH2O2誘発傷害に対するBMXの影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXおよびH2O2と24時間インキュベートした。
図4B図4Bは、HUVECにおけるH2O2誘発傷害に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXおよびH2O2と24時間インキュベートした。データを平均±SEMで表した。各群n=6;H2O2群に対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
図5A図5Aは、ARPE-19細胞におけるNaN3誘発傷害に対するBMXの影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXおよびNaN3と72時間インキュベートした。
図5B図5Bは、HUVECにおけるNaN3誘発傷害に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXおよびNaN3と72時間インキュベートした。データを平均±SEMで表した。各群n=6;NaN3群に対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
図6A図6Aは、ARPE-19細胞におけるt-BHP誘発傷害に対するBMXの影響を示す。ARPE-19細胞を、BMXおよびt-BHPと12時間インキュベートした。
図6B図6Bは、HUVECにおけるt-BHP誘発傷害に対するBMXの影響を示す。HUVECを、BMXおよびt-BHPと12時間インキュベートした。データを平均±SEMで表した。各群n=6;t-BHP群に対して、*はP<0.05であり、**はP<0.01である。
図7図7は、実験的高眼圧のウサギにおいて眼血流に対する1%BMXの影響を示す。データを平均±SEMで表した。各群n=6;対照群に対して、*はP<0.05であり**はP<0.05である。
図8図8は、正常動物と比較してストレプトゾトシン注射後の体重変化を示す。データを平均±SEMで表し、対照群と比較して、**はP<0.01である。
図9図9は、正常動物と比較してストレプトゾトシン注射後の血中グルコースレベル変化を示す。データを平均±SEMで表し、対照群と比較して、**はP<0.01である。
図10図10は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病浮腫に対する0.5%BMXの影響を示す。0.5%BMXは、糖尿病動物のエバンスブルー漏出(100%)を著しく68%まで(P<0.01)を抑制し、これは、54%レベルの正常動物により近かった。データを平均±SDで表し、0.5%BMX群はn=18であり、糖尿病群はn=26であり、正常群と比較して、*はP<0.01であり、DR群と比較して、**はP<0.01であり、正常群と比較して、##はP<0.01である。
図11図11は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病黄斑浮腫に対する1.0%BMXの影響を示す。BMXは、用量反応関係において糖尿病動物のエバンスブルー漏出を著しく抑制した。1%BMXは、正常動物(56%)のレベルまでエバンスブルー漏出(56%)を完全に抑制した。データを平均±SDで表し、1%BMX群はn=16であり、糖尿病群はn=26である。正常群と比較して、*はP<0.01であり、糖尿病動物と比較して、**はP<0.01であり、正常対照動物と比較して、##はP>0.05である。
図12図12は、ウエスタンブロット実験を用いるストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症(DR)における GFAPレベルに対する0.5%BMXの影響を示し、これは、0.5%BMXによるDRにおけるGFAP上方制御は、用量依存的であることを示している。DR動物におけるGFAPの上方制御(100%)は、0.5%BMXにより70%レベルまで著しく抑制され、DR動物の53%である正常動物のGFAPレベルにより近かった。データを平均±SDで表し、全群n=6であった。正常群と比較して、*はP<0.01であり、DR群と比較して、**はP<0.01であり、正常群と比較して、##はP<0.01である。
図13図13は、ウエスタンブロット実験を用いるストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症(DR)における GFAPレベルに対する1.0%BMXの影響を示し、これは、1.0%BMXによるDRにおけるGFAP上方制御は、用量依存的であることを示している。DRラットにおけるGFAPの上方制御(100%)は、1.0%BMXにより46%レベルまで著しく抑制され、41%の正常ラットと極めて近かった。データを平均±SDで表し、全群n=5であった。正常群と比較して、*はP<0.01であり、糖尿病群と比較して、**はP<0.01であり、正常群動物と比較して、##はP<0.05である。
図14図14は、ウエスタンブロット実験を用いるストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症(DR)における VEGFレベルに対する0.5%BMXの影響を示し、これは、0.5%BMXによるDRにおけるVEGF上方制御は、用量依存的であることを示している。DR動物におけるVEGFの上方制御(100%)は、0.5%BMXにより77%レベルまで著しく抑制され、DR動物の50%である正常動物のVEGFレベルにより近かった。データを平均±SDで表し、全群n=6であった。正常群と比較して、*はP<0.01であり、DR群と比較して、**はP<0.01であり、正常群と比較して、##はP<0.01である。
図15図15は、ウエスタンブロット実験を用いるストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症(DR)における VEGFレベルに対する1.0%BMXの影響を示し、これは、1.0%BMXによるDRにおけるVEGF上方制御は、用量依存的であることを示している。DRラットにおけるVEGFの上方制御(100%)は、1.0%BMXにより50%レベルまで著しく抑制され、34%の正常ラットと極めて近かった。データを平均±SDで表し、全群n=3であった。正常群と比較して、*はP<0.01であり、糖尿病群と比較して、**はP<0.01であり、正常群動物と比較して、##はP<0.05である。
図16図16は、PCR分析を用いるストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症(DR)におけるGFAPの遺伝子発現に対するBMXの影響を示す。GFAPのmRNA発現は、DR動物の正常対照レベル(100%)の3倍まで著しく増加し、これは、0.5%BMXおよび1%BMXによりそれぞれ60%および51%まで抑制された。正常動物のGFAPは、DRラットの34%であった。これらの結果は、BMXがDRにおけるGFAPのmRNA発現を用量依存的に有意に抑制できることを示す。データを平均±SDで表し、正常群はn=9であり、糖尿病群はn=9であり、0.5%BMX群はn=7であり、1%BMX群はn=5であった。正常群と比較して、*はP<0.01であり、DR動物と比較して、#はP<0.05であり、##はP<0.01であり、正常群と比較して、**はP<0.01であり、*#はp<0.05である。
図17A図17Aは、ビヒクル群とBMX群間の漏出領域の比較を示す。
図17B図17Bは、7日目のマウス網膜の光干渉断層法(OCT)画像を示す。矢印:レーザー損傷領域。
図18A図18Aは、28日目のマウスの眼底撮影法(FP)および眼底蛍光血管造影法(FFA)画像を示す。
図18B図18Bは、28日目のマウス網膜のOCT画像を示す。矢印:レーザー損傷領域。
【発明を実施するための形態】
【0014】
他に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0015】
本明細書で用いられる単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に断らない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば「試料」への言及は、複数のそのような試料および当業者に公知なそれらの等価物を含む。
【0016】
本発明によれば、眼疾患を処置するための新規な方法を提供する。本発明において用いられる化合物は、米国特許第7,994,357号に開示されており、この内容は、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。化合物は、式A1:
【化2】
式A1
[式中、
R1は、水素、アルキル、アルケニル、C5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環;(CH2)m R4であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C1-C4アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R2およびR3は、独立してC1-C6アルキルであり;
R4は、ハロゲン、-CF3、-OR7または-NR7R8で置換されていてもよいC5-C6シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R7およびR8は、独立して水素またはC1-C6アルキルであり;
R5は、OH、NH2またはC5-C6シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH2、NO2、C1-C6アルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR7、NR7R8またはCF3で置換されていてもよく;そして
R6は、H、またはヒドロキシもしくはC2-C10アルケニルで置換されていてもよいC1-C10アルキルであるか、またはR1と一緒になって-C2H2-である]
で示される構造を有する。
【0017】
本発明の一の特定の実施態様において、化合物は、化合物I(「BMX」とも称する)であり、これは、オストールの半合成から得られ、Yang YCらの報告のように学習および記憶において新規の役割を果たす(Yang YC et al. Evid. Based Complement Alternat. Med. 2013: Article ID. 514908 (18 pages), 2013)。
【化3】
化合物I
【0018】
本明細書で用いられる用語「眼疾患」は、眼血流の減少に関連する疾患または障害を指し、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)を含むが、これらに限定されない。
【0019】
本明細書で用いられる用語「糖尿病関連眼疾患」は、糖尿病に関連するか、これに起因するか、またはこれにより生じる疾患または障害を指し、糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)を含むが、これらに限定されず、これは、眼、より具体的には網膜色素上皮(RPE)に対する酸化ストレスおよび/または低酸素誘発損傷に関連し得る。
【0020】
本明細書で用いられる用語「有効量」は、所望の治療効果または特定の種類の応答の誘導を提供するのに十分な量の一般式Aで示される化合物を指す。必要とされる有効量は、対象体の疾患状態、体調、年齢、性別、種別および体重などに応じて対象体ごとに変化する。しかしながら、適切な有効量は、日常的な実験のみを用いて当業者により決定され得る。例えば、一般式A1で示される化合物は、1日1~3回対象体に経口投与され得る。各経口投与について、一般式A1で示される化合物の量は、0.5~50 mg、好ましくは2~25 mgであり得る。一般式A1で示される化合物はまた、1日1~10回眼科投与により対象体に投与され得る。例えば、毎日3回、各回一般式A1で示される化合物を含む製剤を1滴用い得る。局所眼科投与について、0.01~10%の一般式A1で示される化合物を用い得て、好ましくは、0.1~1.0%の一般式A1で示される化合物を用い得る。
【0021】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の医薬的に許容される担体と共に従来の公知な方法により製造され得る。本明細書で用いられる用語「医薬的に許容される担体」は、標準的な医薬担体のいずれかを含む。このような担体は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、クレモフォール、ナノ粒子、リポソーム、ポリマー、およびそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。
【0022】
本発明の医薬組成物は、選択された投与様式に適する任意の形態に構成され得る。例えば、経口投与に適する組成物は、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤および散剤などの固体形態、ならびに液剤、シロップ剤、エリキシル剤および懸濁剤などの液体形態を含む。局所投与に有用な形態は、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、懸濁剤、点眼剤、乳剤、皮膚パッチ剤を含む。
【0023】
標準的な担体に加えて、本発明の経口医薬組成物は、界面活性剤、吸入剤、可溶化剤、安定化剤、乳化剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、着香剤および防腐剤などの経口製剤において通常用いられる1つ以上の添加剤を補い得る。このような添加剤は、当業者に周知である。
【0024】
本発明によれば、医薬組成物は、経口投与、非経腸注射、眼内注射(例えば硝子体内注射)、皮膚パッチまたは眼への局所投与などの任意の経路により対象体に投与され得る。眼への局所投与のための医薬組成物は、眼用軟膏剤、眼用ゲル剤、眼用クリーム剤または点眼剤の形態で製剤化され得る。
【0025】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、これは限定でなく実証の目的で提供される。
【実施例0026】
実施例1:酸化に対する影響
RPEの機能不全または細胞死のメカニズムは、様々な因子、例えば酸化的傷害、ブルッフ膜における変性変化および脈絡膜の脈管構造への損傷が関連し得る。異なるタイプの酸化ストレスは、RPE細胞におけるタンパク質への酸化的損傷の異なるパターンおよび生存能の喪失の異なるパターンをもたらす。
【0027】
網膜色素上皮(RPE)は、網膜光受容体と脈絡膜血管との間に位置する単層細胞であり、これは、光受容体の機械的および代謝的支持において重要な役割を果たす。また、RPE細胞は、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎および加齢黄斑変性症(AMD)などのいくつかの眼疾患の主な要素である。AMDおよび他の疾患、例えば糖尿病網膜症(DR)は、光または代謝反応に由来する酸素ラジカルの影響におそらく関連する。上皮は、酸素圧および酸素ラジカル関連ストレスの変化に極めて脆弱であるため、虚血関連疾患の間にRPEで産生される活性酸素種(ROS)は、RPE細胞に有害であり得る。AMDの重要な「初期」事象は、酸化的損傷によるRPE細胞の喪失である。酸化ストレスは、いくつかの加齢慢性疾患、例えば癌、糖尿病、神経変性および心血管疾患の原因に関連すると認識されている。
【0028】
1.1 材料
チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(MTT、純度≧97.5%)、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)、過酸化水素(H2O2、水中で50重量%溶液)、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP、水中で70重量%溶液)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO3、純度≧99.5%)、アジ化ナトリウム(NaN3、純度≧99.5%)およびダルベッコ改変イーグル培地/ハムF12(DMEM/F12、1:1)はすべて、Sigma-Aldrich Chemical Co.(St. Louis, MO, USA)から購入した。ヒト網膜色素上皮(ARPE-19)細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、ウシ胎児血清(FBS)、血管細胞基礎培地および内皮細胞増殖キットは、ATCC(Manassas, VA, USA)から購入した。
【0029】
1.2 細胞培養
ARPE-19細胞を、10%FBS、100単位/mlペニシリンGおよび100μg/ml硫酸ストレプトマイシンを添加したDMEM/F12培地において増殖させた。HUVECを、内皮細胞増殖キットを添加した血管細胞基礎培地において増殖させた。細胞を、5%CO2および95%空気下37℃の加湿インキュベーターにおいてインキュベートした。
【0030】
1.3 ARPE-19細胞およびHUVECの生存率に対するBMXの影響
MTTアッセイを用いて、ARPE-19細胞およびHUVECの生存率を測定した。2x105個のARPE-19細胞または5x104個のHUVECを96ウェルプレート(100μl/ウェル)に播種し、一晩増殖させた。陰性対照を、細胞を含まない100μl培地を加えることにより調製した。その後、細胞を、化合物I(0.03、0.1、0.3、1、3および10μg/ml)および/または酸化剤(NaIO3、H2O2、t-BHPおよびNaN3)を含む新鮮培地で12、24または72時間処理した(200μl/ウェル)。ビヒクル対照群をビヒクルで処理した。20μlのMTT(5 mg/ml)をウェルに加え、さらに4時間インキュベートした。インキュベート後、培地を捨て、100μlのDMSOを加えて、生細胞によりMTTから産生されるホルマザンを可溶化した。マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories, Inc., CA)を用いて570 nmにて吸光度を測定した。細胞生存率を次式に従い計算した:細胞生存率(%)=(試験試料の吸光度-陰性対照の吸光度)/(ビヒクル対照の吸光度-陰性対照の吸光度)×100%。
【0031】
1.4 低酸素処理
細胞を一晩付着させ、その後、低酸素条件下化合物Iまたはビヒクルに72時間曝露した。低酸素条件(1%O2、5%CO2および94%N2)を、N2およびCO2ガス供給源を有するO2およびCO2コントローラー(Proox Model 110 and Pro CO2 model 120, Biospherix Ltd., Redfield, NY, USA)により温度および湿度が制御された環境Cチャンバーによって維持した。
【0032】
1.5 統計分析
すべてのデータを平均±S.E.Mで表した。スチューデントt検定を用いて、統計分析を行った。P<0.05の値は、統計学的に有意であるとみなした。
【0033】
1.6 結果
1.6.1 ARPE-19細胞およびHUVECにおける化合物Iの細胞毒性
BMXは、0.03μg/mlから1μg/mlまでARPE-19細胞およびHUVECの細胞増殖に影響を及ぼさないことを結果は示した。しかしながら、化合物Iは、10μg/mlの濃度においてARPE-19細胞およびHUVECの増殖をそれぞれ36%および47%有意に阻害した(P<0.01、図1Aおよび図1B)。
【0034】
1.6.2 ARPE-19細胞およびHUVECにおける低酸素誘発損傷に対する化合物Iの影響
3μg/mlを除いて、化合物I(BMX)は、ARPE-19細胞の生存率を22%増加させ、化合物Iは、0.03μg/mlから10μg/mlまで低酸素条件においてARPE-19細胞に対して影響を及ぼさなかった(P<0.05、図2A)。10μg/mlの濃度において、化合物Iは、低酸素条件においてHUVECの生存率を98%有意に減少させた(P<0.01、図2B)。
【0035】
1.6.3 ARPE-19細胞およびHUVECにおけるNaIO3誘発傷害に対する化合物Iの影響
10μg/mlの濃度において、化合物Iは、ARPE-19細胞およびHUVECの両方においてNaIO3誘発傷害の生存率を有意に増加させた(P<0.01、図3Aおよび図3B)。しかしながら、化合物Iは、0.03μg/mlから1μg/mlまでHUVECにおける300μg/ml NaIO3誘発傷害を逆転させ(P<0.01、図3B)。
【0036】
1.6.4 ARPE-19細胞およびHUVECにおけるH2O2誘発傷害に対する化合物Iの影響
3μg/mlおよび10μg/mlの濃度において、化合物Iは、ARPE-19細胞において400μMおよび600μM H2O2誘発傷害を回復させた(P<0.01、図4A)。しかしながら、10μg/ml化合物Iは、HUVECにおける200μMおよび400μM H2O2誘発傷害をそれぞれ41%および10%増加させた(図4B)。
【0037】
1.6.5 ARPE-19細胞およびHUVECにおけるNaN3誘発傷害に対する化合物Iの影響
化合物Iは、ARPE-19細胞におけるNaN3誘発傷害を有意に回復させた(図5A)。しかしながら、化合物Iは、0.03μg/mlからHUVECにおけるNaN3誘発傷害に影響を及ぼさなかった。10μg/ml化合物Iは、HUVECにおける0.3、1および3 mM NaN3誘発傷害をそれぞれ65%、52%および72%増加させた(P<0.01、図5B)。
【0038】
1.6.6 ARPE-19細胞およびHUVECにおけるt-BHP誘発傷害に対する化合物Iの影響
化合物Iは、0.03μg/mlから10μg/mlまで、ARPE-19細胞における200μM t-BHP誘発傷害を元に戻した(図6A)。1μg/mlおよび3μg/mlの濃度において、化合物Iは、HUVECにおける200μM t-BHP誘発傷害をそれぞれ26%および28%回復させた(P<0.01、図6A)。しかしながら、10μg/ml化合物Iは、HUVECにおける50、100および200μM t-BHP誘発傷害をそれぞれ40%、20%および51%増加させた(P<0.01、図6B)。
【0039】
BMXにより増加したNaIO3を除き、低酸素、H2O2、NaN3およびt-BHPを含むすべての低酸素剤により引き起こされるRPE細胞の酸化的傷害をBMXが回復させたと結論付けられた。これに対し、高濃度(10μg/ml)のBMXは、HUVECにおいてNaIO3を除く低酸素、H2O2、NaN3およびt-BHPを含むすべてにより誘発される酸化的傷害を増加させた。より低い濃度のBMXは、HUVEC細胞においてNaI03を含むすべての酸化剤により誘発される酸化的傷害の影響を示さないかまたはわずかな反転を示した。BMXが、RPE細胞においてNaIO3を除くすべての酸化剤に対する強力な抗酸化剤であることをこれらの結果は示している。これに対し、HUVECにおいて酸化剤により誘発され、高濃度(10μg/ml)での酸化的傷害をさらに増加された傷害を回復させることに効果が小さいかまたは効果的でない。
【0040】
要約すると、BMXは、眼のRPE細胞に対して強力な抗酸化剤であるが、非眼特異的HUVEC細胞に対してはそうではなく、これは、BMXが糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫などの眼関連疾患の処置に用いられる優れた薬剤であることを示している。
【0041】
実施例2:眼血流(OBF)の向上
結果として、大部分の必要とされる栄養素および酸素の供給を、正常レベルまたは正常に近いレベルで維持できるため、眼血流の改善は、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障および虚血性眼疾患において必須である。冠血管の血流は、2~8 ml/分/g組織で極めて高いが、脈絡膜の血流は、13 ml/分/g組織とさらに高い。眼血流の慢性的低下は、視野および視神経乳頭の悪化をもたらし、一方、45分超の急性虚血は、不可逆的失明を引き起こし得る。
【0042】
眼血流は、緑内障、虚血性網膜症、糖尿病網膜症および加齢黄斑変性症(AMD)を含む、多くの眼疾患に密接に関連している。したがって、正常な眼血流の維持は、下記眼疾患を予防/処置するのに必須である。
【0043】
2.1 材料
0.5% Alcaineを商業的に購入した。20%滅菌高張食塩溶液を実験室で調製した。着色マイクロスフェアをE-Z Trac(Los Angeles, CA)から購入した。着色マイクロスフェアを、0.01%(v/v)のツイーン80を含有する食塩水で希釈して、マイクロスフェアが互いにくっつくのを防いだ。0.4ml中200万個のマイクロスフェアを各時点で注射した。
【0044】
体重2.~3.0 kgの雌性New Zealand白色ウサギを商業的に購入した。動物の世話および処置は、施設のガイドラインに従った。
【0045】
2.2 方法
ウサギを筋肉内注射により35mg/kgケタミンおよび5mg/kg Balanzine(10%キシラジン)で麻酔した。開始用量の半分をその後1時間ごとに投与した。着色マイクロスフェアの注射のために右頚動脈を通して左心室にカニューレを挿入し、血液検体の採取のために大腿動脈にカニューレを挿入した。左眼を1滴のプロパカイン塩酸塩点眼液(Bausch & Lomb, Inc., Tampa, FL, USA)で処置した。40mmHgの生理食塩水圧力計に接続した針を左眼前房に直接挿入した。高眼圧症モデルは、正常値の約1/3に血流を減少させた。高眼圧症モデルを構築した30分後、50μlの10g/l化合物Iまたはビヒクル(30%HP-β-CD溶液)を左眼に局所点眼した。化合物Iまたはビヒクルでの処置後0、30、60および120分にて眼血流を着色マイクロスフェアにより測定した。各時点において、200万個のマイクロスフェアを参照として注射し、マイクロスフェアの注射後正確に1分間血液検体を大腿動脈から採取した。血液検体をヘパリン添加チューブに採取し、量を記録した。最後の血液サンプリング後、ウサギを100 mg/kgペントバルビタールナトリウムの注射で安楽死させた。左眼を摘出し、虹彩、毛様体、網膜および脈絡膜に切断した。すべての組織を計量した。
【0046】
試料処理およびマイクロスフェア計数の詳細は、E-Z Trac(Los Angeles, CA, USA)により提供された。要約すると、血液溶血試薬を、血液検体を有するマイクロチューブに加え、その後ボルテックスし、30分間 6000 rpmにて遠心分離した。上清を除去し、その後組織/血液消化試薬IおよびIIを加えた。チューブに蓋をし、ボルテックスし、30分間遠心分離した。上清を除去し、計数試薬を加え、ボルテックスし、15分間遠心分離した。上清を除去し、マイクロスフェアを正確な量の計数試薬中に再懸濁させた。マイクロスフェアの数を、顕微鏡下ヘモサイトメーターにより計数した。組織/血液消化試薬Iを、組織検体を有するマイクロチューブに加え、密閉し、95℃にて15分間加熱した。その後チューブを30秒間ボルテックスし、再加熱し、すべての組織検体が溶解するまで再ボルテックスした。組織検体が熱いうちに、組織/血液消化試薬IIを加え、その後チューブに蓋をし、ボルテックスし、30分間遠心分離した。その後の手順は、血液検体を処理するために用いたものと同じであり、マイクロスフェアを計数した。
【0047】
特定の時点における各組織の血流を次式に従い計算した:Qm=(Cm×Qt)/Cr。Qmは、μl/分/mgを単位とした組織の血流であり、Cmは、組織の計測したマイクロスフェア数であり、Qrは、μl/分を単位とした血液検体の流速であり、Crは、参照血液検体におけるマイクロスフェア数である。
【0048】
2.3 結果
薬物点眼の120分後、すべての組織の血流は、1%化合物Iにより有意に増加した(図7)。しかしながら、薬物点眼の30分および60分後、毛様体および脈絡膜の血流は、著しく増加した(図7)。
【0049】
特に脈絡膜、網膜および虹彩において、眼血流の減少により引き起こされる多くの眼疾患がある。それらは、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、加齢黄斑変性症、虚血性網膜症などを含むが、これらに限定されない。したがって、眼血流の向上は、DRおよびDMEに有益である。この研究は、BMXによる眼血流の強力な向上を示しており、それがDRまたはDMEを有効に処置するのに用いられ得ることを示している。
【0050】
実施例3:ストレプトゾトシン誘発糖尿病黄斑浮腫における血液網膜関門の崩壊に対する化合物Iの影響
糖尿病黄斑浮腫(DME)は、先進国における50歳超の人における視力喪失の最も一般的な原因である。不顕性炎症によるDMEの原因である糖尿病は、世界中で発生率および有病率が増加しており、先進国だけでなく発展途上国においても流行している。この合併症は、主にDRが原因であり、これは、視覚を害する状態がすでに発生しているときに、診断および処置すべきときより遅く頻繁に診断および処置される糖尿病の血管合併症である。DRは、網膜血管新生および黄斑浮腫により視覚を破壊する。DMEの病態生理学は、拡張した毛細血管、網膜微小動脈瘤、および周辺細胞の喪失を含み、最終的には血液網膜関門(BRB)の障害を伴う。BRBの崩壊は、細胞外空間への体液漏出をもたらし、これは、細胞レベルにおいて黄斑構造および機能を壊す。
【0051】
インターロイキン-1遮断化合物は、IL-1誘発炎症を抑制するのに有効であり、眼の創傷治癒を抑制するのにも有効である。様々な炎症メディエーターがDMEの促進において役割を果たすと考えられることを考慮して、その抗炎症特性を有する化合物Iが糖尿病誘発DMEを遮断する能力を発揮し得ると推測した。
【0052】
3.1 材料および方法
16時間絶食後、体重200~220 gのSprague-Dawley雌性ラットに、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5; Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)中のストレプトゾトシン(STZ; Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)の単回60 mg/kg腹腔内注射を投与した。対照ラットを絶食、緩衝液のみを投与した。STZ投与7日後に血中グルコースレベルが375 mg/dLより高いラットを糖尿病であるとみなした。体重および血中グルコースを毎週検出した。すべての実験を、Guide for the Care and Handling of Laboratory Animals(NIH Publication no. 85-23)に明記される規則に従い行った。処置のために、ラットに0.5%および1%化合物I点眼剤を点眼した。糖尿病作成後6週間、1日3回、1滴の点眼液をすべてのラットの両眼に点眼した。グルコースレベル決定後4週間、1日3回、0.5%および1%化合物Iまたはビヒクル溶液点眼剤で処置した。動物の世話および処置は、施設のガイドラインに従った。
【0053】
全身麻酔の導入後、右頚静脈および右腸骨動脈に0.28 mmおよび0.58 mmの内径のポリエチレンチューブをカニューレ挿入し、それらをそれぞれヘパリン添加生理食塩水(50 IUヘパリン/ml生理食塩水)で満たした。エバンスブルー(Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)を、45 mg/kgの用量で10秒間かけて頚静脈を通して注射した。エバンスブルー注入直後に、ラットは目に見えて青色に変わり、色素の取り込みおよび分布を確認した。続いて、15分間隔で、血液0.1 mlを腸骨動脈から2時間採取して、時間平均血漿エバンスブルー濃度を得た。色素を120分間循環させた後、胸腔を開き、37℃、0.05 M、pH 3.5のクエン酸緩衝パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)で左心室から2分間灌流した。アルブミンへのエバンスブルーの結合を最適化するためにpH 3.5を用い、血管収縮を防止するために灌流溶液を37℃に温めた。
【0054】
灌流直後に、両眼を摘出し、赤道で切断した。網膜を手術用顕微鏡下で注意深く切断し、乾燥装置中で5時間徹底的に乾燥させた。乾燥重量を用い、エバンスブルー漏出の定量化を標準化した。各網膜を150 mlのホルムアミド(Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)中で70℃にて18時間インキュベートすることにより、エバンスブルーを抽出した。上清を、フィルターを有する遠心分離チューブにより6000 rpmにて1時間遠心分離し、100μlのろ液を3回繰り返す分光光度測定(SmartSpec, Bio-Rad)に用いた。各測定は、5秒間隔で行われ、測定のすべてのセットには既知の標準が先行した。ホルムアミド中のエバンスブルーについての最大吸光度である620 nmと最小吸光度である740 nmの両方で各試料を測定することにより、バックグランドを差し引いた吸光度を決定した。
【0055】
抽出物中の色素の濃度をホルムアミド中のエバンスブルーの標準曲線から計算した。次式を用いてBRB崩壊を計算し、結果をBRB崩壊の阻害(%)で表した:[(ビヒクル対照群における濃度)-(非糖尿病または化合物I処置群における濃度)]/(ビヒクル対照群における濃度)×100%。
【0056】
3.2 結果
非糖尿病ラットの体重は、3週間にわたって着実に増加したが、一方、糖尿病ラットの体重は、薬物処置の有無にかかわらず徐々に減少した(図8)。血中グルコースレベルに関して、糖尿病ラットは、薬物処置の有無にかかわらず着実に増加した(図9)。一方、非糖尿病での血中グルコースは、100 mg%で低いままであった。
【0057】
正常非糖尿病群ならびに0.5%化合物Iおよび1%化合物I処置群におけるエバンスブルー漏出のパーセンテージは、糖尿病ビヒクル対照群と比較してそれぞれ54%、68%および56%であった(図10および図11)。糖尿病ビヒクル対照群と他の群すべての間に有意差があった(図10および図11)。しかしながら、非糖尿病対照群と1%化合物I処置群の間に有意差があった(図10および図11)。
【0058】
これらの結果は、DMEのエバンスブルー漏出が1%化合物Iにより完全におよび0.5%化合物Iにより部分的に遮断され得ることを示しており、これは良好な用量反応関係を示している(図10および図11)。
【0059】
BRB崩壊は、糖尿病の初期合併症およびDMEの主な原因である血管透過性および血管漏出を引き起こす。BRBは、2つの構成要素である外側および内側バリアを有する。外側バリアは、網膜色素上皮(RPE)細胞間のタイトジャンクションにより形成され、閉鎖帯およびデスモソームを含む。内側バリアは、網膜血管内皮細胞とグリア細胞の十分に分化したネットワーク(アストロサイトおよびミュラー細胞)との間のタイトジャンクションの複合体により形成される。いくつかの臨床試験は、内側バリアがDMEをもたらす血管漏出の主要部位であることを示唆している。BRB崩壊のメカニズムは、多因子的であり、タイトジャンクションの変化、周辺細胞および内皮細胞の喪失、網膜血管拡張および白血球停滞および硝子体網膜の緊張および牽引に続発する。網膜血管タイトジャンクションは、漏出から血管を保護するが、持続的高血糖は、タイトジャンクションを損傷させ得て、血管は、漏れやすくなり、体液または血液が網膜に染み込むことができ、これにより網膜の膨張を引き起こす。糖尿病誘導の6週間後に、BRBの完全性をエバンスブルー漏出により分析した。糖尿病動物のエバンスブルー漏出は、非糖尿病動物より極めて高く、糖尿病群と非糖尿病群間で有意差を示す(図10および図11)。我々の研究室で以前に行われた実験において、オストールは、実験的に誘発した眼炎症において血管透過性を低下させることおよびラットの眼においてIL-1誘発ブドウ膜炎を抑制することに対して有効性を示した。我々の研究は、BMXがSTZ誘発糖尿病動物モデルにおいて血管透過性を有意に低下させることを示した。さらに、1%BMXは、糖尿病BRB崩壊を非糖尿病レベルまで完全に回復させた(図11)。
【0060】
実施例4:ストレプトゾトシン誘発糖尿病網膜症に対する化合物Iの影響
グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAP)は、網膜ストレスの確立された指標である。正常な哺乳類網膜において、GFAPは、ミュラー細胞においてわずかに検出可能である。ストレスを受けると、活性化ミュラー細胞は、高レベルのGFAPを発現する。本研究において、GFAP発現の増加がミュラー細胞で実証され、これはミュラー細胞機能不全がSTZ誘発糖尿病網膜症に関連していることを示しており、これは本研究と一致する。ミュラー細胞機能不全は、グルタミン酸輸送異常を引き起こし、これはニューロン細胞に毒性がある。ニューロン機能不全または糖尿病網膜の細胞喪失は、部分的にミュラー細胞機能不全によるものであり得る。
【0061】
糖尿病網膜症からの視力喪失および失明は、通常、血管漏出または虚血の結果である。血管漏出は、出血または硬性白斑形成を伴う。形成された新しい血管は、脆弱であり、出血しやすく、これは視覚を障害し得て、最終的には失明を引き起こす。VEGFは、血管形成および機能の主な調節である。それは、増殖、生存および遊走などの内皮細胞におけるいくつかのプロセスを制御する。網膜VEGF発現は、動物およびヒトにおける糖尿病血液網膜関門崩壊および虚血関連血管新生と相関している。本研究において、ミュラー細胞におけるVEGF発現は、糖尿病網膜において有意に上方制御され、これは、VEGF過剰発現がSTZ誘発糖尿病における網膜血管異常において決定的な役割を果たすことを示している。本研究において、我々は、糖尿病によるGFAPおよびVEGF上方制御が化合物Iにより抑制され得るかを調査することを試みた。
【0062】
4.1 方法
4.1.1 動物
16時間絶食後、体重200~220 gのSprague-Dawley雌性ラットに、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 4.5; Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)中のストレプトゾトシン(STZ; Sigma-Aldrich、St. Louis, MD)の単回60 mg/kg腹腔内注射を投与した。対照ラットを絶食させ、緩衝液のみを投与した。STZ投与7日後に血中グルコースレベルが375 mg/dLより高いラットを糖尿病であるとみなした。糖尿病のラットを、6週間、1日3回、1%化合物I、0.5%化合物Iまたはビヒクル点眼剤で処置した。
【0063】
4.1.2 ウエスタンブロットアッセイ
直前のセクションに記載のようにラットを屠殺した後、眼を摘出し、二等分した。網膜を眼杯から剥がし、直ちに、1μlのプロテイナーゼインヒビターカクテル(STZ; Sigma-Aldrich、St. Louis, MO)を含む0.3 mlの氷冷溶解緩衝液(STZ; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)でホモジナイズした。不溶性物質を12,000 gにて20分間遠心分離することにより除去した。製造業者の仕様書に従ってタンパク質アッセイキット(BCA、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)を用いて、最終タンパク質濃度を決定した。ホモジネート(80μg)をNuPAGE Bis-Tris Mini Gels(Invitrogen Life Technologies, Grand Island, NY)により分離し、iBlot Gel transfer Device(Invitrogen Life Technologies, Grand Island, NY)によりニトロセルロース膜に移した。ニトロセルロース膜を、WesternBreeze(登録商標)Chromogenic Kit-Anti-Rabbit(Invitrogen Life Technologies, Grand Island, NY)の指示書に従ってBenchPro 4100 Card Processing Station(Invitrogen Life Technologies, Grand Island, NY)により処理した。用いた一次抗体は、それぞれ抗GFAP(1:200、Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)(1:100)を用いた。抗ウサギIgG、AP結合抗体を、二次抗体として用いた。ウエスタンブロット試験の定量的評価のために、ニトロセルロース膜をスキャンし、分析ソフトウェア(Pro-gel Analyzer software, Media Cybernetics, Rockville, MD)を用いて光学密度を定量した。
【0064】
4.1.3 定量的リアルタイムPCR
前記のようにラットを屠殺した後、眼を摘出し、二等分し、網膜を眼杯から剥がし、直ちにRNA単離剤(RNeasy(登録商標)Plus Mini Kit, Qiagen, Valencia, CA)中でホモジナイズした。製造業者の手順に従って市販のキット(High-capacity reverse transcription kits, AB life technologies, Austin, TX)を用いることにより、第1鎖cDNAをmRNAから調製した。プライマーの配列を表1に示す。標準的な手順を用い蛍光検出色素(SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix, AB life technologies, Austin, TX)をリアルタイム検出システム(iCycler, Bio-Rad)において用いて、96ウェルプレートにおいてリアルタイムPCRを行った。すべてのPCR反応物は、20μlの最終容量であり、蛍光色素/PCR混合物、最終濃度0.2μMのフォワードおよびリバースプライマーならびに1 ngのcDNAを含んでなる。PCRサイクルパラメーターは、次の通りであった:ポリメラーゼ活性化を90℃で50分間、95℃で15秒間、60℃で30秒間および72℃で1分間を40サイクル。次式に従って同一試料中のβ-アクチンハウスキーピング遺伝子のCTを標準化することにより、mRNAの量を計算した:平均β-アクチンCT(各マルチプレックスPCRを3回繰り返して行った)を平均標準的遺伝子CTから差し引いた;結果をΔCTで表した。このΔCTは、特異的であり、校正検体のΔCTと比較し得る。標的遺伝子のΔCTから対照ΔCTを差し引いたものは、ΔΔCTと称する。2-ΔΔCTを用いることにより、標的遺伝子の発現の相対的定量化(対照との比較)を決定した。
【表1】
【0065】
4.1.4 統計分析
すべてのデータを平均±SDで表した。2群において正規分布したデータをスチューデントt検定で分析した。一対比較については、対応のあるt検定を2群間で用いた。P<0.05の値を統計学的に有意であるとみなした。
【0066】
4.2 結果
4.2.1 ウエスタンブロットアッセイ
STZの腹腔内注射の7週間後、糖尿病対照群の網膜のGFAPのタンパク質発現は、非糖尿病群と比較して有意に増加した(P<0.05)。糖尿病ラットに6週間、1日3回、1%化合物Iおよび0.5%化合物Iを点眼した後、網膜におけるGFAPタンパク質の発現は、糖尿病対照群と比較して有意に抑制された(P<0.05、図12および図13)。
【0067】
糖尿病網膜症を化合物Iにより用量依存的に処置し得ることをこれらの結果は明確に示している(図12および図13)。
【0068】
対照正常な眼と比較して糖尿病の眼のVEGFの有意な増加がみられたように(図14および図15)、VEGFは、糖尿病網膜症で著しく増加した別のバイオマーカーである。糖尿病の眼におけるVEGFレベルは、0.5%化合物Iおよび1%化合物Iにより著しく抑制され(図14および図15)、これは糖尿病網膜症が用量依存的に効果的に処置され得ることを示している(図14および図15)。
【0069】
4.2.2 定量的リアルタイムPCR
GFAPの遺伝子発現を定量的リアルタイムPCRにより検出した。糖尿病ではない網膜が低レベルのGFAPを発現することを結果は示した(図16)。糖尿病の発症の6週間後、GFAPの遺伝子発現を有意に上方制御した。糖尿病対照群と比較して0.5%および1% 化合物Iでの処置によりGFAP発現を有意に下方制御した(図16)。
【0070】
これらの結果は、前のセクションで示したウエスタンブロットで得られたもの(図12および図13)と同様であった。著しく上方制御されたGFAP発現は、0.5%化合物Iおよび1%化合物Iにより用量依存的に有意に抑制され、対照レベルにより近かった(図16)。
【0071】
化合物Iを糖尿病網膜症の処置に用い得ることをこれらの結果は明確に示している。
【0072】
実施例5:CNVのマウスモデルにおける化合物I(BMX)のインビボ有効性
5.1 材料および方法
5.1.1 動物
雄性C57BL/6Jマウス(BioLASCO Taiwan Co.)をTaipei Medical University(TMU)の動物センター内で維持し、ARVO声明およびInstitutional Animal Care and Use Committee of TMUにより承認された実験手順(LAC-2017-0130)に従ってCNV試験を行った。CNVを作成するために、マウスをBalanzine(10%キシラジン)(10 mg/kg)およびケタミン(80 mg/kg)の注射により麻酔した。ブルッフ膜-脈絡膜の破裂は、視神経頭から約2乳頭直径離れた4つのスポットのCNVレーザー照射(leser burns)(0.1秒間、250 mW)を用いてレーザー光凝固術(Micron III system, Phoenix Research Laboratories, Pleasanton, CA)により行われた。マウスを無作為に3群に割当てた:(1)マウスはビヒクルのみでの処置を受けた;(2)マウスはCVNレーザー照射およびビヒクルのみでの処置を受けた;(3)マウスはCNVレーザー照射および7または28日間経口投与により全身送達される25 mg/kg/dのBMXでの処置を受けた。-7、7および28日目に、下記のようにフルオレセインナトリウムの腹腔内注射直後に、網膜血管造影データを得るために、眼底撮影法(FP)および眼底蛍光血管造影法(FFA)を麻酔下マウスに行った。
【0073】
5.1.2 眼底撮影法(FP)および眼底蛍光血管造影法(FFA)
Micron III網膜画像化顕微鏡(Phoenix Research Laboratories, Pleasanton, CA)を用いて、C57BL/6マウスの基底における形態学的および病理学的変化を観察した。要約すると、マウスをケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)のIP注射により麻酔し、眼を0.125%アトロピンで散大させた。各マウスを顕微鏡プラットフォーム上の側面で保持し、右目を2% Methocelゲル(OmniVision, SA, Neuhausen, Switzerland)ですすいだ。カラーFPを行った後、フルオレセイン(10%; 0.05mL)をIP注射によるFFA試験のために用いた。その後、SteamPix 5TMソフトウェアを用いて連続画像を収集した。
【0074】
5.1.3 光干渉断層法(OCT)画像化および厚さ分析
Micron III(Phoenix Research Laboratories, Pleasanton, CA)網膜画像化顕微鏡のOCTモジュールを用いて、網膜層から画像を得た。同じ垂直軸に沿って5つの個々のbスキャンを平均化し、空間的に合わせることにより、網膜断面(右眼)の高解像度bスキャンを得た。さらなる分析のために、InSight XL(Phoenix Research Laboratories, San Ramon, CA, SA)を用いて、網膜層をセグメント化した。本研究に含まれるC57BL/6マウスにおいて3つの網膜層を定義し、測定した:内層(網膜神経線維層(RNFL)、神経節細胞層(GCL)および内網状層(IPL)を含む);中間層(内顆粒層(INL)、外網状層(OPL)、外顆粒層(ONL)、外境界膜(OLM)を含む);ならびに外層(光受容体および網膜色素上皮の内外節(IS/OS)を含む)。
【0075】
5.2 結果
結果を図17A~18Bに示す。BMX群の漏出領域は、有意に減少した(図17Aおよび18A)。また、FPおよびFFA画像によれば、レーザー損傷により生じる組織過形成は、BMX群において改善された(図17B(7日目)および18B(28日目))。
【0076】
広い発明概念から逸脱することなく上記実施態様を変化させ得ることは当業者により理解されるだろう。したがって、本発明は、開示される特定の実施態様に限定されず、特許請求の範囲で定義される本発明の精神および範囲内の改変を網羅することを意図することが理解される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
【手続補正書】
【提出日】2023-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造:
【化1】
を有する化合物Iを含む、眼疾患に罹患した対象体において網膜色素上皮(RPE)細胞の傷害を逆転させ、眼血流を向上させるための医薬。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0076】
広い発明概念から逸脱することなく上記実施態様を変化させ得ることは当業者により理解されるだろう。したがって、本発明は、開示される特定の実施態様に限定されず、特許請求の範囲で定義される本発明の精神および範囲内の改変を網羅することを意図することが理解される。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1]
有効量の式A1:
【化4】
[式中、
R 1 は、水素、アルキル、アルケニル、C 5 -C 6 シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環;(CH 2 )m R 4 であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C 1 -C 4 アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R 2 およびR 3 は、独立してC 1 -C 6 アルキルであり;
R 4 は、ハロゲン、-CF 3 、-OR 7 または-NR 7 R 8 で置換されていてもよいC 5 -C 6 シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R 7 およびR 8 は、独立して水素またはC 1 -C 6 アルキルであり;
R 5 は、OH、NH 2 またはC 5 -C 6 シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH 2 、NO 2 、C 1 -C 6 アルコキシ、C 1-6 アルキルチオ、OR 7'' 、NR 7 R 8 またはCF 3 で置換されていてもよく;そして
R 6 は、H、またはヒドロキシもしくはC 2 -C 10 アルケニルで置換されていてもよいC 1 -C 10 アルキルであるか、またはR 1 と一緒になって-C 2 H 2 -である]
で示される構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を、処置を必要とする対象体に投与することを含む、眼疾患を処置するための方法。
[2]
眼疾患が、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)からなる群より選択される、[1]に記載の方法。
[3]
眼疾患が、糖尿病関連眼疾患である、[1]に記載の方法。
[4]
糖尿病関連眼疾患が、糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)からなる群より選択される、[3]に記載の方法。
[5]
化合物が、対象体の眼に局所投与されるか、または対象体に経口投与される、[1]に記載の方法。
[6]
化合物が、眼用軟膏剤、眼用ゲル剤、眼用クリーム剤または点眼剤に製剤化される、[1]に記載の方法。
[7]
化合物が、局所投与される、[5]に記載の方法。
[8]
化合物が、経口投与される、[5]に記載の方法。
[9]
化合物が、
【化5】
化合物I
である、[1]に記載の方法。
[10]
対象体において眼疾患を処置するための医薬の製造のための、式A1:
【化6】
[式中、
R 1 は、水素、アルキル、アルケニル、C 5 -C 6 シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環または5員もしくは6員ヘテロ環;(CH 2 )m R 4 であり
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C 1 -C 4 アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
R 2 およびR 3 は、独立してC 1 -C 6 アルキルであり;
R 4 は、ハロゲン、-CF 3 、-OR 7 または-NR 7 R 8 で置換されていてもよいC 5 -C 6 シクロアルキルまたは5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、R 7 およびR 8 は、独立して水素またはC 1 -C 6 アルキルであり;
R 5 は、OH、NH 2 またはC 5 -C 6 シクロアルキル、5員もしくは6員不飽和炭素環またはヘテロ環であり、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH 2 、NO 2 、C 1 -C 6 アルコキシ、C 1-6 アルキルチオ、OR 7'' 、NR 7 R 8 またはCF 3 で置換されていてもよく;そして
R 6 は、H、またはヒドロキシもしくはC 2 -C 10 アルケニルで置換されていてもよいC 1 -C 10 アルキルであるか、またはR 1 と一緒になって-C 2 H 2 -である]
で示される構造を有する化合物の使用。
[11]
眼疾患が、増殖性硝子体網膜症(PVR)、ブドウ膜炎、緑内障および加齢黄斑変性症(AMD)からなる群より選択される、[10]に記載の使用。
[12]
眼疾患が、糖尿病関連眼疾患である、[10]に記載の使用。
[13]
糖尿病関連眼疾患が、糖尿病網膜症(DR)および糖尿病黄斑浮腫(DME)からなる群より選択される、[12]に記載の使用。
[14]
医薬が、対象体の眼に局所投与されるか、または対象体に経口投与される、[10]に記載の使用。
[15]
医薬が、眼用軟膏剤、眼用ゲル剤、眼用クリーム剤または点眼剤の形態である、[10]に記載の使用。
[16]
医薬が、局所投与される、[14]に記載の使用。
[17]
医薬が、経口投与される、[14]に記載の使用。
[18]
化合物が、
【化7】
化合物I
である、[10]に記載の使用。