(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116857
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】主軸装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20230816BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B23B31/117 601F
B23B19/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019191
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 晶寛
【テーマコード(参考)】
3C032
3C045
【Fターム(参考)】
3C032AA02
3C045FD05
(57)【要約】
【課題】ばね部材が主軸の半径方向にずれることをより抑制できる主軸装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】主軸装置は、主軸2と、ドローバー3と、スリーブ4と、ばね部材5と、加圧機構6とを備えている。主軸2は、先端である前側に工具を取り付け可能であり、軸方向に中空孔21が形成されている。ドローバー3は、主軸2の中空孔21内に、軸方向に移動可能に配置されている。スリーブ4は、ドローバー3の径方向外側に配置され、ドローバー3との間に空間41を形成する。ばね部材5は、スリーブ4の径方向外側に配置され、ドローバー3を軸方向後側に付勢する。加圧機構6は、空間41に充填された流体を加圧する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端である前側に工具を取り付け可能であり、軸方向に中空孔が形成された主軸と、
前記主軸の前記中空孔内に、軸方向に移動可能に配置されたドローバーと、
前記ドローバーの径方向外側に配置され、前記ドローバーとの間に空間を形成するスリーブと、
前記スリーブの径方向外側に配置され、前記ドローバーを軸方向後側に付勢するばね部材と、
前記空間に充填された流体を加圧する加圧機構と、
を備えることを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記ドローバーは、第1軸部と、前記第1軸部の軸方向後側に位置して前記第1軸部よりも外径が小さい第2軸部と、を備え、
前記スリーブは、前記第1軸部の外周面に嵌合する内周面を有する第1筒状部と、前記第2軸部の外周面に嵌合する内周面を有する第2筒状部と、を備え、
前記加圧機構は、前記スリーブを軸方向前側に移動させることで、前記空間に充填された流体を加圧することを特徴とする請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記加圧機構は、前記ドローバーの外周面に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部に螺合されたナットと、を備え、前記ナットを前記雄ねじ部にねじ込む際のねじ送りによって前記スリーブを軸方向前側に移動させることを特徴とする請求項2に記載の主軸装置。
【請求項4】
前記ドローバーの前記第1軸部の外周面に、第1シール部材を装着する環状の第1溝が形成され、
前記スリーブの前記第2筒状部の内周面に、第2シール部材を装着する環状の第2溝が形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の主軸装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の主軸装置の製造方法であって、
前記ドローバーと前記スリーブとを液体である前記流体中に浸漬させた状態で、前記ドローバーの軸方向後側から前記スリーブを軸方向前側に移動させることで、前記空間に前記流体を充填し、
前記加圧機構によって前記空間に充填された流体を加圧して前記スリーブの外径を変化させることで、前記ばね部材と前記スリーブとの径方向の隙間を調整することを特徴とする主軸装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウジングに回転可能に支持された主軸内に、ドローバー(工具押引棒)を軸心方向へ進退動可能でかつばね部材により常時後退する側に付勢された状態で挿入した主軸装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような主軸装置では、駆動手段によってドローバーをばね部材の付勢力に抗して前進させることで、主軸先端に組み付けられたコレットチャックが解放動作して工具がアンクランプされる。一方、工具が主軸先端に挿入された状態で、駆動手段によるドローバーへの前進押圧力を解除すると、ばね部材によるドローバーの後退動によってコレットチャックが係合動作して工具がクランプされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主軸装置においては、ばね部材と該ばね部材に挿通する軸部との間には、ある程度の隙間が設けられている。これは、ばね部材の内径の寸法精度を製造上あまり高くできないこと、およびばね部材のスムーズな伸縮動作を確保すること等の理由からである。このため、例えば工具交換時に繰り返されるばね部材の伸縮動作によって、ばね部材が主軸の半径方向にずれるおそれがある。その結果、主軸の回転バランスが変化してしまって、主軸の振動を招くことになる。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の主軸装置は、ばね部材の穴の近くに同心の溝を刻設して薄肉部を設けるとともに、ばね部材の内径側に形成される隙間をすべり嵌合程度の小さい隙間としている。これにより、薄肉部の弾性によりばね部材伸縮時の穴径の変化を吸収するようにして小さい隙間を維持することで、ばね部材の芯ずれを防止している。
【0007】
特許文献1に記載の主軸装置では、薄肉部を設ける加工が必要であるだけでなく、すべり嵌合程度の小さい隙間を形成するためにばね部材の穴の内径を精度良く加工する必要がある。しかしながら、このばね部材の内径部の加工は、製造過程における寸法公差を詰めたとしても、ばらつきがどうしても存在するため、ばね部材が主軸の半径方向にずれるという問題の解決には不十分と言える。
【0008】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものであり、ばね部材が主軸の半径方向にずれることをより抑制できる主軸装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る主軸装置は、主軸と、ドローバーと、スリーブと、ばね部材と、加圧機構とを備えている。前記主軸は、先端である前側に工具を取り付け可能であり、軸方向に中空孔が形成されている。前記ドローバーは、前記主軸の前記中空孔内に、軸方向に移動可能に配置されている。前記スリーブは、前記ドローバーの径方向外側に配置され、前記ドローバーとの間に空間を形成する。前記ばね部材は、前記スリーブの径方向外側に配置され、前記ドローバーを軸方向後側に付勢する。前記加圧機構は、前記空間に充填された流体を加圧する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ばね部材が主軸の半径方向にずれることをより抑制できる主軸装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る主軸装置が搭載された工作機械の概略構成を示す側面図である。
【
図3】
図2に示すばね部材周辺の中心線から上半分を示す概略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各図において、共通する構成要素および同種の構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を適宜省略する。また、部材のサイズおよび形状は、説明の便宜のため、変形または誇張して模式的に表す場合がある。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る主軸装置1が搭載された工作機械100の概略構成を示す側面図である。以下、説明の都合上、工具Tが取り付けられる側を「先端」側または「前」側、その反対側を「基端」側または「後」側と呼ぶ場合がある。
【0014】
図1に示すように、本実施形態では、工作機械100は、主軸装置1の主軸2(
図2参照)が水平方向に沿うように配置される横形の工作機械である。工作機械100は、ベース101と、コラム102と、主軸装置1と、ワーク支持装置103と、制御盤104とを備えている。
【0015】
ベース101上には、コラム102がベース101に対してX軸方向(
図1の紙面に直交する方向)に移動可能に設けられている。このコラム102は、ベース101に取り付けられたモータ(図示せず)によるねじ軸(図示せず)の正逆回転によってねじ送りされることで、X軸方向に沿って移動させられる。主軸装置1は、コラム102に対してY軸方向(上下方向)に移動可能に設けられている。この主軸装置1は、コラム102に取り付けられたモータ(図示せず)によるねじ軸(図示せず)の正逆回転によってねじ送りされることで、Y軸方向に沿って移動させられる。
【0016】
ワーク支持装置103は、加工対象のワークWを支持する。ワーク支持装置103は、ベース101に対してZ軸方向(前後方向)に移動可能に設けられている。このワーク支持装置103は、ベース101に取り付けられたモータ(図示せず)によるねじ軸(図示せず)の正逆回転によってねじ送りされることで、Z軸方向に沿って移動させられる。なお、ワーク支持装置103が固定されていて、コラム102がベース101に対してZ軸方向に移動可能に設けられてもよい。
【0017】
また、ワーク支持装置103は、例えば、Z軸方向に移動可能なキャリッジ(図示せず)と、キャリッジに取り付けられてワークWを保持するX軸に平行な軸のまわりで回転可能な保持部(図示せず)とを備えている。
【0018】
工作機械100は、主軸装置1の回転する主軸2の先端に取り付けた工具Tによって、ワークWに対して加工を行う。制御盤104は、工作機械100の各部の動作を統括的に制御する。
【0019】
図2は、主軸装置1の構成を示す概略断面図である。
図2に示すように、主軸装置1は、主軸2と、ドローバー3と、スリーブ4と、ばね部材5と、加圧機構6とを備えている。
主軸2は、その先端に工具ホルダ11を介して工具Tを取り付け可能である。すなわち、主軸2の先端部には工具Tを固定した工具ホルダ11が取り外し可能に装着される。
【0020】
また、主軸装置1は、主軸2の径方向外側に配置された円筒状を呈するハウジング7と、主軸2を回転させるモータ8とを備えている。モータ8は、主軸2の外周面に外嵌されたロータ81と、該ロータ81の周囲に配置されハウジング7の内周面に固定されたステータ82とを有している。
【0021】
また、主軸装置1は、主軸2の前側および後側にそれぞれ配置された軸受71,72を備えている。ここで、前側とは、主軸2の工具Tが取り付けられる側である。軸受71,72は、主軸2をハウジング7に対して回転自在に支持する。軸受71は、確実な静剛性を得るために複数個(ここでは4個)設置されるのが好ましい。軸受71,72としては、ここでは、玉軸受およびころ軸受のころがり軸受が使用されている。
【0022】
主軸2の内部には、該主軸2の軸方向(以下、単に「軸方向」ともいう)に貫通した中空孔21が形成されている。この中空孔21の先端部(
図2において左側)に、工具ホルダ11のテーパ形状のシャンク部12と相補形状を呈するテーパ孔22が形成されている。
【0023】
ドローバー3は、主軸2の中空孔21内に、軸方向に移動可能に配置されている。ドローバー3の先端部は、工具ホルダ11の基端部に設けられたプルスタッド13に対して、鋼球31を介して係止可能に構成されている。ドローバー3の基端部には金具32が固定されている。この金具32と、主軸2の中空孔21の内周面に形成された段部23との間には、カラー部材9およびナット部材33を介して、ばね部材5が装着されている。
【0024】
スリーブ4は、円筒状を呈しており、ドローバー3の径方向外側に配置されている。スリーブ4とドローバー3との間には、空間41が形成されている。空間41は、円筒状の閉空間を呈している。ばね部材5は、スリーブ4の径方向外側に配置されており、ドローバー3を軸方向後側に付勢する。
【0025】
加圧機構6は、スリーブ4とドローバー3との間の空間41に充填された流体を加圧する。本実施形態では、流体として、油、水、クーラント等の液体が使用される。スリーブ4の材質は、摩耗および熱影響を低減することを考慮して、例えばクロムモリブデン鋼またはニッケルクロムモリブデン鋼等の合金鋼が使用される。
【0026】
ばね部材5の弾性力によりドローバー3が
図2の右方に移動されると、鋼球31によってプルスタッド13が引き込まれ、工具ホルダ11のシャンク部12が主軸2のテーパ孔22に圧接されて把持される。一方、金具32がばね部材5の弾性力に抗して前方に押動されると、ドローバー3の先端部および鋼球31による工具ホルダ11のプルスタッド13の保持が解除される。そして、図示しない自動工具交換装置によって、工具Tおよび工具ホルダ11の交換動作が行われるようになっている。
【0027】
図3は、
図2に示すばね部材5周辺の中心線から上半分を示す概略拡大断面図である。
図3に示すように、ばね部材5は、主軸2の軸方向に前側から順に並んで配置された前ばね51および後ばね52を有している。カラー部材9は、前ばね51と後ばね52との間に配置された中間カラー91と、前ばね51の前側に配置された前カラー92とを有している。主軸2、ドローバー3、およびスリーブ4は、共通の中心軸24を有している。
【0028】
すなわち、ドローバー3には、前側から、前カラー92、前ばね51、中間カラー91、後ばね52、ナット部材33がこの順に互いに接触して軸方向に挿入されている。前カラー92は、ここでは、環状板部と該環状板部の外周縁から後方に延びて前ばね51に接触する円筒部とを有し、半断面形状がL字状を呈している。また、ナット部材33は、ここでは、内面に雌ねじが形成された環状板部と該環状板部の外周縁から前方に延びて後ばね52に接触する円筒部とを有し、半断面形状がL字状を呈している。前ばね51と後ばね52とは、ドローバー3の径方向外側に配置されたスリーブ4の外周面に対して小さな隙間をもって軸方向に摺動可能に設置されている。ナット部材33は、ドローバー3の後端部の外周面に形成された雄ねじ部61に螺合されている。ナット部材33がドローバー3にねじ締結されて固定されることよって、ばね部材5(前ばね51および後ばね52)が圧縮させられる。
【0029】
ばね部材5としては、いわゆる螺旋皿ばねが使用されている。螺旋皿ばねは、皿ばね状の2つの独立したコイルスプリングが二重螺旋状に配置されて構成されている。ここでは、前ばね51が右巻きの螺旋皿ばねであり、後ばね52が左巻きの螺旋皿ばねであるが、逆であってもよい。つまり、前ばね51と後ばね52とに、巻き方向が反対の対称形の一対の螺旋皿ばねが用いられている。これは、螺旋皿ばねを圧縮すると螺旋を解放する方向に捩じれが生じる性質があるので、この捩じれを相殺して打ち消すためである。この場合、前ばね51と後ばね52との間に配置された中間カラー91がドローバー3上で回動して捩じれを吸収する。
【0030】
ドローバー3は、スリーブ4の内周面に対向する部分に、第1軸部34と、第1軸部34の軸方向後側に位置する第2軸部35とを備えている。第2軸部35は、第1軸部34よりも外径が小さい。スリーブ4は、第1軸部34の外周面に嵌合する内周面を有する第1筒状部42と、第2軸部35の外周面に嵌合する内周面を有する第2筒状部43とを備えている。加圧機構6は、スリーブ4を軸方向前側に移動させることで、空間41に充填された流体を加圧する。
【0031】
ドローバー3の第1軸部34の外周面には、環状の第1溝36が形成されている。第1溝36には、第1シール部材37が装着される。一方、スリーブ4の第2筒状部43の内周面には、環状の第2溝44が形成されている。環状の第2溝44には、第2シール部材45が装着される。スリーブ4は、ドローバー3に対して軸方向に移動可能である。
【0032】
加圧機構6は、ドローバー3の外周面に形成された雄ねじ部61、雄ねじ部61に螺合されたナット62、および雄ねじ部61とナット62との間に介装されたカラー63を備えている。加圧機構6は、ナット62を雄ねじ部61にねじ込む際のねじ送りによって、スリーブ4をカラー63を介して軸方向前側に移動させる。
【0033】
主軸装置1を製造する際には、ドローバー3とスリーブ4とを液体である流体中に浸漬させた状態で、ドローバー3の軸方向後側からスリーブ4を軸方向前側に移動させる。これにより、スリーブ4とドローバー3との間の空間41に流体が充填される。
続いて、加圧機構6によって空間41に充填された流体を加圧してスリーブ4の外径を変化させることで、ばね部材5とスリーブ4との径方向の隙間を調整する。
【0034】
次に、主軸装置1が搭載された工作機械100の動作について説明する。
工具交換を行う場合、
図2に示す金具32がばね部材5の弾性力に抗して前方に押動される。これにより、ドローバー3の先端部および鋼球31による工具ホルダ11のプルスタッド13の保持が解除される。この状態で、図示しない自動工具交換装置によって、工具Tおよび工具ホルダ11の交換が行われる。新しい工具Tおよび工具ホルダ11が主軸2の先端にセットされた後、金具32に対する前方への押動が解除されると、ばね部材5の弾性力によりドローバー3が
図2の右方に移動される。これにより、鋼球31によってプルスタッド13が引き込まれ、工具ホルダ11のシャンク部12が主軸2のテーパ孔22に圧接されて把持される。このようにして、主軸2の先端に工具ホルダ11を介して工具Tが取り付けられる。続いて、操作部(図示せず)を通して運転開始が指示されると、モータ8が駆動させられて、主軸2が回転する。そして、
図1に示すように、ワークWと工具Tとが相対移動することによって、ワークWに対する加工が行われる。
【0035】
前記した本実施形態に係る主軸装置1は、
図3に示すように、主軸2と、ドローバー3と、スリーブ4と、ばね部材5と、加圧機構6とを備えている。主軸2は、先端である前側に工具T(
図2参照)を取り付け可能であり、軸方向に中空孔21が形成されている。ドローバー3は、主軸2の中空孔21内に、軸方向に移動可能に配置されている。スリーブ4は、ドローバー3の径方向外側に配置され、ドローバー3との間に空間41を形成する。ばね部材5は、スリーブ4の径方向外側に配置され、ドローバー3を軸方向後側に付勢する。加圧機構6は、空間41に充填された流体を加圧する。
【0036】
このような本実施形態では、加圧機構6がスリーブ4とドローバー3との間の空間41に充填された流体を加圧するため、空間41内の流体の圧力が上昇し、スリーブ4の外径が大きくなる。これにより、ばね部材5の個々の内径寸法の製造ばらつきに合わせて、ばね部材5とスリーブ4との径方向の隙間を最適な寸法に詰めることができる。
したがって、本実施形態によれば、ばね部材5が主軸2の半径方向にずれることをより抑制できる主軸装置1を提供することができる。
これにより、主軸の回転バランスが改善され、主軸の異常振動を回避できる。また、空間41内の流体のダンピング効果により、加工振動の低減を期待できる。また、ばね部材5とスリーブ4との径方向の隙間を調整できるため、製品不良を無くすことができ、結果的にコストダウンにつながる。
【0037】
また、本実施形態では、ドローバー3は、第1軸部34と第1軸部34よりも外径が小さい第2軸部35とを備え、スリーブ4は、第1軸部34に嵌合する第1筒状部42と第2軸部35に嵌合する第2筒状部43とを備える。そして、加圧機構6は、スリーブ4を軸方向前側に移動させることで、空間41に充填された流体を加圧する。
このような構成によれば、ドローバー3とスリーブ4がピストンとシリンダのように働くため、空間41内の流体を確実に加圧することができる。
【0038】
また、本実施形態では、加圧機構6は、ドローバー3に形成された雄ねじ部61と、雄ねじ部61に螺合されたナット62とを備える。そして、ナット62を雄ねじ部61にねじ込む際のねじ送りによって、スリーブ4が軸方向前側に移動させられる。
このような構成によれば、ねじ送りの作用を利用してスリーブ4を軸移動させることができるため、空間41内の流体への加圧力を十分に得ることができるとともに、加圧力の調整も容易となる。
【0039】
また、本実施形態では、ドローバー3の第1軸部34の外周面に第1シール部材37を装着する第1溝36が形成され、スリーブ4の第2筒状部43の内周面に第2シール部材45を装着する第2溝44が形成されている。
このような構成によれば、第1軸部34は第2軸部35よりも、第2筒状部43は第1筒状部42よりも、それぞれ厚みの大きい部分に相当するため、第1溝36および第2溝44を形成することが容易となる。また、第1シール部材37および第2シール部材45によって空間41に充填された流体の漏れを防止することで、空間41内の流体を確実に加圧することができる。
【0040】
また、主軸装置1の製造方法では、ドローバー3とスリーブ4とを液体である流体中に浸漬させた状態で、ドローバー3の軸方向後側からスリーブ4を軸方向前側に移動させることで、空間41に流体が充填される。そして、加圧機構6によって空間41に充填された流体を加圧してスリーブ4の外径を変化させることで、ばね部材5とスリーブ4との径方向の隙間が調整される。
このような構成によれば、空間41内の全域に流体を十分に充填することが容易となる。また、加圧機構6による加圧の作用が空間41内の流体に確実に伝わるため、スリーブ4の外径を確実に変化させることができる。
【0041】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではない。本発明は、前記実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0042】
空間41に流体を充填する場合、例えばドローバー3に予め流路を形成しておいて、該流路を経てスリーブ4とドローバー3との間の空間41に流体を注入してもよい。そして、空間41への流体の充填後に、例えばドローバー3の後端面に形成した流路の注入口をプラグ等の栓部材で閉止するとよい。
また、加圧機構6は、例えばドローバー3に形成された流路に、流体の供給管を接続して該供給管を介して流体を加圧する加圧装置であってもよく、この場合、栓部材に逆止弁を設けるとよい。
また、前記した実施形態では、流体は、油等の液体が使用されているが、空気等の気体が使用されるように構成することも可能である。この場合、空間41内には予め所定の高圧とされた圧縮気体を充填することが望ましい。
また、前記した実施形態では、ばね部材5は、前ばね51および後ばね52を有しているが、一つのばねで構成されて、中間カラー91が省略されてもよい。
【0043】
また、前記した実施形態では、主軸装置1が横形の工作機械100に搭載される場合について説明したが、これに限定されるものではない。主軸装置1は、縦形の工作機械等の各種の工作機械に搭載可能である。つまり、使用状態においては、主軸装置1の設置方向が、
図1に示す方向と異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 主軸装置
2 主軸
21 中空孔
3 ドローバー
34 第1軸部
35 第2軸部
36 第1溝
37 第1シール部材
4 スリーブ
41 空間
42 第1筒状部
43 第2筒状部
44 第2溝
45 第2シール部材
5 ばね部材
6 加圧機構
61 雄ねじ部
62 ナット
T 工具