(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116876
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】抗酸化用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20230816BHJP
A61K 35/742 20150101ALI20230816BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230816BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230816BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230816BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A61K35/741
A61K35/742
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/10
A61P25/00
A61P11/00
A61P43/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019232
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000114282
【氏名又は名称】ミヤリサン製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金 倫基
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雅博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 志達
(72)【発明者】
【氏名】岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087BC30
4C087BC68
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA45
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZB26
4C087ZC35
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】新規な抗酸化用組成物を提供する。
【解決手段】アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を有効成分として含む、抗酸化用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を有効成分として含む、抗酸化用組成物。
【請求項2】
前記微生物が腸内細菌由来の微生物である、請求項1に記載の抗酸化用組成物。
【請求項3】
前記微生物がアネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)、ドレア・フォルミシゲネランス(Dorea formidigenerans)、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、クロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)、ファカリカテナ・オロティカ(Faecalicatena orotica)、ブラウティア・ハンセニ(Blautia hansenii)、コプロコッカス・コメス(Coprococcus comes)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)およびクロストリジウム・セレレクレセンス(Clostridium celerecrescens)からなる群から選択される少なくとも1種の微生物である、請求項1または2に記載の抗酸化用組成物。
【請求項4】
酸化ストレス低減のために使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗酸化用組成物。
【請求項5】
アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を含む、活性イオウ分子産生促進用組成物。
【請求項6】
アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物と、シスチンとを接触させることを含む、活性イオウ分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フリーラジカル、活性酸素窒素種(RONS)などのオキシダントの生成による酸化ストレスは、脂質、タンパク質、核酸などの高分子の過剰な酸化的修飾を引き起こす。これは、細胞機能不全および重要な細胞プロセスの崩壊を誘発し(非特許文献1)、それによって、がん、神経障害、動脈硬化、糖尿病、肝炎、慢性閉塞性肺疾患などの広範な病理を誘発することが知られている(非特許文献2および3)。
【0003】
近年の研究により、腸内細菌が産生する代謝物が、腸内外の生理機能に関連していることが明らかになっている(非特許文献4)。しかし、全身の活性イオウ分子(RSS)プールおよび宿主の抗酸化能に対する腸内細菌の寄与は、依然として不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sharifi-Rad et al., (2020). Lifestyle, Oxidative Stress, and Antioxidants: Back and Forth in the Pathophysiology of Chronic Diseases. Front Physiol. 11, 694
【非特許文献2】Li et al., (2015). The Role of Oxidative Stress and Antioxidants in Liver Diseases. Int J Mol Sci. 16(11), 26087-26124
【非特許文献3】Liguori et al., (2018). Oxidative stress, aging, and diseases. Clin Interv Aging. 13, 757-772
【非特許文献4】Fan and Pedersen, (2021). Gut microbiota in human metabolic health and disease. Nat Rev Microbiol. 19(1), 55-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
腸内細菌由来の新たな有効成分を提供することにより、酸化ストレスに起因する疾患などの治療、予防などに対して、新たな手段を提供することができる。
【0006】
したがって、本発明は、新規な抗酸化用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、腸内細菌が宿主生体内における活性イオウ分子量に影響を与えることを見出した。そして、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を有効成分として含む、抗酸化用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な抗酸化用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】SPFマウスおよび抗生物質処理SPFマウス(Abxマウス)における血漿中活性イオウ分子濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図1B】GFマウスおよびexGFマウスにおける血漿中活性イオウ分子濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図2A】SPFマウス(抗生物質無投与)の糞便サンプルをメチオニン、システインまたはシスチンの存在下培養した結果を示すグラフである。
【
図2B】SPFマウス(抗生物質無投与)およびAbxマウスの糞便からのHMW画分の精製物とシスチンとを反応させた結果を示すグラフである。
【
図3A】C57BL/6マウス(抗生物質無投与または抗生物質投与)にシスチンを経口投与し、血漿中活性イオウ分子濃度を測定した結果を示すグラフである。
【
図3B】ConA誘発肝炎モデルマウスの血清ALTレベルおよびMDAレベルを測定した結果を示すグラフである。
【
図3C】抗生物質を投与したConA誘発肝炎モデルマウスの血清ALTレベルを測定した結果を示すグラフである。
【
図4A】異なるスペクトラムを有する抗生物質を投与したマウスの糞便における活性イオウ分子レベルを測定した結果を示すグラフである。
【
図4B】16S rRNA遺伝子シーケンシングを用いた腸内細菌叢の組成解析の結果を示すグラフである。
【
図4C】16S rRNA遺伝子シーケンシングを用いた腸内細菌叢の組成解析の結果を示すグラフである。
【
図4D】単一株を用いて細胞培養を行い、シスチン投与後のシステインパースルフィド産生能を評価した結果を示すグラフである。
【
図4E】アネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)およびクロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)をメチオニン、システインまたはシスチン存在下で培養後の各菌株におけるシステインパースルフィド産生量の結果を示すグラフである。
【
図4F】アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナ、クロストリジウム・ボルテエおよびバクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)からの精製タンパク質とシスチンとAOAAとを反応させた結果を示すグラフである。
【
図5】クロストリジウム・ボルテエ培養溶液の投与群およびクロストリジウム・ボルテエ培養溶液の非投与群における血漿中の活性イオウ分子レベルを測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0012】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0013】
本明細書において、抗酸化とは、活性酸素などによる生体の酸化を防止する作用を意味する。
【0014】
本明細書において、活性イオウ分子(Reactive Sulfur Species;RSS)とは、チオールに硫黄原子が過剰に付加したポリスルフィド構造を有する化合物である。活性イオウ分子としては、例えばシステインパースルフィド(CysSSH)、グルタチオンパースルフィド(GSSH)、過硫化水素(HSSH)などが挙げられる。
【0015】
<抗酸化用組成物>
本発明の一形態は、アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を有効成分として含む、抗酸化用組成物である。
【0016】
本明細書において、「アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物」を単に「本発明に係る微生物」とも称する。
【0017】
アネロトランカス(Anaerotruncus)属の微生物としては、アネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)などが挙げられる。
【0018】
ルミノコッカス(Ruminococcus)属の微生物としては、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)、ルミノコッカス・アルバス(Ruminococcus albus)、ルミノコッカス・ブロミイ(Ruminococcus bromii)、ルミノコッカス・ガウブレアウイ(Ruminococcus gauvreauii)、ルミノコッカス・ラクタリス(Ruminococcus lactaris)、ルミノコッカス・トルキース(Ruminococcus torques)、ルミノコッカス・フェシス(Ruminococcus faecis)、ルミノコッカス・カリダス(Ruminococcus callidus)、フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、ルミノコッカス・シャンパネレンシス(Ruminococcus champanellensis)、ルミノコッカス・オベウム(Ruminococcus obeum)などが挙げられる。
【0019】
ドレア(Dorea)属の微生物としては、ドレア・フォルミシゲネランス(Dorea formidigenerans)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)などが挙げられる。
【0020】
クロストリジウム(Clostridium)属の微生物としては、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、クロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)、クロストリジウム・セレレクレセンス(Clostridium celerecrescens)、クロストリジウム・シンデンス(Clostridium scindens)、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)、クロストリジウム・クロストリジフォルメ(Clostridium clostridioforme)、クロストリジウム・ハセワイ(Clostridium hathewayi)、クロストリジウム・ネキシレ(Clostridium nexile)、クロストリジウム・グリシルリジニリチクム(Clostridium glycyrrhizinilyticum)、クロストリジウム・アミノバレリカム(Clostridium aminovalericum)、クロストリジウム・クラリフラバム(Clostridium clariflavum)などが挙げられる。
【0021】
ファカリカテナ(Faecalicatena)属の微生物としては、ファカリカテナ・オロティカ(Faecalicatena orotica)、ファカリカテナ・コントルタ(Faecalicatena contorta)、ファカリカテナ・フィシカテナ(Faecalicatena fissicatena)などが挙げられる。
【0022】
ブラウティア(Blautia)属の微生物としては、ブラウティア・ハンセニ(Blautia hansenii)、ブラウティア・ウェクレラ(Blautia wexlerae)、ブラウティア・ルティ(Blautia luti)、ブラウティア・ファエシス(Blautia faecis)、ブラウティア・グルセラセア(Blautia glucerasea)、ブラウティア・コッコイデス(Blautia coccoides)、ブラウティア・プロダクタ(Blautia producta)、ブラウティア・スターコリス(Blautia stercoris)、ブラウティア・ヒドロゲノトロフィカ(Blautia hydrogenotrophica)、ブラウティア・オベウム(Blautia obeum)などが挙げられる。
【0023】
コプロコッカス(Coprococcus)属の微生物としては、コプロコッカス・コメス(Coprococcus comes)、コプロコッカス・カツス(Coprococcus catus)、コプロコッカス・エウタクタス(Coprococcus eutactus)などが挙げられる。
【0024】
本発明に係る微生物は、好ましくは腸内細菌由来の微生物である。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明に係る微生物は、アネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)、ドレア・フォルミシゲネランス(Dorea formidigenerans)、クロストリジウム・インドリス(Clostridium indolis)、クロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)、クロストリジウム・ラバレンス(Clostridium lavalense)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)、ファカリカテナ・オロティカ(Faecalicatena orotica)、ブラウティア・ハンセニ(Blautia hansenii)、コプロコッカス・コメス(Coprococcus comes)、クロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)およびクロストリジウム・セレレクレセンス(Clostridium celerecrescens)からなる群から選択される少なくとも1種の微生物であり、より好ましくはアネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)およびクロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)からなる群から選択される少なくとも1種の微生物である。
【0026】
本発明に係る抗酸化用組成物は、上記本発明に係る微生物に加え、ファーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属、フラボニフラクター(Flavonifractor)属、アナエロスティペス(Anaerostipes)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、ブチリビブリオ(Butyrivibrio)属、サブドリグラヌラム(Subdoligranulum)属、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属、ロセブリア(Roseburia)属、オシリバクター(Oscillibacter)属、ロニソニエラ(Robinsoniella)属など微生物を含むことができる。
【0027】
ファーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属の微生物としては、ファーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)などが挙げられる。
【0028】
フラボニフラクター(Flavonifractor)属の微生物としては、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)などが挙げられる。
【0029】
アナエロスティペス(Anaerostipes)属の微生物としては、アナエロスティペス・ハドラス(Anaerostipes hadrus)、アナエロスティペス・ブチラティカス(Anaerostipes butyraticus)などが挙げられる。
【0030】
ユーバクテリウム(Eubacterium)属の微生物としては、ユーバクテリウム・レクタレ(Eubacterium rectale)、ユーバクテリウム・ラムラス(Eubacterium ramulus)、ユーバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)などが挙げられる。
【0031】
ブチリビブリオ(Butyrivibrio)属の微生物としては、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、ブチリビブリオ・クロッソツス(Butyrivibrio crossotus)などが挙げられる。
【0032】
サブドリグラヌラム(Subdoligranulum)属の微生物としては、サブドリグラヌラム・バリアビレ(Subdoligranulum variabile)などが挙げられる。
【0033】
フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属の微生物としては、フシカテニバクター・サッカリボランス(Fusicatenibacter saccharivorans)などが挙げられる。
【0034】
ロセブリア(Roseburia)属の微生物としては、ロセブリア・ファエシス(Roseburia faecis)、ロセブリア・ホミニス(Roseburia hominis)、ロセブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)などが挙げられる。
【0035】
オシリバクター(Oscillibacter)属の微生物としては、オシリバクター・バレリシゲネス(Oscillibacter valericigenes)などが挙げられる。
【0036】
ロニソニエラ(Robinsoniella)属の微生物としては、ロビソニエラ・ペオリエンシス(Robinsoniella peoriensis)などが挙げられる。
【0037】
上記微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、理化学研究所 微生物材料開発室(JCM)、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)、米国菌培養収集所(ATCC)、ドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)などから入手することができる。
【0038】
本発明に係る微生物は、従来公知の方法を用いてヒトの糞便から得ることができる。
【0039】
本発明に係る微生物は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
本発明において、本発明に係る微生物の培養物は、微生物を培養した培養液、前記培養液を遠心分離して得られる上清、前記培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣、前記残渣からの精製物および前記残渣の乾燥物を意味する。
【0041】
残渣からの精製物(例えば、タンパク質)は、従来公知の手法に記載の方法に従って得ることができる。
【0042】
残渣の乾燥物は、培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣を風乾処理または減圧乾燥処理を行うことにより得ることができる。
【0043】
本発明に係る微生物の培養物は、従来公知の微生物の培養方法により得ることができる。例えば、微生物の培養に使用する培地は、固体または液体培地のいずれでもよく、また、使用する微生物が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。通常、培地は、炭素源、窒素源および無機物を含む。
【0044】
本発明に係る微生物の培養において使用できる炭素源としては、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。具体的には、微生物の資化性を考慮して、グルコン酸、カプリン酸、アジピン酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸フェニル、酢酸、乳酸、コハク酸、グルクロン酸、ピルピン酸等の有機酸類およびその塩、ヘキサデカン等の炭化水素、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、糖類などが挙げられる。上記炭素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。上記炭素源は、1種または2種以上選択して使用することができる。
【0045】
本発明に係る微生物の培養において使用できる窒素源としては、肉エキス、魚肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、トリプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源;アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。上記窒素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。上記窒素源は、1種または2種以上選択して使用することができる。
【0046】
本発明に係る微生物の培養において使用できる無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物などが挙げられる。上記無機物は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記無機物を1種または2種以上選択して使用することができる。また、培地中に、必要に応じて、界面活性剤等を添加してもよい。
【0047】
本発明に係る微生物の培養は、通常の方法によって行える。例えば、微生物の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で、微生物を培養する。前者の場合には、微生物の培養は、振盪あるいは通気攪拌などによって行われる。また、微生物を連続的にまたはバッチで培養してもよい。培養条件は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本発明に係る微生物が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する微生物の種類に応じて適宜選択されうる。培養温度は、通常20~42℃、好ましくは35~40℃である。また、培養に適当な培地のpHは、特に制限されないが、好ましくは5~11であり、より好ましくは6~10である。さらに、培養時間は、特に制限されず、培養する微生物の種類、培地の量、培養条件などによって異なる。通常は、培養時間は、好ましくは16~48時間、より好ましくは20~30時間である。
【0048】
本発明に係る微生物は、後述の実施例において示すように、生体内における活性イオウ分子のサプライヤーである。活性イオウ分子は、高い抗酸化能を示す生体内物質であることが知られている。そのため、本発明に係る微生物を含む抗酸化用組成物は、対象における酸化ストレスを低減することができる。
【0049】
すなわち、一実施形態において、本発明に係る抗酸化用組成物は、酸化ストレス低減のために使用される。他の一実施形態において、本発明に係る抗酸化用組成物は、酸化ストレスに起因する疾患または症状の予防、治療または改善のために使用される。
【0050】
本発明に係る抗酸化用組成物の対象は、哺乳動物であり、好ましくは酸化ストレスに起因する疾患または症状を示す、または前記酸化ストレスに起因する疾患または症状の可能性がある哺乳動物である。ここで、哺乳動物は、ヒト、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の霊長類、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ヤギなどの非ヒト哺乳動物双方を包含する。これらのうち、対象は、好ましくはヒトである。
【0051】
酸化ストレスに起因する疾患または症状としては、がん、神経障害、動脈硬化(虚血性心疾患、心筋梗塞、脳虚血、脳梗塞など)、糖尿病、肝炎、慢性閉塞性肺疾患、関節リウマチ、ベーチェット病などの組織障害、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病など)、喫煙などが原因の肺疾患、白内障、肩凝り、冷え性、しわ形成、弾力低下などの皮膚の老化、皮膚の黒化、シミ、ソバカスなどの色素沈着が挙げられる。
【0052】
本発明に係る抗酸化用組成物は、所望の効果を発揮するのに十分な量(すなわち、有効量)の本発明に係る微生物またはその培養物を含む。
【0053】
本発明に係る抗酸化用組成物は、本発明に係る微生物またはその培養物そのものでもよく、他の成分をさらに含んでもよい。他の成分としては、シスチンが挙げられる。本発明に係る微生物またはその培養物は、後述の実施例において示すように、他の硫黄含有化合物(例えば、メチオニン、システイン)と比べて、基質としてシスチンを用いることにより、システインパースルフィドを顕著に生成することができる。なお、シスチンは、本発明に係る抗酸化用組成物と併用されて投与されてもよい。
【0054】
本発明に係る抗酸化用組成物は、さらに製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製されてもよい。抗酸化用組成物は、簡易性の観点から、好ましくは経口製剤である。製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、結合剤、増粘剤、分散剤、懸濁化剤、崩壊剤、制菌剤、界面活性剤などを挙げることができる。剤形は特に制限されず、適宜設定すればよいが、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤、溶液、懸濁液、乳濁液、ローション剤、注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤、貼付剤などである。
【0055】
本発明に係る抗酸化用組成物は、飲食品の形態であってもよい。
【0056】
飲食品は、本発明に係る抗酸化用組成物に安定剤等の慣用の添加成分を加えて飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を、それらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ本発明に係る抗酸化用組成物を添加したものであってもよい。
【0057】
本明細書において、「飲食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物などが経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0058】
飲食品として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0059】
本明細書において「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「飲食品」という用語は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いられうる。
【0060】
本発明に係る飲食品においては、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0061】
<活性イオウ分子産生促進用組成物および活性イオウ分子の製造方法>
本発明の一形態は、アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物を含む、活性イオウ分子産生促進用組成物である。
【0062】
本発明の一形態は、アネロトランカス(Anaerotruncus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、ドレア(Dorea)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ファカリカテナ(Faecalicatena)属、ブラウティア(Blautia)属およびコプロコッカス(Coprococcus)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物またはその培養物と、シスチンとを接触させることを含む、活性イオウ分子の製造方法である。
【0063】
これらの形態において、「微生物」および「培養物」は、抗酸化用組成物において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。
【0064】
本発明に係る微生物またはその培養物は、後述の実施例において示すように、他の硫黄含有化合物(例えば、メチオニン、システイン)と比べて、基質としてシスチンを用いることにより、システインパースルフィドを顕著に生成することができる。そのため、本発明に係る活性イオウ分子産生促進用組成物は、好ましくはシスチンをさらに含む、またはシスチンと併用される。
【0065】
本発明に係る活性イオウ分子の製造方法において、本発明に係る微生物またはその培養物とシスチンとを接触させる方法は、特に制限されず、例えばシスチンを含む培地で微生物を培養する方法、微生物を培養した培養液とシスチンとを混合する方法、培養液を遠心分離して得られる上清とシスチンとを混合する方法、培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣、残渣からの精製物または残渣の乾燥物とを混合する方法などが挙げられる。
【0066】
本発明に係る活性イオウ分子の製造方法において、製造条件は特に制限されず、適宜選択することができる。例えば、微生物とシスチンとを接触させる場合、培養温度、培養時間などは、使用する微生物に応じて適宜選択される。また、培養物とシスチンとを接触させる場合、インキュベーション温度、インキュベーション時間などは、使用した微生物に従って適宜選択される。
【0067】
本発明に係る活性イオウ分子産生促進用組成物および活性イオウ分子の製造方法により得られる活性イオウ分子は、抗酸化活性を持つ医薬品、合成用の実験試薬などの用途で使用することができる。
【実施例0068】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。なお、特記しない限り、作業は室温(25℃)で行った。
【0069】
試験例1
<実験モデルおよび対象の詳細>
(細菌株および培養条件)
大腸菌は、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)から購入した。他の細菌株は、微生物材料開発室(JCM)から購入した。表1に、使用した細菌株に関する情報を示す。全ての細菌は、嫌気性条件下、37℃でGAMブロス(日水製薬株式会社)中で増殖させた。細菌増殖を測定するために、SpectraMax iD3(Molecular Devices社)を用いてOD600測定を行った。
【0070】
【0071】
(マウス)
全てのマウスは、日本クレア株式会社から購入した。ジャームフリー(GF)IQIマウスはビニールアイソレーターで飼育し、γ線滅菌したCE-2飼料(日本クレア株式会社)を与えた。一方、exGFおよびコンベンショナルのC57BL/6マウスは、従来の条件下で飼育され、CE-2飼料を与えられた。12匹の6週齢GFマウスを2群に分け、一方の群(6匹の雌)は、ビニールアイソレーターで4週間飼育したが、もう一方の群(6匹の雌)は腸内微生物叢を回復させるために通常の条件下でケージに4週間置いた(exGFマウス)。すべてのマウスは、慶應大学の動物施設で飼育した。Specific pathogen-free(SPF)C57BL/6マウス(SPFマウス)は、筑波大学の動物施設で、SPF条件下で飼育し、γ線滅菌したMF飼料(オリエンタル酵母工業株式会社)を与えた。使用した全てのマウスは雌(8~10週齢)であり、実験手順で使用する前に少なくとも1週間順応させた。すべてのマウスを、12時間の明暗サイクル下、21~22℃で飼育した。すべての実験は、日本学術会議によって発行された「動物実験の適切な実施のためのガイドライン」に従って行われた。
【0072】
[動物への処置]
6週齢のC57BL/6マウスに、抗生物質(1mg/mLのアンピシリン(ナカライテスク株式会社)および0.5mg/mLのバンコマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社))を含む水または抗生物質を含まない水へのアクセスを2週間与え、その後、それらの血液および糞便を収集した。5週齢のC57BL/6マウスに、抗生物質(1g/Lのアンピシリンおよび0.5g/Lのバンコマイシン)を含む水または抗生物質を含まない水へのアクセスを3週間与えた。投与期間中、マウスに90mgのL-シスチン(東京化学工業株式会社)を脱イオン水で最後の1週間は連日経口投与し、その後、それらの血液を採取した。5週齢のC57BL/6マウスに、バンコマイシン(0.5g/L)、ストレプトマイシン(ナカライテスク株式会社)(5g/L)、またはエリスロマイシン(ナカライテスク株式会社)(0.2g/L)を含む水または抗生物質を含まない水へのアクセスを3週間与えた。投与期間中、最後の1週間は、CE-2飼料を、3.75%シスチンを含むCE-2に変更し、糞便を採取した。採取した血液から血漿を4℃で、800×gで15分間遠心分離し、RSSレベルの測定に用いた。採取した糞便サンプルをRSSおよび16S分析に用いた。
【0073】
[ConA誘発肝炎モデル]
コンカナバリンA(ConA(IV型)、Sigma-Aldrich社)(15mg/kg)を8週齢のC57BL/6マウスの尾静脈に静脈内注射した。注射の12時間後、肝臓と血液とを採取した。過酸化脂質(マロンジアルデヒド(MDA))アッセイのために、肝臓組織を採取した。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性アッセイのために血清を採取した。肝臓組織中のMDAのレベルを、製造業者の指示に従って、脂質過酸化アッセイキット(Sigma-Aldrich社)を使用して決定した。ALTのレベルは、富士ドライケム 3500マシン(富士フイルム株式会社)を用いた富士ドライケムスライドを用いて測定した。
【0074】
[糞便細菌培養]
糞便サンプルを、嫌気性チャンバー(Sheldon Manufacturing社)中、1mMの硫黄含有アミノ酸(L-メチオニン、L-システイン、またはL-シスチン)(いずれも東京化成工業株式会社)を含むHEPES緩衝液(pH7.5)(ナカライテスク株式会社)または上記硫黄含有アミノ酸を含まないHEPES緩衝液(pH7.5)中でホモジナイズした。次いで、糞便ホモジネート(10mg/mL)を、37℃で60分間、振盪しながら嫌気培養した。培養後、サンプルを4℃で、15分間1100×gで遠心分離し、LC-ESI-MS/MS分析のために上清を収集した。
【0075】
[単一細菌培養]
一晩培養した後、1100×gで20分間、4℃での遠心分離を用いて細菌をペレット化した。上清を除去し、細菌ペレットを、1mMの硫黄含有アミノ酸(L-メチオニン、L-システイン、またはL-シスチン)を補充した100mMのHEPES緩衝液(pH7.5)に再懸濁した。各サンプルを37℃で振盪しながら60分間培養した。培養後、サンプルを1100×gで20分間、4℃で遠心分離し、次いで、上清をLC-ESI-MS/MS分析のために収集した。
【0076】
[糞便中の高分子量(HMW)画分]
糞便サンプルはプロテイナーゼ阻害剤を含有する50mM Tris-HCl(pH7.5)中でホモジナイズし、次いで4℃で10分間、9000×gで遠心分離した。HMW画分を得るために、上清をPD MiniTrap(商標)G-25カラム(排除限界、5000分子量、GE Healthcare社)に適用した。50mM HEPES緩衝液(pH7.5)、0.5mMシスチン、およびHMW画分(15μL)を含有する反応混合物(50μL)を37℃で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、混合物をメタノールで脱タンパクし、14000×gで10分間、4℃で遠心分離した。上清をLC-ESI-MS/MS分析のために得た。
【0077】
[細菌タンパク質の精製と酵素活性アッセイ]
24時間の培養後、細菌を、4℃で20分間、1100×gでの遠心分離を使用してペレット化した。上清を除去し、0.1mmおよび3.0mmのジルコニアビーズ(Biospec Products社)を用いて、シェイクマスターネオ細胞破壊装置(株式会社バイオメディカルサイエンス)中で、1%プロテアーゼ阻害剤およびDNase I(2kU/mL)を含有する100mMのHEPES緩衝液(pH7.5)中で細菌ペレットをホモジナイズした。ホモジネートを10000×g、4℃で5分間遠心分離した後、タンパク質を含む可溶性画分をPD MiniTrapTM G-25カラムにロードしてHMW画分を得、続いてAmicon Ultra Centrifugal Filterユニット(Merck社)を用いて濃縮した。タンパク質濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(タカラバイオ株式会社)を用いて測定した。
【0078】
HMW画分からの100mMのHEPES緩衝液(pH7.5)、1mMのL-シスチン、および細菌タンパク質(30μg)の混合物を、37℃で30分間インキュベーションした。アミノオキシ酢酸(AOAA,東京化成工業株式会社)の阻害効果を試験するために、反応混合物に100μMのAOAAを添加してから15分後にシスチンを添加した。インキュベーション後、混合物をメタノールで脱タンパクし、14000×gで10分間、4℃で遠心分離した。上清をLC-ESI-MS/MS分析のために得た。
【0079】
[LC-ESI-MS/MS分析]
RSSを含む硫黄求核剤のレベルを、β-(4-ヒドロキシフェニル)エチルヨードアセトアミド(HPE-IAM,コスモ・バイオ株式会社)を用いたLC-ESI-MS/MS分析を用いて測定した。血漿サンプルを5mMのHPE-IAMと30分間30℃で反応させ、続いてメタノールを添加し、遠心分離によって上清を収集した。糞便サンプルをメタノールでホモジナイズし、遠心分離によって得られた上清を30℃で30分間HPE-IAMと反応させた。同様に、培養した排泄物からの上清を30℃で30分間HPE-IAMと反応させた。これらの反応溶液を、既知量の同位体標識内部標準を含有する0.1%ギ酸(ナカライテスク株式会社)で4倍に希釈し、次いでLC-ESI-MS/MSを用いて分析して、硫黄求核剤のレベルを決定した(Akaike et al. (2017). Cysteinyl-tRNA synthetase governs cysteine polysulfidation and mitochondrial bioenergetics. Nat Commun 8, 1177;Akiyama et al. (2019). Environmental Electrophile-Mediated Toxicity in Mice Lacking Nrf2, CSE, or Both. Environ Health Perspect 127, 67002)。
【0080】
[16S rRNA遺伝子のシーケンシングおよび解析]
細菌のDNAを、MagLEAD 12 gC核酸抽出装置(プレシジョン・システム・サイエンス株式会社)を用いて、Kimizuka et al. (2021). Amino Acid-Based Diet Prevents Lethal Infectious Diarrhea by Maintaining Body Water Balance in a Murine Citrobacter rodentium Infection Model. Nutrients 13に記載の方法に従い糞便から抽出した。各DNAサンプルを、16S rRNA遺伝子のV3およびV4領域に特異的な以下のプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した:フォワード、5’-GTCGTCGGCAGGCGTCAGTCAGTGTAAGACAGTAAGACAGTACGGGNGCWCAG-3’(配列番号1);リバース、5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGACTACHVGGGTATCTAATCC-3’(配列番号2)。PCR産物をAMPure XP Beads(Beckman Coulter社)により精製し、アダプターをNextera XTインデックスキット(Illumina社)を用いたPCRにより付加した。配列決定は、MiSeq System(Illumina社)を用いて行った。配列決定データを、QIIME2バージョン2020.11(Bolyen et al. (2019). Reproducible, interactive, scalable and extensible microbiome data science using QIIME 2. Nat Biotechnol 37, 852-857)によって分析した。QIIME2(https://doi.org/10.14806/ej.17.1.200,アクセス日:2021年5月27日)のCutadaptプラグインを使用して、生配列からプライマー領域をトリミングした。プライマー領域を含まない配列をDADA2アルゴリズム(Callahan et al. (2016). DADA2: High-resolution sample inference from Illumina amplicon data. Nature Methods 13, 581-583)によって処理して、アンプリコン配列変異体(ASV)配列の構築物を得た。SILVAデータベース(バージョン138)(Callahan et al., 2016)に基づいて分類を割り当てるために、BLAST(Pruesse et al. (2007). SILVA: a comprehensive online resource for quality checked and aligned ribosomal RNA sequence data compatible with ARB. Nucleic Acids Research 35, 7188-7196. )を使用した。フィーチャーテーブル(Weiss et al. (2017). Normalization and microbial differential abundance strategies depend upon data characteristics. Microbiome 5)を用いて高品質配列(13 700)をランダムに選択した。
【0081】
[DNA抽出と定量PCR(qPCR)]
細菌DNAの抽出および定量は、Ishizuka et al. (2012). Effects of administration of Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505 on defecation frequency and bifidobacterial microbiota composition in humans. Journal of Bioscience and Bioengineering 113, 587-591に記載の方法に従って行った。次のユニバーサルプライマー:フォワード、5’-TCCTACGGGAGGCAGCAGT-3’(配列番号3)、およびリバース、5’-GGACTACCAGGGTATCTAATCCTGT-3’(配列番号4)(Nadkarni et al. (2002). Determination of bacterial load by real-time PCR using a broad-range (universal) probe and primers set. Microbiology 148, 257-266)を用いて、糞便中の総細菌数をqPCRにより分析した。qPCRはTB Green(登録商標)Premix Ex Taq(商標)(タカラバイオ株式会社)を用いたStepOnePlus(登録商標)Real-Time PCR System(Applied Biosystems社)により、以下のパラメーターで行った:95℃で30秒間の単一サイクル、次いで95℃で5秒間の35サイクル、および60℃で30秒間。
【0082】
[定量化と統計解析]
統計分析を、unpairedスチューデントのt検定、クラスカル・ウォリス検定、およびテューキーの多重比較検定による一元配置分散分析を用いてGraphPad Prism v.9.2.0(GraphPad Software社)で行った。
【0083】
<結果>
1.腸内細菌は宿主における活性イオウ分子のサプライヤーである
SPFマウス(抗生物質無投与)および抗生物質処理SPFマウス(Abxマウス)における血漿中活性イオウ分子濃度を比較した結果を
図1Aに示す。
【0084】
図1Aに示すように、Abxマウスでは、活性イオウ分子(システインパースルフィドおよびグルタチオンパースルフィド)の血漿中濃度が減少したことが分かる。
【0085】
次に、GFマウスおよびexGFマウスにおける血漿中活性イオウ分子濃度を比較した結果を
図1Bに示す。
【0086】
図1Bに示すように、exGFマウスでは、活性イオウ分子(システインパースルフィドおよびグルタチオンパースルフィド)の血漿中濃度が顕著に増加したことが分かる。
【0087】
以上より、腸内細菌は、宿主生体内における活性イオウ分子の吸収レベルを増加させることが示唆される。
【0088】
SPFマウス(抗生物質無投与)の糞便サンプルをメチオニン、システインまたはシスチンの存在下培養した結果を
図2Aに示す。
【0089】
図2Aに示すように、腸内細菌は、シスチンを主要な基質として活性イオウ分子を産生することが分かる。
【0090】
次に、SPFマウス(抗生物質無投与)およびAbxマウスの糞便からのHMW画分の精製物とシスチンとを反応させた結果を
図2Bに示す。
【0091】
図2Bに示すように、SPFマウス(抗生物質無投与)の糞便からのHMW画分の精製物とシスチンとを反応させることで、システインパースルフィドが得られた。一方、Abxマウスの糞便からのHMW画分の精製物とシスチンとを反応させても、システインパースルフィドがほとんど得られなかった。
【0092】
以上より、腸内細菌は、基質としてシスチンを用いて、酵素的にシステインパースルフィドの産生を行うことが示唆される。
【0093】
2.腸内細菌由来の活性イオウ分子は酸化ストレス性肝障害に対する保護効果を有する
C57BL/6マウス(抗生物質無投与または抗生物質投与)にシスチンを経口投与し、血漿中活性イオウ分子濃度を測定した結果を
図3Aに示す。
【0094】
図3Aに示すように、C57BL/6マウス(抗生物質無投与)における血漿中活性イオウ分子濃度はシスチンの投与により増加する一方、この影響は、抗生物質による処置により強く抑制された。このことは、シスチンから腸内細菌により酵素的に産生された活性イオウ分子が宿主へ移行し、宿主中の活性イオウ分子のレベルへ影響を与えることを示唆する。
【0095】
次に、ConA誘発肝炎モデルマウスの血清ALTレベルおよびMDAレベルを測定した結果を
図3Bに示す。
図3Bにおいて、「Cont」は、C57BL/6マウス(抗生物質無投与)に生理食塩水(コントロール)を経口投与した後、ConAを投与したマウス(コントロール群)であり、「Cystine」は、C57BL/6マウス(抗生物質無投与)にシスチンを経口投与した後、ConAを投与したマウス(シスチン処理群)である。
【0096】
図3Bに示すように、肝障害のマーカーである血清ALTのレベルは、ConA投与後のコントロール群において上昇する一方、シスチン処理群において著しく減少した。肝障害および酸化ストレスマーカーであるMDAの蓄積は、コントロール群と比べて、シスチン処理群において著しく抑制された。このことは、肝細胞の酸化ストレスの減少を示している。
【0097】
さらに、抗生物質を投与したConA誘発肝炎モデルマウスの血清ALTレベルを測定した結果を
図3Cに示す。
図3Cにおいて、「Cont」は、C57BL/6マウス(抗生物質投与)に生理食塩水(コントロール)を経口投与した後、ConAを投与したマウス(コントロール群)であり、「Cystine」は、C57BL/6マウス(抗生物質投与)にシスチンを経口投与した後、ConAを投与したマウス(シスチン処理群)である。
【0098】
図3Cに示すように、血清ALTのレベルは、コントロール群およびシスチン処理群で同程度であることが分かる。
【0099】
以上より、シスチンの保護効果は、腸内細菌依存であること、すなわちシスチンからの腸内細菌代謝物(例えば、活性イオウ分子)が酸化ストレス性肝障害における保護的な役割を果たすことが示唆される。
【0100】
3.ラクノスピラ科およびルミノコッカス科に属する腸内細菌は、高システインパースルフィド産生能を有する
異なるスペクトラムを有する抗生物質を投与したマウスの糞便における活性イオウ分子レベルを測定した結果を
図4Aに示す。
図4Aにおいて、「Cont」は、C57BL/6マウス(抗生物質無投与)にシスチンを含む飼料を与えたマウスであり、「VCM」、「Stp」および「Ery」は、C57BL/6マウス(それぞれ、バンコマイシン、ストレプトマイシン、またはエリスロマイシン投与)にシスチンを含む飼料を与えたマウスである。
【0101】
図4Aに示すように、Ery投与マウスの糞便におけるシステインパースルフィドのレベルは、すべての群のなかで最も高かった。
【0102】
16S rRNA遺伝子シーケンシングを用いた腸内細菌叢の組成解析の結果を
図4BおよびCに示す。
図4BおよびCにおいて、「Cont」、「VCM」、「Stp」および「Ery」は、
図4Aと同様である。
【0103】
図4BおよびCに示すように、ラクノスピラ(Lachnospirace)科、ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科、およびオシロスピラ(Oscillospirace)科の相対存在量は、Ery投与群において有意に増加した。
【0104】
図4Bに示す科に属する各単一株を用いて細胞培養を行い、シスチン投与後のシステインパースルフィド産生能を評価した結果を
図4Dに示す。
【0105】
図4Dに示すように、ラクノスピラ科およびルミノコッカス科は、他の細菌科と比べて、高いシステインパースルフィドを産生することが分かる。
【0106】
アネロトランカス・コリホミニス(Anaerotruncus colihominis)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)およびクロストリジウム・ボルテエ(Clostridium bolteae)をメチオニン、システインまたはシスチン存在下で培養後の各菌株におけるシステインパースルフィド産生量の結果を
図4Eに示す。
【0107】
図4Eに示すように、アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナおよびクロストリジウム・ボルテエは、シスチンを基質としてシステインパースルフィドを産生した。
【0108】
アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナ、クロストリジウム・ボルテエおよびバクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)からの精製タンパク質をシスチンと反応させた結果を
図4Fに示す。
【0109】
図4Fに示すように、アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナおよびクロストリジウム・ボルテエからの精製タンパク質とシスチンとを反応させると、システインパースルフィドが顕著に生成されたが、バクテロイデス・テタイオタオミクロンからの精製タンパク質とシスチンとを反応させても、少量のシステインパースルフィドのみが生成された。このことは、アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナおよびクロストリジウム・ボルテエが基質としてのシスチンからシステインパースルフィドを生成する酵素をエンコードしていることを示唆する。
【0110】
哺乳類では、主なシステインパースルフィド産生酵素であるCSEとCBSとの間の酵素反応はPLP依存的であることが知られている。
図4Fは、PLP依存性酵素反応の阻害剤であるアミノオキシ酢酸(AOAA)の存在下、精製タンパク質とシスチンとを反応させた結果を示す。
【0111】
図4Fに示すように、AOAAは、アネロトランカス・コリホミニス、ドレア・ロンギカテナおよびクロストリジウム・ボルテエからの精製タンパク質とシスチンとの反応におけるシステインパースルフィドの精製を阻害するが、バクテロイデス・テタイオタオミクロンからの精製タンパク質とシスチンとの反応におけるシステインパースルフィドの精製には影響がなかった。このことは、腸内細菌の高システインパースルフィド産生酵素がPLP依存的であることを示す。
【0112】
試験例2
7週齢のC57BL/6マウス(日本クレア株式会社から購入)を以下の3群に分けて3週間飼育した。マウスは、実験手順で使用する前に少なくとも1週間順応させた。すべてのマウスを、12時間の明暗サイクル下、21~22℃で飼育した。すべての実験は、日本学術会議によって発行された「動物実験の適切な実施のためのガイドライン」に従って行われた。
【0113】
コントロール群(Cont)では、水道水を3週間自由飲水させた。
【0114】
クロストリジウム・ボルテエ培養溶液の非投与群(Non)およびクロストリジウム・ボルテエ培養溶液の投与群(Bolteae)では、抗生物質(1mg/mLのアンピシリン(ナカライテスク株式会社)および0.5mg/mLのバンコマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社))を含む水を2週間自由飲水させた後、水道水を1週間自由飲水させた。
【0115】
3週間の飼育期間中、最後の1週間、Non群は、変法GAMブイヨン(日水製薬株式会社)(200μl)を、Bolteae群は、クロストリジウム・ボルテエの培養溶液(200μl)を毎日1回1週間経口投与した。
【0116】
クロストリジウム・ボルテエの培養溶液の調製方法は、以下のとおりである。
【0117】
クロストリジウム・ボルテエを変法GAM寒天培地(日水製薬株式会社)に塗布し、培養を行った。48時間後に明確なコロニーを採取し、1.6mLの変法GAMブイヨン(日水製薬株式会社)で24時間培養を行い、培養溶液を調製した。培養は全て37℃、嫌気条件下で行なった。
【0118】
3週間の飼育期間中、最後の1週間は、Cont群を除く全ての群にCE-2飼料(日本クレア株式会社)を、4%シスチンを含むCE-2飼料に変更した。
【0119】
飼育終了時には心採血を実施した。採取した血液から血漿を4℃で、800×gで15分間遠心分離し、上述のLC-ESI-MS/MS分析と同様の方法により血漿中のシステインパースルフィド(CysSSH)およびグルタチオンパースルフィド(GSSH)レベルを測定した。結果を
図5に示す。
【0120】
図5に示すように、クロストリジウム・ボルテエの培養溶液を経口投与することにより、血漿中のCysSSHおよびGSSHレベルが上昇したことが分かる。なお、
図5において、Cont群とNon群との間に、統計的有意差はなかった。このことは、投与されたクロストリジウム・ボルテエによる活性イオウ分子の産生が、宿主の抗酸化能を向上させることを示す。