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特開2023-116934生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰
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  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図1
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図2A
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図2B
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図2C
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図3
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図4A
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図4B
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図4C
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図5
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図6
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図7
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図8
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図9
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図10
  • 特開-生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116934
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】生石灰の製造方法、及び、それにより製造された生石灰
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/06 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
C01F11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019345
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】390020167
【氏名又は名称】奥多摩工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 正行
(72)【発明者】
【氏名】森川 徹也
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB09
4G076AC04
4G076BA39
4G076BD02
4G076CA02
(57)【要約】
【課題】製造時間の短縮及び炭素排出量の低減を図り、効率よく生石灰を製造する。
【解決手段】粉砕後の石灰石を焼成炉に投入後、焼成炉に熱源として過熱蒸気を送り込み、連続的に石灰石と接触させながら焼成して生石灰を製造する。焼成の温度は、1000℃以下、好ましくは900℃以下であり、焼成時間は60分以下、好ましくは30分以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム含有原料を粉砕後に焼成炉に投入後、焼成炉に熱源である気体を送り込み、連続的に前記原料と接触させながら焼成して生石灰を製造する方法であって、前記熱源として過熱蒸気を用いることを特徴とする生石灰の製造方法。
【請求項2】
炭酸カルシウム含有原料が石灰石であることを特徴とする請求項1記載の生石灰の製造方法。
【請求項3】
焼成温度が、1000℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の生石灰の製造方法。
【請求項4】
石灰石の粒度が、30mm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の生石灰の製造方法。
【請求項5】
焼成時間が60分以下である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の生石灰の製造方法。
【請求項6】
過熱蒸気の温度が1100℃~1200℃であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の生石灰の製造方法。
【請求項7】
前記焼成炉が、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、ロータリーキルン、竪型炉のいずれかである請求項1ないし6のいずれか一項に記載の生石灰の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の生石灰の製造方法により製造された生石灰であって、欧州規格DIN EN459-2で規定される消化発熱時間(tu)が10秒以下であることを特徴とする生石灰。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石灰石、卵殻、貝殻などの炭酸カルシウムを主成分として含む炭酸カルシウム含有原料から加熱により生石灰を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生石灰の主な製造方法は、採掘した石灰石を高温焼成する方法であり、焼成炉の燃料として石油、石炭、天然ガス等の化石燃料が使用されている。化石燃料による焼成では、熱した空気により焼成を行うため、熱伝導率が低く焼成時間が長くなるという問題や、燃焼空気並びに燃焼排ガス中に含まれるCOが分圧として存在し、脱炭酸反応に対しては抑制の方向に働き効率が悪いという課題がある。それに加えて、化石燃料を燃焼することに伴って排出されるCO2排出量の増加という問題がある。
【0003】
CO2排出の課題については、近年、CO2の回収・利用技術が開発されているが、化石燃料による焼成では、燃焼空気投入により排ガス中のCO2ガス濃度が30%程度まで希釈されてしまうため、希釈ガスからCO2を選択的に回収するには大きなコストがかかる。
【0004】
化石燃料を用いない焼成方法として、電気炉による加熱が考えられるが、石灰石を焼成して生石灰を製造するためには、1000℃程度の高温で長時間(例えば1時間以上)加熱する必要があり、多大な電気消費量を必要とする。
【0005】
一方、主に食品の分野において、加熱処理の熱源として、飽和蒸気に比べエネルギーが高く水滴を生じにくい過熱蒸気が利用されている。また特許文献1には、セラミックスの製造において、一次焼成後のセラミック材料を過熱蒸気で二次焼成することが記載されており、食品以外の分野での応用も期待されている。但し合成の分野での過熱蒸気の適用については、これまで報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5925025号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、CO2排出量を低減し且つ比較的短時間で効率よく生石灰を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生石灰の製造方法は、炭酸カルシウム含有原料を焼成して生石灰を製造する際に焼成の熱源として過熱蒸気を用いることを特徴とする。具体的には、炭酸カルシウム含有原料を粉砕後に焼成炉に投入後、焼成炉に熱源である気体を送り込み、連続的に炭酸カルシウム含有原料と接触させながら焼成して生石灰を製造する方法であって、熱源として過熱蒸気を用いることを特徴とする。
【0009】
焼成の温度は、1000℃以下、好ましくは900℃以下であり、焼成時間は60分以下、好ましくは30分以下である。
【0010】
また本発明は、上記方法によって製造された生石灰を提供するものである。本発明の生石灰は、比較的短時間、低温で焼成できることから、焼き締まりを防ぐことができるため、欧州規格DIN EN459-2で規定される消化発熱時間(tu)が10秒以下であり、高い活性を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、焼成の熱源として化石燃料を用いていないので、製造工程全体としてのCO排出量を低減することができる。また、過熱蒸気による焼成では、排ガスは脱炭酸反応のCOガスと蒸気のみであるため、排ガスを蒸気の凝縮温度以下にすることで100%に近い濃度のCOガスが容易に回収可能となる。
【0012】
さらに過熱蒸気は水分子のみの気体であるため、還元雰囲気となり、COの分圧も存在しないため脱炭酸反応が効率的に行われる。加えて、過熱蒸気は伝熱性に優れているので、従来の化石燃料や電気炉を用いた方法に比べ短時間で焼成が可能である。焼成時間が短くて済むことから、従来の焼成炉に限らず、小型の焼成炉への適用も可能である。
【0013】
本発明の製造方法により製造される生石灰は、比較的粒子径が小さく、高活性を有し、消石灰製造の原料として、また各種化学薬品の原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】焼成炉の概要を示す図
図2A】実施例1のXRD測定結果を示す図
図2B】実施例1のXRD測定結果を示す図
図2C】実施例1のXRD測定結果を示す図
図3】実施例1の焼成物のSEMを示す図
図4A】実施例2のXRD測定結果を示す図
図4B】実施例2のXRD測定結果を示す図
図4C】実施例2のXRD測定結果を示す図
図5】実施例2の焼成物のSEMを示す図
図6】実施例3のXRD測定結果を示す図
図7】実施例4のXRD測定結果を示す図
図8】実施例3の焼成物のSEMを示す図
図9】比較例1のXRD測定結果を示す図
図10】比較例2のXRD測定結果を示す図
図11】実施例1の焼成物のSEMを示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の生石灰の製造方法を具体的に説明する。
まず炭酸カルシウム含有原料(以下、単に原料ともいう)は、炭酸カルシウムを主成分とする天然由来の原料であり、石灰石のほか、卵殻、貝殻などの炭酸カルシウムを主成分とした廃棄物を用いることができる。焼成に先立って所定の粒度に粉砕したものを用いる。粒度は特に限定されるものではないが、平均粒径が好ましくは30mm以下、より好ましく20mm以下、さらに好ましくは10mm以下のものを用いる。原料の粉砕は、例えば、粉砕機を用いて行うことができる。また必要に応じて、水洗、分級を行う。粒度を揃えておくことにより、焼成の均一化を図ることができ、より品質のよい生石灰を得ることができる。
【0016】
過熱蒸気は、内部に蒸気が通る管を配置した貫流ボイラーなどと同様の構造の過熱蒸気発生装置(過熱器)により製造することができる。過熱蒸気発生装置では、管の外側から加熱することで、蒸気の圧力を維持しながら温度だけを飽和温度以上に上げることができ、最大で1200℃程度の過熱蒸気を得ることができる。本発明の製造方法では、過熱蒸気として1100℃~1200℃の過熱蒸気を用いる。
【0017】
本発明では、上述した炭酸カルシウム含有原料、好ましくは所定の粒度に粉砕したものを焼成炉に充填した後、焼成炉の加熱用気体の供給口(供給路)を通して過熱蒸気を焼成炉内部に送り込み、焼成炉内で上述した原料と混合して好ましくは1000℃以下の温度を保った状態で加熱処理を行う。
【0018】
焼成炉としては、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、コマ式炉等の竪型炉、あるいは、ロータリーキルン等の従来の石灰石の焼成炉と同様の構造のものを用いることができる。例えば、図1に示すように、従来の焼成炉において、熱風(化石燃料を燃焼することで発生した高温空気)を供給する供給路に過熱蒸気発生装置を接続することで、従来と同様に焼成を行うことができる。
【0019】
焼成は、粉砕した原料を収納した炉内に、過熱蒸気発生装置から出てくる1100~1200℃程度の過熱蒸気を所定の供給量で送りながら、原料と過熱蒸気を連続的に接触させて原料を加熱する。焼成炉の型式によっては、この際撹拌を伴う場合もある。焼成時間、すなわち過熱蒸気を送り続ける時間は、原料の粒度によっても異なるが、例えば、粒度1mm~30mmの原料であれば60分以下でよく、粒度10mm以下の石灰石では30分以下でも、原料に由来する炭酸カルシウムのほぼ全量を酸化カルシウムに転化することができる。
【0020】
焼成を完了した後、焼成物を取り出すまでの冷却時間が滞留時間となる。焼成後の生石灰は、その後の用途や必要に応じて、分級等の後処理を施してもよい。
【0021】
本発明の方法によれば、伝熱性に優れた過熱蒸気を用いることで、燃焼空気を用いる従来法に比べ、低温且つ短時間で効率よく焼成を行うことができる。また低温で焼成可能であることから、消化発熱時間(欧州規格DIN EN459-2で規定される消化発熱時間(tu))が10秒以下の生石灰を得ることができる。消化発熱時間は、生石灰の活性度の指標であり、焼成温度が低いほど短くなることが知られている。従来の化石燃料を用いた1000℃焼成品では、tuが30~300秒程度であるのに対し、本発明方法では、焼成温度を1000℃未満にすることができるため、消化発熱時間の短い生石灰を得ることができる。これにより高活性の生石灰を得ることができる。
【0022】
また本発明の方法によれば、電気と水のみで製造可能な過熱蒸気を使用するため、過熱蒸気製造用の電力として太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーを利用することで、化石燃料の使用をゼロとすることができ、焼成時の排ガスは冷却することでCOのみとなるので、その回収を容易に行うことができる。
【0023】
本発明の方法で得られる生石灰は、そのまま土壌改良剤、発熱材等の用途に用いられるほか、消石灰や軽質炭酸カルシウムの製造用に、また他の化学合成の原料として、用いることができる。
【実施例0024】
<実施例1>(1000℃、60分)
石灰石を粉砕機で粉砕した後、粒度(1)1-3mm、(2)3-10mm、及び(2)10-30mmの粒子に分級した。
【0025】
一方、これら粒度の異なる3種の石灰石を焼成炉(実験用小型炉)に投入し、焼成炉の燃焼ガス導入口から、過熱蒸気発生装置(トクデン株式会社 UPSS-W20H)により過熱蒸気を連続的に供給し焼成を行った。この際、過熱蒸気の供給量(時間当たりの供給量)は、20kg/時間とし、過熱蒸気の温度を1100℃~1200℃の範囲で調整することで焼成炉における焼成温度を1000℃に維持し、60分間の焼成を行った。その後、焼成品が取り出し可能な温度になるまで自然冷却させた後、焼成物を炉から取り出し、XRD測定による定性分析を行い、生石灰(酸化カルシウム)となっているかを確認した。
【0026】
各粒度について、XRDの測定結果を図2A図2Cに、またSEMを図3に示す。
【0027】
図2A図2Cに示すように、実施例1の方法で焼成した焼成品は、すべての粒度において、石灰石(炭酸カルシウム)に由来するピークが消失し、酸化カルシウム単一相のピークが確認された。図3において、(1)、(2)、(3)はそれぞれ石灰石の粒度が1-3mm、3-10mm、10-30mmの焼成物である。
【0028】
<実施例2>(900℃、60分)
実施例1と同じように、粒度の異なる3種の石灰石を用い、焼成温度が900℃となるように過熱蒸気の温度を調整し、60分の焼成を行った。実施例2で得られた焼成物についても実施例1と同様に、XRD測定による定性分析を行った。その結果を図4A図4Cに示す。また粒度3-10mmの石灰石を用いた焼成物のSEMを図5に示す。
【0029】
図4A図4Cに示すように、実施例2の方法で焼成した場合にも、温度1000℃とした実施例1と同様に酸化カルシウム単一相に転化していることが確認された。ただし、粒度10-30mmを用いた焼成物では、わずかな残留炭酸カルシウムが確認された(図4C)。また欧州規格DIN EN459-2に準拠して、3-10mmの焼成物の消化発熱時間tuを測定したところ、6秒であった。
【0030】
<実施例3、4>(900℃、30分、15分)
焼成時間を30分(実施例3)、15分(実施例4)に代えて、それ以外は実施例2と同様に900℃の焼成温度で焼成を行った。実施例3及び実施例4それぞれの石灰石の粒度3-10mmのものについて、XRD測定した結果を図6図7に示す。なお焼成時間を30分とした実施例3において、粒度10-30mmの石灰石を用いた結果では、若干炭酸カルシウムのピークが確認され、単一相の酸化カルシウムを製造できなかったため、実施例4は、粒度10―30mmのものを用いた焼成は行っていない。実施例3で粒度1-3mm、3-10mmの石灰石の焼成物のSEMを図8に示す。
【0031】
実施例1~4の結果をXRDの結果をまとめたものを表1に示す。なお表1において、「〇」はXRD測定で酸化カルシウム単一相が得られたもの、「△」はXRD測定で酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムのピークがわずかにみられたもの、「×」はXRD測定で酸化カルシウムと共に炭酸カルシウムのピークが多量にみられたものを表す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示す結果から明らかなように、焼成温度を1000℃以下とすることで、石灰石から酸化カルシウム単一相の生石灰が得られることが確認できた。また焼成温度900℃以下で焼成時間が15分でも粒度10mm以下では、酸化カルシウム単一相の生石灰が得られることが確認できた。
【0034】
<比較例1、2>
過熱蒸気の代わりに電気炉(アサヒ理化製作所 ARF-40KC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、焼成温度1000℃(比較例1)及び焼成温度900℃(比較例2)、焼成時間60分で焼成を行い、得られた焼成物について、XRD測定による定性分析を行った。これらの結果を併せて表1に示す。また比較例1(粒度10―30mmを用いた場合)及び比較例2(粒度1―3mmを用いた場合)のXRDの結果とSEMを図9図10に示す。また比較例1で得られた焼成物(粒度3-10mm)のSEMを図11に示す。
【0035】
表1の結果及び図9図10に示す結果から明らかなように、電気炉を用いた場合には実施例1と同じ焼成温度1000℃とした比較例1では、粒度が大きいと完全に酸化カルシウムに転化することができず、1時間以上の長い焼成時間が必要であることが確認された。また焼成温度900℃では、粒度が小さくても(1-3mm)焼成温度60分では焼成が不十分であり、焼成温度を上げるか焼成時間を長くする必要があることが確認された。
【0036】
粒度3-10mmの石灰石を用いて焼成温度1000℃、焼成時間60分、で焼成した実施例1及び比較例1の焼成品のSEMの比較から(図3(2)と図11)、電気炉を用いたときよりも過熱蒸気を用いたときのほうが、粒子が細かい生石灰が得られた。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11