(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116976
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ボトムカバーを備える受粉装置
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20230816BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A01H1/02 A
A01G7/00 604Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019408
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000242530
【氏名又は名称】北菱電興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】粟森 雄大
(72)【発明者】
【氏名】詠 祐貴
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】花粉をほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができる、一つの花に雄しべと雌しべを有する花の受粉装置であって、作業者の熟練度によらず受粉させることができる受粉装置を提供する。
【解決手段】花収納部と花収納部の壁面に沿うように装着して使用するボトムカバー1と花収納部の外周に渦流を発生させる渦流発生装置2とを備え、ボトムカバー1の内部に花11を配置し、渦流発生装置2によって発生させた渦流がボトムカバー1のスリットから侵入し、侵入した渦流で収納した花を受粉させる受粉装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの花に雄しべと雌しべを備える花の受粉装置であって、前記受粉装置は、
花収納部と前記花収納部の壁面に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に渦流を発生させる渦流発生装置を備え、前記ボトムカバーには、ボトムカバー底面から30°以上、かつ、40°以下の角度で立ち上がるらせん状のスリットが設けられており、前記スリットは前記収納した花の雌しべの高さ以上の高さで収束するスリットであり、前記ボトムカバーの天井部は少なくとも中央の一部が塞がっており、前記ボトムカバーの内部に前記花を配置し、前記渦流発生装置によって発生させた渦流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した渦流で前記収納した花を受粉させる受粉装置。
【請求項2】
前記スリットは前記ボトムカバーの高さの1/2以上の高さで収束するスリットである請求項1記載の受粉装置。
【請求項3】
前記スリットは前記渦流の回転軸を中心に円周等分に配されている請求項1又は2記載の受粉装置。
【請求項4】
受粉後に色付きのマイクロミストを噴射して前記収納した花に色を付ける請求項1乃至3いずれか記載の受粉装置。
【請求項5】
前記花がイチゴの花である請求項1乃至4いずれか記載の受粉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの花に雄しべと雌しべを有する花の受粉装置に関する。詳しくは、該受粉装置は、花収納部と花収納部の壁面に沿うように装着して使用するボトムカバーを備え、前記ボトムカバーはらせん状のスリットを備えるボトムカバーであり、前記ボトムカバー内に花を収納し、花収納部の外周で発生させた渦流をボトムカバー内に侵入させ、収納した花の雄しべの花粉を雌しべの柱頭に付着させて受粉させる受粉装置であり、花粉をほぼすべての雌しべの柱頭に十分に、また、満遍なく付着させることができる受粉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴは虫媒花であり、従来、イチゴの栽培にはミツバチが用いられてきた。
【0003】
しかし、ミツバチは減少傾向にあり、栽培に使用できるミツバチも高騰したりして、安定して虫媒用のミツバチを供給することが困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、花粉を梵天に付着させ、付着させた花粉を一花毎にほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく付着させて受粉するという人工授粉が行われている。
【0005】
しかし、梵天で花粉を付着させる人工授粉方法だと、まず、梵天に付着させる花粉を採取しなければならず、手間がかかると共に、花粉採取時に同一花内にある雌しべを傷つける虞がある。
【0006】
また、イチゴは全ての雌しべの柱頭に満遍なく、また十分に花粉が付着しないと受精不良となり奇形果になってしまうため、人工授粉を行う者の熟練度が低いと奇形果が増えて商品にならないという問題がある。
【0007】
梵天による人工授粉の場合、熟練就農者が受粉させた場合であっても約30%奇形果が発生すると言われており、初心者では約95%が奇形果となると言われている。
【0008】
そこで、花粉を採取する手間がかからず、また、作業者の熟練度に関わらず花粉を雌しべの柱頭に満遍なくかつ十分に付着させることができ、イチゴの花に使用すれば奇形果の発生を抑制できる受粉装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-85586
【特許文献2】特開2013-135634
【0010】
特許文献1には、閉鎖空間を構成するチャンバーに複数の植物を収容し、空気によって振動を与えて受粉させる振動受粉装置が記載されている。
【0011】
しかし、複数の植物を収容した大きな空間で振動を与えるので、花粉の柱頭に満遍なくまた十分に花粉を付着させることが困難であり、イチゴのような植物では奇形果が増えるという問題がある。
【0012】
特許文献2には、植物にらせん状の圧縮空気を放出して受粉させる受粉装置が記載されている。
【0013】
しかし、植物全体に圧縮空気を当てるため、全ての花の柱頭に花粉を満遍なく付着させることができないから、イチゴのような植物では、ほぼすべての雌しべの柱頭に花粉を付着させることができず奇形果が増えるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは前記の問題を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な多くの試作、実験を重ねた結果、花収納部と前記花収納部の壁面に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に渦流を発生させる渦流発生装置とを備え、前記ボトムカバーには、ボトムカバー底面から30°以上、かつ、40°以下の傾斜角度で立ち上がるらせん状のスリットが設けられており、前記スリットは前記収納した花の雌しべの高さ以上の高さで収束するスリットであり、前記ボトムカバー天井部は塞がれており、前記ボトムカバーの内部に前記花を配置し、前記渦流発生装置によって発生させた渦流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した渦流で前記収納した花を受粉させる受粉装置であると、収納した花の雄しべの花粉が収納した花の雌しべの柱頭に満遍なく付着して受粉するので、イチゴの花に使用すれば奇形果が生じ難い受粉装置になるという刮目すべき知見を得て、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は次のとおりの本発明によって解決できる。
【0016】
本発明は、一つの花に雄しべと雌しべを備える花の受粉装置であって、前記受粉装置は、花収納部と前記花収納部の壁面に沿うように装着して使用するボトムカバーと前記花収納部の外周に渦流を発生させる渦流発生装置を備え、前記ボトムカバーには、ボトムカバー底面から30°以上、かつ、40°以下の角度で立ち上がるらせん状のスリットが設けられており、前記スリットは前記収納した花の雌しべの高さ以上の高さで収束するスリットであり、前記ボトムカバーの天井部は少なくとも中央の一部が塞がっており、前記ボトムカバーの内部に前記花を配置し、前記渦流発生装置によって発生させた渦流が前記ボトムカバーのスリットから侵入し、前記侵入した渦流で前記収納した花を受粉させる受粉装置である。
【0017】
また本発明は、前記スリットは前記ボトムカバーの高さの1/2以上の高さで収束するスリットである前記の受粉装置である。
【0018】
また本発明は、前記スリットは前記渦流の回転軸を中心に円周等分に配されている前記の受粉装置である。
【0019】
また本発明は、受粉後に色付きのマイクロミストを噴射して前記収納した花に色を付ける前記の受粉装置である。
【0020】
また本発明は、前記花がイチゴの花である前記の受粉装置である。
【発明の効果】
【0021】
本明細書においては、イチゴの花を例に挙げて説明するが、本発明はイチゴの花の受粉に限定されるものではない。
【0022】
本発明における受粉装置は、花収納部の外周で発生させた渦流が、渦流の形状を維持したままボトムカバー内に侵入し、ボトムカバー内に収納した花の雄しべの花粉が渦流に乗ってボトムカバーの中心付近に集中するので、ボトムカバーの中心付近にある雌しべの柱頭に満遍なく花粉を付着させることができる。
【0023】
したがって、本発明における受粉装置をイチゴの花の受粉に使用すれば、ほぼ全ての雌しべの柱頭に満遍なく、また十分に花粉を付着させることができるので、作業者の熟練度に関わらず奇形果の発生を抑制できる受粉装置である。
【0024】
本発明における受粉装置は、収納した花の雄しべの花粉で受粉させることができるので、花粉を別途採取する必要がないため、手間がかからず、また、花粉採取により花や雌しべを傷つけることがない。
【0025】
また、発生させる渦流は、花収納部内の空気であり、外部から空気の供給を受けないので、収納した花の雄しべの花粉以外の雄しべの花粉が混入し難い受粉装置であるから、自家受粉に適する受粉装置である。
【0026】
また、受粉後に、目視できる色を付けたマイクロミストを花に噴射するようにすれば、作業者が受粉させた花を目視で判別することができるので作業効率に優れる受粉装置になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図8】疑似花をボトムカバー内に収納した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は花収納部と、花収納部の壁面に沿うように装着するボトムカバー1と、花収納部の外周に渦流を発生させる渦流発生装置2を備え、外周で発生させた渦流を花収納部内に侵入させ、花収納部内の花を受粉させる装置である(
図2)。
【0029】
花収納部は花が収納できる形状であればよいが釣鐘状が好ましい。
【0030】
花収納部には、花収納部の壁面に沿うようにボトムカバー1を装着する。
【0031】
ボトムカバー1は、ボトムカバー底面から傾斜角度が30°~40°で立ち上がるらせん状のスリットを備える(
図3及び
図4)。
【0032】
外周で発生させた渦流を渦流の形状を維持したまま侵入させるためである。
【0033】
ボトムカバー1のらせん状のスリットは雌しべの柱頭の高さ以上の高さがあり、天井部に到達するまでに収束するスリットである。
【0034】
スリットはボトムカバー1の高さの1/2以上の高さで収束するスリットであることが好ましい。
【0035】
外周で発生した渦流が、渦流の形状を維持したままボトムカバー内部に侵入させることができるからである。
【0036】
本発明におけるボトムカバー1の天井部は少なくとも中央の一部が塞がれている。
【0037】
少なくとも中央の一部が塞がれていないと、ボトムカバー内に侵入した渦流の形状が変化し、花粉がボトムカバーの中心部に集中しない虞があるからである。
【0038】
本発明における受粉装置には、花収納部の外周に渦流発生装置を備える(
図2)。
【0039】
渦流発生装置としてローター2を例示する。
【0040】
ローター2はボトムカバー1の外周を1mm程度の距離で回転させることが好ましい。
【0041】
渦流の形状を維持して、ボトムカバー1内に侵入させることができるからである。
【0042】
ボトムカバー1の内部に花を収納する。
【0043】
本発明における花とは、一つの花に雄しべと雌しべを備える花である。
【0044】
雄しべから花粉を別途採取しなくても受粉させることができるからである。
【0045】
雄しべと雌しべの位置は限定されないが、中央に雌しべが配され、雌しべの周囲に雄しべが配される花が好ましい(
図5)。
【0046】
渦流に乗った花粉は渦流の回転軸に集中するからである。
【0047】
花はボトムカバー1内に収納すればよいが、雌しべの柱頭が発生させた渦流の回転軸上にあるように配置するのが好ましい。
【0048】
渦流に乗った花粉が回転軸に集中するので、雌しべの柱頭に付着し易くなるからである。
【0049】
ローター2によって発生させた渦流は花収納部のらせん状のスリットから、渦流の形状を維持したまま侵入し、収納した花の雄しべから花粉が渦流に乗って運ばれるので、ほぼ全ての雌しべの柱頭に満遍なく付着させることができる。
【0050】
一回の受粉につき、ローター2の回転数7,000rpm~10,000rpmで渦流を発生させて、4~5秒間花を保持することが好ましい。
【0051】
7,000rpmより回転数が少なかったり、4秒間より短いと、花粉が満遍なく柱頭に付着しない虞があり、10,000rpmより回転数が多かったり、5秒間以上保持してもそれ以上の効果は得られないからである。
【0052】
本発明における受粉装置は、雌しべの柱頭に花粉を満遍なく、かつ、十分に付着させることができるので、イチゴの花に使用すれば奇形果の発生を抑制することができる。
【0053】
渦流の発生を停止した後、目視できる色を付けたマイクロミストを花に噴射することが好ましい。
【0054】
受粉が完了した花を目視できるようになるので作業効率に資するからである。
【0055】
マイクロミストは自動で噴射するようにしてもよいし、手動で噴射するようにしてもよい。
【0056】
マイクロミストは特に限定されないがイチゴの生育に無害なものが好ましい。
【0057】
マイクロミストとしては水に食紅を混合した水溶液を例示する。
【0058】
マイクロミストを噴射した後、花収納部から花を取り出し、受粉完了である。
【0059】
本発明による受粉装置であれば、作業者の熟練度に関わらず一回約4秒~5秒程度で受粉させることができる。
【実施例0060】
本発明における受粉装置の実施の形態及び実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
(実施の形態)
本発明に係る受粉装置の一例を
図1に示す。
【0062】
図1に示す本発明に係る受粉装置は直径46mm、高さ145mmの円筒状で、重量は290g程度で非常に小型の装置であり、作業者が片手で把持して操作することができる。
【0063】
図2に示す通り、本発明の実施の形態に係る受粉装置は花収納部の外周に渦流を発生させるローター2が配置されている。
【0064】
ローター2はモーター4で回転させる。
【0065】
モーター4はバッテリー5に接続され、また、制御基板6で制御されており、スイッチを操作することで渦流を発生させる。
【0066】
溶液タンク3には、精製水に約0.2重量%の食紅を混合した水溶液が収容されている。
【0067】
溶液タンク3に収容した水溶液は超音波振動子7でマイクロミストを形成し、溶液噴射吐出口から収納した花に付着させることができる。
【0068】
(受粉操作)
図1に示す通り、花を花収納部に収納し、ローター2を7,000rpm~10,000rpmで渦流を発生させて、4~5秒間花を保持し、最後にマイクロミストを花に噴射して受粉操作完了である。
【0069】
(着粉試験)
図1に示す受粉装置に実施例1及び比較例1~3のボトムカバー(
図6)を装着して着粉試験を行った。
【0070】
着粉試験には、雌しべを模した疑似雌しべ160の周囲に雄しべを模した疑似雄しべ150を配置し、イチゴの花を模した花(疑似花)110を使用した(
図7)。
【0071】
疑似雄しべ150の頂部にはコットンを巻きつけ、コットンにベビーパウダーを刷り込んで疑似花粉とした。
【0072】
実施例1に係るボトムカバーは、高さが1.65cm、直径2.3cmで容積が約6.3cm3の釣鐘状をしている。
【0073】
スリットの角度は37.6°、スリットは疑似雌しべ160の高さ以上の高さ(1.5cm)で収束しており、天井部は全面塞がれている。
【0074】
比較例1は天井部がない以外は実施例1と同一のボトムカバーである。
【0075】
比較例2は縦のスリット、比較例3は横のスリットにした以外は実施例1と同じボトムカバーである。
【0076】
本発明における受粉装置に実施例及び比較例の各ボトムカバーを装着し、ボトムカバー内に疑似花110を収納した。
【0077】
ローターとボトムカバー外周との隙間を1mmとし、回転数9,000rpm~10,000rpmにて正転2.5秒、逆転2.5秒の合計5秒間回転させて渦流を発生させた後、疑似雌しべ160の外周側面及び上部に付着したベビーパウダーを目視にて確認し、十分に満遍なく付着しているものを〇、十分に付着していない、又は、偏って付着しているものを△、付着していないものを×として評価した。
【0078】
結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
(受粉試験)
イチゴ(品種:紅ほっぺ)を温度管理されたハウス内にて育成し、開花4日以内で開葯70%以上の花を30花選択した。
【0081】
図1に示す受粉装置に実施例1及び比較例1のボトムカバーを装着して受粉試験を行った。
【0082】
ローターとボトムカバー外周との隙間を1mmとし、選択した花を花収納部に収納し、ローターを7,200rpmで回転させながら5秒間保持し受粉させた。
【0083】
n=30花にて異なる時期に3回受粉試験を行った。
【0084】
受粉させた花は15℃~20℃に保持したハウスで50日間栽培し、イチゴの可販果の割合及び奇形果の発生の割合を測定した。
【0085】
可販果及び奇形果の判定は熟練就農者が行い、形の整った美しい円錐形であるものと、わずかに不稔部があるものを可販果とし、それ以外を奇形果として評価した。
【0086】
結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
表2より、本発明におけるボトムカバーであれば、花粉が雌しべの柱頭に充分に、また、満遍なく付着して受精するので奇形果の割合が極めて低くなることが証明された。
本発明における受粉装置は、外周で発生させた渦流を渦流の形状を維持したままボトムカバー内に侵入させるため、花粉を渦流の回転軸上に集中させることができるので、花粉をほぼすべての雌しべの柱頭に満遍なく、また、十分に付着させることができる。
したがって、イチゴの花に使用すれば、作業者の熟練度に関わらず、奇形果が生じ難く、作業効率に優れる受粉装置である。
また、一回約4~5秒で受粉させることができ、また、受粉させた花にマイクロミストを噴射することで受粉させた花を目視で確認できるので作業効率に優れる受粉装置である。
したがって、本発明は産業上の利用可能性の高い発明である。