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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116986
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】耐火構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
E04B1/94 E
E04B1/94 L
E04B1/94 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019425
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 太沖
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 喜章
(72)【発明者】
【氏名】會田 祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】八尋 幸光
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA05
2E001FA01
2E001FA03
2E001GA12
2E001GA44
2E001HA01
2E001HA03
2E001HC02
2E001HF12
2E001KA01
(57)【要約】
【課題】耐火性能を確保しながら、施工性の向上、遮音性の向上を図る。
【解決手段】構造鉄骨材2と、構造鉄骨材2から離隔して配置されて構造鉄骨材2を含む壁体10の壁面を構成する、直交集成板によって形成された仕上材3と、を備える耐火構造1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造鉄骨材と、
前記構造鉄骨材から離隔して配置されて前記構造鉄骨材を含む壁体の壁面を構成する、直交集成板によって形成された仕上材と、を備える耐火構造。
【請求項2】
前記耐火構造は、スラブをさらに備え、
前記壁体は前記スラブによって区切られた空間に配置され、
前記仕上材は、前記スラブに直接的に固定されている請求項1に記載の耐火構造。
【請求項3】
前記仕上材が前記構造鉄骨材に最も接近した位置の隙間である接近隙間部は、前記仕上材に形成された切欠きと前記構造鉄骨材との間に形成される、請求項1または請求項2に記載の耐火構造。
【請求項4】
前記仕上材は、90mm以上の厚さを有する直交集成板で形成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の耐火構造。
【請求項5】
前記仕上材は、前記直交集成板によって形成されている仕上材本体と、前記仕上材本体と積層された燃え止まり層と、を有する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐火構造。
【請求項6】
前記仕上材は、難燃処理されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の構造材に設けられる耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、集合住宅の戸境壁のような、建築物内の空間を2つの区画に隔てる壁構造では、遮音性能とともに耐火性能が要求されている。特許文献1には、建築物の構造材として設けられる鉄骨材と仕上材とを有する壁構造において、鉄骨材と仕上材との間に耐火被覆材が設けられることなく空気層が形成されている壁構造が開示されている。当該壁構造では、仕上材と鉄骨材との間の空気層が仕上材から鉄骨材への伝熱を抑制することで、鉄骨材の耐火性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6776016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の壁構造では仕上材を固定する際に鋼製下地材を設置する必要があるため、施工手間が多いという課題があった。
また、耐火性能を有する仕上材としては石膏ボードやALCが挙げられるが、これらの仕上材は現場において複雑な形状や溝加工が難しいという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、耐火性能を確保しながら、施工性の向上、遮音性の向上を図ることができる耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐火構造は、構造鉄骨材と、前記構造鉄骨材から離隔して配置されて前記構造鉄骨材を含む壁体の壁面を構成する、直交集成板によって形成された仕上材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記耐火構造は、スラブをさらに備え、前記壁体は前記スラブによって区切られた空間に配置され、前記仕上材は、前記スラブに直接的に固定されてよい。
【0008】
上記耐火構造において、前記仕上材が前記構造鉄骨材に最も接近した位置の隙間である接近隙間部は、前記仕上材に形成された切欠きと前記構造鉄骨材との間に形成されてよい。
【0009】
上記耐火構造において、前記仕上材は、90mm以上の厚さを有する直交集成板で形成されてよい。
【0010】
上記耐火構造において、前記仕上材は、前記直交集成板によって形成されている仕上材本体と、前記仕上材本体と積層された燃え止まり層と、を有してよい。
上記耐火構造において、前記仕上材は、難燃処理されてよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐火構造によれば、直交集成板によって形成された仕上材が火災入熱を低減することで耐火性能を確保することができ、また、下地材が不要となることで、施工性の向上を図ることができる。さらに、仕上材として直交集成板を採用することで耐火構造の遮音性の向上を図ることができ、直交壁の設置が可能となり、面内・面外の壁耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る耐火構造の断面図である。
図2】仕上材のスラブへの固定方法を説明する斜視図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る耐火構造の断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る耐火構造の仕上材の断面図である。
図5】熱伝導解析シミュレーションにおける測定位置を説明するための耐火構造の断面図である。
図6】熱伝導解析シミュレーションにおける、各測定位置の温度履歴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係る耐火構造1の断面図を示す。耐火構造1は、例えば、集合住宅などの階層構造の建築物内でスラブSLによって区切られた空間を2つの区画S1,S2に隔てる戸境壁である。なお、建築物は、集合住宅に限ることはなく、病院やオフィスとして用いられてもよい。また、建築物は、階層構造に限ることはなく、一階建てであってもよい。また、耐火構造1は、戸境壁に限らず、間仕切壁、外壁として使用してもよい。
【0015】
図1に示されるように、耐火構造1は、鉄骨梁2と、両側の区画S1,S2にそれぞれ面する少なくとも一対の仕上材3と、を有する。
鉄骨梁2と仕上材3との間には、接近隙間部30が形成されている。接近隙間部30は、仕上材3が鉄骨梁2に最も接近した位置の隙間である。換言すれば、仕上材3は、鉄骨梁2から接近隙間部30を介して離隔するように設けられている。接近隙間部30における鉄骨梁2と仕上材3との間の距離は、例えば10mm以上とすることが好ましい。接近隙間部30には空気層Gが形成される。
【0016】
鉄骨梁2は、H形鋼を用いた構造材である。鉄骨梁2は、一対の仕上材3の間の空間で壁幅方向Z、すなわち仕上材3の面内方向に延びている。鉄骨梁2は、一対の仕上材3の間に配置されることによって、専有部分である区画S1,S2から視認されない。
なお、図1に示された例では、構造鉄骨材として壁幅方向Zに延びる鉄骨梁2が示されているが、他の例では構造鉄骨材が高さ方向Yに延びる鉄骨柱を含んでもよい。すなわち、本発明の実施形態において、構造鉄骨材は、梁、柱およびブレースなどの構造部材を構成する鉄骨材である。
鉄骨梁2には、吹付けロックウール耐火被覆材や、巻付け耐火被覆材などの耐火被覆は必要最低限の量が施工されていればよく、空気層Gの効果などによって耐火被覆が必要とされなければ、その施工を省略してもよい。鉄骨梁2のような構造鉄骨材に対する耐火被覆の施工を低減することによって、耐火被覆材の材料コストおよび施工コストを抑制することができる。
【0017】
一対の仕上材3は、隔てられた2つの区画S1,S2にそれぞれ面して配置され、構造鉄骨材である鉄骨梁2を含む壁体10の壁面を構成する。本実施形態において、仕上材3は、直交集成板(Cross Laminated Timber,CLT)によって形成されている。直交集成板は、挽き板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料(木質仕上材)である。直交集成板は、石膏ボードやALCなどの仕上材と比較して剛性が高い。
直交集成板によって形成された仕上材3の厚さは、例えば90mm以上210mm以下である。このような厚さにすることで、仕上材3としてさらなる剛性を発揮させることができる。
【0018】
一対の仕上材3は、床および天井をなすスラブSLに直接的に固定されている。具体的には、仕上材3は、図2に示されるように、例えばALCパネルなどを固定する金物12を用いてスラブSLに固定されている。仕上材3を固定するための金物12としては、図2示すRFプレートや、イナズマプレートとアングルの組み合わせを挙げることができる。
すなわち、仕上材3は、鋼製下地材や木製下地材などの下地材を用いることなく固定されている。鋼製下地材は、例えば、JIS A 6517で定められた規格に基づいて組み立てることができる軽量鉄骨を用いた下地材である。仕上材3を上記のように十分な剛性を有する直交集成板で形成することによって、鋼製下地材や木製下地材などの下地材を用いなくても仕上材3をスラブSLに固定することができる。
【0019】
上記実施形態によれば、仕上材3が高い剛性を有する直交集成板によって形成されており、仕上材3を固定する際に下地材を設置する必要がないため、施工性に優れ、工期短縮を図ることができる。
【0020】
また、直交集成板によって形成された仕上材3が火災入熱を低減することで,鉄骨梁2の耐火被覆を省略、または削減しながら要求耐火性能を確保できる。また、仕上材3を木質仕上材である直交集成板で形成することによって、炭化層を確実に形成でき、耐火性能をより向上することができる。
【0021】
また、接近隙間部30に形成された空気層Gで仕上材3から鉄骨梁2への伝熱を抑制することで、鉄骨梁2の耐火性能を向上させることができる。
また、仕上材3に直交集成板を使用することによって、素材そのままで美観に優れたものとすることができ、仕上材3の表面にさらに壁紙を貼ったりすることによる装飾を省略することができる。
【0022】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る耐火構造について説明する。
図3に示されるように、本実施形態の仕上材3Bの鉄骨梁2を向く面には、切欠き31,32が形成されている。鉄骨梁2を含む壁体10の壁面を構成する仕上材3Bは、高さ方向Yから見て鉄骨梁2の一部と重なる位置に配置されている。切欠き31,32は、壁体10が構成されたときに鉄骨梁2のフランジと同じ高さの位置に形成される。本実施形態において、仕上材3が鉄骨梁2に最も接近した位置の隙間である接近隙間部30は、切欠き31,32と鉄骨梁2との間に形成される。接近隙間部30では、仕上材3と鉄骨梁2との間に空気層G(空間)が設けられる。より具体的には、切欠き31,32は、接近隙間部30における鉄骨梁2と切欠き31,32との間の距離が例えば10mm以上になるように形成されている。
【0023】
切欠き31,32は、現場への搬入前に予め仕上材3に形成してもよいし、現場において鉄骨梁2の形状に合わせて形成、加工してもよい。
【0024】
上記実施形態によれば、仕上材3に切欠き31,32を設けることによって、耐火構造1B全体の厚さを低減することができる。
なお、仕上材として石膏ボードやALCを使用する場合は、現場において複雑な形状や溝加工が難しいが、仕上材3Bとして直交集成板を使用することによって、容易に現場での溝加工を行うことができる。
【0025】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る耐火構造について説明する。
図4(A)に示されるように、本実施形態の仕上材3Cは直交集成板によって形成された一対の仕上材本体33と、一対の仕上材本体33に挟まれるように積層された燃え止まり層5と、を有している。このような仕上材3Cは、例えば上記の第1および第2の実施形態における仕上材3,3Bとして用いることができる。すなわち、本発明の実施形態における仕上材は、その全体が直交集成板のみで形成されていなくてもよく、例えば直交集成板に燃え止まり層5のような他の材料が積層されて仕上材が構成されてもよい。
燃え止まり層5は、石膏ボード、断熱耐火パネル、モルタルなどによって形成された燃焼を停止させる層である。
上記実施形態によれば、上記の実施形態で説明したように直交集成板によって形成された仕上材が火災入熱を低減すること、および接近隙間部30に形成された空気層Gで伝熱が抑制されることによる耐火性能が向上するのに加えて、仕上材3Cが燃え止まり層5を含むことによって、耐火構造の耐火性能をさらに向上させることができる。
【0026】
燃え止まり層5は、上記したように仕上材本体33に挟まれた構成に限ることはなく、図4(B)に示される仕上材3Dのように、仕上材本体33の鉄骨梁2を向く面(壁内側)の表面に燃え止まり層5を積層する構成としてもよい。
【0027】
なお、上記各実施形態では、直交集成板によって形成された仕上材に難燃処理は施されていないが、例えば難燃薬剤を注入した木材で被覆するなどして
直交集成板に難燃処理を施してもよい。
【0028】
(実施例)
以下、本発明の耐火構造の耐火性能を検証するために実施したシミュレーションについて説明する。
図5および図6は、耐火構造の耐火性能を検証するために実施した熱伝導解析シミュレーションの結果を示す図である。図5は、測定位置を説明するための耐火構造の断面図であり、図6は、各測定位置の温度履歴を示すグラフである。図6の横軸は時間(分)であり、縦軸は温度(℃)である。
【0029】
図5に示すように、シミュレーションで用いた仕上材3は、厚さ150mmの直交集成板であり、接近隙間部における仕上材3と鉄骨梁2を構成するH形鋼のフランジとの距離は25mmである。
測定位置P1は、火災発生側に面する仕上材表面であり、測定位置P2は位置P1から50mmの仕上材内部、測定位置P3は位置P1から100mmの仕上材内部、測定位置P4は位置P1から150mmの仕上材の反対側表面である。また、測定位置P5は、位置P4と接近隙間部を挟んで対向するH形鋼のフランジ端部である。
シミュレーションでは、ISO834にて定められている標準火災温度曲線に沿うよう、加熱を行う設定とした。
【0030】
図6に示されるように、本発明の実施形態に係る耐火構造では、火災発生から90分後における測定位置P2の温度が600℃以下に抑えられており、また、測定位置P5のH形鋼の温度の上昇が十分に抑えられている。このような実験結果から、厚さ150mmの直交集成板が十分な耐火性能を有することがわかった。
【符号の説明】
【0031】
1…耐火構造、2…鉄骨梁(構造鉄骨材)、3…仕上材、5…燃え止まり層、10…壁体、12…金物、30…接近隙間部、33…仕上材本体、G…空気層、S1,S2…区画、SL…スラブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6