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特開2023-116995窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法
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  • 特開-窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116995
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/337 20060101AFI20230816BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20230816BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20230816BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20230816BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01L29/80 C
H01L29/80 H
H01L29/80 F
H01L21/28 301B
H01L29/44 Y
H01L29/50 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019438
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】舘 毅
【テーマコード(参考)】
4M104
5F102
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104AA07
4M104BB02
4M104BB14
4M104BB30
4M104EE06
4M104EE17
4M104FF10
4M104FF17
4M104GG11
5F102FA01
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD04
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GL07
5F102GL08
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GR01
5F102GR12
5F102GV08
5F102HC01
5F102HC15
(57)【要約】
【課題】高温環境下での窒化物半導体装置の性能劣化を抑制すること。
【解決手段】窒化物半導体装置10は、窒化物半導体によって構成された電子走行層16と、電子走行層16上に形成され、電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層18と、電子供給層18の一部上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層22と、ゲート層22上に形成されたゲート電極24と、第1開口26Aおよび第2開口26Bを有するパッシベーション層26と、第1開口26Aを介して電子供給層18に接しているソース電極28と、第2開口26Bを介して電子供給層18に接しているドレイン電極30とを備えている。ゲート層22は、Ga極性GaNである第1ゲート層32と、第1ゲート層32上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層34とを含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体によって構成された電子走行層と、
前記電子走行層上に形成され、前記電子走行層よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層と、
前記電子供給層の一部上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層と、
前記ゲート層上に形成されたゲート電極と、
前記電子供給層、前記ゲート層、および前記ゲート電極を覆うとともに、第1開口および第2開口を有するパッシベーション層と、
前記第1開口を介して前記電子供給層に接しているソース電極と、
前記第2開口を介して前記電子供給層に接しているドレイン電極と
を備え、
前記ゲート層は、前記第1開口と前記第2開口との間に位置しており、
前記ゲート層は、Ga極性GaNである第1ゲート層と、前記第1ゲート層上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層とを含む、窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記第1ゲート層は、平面視で前記第2ゲート層よりも外側に延びる延在部を含む、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記延在部は、
平面視で前記第2ゲート層と前記第1開口との間に位置するソース側部分と、
平面視で前記第2ゲート層と前記第2開口との間に位置するドレイン側部分と
を含む、請求項2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記第1ゲート層は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、
前記第2ゲート層は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含む、
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記第2ゲート層に含まれるマグネシウムの濃度は、前記第1ゲート層に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上である、請求項4に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート層は、前記第2開口よりも前記第1開口の近くに配置されている、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記ソース電極は、前記第1開口に充填されたソースコンタクト部と、前記パッシベーション層を覆うソースフィールドプレート部とを含み、前記ソースフィールドプレート部は、平面視で前記ゲート電極と前記第2開口との間に位置する端部を含んでいる、請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記電子走行層は、GaNであり、
前記電子供給層は、AlGa1-xNであり、0.2<x<0.3である、
請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記ゲート層は、100nmよりも大きい厚さを有し、前記第1ゲート層は、5nm以上50nm以下の厚さを有し、前記電子供給層は、8nm以上の厚さを有する、請求項1~8のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
窒化物半導体によって構成された電子走行層を形成すること、
前記電子走行層上に前記電子走行層よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層を形成すること、
前記電子供給層の一部上にアクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層を形成すること、
前記ゲート層上にゲート電極を形成すること、
前記電子供給層、前記ゲート層、および前記ゲート電極を覆うとともに、第1開口および第2開口を有するパッシベーション層を形成すること、
それぞれ前記第1開口および前記第2開口を介して前記電子供給層に接しているソース電極およびドレイン電極を形成すること
を含み、
前記ゲート層は、前記第1開口と前記第2開口との間に位置しており、
前記ゲート層は、Ga極性GaNである第1ゲート層と、前記第1ゲート層上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層とを含む、窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1ゲート層は、平面視で前記第2ゲート層よりも外側に延びる延在部を含む、請求項10に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記ゲート層を形成することは、前記電子供給層上に前記ゲート層としてGaNを成長させる間に、前記ゲート層にドーピングされるマグネシウムの量を変化させることによって、Ga極性GaNである第1窒化物半導体層およびN極性GaNである第2窒化物半導体層を形成することを含む、請求項10または11に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記ゲート層を形成することは、
前記第2窒化物半導体層をウェットエッチングにより選択的に除去して前記第2ゲート層を形成すること、
前記第1窒化物半導体層をドライエッチングにより選択的に除去して前記第1ゲート層を形成すること
をさらに含む、請求項12に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1ゲート層は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、
前記第2ゲート層は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含む、
請求項10~13のうちのいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第2ゲート層に含まれるマグネシウムの濃度は、前記第1ゲート層に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上である、請求項14に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、窒化物半導体を用いた高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor,HEMT)の製品化が進んでいる。HEMTをパワーデバイスに適用する場合、フェールセーフの観点から、ゼロバイアス時にソース-ドレイン間の電流経路(チャネル)を遮断するノーマリーオフ動作が求められる。
【0003】
特許文献1に記載された窒化物半導体装置では、第1窒化物半導体層(電子走行層)上にバンドギャップ(Al組成)の異なる第2窒化物半導体層(電子供給層)が形成されることによって、ヘテロ接合が形成されている。これにより、第1窒化物半導体層と第2窒化物半導体層との界面付近の第1窒化物半導体層内に二次元電子ガスが形成される。ゲート電極の下方においては、アクセプタ型不純物がドーピングされた窒化ガリウム(GaN)層に含まれるイオン化アクセプタによって、第1窒化物半導体層および第2窒化物半導体層のエネルギーレベルが引き上げられる。この結果、ヘテロ接合界面における伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも高くなる。これにより、ゲート電極にバイアスを印加していないときには、二次元電子ガスによるチャネルがゲート電極の直下で遮断されるため、ノーマリーオフ型のHEMTが実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-73506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化物半導体を用いたHEMTの性能は、ゲート電極の下のゲート層を構成するGaN層の熱的不安定性により、高温環境下で劣化する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による窒化物半導体装置は、窒化物半導体によって構成された電子走行層と、前記電子走行層上に形成され、前記電子走行層よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層と、前記電子供給層の一部上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層と、前記ゲート層上に形成されたゲート電極と、前記電子供給層、前記ゲート層、および前記ゲート電極を覆うとともに、第1開口および第2開口を有するパッシベーション層と、前記第1開口を介して前記電子供給層に接しているソース電極と、前記第2開口を介して前記電子供給層に接しているドレイン電極とを備えている。前記ゲート層は、前記第1開口と前記第2開口との間に位置している。前記ゲート層は、Ga極性GaNである第1ゲート層と、前記第1ゲート層上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層とを含んでいる。
【0007】
本開示の一態様による窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物半導体によって構成された電子走行層を形成すること、前記電子走行層上に前記電子走行層よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層を形成すること、前記電子供給層の一部上にアクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層を形成すること、前記ゲート層上にゲート電極を形成すること、前記電子供給層、前記ゲート層、および前記ゲート電極を覆うとともに、第1開口および第2開口を有するパッシベーション層を形成すること、それぞれ前記第1開口および前記第2開口を介して前記電子供給層に接しているソース電極およびドレイン電極を形成することを含んでいる。前記ゲート層は、前記第1開口と前記第2開口との間に位置している。前記ゲート層は、Ga極性GaNである第1ゲート層と、前記第1ゲート層上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層とを含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法によれば、高温環境下での窒化物半導体装置の性能劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る例示的な窒化物半導体装置の概略断面図である。
図2図2は、図1の窒化物半導体装置の例示的な製造工程を示す概略断面図である。
図3図3は、図2に続く製造工程を示す概略断面図である。
図4図4は、図3に続く製造工程を示す概略断面図である。
図5図5は、図4に続く製造工程を示す概略断面図である。
図6図6は、図5に続く製造工程を示す概略断面図である。
図7図7は、図6に続く製造工程を示す概略断面図である。
図8図8は、図7に続く製造工程を示す概略断面図である。
図9図9は、第2実施形態に係る例示的な窒化物半導体装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の窒化物半導体装置のいくつかの実施形態を説明する。なお、説明を簡単かつ明確にするために、図面に示される構成要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていない。また、理解を容易にするために、断面図では、ハッチング線が省略されている場合がある。添付の図面は、本開示の実施形態を例示するに過ぎず、本開示を制限するものとみなされるべきではない。
【0011】
以下の詳細な記載は、本開示の例示的な実施形態を具体化する装置、システム、および方法を含む。この詳細な記載は本来説明のためのものに過ぎず、本開示の実施形態またはこのような実施形態の適用および使用を限定することを意図しない。
【0012】
[第1実施形態]
(窒化物半導体装置の基本構造)
図1は、第1実施形態に係る例示的な窒化物半導体装置10の概略断面図である。窒化物半導体装置10は、例えば、窒化ガリウム(GaN)を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT)であってよい。窒化物半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12上に形成されたバッファ層14と、バッファ層14上に形成された電子走行層16と、電子走行層16上に形成された電子供給層18とを含む。
【0013】
半導体基板12は、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、GaN、サファイア、または他の基板材料で形成することができる。一例では、半導体基板12は、Si基板であってよい。半導体基板12の厚さは、例えば200μm以上1500μm以下とすることができる。図1に示される互いに直交するXYZ軸のZ軸方向は、デバイスが形成される半導体基板12の面と直交する方向である。なお、本明細書において使用される「平面視」という用語は、明示的に別段の記載がない限り、Z軸方向に沿って上方から窒化物半導体装置10を視ることをいう。
【0014】
バッファ層14は、半導体基板12と電子走行層16との間に位置することができる。一例では、バッファ層14は、電子走行層16のエピタキシャル成長を容易にすることができる任意の材料によって構成することができる。バッファ層14は、1つまたは複数の窒化物半導体層を含んでいてよい。一例では、バッファ層14は、窒化アルミニウム(AlN)層、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層、および異なるアルミニウム(Al)組成を有するグレーテッドAlGaN層のうちの少なくとも1つを含むことができる。例えば、バッファ層14は、単一のAlN層、単一のAlGaN層、AlGaN/GaN超格子構造を有する層、AlN/AlGaN超格子構造を有する層、またはAlN/GaN超格子構造を有する層によって構成されてもよい。
【0015】
一例において、バッファ層14は、半導体基板12上に形成されたAlN層である第1バッファ層と、AlN層上に形成されたAlGaN層である第2バッファ層を含むことができる。第1バッファ層は、例えば、200nmの厚さを有するAlN層であってよく、一方、第2バッファ層は、例えば、100nmの厚さを有するAlGaN層を複数回積層することによって形成されていてもよい。なお、バッファ層14におけるリーク電流を抑制するために、バッファ層14の一部に不純物を導入してバッファ層14を半絶縁性にしてもよい。その場合、不純物は、例えば炭素(C)または鉄(Fe)であり、不純物の濃度は、例えば4×1016cm-3以上とすることができる。
【0016】
電子走行層16は、窒化物半導体によって構成されており、例えば、GaN層であってよい。電子走行層16の厚さは、例えば、0.5μm以上2μm以下とすることができる。なお、電子走行層16におけるリーク電流を抑制するために、電子走行層16の一部に不純物を導入して電子走行層16の表層領域以外を半絶縁性にしてもよい。その場合、不純物は、例えばCであり、電子走行層16中の不純物のピーク濃度は、例えば1×1019cm-3以上とすることができる。すなわち、電子走行層16は、不純物濃度の異なる複数のGaN層、一例では、CドープGaN層と、ノンドープGaN層とを含むことができる。この場合、CドープGaN層は、バッファ層14上に形成され、0.3μm以上2μm以下の厚さを有することができる。CドープGaN層中のC濃度は、9×1018cm-3以上9×1019cm-3以下とすることができる。ノンドープGaN層は、CドープGaN層上に形成され、0.05μm以上0.3μm以下の厚さを有することができる。ノンドープGaN層は、電子供給層18と接している。一例では、電子走行層16は、厚さ0.3μmのノンドープGaN層と、厚さ0.4μmのCドープGaN層とを含んでおり、CドープGaN層中のC濃度は約5×1019cm-3であってよい。
【0017】
電子供給層18は、電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成されており、例えば、AlGaN層であってよい。Al組成が大きいほどバンドギャップが大きくなるため、AlGaN層である電子供給層18は、GaN層である電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有している。一例においては、電子供給層18は、AlGa1-xNによって構成され、xは0.1<x<0.4であり、より好ましくは、0.2<x<0.3である。電子供給層18は、5nm以上20nm以下の厚さを有することができる。一例では、電子供給層18は、8nm以上の厚さを有している。
【0018】
電子走行層16と電子供給層18とは、互いに異なる格子定数を有する窒化物半導体によって構成されている。したがって、電子走行層16を構成する窒化物半導体(例えば、GaN)と電子供給層18を構成する窒化物半導体(例えば、AlGaN)とは、格子不整合系のヘテロ接合を形成する。電子走行層16および電子供給層18の自発分極と、ヘテロ接合界面付近の電子供給層18が受ける応力に起因するピエゾ分極とによって、ヘテロ接合界面付近における電子走行層16の伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも低くなる。これにより、電子走行層16と電子供給層18とのヘテロ接合界面に近い位置(例えば、界面から数nm程度の範囲内)において電子走行層16内には二次元電子ガス(2DEG)20が広がっている。なお、電子供給層18のAl組成および厚さのうちの少なくとも一方を増加させることにより、電子走行層16に生成される2DEG20のシートキャリア密度を増加させることができる。
【0019】
窒化物半導体装置10は、電子供給層18上に形成されたゲート層22と、ゲート層22上に形成されたゲート電極24と、パッシベーション層26とをさらに含んでいる。パッシベーション層26は、電子供給層18、ゲート層22、およびゲート電極24を覆うとともに、第1開口26Aおよび第2開口26Bを有している。窒化物半導体装置10は、第1開口26Aを介して電子供給層18に接しているソース電極28と、第2開口26Bを介して電子供給層18に接しているドレイン電極30とをさらに含むことができる。
【0020】
パッシベーション層26の第1開口26Aおよび第2開口26Bの各々は、ゲート層22から離隔されている。ゲート層22は、第1開口26Aと第2開口26Bとの間に位置することができる。より詳細には、ゲート層22は、第1開口26Aと第2開口26Bとの間であって、第2開口26Bよりも第1開口26Aに近い位置にあってよい。
【0021】
ゲート層22は、電子供給層18の一部上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されている。ゲート層22は、例えばAlGaN層である電子供給層18よりも小さなバンドギャップを有する任意の材料によって構成することができる。本実施形態では、ゲート層22は、アクセプタ型不純物を含むGaN(p型GaN)によって構成されている。アクセプタ型不純物は、マグネシウム(Mg)を含んでいてよい。ゲート層22のさらなる詳細については後述する。
【0022】
ゲート電極24は、ゲート層22の上面22B上に形成することができる。ゲート電極24は、1つまたは複数の金属層によって構成されていてよい。ゲート電極24は、一例では窒化チタン(TiN)層であってよい。別の例では、ゲート電極24は、Tiからなる第1金属層と、第1金属層上に設けられTiNからなる第2金属層とによって構成されていてもよい。ゲート電極24の厚さは、例えば、50nm以上200nm以下とすることができる。ゲート電極24は、ゲート層22とショットキー接合を形成することができる。
【0023】
ソース電極28およびドレイン電極30は、1つまたは複数の金属層(例えば、Ti層、TiN層、Al層、AlSiCu層、およびAlCu層などの組み合わせからなる)によって構成することができる。ソース電極28の少なくとも一部は、第1開口26A内に充填されているので、第1開口26Aを介して電子供給層18直下の2DEG20とオーミック接触することができる。同様に、ドレイン電極30の少なくとも一部は、第2開口26B内に充填されているので、第2開口26Bを介して電子供給層18直下の2DEG20とオーミック接触することができる。
【0024】
ソース電極28は、第1開口26Aに充填されたソースコンタクト部28Aと、パッシベーション層26を覆うソースフィールドプレート部28Bとを含んでいてよい。ソースフィールドプレート部28Bは、ソースコンタクト部28Aと連続しており、ソースコンタクト部28Aと一体に形成されている。ソースフィールドプレート部28Bは、平面視で第2開口26Bとゲート層22との間に位置する端部28Cを含んでいる。ソースフィールドプレート部28Bは、パッシベーション層26の表面に沿って、ソースコンタクト部28Aから端部28Cまで、ドレイン電極30に向かって延びているが、ドレイン電極30とは離隔されている。ソースフィールドプレート部28Bは、パッシベーション層26の非平坦な表面に沿って延びているため、同様に非平坦な表面を有している。ソースフィールドプレート部28Bは、ゲート電極24にゲート電圧が印加されていないゼロバイアスの状態でドレイン電極30にドレイン電圧が印加された場合に、ゲート電極24の端部近傍の電界集中を緩和する役割を果たしている。
【0025】
(ゲート層の詳細な構成)
本実施形態では、ゲート層22は、Ga極性GaNである第1ゲート層32と、第1ゲート層32上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層34とを含むことができる。第1ゲート層32は、電子供給層18に接しており、一方、第2ゲート層34は、ゲート電極24に接している。
【0026】
ウルツ鉱型構造を有するGaN結晶では、Ga原子とN原子とが[0001]方向に延びるc軸方向に互いに僅かにずれて配列されているため、結晶構造が非対称性を有している。この非対称性により分極が生じ、結果として、GaN結晶のc面((0001)面)は極性面となっている。一般に、Ga面が最表面となるように結晶成長が進むことにより得られるGaNをGa極性GaNと呼び、一方、N面が最表面となるように結晶成長が進むことにより得られるGaNをN極性GaNと呼ぶ。
【0027】
Ga極性GaNとN極性GaNとは、様々な性質が異なっている。例えば、Ga極性GaNは、化学的に非常に安定しているため、強アルカリ水溶液(例えば、水酸化カリウム水溶液など)に対するエッチング耐性が高い。一方、N極性GaNは、Ga極性GaNよりも化学的安定性が低く、その結果、強アルカリ水溶液によって容易にエッチングすることができる。N極性GaNは、化学的安定性が比較的低いものの、Ga極性GaNよりも高温環境下における安定性が高い。また、N極性GaNの表面では、六角錐や六角形状のモフォロジーを観察することができる。
【0028】
GaNの極性は、様々な方法によって切り替えることができる。一例では、GaNの成長中にドーピングするマグネシウムの量を調整することにより、GaNの極性をGa極性とN極性との間で切り替えることができる。より詳細には、Ga極性GaNの成長中に、ドーピングされるマグネシウムの濃度を増加させることによって、Ga極性からN極性に変化させることができる。
【0029】
本実施形態において、第1ゲート層32は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含んでいてよい。一方、第2ゲート層34は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含んでいてよい。なお、明示的に別段の記載がない限り、本明細書で言及される濃度は、ピーク濃度を意味する。第2ゲート層34中のマグネシウム濃度の上限は、GaN中にドーピング可能なマグネシウムの量によって決定され、一例では、1×1021cm-3未満であり得る。しかしながら、第2ゲート層34は、1×1021cm-3以上の濃度のマグネシウムを含んでいてもよい。第2ゲート層34中のマグネシウム濃度は、第1ゲート層32中のマグネシウム濃度よりも高い。一例では、第2ゲート層34に含まれるマグネシウムの濃度は、第1ゲート層32に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上であってよい。任意選択で、第1ゲート層32および/または第2ゲート層34は、マグネシウム以外のアクセプタ型不純物、例えば、亜鉛(Zn)または炭素(C)またはその両方を含んでいてもよい。
【0030】
第1ゲート層32は、平面視で第2ゲート層34よりも広い領域に形成されていてよい。より詳細には、第1ゲート層32は、平面視で第2ゲート層34と同じ領域に形成されたベース部36と、平面視で第2ゲート層34よりも外側に延びる延在部38とを含むことができる。ベース部36は、延在部38と一体に形成されていてよい。延在部38の存在により、ゲート層22の底面22A(第1ゲート層32の底面)は、上面22B(第2ゲート層34の上面)よりも大きな面積を有することができる。
【0031】
延在部38は、平面視で第2ゲート層34と第1開口26Aとの間に位置するソース側部分38Aと、平面視で第2ゲート層34と第2開口26Bとの間に位置するドレイン側部分38Bとを含むことができる。ソース側部分38Aは、ベース部36に隣接するとともに、ベース部36とソースコンタクト部28Aとの間に位置している。ドレイン側部分38Bは、ベース部36に隣接するとともに、ベース部36とドレイン電極30との間に位置している。ソース側部分38Aは、ベース部36から第1開口26Aに向けて延びているが、第1開口26Aからは離隔されている。ドレイン側部分38Bは、ベース部36から第2開口26Bに向けて延びているが、第2開口26Bからは離隔されている。図1に示す例では、第2開口26Bに向かって延びるドレイン側部分38Bの長さは、第1開口26Aに向かって延びるソース側部分38Aの長さよりも大きくてよい。
【0032】
第1ゲート層32のベース部36および第2ゲート層34を含むゲート層22の最も厚い部分は、80nm以上150nm以下の厚さを有することができる。ゲート層22の厚さは、ゲート閾値電圧を含むパラメータを考慮して定めることができる。一例では、ゲート層22は、最も厚い部分、すなわち、ゲート電極24の下に位置する部分において、100nmよりも大きい厚さを有することができる。一方、第1ゲート層32(または延在部38)は、5nm以上50nm以下の厚さを有することができる。より好ましくは、第1ゲート層32(または延在部38)は、5nm以上25nm以下の厚さを有していてよい。
【0033】
(窒化物半導体装置の製造方法)
次に、図1の窒化物半導体装置10の製造方法の一例を説明する。窒化物半導体装置10の製造方法は、窒化物半導体によって構成された電子走行層16を形成すること、電子走行層16上に電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層18を形成すること、電子供給層18の一部上にアクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層22を形成すること、ゲート層22上にゲート電極24を形成すること、電子供給層18、ゲート層22、およびゲート電極24を覆うとともに、第1開口26Aおよび第2開口26Bを有するパッシベーション層26を形成すること、それぞれ第1開口26Aおよび第2開口26Bを介して電子供給層18に接しているソース電極28およびドレイン電極30を形成することを含んでいる。以下、図2図8を参照して、窒化物半導体装置10の製造方法の詳細を説明する。
【0034】
図2図8は、窒化物半導体装置10の例示的な製造工程を示す概略断面図である。なお、理解を容易にするために、図2図8では、図1の構成要素と同様な構成要素には同一の符号が付されている場合がある。
【0035】
図2に示すように、製造方法は、例えばSi基板である半導体基板12上に、バッファ層14、電子走行層16、電子供給層18、第1窒化物半導体層52、および第2窒化物半導体層54を順に形成することを含んでいる。バッファ層14、電子走行層16、電子供給層18、第1窒化物半導体層52、および第2窒化物半導体層54は、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition,MOCVD)法を用いてエピタキシャル成長させることができる。
【0036】
詳細な図示は省略するが、一例では、バッファ層14は多層バッファ層であってよい。多層バッファ層は、半導体基板12上に形成されたAlN層(第1バッファ層)と、AlN層上に形成されたグレーテッドAlGaN層(第2バッファ層)とを含み得る。グレーテッドAlGaN層は、例えば、AlN層に近い側から順にAl組成を75%、50%、25%とした3つのAlGaN層を積層することによって形成することができる。
【0037】
バッファ層14上に形成される電子走行層16は、GaN層であってよい。電子走行層16上に形成される電子供給層18は、AlGaN層であってよい。したがって、電子供給層18は、電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成されている。一例では、電子供給層18は、8nm以上の厚さを有している。
【0038】
電子供給層18上に形成される第1窒化物半導体層52、および第1窒化物半導体層52上に形成される第2窒化物半導体層54は、アクセプタ型不純物としてマグネシウムを含むGaN層であってよい。電子供給層18上にゲート層22としてGaNを成長させる間に、ゲート層22にドーピングされるマグネシウムの量を変化させることによって、Ga極性GaNである第1窒化物半導体層52およびN極性GaNである第2窒化物半導体層54を形成することができる。GaN層にドーピングされるマグネシウムの量は、例えば、成長チャンバ内に導入されるドーピングガス(例えば、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg))の流量、成長温度などを制御することにより変化させることができる。
【0039】
本実施形態では、ゲート層22の成長中にドーピングされるマグネシウムの量を増加させることによって、GaNの極性をGa極性からN極性に変化させている。この結果、電子供給層18上に形成されたGa極性GaNである第1窒化物半導体層52の上に、N極性GaNである第2窒化物半導体層54を形成することができる。
【0040】
なお、Ga極性GaNである第1窒化物半導体層52は、ドーピングされるマグネシウムの量を変化させるタイミングを調整することによって、所望の厚さを有するように形成することができる。例えば、ドーピングするマグネシウムの量を増加させるタイミングを遅らせると、第1窒化物半導体層52をより厚くすることができる。また、ドーピングするマグネシウムの量を増加させるタイミングを早くすると、第1窒化物半導体層52をより薄くすることができる。
【0041】
第2窒化物半導体層54に含まれるマグネシウムの濃度は、第1窒化物半導体層52に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上であってよい。一例では、第1窒化物半導体層52は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、第2窒化物半導体層54は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含むことができる。また、第1窒化物半導体層52と第2窒化物半導体層54との合計の厚さは、100nmよりも大きく、第1窒化物半導体層52は、5nm以上50nm以下の厚さを有していてよい。
【0042】
図3は、図2に続く製造工程を示す概略断面図である。図3に示すように、製造方法は、ゲート電極24を形成することをさらに含んでいる。ゲート電極24は、例えば、スパッタ法によってTiN層などの金属層(図示略)を第2窒化物半導体層54上に形成した後、当該金属層をリソグラフィおよびエッチングによって選択的に除去することによって形成することができる。
【0043】
図4は、図3に続く製造工程を示す概略断面図である。図4に示すように、製造方法は、第2窒化物半導体層54をリソグラフィおよびエッチングによってパターニングして、第2ゲート層34を形成することをさらに含んでいる。一例では、ゲート電極24の上面および側面を覆うマスク(図示せず)が形成され、このマスクを利用して第2窒化物半導体層54がエッチングされる。
【0044】
本実施形態では、第2ゲート層34は、強アルカリ水溶液(例えば、水酸化カリウム水溶液など)をエッチング液として用いたウェットエッチングによって第2窒化物半導体層54を選択的に除去することにより形成することができる。このとき、N極性GaNである第2窒化物半導体層54は、強アルカリ水溶液によって比較的容易にエッチングされるが、Ga極性GaNである第1窒化物半導体層52は殆どエッチングされない。したがって、この工程におけるエッチングは、第1窒化物半導体層52が露出した時点で停止させることができる。この結果、図5に示す後続の工程で第1窒化物半導体層52から形成される第1ゲート層32の厚さの制御を容易にすることができる。
【0045】
図5は、図4に続く製造工程を示す概略断面図である。図5に示すように、製造方法は、第1窒化物半導体層52をリソグラフィおよびエッチングによってパターニングして、第1ゲート層32を形成することをさらに含んでいる。第1ゲート層32は、延在部38を含んでいるため、平面視で第2ゲート層34よりも広い領域に形成される。一例では、ゲート電極24と、第2ゲート層34と、延在部38に相当する第1窒化物半導体層52の一部とを覆うマスク(図示せず)が形成され、このマスクを利用して第1窒化物半導体層52がエッチングされる。一例では、第1窒化物半導体層52がドライエッチングにより選択的に除去されることにより、第1ゲート層32を形成することができる。この結果、電子供給層18のうち、ゲート層22(第1ゲート層32)によって覆われていない部分が露出される。露出された電子供給層18は、この工程において殆どエッチングされなくてもよい。あるいは、別の例では、露出された電子供給層18がオーバーエッチングされていてもよい。その場合、電子供給層18のうち、露出した部分は、第1ゲート層32によって覆われた部分よりも小さい厚さを有し得る。
【0046】
この工程により、Ga極性GaNである第1ゲート層32と、第1ゲート層32上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層34とを含むゲート層22が形成される。第2ゲート層34に含まれるマグネシウムの濃度は、第1ゲート層32に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上であってよい。一例では、第1ゲート層32は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、第2ゲート層34は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含む。
【0047】
図6は、図5に続く製造工程を示す概略断面図である。図5に示すように、製造方法は、電子供給層18、第1ゲート層32、第2ゲート層34、およびゲート電極24の露出した表面全体を覆うようにパッシベーション層26を形成することをさらに含んでいる。一例では、パッシベーション層26は、減圧CVD(Low-Pressure Chemical Vapor Deposition,LPCVD)法により形成されたSiN層であってよい。
【0048】
図7は、図6に続く製造工程を示す概略断面図である。図7に示すように、製造方法は、パッシベーション層26をリソグラフィおよびエッチングによって選択的に除去して、第1開口26Aおよび第2開口26Bを形成することをさらに含んでいる。第1開口26Aおよび第2開口26Bは、ゲート層22が第1開口26Aと第2開口26Bとの間に位置するように形成される。ゲート層22は、第2開口26Bよりも第1開口26Aの近くに位置していてよい。
【0049】
図8は、図7に続く製造工程を示す概略断面図である。図8に示すように、製造方法は、第1開口26Aおよび第2開口26Bを充填し、かつパッシベーション層26を覆う金属層56を形成することをさらに含んでいる。一例では、金属層56は、Ti層、TiN層、Al層、AlSiCu層、およびAlCu層のうちの少なくとも1つを含んでいてよい。
【0050】
製造方法は、金属層56をリソグラフィおよびエッチングによって選択的に除去して、図1に示されるソース電極28およびドレイン電極30を形成することをさらに含んでいる。これにより、図1に示される窒化物半導体装置10を得ることができる。
【0051】
(窒化物半導体装置の作用)
以下、本実施形態の窒化物半導体装置10の作用について説明する。
窒化物半導体装置10のゲート電極24に閾値電圧を超える電圧が印加されている場合、電子走行層16に2DEG20によるチャネルが形成されてソース-ドレイン間が導通する。一方、ゼロバイアス時には、電子走行層16中、ゲート層22の下に位置する領域の少なくとも一部で、2DEG20が形成されない。これは、ゲート層22がアクセプタ型不純物を含んでいるために、電子走行層16および電子供給層18のエネルギーレベルが引き上げられ、その結果、2DEG20が空乏化されるためである。これにより、窒化物半導体装置10のノーマリーオフ動作が実現される。
【0052】
窒化物半導体装置10においては、ゲート電極24とゲート層22とがショットキー接合されて両者の界面にエネルギー障壁が形成されており、このエネルギー障壁と、電子供給層18のエネルギー障壁とによりゲート耐圧が保たれている。しかしながら、例えば寄生インダクタンスの影響などの何らかの外的要因によりゲート電極24に過剰な正バイアスが印加されると、ゲート電極24からゲート層22内にホールが注入されてゲート層22と電子供給層18との界面に蓄積される。
【0053】
本実施形態では、延在部38の存在により第1ゲート層32は第2ゲート層34よりも平面視で広い領域に広がっているので、ゲート層22と電子供給層18との界面に蓄積されるホール密度を低減することができる。したがって、ホール蓄積に起因する電子供給層18のバンドベンディングを抑制し、ゲートリーク電流の増大を抑制することができる。
【0054】
ここで、延在部38の厚さが大きすぎると、2DEG20の減少によりオン抵抗を上昇させ、ソースフィールドプレート部28Bからの空乏層の伸長を妨げるなどの問題を生じ得る。したがって、所望の厚さの延在部38を安定的に形成できることが重要である。
【0055】
この点、本実施形態の窒化物半導体装置10によれば、第1ゲート層32がGa極性GaNであり、第2ゲート層34がN極性GaNであるので、GaNの極性による第1ゲート層32と第2ゲート層34との化学的安定性の違いを利用して、延在部38を安定的に形成することができる。これは、窒化物半導体装置10の歩留まりの向上にも寄与する。
【0056】
延在部38は、第2ゲート層34をウェットエッチングした後、第1ゲート層32をドライエッチングすることにより形成することができる。延在部38の厚さは、第2ゲート層34のウェットエッチング後に露出される第1ゲート層32の厚さにより決定される。ここで、相対的に化学的安定性の低いN極性GaNである第2ゲート層34をウェットエッチングすると、相対的に化学的安定性の高いGa極性GaNである第1ゲート層32でエッチングがストップする。したがって、ゲート層22のエピタキシャル成長において、Ga極性GaNである第1ゲート層32の厚さを調整することにより、所望の厚さを有する延在部38を安定的に形成することができる。また、ウェットエッチングにより第2ゲート層34を比較的容易に所望の形状にすることができる。
【0057】
また、N極性GaNは、Ga極性GaNよりも熱的安定性が高いため、ゲート層22が、N極性GaNである第2ゲート層34を含んでいることにより、高温環境下での窒化物半導体装置10の性能劣化を抑制することができる。
【0058】
第1実施形態の窒化物半導体装置10は、以下の利点を有する。
(1)ゲート層22は、N極性GaNである第2ゲート層34を含んでいるので、高温環境下での窒化物半導体装置10の性能劣化を抑制することができる。
【0059】
(2)ゲート層22は、Ga極性GaNである第1ゲート層32と、第1ゲート層32上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層34とを含み、第1ゲート層32は、平面視で第2ゲート層34よりも外側に延びる延在部38を含む。この結果、GaNの極性による第1ゲート層32と第2ゲート層34との化学的安定性の違いを利用して、延在部38を安定的に形成することができる。
【0060】
また、延在部38の存在により第1ゲート層32は第2ゲート層34よりも平面視で広い領域に広がっているので、ゲート層22と電子供給層18との界面に蓄積されるホール密度を低減することができる。したがって、ホール蓄積に起因する電子供給層18のバンドベンディングを抑制し、ゲートリーク電流の増大を抑制することができる。
【0061】
(3)第2ゲート層34に含まれるマグネシウムの濃度は、第1ゲート層32に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上であってよい。これにより、ゲート層22のためのGaN成長中にGa極性からN極性への反転が素早く生じて、第1ゲート層32の厚さの調整を容易にすることができる。
【0062】
(4)ゲート層22は、第2開口26Bよりも第1開口26Aの近くに配置されている。これにより、ゲート電極24とドレイン電極30との距離を相対的に大きくすることができるため、比較的大きな電圧がかかりやすいゲート・ドレイン間の絶縁破壊を抑制することができる。
【0063】
(5)ソース電極28は、第1開口26Aに充填されたソースコンタクト部28Aと、パッシベーション層26を覆うソースフィールドプレート部28Bとを含み、ソースフィールドプレート部28Bは、平面視でゲート電極24と第2開口26Bとの間に位置する端部28Cを含んでいてよい。
【0064】
トランジスタのオフ状態において、ドレイン-ソース間に高電圧が印加されると、トランジスタ内部の結晶欠陥や層界面、例えば、電子走行層内、または電子供給層表面に電子がトラップされ、それらの電子が二次元電子ガスの発生を阻害する。この場合、次にトランジスタをオン状態にスイッチさせたときにオン抵抗が増大することが知られており、この現象は電流コラプスと呼ばれる。
【0065】
上記の構成によれば、ソースフィールドプレート部28Bから2DEG20に向けて空乏層を伸長させることができるので、電流コラプスの発生を抑制することができる。
(6)ゲート層22は、100nmよりも大きい厚さを有し、第1ゲート層32は、5nm以上50nm以下の厚さを有し、電子供給層18は、8nm以上の厚さを有していてよい。この構成によれば、窒化物半導体装置10において、正バイアス時のゲート・ソース間電圧の最大定格を向上させることができる。
【0066】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態に係る例示的な窒化物半導体装置100の概略断面図である。図9において、第1実施形態に係る窒化物半導体装置10と同様の構成要素には同じ符号が付されている。また、第1実施形態と同様な構成要素については詳細な説明を省略する。
【0067】
窒化物半導体装置100のゲート層22に含まれる第1ゲート層32は、図1に示す延在部38を含まず、ベース部36のみを含むという点において、図1に示す窒化物半導体装置10とは相違している。したがって、第1ゲート層32と第2ゲート層34とは、平面視で同じ領域に形成することができる。
【0068】
第2実施形態においても、ゲート層22は、N極性GaNである第2ゲート層34を含んでいるので、高温環境下での窒化物半導体装置100の性能悪化を抑制することができる。
【0069】
また、第2実施形態において、ゲート層22の形成は、まずは、Ga極性GaNをエッチングストップ層として用いてN極性GaNをウェットエッチングし、その後、Ga極性GaNをドライエッチングすることにより行うことができる。この結果、例えば、Ga極性GaNのみからなるゲート層をエッチングストップ層を用いることなく形成する場合と比較して、露出される電子供給層18に対するプロセスダメージを低減することができる。
【0070】
電子供給層18に対するプロセスダメージは、上述した電流コラプスの発生を助長し得る。したがって、N極性GaNである第2ゲート層34をウェットエッチングにより形成した後にGa極性GaNである第1ゲート層32をドライエッチングにより形成することによって、窒化物半導体装置100における電流コラプスの発生を抑制することができる。これは、第1実施形態に係る窒化物半導体装置10においても同様である。
【0071】
[変更例]
上記実施形態および変更例の各々は、以下のように変更して実施することができる。
・第1ゲート層32は、アンドープ層であってもよい。本開示において使用される「アンドープ層」という用語は、不純物が意図的に導入されていない層として定義される。第1ゲート層32がアンドープ層であったとしても、第2ゲート層34はアクセプタ型不純物としてマグネシウムを含んでいるため、窒化物半導体装置10はノーマリーオフ動作することができる。また、第1ゲート層32がアンドープ層であることにより、窒化物半導体装置10のオン抵抗の上昇を抑制することができる。
【0072】
・ゲート層22は、第1ゲート層32と第2ゲート層34との間に位置する中間層をさらに含んでいてもよい。中間層は、Ga極性GaNとN極性GaNとの両方を含んでいてよい。
【0073】
・ゲート電極24は、ゲート層22の上面22Bの一部に形成されるように図示されているが、ゲート電極24は、ゲート層22の上面22Bのすべてを覆うように形成されていてもよい。
【0074】
・ソース電極28およびドレイン電極30を含む層の上に、さらなる配線層が形成されていてよい。
本明細書に記載の様々な例のうちの1つまたは複数を、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0075】
本開示で使用される「~上に」という用語は、文脈によって明らかにそうでないことが示されない限り、「~上に」と「~の上方に」の意味を含む。したがって、「第1層が第2層上に形成される」という表現は、或る実施形態では第1層が第2層に接触して第2層上に直接配置され得るが、他の実施形態では第1層が第2層に接触することなく第2層の上方に配置され得ることが意図される。すなわち、「~上に」という用語は、第1層と第2層との間に他の層が形成される構造を排除しない。例えば、電子供給層18が電子走行層16上に形成されている構造は、2DEG20を安定して形成するために電子供給層18と電子走行層16との間に中間層が位置している構造を含んでいてもよい。
【0076】
本開示で使用される「垂直」、「水平」、「上方」、「下方」、「上」、「下」、「前方」、「後方」、「横」、「左」、「右」、「前」、「後」などの方向を示す用語は、説明および図示された装置の特定の向きに依存する。本開示においては、様々な代替的な向きを想定することができ、したがって、これらの方向を示す用語は、狭義に解釈されるべきではない。
【0077】
例えば、本開示で使用されるZ軸方向は必ずしも鉛直方向である必要はなく、鉛直方向に完全に一致している必要もない。したがって、本開示による種々の構造(例えば、図1に示される構造)は、本明細書で説明されるZ軸方向の「上」および「下」が鉛直方向の「上」および「下」であることに限定されない。例えば、X軸方向が鉛直方向であってもよく、またはY軸方向が鉛直方向であってもよい。
【0078】
[付記]
本開示から把握できる技術的思想を以下に記載する。なお、限定する意図ではなく理解の補助のために、付記に記載される構成要素には、実施形態中の対応する構成要素の参照符号が付されている。参照符号は、理解の補助のために例として示すものであり、各付記に記載された構成要素は、参照符号で示される構成要素に限定されるべきではない。
【0079】
(付記1)
窒化物半導体によって構成された電子走行層(16)と、
前記電子走行層(16)上に形成され、前記電子走行層(16)よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層(18)と、
前記電子供給層(18)の一部上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層(22)と、
前記ゲート層(22)上に形成されたゲート電極(24)と、
前記電子供給層(18)、前記ゲート層(22)、および前記ゲート電極(24)を覆うとともに、第1開口(26A)および第2開口(26B)を有するパッシベーション層(26)と、
前記第1開口(26A)を介して前記電子供給層(18)に接しているソース電極(28)と、
前記第2開口(26B)を介して前記電子供給層(18)に接しているドレイン電極(30)と
を備え、
前記ゲート層(22)は、前記第1開口(26A)と前記第2開口(26B)との間に位置しており、
前記ゲート層(22)は、Ga極性GaNである第1ゲート層(32)と、前記第1ゲート層(32)上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層(34)とを含む、窒化物半導体装置。
【0080】
(付記2)
前記第1ゲート層(32)は、平面視で前記第2ゲート層(34)よりも外側に延びる延在部(38)を含む、付記1に記載の窒化物半導体装置(10)。
【0081】
(付記3)
前記延在部(38)は、
平面視で前記第2ゲート層(34)と前記第1開口(26A)との間に位置するソース側部分(38A)と、
平面視で前記第2ゲート層(34)と前記第2開口(26B)との間に位置するドレイン側部分(38B)と
を含む、付記2に記載の窒化物半導体装置。
【0082】
(付記4)
前記第1ゲート層(32)は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、
前記第2ゲート層(34)は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含む、
付記1~3のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置。
【0083】
(付記5)
前記第2ゲート層(34)に含まれるマグネシウムの濃度は、前記第1ゲート層(32)に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上である、付記4に記載の窒化物半導体装置。
【0084】
(付記6)
前記ゲート層(22)は、前記第2開口(26B)よりも前記第1開口(26A)の近くに配置されている、付記1~5のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置。
【0085】
(付記7)
前記ソース電極(28)は、前記第1開口(26A)に充填されたソースコンタクト部(28A)と、前記パッシベーション層(26)を覆うソースフィールドプレート部(28B)とを含み、前記ソースフィールドプレート部(28B)は、平面視で前記ゲート電極(24)と前記第2開口(26B)との間に位置する端部(28C)を含んでいる、付記1~6のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置。
【0086】
(付記8)
前記電子走行層(16)は、GaNであり、
前記電子供給層(18)は、AlGa1-xNであり、0.2<x<0.3である、
付記1~7のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置。
【0087】
(付記9)
前記ゲート層(22)は、100nmよりも大きい厚さを有し、前記第1ゲート層(32)は、5nm以上50nm以下の厚さを有し、前記電子供給層(18)は、8nm以上の厚さを有する、付記1~8のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置。
【0088】
(付記10)
窒化物半導体によって構成された電子走行層(16)を形成すること、
前記電子走行層(16)上に前記電子走行層(16)よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層(18)を形成すること、
前記電子供給層(18)の一部上にアクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層(22)を形成すること、
前記ゲート層(22)上にゲート電極(24)を形成すること、
前記電子供給層(18)、前記ゲート層(22)、および前記ゲート電極(24)を覆うとともに、第1開口(26A)および第2開口(26B)を有するパッシベーション層(26)を形成すること、
それぞれ前記第1開口(26A)および前記第2開口(26B)を介して前記電子供給層(18)に接しているソース電極(28)およびドレイン電極(30)を形成すること
を含み、
前記ゲート層(22)は、前記第1開口(26A)と前記第2開口(26B)との間に位置しており、
前記ゲート層(22)は、Ga極性GaNである第1ゲート層(32)と、前記第1ゲート層(32)上に形成されたN極性GaNである第2ゲート層(34)とを含む、窒化物半導体装置の製造方法。
【0089】
(付記11)
前記第1ゲート層(32)は、平面視で前記第2ゲート層(34)よりも外側に延びる延在部(38)を含む、付記10に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0090】
(付記12)
前記ゲート層(22)を形成することは、前記電子供給層(18)上に前記ゲート層(22)としてGaNを成長させる間に、前記ゲート層(22)にドーピングされるマグネシウムの量を変化させることによって、Ga極性GaNである第1窒化物半導体層(52)およびN極性GaNである第2窒化物半導体層(54)を形成することを含む、付記10または11に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0091】
(付記13)
前記ゲート層(22)を形成することは、
前記第2窒化物半導体層(54)をウェットエッチングにより選択的に除去して前記第2ゲート層(34)を形成すること、
前記第1窒化物半導体層(52)をドライエッチングにより選択的に除去して前記第1ゲート層(32)を形成すること
をさらに含む、付記12に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0092】
(付記14)
前記第1ゲート層(32)は、1×1018cm-3以上1×1020cm-3未満の濃度のマグネシウムを不純物として含み、
前記第2ゲート層(34)は、1×1020cm-3以上の濃度のマグネシウムを不純物として含む、
付記10~13のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0093】
(付記15)
前記第2ゲート層(34)に含まれるマグネシウムの濃度は、前記第1ゲート層(32)に含まれるマグネシウムの濃度の10倍以上である、付記14に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0094】
(付記16)
前記ゲート層(22)は、前記第2開口(26B)よりも前記第1開口(26A)の近くに配置されている、付記10~15のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0095】
(付記17)
前記ソース電極(28)は、前記第1開口(26A)に充填されたソースコンタクト部(28A)と、前記パッシベーション層(26)を覆うソースフィールドプレート部(28B)とを含み、前記ソースフィールドプレート部(28B)は、平面視で前記ゲート電極(24)と前記第2開口(26B)との間に位置する端部(28C)を含んでいる、付記10~16のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0096】
(付記18)
前記電子走行層(16)は、GaNであり、
前記電子供給層(18)は、AlGa1-xNであり、0.2<x<0.3である、
付記10~17のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0097】
(付記19)
前記ゲート層(22)は、100nmよりも大きい厚さを有し、前記第1ゲート層(32)は、5nm以上50nm以下の厚さを有し、前記電子供給層(18)は、8nm以上の厚さを有する、付記10~18のうちのいずれか1つに記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【0098】
以上の説明は単に例示である。本開示の技術を説明する目的のために列挙された構成要素および方法(製造プロセス)以外に、より多くの考えられる組み合わせおよび置換が可能であることを当業者は認識し得る。本開示は、特許請求の範囲を含む本開示の範囲内に含まれるすべての代替、変形、および変更を包含することが意図される。
【符号の説明】
【0099】
10,100…窒化物半導体装置
12…半導体基板
14…バッファ層
16…電子走行層
18…電子供給層
20…二次元電子ガス(2DEG)
22…ゲート層
22A…底面
22B…上面
24…ゲート電極
26…パッシベーション層
26A…第1開口
26B…第2開口
28…ソース電極
28A…ソースコンタクト部
28B…ソースフィールドプレート部
28C…端部
30…ドレイン電極
32…第1ゲート層
34…第2ゲート層
36…ベース部
38…延在部
38A…ソース側部分
38B…ドレイン側部分
52…第1窒化物半導体層
54…第2窒化物半導体層
56…金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9