(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116999
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
C08L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019443
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】グエン ヴァン タイ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AF02X
4J002BA00X
4J002BA01X
4J002BB14W
4J002BB15W
4J002BK00X
4J002BP02W
4J002CE00X
4J002FD010
4J002FD070
4J002FD20X
4J002GK00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】 溶融粘度が適度であるため作業性が高く、硬化した後の強度や伸び性が良好で、0℃での可撓性が高いことから低温耐久性に優れているホットメルト組成物を提供する。
【解決手段】 プロピレン系エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)と、を含有し、プロピレン系エラストマー(A)として、メルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)が1~500g/10minであるプロピレン系エラストマー(a1)と、溶融粘度(190℃)が100~10,000mPa・sであるプロピレン系エラストマー(a2)と、を含有し、粘着付与剤(B)として、水添芳香族系炭化水素樹脂(b1)を含有することを特徴とするホットメルト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)と、を含有し、
プロピレン系エラストマー(A)として、メルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)が1~500g/10minであるプロピレン系エラストマー(a1)と、溶融粘度(190℃)が100~10,000mPa・sであるプロピレン系エラストマー(a2)と、を含有し、
粘着付与剤(B)として、水添芳香族系炭化水素樹脂(b1)を含有することを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】
フィルターに用いられることを特徴とする請求項1記載のホットメルト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホットメルト組成物は、無溶剤で環境に優しく、短時間で硬化可能で、非常に扱いやすい材料であることから、製造現場における作業環境を改善することが可能である。そのため、ホットメルト組成物は、自動車・電機などの精密分野のほか、建築分野など幅広く用いられている。
【0003】
過去に、出願人は、スチレン系ブロックコポリマー、熱変形温度若しくはガラス転移点が120℃以上のポリフェニレンエーテル樹脂または変性ポリフェニレンエーテル樹脂、非晶性ポリオレフィン、粘着付与樹脂並びに老化防止剤を少なくとも含有し、200℃での溶融粘度が30Pa・s以下であることを特徴とするホットメルト組成物を発明した(特許文献1)。この組成物は、ポリオレフィン系素材に対する密着性、接着性に優れるとともに、耐熱性、耐熱老化性が良好であり、しかも200℃付近での溶融粘度が低いことから、塗工性、吐出性が良好で作業性に優れるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
従来から、自動車・電機・建築分野においては、排熱やろ過、異物混入防止のために、製品内部に繊維質素材からなるフィルターが設けられており、製品ごとの内部構造に合わせて、フィルターの形状を加工し固定するために、ホットメルト組成物が好ましく用いられている。
【0006】
例えば、自動車のエンジン周辺に設置されるエアフィルターの場合、作業性の向上のため一定水準の溶融粘度が必要とされたり、安全性の向上のため高水準の強度、伸び性が求められたりしている。また、冬季の低温環境下(0℃程度)において、エンジン停止時でも一定の耐久性を維持できることが要求される。ここで、特許文献1にかかるホットメルト組成物においては、硬化した後の強度や伸び性に改善の余地があった。また、上記分野における安全基準が年々厳格化していることから、更なる諸物性の向上が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶融粘度が適度であるため作業性が高く、硬化した後の強度や伸び性が良好で、0℃での可撓性が高いことから低温耐久性に優れているホットメルト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プロピレン系エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)と、を含有し、プロピレン系エラストマー(A)として、メルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)が1~500g/10minであるプロピレン系エラストマー(a1)と、溶融粘度(190℃)が100~10,000mPa・sであるプロピレン系エラストマー(a2)と、を含有し、粘着付与剤(B)として、水添芳香族系炭化水素樹脂(b1)を含有することを特徴とするホットメルト組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるホットメルト組成物は、溶融粘度が適度であるため作業性が高く、硬化した後の強度や伸び性が良好で、0℃での可撓性が高いことから低温耐久性に優れているという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<プロピレン系エラストマー>
本発明では、プロピレン系エラストマー(A)を用いる。当該(A)成分は、本発明にかかるホットメルト組成物のベースポリマーとして用いられる。
【0011】
プロピレン系エラストマー(A)としては、メルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)が1~500g/10minであるプロピレン系エラストマー(a1)と、溶融粘度(190℃)が100~10,000mPa・sであるプロピレン系エラストマー(a2)と、を含有することを必要とする。
【0012】
当該(a1)成分のメルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)としては、1~500g/10minである必要があり、2~450g/10minであることが好ましく、3~400g/10minであることがさらに好ましく、5~350g/10minであることが特に好ましい。なお、当該(a1)成分の溶融粘度(190℃)については、測定機器にて測定できる範囲を超えることから、測定することができない。
【0013】
当該(a1)成分の具体例は、例えば、プロピレン系エラストマーとして、Vistamaxx 3000(メルトフローレート:8g/10min)、Vistamaxx 3980FL(メルトフローレート:8g/10min)、Vistamaxx 6202(メルトフローレート:20g/10min),Vistamaxx 2120(メルトフローレート:80g/10min)、Vistamaxx 2320(メルトフローレート:200g/10min)、Vistamaxx 2330(メルトフローレート:300g/10min)などが挙げられる(いずれもExxonMobil社製、ASTM D-1238、230℃/2.16kgによる測定値)。
【0014】
また、当該(a2)成分の溶融粘度(190℃)としては、100~10,000mPa・sである必要があり、200~9,500mPa・sであることが好ましく、300~9,000mPa・sであることがさらに好ましく、500~8,500mPa・sであることが特に好ましい。なお、当該(a2)成分のメルトフローレート(ASTM D-1238、230℃/2.16kg)については、測定機器にて測定できる範囲を超えることから、測定することができない。
【0015】
当該(a2)成分の具体例は、例えば、プロピレン系エラストマーとして、Vistamaxx 8880(溶融粘度:1,200mPa・s)、Vistamaxx 8780(溶融粘度:3,980mPa・s)、Vistamaxx 8380(溶融粘度:7,570mPa・s)などが挙げられる(いずれもExxonMobil社製、190℃における溶融粘度の測定値)。
【0016】
ここで、当該(a1)成分のみ用いた場合は、塗布する際の作業性が悪化し、オープンタイムが短くなる傾向がある。また、当該(a2)成分のみ用いた場合は、伸び性に欠け、また耐衝撃性に劣る傾向がある。
【0017】
当該(a1)と当該(a2)成分との配合割合としては、重量比において、1:0.1~10であることが好ましく、1:0.2~5であることがより好ましく、1:0.3~4であることがさらに好ましく、1:0.5~3であることが特に好ましい。
【0018】
<粘着付与剤>
また、本発明では、粘着付与剤(B)を用いる。当該(B)成分を用いることにより、被着体表面の濡れ性を高めることができ、その層間の密着性を向上させることができる。
【0019】
当該(B)成分の種類としては、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、ロジン系樹脂、及びその水添物又は変性物などが挙げられる。
【0020】
炭化水素樹脂は、石油ナフサを原料とする石油系樹脂であり、その種類としては、C5留分を原料とする脂肪族系、C9留分を原料とする芳香族系のほか、脂環族系のものが挙げられる。本発明にかかる発明者は、これらの中でも、芳香族系炭化水素樹脂に水素添加をした、水添芳香族系炭化水素樹脂(b1)を用いることにより、0℃での可撓性が高まる結果、低温耐久性を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
当該(b1)成分の軟化点としては、70~200℃であることが好ましく、75~190℃であることがさらに好ましく、80~180℃であることが特に好ましい。
【0022】
当該(b1)成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、0.1~500重量部配合することが好ましく、1~400重量部配合することがさらに好ましく、3~300重量部配合することが特に好ましい。
【0023】
当該(b1)成分の具体例としては、Regalite R1090(製品名、Eastman社製、軟化点:100℃、水添芳香族系炭化水素樹脂)などが挙げられる。
【0024】
その他、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記(b1)成分以外の粘着付与剤を用いることができる。その具体例としては、YSレジン PX1250(製品名、ヤスハラケミカル社製、軟化点:120℃~130℃、テルペン樹脂)、タマノル 901(製品名、荒川化学工業社製、軟化点:125~135℃、テルペンフェノール樹脂)、パインクリスタル KE-311(製品名、荒川化学工業社製、軟化点:90~100℃、ロジン系樹脂)などが挙げられる。
【0025】
<ワックス>
また、本発明では、ワックスを用いることができる。当該成分を用いることにより、本発明にかかるホットメルト組成物の硬化速度を上昇させることができる。
【0026】
当該成分の軟化点としては、80~250℃であることが好ましく85~200℃であることがさらに好ましく、90~180℃であることが特に好ましい。
【0027】
当該成分の配合割合としては、上記(A)成分100重量部に対して、1~800重量部配合することが好ましく、3~500重量部配合することがさらに好ましく、5~300重量部配合することが特に好ましい。
【0028】
当該成分の具体例としては、ハイワックス 800P(製品名、三井化学社製、軟化点:140℃、ポリエチレンワックス)、サンワックス 171-P(製品名、三洋化成工業社製、軟化点:107℃、ポリエチレンワックス)、PE H-110(製品名、SQI Thailand社製、軟化点:110℃、ポリエチレンワックス)、ビスコール 550-P(製品名、三洋化成工業社製、軟化点:153℃、ポリプロピレンワックス)、H-501(製品名、QINGDAO SINOPLAS社製、軟化点:155~160℃、ポリプロピレンワックス)などが挙げられる。
【0029】
さらに、本発明では、酸化防止剤を用いることができる。当該成分の種類としては、例えば、亜リン酸塩系、ナフチルアミン系、p-フェニレンジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン系、ビス・トリス・ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系などが挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。当該成分の具体例としては、Sumilizer GP(製品名、住友化学社製)、Songnox 1010(製品名、Songwon社製)などが挙げられる。
【0030】
なお、本発明においては、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの充填材や、防腐剤、着色剤などの各種添加剤が含まれていても良い。
【実施例0031】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合において、190℃に設定したニーダーにより十分に混練し、実施例及び比較例のホットメルト組成物を得た。ここで、表1における数値は、重量部を表すものとする。以下に、使用した原材料を示す。
Vistamaxx 3980FL(製品名、ExxonMobil社製、メルトフローレート:8g/10min、ASTM D-1238、230℃/2.16kg)
Vistamaxx 8880(製品名、ExxonMobil社製、190℃における溶融粘度:1,200mPa・s)
Regalite R1090(製品名、Eastman社製、軟化点:100℃、水添芳香族系炭化水素樹脂)
Kristalex 3100(製品名、Eastman社製、軟化点:100℃、芳香族系炭化水素樹脂)
T-REZ HA103(製品名、ENEOS社製、軟化点:103.6℃、水添脂環族系炭化水素樹脂)
JH-6100(製品名、Jinhai社製、軟化点:101℃、脂環族系炭化水素樹脂)
PE H-110(製品名、SQI Thailand社製、軟化点:110℃、ポリエチレンワックス)
Songnox 1010(製品名、Songwon社製、酸化防止剤)
【0032】
【0033】
上記の実施例等にて得られたホットメルト組成物について、以下の物性評価を行なった。この結果を表2に示す。
【0034】
<軟化点>
JIS K 6863に準拠し、ホットメルト組成物の軟化点(℃)を測定した。
【0035】
<溶融粘度>
ブルックフィールド粘度計により、ホットメルト組成物を180℃にて溶融させ、測定温度:180℃、スピンドルNo.27、回転数:5rpmにて、10分間静置させた後、回転を開始し、10分後の溶融粘度(mPa・s)を測定した。溶融粘度が5,000~9,000mPa・sであれば、作業性が良好である。
【0036】
<引張強度・引張伸び>
ホットメルト組成物を180℃にて溶融させ、厚みが2mmのシートとした後、JIS K 6251に準拠したダンベル3号形状の試験片を作製した。そして、試験片を23℃にて24時間養生させた後、23℃において20mm/minの引張速度により、試験片の引張強度(N/mm2)と引張伸び(mm)を測定した。引張強度が1.0N/mm2以上のものを〇と評価し、1.0N/mm2未満のものを×と評価した。また、引張伸びが50mm以上のものを〇と評価し、50mm未満のものを×と評価した。
【0037】
<0℃可撓性>
ホットメルト組成物を180℃にて溶融させ、厚みが2mmのシートとした後、10cm×1cmにカットし、試験片を作製した。そして、試験片を0℃にて24時間養生させた後、その中央部分を直角に曲げ、その結果を目視で観察した。試験片が真っ二つに割れなかったものを〇と評価し、真っ二つに割れたものを×と評価した。
【0038】
【0039】
上記実施例等において、軟化点がほぼ同一であるが、その化学構造が異なる粘着付与剤をそれぞれ配合し、ホットメルト組成物を製造して、各種の物性評価を行った。実施例にかかるホットメルト組成物は、溶融粘度が適度であるため作業性が高く、硬化した後の強度や伸び性が良好で、0℃での可撓性が高いことから低温耐久性に優れているものであった。その一方で、比較例にかかるホットメルト組成物は、いずれかの項目において、その基準を満たさないものであった。