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特開2023-117062半導体材料、光電変換素子、LED素子、及び半導体材料の製造方法
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  • 特開-半導体材料、光電変換素子、LED素子、及び半導体材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117062
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】半導体材料、光電変換素子、LED素子、及び半導体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/363 20060101AFI20230816BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20230816BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230816BHJP
   C01G 21/00 20060101ALI20230816BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230816BHJP
   C23C 14/28 20060101ALI20230816BHJP
   H01L 33/26 20100101ALI20230816BHJP
   H01L 31/08 20060101ALI20230816BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230816BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
H01L21/363
C09K11/66
C09K11/08 A
C01G21/00
C23C14/06 G
C23C14/28
H01L33/26
H01L31/08 Z
B32B7/025
B32B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019544
(22)【出願日】2022-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度委託事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 竜太
(72)【発明者】
【氏名】太宰 卓朗
【テーマコード(参考)】
4F100
4H001
4K029
5F103
5F149
5F241
5F849
【Fターム(参考)】
4F100AA19
4F100AB11
4F100AC10
4F100AH08
4F100AH08A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE01
4F100EJ52
4F100GB41
4F100JA11
4F100JA11A
4F100JG10
4F100JG10A
4F100YY00A
4H001CA02
4H001CF01
4H001XA01
4H001XA06
4H001XA07
4H001XA17
4H001XA35
4H001XA50
4H001XA53
4H001XA55
4H001XA82
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA41
4K029BB02
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA08
4K029DB10
4K029DB20
4K029EA08
4K029JA02
5F103AA04
5F103BB27
5F103BB42
5F103DD30
5F103GG01
5F103GG02
5F103HH04
5F103LL02
5F103LL04
5F103NN01
5F103NN07
5F103RR06
5F149CB01
5F149FA04
5F149GA02
5F241CA04
5F241CA13
5F241CA22
5F241CA46
5F241CA66
5F241CA88
5F849CB01
5F849FA04
5F849GA02
(57)【要約】
【課題】組成元素の一部が欠損するのを抑制し、結晶性の高いペロブスカイト酸化物で構成された半導体材料、該半導体材料で構成された半導体層を備える積層構造体、光電変換素子又はLED素子、及び積層構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】この半導体材料は、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料。
【請求項2】
ハライド化金属ペロブスカイトが結晶質である、請求項1に記載の半導体材料。
【請求項3】
X線回折において(220)面からの回折ピーク強度(220)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(220)が、100以上である、請求項1又は2に記載の半導体材料。
【請求項4】
X線回折において(111)面からの回折ピーク強度(111)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(111)が、100以上である、請求項1又は2に記載の半導体材料。
【請求項5】
X線回折において(002)面からの回折ピークの半値幅が2.0°以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体材料を主成分として含む発光層を備える、LED素子。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体材料を主成分として含む活性層を備える、光電変換素子。
【請求項8】
基材上に一般式AX(式中、AはCs又はCHNHであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(2)で示されるハロゲン化物で構成された前駆体を形成する第1工程と、
前記前駆体に、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトを含む材料を用いて気相成長し、前記基材上に前記ハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を形成する第2工程と、
を有する半導体材料の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程において、前記ハロゲン化物を含む第1ターゲットと前記基材を対向して配置し、前記第1ターゲットに対してレーザーを照射し、
前記第2工程において、前記ハライド化金属ペロブスカイトを主成分として含む第2ターゲットと前記前駆体を対向して配置し、前記第2ターゲットに対してレーザーを照射する、請求項8に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程において、前記第1ターゲットとして、前記ハロゲン化物と、Si、SiC、Cからなる群から選択される少なくとも一種の光吸収材料と、の混合粉末を含むを用い、
前記第2工程において、前記第2ターゲットとして前記ハライド化金属ペロブスカイトと、前記光吸収材料と、の混合粉末を用いる、請求項9に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程において、100℃以上500℃以下の温度で前記半導体材料を形成する、請求項8~10のいずれか一項に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項12】
前記第1工程において、前記ハロゲン化物としてCsBrを用い、
前記第2工程において、前記ハライド化金属ペロブスカイトとしてCsPbBrを用いる、請求項8~11のいずれか一項に記載の半導体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、光電変換素子、LED素子、及び半導体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な社会目標への注目が集まっている。例えば、エネルギーをクリーンにすることや、気象変動への具体的な対策といった目標の達成が求められている。
【0003】
クリーンエネルギーとしては、太陽電池が注目されている。太陽電池としては、電極、ホール輸送層、半導体層、電子輸送層、金属酸化物層が積層した太陽電池が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示されている太陽電池は、半導体層としてCaTiO、CsPbBrといった、ペロブスカイト酸化物を有する層を備える。特許文献1では、耐久性に優れる太陽電池を提供することを目的としている。特許文献1に開示された太陽電池は、ハロゲン化金属の薄膜を透明電極及び炭素電極で挟み、所定の化合物を有する溶液に浸漬することで、ハロゲン化金属の薄膜を基材としてペロブスカイト酸化物を形成している。
【0004】
また、気象変動への具体的な対策として、先進国には、気候変動のスピードをゆるめるための行動をとることが求められている。例えば、先進国において、省エネ性能の高い発光素子としてLED素子へのニーズが高まっており、種々の検討がされている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、光取出し効率が高いLED素子を提供することを目的としている。特許文献2に開示されたLED素子は、ペロブスカイト酸化物を主結晶相とする材料を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-088316号公報
【特許文献2】国際公開第2013/179625号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されているようなペロブスカイト酸化物は、組成元素の一部が欠損し、不純物の相が生じる場合や、結晶性が低い場合があった。そのため、特許文献1及び2に開示されているペロブスカイト酸化物を用いた光電変換素子やLED素子では、高い光電変換効率や優れた発光特性を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、組成元素の一部が欠損するのを抑制し、結晶性の高いペロブスカイト酸化物で構成された半導体材料、該半導体材料で構成された半導体層を備える光電変換素子、LED素子、及び半導体材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明の第1の態様に係る半導体材料は、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成されている。
【0009】
[2]上記態様に係る半導体材料において、ハライド化金属ペロブスカイトが結晶質であってもよい。
【0010】
[3]上記態様に係る半導体材料は、X線回折において(220)面からの回折ピーク強度(220)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(220)が、100以上であってもよい。
【0011】
[4]上記態様に係る半導体材料は、X線回折において(111)面からの回折ピーク強度(111)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(111)が、100以上であってもよい。
【0012】
[5]上記態様に係る半導体材料は、X線回折において(002)面からの回折ピークの半値幅が2.0°以下であってもよい。
【0013】
[6]本発明の第2の態様に係るLED素子は、第1の態様に係る半導体材料を主成分として含む発光層を備える。
【0014】
[7]本発明の第3の態様に係る光電変換素子は、第1の態様に係る半導体材料で構成された活性層を備える。
【0015】
[8]本発明の第4の態様に係る半導体材料の製造方法は、基材上に一般式AX(式中、AはCs又はCHNHであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(2)で示されるハロゲン化物で構成された前駆体を形成する第1工程と、前記前駆体に、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトを含む材料を用いて気相成長し、前記基材上に前記ハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を形成する第2工程と、を有する。
【0016】
[9]上記態様に係る半導体材料の製造方法は、前記第1工程において、前記ハロゲン化物を含む第1ターゲットと前記基材を対向して配置し、前記第1ターゲットに対してレーザーを照射し、前記第2工程において、前記ハライド化金属ペロブスカイトを主成分として含む第2ターゲットと前記前駆体を対向して配置し、前記第2ターゲットに対してレーザーを照射してもよい。
【0017】
[10]上記態様に係る半導体材料の製造方法は、前記第1工程において、前記第1ターゲットとして、前記ハロゲン化物と、Si、SiC、Cからなる群から選択される少なくとも一種の光吸収材料と、の混合粉末を含むを用い、前記第2工程において、前記第2ターゲットとして前記ハライド化金属ペロブスカイトと、前記光吸収材料と、の混合粉末を用いてもよい。
【0018】
[11]上記態様に係る半導体材料の製造方法は、前記第2工程において、100℃以上500℃以下の温度で前記半導体材料を形成してもよい。
【0019】
[12]上記態様に係る半導体材料の製造方法は、前記第1工程において、前記ハロゲン化物としてCsBrを用い、前記第2工程において、前記ハライド化金属ペロブスカイトとしてCsPbBrを用いてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、組成元素の一部が欠損するのを抑制し、結晶性の高いペロブスカイト酸化物で構成された半導体材料、該半導体材料で構成された半導体層を備えるLED素子及び光電変換素子、並びに上記半導体材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る積層構造体の断面図である。
図2図1の積層構造体を製造する方法を説明するための図であり、第1積層工程の様子を示す。
図3図1の積層構造体を製造する方法を説明するための図であり、第1積層工程後の様子を示す。
図4A図1の積層構造体を製造する方法を説明するための図であり、第2積層工程の様子を示す。
図4B図1の積層構造体を製造する方法を説明するための図であり、第2積層工程の様子巣を示す。
図5】本発明の一実施形態に係る半導体材料で構成された半導体層を備える光電変換素子の断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る半導体材料で構成された半導体層を備えるLED素子の断面図である。
図7】実施例1の積層構造体のX線回折結果を示すグラフである。
図8】実施例1の積層構造体の(002)面X線回折結果を示すグラフである。
図9】比較例1の積層構造体のX線回折結果を示すグラフである。
図10】比較例1の積層構造体の(002)面X線回折結果を示すグラフである。
図11】実施例1及び比較例1の積層構造体の紫外可視分光測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
【0023】
[半導体材料]
本発明の第1実施形態に係る半導体材料は、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成されている。上記ハライド化金属ペロブスカイトは、例えば、CsPbBr、CsSnBr、CsPbI、CHNHPbBr、CHNHSnBr、CHNHSnCl等である。
【0024】
ここで、本実施形態において、半導体材料がハライド化金属ペロブスカイトで構成されているとは、半導体材料におけるハライド化金属ペロブスカイトで構成されているとは、半導体材料におけるハライド化金属ペロブスカイトの割合が、99mol%以上であることを意味し、ハライド化金属ペロブスカイトのみで構成されていることが好ましい。上記半導体材料におけるハライド化金属ペロブスカイトの質量割合は、蛍光X線分析により測定される。
【0025】
上記ハライド化金属ペロブスカイトは、結晶質であることが好ましい。
本実施形態に係る半導体材料は、X線回折において(220)面からの回折ピーク強度(220)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(220)が、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る半導体材料は、X線回折において(111)面からの回折ピークの強度(111)に対する(002)面からの回折ピークの強度(002)の比(002)/(220)が100以上であることが好ましく、200以上であることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態に係る半導体材料は、X線回折において、(002)面からの回折ピークの半値幅が、例えば2.0°以下の結晶性の高い半導体材料である。本実施形態に係る半導体材料は、X線回折において、(002)面からの回折ピークの半値幅が1.5°以下であることが好ましく、1.0°以下であることがより好ましく、0.5°以下であることがさらに好ましく、0.3°以下であることが特に好ましい。
【0027】
本実施形態に係る半導体材料は、波長360nm~760nmの可視光領域における反射率が2.5%以上であり、4%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態に係る半導体材料は、例えば表面に犠牲層が設けられた基板の犠牲層上に作製し、作製後犠牲層エッチングすることにより基板から半導体層を取り出すことができる。犠牲層としては、例えばBaO薄膜やSrAl薄膜を用いることができ、該犠牲層は、エッチング溶液として水を用いることで溶解される。本実施形態では、基板と半導体層との積層体を積層構造体と呼称する場合がある。
【0029】
本実施形態によれば、組成元素の一部が欠損するのを抑制し、結晶性の高いペロブスカイト酸化物で構成された半導体材料を提供することができる。
【0030】
[積層構造体]
図1は、積層構造体の断面図である。図1に示される積層構造体100は、上記実施形態に係る半導体材料で構成された半導体層10を備える積層構造体であって、基材30及び基材30上に形成された半導体層10を備える。
【0031】
(基材)
基材30としては、無機材料、有機材料、金属、セラミックス、ガラス等の公知の基板を用いることができる。基材30は、結晶質の材料で構成されていることが好ましい。基材30は、例えば単結晶基板である。基材30が結晶質の材料で構成されていると、後述する半導体材料の製造方法において基材30上に形成する半導体材料の前駆体の結晶性を高めることができる。
【0032】
(半導体層)
半導体層10は、上記実施形態に係る半導体材料で構成されている。すなわち、半導体層10は、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料で構成されている。本実施形態において、半導体層10がハライド化金属ペロブスカイトで構成されているとは、半導体層10におけるハライド化金属ペロブスカイトの質量割合が、70mol%以上であることを意味する。半導体層10におけるハライド化金属ペロブスカイトの質量割合は、例えば、蛍光X線分析により測定される。半導体層10は、ハライド化金属ペロブスカイトのみからなることが好ましい。
【0033】
半導体層10は、例えば、上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成されていることが好ましい。半導体層10は、ドナー及びアクセプタの少なくとも一方が注入されていてもよい。
【0034】
積層構造体100の積層方向における半導体層10の厚みT10は、例えば、10nm~5000nmであり、50nm~5000nmであることが好ましい。ここでいう半導体層10の厚みT10は、半導体層10の積層方向における平均厚みであり、断面の電子顕微鏡像における10か所の厚みの平均により算出できる。
【0035】
半導体層10は、例えばX線回折において、上記実施形態に係る半導体材料と同様の回折結果を示す。積層構造体100は、X線回折における最も強度が高いピーク強度の1×10-4倍以上の強度である回折ピークは、ハライド化金属ペロブスカイトの回折ピークのみ乃至ハライド化金属ペロブスカイト及び基材30を構成する材料の回折ピークのみであることが好ましい。
【0036】
[半導体材料の製造方法]
本実施形態に係る半導体材料の製造方法は、基材上に一般式AX(式中、AはCs又はCHNHであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(2)で示されるハロゲン化物で構成された前駆体を形成する第1工程と、該前駆体に、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された材料を用いて気相成長し、基材上にハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を形成する第2工程と、を有する。以下、上記実施形態に係る積層構造体100を製造する方法を例に挙げて、本実施形態に係る半導体材料の製造方法を説明する。図2図4Bは、図1の積層構造体を説明するための図である。図2図4Bのうち、図2は、第1工程後の様子を示し、図3図4Bは、第2積層工程の様子を示す。
【0037】
(第1工程)
まず、基材30上に前駆体を形成する(図2、第1工程)。第1工程において、前駆体は、例えば、ベース層20として積層する。ベース層20は、例えば、真空蒸着、分子線エピタキシー法、スパッタリング法、化学気相成長法等の気相法、液相析出法等の液相法により形成され、赤外線レーザーエピタキシー法等の真空蒸着法により形成されることが好ましい。ベース層20の成膜条件は、所望のベース層20の組成、厚み等に応じて任意に選択される。
【0038】
前駆体は、例えば、上記一般式(2)で示されるハロゲン化物を含む第1ターゲットと基材30を対向して配置し、第1ターゲットに対してレーザーを照射することで基材30上に形成される。第1工程において、第1ターゲットとして、例えば、上記一般式(2)で示されるハロゲン化物の粉末、並びに上記一般式(2)で示されるハロゲン化物及び光吸収材料の混合粉末を用いることができる。光吸収材料は、照射するレーザー光に対する吸収係数の高く、レーザー光を吸収することで高温になる材料である。光吸収材料は、例えば、Si、SiC,Cからなる群から選択される少なくとも一種の材料である。
【0039】
第1ターゲットに上記光吸収材料を含めることで、第1ターゲットに照射した光が光吸収材料に吸収され、第1ターゲットを高温に制御し、ハロゲン化物の蒸発を進行しやすくできる。光吸収材料は、上記一般式(2)で示されるハロゲン化物よりも融点が高いため、光吸収材料が高温になっても蒸発せず、ベース層20に含まれない。第1ターゲットとしてハロゲン化物及び光吸収材料の混合物を用いる場合、第1ターゲットにおけるハロゲン化物の物質量割合は、30重量%以上70重量%以下であることが好ましく、40重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。第1ターゲットにおける光吸収材料の物質量割合は、30重量%以上70重量%未満であることが好ましく、40重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。第1工程は、例えば、133Pa以下の低酸素分圧下で行うことが好ましい。
【0040】
第1工程において形成するベース層20に含まれる前駆体は、第1ターゲットに含まれる組成物に対応した組成物である。すなわち、ベース層20は、例えば、CsBr、CsI,CsCl,CHNHBr、CHNHI,CHNHCl等で構成されている。ベース層20の厚みは、例えば、10nm~100nmであり、10nm~100nmにすることができる。ベース層20の厚みは、例えば、所望の半導体層10の厚みの0.001倍以上1倍以下にすることが好ましい。
【0041】
(第2工程)
次に、上記一般式(1)で示されたハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体層10を気相成長する(図3及び図4A~4B、第2工程)。半導体層10は、例えば赤外線レーザー分子線エピタキシー法、真空蒸着法、化学気相成長法等の気相法等により形成される。半導体層10は、不純物濃度の低減、薄膜の結晶性向上という観点で、赤外線レーザー分子線エピタキシー法により形成されることが、好ましい。
【0042】
以下、第2工程において、赤外線レーザー分子線エピタキシー法により半導体層10を積層する場合を例に、積層構造体100の製造方法を説明する。第2工程では、例えば、上記一般式(1)で示されたハライド化金属ペロブスカイトを主成分として含む第2ターゲットと前駆体を対向して配置し、第2ターゲットに対してレーザーを照射する。
【0043】
先ず、成膜装置200について説明する。図3は、第2工程として、赤外線レーザー分子線エピタキシー法を行う成膜装置200の要部を示す斜視図である。成膜装置200は、例えば容器40、容器40内に載置されるターゲット61に赤外線レーザー(IRレーザー)を照射する赤外線レーザー装置50、ターゲット61が載置されるステージ60を備える。
【0044】
容器40は、例えば二重焦点レンズ41a及び第1開口41bを含む赤外線レーザー調整部41、底部42、排気口(第2開口)43、頂部46、ヒーター47及び載置台48を備える。二重焦点レンズ41aは、例えば第1開口41bの軸方向に交差して配置され、赤外線レーザー装置50からのIRレーザーの焦点を絞る。赤外線レーザー調整部41は、例えば容器40の側面に設けられている。焦点が絞られたIRレーザーは、第1開口41b内を通り、容器内に入射され、ターゲット61に照射される。底部42は、頂部46と対向しており、例えばステージ60が設けられている。排気口43は、例えば外部のロータリーポンプ(不図示)とつながり、容器40内のガスを排気することで減圧し、例えば容器40内を真空に保持する。容器40は、133Pa以下の低酸素分圧下に制御されることが好ましい。頂部46は、底部42と対向している。頂部46には、例えばターゲット61と対向するように中間形成物80を載置する載置台48及び中間形成物80を加熱するヒーター47が設けられている。
【0045】
ステージ60は、例えば支軸60a及び支軸60aと接し、ターゲット61が載置される基面60bを備える。
【0046】
ターゲット61を構成する化合物は、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された材料であり、所望の半導体材料の組成に応じて選択される。例えば、半導体層10としてCsPbBrを形成する場合、ターゲット61は、CsPbBrを主成分として含む材料を用い、半導体材料としてCHNHSnClを形成する場合、ターゲット61としてCHNHSnClを主成分として含む材料を用いる。
【0047】
ターゲット61は、例えば、上記一般式(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトの粉末、並びに上記一般式(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイト及びSi、SiC、Cからなる群から選択される少なくとも一種の光吸収材料の混合粉末である。ターゲットとして混合粉末を用いる場合、ターゲットにおいて、ハライド化金属ペロブスカイトの割合は、例えば30重量%以上70重量%以下であり、40重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。
【0048】
第2工程において、例えば、先ず、基材30及びベース層20を加熱し、ベース層20を50℃~400℃程度に制御する(予備加熱)。基材30及びベース層20の加熱は、例えばヒーター47による加熱、基材30の裏側にシリコンカーバイド等を配置しての赤外線レーザーを照射することによる加熱で行うことができる。基材30及びベース層20が上記温度になったら、例えば、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素であり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)・・・(1)で示される材料を前駆体に気相成長する(図4A)。第2工程における気相成長は、例えば、容器40内の気圧が1.0×10-5Pa以下の雰囲気下で行われる。
【0049】
赤外線レーザーエピタキシー法による半導体材料の気相成長は、例えば容器40の軸方向からの平面視で、ターゲット61が中間形成物80と重なるように位置調整して行う。例えば、ターゲット61が容器40の軸方向からの平面視で中間形成物80と重なるように位置調整する。位置調整されたターゲット61に対して赤外線レーザーを照射することで、ターゲット61からの分子線により前駆体に半導体層10が形成される(図4A)。半導体層10は、例えばターゲット61を構成する化合物と同じ組成の化合物で構成されている。半導体層10は、例えば、IRレーザーをターゲット61に照射することで形成される。該工程において、ターゲット61は、例50~400℃に加熱することが、結晶性の高い発光層を形成する観点で好ましい。
【0050】
半導体層10は、ベース層20を構成する上記一般式AX・・・(2)で示される化合物と反応し、上記一般式ABX・・・(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトを構成するように形成される。すなわち、揮発性が高いAサイトの抜け、及びXサイトを補填するように前駆体のA,Xをベース層20から補填され、一般式(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料が形成される。
【0051】
上記工程を経ることで、積層構造体100が製造される(図4B)。積層構造体100に備えられる半導体層10は、例えば、犠牲層を介して基材30上に設けられた場合、犠牲層エッチングにより基材30から取り出すことが可能である。
【0052】
本実施形態によれば、前駆体として一般式AX・・・(2)で示される化合物に一般式ABXで示される化合物を材料として用いることで、前駆体からAサイト、Xサイトの元素が補填されるため、揮発性の高いCs元素や、メチルアンモニウムが揮発することにより組成元素の一部が欠損するのを抑制し、結晶性の高いハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を提供できる。また、前駆体からハライド化金属ペロブスカイトが形成される合成反応中、容器40内は、低圧に制御されていることから、ハライド化金属ペロブスカイトに余計な原料は、容器40内に蒸発し、排気されるため、ハライド化金属ペロブスカイトを構成しない余計な成分が過剰に含まれることを避けられる。また、基材30に近い側のハライド化物前駆体から順に段階的にハライド化金属ペロブスカイトになるように反応が進み、欠陥が生じにくいと考えられる。従って、本実施形態によれば、一般式(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトのAサイト、Bサイト、Xサイトの元素が理想的な比率で反応し、結晶性の高く、反射率の高い半導体材料で構成された半導体層を形成できる。
【0053】
[光電変換素子]
図5は、本発明の一実施形態に係る半導体材料を主成分として含む半導体層を備える光電変換素子300の断面図である。図5には、光電変換素子300が光電変換する光Lが照射される向きを符号Lで示す。光電変換素子300は、上記実施形態に係る、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を主成分として含む半導体層98a,98bを含む。光電変換素子300は、例えば、透明基板91、透明導電層92,電子輸送層93、活性層94、正孔輸送層95が、順次積層された積層構造体である。
【0054】
透明基板91は、例えば、合成樹脂及びガラスなどの強度、耐久性、光透過性を有する材料で形成される。透明導電層92は、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)等の光透過性を有する導電性材料が用いられる。電子輸送層93は、例えば、酸化亜鉛のナノ粒子等の電子輸送性材料を含む。活性層94は、例えば上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を主成分として含む半導体層であり、アクセプタ及びドナーを含む。活性層94における上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料の割合は、例えば70~100%である。
正孔輸送層95は、例えば、活性層94から正極PEへと正孔を輸送する。本実施形態に係る光電変換素子300は、上記実施形態に係る半導体材料を主成分として含む半導体層である活性層94を備えいるため、半導体材料の結晶性の高さによって、電子移動度が向上し、高い光電変換特性を得られる。
【0055】
[LED素子]
図6は、本発明の一実施形態に係る半導体材料を主成分として含む発光層99を備えるLED素子400の断面図である。LED素子400は、上記実施形態に係る、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を主成分として含む発光層99を含む。LED素子400は、例えば、積層方向に重なる負極NE、基板97a、透明電極97b、n型の半導体層98a、発光層99、p型の半導体層98b及び正極PEを備える。
【0056】
n型の半導体層98a及びp型の半導体層98bとしては、公知の半導体材料を用いることができる。発光層99は、上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を主成分として含む。また、LED素子400においてn型の半導体層98a及びp型の半導体層98bの片方が上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を含んでいてもよく、n型の半導体層98a及びp型の半導体層98bの両方が上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を含んでいてもよい。n型の半導体層98aは、例えば、半導体層10にアクセプタが注入されて形成される。p型の半導体層98bは、例えば、半導体層10にドナーが注入されて形成される。発光層99における上記実施形態に係るハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料の割合は、例えば70~100%である。本実施形態に係るLED素子400は、上記実施形態に係る半導体材料を主成分として含む半導体層である発光層99を備えるため、半導体材料の結晶性の向上により、結晶欠陥の量が低減し、ホールと電子が再結合する前に、欠陥準位に落ち込む割合が減り、フォトキャリアの寿命が長くなる。従って、本実施形態に係るLED素子400によれば、発光強度を向上することができる。
【0057】
上記実施形態に係る光電変換素子300,LED素子400は、p型半導体層又はn型半導体層上に、一般式AX(式中、AはCs又はCHNHであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(2)で示されるハロゲン化物で構成された前駆体を形成する工程と、該前駆体に、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトを含む材料を用いて気相成長し、p型半導体層又はn型半導体層上にハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を形成する工程と、を有することにより、活性層94、発光層99を形成する。活性層94,発光層99は、上記実施形態に係る半導体材料の形成方法によって、半導体層として形成される。ベース層は、半導体材料の形成により、ハライド化金属ペロブスカイトの組成となるため、除去は不要である。光電変換素子300及びLED素子400は、上記実施形態に係る半導体材料を主成分として含む半導体層を有していればよく、その構成は任意に選択される。また、前駆体を形成する第1工程及び前駆体にハライド化金属ペロブスカイトを形成する第2工程は、同じ装置を用いて行うことができ、第1のターゲット及び第2のターゲット上に載置され、工程の切り替えとともにターゲットの位置の切替をしてもよい。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
実施例1として、図1に示すような積層構造体100と同様の構成の積層構造体を製造し、その特性を評価した。
【0060】
<積層構造体の作製>
先ず、基材30として、単結晶サファイア基板(信光社製、製品名:c面サファイア基板)を用意し、裏面にシリコンカーバイドを設けた。
【0061】
次いで、ベース層20を形成するための第1ターゲットとして、CsBr粉末(東京化成工業製、品番:C2202)2.426g及びシリコン粉末0.963gの混合粉末である。第2ターゲットは、CsPbBr(東京化成工業製、品番:C3569)粉末0.788g、シリコン粉末0.315gの混合粉末を準備した。基材30上にベース層20として、CsBrを、赤外線レーザー分子線エピタキシー装置(バキュームプロダクツ製)を用いて積層した。ベース層20の形成は、室温、装置内の圧力1.0×10-5Pa以下の条件で行った。積層構造体の作製中、各層の厚みは、膜厚センサ(インフィコン製、型番:750-1000-G5)を用いて測定した。
【0062】
次いで、厚み30nmのベース層20に、半導体層10としてCsPbBrを赤外線レーザー分子線エピタキシー法により積層した。半導体層10の形成は、図3に示す成膜装置を用いて図4A図4Bに示す手順に沿って行った。以下にその手順を示す。
容器40内の圧力は、1.0×10-5Pa以下の真空下に調整した。CsPbBrで構成された半導体層10を形成するために、先ず、基材の裏側に設けられたシリコンカーバイドに赤外線レーザー(SPI製、製品名:G4 40W HS-H)を用いて赤外線レーザーを照射することによりベース層20を加熱し、200℃となるように制御した。
【0063】
次いで、CsPbBrを形成するために、CsPbBr(東京化成工業製、品番:C3569)粉末0.788g、シリコン粉末0.315gの混合粉末のターゲットに対して赤外線レーザー(SPI製、製品名:G4 40W HS-H)を用いて赤外線レーザーを照射した。このようにして、基材30に接する、厚み50nmのハライド化金属ペロブスカイト半導体材料で構成された半導体層を形成した。
【0064】
[比較例1]
<積層構造体の作製>
基材30上にベース層20を設ける工程を省略し、基材30上に半導体層10を形成した点を除き、実施例1と同様の方法で基材及び半導体層された積層構造体を作製した。
【0065】
<積層構造体の分析>
作製した積層構造体に対して、X線回折装置(Rigaku製、製品名:Smart Lab)を用いて、実施例1及び比較例1の積層構造体における半導体層の結晶性及び組成を分析した。測定の条件は、(線源Cu、管電圧40kV、管電流30mA)とした。
【0066】
(実施例1の積層構造体の組成分析)
図7は、実施例1の積層構造体のX線回折結果を示す。図7に示すX線回折結果において、実施例1の積層構造体の回折ピークとして、CsPbBr(111)、CsPbBr(002)、Al(006)及びCsPbBr(003)の回折ピークが確認された。図7のX線回折結果において、強度1.0×10よりも大きい回折ピークとしては、半導体層を構成するハライド化金属ペロブスカイトCsPbBr及び基材を構成するAlの回折ピーク以外の強度が5.0×10以上の回折ピークは検出されなかった。この結果から、基材30上に設けられた半導体層10が組成元素の一部が欠損することの抑制された、CsPbBrで構成された半導体材料で構成されていることがわかり、ベース層30を構成するハロゲン化物CsBrがハライド化金属ペロブスカイトとなっている。
【0067】
X線回折において、実施例1の半導体層を構成するCsPbBrで構成された半導体材料の(002)面回折ピークのピーク強度(002)は、約1.0×10であり、該半導体材料の(003)面からの回折ピークの強度(003)は、約5.0×10であり、該半導体材料の(111)面からの回折ピークの強度(111)は、約1.0×10であった。実施例1の積層構造体のX線回折において、Alの回折ピークの強度に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(002)の大きさの比は、約5.0×10-4であった。また、実施例1の積層構造体のX線回折において、CsPbBrの(111)面の回折ピークの強度(111)に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(002)の大きさの比(002)/(111)は、約1000であった。また、CsPbBrの(220)面の回折ピークの強度(220)に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(002)の大きさの比(002)/(220)は、約1000であった。
【0068】
(実施例1の積層構造体の結晶性評価)
図8は、実施例1の積層構造体の(002)面X線回折結果を示すグラフである。実施例1の積層構造体の半導体層を構成するハライド化金属ぺロブスカイトCsPbBrで構成された半導体材料は、X線回折において(002)面からの回折ピークの半値幅が0.297°であった。図8のX線回折結果より、実施例1で作製されたハライド化金属ペロブスカイト半導体材料CsPbBrの結晶性は高いことが確認された。
【0069】
(比較例1の積層構造体の組成分析)
図9は、比較例1の積層構造体のX線回折結果を示すグラフである。図9に示すX線回折結果において、比較例1の積層構造体の回折ピークとして、CsPbBr(002)、CsPbBr(006)、Al(006)、CsPbBr(220)及びCsPbBr(008)の回折ピークが確認された。
【0070】
図9のX線回折結果において、強度1.0×10以上の回折ピークとして、半導体層に含まれるハライド化金属ペロブスカイトCsPbBr及び基材を構成するAl以外に、CsPbBrの回折ピークが検出された。X線回折において、比較例1の半導体層を構成するCsPbBrで構成された半導体材料の(002)面回折ピークのピーク強度(002)は、約5.0×10であり、該半導体材料の(003)面からの回折ピークの強度(003)及び該半導体材料の(111)面からの回折ピークの強度(111)は、小さく確認できなかった。比較例1の積層構造体のX線回折において、Alの回折ピークの強度に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(0
02)の大きさの比は、約5.0×10-4であった。また、比較例1の積層構造体のX線回折において、CsPbBrの(111)面の回折ピークの強度(111)に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(002)の大きさの比(002)/(111)は、約5であった。また、CsPbBrの(220)面の回折ピークの強度(220)に対するCsPbBrの(002)面の回折ピークの強度(002)の大きさの比(002)/(220)は、約1であった。
また、図9のX線回折結果において、CsPbBr(006)及びCsPbBr(008)の回折ピークの強度は、いずれもハライド化金属ペロブスカイトCsPbBr(006)及びCsPbBr(008)の回折ピークより強く、比較例1の半導体層は、CsPbBrよりも多量のCsPbBrを含んでおり、ハライド化金属ペロブスカイトで構成されていないことがわかる。CsPbBrは、ハライド化金属ペロブスカイトCsPbBrのうち、揮発性の高いCs元素が揮発してしまうことで形成される材料である。
【0071】
(比較例1の積層構造体の結晶性評価)
図10は、比較例1の積層構造体の(002)面X線回折結果を示すグラフである。比較例1の積層構造体の半導体層に含まれるハライド化金属ぺロブスカイトCsPbBr半導体材料は、X線回折において(002)面からの回折ピークの半値幅が2.6312°であった。図10のX線回折結果より、比較例1で作製されたハライド化金属ペロブスカイト半導体材料CsPbBrの結晶性は低いことが確認された。
【0072】
上記の通り、実施例1及び比較例1を比較すると、基材上に一般式AX(式中、AはCs又はCHNHであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(2)で示される化合物で構成されたベース層を積層した後に、ベース層上に、一般式ABX(式中、AはCs又はCHNHであり、BはPb又はSnであり、XはBr,I及びClからなる群から選択されるいずれかの元素である)…(1)で示されるハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体層を気相成長することで、該
組成元素の一部が欠損することが抑制された、結晶性の高いハライド化金属ペロブスカイトで構成された半導体材料を形成できることが確認された。
【0073】
<積層構造体の分析>
作製した実施例1,比較例1のそれぞれの積層構造体に対して、紫外可視分光光度計(日本分光製、製品名:MSV-5500)を用いて、表面層の反射率を計測した。図11は、実施例1及び比較例1の積層構造体の紫外可視分光測定結果を示すグラフである。実施例1の積層構造体の表面層である半導体層の可視光領域における反射率は、6%以上であった。比較例1の積層構造体の表面層である半導体層の可視光領域における反射率は、2%以下であった。従って、実施例1の積層構造体では、前駆体としてのCsBrベース層を形成してからハライド化金属ペロブスカイトを気相成長することで薄膜の平坦性が向上し、反射率が高い薄膜が形成することが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10:半導体層、20:ベース層、30:基材、40:容器、41:赤外線レーザー調整部、41a:二重焦点レンズ、41b:第1開口、42:底部、43:排気口(第2開口)、46:頂部、47:ヒーター、48:載置台、61:ターゲット、80:中間形成物、100:積層構造体、200:成膜装置、300:光電変換素子、400:LED素子
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11