(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117064
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】軌道状態診断システム及び軌道状態診断方法
(51)【国際特許分類】
B61K 9/08 20060101AFI20230816BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20230816BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B61K9/08
B61L23/00 Z
E01B35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019549
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山形 滋徳
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 尚也
(72)【発明者】
【氏名】水津 宏志
(72)【発明者】
【氏名】新妻 研作
【テーマコード(参考)】
2D057
5H161
【Fターム(参考)】
2D057BA24
5H161AA01
5H161MM01
5H161MM12
5H161NN10
5H161NN12
5H161PP01
5H161PP11
5H161QQ03
5H161QQ05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軌道の破断の予兆を事前に検知した上で、優先的に保守すべき箇所を示すことができ、軌道が破断する前に軌道の保守及び交換を促すことができる軌道状態診断システムを提供する。
【解決手段】軌道を走行する車両に搭載されたセンサにて生成されるセンサデータを受信するセンサデータ受信部11と、センサデータから軌道の損傷を検知する損傷検知部12と、軌道にかかる応力が集中する範囲の位置情報である応力集中範囲情報を含む応力情報が記録された軌道データべ―ス2と、損傷検知部が検知した損傷の位置を示す損傷位置情報を受信する位置情報受信部13と、軌道データベースが記録する応力集中範囲情報と、位置情報受信部が受信する損傷位置情報とを照合し、損傷位置情報が示す位置が、応力集中範囲情報が示す範囲に含まれる場合に、損傷位置情報を含む損傷検知結果を出力するデータ照合部14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する軌道の状態を診断する軌道状態診断システムであって、
前記軌道を走行する車両に搭載されたセンサにて生成される軌道センサデータを受信するセンサデータ受信部と、
前記軌道センサデータから前記軌道の損傷を検知する損傷検知部と、
前記軌道にかかる応力が集中する範囲の位置情報である応力集中範囲情報を含む応力情報が記録された軌道データべ―スと、
前記損傷検知部が検知した損傷の位置を示す損傷位置情報を受信する位置情報受信部と、
前記軌道データベースが記録する前記応力集中範囲情報と、前記位置情報受信部が受信する前記損傷位置情報とを照合し、前記損傷位置情報が示す位置が、前記応力集中範囲情報が示す範囲に含まれる場合に、前記損傷位置情報を含む損傷検知結果を出力するデータ照合部と、
を備える
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の軌道状態診断システムであって、
前記損傷検知部は、前記軌道に損傷を検知した場合、前記損傷検知部が検知した損傷に対応する損傷種別を示す損傷種別情報を含む軌道損傷情報をデータ照合部に出力する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項3】
請求項2に記載の軌道状態診断システムであって、
前記軌道データベースは、前記応力集中範囲情報と、前記応力集中範囲情報に対応する応力の種別を示す応力種別情報と、前記軌道毎の軌道種別を示す軌道種別情報とを記録する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項4】
請求項3に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記損傷検知部から出力された前記軌道損傷情報と、前記軌道データベースに記録された前記軌道種別情報から、前記軌道の破断に繋がる可能性を示す警告度を評価する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項5】
請求項4に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記損傷位置情報と前記警告度を示す警告情報を前記損傷検知結果として出力する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項6】
請求項5に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記警告度の高い損傷から順に前記損傷検知結果を出力する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項7】
請求項5乃至6に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記警告度が所定の基準よりも高い場合、
前記損傷位置情報と前記警告情報に加えて、前記軌道センサデータを前記損傷検知結果として出力する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項8】
請求項5乃至7に記載の軌道状態診断システムであって、
前記損傷検知部が損傷を検知した場合に、前記軌道損傷情報と前記損傷位置情報を記録する損傷記録部をさらに備える
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項9】
請求項8に記載の軌道状態診断システムであって、
前記軌道損傷情報は、前記損傷種別情報に加え、前記軌道センサデータも含む
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項10】
請求項9に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記損傷検知部が検知した損傷に対応する前記損傷位置情報と一致する損傷がすでに前記損傷記録部に記録されていた場合、前記損傷検知部が検知に用いた前記軌道センサデータと前記損傷記録部に記録されていた軌道センサデータとを照合し、前記損傷の進行の有無を検知する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項11】
請求項10に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記損傷種別情報、前記軌道種別情報、前記応力集中範囲情報、及び前記損傷の進行の有無を検知した結果から前記警告度を評価する
ことを特徴とする軌道状態診断システム。
【請求項12】
請求項1乃至11に記載の軌道状態診断システムであって、
前記車両上に搭載される車上装置と、地上に設置される地上装置から構成され、
前記車上装置は、前記センサデータ受信部、前記損傷検知部、前記軌道データベース、前記位置情報受信部及び前記データ照合部に加え、
前記データ照合部が出力した前記損傷検知結果を前記地上装置へ送信する車上無線機をさらに備え、
前記地上装置は、
前記車上無線機から送信された前記損傷検知結果を受信する地上無線機と、
前記地上無線機が受信した前記損傷検知結果を表示する表示器とを備える
ことを特徴とした軌道状態診断システム。
【請求項13】
請求項1乃至11に記載の軌道状態診断システムであって、
前記車両上に搭載される車上装置と、地上に設置される地上装置から構成され、
前記車上装置は、前記軌道センサデータを前記地上装置に送信する車上無線機を備え、
前記地上装置は、前記センサデータ受信部、前記損傷検知部、前記軌道データベース、前記位置情報受信部及び前記データ照合部に加え、
前記車上無線機が送信した前記軌道センサデータを受信する地上無線機と、
前記データ照合部が出力した前記損傷検知結果を表示する表示器とをさらに備える
ことを特徴とした軌道状態診断システム。
【請求項14】
請求項2乃至11に記載の軌道状態診断システムであって、
前記車両上に搭載される車上装置と、地上に設置される地上装置から構成され、
前記車上装置は、前記センサデータ受信部、前記損傷検知部及び前記位置情報受信部に加え、
前記損傷検知部が損傷を検知した場合に、前記軌道センサデータと、前記損傷種別情報と、前記損傷位置情報とを前記地上装置に送信する車上無線機を備え、
前記地上装置は、前記軌道データベース及び前記データ照合部に加え、
前記車上無線機が送信した前記軌道センサデータと、前記損傷種別情報と、前記損傷位置情報とを受信する地上無線機と、
前記データ照合部が出力した前記損傷検知結果を表示する表示器とをさらに備える
ことを特徴とした軌道状態診断システム。
【請求項15】
請求項1乃至14に記載の軌道状態診断システムであって、
前記データ照合部は、前記損傷検知結果を運行管理システムに出力する
ことを特徴とした軌道状態診断システム。
【請求項16】
車両に搭載されたセンサにて生成される軌道センサデータを用いて軌道の損傷を検知するステップと、
前記損傷が検知された損傷箇所の位置情報である損傷位置情報を取得するステップと、
前記損傷位置情報と、前記軌道にかかる応力が集中する範囲の位置情報である応力集中範囲情報とを照合し、
前記損傷位置情報が示す位置が、前記応力集中範囲情報が示す範囲に含まれる場合に、前記損傷位置情報を含む損傷検知結果を出力するステップと、
を有することを特徴とする軌道状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の軌道において軌道状態を診断する軌道状態診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道における軌道の破断は、軌道回路により検知してきた。しかし、無線式列車制御装置の普及により、定期的にメンテナンスを必要とする軌道回路が不要となったことで、新たに軌道の状態を診断できる装置が求められている。また、鉄道の軌道が破断に至ると運行に影響を及ぼすおそれがあるため、運行への影響を低減すべく、破断に至る前に交換等のメンテナンスを行うことが求められている。
【0003】
特許文献1には、「レール破断の検出は、軌道回路を使用しない別の方法により実施せざるを得ない」(特許文献1[0005]段落参照)ことを課題とし、その解決手段として、「車両側から線路へ電気信号を出力する送信手段と、線路を伝わってくる電気信号を車両側で受信する受信手段と、この受信手段で受信している電気信号に変化があったときに、レール破断が生じていると検出する検出手段とを備えた」(特許文献1[0007]段落参照)レール破断検出装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「鉄道車両の台車に取り付けられ、振動、速度、加速度、音、反射光、画像、温度、湿度および車輪径のうち1以上の状態に関する状態情報を取得する取得部と、台車に取り付けられ、取得部で取得された状態情報に基づいて台車が走行する軌道の状態または台車の状態の判定を行いその判定結果を提供する判定部と、台車に取り付けられ、判定結果を台車の外部に送信する送信部と、台車に取り付けられ、取得部および送信部に電力を供給する電力供給部とを備える」(特許文献2[0007]段落参照)鉄道用状態監視装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-294609号公報
【特許文献2】特開2021-046191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、鉄道車輪間に電気信号を流すため、レールが破断しないと検知できない。また、車輪間に電気信号を流し、検知するため、進行方向の前輪は破断箇所を横断する必要がある。さらに、電気的不連続地点をレール破断検知から除いているため、レール破断を完全に検知できないという課題がある。
一方で、特許文献2には、台車に取り付けた取得部にて取得された状態情報から軌道の状態を判定し、異常を検知する技術が開示されている。しかしながら、検知された異常箇所のうち、どの異常箇所から優先的に保守を行うかは考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一実施の態様は、車両が走行する軌道の状態を診断する軌道状態診断システムであって、前記軌道を走行する車両に搭載されたセンサにて生成される軌道センサデータを受信するセンサデータ受信部と、前記軌道センサデータから前記軌道の損傷を検知する損傷検知部と、前記軌道にかかる応力が集中する範囲の位置情報である応力集中範囲情報を含む応力情報が記録された軌道データべ―スと、前記損傷検知部が検知した損傷の位置を示す損傷位置情報を受信する位置情報受信部と、前記軌道データベースが記録する前記応力集中範囲情報と、前記位置情報受信部が受信する前記損傷位置情報とを照合し、前記損傷位置情報が示す位置が、前記応力集中範囲情報が示す範囲に含まれる場合に、前記損傷位置情報を含む損傷検知結果を出力するデータ照合部と、を備えることを特徴とする軌道状態診断システムである。
【発明の効果】
【0008】
上記手段によれば、軌道の破断の予兆を事前に検知した上で、優先的に保守すべき箇所を示すことができ、軌道が破断する前に軌道の保守及び交換を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態における軌道損傷の種別を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態における損傷検知部が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。
【
図4】第1の実施の形態におけるデータ照合部が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。
【
図5】第1の実施の形態における警告度の評価の一例を示す表である。
【
図6】第2の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態におけるデータ照合部及び損傷記録部が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。
【
図8】第2の実施の形態における警告度の評価の一例を示す表である。
【
図9】第3の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。
【
図10】第3の実施の形態における表示器に表示するレール線形図の一例を示す図である。
【
図11】第4の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。
【
図12】第5の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態にかかる軌道状態診断システムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により、この発明が限定されるものではない。また、ここでいう軌道とは、車両が走行する道筋を示す役割を果たすもののことであり、従来から用いられている車両の車輪を支え、一定方向に円滑に走らせるために設けられるレールのみでなく、新交通システムに用いられる軌道も含む。例えば、新交通システムの軌道としては、モノレールの軌道として設けられるプレストレストコンクリート桁(PC軌道)などである。以降の実施の形態の説明では、レールを例に用いて説明を行うが、レールに限定されるものではない。また、本実施の形態の説明中で用いるセクションとは、例えば、軌道において、継ぎ目等により区切られるある所定の区間のことを示す。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。本実施の形態における軌道状態診断システムは、センサデータ処理装置1と軌道データベース2から構成される。本実施の形態は、車上、又は、地上、若しくはその両方にまたがって処理が遂行されてもよい。
【0012】
センサデータ処理装置1は、列車が走行する軌道3(図示せず)に対するセンシングを行ったセンサから軌道センサデータを受信するセンサデータ受信部11と、軌道センサデータを用いて軌道3の損傷を解析、検知する損傷検知部12と、軌道の損傷箇所の位置情報である損傷位置情報を受信する位置情報受信部13と、損傷位置情報と軌道データベース2に記録された応力集中範囲情報とを照合するデータ照合部14を備える。
軌道データベース2は、軌道3にかかる応力が集中する範囲の位置情報である応力集中範囲情報として記録する。
【0013】
センサデータ処理装置1が備えるセンサデータ受信部11は、軌道3に対するセンシングを行うセンサのセンサデータである軌道センサデータを受信し、損傷検知部12へ出力する。このとき、受信する軌道センサデータは、損傷検知部12が軌道の損傷を解析、検知できるものであれば、その種類や数は問わない。また、1種類のセンサから取得した軌道センサデータに限らず、複数種類のセンサから取得した軌道センサデータを併用しても良い。例えば、カメラを含む光学センサ、赤外線センサ、LiDAR(Light Detection And Ranging)を含む点群センサや音波センサ等から取得したデータが考えられる。特にステレオカメラを利用する場合、損傷情報までの距離を計測して位置情報と一致させることができる。これにより、正確な損傷位置を把握することができる。
【0014】
損傷検知部12は、センサデータ受信部11から出力された軌道センサデータを用いて、軌道3の損傷とその損傷の種別を検知する。軌道3に損傷を検知した場合には、損傷の検知に用いた軌道センサデータと、損傷の種別を示す損傷種別情報とを含む軌道損傷情報をデータ照合部14に出力する。本実施の形態では、破断、亀裂、歪みを検知し、いずれかの損傷種別を付加するが、損傷であれば、上記3つ以外を検知しても良い。例えば、摩耗、変色、変形、腐食などである。
【0015】
位置情報受信部13は、列車制御装置等から位置情報を受信し、損傷検知部12が検知した損傷箇所に対応する位置情報である損傷位置情報をデータ照合部14に出力する。
データ照合部14は、位置情報受信部13から受信した損傷位置情報と、軌道データベース2に記録された応力集中範囲情報とを照合し、損傷位置情報が示す位置が、応力集中範囲情報が示す範囲に含まれているか否かを判断する。損傷位置情報が示す位置が、応力集中範囲情報が示す範囲に含まれる場合には、損傷位置情報を含む損傷検知結果を出力する。
センサデータ処理装置1は、高速な処理が可能な鉄道車両に適した専用回路ハードウェアで実現されてもよいし、特殊な条件でも使用可能なパソコンで実現されてもよい。
【0016】
図2は、本実施の形態において、監視する軌道3a、3bの損傷状態の一例を示す図である。センサデータ処理装置1は、軌道3を監視し、取得された軌道センサデータを用いて亀裂4a、4b、歪み4cと破断4dを検知する。
鉄道総合技術研究所発行の鉄道総研レビュー(RRR)Vol.72No.1によれば、軌道、車輪の転がり接触の疲労に起因する軌道の亀裂のうち、適切な処置をしないと破断に至る可能性が高い主な損傷形態に、シェアリング4a及びゲージコーナー亀裂4bがある。シェアリング4aは主に直線区間で単発あるいは連続的に発生し、ゲージコーナー亀裂4bは主に曲線区間外側軌道で連続的に発生する。
【0017】
また、継目5a~5fは、走行による接触の疲労、温度による軌道の伸縮により、圧縮応力、引張応力がかかりやすく、破断しやすい箇所でもある。温度が低い場合は、軌道が縮むため、継目5a~5fには引張応力が、たとえば6a、6bのように発生する。この引張応力6aは、歪み4cがあると、6cのようにさらに引張応力が強くなる。
軌道曲線区間では軌道に曲げ応力がかかり、内側には、圧縮応力6e、6f、外側には6g、6hのように引張応力がかかる。
【0018】
本実施の形態では、損傷検知結果を全て出力することはせずに、軌道3において応力がかかる範囲に生じた損傷は、破断に至る可能性が高いと考え、優先的に出力する。また、損傷種別や軌道種別により、損傷ごとに軌道の破断に繋がる可能性を警告度として評価し、警告度の高いものから出力するとしても良い。
警告度が高い状態とは、軌道が破断することにより脱輪を引き起こす場合である。破断が発生しても破断箇所の開口量によっては脱輪に至らず走行できる場合がある。
【0019】
脱輪を引き起こす破断の簡単なモデルは、たとえば曲線部分の外側で引張応力6g、6hが常に存在し、温度による軌道の伸縮、走行による疲労によりゲージコーナー亀裂4bが発生し、その亀裂4bが応力集中箇所となって破断に至るケースである。同じ軌道の別の箇所に歪みがあると、曲線部分にさらに応力がかかり破断しやすくなる。曲線で破断が起こると、直進性が失われるため脱輪を引き起こす可能性が高くなる。
シェアリング4aが発生する直線区間や継目5a~5fは、軌道が破断しても直進性を保つことができるため、破断部分の開口量によっては走行できる場合がある。そのため、危険度は高くする必要がなくなる。
【0020】
軌道データベース2では、軌道のセクション単位で応力が大きくかかる範囲の位置情報である応力集中範囲情報と応力の種別を示す応力種別情報を共に記録する。軌道の継目における始端と終端については、該当する位置情報と軌道の種別を示した軌道種別情報を作成し、軌道データベース2に記録する。軌道の種別は、直線、曲線、傾斜、曲線+傾斜とする。それぞれの閾値については、個別に設定してもよいし、統一した考えを用いてもよい。
【0021】
図3は、損傷検知部12が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。センサデータ受信部11は、軌道3を対象としてセンシングした軌道センサデータを受信し、損傷検知部12に送信し、損傷検知部12は軌道センサデータを受信する(S301)。損傷検知部12は、軌道3に亀裂4a、4bがあるかどうかを検知する(S302)。軌道3に亀裂を検知した場合、損傷種別を「亀裂」とした損傷種別情報を作成し(S303)、軌道センサデータと損傷種別情報とを軌道損傷情報としてデータ照合部に出力する(S308)。
【0022】
S302にて、軌道3に亀裂を検知しなかった場合、損傷検知部12は、軌道3に歪み4cがあるかどうかを検知する(S304)。軌道3に歪みを検知した場合、損傷種別を「歪み」とした損傷種別情報を作成し(S305)、軌道センサデータと損傷種別情報とを軌道損傷情報としてデータ照合部に出力する(S308)。
【0023】
S304にて、軌道3に歪みを検知しなかった場合、損傷検知部12は、軌道3に破断4dがあるかどうかを検知する(S306)。軌道3に破断を検知した場合、損傷種別を「破断」とした損傷種別情報を作成し(S307)、軌道センサデータと損傷種別情報とを軌道損傷情報としてデータ照合部に出力する(S308)。
【0024】
本実施の形態では、亀裂、歪み、破断の順番に、損傷検知部12にて検知を行う例で説明したが、検知を行う損傷種別の順番は問わない。また、上記の3つの損傷種別に限らず、損傷検知部12で検知できる軌道3の状態であれば、その損傷状態を示す情報を損傷種別情報として作成してもよい。
【0025】
図4は、データ照合部14が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。データ照合部14は、損傷検知部12から軌道損傷情報を受信する(S401)。また、受信した軌道損傷情報に対応する損傷位置情報を位置情報受信部から受信する(S402)。データ照合部14では、最初に損傷種別情報が示す損傷種別が破断かどうかをチェックする(S403)。損傷種別が破断の場合、データ照合部14は、警告度を最大と評価し(S404)、損傷位置情報及び警告度を示す警告情報を損傷検知結果として出力する(S405)。
【0026】
S403にて、損傷種別が破断以外の場合は、軌道損傷情報に含まれる損傷種別が亀裂かどうかをチェックする(S406)。損傷種別が亀裂の場合は、S408へ進む。S406で損傷種別が亀裂ではない場合、損傷種別が歪みかどうかをチェックする(S407)。損傷種別が歪みの場合は、S408へ進む。S406、S407で、損傷種別が亀裂または歪みに該当する場合、軌道データベース2がもつ軌道3における応力が大きい範囲の位置情報である応力集中範囲情報と損傷位置情報とを照合し、損傷位置情報が示す位置が、応力集中範囲情報が示す範囲に含まれるかどうかをチェックする(S408)。損傷位置が応力集中範囲に含まれる場合、警告情報を作成し(S409)、損傷位置情報及び警告情報を損傷検知結果として出力する(S405)。
【0027】
警告情報は、例えば、
図5にしたがって警告度を判定し、作成される。
図5は、軌道種別、歪みの有無、亀裂の有無と警告度の対応表である。
図5は、曲率半径や傾斜角度によって警告度を変えることができる。また、継目5a~5fが斜めの場合は、破断により直進性が失われるため、脱輪を引き起こす可能性が高くなるため、警告度を変える必要がある。
【0028】
データ照合部14による出力は、本実施の形態のように、損傷位置が応力集中範囲に含まれる場合には、損傷種別に関係なくすべての損傷についての損傷検知結果を出力しても良いし、警告度の高い損傷から優先的に出力してもよい。警告度の高い損傷から優先的に出力する場合、効率よく、保守すべき対象の損傷箇所を知らせることができる。また、警告度が最大もしくは高など所定の基準よりも高い場合には、損傷検知結果として軌道損傷情報を一緒に出力してもよい。これにより、首尾よく警告情報を作成する基となったデータにアクセスすることが可能となる。
また、軌道損傷情報の容量が大きい場合は、出力を行うタイミングを分けてもよい。これにより、一斉出力による通信状況等への圧迫を抑制、防止することができる。
また、出力する先は、無線機やデータ記録媒体、地上システムに備わる表示器、保守作業員が携帯する端末、クラウドシステム、運行管理システム等が考えられる。この場合、出力先に合わせたデータ形式に揃えて出力を行うことが好ましい。運行管理システムに出力する場合には、保守計画と運行計画の連携を行うことも可能になる。
【0029】
[第2の実施の形態]
図6は、第2の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。第2の実施の形態は、第1の実施の形態におけるセンサデータ処理装置に、損傷箇所の情報を適宜記録する損傷記録部を追加した構成である。これにより、過去に損傷を検知した際の損傷度合いと比較し、損傷が進行している箇所の検知結果を優先的に出力することを可能とする。以降、第1の実施の形態との差異を中心に説明する。
【0030】
第2の実施の形態におけるレール状態診断システムも、センサデータ処理装置1及び軌道データベース2から構成される一方で、センサデータ処理装置1の構成に損傷記録部15が追加されている。損傷記録部15は、損傷検知部12が検知した損傷についての軌道損傷情報及び損傷位置情報を記録する。データ照合部14は、損傷記録部15と協働して、記録済みの損傷が損傷検知部12により検知された場合に、損傷が進行しているかどうかを含めた警告度の評価を行う。
【0031】
図7は、データ照合部14及び損傷記録部15が実行する処理に係るフローチャートを示す図である。データ照合部14は、第1の実施形態と同様に、損傷検知部12から軌道損傷情報を受信し(S701)、受信した軌道損傷情報に対応する損傷位置情報を位置情報受信部13から受信し(S702)、損傷種別が破断かどうかをチェックする(S703)。本実施形態では、損傷種別が破断であった場合、軌道損傷情報に日時を付与し、損傷位置情報とともに損傷記録部15にて記録する(S704)。よって、損傷記録部15には、軌道センサデータ、損傷種別情報、損傷位置情報、データ取得日時が記録される。そして、データ照合部14は、警告度を最大とした警報情報を作成し(S705)、損傷位置情報と警告情報を損傷検知結果として出力する(S706)。
【0032】
S703にて、損傷種別が破断以外の場合は、受信した軌道損傷情報に含まれる損傷種別が亀裂又は歪みであるかどうかチェックする(S707)。損傷種別が亀裂又は歪みの場合、損傷位置が応力集中範囲に含まれるかどうかを軌道データベースを参照し、チェックする(S708)。損傷位置が応力集中範囲に含まれる場合、軌道損傷情報にさらに日時を付与し、損傷記録部15にて記録し(S709)、S714へ進み、警報情報を作成する。
【0033】
S708にて、損傷位置が応力集中範囲に含まれていない場合、損傷記録部15に保存されているかを、S702にて受信した損傷位置情報を基に照合する(S710)。損傷記録部15に、対応する位置情報がなければ、新規に損傷記録部15に日時を付与して記録する(S711)。S702にて受信した損傷位置情報に対応する情報が既に損傷記録部15に保存されている場合は、損傷が進行しているかを、前回登録された軌道センサデータと今回取得した軌道センサデータを比較し、判断する(S712)。損傷が進行していることが確認された場合は、日時を付与して損傷記録部15に追加登録し(S713)、警報情報を作成し(S714)、損傷位置情報及び警告情報を損傷検知結果として出力する(S706)。
【0034】
警告情報は、例えば、
図8にしたがって警告度を判定し作成される。
図8は、軌道種別、応力集中範囲情報、歪みの損傷進行の有無、亀裂の損傷進行の有無と警告度をまとめた表である。応力集中範囲情報は、応力の有無だけでなく、引張応力か圧縮応力かなど応力の種別を記載し、警告度評価の考慮に入れることも可能である。
【0035】
本実施の形態では、損傷を記録する損傷記録部15を備えることで、損傷の進行具合を考慮することができ、応力がかからない範囲に生じた損傷についても、見落とすことなく、保守の必要性を判断し、通知することが可能になる。
また、本実施の形態では、応力がかからない範囲に生じた損傷についてのみ、損傷の進行度合いをチェックしたが、検知した全ての損傷について、損傷記録部15を参照するようにしてもよい。その場合、より高精度に警告度の評価を行うことが可能になる。
また、本実施の形態では、全ての損傷を損傷記録部15に記録したが、応力がかからない範囲に生じた損傷についてのみ記録するようにしてもよい。そうすることで、全ての損傷を損傷記録部15に記録する場合に比べ、損傷記録部15の記録するデータ容量を少なくすることが可能になる。
また、損傷が進行しているかの判断は、所定の閾値を設けて判断してもよい。これにより、極めて小さな変化にも関わらず、過剰に警告度が高く評価されることを防ぐことができる。
【0036】
[第3の実施の形態]
図9は、第3の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。第1の実施の形態では、軌道状態診断システムの設置場所を車上、地上を問わない実施形態を説明したが、本実施の形態では、軌道状態診断システムのうちセンサデータ処理装置を車上に設置する場合の実施形態を説明する。
【0037】
本実施の形態では、車上装置100と地上装置200を含んだ構成で以降の説明を行う。本実施の形態では、センサデータ処理装置1及び軌道データベース2の動作は、第1の実施形態、または、第2の実施形態のいずれかで行うこととする。また、車上装置が搭載される列車の種類は問わない。営業列車に搭載してもよいし、レール探傷車のような検査に特化した検査車両に搭載してもよい。営業列車に搭載する場合、検査車両に搭載する場合に比べ、得られる軌道センサデータ数が多い為、より高精度にリアルタイムな診断を行うことができる。
【0038】
車上装置100は、軌道3をセンシングするセンサ101と、センサデータ処理装置1と、応力集中範囲情報を記録する車上軌道データベース2aと、位置情報を取得し位置情報受信部13への出力、及び、地上装置200に送信する情報の選択を行い、選択された情報を車上無線機103に出力する車上列車制御装置102、車上列車制御装置102から出力された情報を地上装置200に送信する車上無線機103を備える。このとき、センサ101、センサデータ処理装置1は、自動運転走行時に必要となる前方監視用のセンサと該当センサデータの処理を行う処理装置と共用して実現してもよい。
【0039】
地上装置200は、車上装置100から送信された情報を受信する地上無線機203と、車上装置100が持つ車上軌道データベース2aと同じ情報をもつ地上軌道データベース2bと、車上装置100からの位置情報を照合する地上列車制御装置202と、軌道単位で警報情報を表示する表示器204を備える。
【0040】
車上装置100の詳細な動作を説明する。まず、車上装置100に備わったセンサ101は、軌道3を常に監視し、取得した軌道センサデータをセンサデータ受信部11に送信する。センサデータ処理装置1及び車上軌道データベース2aは、センサデータ受信部11が受信した軌道センサデータを用いて、第1の実施形態または第2の実施形態で警告情報の作成を行う。このとき、本実施の形態では、位置情報受信部13は、車上列車制御装置102から位置情報を受信する。データ照合部14が作成した警告情報及び損傷位置情報は、損傷検知結果として、車上列車制御装置102に出力される。車上列車制御装置102は、データ照合部14から受信した損傷検知結果を車上無線機103を介して、地上装置200に送信する。警告度が最大もしくは高など所定の基準よりも高い場合は、警告情報と損傷位置情報に加えて、軌道損傷情報を一緒に送信する。軌道損傷情報の容量が大きい場合は分割して送信しても、大容量送信が可能な別の無線機を設置して、車両が駅停止時に一括送信してもよい。
【0041】
地上列車制御装置202は、地上無線機203より受信した損傷位置情報を地上軌道データベース2bが記録している、軌道3において応力が大きくかかる範囲である応力集中範囲情報と照合して、その位置を含む軌道の箇所を表示器204に出力、送信する。
【0042】
表示器204は、路線の線形を軌道のセクション単位で表示する。具体的には、
図10のように、表示器204は、地上列車制御装置202からの出力データに基づき、表示画面における該当軌道に警告度を表示する。また、表示器204の画面内で、該当軌道を選択できるようにし、軌道部分を押下すると、その軌道の始端と、軌道の終端の位置情報が表示されてもよい。また、軌道損傷情報を受信している場合は、表示部において軌道損傷情報があることを示す表示やボタンが活性化され、その表示またはボタンを押下することで軌道センサデータをそのまま表示してもよい。これにより、ユーザーが損傷箇所及びその状態を確認しやすくなり、視認性が向上する。
【0043】
本実施の形態では、車上装置100にて、センサデータ処理装置1の処理を行い、警告度に応じて、地上装置200への損傷検知結果の送信を制御する実施形態を説明した。本実施形態をとることにより、車上装置100から地上装置200への通信負荷を軽減することが可能となる。
【0044】
[第4の実施の形態]
図11は、第4の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。第3の実施の形態では、センサデータ処理装置1を車上に設置する場合の実施形態を説明したが、センサデータ処理装置1を車上に設置すると、車上で行う処理負荷が増大し、高性能な処理用のハードウェアを車上に搭載する必要があり、車載機器にかかるコストが増大するという課題がある。従って、本実施の形態では、車上での処理負荷を軽減すべく、センサデータ処理装置1を地上に設置する場合の実施形態を説明する。
【0045】
本実施の形態では、車上装置100と地上装置200を含んだ構成で以降の説明を行う。本実施の形態では、センサデータ処理装置1及び軌道データベース2の動作は、第1の実施形態、または、第2の実施形態のいずれかで行うこととする。
【0046】
車上装置100は、軌道3をセンシングするセンサ101と、列車の位置情報の取得及び地上装置200に送信する送信タイミングの選択を行い、選択した送信タイミングにて軌道センサデータを車上無線機103に出力する車上列車制御装置102、車上列車制御装置102から出力された情報を地上装置200に送信する車上無線機103を備える。
【0047】
地上装置200は、車上装置100から送信された情報を受信する地上無線機203と、センサデータ処理装置1と、応力集中範囲情報を記録する軌道データベース2と、車上装置100に備わる車上列車制御装置102と位置情報を共有する地上列車制御装置202と、軌道単位で警報情報を表示する表示器204を備える。
【0048】
車上装置100の詳細な動作を説明する。まず、車上装置100に備わったセンサ101は、軌道3を常に監視し、取得した軌道センサデータを車上列車制御装置102に送信する。車上列車制御装置102は、軌道センサデータを装置内に一時的に保存し、適当なタイミングで車上無線機103へ出力し、車上無線機103は、地上無線機203へデータを送信する。このとき、適当なタイミングとは、車両が駅に停止中など、列車制御に関するデータ通信量が少ないタイミングや、駅等に設置された大容量送信が可能な別の無線通信が利用可能なタイミングである。無線通信として、ブルートゥース(登録商標):Bluetooth(登録商標)やワイファイ:wifi(登録商標)をはじめとする規格化された通信方式を用いても良い。また、車上列車制御装置102と地上列車制御装置202は、列車の位置情報をリアルタイムに車上無線機103及び地上無線機203を介して共有する。
【0049】
次に地上装置200の動作を説明する。軌道センサデータ及び列車の位置情報を受信した地上無線機203は、それぞれをセンサデータ受信部11、及び地上列車制御装置202を介して位置情報受信部13へ送信する。センサデータ処理装置1及び軌道データベース2は、センサデータ受信部11が受信した軌道センサデータ及び位置情報受信部13が受信した位置情報を用いて、第1の実施形態または第2の実施形態に従い、警告情報の作成を行う。このとき、データ照合部14は、損傷位置が応力集中範囲に含まれる場合、損傷位置情報と警告情報を表示器204に出力し、表示器204は、第3の実施形態と同様に、損傷位置及び警告度を表示する。
【0050】
本実施の形態では、地上装置200にて、センサデータ処理装置1の処理を行う。本実施形態をとることにより、センサデータ処理装置1を車上に設置する場合(第3の実施の形態)に比べて、車上装置100にて行う処理負荷を軽減することを可能とする。これにより、車上装置100にて行う処理負荷が軽減されるため、車上に搭載する処理用のハードウェアは、高速な処理が可能な高性能なものでなくてもよく、車両搭載機器にかかるコストの低減に寄与することが可能となる。
また、本実施の形態では、通信負荷軽減のため、地上装置200への送信をタイミングを計って行うこととしたが、5G(第5世代移動通信システム)などの大容量高速通信を用いて、リアルタイムに軌道センサデータを地上装置200へ送信してもよい。
【0051】
[第5の実施の形態]
図12は、第5の実施の形態における軌道状態診断システムの構成の一例を示す図である。第3の実施の形態では、センサデータ処理装置1を車上に設置する場合の実施形態を、第4の実施の形態では、センサデータ処理装置1を地上に設置する場合の実施形態を説明した。第3の実施の形態及び第4の実施の形態では、車上での処理負荷と地上装置への通信負荷はトレードオフの関係にあり、通信負荷の軽減を可能とする第3の実施の形態では車上での処理負荷が大きく、車上での処理負荷の軽減を可能とする第4の実施の形態では地上装置への通信負荷が大きくなる。従って、本実施の形態では、センサデータ処理装置1が車上-地上に跨って稼動する場合の実施形態を説明し、車上での処理負荷及び地上装置への通信負荷のバランスをとることを可能とする。
本実施の形態では、車上装置100と地上装置200を含んだ構成とする。
【0052】
車上装置100は、軌道3をセンシングするセンサ101と、センサデータ受信部11、損傷検知部12及び位置情報受信部13を備える車上センサデータ処理装置1aと、位置情報を取得し位置情報受信部13への出力、及び、地上装置200に送信する情報の選択を行い、選択された情報を車上無線機103に出力する車上列車制御装置102、車上列車制御装置102から出力された情報を地上装置200に送信する車上無線機103を備える。
【0053】
地上装置200は、車上装置100から送信された情報を受信する地上無線機203と、データ照合部14及び損傷記録部15を備える地上センサデータ処理装置1bと、応力集中範囲情報を記録する軌道データベース2と、車上装置100に備わる車上列車制御装置102と位置情報を共有する地上列車制御装置202と、軌道単位で警報情報を表示する表示器204を備える。
【0054】
車上装置100の詳細な動作を説明する。まず、車上装置100に備わったセンサ101は取得した軌道センサデータをセンサデータ受信部11に送信する。車上センサデータ処理装置1aの損傷検知部12は、軌道センサデータを用いて軌道3の損傷を解析・検知する。軌道3に損傷を検知した場合には、検知した損傷箇所の軌道センサデータと対応する損傷種別を示す損傷種別情報を含む軌道損傷情報を作成する。さらに、損傷検知部12は、位置情報受信部13から入手した損傷箇所の位置情報である損傷位置情報を受信し、軌道損傷情報と損傷位置情報を車上列車制御装置102へ出力する。車上列車制御装置102は、損傷検知部12から受信した軌道損傷情報と損傷位置情報を車上無線機103を介して、地上装置200に送信する。従って、本実施形態では、損傷が検知された場合のみ、地上に軌道センサデータを含む情報を地上装置200へ送信する。
【0055】
次に地上装置200での動作を説明する。地上無線機203は、車上無線機103から軌道損傷情報及び損傷位置情報を受信し、データ照合部14へ出力する。データ照合部14は、軌道データベース2と、地上無線機203から受信した軌道損傷情報及び損傷位置情報を用いて、第1の実施形態または第2の実施形態に従い、警告情報の作成を行う。このとき、データ照合部14は、損傷位置情報が示す損傷位置が応力集中範囲に含まれる場合、その位置を含む軌道の箇所と警告度を表示器204に出力する。表示器204は、第3の実施形態と同様に、損傷位置及び警告度を表示する。
【0056】
本実施の形態では、車上装置100にて、損傷の検知処理を行い、地上装置200にて、警告度の評価処理を行う形態を説明した。本実施形態をとることにより、センサデータ処理装置1を車上または地上のどちらか一方に設置する場合に比べて、処理負荷と通信負荷のバランスをとることを可能とする。
【0057】
以上の実施の形態に示した構成については、要旨を変更しない範囲において、適宜に組み合わせたり、変更したりすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1、1a、1b:センサデータ処理装置
11:センサデータ受信部
12:損傷検知部
13:位置情報受信部
14:データ照合部
15:損傷記録部
2、2a、2b:軌道データベース
3、3a、3b:軌道
4a、4b:亀裂
4c:歪み
4d:破断
5a~5f:継目
6a~6h:応力
100:車上装置
101:センサ
102:車上列車制御装置
103:車上無線機
200:地上装置
202:地上列車制御装置
203:地上無線機
204:表示器