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特開2023-117067触媒効率低下検知装置および排気浄化システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117067
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】触媒効率低下検知装置および排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 11/00 20060101AFI20230816BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20230816BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20230816BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20230816BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F01N11/00
F01N3/023 K
F01N3/035 E
F01N3/18 B
F01N3/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019553
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼津 康太
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
【Fターム(参考)】
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB13
3G091BA07
3G091BA33
3G091DB06
3G091DB10
3G091EA01
3G091EA02
3G091EA05
3G091EA07
3G091EA08
3G091EA17
3G091FA13
3G091FB02
3G091FC07
3G091HA05
3G091HA15
3G190CB03
3G190CB18
3G190CB23
3G190DA02
3G190DA13
3G190DB02
3G190DB05
3G190DB23
3G190DB32
3G190DB33
3G190DB43
3G190DC04
3G190DD03
3G190DD14
3G190EA01
3G190EA02
3G190EA14
3G190EA23
(57)【要約】
【課題】排気浄化装置の酸化触媒における触媒効率の低下を検知することが可能な触媒効率低下検知装置および排気浄化システムを提供する。
【解決手段】制御装置30は、DOC21およびDPF22によってディーゼルエンジン10の排気を浄化する排気浄化装置20に対し、DOC21における触媒効率の低下を検知する。制御装置30は、ディーゼルエンジン10における低負荷領域での運転時間を計測し(S5)、低負荷運転時間が所定の時間閾値以上となったときに、DOC21における触媒効率が低下していると判定する(S6)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化触媒を用いてエンジンの排気を浄化する排気浄化装置に対し、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知する触媒効率低下検知装置であって、
前記エンジンにおける低負荷領域での運転時間を計測し、低負荷運転時間が所定の時間閾値以上となったことを判定する第1の手法を有し、
前記第1の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記酸化触媒の下流に配置される微粒子捕集フィルターを有し、
前記排気浄化装置は、前記微粒子捕集フィルターに堆積した煤を酸化除去する再生運転モードとして、第1再生制御と、前記エンジンの排気温度が前記第1再生制御時よりも高い状態で実施される第2再生制御とを実施可能であり、
前記第2再生制御から次の前記第2再生制御が行われるまでの間において実施される前記第1再生制御の回数が所定の回数閾値を超えたことを判定する第2の手法を有し、
前記第2の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記酸化触媒の下流に配置される微粒子捕集フィルターを有し、
前記微粒子捕集フィルターにおける煤堆積量として、前記エンジンの運転状態に基づいて求められる第1推定値と、前記微粒子捕集フィルターの前後差圧に基づいて求められる第2推定値とを算出可能であり、
前記第2推定値と前記第1推定値との差分値が、所定の堆積量差分閾値以上となったことを判定する第3の手法を有し、
前記第3の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記酸化触媒における触媒効率が低下していると判定したときに、触媒効率低下カウントを増加させ、
前記触媒効率低下カウントが所定のカウント数閾値以上となったときに、前記酸化触媒の触媒効率の低下を検知することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記エンジンの排気温度が第1温度閾値以下、前記酸化触媒を通過後の排気温度が第2温度閾値以下、前記エンジンの負荷率が負荷率閾値以下、および前記エンジンの回転速度が回転速度閾値以下、のうち少なくとも1つが満たされるとき、前記エンジンが低負荷運転されていると判定することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項6】
請求項3に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記第1推定値が所定の堆積量閾値以上のときに、前記第2推定値と前記第1推定値との差分値により、前記酸化触媒の触媒効率の低下を判定することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の触媒効率低下検知装置であって、
前記酸化触媒の触媒効率の低下を検知したときに、触媒効率の低下を知らせる報知信号を出力することを特徴とする触媒効率低下検知装置。
【請求項8】
酸化触媒および微粒子捕集フィルターによってエンジンの排気を浄化する排気浄化装置と、
請求項1から7の何れか1項に記載の触媒効率低下検知装置とを備えることを特徴とする排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化触媒および微粒子捕集フィルターを備える排気浄化装置に対し、酸化触媒における触媒効率の低下を検知する排気浄化装置、並びにこれを備える排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに使用される排気浄化装置として、ディーゼル酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst:以下、DOC)とディーゼル微粒子捕集フィルター(Diesel Particulate Filter:以下、DPF)とを組み合わせたものが知られている(例えば、特許文献1)。このような排気浄化装置は、排気(排ガス)中の煤(すす)をDPFによって除去するものであり、DPFに堆積した煤をNO再生処理(後述するアシスト再生)によって酸化除去することでDPFの自己再生が行える。
【0003】
NO再生処理では、排ガス経路の上流側に配置されるDOCにおいて、排ガス中のNOとOとの触媒反応によりNOを生成する。DPFでは、DOCで生成されたNOによって煤(すなわち、炭素C)の酸化除去を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-223739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DOCおよびDPFを組み合わせた排気浄化装置では、DOCにも煤は堆積し、DOCへの煤堆積によってNO再生処理時の自己再生量が減少するとの知見が得られた。すなわち、DOCにおける触媒表面に煤が堆積すると、DOCでの触媒効率(NOの生成効率)が低下し、その結果、DPFでの煤の酸化反応頻度が低下して、DPFの自己再生量(煤の除去量)が減少する。DPFの自己再生量が減少した状態でエンジンの運転が継続されると、排気浄化装置を備えるエンジンシステムにおいて適切なタイミングでの再生運転モード(NO再生処理や、より自己再生能力の高いO再生処理などを行う運転モード)が行われなくなるといった問題がある。
【0006】
DOCに堆積した煤は、DPFのように自己再生によって除去することはできないが、エアブローや電気炉などによる焼き切りによって除去することができる。但し、このようなDOCの煤除去処理はディーラーなどでの対処が必要であり、このような対処を行うにはユーザに対しての報知を行う必要がある。DOCに煤が堆積して触媒効率が低下したことの報知を行うには、先ずはDOCにおける触媒効率の低下検知を行うことが必要となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、排気浄化装置の酸化触媒における触媒効率の低下を検知することが可能な触媒効率低下検知装置および排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である触媒効率低下検知装置は、酸化触媒を用いてエンジンの排気を浄化する排気浄化装置に対し、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知する触媒効率低下検知装置であって、前記エンジンにおける低負荷領域での運転時間を計測し、低負荷運転時間が所定の時間閾値以上となったことを判定する第1の手法を有し、前記第1の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知することを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、触媒効率低下の主要因である低負荷領域の多用を判定し、この判定結果を用いることで酸化触媒における触媒効率の低下を適切に検知可能となる。
【0010】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記酸化触媒の下流に配置される微粒子捕集フィルターを有し、前記排気浄化装置は、前記微粒子捕集フィルターに堆積した煤を酸化除去する再生運転モードとして、第1再生制御と、前記エンジンの排気温度が前記第1再生制御時よりも高い状態で実施される第2再生制御とを実施可能であり、前記第2再生制御から次の前記第2再生制御が行われるまでの間において実施される前記第1再生制御の回数が所定の回数閾値を超えたことを判定する第2の手法を有し、前記第2の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知する構成とすることができる。
【0011】
上記の構成によれば、触媒効率低下が生じた場合の現象である再生運転頻度の増加を判定し、この判定結果を用いることで酸化触媒における触媒効率の低下を検知可能となる。再生運転頻度の増加判定を、触媒効率の低下検知に加えることで、誤検知の可能性を低減できる。
【0012】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記酸化触媒の下流に配置される微粒子捕集フィルターを有し、前記微粒子捕集フィルターにおける煤堆積量として、前記エンジンの運転状態に基づいて求められる第1推定値と、前記微粒子捕集フィルターの前後差圧に基づいて求められる第2推定値とを算出可能であり、前記第2推定値と前記第1推定値との差分値が、所定の堆積量差分閾値以上となったことを判定する第3の手法を有し、前記第3の手法による判定結果を用いて、前記酸化触媒における触媒効率の低下を検知する構成とすることができる。
【0013】
上記の構成によれば、触媒効率低下が生じた場合の現象である第1推定値と第2推定値との乖離を判定し、この判定結果を用いることで酸化触媒における触媒効率の低下を検知可能となる。第1推定値と第2推定値との乖離判定を、触媒効率の低下検知に加えることで、誤検知の可能性を低減できる。
【0014】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記酸化触媒における触媒効率が低下していると判定したときに、触媒効率低下カウントを増加させ、前記触媒効率低下カウントが所定のカウント数閾値以上となったときに、前記酸化触媒の触媒効率の低下を検知する構成とすることができる。
【0015】
上記の構成によれば、低負荷領域の多用、再生運転頻度の増加および第1推定値と第2推定値との乖離などの判定結果には、出力値の誤差などで誤判定の虞があるが、触媒効率低下カウントがカウント数閾値以上であることを検知条件とすることで誤検知を低減することができる。
【0016】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記エンジンの排気温度が第1温度閾値以下、前記酸化触媒を通過後の排気温度が第2温度閾値以下、前記エンジンの負荷率が負荷率閾値以下、および前記エンジンの回転速度が回転速度閾値以下、のうち少なくとも1つが満たされるとき、前記エンジンが低負荷運転されていると判定する構成とすることができる。
【0017】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記第1推定値が所定の堆積量閾値以上のときに、前記第2推定値と前記第1推定値との差分値により、前記酸化触媒の触媒効率の低下を判定する構成とすることができる。
【0018】
上記の構成によれば、第2再生制御の直後は触媒効率の低下が生じていなくても第2推定値と第1推定値とに乖離が生じすることがあるため、第1推定値が堆積量閾値以上であることを判定実施の条件とすることで、第2再生制御直後の誤判定を低減することができる。
【0019】
また、上記触媒効率低下検知装置は、前記酸化触媒の触媒効率の低下を検知したときに、触媒効率の低下を知らせる報知信号を出力する構成とすることができる。
【0020】
上記の構成によれば、酸化触媒の触媒効率の低下の要因(酸化触媒の煤堆積)への対処をユーザに促すことができる。
【0021】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第2の態様である排気浄化システムは、酸化触媒および微粒子捕集フィルターによってエンジンの排気を浄化する排気浄化装置と、上記記載の触媒効率低下検知装置とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の触媒効率低下検知装置および排気浄化システムは、触媒効率低下の主要因である低負荷領域の多用を判定し、この判定結果を用いることで酸化触媒における触媒効率の低下を適切に検知できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態を示すものであり、本発明が適用可能なエンジンシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2】低負荷運転判定の一例を示すフローチャートである。
図3】再生運転頻度判定の一例を示すフローチャートである。
図4】C堆積量/P堆積量乖離判定の一例を示すフローチャートである。
図5】触媒効率低下検知の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明が適用可能なエンジンシステム(以下、本システム)の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本システムは、ディーゼルエンジン10、排気浄化装置20および制御装置30を具備して構成されている。尚、本システムでは、制御装置30が本発明の触媒効率低下検知装置に相当し、排気浄化装置20および制御装置30が本発明の排気浄化システムに相当する。
【0025】
排気浄化装置20は、ディーゼルエンジン10の排気系(排ガス経路)に配置され、DOC21およびDPF22を備えている。DOC21およびDPF22は、DOC21が排ガス流れ方向の上流側、DPF22が下流側に配置される。制御装置30は、排気浄化装置20の状況を監視し、その状況に応じてディーゼルエンジン10に適切なタイミングで再生運転モードを行わせる。また、制御装置30は、DOC21における煤堆積によって触媒効率が低下したときにこれを検知し、この検知に基づいて報知信号を出力する。制御装置30における排気浄化装置20の状況監視は、ディーゼルエンジン10や排気浄化装置20に備えられたセンサからの出力信号などに基づいて行われるが、図1ではセンサの図示を省略している。
【0026】
まずは、本システムにおける再生運転モードの制御方法について説明する。本システムでは、再生運転モードとしてアシスト再生(第1再生制御)とリセット再生(第2再生制御)との2通りがあり、これらはDPF22における煤堆積量(推定量)に基づいて実行される。アシスト再生は、上述したNO再生処理が実施され、再生速度が比較的遅い再生運転モードとなる。一方、リセット再生は、(DOC21においてNOを発生させず)Oによって煤の酸化除去(C+O→CO)を行うO再生処理が実施され、再生速度がアシスト再生よりも早くなる。
【0027】
アシスト再生およびリセット再生の切り替えは、制御装置30がディーゼルエンジン10の運転条件を変更することで可能となる。具体的には、アシスト再生時は、DOC21においてNOが発生しやすくなるように、排気浄化装置20内が比較的低温(250~500℃程度)になるようにディーゼルエンジン10の運転条件を変更する。例えば、アシスト再生では、吸気スロットルによる吸気流入量の調整を行ったり、アフター噴射を行ったりする。一方、リセット再生では、DOC21においてNOが発生しなくなる(あるいは発生しにくくなる)ように、排気浄化装置20内が比較的高温(500~700℃程度)になるようにディーゼルエンジン10の運転条件を変更する。例えば、リセット再生時は、吸気スロットルによる吸気流入量の調整を行ったり、アフター噴射およびポスト噴射を行ったりすることでディーゼルエンジン10の排気温度を上昇させる。
【0028】
DPF22における煤堆積量の推定には、一般に、DOC21およびDPF22で起こる化学反応に基づいて煤堆積量を計算する方法(以下、C法)と、DPF22の前後差圧から煤堆積量を計算する方法(以下、P法)とがある。尚、DOC21およびDPF22で起こる化学反応はディーゼルエンジン10の運転状態に応じて変化するものであるため、C法では、ディーゼルエンジン10の運転状態に基づいて煤堆積量を計算することができる。また、P法では、より詳細には、DPF22の前後差圧と排ガス体積流量とから煤堆積量が計算される。
【0029】
C法は、ディーゼルエンジン10や排気浄化装置20の性能にイレギュラーが無ければ、高精度の推定が可能である、但し、C法では、DOC21の触媒効率が低下し、アシスト再生でのDPF22の自己再生量が減少すると、これに対応することができない。具体的には、C法により推定される煤堆積量(以下、C堆積量:第1推定値)が、実際の煤堆積量よりも減少する。一方、P法は、C法で考慮できないイレギュラー要因にも対応可能であるが、C法に比べて推定値が不安定である。
【0030】
DPF22の煤堆積量の推定には、基本的には、推定精度の高いC法の適用が好適である。但し、C法ではDOC21における煤堆積に対応することができないため、C法およびP法の両方を併用してもよい。C法およびP法を併用して再生運転モード(アシスト再生またはリセット再生)を行う場合、以下のような方法でモード移行を行うことが考えらる。
・通常運転からアシスト再生への移行:C堆積量が第1所定値以上の状態が第1所定時間以上続いた場合、もしくは、P法により推定される煤堆積量(以下、P堆積量:第2推定値)が第1所定値以上の状態が第2所定時間以上続いた場合に通常運転からアシスト再生へ移行する。このとき、第2所定時間は第1所定時間よりも長くすることが好ましい。
・アシスト再生から通常運転への移行:C堆積量が第2所定値(<第1所定値)未満の状態となった場合、もしくは、(リセット再生への移行が発生せずに)アシスト再生が第3所定時間以上続いた場合にアシスト再生から通常運転へ移行する。このとき、第3所定時間は第2所定時間よりも長くすることが好ましい。
・アシスト再生からリセット再生への移行:C堆積量が“前回値≦今回値”の状態(アシスト再生を行ってもC堆積量が減少せず単調増加する状態)が、連続して第4所定時間(<第3所定時間)以上続いた場合、もしくは、P堆積量が第1所定値以上の状態が、積算して第4所定時間以上続いた場合にアシスト再生からリセット再生へ移行する。このとき、第4所定時間は、第2所定時間よりも長くすることが好ましい。
【0031】
但し、C法およびP法を併用する場合でも、DOC21において触媒効率が低下した場合には、以下のような問題がある。
(1)C法による煤堆積量と実際の煤堆積量とのずれが大きくなると、実質的にP法による煤堆積量のみで再生運転モードへの移行判定が行われるようになる。P法は、C法に比べて推定値が不安定であるため、適切なタイミングでDPF22の再生運転が実施されない虞がある。
(2)アシスト再生時のDPF22の自己再生量が減少することから、再生運転モードへの突入頻度が増加する。また、アシスト再生からリセット再生への移行頻度も増加する。
【0032】
このため、本システムでは、制御装置30によってDOC21における触媒効率の低下を検知し、これが検知されたときには、DOC21に堆積した煤の除去対処をユーザに促すべく報知を行う(報知信号を出力する)。報知の方法は特に限定されるものではないが、インジケータなどによる表示報知や、アラームなどによる音声報知とすることができる。
【0033】
続いて、本システムにおけるDOC21における触媒効率低下検知方法について説明する。先ずは、DOC21における触媒効率低下の判定方法として、以下の3つの手法を説明する。
【0034】
<低負荷運転判定>
第1の手法として低負荷運転判定が挙げられる。排ガス中における煤は、ディーゼルエンジン10が低負荷運転(低負荷領域での運転)を行っているときに発生量が増加する。このため、低負荷領域が多用されていれば、DOC21の触媒効率が低下している可能性が高いと見なすことができる。本例では、制御装置30において、ディーゼルエンジン10の低負荷運転時間を計測し、計測した低負荷運転時間が所定値以上の場合に、低負荷領域の多用と判定する。低負荷領域の多用と判定された場合、DOC21に煤堆積が生じて触媒効率が低下している可能性があると判定することができる。図2は、低負荷運転判定の一例を示すフローチャートであり、この低負荷運転判定はディーゼルエンジン10の運転中は常時行われる。
【0035】
低負荷運転判定では、S1~S4において、ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っているか否かが判定される。具体的には、エンジン排気温度(ディーゼルエンジン10からの排気温度)が所定の第1温度閾値以下であるか(S1)、DOC後温度(DOC21通過後の排気温度)が所定の第2温度閾値以下であるか(S2)、負荷率(ディーゼルエンジン10が出力可能な最大負荷に対する現在の使用負荷の割合)が所定の負荷率閾値以下であるか(S3)、エンジン回転速度(ディーゼルエンジン10の回転速度)が所定の回転速度閾値以下であるか(S4)を判定し、S1~S4の全てがYES判定であれば、ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っていると判定される。
【0036】
ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っていると判定されている間(S1~S4の全てでYES)は、タイマー計測される低負荷運転時間がカウントアップされる(S5)。そして、計測されている低負荷運転時間が所定の時間閾値以上となると(S6でYES)、低負荷領域の多用と判定される(S7)。ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っていない間(S1~S4の何れかでNO)、あるいは、ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っていても低負荷運転時間が時間閾値未満である間(S6でNO)は、低負荷領域の多用とは判定されない(未判定:S8)。未判定の場合は、本フローのスタートに戻って低負荷運転判定が再開される。
【0037】
尚、図2のフローにおいて、S1~S4における判定順序は任意に入れ替わってもよい。ディーゼルエンジン10が低負荷運転を行っているか否かの判定に用いる項目は、図2のフローでは4つ(エンジン排気温度、DOC後温度、負荷率およびエンジン回転速度)であるが、これらは任意に増減させてもよい。例えば、ディーゼルエンジン10における燃料噴射量を判定項目に加えることができる。また、S5で計測される低負荷運転時間は、ディーラーなどでDOC21の煤除去の対処(DOC21の洗浄や交換)がなされたときにリセットされるが、それ以外(ディーゼルエンジン10の運転停止など)ではリセットされない。
【0038】
また、図2のフローでは、S1~S4の全てがYES判定の場合に低負荷運転を行っていると判定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、S1~S4の少なくとも1つがYES判定の場合に低負荷運転を行っていると判定してもよい。すなわち、変形例として、S1~S4の何れか1つでもYES判定であればS5に移行し、S1~S4の全てがNO判定の場合にS8に移行するようなフローであってもよい。
【0039】
<再生運転頻度判定>
第2の手法として再生運転頻度判定が挙げられる。上述したように、DOC21において触媒効率が低下し、アシスト再生時のDPF22の自己再生量が減少すれば、再生運転モードへの突入頻度が増加する。このため、再生運転の頻度が高ければ、DOC21の触媒効率が低下している可能性が高いと見なすことができる。本例では、リセット再生間のアシスト再生数をカウントし、このアシスト再生数が所定値を超える場合に再生運転頻度の増加と判定する。再生運転頻度の増加と判定された場合、DOC21に煤堆積が生じて触媒効率が低下している可能性があると判定することができる。図3は、再生運転頻度判定の一例を示すフローチャートであり、この再生運転頻度判定はディーゼルエンジン10の運転中は常時行われる。
【0040】
再生運転頻度判定では、最初に、アシスト再生の開始が判定される(S11)。、アシスト再生が開始されれば(S11でYES)、アシスト再生数(初期値は0)がカウントアップ(1増加)され(S12)、その後、アシスト再生数が所定の再生数閾値(回数閾値)以上であるか否かが判定される(S13)。また、S11でNO判定の場合もS13へ移行する。
【0041】
アシスト再生数が再生数閾値以上の場合(S13でYES)、リセット再生が開始されるか否かが判定される(S14)。S14では、アシスト再生からリセット再生への移行が生じるとYES判定、アシスト再生から通常運転への移行が生じるとNO判定となる。S14でNO判定の場合、リセット再生間のアシスト再生数が所定値を超えることになるため、再生運転頻度の増加と判定される(S15)。一方、S14でYES判定の場合、リセット再生完了後(S16)にアシスト再生数が初期値にリセットされる(S17)。この場合、リセット再生間のアシスト再生数が所定値を超えることはないため、再生運転頻度の増加とは判定されない(未判定:S18)。尚、S13またはS16でNO判定の場合も再生運転頻度の増加とは判定されない(未判定:S18)。未判定の場合は、本フローのスタートに戻って再生運転頻度判定が再開される。
【0042】
<C堆積量/P堆積量乖離判定>
第3の手法としてC堆積量/P堆積量乖離判定が挙げられる。上述したように、煤堆積によってDOC21の触媒効率が低下すると、C堆積量が実際の煤堆積量よりも減少する。その結果、C堆積量とP堆積量との間に乖離が発生する。このため、C堆積量とP堆積量との間に乖離が発生していれば、DOC21の触媒効率が低下している可能性が高いと見なすことができる。すなわち、C堆積量とP堆積量との間の乖離大と判定された場合、DOC21に煤堆積が生じて触媒効率が低下している可能性があると判定することができる。図4は、C堆積量/P堆積量乖離判定の一例を示すフローチャートであり、このC堆積量/P堆積量乖離判定はリセット再生の直後に行うことが好ましい。
【0043】
C堆積量/P堆積量乖離判定では、最初に、C堆積量が所定の堆積量閾値以上であるか否かが判定される(S21)。リセット再生の直後は、DPF22において煤堆積がほとんど無くなり、C堆積量も0にリセットされるが、P堆積量は推定の不安定性さによってある程度の数値を示すことがある。すなわち、DOC21の触媒効率低下と無関係に、C堆積量とP堆積量との間の乖離が生じる場合があり、このような乖離による誤検知を防止するため、C堆積量がある程度増加してから(S21でYESとなってから)判定を開始すべくS23へ移行する。また、可能性は低いものの、C堆積量が堆積量閾値に達する前にP法によって再生運転モード(アシスト再生)に突入する場合もあり(S22でYES)、この場合はC堆積量とP堆積量との間の乖離判定を行うべくS23へ移行する。
【0044】
S23では、P堆積量とC堆積量との差分値を求め、この差分値が所定の堆積量差分閾値以上であるか否かが判定される。S23でYES判定の場合、P堆積量とC堆積量との間に乖離が生じていると判定される(S24)。S23でNO判定の場合、あるいはS22でNO判定の場合は、P堆積量とC堆積量との間の乖離判定はなされない(未判定:S25)。
【0045】
<触媒効率低下検知>
DOC21への煤堆積による触媒効率の低下は、上述した3つの手法のうちの1つを用いて、あるいは複数を組み合わせて検知することができる。尚、触媒効率低下検知において3つの手法のうちの1つを用いる場合は、第1の手法(すなわち、低負荷運転判定)を用いることが好ましい。また、複数を組み合わせて用いる場合は、第1の手法に第2の手法(すなわち、再生運転頻度判定)および/または第3の手法(すなわち、C堆積量/P堆積量乖離判定)を組み合わせることが好ましい。
【0046】
図5は、触媒効率低下検知の一例を示すフローチャートであり、第1ないし第3の手法の全て組み合わせて触媒効率低下検知を行う場合を例示する。この触媒効率低下検知は、所定の時間間隔(例えば、数秒間隔)で行うことが好ましい。
【0047】
触媒効率低下検知では、S31~S33において、第1ないし第3の手法のそれぞれでの判定結果(低負荷領域の多用、再生運転頻度の増加またはP堆積量とC堆積量との乖離)が確認される。S31~S33の全てがYES判定であればS34に移行し、S31~S33の何れか1つでもNO判定であればS37に移行する。
【0048】
S34では、触媒効率低下カウント(初期値0)が所定のカウント数閾値と比較される。そして、触媒効率低下カウントがカウント数閾値以上であれば(S34でYES)、触媒効率の低下が検知される(S35)。触媒効率の低下が検知されれば、制御装置30が報知信号を出力し、ユーザに対してDOC21の洗浄や交換などの対処を促すことができる。一方、触媒効率低下カウントがカウント数閾値未満であれば(S34でNO)、触媒効率低下カウントがカウントアップ(1増加)され(S36)、S37に移行する。S37では、現時点で触媒効率の低下は未検知とされる。このように、触媒効率低下カウントがカウント数閾値以上となる場合に触媒効率の低下を検知することで(すなわち、触媒効率低下を示す判定がある程度継続する場合に触媒効率の低下を検知することで)、誤検知の可能性を低減することができる。
【0049】
尚、図5のフローでは、S31~S33の全てがYES判定の場合にS34に移行し、S31~S33の何れか1つでもNO判定であればS37に移行している。このように、複数の手法を組み合わせて触媒効率低下を検知する場合、全ての手法による判定結果が触媒効率低下を示す場合に触媒効率の低下を検知することで、誤検知の可能性を低減することができる。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、変形例として、S31がYES判定であり、かつ、S32およびS33の何れか一方でもYES判定であればS34に移行し、S31がNO判定であるか、もしくは、S31がYES判定であっても、S32およびS33の両方がNO判定の場合にはS37に移行するようなフローであってもよい。
【0050】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10 ディーゼルエンジン
20 排気浄化装置(排気浄化システム)
21 DOC(酸化触媒)
22 DPF(微粒子捕集フィルター)
30 制御装置(触媒効率低下検知装置、排気浄化システム)
図1
図2
図3
図4
図5