(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117073
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】立ち上がり補助機構付座椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 9/00 20060101AFI20230816BHJP
B62B 3/02 20060101ALI20230816BHJP
A47C 7/00 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
A47C9/00 Z
B62B3/02 Z
A47C7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019559
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
【テーマコード(参考)】
3B095
3D050
【Fターム(参考)】
3B095AA10
3B095AB06
3B095AB10
3B095AC03
3B095CA01
3D050AA03
3D050DD01
3D050EE04
3D050EE13
3D050HH01
(57)【要約】
【課題】構成が簡単で、かつ、使用者の立ち上がり動作を補助することのできる立ち上がり補助機構付座椅子を提供する。
【解決手段】補助機構付座椅子1を、使用者2が腰を下ろす座席部10と、座席部10の後側に配置された左右一対の車輪21a,21bと、座席部10の後端部に設けられて左右方向に延長する座席側伝達軸31と、一端が座席側伝達軸31に回転自在に取付けられた座席側伝達部材32と、座席側伝達部材32の他端に回転自在に取付けられて左右方向に延長する車輪側伝達軸33と、一端が車輪側伝達軸33に回転自在に取付けられ、他端が車軸22に固定された車輪側伝達部材34とから構成し、使用者2が地面3を前方に向かって蹴るよう踏ん張ることで、車輪21a,21bを回転させて座席部10を斜め後方上側に持ち上げるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が腰を下ろす座席部と、使用者が座席部にしゃがんで座った状態から座席部に腰かけて座った状態に移る際の立ち上がり動作を補助する補助機構とを備えた座椅子であって、
前記使用者が前記座席部に腰を下ろしたときの前記使用者の頭部側を上側かつ後側、足側を下側かつ前側、使用者の右手側を右側、左手側を左側としたとき、
前記補助機構は、
前記座席部の後側に配置された左右一対の車輪と、前記座席部の後端部に設けられて左右方向に延長する伝達軸と、一端が前記伝達軸に回転自在に取付けられ、他端が前記車輪の車軸に固定された伝達部材と備えたことを特徴とする立ち上がり補助機構付座椅子。
【請求項2】
使用者が腰を下ろす座席部と、使用者が座席部にしゃがんで座った状態から座席部に腰かけて座った状態に移る際の立ち上がり動作を補助する補助機構とを備えた座椅子であって、
前記使用者が前記座席部に腰を下ろしたときの前記使用者の頭部側を上側かつ後側、足側を下側かつ前側、使用者の右手側を右側、左手側を左側としたとき、
前記補助機構は、
前記座席部の後側に配置された左右一対の車輪と、前記座席部の後端部に設けられて左右方向に延長する座席側伝達軸と、
一端が前記座席側伝達軸に回転自在に取付けられた座席側伝達部材と、
前記座席側伝達部材の他端に回転自在に取付けられて左右方向に延長する車輪側伝達軸と、
一端が前記車輪側伝達軸に回転自在に取付けられ、他端が前記車輪の車軸に固定された車輪側伝達部材とを備えることを特徴とする立ち上がり補助機構付座椅子。
【請求項3】
前記車輪と前記車軸とを、フリーホイールを備えたハブで連結したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の立ち上がり補助機構付座椅子。
【請求項4】
前記座席部の後端部に背もたれを設けたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の立ち上がり補助機構付座椅子。
【請求項5】
前記座席部の下側に接地部が円弧状の脚部を取付けたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の立ち上がり補助機構付座椅子。
【請求項6】
前記座席部の下側にローラーまたはキャスターを取付けたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の立ち上がり補助機構付座椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が座席部にしゃがみ込んだ状態から座席部に腰かける状態に移る際の立ち上がり動作を補助する補助機構を備えた座椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図12(a)に示すように、除草作業などの中腰姿勢やしゃがみ姿勢での作業では、同図の矢印に示すように、作業者5の膝5aや腰5bに負担が掛かるだけでなく、立ち上がり時に転倒するおそれがあった。
そこで、
図12(b)に示すような、腰かけ用の座部51をピストン・シリンダ構造を有するダンパー装置52を介して走行車体53に対して昇降調整可能に取付けた農業用腰かけ台車(以下、腰かけ台車50)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この腰かけ台車50は、H形フレームから成る走行車体53の前後に車輪54が取付けられた二輪車タイプの台車で、ダンパー装置52は座部51の下部に取付けられている。また、ダンパー装置52は、座部51の下部に取付けられた操作部としてのレバー55を操作することで座部51を上下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の腰かけ台車50は、ダンパー装置52や操作部(レバー55)が必要であった。また、
図12(c)に示すように、座部51座部の位置が高いので、作業者5が前かがみ姿勢になりがちになるため、作業者5の腰5bに負担が掛かるといった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、構成が簡単で、かつ、昇降装置を用いることなく、使用者が座席部にしゃがみ込んだ状態から座席部に腰かける状態に移る際の立ち上がり動作を補助することのできる立ち上がり補助機構付座椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用者が腰を下ろす座席部と、使用者が座席部にしゃがんで座った状態から腰かけて座った状態に移る際の立ち上がり動作を補助する補助機構とを備えた座椅子であって、前記使用者の頭部側を上側かつ後側、足側を下側かつ前側、使用者の右手側を右側、左手側を左側としたとき、前記補助機構は、前記座席部の後側に配置された左右一対の車輪と、前記座席部の後端部に設けられて左右方向に延長する伝達軸と、一端が前記伝達軸に回転自在に取付けられ、他端が前記車輪の車軸に固定された伝達部材と備えることを特徴とする。
このような構成を採ることにより、昇降装置を用いることなく、使用者が座席部に腰掛けたままの状態で、しゃがんで座った状態から腰かけて座った状態に容易に移行できる。
【0007】
また、補助機構を、座席部の後側に配置された左右一対の車輪と、座席部の後端部に設けられて左右方向に延長する座席側伝達軸と、一端が前記座席側伝達軸に回転自在に取付けられた座席側伝達部材と、前記座席側伝達部材の他端に回転自在に取付けられて左右方向に延長する車輪側伝達軸と、一端が前記車輪側伝達軸に回転自在に取付けられ、他端が前記車輪の車軸に固定された車輪側伝達部材とから構成すれば、座席部と伝達部材とを直接連結した請求項1の構成に比較して座面の高低差を大きくできるので、座面の地面からの距離を小さくすることができる。したがって、使用者が草むしりなどの作業を無理なく行うことができる。
【0008】
また、前記車輪と前記車軸とをフリーホイールを備えたハブで連結することで、補助機構付座椅子が後側に移動するときのみ車軸の回転力を車輪に伝達し、前方に移動するときには車輪のみが回転するようにしたので、座席部が地面に接触するなどして横転を防ぐとともに補助機構付座椅子の前方への自走が可能となるので、補助機構付座椅子を自由に牽引できる。
また、前記座席部の後端部に背もたれを設けたので、使用者が座席部を後方に押す力である入力荷重を補助機構付座椅子に有効に伝達できる。
また、前記座席部の下側に接地部が円弧状の脚部を取付けたので、座席部を効率よく斜め上方へ傾けることができる。
また、円弧状の脚部に替えてローラーまたはキャスターを取付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態1に係る立ち上がり補助機構付座椅子を示す図である。
【
図2】本発明の座椅子における「しゃがみ姿勢」と「腰かけ姿勢」とを示す図である。
【
図3】座席部を斜め前方と斜め後方とからみた図である。
【
図5】補助機構付座椅子の操作方法及び動作を説明するための図である。
【
図6】補助機構付座椅子の操作方法及び動作を説明するための図である。
【
図7】補助機構付座椅子の操作方法及び動作を説明するための図である。
【
図8】本実施形態2に係る立ち上がり補助機構付座椅子を示す図である。
【
図9】本実施形態2に係る立ちこぎ移動装置の動作を示す図である。
【
図10】本発明による立ち上がり補助機構付座椅子の他の構成を示す図である。
【
図11】本発明による立ち上がり補助機構付座椅子の他の構成を示す図である。
【
図12】従来の腰かけ台車を用いたしゃがみ作業を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1(a),(b)は、本実施の形態1に係る立ち上がり補助機構付座椅子(以下、補助機構付座椅子1という)を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は側面図である。
補助機構付座椅子1は座席部10と車輪部20と機構部30とを備えたもので、使用者が座席部10にしゃがんで座った状態から腰かけて座った状態に容易に移行する際の「立ち上がり動作」を補助する。
なお、しゃがんで座った状態(以下、しゃがみ姿勢という)とは、
図2(a)に示すような一般的な座椅子に腰かけた場合と同じ状態、具体的には、使用者2の臀部2aの高さと足2bの高さとがほぼ同じ状態を指す。また、腰かけて座った状態(以下、腰かけ姿勢という)とは、
図2(b)に示すような、一般的な椅子に腰かけた場合と同じ状態、すなわち、使用者2の臀部2aの位置が足2bの位置よりも高い状態を指す。
以下、使用者2が座席部10に腰を下ろしたときの使用者2の頭部側を上側かつ後側、足2b側を下側かつ前側、使用者2の右側を右側、左側を左側とする。
図1(b)は右側面図である。
座席部10、車輪部20、及び、機構部30構成する各部材は、軽量でかつ強度の高いスチールまたはアルミニウム合金などから構成されている。
【0011】
座席部10は、座面11と背もたれ12と左右の脚13a,13bとを備え、地面3上に位置して使用者2の臀部を支持する。
座面11は、軸挿入孔11hと切り欠き部11kとが形成された、厚さ方向が上下方向である平板状の部材である。軸挿入孔11hは、座面11の後端部に形成された左右方向に延長して座面11の左右端部に開口する貫通孔で、この軸挿入孔11hには座席側伝達軸31が挿入される。切り欠き部11kは、座面11の後側の左右方向中央部の板面を厚さ方向に切り欠いたもので、
図3の二点鎖線で示すように、左右方向の長さが後述する座席側伝達部材32の幅よりも広く、前後方向の長さが背もたれ12の厚さに等しい直方体状の空間である。
背もたれ12は、座面11の表面(上側の面)の左右の後端部からそれぞれ上側に突出するように設けられた棒状の支持片12a,12bと、支持片12a,12bの間に取付けられた背もたれ部材12cとから構成されている。背もたれ部材12cは板面が前後方向に垂直な板状の部材で、背もたれ部材12cの下側と座面11との間には、座席側伝達部材32が揺動できるだけの隙間12sが設けられている。
左右の脚13a,13bは、座面11の裏面(下側の面)の左右の端部にそれぞれ設けられた側面視円弧状の接地部13cを備えた板材である。本例では、接地部13cを側面視円弧状とすることで、座席部10はロッキングチェアのように揺動することができるので、座席部10を容易に傾けることができるだけでなく、座席部10を、地面3上を滑り易くできるという利点を有する。
なお、座席部10を製造する際には、座面11と背もたれ12、座面11と左右の脚13a,13b、もしくは、座面11と背もたれ12と左右の脚13a,13bとを一体に形成してもよい。
【0012】
車輪部20は、左右の車輪21a,21bと、左右方向に延長する車軸22と、車輪21a,21bの中心にあって車輪21a,21bのホイールリム21rと車軸22とをそれぞれ連結するハブ23とを備える。
車輪21a,21bは地面3に接地して転動する走行手段で、本例では、補助機構付座椅子1が前側に進むときの車輪21a,21bの回転方向を正転方向とした。すなわち、
図1(b)図の矢印に示す回転方向は車輪21a,21bの逆転方向で、本例の補助機構付座椅子1は車輪21a,21bの逆転時に後側に進むように構成されている。
ハブ23は、車軸22の一方向のみ回転を車輪21a,21bに伝達するフリーホイールを備えている。本例では、フリーホイールを、補助機構付座椅子1が後側に移動するとき、すなわち、車軸22が逆方向に回転するときのみ車軸22の回転力を車輪21a,21bに伝達するように設けた。
本例では、フリーホイールとして、
図4に示すような周知のラチェット24を用いた。ラチェット24は、自転車の後輪などに用いられている回転伝達機構で、入力部材24aと、係止部材24bと、支持バネ24cとを備えている。
ハブ23と車輪21a,21bとは一体に回転するので、同図の実線の矢印で示す、反時計回りの方向は、車輪21a,21bの正転方向とは逆である。すなわち、同図の実線の矢印で示す方向は逆転方向である。一方、同図の破線の矢印で示す、時計回りの方向は車輪21a,21bの正転方向と同じなので正転方向である。
入力部材24aは、内側に車軸22が挿入・固定された、車軸22の回転に伴って回転する車軸22の延長方向が軸方向となる筒状の部材である。
係止部材24bは、入力部材24aに回転自在に取付けられて、ハブ23の内周側に形成された切り込み23kの方向へ延長する棒状の部材である。また、支持バネ24cは入力部材24aと係止部材24bとの間に設けられて、係止部材24bを逆転方向に付勢している。
入力部材24aが、同図の実線の矢印で示す逆転方向に回転している時には、係止部材24bは切り込み23kと噛み合うことで入力部材24aの回転をハブ23に伝達する。一方、入力部材24aが、同図の破線の矢印で示す正回転している場合には、係止部材24bと切り込み23kとは噛み合わないので、入力部材24aの回転はハブ23に伝達されない。
したがって、車軸22をハブ23に取り付け、同図の実線示すように、車軸22を反時計回り(逆転方向)に回転させた場合には、係止部材24bと切り込み23kとが噛み合うので、車軸22の回転は入力部材24aを介してハブ23に伝達されて車輪21a,21bは逆転方向に回転し、補助機構付座椅子1は後側に進む。
一方、同図の破線示すように、使用者2が補助機構付座椅子1を前方に引っ張るなどして車軸22を時計回り(正転方向)に回転させた場合には、係止部材24bと切込み23kとは噛み合わないので、入力部材24aは空転する。すなわち、補助機構付座椅子1が前進している場合には、ハブ23は空転し、車輪21a,21bだけ回転する。
なお、本例では、フリーホイールとしてラチェット24を用いたが、ローラクラッチやカムクラッチなどの他のワンウェイクラッチを用いてもよい。
【0013】
機構部30は、座席側伝達軸31と、座席側伝達部材32と、車両側伝達軸33と、車両側伝達部材34とを備え、座席部10からの入力荷重を出力荷重として車輪部20に伝達することで、車輪21a,21bを回転させるとともに、座席部10を持ち上げる。
座席側伝達軸31は、座面11に設けられた軸挿入孔11hに挿入される左右方向に延長する棒状の部材で、座席側伝達軸31と軸挿入孔11hとの間には、図示しない軸受けが挿入されている。これにより、座席側伝達軸31は軸挿入孔11h内で軸まわりに自由に回転することが可能となる。すなわち、座席側伝達軸31は座面11に回転自在に取り付けられている。
座席側伝達部材32は、一端が座席側伝達軸31に回転自在に取付けられ、他端に車輪側伝達軸33が回転自在に取付けられた板状の部材で、車両側伝達軸33は、座席側伝達軸31と車軸22との間に配置されて左右方向に延長する棒状の部材である。
座席側伝達部材32の一端側には左右方向に延長する第1の軸挿入孔が形成されており、この第1の軸挿入孔に座席側伝達軸31が軸受けを介して挿入されている。また、他端側には左右方向に延長する第2の軸挿入孔が形成されており、この第2の軸挿入孔に車輪側伝達軸33が軸受けを介して挿入されている。なお、
図1(b)では、第1の軸挿入孔及び第2の軸挿入孔の符号、及び、後述する左右の伝達片34a,34bに設けられた軸挿入孔については省略した。
座席側伝達軸31と座席側伝達部材32とは、座席側伝達軸31の左右方向の中央部(座面11の切り欠き部11kに露出している部分)にて連結されており、車両側伝達軸33と座席側伝達部材32とは、車両側伝達軸33の左右方向の中央部にて連結されている。
【0014】
車両側伝達部材34は、左右の伝達片34a,34bと、上側連結片34cと、下側連結片34dとを備えている。
右の伝達片34aは、一端が車輪側伝達軸33の中央よりも右側にて車輪側伝達軸33に回転自在に取付けられ、他端が車軸22の中央よりも右側にて車軸22に固定された板状の部材で、左の伝達片34bは、一端が車輪側伝達軸33の中央よりも左側にて車輪側伝達軸33に回転自在に取付けられ、他端が車軸22の中央よりも左側に固定された板状の部材である。
上側連結片34cは、左右の伝達片34a,34bの前側である座席部10側にて、左右の伝達片34aの上面と左の伝達片34bの上面とを連結する板状の部材で、下側連結片34dは、左右の伝達片34a,34bの後側である車輪部20側にて、左右の伝達片34aの下面と左の伝達片34bの下面とを連結する板状の部材である。
すなわち、車両側伝達部材34は、座席部10側の端部である一端が車輪側伝達軸33に回転自在に取付けられ、車輪部20側の端部である他端が車軸22に固定されている。
【0015】
このように、本例の補助機構付座椅子1では車軸22と車両側伝達部材34との関係のみが「固定」であり、車両側伝達部材34と車両側伝達軸33、車両側伝達軸33と座席側伝達部材32、座席側伝達部材32と座席側伝達軸31、及び、座席側伝達軸31と座面11との関係は「自由」である。
これにより、車軸22と車両側伝達部材34とは一緒に回転し、車軸22からのモーメント(回転力)は車両側伝達部材34に伝達される。「固定」とする理由は、車輪部20からのモーメントにより機構部30を屈曲させる(座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とのなす角度を変化させる)ためである。
一方、車両側伝達部材34と車両側伝達軸33、車両側伝達軸33と座席側伝達部材32、座席側伝達部材32と座席側伝達軸31、及び、座席側伝達軸31と座面11とは一緒に回転しないし、車軸22からのモーメントも伝達されない。これは、機構部30を屈曲させることで、座席部10の位置を変えるためである。
なお、車両側伝達部材34の車軸22とは反対側の端部と車軸22との距離は車輪21a,21bの直径円内域に収まるようにすることが好ましい。これは、上記距離を車輪21a,21bの直径よりも大きくすると車軸22まわり回転トルクが不足して座席部10が機構部30の上方へ持ち上がらないおそれがあるからである。
また、本例の補助機構付座椅子1は、
図1(a)の一点鎖線で示すセンターライン(CL)に対して左右対称で、かつ、構造・構成・機能などは左右同一である。具体的には、左右の車輪21a,21bは同一構成でかつ同時に回転しながら移動するので、以下、左右の車輪21a,21bを車輪21とする。また、車両側伝達部材34の構成要素である左右の伝達片34a,34b、上側連結片34c、及び、下側連結片34dは一体に回転しながら移動するので、以下、左右の伝達片34a,34bなどの車両側伝達部材34の各構成要素の動作については省略する。
なお、車両側伝達部材34の動作は左右の伝達片34a,34bと同じになるので、左右の伝達片34a,34bの動作を車両側伝達部材34の動作として説明する。
【0016】
次に、補助機構付座椅子1の操作方法及び動作について説明する。
図5(a)は、座席部10が地面3上にあり、使用者2が座面11に腰掛けて作業をしている状態、もしくは、立ち上がり開始前の状態である(以下、状態Aという)。
この状態Aでは、補助機構付座椅子1の状態はいわゆる「座椅子」の状態にあり、使用者2は「地面に座った姿勢」となる。この場合、座席部10は揺れ動くことは可能であるが、前後には動かない安定した状態である。また、車輪部20も前進や後退ができず、機構部30も座席側伝達部材32や車輪側伝達部材34が動かない安定した状態である。
この状態Aでは、側面から見たときの座席側伝達部材32の延長方向と車両側伝達部材34(伝達片34a,34b)の延長方向とはともに、地面3から測ってほぼ35°である。すなわち、側面から見たときの座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とは同一直線上にある。
また、状態Aでは使用者2の臀部2aが地面3に接地しないため、服を汚さないだけでなく、同図の白抜きの矢印で示す身体重心による負荷F0を臀部2aで受けるため、
図12(a)に示した「しゃがみ姿勢(臀部2aを地面3から少し浮かしている姿勢)」とは異なり、膝や腰の負担を軽減することができる。
また、座面11の上面と地面までの距離Hが短いので、
図12(b)に示した「腰かけ台車」とは異なり前かがみとなる必要がない。したがって、「腰かけ台車」にありがちな前かがみ姿勢による腰痛を回避するための片手で上肢を支持する腰部保護の姿勢の必要がないので、両手が使用できる、という利点もある。
【0017】
図5(b)は補助機構付座椅子1の立ち上がり開始時の状態(以下、状態Bという)で、機構部30が屈曲を開始した状態である。
状態Bでは、使用者2が前方に向かって地面3を蹴るように両足2bを踏ん張ることで、地面3に同図の白抜きの矢印で示す力(踏み込み力F10)を加えることで、使用者2は地面3から踏み込み力F10に対する反力F11を得る。このとき、臀部2aを後方に突き出すようにすれば、座席部10は、使用者2の臀部2aが後方へ押す力(押し込み力F12)を入力荷重F13として機構部30に伝達する。機構部30はこの入力荷重F13を出力荷重F14として車輪部20に伝達する。
座面11の表面が滑りやすいと、臀部2aが座面11上を滑ってしまい入力荷重F13を伝達できないので、座面11の表面に滑りにくい材料で作ったクッションなどを置くことが好ましい。なお、本例では、背もたれ12があるので、座面11の表面が滑りやすくても、使用者2の臀部2aが後方へ押す力F12を出力荷重F14として車輪部20に伝達することができる。
出力荷重F14が車輪部20に伝達されると、その反力による地面3からの摩擦力F15により車輪21に回転トルクM1が生じ、その結果、車輪21が反時計回り(逆方向)に回転するとともに、車輪部20は後進する。具体的には、車輪21の回転により、車輪21の中心である車軸22の位置は、同図の小さな黒丸の位置である矢印の始点(start)から終点までの長さだけ後方に移動する。
また、車輪21が反時計方向に回転すると、車軸22に固定されている車両側伝達部材34と車両側伝達軸33とは反時計方向に回転する。その結果、座席側伝達部材32の他端(車輪側伝達軸33側の端部)は反時計方向に回転し、機構部30は屈曲する。すなわち、側面から見たときの座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とのなす角度が小さくなり(180°から約150°になり)、座席側伝達部材32の一端(座席側伝達軸31側の端部)は後方へ移動しつつ上方に傾く。
座席側伝達軸31は、座席側伝達部材32の一端と一緒に移動するので、座席側伝達部材32に連結された座席部10も後方へ移動しつつ上方に傾き始める。すなわち、補助機構付座椅子1は状態Aから状態Bへと移行する。
【0018】
図6(a)は機構部30の屈曲が完了した状態(以下、状態Cという)を示す図である。
状態Bにおいて、使用者2が更に踏み込み力F20を加えると、車輪21は回転しながら更に後進し、座席部10も更に後方へ移動しつつ上方に傾く。すなわち、状態Bと同様に、使用者2は地面からの反力F21を受け、座席部10は使用者2からの押し込み力F22を入力荷重F23として機構部30に伝達し、機構部30は入力荷重F23を出力荷重F24として車輪部20に伝達する。
車輪部20はこの伝達された出力荷重F24の反力による地面3からの摩擦力F25により車輪21を反時計回り(逆方向)に回転させるので、車輪部20は後進する。車輪21は、同図の小さな黒丸で示す矢印の始点(start)から終点までの長さだけ後方に移動する。
また、座席部10も更に後方へ移動しつつ上方に傾き始める。
すなわち、補助機構付座椅子1は状態Bから状態Cへと移行すると、機構部30は更に屈曲し、側面から見たときの座席側伝達部材32の延長方向は水平方向となり車両側伝達部材34の延長方向は鉛直方向となる。すなわち、座席側伝達部材32の延長方向と車両側伝達部材34の延長方向とのなす角度は90°になる。この状態を屈曲完了状態という。屈曲完了状態になると、入力荷重F23は、座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とを一体に回転させる回転トルクM2として作用し車軸22を回転させる。
【0019】
図6(b)は座席部10が更に上昇し地面3から持ち上がった状態(以下、状態Dという)を示す図である。
使用者2が更に踏み込み力F30を加えると、状態Cと同様に、使用者2が受ける地面からの反力F31は座席部10に押し込み力F32として伝達される。座席部10は、押し込み力F32を入力荷重F33として受け止める。機構部20は屈曲完了状態にあるので、入力荷重F33は、座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とを一体に回転させる回転トルクM3として作用し車軸22を回転させる。車輪部20は、地面3からの摩擦力F35を得、車輪21を反時計回り(逆方向)に回転させる。
状態C以降は、座席側伝達部材32と車軸側伝達部材34とは、車輪21が更に回転しても、屈曲完了状態を保ったまま車軸22とともに回転する。すなわち、機構部30の屈曲が完了した後には、座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とは車軸22とともに、あたかも一体になった如く動くことになる。
また、状態Dでは、座席部10は、機構部30からの回転トルクM3と使用者2からの押込み力F32との合力が作用することで、地面3から後方斜め上に持ち上がる。
なお、座席部10は地面3から持ち上がりはじめてからは、使用者2が更に前方に向かって地面3を蹴るように両足2bを踏ん張るとともに、地面からの反力F31を以って、臀部2aを後方斜め上に突き出すようにすることが好ましい。これにより、座席部10を地面3から引き上げることが容易となる。なお、この状態Dは勢いを持って座席部10を持ち上げた「瞬間」であって、この状態を維持することはできない。
【0020】
図7(a)は補助機構付座椅子1の立ち上がり操作が完了する前の状態(以下、状態Eという)である。
状態Dにおいて、使用者2が更に前方に向かって地面3を蹴るように両足2bを踏ん張ることで、地面からの反力F41を得る。このとき、状態B,状態Cと同様に、使用者2は臀部2aを後方に突き出すようスライドさせる。つまり、一旦座席部10が持ち上がってしまえば、状態Dのように、臀部2aを後方斜め上に突き出す必要はない。
座席部10は、使用者2の臀部2aが後方へ押す力である押し込み力F42を入力荷重F43として受け止める。この入力荷重F43は、座席側伝達部材32と車両側伝達部材34とを一体に回転させる回転トルクM4として作用し車軸22を回転させる。車輪21は地面からの摩擦力F25により、反時計回り(逆方向)に回転する。すなわち、車輪21は回転しながら更に後進し、座席部10も更に後方へ移動しつつ上方に傾きつつ引き上げられる。
図7(b)は立ち上がり操作が完了した状態(以下、状態Fという)である。
状態Fでは、車輪21の回転が停止し、かつ、座席部10は座面11の表面が水平になった状態で機構部30の上に配置された状態である。この状態Fは、車輪部20が動かない限りにおいて安定した状態である。
状態Fでは、補助機構付座椅子1の状態はいわゆる「腰かけ」の状態にある。使用者2は足2bを後方に引いた「腰かけ姿勢」となる。
このとき、機構部30では、座席側伝達部材32の延長方向は上下方向で、車両側伝達部材34(伝達片34a,34b)の延長方向は水平方向となる。
【0021】
実施の形態2.
図8(a),(b)は、本実施の形態2に係る立ち上がり補助機構付座椅子(以下、補助機構付座椅子4という)を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は側面図である。
補助機構付座椅子4は、座席部10と、車輪部20と、機構部40とを備えたもので、座席部10と車輪部20とは、座席部10の左右の脚13a,13bの厚さを厚くして座面11の高さHを高くした以外は実施の形態1の座席部10と車輪部20と同一である。
機構部40は、伝達軸41と、伝達部材42とを備え、座席部10からの入力荷重を出力荷重として車輪部20に伝達することで、車輪21を回転させるとともに、座席部10を持ち上げる。なお、伝達軸41は、実施の形態1の座席側伝達軸31と同じく、座面11に設けられ軸挿入孔11hに挿入される左右方向に延長する棒状の部材で、座面11に回転自在に取付けられている。
伝達部材42は、一端が伝達軸41に回転自在に取付けられ、他端が車軸22に固定された板状の部材で、伝達軸41と伝達部材42とは、実施の形態の座席側伝達部材32と同様に、伝達軸41の左右方向の中央部(座面11の切り欠き部11kに露出している部分)にて連結されており、伝達部材42と車軸22とは車軸22の左右方向の中央部にて連結されている。
このように、補助機構付座椅子4は、実施の形態1の左右の伝達片34a,34bを一体とするとともに、車輪側伝達軸33と車輪側伝達部材32とを省略したものである。実施の形態1の機構部30が屈曲するのに対し、本例の機構部40は屈曲しないので、補助機構付座椅子4では、補助機構付座椅子1に比較して座面11の高低差が小さくなる。
【0022】
次に、補助機構付座椅子4の動作について
図9(a)~(d)に基づき説明する。
補助機構付座椅子4の操作方法は補助機構付座椅子1と同じであるので、動作については、座席部10に入力荷重f13、f23が作用した場合について説明する。
(a)図は座席部10が地面3に接地した状態で、座面11は水平でかつ補助機構付座椅子4は静止している。なお、各図において、図示しない使用者が座面11上に腰を下ろしているものとする。
(b)図に示すように、座席部10に入力荷重f13が作用すると、機構部40は入力荷重f13を出力荷重f14として車輪部20に伝達する。
車輪21はこの伝達された出力荷重f14の反力による地面3からの摩擦力f15により回転し後方へ移動しつつ上方に傾く。
具体的には、車輪21の回転により、一端が車軸22に固定された伝達部材42は、出力荷重f14による回転トルクMaを得ては車軸22周りに回転する。その結果、伝達部材42の他端に接続された伝達軸41も車軸22とともに回転する。伝達軸41には座席部10の後端部が接続されているので、座席部10は、車輪21の回転に伴い後方へ移動しつつ上方に傾くことになる。
(c)図に示すように、座席部10に継続して入力荷重f23が作用し、側面から見たときの伝達部材42が水平方向よりも正転側に回転すると、機構部40は入力荷重f23をそのまま車輪部20に伝達する。車輪部20ではこの伝達された入力荷重f23による回転トルクMbを得て車軸22が反時計方向に回転(正転)するので、座席部10は後方へ移動しつつ上方に傾くことになる。なお、車輪21は入力荷重f23の反力による地面3からの摩擦力f25により回転し後方へ移動する。その結果、座席部10は更に後方へ移動しつつ上方に傾きながら地面3から持ち上がる。
補助機構付座椅子4は、最終的には、(d)図に示すように、座席部10を座面11の表面が水平になった状態となる。
【0023】
補助機構付座椅子4は、例えば、小柄な使用者が
図9(d)における座面11の高さH’を低くするために、車輪21のサイズを小さくする場合や、半安座や胡坐の姿勢を取れない使用者が、
図9(d)における座面11の高さH’を高くしたい場合などに使用される。
これらの場合においては、座面11の高低差(ΔH=H’-H)は自ずと小さくなるため、補助機構付座椅子1のような屈曲の機能は必要ないと考えられる。
本例の補助機構付座椅子4は機構部40が屈曲しないため、機構部40の構造が簡素化されるという利点がある。一方、実施の形態1の補助機構付座椅子1は補助機構付座椅子4に比較して座面の高低差を大きくできるので、座面11の地面からの距離を小さくすることができるので、使用者が草むしりなどの作業を無理なく行うことができる。
【0024】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0025】
例えば、前記実施の形態1,2では、補助機構付座椅子1,4の座面11の裏面の左右の端部に、側面視円弧状の接地部13cを備えた脚13を設けたが、
図10(a),(b)に示すように、脚13に替えて、ローラー14、もしくは、キャスターを設けてもよい。また、ローラー14としては、少なくとも左右に1個ずつローラー14a,14bを設ける必要がある。
また、前記実施の形態1,2では、使用者2が補助機構付座椅子1,4の座席部10の座面11にしゃがんで座った状態から腰かけて座った状態に移る際の立ち上がり動作を補助する場合について説明したが、
図11(a)に示すように、座席部10の座面11左右にそれぞれ背もたれ12の上方まで延長するハンドル15とハンドル15の角度を調整する角度調整機構(図示せず)を設ければ、
図11(b)に示すように、補助機構付座椅子1(または、補助機構付座椅子4)を容易に前方に牽引することができる。
なお、この場合には、ハブ23として、フリーホイール付のハブを用いる必要がある。すなわち、補助機構付座椅子1,4を前方に牽引するときには車輪21は正転方向に回転するするので、フリーホイールにより前進時における車輪21の回転と車軸22の回転とを切り離すようにすれば、補助機構付座椅子1,4を自走させることができる。その結果、補助機構付座椅子1,4を自由に牽引できるので、補助機構付座椅子1,4の移動が容易となる。また、使用者2が立ち上がった後には、補助機構付座椅子1,4を移動させる必要があるが、ハンドル15に高さがあるので、補助機構付座椅子1,4を持ち上げることなく移動させることができる。
なお、角度調整機構としては、和室など使用される座椅子の角度を段階的に変えるタイプの周知の角度調整機構を用いることができる。
また、従来の「腰かけ台車」の車輪が前後方向に直列配置であるのに対し、補助機構付座椅子1,4の車輪21は、並列配置(並輪)であるので、移動が容易である。
また、車輪部20にスタンドを設ければ、補助機構付座椅子1,4の静止時における座席部10の安定性が更に向上する。スタンドとしては、自転車などに用いられているスタンドが好適に用いられる。
【符号の説明】
【0026】
1 補助機構付座椅子、2 使用者、2a 臀部、2b 足、3 地面、
10 座席部、11 座面、11h 軸挿入孔、11k 切り欠き部、12 背もたれ、12a,12b 支持片、12c 背もたれ部材、12s 隙間、
13,13a,13b 脚、13c 接地部、
20 車輪部、20,21a,21b 車輪、21r ホイールリム、22 車軸、
23 ハブ、24 ラチェット、
30 機構部、31 座席側伝達軸、32 座席側伝達部材、33 車両側伝達軸、
34 車両側伝達部材、34a,34b 伝達片、34c 上側連結片、
34d 下側連結片。