(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117085
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】ケーブル防護具
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
E01D19/04 101
E01D19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019589
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507230382
【氏名又は名称】首都高メンテナンス西東京株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(71)【出願人】
【識別番号】393013618
【氏名又は名称】光海陸産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】牛越 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】中野 博文
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正博
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】中井 督介
(72)【発明者】
【氏名】東 旭
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和男
(72)【発明者】
【氏名】高野 雄造
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059AA41
2D059GG30
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】橋桁に落橋防止ケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が作用した場合に、横桁やダイヤフラムの通孔部分で落橋防止ケーブルが破断する恐れを防ぐことが可能であり、従来よりも降伏荷重の高い落橋防止ケーブルにも対応可能なケーブル防護具を提供する。
【解決手段】橋桁を支持する支持躯体から橋桁が落下することを防止するために、隣接する橋桁同志、又は、橋桁と橋台若しくは橋脚とを接続する落橋防止ケーブル(PCケーブル)102の破断を防止するケーブル防護具1を、落橋防止ケーブル102の外周に取り付けられるエンジニアリングプラスチック(MCナイロン)で構成される偏向具2と、通孔106の内周面と偏向具2との間に介在され、偏向具2よりも強度の高い金属(鋼材)で構成される固定板3と、固定板3に固定され、通孔106の両側の周縁に係止可能な少なくとも1対の位置決め部材5によって構成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁を支持する支持躯体から前記橋桁が落下することを防止するために、隣接する前記橋桁同志、又は、前記橋桁と橋台若しくは橋脚とを落橋防止ケーブルを介して接続し、この落橋防止ケーブルを、前記橋桁の横桁及びダイヤフラムの少なくとも一方に設けられた通孔を挿通させた上で、隣接する前記橋桁同志の間、又は、前記橋桁と前記橋台若しくは前記橋脚との間に張設する落橋防止装置に用いられるケーブル防護具であって、
前記落橋防止ケーブルの外周に取り付けられるエンジニアリングプラスチックで構成される偏向具と、
前記通孔の内周面と前記偏向具との間に介在され、前記偏向具に固定されると共に前記偏向具よりも強度の高い金属で構成される固定板と、
前記固定板に固定され、前記通孔の両側の周縁に係止可能な少なくとも1対の位置決め部材と、
を有することを特徴とするケーブル防護具。
【請求項2】
前記偏向具は、前記落橋防止ケーブルの周囲に周方向で3分割にして配された偏向具用分割部材によって構成され、
前記固定板は、前記通孔の内周面と前記偏向具との間に周方向で3分割にして配された固定板用分割部材によって構成され、
隣り合う前記偏向具用分割部材の分割部位と隣り合う前記固定板用分割部材の分割部位とを周方向でずらした状態で前記固定板と前記偏向具は固定されることを特徴とする請求項1記載のケーブル防護具。
【請求項3】
前記偏向具の内面は、軸方向の中央に向かって曲率半径が徐々に小さくなる湾曲面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のケーブル防護具。
【請求項4】
前記対をなす位置決め部材は、前記固定板の外周面に一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のケーブル防護具。
【請求項5】
前記対をなす位置決め部材は、記固定板を前記偏向具に固定するため用いる固定具によって前記固定板の外周面に固定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のケーブル防護具。
【請求項6】
前記偏向部(前記偏向具用分割部材)の軸方向の長さは、前記固定板(前記固定板用分割部材)の軸方向の長さよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のケーブル防護具。
【請求項7】
前記偏向具は、約120度の中心角の範囲で弧状に形成された3つ偏向具用分割部材で構成し、前記固定板は、約120度の中心角の範囲で弧状に形成された3つの固定板用分割部材で構成し、前記偏向具用分割部材と前記固定板用分割部材とは、周方向に約60度位相がずれていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のケーブル防護具。
【請求項8】
前記偏向具は、MCナイロンで形成され、前記固定板及び前記位置決め部材は、鋼材で形成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のケーブル防護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の災害時に橋桁が橋台や橋脚から落下することを防止するために設置されるPCケーブル型落橋防止装置に用いられる落橋防止ケーブル(PCケーブル)の破断を防止するケーブル防護具に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等の災害時において、橋梁に大きな揺れや衝撃が作用すると、橋脚や橋台の上に設置されている橋桁が落下する恐れがある。このため、橋梁には、隣接する橋桁同志や、橋桁と橋台若しくは橋脚とを連結する落橋防止装置が設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
図11及び
図12は、その一例を示すもので、図示しない橋脚の上で互いに隣接して載置された橋桁100同志を、落橋防止ケーブル(PCケーブル)102を用いた落橋防止装置101によって連結している。橋桁100の側壁には、鋼製の定着具103が固定され、この定着具103に設けられた平板状の止着部103aとこの止着部の面に配置された緩衝具104aにPCケーブル102の端部に固着されたマンション部102aを挿通させ、これら止着部103a及び緩衝具104aを挿通したマンション部102aの端部に、ストッパを構成するワッシャ104bとナット104cを装着させている。そして、ワッシャ104bと緩衝具104aとの間にマンション部102aを包囲するコイル状のスプリング104dを配置し、ナット104cを締め付けることで、PCケーブル102をたるみが無い状態で定着具103に固定するようにしている。
【0004】
この例において、定着具103は、橋桁100の両側壁のそれぞれの内面に、橋桁100の端部から橋軸方向の距離を異ならせて2つずつ並設され、それぞれの側壁において、橋桁100の端部に近い定着具同志を、橋桁100の端部に設けられた横桁100aに形成されている側壁近傍の通孔106を挿通させたPCケーブル102-1によって連結させ、また、橋桁100の端部から遠い定着具同志を、前記横桁100aの中央寄りに形成されている通孔106を挿通させたPCケーブル102-2によって連結させている。
なお、PCケーブル102を挿通させる通孔106の周縁には、その周縁を補強するために、環状のダブリングプレート107が横桁100aの少なくとも一方の面に溶接等により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-114549号公報
【特許文献2】特開平9-53205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、地震等において、PCケーブル102の軸方向と異なる方向に大きな力が作用すると、落橋防止装置のPCケーブル102が横桁100aの通孔106の内面に強く押し付けられる(
図13参照)。本来であれば、このPCケーブル102によって橋桁100の水平方向の移動が最小限に抑えられ、橋桁100の橋脚や橋台からの脱落を抑えることになるが、横桁100aに形成される通孔106は、通孔106の周縁をダブリングプレート107で補強する場合でも,せいぜい18mm程度の厚み(横桁110aの厚み(約9mm)に横桁の片面に設けられたダブリングプレート107の厚み(約9mm)を加えた厚み)であるので、PCケーブル102が通孔106の内面に押し付けられると、PCケーブル102に局所的に大きな剪断応力が作用し、PCケーブル102が破断する不都合が懸念される。
【0007】
このような不都合は、PCケーブル102が図示しないダイヤフラムとの干渉を避けるためにダイヤフラムに形成された通孔を挿通して設けられる場合にも同様に生じ得るものである。そこで、本出願人は、先に、PCケーブルの破断を防止するための各種ケーブル防護具を提案している(特開2019-49136)。
この提案した各種ケーブル防護具を用いれば、地震等において、PCケーブルが破断することなく橋桁の水平方向の移動が最小限に抑えられ、橋桁が橋脚や橋台から脱落することを抑えることが期待できる。
【0008】
しかしながら、ケーブル防護具の適応範囲を既設PCケーブルの約8割に高めるためには、より降伏荷重の高いPCケーブル(例えば、降伏荷重がF100の約1.32倍のPCケーブル:F130)の破断をも抑えることが可能なケーブル防護具の開発が要請されている。
【0009】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、地震等において、橋桁にPCケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が作用した場合に、横桁やダイヤフラムの通孔部分でPCケーブルが破断する恐れを防ぐことが可能であり、従来よりも降伏荷重の高いPCケーブルにも対応することが可能なケーブル防護具を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明に係るケーブル防護具は、橋桁を支持する支持躯体から前記橋桁が落下することを防止するために、隣接する前記橋桁同志、又は、前記橋桁と橋台若しくは橋脚とを落橋防止ケーブルを介して接続し、この落橋防止ケーブルを、前記橋桁の横桁及びダイヤフラムの少なくとも一方に設けられた通孔を挿通させた上で、隣接する前記橋桁同志の間、又は、前記橋桁と前記橋台若しくは前記橋脚との間に張設する落橋防止装置に用いられるケーブル防護具であって、
前記落橋防止ケーブルの外周に取り付けられるエンジニアリングプラスチックで構成される偏向具と、
前記通孔の内周面と前記偏向具との間に介在され、前記偏向具に固定されると共に前記偏向具よりも強度の高い金属で構成される固定板と、
前記固定板に固定され、前記通孔の両側の周縁に係止可能な少なくとも1対の位置決め部材と、
によって構成されることを特徴としている。
ここで、通孔の両側の周縁に係止可能とは、通孔の周縁にダブリングプレートが配される場合には、このダブリングプレートの内周縁に係止可能とする場合を含むものである。
また、偏向具は、例えば、MCナイロンで形成され、固定板や位置決め部材は、例えば、鋼材で形成するとよい。
【0011】
したがって、橋桁の落橋防止ケーブルを通す横桁やダイヤフラムの通孔には、落橋防止ケーブルの外周に設けられた偏向具と、通孔の内周面と偏向具との間に介在された、偏向具よりも強度の高い金属からなる固定板とが設けられ、固定板には通孔の両側の周縁に係止可能な少なくとも1対の位置決め部材が固定されているので、落橋防止ケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が作用したとしても、位置決め部材によってケーブル防護具の通孔からの変位が規制され、落橋防止ケーブルと通孔の内周面との間にケーブル防護具を確実に配置させておくことが可能となる。このため、落橋防止ケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が作用した場合には、落橋防止ケーブルは横桁やダイヤフラムの通孔の内周面に直接押し付けられることはなく、先ずは偏向具に押し付けられ、この偏向具とこれよりも強度の高い金属からなる固定板とを介して通孔の内周面に押し付けられる。したがって、通孔の内周面から受ける荷重は、偏向具よりも強度の高い金属からなる固定板で先ず受けることになるので、通孔の内周面から受ける荷重に耐え切ることができ、偏向具が通孔の内周面から局所的に大きな力を受けて破断することを回避することが可能となる。よって、ケーブル防護具の破損が抑えられるので、PCケーブルに局所的に作用する剪断応力を無くす又は低減することができ、PCケーブルの破断を回避することが可能となる。
【0012】
ケーブル防護具のより具体的な構成例としては、前記偏向具を、落橋防止ケーブルの周囲に周方向で3分割にして配された偏向具用分割部材によって構成し、前記固定板を、通孔の内周面と偏向具との間に周方向で3分割にして配された固定板用分割部材によって構成し、隣り合う偏向具用分割部材の分割部位と隣り合う固定板用分割部材の分割部位とを周方向でずらした状態にして固定板を偏向具に固定(例えば、ボルト止め)するようにしてもよい。
このような構成とすることで、ケーブル防護具の取付を容易に行うことが可能となり、また、組付けた状態のケーブル防護具の強度が部分的に弱くなることがなくなる。
【0013】
また、前記偏向具の内面は、軸方向の中央に向かって曲率半径が徐々に小さくなる湾曲面に形成されることが好ましい。このような構成とすることで、落橋防止ケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が作用した場合に、落橋防止ケーブルと偏向具との接触面積を大きくすることが可能となり、落橋防止ケーブルに作用する力を分散しやすくなる。
【0014】
ここで、固定板に固定される少なくとも1対の位置決め部材は、前記固定板(前記固定板用分割部材)の外周面に一体に形成してもよい。
このような構成においては、位置決め部材の取付位置が予め決められ、固定状態を微調整できないため、落橋防止ケーブルが通孔に対して直交して貫通するタイプに適したものとなる。
【0015】
また、少なくとも1対の位置決め部材は、固定板を偏向具に固定するため用いる固定具(例えば、ボルト)によって固定板(固定板用分割部材)の外周面に固定するようにしてもよい。
このような構成においては、位置決め部材を後付けすることが可能になるので、位置決め部材の大きさや固定する向き等を微調整することが可能となり、落橋防止ケーブルが通孔に対して斜めに貫通する箇所に適したものとなる。
【0016】
なお、偏向部(前記偏向具用分割部材)の軸方向の長さは、固定板(固定板用分割部材)の軸方向の長さよりも大きくするとよい。このような構成とすることで、固定板を安定して偏向具に取り付けることが可能となり、また、偏向具と落橋防止ケーブルとの接触面積を大きくすることが可能となる。
【0017】
最も好適な態様としては、前記偏向具を、約120度の中心角の範囲で弧状に形成された3つ偏向具用分割部材で構成し、前記固定板を、約120度の中心角の範囲で弧状に形成された3つの固定板用分割部材で構成し、前記偏向具用分割部材と前記固定板用分割部材とは、周方向に約60度位相をずらして固定するとよい。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明に係る落橋防止装置のケーブル防護具は、落橋防止ケーブルの外周に取り付けられたエンジニアリングプラスチックで構成された偏向具と、通孔の内周面と偏向具との間に介在され、偏向具よりも強度の高い金属で構成された固定板と、固定板に固定され、通孔の両側の周縁に係止可能な少なくとも1対の位置決め部材とを有して構成したので、PCケーブルの軸方向と異なる方向に大きな力が橋桁に作用しても、ケーブル防護具が通孔から外れることはなく、また、PCケーブルは、通孔の内周面に直接押し付けられず、偏向具および固定板を介して通孔の内周面に押し付けられる。したがって、通孔の内周面から作用する力は、強度の強い固定板によって先ず受けることになるので、通孔の内周面から受ける荷重に耐え切ることができ、さらに、この固定板の全体を介して偏向具に荷重が加えられるので、偏向具に局所的に大きな力が作用することを回避でき、偏向具の破断を抑えることが可能となる。また、落橋防止ケーブルは、前記固定板やエンジニアリングプラスチックで構成された偏向具を介して通孔の内周面からの荷重を受けるので、偏向具からの押しつけ力は分散又は低減した状態でPCケーブルに加えられ、PCケーブルの降伏荷重に相当する荷重が通孔の内周面からかかった場合でも、PCケーブルに剪断応力が局所的に作用することが無くなり、PCケーブル102の破断を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、隣接する橋桁間を連結する落橋防止装置の一例を示すもので、PCケーブルを横桁に設けられた通孔を挿通させて張設する構成において、本発明に係るケーブル防護具を通孔に設ける状態を説明する概念図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るケーブル防護具の第1の構成例を示す図であり、ケーブル防護具を通孔に設けた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2で示すケーブル防護具の取付状態を説明する図であり、(a)は(b)のA-A線で切断した断面図、(b)は(a)のB-B線で切断した断面図である。
【
図4】
図4は、偏向具を構成する偏向具用分割部材を示す図であり、(a)は、(b)のC-C線で切断した断面図、(b)は、(a)のD-D線で切断した断面図、(c)は(a)を上方から見た図である。
【
図5】
図5は、固定板を構成する固定板用分割部材を示す図であり、(a)は、(b)のE-E線で切断した断面図、(b)は、(a)を右方から見た図である。
【
図6】
図6は、本発明に係るケーブル防護具の第2の構成例を示す図であり、ケーブル防護具を通孔に設けた状態を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6で示すケーブル防護具の取付状態を説明する図であり、(a)は(b)のA-A線で切断した断面図、(b)は(a)のB-B線で切断した断面図である。
【
図8】
図8は、偏向具を構成する偏向具用分割部材を示す図であり、(a)は、(b)のC-C線で切断して軸方向に見た断面図、(b)は、(a)のD-D線で切断した断面図、(c)は(a)を上方から見た図である。
【
図9】
図9は、固定板を構成する固定板用分割部材を示す図であり、(a)は、(b)のE-E線で切断した断面図、(b)は、(a)を右方から見た図である。
【
図10】
図10は、
図9の固定板に取り付けられる位置決め部材を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、従前の橋桁の落橋防止装置を示す図であり、(a)は、橋桁に設けられる落橋防止装置を橋軸方向から見た図、(b)は、落橋防止装置の定着具にPCケーブルの端部を固定する部分を示す拡大斜視図である。
【
図12】
図12(a)は、隣接する橋桁間を連結するPCケーブルを横桁に設けられた通孔を挿通させた上で張設する従来例を示す概念図であり、
図12(b)は、
図12(a)の落橋防止装置の定着具にPCケーブルの端部を固定した部分を示す拡大側面図である。
【
図13】
図13は、
図12(a)で示す状態から、PCケーブルの軸方向と異なる方向の力が橋桁に作用して橋桁がずれた状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る落橋防止装置のケーブル破断防止構造を添付図面を参照しながら説明する。
図1において、隣接する橋桁同志を接続するPCケーブル102を、橋桁100の横桁100aに設けられた通孔106を挿通させた上で橋桁間に張設した落橋防止装置101の例が示されている。この落橋防止装置101は、それ自体従来と同様の構成であるので説明を割愛するが、この既存の落橋防止装置101に対して、各通孔106に後述するケーブル防護具1をPCケーブル102と通孔106の内周面との間に装着させるようにしている。
【0021】
なお、この例においては、従前と同様、橋桁100の両側壁のそれぞれの内面に、橋桁100の橋軸方向で端部からの距離を異ならせて定着具103が2つずつ並設され、それぞれの側壁側で、橋桁100の端部に近い定着具同志を、橋桁100の端部に設けられた横桁100aの側壁近傍に形成されている通孔106を挿通させたPCケーブル102-1によって連結し、また、橋桁100の端部から遠い定着具同志を、前記横桁100aの中央寄りに形成されている通孔106を挿通させたPCケーブル102-2によって連結させている。
【0022】
また、PCケーブル102を挿通させる通孔106は、その周縁を補強するために、環状のダブリングプレート107が横桁100aの片面に溶接等により接合される場合がある。この場合には、このダブリングプレート107の通孔を含めて横桁100aの通孔106と捉えるものとする。
したがって、通孔部分の厚み(通孔の内周面の幅)は、ダブリングプレートが設けられるものにあっては、横桁の厚みにダブリングプレートの厚みを加えた厚みとなる。
【実施例0023】
図2及び
図3にケーブル防護具1の第1の構成例が示されている。
このケーブル防護具1は、PCケーブル102の外周に取り付けられる偏向具2と、通孔2の内周面の全周と偏向具2との間に介在される固定板3と、固定板に固定された位置決め部材5とを有して構成されている。
【0024】
偏向具2は、ケーブル挿通孔2aが中央に形成された筒状に形成されているもので、PCケーブル102を内包するようにPCケーブル102の周囲に分割して配置された複数(この例では、3つ)の偏向具用分割部材21,22,23を周方向に順次隣接させて構成されている。それぞれの偏向具用分割部材21,22,23は、略同形状に形成され、PCケーブル102の外周面に沿って湾曲し、
図4にも示すように、中心角で略120度の円弧状をなしている。このような偏向具2(偏向具用分割部材21,22,23)は、機械的強度が汎用プラスチックより高いMCナイロン、FRP等のエンジニアリングプラスチックで形成され、特に、MCナイロンで形成されることが好ましい。
【0025】
また、偏向具2(偏向具用分割部材21,22,23)の内面は、軸方向の中央に向かって曲率半径が徐々に小さくなる湾曲面に形成され、したがって、偏向具の周壁の厚みは、中央部で最も厚くなり、両端部に向かうにつれて徐々に薄くなるように形成されている。
このため、3つの偏向具用分割部材21,22,23を環状に組み合わせた状態において、ケーブル挿通孔2aは、中間部において内径が最も小さくなり、両端部に向かうにつれて内径が徐々に大きくなるように形成されている。この偏向具2の中間部の内径は、PCケーブル102の外形にほぼ等しいか少し大きく形成されている。
なお、偏向具2の外周面は、軸方向に湾曲されることなく軸方向の一端から他端にかけて同じ径(外径)に形成されている。
【0026】
したがって、PCケーブル102が偏向具2のケーブル挿通孔2aの内周面に沿って湾曲した場合には、PCケーブル102と偏向具2との接触面積が大きくなり、PCケーブルに側方から作用する荷重が局所的に作用しないようになっている。
また、偏向具用分割部材21,22,23のそれぞれには、外周面から内周面にかけて貫通するネジ孔25が、周方向のそれぞれの縁部から略30度の位置であって、軸方向のそれぞれの端部と中間部との間の計4箇所に形成されている。したがって、偏向具用分割部材21,22,23の軸方向の中間部とそれぞれの端部との間には、略60度の間隔をあけて2つのネジ孔25が形成されている。
【0027】
これに対して固定板3は、偏向具挿通孔3aが中央に形成された筒状に形成されているもので、偏向具2を内包するように偏向具2の周囲と通孔106の内周面との間に分割して配置された複数(この例では、3つ)の固定板用分割部材31,32,33を周方向に順次隣接させて構成されている。それぞれの固定板用分割部材31,32,33は、略同形状に形成され、偏向具2の外周面に沿って湾曲し、
図5にも示すように、中心角で略120度の円弧状をなしている。このような固定板3(固定板用分割部材31,32,33)は、その全体が鋼材(例えば、SS400)で形成されている。
固定板3の外径は、通孔106の内径と略等しいか、それより少し小さく形成れ、また、固定板3の内径は、偏向具2の外形にほぼ等しいか、これより少し大きく形成されている。
【0028】
また、固定板用分割部材31,32,33のそれぞれには、外周面から内周面にかけて貫通するボルト挿通孔35が、周方向のそれぞれの縁部から略30度の位置であって、軸方向のそれぞれの端部と中間部との間の計4箇所に形成されている。したがって、固定板用分割部材31,32,33の軸方向の中間部とそれぞれの端部との間には、略60度の間隔をあけて2つのボルト挿通孔35が形成されている。
【0029】
さらにそれぞれの固定板用分割部材31,32,33の軸方向の中央部の外周面には、通孔106が形成された横桁の厚み(ダブリングプレートがある場合には、そのダブリングプレートを含む厚み)以上に隔てて対向配置され、横桁(さらにダブリングプレートがある場合には、そのダブリングプレート)を間に配置して通孔106の両側の内周縁に係止可能とする少なくとも一対の位置決め部材5が一体に形成されている。
【0030】
この位置決め部材5は、通孔106の内側に取り付けられる固定板3が軸方向に大きくずれない機能を有するものであれば、大きさや形状は限定されるものではなく、また、対をなす位置決め部材5は、固定板3の周方向に等間隔に複数設けられるものであってもよい(この例では、各固定板用分割部材31,32,33に1対ずつ(計3対)設けられている)。
対をなす位置決め部材5の間隔は、前述のごとく、横桁の厚み(さらにダブリングプレートがある場合には、そのダブリングプレートを加えた厚み)にほぼ一致させたものであっても、通孔106の周縁と位置決め部材5との間に所定の隙間を持たせたものであってもよい。また、位置決め部材5の厚みも、固定板3(固定板用分割部材31,32,33)の厚みと同じであっても、固定板3(固定板用分割部材31,32,33)より薄いものであってもよい。
【0031】
そして、偏向具2と固定板3とは、隣り合う偏向具用分割部材21,22,23の分割部位と隣り合う固定板用分割部材31,32,33の分割部位とを周方向に約60度ずらし、偏向具2(偏向具用分割部材21,22,23)のネジ孔25と固定板3(固定板用分割部材31,32,33)のボルト挿通孔35の位置を整合させた状態として固定ボルト4を径方向外方からボルト挿通孔35に通してネジ孔25に螺合させることで互いに固定されている。
【0032】
以上の構成において、ケーブル防護具1を通孔106の内周面とPCケーブル102との間に取り付けるには、通孔106の内周面とこの通孔106に挿通されている既設のPCケーブル102との隙間に固定板用分割部材31,32,33を順次挿入し、対をなす位置決め部材5間を通孔106の位置に合わせ、その状態で固定板用分割部材31,32,33を径方向外側へ移動させて対をなす位置決め部材5の間に通孔106の内周縁を位置させ(通孔106の内周縁を対をなす位置決め部材5で挟み込み)、その状態を維持して固定板3の内周面とPCケーブル102との隙間に偏向具用分割部材21,22,23を挿入し、偏向具用分割部材21,22,23の中央を固定板3の軸方向中央に一致させると共に周方向に移動させて固定板用分割部材31,32,33のボルト挿通孔35と偏向具用分割部材21,22,23のネジ孔25とを整合させ、その状態で固定板3(固定板用分割部材31,32,33)のボルト挿通孔35に固定ボルト4を外側から挿通して偏向具2(偏向具用分割部材21,22,23)のネジ孔5に螺合させる。
これにより、ケーブル防護具1は、通孔106の内周面の全周とPCケーブル102との間に配置され、位置決め部材5が通孔106の内周縁に係止されることによって通孔106からずれることなく設置される。
【0033】
したがって、このようなケーブル防護具1が通孔106に取り付けられると、エンジニアリングプラスチックからなる偏向具2の軸方向で中間部の内径が最も小さくなるように湾曲した湾曲面がPCケーブル102の外周面に当接され、また、偏向具2よりも強度の高い金属製の固定板3が、偏向具2と通孔106の内周面との間に固定されるので、PCケーブル102の軸方向と異なる方向に(例えば、橋軸直角となる水平方向)に大きな力が橋桁100に作用しても、PCケーブル102は、横桁100aの通孔106の内周面に直接押し付けられず、偏向具2の内周面に沿って撓むので、偏向具2との接触面積が大きくなり、この偏向具2および固定板3を介して通孔106の内周面に押し付けられる。
【0034】
このため、横桁の通孔106の内周面から作用する力は、強度の強い固定板3によって先ず受けることになるので、通孔の内周面から受ける荷重に耐え切ることができ、この固定板3の内面全体を介して偏向具2に荷重が加えられるので、偏向具が通孔の内周面から局所的に大きな力を受けることを回避でき、偏向具の破断を抑えることが可能となる。また、偏向具2の内面とPCケーブルとの接触面積は大きくなるので、偏向具からの押しつけ力は分散した状態でPCケーブルに加えられることになり、PCケーブル102に剪断応力が局所的に集中することを避けることができ、PCケーブル102の破断を防ぐことが可能となる。
この位置決め部材5は、偏向具2の各ネジ孔25に対応して設けられており、各固定板用分割部材31,32,33に2対ずつ(固定板全体として計6対)設けられている)。したがって、斜め貫通タイプにおいては、固定板3を偏向具2に固定する固定ボルト4を利用して位置決め部材5を固定するので、軸方向で対向する位置決め部材5の間隔は大きくなるが、通孔106の両側に設けられた対をなす位置決め部材5の立設片5bは、横桁100aの通孔106の周縁に係止可能となるため、ケーブル防護具1が通孔106から外れることがなくなる。
したがって、ケーブル防護具1は、通孔106から外れることなく固定されるので、このような構成においても、エンジニアリングプラスチックからなる偏向具2の軸方向で中間部の内径が最も小さくなるように湾曲した湾曲面がPCケーブル102の外周面に当接され、また、偏向具2より強度の高い金属製の固定板3が、偏向具2と通孔106の内周面との間に固定されるので、PCケーブル102の軸方向と異なる方向に(例えば、橋軸直角となる水平方向)に大きな力が橋桁100に作用しても、PCケーブル102は、横桁100aの通孔106の内周面に直接押し付けられず、偏向具2の内周面に沿って撓むので、偏向具2との接触面積が大きくなり、この偏向具2および固定板3を介して通孔106の内周面に押し付けられる。
このため、横桁の通孔106の内周面から作用する力は、強度の強い固定板3によって先ず受けることになるので、通孔の内周面から受ける荷重に耐え切ることができ、この固定板3の内面全体を介して偏向具2に荷重が加えられるので、偏向具が通孔の内周面から局所的に大きな力を受けることを回避でき、偏向具の破断を抑えることが可能となる。また、偏向具2の内面とPCケーブルとの接触面積は大きくなるので、偏向具からの押しつけ力は分散した状態でPCケーブルに加えられることになり、PCケーブル102に剪断応力が局所的に集中することを避けることができ、PCケーブル102の破断を防ぐことが可能となる。
なお、以上の例では、隣接する橋桁100同士を落橋防止装置101で連結させた例について述べたが、橋桁100と図示しない橋台や橋脚とを落橋防止装置で接続する場合においても、PCケーブル102を橋桁100の横桁100aに形成された通孔106を挿通させる構成であれば、同様の構成を適用可能であり、また、PCケーブル102の接続構造が異なる落橋防止装置101においても同様の構成が採用可能である。
また、上述の例では、横桁100aに設けられた通孔106にケーブル防護具1を設けた例を示したが、PCケーブル102がダイヤフラムとの干渉を避けるために図示しないダイヤフラムに設けられた通孔を挿通させるような場合にも、ダイヤフラムの通孔に同様のケーグル防護具1を取り付けてPCケーブル102の破断を防止するようにしてもよい。