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特開2023-117096スチレンオリゴマー分解方法、及びそれに用いるスチレンオリゴマー分解性細菌
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117096
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】スチレンオリゴマー分解方法、及びそれに用いるスチレンオリゴマー分解性細菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230816BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230816BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20230816BHJP
   C12R 1/63 20060101ALN20230816BHJP
【FI】
C12N1/20 F
C12N1/00 R ZNA
C12N1/20 D
C12N1/20 A
C08J11/10 ZAB
C12R1:63
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019607
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】522055980
【氏名又は名称】一般社団法人Albatross Alliance
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 海
(72)【発明者】
【氏名】本田 匡人
(72)【発明者】
【氏名】木谷 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊男
(72)【発明者】
【氏名】松原 創
(72)【発明者】
【氏名】道祖土 勝彦
【テーマコード(参考)】
4B065
4F401
【Fターム(参考)】
4B065AA55X
4B065AC20
4B065CA46
4B065CA56
4F401AA11
4F401CA91
4F401EA90
(57)【要約】
【課題】海洋・湖沼・河川等に蓄積している三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーをスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解するスチレンオリゴマー分解方法、及びその方法に使用されるスチレンオリゴマー分解性細菌を提供する。
【解決手段】スチレンオリゴマー分解方法は、海洋細菌を含む懸濁液と混合することにより、3量体以上のスチレンオリゴマーを含む汚染水中の前記スチレンオリゴマーを、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解するというものである。スチレンオリゴマー分解性細菌が、Vibrio属Harveyi亜種であり、具体的には受託番号がNITE P-03589であるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋細菌を含む懸濁液と混合することにより、3量体以上のスチレンオリゴマーを含む汚染水中の前記スチレンオリゴマーを、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解することを特徴とするスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項2】
前記スチレンオリゴマーが、海洋・湖沼・河川の水中のポリスチレン由来のマイクロプラスチックの分解化合物であることを特徴とする請求項1に記載のスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項3】
前記スチレンオリゴマーが、スチレントリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載のスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項4】
前記海洋細菌が、アジの腸由来の細菌であることを特徴とする請求項1に記載のスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項5】
前記海洋細菌が、Vibrio属Harveyi亜種であることを特徴とする請求項1に記載のスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項6】
前記海洋細菌が、受託番号がNITE P-03589であることを特徴とする請求項1に記載のスチレンオリゴマー分解方法。
【請求項7】
Vibrio属Harveyi亜種であることを特徴とするスチレンオリゴマー分解性細菌。
【請求項8】
受託番号がNITE P-03589であるものであることを特徴とする請求項7に記載のスチレンオリゴマー分解性細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレンのマイクロプラスチックの分解化合物であるスチレンオリゴマーを、無害又は低毒性のスチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解するスチレンオリゴマー分解方法、及びそれに用いるスチレンオリゴマー分解性細菌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1950年から2015年におけるプラスチック生産量は世界全体で約83億トンに上り、2015年以降のプラスチック生産量は、毎年約3億トンずつ増加していると言われている。これらのプラスチックのうちリサイクルされているのは僅か9%であり、それ以外は、地中への埋設処理又は焼却処理され、一部放棄されて遂には海洋で漂う海洋ゴミとなっている。これら海洋ごみとなったプラスチックポリマーが、海洋環境において紫外線による化学的劣化や、波などに依る機械的な細断化により、マイクロプラスチックとなってしまうので、世界的な海洋汚染問題となっている。
【0003】
海洋環境中に占めるプラスチックポリマーの上位は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)の3種類であると報告されている。従来、これらプラスチックポリマーは、難分解性であり、海洋という低温の環境下では分解しないと言われてきた。しかし、実際には、精製ポリスチレンであれば、30~150℃で分解し、分解したポリスチレン中のスチレンモノマー(SM):スチレンダイマー(SD):スチレントリマー(ST)の組成比が1:1:5であることが報告されている。現に海洋環境中には、プラスチックポリマー由来のスチレンオリゴマー(SOs)が多量に存在している。
【0004】
日本沿岸域における海水中のスチレンオリゴマー(SOs)の濃度は、0.65~8.65μg/L(平均4.03μg/L)と報告されている。その中でも特に、スチレントリマー(ST)が日本沿岸域の海水中に0.35~6.97μg/L(平均3.26μg/L)と報告されている。また、世界の他の海域でも同様にスチレントリマー(ST)が検出されている。海洋中では、スチレンモノマーの約7倍ものスチレントリマーが含まれている。
【0005】
マイクロプラスチック由来のポリスチレンの分解については、非特許文献1のように、スチレンモノマーに集中しており、その酵素の研究も進んでいる。また、特許文献1のように、ポリスチレン分解能を有するArthrobacter属、Xanthomonas属、Sphingobacterium-Like、Bacillus属のいずれかに属する微生物をスチレン系重合体と接触させる工程を含む、スチレン系重合体の分解方法が、開示されている。
【0006】
しかし、スチレントリマーを無害又は低毒性のものに分解する詳細は分かっておらず、またそのための細菌は単離されていなかった。
【0007】
マイクロプラスチック由来のポリスチレンやその分解物であるスチレンオリゴマーが海洋環境中の生物に影響を与えている可能性が高いと考えられる。本発明者らは、海洋中で、スチレントリマーが有害であるが、スチレントリマーをスチレンダイマーやスチレンモノマーに分解できる細菌を見出すと共に、スチレンダイマーやスチレンモノマーに分解すればほぼ無害又は低毒性であることを見出し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pu et al., Characterization of two styrene monooxygenases from marine microbes. Enzyme and Microbial Technology 112 (2018) 29-34
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-163004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、海洋・湖沼・河川等に蓄積している三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーをスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解するスチレンオリゴマー分解方法、及びその方法に使用されるスチレンオリゴマー分解性細菌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされたスチレンオリゴマー分解方法は、海洋細菌を含む懸濁液と混合することにより、3量体以上のスチレンオリゴマーを含む汚染水中の前記スチレンオリゴマーを、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解するというものである。
【0012】
このスチレンオリゴマー分解方法は、例えば、前記スチレンオリゴマーが、海洋・湖沼・河川の水中のポリスチレン由来のマイクロプラスチックの分解化合物であるというものである。
【0013】
このスチレンオリゴマー分解方法は、前記スチレンオリゴマーが、スチレントリマーを含むことが好ましい。
【0014】
このスチレンオリゴマー分解方法は、例えば前記海洋細菌が、アジの腸由来の細菌であるというものである。
【0015】
このスチレンオリゴマー分解方法は、前記海洋細菌が、Vibrio属Harveyi亜種であることが好ましい。
【0016】
このスチレンオリゴマー分解方法は、具体的には受託番号がNITE P-03589であるというものである。
【0017】
前記の目的を達成するためになされたスチレンオリゴマー分解性細菌は、Vibrio属Harveyi亜種であることを特徴とする。
【0018】
このスチレンオリゴマー分解性細菌は、具体的には受託番号がNITE P-03589であるというものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスチレンオリゴマー分解方法によれば、ポリスチレンのマイクロプラスチック由来のもので、海洋・湖沼・河川等に蓄積している三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーを無害又は低毒性のスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解することができる。
【0020】
本発明のスチレンオリゴマー分解性細菌は、スチレンオリゴマー分解方法に用いることができ、海洋細菌であって、天然に存在するものであり、安全でかつ有害なスチレンオリゴマーを無害化又は低毒性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を適用するスチレントリマー含有培地でのスチレンオリゴマー分解性細菌の増殖を示すグラフである。
図2】本発明を適用するスチレンオリゴマー分解方法によるスチレンオリゴマーの分解状況を示すGC/MSチャートを示す図である。
図3】本発明を適用するスチレンオリゴマー分解性細菌の顕微鏡写真を示す図である。
図4】スチレンオリゴマーのERαへの結合活性を示すグラフである。
図5】スチレンオリゴマーのERβへの結合活性を示すグラフである。
図6】甲状腺ホルモン受容体1及び2へのスチレンオリゴマーの結合活性を示すグラフである。
図7】メダカの肝臓におけるビテロゲニンの遺伝子発現解析の結果を示すグラフである。
図8】スチレントリマー処理による.金魚のうろこのALP活性を示すグラフである。
図9】スチレントリマー処理による金魚のうろこのTRAP活性を示すグラフである。
図10】スチレンダイマー処理による金魚のうろこのALP活性を示すグラフである。
図11】スチレンダイマー処理による金魚のうろこのTRAP活性を示すグラフである。
図12】スチレンモノマー処理による金魚のうろこのALP活性を示すグラフである。
図13】スチレンモノマー処理による金魚のうろこのTRAP活性を示すグラフである。
図14】E2処理による金魚のうろこのALP活性(骨芽細胞)を示すグラフである。
図15】E2処理による金魚のうろこのTRAP活性(破骨細胞)を示すグラフである。
図16】スチレントリマー注入による12時間および24時間での血漿Caレベルを示すグラフである。
図17】スチレントリマー投与後12時間でのメジナの血漿カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および無機リン(Pi)レベルを示すグラフである。
図18】スチレントリマー投与後24時間でのメジナの血漿ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、およびカリウム(K)レベルを示すグラフである。である。
図19】スチレントリマー投与後12時間でのメジナの血漿ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、およびカリウム(K)レベルを示すグラフである。
図20】スチレントリマー投与後24時間でのメジナの血漿カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および無機リン(Pi)レベルを示すグラフである。
図21】スチレントリマー処理によるalp mRNA発現を示すグラフである。
図22】スチレントリマー処理によるdkk-1 mRNA発現を示すグラフである。
図23】スチレントリマー処理によるnfatcl mRNA発現を示すグラフである。
図24】スチレントリマー処理によるcathepsin K mRNA発現を示すグラフである。
図25】スチレントリマー処理による増加シグナル伝達経路のRNAシーケンシング分析のパスウェイ解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
本発明のスチレンオリゴマー分解方法は、水質汚染の原因となっているポリスチレンのマイクロプラスチック由来のもので、海洋・湖沼・河川等に蓄積している三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーを、無害又は低毒性のスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解するもので、海洋細菌により、その汚染水を浄化するものである。
【0024】
このスチレンオリゴマー分解方法は、このような汚染水に、海洋細菌が含まれている懸濁液を混合することにより、汚染水を浄化するというものである。
【0025】
汚染水中のスチレンオリゴマーは、ポリスチレンの分解化合物、特にポリスチレンのマイクロプラスチック由来のもので3量体以上のスチレンオリゴマー、とりわけスチレントリマーを、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解するというものである。スチレンモノマーは比較的不安定で速やかにスチレンダイマーになってしまうようである。
【0026】
スチレントリマーは、魚類のエストロゲン受容体と結合し、エストロゲン様作用の誘導が引き起こされて、ビテロゲニンに誘導され、自然界で魚類の内分泌をかく乱するようである。また、骨芽細胞と破骨細胞の酵素活性を上昇させたり、海産魚の浸透圧調節に悪影響を及ぼしたりしているようである。
【0027】
このスチレンオリゴマーを分解する海洋細菌は、アジの腸由来の細菌であり、具体的にはVibrio属Harveyi亜種であって、例えば、その一態様として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、令和4年1月20日付けで受託番号NITE P-03589として寄託された細菌である。
【0028】
スチレンオリゴマーを分解する海洋細菌は、液体培地で培養可能である。培地内でのスチレンオリゴマー分解海洋細菌の数・濃度は特に限定されないが、細菌を液体培地で培養し、遠心分離機にて集菌して用いることができる。
【0029】
海洋中のスチレンオリゴマー(SOs)、例えば日本沿岸域における海水中のスチレンオリゴマーは濃度0.65~8.65μg/L(平均4.03μg/L)であり、スチレントリマー(ST)が日本沿岸域の海水中に0.35~6.97μg/L(平均3.26μg/L)であることが知られているが、スチレンオリゴマー(とりわけスチレントリマー)が少なくとも10mg/Lまでであれば、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解できる。
【実施例0030】
本発明のスチレンオリゴマー分解性細菌、及びそれを用いたスチレンオリゴマー分解方法実施例について、具体的に説明する。
【0031】
海産魚が脱水を補うために、海水を飲み、その海水に含まれる菌を腸内で濃縮していることに注目して、各種海産魚からスチレンオリゴマー分解菌を探索した。
【0032】
(調製実施例1:単離・同定)
(1-1. 実験材料)
市中の鮮魚店から購入したアジ(Caranginae)、イシガキダイ(Oplegnathus punctatus)、カナガシラ(Lepidotrigla microptera)、キジハタ(Epinephelus akaara)、クロゲンゲ(Lycodes nakamurae)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、サバフグ(Lagocephalus spadiceus)、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)の8魚種の海産魚を用いた。
【0033】
(1-2. ALLEN海水の調製)
細菌を懸濁及び培養するために、公知の手法に準じてALLEN海水を調製し(鈴木信雄ら、日本水産学会誌、58(2),p.323-328)、次いで純水で2倍に希釈し、滅菌濾過してから実験に用いた。
【0034】
(1-3. 腸内細菌のサンプリング)
解剖用のハサミとピンセットを用いて各海産魚の腹を開き、腸をサンプリングした。腸の端を切り取り、腸内容物を15mLチューブに入れた。1/2ALLEN海水を8mL加え、ボルテックスミキサーにて撹拌した。別の15mLチューブを用意し、1/2ALLEN海水にて腸内容物溶液を40倍に希釈し、寒天培養塗布液とした。
【0035】
(1-4.スチレンオリゴマー含有寒天培地の調製)
菌のスクリーニングには、スチレンオリゴマーのみを栄養源とした培地を用いて行った。即ち、濾過滅菌した1/2ALLEN海水500mLに対して1.5%の寒天粉末(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、高圧滅菌した。その後150mLずつ分注し、1mg/Lとなるようにスチレンオリゴマー溶液をそれぞれ添加し、シャーレに分注し、1mg/Lスチレンオリゴマー含有寒天培地とした。また、同様の操作で10mg/Lスチレンオリゴマー含有寒天培地を調製した。
【0036】
(1-5. 一次スクリーニング)
1mg/Lスチレンオリゴマー含有寒天培地の表面に、40倍に希釈した腸内容物溶液を塗布し、15℃で12日間インキュベートを行った。インキュベート後、発生したコロニーを1/2ALLEN海水にて懸濁し、-80℃で保管した。一次スクリーニングの結果を、表1に示す。〇はコロニー形成数が多数、△はコロニー形成が少数、NDはコロニー未検出の三段階で評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
一次スクリーニングでは1mg/Lのスチレンオリゴマーを塗抹したが、スチレンダイマー及びスチレントリマーでは多くの魚種からの腸内細菌が生育した。しかし、これは腸内容物の栄養分で細菌が増殖し、コロニーを形成した可能性が高い。したがって、一次スクリーニングで生育したコロニーをピックアップし、スチレンオリゴマーの濃度を10倍量にして追試験を行う必要があった。
表1から明らかな通り、1mg/Lの濃度のスチレンモノマーでは、何れの魚種でもコロニーが認められなかった。しかし、スチレンダイマーでは、アジ、キジハタ、クロゲンゲ、カナガシラ、サバフグでコロニーが認められた。また、スチレントリマーではアジ、キジハタ、クロゲンゲ、カナガシラ、クロダイ、ヒラメでコロニーが認められた。
【0039】
(1-6. 二次スクリーニング)
寒天培地に含有されたスチレンオリゴマーの濃度を10mg/Lに上げたこと以外は一次スクリーニングと同様にして、二次スクリーニングを行った。寒天培地に生育したコロニーは液体培地(ペプトン1%、酵母エキス0.5%を含む1/2ALLEN海水培地)に懸濁し、液体培地と等量の80%グリセロールを加え、-80℃で保管した。一次スクリーニングの結果を、一次スクリーニングと同様に、表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2から明らかな通り、10mg/Lの濃度のスチレンモノマーでは、一次スクリーニング時と同様にコロニーが認められなかった。しかし、スチレンダイマーでは、キジハタ、クロゲンゲ、アジでコロニーが認められた。また、スチレントリマーではアジ、クロゲンゲのコロニーが認められた。
【0042】
(1-7. 濁度の測定)
グリセロールストックした細菌を液体培地(ペプトン1%、酵母エキス0.5%を含む1/2ALLEN海水培地)で培養し、遠心分離機にて集菌後、1/2ALLEN海水にて洗浄した。10μg/L、10mg/Lスチレントリマーを添加した1/2ALLEN海水に細菌を懸濁し、15℃で24時間振とう培養した。培養液を200μLずつ測り取って96穴プレート(丸底)に移し、初期(Initial)と24時間経過後の濁度を測定した。二次スクリーニングでスチレントリマーの培地にて生育したアジの腸内細菌(Experimantalと表示)のコロニーを用いて実験を行った。なお、測定時は1サンプルにつき96穴プレート(丸底)のウエルを2つ用い、濁度の平均値を算出した。濁度測定を3回繰り返し行った結果を、図1に示す。
【0043】
このアジの腸内細菌を用いて濁度を測定した。その結果、濁度測定を3回繰り返し行ったが、再現性が高く、スチレントリマー入りの培養液のみの濁度と比較して、アジの腸内細菌の懸濁液を添加したアジ-スチレントリマー培養液において濁度の上昇が見られた。さらにGC/MS分析により、実際にスチレントリマーからスチレンダイマーへ分解が引き起こされていることが明らかとなった。
図1から明らかな通り、スチレントリマー培養液のみ(Controlと表示)の濁度と比較し、アジの腸内細菌の懸濁液を添加したアジ-トリマー培養液において、菌の増殖を確認できた。また、菌の増殖は、3回とも同様な結果が得られており、菌の増殖についての再現性を確認することができた。
【0044】
(1-8. GC/MS分析と前処理)
前処理に用いるガラス器具を洗浄後、アセトンとヘキサンで有機溶媒洗浄した。共栓試験管S-50(株式会社マルエム社製;商品名)に10μg/Lスチレン混合内標準液(IS)を100μL添加した。サンプル培養液を5mL共栓試験管に移し、ジクロロメタンを10mL測り取って加え、300rpmで20分間振とうさせた。振とう後、1500rpmで5分間、4℃にて遠心分離機Model 2410(久保田商事株式会社製;商品名)で遠心分離した。
パスツールピペットを用いて沈殿層を別の共栓試験管に移し、再度ジクロロメタンを10mL加え、再抽出した。抽出液に無水硫酸ナトリウムを5g測り取って加え、300rpm,10分間振とうさせ脱水を行った。抽出液を濾過後、窒素吹き付けによる濃縮を行い、GC/MS分析用サンプルとした。その後、ガスクロマトグラフ質量分析計GC/MSとしてAgilent6890(アジレント・テクノロジー株式会社製;商品名)を用いて、単離した菌によるスチレントリマーの分解能を調べた。前項の濁度測定を行ったサンプルについてGC/MS分析した結果を、図2に示す。
【0045】
図2から明らかな通り、スチレンダイマーの分子量であるm/z91におけるトリマー培養液のみのピーク面積が2,326であるのに対し、アジの腸から単離した海洋細菌を入れて培養したトリマー培養液のピーク面積が8,872であった。このことから、この海洋細菌によって、培養液中にスチレンダイマーが顕著に増加していたことが示された。これは、スチレントリマーが、アジの腸内細菌により分解され、スチレントリマーをスチレンダイマーに分解したことを示している。従って、この海洋細菌は、三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーをスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解するスチレンオリゴマー分解性の海洋細菌、即ちスチレントリマー分解性細菌であった。
【0046】
(1-9. アジの腸内容物からの海洋細菌の同定)
一般財団法人日本食品分析センターにて、このスチレントリマー分解性細菌含有サンプルについて、形態観察及び生理的性状試験を行い、以下のようにして、海洋細菌を同定した。
【0047】
形態観察(図3参照)、及び生理的性状試験、16S rRNA領域のDNA(上流側約500bp)の塩基配列の解析及び相同性検索の結果(表3参照)から明らかなとおり、海洋から単離したスチレントリマー分解性細菌は、98.7%以上の相同性が認められたVibrio harveyiに近縁の亜種である可能性が示された。なお、塩基配列の解析条件は、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Life Technologies Corporation社製;商品名)を用い、データベースとして国際塩基配列データベース(DDBJ/EMBL/GenBank)及びMicroSeq ID Analysis Software (Life Technologies Corporation)を用いた相同性検索を行った。
【0048】
【表3】
【0049】
以下に、単離した細菌のキャラクタリゼーションを示す。表4の通り、このスチレントリマー分解性細菌は、形態が桿菌~短桿菌であり、運動性が認められた。グラム染色性と芽胞の試験項目は陰性だった。また、オキシダーゼ活性とカタラーゼ活性の試験項目は陽性であった。OF(Oxidation、Fermentation)試験では発酵を示した。酸素に対する態度から通性嫌気性であることが明らかとなった。特徴的集落色素は生成されなかった。V-P(Voges-Proskauer)反応は見られず、8%NaCl存在下での生育も見られなかった。アルギニンヒドロラーゼでは陰性、リジンデカルボキシラーゼ及びオルニチンデカルボキシラーゼでは陽性であった。また、酸の生成試験ではL-アラビノースが陰性、アミグダリン及びスクロースが陽性であった。ウレアーゼは陰性であった。この細菌は、受託番号がNITE P-03589というものである。
【0050】
【表4】
【0051】
このスチレントリマー分解性細菌が包含されるVibrio属はオキシダーゼ陽性の発酵性グラム陰性桿菌で、ほとんどの菌種がNa要求性を有する代表的な海洋細菌である。
【0052】
これまで、スチレンモノマーを分解する菌の報告はあるが、海洋環境中に多量に存在するスチレントリマーを分解する菌の報告はなかった。このように、初めて海洋環境中からスチレントリマー分解性細菌を単離して、同定することができた。
【0053】
(調製実施例2:培養)
(2-1. 培養方法)
市販品のペプトンと酵母エキスを窒素源とした1/2ALLEN海水培地、海水は人工海水を用いた。この培地は、ペプトン:1%,酵母エキス:0.5%,NaCl:1.5%,MgSO・7HO:0.358%,MgCl・6HO:0.272%,CaCl・2HO:0.06%,KCl:0.039%,NaHCO:0.01%で、pH未調整でpH7付近であるというものである。
なおこの細菌の保存は、培養後、80%グリセロールを培地と等量加えて、-80℃に凍結することによって行った。
培養は、培養温度25℃で、培養時間12~16時間、好気条件下、振とう培養にて行った。
【0054】
(参考実施例)
骨代謝は、骨組織に存在する骨を作る細胞である骨芽細胞と、骨を壊す細胞である破骨細胞の働きにより調節されている。骨芽細胞は血中のカルシウムを利用して骨量を増やす一方で、破骨細胞は骨組織を溶かし、血中にカルシウムを供給する働きを持つ。
【0055】
そこで、魚類の骨代謝に及ぼすスチレンオリゴマーの影響を評価する方法として、魚類のウロコに着目した。硬骨魚類のウロコは、石灰化層と繊維層から成る骨基質の上に骨芽細胞と破骨細胞が共存していることから、骨のin vitroのモデルとして使用できることが知られている 。さらに、魚類のウロコは再生する能力を持っており、この再生ウロコは通常のウロコよりも骨芽細胞と破骨細胞の活性が高いことが報告されている。
【0056】
本発明者らは、再生ウロコを用いた魚類の骨代謝に対する環境汚染物質の作用を解析するためのバイオアッセイ法を既に開発しており、実際にその方法を用いて、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やトリブチルスズ(TBT)を正確に評価している。このウロコのバイオアッセイ法は、骨芽細胞と破骨細胞の共存する系で、骨芽細胞と破骨細胞の活性を、それぞれのマーカー酵素であるアリカリフォスファターゼ(Alkaline phosphatase:ALP)および酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(Tartrate-resistantacid phosphatase:TRAP)により、測定が可能であることを報告している。
【0057】
一方、エストロゲンには、骨代謝を調節する作用があり、魚類においても骨代謝に関与していることが報告されている。さらに環境汚染物質であるビスフェノールAには、内分泌かく乱作用があり、エストロゲン受容体と結合する活性を有することが知られている。そのビスフェノールAが骨代謝に影響を与えることも報告されている。以上のような背景から、以下に、スチレンオリゴマーの骨代謝に対する内分泌かく乱作用を評価した。
【0058】
(参考実施例3:エストロゲン受容体との結合実験(in vitro))
スチレンオリゴマーの内分泌かく乱作用を調べる為に、エストロゲン受容体及び甲状腺ホルモンの受容体との結合実験を行った。
【0059】
(3-1. 材料)
スチレンオリゴマー・スチレンモノマーとして、下記化学式(1)で示すように、スチレンモノマー(富士フイルム和光純薬株式会社製)、及び本発明者により作製した高純度のスチレンダイマー(2,4-ジフェニル-1-ブテン)とスチレントリマー(2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン)の合成品を用いた。
【化1】
【0060】
(3-2. ホルモン受容体との結合試験方法)
既に確立されたナイルティラピアの実験系を用いて本実験を行った。即ち、ナイルティラピアのエストロゲン受容体ERα (DDBJ/EMBL-Bank/GenBank accession number: NM_001279770.1; corresponding to amino acids 1-585), ERβ1 (DDBJ/EMBL-Bank/GenBank accession number: NM_001279774.1; corresponding to amino acids 1-557), ERβ2 (DDBJ/EMBL-Bank/GenBank accession number: NM_001279477.1; corresponding to amino acids 1-667)をPCRで増幅し、pcDNA3.1(+)にクローニングした。3つのエストロゲン応答性エレメントを含むティラピア・ビテロジェニンプロモーター領域の1778bp断片をPCRで単離し、ルシフェラーゼレポーターpGL4.20ベクターに挿入した。これらのプラスミドを、リポフェクタミンを用いてHEK293細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞はG418でスクリーニングした。スクリーニング後、各コロニーを回収した。各クローンのエストロゲンに対する応答性は、フェノールレッドを含まないダルベッコ改変イーグル培地(5%デキストランチャコール処理ウシ胎児血清添加)を96ウェルプレートに播種後、スチレンオリゴマー処理で試験した。24時間後に細胞を回収し、Steady-Glo Assay System Kitを用いたルミネセンスアッセイにより、細胞のルシフェラーゼ活性を測定した。一方、同様な方法で調整したナイルティラピアの甲状腺ホルモンの受容体に対するスチレンオリゴマーの作用についても調べた。
【0061】
(3-3. ホルモン受容体との結合試験結果)
スチレンオリゴマー(スチレンモノマー、スチレンダイマー及びスチレントリマー)に対するエストロゲン受容体α、β1及びβ2との結合実験を行った。その結果、ERαにおいて、100μg/Lのスチレントリマーにのみ結合活性が認められた(図4参照)。しかし、スチレントリマーには、ERβ1とβ2との結合活性は認められなかった(図5参照)。
一方、甲状腺ホルモンの受容体に対するスチレンモノマー、スチレンダイマー及びスチレントリマーの結合活性を調べた結果、どのスチレンオリゴマーにおいても結合活性は認められなかった(図6参照)。
このことから、ERαに対する100μg/Lのスチレントリマーの比活性は61.9%±4.9であり、E2の約60%の比活性があることが明らかとなった。
これまで、スチレンオリゴマーは、哺乳類のエストロゲン受容体には結合しないと言われていたが、近年、高濃度ならば結合することが判明したところ、魚類であるナイルティラピアの細胞を用いて解析した結果、スチレンオリゴマーが魚類のエストロゲン受容体に結合する事を初めて明らかにした。環境汚染物質は、哺乳類の細胞よりも魚類の細胞の方が低濃度で効果があることが報告されており、スチレントリマーは、海水中に多量に含まれていることが分かっている。このホルモン受容体との結合試験において、魚類のエストロゲン受容体とスチレントリマーが結合したことは、スチレントリマーが自然界においても魚類の内分泌をかく乱している可能性を示している。
【0062】
(参考実施例4:ビテロゲニン合成試験(in vivo))
スチレントリマーのエストロゲン様作用により誘導される一般的な現象について解析した。エストロゲンは、魚類の肝臓で卵黄タンパク質であるビテロゲニンを誘導することが知られているので、スチレントリマーが魚類の肝臓において、卵黄タンパク質であるビテロゲニンを合成しているかを調べた。
【0063】
(4-1. 試験動物)
体長約1.5cmのオスのヒメダカ(Oryzias latipes)50個体を購入して用いた。すべての試験は、金沢大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した。
【0064】
(4-2. 飼育環境と曝露)
バットに水を入れて、ヒーターで加温して水温を25℃に保った。プラスチックから溶出する分解産物のコンタミネーションを防ぐため、飼育容器には5Lのガラス製梅酒瓶を用いて、エアレーションには加工したガラス製パスツールピペットを用いた。飼育水は1Lとし、対照群にはスチレントリマーを溶解するときに用いた溶媒であるエタノールを終濃度0.1%となるように飼育水に加え、実験群にはスチレントリマーを10μg/L、100μg/Lとなるように飼育水に加えた。また、陽性対照群には100ng/L、1μg/LとなるようにE2(β-エストラジオール-水溶性、Sigma-Aldrich Co. LLC社製)を飼育水に加えた。曝露水1Lに対し、ヒメダカを10匹加え、72時間曝露させた。なお、24時間に1回、曝露水を半量の500mL換水した。
【0065】
(4-3. 肝臓のサンプリング)
ヒメダカを0.03%m-アミノ安息香酸エチルメタンスルホネート水溶液(Sigma-Aldrich Co. LLC社製)で麻酔後、顕微鏡と解剖キットを用いて肝臓のサンプリングを行った。採取した肝臓はNucleoSpin RNA(タカラバイオ株式会社製;商品名)のRA-1(1%2-メルカプトエタノール含有)を加えた溶解液を入れたスクリューキャップチューブにジルコニアビーズと共に入れた。ビーズクラッシャー(タイテック株式会社製)にて肝臓を破砕後、-80℃で凍結保存した。
【0066】
(4-4. RNA抽出)
採取した肝臓からNucleoSpin RNA(タカラバイオ株式会社製;商品名)を用いて添付のプロトコルに従い、toral RNAを抽出した。抽出後、Nano Drop(Thermo Fisher Scientific社製;商品名)でRNA濃度を測定後、-80℃で凍結保存した。
【0067】
(4-5. cDNA合成)
PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ株式会社製;商品名)を用いて、添付のプロトコルに従い、cDNAを合成した。Nano Drop(Thermo Fisher Scientific社製;商品名)で測定したtotal RNA量の結果から、total RNA量が1μgになる様にRNA原液を調整した。RNA量が少ないサンプルに関しては、プロトコルの最大添加量の5.75μLを用いてcDNA合成を行った。
サーマルサイクラー(Rad Laboratories Inc.社製;商品名)にて65℃で5分加温した後、氷上で5分氷冷し、RNAを変性させた。次に、5×RT buffer、RNase inhibitor、RTaseを加えて、サーマルサイクラーにて42℃で1時間以上インキュベートし、cDNAを合成した。1時間以上経過後、90℃で2分インキュベートし、酵素を失活させた後、氷上で5分氷冷した。氷冷後、使用するまで-30℃で凍結保存した。
【0068】
(4-6. プライマー設計)
合成したcDNA各サンプルから1μLずつ回収し、1本のチューブに集めた。滅菌した超純水にて2倍希釈したものを基準として、5倍希釈の段階希釈を行い、スタンダード系列を作製した。
ハウスキーピング遺伝子であるRPL-7のプライマーは、PrimerBLAST (NCBI、https://www.ncbi.nlm.nih.gov)を用いて設計し、表5のようにプライマー合成を行った。なお、これらのプライマーは25μMの濃度に超純水で希釈して使用した。
【表5】
【0069】
(4-7. 遺伝子発現解析)
スチレントリマーを曝露させたヒメダカの肝臓のcDNAを用いて、ビテロゲニンの遺伝子発現解析を行った。
GeneAce SYBR qPCR Mix α Low ROX(株式会社ニッポンジーン製;商品名)を用いて添付のプロトコルに従って作製したマスターミックス7μLに対してcDNAのtemplateを3μLとして、10μLでリアルタイムPCRを行った。PCRの条件は、LightCycler96(F. Hoffmann-La Roche, Ltd.社製;商品名)を用いて、denature:96℃-10s; annealing:60℃-10s; elongation:72℃-10sの3ステップの反応を45サイクル数で目的の遺伝子を増幅した。
【0070】
(4-8. ビテロゲニンの遺伝子発現解析結果)
ヒメダカの肝臓におけるビテロゲニンの遺伝子発現解析の結果を図7に示す。対照群ではビテロゲニンの発現が検出できなかった。また実験群である10μg/Lのスチレントリマーにおいてもビテロゲニンの発現が認められなかった。一方、曝露量が10倍量である100μg/Lの濃度ではビテロゲニンの発現が誘導されていることがわかった。この誘導されたビテロゲニンの発現量は、陽性対照群である100ng/LのE2に曝露させたメダカのビテロゲニン発現量と同程度であった。また、陽性対照群において10倍量である1μg/LのE2では、さらにビテロゲニンの発現量が増加し、濃度依存的にビテロゲニンの誘導が確認された。
【0071】
スチレントリマー無添加のコントロール(オスのヒメダカ)では、ビテロゲニンの発現がほとんど認められなかった。一方、スチレントリマーを曝露すると、オスのヒメダカにおいても肝臓でビテロゲニンの誘導が起こることが分かった。
【0072】
このことから、100μg/Lのスチレントリマーにおいてエストロゲン様作用の誘導が引き起こされ、肝臓内でビテロゲニンが合成されていることが明らかとなった。日本沿岸海域におけるスチレントリマーの濃度は0.35~6.97μg/L(平均:3.26μg/L)であることが知られているので、このようなビテロゲニンの誘導が確認された濃度は、自然環境下より高い濃度である。しかし72時間よりも長期間の曝露により、ヒメダカにおいても低濃度のスチレントリマーでもビテロゲニンが合成される可能性がある。
【0073】
ヒメダカは淡水魚であることから、スチレントリマーは体表から取り込まれる。スチレントリマーは、疎水性が高い物質なので、体表からの取り込みが低い可能性がある。一方、海産魚は、体表からの脱水を防ぐために、海水を飲み、食道でNaClを吸収して、腸で1/3海水にまで希釈して、腸からNa及びClと共に水を吸収することが知られている。したがって、海産魚は、経口投与と同様な方法でスチレントリマーを取り込むことになる。
【0074】
(参考実施例5:スチレントリマーの骨代謝に対する影響評価 酵素活性測定試験(in vitro)
骨芽細胞と破骨細胞に特異的に存在する酵素活性を指標にして、スチレンオリゴマーが魚類の骨代謝に与える影響を評価した。
【0075】
(5-1. 試験動物)
1ペアを掛け合わせて交配させて産卵させた同腹のキンギョ(Carassius auratus)を用いた。これらのキンギョを全長10cm程度に成長させ、試験に用いた。すべての実験は、金沢大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した。
【0076】
(5-2. ウロコの抜去と採取)
キンギョを0.03%m-アミノ安息香酸エチルメタンスルホネート水溶液で麻酔後、ピンセットを用いて、側線の上下3行より左右対称に各列16枚ずつ普通ウロコを抜去した。キンギョを飼育水に戻し、麻酔から覚めたことを確認後、26℃で14日間飼育し、ウロコを再生させた。普通ウロコを抜去後14日目に再度、麻酔をかけ、14日目の再生ウロコを採取した。
採取した再生ウロコは、予め1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を添加したGibco Leibovitz’s L-15 Medium(Thermo Fisher Scientific社製;商品名)を100μLずつ各ウエルに入れた96穴マイクロプレートに入れ、約2時間プレインキュベーションを行った。
【0077】
(5-3. 再生ウロコの培養)
プレインキュベーション後、L-15培地を抜き取り、スチレンオリゴマーを、10μg/L、100μg/L、1mg/Lの濃度になるように希釈したL-15培地を200μLずつ各ウエルに入れた。この時、Control群には99.5%エタノールを10μg/L、100μg/L、1mg/Lになるように希釈したL-15培地を用いた。
15℃で6時間インキュベートした後に、曝露液を抜き取り、各ウエルにリン酸緩衝液を100μLずつ加えて再生ウロコを洗浄した。ウエル内のリン酸緩衝液を完全に抜き取り、骨芽細胞酵素活性測定用の再生ウロコには、アルカリ緩衝液(1mM MgCl含有0.2M Tris-HCl緩衝液,pH:9.5)を、破骨細胞酵素活性測定用の再生ウロコには酒石酸緩衝液(0.5M酒石酸ナトリウム含有酢酸緩衝液,pH5.3)を各ウエルにそれぞれ100μLずつ加え、-80℃で凍結・保存した。
また、陽性対照群としてE2を1ng/L、10ng/L、100ng/L、1μg/L、10μg/L、及び100μg/Lの濃度になるように希釈したL-15培地を調製し、同様に培養を行った。
【0078】
(5-4. 骨芽細胞の酵素活性の測定)
-80℃で凍結・保存した96穴マイクロプレートを、室温(25℃)で解凍後、20mM p-ニトロフェニルリン酸ニナトリウムを含むアルカリ緩衝液(pH9.5)を各ウエルに100μLずつ加え、室温で30分間振とうさせた後、3N NaOHを各ウエルに50μLずつ添加し、反応を停止させた。別の96穴マイクロプレートを用意し、150μLずつウエル内の反応液を移して、マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)の測定波長405nmで吸光度を測定した。右下のH12ウエルをブランクとした。
【0079】
(5-5. 破骨細胞の酵素活性の測定)
破骨細胞の酵素活性の測定には、アルカリ緩衝液(pH9.5)を酒石酸緩衝液(pH5.3)に換えて使用し、その他の条件は骨芽細胞の酵素活性測定と同様の条件で行った。
【0080】
(5-6. ウロコの表面積の測定)
吸光度測定後に、残った反応液を取り除き、各ウエルにリン酸緩衝生理食塩水を100μLずつ加えて再生ウロコを洗浄した。その後、メチレンブルー液を各ウエルへ200μLずつ加え、20分以上染色した。染色後、メチレンブルー液を取り除き、方眼紙を挟んだ透明なポリプロピレン製のホルダー上に染色されたウロコを並べ、キムタオルで余分な水分を除去した。ポリプロピレン製ホルダーでウロコを挟み込み固定し、イメージスキャナー(セイコーエプソン株式会社製)により解像度300ドット/インチ(dpi)のJPEG画像として染色された再生ウロコの画像を取り込んだ。
アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)がウェブ公開している画像処理ソフトウェア「Image J」により、ウロコの画像のコントラストを最大化(Brightness/contrast)し、着色ウロコ以外のノイズ画像を除去後、カラー分離(Split channels)を行い、2値化画像に変換して各ウロコのドット数を自動カウントした。その後、カウントした各ウロコのドット数をエクセルファイルに出力し、ここのウロコの表面積(mm)に換算した。
【0081】
(5-7. ウロコの骨芽細胞および破骨細胞活性)
測定した405nmの吸光度から、ブランクの値を差し引いて吸光度を求めた。この吸光度をp-ニトロフェノール希釈系列より求めた標準曲線を用いて、30分間に脱リン酸化酵素により生じたp-ニトロフェノール量(nmol pNP produced)を調べた。その後、反応時間(h)とウロコ1枚の面積(mmscale)で生じたp-ニトロフェノール量を単位時間(h)・単位面積(mm)で除して、酵素活性[nmol pNP produced/(mm2 scale×h)]とした。
【0082】
(5-8. 統計処理)
同一の個体において対照群と実験群のウロコを採取したので、個体内でのウロコの酵素活性の変化をPaired t-testで検定した。なお、P値5%未満を統計学的水準とした。
【0083】
(5-9. 酵素活性測定試験結果)
スチレントリマーに対する骨芽細胞の酵素活性は、対照群と比較して10μg/Lの濃度のみで統計学的に有意に上昇(図8)しており、破骨細胞の酵素活性は10μg/Lと100μg/Lの濃度で統計学的に有意な上昇が認められた(図9)。
【0084】
スチレンダイマーに対する骨芽細胞の酵素活性は、対照群と比較して10μg/Lと100μg/Lとの濃度で統計学的に有意に上昇(図10)しており、破骨細胞の酵素活性も10μg/Lと100μg/Lの濃度で統計学的に有意な上昇が認められた(図11)。
【0085】
一方、スチレンモノマーに対する骨芽細胞の酵素活性は、対照群と比較して100μg/Lの濃度のみで統計学的に有意に上昇(図12)しており、破骨細胞の酵素活性の差は認められなかった(図13)。
【0086】
陽性対照群であるE2に対する骨芽細胞と破骨細胞の酵素活性を図14及び15に示す。破骨細胞の酵素活性は対照群と比較して1ng/Lと1μg/Lの濃度で統計学的に有意に上昇しており、骨芽細胞の酵素活性は1μg/Lと10μg/L、100μg/Lの濃度で統計学的に有意に上昇が認められた。
【0087】
このように、スチレントリマーとスチレンダイマーにおいて10μg/Lと100μg/Lの濃度で統計学的に有意に骨芽細胞と破骨細胞の酵素活性が上昇していることが明らかとなった。特に、スチレントリマーに対する破骨細胞の酵素活性で、100μg/Lの濃度で統計学的に有意な差があり、この100μg/Lという濃度は、前記のエストロゲン受容体と結合したスチレントリマーの濃度と一致する。この濃度がエストロゲン受容体との結合に最適な濃度である可能性がある。
【0088】
この酵素活性測定試験において、スチレンモノマー及びスチレンダイマーにおいても骨芽細胞と破骨細胞の活性化が確認された。スチレンモノマー及びスチレンダイマーには、エストロゲン受容体との結合活性が認められなかったので、他の受容体と結合している可能性がある
【0089】
(参考実施例6:スチレントリマーの経口投与による血漿中のミネラル濃度の変化(in vivo))
淡水魚のキンギョと海産魚のメジナにスチレントリマーを経口及び腹腔内に投与し、血漿中の2価イオン(カルシウム、マグネシウム及びリン)と1価イオン(ナトリウム及びクロライド)の変化について調べた。
【0090】
(6-1. 試験動物)
体長約10cmのキンギョ(Carassius auratus)(雄、27.4±2.02g)を10個体購入して使用した。また、体長約15cmのメジナ(Girella punctata)(雌雄混合、26.25±4.72g)は能登半島の九十九湾にて採取した個体を用いた。全ての実験は、金沢大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した。
【0091】
(6-2. 経口投与と採血)
キンギョを0.03%m-アミノ安息香酸エチルメタンスルホネート水溶液で麻酔後、重量を測定し、ヒレ切りによって個体識別を行った。ゾンデを用いてスチレントリマー溶液を0.1μg/g Body Weightを経口投与し、水温25℃で飼育した。この際、血中Ca濃度に影響を与える可能性があるため、キンギョは断食させた。経口投与後、12時間後、24時間後にそれぞれ尾部血管からヘパリン(富士フィルム和光純薬株式会社製)処理した1mLシリンジを用いて採血を行い、遠心分離後の血漿をカルシウム濃度測定用のサンプルとした。
一方、メジナは、2-フェノキシエタノールで麻酔後、重量を測定し、ヒレ切りによって個体識別を行った。
【0092】
(6-3. カルシウム(Ca)濃度測定)
Caが呈色試薬アルセナゾIIIと青色の複合体を形成する原理を利用したアクアオートカイノスCa試薬(株式会社カイノス製;商品名)を用いて、血漿中のCa濃度を測定した。
標準曲線の作成には、0、1.25、2.5、5.0、7.5、10、15及び20mg/dLの8点を用いた。血漿サンプル及び標準液を4μLずつ1.5mLエッペンドルフチューブに加え、さらにアクアオートカイノスCa試薬360μLを加え、よく撹拌した。96穴プレートの各ウエルに100μLずつ3ウエルに分注した。マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)を用いて660nmの吸光度を測定した。
【0093】
(6-4. マグネシウム(Mg)濃度測定(酵素法))
Mgがアデノシン5’-三リン酸(ATP)に作用し、Mg・ATP複合体を形成する原理を利用したLタイプワコー血液・尿検査用Mgキット(富士フィルム和光純薬株式会社製;商品名)を用いて、血漿中のMg濃度を測定した。
標準曲線の作成には、0、10、20、30及び40mg/dLの5点を用いた。血漿サンプル及び標準液を3.5μLずつ1.5mLエッペンドルフチューブに加え、さらに酵素液を160μLと気質液40μLを加え、よく撹拌した。96穴プレートの各ウエルに100μLずつ3ウエルに分注した。マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)を用いて405nmの吸光度を測定した。
【0094】
(6-5. 無機リン(Pi)濃度測定(p-メチルアミノフェノール還元法))
Piに発色試薬中のモリブデン酸塩と結合し、リンモリブデン酸となり、さらに硫酸p-メチルアミノフェノールにより還元されモリブデンブルーとして青色を呈する原理を利用したホスファC-テストワコー血液検査用リン/無機リンキット(富士フィルム和光純薬株式会社製;商品名)を用いて血漿中のPi濃度を測定した。
標準曲線の作成には、0、2.5、5、7.5及び10mg/dLの5点を用いた。血漿サンプル及び標準液を4.0μLずつ1.5mLエッペンドルフチューブに加え、さらに混合発色試薬320μLを加え、よく撹拌した。37℃で20分間加温後、氷に突き刺し冷却した。96穴プレートの各ウエルに100μLずつ3ウエルに分注した。マイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社製)を用いて660nmの吸光度を測定した。
【0095】
(6-6. メジナの血漿中のミネラル濃度の測定)
得られたメジナの血漿サンプルの2価イオン(Ca、Mg及びPi)と1価イオン(ナトリウム:Na及びクロライド:Cl)を、血漿中のミネラル濃度として測定した。
【0096】
(6-7. 血漿中のミネラル濃度の変化試験の結果)
100μg/Lのスチレントリマーを淡水魚であるキンギョに経口投与したところ、経口投与から12時間後、24時間後それぞれの血漿中のカルシウム濃度が、対照群と比較し、統計学的に有意に上昇していた(図16)。
100μg/Lのスチレントリマーを海産魚であるメジナに腹腔内投与した実験では、腹腔内投与から12時間後に血漿中のMg濃度及びPi濃度が対照群と比較して統計学的に有意に上昇していた(図17)。また、腹腔内投与24時間後に血漿中のCl濃度が対照群と比較して統計学的に有意に低下していた(図18)。一方、腹腔内投与12時間後の血漿中のNa、Cl及びK濃度には変化はなかった(図19)。同様に、腹腔内投与24時間後の血漿中のCa、Mg及びPi濃度に変化はなかった(図20)。
【0097】
血漿中のミネラル濃度の変化試験の結果の通り、100μg/Lのスチレントリマーを経口投与したキンギョの血漿中のCa濃度は、12時間後、24時間後において統計学的に有意に上昇していた。前記の酵素活性測定試験の結果と同様に、in vitro試験に引き続き、in vivo試験においてもスチレントリマーのエストロゲン様作用が確認され、内分泌かく乱を引き起こしていることが明らかになった。
【0098】
一方、海産魚であるメジナへのスチレントリマーの腹腔内投与の結果、12時間後で血漿中のCa濃度に変化はなかったが、Mg濃度及びPi濃度が対照群と比較して統計学的に有意に上昇していた。メジナにおいて、血漿中のCa濃度が変化しなかった理由は、不明であるが、淡水魚と海産魚の間の浸透圧調節機構が異なるので、浸透圧調節機構の相違が原因である可能性がある。また、腹腔内投与から24時間後に、メジナの血漿中のCl濃度が統計学的に有意に低下していることから、スチレントリマーは、海産魚の浸透圧調節に何らかの悪影響を及ぼしているようである。
【0099】
(参考実施例7:スチレンオリゴマーのキンギョのウロコにおける遺伝子発現解析試験(in vitro))
スチレンオリゴマーが魚類の骨代謝に与える影響を遺伝子レベルでも確認することを目的に、キンギョの再生ウロコを用いてin vitroの実験を行った。
【0100】
(7-1. 試験動物)
1ペアを掛け合わせて交配させた同腹のキンギョ(Carassius auratus)を用いた。すべての実験は、金沢大学動物実験委員会の倫理規定に従い実施した。
【0101】
(7-2. ウロコの抜去と採取)
キンギョを0.03%m-アミノ安息香酸エチルメタンスルホネート水溶液で麻酔後、ピンセットを用いて、側線の上下1行より左右対称に各列16枚ずつ普通ウロコを抜去した。キンギョを飼育水に戻し、麻酔から覚めたことを確認後、26℃で14日間飼育し、ウロコを再生させた。普通ウロコを抜去後14日目に再度、麻酔をかけ、14日目の再生ウロコを採取した。
採取した再生ウロコは、予め1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を添加したLeibovitz’s L-15 Medium(Thermo Fisher Scientific社製;商品名)を1mLずつ各ウエルに入れた24穴マイクロプレートに入れ、約2時間プレインキュベーションを行った。
【0102】
(7-3. ウロコの培養)
プレインキュベーション後、L-15培地を抜き取り、スチレンオリゴマーを100μg/Lになるように希釈したL-15培地曝露液を200μLずつ各ウエルに入れた。この時、Control群には99.5%エタノールを100μg/Lになるように希釈したL-15培地を用い、15℃で6時間インキュベートした。
【0103】
(7-4. ウロコの破砕)
NucleoSpin RNA(タカラバイオ株式会社製;商品名)のRA-1(1%2-メルカプトエタノール含有)を加えた溶解液を入れたスクリューキャップチューブにジルコニアビーズと、6時間培養後の再生ウロコを加えた。ビーズクラッシャー(タイテック株式会社製)にて再生ウロコを破砕後、-80℃で凍結保管した。
【0104】
(7-5. RNA抽出)
破砕したウロコからNucleoSpin RNA (タカラバイオ株式会社製)を用いて添付のプロトコルに従い、total RNAを抽出した。抽出後、Nano Drop(Thermo Fisher Scientific社製;商品名)でRNA濃度を測定後、-80℃で凍結保存した。
【0105】
(7-6. cDNA合成)
PrimeScriptII 1st strand cDNA Synthesis Kit (タカラバイオ株式会社製;商品名)を用いて、添付のプロトコルに従い、cDNAを合成した。Nano Drop(Thermo Fisher Scientific)で測定したtotal RNA量の結果から、total RNA量が1μgになる様にRNA原液を調整した。RNA量が少ないサンプルは、プロトコルの最大添加量の5.75μLを加えて、cDNA合成を行った。
サーマルサイクラー(Rad Laboratories Inc.社製;商品名)にて65℃で5分加温した後、氷上で5分氷冷し、RNAを変性させた。次に、5×RT buffer、RNase inhibitor、RTaseを加えて、サーマルサイクラーにて42℃で1時間以上インキュベートし、cDNAを合成した。1時間以上経過後、90℃で2分インキュベートし、酵素を失活させた後、氷上で5分氷冷した。
これらのcDNAを用いて、スタンダード系列を調整した。合成した各cDNAから1 μLずつ回収し、1本のチューブに集めた。滅菌した超純水にて2倍希釈したものを1として、5倍希釈の段階希釈を行い、スタンダード系列を作製した。
【0106】
(7-7. プライマー設計)
ハウスキーピング遺伝子であるef1α、目的遺伝子であるalp、dkk-1、nfatc1、cathepsin Kのプライマーは、PrimerBLAST (NCBI,https://www.ncbi.nlm.nih.gov)を用いて、設計し、プライマー合成をした(表6)。なお、これらのプライマーは25μMの濃度に超純水で希釈して使用した。
【表6】
【0107】
(7-8. 遺伝子発現解析)
スチレントリマーを曝露させたキンギョのウロコのcDNAを用いて、骨芽細胞と破骨細胞の遺伝子発現解析を行った。
GeneAce SYBR qPCR Mix α Low ROX(株式会社ニッポンジーン製;商品名)を用いて添付のプロトコルに従って作製したマスターミックス7μLに対してcDNA template 3μLとし最終量10μLで遺伝子発現解析を行った。denature:95℃-10s; annealing及びelongation:60℃-30sの2ステップの反応を40サイクル行うというPCRの条件で、目的の遺伝子を増幅した。
【0108】
(7-9. RNAシークエンス解析:シークエンス)
AnnoRoad社の次世代シークエンス受託サービス(https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/custom_service/products/95155.html)を利用し、キンギョのウロコのRNAを用いて、RNAシークエンス解析を行った。シークエンスにはHiseq(Illumina社製;商品名)シリーズを用いられた。Illumina社のプロトコルに則ったライブラリー作成が行われた。次に、Illumina社指定のシークエンシングを行った。
【0109】
(7-10. RNAシークエンス解析:マッピング)
シーケンサーから出力されたFastqファイルを基に、TrinityによるDe-Novo Assembly、次いでBowtieによるマッピングを行った。Expressにより出力されたファイルは、各遺伝子の発現量がfpkm(fragments per kilobase of exon per million mapped、転写産物の長さを1,000bpとした時の100万個のフラグメントの内マッピングされたものの数)の考え方のもとに正規化された。その後、Blastsによる既知遺伝子(データベース:Gene bank)に対する網羅的な検索を行った。検索の結果、照合した情報は、既知遺伝子との相同性を基にアノテーションを付けた。
【0110】
(7-11. 遺伝子ネットワーク解析)
遺伝子ネットワーク解析の試行のため、発現量が変化した遺伝子群を抽出したデータをIngenuity Pathways Analysis(IPA)にインポートし、解析した。
【0111】
(7-12. 遺伝子発現解析結果)
100μg/Lの濃度のスチレントリマーを曝露したキンギョの再生ウロコを用いた遺伝子発現解析の結果、骨芽細胞のマーカー遺伝子であるalpとdkk-1において、対照群と比較して統計学的に有意に発現量が増加していることが明らかとなった(図21及び22)。また、破骨細胞のマーカー遺伝子であるnfatc1とcathepsin Kにおいても、対照群と比較して統計学的に有意に発現量が増加していることが明らかとなった(図23及び24)。
一方で、RNAシークエンス分析のパスウェイ解析結果を(図25)に示す。パスウェイ解析から、エストロゲン受容体のシグナリングが確認できた。
【0112】
遺伝子発現解析したところ、前記のように参考実施例5:スチレントリマーの骨代謝に対する影響評価 酵素活性測定試験や、参考実施例6:スチレントリマーの経口投与による血漿中のミネラル濃度の変化の結果と同様に、スチレントリマーのエストロゲン様作用が遺伝子発現レベルでも確認され、魚類のウロコの骨代謝に内分泌かく乱を引き起こしていることが明らかとなった。また、スチレントリマーを曝露したキンギョの再生ウロコでRNAシークエンス解析を行った結果から、エストロゲン受容体のシグナリングが確認された。このことから、スチレントリマーにはエストロゲン様作用があることが明らかとなった。
スチレントリマーは、日本沿岸海域におけるスチレントリマーの濃度は0.35~6.97μg/L(平均:3.26 μg/L)であり、海洋中に多量に存在していることが知られている。そのスチレントリマーには、スチレンダイマーやスチレンモノマーに比べ遥かに強い明確なエストロゲン様作用を確認することができた。
【0113】
このような参考実施例3~7の結果から、スチレントリマーを浄化し、スチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解する必要性が示唆された。
【0114】
調製実施例1~2の通り、本発明のスチレンオリゴマー分解方法、特にスチレンオリゴマー分解性細菌を用いたスチレンオリゴマー分解方法によれば、海洋・湖沼・河川の水中のポリスチレン由来のマイクロプラスチックの分解化合物である三量体以上のスチレンオリゴマーとりわけスチレントリマーをスチレンダイマー又はスチレンモノマーに分解して、無害化・低毒性化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のスチレンオリゴマー分解方法、特にスチレンオリゴマー分解性細菌を用いたスチレンオリゴマー分解方法は、海洋・湖沼・河川に漂うマイクロプラスチック、とりわけポリスチレン由来のマイクロプラスチックの分解化合物である3量体以上のスチレンオリゴマー、中でも特にスチレントリマーを、スチレンダイマー及び/又はスチレンモノマーに分解して無害化・低毒性化して、環境汚染を浄化するのに用いることができる。
図1
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【配列表】
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