(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117163
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】難燃性エチレン系重合体組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20230816BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230816BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230816BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
C08L23/04
C08L83/04
C08L23/26
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019727
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 和樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB021
4J002BB212
4J002CP033
4J002DE056
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE146
4J002DE286
4J002FD060
4J002FD070
4J002FD133
4J002FD136
4J002FD200
4J002FD202
4J002FD203
(57)【要約】
【課題】優れた難燃性と引張特性を両立した難燃性エチレン系重合体組成物を提供する。
【解決手段】下記成分(A)~(C)を含む難燃性エチレン系重合体組成物であって、該難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~50質量%である、難燃性エチレン系重合体組成物。この難燃性エチレン系重合体組成物を用いた成形体。
成分(A):金属水酸化物
成分(B):シリコーン
成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含む難燃性エチレン系重合体組成物であって、該難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~50質量%である、難燃性エチレン系重合体組成物。
成分(A):金属水酸化物
成分(B):シリコーン
成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン
【請求項2】
前記難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~25質量%である、請求項1に記載の難燃性エチレン系重合体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃性エチレン系重合体組成物を用いた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性エチレン系重合体組成物と、この難燃性エチレン系重合体組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、電気絶縁性に優れ、且つ自消性の難燃特性を持つことから、電線被覆、チューブ、テープ、建材、自動車部品、家電部品等に広く使用されている。しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂組成物は塩素を含んでいるため、燃焼時に腐食性ガスである塩化水素ガスが発生し、また、燃焼条件によってはダイオキシン類等の有毒ガスが発生する虞れがある。このため、環境問題への対策の一環で、燃焼時におけるこれら有毒ガス発生の可能性が殆どない、ハロゲンを含有しない材料(以下、ハロゲンを含有しないことを「非ハロゲン」という場合がある。)が使用されるようになっている。
【0003】
非ハロゲン系の材料としては、ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂が挙げられる。ところが、ポリオレフィン系樹脂等は難燃性ではないため、用途によっては難燃化する必要がある。その対策として、古くよりハロゲン系難燃剤を添加する手法が行われてきた。しかしながら、ハロゲン系難燃剤も燃焼時に有毒ガスを発生する可能性があるため、最近では、非ハロゲン系難燃剤として、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムといった金属水酸化物を配合する手法が採られている。
【0004】
例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂と、難燃剤として金属水酸化物である水酸化マグネシウム、難燃助剤としてシリコーンオイルを用いることで、金属水酸化物の添加量を少なめに抑えて、機械的特性の低下を抑制しながらも、酸素指数を向上させる技術が知られている(特許文献1)。また、ポリオレフィン系樹脂に、金属水酸化物と共に無水マレイン酸変性樹脂を添加する技術が知られている(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-134342号公報
【特許文献2】特開平10-7913号公報
【特許文献3】特開2017-57274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3の水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を含むポリオレフィン系の難燃性樹脂組成物は、要求される難燃性能を得るために充填されている難燃剤の影響により、引張特性の点で未だ改良の余地があり、また、難燃性についても未だ十分とはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた難燃性と引張特性を両立することができる難燃性エチレン系重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属水酸化物とシリコーンと特定密度を有する変性ポリエチレンを特定の含有率で含有するエチレン系重合体組成物が、優れた難燃性と引張特性を両立できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 下記成分(A)~(C)を含む難燃性エチレン系重合体組成物であって、該難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~50質量%である、難燃性エチレン系重合体組成物。
成分(A):金属水酸化物
成分(B):シリコーン
成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン
【0010】
[2] 前記難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~25質量%である、[1]に記載の難燃性エチレン系重合体組成物。
【0011】
[3] [1]又は[2]に記載の難燃性エチレン系重合体組成物を用いた成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた難燃性と引張特性を両立した難燃性エチレン系重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0014】
〔難燃性エチレン系重合体組成物〕
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、下記成分(A)~(C)を含む難燃性エチレン系重合体組成物であって、該難燃性エチレン系重合体組成物100質量%における成分(C)の含有率が0.1~50質量%であることを特徴とする。
成分(A):金属水酸化物
成分(B):シリコーン
成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン
【0015】
[成分(C)以外のエチレン系重合体]
エチレン系重合体組成物とは、エチレン系重合体組成物に含まれる樹脂成分としてエチレン系重合体を主成分とする、すなわち、樹脂成分におけるエチレン系重合体の質量割合が最も多いことを意味するものである。従って、本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、樹脂成分におけるエチレン系重合体の質量割合が最も多ければよく、本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、樹脂成分としてエチレン系重合体以外の樹脂、例えばプロピレン系重合体やスチレン系重合体等の後述のその他の成分として例示する熱可塑性樹脂やエラストマーを含有していてもよい。
【0016】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物に含まれる樹脂成分の主成分となるエチレン系重合体は、後述の成分(C)の変性ポリエチレンと、成分(C)の変性ポリエチレン以外のエチレン系重合体である。
また、エチレン系重合体とは、原料モノマーとしてエチレンを主成分とし、好ましくはエチレン単位を50質量%以上含有する重合体又は共重合体を意味し、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0017】
成分(C)以外のエチレン系重合体の密度(JIS K6922-1,2:1997に準拠)は、特に限定されないが、0.85g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm3以上であり、一方、0.90g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.89g/cm3以下である。
【0018】
また、成分(C)以外のエチレン系重合体のメルトフローレート(MFR、JIS K7210:1999に準拠、190℃、荷重21.2N)は、特に限定されないが、成形性の点から、0.1~50g/10分が好ましく、より好ましくは1~30g/10分である。
【0019】
成分(C)以外のエチレン系重合体としては、エチレン・α-オレフィン共重合体、種々のポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0020】
エチレン・α-オレフィン共重合体とは、エチレンとα-オレフィンの共重合体であり、そのα-オレフィンとしては、通常炭素数3~20の環状分子を含まないα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、それぞれ単独或いは2種以上の混合物として用いることができる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体は、共重合成分として、ビニルエステル(酢酸ビニル等)、不飽和カルボン酸又はそのエステル(アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)等を使用したものでもよい(ただし、後述の成分(C)に該当するものは除く。)。
【0021】
市販品として入手することができるエチレン・α-オレフィン共重合体としては、例えば、ダウケミカル社製の「エンゲージ」(登録商標)、日本ポリエチレン社製の「カーネル」(登録商標)が挙げられ、適宜選択して使用することができる。
【0022】
ポリエチレンとしては、種々のポリエチレン、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)が挙げられる。
【0023】
市販品として入手することができるポリエチレンとしては、例えば、日本ポリエチレン社製の「ノバテックLL」(登録商標)が挙げられ、適宜選択して使用することができる。
【0024】
エチレン・酢酸ビニル共重合体は、エチレンに由来する単位と酢酸ビニルに由来する単位とを少なくとも有する共重合体を意味する。なお本発明では、原料としてエチレン及び酢酸ビニルを用いなくとも、重合後の共重合体が同一の化学構造を形成するものは、本発明におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体に包含されるものとする。
【0025】
市販品として入手することができるエチレン・酢酸ビニル共重合体としては、例えば、日本ポリエチレン社製の「ノバテックEVA」(登録商標)、三井・デュポンポリケミカル社製の「エバフレックス」(登録商標)、ランクセス社製の「レバプレン」(登録商標)が挙げられ、適宜選択して使用することができる。
【0026】
成分(C)以外のエチレン系重合体としては、上記した種々のエチレン系重合体の1種のみを用いてもよく、共重合成分組成や物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
例えば、エチレン系重合体として、直鎖状低密度ポリエチレンと、エチレン・α-オレフィン共重合体と、エチレン・酢酸ビニル共重合体とを適宜配合して用いてよい。
【0027】
[成分(A)]
本発明では、難燃性エチレン系重合体組成物としての難燃性を得るために成分(A)として金属水酸化物を用いる。
【0028】
金属水酸化物の種類は特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カリウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。中でも、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。これらの金属水酸化物は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合と比率で併用してもよい。
【0029】
本発明に用いる金属水酸化物は、表面処理剤によって表面処理されたものを使用することができる。表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸または脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらの表面処理剤で金属水酸化物を処理する方法としては、湿式法、乾式法、直接混練法などの既知の方法を用いることができる。金属水酸化物として表面処理されたものを使用することにより、得られる難燃性エチレン系重合体組成物中での分散性が向上する場合や、力学的特性が向上する場合がある。
【0030】
成分(A)の、金属水酸化物の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から4μm以下、例えば0.5~2μmのものが好適である。
【0031】
ここで、金属水酸化物の平均粒子径は、球状の金属水酸化物であれば、その直径の平均値に該当し、SEM観察により測定することができる。球状以外の金属水酸化物の場合は、等体積球相当径に該当する。平均粒子径は、通常このようなSEM観察により求めた100個の金属水酸化物の直径の平均値として算出される。
【0032】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物を構成する樹脂成分に対する成分(A)の金属水酸化物の配合量は特に限定されないが、樹脂成分の合計100質量部に対し、下限が通常50質量部以上、好ましくは80質量部以上であり、上限が通常500質量部以下、好ましくは400質量部以下である。金属水酸化物の配合量を上記下限値以上とすることで、本発明が課題とするレベルの難燃性を得やすくなる。一方、金属水酸化物の配合量を上記上限値以下とすることで、加工性や機械的特性を維持し易い傾向にある。
【0033】
[成分(B)]
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、成形性を向上させる観点から成分(B)としてシリコーンを含有する。成分(B)のシリコーンは成形性の向上だけでなく、難燃性の向上に寄与する。
【0034】
成分(B)のシリコーンとしては、例えばシリコーンオイルが挙げられる。シリコーンオイルとしては25℃での動粘度が50~30,000cStであるシリコーンオイルが好ましい。ここで、シリコーンオイルの25℃での動粘度はJIS Z8803により測定することができる。
【0035】
シリコーンオイルの25℃での動粘度を前記範囲とすることで、成形時の離型性向上の効果が得られると同時に、成形体表面へのシリコーンオイルのブリードを抑制でき、外観を良好に保つことができる。これらの効果をより良好なものとするため、シリコーンオイルの25℃での動粘度は、より好ましくは100cSt以上であり、更に好ましくは200cSt以上であり、一方、より好ましくは25,000cSt以下であり、更に好ましくは20,000cSt以下であり、特に好ましくは15,000cSt以下である。
【0036】
シリコーンオイルとしては、好ましくは下記式(1)で表される直鎖状シリコーンを用いることができる。
【0037】
【0038】
上記式(1)中、Rはアルケニル基及び/又はSiH基等のヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を含有しない有機官能基、又は水酸基を表し、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。xは10~30,000の整数を表す。Rは、好ましくはそれぞれ独立に一価の炭化水素基又は水酸基を表し、より好ましくはアルキル基、アリール基を表し、更に好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基を表す。
【0039】
上記式(1)で表される直鎖状シリコーンとしては、両末端をトリオルガノシリル基で封鎖されたポリジオルガノシロキサンであり、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン又はこれらの共重合体がより好ましく、ポリジメチルシロキサン又はポリメチルフェニルシロキサンが更に好ましく、Rがすべてメチル基であるポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0040】
ポリジメチルシロキサンとしては、SH200(東レ・ダウコーニング社製)、KF-96、KF-96H、KF-965、KF-968(信越シリコーン社製)、TSF451(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、AK、AKF、AKC(旭化成ワッカーシリコーン社製)等が市販品として入手できる。また、ポリメチルフェニルシロキサンとしては、SH510、SH550、SH710(東レ・ダウコーニング社製)、KF-50、KF-53、KF-54(信越シリコーン社製)、TSF431、TSF433、TSF4300(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)、AR(旭化成ワッカーシリコーン)等が市販品として入手できる。更にシリコーン骨格上に有機基を導入することによって機能性を高めた有機変性シロキサンとしては、テゴマーV-Si4042(エボニック社製)等が市販品として入手できる。
【0041】
シリコーンオイルは1種のみを用いてもよく、動粘度や前記式(1)におけるRの異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物において、成分(B)のシリコーンの含有量は、樹脂成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~8質量部であり、より好ましくは0.5~6質量部、更に好ましくは1~5質量部、特に好ましくは2~5質量部である。
【0043】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物が成分(B)のシリコーンを上記範囲で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(B)による成形性、酸素指数の向上効果を十分に得ることができる。
【0044】
[成分(C)]
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、機械的特性および酸素指数を向上させる観点から下記成分(C)を含有する。
成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン
【0045】
成分(C)としては、前述の成分(C)以外の樹脂成分としてのエチレン系重合体や成分(A)の金属水酸化物と混ざりやすくするために、結晶成分の少ない、密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレンを用いる。
【0046】
成分(C)の原料として用いるポリエチレンの具体例としては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・ブテン・ヘキセン共重合体、エチレン・ブテン・オクテン共重合体、エチレン・ヘキセン・オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体、及び、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のエチレン系(共)重合体等が挙げられる。ここで、「(共)重合体」は重合体と共重合体の総称であり、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸とメタクリル酸の総称である。
【0047】
ここで、エチレン系共重合体とは、エチレンを共重合体を構成する全モノマー単位の50質量%以上の割合で含有する共重合体を意味する。
【0048】
これらの原料ポリエチレンは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0049】
これらの中でも、エチレン系(共)重合体であるエチレン単独重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体が安価で容易に入手することができ、経済性に優れるため好ましい。機械的特性の観点から、原料ポリエチレンとしては、エチレン単独重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体がより好ましい。
【0050】
成分(C)の原料として用いるポリエチレンの密度(JIS K6922-1,2:1997に準拠)は、特に限定されないが、0.85g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm3以上であり、一方、0.90g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.89g/cm3以下である。
【0051】
また、成分(C)の原料として用いるポリエチレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210:1999に準拠、190℃、荷重21.2N)は、特に限定されないが、成形性の点から、0.1~50g/10分が好ましく、より好ましくは1~30g/10分である。
【0052】
上記の物性を満たすポリエチレンは、各種グレードのものが国内外のメーカーから数多く市販されており、成分(C)の原料として用いるポリエチレンして、各種グレードの市販品を用いることができる。
【0053】
原料ポリエチレンの変性に用いる酸としては、不飽和カルボン酸が好適である。不飽和カルボン酸としては特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハイミック酸、シトラコン酸が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸の無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
【0054】
不飽和カルボン酸の誘導体としては、具体的には、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムが挙げられる。
【0055】
これらのうちでは、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体、マレイン酸及び/又はその誘導体、中でも(メタ)アクリル酸及び/又はその無水物、マレイン酸及び/又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0056】
これらの酸及び/又はその誘導体は1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
ポリエチレンの変性に用いる酸及び/又はその誘導体の使用量は、成分(C)の原料として用いるポリエチレン100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、一方、通常、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。酸及び/又はその誘導体の使用量が上記下限値以上であれば、得られる熱可塑性エラストマー組成物の接着性が良好となる傾向にあり、一方、上記上限値以下であれば、未反応物及び副生物の発生の抑制により、得られる変性ポリエチレンを用いた成形体において、フィッシュアイ、ブツ等による製品外観の悪化を防止できるとともに難燃性の低下を抑制できる傾向にある。
【0058】
上述した酸及び/又はその誘導体による変性は、グラフト変性が好適であり、従来公知の種々の方法で行うことができる。変性方法としては、溶融させたポリエチレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶融変性法、溶媒に溶解させたポリエチレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶液変性法、固体のポリエチレンに酸及び/又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる固相重合法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0059】
成分(C)の酸及び/又はその誘導体による変性率は、特に限定されないが、成分(C)の変性ポリエチレンの総量に対して、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上であり、一方、10質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。原料として使用するポリエチレンによっても変動するが、酸及び/又はその誘導体による変性率が上記下限値以上であれば、難燃性が良好となる傾向がある。また、該変性率が上記上限値以下であれば、熱安定性の低下を抑制することができ、他の成分との相溶性の低下も抑制することができる傾向にある。
【0060】
ここで変性率(グラフト率)とは、赤外分光測定装置で測定した際の、酸及び/又はその誘導体成分の含有率を意味する。例えば、厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中の不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体特有の吸収、具体的には1900~1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。なお、酸及び/又はその誘導体による変性は、100%が反応に供されずに、ポリエチレンと反応していない酸及び/又はその誘導体も変性ポリエチレン中に残留している場合があるが、本発明における変性率(グラフト率)は、上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
【0061】
また、成分(C)の変性ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、0.1~50g/10分が好ましく、より好ましくは1~30g/10分であり、更に好ましくは1~20g/10分である。ここで、変性ポリエチレンのMFRは、JIS K7210(1999)に準拠し、測定温度190℃、測定荷重21.2Nの条件下で測定した値を意味する。
【0062】
なお、成分(C)の変性ポリエチレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠、190℃、荷重21.2N)の測定において、190℃では流動性が高すぎて測定が困難な場合は、180℃(荷重21.2N)で測定してもよい。例えば、マレイン酸変性ポリエチレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠、180℃、荷重21.2N)は、1~30g/10分が好ましく、より好ましくは1~20g/10分である。
【0063】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物原料において、成分(C)の変性ポリエチレンは、1種のみを用いてもよく、変性前のポリエチレンの組成や物性、変性に用いた酸及び/又はその誘導体の種類や変性率などの異なるものの2種以上を用いてもよい。
【0064】
成分(C)の変性ポリエチレンは、市販品を用いることもできる。市販品として入手することができる変性ポリエチレンとしては、例えば、三菱ケミカル社製の「モディック」(登録商標)の該当品を使用することができる。
【0065】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物において、成分(C)の密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレンの含有率は、該難燃性エチレン系重合体組成物100質量%に対して、0.1~50質量%である。上記変性ポリエチレンの含有率の下限は特に限定されないが、難燃性の観点から1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上記変性ポリエチレンの含有率の上限は、難燃性と引張特性の両立の観点から40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0066】
[その他の成分]
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、エチレン系重合体、成分(A)~(C)以外の各種の重合体や添加剤を配合することができる。
【0067】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物が含んでいてもよいその他の重合体としては、エチレン系重合体や成分(C)以外の熱可塑性樹脂やエラストマーが挙げられる。
【0068】
エチレン系重合体や成分(C)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;スチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(エチレン系重合体や成分(C)に該当するものを除く。)が挙げられる。また、エチレン系重合体や成分(C)以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリブタジエン等が挙げられる。
【0069】
ただし、本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、重合体成分としてエチレン系重合体と成分(C)を含むことによる効果をより有効に得るために、エチレン系重合体や成分(C)以外の熱可塑性樹脂やエラストマーを含む場合、その含有率は、難燃性エチレン系重合体組成物の合計100質量%中に、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
添加剤としては、例えば、熱安定剤および酸化防止剤、滑剤、銅害防止剤が挙げられる。熱安定剤および酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられ、例えば、BASFジャパン製の「イルガノックス」(登録商標)シリーズを使用することができる。滑剤としては、ステアリン酸亜鉛等が挙げられ、例えば、淡南化学製の「ジンクステアレ-ト」(登録商標)を使用することができる。銅害防止剤としては、ソンウォン・インターナショナルジャパン製の「ソンノックス」(登録商標)を使用することができる。これらの添加剤は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0071】
これらの添加剤を配合する場合、これらの添加剤は、その合計量として、エチレン系重合体と成分(C)の合計100質量部に対して、通常2質量部以下、例えば1~2質量部の範囲で用いられる。
【0072】
[難燃性エチレン系重合体組成物の製造方法]
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、エチレン系重合体、成分(A)~成分(C)及び必要に応じて用いられるその他の成分を所定量含有する本発明の混合物を混練して得られるものである。
【0073】
[酸素指数]
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物のJIS K7201に準拠して測定される酸素指数は、難燃性の観点から30~45であることが好ましく、33~45であることがより好ましい。
【0074】
〔成形体・用途〕
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、通常、ポリオレフィン系樹脂組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形の各種成形方法により、成形体とすることができる。これらの中でも射出成形、押出成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形等の二次加工を行った成形体とすることもできる。特に、本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は押出成形性に優れ、成形した際の目ヤニの発生やブツが低減されたものであるため、押出成形、特に異形押出成形に好適である。
【0075】
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物より得られる成形体は、耐久性の観点からJIS K6723の条件で測定される引張強度が10~20MPaであることが好ましく、14~20MPaであることがより好ましい。また、本発明の難燃性エチレン系重合体組成物より得られる成形体は、耐久性の観点からJIS K6723の条件で測定される引張伸びが300~900%であることが好ましく、400~900%であることがより好ましい。
【実施例0076】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0077】
[原料]
以下の実施例・比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0078】
[エチレン系重合体]
ダウケミカル社製 エンゲージ(登録商標)ENR7256
エチレン・α-オレフィン共重合体
密度:0.885g/cm3
MFR(190℃、21.2N荷重):2.5g/10分
【0079】
[成分(A):金属水酸化物]
A :協和化学社製 キスマ(登録商標)5P
水酸化マグネシウム
平均粒子径:1.0μm
【0080】
[成分(B):シリコーン]
B :東レ・ダウコーニング社製 SH200 FLUID 12500 CS
ポリジメチルシロキサン
動粘度(25℃):12500cSt
【0081】
<成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレン>
C :三菱ケミカル株式会社製 モディック(登録商標)730T
無水マレイン酸変性ポリエチレン
密度:0.885g/cm3
MFR(190℃、21.2N荷重):2.0g/10分
変性率:0.52質量%
【0082】
<比較の変性ポリエチレン>
d1:三菱ケミカル株式会社製 モディック(登録商標)M122
無水マレイン酸変性ポリエチレン
密度:0.920g/cm3
MFR(190℃、21.2N荷重):1.3g/10分
変性率:0.28質量%
d2:三菱ケミカル株式会社製 モディック(登録商標)MMHDH1
無水マレイン酸変性ポリエチレン
密度:0.955g/cm3
MFR(190℃、21.2N荷重):1.0g/10分
変性率:0.92質量%
【0083】
<その他の成分>
フェノール系酸化防止剤:BASFジャパン製 イルガノックス(登録商標)IRGANOX1010
【0084】
[評価方法]
以下の実施例・比較例における難燃性エチレン系重合体組成物の評価方法は以下の通りである。
【0085】
<酸素指数>
得られたペレットを用いて表面温度130℃のオープンロールで厚み2~3mmのシートを成形した後、プレス成形(温度190℃、圧力10MPa)で3mm厚みのシートを成形することでプレスシートを得た。この3mm厚みのプレスシートを用いて、JIS K7201に準拠して酸素指数を測定した。
【0086】
<引張強度・引張伸び>
得られたペレットを用い、直径20mmの単軸押出機を用いて180℃で押出成形し、幅50mm×厚さ1mmの押出テープを得た。この厚さ1mmの押出テープを用い、JIS K6723に準拠して引張強度・引張伸びの測定を行った。試験片は3号ダンベルを用い、引張速度は200mm/分とした。
【0087】
[実施例1]
エチレン系重合体99質量部、成分(A)100質量部、成分(B)4質量部、成分(C)1質量部、フェノール系酸化防止剤0.5質量部を内容量1.0Lの加圧ニーダーへ挿入し、加圧ニーダーのジャケット設定温度80℃で混練し、せん断による自己発熱で樹脂温度が180℃になった時点で混練を終了した。得られた混練物を更に表面温度120℃のオープンロールによりシート化した後、ペレタイザーでペレット化して難燃性エチレン系重合体組成物のペレットを得た。
【0088】
[実施例2~7、比較例1~3]
表-1に記載の配合割合とし、更に、フェノール系酸化防止剤0.5質量部を配合した以外は実施例1と同様にして、難燃性エチレン系重合体組成物のペレットを得た。
【0089】
実施例1~7、比較例1~3で得られた難燃性エチレン系重合体組成物のペレットについて、前述の酸素指数、引張強度、引張伸びの測定、評価を行った。結果を表-1に示す。
【0090】
【0091】
[評価結果]
表-1に示す通り、実施例1~7の難燃性エチレン系重合体組成物は、酸素指数が高く難燃性に優れていることがわかる。
実施例1~7の結果から、成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレンを入れることで酸素指数が大幅に上がる傾向があることわかる。
【0092】
実施例1~7では、成分(C)を難燃性エチレン系重合体組成物100質量%中に、0.5質量%、1.5質量%、2.5質量%、3.4質量%、4.9質量%、9.8質量%、又は19.6質量%で配合している。酸素指数については、成分(C)が0.5質量%、1.5質量%、2.5質量%と少量添加であっても効果が大きいことがわかる。特に、0.5質量%配合しただけである実施例1は、成分(C)が0質量%である、比較例3と比較すると、酸素指数が23から30と大きく向上していることがわかる。また、引張強度は同じくらいだが、引張伸びも807%から858%と向上している。
【0093】
一方、密度が0.90g/cm3より大きい変性ポリエチレンd1、d2を配合した比較例1,2では、酸素指数は比較例3よりは向上しているものの、密度が0.885g/cm3の変性ポリエチレン(C)を同量配合した実施例3ほどは向上していない。
よって、成分(C):密度が0.85g/cm3以上0.90g/cm3以下である変性ポリエチレンを配合した場合において、飛躍的に酸素指数が向上していることがわかる。
本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、電線;電線被覆材;電線保護管;チューブ;雑貨等の広汎な分野で用いることができる。本発明の難燃性エチレン系重合体組成物は、酸素指数及び引張特性に優れているため、以上に挙げたものの中でも特に電線被覆材として好適である。