(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117181
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】CNT樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20230816BHJP
C01B 32/162 20170101ALI20230816BHJP
【FI】
C01B32/168
C01B32/162
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019753
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】勝見 涼一
(72)【発明者】
【氏名】榊原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】福地 真也
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AC03A
4G146AC16B
4G146AC26B
4G146AC27A
4G146AD20
4G146AD40
4G146BA08
4G146BA12
4G146BA48
4G146BB23
4G146BC09
4G146BC34B
4G146BC42
4G146BC44
4G146CB01
4G146CB20
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】良好な熱伝導性を備え、好ましくは、放熱性に加えて、機械的特性、化学的又は物理的耐久性、又は取り扱い性等のその他性能にも優れ得るCNT樹脂複合体の提供。
【解決手段】CNT配向集合体に樹脂を含浸させてなるCNT樹脂複合体であって、
前記CNT配向集合体を構成するCNTの平均長さが0.1mm以上であり、
前記CNT樹脂複合体におけるCNT含有率が25重量%以上である、CNT樹脂複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNT配向集合体に樹脂を含浸させてなるCNT樹脂複合体であって、
前記CNT配向集合体を構成するCNTの平均長さが0.1mm以上であり、
前記CNT樹脂複合体におけるCNT含有率が25重量%以上である、CNT樹脂複合体。
【請求項2】
前記CNTの平均長さが0.5mm以上である、請求項1に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項3】
前記CNTが多層CNTである、請求項1又は2に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項4】
前記CNTの直径が10nm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項5】
前記CNT含有率が60重量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項6】
前記樹脂が熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である、請求項1~5のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項7】
低融点金属粒子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項8】
前記CNT配向集合体がCNTアレイ又はCNTシートである、請求項1~7のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項9】
前記CNTの長さ方向に対する熱伝導率が前記CNTの直径方向に対する熱伝導率の2.0倍以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む物品。
【請求項11】
放熱材、電磁波シールド、静電防止シート、及びヒーターからなる群から選択される、請求項10に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はCNT樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということもある)は、熱伝導性、導電性、機械的強度等に優れることから、広範囲にわたる分野における様々な用途での利用が期待されている。
【0003】
CNTの熱伝導特性を活かして、CNTと樹脂とを複合させたCNT樹脂複合体を放熱材として利用することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、CNT樹脂複合体には、制御可能なパラメータ(CNTの構造、CNT添加量、樹脂の種類等)が数多くあり、良好な放熱性を発現するために、これらパラメータをどのように設計することが好ましいかは従来技術からは明らかではない。また、放熱性に加えて、機械的特性、化学的又は物理的耐久性、取り扱い性等との両立も問題となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示はかかる事情に鑑みて為されたものである。従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記目的の達成を試み、上記の主目的を達成できることを見出し、本開示に至った。本開示における好ましい一実施形態は次のとおりである:
[項1]
CNT配向集合体に樹脂を含浸させてなるCNT樹脂複合体であって、
前記CNT配向集合体を構成するCNTの平均長さが0.1mm以上であり、
前記CNT樹脂複合体におけるCNT含有率が25重量%以上である、CNT樹脂複合体。
[項2]
前記CNTの平均長さが0.5mm以上である、項1に記載のCNT樹脂複合体。
[項3]
前記CNTが多層CNTである、項1又は2に記載のCNT樹脂複合体。
[項4]
前記CNTの直径が10nm以上である、項1~3のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項5]
前記CNT含有率が60重量%以上である、項1~4のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項6]
前記樹脂が熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である、項1~5のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項7]
低融点金属粒子を含む、項1~6のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項8]
前記CNT配向集合体がCNTアレイ又はCNTシートである、項1~7のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項9]
前記CNTの長さ方向に対する熱伝導率は前記CNTの直径方向に対する熱伝導率の2.0倍以上である、項1~8のいずれか一項に記載のCNT樹脂複合体。
[項10]
項1~9のいずれか一項に記載の樹脂複合体を含む物品。
[項11]
放熱材、電磁波シールド、静電防止シート、及びヒーターからなる群から選択される、項10に記載の物品。
【発明の効果】
【0007】
本開示におけるCNT樹脂複合体は、良好な熱伝導性を備える。本開示におけるCNT樹脂複合体は、好ましくは、熱伝導性に加えて、機械的特性、化学的又は物理的耐久性、又は取り扱い性等のその他性能にも優れ得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】CNTアレイの製造プロセスの模式図を示す。
【
図2】CNTシートの製造プロセスの模式図を示す。
【
図3】CNT樹脂複合体製造例1~4で得られたCNT樹脂複合体の特性等を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<CNT樹脂複合体>
本開示におけるCNT樹脂複合体は、CNT配向集合体に樹脂を含浸させてなるものである。CNT樹脂複合体は、CNT配向集合体に樹脂を含浸後、樹脂を硬化させたものであってもよい。従来、樹脂に金属やカーボンフィラーを複合させた放熱材が知られているがその熱伝導性は十分ではなかった。また、金属を放熱材として用いれば熱伝導性が上がり放熱は容易になるが、成型が困難であり、絶縁性が求められる用途への利用が難しい。本開示におけるCNT樹脂複合体を用いればそのような課題を解決し得る。
【0010】
本開示におけるCNT樹脂複合体の製造方法としては、例えば、CNT配向集合体に加熱融解した樹脂を含浸させて冷却硬化させる方法や、CNT配向集合体に液状樹脂(例えば、単量体、プレポリマー)を含浸させて硬化(加熱硬化、光硬化等)させる方法等が挙げられる。
図1及び
図2はそれぞれ、CNTアレイと樹脂とを複合させてCNT樹脂複合体を得る工程の模式図と、CNTシートと樹脂とを複合させてCNT樹脂複合体を得る工程の模式図とを示している。本開示におけるCNT樹脂複合体は異方的な熱伝導性を有し、CNTの長さ方向(成長方向)においてCNTの直径方向(成長方向とは垂直方向)と比較して大きな熱伝導性を有し得る。そして、CNT樹脂複合体の熱伝導率は樹脂単体の熱伝導率(1W/m・K以下)と比較しても顕著に大きい。このようなCNT樹脂複合体の特異な熱伝導性は放熱材として好適である。また、樹脂を用いることで成型性が向上し、絶縁性が求められる用途への利用も容易となる。
【0011】
[CNT配向集合体]
CNT樹脂複合体は上述したCNT配向集合体を含む。「CNT配向集合体」とは、CNT配向集合体を構成する各CNTが一定の方向に配向しているCNTの集合体である。CNT配向集合体の例としてはCNTアレイ及びCNTシートが挙げられる。CNT配向集合体は異方的な熱伝導特性を有する。つまり、CNTの長さ方向においては高い熱伝導率を示し、CNTの長さ方向と垂直方向(CNTの直径方向)には相対的に低い熱伝導率を示す(
図1及び
図2参照)。この異方的な熱伝導特性は、例えば放熱材としての応用に有用である。この異方的な熱伝導特性は、例えば放熱材としての応用に有用である。
【0012】
(CNTの合成)
本開示におけるCNT配向集合体を構成するCNTの合成プロセスはCVD法であってよい。CVD法とは堆積物形成法の一種であり、堆積物形成の過程で化学反応を用いるのでこのように呼ばれる。CVD法には、温度を上げて熱により原料を分解させる熱CVD法、化学反応を促進させるために光を照射する光CVD法、ガスをプラズマ状態に励起するプラズマCVD法等が含まれるが、通常、本開示におけるCNTの合成プロセスにおいては、熱CVD法が好ましい。熱CVD法の例としては、DIPS法、CoMoCAT法、HiPCO法、スーパーグロースCVD法、固相触媒法、気相触媒法等が挙げられる。
【0013】
・CVD装置
本開示におけるCNTの合成プロセスにおいてはCVD装置を用いる。本開示におけるCVD装置は、特に限定されないが、反応室全体を加熱する(ホットウォール型)又は基板台のみを加熱して反応室は冷却する(コールドウォール型)であってよく、横型又は縦型(温度分布、応答速度、ガスの流量制御などに優れる)であってよく、バッチ処理(複数枚を同時に処理)、枚葉式(一枚ずつ処理)又は連続処理式(コンベア式)であってよい。大量生産に向いているという観点からは連続処理式であることが好ましい。
【0014】
CVD装置は、基板を含む反応室、反応室にガス(原料ガス、又はキャリアガス)を導入するためのガス導入手段、反応室内からガス(未反応原料ガス、原料分解物ガス、又はキャリアガス)を排出するための排出手段及びヒーターを有してよい。
【0015】
・基板及び触媒
基板は、CNTを成長するための土台となる。基板は成長温度以上の融点を有する。基板の種類としては、シリコン基板などの半導体基板、アルミナ(サファイア)基板、MgO基板、ガラス基板などの絶縁性基板、金属基板などを用いることができる。また、これら基板上に薄膜が形成されたものでもよい。例えば、シリコン基板上に膜厚10nm~1000nm(例えば100nm~500nm)程度の酸化膜(例えばシリコン酸化膜)が形成されたものを用いることができる。
【0016】
基板は触媒の支持体として、Mo、Ti、Hf、Zr、Nb、V、TaN、TiSix(例えばx=1~2)、Al、Al2O3、TiOx(例えばx=1~2)、Ta、W、Cu、Au、Pt、Pd、TiN又はこれらのうち少なくとも一を含む支持体を有してもよい。支持体はその厚みが0.1nm以上、0.5nm以上、又は1nm以上であってよく、10nm以下、7.5nm以下、又は5nm以下であってよい。支持体層と触媒層で積層構造を形成していてもよいし、支持体に触媒が分散されて存在していてもよい。
【0017】
基板は触媒機能を有する触媒層をその表面に有していることが好ましい。触媒層は例えばスパッタ法により触媒粒子を付着させることで、形成させることができる。この時、CNTの成長性の観点から触媒粒子を付着させる部分と付着させない部分を交互に形成しておくことが好ましい。このような島状の触媒層は、例えば、メッシュを基板上に設置しこの上からスパッタリング法で触媒粒子を一定のパターンで付着させたり、微分型静電分級器を用いてあらかじめ触媒粒子のサイズを制御したりすることにより作製することができる。触媒層はその厚みが0.1nm以上、0.5nm以上、又は1nm以上であってよく、10nm以下、7.5nm以下、又は5nm以下であってよい。島状の触媒層はその直径が0.1nm以上、0.5nm以上、1nm以上、又は3nm以上であってよく、15nm以下、10nm以下、7.5nm以下、又は5nm以下であってよい。
【0018】
CNTの成長反応に用いる触媒の種類は限定されないが、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Ag、Au、Pt等の第3族~第12族の遷移金属元素を含有することが好ましい。触媒はこれらの元素のハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物)、又は酸化物などであってもよい。成長速度の観点から、触媒はハロゲン化物であってよく、特にハロゲン化鉄を用いることが好ましい。ハロゲン化物をさらに具体的に例示すれば、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、臭化鉄、臭化コバルト、臭化ニッケル、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケルなどが挙げられる。ここで、ハロゲン化物は、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)のように、2価、3価又は多価であってよい。CNT配向集合体を構成するCNTは上述したCNTの合成プロセスを用いて合成されてよい。
【0019】
・成長工程
本開示におけるCNTの合成プロセスは成長工程を含む。成長工程は、基板を含む反応室に原料ガスを供給し、成長温度及び成長圧力の下、前記基板上にCNTを成長させることを含む。基板を成長温度まで加熱する前に、反応室内雰囲気は真空とされていてよいし、キャリアガスで置換されていてもよい。反応室内に原料ガスを供給する際には、反応室内雰囲気は所定の温度(成長温度)まで加熱されていてよい。ここで、「成長温度」とはCNTの成長反応が進行可能な反応室雰囲気温度であり、「成長圧力」とはCNTの成長反応が進行可能な原料ガスの反応室内圧力である。
【0020】
原料ガスはCNTの炭素原料となるガス状化合物である。原料ガスの炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、又は1以下であってよく、好ましくは3以下である。原料ガスは炭化水素であってよい。原料ガスの例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、ブテン及びイソブテン及びアセチレン等の脂肪族不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等の芳香族炭化水素、メタノール及びエタノール等のアルコール、これらの混合物等が挙げられ、代表的にはアセチレンである。
【0021】
原料ガスと同時に第二ガスを反応室内に供給してもよい。第二ガスは、原料ガスとは異なるガスであって、酸素原子を有する炭化水素及び水素からなる群から選択される少なくとも一のガスである。第二ガスは、触媒のエッチング作用を有し得る。また、第二ガスは還元性物質であってもよい。
【0022】
酸素原子を有する炭化水素は、アルコール酸素を有する炭化水素、カルボニル酸素を有する炭化水素、又はエーテル酸素を有する炭化水素であってよく、好ましくは、アルコール酸素を有する炭化水素又はカルボニル酸素を有する炭化水素であってよく、特にカルボニル酸素を有する炭化水素である。酸素原子を有する炭化水素の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、又は1以下であってよく、好ましくは3以下である。
【0023】
第二ガスの具体例としては、一酸化炭素、アセトン、エタノール、メタノール、及び、水素等が挙げられ、好ましい具体例としては一酸化炭素、アセトン、及び水素が挙げられ、特に一酸化炭素及びアセトンである。
【0024】
第二ガスが原料ガスと同時に供給されることにより、CNTの成長性を高める効果や、さらに製造されたCNTの紡績性を向上させる効果を有し得る。また、CNTアレイの成長に係る反応の活性化エネルギーの低下、CNTアレイの成長速度の向上、CNTアレイの成長安定性の向上、失活原因であるアモルファスカーボン除去により気相触媒の長寿命化、成長長さの均一性の向上、等といった効果を発現し得る。
【0025】
第二ガスを供給するために、第二ガスそのものを供給することに加えて又は供給することに代えて、第二ガスを形成可能な原料を供給することもできる。例えば、第二ガスとしての一酸化炭素を供給するために、上述した一酸化炭素そのものを供給することに加えて又は供給することに代えて、一酸化炭素を形成可能な原料を供給することもできる。一酸化炭素を形成可能な原料としては、例えば、二酸化炭素やカルボニル錯体等が挙げられる。これら原料は、反応室内において一酸化炭素を形成(生成)して、一酸化炭素を供給した場合と同様の効果を奏することができる。
【0026】
成長工程における原料ガス圧は、1Torr以上、3Torr以上、5Torr以上、10Torr以上、25Torr以上、又は50Torr以上、であってよく、好ましくは1Torr以上である。成長工程における原料ガス圧は、300Torr以下、200Torr以下、150Torr以下、100Torr以下、50Torr以下、25Torr以下、又は12.5Torr以下であってよく、好ましくは100Torr以下である。
【0027】
成長工程における原料ガス圧に対する第二ガス圧比(第二ガス圧/原料ガス圧)は、0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、5%以上、10%以上、又は20%以上であってよく、好ましくは1%以上である。成長工程における第二ガス圧に対する原料ガス圧(第二ガス圧/原料ガス圧)は、500%以下、300%以下、100%以下、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は5%以下であってよく、好ましくは30%以下である。
【0028】
原料ガスと同時にキャリアガスを反応室内に供給してもよい。キャリアガスの例としては、アルゴン、ヘリウム、又はネオン等の希ガス、窒素等が挙げられる。キャリアガスの量は適宜決定されてよいが、例えば、原料ガス圧の100%以上10000%以下であってよい。その他、必要に応じて、水素、水蒸気等のその他ガスを、本願発明の効果を損なわない範囲で、反応室内に供給してもよい。
【0029】
成長温度は、原料ガスが反応して基板にCNTを形成する温度であればよく、例えば500℃以上、550℃以上、600℃以上、650℃以上、700℃以上、750℃以上、800℃以上、又は850℃以上であってよく、好ましくは600℃以上である。成長温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下又は850℃以下であってよく、好ましくは1000℃以下である。
【0030】
成長工程の時間は、所望のCNTの長さによって決定されればよく、短いCNTを必要とする場合は、成長工程の時間を短くし、長いCNTを必要とする場合は、成長工程の時間を長くすればよい。
【0031】
所定の長さまでCNTが成長したら、反応室雰囲気温度を降温させて、合成プロセスを終了させる。降温は、反応室雰囲気温度が、CNTが空気中の酸素で酸化されない温度に達するまで行われてもよく、例えば500℃未満、400℃以下、又は300℃以下である。反応室雰囲気温度が、CNTが空気中の酸素で酸化されない温度に達せば、基板を大気圧下に解放してもよい。
【0032】
・CNTの構造
CNT配向集合体を構成するCNTは単層又は多層であってもよいが、多層であることが好ましい。CNTの直径は0.5nm以上、3nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、50nm以上、又は100nm以上であってよく、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。CNTの直径は500nm以下、300nm以下、100nm以下、80nm以下、60nm以下、40nm以下、又は20nm以下であってよく、好ましくは100nm以下である。CNTの層数は1以上、2以上、3以上、5以上、7以上、10以上、又は20以上であってよく、好ましくは2以上である。CNTの層数は55以下、45以下、35以下、25以下、15以下、又は5以下であってよい。CNTの直径及び層数は、触媒の種類、触媒粒子の大きさ等によって決定され得るものである。
【0033】
CNT配向集合体を構成するCNTの長さは比較的長尺であるものが好ましい。CNTの平均長さは0.05mm以上、0.1mm以上、0.2mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、1.0mm以上、3.0mm以上、5mm以上、10mm以上であってよく、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.4mm以上である。CNTの長さは平均で200mm以下、150mm以下、100mm以下、50mm以下、25mm以下、10mm以下、5.0mm以下であってよく、好ましくは25mm以下である。CNTの長さは、成長工程の時間によって決定されるものであり、短いCNTを必要とする場合は、成長工程の時間を短くし、長いCNTを必要とする場合は、成長工程の時間を長くすればよい。CNTの平均長さが大きいほど、CNT樹脂複合体が熱伝導性に優れ得る。また、CNTの平均長さが大きいほど、機械的特性、化学的又は物理的耐久性、又は取り扱い性等のその他性能にも優れ得る。
【0034】
CNT配向集合体を構成するCNTのG/D比は、1以上、1.5以上、2以上、2.5以上であってよく、好ましくは2以上である。本開示の合成方法により得られるCNTのG/D比は、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよい。G/D比はラマン分光法により求められるカーボンナノチューブの結晶性の指標である。
【0035】
CNT配向集合体を構成するCNTの純度は、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上であってよく、好ましくは95%以上である。CNTの純度は例えば蛍光X線を用いた元素分析により求めることができる。
【0036】
(CNTアレイ)
本願明細書において「CNTアレイ」とは基板から成長したCNTの配向集合体(CNTフォレストとも称される)であって基板から分離されたものをいう。
【0037】
本開示におけるCNTアレイの製造プロセスはさらに上記のCNTの合成プロセスの後における剥離工程を含む。剥離工程では、基板上に形成されたCNTを前記基板から剥離してCNTアレイを得る。ここでいう基板上に形成されたCNTは基板上に垂直配向したCNT集合体(いわゆるCNTフォレスト)である。本明細書において、剥離して単離された垂直配向性CNT集合体のことを本願明細書においてCNTアレイと称する。
図1はCNTアレイの製造プロセスの模式図を示す。
【0038】
剥離工程においてCNTを基材から剥離する方法は、物理的、化学的あるいは機械的な剥離方法であってよい。具体的には、例えば、電場、磁場、遠心力、表面張力等を用いて剥離する方法、機械的に基材から剥離する方法、並びに、圧力又は熱を用いて基材から剥離する方法等が例示できる。また、真空ポンプを用いてCNTを吸引し、基材から剥ぎ取ることも可能である。機械的に基材から剥離する方法としては、CNTをピンセットで直接つまんで基材から剥がす方法や、鋭利部を備えたプラスチック製のヘラ又はカッターブレード等の薄い刃物を使用してCNTを基材から剥ぎ取る方法が挙げられる。
【0039】
(CNTシート)
本願明細書において「CNTシート」とはCNTの乾式紡績現象を用いて基板上に合成されたCNTから引き出されるCNTウェブの積層体である。つまり、本開示におけるCNTシートの製造プロセスは、上記のCNTの合成プロセスの後、CNTの乾式紡績現象を用いて基板上に形成されたCNTをCNTウェブとして基板から引き出す引き出し工程を含む。「CNTの乾式紡績現象」とは、基板上に垂直配向したCNT集合体(いわゆるCNTフォレスト)の端部をつまみ基板表面に沿って引き出すとCNT同士がファンデルワールス力で自発的に結合したCNT連結体であるCNTウェブが形成される現象である。このCNTの乾式紡績現象により、基板上の三次元的に成長しているCNT集合体が二次元ネットワークを形成した集合体へ変化させることができる。この形態変化は蚕の繭から糸を紡ぎだす動作と似ているが、CNT向士は強いファンデルワールスカで結合されるため、従来の紡績とは異なりCNTウェブに撚りを加えなくても紡績可能である。CNTウェブを撚り合せればCNT糸を形成することができ、CNTウェブを積層させることでCNTシートを形成することができる。乾式紡績現象を利用するCNTシートの製造プロセスは公知であり、例えば、Y. Inoue, K. Kakihata, Y. Hirono, T. Horie, A. Ishida & H. Mimura : Appl. Phys. Lett., 92, 21 (2008), 213113.;Y. Inoue, Y. Suzuki, Y. Minami, J. Muramatsu, Y. Shimamura, K. Suzuki, A. Ghemes, M. Okada, S. Sakakibara, H. Mimura & K. Naito : Carbon, 49, 7 (2011),2437-2443.等を参考にできる。
【0040】
CNTシートは異方的な熱伝導性を有するため、放熱材として好適である。CNTシートは乾式紡績現象を利用して基板上に合成されたCNTからCNTウェブを積層させることにより得ることができる。CNTウェブの積層は巻き取りロールを用いることにより行えばよい。
図2はCNTシートの製造プロセスの模式図を示す。
【0041】
CNTシートにおける積層数は5層以上、10層以上、20層以上、30層以上、50層以上、70層以上、又は100層以上であってよく、積層数が多いほど熱伝導性に優れ得る。CNTシートにおける積層数は、10000層以下、1000層以下、又は100層以下であってよい。
【0042】
(CNT含有率)
CNT樹脂複合体中、CNT含有率(CNT配向集合体が占める量)は、5重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、40重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は85重量%以上であってよく、好ましくは40重量%以上、60重量%以上、又は80重量%以上である。CNT樹脂複合体中、CNT含有率は、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、又は50重量%以下であってよい。CNT含有率が高いほど、CNT樹脂複合体が熱伝導性に優れ得る。また、CNT含有率が高いほど、機械的特性、化学的又は物理的耐久性、又は取り扱い性等のその他性能にも優れ得る。また、CNTは硬度や摩擦係数が樹脂に比べて優れているため、CNT含有率が高いほど、摺動部への応用で有利となり得る。
【0043】
[樹脂]
CNT樹脂複合体は樹脂を含む。樹脂は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であってよい。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、及び熱硬化性アクリル樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリオレフィン、ポリハロゲン化オレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、非硬化性アクリル樹脂、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0044】
[低融点金属粒子]
CNT樹脂複合体は低融点金属粒子を含んでいてよい。低融点金属粒子はCNT配向集合体に含浸させる際に樹脂に添加されていてよく、CNT樹脂複合体において通常、樹脂中に分散している。低融点金属粒子は粒子形状であってもよいし、例えば加熱融解されることにより形状が変化していてもよい。CNT樹脂複合体が低融点金属粒子を含むことにより、熱伝導性を向上させることができ、放熱材としての性能に優れ得る。また、低融点金属粒子の量によっては、CNT樹脂複合体に所望の電気伝導性を付与することも可能となる。
【0045】
低融点金属粒子の融点は50℃以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であってよい。低融点金属粒子の融点は600℃以下、550℃以下、500℃以下、450℃以下、400℃以下、350℃以下、又は300℃以下であってよい。低融点金属粒子の「低融点」とはその融点が600℃未満であることを意味してもよい。
【0046】
低融点金属粒子は一種の金属からなってもよいし合金であってもよい。低融点金属粒子の例としては、亜鉛、鉛、スズ、ビスマス、テルル、セレン又はこれらの合金等が挙げられるが、銀、銅、金、アルミニウム、鉄等のようなバルクでは高い融点を持つ金属であってもナノ粒子であれば低温で融解するため、低融点金属粒子として取り扱える。例えば、銀はバルクでは高い融点(962℃)を有するが、ナノ粒子であれば100~300℃で融解し得る。銀、銅、金、アルミニウム、及び鉄等は熱伝導性に優れるため、放熱材としての応用に好適である。
【0047】
金属粒子の平均粒径は1nm以上、10nm以上、100nm以上、1μm以上、又は10μm以上、又は100μm以上であってよい。金属粒子の平均粒径は1mm以下、100μm以下、10μm以下、又は1μm以下であってよい。熱伝導性を向上させて放熱材として応用する観点から、金属粒子の融点を低下させるため、粒径を小さくする(例えばナノサイズ(1000nm以下))とすることが好適である。
【0048】
低融点金属粒子の量は樹脂に対して、0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.1%以上、0.5%以上、1重量%以上、2.5重量%以上、5重量%以上、7.5重量%以上、又は10重量%以上であってよい。低融点金属粒子の量は樹脂に対して、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、5重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.3重量%以下、又は0.1重量%以下であってよい。熱伝導性の観点からは、低融点金属粒子の量は多くてもよく、熱異方性の観点からは少なくてもよい。CNT樹脂複合体の絶縁性を高いものとする観点からは、低融点金属粒子の量は少なくてもよい。
【0049】
[その他成分]
CNT樹脂複合体は本願発明の効果を失わせない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例は、有機染料及び有機顔料等の着色剤;有機粒子及び有機繊維等の有機充填材;老化防止剤/酸化防止剤;紫外線吸収剤・光安定剤等が挙げられる。
【0050】
[CNT樹脂複合体の構造]
CNT樹脂複合体はシート状、フィルム状、直方体状、又は円柱状等であってよい。
【0051】
CNT樹脂複合体のサイズは、複合させるCNT配向集合体の種類に依存するが、複合させるCNT配向集合体と同程度のサイズとなるよう樹脂成分の量を調整してもよいし、例えば、樹脂成分を少なめにしてCNT配向集合体を表面から露出させたり、樹脂成分を多めにしてCNT配向集合体が表面から露出しないように設計することも可能である。例えば一部(例えば1%以上、5%以上、10%以上、又は25%以上であって、75%以下、50%以下、25%以下、10%以下、又は5%以下)のCNTの端点が樹脂外表面から±1.0mm以内、±0.5mm以内、±0.3mm以内、±0.2mm以内、±0.1mm以内、又は±0.05mm以内の範囲にあってよい。
【0052】
CNT配向集合体の配向方向(CNTの成長方向)はCNT樹脂複合体の面方向に沿った方向であってよく、CNT樹脂複合体の面方向から傾斜した方向(例えば、傾斜角は1°以上、3°以上、10°以上、15°以上、又は30°以上であって、75°以下、45°以下、30°以下、又は15°以下)であってもよい。
【0053】
[CNT樹脂複合体の物性]
CNT樹脂複合体のCNTの長さ方向に対する熱伝導率は1W/mK以上、3W/mK以上、5W/mK以上、10W/mK以上、又は15W/mK以上であってよい。CNT樹脂複合体のCNTの長さ方向に対する熱伝導率は、100000W/mK以下、10000W/mK以下、1000W/mK以下、又は1000W/mK以下であってよい。
【0054】
CNT樹脂複合体のCNTの直径方向に対する熱伝導率は0.3W/mK以上、1W/mK以上、2W/mK以上、3W/mK以上、又は5W/mK以上であってよい。CNT樹脂複合体の直径方向に対する熱伝導率に対する熱伝導率は、50000W/mK以下、5000W/mK以下、又は500以下であってよい。
【0055】
CNT樹脂複合体におけるCNTの長さ方向に対する熱伝導率はCNT樹脂複合体におけるCNTの直径方向に対する熱伝導率の1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、3.0倍以上、3.5倍以上又は4.0倍以上であってよく、好ましくは2.0倍以上である。CNT樹脂複合体におけるCNTの長さ方向に対する熱伝導率はCNT樹脂複合体におけるCNTの直径方向に対する熱伝導率の50倍以下、25倍以下、10倍以下であってよい。
【0056】
<CNT樹脂複合体を含む物品>
【0057】
本開示におけるCNT樹脂複合体を含む物品は、上述したCNT樹脂複合体を含む。CNT樹脂複合体はその熱伝導性、導電性、絶縁性、機械特性等を活かして種々の物品に応用することができる。CNT樹脂複合体を含む物品としては多岐にわたるが、例えば、物品の例としては、放熱材、ヒーター、伸縮性シート状歪センサ、電極シート、電池部品、電子部品、自動車、航空機、建築材料、電磁波吸収シート、電磁波シールド、静電防止シート等が挙げられるが、好ましくはその異方的な熱伝導性を活かした放熱材として好適に用いられる。
【実施例0058】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0059】
[CNT合成例]
基板を含む反応室(容積38L)、ガス導入部、及びガス排出部を含む熱CVD装置を用いた。基板として直径4インチの熱酸化膜付Si基板を用いた。触媒として塩化鉄(II)をその昇華温度以上に加熱し塩化鉄(II)の微粒子を基板上に蒸着させた。得られた基板をCVD装置の反応室内に設置した。温度(約800℃)、アセチレンガス流量(約10L/min)、一酸化炭素流量(1L/min以下)、反応室ガス圧力(約5Torr)の条件で、所望の長さに応じ10~30分間基板上にCNTを成長させた。その後、降温して大気開放した。これにより、基板面にほぼ垂直に成長したCNT(多層、長さ約0.5mmから1.5mm、直径約40~60nm、G/D比約2.5~3、純度99%以上)を得た。長さ、及び直径はSEM写真から決定した。G/D比はラマン分析により決定した。純度は熱重量分析により決定した。
【0060】
[CNTアレイ製造例1]
合成後の基板から成長したCNTを、鋭利部を有した樹脂製の治具を用いて剥離して、CNTアレイを得た。
【0061】
[CNTシート製造例1~3]
合成後の基板から成長したCNTの端部をつまんで引き出して、巻き取りロールを用いて巻き取ることにより、積層数がそれぞれ10、40及び80のCNTシートを得た。
【0062】
[CNT樹脂複合体製造例1~4]
上記CNTアレイ製造例1及びCNTシート製造例1~3で得られたCNTアレイ及びCNTシートそれぞれにエポキシ樹脂(ADEKA製EP-4100)を含侵させた後、加熱硬化させてCNT樹脂複合体製造例1~4を得た。得られたCNT樹脂複合体について、各物性を測定した結果を
図3に示す。各物性の測定は下記装置及び条件により行った。熱拡散率は熱伝導率及び比熱から求めることができる。
熱伝導率測定:ベテル製サーモウェーブアナライザTA(周期加熱放射測温法、室温下)
比熱測定:日立ハイテク製DSC7020(熱流速示唆走査熱量測定、室温下)
【0063】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。