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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117240
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】多軸締付機
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
B25B23/14 640D
B25B23/14 610R
B25B23/14 610K
B25B23/14 610A
B25B23/14 620G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019847
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄志
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038CA01
3C038CA03
3C038CA06
3C038CA07
3C038CB02
3C038CC04
3C038CC09
3C038CD03
(57)【要約】
【課題】不慣れな作業者でも安定した作業品質を維持でき、良好な作業効率も得られるようにする。
【解決手段】多軸締付機による締付作業において、コントローラは、S1でスイッチがONすると、S2でモータを駆動させる。そして、コントローラは、S3の判別でモータの負荷率が所定の閾値に到達したことを確認し、S4の判別でモータの回転軸の回転角度が所定の判定回転角度に到達したことを確認したら、締付が完了したと判定してS5でモータの駆動を停止させる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのモータと、
前記モータの駆動により同時に回転する少なくとも2つの回転部と、
各前記回転部からそれぞれ回転が伝達され、締結部材を装着可能な少なくとも2つの出力部と、
各前記回転部と各前記出力部との間にそれぞれ介在され、所定のトルクで回転伝達を遮断するクラッチと、
前記モータの駆動を制御するコントローラと、を含み、
前記コントローラは、各前記回転部の回転による前記締結部材の締付作業の際、前記モータの負荷率と前記モータの回転軸の回転角度とを監視し、
前記負荷率が所定の閾値に到達し、その後前記回転角度が所定の判定回転角度に到達したら、全ての前記回転部において締付完了と判定して前記モータの駆動を停止させる多軸締付機。
【請求項2】
前記コントローラは、前記負荷率が前記閾値に到達しても、前記回転軸の回転角度が、前記締結部材が着座するまでのねじ山の数に基づいて設定される所定の着座回転角度に到達していなければ、前記締結部材が不良と判定して前記モータの駆動を停止させる請求項1に記載の多軸締付機。
【請求項3】
前記コントローラは、前記負荷率が前記閾値に到達した後、前記回転角度が前記判定回転角度に到達する前に、前記負荷率が、前記閾値よりも大きい第2の閾値に到達しなければ、少なくとも1つの前記出力部において前記締結部材が未装着と判定して前記モータの駆動を停止させる請求項1又は2に記載の多軸締付機。
【請求項4】
前記負荷率は、前記モータの電流値である請求項1乃至3の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項5】
前記閾値は、各前記クラッチの下限トルクの合計に基づいて設定される請求項1乃至4の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項6】
前記判定回転角度は、少なくとも、前記回転部の数に360°を乗じた角度である請求項1乃至5の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項7】
前記締付完了を報知する報知手段を備えている請求項1乃至6の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項8】
前記締結部材の不良又は前記締結部材の未装着を報知するエラー報知手段を備えている請求項2又は3に記載の多軸締付機。
【請求項9】
各前記クラッチは、摩擦クラッチである請求項1乃至8の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項10】
各前記回転部は、駆動側筒部をそれぞれ含み、各前記出力部は、従動側筒部をそれぞれ含んでおり、前記摩擦クラッチは、前記駆動側筒部と前記従動側筒部との間に設けられている請求項9に記載の多軸締付機。
【請求項11】
前記摩擦クラッチは、前記駆動側筒部と前記従動側筒部との何れか一方の外周面と、他方の内周面とにそれぞれ設けられたテーパ部同士の当接により形成されている請求項10に記載の多軸締付機。
【請求項12】
各前記出力部は、鉄製の筒状体である請求項1乃至11の何れかに記載の多軸締付機。
【請求項13】
前記モータは、正転及び逆転が可能である請求項1乃至12の何れかに記載の多軸締付機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1つのモータで複数のボルト又はナット等の締結部材を同時に締め付け可能な多軸締付機(ナットランナと称されることもある)に関する。
【背景技術】
【0002】
多軸締付機は、1つのモータと、複数の回転部とを有している。モータの回転軸と各回転部との間には、回転軸の回転或いは減速機構で減速した回転を各回転部へ同時に伝達する伝達機構(例えばギヤやベルトプーリ等)が設けられている。
各回転部には、クラッチを介して出力部が設けられている。出力部に装着したソケットをボルトの頭部等に嵌合させることで、クラッチが作動する所定のトルクでボルト等の締付が可能となる。
特許文献1には、ハウジングから突出させた複数の回転軸(回転部)に、クラッチを介して減速ギヤ及び出力軸(出力部)をそれぞれ設けた多軸締付機が開示されている。ここでは減速ギヤに設けたトルクセンサで一定のトルク値を検出すると、クラッチを動作させて回転軸の回転を減速ギヤに伝達させないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-262454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の多軸締付機では、各回転部ごとにボルトが着座して締付が進むと、それぞれクラッチが独立して作動してトルクを遮断する。よって、作業者は、全ての回転部においてクラッチの作動を確認すると、トリガスイッチの押し込みを解除してモータを停止させ、締付作業を終了させる。しかし、不慣れな作業者では全ての回転部でのクラッチの作動が確認しづらい。よって、早いタイミングでモータを停止させて締付不足が生じ、作業品質を低下させたり、全てのクラッチが作動してもモータの駆動を継続させて余計な時間がかかり、作業効率を低下させたりしてしまう。
【0005】
そこで、本開示は、不慣れな作業者でも安定した作業品質を維持でき、良好な作業効率が得られる多軸締付機を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、1つのモータと、
モータの駆動により同時に回転する少なくとも2つの回転部と、
各回転部からそれぞれ回転が伝達され、締結部材を装着可能な少なくとも2つの出力部と、
各回転部と各出力部との間にそれぞれ介在され、所定のトルクで回転伝達を遮断するクラッチと、
モータの駆動を制御するコントローラと、を含むものであってもよい。
そして、コントローラは、各回転部の回転による締結部材の締付作業の際、モータの負荷率とモータの回転軸の回転角度とを監視し、
負荷率が所定の閾値に到達し、その後回転角度が所定の判定回転角度に到達したら、全ての回転部において締付完了と判定してモータの駆動を停止させるものであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、締付完了の判定及びモータの停止を自動制御で行うことができる。よって、不慣れな作業者でも、早いタイミングでモータを停止させたり、全てのクラッチが作動してもモータの駆動を継続させたりすることがなくなる。このため、安定した作業品質を維持でき、良好な作業効率が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】多軸締付機の斜視図である。
図2】多軸締付機の中央縦断面図である。
図3】前ハウジングを省略した駆動部の正面図である。
図4図2の締付部部分の拡大図である。
図5】締付部の前方からの分解斜視図である。
図6】締付部の後方からの分解斜視図である。
図7】締付制御のフローチャートである。
図8】締付制御の変更例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態において、コントローラは、負荷率が閾値に到達しても、回転軸の回転角度が、締結部材が着座するまでのねじ山の数に基づいて設定される所定の着座回転角度に到達していなければ、締結部材が不良と判定してモータの駆動を停止させるものであってもよい。
この構成によれば、締結部材に傷等の欠陥があればこれを判定して締付作業を停止させることができる。
本開示の一実施形態において、コントローラは、負荷率が閾値に到達した後、回転角度が判定回転角度に到達する前に、負荷率が、閾値よりも大きい第2の閾値に到達しなければ、少なくとも1つの出力部において締結部材が未装着と判定してモータの駆動を停止させるものであってもよい。
この構成によれば、締結部材に欠品があればこれを判定して締付作業を停止させることができる。
【0010】
本開示の一実施形態において、負荷率は、モータの電流値であってもよい。
この構成によれば、負荷率が容易に把握できる。
本開示の一実施形態において、閾値は、各クラッチの下限トルクの合計に基づいて設定されるものであってもよい。
この構成によれば、各クラッチの精度にばらつきがあっても締付完了前の一定のトルクを基準にして閾値が設定できる。
本開示の一実施形態において、判定回転角度は、少なくとも、回転部の数に360°を乗じた角度であってもよい。
この構成によれば、複数の締結部材で螺合の係り始めにばらつきがあっても、着座した最初の締結部材と最後の締結部材との最大差分は回転を継続させて、締付完了の判定に必要な回転角度を設定できる。
本開示の一実施形態において、多軸締付機は、締付完了を報知する報知手段を備えていてもよい。
この構成によれば、作業者は、締付完了を容易に認識できる。
本開示の一実施形態において、多軸締付機は、締結部材の不良又は締結部材の未装着を報知するエラー報知手段を備えていてもよい。
この構成によれば、作業者は、モータの停止が締結部材の不良又は未装着によることを容易に認識できる。
【0011】
本開示の一実施形態において、各クラッチは、摩擦クラッチであってもよい。
この構成によれば、押圧に伴う摩擦力によって必要なトルクが容易に得られ、より作業性が向上する。
本開示の一実施形態において、各回転部は、駆動側筒部をそれぞれ含み、各出力部は、従動側筒部をそれぞれ含んでおり、摩擦クラッチは、駆動側筒部と従動側筒部との間に設けられていてもよい。
この構成によれば、両筒部を利用して摩擦クラッチを容易に形成可能となる。
本開示の一実施形態において、摩擦クラッチは、駆動側筒部と従動側筒部との何れか一方の外周面と、他方の内周面とにそれぞれ設けられたテーパ部同士の当接により形成されていてもよい。
この構成によれば、押圧による摩擦力が効率よく得られる。
本開示の一実施形態において、各出力部は、鉄製の筒状体であってもよい。
この構成によれば、軽量化を図りつつ剛性を確保できる。
本開示の一実施形態において、モータは、正転及び逆転が可能であってもよい。
この構成によれば、モータの逆転によるボルト等の緩め作業も大きなトルクで支障なく行える。
【実施例0012】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、多軸締付機の一例を示す斜視図である。図2は、多軸締付機の中央縦断面図である。
多軸締付機1は、本体部2と、ハンドル部3と、駆動部4とを備えている。本体部2は、前後方向に延びている。本体部2内には、後側にモータ(ブラシレスモータ)5が、前側に減速機構7がそれぞれ収容されている。モータ5の回転軸6の回転は、遊星歯車を用いた減速機構7で減速される。減速機構7は、筒状のギヤケース8内に保持されている。減速機構7の最終段のキャリアには、スピンドル9が連結されている。スピンドル9は、筒状で、本体部2から前方へ突出している。本体部2の後面には、発光部10が設けられている。発光部10は、LED基板11とレンズ12とからなる。LED基板11は、後面に3つのLED13を左右方向に搭載している。レンズ12は、LED13の後側で左右方向に延びて、本体部2の後面から左右両側に掛けて露出している。発光部10の下方には、USB端子14が設けられている。
【0013】
ハンドル部3は、本体部2から下方へ延びている。ハンドル部3内には、トリガ16を備えたスイッチ15が収容されている。スイッチ15の上側には、モータ5の正逆切替ボタン17が設けられている。ハンドル部3の下端には、バッテリ装着部18が設けられている。バッテリ装着部18には、電源となるバッテリパック19が前方から差し込み装着可能である。バッテリ装着部18内には、バッテリパック19と電気的に接続される端子台20が設けられている。端子台20の上側には、コントローラ21が収容されている。コントローラ21は、マイコン等を搭載した制御回路基板22を備えている。
本体部2とハンドル部3とのハウジングは、本体ハウジング25と、中間ハウジング26とを備えている。本体ハウジング25は、左右一対の半割ハウジング25a,25bをネジ止めして形成される。モータ5及び減速機構7は、本体ハウジング25内に収容されている。中間ハウジング26は、本体部2の前端に組み付けられる筒状である。スピンドル9は、中間ハウジング26内に収容されている。
駆動部4は、正面視が五角形の星形状の駆動部ハウジング27を有する。駆動部ハウジング27は、後ハウジング28と前ハウジング29とに分割されている。後ハウジング28は、後方から中間ハウジング26にネジ止めされている。
【0014】
後ハウジング28は、図3にも示すように、1つの中心孔30と、5つの頂点凹部31,31・・と、5つの中間凹部32,32・・とを備えている。中心孔30は、正面視円形である。各頂点凹部31及び各中間凹部32は、前方へ開口する正面視円形状である。中心孔30は、後ハウジング28の中心で後ハウジング28を前後方向に貫通している。スピンドル9は、後ハウジング28を貫通して中心孔30内に突出している。各頂点凹部31は、後ハウジング28の頂点にそれぞれ設けられている。各中間凹部32は、中心孔30と各頂点凹部31との間で両者に連通して設けられている。各頂点凹部31と各中間凹部32とは、スピンドル9の軸線を中心とする同心円上にそれぞれ配置されている。
中心孔30内には、メインギヤ33が設けられている。メインギヤ33は、スピンドル9の前端に固定されている。各中間凹部32には、中間ギヤ34がそれぞれ設けられている。各中間ギヤ34は、支軸35によって回転可能に支持されてメインギヤ33と噛合している。支軸35は、後ハウジング28と前ハウジング29との間で前後方向に支持されている。
前ハウジング29は、前方から後ハウジング29にネジ止めされている。前ハウジング29は、中心孔30及び各中間凹部32を前方から閉塞している。スピンドル9の前端は、前ハウジング29に保持された軸受36によって支持されている。
【0015】
各頂点凹部31には、それぞれ締付部40,40・・が設けられている。以下、締付部40の詳細を説明する。但し、5つの締付部40は同じ構造であるため、左右中央で上側の締付部40を代表して説明する。
締付部40は、図4に示すように、駆動ギヤ41と、回転筒42と、出力筒43と、摩擦クラッチ44と、トルク調整部45とを備えている。
駆動ギヤ41は、駆動部4の径方向内側に隣接する中間ギヤ34と噛合している。駆動ギヤ41は、図5にも示すように、前面に円形凹部46を有している。円形凹部46の底面には、正面視が四角形状の深底部47が形成されている。深底部47の中心には、透孔48が形成されている。
【0016】
回転筒42は、駆動ギヤ41の円形凹部46内に収容される筒状体である。回転筒42の後部には、図6に示すように、駆動ギヤ41の深底部47に嵌合する四角形部49が形成されている。よって、駆動ギヤ41と回転筒42とは、回転方向で一体に結合される。四角形部49の後側には、小径部50が形成されている。小径部50は、駆動ギヤ41の透孔48を貫通して後方へ突出している。小径部50の内周には、雌ネジ部51が形成されている。頂点凹部31の内底面には、軸受保持部52が凹設されている。軸受保持部52には、軸受53が保持されている。軸受53は、回転筒42の小径部50を支持している。
回転筒42の前部には、円形凹部46の内径よりもやや小径となる駆動側筒部54が形成されている。駆動側筒部54の外周には、前方へ向かうに従って小径となる駆動側テーパ部55が形成されている。
【0017】
出力筒43は、後部に円筒部60が、前部に四角筒部61が形成される筒状体である。筒状体とすることで、剛性の高い鉄で形成しても軽量化が図られる。円筒部60の後部には、回転筒42の駆動側筒部54よりも大径となる従動側筒部62が形成されている。従動側筒部62の内部前側には、中心側へ突出する円形リブ63が形成されている。円形リブ63には、駆動側筒部54の前端面56と対向する後端面64が形成されている。従動側筒部62の内周には、後方へ向かうに従って大径となる従動側テーパ部65が形成されている。従動側テーパ部65は、駆動側筒部54の駆動側テーパ部55と同じテーパ角で形成されている。従動側筒部62は、組み付け状態で駆動ギヤ41の円形凹部46内に差し込まれて駆動側テーパ部55に外装される。この状態で従動側テーパ部65は、駆動側テーパ部55と全周に亘って当接する。
前ハウジング29の前側内面には、軸受保持部66が凹設されている。軸受保持部66には、軸受67が保持されている。軸受67は、従動側筒部62の前側で円筒部60を支持している。よって、出力筒43は、前方へ抜け止めされた状態で回転可能に支持される。
【0018】
駆動側テーパ部55と従動側テーパ部65とが当接した状態で、駆動側筒部54の前端面56と、円形リブ63の後端面64との間には、隙間Sが形成されている。従動側筒部62と軸受67との間及び、従動側筒部62と円形凹部46との間には、隙間が形成されている。このため、回転筒42と出力筒43とは、前後方向へ微動可能となっている。出力筒43の前進は、従動側筒部62が軸受67に当接する位置で規制される。回転筒42の後退は、四角形部49が駆動ギヤ41の深底部47の底面に当接する位置で規制される。
四角筒部61の相対向する平行な2面には、透孔68,68が形成されている。透孔68は、四角筒部61に装着したソケットを抜け止めするピンの挿通用である。
【0019】
トルク調整部45は、出力筒43内に配置されている。トルク調整部45は、ボルト70と、コイルバネ71と、ワッシャ72と、軸受73とを備えている。
ボルト70は、前方からコイルバネ71及びワッシャ72、軸受73を貫通して後方へ延び、回転筒42の小径部50の雌ネジ部51に螺合している。コイルバネ71は、ボルト70の頭部とワッシャ72との間に介在されている。ワッシャ72は、軸受73の内輪75の前面に当接して位置決めされている。軸受73は、外輪74が円形リブ63の前面に当接して位置決めされている。
トルク調整部45では、常態ではコイルバネ71によりボルト70が前方へ付勢される。よって、ボルト70が螺合する回転筒42が前方へ引っ張られて出力筒43に当接する。このため従動側テーパ部65が駆動側テーパ部55に押圧される状態が維持される。こうして回転筒42と出力筒43との間には、駆動側テーパ部55と従動側テーパ部65との摩擦力により回転が伝達され、当該摩擦力を越える負荷(作動トルク)が加わると回転伝達が遮断される摩擦クラッチ44が形成される。この作動トルクは、ボルト70のねじ込み量を調整してコイルバネ71の軸長を変えることで調整可能である。
【0020】
以上の如く構成された多軸締付機1は、車両のタイヤ等の取付用のボルト(或いはナット)の仮締め作業に用いられる。この場合、各締付部40の四角筒部61に図示しないソケットを装着し、各ソケットをボルトの頭部に嵌合させて締付位置に位置決めする。この状態で正逆切替ボタン17を正転側に切り替えてトリガ16を押し操作する。すると、スイッチ15がONしてモータ5が駆動し、回転軸6が正回転する。回転軸6の回転は、減速機構7で減速されてスピンドル9に伝わる。スピンドル9は前方へ向かって右回転する。すると、スピンドル9と一体のメインギヤ33も右回転し、各中間ギヤ34を同時に左回転させる。よって、各締付部40では、駆動ギヤ41及び回転筒42が一体に右回転し、コイルバネ71の押圧による摩擦力で一体となる出力筒43も右回転し、ボルトを回転させる。
次に、作業者は、ハンドル部3を介して本体部2及び駆動部4を前方へ押圧する。すると、各締付部40に装着したソケットがボルトに押し付けられる。この押圧力は、摩擦クラッチ44において駆動側テーパ部55と従動側テーパ部65との間に生じる摩擦力となる。よって、回転筒42のトルクは摩擦クラッチ44を介して出力筒43に伝達される。
【0021】
各ボルトの締め付けが進んで締付座に着座すると、ソケットから出力筒43に加わるトルクが高まる。すると、このトルクが駆動側テーパ部55と従動側テーパ部65との摩擦力を超える。よって、ソケットと共に出力筒43の回転が停止し、回転筒42が空転する(摩擦クラッチ44の作動状態)。
なお、回転筒42の空転時には、回転筒42と一体回転するボルト70と、回転停止する出力筒43との間の摩擦でボルト70が緩むおそれがある。しかし、ボルト70側のワッシャ72と出力筒43との間には軸受73が介在されて回転伝達が遮断されている。よって、ボルト70が出力筒43と相対的に連れ回りして緩むおそれがなくなる。
そして、締付作業に不慣れな作業者は、5本全ての摩擦クラッチ44の作動がわかりづらい。そこで、コントローラ21は、モータ5の負荷率及び回転軸6の回転角度を監視することで、5本全ての摩擦クラッチ44の作動を判別する。コントローラ21は、全ての摩擦クラッチ44の作動を確認すると、全てのボルトの締付が完了したとしてモータ5を停止させる。以下、コントローラ21による締付制御を図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0022】
まず、S1でトリガ16を押し操作してスイッチ15のONが確認されると、コントローラ21は、S2でモータ5を駆動させる。
次に、S3で、コントローラ21は、モータ5の負荷率(トルク)が所定の閾値に到達したか否かを判別する。ここでの負荷率は、モータ5の電流値から換算される。閾値は、各摩擦クラッチ44の下限トルクの合計に相当する電流値である。各締付部40では、ボルトの螺合の係り始めのタイミングが不規則で、全ての締付部40の摩擦クラッチ44が作動した際の総トルクには、クラッチ精度分のばらつきが生じる。
そこで、S3では、締付完了前の各摩擦クラッチ44の下限トルクの合計を基準とし、これを電流値に換算した値を閾値として設定したものである。
【0023】
コントローラ21は、S3で負荷率が閾値に到達したことを確認すると、S4で、回転軸6の回転角度が所定の判定回転角度(ここでは1800°(5回転分))に達したか否かを判別する。この判定回転角度は、5つの締付部40間での締付状態の遅れを考慮して、着座した最初の締付部40と最後の締付部40との最大差分の回転を少なくとも継続するようにしたものである。最初に係り始めて先行するボルトは、その後ソケットから外れることがないことから、判定回転角度は、5回転(5山)分としている。回転角度は、モータ5に設けたセンサ回路基板5aが搭載する回転検出素子の検出信号から得られる。
そして、コントローラ21は、S4で回転角度が判定回転角度に到達したことを確認すると、全ての締付部40での締付が完了したとして、S5でモータ5の駆動を停止させる。
このときコントローラ21は、発光部10のLED基板11の所定のLED13をONさせる。すると、LED13の光がレンズ12から発光して締付完了を報知する。よって、作業者は、モータ5の自動停止とレンズ12の発光の視認とによって締付の完了を容易に確認できる。
【0024】
一方、ボルト(或いはナット)の緩め作業を行う場合、各締付部40の四角筒部61に装着したソケットをボルトの頭部に嵌合させる。この状態で正逆切替ボタン17を逆転側に切り替えてトリガ16を押し操作する。すると、スイッチ15がONしてモータ5が駆動し、回転軸6が逆回転する。回転軸6の回転は、減速機構7で減速されてスピンドル9に伝わる。スピンドル9は前方へ向かって左回転する。すると、スピンドル9と一体のメインギヤ33も左回転し、各中間ギヤ34を同時に右回転させる。よって、各締付部40では、駆動ギヤ41及び回転筒42が一体に左回転する。
このとき、作業者が、ハンドル部3を介して各締付部40(ソケット)をボルトへ強く押し付けていると、駆動側テーパ部55と従動側テーパ部65との摩擦力が非常に大きくなる。よって、各締付部40の四角筒部61は、起動時から大きなトルクで左回転する。このため、各ソケットを介して5本のボルトが同時に緩められる。
【0025】
上記例の多軸締付機1は、1つのモータ5と、モータ5の駆動により同時に回転する5つの回転筒42(回転部の一例)と、各回転筒42からそれぞれ回転が伝達され、ボルト/ナット(締結部材の一例)を装着可能な5つの出力筒43(出力部の一例)と、各回転筒42と各出力筒43との間にそれぞれ介在され、所定のトルクで回転伝達を遮断する摩擦クラッチ44(クラッチの一例)と、モータ5の駆動を制御するコントローラ21と、を含む。
そして、コントローラ21は、各回転筒42の回転によるボルト/ナットの締付作業の際、モータ5の負荷率とモータ5の回転軸6の回転角度とを監視し、負荷率が所定の閾値に到達し、その後回転角度が所定の判定回転角度に到達したら、モータ5の駆動を停止させる。
この構成によれば、締付完了の判定及びモータ5の停止を自動制御で行うことができる。よって、不慣れな作業者でも、早いタイミングでモータ5を停止させたり、全ての摩擦クラッチ44が作動してもモータ5の駆動を継続させたりすることがない。このため、安定した作業品質を維持でき、良好な作業効率が得られる。
【0026】
負荷率は、モータ5の電流値である。よって、負荷率が容易に把握できる。
閾値は、各摩擦クラッチ44の下限トルクの合計に基づいて設定される。よって、各摩擦クラッチ44の精度にばらつきがあっても締付完了前の一定のトルクを基準にして閾値が設定できる。
判定回転角度は、回転筒42の数に360°を乗じた角度(ここでは1800°)である。よって、複数のボルト/ナット間で螺合の係り始めにばらつきがあっても、着座した最初のボルトと最後のボルトとの最大差分は回転を継続させて、締付完了の判定に必要な回転角度を設定できる。
多軸締付機1は、締付完了を報知する発光部10(報知手段の一例)を備えている。よって、作業者は、締付完了を容易に認識できる。
【0027】
各クラッチは、摩擦クラッチ44である。よって、押圧に伴う摩擦力によって必要なトルクが容易に得られ、より作業性が向上する。
各回転筒42は、駆動側筒部54をそれぞれ含み、各出力筒43は、従動側筒部62をそれぞれ含んでおり、摩擦クラッチ44は、駆動側筒部54と従動側筒部62との間に設けられている。よって、両筒部を利用して摩擦クラッチ44を容易に形成可能となる。
摩擦クラッチ44は、駆動側筒部54の外周面に設けられた駆動側テーパ部55と、従動側筒部62の内周面に設けられた従動側テーパ部65との当接により形成されている。
よって、押圧による摩擦力が効率よく得られる。
各出力筒43は、鉄製の筒状体である。よって、軽量化を図りつつ剛性を確保できる。
モータ5は、正転及び逆転が可能である。よって、モータ5の逆転によるボルト等の緩め作業も大きなトルクで支障なく行える。
【0028】
以下、本開示の変更例について説明する。
図7の締付制御において、S3での負荷率が閾値へ到達したことの確認処理については、時間制限を設けてもよい。すなわち、所定の時間内に負荷率が閾値に到達しなければ、異常が発生したとしてモータの駆動を停止し、エラー報知を行うようにしてもよい。これは、S4での回転角度が判定回転角度に到達したことの確認処理についても同様である。すなわち、所定の時間内に回転角度が判定回転角度に到達しなければ、モータの駆動を停止してエラー報知を行ってもよい。
また、締付を行うボルト/ナットに傷等の欠陥があると、着座前にトルク上昇が表れる。一方、欠品(少なくとも1つのソケットにボルト/ナットが装着されていない状態)があると、想定した負荷率のトルクまで到達しない。ボルト/ナットの欠陥は、図7のS3で負荷率が閾値に到達した際の回転角度を確認することで判別できる。欠品は、図7のS4で回転角度を判別する前に、負荷率の上昇を確認することで判別できる。以下、この変更例の締付制御を図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0029】
S11~S13までは、図7のS1~S3と同じである。
そして、コントローラ21は、S13でモータ5の負荷率が所定の閾値まで到達したことを確認すると、次にS14で、回転角度が所定の着座回転角度まで到達しているか否かを判別する。この着座回転角度は、締め付けるボルト/ナットが着座するまでのねじ山の数に基づいて設定される。ここでNO、すなわち、回転角度が着座回転角度まで到達していなければ、ボルト/ナットに欠陥があってボルト/ナットが着座する前に負荷率が上昇してしまったものとして、S15で発光部10によりエラー報知を行うと共に、S18でモータ5の駆動を停止させる。このエラー報知は、締付完了時と異なる色のLED13をONさせるか、或いは同じ色でも発光態様を変えて(点滅等)レンズ12を発光させるかにより行う。よって、作業者は、ボルト/ナットの不良による作業停止であることを認識できる。
【0030】
一方、コントローラ21は、S14で回転角度の着座回転角度への到達が確認できれば、S16で、負荷率が第2の閾値に到達したか否かを判別する。この第2の閾値は、S13で比較した閾値よりも大きい値である。ここでNO、すなわち、負荷率が第2の閾値まで到達していなければ、少なくとも1つのソケットにボルト/ナットが装着されていない欠品状態であるとして、S15でエラー報知を行うと共に、S18でモータを停止させる。このエラー報知も、締付完了時と異なる色のLED13をONさせるか、或いは同じ色でも発光態様を変えて(点滅等)レンズ12を発光させるかにより行う。よって、作業者は、ボルト/ナットの欠品による作業停止であることを認識できる。S14とS16とのエラー報知では互いに発光態様を変えてエラーの内容を区別できるようにしてもよい。
そして、コントローラ21は、S16で負荷率が第2の閾値へ到達したことを確認し、S17で回転角度が判定回転角度に到達したことを確認すると、全ての締付部40での締付が完了したとして、S18でモータ5の駆動を停止させる。ここでもコントローラ21は、図7のS5と同様に発光部10のレンズ12を発光させて締付作業の完了を報知する。
【0031】
このように、上記変更例において、コントローラ21は、負荷率が閾値に到達しても、回転軸6の回転角度が、ボルト/ナットが着座するまでのねじ山の数に基づいて設定される所定の着座回転角度に到達していなければ、ボルト/ナットが不良と判定してモータ5の駆動を停止させる。
よって、ボルト/ナットに傷等の欠陥があればこれを判定して締付作業を停止させることができる。
コントローラ21は、回転角度が判定回転角度に到達する前に、負荷率が、閾値よりも大きい第2の閾値に到達しなければ、少なくとも1つの出力筒43においてボルト/ナットが欠品(未装着)と判定してモータ5の駆動を停止させる。
よって、ボルト/ナットに欠品があればこれを判定して締付作業を停止させることができる。
多軸締付機1は、ボルト/ナットの不良又は未装着を報知する発光部10(エラー報知手段)を備えている。よって、作業者は、モータ5の停止がボルト/ナットの不良又は未装着によることを容易に認識できる。
【0032】
上記例において、閾値、第2の閾値、判定回転角度、制限角度といった制御値は、適宜変更可能である。制御値は、多軸締付機自体に操作部を設けて変更可能としてもよい。また、制御値は、本体部2の後面に設けたUSB端子14に外部のPC等を接続し、所定のアプリケーションソフトを用いて変更可能としてもよい。
閾値及び第2の閾値は、作業者による多軸締付機の押圧力を考慮して、押し荷重に相当するトルクを増加して設定することもできる。
多軸締付機は、USB端子に無線通信機を接続し、締付完了判定後のOK信号及びエラー判定のNG信号を外部の受信機に出力可能としてもよい。この場合、員数管理が容易に行える。
締付のOK/NGに関する報知手段は、発光に限らない。音(音声も含む)による報知、文字や図形の表示による報知等も採用できる。複数の報知手段を組み合わせてもよい。
【0033】
上記例では、駆動側筒部に従動側筒部を外装させ、駆動側筒部の外周面と従動側筒部の内周面とにそれぞれテーパ部を形成している。これと逆に、従動側筒部に駆動側筒部を外装させ、駆動側筒部の内周面と従動側筒部の外周面とにそれぞれテーパ部を形成してもよい。
テーパ部の角度は適宜変更可能である。
摩擦クラッチは、テーパ部同士の当接に限らず、平面同士の当接で形成してもよい。
回転部と出力部とは、コイルバネによるトルク調整部に代えて、磁石によって吸引させて摩擦力を得るようにしてもよい。
クラッチは、摩擦クラッチに限らない。
回転部及び出力部は、筒状体に限らない。回転部及び出力部は、軸体であってもよい。回転部及び出力部は、複数の部品で形成することもできる。
締付部は、5つに限らず、2つ以上であれば適宜増減可能である。締付部の配置も、締付対象の配置に合わせて適宜変更可能である。よって、締付部は、周方向に等間隔で配置しない場合もある。
【0034】
駆動部ハウジングは、前後2分割に限らない。駆動部ハウジングは、3分割以上で形成してもよいし、左右や上下等の他の分割態様で分割してもよい。駆動部ハウジングは、正面視が星形状でなく、円盤状であってもよい。駆動部ハウジングの正面視形状は、締付部の数及び位置に応じて適宜変更できる。
駆動部において、スピンドルから各締付部への回転伝達機構は、ギヤによる機構に限らない。例えばベルトプーリ機構を用いてもよい。
減速機構は、遊星歯車を用いた構造に限らない。
モータは、ブラシレスモータでなくてもよい。よって、回転軸の回転角度は、センサ回路基板によるものに限らず、他のセンサを用いて検出してもよい。
電源は、バッテリパックに限らず、商用電源であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1・・多軸締付機、2・・本体部、3・・ハンドル部、4・・駆動部、5・・モータ、6・・回転軸、7・・減速機構、9・・スピンドル、10・・発光部、15・・スイッチ、16・・トリガ、21・・コントローラ、25・・本体ハウジング、26・・中間ハウジング、27・・駆動部ハウジング、28・・後ハウジング、29・・前ハウジング、40・・締付部、41・・駆動ギヤ、42・・回転筒、43・・出力筒、44・・摩擦クラッチ、45・・トルク調整部、54・・駆動側筒部、55・・駆動側テーパ部、60・・円筒部、61・・四角筒部、62・・従動側筒部、65・・従動側テーパ部、70・・ボルト、71・・コイルバネ、72・・ワッシャ、S・・隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8