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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117242
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】電気回路遮断装置
(51)【国際特許分類】
   H01H 39/00 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
H01H39/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019851
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貝賀 勇哉
(57)【要約】
【課題】火工品を用いた電気回路遮断装置において、動作後に発射体の移動を抑制する。
【解決手段】電気回路遮断装置は、外殻部材として、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に配置され、点火器から受けるエネルギーによって収容空間の一端側から発射され、収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、ハウジングに保持され、電気回路の一部を形成する導体片であって、一方の第一接続端部と他方の第二接続端部との間に、発射体の移動によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が収容空間を横切るように配置された導体片とを備える。また、発射体は、収容空間の延在方向に沿って移動した場合に、ハウジングの内部に設けられた被係合部と係合する係合部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部材として、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、
前記ハウジングに設けられた点火器と、
前記ハウジング内に配置され、前記点火器から受けるエネルギーによって前記収容空間の一端側から発射され、前記収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、
前記ハウジングに保持され、電気回路の一部を形成する導体片であって、一方の第一接続端部と他方の第二接続端部との間に、前記発射体の移動によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が前記収容空間を横切るように配置された導体片と、
を備え、
前記発射体は、前記収容空間の延在方向に沿って移動した場合に、前記ハウジングの内部に設けられた被係合部と係合する係合部を有する
電気回路遮断装置。
【請求項2】
前記係合部は、前記発射体が移動する方向を基準として側方へ突出する突出部であり、
前記被係合部は、前記突出部と係合する段差を含み、
前記突出部と前記段差とはスナップフィット構造で結合される
請求項1に記載の電気回路遮断装置。
【請求項3】
前記発射体は、前記発射体が移動する方向を基準として側方に位置する側面にスリットが設けられ、
前記係合部は、前記側面に設けられ、
前記側面は弾性変形可能である
請求項1又は2に記載の電気回路遮断装置。
【請求項4】
前記発射体は、複数の前記係合部を有する
請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気回路遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に形成された筒状空間に配置された発射体であって、点火器から受けるエネルギーにより筒状空間を移動可能に形成された発射体と、ハウジングに設けられると共に電気回路の一部を形成する導体片であって、その一部に発射体によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が筒状空間を横切るように配置された導体片と、筒状空間のうち、点火器の作動前において被切除部を挟んで発射体とは反対側に位置し、発射体によって切除された被切除部を受けるための消弧領域と、消弧領域に配置された、繊維状のクーラント材と、を備える電気回路遮断装置が提案されていた(例えば、特許文献1)。また、火工品を用いた電気スイッチにおいて、電気的に切断されている第1および第2の接触部分を電気的に接続する第1及び第2の接触面が、スナップフィットアセンブリを提供するように配置されるという技術も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-128894号公報
【特許文献2】米国特許第9646788号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
火工品を用いた電気回路遮断装置は、発射体が導体片を切断した後に燃焼ガスが冷却されると、点火器側の圧力が低下し発射体が戻されてしまうことがあった。
【0005】
本開示の技術は、火工品を用いた電気回路遮断装置において、動作後に発射体の移動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電気回路遮断装置は、外殻部材として、一方向に延在する収容空間を内包するハウジングと、ハウジングに設けられた点火器と、ハウジング内に配置され、点火器から受けるエネルギーによって収容空間の一端側から発射され、収容空間の延在方向に沿って移動する発射体と、ハウジングに保持され、電気回路の一部を形成する導体片であって、一方の第一接続端部と他方の第二接続端部との間に、発射体の移動によって切除される被切除部を有し、当該被切除部が収容空間を横切るように配置された導体片とを備える。また、発射体は、収容空間の延在方向に沿って移動した場合に、ハウジングの内部に設けられた被係合部と係合する係合部を有する。
【0007】
また、係合部は、発射体が移動する方向を基準として側方へ突出する突出部であり、被係合部は、突出部と係合する段差を含み、突出部と段差とはスナップフィット構造で結合されるものであってもよい。
【0008】
また、発射体は、発射体が移動する方向を基準として側方に位置する側面にスリットが設けられ、係合部は、側面に設けられ、側面は弾性変形可能であってもよい。
【0009】
また、発射体は、複数の係合部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、火工品を用いた電気回路遮断装置において、動作後に発射体の移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、電気回路遮断装置(遮断装置)の内部構造を説明する図である。
図2図2は、発射体を斜め下方から見た斜視図である。
図3図3は、導体片の上面図である。
図4図4は、遮断装置の作動状況を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る電気回路遮断装置について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0013】
<構成>
図1は、実施形態に係る電気回路遮断装置(以下、単に「遮断装置」という)1の内部構造を説明する図である。遮断装置1は、例えば、自動車や家庭電化製品、太陽光発電システム等に含まれる電気回路や、当該電気回路のバッテリー(例えば、リチウムイオンバッテリー)を含むシステムの異常時に、電気回路を遮断することで大きな被害を未然に防止するための装置である。本明細書においては、図1に示す高さ方向(後述する収容空間13が延在する方向)に沿った断面を遮断装置1の縦断面といい、高さ方向と直交する方向の断面を遮断装置1の横断面という。図1は、遮断装置1の作動前の状態を示している。なお、各構成要素の大きさやその比率は一例であって、図示したものには限定されない。
【0014】
遮断装置1は、ハウジング10、点火器20、発射体40、導体片50、クーラント材60等を含んでいる。ハウジング10は、外殻部材として、上端側の第1端部11から下端側の第2端部12の方向に延在する収容空間13を内包している。この収容空間13は、発射体40が移動可能なように直線状に形成された空間であり、遮断装置1の上下方向に沿って延在している。図1に示すように、ハウジング10の内部に形成された収容空間13の上下方向(延在方向)における上端側には、発射体40が収容されている。本明細書では、上下方向をY軸方向、左右方向をX軸方向、奥行き方向をZ軸方向とも称す。但し、本明細書において遮断装置1の上下方向及びXYZ方向は、実施形態の説明の便宜上、遮断装置1における各要素の相対的な位置関係を示すものに過ぎない。例えば、遮断装置1を設置する際の姿勢が図に示した方向に限定されるものではない。
【0015】
[ハウジング]
ハウジング10は、ハウジング本体100、トップホルダ110、ボトム容器120を含む。ハウジング本体100には、トップホルダ110およびボトム容器120が結合されており、これによって一体のハウジング10が形成されている。
【0016】
ハウジング本体100は、例えば、概略角柱形状の外形を有している。但し、ハウジング本体100の形状は特に限定されない。また、ハウジング本体100には、上下方向に沿って空洞部145が貫通するように形成されており、この空洞部145は収容空間13の一部を形成している。更に、ハウジング本体100は、トップホルダ110のフランジ部111が固定される上面101と、ボトム容器120のフランジ部121が固定される
下面102を有する。本実施形態においては、ハウジング本体100における上面101の外周側には、当該上面101から上方に向けて筒状の上筒壁103が立設されている。本実施形態において、上筒壁103は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していてもよい。また、ハウジング本体100における下面102の外周側には、当該下面102から下方に向けて筒状の下筒壁104が垂設されている。本実施形態において、下筒壁104は、例えば角筒形状を有しているが、他の形状を有していてもよい。以上のように構成されるハウジング本体100は、例えば、合成樹脂等といった絶縁部材によって形成することができる。例えば、ハウジング本体100は、ポリアミド合成樹脂の一種であるナイロンによって形成されていてもよい。
【0017】
[トップホルダ]
次に、トップホルダ110について説明する。トップホルダ110は、例えば、段付き円筒形状を有するシリンダ部材であり、内側が空洞状になっている。トップホルダ110は、上側(第1端部11側)に位置する小径シリンダ部112と、下側に位置する大径シリンダ部113と、これらを接続する接続部114と、大径シリンダ部113の下端から外側に向かって延在するフランジ部111等を含んで構成されている。例えば、小径シリンダ部112および大径シリンダ部113は同軸に配置されており、大径シリンダ部113は小径シリンダ部112よりも直径が一回り大きい。
【0018】
また、トップホルダ110におけるフランジ部111の輪郭は、ハウジング本体100における上筒壁103の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部111は、例えば、上筒壁103の内側に配置された状態で、ハウジング本体100における上面101にネジ等を用いて一体に締結されていてもよいし、リベット等によって固定されていてもよい。また、ハウジング本体100の上面101とトップホルダ110におけるフランジ部111の下面との間にシーラントを塗布した状態でトップホルダ110をハウジング本体100に結合してもよい。これにより、ハウジング10内に形成される筒状空間(収容空間13の一部)の気密性を高めることができる。また、シーラントの代わりに、或いはシーラントと併用してハウジング本体100の上面101とトップホルダ110のフランジ部111との間にOリングを介在させることによって筒状空間の気密性を高めるようにしてもよい。
【0019】
トップホルダ110における小径シリンダ部112の内側に形成される空洞部は、図1に示すように点火器20の一部を収容する収容空間として機能する。また、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部は、下方に位置するハウジング本体100の空洞部と連通しており、筒状空間の一部を形成している。なお、本実施形態では、大径シリンダ部113の内径は、ハウジング本体100の空洞部145の直径よりも大きい。上記のように構成されるトップホルダ110は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、トップホルダ110を形成する材料は特に限定されない。また、トップホルダ110の形状についても上記態様は一例であり、他の形状を採用してもよい。
【0020】
[ボトム容器]
次に、ボトム容器120について説明する。ボトム容器120は、内部が空洞状の概略有底筒形状を有し、側壁部122、側壁部122の下端に接続される底壁部123、側壁部122の上端に接続されるフランジ部121等を含んで構成されている。側壁部122は、例えば円筒形状を有しており、フランジ部121は側壁部122における上端から外側に向かって延在している。ボトム容器120におけるフランジ部121の輪郭は、ハウジング本体100における下筒壁104の内側に収まるような概略四角形を有している。フランジ部121は、例えば、下筒壁104の内側に配置された状態で、ハウジング本体100における下面102にネジ等を用いて一体に締結されていてもよいし、リベット等
によって固定されていてもよい。ここで、ハウジング本体100の下面102とボトム容器120におけるフランジ部121の上面との間にはシーラントが塗布された状態でボトム容器120がハウジング本体100に結合されてもよい。これにより、ハウジング10内に形成される筒状空間(収容空間13の一部)の気密性を高めることができる。また、シーラントの代わりに、或いはシーラントと併用してハウジング本体100の下面102とボトム容器120のフランジ部121との間にOリングを介在させることによって筒状空間の気密性を高めるようにしてもよい。
【0021】
なお、ボトム容器120の形状に関する上記態様は一例であり、他の形状を採用してもよい。また、ボトム容器120の内側に形成される空洞部は、上方に位置するハウジング本体100と連通しており、筒状空間の一部を形成している。なお、本実施形態では、ボトム容器120の内径は、ハウジング本体100の空洞部145の直径よりも大きい。上記のように構成されるボトム容器120は、例えば、強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成することができる。但し、ボトム容器120を形成する材料は特に限定されない。また、ボトム容器120は複層構造となっていてもよい。例えば、ボトム容器120は、外部に面する外装部を強度、耐久性に優れたステンレス、アルミニウム等といった適宜の金属製部材によって形成し、筒状空間側に面する内装部を合成樹脂等といった絶縁部材によって形成してもよい。勿論、ボトム容器120の全体を絶縁部材によって形成してもよい。
【0022】
上記のように、実施形態におけるハウジング10は、一体に組み付けられるハウジング本体100、トップホルダ110、およびボトム容器120を含んで構成され、その内側に第1端部11から第2端部12の方向に延在する筒状空間が形成される。この筒状空間には、以下に詳述する点火器20、発射体40、導体片50における被切除部53、クーラント材60等が収容される。
【0023】
[点火器]
次に、点火器20について説明する。点火器20は、点火薬を含む点火部21と、点火部21に接続された一対の導電ピン(図示せず)を有する点火器本体22を備えた電気式点火器である。点火器本体22は、例えば、絶縁樹脂によって包囲されている。また、点火器本体22における一対の導電ピンの先端側は外部に露出しており、遮断装置1の使用時に電源と接続される。
【0024】
点火器本体22は、トップホルダ110における小径シリンダ部112の内部に収容された概略円柱状の本体部221と、本体部221の上部に位置するコネクタ部222を備えている。点火器本体22は、例えば、本体部221を小径シリンダ部112の内周面に圧入することによって小径シリンダ部112に固定されている。また、本体部221の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部が本体部221の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング223が嵌め込まれている。Oリング223は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、小径シリンダ部112における内周面と本体部221との間の気密性を高めるように機能する。
【0025】
点火器20におけるコネクタ部222は、小径シリンダ部112の上端に形成された開口部112Aを通じて外部に突出して配置されている。コネクタ部222は、例えば、導電ピンの側方を覆う円筒形状を有しており、電源側のコネクタと接続できるように構成されている。
【0026】
図1に示すように、点火器20の点火部21は、ハウジング10の収容空間13(より詳しくは、大径シリンダ部113の内側に形成される空洞部)を臨むようにして配置されている。点火部21は、例えば、点火器カップ内に点火薬を収容する形態として構成され
ている。例えば、点火薬は、一対の導電ピンの基端同士を連結するように連架されたブリッジワイヤ(抵抗体)に接触した状態で点火部21における点火器カップ内に収容されている。点火薬としては、例えば、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジル
コニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用してもよい。
【0027】
点火器20を作動させる際、点火薬を点火するための作動電流が電源から導電ピンに供給されると、点火部21におけるブリッジワイヤが発熱する結果、点火器カップ内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21の点火器カップ内における点火薬の燃焼に伴って当該点火器カップ内の圧力が上昇し、点火器カップの開裂面21Aが開裂し、点火器カップから燃焼ガスが収容空間13へと放出される。より具体的には、点火器カップからの燃焼ガスは、収容空間13内に配置された発射体40の後述するピストン部41における窪み部411に放出される。これにより発射体40は、図1の初期位置から収容空間13に沿って下側へ発射される。
【0028】
[発射体]
次に、発射体40について説明する。図2は、発射体を斜め下方から見た斜視図である。発射体40は、例えば、合成樹脂等の絶縁部材によって形成されており、ピストン部41と、当該ピストン部41に接続されたロッド部42を含んでいる。ピストン部41は概略円柱形状を有し、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と概ね対応する外径を有している。例えば、ピストン部41の直径は、大径シリンダ部113の内径に比べて僅かに小さくてもよい。また、ピストン部41は、ハウジング本体100における空洞部145の直径よりも大きい外径を有しており、空洞部145内には進入せず、空洞部145を形成する周囲の部材に突き当たる構成である。即ち、ピストン部41は、ロッド部42と接続している先端412側において移動方向(軸方向)と直交する横断面積が、ロッド部42における後端421側の横断面積及び空洞部145の横断面積よりも大きく形成されている。なお、発射体40の形状はハウジング10の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0029】
また、ピストン部41の上面には、例えば、円柱形状を有する窪み部411が形成されており、この窪み部411に点火部21を受け入れている。窪み部411の底面は、点火器20の作動時に当該点火器20から受けるエネルギーを受圧する受圧面411Aとして形成されている。また、ピストン部41の軸方向中間部には、外周面が他所に比べて窪んだ括れ部がピストン部41の周方向に沿って環状に形成されており、この括れ部にOリング43が嵌め込まれている。Oリング43は、例えば、ゴム(例えばシリコーンゴム)や合成樹脂によって形成されており、大径シリンダ部113における内周面とピストン部41との間の気密性を高めるように機能する。
【0030】
発射体40のロッド部42は、例えば、ピストン部41の下端側に一体に接続され、収容空間13の延在方向に沿って延伸するロッド状部材である。ロッド部42は、点火器20の作動時に収容空間13の延在方向に沿って移動し、ハウジング本体100の空洞部145内に挿嵌される。ロッド部42の下端面は、遮断装置1の作動時に導体片50から被切除部53を切除するための切除面420として形成されている。また、ロッド部42は、ピストン部41に比べて小径の外周面422を有する円柱状である。外周面422は、ハウジング本体100の空洞部145の直径と概ね対応する外径を有している。例えば、外周面422の直径は、空洞部145の直径に比べて僅かに小さくてもよい。また、外周面422にはロッド部42の軸方向(上下方向)に沿ってスリット423が形成されている。図2の例では、8つのスリット423が外周面422を8つの壁面424に分けている。また、1つおきに選択される4つの壁面424は、強度を向上させるために横断面が十字状のリブ425を介して接続されている。一方、リブ425で接続されていない4つ
の壁面424は弾性を有すると共に、径方向外側へ突出する爪部426を備えている。爪部426の下部には、径方向外側へ突出する大きさが下方から上方へ向かって次第に大きくなる傾斜面427が形成されている。爪部426の上部には、径方向外側へ突出する大きさが段状に変化する段部428が形成されている。また、ロッド部42の径は爪部426が設けられた位置において最大となり、その最大径は、ハウジング本体100の空洞部145の直径よりも大きい。また、作動前の状態において、爪部426は大径シリンダ部113内の収容空間13に位置している。なお、本実施形態におけるロッド部42は概略円筒形状を有しているが、その形状は特に限定されず、遮断装置1の作動時に導体片50から切除すべき被切除部53の形状や大きさに応じて変更なし得る。ロッド部42の外形は、例えば、楕円柱、角柱などの柱形状を有していてもよい。なお、図1に示す発射体40の初期位置においては、発射体40のロッド部42における切除面420を含む先端側の領域は、ハウジング本体100の空洞部(保持領域)145の上部に配置されている。
【0031】
上記のように構成される発射体40は、点火器20の作動時に当該点火器20からのエネルギーを、受圧面411Aを含むピストン部41の上面が受圧することで、発射体40が図1に示す初期位置から発射され、収容空間13に沿って第2端部12側(下方)に向かって高速で移動する。具体的には、図1に示すように、発射体40のピストン部41は、トップホルダ110における大径シリンダ部113の内側に収容されており、大径シリンダ部113の内壁面に沿って軸方向に摺動可能である。発射後の発射体40は、ピストン部41の下端面がハウジング本体100の上面101に当接(衝突)することで停止する。即ちロッド部42が、後端421まで空洞部145に嵌め込まれた状態となる。本実施形態において、発射体40のピストン部41を概略円柱形状としているが、その形状は特に限定されない。ピストン部41の外形は、大径シリンダ部113の内壁面の形状および大きさに応じて適切な形状および大きさを採用し得る。
【0032】
[導体片]
次に、導体片50について説明する。図3は、実施形態に係る導体片50の上面図である。導体片50は、遮断装置1の構成要素の一部を構成すると共に、遮断装置1を所定の電気回路に取り付けたときに当該電気回路の一部を形成する導電性の金属体であり、バスバー(bus bar)と呼ばれる場合がある。また、導体片50とハウジング本体100とは
、一体成形される。導体片50は、ハウジング本体100に保持され、ハウジング本体内の空洞部145を横切るように配置されている。本実施形態では、このように導体片50を保持したハウジング本体100の内壁によって画定される領域(空洞部145)を保持領域としている。
【0033】
導体片50は、例えば、銅(Cu)等の金属によって形成することができる。但し、導体片50は、銅以外の金属で形成されていてもよいし、銅と他の金属との合金で形成されてもよい。なお、導体片50に含まれる銅以外の金属としては、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)等が例示できる。
【0034】
図3に示す一態様において、導体片50は全体として細長い平板片として形成されており、両端側の第一接続端部51および第二接続端部52と、これらの中間部分に位置する被切除部53等を含んでいる。また、被切除部53は略円形であり、第一接続端部51及び第二接続端部52の被切除部53側は、それぞれその幅(Z軸方向の長さ)が小さくなっている。導体片50における第一接続端部51および第二接続端部52には、それぞれ接続孔51A,52Aが設けられている。これら接続孔51A,52Aは、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するために使用される。
【0035】
導体片50の被切除部53は、遮断装置1が適用される電気回路に過大電流等の異常が生じた場合に、発射体40のロッド部42によって強制的に且つ物理的に切断され、第一
接続端部51および第二接続端部52から切除される部位である。被切除部53の周縁(すなわち、被切除部53と第一接続端部51との間、被切除部53と第二接続端部52との間)には、被切除部53が切断され易いように、凹部(スリット)54が形成されている。そして、導体片50は、ハウジング本体100の空洞部145を画する内壁143(図1)の内側面(内壁面)と重なる位置、即ちロッド部42の外周面と重なる位置で切断され、被切除部53が切り落とされる。
【0036】
ここで、導体片50は図3の例には限定されない。例えば、導体片50は、第一接続端部51および第二接続端部52に対して被切除部53が直交、或いは、傾斜した姿勢で接続されていてもよい。また、導体片50における被切除部53の平面形状についても特に限定されない。勿論、導体片50における第一接続端部51、第二接続端部52の形状も特に限定されない。また、導体片50における凹部54は省略してもよい。
【0037】
[クーラント材]
次に、ハウジング10における収容空間13に配置されるクーラント材60について説明する。ここで、図1に示すように、遮断装置1(点火器20)の作動前において、ハウジング本体100における一対の導体片保持孔105A,105Bに保持された状態の導体片50の被切除部53は、ハウジング10の収容空間13を横切るように横架されている。以下、ハウジング10における収容空間13のうち、導体片50の被切除部53を挟んで発射体40が配置されている方の領域(空間)を「発射体初期配置領域R1」と呼び、発射体40とは反対側に位置する領域(空間)を「消弧領域R2」と呼ぶ。なお、収容空間13を横切るように配置された被切除部53の奥行方向(Z軸方向)の側方に隙間が形成されているため、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2は被切除部53によって完全に隔離されているのではなく、双方は連通している。勿論、被切除部53の形状および大きさ次第では、発射体初期配置領域R1および消弧領域R2が被切除部53によって完全に隔離されていてもよい。
【0038】
収容空間13の消弧領域R2は、遮断装置1(点火器20)の作動時に発射される発射体40のロッド部42によって切除された被切除部53を受けるための領域(空間)である。この消弧領域R2には、消弧材としてのクーラント材60が配置されている。クーラント材60は、概略有底筒形状であり、ボトム容器120の側壁部122及び底壁部123に沿って、その内側に配置されている。また、図1の例では、クーラント材60の内周部61は、ハウジング本体100の内壁143と面一になっているが、クーラント材60の内径とハウジング本体100の内径とは同一でなくてもよい。クーラント材60は、発射体40が導体片50の被切除部53を切除した際に生じたアークおよび被切除部53の熱エネルギーを奪い、冷却することによって電流遮断時におけるアーク発生の抑制、或いは、発生したアークを消弧(消滅)させるための冷却材である。
【0039】
遮断装置1における消弧領域R2は、発射体40によって導体片50における第一接続端部51および第二接続端部52から切除された被切除部53を受け入れるための空間であると同時に、発射体40が被切除部53を切除した際に生じたアークを効果的に消弧するための空間としての意義を有する。そして、導体片50から被切除部53を切除する際に生じたアークを効果的に消弧するために、消弧領域R2に消弧材としてクーラント材60が配置されている。
【0040】
実施形態の一態様として、クーラント材60は、例えば、固形状であって保形体によって形成されている。ここでいう保形体とは、例えば、外力が加わっていないときは一定の形状を保ち、外力が加わったときには変形が起こり得るとしても一体性を保持可能(バラバラにならない)な材料である。例えば、繊維体を所望の形状に成形したものが保形体として例示できる。本実施形態においては、クーラント材60を保形体である金属繊維によ
って形成している。ここで、クーラント材60を形成する金属繊維としては、スチールウールおよび銅ウールの少なくとも何れか一方を含む態様が挙げられる。但し、クーラント材60における上記態様は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0041】
<動作>
次に、遮断装置1を作動させて電気回路を遮断する際の動作内容について説明する。上記のように、図1は、遮断装置1の作動前の状態(以下、「作動前初期状態」ともいう)を示している。この作動前初期状態において、遮断装置1における発射体40は、ピストン部41が収容空間13における第1端部11側(上端側)に位置付けられると共にロッド部42の下端に形成された切除面420が、導体片50における被切除部53の上面に位置付けられた初期位置にセットされている。
【0042】
更に、実施形態に係る遮断装置1は、遮断する電気回路が接続された装置(車両、発電設備、蓄電設備など)の異常状態を検知する異常検知センサー(図示せず)、および、点火器20の作動を制御する制御部(図示せず)を更に備えている。異常検知センサーは、導体片50を流れる電流の他に、電圧や導体片50の温度に基づいて異常状態を検知することができてもよい。また、異常検知センサーは、例えば衝撃センサー、温度センサー、加速度センサー、振動センサーなどであって、車両等の装置における衝撃、温度、加速度、振動に基づいて事故や火災などの異常状態を検知してもよい。遮断装置1の制御部は、例えば所定の制御プログラムを実行することで所定の機能を発揮できるコンピュータである。制御部による所定の機能は、対応するハードウェアで実現することもできる。そして、遮断装置1が適用される電気回路の一部を形成する導体片50に過大な電流が流れると、その異常電流が異常検知センサーによって検出される。検出された異常電流に関する異常情報は、異常検知センサーから制御部に引き渡される。例えば、制御部は、異常検知センサーによって検出された電流値に基づいて、点火器20の導電ピンに接続された外部電源(図示せず)から通電を受け、点火器20を作動させる。ここで、異常電流とは、所定の電気回路の保護のために設定された所定の閾値を超える電流値であってもよい。なお、上述した異常検知センサーおよび制御部は、遮断装置1の構成要素に含まれていなくても良く、例えば遮断装置1とは別の装置に含まれていてもよい。また、上記異常検知センサーや制御部は、遮断装置1に必須の構成ではない。
【0043】
例えば、電気回路の異常電流を検知する異常検知センサーによって電気回路の異常電流が検知されると、遮断装置1の制御部は点火器20を作動させる。すなわち、外部電源(図示せず)から点火器20の導電ピンに作動電流が供給される結果、点火部21内の点火薬が着火、燃焼し、燃焼ガスが生成される。そして、点火部21内の圧力上昇に起因して開裂面21Aが開裂し、点火部21内から点火薬の燃焼ガスが収容空間13へと放出される。
【0044】
ここで、点火器20の点火部21はピストン部41における窪み部411に受け入れられており、点火部21の開裂面21Aは、発射体40における窪み部411の受圧面411Aに対向して配置されている。そのため、点火部21からの燃焼ガスは窪み部411に放出されると共に、燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)が受圧面411Aを含むピストン部41の上面に伝えられる。その結果、発射体40は、収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って収容空間13を下方に移動する。
【0045】
図4は、実施形態に係る遮断装置1の作動状況を説明する図である。図3の上段に示す(A)には遮断装置1の作動途中の状況を示し、図3の下段に示す(B)には遮断装置1の作動が完了した状況を示す。上記のように、点火器20の作動によって、点火薬の燃焼ガスの圧力(燃焼エネルギー)を受けた発射体40は勢いよく下方に押し下げられ、その結果、ロッド部42の下端側に形成された切除面420によって導体片50における第一
接続端部51および第二接続端部52と被切除部53との間の各境界部を剪断によって押し切る。このとき、爪部426が設けられた壁面424は、ロッド部42の径方向内側へしなるように弾性変形し、爪部426はハウジング本体100を通過する。発射体40は、点火器20の作動時に収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って円滑に移動することができる限りにおいて、発射体40の形状、寸法を自由に決定することができ、例えば発射体40におけるピストン部41の外径はトップホルダ110における大径シリンダ部113の内径と等しい寸法に設定されていてもよい。
【0046】
そして、発射体40は、図3の下段に示すように、ハウジング本体100の上面101にピストン部41の下端面が当接(衝突)するまで、所定のストロークだけ収容空間13の延在方向(軸方向)に沿って下方に移動する。この状態において、発射体40におけるロッド部42によって導体片50から切除された被切除部53は、クーラント材60が配置されている消弧領域R2内に受け入れられる。その結果、導体片50の両端に位置する第一接続端部51および第二接続端部52は電気的に不通状態となり、遮断装置1が適用される所定の電気回路が強制的に遮断される。また、このとき、爪部426はハウジング本体100を通過して、壁面424はロッド部42の径方向外側へ変形する。すなわち、爪部426は、消弧領域R2内に配設されたクーラント材60に埋没し、爪部426の段部428はハウジング本体100の下面102と係合する。なお、本実施形態においては、作動前の状態において、爪部416の段部428から被切除部53までの長さは、ハウジング本体100の下面102からクーラント材60の底面上端62までの長さ程度になっており、作動時に爪部426の段部428はハウジング本体100の下面102よりも下まで移動するものとする。このように、ロッド部42とハウジング本体100とは、スナップフィット方式で結合される。
【0047】
<実施形態の効果>
実施形態における遮断装置1は、作動時に、発射体40のロッド部42に設けられた爪部426が、被係合部として機能するハウジング本体100の下面102と係合するため、仮に燃焼ガスが冷却されて発射体初期配置領域R1側の圧力が低下したとしても、発射体40が上方へ戻されることを抑制できる。また、爪部426は、作動時に発射体40が移動する方向に向かって突出量が小さくなる傾斜面427を備えると共に、爪部426が設けられる壁面424は、弾性変形可能に、その外縁がスリット423によって画定されているため、作動時における発射体40の移動を可及的に阻害しないようになっている。
【0048】
<その他>
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、上述した構成の一部を変更することも可能である。例えば、爪部426の数は上述の例には限定されない。また、爪部426の形状は、ハウジング本体100の下面102のようなハウジングの内部に設けられた被係合部と係合する係合部であれば、図示したものには限定されない。また、爪部426が弾性変形して発射体40がハウジング本体100を通過可能であれば、必ずしもロッド部42の外周面422にスリット423を設けなくてもよい。なお、ハウジング10に設けられる被係合部は、爪部426の段部428を係止するための段差を有していればよく、ハウジング本体100の下面102でなく、例えばハウジング本体100に設けられた凹部であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 :遮断装置
10 :ハウジング
100 :ハウジング本体
101 :上面
102 :下面
13 :収容空間
20 :点火器
40 :発射体
42 :ロッド部
426 :爪部
50 :導体片
51 :第一接続端部
52 :第二接続端部
53 :被切除部
60 :クーラント材
図1
図2
図3
図4