(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117263
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】グルタミナーゼ1阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/415 20060101AFI20230816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230816BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230816BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20230816BHJP
C07D 231/14 20060101ALI20230816BHJP
C07D 233/90 20060101ALI20230816BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20230816BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230816BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230816BHJP
【FI】
A61K31/415
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P3/04
A61P35/00
A61K31/4164
C07D231/14 CSP
C07D233/90 C
C12N9/99 ZNA
A23L2/52
A23L2/00 F
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019889
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 桂一
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】条 美智子
(72)【発明者】
【氏名】合田 浩明
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018ME07
4B018ME08
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF10
4B018MF14
4B117LC04
4B117LK06
4B117LL09
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC36
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】グルタミナーゼ1阻害剤、及びそれを有効成分とする医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物の提供。また、グルタミナーゼ1阻害剤の有効成分として有用な新規化合物の提供。
【解決手段】一般式(I)で示される化合物、その薬学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、グルタミナーゼ1阻害剤:
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される化合物、その薬学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、グルタミナーゼ1阻害剤:
【化1】
〔式(I)中、
Xは、CH
2またはC=O;
nは0~2の整数を意味する。但し、XがC=Oであるとき、nは1である。
Yは、少なくとも2つの窒素原子を有する二価の5員複素環基;
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキル基、または水酸基;
R
2は、下式(a)~(c)のいずれかで示される基:
【化2】
(式(a)中、
Aは、水酸基または酸素原子を意味し、
点線と実線からなる二重線は、Aが水酸基である場合は単結合を、酸素原子である場合は二重結合を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化3】
(式(b)中、
B及びDは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化4】
(式(c)中、
Eは、酸素原子、又は水素原子の一つが水酸基で置換されていてもよいアルキレン基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
nが0である場合、R
1はアルコキシ基ではなく、また
R
1が水酸基である場合、R
2は式(b)または(c)で示される基である。〕。
【請求項2】
前記式(I)で示される化合物において、Yがピラゾール基又はイミダゾール基である、請求項1に記載するグルタミナーゼ1阻害剤。
【請求項3】
前記式(I)で示される化合物において、R2が、式(a)で示される基であって、
式(a)中、Aは水酸基、点線と実線からなる二重線は単結合であり、
XはCH2、nは0~2の整数である、
請求項1又は2に記載するグルタミナーゼ1阻害剤。
【請求項4】
前記式(I)で示される化合物において、R2が、式(b)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2の整数である、
請求項1又は2に記載するグルタミナーゼ1阻害剤。
【請求項5】
前記式(I)で示される化合物において、R2が、式(c)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2である、
請求項1又は2に記載するグルタミナーゼ1阻害剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載するグルタミナーゼ1阻害剤を有効成分とする、医薬組成物、飲食物組成物または化粧品組成物。
【請求項7】
炎症、炎症に由来する疾患、肥満、メタボリックシンドローム、老化、又はがんの予防、改善若しくは治療のために用いられる、請求項6記載する医薬組成物、飲食物組成物または化粧品組成物。
【請求項8】
一般式(I)で示される、グルタミナーゼ1阻害作用を有する化合物、その薬学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物:
【化5】
〔式(I)中、
Xは、CH
2またはC=O;
nは0~2の整数を意味する。但し、XがC=Oであるとき、nは1である。
Yは、少なくとも2つの窒素原子を有する二価の5員複素環基;
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキル基、または水酸基;
R
2は、下式(a)~(c)のいずれかで示される基:
【化6】
(式(a)中、
Aは、水酸基または酸素原子を意味し、
点線と実線からなる二重線は、Aが水酸基である場合は単結合を、酸素原子である場合は二重結合を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化7】
(式(b)中、
B及びDは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化8】
(式(c)中、
Eは、酸素原子、又は水素原子の一つが水酸基で置換されていてもよいアルキレン基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
nが0である場合、R
1はアルコキシ基ではなく、また
R
1が水酸基である場合、R
2は式(b)または(c)で示される基である。
但し、N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミドを除く。〕。
【請求項9】
前記Yがピラゾール基又はイミダゾール基である、請求項8に記載する化合物。
【請求項10】
前記R2が、式(a)で示される基であって、
式(a)中、Aは水酸基、点線と実線からなる二重線は単結合であり、
XはCH2、nは0~2の整数である、
請求項8又は9に記載する化合物。
【請求項11】
前記式(I)で示される化合物において、R2が、式(b)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2の整数である、
請求項8又は9に記載する化合物。
【請求項12】
前記式(I)で示される化合物において、R2が、式(c)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2である、
請求項8又は9に記載する化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミナーゼ1阻害剤、及びそれを有効成分とする医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物に関する。また、本発明はグルタミナーゼ1阻害剤の有効成分として有用な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミナーゼはグルタミンからグルタミン酸を産生する酵素である。グルタミナーゼには腎臓に発現する腎臓型グルタミナーゼ(これを「グルタミナーゼ1」と称する。)、及び肝臓に発現する肝臓型グルタミナーゼ(これを「グルタミナーゼ2」と称する。)がある。以下、グルタミナーゼ1を「GLS1」、グルタミナーゼ2を「GLS2」、また両者を総称して「GLS」を略称する場合がある。
【0003】
GLS1は腎臓、小腸、及び脳などに広く存在し、GLS2は肝臓のみに存在する。グルタミンは体内で最も豊富な遊離アミノ酸であり、代謝、タンパク質の合成や分解、インスリン抵抗性など、多くのプロセスを制御する役割を果たすことが知られている(非特許文献1)。また、GLSは様々ながん細胞で過剰発現していることが判明しており、これを標的としたCB-839などのGLS阻害剤が医薬品として開発されている(非特許文献2)。また、CB-839などのGLS阻害剤には抗炎症作用があり、抗炎症剤として、また炎症に由来する疾患の予防、改善又は治療に有用であることが知られている(特許文献1)。さらに当該GLS阻害剤には抗肥満作用があり、抗肥満剤として、メタボリックシンドロームの予防、改善又は治療に有用であることが知られている(特許文献2)。またさらに、最近の研究では、GLS1を阻害することで老化を予防する効果があることが示唆されている(非特許文献3)。
【0004】
このように、今日では薬物標的としてのGLSの重要性が高まっており、新たなGLS阻害剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-29412号公報
【特許文献2】特開2020-28239号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Molecular mechanisms of glutamine action, J. Cell. Physiol., 2005, 204(2): 392-401.
【非特許文献2】Antitumor activity of the Glutaminase inhibitor CB-839 in triple-negative breast cancer. Mol Cancer Ther. 2014 Apr; 13 (4):890-901.
【非特許文献3】Senolysis by Glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders. Science. 2021 Jan 15; 371 (6526):265-270.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、GLS1阻害剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、GLS1を阻害することで奏功する疾患や病態の予防又は改善に有用な医薬組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物を提供することを課題とする。
さらに本発明は、GLS1阻害剤や上記の医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物の有効成分として有用な新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、多段階in silicoスクリーニング(グルタミナーゼと既知のGLS1阻害剤の複合体結晶構造から得られた3次元ファーマコホアを用いた1次スクリーニング、Lipinski’s“Rule of Five”によるフィルタリング、分子ドッキング計算を用いた2次スクリーニング、結合自由エネルギー計算によるフィルタリング、ドッキングポーズに基づいたフィルタリング、及び化学構造に基づいた分子類似性解析からなるin silicoスクリーニング)により市販化合物データベースからGLS1阻害剤候補化合物を探索した結果、下式で示される化合物にGLS1阻害作用があること見出した。
【化1】
【0009】
本発明は上記の知見に基づいて、上記化合物と同様に、GLS1阻害作用を有する化合物を見出すべく、さらに検討を重ねた結果、完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0010】
(I)GLS1阻害剤
(I-1)一般式(I)で示される化合物、その薬学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、GLS1阻害剤:
【化2】
〔式(I)中、
Xは、CH
2またはC=O;
nは0~2の整数を意味する。但し、XがC=Oであるとき、nは1である。
Yは、少なくとも2つの窒素原子を有する二価の5員複素環基;
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキル基、または水酸基;
R
2は、下式(a)~(c)のいずれかで示される基:
【化3】
(式(a)中、
Aは、水酸基または酸素原子を意味し、
点線と実線からなる二重線は、Aが水酸基である場合は単結合を、酸素原子である場合は二重結合を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化4】
(式(b)中、
B及びDは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化5】
(式(c)中、
Eは、酸素原子、又は水素原子の一つが水酸基で置換されていてもよいアルキレン基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
nが0である場合、R
1はアルコキシ基ではなく、また
R
1が水酸基である場合、R
2は式(b)または(c)で示される基である)。
【0011】
(I-2)前記式(I)で示される化合物において、Yが、ピラゾール基又はイミダゾール基、好ましくはピラゾール基である、(I-1)に記載するGLS1阻害剤。
【0012】
(I-3)前記式(I)で示される化合物が、R2が、式(a)で示される基であって、
式(a)中、Aは水酸基、点線と実線からなる二重線は単結合であり、
Xは、CH2、nは0~2の整数である、(I-1)又は(I-2)に記載するGLS1阻害剤。
(I-4)前記式(I)で示される化合物が、R2が、式(b)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2の整数である、(I-1)又は(I-2)に記載するGLS1阻害剤。
(I-5)前記式(I)で示される化合物が、R2が、式(c)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2である、(I-1)又は(I-2)に記載するGLS1阻害剤。
【0013】
(II)医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物
(II-1)(I-1)~(I-5)のいずれかに記載するGLS1阻害剤を有効成分とする、医薬品組成物、飲食物組成物、または化粧品組成物。
(II-2)炎症、炎症に由来する疾患、肥満、メタボリックシンドローム、老化、又はがんの予防、改善若しくは治療のために用いられる、(II-1)に記載する医薬品組成物、飲食物組成物または化粧品組成物。
【0014】
(III)GLS1阻害作用を有する化合物
(III-1)一般式(I)で示される、GLS1阻害作用を有する化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物:
【化6】
〔式(I)中、
Xは、CH
2またはC=O;
nは0~2の整数を意味する。但し、XがC=Oであるとき、nは1である。
Yは、少なくとも2つの窒素原子を有する二価の5員複素環基;
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキル基、または水酸基;
R
2は、下式(a)~(c)のいずれかで示される基:
【化7】
(式(a)中、
Aは、水酸基または酸素原子を意味し、
点線と実線からなる二重線は、Aが水酸基である場合は単結合を、酸素原子である場合は二重結合を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化8】
(式(b)中、
B及びDは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
【化9】
(式(c)中、
Eは、酸素原子、又は水素原子の一つが水酸基で置換されていてもよいアルキレン基を意味し、
アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。);
nが0である場合、R
1はアルコキシ基ではなく、また
R
1が水酸基である場合、R
2は式(b)または(c)で示される基である。
但し、N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミドを除く。〕。
【0015】
(III-2)前記Yが、ピラゾール基又はイミダゾール基、好ましくはピラゾール基である、(III-1)に記載する化合物。
【0016】
(III-3)前記R2が、式(a)で示される基であって、
式(a)中、Aは水酸基、点線と実線からなる二重線は単結合であり、
XはCH2、nは0~2の整数である、(III-1)または(III-2)に記載する化合物。
(III-4)前記式(I)で示される化合物が、R2が、式(b)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2の整数である、(III-1)又は(III-2)に記載する化合物。
(III-5)前記式(I)で示される化合物が、R2が、式(c)で示される基であって、
XはCH2、nは0~2である、(III-1)又は(III-2)に記載する化合物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規なGLS1阻害剤を提供することができる。本発明のGLS1阻害剤は、GLS1を阻害することで奏功する疾患や病態(例えば炎症、炎症に由来する疾患や病態、肥満、メタボリックシンドローム、老化、がん等)を予防または改善するための医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物の有効成分として有用である。
このため、GLS1阻害剤を有効成分とする本発明の医薬品組成物、飲食物組成物、又は化粧品組成物は、GLS1を阻害することで、例えば炎症、炎症に由来する疾患や病態、肥満、メタボリックシンドローム、老化、又はがん等を予防または改善する効果を有するものとして有用である。
さらに、本発明が提供する化合物は、GLS1を阻害することで、例えば炎症、炎症に由来する疾患や病態、肥満、メタボリックシンドローム、老化、又はがん等を予防または改善する効果を発揮することが期待され、前記GLS1阻害剤、及び医薬組成物、飲食組成物、又は化粧品組成物の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-1】実験例でGLS1阻害活性評価をしたGLS1阻害候補化合物の構造式を示す。
【
図1-2】実験例でGLS1阻害活性評価をしたGLS1阻害候補化合物の構造式を示す。
【
図1-3】実験例でGLS1阻害活性評価をしたGLS1阻害候補化合物の構造式を示す。
【
図2】(A)実験例1でGLS1阻害活性評価をしたGLS1阻害候補化合物1~8の構造式を示す。(B)GLS1阻害候補化合物1~8、公知のGLS1阻害剤(DON、CB-839)、及びコントロール(DMSO)について、マウス腎臓抽出液を用いてグルタミン酸(Glu)産生率(%)を測定した結果を示す。
【
図3】実験例2において、GLS1阻害候補化合物、公知のGLS1阻害剤(DON、CB-839)、及びコントロール(DMSO)について、マウス腎臓抽出液を用いてGlu産生率(%)を測定した結果を示す。
【
図4】実験例3において、GLS1阻害候補化合物(ピラゾール誘導体5i及び8a)、公知のGLS1阻害剤(DON、CB-839)、及びコントロール(DMSO)について、マウスリコンビナントGLS1を用いてグルタミン酸産生率(%)を測定した結果を示す。P値はTukey-KramerのHSD検定により算出。n=3 *P<0.05(vs Ct)。
【
図5】実験例3において、GLS1阻害候補化合物(ピラゾール誘導体5i及び8a)、公知のGLS1阻害剤(DON、CB-839)、及びコントロール(DMSO)について、ヒトリコンビナントGLS1を用いてグルタミン酸産生率(%)を測定した結果を示す。P値はTukey-KramerのHSD検定により算出。n=3 *P<0.05(vs Ct)。
【
図6】実験例4において、ピラゾール誘導体5i及び8aについて、ヒト乳腺がん由来細胞株(MCF7細胞)に対する増殖抑制作用を評価した結果を示す。n=3
【
図7】実験例4において、ピラゾール誘導体5i及び8aについて、急性骨髄性白血病由来細胞株(MOLM13細胞)に対する増殖抑制作用を評価した結果を示す。n=3
【発明を実施するための形態】
【0019】
(I)GLS1阻害剤
本発明のGLS1阻害剤は、下式(I)で示される化合物(以下、これを「化合物(I)」とも称する)、その薬学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とすることを特徴とする:
【化10】
【0020】
式(I)中、XはCH2、又はC=Oを示す。好ましくはCH2である。
XがCH2であるとき、nは0~2の整数である。好ましくは0又は1である。XがC=Oであるとき、nは1である。
【0021】
式(I)中、Yは、少なくとも2つの窒素原子を有する二価の5員複素環基(以下、これを単に「N含有5員複素環基」とも称する)である。当該N含有5員複素環基は、環中に2又は3つの窒素原子を有し、隣接基と結合する原子が炭素原子である二価の5員複素環基であればよいが、好ましくはN含有5員不飽和複素環基である。当該N含有5員複素環基は、結合手となる炭素原子以外の基として、窒素原子以外に、炭素原子、又は、酸素原子や硫黄原子といった複素原子を有するものであってもよい。例えば、2つの窒素原子以外の原子が炭素原子であるN含有5員不飽和複素環基としてはピラゾール基、及びイミダゾール基を;2つの窒素原子以外の原子が酸素原子であるN含有5員不飽和複素環基としてはフラザン基を;また3つの窒素原子を有するN含有5員不飽和複素環基としてはトリアゾール基を挙げることができる。N含有5員複素環基として、好ましくは2つの窒素原子以外の原子が炭素原子であるピラゾール基、又はイミダゾール基であり、より好ましくはピラゾール基である。
【0022】
N含有5員複素環基の2つの結合手は、できるだけ離間した位置に存在することが好ましい。例えば、式(I)で示される化合物の主骨格の一部であるX基に結合しているN含有5員複素環基の結合手の位置を1位とした場合、もう一方の結合手は3位又は4位に位置していることが好ましい。
【0023】
式(I)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、アルキル基、または水酸基である。制限されないものの、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、及びアルコキシ基であり、より好ましくは水素原子、及びハロゲン原子である。
なお、式(I)中、nが0である場合、R1はアルコキシ基以外の基であることが好ましい。より好ましくは水素原子、ハロゲン原子、及び水酸基である。
また、R1が水酸基である場合、R2は、後述する式(b)または(c)で示される基であることが好ましい。より好ましくは式(b)で示される基である。
【0024】
R1で示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。好ましくはフッ素原子、及び塩素原子である。
【0025】
R1で示されるハロアルキル基には、ハロゲン原子を1~3個有する炭素数1~6(C1~6)の直鎖状又は分岐状のアルキル基が含まれる。好ましくはハロゲン原子を3個有するトリハロC1~6アルキル基、より好ましくはトリハロC1~3アルキル基である。トリハロC1~6アルキル基には、例えばトリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などが含まれる。好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0026】
R1で示されるアルキル基としては、制限されないものの、好ましくは直鎖状又は分岐状の炭素数1~6(C1~6)のアルキル基を挙げることができる。より好ましくはC1~3のアルキル基である。これらのアルキル基には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が含まれる。制限されないものの、好ましくはメチル基、エチル基、及びtert-ブチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0027】
R1で示されるアルコキシ基は、アルキル基が酸素原子に結合した構造を有する基である。この構造に含まれるアルキル基も前記の通りであり、好ましくはC1~3のアルキル基である。アルコキシ基には、具体的にはメトキシ基及びエトキシ基が含まれる。好ましくはメトキシ基である。
【0028】
式(I)において、フェニル基上のR1の位置は、ベンゼン環に結合しているX基に対して、オルト位、メタ位、又はパラ位のいずれであってもよい。制限されないが、nが0である場合、好ましくはパラ位である。また、nが1である場合、パラ位、メタ位、及びオルト位の順で好ましく、より好ましくはパラ位である。
【0029】
式(I)中、R
2は、以下に示す式(a)~(c)のいずれかで示される基である。
式(a)で示される基:
【化11】
式(a)中、Aは、水酸基または酸素原子を意味する。
Aが水酸基である場合、式(a)で示す点線と実線からなる二重線は、単結合を意味する。
Aが酸素原子である場合、式(a)で示す点線と実線からなる二重線は、二重結合を意味する。
式(a)中、アスタリスクは、前記式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。
【0030】
式(b)で示される基:
【化12】
式(b)中、B及びDは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基を意味する。
ここでアルキル基としては、前述するR
1で示されるアルキル基と同じく、好ましくはC1~6の直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができる。より好ましくはC1~3の直鎖状アルキル基であり、具体的にはメチル基、及びエチル基を挙げることができる。
アルコキシ基としても、前述するR
1で示されるアルコキシ基と同じく、C1~3のアルキル基を有するアルコキシ基を好適に挙げることができる、好ましくはメトキシ基及びエトキシ基であり、より好ましくはメトキシ基である。
BとDの組み合わせには、制限されないものの、水素原子とアルキル基の組み合わせ、アルキル基同士の組み合わせ、アルキル基とアルコキシ基との組み合わせ、水素原子とアルコキシ基の組み合わせが含まれる。
式(b)中、アスタリスクは、式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。
【0031】
式(c)で示される基:
【化13】
式(c)中、Eは、酸素原子、又はアルキレン基を意味する。アルキレン基には、制限されないものの、炭素数1~3、好ましくは炭素数1~2のアルキレン基が含まれる。当該アルキレン基はその水素原子の一つが水酸基で置換されていてもよい。
式(c)中、アスタリスクは、前記式(I)中のカルボニル基の炭素原子との結合部を意味する。
【0032】
化合物(I)には、好ましい化合物として、下記の化合物が含まれる:
(A)R
2
が式(a)で示される基である化合物(これを「化合物a」を総称する):
化合物aには、下記の化合物が含まれる。
(a1)式(a)中、Aが水酸基;点線と実線からなる二重線は単結合;XはCH2;nは0~2の整数;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルコキシ基、又はアルキル基である、化合物。
なかでも好ましくは、式(a)中、Aが水酸基;点線と実線からなる二重線は単結合;XはCH2;nは0または1;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子、又はハロゲン原子である、化合物である。
【0033】
これらの化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物1:N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-phenyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物2:3-(4-フルオロフェニル)-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(4-fluorophenyl)-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物3:3-ベンジル-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzyl-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物4:3-(4-フルオロベンジル)-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(4-fluorobenzyl)-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物5:3-(4-クロロベンジル)-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(4-chlorobenzyl)-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物6:3-(2-クロロベンジル)-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(2-chlorobenzyl)-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物7:3-(3-クロロベンジル)-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(3-chlorobenzyl)-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物8: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-(トリフルオロメチル)ベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-(4-(trifluoromethyl)benzyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物9: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(3-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-(3-methoxybenzyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物10: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-(4-methoxybenzyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物11: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(2-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-(2-methoxybenzyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物12: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-メチルベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-(4-methylbenzyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物13: N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェネチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-3-phenethyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
【0034】
(a2)式(a)中、Aが酸素原子;点線と実線からなる二重線は二重結合;XはCH2;nは0~2、好ましくは1;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子である、化合物。
当該化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物14:3-ベンジル-N-(4-オキソシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzyl-N-(4-oxocyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
【0035】
(a3)式(a)中、Aが水酸基;点線と実線からなる二重線は単結合;XはC=O;nは1;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子である、化合物。
当該化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物15:3-ベンゾイル-N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzoyl-N-(4-hydroxycyclohexyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide)
【0036】
(a4)式(a)中、Aが水酸基;点線と実線からなる二重線は単結合;XはCH2;nは0~2、好ましくは1;Yは2位及び5位に結合手を有するイミダゾール基;R1は水素原子である、化合物。
当該化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物16:N-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-5-フェニル-1H-イミダゾール-2-カルボキサミド(N-(4-hydroxycyclohexyl)-5-phenyl-1H-imidazole-2-carboxamide)
【0037】
(B)R
2
が式(b)で示される基である化合物(これを「化合物b」を総称する):
化合物bには、下記の化合物が含まれる。
(b)式(b)中、B及びDは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基;XはCH2;nは0~2の整数;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子、又は水酸基である、化合物。
当該化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物17:3-(4-ヒドロキシフェニル)-N-メチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-(4-hydroxyphenyl)-N-methyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物18:3-ベンジル-N-メチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzyl-N-methyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物19:3-ベンジル-N、N-ジメチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzyl-N,N-dimethyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
化合物20:3-ベンジル-N-メトキシ-N-メチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド(3-benzyl-N-methoxy-N-methyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)
【0038】
(C)R
2
が式(c)で示される基である化合物(これを「化合物c」を総称する):
化合物cには、下記の化合物が含まれる。
(c)式(c)中、Eは、酸素原子、又は1つの水素原子が水酸基で置換されていてもよいアルキレン基;XはCH2;nは0~2;Yは3位及び5位に結合手を有するピラゾール基;R1は水素原子である、化合物。
当該化合物には、具体的には下記の化合物が含まれる。立体異性体の別を問わず、当該化合物にはいずれも異性体も含まれる。
化合物21:3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(ピペリジン-1-イル)メタノン((3-benzyl-1H-pyrazol-5-yl)(piperidin-1-yl)methanone)
化合物22:アゼパン-1-イル(3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)メタノン(azepan-1-yl(3-benzyl-1H-pyrazol-5-yl)methanone)
化合物23:3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(モルフォリノ)メタノン((3-benzyl-1H-pyrazol-5-yl)(morpholino)methanone)
化合物24:3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(4-ヒドロキシピペリジン-1-イル)メタノン((3-benzyl-1H-pyrazol-5-yl)(4-hydroxypiperidin-1-yl)methanone)
【0039】
前述する化合物(I)は、薬学的に許容される塩の形態をとることができ、当該塩は、遊離形態の化合物(I)と同様に用いることができる。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、又はホウ酸等の無機酸との塩(無機酸塩);ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、又はトシル酸等の有機酸との塩(有機酸塩)が含まれる。但し、これらに限定されるものではない。これらの塩の調製は慣用手段によって行なうことができる。また、前述する化合物(I)及びその薬学的に許容される塩は、溶媒和物であってもよい。溶媒和物には水和物も含まれる。
【0040】
化合物(I)、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物(以下、これらを総称して「化合物(I)等」とも称する)は、後述する製造例の記載に基づいて製造することができる。
【0041】
これらの製造方法で得られる化合物(I)等は、公知の単離及び/又は精製手段を適用することで、反応混合物から単離、精製される。かかる単離、精製手段としては、例えば、蒸留法、再結晶法、溶媒抽出法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、プレパラティブ薄層クロマトグラフィー等を例示することができる。
【0042】
化合物(I)等は、後述する実験例2及び3に示すようにGLS1阻害活性を有する。
【0043】
本発明に係るGLS1阻害剤は、前述する化合物(I)等だけからなるものであってもよいが、当該分野(生化学分野、医薬分野、化粧分野、食品分野)にて、通常使用される担体や添加物などの他の成分が含まれていてもよい。具体的な担体や添加剤の種類、その配合割合は、GLS1阻害剤が、化合物(I)等に基づいてGLS1阻害活性を発揮することを限度として、特に制限されることはない。例えば、後述する医薬品組成物に記載する、担体や添加物の種類やその配合割合を参考に適宜選択することができる。
【0044】
(II)医薬組成物
本発明に係る医薬組成物(以下、「本医薬組成物」と称する)は、前述するGLS1阻害剤、具体的には、前記化合物(I)、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0045】
本医薬組成物は、前述する化合物(I)等のGLS1阻害活性に基づいて、GLS1を阻害することで効果を奏する疾患または症状(状態を含む)に適用することができる。本医薬品組成物の治療対象となる疾患または症状には、炎症、炎症に由来する疾患、肥満、メタボリックシンドローム、老化、及びがんが含まれる。
【0046】
本医薬組成物は、こうした疾患または症状の予防又は治療に好適に使用することができる。本発明において、治療には、前記疾患や症状を治癒する意味だけでなく、緩和することや部分的に改善することも含まれる。本発明において、予防には、疾患や症状の進行を抑制することや、再発を抑制することも含まれる。特に、がんの予防又は治療には、がん細胞の増殖を抑制することで、がん組織の縮小、がんの進行の阻止・抑制、がんの再発を抑止することが含まれる。
【0047】
なお、本発明において、用語「がん」は広義に解釈され、用語「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。一般に、がんはその発生の母体となった臓器の名、もしくは発生母組織の名で呼ばれ、主なものを列記すると、舌がん、歯肉がん、咽頭がん、上顎がん、喉頭がん、唾液腺がん、食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、肝臓がん、胆道がん、胆嚢がん、膵(臓)がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、副腎がん、脳下垂体腫瘍、松果体腫瘍、子宮がん、卵巣がん、膣がん、膀胱がん、腎臓がん、前立腺がん、尿道がん、網膜芽細胞腫、結膜がん、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽細胞腫、皮膚がん、髄芽種、白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病等である。そして、さらに発生臓器の部位の特徴によって、上・中・下咽頭がん、上部・中部・下部食道がん、胃噴門がん、胃幽門がん、子宮頚がん、子宮体がん等と細分類されているが、これらが限定的ではなく本発明の「がん」としての記載に含まれる。抗がん療法に使用される本発明の医薬品組成物(これを「抗がん用医薬組成物」ともいう)は、「がん」全般に効果を奏するものであるが、特に乳がん、及び急性骨髄性白血病に好ましく用いられ得る。特に、化合物(I)等のうち、化合物1及び4、並びにその薬学的に許容される塩や溶媒和物は、抗がん作用、特に、乳がん、及び/又は急性骨髄性白血病において、がん細胞の増殖抑制効果に優れている。
【0048】
「抗がん用医薬組成物」とは、標的の疾病ないし病態である、がんに対する治療的または予防的効果を示す医薬組成物のことをいうが、好ましくは、治療的効果を示す医薬組成物のことをいう。治療的効果には、がんに特徴的な症状または随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。なお、予防的効果の典型的なものは、がんに特徴的な症状の再発発現(発症)を阻止ないし遅延することである。なお、がんに対して何らかの治療的効果または予防的効果、あるいはこの両者を示す限り、抗がん用医薬組成物に該当する。また、化合物(I)等がもたらすがんに対する治療的または予防的効果は、がんの合併症(例えば、悪液質)の改善を含んでいてもよい。すなわち、本明細書における「抗がん」や「がん治療」とは、がん組織そのものに対して増殖抑制や縮小などの効果を奏することに加えて、合併症(好ましくは、悪液質)を改善することを含んでいてもよい。
本発明の「抗がん用医薬組成物」は、公知の抗がん剤または将来開発される抗がん剤を併用して用いることもできる。
【0049】
本医薬組成物は、前述する化合物(I)等だけからなるものであってもよいし、また、製剤上許容される他の成分と組み合わせて、公知の方法で投与経路、投与方法などの所望の用途に適した形態に調製したものであってもよい。本医薬組成物の製剤化は、有効成分である化合物(I)等を配合すること以外は、常法に従って行うことができる。
製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、希釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水等)を含有させることができる。
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤および坐剤が含まれる。
【0050】
本医薬組成物には、有効成分として、期待される予防又は治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の化合物(I)等が含有される。本医薬組成物中の化合物(I)等の量は、剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように、例えば、約0.01質量%~約99.9質量%の範囲内で設定することができる。
【0051】
本医薬組成物は、その剤形に応じて、経口投与または非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、または腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜等)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時にまたは所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用して標的組織特異的に有効成分が送達されるように投与してもよい。ここでの「対象」は特に限定されず、治療または予防が必要なヒトおよびヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましくはヒトである。
【0052】
本医薬組成物の投与量は、一般に、患者の症状、年齢、性別、および体重等によって変動し得るが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。限定されないが、例えば、経口投与では、成人に対して、例えば、1日約0.01mg~1000mgを1回、または数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、例えば、1回約0.01mg~1000mgを皮下注射、筋肉注射または静脈注射によって投与することができる。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、あるいは3日に1回等を採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間等を考慮することができる。
【0053】
(III)飲食物組成物
本発明に係る飲食物組成物(以下、「本飲食物組成物」と称する)は、前述するGLS1阻害剤、具体的には、前記化合物(I)、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物を含有することを特徴とする。
本飲食物組成物は、制限されないものの、従来公知の飲食物の製造工程で、前記化合物(I)等を配合することで調製することができる。また、前記化合物(I)等を従来公知の飲食物に添加配合することで調製することもできる。
本飲食物組成物は、制限されないものの、例えば、抗肥満、メタボリックシンドロームの予防又は改善に有効に利用することができる。
【0054】
(IV)化粧品組成物
本発明に係る化粧品組成物(以下、「本化粧品組成物」と称する)は、前述するGLS1阻害剤、具体的には、前記化合物(I)、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物を含有することを特徴とする。本化粧品組成物には、医薬品部外品に該当する薬用化粧品も含まれる。
本化粧品組成物は、制限されないものの、従来公知の化粧品(薬用化粧品を含む)の製造工程で、前記化合物(I)等を配合することで調製することができる。また、前記化合物(I)等を従来公知の化粧品成分に添加配合することで調製することもできる。
本化粧品組成物は、制限されないものの、例えば、抗老化、具体的にはしわの改善や老化の予防に有用である。
【0055】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。また、本発明は、前述する実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【実施例0056】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0057】
製造例1:GLS1阻害剤候補化合物の合成
下式に示す手順に従って、GLS1阻害剤候補化合物(化合物1~14,17~24、及び3a)を製造した。
【化14】
【0058】
(1)化合物2a~2oの合成
Ar雰囲気下、メチルケトン(1.00 mmol)(化合物1a~1o) のテトラヒドロフラン (5 mL) 溶液に対して、-78℃にてナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド (0.79 mL, 1.9 M in THF, 1.50 mmol) を加えた後、-78 ℃で30分間撹拌した。さらに-78 ℃にてシュウ酸ジエチル (0.27 mL, 2.00 mmol) を加えた後、室温まで昇温し、室温で2時間撹拌した。反応終了後、10% HCl水溶液 (3 mL) を加えた。有機層を分離後、水層をジクロロメタン (1.5 mL × 3) を用いて抽出し、先の有機層と合わせた。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたケトエステルは精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたケトエステルのエタノール (5 mL) 溶液に対して、室温にてヒドラジン一水和物 (0.07 mL, 1.50 mmol) を加えた後、加熱還流下4時間撹拌した。反応終了後、反応液を酢酸エチル (5 mL) で希釈し、さらに水 (3 mL) を加えた。有機層を分離後、水層を酢酸エチル (1.5 mL × 3) を用いて抽出し、先の有機層と合わせた。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 7 : 1 ~ 1 : 1) により精製することで目的とするピラゾールエステル(化合物2a~2o)を得た。
【0059】
(2)化合物1~14及び18~24、並びに化合物3aの合成
Ar雰囲気下、ピラゾールエステル(化合物2a-2o) (0.50 mmol) のエタノール (3 mL) 溶液に対して、室温にて10% NaOH水溶液 (1.5 mL) を加えた後、加熱還流下2時間撹拌した。反応終了後、エタノールを留去し、10% HCl水溶液 (3 mL) を加え、その水層を酢酸エチル (1.5 mL × 3) を用いて抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたカルボン酸は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたカルボン酸のジクロロメタン (3 mL) 溶液に対して、室温にて対応するアミン (0.75 mmol)、トリエチルアミン (0.11 mL, 0.75 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (101 mg, 0.75 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩 (143 mg, 0.75 mmol) を順次加えた後、室温にて20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 7 : 1 ~ 1 : 5) により精製することで目的とする化合物(化合物1~14及び18~24、並びに化合物3a)を得た。
【0060】
(3)化合物17の合成法
Ar雰囲気下、アミド(化合物3a)(0.50 mmol) のメタノール (3 mL) 溶液に対して、室温にて10% HCl水溶液 (1.5 mL) を加えた後、加熱還流下30分間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 1 : 1 ~ 1 : 5) により精製することで目的とする化合物(化合物17)を得た。
【0061】
以下に、上記方法で合成した各化合物の特性を示す。
【0062】
化合物1:N-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.37-1.51 (4H, m), 2.00-2.06 (4H, m), 3.58-3.61 (1H, m), 3.83-3.90 (1H, m), 7.02 (1H, s), 7.38-7.47 (3H, m), 7.69-7.79 (2H, m).[1]
【0063】
化合物2:3-(4-フルオロフェニル)-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 237-239 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.37-1.51 (4H, m), 1.99-2.02 (4H, m), 3.56-3.58 (1H, m), 3.85-3.87 (1H, m), 7.00 (1H, s), 7.19 (2H, dr), 7.74 (2H, dr); 13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ: 30.29, 34.21, 47.23, 54.95, 68.18, 68.30, 102.42, 115.77, 115.87 (d, J = 21.9 Hz), 127.28, 140.35, 160.60, 161.92 (d, J = 243.2 Hz); IR (KBr): 3300, 3113, 2930, 1638, 1547, 1508, 1454, 1234, 839 cm-1; MS (EI): m/z 303 (M+); HRMS: Calcd for C16H18FN3O2 303.1383, Found 303.1388.
【0064】
化合物3:3-ベンジル-N-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 94-96 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.29-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.49-3.61 (1H, m), 3.74-3.87 (1H, m), 4.02 (2H, s), 6.47 (1H, s), 7.20-7.32 (5H, m); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.44, 32.57, 34.84, 70.35, 105.47, 127.64, 129.56, 129.66, 139.67, 145.39, 148.11, 164.23; IR (KBr): 3315, 2855, 1647, 1943, 1456, 1238 cm-1; MS (EI): m/z 299 (M+); HRMS: Calcd for C17H21N3O2 299.1634, Found 299.1629.
【0065】
化合物4:3-(4-フルオロベンジル)-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 95-96 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.34-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.47-3.64 (1H, m), 3.73-3.87 (1H, m), 4.01 (2H, s), 6.47 (1H, s), 7.00-7.04 (2H, m), 7.22-7.25 (2H, m); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.48, 31.64, 34.90, 70.42, 105.40, 116.29 (d, J = 21.9 Hz), 131.34 (d, J = 8.9 Hz), 135.60, 145.49, 148.15, 163.15 (d, J = 242.1 Hz), 164,36; IR (KBr): 3300, 3215, 2932, 1636, 1541, 1508, 1456, 1223 cm-1; MS (EI): m/z 317 (M+); HRMS: Calcd for C17H20FN3O2 317.1540, Found 317.1541.
【0066】
化合物5:3-(4-シクロベンジル)-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 88-89 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.34-1.45 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.49-3.61 (1H, m), 3.73-3.87 (1H, m), 4.01 (2H, s), 6.48 (1H, s), 7.21 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.30 (2H, d, J = 8.4 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 29.56, 31.49, 31.74, 32.14, 34.92, 70.43, 105.50, 129.76, 131.23, 133.57, 138.47, 145.04, 148.26, 164.24; IR (KBr): 3317, 3300, 3263, 2930, 2864, 1638, 1545, 1491, 1456, 1088 cm-1; MS (EI): m/z 333 (M+); HRMS: Calcd for C17H20ClN3O2 333.1244, Found 333.1235.
【0067】
化合物6:3-(2-シクロベンジル)-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 96-97 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.32-1.43 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.50-3.61 (1H, m), 3.74-3.84 (1H, m), 4.15 (2H, s), 6.42 (1H, s), 7.21-7.31 (3H, m), 7.39-7.42 (1H, m); 13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ: 28.94, 29.65, 30.33, 34.27, 47.04, 68.32, 104.32, 127.57, 128.71, 129.41, 130.86, 132.96, 136.14, 141.78, 147.22, 161.00; IR (KBr): 3375, 3315, 3138, 2934, 2860, 1638, 1541, 1454 cm-1; MS (EI): m/z 333 (M+); HRMS: Calcd for C17H20ClN3O2 333.1244, Found 333.1241.
【0068】
化合物7:3-(3-シクロベンジル)-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 83-85 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.29-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.55-3.56 (1H, m), 3.71-3.88 (1H, m), 4.02 (2H, s), 6.51 (1H, s), 7.15-7.30 (4H, m); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 29.56, 31.47, 32.58, 34.91, 49.13, 70.42, 105.52, 127.80, 128.05, 129.64, 131.20, 135.44, 142.26, 146.59, 163.43; IR (KBr): 3377, 3254, 3078, 2932, 2855, 1638, 1545, 1456, 1431, 1078 cm-1; MS (EI): m/z 333 (M+); HRMS: Calcd for C17H20ClN3O2 333.1244, Found 333.1249.
【0069】
化合物8:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-(トリフルオロメチル)ベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 94-96 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.34-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.47-3.64 (1H, m), 3.73-3.87 (1H, m), 4.12 (2H, s), 6.51 (1H, s), 7.42 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.61 (2H, d, J = 8.0 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.48, 32.18, 34.91, 70.42, 105.67, 125.76 (q, J = 270.0 Hz), 126.57, 130.28, 144.25, 144.51, 148.35, 164.16; IR (KBr): 3308, 3263, 2937, 1638, 1541, 1456, 1327, 1124, 1067 cm-1; MS (EI): m/z 367 (M+); HRMS: Calcd for C18H20F3N3O2 367.1508, Found 367.1507.
【0070】
化合物9:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(3-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 65-67 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.29-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.55-3.58 (1H, m), 3.76-3.80 (4H, m), 3.99 (2H, s), 6.48 (1H, s), 6.79-6.81 (3H, m), 7.20 (2H, t, J = 8.0 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.47, 32.47, 34.89, 55.61, 70.40, 105.46, 113.07, 115.31, 121.86, 130.69, 141.69, 145.51, 148.16, 161.41, 164.28; IR (KBr): 3373, 3360, 3283, 2999, 2901, 2858, 1612, 1508, 1491, 1456, 1508 cm-1; MS (EI): m/z 329 (M+); HRMS: Calcd for C18H23N3O3 329.1739, Found 329.1743.
【0071】
化合物10:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 75-77 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.33-1.41 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 3.50-3.61 (1H, m), 3.76-3.82 (4H, m), 3.95 (2H, s), 6.45 (1H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.14 (2H, d, J= 8.6 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.49, 31.63, 34.90, 55.70, 70.42, 105.30, 115.09, 130.59, 131.55, 146.10, 148.10, 159.98, 164.32; IR (KBr): 3261, 2930, 1647, 1541, 1508, 1456, 1246 cm-1; MS (EI): m/z 329 (M+); HRMS: Calcd for C18H23N3O3 329.1739, Found 329.1746.
【0072】
化合物11:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(2-メトキシベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 71-72 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.24-1.49 (4H, m), 1.98-2.08 (4H, m), 3.59-3.66 (1H, m), 3.86-3.94 (4H, m), 3.97 (2H, s), 6.61 (1H, s), 6.90-6.93 (2H, m), 7.15 (1H, dd, J = 8.0, 2.4 Hz), 7.23-7.28 (1H, m); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 26.90, 29.24, 30.74, 31.74, 33.87, 47.26, 55.47, 69.65, 104.67, 110.66, 120.91, 126.21, 128.39, 130.13, 144.74, 146.62, 156.87, 161.58; IR (KBr): 3412, 3337, 3227, 1641, 1551, 1495, 1456, 1246 cm-1; MS (EI): m/z 329 (M+); HRMS: Calcd for C18H23N3O3 329.1739, Found 329.1738.
【0073】
化合物12:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-(4-メチルベンジル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 86-87 ℃;1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.34-1.46 (4H, m), 1.96-1.98 (4H, m), 2.29 (3H, s), 3.47-3.63 (1H, m), 3.72-3.86 (1H, m), 3.96 (2H, s), 6.45 (1H, s), 7.08-7.14 (4H, m); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 21.08, 29.57, 31.48, 32.13, 34.89, 70.37, 105.37, 129.48, 130.28, 136.53, 137.35, 145.94, 148.15, 164.30; IR (KBr): 3327, 3234, 3177, 2925, 2864, 1645, 1543, 1516, 1456, 1082 cm-1; MS (EI): m/z 313 (M+); HRMS: Calcd for C18H23N3O2 313.1790, Found 313.1790.
【0074】
化合物13: N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-3-フェネチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 91-93 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.34-1.47 (4H, m), 1.97-1.99 (4H, m), 2.89-3.02 (4H, m), 3.55-3.57 (1H, m), 3.75-3.88 (1H, m), 6.48 (1H, m), 7.14-7.18 (3H, m), 7.25 (2H, t, J = 3.6 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 28.36, 31.51, 34.88, 36.49, 49.16, 70.39, 104.85, 127.23, 129.42, 129.45, 142.02, 146.06, 148.01, 164.45; IR (KBr): 3368, 3179, 2930, 2864, 1649, 1543, 1456, 1086, 700 cm-1; MS (EI): m/z 313 (M+); HRMS: Calcd for C18H23N3O2 313.1790, Found 313.1781.
【0075】
化合物14:3-ベンジル-N-(4-オキソシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 131-132 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.73-1.84 (2H, m), 2.27-2.31 (2H, m), 2.40-2.53 (4H, m), 4.04 (2H, s), 4.35-4.44 (1H, m), 6.62 (1H, s), 6.80 (1H, d, J = 6.8 Hz), 7.22 (2H, d, J = 6.8 Hz), 7.26 (1H, tt, J = 6.8, 1.6 Hz), 7.32 (2H, tt, J = 6.8, 1.6 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 29.25, 31.76, 32.20, 39.09, 46.03, 105.04, 126.96, 128.58, 128.81, 137.44, 144.92, 146.26, 161.70, 210.11; IR (KBr): 3300, 3192, 1715, 1638, 1545, 1456 cm-1; MS (EI): m/z 297 (M+); HRMS: Calcd for C17H19N3O2 297.1477, Found 297.1486.
【0076】
化合物17:3-(4-ヒドロキシフェニル)-N-メチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 177-179 ℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ: 2.74 (3H, d, J = 4.0 Hz), 6.82 (2H, d, J = 8.4 Hz), 6.89 (1H, s), 7.58 (2H, d, J = 8.4 Hz), 8.18 (1H, d, J = 3.6 Hz); 13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ: 25.71, 101.23, 115.82, 120.97, 126.87, 145.29, 145.73, 157.85, 161.54; IR (KBr): 3219, 3107, 3042, 1655, 1614, 1508 cm-1; MS (EI): m/z 217 (M+); HRMS: Calcd for C11H11N3O2 217.0851, Found 217.0841.
【0077】
化合物18:3-ベンジル-N-メチル-1N-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 168-170 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 2.95 (3H, d, J = 4.8 Hz), 4.03 (2H, s), 6.58 (1H, s), 6.80 (1H, s), 7.19-7.34 (5H, m); 13C-NMR (100 MHz, DMSO-d6) δ: 25.56, 31.00, 103.95, 126.48, 128.49, 128.56, 138.80, 143.42, 147.18, 162.46; IR (KBr): 3084, 1638, 1570 cm-1; MS (EI): m/z 215 (M+); HRMS: Calcd for C12H13N3O 215.1059, Found 215.1055.
【0078】
化合物19: 3-ベンジル-N,N-ジメチル-1N,N-ジメチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 149-151 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 3.10 (3H, s), 3.27 (3H, s), 4.03 (2H, s), 6.35 (1H, s), 7.21-7.24 (3H, m), 7.31 (2H, t, J = 7.4 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 33.43, 36.28, 38.79, 106.46, 126.51, 128.59, 128.71, 138.69, 141.21, 148.27, 162.54; IR (KBr): 3128, 2968, 2860, 1599, 1495, 1398, 719 cm-1; MS (EI): m/z 229 (M+); HRMS: Calcd for C13H15N3O 229.1215, Found 229.1219.
【0079】
化合物20:3-ベンジル-N-メトキシ-N-メチル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 3.36 (3H, s), 3.73 (3H, s), 4.07 (2H, s), 6,57 (1H, s), 7.20-7.32 (5H, m); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 32.93, 34.27, 61.46, 107.88, 126.30, 128.47, 128.70, 135.97, 139.33, 152.05, 159.72; IR (neat): 3213, 3155, 1626, 1558, 1495, 1456, 1435 cm-1; MS (EI): m/z 245 (M+); HRMS: Calcd for C13H15N3O2 245.1164, Found 245.1161.
【0080】
化合物21: (3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(ピペリジン-1-イル)メタノン
mp: 151-153 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.61-1.70 (6H, m), 3.59-3.83 (4H, m), 4.03 (2H, s), 6.31 (1H, s), 7.22-7.26 (4H, m), 7.29-7.33 (2H, m); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 24.60, 25,63, 26.59, 33.32, 43.65, 48.02, 105.93, 126.63, 128.67, 128.76, 138.47, 142.18, 147.64, 161.49; IR (KBr): 3146, 2924, 1593, 1506, 1421, 1250, 725 cm-1; MS (EI): m/z 269 (M+); HRMS: Calcd for C16H19N3O 269.1528, Found 269.1537.
【0081】
化合物22:アゼパン-1-イル(3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)メタノン
mp: 145-147 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.58-1.59 (4H, m), 1.77-1.80 (4H, m), 3.65 (2H, t, J= 6.0 Hz), 3.72 (2H, t, J = 6.0 Hz), 4.05 (2H, s), 6.31 (1H, s), 7.22-7.26 (3H, m), 7.31 (2H, t, J = 7.2 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 26.88, 27.27, 27.52, 29.42, 33.57, 46.72, 48.68, 106.00, 126.48, 128.58, 128.71, 138.77, 141.09, 148.80, 162.13; IR (KBr): 3171, 3128, 3086, 2978, 2924, 2853, 1576, 1510, 1454, 1421, 719 cm-1; MS (EI): m/z 283 (M+); HRMS: Calcd for C17H21N3O 283.1685, Found 283.1675.
【0082】
化合物23:(3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(モルフォリノ)メタノン
mp: 122-124 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 3.72-3.91 (8H, m), 4.05 (2H, s), 6.41 (1H, s), 7.22-7.35 (5H, m); 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ: 32.61, 42.81, 47.47, 66.90, 106.70, 126.78, 128.766, 128.73, 137.89, 143.80, 145.76, 162.22; IR (KBr): 3119, 2966, 2853, 1585, 1499, 1238, 1109 cm-1; MS (EI): m/z 271 (M+); HRMS: Calcd for C15H17N3O2 271.1321, Found 271.1322.
【0083】
化合物24:(3-ベンジル-1H-ピラゾール-5-イル)(4-ヒドロキシピペリジン-1-イル)メタノン
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.44-1.59 (2H, m), 1.81-1.97 (2H, m), 3.30-3.48 (2H, m), 3.85-3.91 (1H, m), 4.03 (2H, s), 4.09-4.31 (2H, m), 6.32 (1H, s), 7.20-7.32 (5H, m); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 32.40, 34.83, 35.67, 41.15, 45.79, 67.81, 106.66, 127.71, 129.60, 129.71, 139.64, 145.00, 148.08, 165.72; IR (neat): 3676, 3387, 3327, 3294, 3179, 2955, 1611, 1597, 1506, 1495 cm-1; MS (EI): m/z 285 (M+); HRMS: Calcd for C16H19N3O2 285.1477, Found 285.1468.
【0084】
【0085】
Ar雰囲気下、アセトフェノン4 (300 mg, 2.50 mmol) の1,4-ジオキサンおよび水 (15 mL, 3:1) の混合溶液に対して、室温にて二酸化セレン (420 mg, 3.78 mmol) を加えた後、加熱還流下18時間撹拌した。放冷後、反応液を濾過し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた残渣に水 (5 mL) を加え、さらに加熱還流下5時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 1 : 1) により精製することでgem-ジオール5 (85 mg, 22%, 0.55 mmol) を得た。
Ar雰囲気下、gem-ジオール5 (78 mg, 0.51 mmol) のジメチルスルホキシド (2.5 mL) 溶液に対して、p-トルエンスルホニルヒドラジド (114 mg, 0.61 mmol)、アクリル酸エチル (0.08 mL, 0.77 mmol)、炭酸セシウム (500 mg, 1.54 mmol) を順次加えた後、100 ℃で5時間撹拌した。反応終了後、水 (3 mL) を加え、さらに酢酸エチル (5 mL) で希釈した。有機層を分離後、水層を酢酸エチル (1.5 mL × 3) を用いて抽出し、先の有機層と合わせた。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 5 : 1) により精製することでピラゾールエステル6 (27 mg, 22%, 0.11 mmol) を得た。
【0086】
Ar雰囲気下、ピラゾールエステル6 (27 mg, 0.12 mmol) のエタノール (3 mL) 溶液に対して、室温にて10% NaOH水溶液 (1.5 mL) を加えた後、加熱還流下2時間撹拌した。反応終了後、エタノールを留去し、10% HCl水溶液 (3 mL) を加え、その水層を酢酸エチル (1.5 mL × 3) を用いて抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたカルボン酸は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたカルボン酸のジクロロメタン (3 mL) 溶液に対して、室温にて対応するtrans-4-アミノシクロヘキサノール (22 mg, 0.19 mmol)、トリエチルアミン (0.03 mL, 0.75 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (25 mg, 0.75 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩 (36 mg, 0.75 mmol) を順次加えた後、室温にて20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : アセトン = 1 : 3) により精製することで目的とする化合物15(17 mg, 44% in 2 steps, 0.06 mmol) を得た。
【0087】
化合物15:3-ベンゾイル-N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド
mp: 83-84 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 1.31-1.53 (4H, m), 2.03-2.14 (4H, m), 3.64-3.71 (1H, m), 3.93-4.02 (1H, m), 6.76 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.36 (1H, s), 7.54 (2H, t, J = 7.6 Hz), 7.66 (1H, t, J = 7.6 Hz), 8.01 (2H, d, J = 7.6 Hz); 13C-NMR (100 MHz, acetone-d6) δ: 31.34, 48.75, 49.75, 55.47, 69.78, 109.57, 128.98, 129.32, 130.57, 131.25, 133.96, 137.96, 159.74, 186.18; IR (KBr): 3433, 3344, 2856, 1647, 1545, 1319 cm-1; MS (EI): m/z 313 (M+); HRMS: Calcd for C17H19N3O3 313.1426, Found 313.1423.
【0088】
【0089】
Ar雰囲気下、2-ブロモ-1-フェニルエタノン7 (1 g, 5.02 mmol) のクロロホルム (15 mL) 溶液に対して、室温にてヘキサメチレンテトラミン (845 mg, 6.03 mmol) を加えた後、60 ℃で6時間撹拌した。放冷後、析出した固体をろ取し、得られた固体をエタノールおよび濃塩酸 (20 mL, 3:1) の混合溶液に溶かし、さらに加熱還流下16時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた塩酸塩は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られた塩酸塩の酢酸 (15 mL) 溶液に対して、室温にてチオオキサム酸エチル (669 mg, 5.02 mmol)、酢酸ナトリウム (989 mg, 12.06 mmol) を順次加えた後、加熱還流下19時間撹拌した。反応終了後、反応液を酢酸エチル (20 mL) で希釈し、さらに飽和重曹水 (20 mL) を加えた。有機層を分離後、水層を酢酸エチル (5 mL × 3) を用いて抽出し、先の有機層と合わせた。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 3 : 1) により精製することで目的とするイミダゾールエステル8 (608 mg, 56% in 3 steps, 2.81 mmol) を得た。
【0090】
Ar雰囲気下、イミダゾールエステル8 (220 mg, 1.02 mmol) のエタノール (5 mL) 溶液に対して、室温にて10% NaOH水溶液 (2.5 mL) を加えた後、加熱還流下2時間撹拌した。反応終了後、エタノールを留去し、10% HCl水溶液 (5 mL) を加え、その水層を酢酸エチル (1.5 mL × 3) を用いて抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたカルボン酸は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたカルボン酸のジクロロメタン (5 mL) 溶液に対して、室温にて対応するtrans-4-アミノシクロヘキサノール (175 mg, 1.52 mmol)、トリエチルアミン (0.21 mL, 1.52 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (206 mg, 1.52 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩 (292 mg, 1.52 mmol) を順次加えた後、室温にて20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : アセトン = 1 : 3) により精製することで目的とする化合物16 (171 mg, 59% in 2 steps, 0.60 mmol) を得た。
【0091】
化合物17:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-5-フェニル-1H-イミダゾール-2-カルボキサミド
mp: 178-180 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.37-1.53 (4H, m), 1.99-2.05 (4H, m), 3.57-3.63 (1H, m), 3.80-3.86 (1H, m), 7.27 (1H, t, J = 7.2 Hz), 7.39 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.57 (1H, s), 7.76 (1H, d, J = 7.2 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.43, 34.75, 49.30, 70.28, 111.49, 118.65, 126.20, 127.16, 128.24, 128.50, 129.82, 133.98, 142.52, 159.58; IR (KBr): 3311, 3281, 3204, 1653, 1634, 1549, 1456 cm-1; MS (EI): m/z 285 (M+); HRMS: Calcd for C17H20N2O2 285.1477, Found 285.1484.
【0092】
【0093】
比較化合物1の合成
Ar雰囲気下、エチル 4-ブロモ-1H-ピロール-2-カルボキシレート9 (93 mg, 0.43 mmol) のアセトニトリル (2 mL) 溶液に対して、室温にて二炭酸ジ-tert-ブチル (121 mg, 0.56 mmol)、N,N-ジメチルアミノピリジン (10 mg, 0.09 mmol) を順次加えた後、室温で23時間撹拌した。反応終了後、飽和重曹水 (3 mL) を加えた。有機層を分離後、水層をジクロロメタン (1.5 mL × 3) を用いて抽出し、先の有機層と合わせた。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : サクサンエチル = 10 : 1) により精製することで目的とするBoc保護体 (111 mg, 82%, 0.35 mmol) を得た。
Ar雰囲気下、Boc保護体 (63 mg, 0.20 mmol) のN,N-ジメチルホルムアミドおよび飽和炭酸ナトリウム水溶液 (2 mL, 3:1) の混合溶液に対して、室温にてフェニルボロン酸 (60 mg, 0.50 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (12 mg, 0.01 mmol) を順次加えた後、110 ℃で40時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 2 : 1) により精製することで目的とするピロールエステル10 (26 mg, 62%, 0.12 mmol) を得た。
【0094】
Ar雰囲気下、ピロールエステル10 (34 mg, 0.16 mmol) のエタノール (1 mL) 溶液に対して、室温にて10% NaOH水溶液 (0.5 mL) を加えた後、加熱還流下2時間撹拌した。反応終了後、エタノールを留去し、10% HCl水溶液 (1 mL) を加え、その水層を酢酸エチル (1 mL × 5) を用いて抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたカルボン酸は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたカルボン酸のジクロロメタン (3 mL) 溶液に対して、室温にて対応するtrans-4-アミノシクロヘキサノール (28 mg, 0.24 mmol)、トリエチルアミン (0.03 mL, 0.24 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (32 mg, 0.24 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩 (46 mg, 0.24 mmol) を順次加えた後、室温にて20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : アセトン = 1 : 3) により精製することで目的とする比較化合物1 (27 mg, 58% in 2 steps, 0.10 mmol) を得た。
【0095】
比較化合物1:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-4-フェニル-1H-ピロール-2-カルボキサミド
mp: 241-243 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.36-1.50 (4H, m), 1.97-2.01 (4H, m), 3.54-3.59 (1H, m), 3.81-3.82 (1H, m), 7.12-7.16 (2H, m), 7.25 (1H, d, J = 1.2 Hz), 7.30 (2H, t, J = 8.0 Hz), 7.53 (2H, dd, J = 8.0, 1.2 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.78, 35.11, 49.17, 70.60, 108.94, 119.59, 125.95, 126.71, 127.05, 127.95, 129.68, 136.79, 162.95; IR (KBr): 3439, 3302, 2936, 1622, 1570, 1541, 756 cm-1; MS (EI): m/z 284 (M+); HRMS: Calcd for C17H20N2O2 284.1525.
【0096】
比較化合物2の合成
Ar雰囲気下、エチル 5-ブロモ-1H-ピロール-2-カルボキシレート11 (95 mg, 0.44 mmol) のトルエンおよび飽和炭酸ナトリウム水溶液 (2 mL, 3:1) の混合溶液に対して、室温にてフェニルボロン酸 (80 mg, 0.65 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (25 mg, 0.02 mmol) を順次加えた後、100 ℃で20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : 酢酸エチル = 2 : 1) により精製することで目的とするピロールエステル12 (40 mg, 43%, 0.19 mmol) を得た。
Ar雰囲気下、ピロールエステル12 (37 mg, 0.17 mmol) のエタノール (1 mL) 溶液に対して、室温にて10% NaOH水溶液 (0.5 mL) を加えた後、加熱還流下2時間撹拌した。反応終了後、エタノールを留去し、10% HCl水溶液 (1 mL) を加え、その水層を酢酸エチル (1 mL × 5) を用いて抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られたカルボン酸は精製することなく次の反応に用いた。Ar雰囲気下、得られたカルボン酸のジクロロメタン (3 mL) 溶液に対して、室温にて対応するtrans-4-アミノシクロヘキサノール (31 mg, 0.27 mmol)、トリエチルアミン (0.04 mL, 0.27 mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール (37 mg, 0.27 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩 (52 mg, 0.27 mmol) を順次加えた後、室温にて20時間撹拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (n-ヘキサン : アセトン = 1 : 3) により精製することで目的とする比較化合物2 (32 mg, 62% in 2 steps, 0.11 mmol) を得た。
【0097】
比較化合物2:N-(trans-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-5-フェニル-1H-ピロール-2-カルボキサミド
mp: 232-234 ℃; 1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ: 1.35-1.49 (4H, m), 1.99-2.01 (4H, m), 3.55-2.57 (1H, m), 3.75-3.90 (1H, m), 6.52 (1H, d, J = 4.0 Hz), 6.87 (1H, d, J = 4.0 Hz), 7.24 (1H, t, J= 7.6 Hz), 7.38 (1H, t, J = 7.6. Hz), 7.66 (2H, dd, J = 7.6, 1.2 Hz); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ: 31.79, 35.09, 70.60, 108.06, 114.10, 125.65, 127.92, 128.09, 129.90, 133.44, 137.06, 162.95; IR (KBr): 3414, 3319, 3227, 1624, 1541, 1458, 1339, 1273, 756 cm-1; MS (EI): m/z 284 (M+); HRMS: Calcd for C17H20N2O2 284.1525, Found 284.1521.
【0098】
上記方法で合成した化合物の構造式を
図1-1、
図1-2及び
図1-3に示す。
【0099】
実験例
1.実験材料
(1)試薬
6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)(和光純薬)、CB-839(Selleck)、3-Phenyl-1H-1,2,4-triazol-5-amine(1)(Vitas M Chemical、Hong Kong)、化合物(2)(7127371、Otava Chemicals、Vilniaus、LITHUANIA)、化合物(3)(P2001S-209195、Pharmeks、Moscow、Russia)、N-(Pyridin-2-ylmethyl)-5-(thiophen-2-yl)-1H-pyrazole-3-carboxamide(4)( F5791-2259、Life Chemicals、 Ontario、 Canada)、5-(Furan-2-yl)-N-[(pyridin-3-yl)methyl]-1H-pyrazole-3-carboxamide(5)( Z317489074、Enamine、Kiev、Ukraine)、5-(Furan-2-yl)-N-(pyridin-2-ylmethyl)-1H-pyrazole-3-carboxamide (6)( Z317488928、Enamine、Kiev、Ukraine)、N-((3-(2-Oxo-1,2-dihydropyridin-3-yl)-1,2,4-oxadiazol-5-yl)methyl)-1H-pyrazole-5-carboxamide (7)(Life Chemicals)、2-hydroxy-4-oxo-N-(pyridin-2-ylmethyl)-4H-pyrido[1,2-a]pyrimidine-3-carboxamide (8)(ChemDiv)は、すべてDMSOに溶解して使用した。
【0100】
(2)実験動物
マウス(C57BL/ 6JJcl、オス、8週齢、三協ラボサービス株式会社)は標準固形餌(マウス・ラット・ハムスター用CLEA Rodent Diet CE-2、日本クレア株式会社)および水道水を自由飲水で与え、12時間明暗サイクル(8時から20時)の恒温恒湿(24℃, 30%)にコントロールされている実験動物室内で飼育した。なお、本実験は、国立大学法人富山大学動物実験取扱規則に基づき、動物実験委員会承認後、動物倫理に十分配慮し行った。
【0101】
2.マウスリコンビナントGLS1の作製
プライマーG1U1 (5’- cccatatgatgcggctgcgaggctcggcg-3’(配列番号1), NdeI site)とG1-204L1 (5’- ggggatccttatagcaacccgtcgagattcttg-3’ (配列番号2), BamHI site)、KOD-Neo DNAポリメラーゼ (TOYOBO)を用いて、マウス脳内cDNAライブラリーからマウスGLS1の2.0 kb のDNA断片を増幅した。増幅されたDNA断片をpLITMUS28(NEB)のEcoRVサイトをサブクローニングし、プラスミドpLITG1を得た。Genetic Analyzer (ABI)でDNAの塩基配列を確認した後、pLITG1のNdeI-BamHI DNA断片をpOPHLT発現ベクターのNdeIおよびBamHIサイトをクローニングし、pOPG1を得た。pOPG1をOrigami B(DE3)コンピテントセル(Novagen)に形質転換した。
glycerol stock(pO-Gls1-204 in Origami)5μl 、LB 5ml、アンピシリン5μl を混合し37℃で一晩振盪した。
【0102】
脱イオン水1L中に Bacto Peptone(Thermo)10g、DRIED YEAST EXTRACT(和光純薬)5g 、及び塩化ナトリウム5g を加え滅菌処理して調製したLB培地500 mlにアンピシリン 500μl、培養液 2ml を加え、37℃でOD 600 nm = 0.6 となるまで振盪した。100mM IPTG(イソプロピル‐β‐D(‐)‐チオガラクトピラノシド)(TaKaRa)を2.5ml 加え25℃で16時間以上振盪し、His-tag組み換えタンパク質の発現を誘導した。5000rpm、15min、4℃で遠心し上清を捨て、50 mM Tris-HCl 30ml (pH8.0)に懸濁させた。10000rpm、5min、25℃で遠心し上清を捨てた後、ペレットを-80℃で保存した。ペレットをHiTagFFカラム(Pharemacia)でNiカラム精製を行い、10% SDS-PAGEを行い、クイックCBBプラス(和光純薬)による染色で目的タンパク質が含まれるフラクションを決定した。透析チューブ(Spectra/Por、REPLIGEN)に、目的タンパク質を含むフラクションを入れ、透析バッファー(50 mM Tris-phosphate pH 8.0、1 mM DTT、10% グリセロール)中で4℃で一晩透析した。セントリチューブを用いてGLS1を含む溶液を1mg/ml 程度になるまで濃縮し、酵素活性を確認した後、実験に用いた。
【0103】
3.ヒトリコンビナントGLS1の作製
hGLS1のアミノ酸配列(73-669残基)をコードするDNAを、pOPTHプラスミド(Obita et al, 2007)のNdeIおよびBamHIサイトに挿入し、得られたプラスミドを用いて大腸菌(SoruBL21株)を形質転換した。培養液のOD600nmが0.5になった時点でIPTGを最終濃度0.5mMで添加し、hGLS1の発現を誘導した。37℃で一晩培養した後、4℃で遠心分離して細胞を回収し、20mM Tris-HCl(4℃でpH8.0)、500mM NaCl、10%グリセロール、5mM β-メルカプトエタノールを含む緩衝液に再懸濁した。氷上で超音波をかけて細胞を溶解した後、10,200×g、60分、4℃で遠心分離し、上清を得た。このHisタグ付きhGLS1タンパク質は,Ni-NTAカラムで精製した後,20 mM Tris(pH 8.0,4℃)と100 mM NaClを含む緩衝液で平衡化したSuperdex HiLoad16/60カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーで精製した。精製されたタンパク質は、hGLS1(73-669残基)とN末端のHisタグで構成されている。
【0104】
4.グルタミナーゼ1阻害活性の評価
(1)マウス腎臓ライセートを用いたグルタミン酸産生阻害作用の評価
マウスの腎臓約50mgをホモジネートバッファー(0.25 M Sucrose、5 mM Tris、1 mM EDTA・2Na、pH 7.4)とともにバイオマッシャーIII(株式会社ニッピ)でホモジナイズし、4℃、6000g、30秒遠心分離した後の上清を得た。その後、Quick Start プロテインアッセイ(5000201JA、BIO-RAD)を用いたBradford法により、iMark マイクロプレートリーダー(BIO-RAD、595nm)で吸光度を測定した。ホモジネートサンプル(5 mg/mL)、溶媒(DMSO)に溶解したGLS1阻害候補化合物(被験化合物)または溶媒のみ(コントロール用)、反応用バッファー(27.5 mM Tris、0.11 mM EDTA・2Na、110 mM KH2PO4、pH 8.6)を混合し、37℃で20分インキュベートした。L-グルタミン溶液(40mM)を添加し37℃で10分インキュベートした後、3N HCl 10μLを加え反応停止させた。Glu濃度は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO(ヤマサ醤油株式会社)を用いてマルチファンクションプレートリーダー(GENios、テカン)で560nmの吸光度を測定した。Glu濃度はキットの指示通りに、下式より算出した。
【0105】
L-グルタミン酸濃度(mg/L)
=(サンプル測定値‐Blank))/(STD測定値‐Blank) x 250
【0106】
(2)マウスおよびヒトリコンビナントGLS1を用いたGlu産生阻害作用の評価
反応液(Tris-acetate (50 mM, pH 8.6)、KPO4(150 mM, pH 8.0)、EDTA(0.2 mM, pH 8.0))10.5 μL、溶媒(DMSO)に溶解したGLS1阻害候補化合物(被験化合物)または溶媒のみ(コントロール用)2.5 μL、リコンビナントGls1 stock 32 μLを37℃で20 分インキュベートした。L-グルタミン溶液 (20 mM)を各反応液に添加し37 ℃ で1 時間インキュベートした。Glu濃度は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEOを用いて紫外・可視分光光度計(GeneQuant 1300、Biochrom)で555nmの吸光度を測定した。
【0107】
5.統計解析
測定データは、平均±標準誤差として表した。実験の統計解析にはJMP Pro version 15.2.0 (SAS Institute Inc, NC, USA)を用いて、Tukey-KramerのHSD検定を行った。p < 0.05をもって統計上、有意とした。
【0108】
実験例1:in silicoスクリーニングにより選定した化合物のGLS1阻害作用
グルタミナーゼと既知のGLS1阻害剤の複合体結晶構造から得られた3次元ファーマコホアを用いた1次スクリーニング、Lipinski’s“Rule of Five”によるフィルタリング、分子ドッキング計算を用いた2次スクリーニング、結合自由エネルギー計算によるフィルタリング、ドッキングポーズに基づいたフィルタリング、及び化学構造に基づいた分子類似性解析を行うことで、市販化合物データベースからGLS1阻害剤候補化合物として8つの化合物(
図2(A))を選抜した。
【0109】
これらの候補化合物について、マウス腎臓ライセートを用いた評価方法を用いてグルタミン酸(Glu)の産生率を求め、GLS1阻害活性を評価した。なお、ポジティブコントロール化合物として、下式に示す公知のGLS1阻害剤であるDON(6-Diazo-5-oxo-L-norleucine)、及びCB-839を用いた。
【0110】
【0111】
【0112】
DONとCB-839は溶媒(DMSO)に溶解し、終濃度1mMとした。8つの候補化合物はDMSOに溶解し、終濃度10mMとした。またコントロールとして化合物に代えて溶媒のみを添加した系についても同様にGlu産生率を測定した。
【0113】
結果を
図2(B)に示す。図に示すように、候補化合物3のGLS1阻害活性が最も強く、コントロールに比べてGlu産生量が53%減少した。候補化合物1~8の構造とそれらのGLS1阻害活性との相関から、候補化合物3の構造のうちピラゾール環及びアミド部位のカルボニル基がGLS1阻害活性に重要であることが推察された。
【0114】
実験例2:構造活性相関
実験例1において、候補化合物3が約50%のGLS1阻害活性を示したことから、候補化合物3をリード化合物として複数の化合物を合成した。そして、それらの化合物について、マウス腎臓ライセートを用いた評価方法を用いて、グルタミン酸(Glu)の産生率を求め、GLS1阻害活性を評価した。
【0115】
GLS1阻害活性を指標として、リード化合物(候補化合物3)との構造活性相関を下記の4つの点から検討した。
1)アミド部位の窒素の置換基の修飾
2)ベンゼン環の置換基の変換
3)ベンゼン環とピラゾール環の間のリンカーの炭素数の増減
4)ピラゾール環の他の複素環への変換。
【0116】
表1に、実験で使用した化合物の符号と、前述する化合物の番号との対応関係を示す。
【表1】
【0117】
(1)アミド部位の窒素の置換基の修飾
前述する製造例の記載に従って、既知の化合物(1)のカルボン酸とアミンとの縮合反応により、第2級または第3級のアミノ部位または環状アミンを有するアミド誘導体2a~2lを合成し(Scheme 1)、これらのGLS1阻害活性を評価した(
図3(A)及び(B))。
【0118】
【化20】
その結果、上記式中、RがNHPh基であるアミド誘導体2c以外は、GLS1阻害活性が認められた。但し、Rがピロリジニル基であるアミド誘導体2fのGLS1阻害活性は低かった。これらのアミド誘導体のなかでも、R基がトランス-4-ヒドロキシシクロヘキシルアミノ基であるアミド誘導体2jのGLS1阻害活性が最も強く、その10mM濃度でのGlu産生率は、コントロールに比べて99%も低かった(
図3(B))。
【0119】
(2)ベンゼン環の置換基の変換
次にアミド部分の構造を固定し、ベンゼン環の水素原子を他の原子または官能基(R)で置換し、GLS1阻害活性を評価した(
図3(A)及び(B))。具体的には、前記製造例で説明したように、市販のフェニルアセトン3a~3jを、2段階で反応させてエチルエステル4a~4jに変換した(Scheme 2)。次いで、エチルエステル4a~4jのエステル部分を加水分解し、得られたカルボン酸を縮合反応させて、誘導体5a~5jを得た。また、このうち、誘導体5jのメトキシメチル基を脱保護することで,ベンゼン環の4位にOH基を有する誘導体5kを得た。これらの誘導体5a~5i及び5kについて、GLS1阻害活性を評価した(
図3(B))。
【0120】
【0121】
図3(B)に示すように、いずれの誘導体もGLS1阻害活性が認められた。中でもベンゼン環の4位の水素原子がフッ素原子に置換された誘導体5iのGLS1阻害活性が最も強く、その10mM濃度でのGlu産生率は、コントロールに比べて90%低かった。ただ、当該誘導体5iのGLS1阻害活性は、前記アミド誘導体2jには及ばないことから、ベンゼン環に置換基を導入すると、GLS1阻害活性が低下する傾向がうかがわれた。
【0122】
(3)ベンゼン環とピラゾール環の間のリンカーの炭素数の増減
ベンゼン環とピラゾール環の間のリンカーの炭素数の増減の影響を調べるために、2つの誘導体8aと8bを合成した。具体的には、Scheme 3に示すように、まずフェニルメチルケトン6aとベンジルアセトン6bを用いて、前記Scheme 2と同様の方法で、それぞれベンゼン環とピラゾール環が直接結合したアミド誘導体8aと、両者環の間に2つのリンカー炭素(エチレン基)を有するアミド8bに変換した。
【0123】
【0124】
これらのアミド誘導体(8a及び8bについて、GLS1阻害活性を評価した(
図3(A)及び(B))。
図3(B)に示すように、アミド誘導体8a及び8bのいずれにもGLS1阻害活性が認められた。しかし、アミド誘導体8aのGLS1阻害活性と比較して、アミド誘導体8bのGLS1阻害活性は低かったことから、GLS1阻害活性はリンカーの炭素数(長さ)に依存しており、リンカーの炭素数(n数)が小さいほど、好ましくはn=0であるほうが、GLS1阻害活性が高い傾向が認められた。
【0125】
(4)ピラゾール環の他の複素環への置換
下記のScheme 4に示すように、2-ブロモアセトフェノンから調製した既知のエステル化合物8から,イミダゾール誘導体10を合成した。
【0126】
【0127】
また、下記のScheme 5に示すように、既知のエステル化合物10及び12から、同様にして、ピロール誘導体13及び14をそれぞれ合成した。
【0128】
【0129】
これらの誘導体13及び14について、GLS1阻害活性を評価した(
図3(B))。
図3(B)に示すように、イミダゾール誘導体10は、対応するピラゾール誘導体8aよりも少し劣るものの、比較的高いGLS1阻害活性を有していた。これに対して、これらに対応するピロール誘導体13及び14は、いずれもGLS1阻害活性が著しく低下することが認められた。このことから、GLS1阻害活性には、基本骨格を形成する複素環として2つの窒素原子を有する複素環(ピラゾール環、またはイミダゾール環)が重要であることが窺われた。
【0130】
以上の結果から、
図3(B)に示すように、上記で評価した化合物のうち、特にピラゾール誘導体2j、5i及び8aに格別高いGLS1阻害活性が認められた。
【0131】
実験例3:リコンビナントGLS1を用いたGLS1阻害活性の評価
実験例2で高いGLS1阻害活性が確認されたピラゾール誘導体5i及び8aについて、マウス及びヒトのリコンビナントGLS1を用いて、GLS1阻害活性を再評価した(
図4及び5)。
マウスリコンビナントGLS1を用いた評価において、ポジティブコントロールであるDONとCB-839は、IC
50がDONで約1mM、CB-839で10~100 nMの間であり、既報と一致した。
図4に示すように、ピラゾール誘導体5i及び8aはいずれも、マウス腎臓抽出液で阻害活性があった10mMでGlu産生を有意に抑制し、IC
50は1~10mMの間であることが確認された。また
図5に示すように、これらの化合物はいずれもヒトリコンビナントGLS1においても10mMでGlu産生を有意に抑制し、高いGLS1阻害活性を発揮することが確認された。
【0132】
実験例3:抗がん作用の評価
GLS1は様々ながんの進行と関連することが指摘されており、GLS1の阻害によりグルタミン代謝を阻害することで、がん細胞の成長・増殖が抑制されることが知られている。現在、GLS1阻害活性を有する種々の化合物について、腎細胞がん、大腸がん、非小細胞肺がん、メラノーマ、及び進行性骨髄異成形症候群のがん患者に対して臨床試験が行われており、種々のがん種への治療効果が期待されている。
【0133】
そこで、実験例2で確認したGLS1阻害活性を有する化合物を代表して、特に高いGLS1阻害活性を有するピラゾール誘導体5i及び8aを用いて、がん細胞の増殖抑制効果を評価した。なお、がん細胞として、ヒト乳腺がん由来細胞株(MCF7)、及び急性骨髄性白血病由来細胞株(MOLM13)を用いた。
【0134】
実験は、各細胞(3×103cell/ml)にピラゾール誘導体5i又は8aを種々濃度になるように添加して培養し、培養開始から7日目に細胞数を計測して、コントロール(ピラゾール誘導体に代えてDMSO添加)の細胞数(100%)に対する割合から細胞増殖抑制効果を評価した(n=3)。なお、MCF7については、培養初日、3日目及び6日目に培地交換を行った。
【0135】
ヒト乳腺がん由来細胞株(MCF7)及び急性骨髄性白血病由来細胞株(MOLM13)に対する結果を、それぞれ
図6及び7に示す。
図6に示すように、MCF7細胞に対して、ピラゾール誘導体5i及び8aは100μMで細胞増殖をそれぞれ40%及び67%抑制した(IC
50[μM]:5i=77.5、8a=93.1)。また、
図7に示すように、MOLM13細胞に対して、ピラゾール誘導体5i及び8aは100μMで細胞増殖をそれぞれ60%及び92.5%抑制した(IC
50[μM]:5i=58.6、8a=62.1)。
【0136】
これらの結果に示すように、実験例2で確認したGLS1阻害活性を有する化合物は、ピラゾール誘導体5i及び8aで代表されるように、GLS1阻害作用に基づいて、がん細胞の増殖を抑制する作用を発揮し、がんの予防や治療、がんの進行抑制、及びがんの再発防止など、抗がん療法に有効であることが確認された。
配列番号1は、マウスリコンビナントGLS1の作製に使用したプライマーG1U1(NdeI site)の塩基配列、配列番号2は、同作製に使用したプライマーG1-204L1(BamHI site)の塩基配列である。