(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117327
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230816BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230816BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230816BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230816BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230816BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230816BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230816BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20230816BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20230816BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M10/0569
H01M4/40
H01M4/134
H01M4/131
H01M4/36 C
H01G11/42
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019978
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA18
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA38
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA71
5E078DA03
5E078FA12
5E078FA13
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H029HJ18
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA08
5H050CB12
5H050EA12
5H050FA18
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子であって、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合も、容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【解決手段】本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質粒子を含有する正極、及び非水溶媒を含有する非水電解質を備え、上記正極活物質粒子が、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物と、表面の少なくとも一部に存在するアルミニウム化合物とを含み、上記非水溶媒が、フッ素化溶媒を主成分とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子を含有する正極、及び
非水溶媒を含有する非水電解質
を備え、
上記正極活物質粒子が、
遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物と、
表面の少なくとも一部に存在するアルミニウム化合物と
を含み、
上記非水溶媒が、フッ素化溶媒を主成分とする非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
金属リチウムを含有する負極をさらに備える請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.5V vs.Li/Li+以上である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子用の正極活物質として、コバルト酸リチウム等のα-NaFeO2型の結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が知られている。特許文献1には、正極活物質の主剤としてコバルト酸リチウムを含む正極と、金属リチウム以外の負極活物質を含む負極と、エーテル基を有する化合物を含む非水電解質とを備える非水電解質二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コバルト酸リチウム等、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子は、高電圧に至るまで充電することにより、正極電位が高電位に至るまで充電することになり、他のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられた非水電解質蓄電素子と比べて正極活物質の質量当たりのエネルギー密度が高くなる等の利点がある。しかし、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が用いられた非水電解質蓄電素子は、高電圧に至る充放電を繰り返した場合、すなわち正極電位が高電位(例えば、4.5V vs.Li/Li+以上)に至る充放電を繰り返した場合に放電容量が低下しやすいという不都合を有する。
【0006】
本発明の目的は、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子であって、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合も、容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質粒子を含有する正極、及び非水溶媒を含有する非水電解質を備え、上記正極活物質粒子が、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物と、表面の少なくとも一部に存在するアルミニウム化合物とを含み、上記非水溶媒が、フッ素化溶媒を主成分とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子であって、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合も、容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質粒子を含有する正極、及び非水溶媒を含有する非水電解質を備え、上記正極活物質粒子が、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物と、表面の少なくとも一部に存在するアルミニウム化合物とを含み、上記非水溶媒が、フッ素化溶媒を主成分とする。
【0012】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子であって、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合も、容量維持率が高い。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が用いられた従来の非水電解質蓄電素子において正極電位が高電位に至るまで充電した場合、このリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造変化が起こるため、リチウム遷移金属複合酸化物から非水電解質へコバルト元素が溶出しやすくなり、容量維持率の低下が顕著に生じると考えられる。これに対し、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子においては、リチウム遷移金属複合酸化物を含む粒子の表面の少なくとも一部にアルミニウム化合物が存在するため、換言すれば、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部がアルミニウム化合物で被覆されているため、リチウム遷移金属複合酸化物と非水電解質との接触面積が減少し、リチウム遷移金属複合酸化物から非水電解質へコバルト元素の溶出が生じ難い。さらに、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子においては、フッ素化溶媒を主成分とする非水溶媒が用いられており、このような非水溶媒は、コバルトイオンの溶解度が低いため、リチウム遷移金属複合酸化物から非水電解質へコバルト元素が溶出し難いと考えられる。このように、本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子においては、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合もリチウム遷移金属複合酸化物から非水電解質へコバルト元素の溶出が生じ難いため、容量維持率が高いと推測される。
【0013】
ここで、正極活物質粒子の「表面」とは、正極活物質粒子の最表面から1μmの深さまでの、厚さ1μmの表層の部分をいう。すなわち、正極活物質粒子の表層内にアルミニウム化合物が存在すればよい。正極活物質粒子における表層以外の部分にもアルミニウム化合物が存在していてもよい。
「非水溶媒が、フッ素化溶媒を主成分とする」とは、非水溶媒におけるフッ素化溶媒の含有割合が50体積%以上であることをいう。「フッ素化溶媒」とは、フッ素原子を有する非水溶媒である。主成分であるフッ素化溶媒は、1種の非水溶媒のみから構成されていてもよく、2種以上の非水溶媒から構成されていてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、金属リチウムを含有する負極をさらに備えることが好ましい。このような場合、当該非水電解質蓄電素子の正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を高くすることができる。これは、非水電解質蓄電素子が、例えば黒鉛等の他の負極活物質を含有する負極を備える場合、負極活物質の不可逆容量分のリチウムイオンが負極活物質に捕捉され、可逆的な放電容量が小さくなるのに対し、負極活物質として金属リチウムを含有する負極を備える場合、このような現象が生じないためであると推測される。
【0015】
なお、「非水電解質蓄電素子が金属リチウムを含有する負極を備える」とは、少なくとも充電状態の非水電解質蓄電素子において、負極が有する負極活物質層における金属リチウムの含有量が50質量%以上であることをいう。また、この負極は、少なくとも充電状態において金属リチウムが含有されていればよく、放電状態において金属リチウムが含有されていなくてもよい。例えば、充電時に金属リチウムが負極表面の少なくとも一部の領域に析出することで、充電状態において負極は金属リチウムを含有しており、放電時に負極表面の金属リチウムがリチウムイオンとして非水電解質中に実質的に全て溶出することで、放電状態において負極は金属リチウムを実質的に含有しないように構成された負極を備える非水電解質蓄電素子であってもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、4.5V vs.Li/Li+以上であることが好ましい。このような場合、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を高くすることができる。
【0017】
ここで、「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0019】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸した状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0020】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0021】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0022】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0023】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0024】
正極活物質層は、正極活物質粒子を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0025】
(正極活物質粒子)
正極活物質粒子は、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物と、表面の少なくとも一部に存在するアルミニウム化合物とを含む。正極活物質粒子は、通常、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面の少なくとも一部に、アルミニウム化合物を被覆した状態である。アルミニウム化合物は、正極活物質粒子の内部にも存在していてもよい。
【0026】
リチウム遷移金属複合酸化物は、通常、α-NaFeO2型の結晶構造を有する。リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合の下限は、50モル%であり、70モル%が好ましく、90モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素として実質的にコバルト元素のみを含有していてもよい。
【0027】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比(各元素の含有割合)は、充放電前の状態又は次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V vs.Li/Li+となるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜乾燥後、取り出した正極を空気雰囲気下で600℃において1時間焼成することによって任意成分であるバインダおよび導電剤を熱分解させて除去し、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。リチウム遷移金属複合酸化物の各元素の含有割合の測定は、リチウム遷移金属複合酸化物を溶解させた溶液をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法により測定する。非水電解質蓄電素子の解体から正極の乾燥までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、非水電解質蓄電素子の定格容量を1時間で放電する電流を1Cとする。
【0028】
リチウム遷移金属複合酸化物は、コバルト元素以外の他の遷移金属元素を含んでいてもよい。他の遷移金属元素としては、ニッケル元素、マンガン元素、鉄元素、ニオブ元素等が挙げられる。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム元素及び遷移金属元素以外の金属元素(アルミニウム元素、マグネシウム元素等)をさらに含んでいてもよく、酸素元素以外の非金属元素(フッ素元素、ホウ素元素等)をさらに含んでいてもよい。
【0029】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム元素以外の金属元素に対するリチウム元素のモル比は、例えば0.9以上1.1以下であってもよく、0.95以上1.05以下であってもよい。
【0030】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば下記式1で表されるものであってもよい。
LixCoyM1-yO2 ・・・1
式1中、xは、0.9以上1.1以下の数である。yは、0.5以上1以下の数である。Mは、Li及びCo以外の一種又は二種以上の金属元素である。xは、0.95以上1.05以下であることが好ましく、1であってもよい。yは、0.7以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、0.99以上がさらに好ましい。
【0031】
正極活物質粒子は、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物以外の他の正極活物質を含んでいてもよい。他の正極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。但し、正極活物質粒子に含まれる全正極活物質における、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物の含有量としては、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%がよりさらに好ましい。
【0032】
アルミニウム化合物は、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に存在する。アルミニウム化合物は、正極活物質粒子の表面全面に存在していてもよく、リチウム遷移金属複合酸化物の一部が露出するように、表面の一部にのみ存在していてもよい。例えば、アルミニウム化合物は、正極活物質粒子の表面に粒子状に点在している、すなわちアルミニウム化合物は、正極活物質粒子の表面に粒子状に分散して存在していてもよい。この場合、アルミニウム化合物の複数の粒子同士が凝集していてもよい。また、上述のように、アルミニウム化合物の一部は、正極活物質粒子の内部に存在していてもよい。なお、正極活物質粒子の表面におけるアルミニウム元素の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付属するエネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用いたSEM-EDX測定により確認できる。
【0033】
アルミニウム化合物が粒子として正極活物質粒子表面に存在している場合、このアルミニウム化合物の粒子の平均粒子径としては、例えば0.1nm以上1μm以下であってもよく、1nm以上100nm以下であってもよい。アルミニウム化合物の粒子の平均粒子径は、SEMで観測される任意の10個のアルミニウム化合物の粒子の径の平均値とする。また、各アルミニウム化合物の粒子の径は、円相当径とする。
【0034】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムの酸化物、硫化物、ハロゲン化物、珪酸化物、リン酸化物、硫酸化物、硝酸化物、合金等を挙げることができる。これらの中でも、アルミニウム化合物は、アルミニウムの酸化物であることが好ましい。アルミニウムの酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)の他、LiAlO2等、アルミニウム元素及び酸素元素以外の元素を含む複合酸化物等の化合物であってもよい。
【0035】
アルミニウム化合物を正極活物質粒子の表面に存在させる方法としては、アルミニウム化合物をリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体に添加して同時に焼成する方法、アルミニウム化合物とリチウム遷移金属複合酸化物とを混合して焼成する方法、アルミニウム化合物を含む液体にリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を浸漬した後に、アルミニウム化合物が付着したリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を乾燥させる方法、アルミニウム化合物を含む溶液にリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を浸漬した後に、アルミニウム化合物が付着したリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を加熱等により反応させる方法、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を加熱した状態で、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子にアルミニウム化合物を含む溶液またはガスを噴霧し反応させる方法等が挙げられる。
【0036】
正極活物質粒子におけるアルミニウム化合物の含有量としては、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。アルミニウム化合物の含有量を上記下限以上とすることで、コバルト元素の溶出抑制効果が高まり、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合の容量維持率をより高めることができる。一方、アルミニウム化合物の含有量を上記上限以下とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物が露出する割合が高まり、リチウムイオンの挿入脱離が阻害されないため、充放電性能が高まる傾向にある。また、アルミニウム化合物の含有量を上記上限以下とすることで、充放電反応に寄与しないアルミニウム化合物の含有量が相対的に少なくなるため、エネルギー密度等を高めることができる。
【0037】
正極活物質粒子におけるアルミニウム元素等の元素の含有量は、上記した方法で正極活物質粒子を溶解させた溶液に対するICP発光分光分析法により測定することができる。また、このアルミニウム元素等の元素の含有量等に基づき、正極活物質粒子に含まれるアルミニウム化合物の含有量を算出することができる。
【0038】
正極活物質粒子における、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物とアルミニウム化合物との合計含有量は、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%がよりさらに好ましい。このように、正極活物質粒子が、遷移金属元素に対するコバルト元素の含有割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物とアルミニウム化合物とから実質的に構成されている場合、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合の容量維持率をより高め、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を高めること等ができる。
【0039】
正極活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質粒子の平均粒径(D50)を上記下限以上とすることで、正極活物質粒子の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質粒子の平均粒径(D50)を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。「平均粒径(D50)」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0040】
正極活物質粒子等を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0041】
正極活物質層における正極活物質粒子の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上97質量%以下がさらに好ましい。正極活物質粒子の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0042】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0043】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、1.5質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0044】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0045】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質粒子を安定して保持することができる。
【0046】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0047】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0048】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質粒子、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の材料として含有してもよい。
【0049】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0050】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0051】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0052】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0053】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の材料として含有してもよい。
【0054】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属リチウム;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電された状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0056】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電された状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0057】
ここで、炭素材料における「放電された状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属リチウムを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0058】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0059】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0060】
負極活物質としては、金属リチウム、Si酸化物及び炭素材料が好ましく、金属リチウムがより好ましい。負極活物質としてSi酸化物及び金属リチウムを用いることで、非水電解質蓄電素子の正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を高くすることができる。一方、負極活物質として炭素材料、中でも黒鉛を用いることで、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合の容量維持率がより高まる。
【0061】
負極活物質が金属リチウムを含む場合、少なくとも充電状態の非水電解質蓄電素子において、負極が有する負極活物質層における金属リチウムの含有量は50質量%である。負極活物質層において、金属リチウムは、実質的にリチウム元素のみからなる純金属リチウムとして存在してもよいし、他の元素を含むリチウム合金として存在してもよい。リチウム合金としては、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム元素以外の複数の元素を含有していてもよい。負極活物質層におけるリチウム元素の含有量は、90質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0062】
負極活物質が金属リチウムを含む場合、負極活物質層は、純金属リチウム箔又はリチウム合金箔であってもよい。負極活物質層は、無孔質の層(中実の層)であってもよい。また、負極活物質層は、金属リチウムを含む粒子を有する多孔質の層であってもよい。金属リチウムを含む粒子を有する多孔質の層である負極活物質層は、例えば樹脂粒子、無機粒子等をさらに有していてもよい。
【0063】
金属リチウムを含む負極活物質層は、放電状態においても存在している層であること、すなわち充電状態から放電状態の全ての状態において存在する層であることが好ましい。放電状態における金属リチウムを含む負極活物質層の平均厚さとしては、5μm以上1,000μm以下が好ましく、10μm以上500μm以下がより好ましく、30μm以上300μm以下がさらに好ましい。なお、負極活物質層の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均とする。放電状態においても金属リチウムを含む負極活物質が存在し、好ましくはその平均厚さが上記下限以上である場合、十分な量の金属リチウムが存在するため、非水電解質蓄電素子の正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度がより高くなる。
【0064】
なお、充電時に金属リチウムが負極の少なくとも一部の表面領域に析出し、放電時に負極の金属リチウムがリチウムイオンとして非水電解質中に実質的に全て溶出するように構成された非水電解質蓄電素子の場合等、負極は、放電状態においては負極活物質層を実質的に有していなくてもよい。
【0065】
炭素材料等の負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径(D50)は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上10μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径(D50)を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径(D50)を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。
【0066】
負極活物質が金属リチウムを含む場合、負極活物質層は、実質的に金属リチウムのみからなる層であってもよい。負極活物質層における金属リチウムの含有量は、90質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。また、負極活物質が炭素材料等を含む場合、負極活物質層における炭素材料等の負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましい場合があり、90質量%以上98質量%以下がより好ましい場合がある。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0067】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0068】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0069】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0070】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0071】
(非水電解質)
非水電解質は、通常、非水電解液である。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0072】
非水溶媒は、フッ素化溶媒を主成分とする。フッ素化溶媒は、炭化水素基を有する非水溶媒における上記炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されたものであってもよい。フッ素化溶媒としては、フッ素化カーボネート(フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネート)、フッ素化カルボン酸エステル、フッ素化リン酸エステル、フッ素化エーテル等が挙げられる。
【0073】
フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート等のフッ素化エチレンカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、フッ素化ブチレンカーボネート等を挙げることができる。これらの中でも、フッ素化エチレンカーボネートが好ましく、FECがより好ましい。
【0074】
フッ素化鎖状カーボネートとしては、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0075】
フッ素化カルボン酸エステルとしては、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、酢酸-2,2,2-トリフルオロエチル等が挙げられる。
【0076】
フッ素化リン酸エステルとしては、リン酸トリス(2,2-ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。
【0077】
フッ素化エーテルとしては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチルヘプタフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル等が挙げられる。
【0078】
フッ素化溶媒は、フッ素化カーボネートを含むことが好ましく、フッ素化環状カーボネートを含むことがより好ましい。フッ素化溶媒は、フッ素化環状カーボネートと、フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化カルボン酸エステルの少なくとも一方とを含むことがさらに好ましく、フッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートとを含むことがよりさらに好ましい。フッ素化環状カーボネートと、フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化カルボン酸エステルの少なくとも一方との体積比率(フッ素化環状カーボネート:フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化カルボン酸エステルの少なくとも一方)としては、例えば、5:95から70:30の範囲とすることが好ましい。
【0079】
非水溶媒には、フッ素化溶媒以外の非水溶媒が含有されていてもよい。このような非水溶媒としては、フッ素化溶媒以外のカーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、エーテル等が挙げられる。
【0080】
全非水溶媒に対するフッ素化溶媒の含有割合の下限としては、70体積%が好ましく、90体積%がより好ましく、99体積%がさらに好ましい。全非水溶媒に対するフッ素化溶媒の含有割合は100体積%であることが特に好ましい。非水溶媒を実質的にフッ素化溶媒のみから構成することで、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合の容量維持率をより高めることなどができる。
【0081】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0082】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0083】
非水電解液(非水電解質)における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0084】
非水電解液(非水電解質)は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
非水電解液(非水電解質)に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上6質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上5質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0086】
非水電解質には、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃以上25℃以下)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0087】
(通常使用時の充電終止電圧における正極電位)
当該非水電解質蓄電素子において、通常使用時の充電終止電圧における正極電位(正極到達電位)は特に限定されないが、その下限は4.3V vs.Li/Li+が好ましく、4.4V vs.Li/Li+がより好ましく、4.5V vs.Li/Li+がさらに好ましく、4.55V vs.Li/Li+又は4.6V vs.Li/Li+がよりさらに好ましい場合がある。通常使用時の充電終止電圧における正極電位が上記下限以上であることで、非水電解質蓄電素子の正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を高くすることができる。また、当該非水電解質蓄電素子においては、このように通常使用時の充電終止電圧における正極電位が高くても、充放電サイクル後の容量維持率が高い。
【0088】
当該非水電解質蓄電素子において、通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限としては、5.0V vs.Li/Li+が好ましく、4.9V vs.Li/Li+がより好ましく、4.8V vs.Li/Li+がさらに好ましく、4.7V vs.Li/Li+がよりさらに好ましく、4.6V vs.Li/Li+がよりさらに好ましい。当該非水電解質蓄電素子における通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下の範囲内としてもよい。
【0089】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0090】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0091】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも1つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0092】
図2に、電気的に接続された2つ以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、2つ以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、2つ以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、1つ以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0093】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0094】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0095】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0096】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0097】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0098】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
[製造例1]表面の少なくとも一部にアルミニウム化合物が存在する正極活物質粒子Aの製造
正極活物質として、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLiCoO2(LCO)を用いた。このLiCoO2の粒子に原子層堆積法を用いてAl2O3層を被覆した。これにより、表面の少なくとも一部にアルミニウム化合物(Al2O3)が存在する正極活物質粒子Aを得た。正極活物質粒子Aにおけるアルミニウム化合物の含有量は、0.02質量%であった。なお、正極活物質粒子Aに含まれるアルミニウム元素の含有量を、上記したICP発光分光分析法により測定し、正極活物質粒子A中のアルミニウム元素は全てAl2O3を構成しているとして、アルミニウム化合物(Al2O3)の含有量を求めた。正極活物質粒子Aの平均粒径(D50)は、8μmであった。
【0100】
なお、表面の少なくとも一部にアルミニウム化合物を付着させていない、上記LiCoO2(LCO)の粒子を正極活物質粒子Bとした。
【0101】
また、α-NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(LR)の粒子を正極活物質粒子Cとして準備した。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=1:2のモル比で含んでいるものであった。
【0102】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質粒子Aとアセチレンブラック(AB)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを93:3:4の質量比(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを作製した。この正極合剤ペーストを正極基材としてのアルミニウム箔に分散媒を乾燥した後の正極活物質層の単位面積当たりの質量が2.5g/100cm2となるように塗布し、乾燥させ、プレスして、正極活物質層を有する正極を得た。
【0103】
(負極の作製)
負極基材としての平均厚さ8μmの銅箔に、負極活物質である純金属リチウム(金属Li)からなる平均厚さ100μmのリチウム箔を積層後プレスし、負極活物質層を有する負極を得た。
【0104】
(非水電解質の調製)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)とを30:70の体積比で混合した非水溶媒に、リチウム塩であるLiPF6を1.0mol/dm3の含有量で溶解させた溶液を得た。得られた溶液に、さらに添加剤として1,3-プロペンスルトンを2質量%の含有量で溶解させ、非水電解質を調製した。
【0105】
(セパレータの準備)
セパレータとして厚さ21μmのポリオレフィン製微多孔膜を準備した。
【0106】
(非水電解質蓄電素子の作製)
上記セパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。電極体を金属樹脂複合フィルム製の容器に収納し、内部に上記の非水電解質を注入した後、熱溶着により封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0107】
[実施例2から6、比較例1から4及び参考例1から7]
正極活物質粒子の種類、負極活物質の種類及び非水溶媒の組成を表1に記載のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から6、比較例1から4及び参考例1から7の各非水電解質蓄電素子を得た。
なお、表1中のFMPは、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルを表し、FEAは、酢酸-2,2,2-トリフルオロエチルを表す。
【0108】
また、負極活物質が黒鉛(Gr)である実施例4においては、以下の手順で作製した負極、及び参照極として金属リチウムを用いた。
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛(Gr)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを96.7:2.1:1.2の質量比(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを負極基材としての銅箔に分散媒を乾燥した後の負極活物質層の単位面積当たりの質量が1.3g/100cm2となるように塗布し、乾燥させ、プレスして、負極活物質層を有する負極を得た。
【0109】
(初期充放電)
得られた実施例1から6、比較例1から4及び参考例1から7の各非水電解質蓄電素子について、25℃の下、以下の要領にて初期充放電を行った。充電電流20mA/g、表1に記載の充電終止電圧として定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が10mA/gとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流20mA/g、放電終止電圧2.7V(実施例1から6、比較例1から4及び参考例1、2)又は2.0V(参考例3から7)として定電流放電を行った。なお、充電電流および放電電流は、正極活物質粒子の質量当たりの電流とした。この充放電を2サイクル実施し、2サイクル目の放電電気量に基づき、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度を求めた。エネルギー密度は、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量と、放電時の平均放電電位との積によって求めた。結果を表1に示す。
なお、表1には、各非水電解質蓄電素子の充電終止電圧における正極電位をあわせて示す。負極に金属リチウムを用いた各非水電解質蓄電素子においては、開回路状態での負極の電位は、リチウムの酸化還元電位とほぼ等しいため、非水電解質蓄電素子における電圧をリチウムの酸化還元電位に対する正極電位とみなした。また、負極に黒鉛を用いた実施例4の非水電解質蓄電素子においては、参照極を基準に正極電位を確認した。
【0110】
(充放電サイクル試験)
初期充放電後、実施例1から6、比較例1から4及び参考例1から7の各非水電解質蓄電素子について、25℃の下、以下の要領で充放電サイクル試験を行った。充電電流40mA/g、表1に記載の充電終止電圧として定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が10mA/gとなるまでとした。その後、放電電流20mA/g、放電終止電圧2.7V(実施例1から6、比較例1から4及び参考例1、2)又は2.0V(参考例3から7)として定電流放電を行った。充電後及び放電後は、それぞれ10分間の休止時間を設けた。この充放電を100サイクル実施した。
1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の百分率を容量維持率(%)として求めた。結果を表1に示す。
【0111】
【0112】
表1に示されるように、正極活物質粒子の表面にアルミニウム化合物が存在しない、又は非水溶媒がフッ素化溶媒を主成分としない比較例1から4の各非水電解質蓄電素子においては、正極電位が4.5V vs.Li/Li+以上に至る充放電サイクル試験後の容量維持率が80%以下となった。これに対し、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部にアルミニウム化合物が存在し、且つ非水溶媒がフッ素化溶媒を主成分とする実施例1から6の各非水電解質蓄電素子においては、正極電位が4.5V vs.Li/Li+以上に至る充放電サイクル試験後の容量維持率が80%を超える結果となった。
【0113】
実施例1から6の中でも、負極活物質が金属リチウムである実施例1から3、5、6の各非水電解質蓄電素子は、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度が高くなった。負極活物質が黒鉛である実施例4の非水電解質蓄電素子は、容量維持率が特に高くなった。また、非水溶媒の組成のみが異なる実施例2、5、6の対比から、非水溶媒がフッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートを含む場合、容量維持率がより高まり、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度がより高くなる傾向にあることがわかる。
【0114】
また、正極電位が高電位に至る充放電サイクル試験を行わなかった参考例1、2、及び正極活物質が、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物ではない参考例3から7の各非水電解質蓄電素子においては、充放電サイクル試験後の容量維持率が高く、容量維持率を改善するという課題が存在しなかった。すなわち、充放電サイクル試験後の容量維持率を改善するという課題は、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物が正極に用いられた非水電解質蓄電素子を、正極電位が高電位に至る充放電を繰り返した場合に特有の課題であることがわかる。なお、例えば充電終止電圧における正極電位のみが異なる参考例2と実施例1との対比などから、充電終止電圧における正極電位を高くすることで、正極活物質粒子の質量当たりの放電容量及びエネルギー密度が高くなることがわかる。また、正極活物質粒子のみが異なる参考例3と実施例1との対比などから、コバルト元素の含有割合が高いリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いることで、正極活物質粒子の質量当たりのエネルギー密度が高くなることがわかる。