(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117330
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】調光装置、スクリーンシステム、調光窓、および、調光シート
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20230816BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20230816BHJP
G03B 21/60 20140101ALI20230816BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
G03B21/60
E06B9/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019987
(22)【出願日】2022-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
【テーマコード(参考)】
2H021
2H088
2H189
【Fターム(参考)】
2H021BA01
2H088EA34
2H088FA29
2H088GA02
2H088GA10
2H088GA17
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA18
2H088JA05
2H088KA05
2H088KA13
2H088KA26
2H088KA29
2H189AA04
2H189AA30
2H189BA04
2H189FA81
2H189JA05
2H189KA09
2H189KA20
2H189LA03
2H189LA05
2H189LA17
(57)【要約】
【課題】透過状態と散乱状態との切り換えとは異なる光学特性の切り換えができる調光シート、調光装置、スクリーンシステム、および、調光窓を提供する。
【解決手段】調光装置100は、調光シート11,12を備えるシートユニット10、および、シートユニット10への電圧の印加を制御する制御部60を備える。制御部60が実行する処理には、透明電極層31,32間を第1電圧に制御することによって、調光シート11,12を可視光を反射する第1状態とすることと、透明電極層31,32間を第2電圧に制御することによって、調光シート11,12を可視光を散乱させる第2状態とすることと、透明電極層31,32間を第3電圧に制御することによって、調光シート11,12を可視光を透過させる第3状態とすることと、が含まれる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光シート、および、前記調光シートへの電圧の印加を制御する制御部を備える調光装置であって、
前記調光シートは、
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層であって、複数の空隙を区切る透明高分子層と、正の誘電率異方性を有するカイラルネマティック液晶であり前記空隙に保持された液晶組成物とを含む前記調光層と、を備え、
前記制御部が実行する処理には、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を第1電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を反射する第1状態とすることと、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きい第3電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を透過させる第3状態とすることと、が含まれる
調光装置。
【請求項2】
前記制御部が実行する処理には、さらに、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きくかつ前記第3電圧よりも小さい第2電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を散乱させる第2状態とすることが含まれる
請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記調光シートにおける前記液晶組成物の螺旋ピッチP(μm)、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たす
0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
請求項1または2に記載の調光装置。
【請求項4】
前記調光シートの前記第1状態において、前記液晶組成物が含む液晶分子が水平配向している領域の前記調光層での割合が、50%以上である
請求項1~3のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項5】
前記調光シートの前記調光層における前記透明高分子層の割合は、50%未満である
請求項1~4のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項6】
前記調光シートにおける前記透明高分子層を構成する高分子材料の屈折率npと、前記液晶組成物の常光屈折率noとが、下記式(2)を満たす
0.98≦np/no≦1.02 ・・・(2)
請求項1~5のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項7】
前記調光シートは、
前記第1透明電極層と前記調光層との間に挟まれた第1配向層と、
前記第2透明電極層と前記調光層との間に挟まれた第2配向層と、を備え、
前記第1配向層と前記第2配向層との各々は、水平配向膜である
請求項1~6のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項8】
前記調光装置は、第1の前記調光シートおよび第2の前記調光シートである2つの前記調光シートを備え、
前記第1の調光シートが含む前記液晶組成物の旋光性と、前記第2の調光シートが含む前記液晶組成物の旋光性とは、互いに異なり、
前記第1の調光シートと前記第2の調光シートとは、厚さ方向に重なりを有するように配置され、
前記制御部が実行する処理には、
前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を前記第1状態とすることが含まれる
請求項1~7のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項9】
前記制御部が実行する処理には、さらに、
前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きくかつ前記第3電圧よりも小さい第2電圧に制御することによって、可視光を散乱させる第2状態とすること、および、前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を前記第3状態とすることの少なくとも一方が含まれる
請求項8に記載の調光装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光装置を含むスクリーンシステムであって、
前記調光シートを備えるスクリーンを有し、
前記第1状態の調光シートに画像が投影される
スクリーンシステム。
【請求項11】
請求項8または9に記載の調光装置を含むスクリーンシステムであって、
前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートを備えるスクリーンと、
前記第1の調光シートに向けて光を照射する第1の投影装置と、
前記スクリーンに対して前記第1の投影装置とは反対側から、前記第2の調光シートに向けて光を照射する第2の投影装置と、を備える
スクリーンシステム。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の調光装置を含み、
前記調光シートが取り付けられた窓を備える
調光窓。
【請求項13】
第1透明電極層と、
第2透明電極層と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層であって、複数の空隙を区切る透明高分子層と、正の誘電率異方性を有するカイラルネマティック液晶であり前記空隙に保持された液晶組成物とを含む前記調光層と、を備える調光シートであって、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が第1電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がプレーナー状態を示す第1状態であって、前記調光シートが可視光を反射する前記第1状態と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が前記第1電圧よりも大きい第2電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がフォーカルコニック状態を示す第2状態であって、前記調光シートが可視光を散乱させる前記第2状態と、
前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が前記第2電圧よりも大きい第3電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がホメオトロピック状態を示す第3状態であって、前記調光シートが可視光を透過させる前記第3状態と、を含み、
前記液晶組成物の螺旋ピッチP(μm)、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たす
0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光装置、スクリーンシステム、調光窓、および、調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備えており、一対の透明電極層間に駆動電圧が印加される。駆動電圧の印加の有無に応じて液晶分子の配向状態が変わることから、調光層を光が透過する透過状態と、調光層で光が散乱する散乱状態とを切り替えることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記調光シートは、窓ガラスやパーティション等として機能する透明板に取り付けられる。透過状態と散乱状態とが切り換えられることにより、透明板の背後の視認性が高い状態と、透明板の背後の視認性が低い状態との切り替えが可能である。一方で、調光シートにおいて、透過状態と散乱状態との切り換えとは異なる光学特性の切り換えが可能であれば、視認性の高低の切り換えとは異なる機能を有する調光シートが実現できるため、調光シートの新たな用途の開拓が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための調光装置は、調光シート、および、前記調光シートへの電圧の印加を制御する制御部を備える調光装置であって、前記調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層であって、複数の空隙を区切る透明高分子層と、正の誘電率異方性を有するカイラルネマティック液晶であり前記空隙に保持された液晶組成物とを含む前記調光層と、を備え、前記制御部が実行する処理には、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を第1電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を反射する第1状態とすることと、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きい第3電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を透過させる第3状態とすることと、が含まれる。
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、第1透明電極層と、第2透明電極層と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間に位置する調光層であって、複数の空隙を区切る透明高分子層と、正の誘電率異方性を有するカイラルネマティック液晶であり前記空隙に保持された液晶組成物とを含む前記調光層と、を備える調光シートであって、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が第1電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がプレーナー状態を示す第1状態であって、前記調光シートが可視光を反射する前記第1状態と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が前記第1電圧よりも大きい第2電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がフォーカルコニック状態を示す第2状態であって、前記調光シートが可視光を散乱させる前記第2状態と、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間が前記第2電圧よりも大きい第3電圧に制御されることにより、前記液晶組成物がホメオトロピック状態を示す第3状態であって、前記調光シートが可視光を透過させる前記第3状態と、を含み、前記液晶組成物の螺旋ピッチP(μm)、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たす。0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
【0007】
上記各構成によれば、カイラルネマティック液晶の選択反射を利用することで、調光シートを、可視光を反射する状態と透明な状態とに切り替えることができる。これにより、透過状態と散乱状態との切り換えとは異なる光学特性の切り換えができるため、反射型の投影システムに用いるスクリーンシステムや、遮光が可能な調光窓のように、調光シートを新たな用途に用いることができる。
【0008】
上記調光装置において、前記制御部が実行する処理には、さらに、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きくかつ前記第3電圧よりも小さい第2電圧に制御することによって、前記調光シートを、可視光を散乱させる第2状態とすることが含まれてもよい。
上記構成によれば、調光シートを、可視光を反射する状態と、濁った状態と、透明な状態とに切り替えることができる。したがって、調光シートが空間に対してもたらす作用をより多様に切り替えることが可能となる。
【0009】
上記調光装置において、前記調光シートにおける前記液晶組成物の螺旋ピッチP(μm)、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たしてもよい。0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
上記構成によれば、カイラルネマティック液晶である液晶組成物の反射波長が可視領域に的確に設定される。したがって、第1状態の調光シートにて、可視光が的確に反射される。
【0010】
上記調光装置において、前記調光シートの前記第1状態において、前記液晶組成物が含む液晶分子が水平配向している領域の前記調光層での割合が、50%以上であってもよい。
上記構成によれば、第1状態の調光シートにおいて、可視光の良好な反射率が得られる。
【0011】
上記調光装置において、前記調光シートの前記調光層における前記透明高分子層の割合は、50%未満であってもよい。
上記構成によれば、調光層において液晶組成物の割合が十分に確保されることから、第1状態の調光シートにおいて、可視光の良好な反射率が得られる。
【0012】
上記調光装置において、前記調光シートにおける前記透明高分子層を構成する高分子材料の屈折率npと、前記液晶組成物の常光屈折率noとが、下記式(2)を満たしてもよい。0.98≦np/no≦1.02 ・・・(2)
上記構成によれば、第3状態の調光シートにおいて、可視光が調光層内を直進しやすくなるため、可視光の透過率が高められる。
【0013】
上記調光装置において、前記調光シートは、前記第1透明電極層と前記調光層との間に挟まれた第1配向層と、前記第2透明電極層と前記調光層との間に挟まれた第2配向層と、を備え、前記第1配向層と前記第2配向層との各々は、水平配向膜であってもよい。
上記構成によれば、第1状態において水平配向する液晶分子の割合を高めることができる。したがって、第1状態の調光シートにおいて、可視光の反射率が高められる。
【0014】
上記調光装置は、第1の前記調光シートおよび第2の前記調光シートである2つの前記調光シートを備え、前記第1の調光シートが含む前記液晶組成物の旋光性と、前記第2の調光シートが含む前記液晶組成物の旋光性とは、互いに異なり、前記第1の調光シートと前記第2の調光シートとは、厚さ方向に重なりを有するように配置され、前記制御部が実行する処理には、前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を前記第1状態とすることが含まれてもよい。
【0015】
上記構成によれば、2つの調光シートを第1状態とすることで、これらの調光シートから互いに異なる円偏光成分が反射されるため、これらの調光シートからなるユニットに照射された光におけるより多くの成分が反射される。したがって、反射光の強度が高められるとともに、上記調光シートのユニットにおける光の透過をより抑えることができる。
【0016】
上記構成において、前記制御部が実行する処理には、さらに、前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を、前記第1透明電極層と前記第2透明電極層との間を前記第1電圧よりも大きくかつ前記第3電圧よりも小さい第2電圧に制御することによって、可視光を散乱させる第2状態とすること、および、前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートの各々を前記第3状態とすることの少なくとも一方が含まれてもよい。
【0017】
上記構成によれば、上記調光シートのユニットを、可視光を反射する状態と、濁った状態および透明な状態の少なくとも一方とに切り替えることができる。したがって、調光シートが空間に対してもたらす作用をより多様に切り替えることが可能となる。
【0018】
上記課題を解決するためのスクリーンシステムは、上記調光装置を含むスクリーンシステムであって、前記調光シートを備えるスクリーンを有し、前記第1状態の調光シートに画像が投影される。
上記構成によれば、第1状態の調光シートを、反射型の投影システムのスクリーンとして用いることができる。
【0019】
上記課題を解決するためのスクリーンシステムは、上記調光装置を含むスクリーンシステムであって、前記第1の調光シートおよび前記第2の調光シートを備えるスクリーンと、前記第1の調光シートに向けて光を照射する第1の投影装置と、前記スクリーンに対して前記第1の投影装置とは反対側から、前記第2の調光シートに向けて光を照射する第2の投影装置とを備える。
【0020】
上記構成によれば、2つの調光シートからなるユニットを、反射型の投影システムのスクリーンとして用いることができる。そして、1つのスクリーンである上記調光シートのユニットを用いて、スクリーンを挟む2つの空間の各々で画像の投影が可能である。したがって、設備の簡素化を図りつつ、空間の効率的な利用が可能である。
【0021】
上記課題を解決するための調光窓は、上記調光装置を含み、前記調光シートが取り付けられた窓を備える。
上記構成によれば、遮光状態と他の状態とが切替可能な調光窓が実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、調光シートにおいて、透過状態と散乱状態との切り換えとは異なる光学特性の切り換えができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】上記実施形態の調光装置が備える第1状態の調光シートの構造を示す図。
【
図3】上記実施形態の調光装置が備える第2状態の調光シートの構造を示す図。
【
図4】上記実施形態の調光装置が備える第3状態の調光シートの構造を示す図。
【
図5】上記実施形態の調光装置が備える調光シートについて、印加電圧と赤外光の透過率との関係の典型例を示す図。
【
図6】上記実施形態の調光装置が適用されたスクリーンシステムの使用形態を示す図であって、シートユニットが第1状態であるときを示す図。
【
図7】上記実施形態の調光装置が適用されたスクリーンシステムの使用形態を示す図であって、シートユニットが第2状態であるときを示す図。
【
図8】上記実施形態の調光装置が適用されたスクリーンシステムの使用形態を示す図であって、シートユニットが第3状態であるときを示す図。
【
図9】上記実施形態の調光装置が適用された調光窓の使用形態を示す図であって、シートユニットが第1状態であるときを示す図。
【
図10】実施例のシートユニットが備える2つの調光シートの反射特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1~
図9を参照して、調光装置および調光シートの一実施形態を説明する。なお、以下の説明において、可視光とは、360nm以上800nm以下の波長域の光を指す。
[調光装置の構成]
図1が示すように、調光装置100は、シートユニット10と制御部60とを備えている。シートユニット10は、第1の調光シート11と、第2の調光シート12とを備えている。制御部60は、調光シート11,12への電圧の印加を制御する。
【0025】
第1の調光シート11と第2の調光シート12とは、厚さ方向に重なりを有するように配置される。第1の調光シート11と第2の調光シート12とは、接していてもよいし、離れていてもよい。例えば、第1の調光シート11は、透明板110の表面に貼り付けられ、第2の調光シート12は、透明板110の裏面に貼り付けられる。
【0026】
透明板110は、ガラスや樹脂等から形成されている。透明板110は、例えば、住宅、駅、空港等の各種の建物が備える窓ガラス、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウである。
【0027】
なお、上記の形態に限らず、第1の調光シート11と第2の調光シート12とは、別々の透明板に貼り付けられていてもよいし、1つの透明板の1つの面に積層されていてもよい。
【0028】
[調光シートの構成]
図2~
図5を参照して、調光シート11,12の詳細構成を説明する。以下では、第1の調光シート11を例に説明する。
【0029】
図2が示すように、調光シート11は、調光層20と、一対の透明電極層31,32と、一対の透明支持層41,42と、一対の配向層51,52とを備えている。一対の透明電極層31,32は、第1透明電極層31および第2透明電極層32であり、一対の透明支持層41,42は、第1透明支持層41および第2透明支持層42であり、一対の配向層は、第1配向層51および第2配向層52である。
【0030】
調光層20は、第1透明電極層31と第2透明電極層32との間に挟まれている。調光層20と第1透明電極層31との間には、第1配向層51が位置し、第1配向層51は、これらの調光層20および第1透明電極層31に接している。調光層20と第2透明電極層32との間には、第2配向層52が位置し、第2配向層52は、これらの調光層20および第2透明電極層32に接している。第1透明支持層41は、第1透明電極層31に対して調光層20と反対側で第1透明電極層31を支持し、第2透明支持層42は、第2透明電極層32に対して調光層20と反対側で第2透明電極層32を支持している。
【0031】
調光層20は、透明高分子層21とカイラルネマティック液晶である液晶組成物とを含んでいる。液晶組成物は、液晶分子23を含む。透明高分子層21は複数の空隙22を区切っており、空隙22内に液晶組成物が保持されている。液晶組成物は、正の誘電率異方性を有する。すなわち、液晶分子23の長軸方向の誘電率は、液晶分子23の短軸方向の誘電率よりも大きい。
【0032】
液晶分子23の一例は、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系の液晶分子である。また、液晶組成物が含むカイラル剤の一例は、1以上の不斉炭素を有する光学活性な低分子化合物である。
【0033】
透明高分子層21の構造および液晶組成物の保持型式は、例えば、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、カプセル型である。ポリマーネットワーク型の調光層20は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、透明高分子層の一例であり、ポリマーネットワークにおける網目のなかの相互に連通した空隙に液晶組成物が保持される。高分子分散型の調光層20は、孤立した多数の空隙を区画する透明高分子層を備え、透明高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物が保持される。カプセル型の調光層20は、透明高分子層のなかに分散したカプセル内の空隙に液晶組成物を保持する。
【0034】
第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々は、導電性を有する材料から形成されており、可視光に対して透明である。透明電極層31,32の材料には、公知の材料を用いることができる。透明電極層31,32の材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)、銀や銀合金等である。
【0035】
第1透明支持層41および第2透明支持層42の各々は、可視光に対して透明な基材である。透明支持層41,42の材料には、公知の材料を用いることができる。透明支持層41,42の材料は、合成樹脂、または、無機化合物であってよい。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等である。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等である。ポリアクリレートは、例えば、ポリメチルメタクリレート等である。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等である。
【0036】
第1配向層51および第2配向層52の各々は、水平配向膜である。水平配向膜は、液晶分子23の長軸方向を配向膜の表面に水平に沿わせるように、液晶分子23を配向させる。配向層51,52の材料は、有機化合物、無機化合物、および、これらの混合物である。有機化合物は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等である。無機化合物は、例えば、シリコン酸化物、酸化ジルコニウム等である。配向層51,52の材料は、シリコーンであってもよい。シリコーンは、無機性の部分と有機性の部分とを有する化合物である。
【0037】
制御部60は、配線を介して第1透明電極層31および第2透明電極層32の各々に接続されている。制御部60は、調光シート11の駆動のための電圧を生成し、生成した電圧を透明電極層31,32に配線を通じて印加する。電圧の印加の有無の制御および印加する電圧の大きさの制御を通じて、制御部60は、透明電極層31,32間の電圧の大きさを制御する。
【0038】
制御部60は、透明電極層31,32間の電圧を、第1電圧V1と、第2電圧V2と、第3電圧V3とのいずれかに制御する。第1電圧V1は0Vであり、第2電圧V2は第1電圧V1よりも大きく、第3電圧V3は第2電圧V2よりも大きい。
【0039】
図2は、第1状態の調光シート11を模式的に示す。第1状態において、透明電極層31,32間の電圧は第1電圧V1に制御され、液晶組成物はプレーナー状態を示す。すなわち、調光層20が含む液晶分子23の多くは、配向層51,52および透明電極層31,32に略平行な方向に液晶分子23の長軸方向が沿うように並び、螺旋構造を有する液晶組成物の螺旋軸が、配向層51,52および透明電極層31,32に略垂直な方向に延びる。
【0040】
カイラルネマティック液晶である液晶組成物がプレーナー状態であるとき、液晶組成物は、一部の波長域の光を選択的に反射する。本実施形態では、液晶組成物の螺旋ピッチP(μm)、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たしていることにより、液晶組成物は可視光を選択的に反射する。
0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
【0041】
これにより、第1状態において、調光層20は、調光シート11の表面または裏面から調光層20に向けて入射する可視光を選択的に反射する。なお、液晶組成物の螺旋ピッチP、常光屈折率no、および、異常光屈折率neの各々は、液晶分子23の種類、カイラル剤の種類、カイラル剤の添加量等によって調整することができる。
【0042】
上記式(1)において、「P×(ne+2no)/3」は、液晶組成物の反射波長を規定する式である。以下、この式の導出論理を説明する。
カイラルネマティック液晶である液晶組成物の反射波長は、液晶組成物の螺旋ピッチPと屈折率nとの積によって表される。この屈折率nとしては、常光屈折率noを用いることが最も簡便である。一方、液晶分子が複屈折性を有していること、第1状態の調光シート11において液晶組成物の螺旋軸は調光シート11に垂直であると仮定できること、調光シート11の外部から調光シート11に光が入射するとき、光の伝播方向は上記螺旋軸の向きとほぼ等しくなること、これらを考慮すれば、屈折率nとして、常光屈折率noと異常光屈折率neとの平均値を用いることも考えられる。
【0043】
本願の発明者は、屈折率nとして、常光屈折率noを用いた場合、および、常光屈折率noと異常光屈折率neとの平均値を用いた場合について、反射波長の計算値と、調光シート11の反射波長の実測値とを比較した。その結果、実測値におけるピーク中央値、すなわち、幅を有するピークにおける当該ピーク幅の中央値と、反射波長の計算値との間にずれが生じることが確認された。
【0044】
ここで、発明者は、螺旋軸に傾きが生じている可能性に着目した。この場合、入射光に対する液晶組成物の実効的な屈折率は、常光屈折率noと異常光屈折率neとの平均値よりも常光屈折率noに近づく。そこで、発明者は、常光屈折率noに重みをつけて常光屈折率noと異常光屈折率neとを加重平均した値を屈折率nとして用いることにより、上記式「P×(ne+2no)/3」を導出した。そして、発明者は、この式による反射波長の計算値と、調光シート11の反射波長の実測値におけるピーク中央値とが一致することを確認した。このことから、螺旋軸の傾きによって見かけの螺旋ピッチPが変化しており、螺旋ピッチPのばらつきと、こうした螺旋ピッチPの変化とが、反射波長の実測値においてピークに幅が形成される要因となっていることが示唆される。
【0045】
以上のように、本願の発明者は、液晶分子の複屈折性に加え、螺旋軸の傾きに着目した結果、常光屈折率noに重みをつけた式を用いることで、プレーナー状態の液晶組成物の反射波長をより正確に計算可能であることを見出した。
【0046】
上記式(1)を満たす液晶組成物を調光層20に用いることにより、第1状態の調光シート11において、可視領域の波長の光が的確に反射される。より詳細には、調光層20に入射した可視光から、液晶組成物の螺旋軸の捩じれ方向と同じ方向に回転する円偏光成分が反射され、他の成分は調光層20を透過する。
【0047】
なお、可視光の反射率を高めるためには、第1状態において、調光層20の50%以上の領域で、液晶分子23が水平配向されていること、すなわち、液晶分子23が配向層51,52および透明電極層31,32に略平行に配向されていることが好ましい。そして、調光層20における透明高分子層21の割合は50%未満であることが好ましい。例えば、偏光顕微鏡による観察画像において、調光層20の表面付近での水平配向領域の割合が50%以上であれば、調光層20の全体での水平配向領域の割合が50%以上と判断できる。
【0048】
一方で、透明高分子層21による液晶組成物の保持構造を的確に形成するためには、調光層20における透明高分子層21の割合は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。そして、透明高分子層21による液晶組成物の割合は、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。したがって、液晶組成物の保持構造を好適に形成しつつ、可視光の反射率を高めるためには、第1状態において、液晶分子23が水平配向されている領域は、調光層20の50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。
【0049】
図3は、第2状態の調光シート11を模式的に示す。第2状態において、透明電極層31,32間の電圧は第2電圧V2に制御され、液晶組成物はフォーカルコニック状態を示す。すなわち、液晶組成物の螺旋軸は、配向層51,52および透明電極層31,32に平行な方向のように、これらの層に垂直な方向とは異なる方向に延びる。
【0050】
液晶組成物がフォーカルコニック状態であるとき、調光シート11への光の入射方向と液晶分子23の長軸方向とがなす角は、調光層20内において一定ではなく分散しているため、光は様々な方向へ反射されつつ進む。すなわち、第2状態において、調光シート11に入射した可視光は散乱する。
【0051】
図4は、第3状態の調光シート11を模式的に示す。第3状態において、透明電極層31,32間の電圧は第3電圧V3に制御され、液晶組成物はホメオトロピック状態を示す。すなわち、液晶組成物の螺旋構造がほどけ、液晶分子23は、透明電極層31,32間の電界方向に沿って配向される。言い換えれば、液晶分子23は、配向層51,52および透明電極層31,32に垂直な方向に液晶分子23の長軸方向が沿うように並ぶ。
【0052】
このように、第3電圧V3は、液晶組成物をホメオトロピック状態に配向させる大きさの電圧である。液晶組成物は、その組成に応じた所定値以上の電圧が印加されたときにホメオトロピック状態を示す。第3電圧V3は、上記所定値以上の電圧である。そして、先に説明した第2状態において印加される第2電圧V2は、0Vより大きく上記所定値未満の電圧である。
【0053】
液晶組成物がホメオトロピック状態であるとき、可視光は調光層20を透過する。調光層20内において可視光の進行方向が曲がることを抑えるためには、透明高分子層21を構成する高分子材料の屈折率npと、液晶組成物の常光屈折率noとがほぼ一致することが好ましい。具体的には、可視領域の波長に対する高分子材料の屈折率npと液晶組成物の常光屈折率noとが下記式(2)を満たすことが好ましい。上記可視領域の波長は、例えば、上記反射波長の規定式「P×(ne+2no)/3」によって求められる液晶組成物の反射波長とすればよい。
0.98≦np/no≦1.02 ・・・(2)
【0054】
図5は、調光シート11が第1状態から第2状態を経由して第3形態まで変化するときの、透明電極層31,32間の電圧と調光シート11における可視光の透過率との関係の典型例を示す。
図5が示すように、第1電圧V1から第3電圧V3に向かって電圧が大きくなるにつれ、可視光の透過率は単調に増加する。このうち、第1電圧V1の付近、および、第3電圧V3の付近では、透過率の変化は緩やかである。一方、第2電圧V2の付近では、透過率は急激に変化する。
【0055】
上述のように、透明電極層31,32間が第1電圧V1である第1状態では、調光層20において、可視光の反射が大きくなるため、可視光の透過は小さくなる。一方、透明電極層31,32間が第3電圧V3である第3状態では、可視光の透過が大きくなる。そして、透明電極層31,32間が第2電圧V2である第2状態では、可視光の散乱が起こることから、可視光の透過は、第1状態よりは大きくなり、第3状態よりは小さくなる。これにより、調光シート11における可視光の透過率は、透明電極層31,32間の電圧の変化に応じて、
図5に示した変化を示す。
【0056】
ここで、第1状態から第2状態への変化、および、第2状態から第3状態への変化は、一方向にのみ可能な変化である。すなわち、調光シート11が第1状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第1電圧V1から第2電圧V2に変化させると、調光シート11は第1状態から第2状態に変化する。一方、調光シート11が第2状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第2電圧V2から第1電圧V1に変化させても、第2状態から第1状態への変化は起こらず、液晶組成物はフォーカルコニック状態を維持する。
【0057】
同様に、調光シート11が第2状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第3電圧V3に変化させると、調光シート11は第2状態から第3状態に変化する。一方、調光シート11が第3状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第3電圧V3から第2電圧V2に変化させても、第3状態から第2状態への変化は起こらず、液晶組成物はホメオトロピック状態を維持する。
【0058】
これに対し、第1状態から第3状態への変化は、双方向において可能である。すなわち、調光シート11が第1状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第1電圧V1から第3電圧V3に変化させると、調光シート11は第1状態から第3状態に変化する。また、調光シート11が第3状態であるときに、透明電極層31,32間の電圧を第3電圧V3から第1電圧V1に変化させると、調光シート11は第3状態から第1状態に変化する。
【0059】
第2の調光シート12は、液晶組成物の旋光性以外は、第1の調光シート11と同様の構成を有する。すなわち、第1の調光シート11が備える調光層20の液晶組成物の旋光性と、第2の調光シート12が備える調光層20の液晶組成物の旋光性とは、互いに異なっている。例えば、第1の調光シート11の液晶組成物は右旋性を有し、第2の調光シート12の液晶組成物は左旋性を有する。第1の調光シート11と第2の調光シート12とにおいて、液晶組成物が含有するカイラル剤の旋光性を異ならせることで、液晶組成物の旋光性を異ならせることができる。
【0060】
第1の調光シート11の反射波長の設定値と、第2の調光シート12の反射波長の設定値とは、一致していることが好ましい。反射波長の設定値は、反射波長の規定式「P×(ne+2no)/3」により算出される値である。言い換えれば、第1状態での第1の調光シート11の反射光のピーク波長は、第1状態での第2の調光シート12の反射光のピーク波長と一致していることが好ましい。
【0061】
制御部60は、第1の調光シート11に印加する電圧と、第2の調光シート12に印加する電圧とを、これらが互いに連動するように制御してもよいし、調光シート11,12ごとに独立して制御してもよい。制御部60が実行する処理には、第1の調光シート11および第2の調光シート12の各々を第1状態とすること、第1の調光シート11および第2の調光シート12の各々を第2状態とすること、および、第1の調光シート11および第2の調光シート12の各々を第3状態とすることが含まれる。
【0062】
[適用例]
<スクリーンシステム>
調光装置100の第1の適用例として、調光装置100をスクリーンシステムに適用した形態を説明する。
【0063】
図6~
図8を参照して、調光装置100を含むスクリーンシステムの動作を説明する。スクリーンシステムは、シートユニット10からなるスクリーンと制御部60とを備える。
図6は、第1の調光シート11と第2の調光シート12との双方が第1状態であるとき、言い換えれば、シートユニット10が第1状態であるときを示す。このとき、スクリーンシステムは、反射型の投影システムに用いられる。
【0064】
シートユニット10を挟む2つの空間の一方に、投影装置70および観察者Obが位置する。
図6に示す例では、第1の調光シート11に面する空間である第1の空間に、投影装置70および観察者Obが位置する。投影装置70は、例えばプロジェクターであり、投影する画像のデータに応じた投影光PL1を、シートユニット10に向けて射出する。なお、投影装置70は、スクリーンシステムの一部であってもよく、投影装置70の駆動が制御部60によって制御されてもよい。
【0065】
投影光PL1が第1の調光シート11に入射すると、投影光PL1のうちの一部の光RL1が第1の調光シート11にて反射される。そして、残りの光PL2は第1の調光シート11を透過して第2の調光シート12に入射し、第2の調光シート12にて光RL2が反射される。光RL2は、第1の調光シート11を透過して、観察者Obが位置する第1の空間に射出される。光RL1と光RL2とは、互いに異なる方向に回転する円偏光成分である。例えば、第1の調光シート11の液晶組成物が右旋性を有し、第2の調光シート12の液晶組成物が左旋性を有するとき、光RL1は右円偏光成分であり、光RL2は左円偏光成分である。観察者Obは、光RL1および光RL2を視認する。これにより、投影された画像が観察者Obに視認される。
【0066】
このように、第1の調光シート11と第2の調光シート12によって互いに異なる円偏光成分が反射される結果、投影光PL1の大部分がシートユニット10にて反射される。したがって、反射光の強度が高く得られるため、観察者Obに視認される画像の明るさを高めることができる。また、投影光PL1の一部が、シートユニット10に対して投影装置70および観察者Obと反対側の空間に漏れることが抑えられるため、シートユニット10の後方の空間への不要な光の漏出を抑えることができる。
【0067】
例えば、従来のように散乱状態と透明状態とが切り替え可能な調光シートに、反射層を積層することで、散乱状態の調光シートを反射型の投影システムのスクリーンとして用いることは可能ではある。しかしながら、透明状態において調光シートの背後の光景を視認可能とするためには、反射層として、ハーフミラーフィルムのようにある程度の光透過性を有するフィルムを用いざるを得ず、結果として、反射層の反射性を高めることには限界がある。したがって、反射光の強度を高めること、すなわち、画像の明るさを高めることには限界があり、また、反射層が光透過性を有することから、スクリーンの後方の空間への光の漏出を抑えることも困難である。
【0068】
これに対し、本実施形態のシートユニット10をスクリーンとして用いれば、上述のように、第1状態の2つの調光シート11,12によって投影光の大部分が反射されることから、画像の明るさを高めることが可能であり、また、スクリーンの後方の空間への光の漏れを抑えることも可能である。
【0069】
なお、第2の調光シート12が位置する側からも、同様に画像の投影が可能である。すなわち、第2の調光シート12に面する空間である第2の空間に、投影装置70および観察者Obが位置し、投影装置70からシートユニット10に投影された画像を観察者Obが視認することができる。そして、第1の空間と第2の空間のそれぞれで、同時に異なる画像の投影を行うことも可能である。
【0070】
例えば、スクリーンシステムは、第1の空間と第2の空間との各々に配置された投影装置70を備えていてもよい。第1の空間にて第1の投影装置70は第1の調光シート11に向けて第1の画像を投影し、第2の空間にて第2の投影装置70は第2の調光シート12に向けて第2の画像を投影する。第1の画像と第2の画像とは互いに異なる画像とすることが可能であり、これらの画像の投影は同時に行われてもよい。こうした構成によれば、1つのスクリーンであるシートユニット10を用いて2つの空間で画像の投影ができるため、設備の簡素化や空間の効率的な利用が可能である。
【0071】
図7は、第1の調光シート11と第2の調光シート12との双方が第2状態であるとき、言い換えれば、シートユニット10が第2状態であるときを示す。この場合、照明の光または太陽光である外光NLが調光シート11,12に入射すると、光の散乱が生じ、調光シート11,12から散乱光SLが射出される。観察者Obは、散乱光SLを視認する。その結果、調光シート11,12は濁って見え、シートユニット10の背後の光景は不鮮明に見える。この場合、外部からシートユニット10を介して観察者Obやその周囲の様子を視認されることも抑えられる。
【0072】
なお、第2状態の各調光シート11,12の透明度を低くするため、すなわち調光シート11,12のヘイズを高めるためには、屈折率異方性Δnの大きい液晶組成物を用いることが好ましい。しかしながら、屈折率異方性Δnの大きい例えばトラン系の液晶分子の汎用性は高いとは言えず、こうした液晶分子を用いた場合には、調光層20の信頼性が低くなりやすい。これに対し、本実施形態のシートユニット10では、第1の調光シート11と第2の調光シート12とが重なるため、各調光シート11,12のヘイズが低い場合であっても、シートユニット10の透明度を低くすることは可能である。
【0073】
したがって、屈折率異方性Δnの低い液晶組成物、具体的には屈折率異方性Δnが0.16以下である液晶分子を含む液晶組成物を用いれば、第2状態においてシートユニット10の透明度を低く抑えつつ、調光シート11,12の信頼性を高めることができる。
【0074】
図8は、第1の調光シート11と第2の調光シート12との双方が第3状態であるとき、言い換えれば、シートユニット10が第3状態であるときを示す。この場合、照明の光または太陽光である外光NLは、調光シート11,12を透過する。したがって、調光シート11,12は透明であり、観察者Obはシートユニット10の背後の光景を視認することができる。
【0075】
上述のように、散乱状態と透明状態とを切り替え可能な従来の調光シートに反射層を重ねてスクリーンとして用いる場合、透明状態における調光シートの光透過性は、反射層が設けられない場合と比較して低くなってしまう。これに対し、本実施形態のシートユニット10であれば、反射層を用いずに可視光を反射可能な第1状態が実現できることから、透明な第3状態での光透過性を高く得ることができる。
【0076】
以上のように、第1の適用例によれば、カイラルネマティック液晶の選択反射を利用することで、調光シート11,12からなるシートユニット10を、反射型の投影システムにおけるスクリーンに用いることができる。そして、第1状態と第2状態と第3状態とを切り替えることによって、シートユニット10を、画像を投影可能な状態と、濁った状態と、透明な状態とに切り替えることができる。それゆえ、シートユニット10の配置箇所や、シートユニット10が配置される空間の利用方法等について、自由度が高められる。
【0077】
なお、シートユニット10を第2状態に切り替えた後、印加電圧を0Vにしても、可視光の散乱機能は第2状態と同様に保たれる。したがって、消費電力を削減しつつ、シートユニット10の透明度が低い状態を維持することもできる。
【0078】
<調光窓>
調光装置100の第2の適用例として、調光装置100を調光窓に適用した形態を説明する。
【0079】
図9を参照して、調光装置100を含む調光窓の動作を説明する。調光窓は、シートユニット10が取り付けられた窓と制御部60とを備える。
図9は、第1の調光シート11と第2の調光シート12との双方が第1状態であるとき、言い換えれば、シートユニット10が第1状態であるときを示す。
図9に示す例では、第1の調光シート11に面する空間である第1の空間に、観察者Obが位置する。
【0080】
シートユニット10に対して第1の空間とは反対側の第2の空間から、照明の光または太陽光である外光NL1が第2の調光シート12に入射すると、外光NL1のうちの一部の光RL1が第2の調光シート12にて反射される。そして、残りの光NL2は第2の調光シート12を透過して第1の調光シート11に入射し、第1の調光シート11にて光RL2が反射される。光RL1と光RL2とは、互いに異なる方向に回転する円偏光成分である。例えば、第2の調光シート12の液晶組成物が左旋性を有し、第1の調光シート11の液晶組成物が右旋性を有するとき、光RL1は左円偏光成分であり、光RL2は右円偏光成分である。
【0081】
このように、第1の調光シート11と第2の調光シート12によって互いに異なる円偏光成分が反射される結果、外光NL1の大部分がシートユニット10にて反射される。したがって、観察者Obがいる第1の空間への外光の入射が抑えられる。言い換えれば、シートユニット10による遮光が可能である。
【0082】
2つの調光シート11,12の双方が第2状態であるとき、および、2つの調光シート11,12との双方が第3状態であるときは、
図7および
図8を用いて説明した第1の適用例の場合と同様である。
【0083】
以上のように、第2の適用例によれば、第1状態と第2状態と第3状態とを切り替えることによって、シートユニット10を、遮光状態と、濁った状態と、透明な状態とに切り替えることができる。それゆえ、シートユニット10が空間に対してもたらす作用をより多様に切り替えることが可能となる。
【0084】
なお、第1の適用例と同様、シートユニット10を第2状態に切り替えた後、印加電圧を0Vにしても、可視光の散乱機能は第2状態と同様に保たれる。したがって、消費電力を削減しつつ、シートユニット10の透明度が低い状態を維持することもできる。
【0085】
また、第1の適用例および第2の適用例のいずれにおいても、制御部60が、第1の調光シート11と第2の調光シート12とに印加する電圧を別々に制御し、第1の調光シート11と第2の調光シート12とが第1状態と第2状態と第3状態とのうちの別々の状態となるように、各調光シート11,12の状態を制御してもよい。これにより、シートユニット10における可視光の反射、透過、散乱の程度をより細かに切り替えることが可能である。
【0086】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)シートユニット10への印加電圧の切り換えによって、シートユニット10が可視光を反射する第1状態と、シートユニット10が可視光を散乱させる第2状態と、シートユニット10が可視光を透過させる第3状態とが切り換えられる。これにより、透過状態と散乱状態との切り換えとは異なる光学特性の切り換えができるため、反射型の投影システムに用いるスクリーンシステムや、遮光が可能な調光窓のように、調光シートを新たな用途に用いることができる。
【0087】
(2)ハーフミラーフィルムのような反射層を用いずに、可視光を反射する第1状態が実現できるため、第3状態での光透過性を高く得ることができる。
(3)シートユニット10が、互いに旋光性の異なる2つの調光シート11,12を備え、これらの調光シート11,12が厚さ方向に重なりを有するように配置される。これにより、2つの調光シート11,12を第1状態とすることで、互いに異なる円偏光成分が反射されるため、シートユニット10に照射された光におけるより多くの成分が反射される。したがって、反射光の強度が高められるとともに、シートユニット10における光の透過をより抑えることができる。これにより、スクリーンシステムであれば、より明るい画像の投影が可能であるとともに、スクリーンの後方の空間への光の漏れを抑えることが可能である。また、調光窓であれば、遮光性を高めることができる。
【0088】
(4)調光シート11,12における液晶組成物の螺旋ピッチP、常光屈折率no、異常光屈折率neが、下記式(1)を満たす。これにより、カイラルネマティック液晶である液晶組成物の反射波長が可視領域に的確に設定される。
0.4≦P×(ne+2no)/3≦0.8 ・・・(1)
【0089】
(5)第1状態の調光シート11,12において、液晶組成物が含む液晶分子23が水平配向している領域の調光層20での割合が、50%以上である。これにより、可視光について良好な反射率が得られる。
【0090】
(6)調光層20における透明高分子層21の割合が、50%未満である。これにより、調光層20において液晶組成物の割合が十分に確保され、第1状態にて可視光の良好な反射率が得られる。
【0091】
(7)透明高分子層21を構成する高分子材料の屈折率npと、液晶組成物の常光屈折率noとが、下記式(2)を満たす。これにより、第3状態において、可視光が調光層20内を直進しやすくなるため、可視光の透過率が高められる。
0.98≦np/no≦1.02 ・・・(2)
【0092】
(8)調光シート11,12が、配向層51,52を備えている。これにより、第1状態において水平配向する液晶分子23の割合を高めることができる。したがって、第1状態での可視光の反射率が高められる。
【0093】
(9)調光装置100がスクリーンシステムに適用される形態では、シートユニット10を、反射型の投影システムにおいて画像を投影可能な状態と、濁った状態と、透明な状態とに切り替えることができる。このように、シートユニット10を、反射型の投影システムのスクリーンとして用いることができる。
【0094】
(10)スクリーンシステムが、第1の調光シート11に向けて光を照射する第1の投影装置と、スクリーンであるシートユニット10に対して第1の投影装置とは反対側から、第2の調光シート12に向けて光を照射する第2の投影装置とを備える。こうした構成によれば、1つのスクリーンであるシートユニット10を用いて、シートユニット10を挟む2つの空間の各々で画像の投影が可能である。したがって、設備の簡素化を図りつつ、空間の効率的な利用が可能である。
【0095】
(11)調光装置100が調光窓に適用される形態では、シートユニット10を、遮光状態と、濁った状態と、透明な状態とに切り替えることができる。したがって、遮光状態と他の状態とが切替可能な調光窓が実現できる。
【0096】
[実施例]
上述した調光装置および調光シートについて、具体的な実施例を用いて説明する。
(シートユニットの作製)
調光層、一対の透明電極層、一対の透明支持層、および、一対の配向層を備える第1の調光シートを形成した。透明電極層の材料は、酸化インジウムスズであり、透明支持層の材料は、ポリエチレンテレフタレートであり、配向層の材料は、ポリイミドである。調光層は、ポリマーネットワーク型であり、各パラメータが下記となるように形成した。
【0097】
・液晶組成物の誘電率異方性Δε:10.9
・液晶組成物の常光屈折率no:1.51
・液晶組成物の異常光屈折率ne:1.68
・透明高分子層を構成する高分子材料の屈折率np:1.50
・液晶組成物の螺旋ピッチP:0.33μm
・反射波長の設定値(P×(ne+2no)/3):0.52μm
・調光層における透明高分子層の割合:12.6%
・カイラル剤の旋光性:右旋性
左旋性のカイラル剤を用いたこと以外は、第1の調光シートと同様の材料によって、第2の調光シートを形成した。すなわち、第2の調光シートにおける調光層の各パラメータは、カイラル剤の旋光性を除いて第1の調光シートと同じである。
【0098】
(反射特性解析)
実施例の2つの調光シートについて、印加電圧が0Vであるときの反射光の波長域および反射率を測定した。印加電圧が0Vであるとき、調光シートは第1状態である。測定結果を
図10に示す。
【0099】
図10が示すように、印加電圧が0Vであるとき、2つの調光シートのいずれにおいても、520nm付近にピークを有する反射が得られている。反射光のピーク波長は、上記した反射波長の設定値と凡そ一致する。ピークの半値幅は、70nm~80nmであり、ピーク波長の付近での反射率は、約50%である。
【0100】
以上により、実施例の調光シートによって可視光の選択的な反射が可能であることが確認された。したがって、この調光シートを、反射型の投影システムのスクリーンに用いることや、この調光シートを用いて調光窓の遮光状態を実現することができる。
【0101】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。なお、以下の変形例は組み合わせて実施してもよい。
【0102】
・調光シートは、配向層51,52を備えていなくてもよい。配向層51,52が設けられていない場合、上記実施形態と比較して、第1状態において水平配向する液晶分子23の割合は小さくなる。一方で、調光層20の50%以上の領域にて液晶分子23が水平配向していれば、可視光について良好な反射率が得られる。配向層51,52がなくとも、カイラルネマティック液晶を用いれば、電圧の非印加時に50%以上の領域で液晶分子23を水平配向させることができる。配向層の形成が不要であれば、調光シートの製造工程の簡素化や製造に要するコストの削減が可能である。
【0103】
・第1状態での第1の調光シート11の反射光のピーク波長は、第1状態での第2の調光シート12の反射光のピーク波長と異なっていてもよい。2つの調光シート11,12における反射光のピーク波長が異なっていれば、各ピーク波長の付近の波長域の光が反射されることから、広い波長域で可視光の反射が可能となる。こうした構成は、反射光の強度を高めることやシートユニット10における光の透過を抑えることよりも、反射可能な波長域の拡大が望まれる場合に採用され得る。2つの調光シート11,12の第1状態での反射光のピーク波長が互いに異なっている場合には、これらの調光シート11,12の液晶組成物の旋光性は一致していてもよい。
【0104】
・シートユニット10は、1つの調光シートのみを備えていてもよい。すなわち、シートユニット10は、第1の調光シート11を備える一方で、第2の調光シート12を備えていなくてもよい。この場合、調光シート11が第1状態であるとき、シートユニット10によって入射光の一部が反射される。こうした構成のシートユニット10によっても、反射型の投影システムによる画像の投影や、調光窓における光の遮蔽は可能である。こうした構成は、反射光の強度を高めることやシートユニット10における光の透過を抑えることよりも、シートユニット10の構成を簡素にすることが望まれる場合に採用され得る。
【0105】
・第1の適用例と第2の適用例とは組み合わせて利用されてもよい。すなわち、第1状態のシートユニット10をスクリーンとして用いるか遮光に用いるかを、ユーザが状況に応じて使い分けてもよい。また、第2状態のシートユニット10は、透過型の投影システムのスクリーンとして用いられてもよい。すなわち、シートユニット10に対して観察者とは反対側から、投影光が照射される。そして、シートユニット10から射出された散乱光が観察者に視認されることにより、画像が観察者に視認される。
【0106】
・調光装置100は、シートユニット10を第1状態と第3状態とのいずれかに制御し、シートユニット10を第2状態には切り換えなくてもよい。第1状態と第3状態との切り替えが可能であれば、シートユニット10が可視光を反射する状態と可視光を透過する状態との切り替えが可能である。すなわち、スクリーンシステムにおいては、シートユニット10に画像を投影可能な状態と、シートユニット10が透明である状態との切り替えが可能である。また、調光窓においては、シートユニット10が光を遮断する状態と、シートユニット10が透明である状態との切り替えが可能である。したがって、従来の透過状態と散乱状態とが切替可能な調光シートとは異なる用途に調光シートを用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
10…シートユニット
11,12…調光シート
20…調光層
21…透明高分子層
22…空隙
23…液晶分子
31,32…透明電極層
41,42…透明支持層
51,52…配向層
60…制御部
70…投影装置
100…調光装置
110…透明板