(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117338
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】脳転移がん抑制剤又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230816BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20230816BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230816BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230816BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/04
A61P43/00 105
A61K31/517
A61K31/713
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020000
(22)【出願日】2022-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」「アストロサイトを標的としたがん脳転移根治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平田 英周
(72)【発明者】
【氏名】石橋 公二朗
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZC422
4C086BC45
4C086EA16
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】転移性がん治療剤(特に、脳転移がん治療剤)の開発が要望されている。しかし、脳微小環境を模倣した培養系でのがん細胞(特に、転移性がん細胞)をnativeな状態を維持して培養(特に、数週間培養)することは困難であった。これにより、転移性がん細胞、さらには転移性がん治療剤の研究が制限されていた。
【課題手段】転移性がん細胞(特に、肺がん細胞)が脳に転移した状態では代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)が優位に発現することを新規に見出し、さらに、該受容体の機能又は発現を抑制することにより、該転移性がん細胞の増殖を抑制できることを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有する被験者の脳における該がんの転移を予防、阻害、遅延又は治療をするための、該がん細胞の代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)の機能又は発現を抑制する有効成分を含む、脳転移がん抑制剤又は治療剤。
【請求項2】
前記有効成分がmGluR1のアンタゴニスト又はmGluR1に対するsiRNAである、請求項1に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
【請求項3】
前記有効成分が6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochloride又はその薬理学的に許容される塩である、請求項1又は2に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
【請求項4】
前記がんが肺がんである、請求項1~3のいずれか1に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
【請求項5】
6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochloride若しくは薬理学的に許容される塩、又は、mGluR1に対するsiRNAを含む、肺がん細胞の脳転移の阻害、遅延又は治療をするための脳転移がん抑制剤又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳転移がん抑制剤又は治療剤、並びに、該剤に含まれる有効成分のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(脳転移がん)
近年の基礎研究の進歩により、がん脳転移の成立や拒絶、進展及び治療抵抗性に脳微小環境が深く関与していることが明らかとなってきている。血管内皮細胞、アストロサイト及びミクログリアは、がん細胞と相互作用し、その運命を決定する主要な細胞タイプである。がん細胞、アストロサイト及びミクログリア、さらには後期段階の骨髄由来マクロファージ間の相互作用が、腫瘍抑制性又は腫瘍促進性の微小環境を規定することが明らかとなりつつある。しかしながら、その詳細な分子機構に関しては不明な点が多い。
がん脳転移の研究は、主に脳転移能を有するがん細胞株を用いて行われてきた。一般に、これらの細胞をマウス脳に直接移植するか又は左心室に注入して脳転移を誘発している。これらのマウスモデルは、がん細胞とグリア細胞の相互作用を調べるための非常に強力なツールである。しかしながら、これら相互作用をマウス生体内で解析するためには極めて高度な技術が必要であり、実験手法にも様々な制限がある。またin vitroで相互作用を解析するためには数日から数週間に渡ってアストロサイトとミクログリアの特性を維持する必要があるが、従来の培養システムではこれらを維持できていることに疑問があった(参照:非特許文献1)。
【0003】
(先行文献)
転移性脳腫瘍の治療剤として、以下が報告されている。
特許文献1は、「エキソーム分泌阻害剤を有効成分して含有する、脳転移を抑制するための医薬組成物」を開示している。
特許文献2は、「 癌を有する対象における脳転移を阻害するための方法であって、該方法が、有効量のキナーゼ阻害剤を対象へ投与する工程を含み、該キナーゼ阻害剤が、ADCK4、BTK、CAMK4、CDK5、CDK5R1、CLK3、LIMK2、PAK4、PMVK、PRKACB、PRKACG、PRKCI、TSSK6、およびZC3HC1からなる群より選択されるキナーゼを標的とする、前記方法」を開示している。
【0004】
上記いずれの文献は、本発明の脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-075916号公報
【特許文献2】特表2020-530467号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Guttenplan, K.A. & Liddelow,S.A. Astrocytes and microglia: Models and tools.The Journal of experimentalmedicine 216, 71-83 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
転移性がん治療剤(特に、脳転移がん治療剤)の開発が要望されている。しかし、脳微小環境を模倣した培養系でのがん細胞(特に、転移性がん細胞)をnativeな状態を維持して培養(特に、数週間培養)することは困難であった。これにより、転移性がん細胞、さらには転移性がん治療剤の研究が制限されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、nativeな状態を維持したがん細胞(特に、転移性がん細胞)を培養できる脳微小環境を模倣した培養系を開発した。そして、本発明者らは、該培養系を使用して、転移性がん細胞(特に、肺がん細胞)が脳に転移した状態では代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)が優位に発現することを新規に見出し、さらに、該受容体の機能又は発現を抑制することにより、該転移性がん細胞の増殖を抑制できることを確認して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.がんを有する被験者の脳における該がんの転移を予防、阻害、遅延又は治療をするための、該がん細胞の代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)の機能又は発現を抑制する有効成分を含む、脳転移がん抑制剤又は治療剤。
2.前記有効成分がmGluR1のアンタゴニスト又はmGluR1に対するsiRNAである、前項1に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
3.前記有効成分が6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochloride又はその薬理学的に許容される塩である、前項1又は2に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
4.前記がんが肺がんである、前項1~3のいずれか1に記載の脳転移がん抑制剤又は治療剤。
5.6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochloride若しくは薬理学的に許容される塩、又は、mGluR1に対するsiRNAを含む、肺がん細胞の脳転移の阻害、遅延又は治療をするための脳転移がん抑制剤又は治療剤。
6.脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分をスクリーニング方法であって、
(a)ミクログリア細胞及びアストロサイト細胞との共培養細胞である転移性がん細胞と試験化合物を接触させる工程、及び、
(b)該がん細胞におけるmGluR1遺伝子発現量又はタンパク質発現量を測定する工程、
を含む方法。
7.前記(a)の共培養の培地は、以下の構成を含む、前項6に記載のスクリーニング方法。
(1)ハイドロゲル培地
(2)細胞基礎培地成分を含む
(3)細胞外マトリックス成分を含む
8.前記ハイドロゲル培地のヤング率が12Pa以下である、前項7に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のmGluR1の機能又は発現を抑制する有効成分を含む脳転移がん抑制剤又は治療剤は、がん(特に、肺がん)を有する被験者の脳における該がんの転移を予防、阻害、遅延又は治療する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の培養法(DMEM 10% FBS、プラスチック培養皿)では初代培養ミクログリアを維持することができず、32日目にはミクログリアがほぼ消失していた。一方、MGS(Mixed-glial culture on soft substrate)培養法では14日目・32日目の培養でもアストロサイトとミクログリアの比がほぼ一定に保たれていた。
【
図2】アストロサイトの再活性化の確認。MGS培養法で培養されたアストロサイトはLPS刺激に応答してGFAP(Glialfibrillary acidic protein)を発現した。該発現は、従来の培養法で32日間培養した場合には認められなかった。なお、GFAPは、中間径フィラメントタンパク質の一つであり、アストロサイト系統の細胞で特異的に発現する。
【
図3】アストロサイトのGFAPプロモーターのメチル化状態の確認。GFAPのプロモーター・エンハンサー領域の3箇所のメチル化状態の解析により、従来の培養法では32日目には高度にメチル化されていた。一方、MGS培養法では32日目には脱メチル化状態が維持されていた。
【
図4】アストロサイト遺伝子発現パターンの確認。MGS培養法で培養されたアストロサイトは、従来の培養法で培養されたアストロサイトと比較して、マウスアストロサイトに特徴的な遺伝子を高いレベルで発現していた。
【
図5】MGS共培養法と従来の培養法での培養細胞の比較。脳組織での増殖能は、MGS共培養法での増殖能と強い相関を示しており、がん脳転移微小環境をよく模していた。
【
図6】MGS培養法を使用した共培養による脳転移指向性がん細胞の樹立方法(2)は、従来の脳転移指向性がん細胞の樹立方法(1:がん細胞をマウス心腔内に接種し、2週間~1カ月後に脳組織からがん細胞を回収する工程を複数回繰り返す)とは異なり、in vitroで可能である。
【
図7】MGS培養法を使用した共培養による脳転移指向性ヒト肺がん細胞に対するスクリーニングの一例。
【
図8】LY456236による肺がん細胞の増殖抑制能の結果。上は「PC9(肺がん細胞株)」であり、中央は「PC9-BrM4(脳転移指向性の高い肺がん細胞株)」であり、下は「PC9-AMG(MGS培養法により脳転移指向性を高めた肺がん細胞株)」である。
【
図9】(1)上段が「ゲル内にて単独培養された肺がん細胞」であり、下段が「MGS共培養された肺がん細胞」である。(2)マウス脳組織に転移した肺がん細胞。
【
図10】mGluR1に対するsiRNAによる肺がん細胞の増殖抑制能の結果。
【
図11】LY456236の生体内での肺がん脳転移の進展抑制能の結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の対象)
本発明の対象は、mGluR1の機能又は発現を抑制する有効成分を含む脳転移がん抑制剤又は治療剤である。
さらに、本発明の対象は、脳転移がん抑制剤又は治療剤に含まれる有効成分のスクリーニング方法である。
本発明の「脳転移がん抑制又は治療」とは、がん(がん細胞)の転移(転移性進行)を予防、阻害、遅延、改善、軽減、再発予防、完治等を含むが特に限定されない。
本発明の「脳転移」とは、脳以外の部位に発症した原発巣からがん細胞が離脱して脳内に浸潤し、脳内で増殖することを含むが特に限定されない。
【0013】
(代謝型グルタミン酸受容体1型:mGluR1)
mGlu受容体は、Gタンパク質共役受容体の「クラスC」サブグループに属し、オルソステリックなアゴニスト結合部位を含有する大きなN末端ドメインの存在によって識別されている。mGlu1を用いた研究に基づき、これらの受容体はホモ二量体として存在し、N末端ドメインが、2つのローブがヒンジ領域によってつながった「クラムシェル」構造を形成すると考えられている。グルタミン酸はこれらのローブの間に結合し、閉状態を安定化させ、ホモ二量体の膜貫通領域のコンホメーション変化を伝達してGタンパク質共役を促進する。多くのサブタイプと細胞内相互作用タンパク質(Homer、Pick-1など)にC末端スプライスバリアントが存在することから、mGlu受容体の機能は複雑な細胞内調節を受けることが知られている。
8つの受容体は、アミノ酸配列、Gタンパク質共役、薬理作用の類似性に基づき、3つのグループに分類されている。グループI(mGlu1及び5)はGqに結合し、イノシトールリン脂質の分解を介してシグナルを伝達する一方、グループII(mGlu2及び3)とグループIII(mGlu4、6、7及び8)はGi/o に結合し、アデニリルシクラーゼを阻害する。
アンタゴニストが同定されており、具体的にはグループIに対するLY393675、LY456236、グループIIに対するLY341495及びMGS0039、グループIIIに対するMAP4及びUPB1110などがある(参照:https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/protein-biology/protein-expression/glutamate-receptors-g-protein-family)
【0014】
(mGluR1の機能又は発現を抑制する有効成分)
本発明の「mGluR1の機能又は発現を抑制する有効成分」は、mGluR1の機能又は発現を抑制する作用を有するのであれば、高分子化合物であってもよいし低分子化合物であってもよい。
例えば、代謝型グルタミン酸受容体1型のアンタゴニストであるLY-393675(CAS番号: 394735-81-0、9H-Thioxanthene-9-propanoicacid, alpha-amino-alpha-(cis-3-carboxycyclobutyl)-, (alphaS)-)、LY 456236(CAS番号:338736-46-2、6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinamine hydrochlorid又は(4-Methoxy-phenyl)-(6-methoxy-quinazolin-4-yl)-amine hydrochloride)等を例示することができるが特に限定されない。
好ましい有効成分の一例として、6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochloride及びmGluR1に対するsiRNAを確認している。加えて、6-Methoxy-N-(4-methoxyphenyl)-4-quinazolinaminehydrochlorideで表される化合物の効果を阻害しない薬理学的に許容される塩(例、付加塩、塩酸塩)も好ましい。
【0015】
(がんを有する被験者)
本発明の「がんを有する被験者」は、がん(特に、転移性がん(肺がん、乳がん、悪性黒色腫、上部・下部消化管がん、肝臓がん、すい臓がん、頭頚部がん、甲状腺がん、膀胱がん、前立腺がん、血液がん))を有する、がんを有すると疑いのある、又は将来がんを発生する哺乳類全般(ヒト、ネコ、イヌ、ウマを含む)を含む。
【0016】
(投与方法、剤形)
本発明の脳転移がん抑制又は治療剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経静脈、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤などが挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。
本発明の脳転移がん抑制又は治療剤抑制剤は、有効成分の他に、投与形態に応じて、薬理学的に許容しうる担体を含ませることができる。薬理学的に許容しうる担体としては、例えば賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0017】
本発明の脳転移がん抑制又は治療剤の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、本発明の有効成分の投与量は、例えば、1日当たり、約0.001 mg/kg体重~100 mg/kg体重投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
本発明の脳転移がん抑制剤又は治療剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、衛生用品、食品、飲料、サプリメントにすることができる。
【0018】
(治療方法)
本発明は、脳転移がん抑制又は治療方法も対象とする。
上記述べた本発明の脳転移がん抑制剤又は治療剤と同様の有効成分、対象、投与方法、剤形、治療方法を採用することができる。
【0019】
(Mixed-glial culture on soft substrate(MGS培養法))
MGS培養法は、nativeな状態を維持したがん細胞(特に、転移性がん細胞)を培養できる脳微小環境を模倣した培養方法である。
MGS培養法に使用する培地の特性は以下の通りであるが、特に限定されない。
(1)ハイドロゲル培地は、例えば以下の組成を例示することができる。
・ Cellmatrix Type I-A (3.0 mg/ml, pH 3.0)(新田ゼラチン:637-00653)
・ 5x DMEM(DMEMpowder:ThermoFisher #12100046から作成)
・ Distilled water
・ 1M HEPES pH7.4
Cellmatrix : 5x DMEM : Distilled water :HEPES = 4 : 2 : 3.8 : 0.2にて混合
(2)細胞基礎培地成分:細胞が培養できる成分であれば特に限定されない。DMEM10%FBS
(3)細胞外マトリックス成分: 1.2 mg/ml以下が好ましい。
I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲンを例示することができる。
(4)ハイドロゲル培地のヤング率は、好ましくは12 Pa以下である。より好ましくは、10~3 Pa、さらに好ましくは8~5 Paである。
【0020】
(MGS培養法を使用した細胞の特徴)
MGS培養法は、
図1に示すように、従来の培養方法とは異なり、約4週間、アストロサイトとミクログリアの細胞比を一定に維持して培養することができる。
MGS培養法は、
図2に示すように、従来の培養方法とは異なり、アストロサイトの再活性化を誘導することができる。
MGS培養法は、
図3に示すように、従来の培養方法とは異なり、アストロサイトのGFAPプロモーターの脱メチル化状態を維持することができる。
MGS培養法は、
図4に示すように、従来の培養方法と比較して、アストロサイトに特徴的な遺伝子を高いレベルで発現することができる。
【0021】
(MGS培養法を使用した共培養によるがん細胞の培養方法)
MGS培養法を使用したがん細胞(特に、脳転移指向性がん細胞)の樹立方法は、MGS培養方法を使用した共培養(アストロサイト細胞とミクログリア細胞の共培養)を採用すれば、特に限定されないが、以下の工程を含むことを例示することができる。
(a) マウス新生仔脳組織より細胞を分離してMGS培養を開始する工程
マウス新生仔(P1-3)の脳を外科的に摘出する。これをMiltenyi社の神経組織分散キット(Neural TissueDissociation Kit (P) #130-092-628)を用いて単細胞に分離する。
(1) マウス脳組織を取り出し、CTube (1本あたり10匹まで処理可能)に入れる。
(2) 以下のmixtureを添加する。
Enzyme P 100 ul
Buffer X 3800 ul
Buffer Y 40 ul
Enzyme A 20 ul
合計:3960 ul
(3) gentleMACSTMOcto Dissociator withHeatersにセットし、プログラム37C_NTDK_1を実行する。
(4) DMEM 10%FBSを添加して細胞を遠沈する(1200 rpm x 5 min)。
(5) 上澄みを除去してDMEM10%FBSに再懸濁し、コラーゲンゲル上にて培養を開始する。
(b) MGS培養の継代に関する工程
(1) 1% (w/v) collagenase/PBS(collagenase powder (GIBCO:17018-029) より作成)をゲル総量の1/10(ゲルの体積が5 mlであれば500 ul)添加し、37℃インキュベータに10分静置する。
(2) DMEM 10%FBSを加えてチューブに回収し、細胞を遠沈する(1200 rpm, 5 min)。
(3) 上清を除去してトリプシン/EDTA溶液 2 mlを添加し、37℃インキュベータに5分静置する。
(4) DMEM 10%FBSを加えてチューブに回収し、細胞を遠沈する(1200 rpm, 5 min)。
(5) 混合グリア細胞の数をカウントし、5x105 cells/mlにてゲル上に播種する。
(c) MGS培養にがん細胞を添加して共培養を開始する工程
混合グリア細胞の培養開始から7日目以降にがん細胞を添加する。細胞数の比として、混合グリア細胞:がん細胞= 約2000:1として培養を開始する。がん細胞の種類によって増殖速度は異なるが、3週間以内に新たなMGS培養系への継代を行う。
(d) がん細胞をMGS共培養の状態から継代する工程
(1) 継代に際して適切な抗生剤の添加により、がん細胞のみのセレクション(24~48時間)を行う。
(2) 1% (w/v) collagenase/PBS(collagenase powder (GIBCO:17018-029) より作成)をゲル総量の1/10(ゲルの体積が5 mlであれば500ul)添加し、37℃インキュベータに10分静置する。
(3) DMEM 10%FBSを加えてチューブに回収し、細胞を遠沈する(1200 rpm, 5 min)。
(4) 上清を除去してトリプシン/EDTA溶液 2 ml を添加し、37℃インキュベータに5分静置する。
(5) DMEM 10%FBSを加えてチューブに回収し、細胞を遠沈する(1200 rpm, 5 min)。
(6) がん細胞の数をカウントし、樹立から7日間以上経過した新たなMGS培養プレート上に、混合グリア細胞:がん細胞 =約2000:1となるように播種する。
【0022】
(MGS培養法を使用した共培養によるがん細胞の特性)
MGS培養法はがん脳転移微小環境を良く模しており、
図5に示すようにがん細胞の脳組織での増殖能とMGS共培養環境での増殖能には相関関係がある。
MGS培養法にて共培養されたがん細胞は脳転移指向性を獲得する。
図6に示すように、従来の方法(がん細胞のマウス心腔内接種と脳組織からの回収の繰り返しによるin vivo法)で作製した脳転移指向性がん細胞と同様に、高い脳転移指向性を示す。
【0023】
(脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分をスクリーニングする方法)
下記の実施例により、脳転移後にがん細胞(特に、肺がん細胞)はmGluR1遺伝子又はタンパク質を優位に発現し、さらに、発現したmGluR1が抑制されることにより該がん細胞の増殖を抑制されることを確認している。
これにより、本発明の「脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分をスクリーニングする方法」は、以下の工程を含むことにより、脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分を得ることができる。
(a)ミクログリア細胞及びアストロサイト細胞と共培養している転移性がん細胞と試験化合物を接触させる工程。
(b)該がん細胞におけるmGluR1遺伝子発現量又はタンパク質発現量を測定する工程。
なお、上記がん細胞におけるmGluR1遺伝子発現量又はタンパク質発現量は、試験化合物を含まないコントロールのそれと比較して、減少していれば、該試験化合物は脳転移がん抑制剤又は治療剤の有効成分であると判定される。
また、mGluR1遺伝子発現量又はタンパク質発現量の測定方法は自体公知の方法を使用できる。
【0024】
(試験化合物)
上記スクリーニングで使用する剤候補物質となる試験化合物としては任意の物質を使用することができる。試験化合物の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物(例えばsiRNA)でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
試験化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー又はコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー及びコンビナトリアルライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【実施例0025】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例は、金沢大学遺伝子組換え実験安全委員会及び動物実験委員会の承認を受けた。実施例に使用した材料及び方法は以下の通りである。
【0026】
(材料及び方法)
(1) がん細胞と混合グリア細胞を1:0~1:10の比率でゲル内に混合し、これを培養プレートに播種した。96ウェルプレートで実験を行う場合、がん細胞と混合グリア細胞の数はゲル100 ulに対してそれぞれ1 x 105個及び0~106個となった。
(2) ゲルが固まったらDMEM10%FBSを添加し、24時間培養した。
(3) 共培養開始から24時間後に、薬剤を含んだ培地を添加した。
(4) 薬剤の添加から48時間後に発光イメージング又は蛍光イメージングにより、生存がん細胞の数を定量した。