(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011735
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】ヘテロシクリデンアセトアミド誘導体含有医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20230117BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P27/02
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171542
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2022017196の分割
【原出願日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019184053
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】樽井 毅
(72)【発明者】
【氏名】小林 真也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ドライアイの治療手段を提供する。
【解決手段】本開示において、ドライアイを治療するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物又はその使用が提供され得る。本開示において、ドライアイを治療するための、Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物又はその使用が提供され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイを治療するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
【請求項2】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ドライアイは、自覚症状を伴うものである、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ドライアイは、乾燥に伴う眼不快感を伴うものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ドライアイは、他覚症状を伴うものである、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ドライアイは、自覚症状および他覚症状を伴うものである、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、若しくは(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はそれらの薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の濃度が、約0.1~約1.0w/v%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
点眼剤である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
懸濁液である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記組成物を投与することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、Vi/Vc領域阻害剤。
【請求項13】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、請求項12に記載のVi/Vc領域阻害剤。
【請求項14】
乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、約0.3~約1.0w/v%の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む懸濁液。
【請求項15】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドが、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、請求項14に記載の懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬、ヘルスケア、生物学及びバイオテクノロジー等の分野に関する。本開示は、とりわけ、Vi/Vc領域阻害剤の応用および/またはドライアイの症状の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
日本でのドライアイ患者人口は少なくとも約800万人、通院しないで市販点眼剤を使用している潜在患者も含めると約2,200万人いると見込まれ、世界では10億人以上存在するともいわれる。現代社会ではテレビ、コンピュータ、携帯端末等の利用により画面を注視する場面が多くなり瞬目回数が減少し、更にはエアコンの使用等により空気が乾燥し、結果的に涙液の蒸発が亢進し、ドライアイを引き起こすことが広く知られている。また、屈折矯正手術及びコンタクトレンズの使用により、結果的にドライアイになる。ドライアイに伴う症状としては、眼表面の眼不快感、乾燥感、灼熱感及び刺激感などが挙げられる。ドライアイのより重度の形態は、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患や、スティーブンス・ジョンソン症候群等の病気により涙腺が破壊されて、引き起こされるものもある(非特許文献1)。
【0003】
ドライアイ治療効果は、外部的な観察や評価(他覚所見)及び眼不快感や異物感(自覚症状)といった患者の主観的視点から評価されている。他覚所見では、涙液量や角結膜上皮における障害部位の観察が評価項目とされている。しかしながら、日本で販売されているヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピドや米国で販売されているシクロスポリンは、各々ドライアイの処方点眼剤として承認されているが、他覚所見の改善に加え、主要評価項目として自覚症状の改善を満たすものとして承認されたものは少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ファルマシアVol.50 No.3 2014:201~206
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ヘテロシクリデンアセトアミド誘導体の一つである、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドを用いた新規ドライアイ治療剤、その使用、治療又は予防のための方法等に関する。本開示は、また、当該化合物を用いたVi/Vc領域阻害剤、その使用、治療又は予防のための方法等に関する。
【0006】
本開示の別の局面は、Vi/Vc領域阻害剤を用いたドライアイを予防及び/又は治療するための組成物、その使用、治療又は予防のための方法等に関する。
【0007】
ドライアイの治療は、ドライアイの自覚症状の改善であり得る。ドライアイの治療は、更に、ドライアイの他覚症状の改善を含み得る。本開示において、ドライアイの治療は、ドライアイの自覚症状及び他覚症状の両方の改善を含み得る。
【0008】
本開示の実施形態の例として、以下が含まれる。
(項目1) ドライアイを治療するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
(項目2) ドライアイの自覚症状を改善するための、前記項目に記載の組成物。
(項目2A) 前記ドライアイは、自覚症状を伴うものである、前記項目に記載の組成物。
(項目3) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目3A) 前記ドライアイは、乾燥に伴う眼不快感を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目4) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目4A) 前記ドライアイは、他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目5) ドライアイの自覚症状および他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目5A) 前記ドライアイは、自覚症状および他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目6) 前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の濃度が、約0.1~約1.0w/v%である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目7) 点眼剤である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目8) 懸濁液である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目9) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目10) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記組成物を投与することを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目11) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
(項目12) ドライアイの自覚症状を改善するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
(項目13) ドライアイの他覚症状を改善するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
(項目14) 角膜上皮障害を治療するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
(項目15) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、約0.3~約1.0w/v%の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む懸濁液。
(項目16) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、Vi/Vc領域阻害剤。
(項目17) Vi/Vc領域阻害剤を含む、ドライアイを治療するための組成物。
(項目18) ドライアイの自覚症状を改善するための、前記項目に記載の組成物。
(項目19) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目20) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目21) 点眼剤である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目22) 懸濁液である、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目23) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目24) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記組成物を投与することを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目25) Vi/Vc領域阻害剤を含む乾燥に伴う眼不快感を抑制するための組成物。
(項目26) Vi/Vc領域阻害剤を含むドライアイの自覚症状を改善するための組成物。
(項目27) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである前記項目のいずれかに記載の組成物。
【0009】
本開示の別の実施形態の例として、以下が含まれる。
(項目A1) 必要とする患者においてドライアイを治療する方法であって、該患者に(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、方法。
(項目A2) ドライアイの自覚症状を改善するための、前記項目に記載の方法。
(項目A2A) 前記ドライアイは、自覚症状を伴うものである、前記項目に記載の方法。
(項目A3) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A3A) 前記ドライアイは、乾燥に伴う眼不快感を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A4) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A4A) 前記ドライアイは、他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A5) ドライアイの自覚症状および他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A5A) 前記ドライアイは、自覚症状および他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A6) 前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、約0.1~約1.0w/v%の濃度で投与される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A7) 前記化合物が点眼剤として投与される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A8) 前記化合物が懸濁液として投与される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A9) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A10) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記化合物が投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A11) 必要とする患者において乾燥に伴う眼不快感を抑制する方法であって、該患者に(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、方法。
(項目A12) 必要とする患者においてドライアイの自覚症状を改善する方法であって、該患者に(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、方法。
(項目A13) 必要とする患者においてドライアイの他覚症状を改善する方法であって、該患者に(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、方法。
(項目A14) 必要とする患者において角膜上皮障害を治療する方法であって、該患者に(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、方法。
(項目A15) 必要とする患者において乾燥に伴う眼不快感を抑制するための方法であって、該患者に、約0.3~約1.0w/v%の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む懸濁液を投与する工程を含む、方法。
(項目A16) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、Vi/Vc領域の阻害方法。
(項目A17) 必要とする患者においてドライアイを治療する方法であって、Vi/Vc領域阻害剤を投与する工程を含む、方法。
(項目A18) ドライアイの自覚症状を改善するための、前記項目に記載の方法。
(項目A19) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A20) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A21) 前記Vi/Vc領域阻害剤が点眼剤として投与される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A22) 前記Vi/Vc領域阻害剤が懸濁液として投与される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A23) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A24) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記Vi/Vc領域阻害剤が投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A25) 必要とする患者において乾燥に伴う眼不快感を抑制する方法であって、該患者にVi/Vc領域阻害剤を投与する工程を含む、方法。
(項目A26) 必要とする患者においてドライアイの自覚症状を改善する方法であって、該患者にVi/Vc領域阻害剤を投与する工程を含む、方法。
(項目A27) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである前記項目のいずれかに記載の方法。
【0010】
本開示の別の実施形態の例として、以下が含まれる。
(項目B1) ドライアイの治療における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B2) ドライアイの自覚症状を改善するための、前記項目に記載の使用のための化合物。
(項目B2A) 前記ドライアイは、自覚症状を伴うものである、前記項目に記載の使用のための化合物。
(項目B3) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B3A) 前記ドライアイは、乾燥に伴う眼不快感を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B4) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B4A) 前記ドライアイは、他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B5) ドライアイの自覚症状および他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B5A) 前記ドライアイは、自覚症状および他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B6) 前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の濃度が、約0.1~約1.0w/v%である、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B7) 点眼剤に含有される、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B8) 懸濁液に含有される、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B9) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B10) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物。
(項目B11) 乾燥に伴う眼不快感の抑制における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B12) ドライアイの自覚症状の改善における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B13) ドライアイの他覚症状の改善における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B14) 角膜上皮障害の治療における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B15) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物であって、該化合物は、懸濁液である組成物中に約0.3~約1.0w/v%で含有される、化合物。
(項目B16) Vi/Vc領域阻害における使用のための、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物。
(項目B17) ドライアイの治療における使用のための、Vi/Vc領域阻害剤。
(項目B18) ドライアイの自覚症状の改善のための、前記項目に記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B19) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B20) ドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B21) 点眼剤である、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B22) 懸濁液である、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B23) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B24) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記阻害剤が投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B25) 乾燥に伴う眼不快感の抑制における使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B26) ドライアイの自覚症状の改善における使用のためのVi/Vc領域阻害剤。
(項目B27) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである、前記項目のいずれかに記載の使用のための化合物又はVi/Vc領域阻害剤。
【0011】
本開示の別の実施形態の例として、以下が含まれる。
(項目C1) ドライアイを治療するための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C2) 前記医薬がドライアイの自覚症状を改善するためのものである、前記項目に記載の使用。
(項目C2A) 前記ドライアイは、自覚症状を伴うものである、前記項目に記載の使用。
(項目C3) 前記医薬が乾燥に伴う眼不快感を抑制するためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C3A) 前記ドライアイは、乾燥に伴う眼不快感を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C4) 前記医薬がドライアイの他覚症状を改善するためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C4A) 前記ドライアイは、他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C5) 前記医薬がドライアイの自覚症状および他覚症状を改善するためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C5A) 前記ドライアイは、自覚症状および他覚症状を伴うものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C6) 前記医薬における前記(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の濃度が、約0.1~約1.0w/v%である、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C7) 前記医薬が点眼剤である、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C8) 前記医薬が懸濁液である、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C9) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C10) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記医薬が投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C11) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C12) ドライアイの自覚症状を改善するための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C13) ドライアイの他覚症状を改善するための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C14) 角膜上皮障害を治療するための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C15) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための医薬の製造における、約0.3~約1.0w/v%の(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む懸濁液の使用。
(項目C16) Vi/Vc領域阻害のための医薬の製造における、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物の使用。
(項目C17) ドライアイを治療するための医薬の製造における、Vi/Vc領域阻害剤の使用。
(項目C18) 前記医薬がドライアイの自覚症状を改善するためのものである、前記項目に記載の使用。
(項目C19) 前記医薬が乾燥に伴う眼不快感を抑制するためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C20) 前記医薬がドライアイの他覚症状を改善するための、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C21) 前記医薬が点眼剤である、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C22) 前記医薬が懸濁液である、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C23) 前記ドライアイは、涙液減少型ドライアイである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C24) 眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、前記医薬が投与されることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C25) 乾燥に伴う眼不快感を抑制するための医薬の製造における、Vi/Vc領域阻害剤の使用。
(項目C26) ドライアイの自覚症状を改善するための医薬の製造における、Vi/Vc領域阻害剤の使用。
(項目C27) (E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、好ましくは、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドである前記項目のいずれかの使用。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、ドライアイの新規な予防及び/又は治療の手段が提供され、好ましくは、自覚症状の改善、より好ましくは、自覚症状及び他覚症状の両方の改善が実現され得る。また、本開示の組成物又は方法は、ドライアイに対する即効性のある治療を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、薬物投与後のラットにおける点状表層角膜症(SPK)スコアの変化を示す図である。0.3% w/v化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して投与7日後(術後15日後)にSPKスコアを有意に低減し、投与14日後(術後22日後)もその効果は持続していた。なお、スコポラミン誘発ラットドライアイモデルをSCOP、スコポラミンの代わりに生理食塩水を充填したモデルをSalineと記載する。
【
図2】
図2は、基剤点眼液又は0.1w/v%、0.3w/v%若しくは1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液の投与0.5時間後の5分間での瞬目回数を示す図である。化合物(1)は0.1w/v%から1.0w/v%の範囲で瞬目回数を減少させ、0.3w/v%及び1.0w/v%で有意な効果がみられた。
【
図3】
図3は、基剤点眼液を単回点眼投与した0.5時間後又は1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を単回点眼投与した0.5、4若しくは8時間後の5分間の瞬目回数を示す図である。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を点眼投与してから0.5、4及び8時間後の瞬目回数は基剤点眼液を投与してから0.5時間後の瞬目回数よりも減少させることができ、特に、0.5及び4時間後において瞬目回数を有意に減少させた。
【
図4】
図4は、基剤点眼液又は1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を8日間反復点眼投与した後のラットにおけるSPKスコアの変化を示す図である。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して投与7日後(術後15日後)にSPKスコアを低減した。
【
図5】
図5は、基剤点眼液又は1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を8日間反復点眼投与した後のラットにおける5分間の瞬目回数を示す図である。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して瞬目回数を減少させた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」等)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(定義)
本明細書において、「約」とは、特に断らない限り、後に続く数値の±10%を意味する。
【0016】
本明細書において「被験体」とは、本開示の治療及び予防するための医薬又は方法の投与(移植)対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)が挙げられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0017】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも一つ以上」を採用できるときに使用される。「若しくは」及び「或いは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0018】
本明細書において、「治療」とは、疾患若しくは症状の治癒、改善或いは症状の抑制又は緩和を意味する。「ドライアイを治療する」とは、他覚症状又は自覚症状を治療することを包含する。
【0019】
本明細書において、「予防」(prophylaxis)とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味し、この概念には、疾患又は症状の発現を遅延させることや、発症前に処置すること等により、疾患又は症状の発現を最小化することも包含される。
【0020】
本明細書において、「薬学的に許容可能な塩」とは、比較的非毒性の、本開示の化合物の無機又は有機の酸付加塩をいう。これらの塩は、化合物の最終的な単離及び精製の間に一時的に、又はその遊離塩基型で精製された化合物を適切な有機若しくは無機の酸と別々に反応させること、及びそのように形成された塩を単離することによって調製することができる。
【0021】
本明細書において、「溶媒和物」とは、本開示の化合物又はその薬学的に許容される塩の溶媒和物を指し、例えば有機溶媒との溶媒和物(例えば、アルコール(エタノール等)和物)、水和物等を包含する。水和物を形成するときは、任意の数の水分子と配位していてもよい。水和物としては、1水和物、2水和物等を挙げることができる。
【0022】
本明細書において、「ドライアイ」とは、臨床上の診断基準に沿って「ドライアイ」と診断される疾患を指し、「様々な要因による涙液及び眼表面の疾患であり、眼不快感、視機能異常、涙液層の不安定化、又は眼表面の障害を伴う多因子疾患」と定義される。ドライアイの診断は、代表的には、フルオレセイン染色によるBUTが5秒以下であり、かつ、自覚症状(眼不快感又は視機能異常)を有することを観察することでなされる。
【0023】
本明細書において、「自覚症状」とは、疾患の症状のうち、疾患に罹患している患者において知覚され得る症状を指す。
【0024】
本明細書において、「他覚症状」とは、疾患の症状のうち、画像所見・検査結果の数値等の所見(他覚所見)によって客観的に証明ができる症状を指す。
【0025】
本明細書において、「眼不快感」とは、眼が不快である又は常に目が気になる症状を指す。
【0026】
本明細書において、「乾燥に伴う眼不快感」とは、低湿度等の乾燥が原因で生じる眼不快感を指し、眼痛は含まない。
【0027】
本明細書において、「涙液減少型ドライアイ」とは、シェーグレン症候群、加齢や移植片対宿主病(GVHD)等により涙腺の組織破壊又は涙腺から眼表面への導涙障害によって発症し、涙液量が減少したドライアイを指す。
【0028】
本明細書において、ある対象の「阻害」とは、その阻害の対象によって生体内で生じる現象を低減又は消失させることを指し、「拮抗」とは、「阻害」のうち、本来相互作用すべき分子(リガンド、基質など)と競合することで阻害作用が実現される様式を指す。
【0029】
本明細書において、「Vi/Vc領域を阻害する」とは、延髄のVi/Vc領域における神経興奮、つまり侵害受容に対する信号の伝達を低減又は消失させることを指す。
【0030】
本明細書において、「Vi/Vc領域阻害剤」とは、Vi/Vc領域を阻害させるための剤を指す。「Vi/Vc領域阻害剤」としては、例えば当該作用を有する物質、因子、手段の非存在下と比較して、Vi/Vc領域における神経興奮を低減又は消失させる任意の物質、因子、手段等が挙げられる。
【0031】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、治療薬、予防薬、それらの各々の成分、説明書等)が提供されるユニットを指す。
【0032】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師又は他の使用者に対する説明を記載したものを指す。
【0033】
(化合物)
本開示において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む組成物、又はそれらの使用の方法が提供され得る。(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドには、R体(CAS.No.920332-28-1)、S体(CAS.No.920332-29-2)、又はラセミ体(CAS.No.920332-27-0)が含まれるが、より好ましくは、R体((E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-((7R)-7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド(本開示において化合物(1)とも称する))である。
【0034】
本開示の化合物の薬学的に許容可能な塩としては、製薬学的に許容しうる塩であれば特に限定されないが、具体的には、塩酸、臭化水素酸、よう化水素酸、硫酸、硝酸、りん酸等の鉱酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、エナント酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、乳酸、ソルビン酸、マンデル酸等の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸、しゅう酸、マロン酸、こはく酸、フマル酸、マレイン酸、りんご酸、酒石酸等の脂肪族ジカルボン酸、クエン酸等の脂肪族トリカルボン酸などの有機カルボン酸類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸などの有機スルホン酸類;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類等との酸付加塩、及びナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等の金属との塩、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、ピリジン、リシン、アルギニン、オルニチン等の有機塩基との塩や、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
これらの塩は常法,例えば、当量の本開示の化合物群と所望の酸或いは塩基等を含む溶液を混合し、所望の塩をろ取するか、又は溶媒を留去して集めることにより得られうる。また、本開示の化合物又はその塩は、水、エタノール、グリセロールなどの溶媒と溶媒和物を形成しうる。
【0036】
(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドは、優れたTransient Receptor Potential Vanilloid 1(以下、「TRPV1」と記す。TRPV1は、「一過性受容体電位バニロイド1」、又は「バニロイド受容体1(VR1)」とも称される)拮抗作用を有する。
【0037】
((E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドの、R体(化合物(1))、S体、又はラセミ体に関しては、国際公開第2007/010383号パンフレット、日本特許第4754566号、日本特許第6230743号及び国際公開第2018/221543号パンフレットを参照。前記R体(化合物(1))、S体、又はラセミ体は、当該公報記載の製造方法により製造することができる。又、当該公報の記載内容は、そのすべてが本明細書において援用される。
【0038】
TRPV1は、後根神経節(DRG)からカプサイシンに応答するカチオンチャネルとしてクローニングされ、43℃以上の熱やプロトンにも感受性を持ち、侵害受容の主要分子として研究されているTRPチャネルである(生化学第85巻第7号:561~565)。TRPV1は、炎症時や組織損傷時にはその活性が高まり、痛覚過敏を惹起することが知られている。そのため、TRPV1は疼痛治療に使用できる薬剤標的候補として着目されている。
【0039】
TRPV1拮抗剤は従来から炎症性疼痛、神経障害性疼痛や変形性関節症等の様々な疼痛モデルに対して有効性を示すことが報告されている(生化学第85巻第7号:561~565)。
【0040】
本開示の実施例において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、Vi/Vc領域阻害剤として使用し得ることが示されている。本開示において、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、Vi/Vc領域阻害剤が提供され得る。(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミドはVi/Vc領域阻害活性があるため、本明細書の他の箇所において詳述されるように、ドライアイの自覚症状の改善においても使用可能であり、特に、乾燥に伴う眼不快感への効果が期待され得る。
【0041】
(ドライアイ)
本開示において、ドライアイを予防及び/又は治療するための組成物、医薬、方法等が提供され得る。本開示において(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド(その薬学的に許容可能な塩、溶媒和物等であってもよい)が、ドライアイの治療に用いられ得ることが示されている。また、別の実施形態において、本開示において、Vi/Vc領域阻害剤がドライアイの治療に用いられ得ることが示されている。本開示の組成物で治療されるドライアイの治療又は予防としては、特に限定されないが、自覚症状の改善又は他覚症状の改善が挙げられる。
【0042】
(自覚症状の改善)
一つの実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、ドライアイの自覚症状を改善するためのものであり得る。別の実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、自覚症状を伴うドライアイを改善するためのものであり得る。本開示の組成物は自覚症状を改善することにより、特に限定されないが、眼不快感、乾燥感、視機能、眼精疲労、異物感、羞明感、又は霧視を改善することができる。本開示の組成物は、より微弱な刺激を効果的に抑制するという観点から、好ましくは眼不快感又は乾燥感、より好ましくは眼不快感を改善する。
【0043】
(眼不快感)
一つの実施形態では、本開示の組成物は、眼不快感を抑制することができる。本開示の組成物で抑制される眼不快感としては、特に限定されないが、乾燥、炎症又は涙液層の不安定性等が原因となる。本開示の組成物は、より治療効果を有するという観点から、好ましくは乾燥に伴う眼不快感を抑制する。
【0044】
(他覚症状の改善)
一つの実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、ドライアイの他覚症状を改善するためのものであり得る。別の実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、他覚症状を伴うドライアイを改善するためのものであり得る。ドライアイの他覚症状の改善は、例えば、シルマーテスト、フルオレセイン染色試験、涙液層破壊時間(BUT)試験、瞬目回数等の値の変化又は改善を含み得る。本開示の組成物は他覚症状を改善することにより、特に限定されないが、点状表層角膜症(SPK)、涙液層破壊時間(BUT)、涙液分泌、充血又は角結膜上皮障害を改善することができる。本開示の組成物は、より治療効果を有するという観点から、好ましくは点状表層角膜症(SPK)を改善する。
【0045】
(自覚症状および他覚症状の改善)
好ましい実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、ドライアイの自覚症状および他覚症状の両方を改善するためのものであり得る。別の好ましい実施形態では、本開示の組成物、医薬又は方法は、自覚症状および他覚症状の両方を伴うドライアイを改善するためのものであり得る。自覚症状および他覚症状は本明細書の別の個所に記載されている任意のものであり得る。この好ましい実施形態では、本開示の組成物は、理論に束縛されることを望まないが、自覚症状および他覚症状をいちどきに改善、治療または抑制することができるという点で有利であり得る。
【0046】
(角膜上皮障害)
別の局面では、本開示の組成物は、角膜上皮障害を治療することができる。本開示の組成物で治療される角膜上皮障害は、角膜上皮細胞の損傷(すなわち、創傷または欠損)を伴う疾患であり、特に限定されないが、涙液減少症、シェーグレン症候群、スティーブンス-ジョンソン症候群、眼球乾燥症候群(ドライアイ)等の内因性疾患:術後、薬剤性、外傷、コンタクトレンズ装用等による外因性疾患に起因する角膜上皮障害が挙げられる。また、本開示の組成物は、角膜創傷治癒を促進することができる。
【0047】
(ドライアイのタイプ)
ドライアイは、いくつかの方法で分類が提唱されているが、主に「涙液減少型」、「蒸発亢進型」、「BUT短縮型」に分けられる。涙液減少型は、シェーグレン症候群、加齢や移植片対宿主病(GVHD)等により涙腺の組織破壊又は涙腺から眼表面への導涙障害によって発症するドライアイである。重症の患者では、強い角膜上皮障害を生じることが多い(「読めばわかる!わかれば変わる!ドライアイ診療、出典:メジカルビュー社、2017年10月1日刊行、46-58頁」、「専門医のための眼科診療クオリファイ 19 ドライアイスペシャリストの道 出典:株式会社中山書店、2013年11月5日刊行、103-106頁」)。一方、蒸発亢進型は、涙液分泌機能は正常であるが、マイボーム腺機能不全、兎眼等の閉瞼不全、VDT(Visual Display Terminals)作業等による瞬目減少等により露出した眼表面から水分が過剰に消失することで発症するドライアイである。(同上。)また、BUT短縮型は、BUTが短く、ドライアイの自覚症状を有するが、涙液分泌や角結膜上皮はほぼ正常なタイプのドライアイである(日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版) あたらしい眼科、出典:メディカル葵出版、2017年3月号、309-313頁」)。本開示の組成物で治療又は予防できるドライアイとしては、特に限定されないが、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ又はBUT短縮型ドライアイがある。本開示の組成物がより治療効果を有するという観点から、好ましくは涙液減少型ドライアイを治療する。
【0048】
(Vi/Vc領域の阻害)
通常の動物において強制的に眼部を乾燥させた場合、延髄のVi/Vc領域において、神経興奮マーカーであるc-Fosの陽性細胞数が増加していることから、乾燥に伴う眼不快感はVi/Vc領域を経由した神経が関与していると考えられる(The Journal of Neuroscience, April 28, 2004・24(17):4224-4232)。また、涙液減少型ドライアイのモデルである眼窩外涙腺摘出ラットドライアイモデルにおいても、延髄のVi/Vc領域においてc-Fosの陽性細胞数が増加していることから(Neuroscience. 2015. 290. 204-213)、涙液減少型ドライアイの自覚症状にある乾燥に伴う眼不快感は、Vi/Vc領域を経由した神経が関与している。
【0049】
三叉神経脊髄路核は吻側亜核(Vo)、中間亜核(Vi)、尾側亜核(Vc)に分類され、口腔顔面領域からの痛覚や触覚等の侵害受容又は非侵害受容の信号伝達を中継している。角膜の刺激は主にVc/c1領域又はVi/Vc領域の経路を経由して伝達し(J Neurophysiol. 1997 Jan;77(1):43-56.)、刺激の種類によって反応する領域が異なる。熱やカプサイシン等の侵害受容刺激、いわゆる強い刺激に対しては、Vc/c1領域が反応するのに対し(Headache. 2012 February; 52(2): 262-273、「三叉神経領域へのカプサイシン刺激による侵害受容に対するエストロゲンの影響」山形 和彰 大阪大学論文)、乾燥等の弱い刺激にはVi/Vc領域が反応することが知られている(The Journal of Neuroscience, April 28, 2004・24(17):4224-4232)。
【0050】
ドライアイの処方点眼剤として承認されている現行の点眼剤は、他覚症状を改善するものがほとんどであり、他覚症状に加え自覚症状に対して直接的に治療するものは出願人が知る限り見当たらない。そのため、他覚症状及び自覚症状の両方を改善するドライアイ治療用の点眼剤は非常に望ましい。
【0051】
本開示の組成物は、眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、当該組成物を投与することを特徴とし得る。本開示の組成物は、点状表層角膜症(SPK)の他覚所見が認められ、ドライアイと診断された患者に、当該組成物を投与することを特徴とし得る。
【0052】
(Vi/Vc領域阻害剤)
本開示の一つの局面において、Vi/Vc領域阻害剤が提供され得る。本開示のVi/Vc領域阻害剤は、Vi/Vc領域の侵害受容に対する信号の伝達を変化させるものであり得、例えば、侵害受容後のVi/Vc領域のc-Fos発現細胞数を減少させ得る。記憶や不安関連の行動実験をした際に、その刺激に対して反応した神経細胞では、約30分後にはmRNAレベルで、1~2時間後にはタンパク質レベルでのc-Fos発現上昇がみられる。c-Fosは神経細胞活動性の指標として用いられている。
【0053】
Vi/Vc領域阻害剤として、Vi/Vc領域の興奮を抑制する物質、Vi/Vc領域の機能を抑制する物質が挙げられるが、Vi/Vc領域の興奮の阻害を実現する複数の物質の組み合わせ等もVi/Vc領域阻害剤に含まれる。本開示において、Vi/Vc領域阻害剤は、Vi/Vc領域阻害化合物であってよい。Vi/Vc領域阻害化合物として、代表的には、本開示において提供される(Vi/Vc領域阻害化合物)に記載の化合物(例えば、(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド若しくは化合物(1)又はそれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物等)を挙げることができるがこれに限定されない。Vi/Vc領域阻害剤として使用されうる物質としてはまた、抗体、核酸等の機能が特定された他の生体分子等も挙げることができる。
【0054】
その他のVi/Vc領域阻害剤の例として、例えば、Vi/Vc領域の興奮又は機能を抑制するように遺伝子改変を行う手段や、Vi/Vc領域の興奮又は機能を抑制する活性を有する細胞等も挙げられ得る。本開示のVi/Vc領域阻害剤は、Vi/Vc領域の調節が有用である疾患又は状態等にも有効であり得る。
【0055】
Vi/Vc領域の興奮を抑制する物質又はVi/Vc領域の機能を抑制する物質としては、Vi/Vc領域の興奮を抑制する低分子化合物、高分子化合物、核酸、又は抗体、或いはVi/Vc領域の機能を抑制する低分子化合物、高分子化合物、核酸、又は抗体等が挙げられ得る。
【0056】
(Vi/Vc領域阻害化合物)
本開示の実施形態において、Vi/Vc領域阻害剤として使用されうる化合物を提供する。Vi/Vc領域阻害剤として使用されうる化合物としては、例えば、本明細書において記載される(E)-2-(7-トリフルオロメチルクロマン-4-イリデン)-N-(7-ヒドロキシ-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル)アセトアミド若しくは化合物(1)又はそれらの薬学的に許容可能な塩、溶媒和物が挙げられる。
【0057】
Vi/Vc領域阻害剤として使用されうる化合物の薬学的に許容可能な塩としては、製薬学的に許容しうる塩であれば特に限定されないが、具体的には、塩酸、臭化水素酸、よう化水素酸、硫酸、硝酸、りん酸等の鉱酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、エナント酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、乳酸、ソルビン酸、マンデル酸等の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸、しゅう酸、マロン酸、こはく酸、フマル酸、マレイン酸、りんご酸、酒石酸等の脂肪族ジカルボン酸、クエン酸等の脂肪族トリカルボン酸などの有機カルボン酸類;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸などの有機スルホン酸類;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類等との酸付加塩、及びナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等の金属との塩、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、ピリジン、リシン、アルギニン、オルニチン等の有機塩基との塩や、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0058】
(Vi/Vc領域阻害剤の用途)
本開示の一つの局面において、Vi/Vc領域阻害剤を含む、ドライアイを予防又は治療するための組成物、医薬又はそれを用いる方法が提供され得る。Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物、医薬又はそれを用いる方法は、ドライアイの自覚症状を改善するためのものであり得、例えば、乾燥に伴う眼不快感を抑制するためのものであり得る。Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物又はそれを用いる方法は、更にドライアイを改善するためのものであってよい。Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物は、点眼剤であってよい。Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物は、懸濁液であってよい。ドライアイとして、涙液減少型ドライアイを治療の対象とし得る。Vi/Vc領域阻害剤を含む組成物は、眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に、当該組成物を投与することを特徴とし得る。本開示において、Vi/Vc領域阻害剤を含む乾燥に伴う眼不快感を抑制するための組成物が提供され得る。また、本開示において、Vi/Vc領域阻害剤を含むドライアイの自覚症状を改善するための組成物が提供され得る。
【0059】
別の局面において、Vi/Vc領域阻害剤を含む、乾燥に伴う眼不快感を抑制又は改善するための組成物、医薬又はそれを用いる方法が提供され得る。この用途では、対象患者はドライアイとの診断を受けていなくてもよい。本開示において、Vi/Vc領域を調節することにより、眼不快感を抑制又は改善することができることが見出され、当該用途を提供するに至った。
【0060】
ドライアイ、特に涙液減少型ドライアイの自覚症状(例えば、乾燥に伴う眼不快感)は、とりわけ、Vi/Vc領域を通して知覚されるものと考えられ、Vi/Vc領域阻害剤によりかかる症状が改善され得る。加えて、本明細書の実施例においては、Vi/Vc領域阻害剤により、ドライアイの他覚症状(例えば、SPK(点状表層角膜症))の改善が提供され得ることが示されている。
【0061】
(剤形)
本開示の組成物は、適切な剤形に製剤化され得る。例えば、本開示における組成物は、眼科用組成物である場合に、眼注射液、眼軟膏、点眼剤又は眼灌流液として提供され得る。組成物は、エアゾール、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、散剤、錠剤、溶液、懸濁液、エマルジョン等の任意の剤形に製剤化することができる。
【0062】
例えば、眼科用組成物は、水性の溶媒(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)に有効成分を懸濁させた懸濁液の形態、或いは溶解させた液剤の形態で提供され得る。本開示の組成物は、点眼剤であり得る。本開示の組成物は、懸濁液であり得る。
【0063】
本開示の組成物は、当業者によって決定される任意の適切な経路によって投与することができ、限定されるものではないが、眼注射、局所適用(眼への適用を含む)、点眼、静脈注射、点滴、経口、非経口、経皮等から選択される投与経路による投与に適するように製剤化され得る。
【0064】
(添加物及び/又は賦形剤)
組成物は、当該技術分野で公知の任意の薬学的に許容される添加物及び/又は賦形剤を含んでよい。添加剤としては、安定化剤、pH調節剤、緩衝剤、防腐剤及び界面活性剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられ、その含有量は、組成物全量に対して0~約1w/v%が好ましい。
【0066】
pH調節剤としては、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、更に水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩等の塩基等が挙げられ、その含有量は、組成物全量に対して例えば0~約20w/v%が挙げられる。
【0067】
防腐剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられ、その含有量はその種類により適宜変えることができるが、組成物全量に対して例えば0~約0.2w/v%が挙げられる。
【0068】
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤又は陽イオン性界面活性剤等が挙げられる。より毒性が少ないという観点から好ましくは非イオン性界面活性剤である。
【0069】
非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン(40)モノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル40)、ソルビタンセスキオレエート(セスキオレイン酸ソルビタン)又はポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)等が挙げられる。
【0070】
陰イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α-スルホメチルエステル、α-オレフィンスルホン酸等が挙げられる。
【0071】
陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0072】
界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、例えば組成物全量に対して0~約1.0w/v%である。
【0073】
点眼剤を調製する場合、例えば、所望の上記成分を滅菌精製水、生理食塩水、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液等。)等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。懸濁液とする場合、界面活性剤を含有させ得る。
【0074】
なお、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤;油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤等の水溶性基剤等が挙げられる。
【0075】
本開示の組成物は治療剤若しくは予防剤はキットとして提供することができる。特定の実施形態では、本開示は、本開示の組成物又は医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パック又はキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用又は販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0076】
(キット)
本明細書において「キット」は、特に限定されないが、安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに使用される。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、治療薬、予防薬)をどのように使用するか、或いは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書又は説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、治療薬、予防薬等の使い方等を記載した指示書等が含まれる。
【0077】
(指示書)
本明細書において「指示書」には、特に限定されないが、例えば本開示の検出方法、診断薬の使い方、又は医薬等を投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、眼への投与(例えば、点眼、眼軟膏又は注入等による)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)等)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)又はラベル(label)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0078】
(添付文書における記載)
本開示において提供される臨床試験の基づく情報に照らし、添付文書(米国等ではラベル)などの指示書に、効能効果等(対象患者または対象疾患、障害もしくは症状の特徴を含み得る)、投与方法や用法用量、使用上の注意が記載されうる。
【0079】
(投与経路)
一つの実施形態において、本開示の利用法としては、例えば点眼剤が挙げられるが、これに限定されず、眼軟膏、前房内への注射、徐放剤への含浸、結膜下注射、全身投与(内服、静脈注射)等の投与形態(投与方法及び剤型)も挙げることができる。
【0080】
(用量)
本開示の化合物の濃度は、特に限定されないが、通常約0.1~約100000μM(μmol/l)である。毒性がより少なく、より効果があるという観点から、好ましくは約0.5~約80000μMであり、より有意な効果が認められるという観点から、より好ましくは約5~約80000μM、更に好ましくは約50~約75000μMであり、特に好ましくは約500~約70000μMであり、その上好ましくは約2000~約50000μMであり、最も好ましくは約5000~約30000μMである。他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.1~約1μM、約1~約10μM、約10~約100μM、約100~約1000μM、約1000~約2000μM、約2000~約4000μM、約4000~約7000μM、約7000~約10000μM、約10000~約12000μM、約12000~約15000μM、約15000~約20000μM、約20000~約22000μM、約22000~約25000μM、約25000~約30000μM、約30000~約40000μM、約40000~約50000μM、約50000~約70000μM、約70000~約85000μM、又は約85000~約100000μMを挙げることができるがこれらに限定されない。これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができる。
【0081】
本開示の化合物の濃度としては、特に限定されないが、約0.00001~約5.0w/v%が挙げられる。毒性がより少なく、より効果があるという観点から好ましくは約0.00003~約3.0w/v%であり、より有意な効果が認められるという観点からより好ましくは約0.0003~約3.0w/v%、更に好ましくは約0.003~約2.0w/v%であり、特に好ましくは約0.03~約1.5w/v%であり、その上好ましくは約0.1~約1.0w/v%であり、最も好ましくは約0.3~約1.0w/v%である。本開示の化合物は、広い範囲の濃度で有効であり得る。本開示の化合物の濃度の他の例としては、約0.00001~約0.0001w/v%、約0.0001~約0.001w/v%、約0.001~約0.01w/v%、約0.01~約0.02w/v%、約0.02~約0.05w/v%、約0.05~約0.1w/v%、約0.1~約0.2w/v%、約0.2~約0.3w/v%、約0.3~約0.4w/v%、約0.4~約0.5w/v%、約0.5~約0.6w/v%、約0.6~約0.7w/v%、約0.7~約0.8w/v%、約0.8~約0.9w/v%、約0.9~約1w/v%、約1~約1.1w/v%、約1.1~約1.2w/v%、約1.2~約1.3w/v%、約1.3~約1.4w/v%、約1.4~約1.5w/v%等が挙げられ得る。これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができる。
【0082】
点眼剤としての濃度は、特に限定されないが、約0.00001~約5.0w/v%が挙げられる。毒性がより少なく、より効果があるという観点から好ましくは約0.00003~約3.0w/v%であり、より有意な効果が認められるという観点からより好ましくは約0.0003~約3.0w/v%、更に好ましくは約0.003~約2.0w/v%であり、特に好ましくは約0.03~約1.5w/v%であり、その上好ましくは約0.1~約1.0w/v%であり、最も好ましくは約0.3~約1.0w/v%である。本開示の化合物は、広い範囲の濃度で有効であり得る。本開示の化合物の濃度の他の例としては、約0.00001~約0.0001w/v%、約0.0001~約0.001w/v%、約0.001~約0.01w/v%、約0.01~約0.02w/v%、約0.02~約0.05w/v%、約0.05~約0.1w/v%、約0.1~約0.2w/v%、約0.2~約0.3w/v%、約0.3~約0.4w/v%、約0.4~約0.5w/v%、約0.5~約0.6w/v%、約0.6~約0.7w/v%、約0.7~約0.8w/v%、約0.8~約0.9w/v%、約0.9~約1w/v%、約1~約1.1w/v%、約1.1~約1.2w/v%、約1.2~約1.3w/v%、約1.3~約1.4w/v%、約1.4~約1.5w/v%等が挙げられ得る。これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができる。
【0083】
特定の疾患、障害又は状態の治療に有効な本開示の医薬の有効量は、障害又は状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。更に、必要に応じて、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、及び疾患又は障害の重症度によっても変動しうるため、担当医の判断及び各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、又は1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0084】
(持続性)
本開示の組成物を投与した際における効果の持続性は、特に限定されないが、12時間である。より治療効果が得られるという観点から、好ましくは8時間であり、更に好ましくは4時間である。
【0085】
(即効性)
本開示の組成物を投与した際における効果の即効性は、特に限定されないが、5分~2時間で効果がみられる。より治療効果が得られるという観点から、好ましくは10分~1時間であり、より好ましくは20分~50分であり、更に好ましくは30分である。
【0086】
(投与間隔)
投与間隔は特に限定されないが、一般的な投与間隔で投与することができ、例えば、1日あたりに1~6回投与できる。より効果が得られかつ患者のコンプライアンス向上の観点から好ましくは1日2回~5回であり、更に好ましくは1日2回~4回である。投与量、投与回数、投与間隔、投与期間、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、投与形態、対象臓器等により、適宜選択してもよい。例えば、本開示の組成物は、点眼剤として使用され得る。また治療薬は、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。有効用量は、in vitro又は動物モデル試験系から得られる用量-反応曲線から推定可能である。
【0087】
一つの実施形態では、本開示では、例えば、「眼不快感の自覚症状が認められ、ドライアイと診断された患者に使用する」「点状表層角膜症(SPK)の他覚所見が認められ、ドライアイと診断された患者に使用する」又は「角結膜上皮障害が認められ、ドライアイと診断された患者に使用する」のような用法用量上の記載がなされていてもよい。
【0088】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor及びその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M. A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis ,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、Gait, M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991).Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997等に記載されている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0089】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願等の参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0090】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0091】
以下に、本開示の例を記載する。該当する場合生物試料等の取り扱いは、厚生労働省、文部科学省等において規定される基準を遵守し、該当する場合はヘルシンキ宣言又はその宣言に基づき作成された倫理規定に基づいて行った。
【0092】
(試験例1)スコポラミン誘発ラットドライアイモデルにおける0.3w/v% 化合物(1)の効果
(使用動物)
日本チャールス・リバーより購入した雄性SDラット(入荷時体重254.6g~281.5g)を使用した。動物は入荷後から試験終了日まで、室温23℃±3℃、湿度55%RH±10%RH、12時間照明(08:00点灯、20:00消灯)に設定した飼育室内で飼育した。動物には固形飼料(商品名:ラボMRストック、日本農産工業製)を不断給餌法により与え、動物飲料滅菌装置を通した市水を自動給水装置により自由に摂取させた。当該試験は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日法律第105号、最終改正:平成26年5月30日法律第46号)等に基づく動物実験倫理委員会の承認を受けて実施した。
【0093】
(被験物質)
被験物質として、化合物(1)を用いた。化合物(1)は0.3w/v%となるように表1に示す基剤に懸濁させたものを懸濁点眼液として使用した。また、対照群として化合物(1)を含まない基剤(表1)のみからなる基剤点眼液を使用した。
【表1】
【0094】
(試験方法)
(スコポラミン誘発ラットドライアイモデルの作製)
208.3mg/mLとなるようにスコポラミン臭化水素酸塩三水和物(東京化成工業製)を生理食塩液(大塚製薬工場製)に溶解した(以下、SC溶液)。SC溶液を浸透圧ポンプ(商品名:Alzet(登録商標) osmotic pump(型式:2ML4)、DURECT Corporation製)に充填した。
【0095】
ラットの左右の肩甲骨の間(浸透圧ポンプ埋植付近)を剃毛し、イソフルラン(商品名:フォーレン(登録商標)、アボットジャパン製)を吸入させることで全身麻酔を施した。剃毛した部分を10%のイソジン溶液(商品名:イソジン液(登録商標)10%、ムンディファーマ製)及び70%エタノールで交互に消毒した後、切開部位に滅菌済みドレープを置いて剪刃で皮膚を切開した。切開部に鉗子を挿入して皮下の結合組織を鈍性剥離し、浸透圧ポンプを埋植できる大きさのポケットを作製した後、浸透圧ポンプを埋植した。吸収性縫合糸(商品名:バイクリル、糸の太さ:J463、ジョンソン・エンド・ジョンソン製)を用いて切開創の幅に応じて皮下の結合組織を縫合した。次に、絹製縫合糸(商品名:針付絹ブレード縫合糸、製品番号:F17-30、夏目製作所製)を用いて切開創の幅に応じて皮膚を縫合した。術後疼痛ケアのためにブプレノルフィン塩酸塩注射液(商品名:レペタン(登録商標)注0.3mg、大塚製薬製)0.05mg/kgを、感染予防のためにベンジルペニシリンカリウム(商品名:注射用ペニシリンG カリウム20万単位、Meiji Seikaファルマ製)2万単位/個体を、それぞれ切開創から離れた部位に1回皮下投与した。
【0096】
(術後管理)
浸透圧ポンプを埋植した後、翌日と翌々日にブプレノルフィン塩酸塩注射液0.05mg/kg及びベンジルペニシリンカリウム2万単位/個体を、それぞれ術部から離れた部位に1回皮下投与した。
【0097】
(投与)
浸透圧ポンプを埋植してから8日後~21日後の計14日間、基剤点眼液又は0.3w/v%化合物(1)懸濁点眼液を点眼投与した。点眼投与は2時間以上の間隔をあけて1日4回、マイクロピペットを用いて右眼に5μL点眼投与した。なお、Sham群については基剤点眼液を点眼投与した。
【0098】
(点状表層角膜症(SPK)の観察)
イソフルランの吸入による全身麻酔下、マイクロピペットを用いて0.1%フルオレセインナトリウム溶液(以下、FL溶液)を右眼に5μL点眼投与した。生理食塩液を数滴点眼投与して余分なFL溶液を洗い流した後、スリットランプ(トプコン製)を用いて、角膜を上、中、下の3つの部分に分けて観察し、表2に従い各0~3点、計9点満点で採点した。
【表2】
【0099】
(ザンボニ固定液の調製)
NaH2PO4・2H2O(ナカライテスク株式会社)、Na2HPO4・12H2O(和光純薬工業株式会社)、パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社)及び2,4,6,-Trinitrophenol(Picric acid、キシダ化学株式会社)をそれぞれ終濃度0.3%、2.9%、2%及び0.1%となるように超純水に溶解し、ザンボニ固定液を調製した。
【0100】
(c-Fos陽性細胞数の計測)
基剤点眼液又は0.3w/v%化合物(1)懸濁点眼液の投与14日後(術後22日後)のSPK観察後、イソフルラン吸入による全身麻酔を施した。生理食塩液の灌流により放血致死させた後、ザンボニ固定液を灌流して延髄を摘出した。摘出した延髄を薄切した後、抗c-Fos抗体(商品名:Rabbit Anti-Human c-Fos Polyclonal Antibody, sc-52、Santa Cruz Biotechnology, Inc.製)を用いて免疫組織化学染色法により染色した。標本を蛍光顕微鏡で観察し、Vi/Vc領域内の抗c-Fos抗体により染色された細胞のうち、染色強度が強い細胞数を計測した。
【0101】
(結果)
SPKに対する効果を
図1に、延髄のVi/Vc領域におけるc-Fos陽性細胞数に対する効果を表3に示す。0.3w/v%化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して投与7日後(術後15日後)にSPKスコアを有意に低減し、投与14日後(術後22日後)もその効果は持続していた。従って、化合物(1)は、他覚症状を改善することが示された。
【0102】
また、0.3w/v%化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して延髄のVi/Vc領域におけるc-Fos陽性細胞数を減少させた。従って、化合物(1)がVi/Vc領域を阻害することが示された。
【表3】
【0103】
(試験例2 スコポラミン誘発ラットドライアイモデルにおける乾燥環境下での瞬目回数に対する化合物(1)の用量反応性)
(使用動物)
日本チャールス・リバーより購入した雄性SDラット(入荷時体重253.1g~273.0g)を使用した。動物は入荷後から低湿度環境下での飼育日まで、室温23℃±3℃、湿度55%RH±10%RH、12時間照明(08:00点灯、20:00消灯)に設定した飼育室内で飼育した。動物には固形飼料(商品名:ラボMRストック、日本農産工業製)を不断給餌法により与え、限外濾過装置を通した市水を給水ビンにより自由に摂取させた。当該試験は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日法律第105号、最終改正:平成26年5月30日法律第46号)等に基づく動物実験倫理委員会の承認を受けて実施した。
【0104】
(被験物質)
被験物質として、化合物(1)を用いた。試験例1と同様に、緩衝液に化合物(1)を懸濁させ、化合物(1)の濃度が0.1w/v%、0.3%w/v及び1.0w/v%の懸濁点眼液を調製した。また、対照群として化合物(1)を含まない基剤のみからなる基剤点眼液も調製した。
【0105】
(試験方法)
(スコポラミン誘発ラットドライアイモデルの作製)
試験例1と同様の方法にてスコポラミン誘発ラットドライアイモデルを作製した。
【0106】
(低湿度環境)
浸透圧ポンプを埋植してから約2.5時間後、実験用チャンバー(SJ-1500N、夏目製作所)に空気圧縮機から供給される乾燥空気を送り込み低湿度環境(20%RH以下)を作製した。
【0107】
(投与)
瞬目回数を測定する0.5時間前に、基剤点眼液又は0.1w/v%、0.3w/v%若しくは1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を、マイクロピペットを用いて右眼に5μLを単回点眼投与した。
【0108】
(瞬目回数の測定)
低湿度環境で飼育を開始してから8日目以降に、飼育用のケージからラットを取り出し、瞬目回数が測定しやすいように、全面が金網で構成されたケージ(行動測定環境用ケージ)に動物を入れた。通常の環境下で0.5時間順化させた後、行動測定環境用ケージを実験用チャンバーに移し、低湿度環境下で5分間、ラットの右眼の瞬目回数を測定した。なお、2日以上の休薬期間をおいて、同じ動物を用いて4期に分けて試験を実施した(クロスオーバー試験)。
【0109】
(結果)
結果を
図2に示す。化合物(1)は0.1w/v%から1.0w/v%の範囲で瞬目回数を減少させ、0.3w/v%及び1.0w/v%で有意な効果がみられた。従って、化合物(1)は広い濃度範囲で自覚症状を改善することが示された。
【0110】
(試験例3 スコポラミン誘発ラットドライアイモデルにおける乾燥環境下での瞬目回数に対する化合物(1)の持続性)
試験例2と同じ評価方法を用いて、自覚症状の改善効果の持続性を検討した。基剤点眼液を単回点眼投与した0.5時間後又は1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を単回点眼投与した0.5、4若しくは8時間後に低湿度環境下で5分間、右眼の瞬目回数を測定した。
【0111】
結果を
図3に示す。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を点眼投与してから0.5、4及び8時間後の瞬目回数は基剤点眼液を投与してから0.5時間後の瞬目回数よりも減少させることができ、特に、0.5及び4時間後において有意に瞬目回数を減少させた。従って、化合物(1)は長時間、自覚症状改善効果を維持することが示された。
【0112】
(試験例4 スコポラミン誘発ラットドライアイモデルにおける長期投与試験)
試験例2と同様の方法にて作製したスコポラミン誘発ラットドライアイモデルを用いて、1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液を長期投与した。なお、モデルは瞬目回数を測定するときのみ低湿度環境下(20%RH以下)で処置するようにした。
【0113】
浸透圧ポンプを埋植した後に1週間経過してから、1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液及び基剤点眼液を8日間反復点眼投与した。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液及び基剤点眼液は1日4回、マイクロピペットを用いて右眼に5μL点眼投与した。
【0114】
検体投与8日目に試験例1と同じ方法にてSPKの改善効果(SPKスコア)を評価した。また、試験例2と同様の方法にて投与7日目(術後2週目)の初回投与4時間後に低湿度環境下で5分間、右眼の瞬目回数を測定した。
【0115】
SPKに対する効果を
図4に示す。1.0w/v%化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して有意にSPKスコアを減少させた。
【0116】
低湿度環境下における瞬目回数に対する効果を
図5に示す。1.0w/v% 化合物(1)懸濁点眼液は、基剤点眼液と比較して瞬目回数を減少させた。
【0117】
(考察)
本明細書における試験例1の表3の結果から、化合物(1)にはVi/Vc領域を阻害する作用があることが示された。また、試験例1の
図1及び試験例2、3の
図2、3から化合物(1)には他覚症状の改善及び自覚症状の改善効果があることが示された。従って、化合物(1)は、ドライアイ治療効果を有することが示された。
【0118】
また、化合物(1)は、確実ではないが、Vi/Vc領域を阻害する作用を有することによって、ドライアイの治療効果である他覚症状及び自覚症状を改善することができたと推定される。つまり、Vi/Vc領域を阻害することにより、ドライアイを治療することができると推定される。
【0119】
(試験例5:臨床試験例)
(測定項目)
主要評価項目
化合物(1)の安全性及び忍容性について
・臨床検査結果、バイタルサイン、及び物理的及び眼科的検査における異常な変化を含む、有害事象の数及び重篤度・化合物(1)の薬物動態(PK)プロファイルCmax、tmax、AUC0-last、AUC0-∞、tlast、AUC%extrap、t1/2、MRT0-last、MRT0-∞、Vd/F、CL/Fの測定。
化合物(1)の有効性について
・眼乾燥症状における変化(視覚的アナログスケール[VAS])での化合物(1)とプラセボとの差異
副次評価項目
化合物(1)の有効性について
・ドライアイ徴候の変化(CFSスコア(上部、下部、耳側、鼻側、全体)、結膜のリサミングリーン染色スコア、lid wiperの上皮障害スコア、涙液層破壊時間(TBUT))
・ドライアイ症状の変化(VAS、眼表面疾患指数[OSDI(R)]、ドライアイアンケート5[DEQ-5]スコア)
【0120】
(プロトコル)
(A)単回投与
適格な被験者をスクリーニングする。被験者を、プラセボ又は特定の濃度の化合物(1)点眼液の単回投与を受けるように無作為化する。
【0121】
投与前及び投与後の予め決定された時点でPK測定用の血液を収集する。投与後の眼及び全身の安全性の評価について上記測定項目を評価する。
【0122】
(B)複数回投与
適格な被験者をスクリーニングする。被験者を、プラセボ又は特定の濃度の化合物(1)点眼液の投与を受けるように無作為化する。特定の期間にわたって複数回の投与を行う。
【0123】
投与後の眼及び全身の安全性の評価について上記測定項目を評価する。
【0124】
(試験例6:Vi/Vc調節作用)
試験例1に記載されるようにスコポラミン誘発ラットドライアイモデルを作製する。浸透圧ポンプを埋植してから8日後~21日後の計14日間、基剤点眼液又は被験化合物を含む点眼液を点眼投与する。点眼投与は2時間以上の間隔をあけて1日4回、マイクロピペットを用いて右眼に5μL点眼投与する。
【0125】
基剤点眼液又は被験化合物を含む点眼液の投与14日後(術後22日後)、イソフルラン吸入による全身麻酔を施し、生理食塩液の灌流により放血致死させた後、ザンボニ固定液を灌流して延髄を摘出する。摘出した延髄を薄切した後、抗c-Fos抗体(商品名:Rabbit Anti-Human c-Fos Polyclonal Antibody, sc-52、Santa Cruz Biotechnology, Inc.製)を用いて免疫組織化学染色法により染色する。標本を蛍光顕微鏡で観察し、Vi/Vc領域内の抗c-Fos抗体により染色された細胞のうち、染色強度が強い細胞数を計測する。
【0126】
試験例1と同様の方法で被験化合物のVi/Vc領域調節機能を確認する。
【0127】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2019年10月4日に出願された特願2019-184053に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。