IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧 ▶ 東亞エルメス株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117351
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】計測機器の防護構造と設置方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102768
(22)【出願日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022019433
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510009267
【氏名又は名称】東亞エルメス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 智幸
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】古賀 快尚
(72)【発明者】
【氏名】堀留 知徳
(57)【要約】
【課題】計測機器を発破飛石等から効果的に防護することのできる、計測機器の防護構造と設置方法を提供する。
【解決手段】山岳トンネル10の掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器85Aを防護する、計測機器の防護構造100であり、計測機器85Aの一部もしくは全部が離間を置いて埋設される、吹付けコンクリート23と、吹付けコンクリート23の坑内側面23aのうち、計測機器85Aの一部もしくは全部に対応する位置に配設されている、防護板42と、吹付けコンクリート23に埋設され、防護板42を着脱自在に固定するアンカー52とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器を防護する、計測機器の防護構造であって、
前記計測機器の一部もしくは全部が離間を置いて埋設される、吹付けコンクリートと、
前記吹付けコンクリートの坑内側面のうち、前記計測機器の一部もしくは全部に対応する位置に配設されている、防護板と、
前記吹付けコンクリートに埋設され、前記防護板を着脱自在に固定するアンカーとを有することを特徴とする、計測機器の防護構造。
【請求項2】
前記吹付けコンクリートは一次吹付けと二次吹付けを含み、
前記一次吹付けに対して、前記計測機器の一部もしくは全部が設置され、
前記二次吹付けに対して、前記計測機器の一部もしくは全部が離間を置いて埋設されていることを特徴とする、請求項1に記載の計測機器の防護構造。
【請求項3】
前記アンカーがUボルトであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項4】
前記防護板が樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項5】
前記防護板の背面側に弾性防護材が配設され、該弾性防護材に前記計測機器の一部もしくは全部が埋設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項6】
前記防護板が、前記山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形の形状を有し、かつ、該矩形における周方向にある一対の短辺に沿って前記アンカーを備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項7】
前記アンカーが、前記防護板の側方へ、傾斜している、もしくは屈曲している、もしくは、湾曲していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項8】
前記計測機器が、
センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器と、を備える形態、
センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器、及び、該計測データを蓄積するデータロガーが一体とされたユニット体と、を備える形態、
のいずれか一種であり、
前記センサーが、地中変位計、ロックボルト軸力計、吹付けコンクリート応力計、及び鋼製支保工応力計の少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の計測機器の防護構造。
【請求項9】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器とを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に箱抜き部材が取り付けられ、該箱抜き部材に防護板が取り付けられ、該防護板の背面側に着脱自在なアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込む、A1工程と、
前記支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B1工程と、
前記アンカーから前記防護板を取り外し、前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して前記通信器を設置し、該通信器の周囲に弾性防護材を設置して前記防護板を前記アンカーに取り付ける、C1工程とを有することを特徴とする、計測機器の設置方法。
【請求項10】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、少なくともセンサーを備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工を建て込むとともに、箱抜き部材と、該箱抜き部材に取り付けられている防護板と、該防護板の背面側に着脱自在に取り付けられているアンカーと、を少なくとも備えている、箱抜きユニットを、前記一次吹付け面における、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に設置する、A2工程と、
前記鋼製支保工と、前記箱抜きユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B2工程と、
前記アンカーから前記防護板を取り外し、前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して箱抜き空間を形成し、箱抜き空間を覆うように前記防護板を前記アンカーに取り付ける、C2工程とを有することを特徴とする、計測機器の設置方法。
【請求項11】
前記箱抜き部材は、前記設置孔を施工する削孔機を削孔予定位置に案内し、かつ、前記地中変位計もしくは前記ロックボルト軸力計を前記設置孔に案内するためのガイド管を備えていることを特徴とする、請求項9又は10に記載の計測機器の設置方法。
【請求項12】
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器とを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒に、前記センサーに含まれる吹付けコンクリート応力計もしくは鋼製支保工応力計を備えた前記計測機器が取り付けられ、前記通信器の一部もしくは全部の周囲に弾性防護材が取り付けられ、該弾性防護材に防護板が取り付けられ、該防護板の背面側に着脱自在なアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込む、A3工程と、
前記支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B1工程とを有することを特徴とする、計測機器の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測機器の防護構造と設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、地山状況や設計の内容に応じて、設計・施工に反映させることを主な目的としたB計測を実施する。このB計測は、使用している支保部材や施工方法の妥当性を判断するとともに、それ以奥のトンネルの設計・施工の合理的かつ経済的な実施を目的としている。
このB計測には、地中変位計測や鋼製支保工応力計測、吹付けコンクリート応力計測、ロックボルト軸力計測等が含まれ、いずれも特殊なセンサーを設置して定量データ(計測データ)を取得し、現在の地山の性状を評価したり、さらには掘進に伴う将来的な地山の性状を評価している。
例えば、特許文献1には、トンネルの沈下に加えて水平内空変位を精度よく特定することにより、切羽前方の地山状況の高精度な予測を可能とする、地山状況予測方法が提案されている。
具体的には、少なくとも半円形部を含む断面形状のトンネルのトンネルアーチ部において、トンネルの軸方向に間隔を置いて複数の傾斜計を設置し、各傾斜計の計測データを取得し、隣接する傾斜計のそれぞれの計測データから傾斜角の変化量を算定し、算定結果に基づいて切羽前方の地山状況を予測する方法において、水平方向のスプリングラインと鉛直方向のセンターラインの交点を中心として、スプリングラインから角度55度乃至65度の範囲に傾斜計を設置するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-61080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、山岳トンネルの施工において、センサーにより計測された計測データを回収する方法としては、センサーから有線ケーブルを介してデータロガーやPC(パーソナルコンピュータ)にて回収する有線回収方法が主流である。
しかしながら、トンネル内における有線ケーブルの設置や発破飛石等から防護するための養生、電源の確保等に手間がかかること、切羽の近傍における配線作業には危険が伴うことが課題として存在する。
また、昨今は、上記するデータロガーから通信ケーブル(最大通信距離が例えば1.2km)で坑外の詰所などにあるPCにデータを常時転送し、PCからLANを通じて作業所事務所から常にデータを参照できるシステムを組むことが標準的になっており、坑内に直接LANケーブルを引いたり、WiFi(登録商標)アクセスポイントを設ける現場も存在することから、通信ケーブルの維持管理(損傷対策)が課題となっている。
【0005】
上記する有線によるデータ回収方法では、設置施工時に計測場所の近傍に作業員や管理者がアクセスする必要がある。トンネル内においては様々な車輌や工事関係者が往来することから、施工の妨げにならない時間帯や計測場所を選定する必要がある。
すなわち、切羽の近傍を計測場所とした際に切羽における肌落ち等の懸念があることから、切羽面からある程度離れた場所を計測場所とすることが安全上は望ましい。
一方で、この切羽面からある程度離れた場所での地山計測に関しては、当該地山に近接した場所での計測がその断面位置および前方の地山の性状評価に好適であることに鑑みると、性状評価精度の低下に繋がり得る。
【0006】
本発明は、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、計測機器を発破飛石等から効果的に防護することのできる、計測機器の防護構造と設置方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による計測機器の防護構造の一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う計測機器を防護する、計測機器の防護構造であって、
前記計測機器の一部もしくは全部が離間を置いて埋設される、吹付けコンクリートと、
前記吹付けコンクリートの坑内側面のうち、前記計測機器の一部もしくは全部に対応する位置に配設されている、防護板と、
前記吹付けコンクリートに埋設され、前記防護板を着脱自在に固定するアンカーとを有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、計測機器の一部もしくは全部が、吹付けコンクリートの内部において当該吹付けコンクリートから離間を置いて埋設され、吹付けコンクリートの坑内側面における計測機器に対応する位置に配設されている防護板が、吹付けコンクリートに埋設されているアンカーに対して着脱自在に取り付けられていることにより、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることを解消しながら、計測機器を効果的に防護することができる。さらに、吹付けコンクリートに埋設されているアンカーに対して防護板が着脱自在に取り付けられていることにより、計測機器のうちの例えば通信器等を盛替えのために取り外すに当たり、防護板を外し、吹付けコンクリートとは離間を置いて配設されている通信器等を速やかに取り外すことが可能になる。
ここで、「計測機器」には、各種のセンサーや、センサーにより取得された計測データを送信する通信器等が含まれ、「計測機器の一部」とは、センサーと通信器のうちの例えば通信器のみが対象となる。
従って、この形態では、例えば通信器は吹付けコンクリートから離間を置いて埋設され、センサーは吹付けコンクリートの内部に離間を置くこと無く埋設される。センサーは一般に吹付けコンクリート内に残置されることから隙間無く埋設されてよく、一方で通信器等は盛替えて再利用されることから吹付けコンクリートの内部に離間を置いて埋設されるのがよい。
ここでさらに、「離間を置いて埋設される」とは、吹付けコンクリートに接触せずに吹付けコンクリートとの間に隙間を置いて埋設されることや、吹付けコンクリートとの間に緩衝部材(以下の弾性防護材)等を介して埋設されることを意味する。
【0009】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記吹付けコンクリートは一次吹付けと二次吹付けを含み、
前記一次吹付けに対して、前記計測機器の一部もしくは全部が設置され、
前記二次吹付けに対して、前記計測機器の一部もしくは全部が離間を置いて埋設されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、吹付けコンクリートに含まれる二次吹付けに対して、計測機器の一部もしくは全部が離間を置いて埋設されていることにより、二次吹付けに埋設されている計測機器の一部もしくは全部を効果的に防護しながら、通信器等の盛替えの際の二次吹付けからの取り外し性が良好になる。
【0011】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記アンカーがUボルトであることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、防護板を着脱自在に取り付けるアンカーがUボルトであることにより、二次吹付けの端部からアンカーの埋設部までの間のへりあきが少ない場合でも、直ボルトに比べて定着長を長くとることができ、アンカーの固定度を高めることができる。また、一つのUボルトで一つの防護板の二箇所を固定できることから、直ボルトに比べて設置効率が高くなる。尚、Uボルトには、コの字状のボルトも含まれる。
【0013】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記防護板が樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、防護板が樹脂により形成されていることから、計測機器に含まれる通信器から坑口側にある他の通信器に対して計測データを送信する際の送信性の阻害の恐れが無くなる。例えば、防護板が金属製である場合は、送信性の阻害が危惧される。ここで、「通信機」とは、無線通信機のことである。
【0015】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様は、
前記防護板の背面側に弾性防護材が配設され、該弾性防護材に前記計測機器の一部もしくは全部が埋設されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、防護板の背面側にある弾性防護材にて計測機器の一部もしくは全部が埋設されていることにより、周囲の吹付けコンクリート等が変位した場合でも当該変位を弾性防護材にて吸収し、計測機器への作用を防止することができる。
この弾性防護材は、上記する吹付けコンクリート(例えば二次吹付け)と計測機器との間の離間に設けられる。弾性防護材には、ある程度の剛性(もしくは硬度)と弾性の双方を備えている、例えば硬質スポンジ等を適用するのがよい。弾性防護材が一定の剛性を有することにより、弾性防護材に対して防護板を安定的に固定することができる。
【0017】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記防護板が、前記山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形の形状を有し、かつ、該矩形における周方向にある一対の短辺に沿って前記アンカーを備えていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、防護板が、山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形の形状を有し、さらに、矩形における周方向にある一対の短辺に沿ってアンカーを備えていることにより、鋼製支保工とアンカーとの間に余裕のあるスペースを確保することができる。そのため、当該スペースを介してアンカーの周囲にコンクリートが良好に充填されることとなり、二次吹付けに対してアンカーが確実かつ安定的に埋設されている防護構造を形成することができる。
ここで、「平面視矩形」には、平面視長方形や正方形の他にも、長方形や正方形の隅角部が面取りされている形状や、隅角部が湾曲状を呈している形状も含まれる。
【0019】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記アンカーが、前記防護板の側方へ、傾斜している、もしくは屈曲している、もしくは、湾曲していることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、アンカーが、防護板の側方に傾斜している形態や、屈曲している形態、湾曲している形態のいずれかの形態であることにより、例えば防護板に直交する方向にアンカー直線状に延びている形態と比べて、アンカーの周囲に二次吹付けのコンクリートが充填され易くなることから、当該コンクリートの内部にアンカーが確実かつ安定的に埋設されている防護構造を形成することができる。
【0021】
また、本発明による計測機器の防護構造の他の態様において、
前記計測機器が、
センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器と、を備える形態、
センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器、及び、該計測データを蓄積するデータロガーが一体とされたユニット体と、を備える形態、
のいずれか一種であり、
前記センサーが、地中変位計、ロックボルト軸力計、吹付けコンクリート応力計、及び鋼製支保工応力計の少なくとも一種であることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、様々な形態の計測機器の一部もしくは全部を効果的に防護することができる。ここで、計測機器が、センサーに加えて、計測データを送信する通信器と、計測データを蓄積するデータロガーとが一体とされたユニット体を備えることにより、例えば、コンパクトなユニット体(例えば、全体が一つの筐体に入っている構成)を、鋼製支保工の坑口側の凹部に対して容易に収容した状態で、吹付けコンクリート(二次吹付け)の内部に設置することができる。
【0023】
また、通信器は例えば、LPWA無線通信モジュールと、計測データを坑口側にある他の通信器に送信する通信アンテナを備えている。通信器がLPWA無線通信モジュールを備え、坑口側に配設されている他の通信器に対して計測データ(定量データ)を送信することにより、山岳トンネルにおける長距離無線通信を低消費電力で実現することができる。このことにより、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることが可能になる。
ここで、LPWA(Low Power Wide Area)は、広域データ通信と低消費電力を可能にした無線通信方式(例えば、920MHz帯のISM(Industrial Scientific and Medical Band)を使用した通信方式)のことである。尚、本明細書において「長距離通信」とは、例えば100m以上の距離において計測データを無線通信することを意味する。
【0024】
坑口側に配設されている他の通信器で受信した計測データは、例えばネットワークを介して、作業所事務所のPCやサーバ装置、施工関係者(施工管理者、施工会社の本支店担当者、施工業者等)の備えるユーザ端末(スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータ等)に送信される。LPWA無線通信を適用することにより、トンネルに設置される坑口側の他の通信器の数を低減することができ、山岳トンネルの長さによっては、例えば一台の他の通信器のみで、センサーにて計測された計測データをネットワークを介してサーバ装置等に送信することが可能になる。
【0025】
サーバ装置に送信された計測データは、サーバ装置を介して複数の施工関係者の備えるユーザ端末に送信されることにより、複数のユーザ端末が同時かつリアルタイムに計測データを共有することができる。また、サーバ装置とユーザ端末の少なくとも一方が、計測データに基づいて地山性状、及び/又は、地山性状に応じた地山評価(地山の硬軟の程度、地山の安定性/不安定性、支保パターンの適否等)を判定することにより、例えば複数のユーザ端末が現状の地山性状や、地山の硬軟の程度等に応じた当初計画の支保パターンの適否等を速やかに特定することができる。そして、現状の地山性状が当初計画段階における地山性状よりも不良(例えば軟らかい)の場合は速やかに支保パターンの見直しを行うことが可能になり、地山性状の急変に対しても高い施工安全性を保証する施工管理を実現することができる。
【0026】
また、本発明による計測機器の設置方法の一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器とを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒のうち、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に箱抜き部材が取り付けられ、該箱抜き部材に防護板が取り付けられ、該防護板の背面側に着脱自在なアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込む、A1工程と、
前記支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B1工程と、
前記アンカーから前記防護板を取り外し、前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して前記通信器を設置し、該通信器の周囲に弾性防護材を設置して前記防護板を前記アンカーに取り付ける、C1工程とを有することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、一次吹付けの一次吹付け面に対して、鋼製支保工と金網や支持棒が一体とされ、センサーの設置予定位置に防護板を備えた箱抜き部材が取り付けられ、防護板の背面側に着脱自在なアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込んだ後、支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工してアンカーを二次吹付けに埋設し、アンカーから防護板を取り外し、箱抜き部材を介して設置孔を施工し、設置孔の内部にセンサーを設置し、箱抜き部材を取り外して通信器を設置し、通信器の周囲に弾性防護材を設置して防護板をアンカーに取り付けることにより、計測機器の一部もしくは全部を、効果的に防護された状態で効率的に設置することができる。本態様は、センサーが地中変位計もしくはロックボルト軸力計である場合の設置方法となる。
ここで、通信器とデータロガーが一体とされたユニット体を適用する場合は、箱抜き部材を取り外した領域にユニット体を設置する。
【0028】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、少なくともセンサーを備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工を建て込むとともに、箱抜き部材と、該箱抜き部材に取り付けられている防護板と、該防護板の背面側に着脱自在に取り付けられているアンカーと、を少なくとも備えている、箱抜きユニットを、前記一次吹付け面における、前記センサーに含まれる地中変位計もしくはロックボルト軸力計の設置予定位置に設置する、A2工程と、
前記鋼製支保工と、前記箱抜きユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B2工程と、
前記アンカーから前記防護板を取り外し、前記箱抜き部材を介して地山の途中まで削孔して設置孔を施工し、該設置孔の内部に前記センサーを設置し、前記箱抜き部材を取り外して箱抜き空間を形成し、箱抜き空間を覆うように前記防護板を前記アンカーに取り付ける、C2工程とを有することを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、一次吹付けの一次吹付け面に対して、鋼製支保工を建て込むとともに、箱抜き部材と防護板とアンカーを少なくとも備えている箱抜きユニットを、一次吹付け面におけるセンサーの設置予定位置に設置した後、鋼製支保工と箱抜きユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工してアンカーを二次吹付けに埋設し、アンカーから防護板を取り外し、箱抜き部材を介して設置孔を施工し、設置孔の内部にセンサーを設置し、箱抜き部材を取り外して形成された箱抜き空間を覆うようにして防護板をアンカーに取り付けることにより、計測機器の一部もしくは全部を、効果的に防護された状態で効率的に設置することができる。本態様も、センサーが地中変位計もしくはロックボルト軸力計である場合の設置方法となる。
【0030】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様において、
前記箱抜き部材は、前記設置孔を施工する削孔機を削孔予定位置に案内し、かつ、前記地中変位計もしくは前記ロックボルト軸力計を前記設置孔に案内するためのガイド管を備えていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、箱抜き部材において、設置孔を施工する削孔機を削孔予定位置に案内し、かつ、地中変位計等を設置孔に案内するためのガイド管が設けられていることにより、設置孔を所望する削孔予定の正確な位置に施工することができ、さらには、地中変位計等を設置孔に対してスムーズに設置することが可能になる。
【0032】
また、本発明による計測機器の設置方法の他の態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って定量データの計測を行う、センサーと、該センサーにより取得された計測データを送信する通信器とを少なくとも備えている、計測機器の設置方法であって、
前記山岳トンネルにおける掘削された切羽と側面に施工された一次吹付けのうち、該側面に施工された該一次吹付けの一次吹付け面に対して、H形鋼からなる鋼製支保工に金網もしくは支持棒が取り付けられ、該金網もしくは該支持棒に、前記センサーに含まれる吹付けコンクリート応力計もしくは鋼製支保工応力計を備えた前記計測機器が取り付けられ、前記通信器の一部もしくは全部の周囲に弾性防護材が取り付けられ、該弾性防護材に防護板が取り付けられ、該防護板の背面側に着脱自在なアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込む、A3工程と、
前記支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工し、この際に、前記アンカーを該二次吹付けに埋設する、B1工程とを有することを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、一次吹付けの一次吹付け面に対して、鋼製支保工と金網や支持棒が一体とされ、これらに通信器と当該通信器の周囲にある弾性防護材が取り付けられ、弾性防護材に対して防護板と防護板を着脱自在に繋ぐアンカーが取り付けられている、支保工ユニットを建て込んだ後、支保工ユニットを巻き込むようにして二次吹付けを施工してアンカーを二次吹付けに埋設することにより、計測機器の一部もしくは全部を、効果的に防護された状態で効率的に設置することができる。本態様は、コンクリート応力計もしくは鋼製支保工応力計である場合の設置方法となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の計測機器の防護構造と設置方法によれば、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができ、計測機器を発破飛石等から効果的に防護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を、地山計測システムの一例とともに示す平面図である。
図2図1のII部の拡大図であって、第1実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図であり、かつ、図3Bに続いて第1実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図3A】第1実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図3B図3Aに続いて、第1実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図4】地山計測システムの一例の全体ブロック図である。
図5A】第2実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図であり、かつ、図6Cに続いて第2実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図5B図5AにおけるB方向矢視図であって、計測機器の防護構造の一例を坑内側から見た平面図である。
図5C】(a)、(b)はいずれも、防護板に取り付けられている他の形態のアンカーが二次吹付けに埋設されている状態を示す図である。
図6A】第2実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図6B図6Aに続いて、第2実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
図6C図6Bに続いて、第2実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、各実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0037】
[第1実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法]
はじめに、図1乃至図4を参照して、第1実施形態に係る計測機器の防護構造及び設置方法の一例と、地山計測システムの一例について説明する。
ここで、図1は、第1実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を、地山計測システムの一例とともに示す平面図であり、図2は、図1のII部の拡大図であって、第1実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図である。また、図3A及び図3B図2は順に、第1実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。さらに、図4は、地山計測システムの一例の全体ブロック図である。
【0038】
図示する地山計測システム200が適用されるトンネルは、山岳トンネルである。山岳トンネル10は、切羽11に対してドリルジャンボ等の掘削機にて装薬孔を削孔し、爆薬を装薬して爆破することにより造成される。尚、山岳トンネルは、自由断面掘削機やブレーカを使用した機械掘削(図示せず)により造成される場合もある。
【0039】
発破等によりトンネルを所定延長造成した後、図1に示す二点鎖線Vで囲まれた部分の地山が新たに前方に掘進され、その坑壁13に対して新たに鋼製支保工22(鋼製アーチ支保工)と吹付けコンクリートが施工される。坑壁13の表面に例えば5cm乃至15cm程度の厚みのコンクリートによる一次吹付け21を行い、切羽11には鏡吹付け21Aを行った後、H形鋼等による鋼製支保工22を掘進方向において所定間隔にて設置することにより、坑壁防護を図る。その後、鋼製支保工22を巻き込むようにして、例えば5cm乃至20cm程度の厚みのコンクリートによる二次吹付け23(吹付けコンクリートの一例)を行う。
【0040】
一次吹付け21や二次吹付け23の施工は、坑内にコンクリートミキサー車を運び込み、吹付け機にてコンクリートを吹付けることにより行われる。二次吹付け23の施工後、必要に応じて不図示のロックボルトが施工される。このロックボルトは、例えば2m乃至6m程度の棒状鋼材からなり、地山Gの坑内側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、坑壁13の変形を抑制するものである。
【0041】
地山計測システム200は、山岳トンネル10の掘進に伴って定量データの計測を行うシステムである。地山計測システム200は、山岳トンネル10の坑壁13もしくは坑壁13を支保する鋼製支保工22に設置されている、少なくとも一つのセンサー80と、センサー80により取得された計測データを送信する、第一通信器32(図4参照、通信器の一例)と、第一通信器32よりも坑口12側に配設されて、第一通信器32から無線送信された計測データを受信する、第二通信器61とを有する。
【0042】
図4に示すように、データロガー31と第一通信器32とが一体とされることにより、ユニット体30が形成される。データロガー31は、印加電圧もしくは印加電流の供給、センサー80からの信号のA/D変換、A/D変換後のデジタル値の記憶を実行する。データロガー31では、センサー80による信号がA/D変換を経てデジタル値に変換され、デジタル値に変換されたデータが蓄積され、蓄積されたデータは第一通信器32の備える通信アンテナ33を介して送信されるようになっている。
【0043】
第一通信器32は、LoRa Private規格を有するLPWA(無線通信モジュール)の子機である。一方、通信親機60(基地局)は、通信アンテナ63を備える第二通信器61と、タブレットPC62を内蔵しており、タブレットPC62も地山計測システム200の構成要素となる。タブレットPC62は、WiFiや有線にてLANに繋がっており、タブレットPC62の記憶装置(メモリ)に蓄積されたデータファイルがネットワーク上でファイル共有されることにより、作業所事務所などからリアルタイムにデータを取得することができる。
【0044】
山岳トンネル10の坑内には、重機やセントル台車、鋼製防音扉などの様々な(主に金属製の)障害物があり、電波が減衰する環境下にあるものの、LPWA無線方式による計測データの送受信は、原理上は1km乃至2km程度の長距離通信が可能である。そこで、地山計測システム200では、例えば切羽11の近傍のセンサー80からの距離が数100m以上離れた位置に第二通信器61を設置し、以降、移設することなく、外部のネットワークに接続される最も坑口12側にある第二通信器61に対して計測データを送信するシステムとして構築される。
【0045】
地山計測システム200によれば、センサー80により取得された計測データを、第一通信器32から坑口12側に配設されている第二通信器61に送信することにより、有線ケーブルの配線や養生、維持管理に伴う手間と危険性を解消でき、計測場所が制限されることを解消できる。
【0046】
図1に戻り、切羽11の近傍にあって発破飛石の飛来を受け得るH形鋼により形成される鋼製支保工22のうち、ウェブ22cと上フランジ22a及び下フランジ22bとにより形成される、切羽11と反対側である坑口12側の凹部22dに対して、第一通信器32を備えたユニット体30が収容される。ここで、ユニット体30は、図示例の他にも、切羽11の近傍の2以上の鋼製支保工22における坑口12側の凹部22dに収容されてよい。また、図示例は、ユニット体30の全部が凹部22dに完全に収容されている形態であるが、ユニット体30の一部が凹部22dからはみ出す態様で凹部22dに収容されてもよい。
【0047】
図1に示すセンサー80は、吹付けコンクリート応力計80Aである。ユニット体30と吹付けコンクリート応力計80Aは、共通の金網50に取り付けられている。ここで、図示を省略するが、金網50に代わり、鋼製の支持棒が適用されてもよい。
【0048】
より詳細には、図2に示すように、ユニット体30の外側には硬質スポンジ等の弾性防護材41が配設されており、鋼製支保工22のウェブ22cに対してL型の固定治具43がタッピングビス48により固定され、固定治具43に対して、ポリカーボネート板等の防護板42が固定ボルト44により固定され、弾性防護材41の下面を防護板42が覆っている。すなわち、防護板42は、二次吹付け23の坑内側面23aに配設されている。防護板42が樹脂により形成されることで、ユニット体30の第一通信器32から坑口側にある他の通信器に対して計測データを送信する際に、防護板42が送信性を阻害する恐れが無くなることから好ましい。
【0049】
ここで、硬質スポンジとして、例えば再生材料であるチップウレタンを適用することにより、環境に配慮した地山計測システム200を形成できる。
【0050】
吹付けコンクリート応力計80Aとユニット体30のデータロガー31が、データケーブル39を介して配線されることにより、計測機器85Aが形成される。
【0051】
防護板42の背面(上面)には、複数のUボルト52(図2では一つのみを図示しており、Uボルトはアンカーの一例)が配設され、二次吹付け23に埋設されている。それぞれのUボルト52は、二箇所の端部に不図示のネジ溝を備えている。ここで、アンカーには、Uボルトの他に直ボルトが適用されてもよい。
【0052】
一方、防護板42は、各Uボルト52のそれぞれのネジ溝に対応する位置にネジ溝42aを備えており、各Uボルト52に対して坑内側から防護板42を位置合わせし、ネジ溝42aを介して皿ネジ53をねじ込むことにより、二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52に対して防護板42が固定される。
【0053】
このように、計測機器85Aの一部であるユニット体30は、二次吹付け23との間に離間を置いて配設され、この離間には弾性防護材41が配設され、二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52が、弾性防護材41を支持する防護板42を着脱自在に固定することにより、計測機器の防護構造100が形成される。すなわち、防護構造100では、一次吹付け21の一次吹付け面21aに対して計測機器85Aが設置され、二次吹付け23の内部に計測機器85Aが埋設され、防護板42が計測機器85Aの一部に対応する位置に配設されて、少なくとも計測機器85Aの一部を坑内空間から防護している。
【0054】
弾性防護材41が硬質スポンジ等により形成されていることで、弾性防護材41はある程度の剛性と弾性の双方を備えることから、弾性防護材41に対して防護板42を安定的に固定することができ、周囲の二次吹付け23等が変位した場合でも当該変位を弾性防護材41にて吸収し、周囲の変位がユニット体30等へ作用することを抑制できる。
【0055】
吹付けコンクリート応力計80Aは、二次吹付け23の内部において残置(埋め殺し)されるため、吹付けコンクリート応力計80Aは二次吹付け23と離間を有することなく埋設されている。一方、ユニット体30は、掘進に応じてあらたに設置される鋼製支保工22に盛替え利用されることから、二次吹付け23との間に離間を置いて設置される。盛替えにおいては、複数のUボルト52から防護板42を取り外し、弾性防護材41を抜いて取り出し空間を形成することにより、ユニット体30を坑内側へ容易に取り出して盛替えに供することができる。
【0056】
また、防護板42を着脱自在に取り付けるアンカーにUボルト52を適用することにより、二次吹付け23の端部からアンカー52の埋設部までの間のへりあきが少ない場合でも、直ボルトに比べて定着長を長くとることができ、アンカー52の固定度を高めることができる。また、一つのUボルト52で一つの防護板42の二箇所を固定できることから、直ボルトに比べて設置効率が高くなる。
【0057】
図示を省略するが、山岳トンネル10の坑壁13や地山Gの内部に対しては、複数種のセンサー80が設置される。ここで、吹付けコンクリート応力計80Aと他のセンサーである鋼製支保工応力計には、例えば4chの一台のデータロガー31が繋がれる。また、さらに他のセンサーであるロックボルト軸力計と地中変位計80B(図5参照)には、それぞれに6chの一台のデータロガー31が繋がれる。鋼製支保工応力計では、ウェブの凹部22dに沿わしてケーブルをユニット体30に(現場建て込み前に)配線する。さらに、多チャンネルのデータロガーを製作し、使用することもできる。このように、センサーの種類に応じてチャンネル数が相違しており、各チャンネル数に対応するように、データロガー31を含むユニット体30が設置される。
【0058】
次に、図3A及び図3B図2を順に参照しながら、第1実施形態に係る計測機器の設置方法の一例について説明する。
【0059】
図2に示す計測機器の設置構成(計測機器の防護構造100)の形成に当たり、まず、図3Aに示すように、鋼製支保工22の坑口12側の凹部22dにユニット体30を収容するとともに、上フランジ22aに金網50を不図示の番線等により固定し、吹付けコンクリート応力計80Aとユニット体30のデータロガー31をデータケーブル39を介して配線する。
【0060】
ここで、金網50に代わり、支持棒(支持鋼材)などを適用してもよい。吹付けコンクリート応力計80Aは、ウェブ22cの二面(切羽11側、坑口12側)にひずみゲージを貼付することにより設置し、ウェブ22cの凹部22dに沿わせてユニット体30まで配線する。
【0061】
ユニット体30の外側には硬質スポンジ等の弾性防護材41を配設し、鋼製支保工22のウェブ22cに対してL型の固定治具43をビス止めし、固定治具43に対して、ポリカーボネート板等の防護板42を固定ボルト44により固定し、弾性防護材41の下面を防護板42にて覆う。防護板42には、二つ一組で複数組みのネジ溝42aが開設されており、各組のネジ溝42aに対してUボルト52の備える不図示のネジ溝を位置合わせし、ネジ溝42aを介して皿ネジ53をねじ込むことにより、防護板42の背面に複数のUボルト52を着脱自在に固定して、支保工ユニット70を形成する。
【0062】
形成された支保工ユニット70を、金網50の背面が一次吹付け21の一次吹付け面21aに当接するようにX1方向に建て込んでいくことにより、図3Bに示す二次吹付け施工前の状態を形成する。
【0063】
ここで、既に建て込まれている鋼製支保工22からトンネルの前方へ金網50が若干突出しており、この金網50の突出部に対して新たに設置された金網50を結束線51で結束することにより、新たに設置された金網50を堅固に固定する(以上、A3工程)。
【0064】
次に、図2に示すように、二次吹付け23を施工することにより、鋼製支保工22や金網50、吹付けコンクリート応力計80A、弾性防護材41、及びユニット体30を二次吹付け23に巻き込み、Uボルト52を二次吹付け23に埋設する。
【0065】
この際、計測機器85Aの一部であるユニット体30は、二次吹付け23との間に離間を置いて配設され、この離間には弾性防護材41が配設されている。二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52に対して、弾性防護材41を支持する防護板42を着脱自在に固定することにより、計測機器85Aが設置され、防護構造100が形成される(以上、B1工程)。
【0066】
上記するB1工程と並行して、もしくはB1工程の前後に、第一通信器32よりも坑口12側に、第二通信器61を配設する。
【0067】
図示する計測機器の設置方法によれば、一次吹付け21の一次吹付け面21aに対して、鋼製支保工22と金網50(もしくは支持棒)が一体とされ、これらにユニット体30とユニット体30の周囲にある弾性防護材41が取り付けられ、弾性防護材41に対して防護板42と防護板42を着脱自在に繋ぐUボルト52が取り付けられている、支保工ユニット70を建て込んだ後、支保工ユニット70を巻き込むようにして二次吹付け23を施工してUボルト52を二次吹付け23に埋設することにより、計測機器85Aの一部もしくは全部を、効果的に防護された状態で効率的に設置することができる。ここで、図示例の設置方法におけるセンサーは吹付けコンクリート応力計80Aであるが、センサーには鋼製支保工応力計が適用されてもよいし、その他、コンクリートひずみ計や温度計などが適用されてもよい。
【0068】
また、ユニット体30を取り出して別の設置場所に盛替える際には、防護板42を取り外し、弾性防護材41を抜いて取り出し空間を形成することにより、ユニット体30を容易に取り出すことが可能になる。
【0069】
[第2実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法]
次に、図5A乃至図5C図6A乃至図6Cを参照して、第2実施形態に係る計測機器の防護構造と設置方法の一例について説明する。ここで、図5Aは、第2実施形態に係る計測機器の防護構造の一例を示す縦断面図であり、図5Bは、図5AにおけるB方向矢視図であって、計測機器の防護構造の一例を坑内側から見た平面図である。また、図5Cの(a)、(b)はいずれも、防護板に取り付けられている他の形態のアンカーが二次吹付けに埋設されている状態を示す図である。さらに、図6A乃至図6C図5Aは順に、第2実施形態に係る計測機器の設置方法を説明する工程図である。
【0070】
図5Aに示す計測機器の防護構造100Aは、センサー80が地中変位計80Bである場合の形態である。ここで、センサーには、地中変位計80Bの他に、ロックボルト軸力計が適用されてもよい。
【0071】
地中変位計80Bは、二次吹付け23の施工後に、一次吹付け21から地山Gに亘って設置孔90を削孔してその一部が設置され、二次吹付け23の内部に設けられている空間に地中変位計80Bの他部が設置され、当該他部とともにその近傍に設置されているユニット体30が弾性防護材41に収容される。
【0072】
ユニット体30は地中変位計80Bの近傍に配設され、地中変位計80Bとユニット体30のデータロガー31がデータケーブル39を介して配線されることにより、計測機器85Bが形成される。
【0073】
地中変位計80Bとユニット体30の周囲に硬質スポンジ等の弾性防護材41が配設され、ポリカーボネート板等の防護板42が弾性防護材41の下面を覆っている。
【0074】
図5Bに示すように、防護板42は、山岳トンネルの周方向に縦長の平面視矩形(長辺42bと短辺42cを備えている)の形状を呈している。ここで、図示例の防護板42は、4つの隅角部が湾曲しているが、このような形状も矩形に含まれるものとする。
【0075】
防護板42の背面(上面)には、複数のUボルト52が配設され、二次吹付け23に埋設されている。それぞれのUボルト52は、二箇所の端部に不図示のネジ溝を備えている。ここで、アンカーには、Uボルトの他に直ボルトが適用されてもよい。
【0076】
一方、防護板42は、各Uボルト52のそれぞれのネジ溝に対応する位置にネジ溝42aを備えており、各Uボルト52に対して坑内側から防護板42を位置合わせし、ネジ溝42aを介して皿ネジ53をねじ込むことにより、二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52に対して防護板42が固定される。すなわち、防護板42は、二次吹付け23の坑内側面23aに配設されている。
【0077】
より詳細には、図5Bに示すように、平面視矩形の防護板42のうち、周方向にある一対の短辺42cに沿ってネジ溝42aが設けられており、従って、Uボルト52はそれぞれの短辺42cに沿って防護板42に取り付けられている。
【0078】
このように、山岳トンネルの周方向に縦長の防護板42の短辺42cに沿ってUボルト52が固定されていることにより、防護板42の長辺42bと側方にある鋼製支保工22との間には十分なスペースSが確保され、このことは、Uボルト52と鋼製支保工22との間にも十分なスペースが確保されることを意味している。そのため、二次吹付け23を施工した際にUボルト52の周囲にコンクリートが十分に充填され、Uボルト52が二次吹付け23の内部に確実かつ安定的に埋設されることが保証される。
【0079】
ここで、Uボルトを二次吹付けの内部に確実かつ安定的に埋設するための他の形態として、図5C(a)、(b)に示す形態を挙げることができる。
【0080】
図5C(a)に示す形態は、側方へ屈曲したUボルト52Aが防護板42の短辺42cに沿って取り付けられている形態である。アンカー52Aが側方へ屈曲していることにより、例えば鉛直方向に直線状のアンカーに比べて、周囲へのコンクリートの充填性が良好になり、防護板42の短辺42cに沿ってUボルト52が取り付けられていることと相俟って、Uボルト52Aの周囲へのコンクリートの充填性がより一層良好になる。
【0081】
一方、図5C(b)に示す形態は、側方へ湾曲したUボルト52Bが防護板42の短辺42cに沿って取り付けられている形態である。アンカー52Bが側方へ湾曲していることによっても、周囲へのコンクリートの充填性が良好になる。
【0082】
尚、図示を省略するが、その他の形態として、側方へ傾斜したUボルトが防護板42の短辺42cに沿って取り付けられている形態であってもよい。また、各形態において、Uボルトに代わり、直ボルトが適用されてもよい。
【0083】
計測機器85Bの一部であるユニット体30と地中変位計80Bの一部は、二次吹付け23との間に離間を置いて配設され、この離間には弾性防護材41が配設され、二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52が、弾性防護材41を支持する防護板42を着脱自在に固定することにより、計測機器の防護構造100Aが形成される。すなわち、防護構造100Aでは、一次吹付け21から地山Gに亘って施工される設置孔90に対して地中変位計80Bの一部が設置され、二次吹付け23の内部に計測機器85Bの他部が埋設され、防護板42が計測機器85Bの一部に対応する位置に配設されて、少なくとも計測機器85Bの一部を坑内空間から防護している。
【0084】
防護構造100と同様に、防護構造100Aにおいても、ユニット体30の盛替えの際は、複数のUボルト52から防護板42を取り外し、弾性防護材41を抜いて取り出し空間を形成することにより、ユニット体30を坑内側へ容易に取り出して盛替えに供することができる。
【0085】
次に、図6A乃至図6C図5Aを順に参照しながら、第2実施形態に係る計測機器の設置方法の一例について説明する。
【0086】
図5Aに示す計測機器の設置構成(計測機器の防護構造100A)の形成に当たり、まず、図6Aに示すように、鋼製支保工22の上フランジ22aに対して金網50を不図示の番線等により固定し、金網50に対して箱抜き部材91を不図示の番線等により固定し、金網50に対して複数のUボルト52を番線95により固定する。複数のUボルト52の備える不図示のネジ溝に対して、二つ一組で複数組みのネジ溝42aが開設されている防護板42を位置合わせし、ネジ溝42aを介して皿ネジ53をねじ込むことにより、複数のUボルト52に対して防護板42を着脱自在に固定して、支保工ユニット70Aを形成する。
【0087】
箱抜き部材91は、例えばチップウレタン(硬質ウレタンの一例)や発泡スチロール等により形成される複数の板状体が積層されることにより構成され、複数の板状体が不図示のバンドにて一体とされている。ここで、箱抜き部材91は、このような積層構造の他にも、樹脂等の一体成形品であってよい。
【0088】
箱抜き部材91の内部には、塩ビパイプ(VU管)等により形成されるガイド管92が埋設されている。このガイド管92は、支保工ユニット70Aが建て込まれた際に、設置孔90が削孔されるべき削孔予定位置に位置合わせされている。
【0089】
形成された支保工ユニット70Aを、金網50の背面が一次吹付け21の一次吹付け面21aに当接するようにX1方向に建て込んでいくことにより、図6Bに示す二次吹付け施工前の状態を形成する。
【0090】
ここで、既に建て込まれている鋼製支保工22からトンネルの前方へ金網50が若干突出しており、この金網50の突出部に対して新たに設置された金網50を結束線51で結束することにより、新たに設置された金網50を堅固に固定する(以上、A1工程)。
【0091】
次に、図6Cに示すように、支保工ユニット70Aを巻き込むようにして二次吹付け23を施工し、この際に、Uボルト52を二次吹付け23に埋設する(以上、B1工程)。
【0092】
次に、同図6Cに示すように、各Uボルト52から防護板42を取り外し、不図示の削孔機を、ガイド管92を介して削孔予定位置に案内しながら設置孔90を施工する。尚、削孔の位置決めができたら、ガイド管92と箱抜き部材91を取り外す。
【0093】
設置孔90を施工した後、図5に示すように、ガイド管92と箱抜き部材91を取り外して形成された設置空間に、地中変位計80Bやユニット体30を設置し、地中変位計80Bとユニット体30の周囲に弾性防護材41を設置する。二次吹付け23に固定されている複数のUボルト52に対して、弾性防護材41を支持する防護板42を着脱自在に固定することにより、計測機器85Bが設置されて、防護構造100Aが形成される(以上、C1工程)。
【0094】
上記するC1工程と並行して、もしくはC1工程の前後に、第一通信器32よりも坑口12側に、第二通信器61を配設する。
【0095】
ここで、所定の計測が終了し、二次吹付け23の内側に不図示の二次覆工を施工するに当たり、ユニット体30を再利用に供するべく、防護板42を取り外してユニット体30を回収する。次いで、コンクリート吹き付け、もしくはコンクリートやモルタルの左官施工により、弾性防護材41とユニット体30のあった空間を埋める。
【0096】
図示する計測機器の設置方法では、箱抜き部材91において、設置孔90を施工する削孔機を削孔予定位置に案内し、かつ、地中変位計80Bを設置孔90に案内するためのガイド管92が設けられていることにより、設置孔90を所望する削孔予定位置に施工することができ、さらには、地中変位計80Bを設置孔90に対してスムーズに設置することが可能になる。
【0097】
また、一次吹付け21の一次吹付け面21aに対して、鋼製支保工22と金網50(もしくは支持棒)が一体とされ、これらにユニット体30とユニット体30の周囲にある弾性防護材41が取り付けられ、弾性防護材41に対して防護板42と防護板42を着脱自在に繋ぐUボルト52が取り付けられている、支保工ユニット70Aを建て込んだ後、支保工ユニット70Aを巻き込むようにして二次吹付け23を施工してUボルト52を二次吹付け23に埋設することにより、計測機器85Bの一部もしくは全部を、効果的に防護された状態で効率的に設置することができる。
【0098】
ここで、図示を省略するが、支保工ユニット70Aに代わり、鋼製支保工22と、その他の部材を別々に建て込む施工方法であってもよい。具体的には、鋼製支保工22を建て込むとともに、箱抜き部材91と、箱抜き部材91に取り付けられている防護板42と、防護板42の背面側に着脱自在に取り付けられているアンカー52とを少なくとも備えている、箱抜きユニットを、一次吹付け面21aにおける、地中変位計80Bの設置予定位置に設置する(A2工程)。
【0099】
次に、鋼製支保工22と、箱抜きユニットを巻き込むようにして二次吹付け23を施工し、この際に、アンカー52を二次吹付け23に埋設する(B2工程)。
【0100】
次に、アンカー52から防護板42を取り外し、箱抜き部材91を介して地山Gの途中まで削孔して設置孔90を施工し、設置孔90の内部に地中変位計80Bを設置し、箱抜き部材91を取り外して箱抜き空間を形成し、箱抜き空間を覆うように防護板42をアンカー52に取り付ける(C2工程)。
【0101】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0102】
10:山岳トンネル
11:切羽
12:坑口
13:坑壁
21:一次吹付け
21a:一次吹付け面
22:鋼製支保工(H形鋼)
22a:上フランジ(フランジ)
22b:下フランジ(フランジ)
22c:ウェブ
22d:凹部
23:二次吹付け(吹付けコンクリート)
23a:坑内側面
30:ユニット体
31:データロガー
32:第一通信器(LPWAの子機、通信器)
33:通信アンテナ
39:データケーブル
41:弾性防護材(硬質スポンジ)
42:防護板
42a:ネジ溝
42b:長辺
42c:短辺
43:固定治具
44:固定ボルト
45:発泡ウレタン
47:受け形鋼材
48:タッピングビス
50:金網
51:結束線
52:Uボルト(アンカー)
52A:側方へ屈曲したUボルト(アンカー)
52B:側方へ湾曲したUボルト(アンカー)
53:皿ネジ
60:通信親機
61:第二通信器(LPWAの親機)
62:タブレットPC
63:通信アンテナ
70,70A:支保工ユニット
80:センサー
80A:吹付けコンクリート応力計(センサー)
80B:地中変位計(センサー)
85A,85B:計測機器
90:設置孔
91:箱抜き部材
92:ガイド管
95:番線
100,100A:計測機器の防護構造(防護構造)
200:地山計測システム
G:地山
G1:掘り込み
B:ボーリング孔
S:スペース
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C