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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117385
(43)【公開日】2023-08-23
(54)【発明の名称】内燃機関及び運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230816BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20230816BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20230816BHJP
   F02P 5/145 20060101ALI20230816BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D43/00 301N
F02D43/00 301J
F02D41/04
F02P5/145 G
F02P5/145 D
F02D19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023010803
(22)【出願日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】22156018
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515191442
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリドリン ウンフーク
(72)【発明者】
【氏名】マルティーノ フェレッティ
【テーマコード(参考)】
3G022
3G092
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G022EA02
3G022GA13
3G022GA15
3G092AA01
3G092AA02
3G092AA03
3G092AB01
3G092AB06
3G092AB11
3G092AC10
3G092BA09
3G092BB01
3G092BB11
3G092BB13
3G092EA01
3G092EA02
3G092EA03
3G092EA04
3G092FA16
3G092HC01Z
3G092HC05Z
3G092HC09Z
3G301HA01
3G301HA02
3G301HA22
3G301JA02
3G301JA22
3G301MA11
3G301MA18
3G301MA26
3G301PC08Z
3G384AA01
3G384AA03
3G384AA13
3G384BA13
3G384BA18
3G384BA19
3G384BA24
3G384BA27
3G384DA02
3G384DA55
3G384EB01
3G384EB02
3G384EB03
3G384EB04
3G384EB05
3G384EB07
3G384EB08
3G384FA29Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関において、最適の燃料効率を提供しつつノッキングを防止し得ること。
【解決手段】本発明によれば、内燃機関10が、少なくとも1つのシリンダ10内の圧力を表す信号を提供するための少なくとも1つのセンサ17を有する圧力測定ユニット16を含む。内燃機関10は制御ユニット18を有し、この制御ユニットは、圧力測定ユニット16の信号を受け、この信号に基づいてノック指数を決定し、ノック指数を、所定のノック指数値又はノック指数間隔と比較し、決定されたノック指数がノック指数値又はノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、EGR率、例えばパイロット点火時期又はパイロット燃料噴射時期である点火事象時期、及び/又は供給される流体燃料の量を修整するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともガス・モードで運転可能な内燃機関(10)、特に大型船舶用機関又は定置式機関であって、
前記内燃機関(10)は、少なくとも200mmの内径(12)を有する少なくとも1つのシリンダ(11)を有し、
前記シリンダ(11)は、プレ・チャンバであって、特にパイロット噴射システム(13)を有するプレ・チャンバを有し、
前記内燃機関(10)は、前記シリンダ(11)に流体燃料を供給するための少なくとも1つのガス導入弁(14)を有し、
前記内燃機関(10)は、好ましくは低圧の、排気ガス再循環経路(16)を有し、
前記内燃機関(10)は、前記少なくとも1つのシリンダ(10)内の圧力を表す信号を提供するための少なくとも1つのセンサ(17)を備えた圧力測定ユニット(16)を有し、
前記内燃機関(10)は制御ユニット(18)を有し、前記制御ユニットは、
前記圧力測定ユニット(16)の前記信号を受け、
前記信号に基づいてノック指数を決定し、
前記ノック指数を、所定のノック指数値又はノック指数間隔と比較し、また
決定された前記ノック指数が前記ノック指数値又は前記ノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、(ア)EGR率、(イ)例えばパイロット点火時期又はパイロット燃料噴射時期である点火事象時期、及び/又は(ウ)供給される流体燃料の量を修整する
ように構成されている、内燃機関(10)。
【請求項2】
前記制御ユニット(18)は、MAPO値及び/又はIMPO値を決定することにより、前記ノック指数を決定するように構成されている、請求項1に記載の内燃機関(10)。
【請求項3】
前記内燃機関(10)は、複数のn個のシリンダ(11)を有し、前記圧力測定ユニット(16)は、各シリンダ(11)内の圧力を表す信号を提供し、
前記制御ユニット(18)は、調整手順を実行するように構成され、前記制御ユニット(18)は、
第1のEGR率を設定し、
(i)第1のEGR率ステップ分だけ前記EGR率を減少させ、
(ii)各シリンダに関して前記ノック指数を決定し、
(iii)決定された前記ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関して前記ノック指数値又は前記ノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、それぞれのシリンダに関して前記点火時期を調整し、
(iv)所定数よりも多数のシリンダが、特にn/2個よりも多数のシリンダが調整された場合に、減少させた前記EGR率を維持し、そうでない場合には、ステップ(i)から再び開始する
ように構成されている、請求項1又は2に記載の内燃機関(10)。
【請求項4】
前記内燃機関(10)は、複数のn個のシリンダ(11)を有し、前記圧力測定ユニット(16)は、各シリンダ(11)内の圧力を表す信号を提供し、
前記制御ユニット(18)は、調整手順を実行するように構成され、前記制御ユニット(18)は、
(i)各シリンダに関して前記ノック指数を決定し、
(ii)決定された前記ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関して前記ノック指数値又は前記ノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、それぞれのシリンダに関して前記点火時期を調整し、
(iii)少なくとも所定数のシリンダが、例えば少なくともn/2個のシリンダが調整された場合に、前記EGR率を増加させ、
(iv)特に、ステップ(i)から再び開始する
ように構成されている、請求項1又は2に記載の内燃機関(10)。
【請求項5】
前記制御ユニット(16)は、特定の時間間隔の後に連続的に、特に1~50サイクルごとに、特に5~20サイクルごと又は5~10サイクルごとに連続的に、前記調整手順を実行するように構成されている、請求項3又は4に記載の内燃機関(10)。
【請求項6】
前記制御ユニット(16)は、点火事象のクランク角(θignition)近傍の第1クランク角範囲(CR)における振動と、1サイクルの圧力経過における最大値(pmax)のクランク角(θpmax)近傍の第2クランク角範囲(CRII)における振動とを確認し比較することによって、例えばパイロット点火又はパイロット燃料噴射である点火事象に基づく振動圧力波と、ノッキング事象に基づく振動圧力波とを、特に前記ノック指数を決定する前に、区別するように構成されている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の内燃機関(10)。
【請求項7】
前記制御ユニット(16)は、1000~2500Hzのサンプリング速度での前記信号に基づいてノック指数を決定するように構成されている、請求項1から6までのいずれか一項に記載の内燃機関(10)。
【請求項8】
前記EGR率は、ERG弁(19)を設定することによって、及び/又は背圧弁(20)を設定することによって、及び/又はEGRブロワを設定することによって、設定される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の内燃機関(10)。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の内燃機関を運転するための方法であって、
- 前記少なくとも1つのシリンダ(10)内の圧力を表す信号を提供するステップと、
- 前記信号に基づいてノック指数を決定するステップであって、特にMAPO値又はIMPO値を決定するステップと、
- 前記ノック指数を、所定のノック指数値又はノック指数間隔と比較するステップと、
- 決定された前記ノック指数が、前記ノック指数値又はノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、(ア)EGR率、(イ)例えばパイロット点火時期又はパイロット燃料噴射時期である点火事象時期、及び/又は(ウ)供給される流体燃料の量を修整するステップと
を含む、請求項1から8までのいずれか一項に記載の内燃機関を運転するための方法。
【請求項10】
前記ノック指数は、1000~2500Hzのサンプリング速度での前記信号に基づいて決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1のEGR率を設定するステップと、
(a)第1のEGR率ステップ分だけ前記EGR率を減少させるステップと、
(b)各シリンダに関して前記ノック指数を決定するステップと、
(c)決定された前記ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関して前記ノック指数値又はノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、それぞれのシリンダに関して前記パイロット点火時期を調整するステップと、
(d)n/2個よりも多数のシリンダが調整された場合に、減少させた前記EGR率を維持するステップであって、そうでない場合には、ステップ(a)から再び開始するステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
(a)各シリンダに関して前記ノック指数を決定するステップと、
(b)決定された前記ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関して前記ノック指数値又はノック指数間隔を下回っている又は上回っている場合に、それぞれのシリンダに関して前記パイロット点火時期を調整するステップと、
(c)少なくとも所定数のシリンダが、例えば少なくともn/2個のシリンダが調整された場合に、前記EGR率を増加させるステップと、
(d)特に、ステップ(a)から再び開始するステップと
を含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
特に、点火事象のクランク角(θignition)近傍の第1クランク角範囲(CR)における振動と、1サイクルの圧力経過における最大値(pmax)のクランク角(θpmax)近傍の第2クランク角範囲(CRII)における振動と確認し比較することによって、ノッキング事象に基づく振動圧力波を、例えばパイロット点火又はパイロット燃料噴射である前記点火事象に基づく振動圧力波から、特に前記ノック指数を決定する前に、識別するステップを含む、請求項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、及び内燃機関の運転方法、に関する。
【0002】
本発明は、好ましくは、シリンダが少なくとも200mmの内径を有しているような、大型船舶用機関若しくは船舶用機関又は定置式機関などの内燃機関に関する。機関は、2ストローク機関又は2ストローク・クロス・ヘッド機関であることが好ましい。
【背景技術】
【0003】
機関は、ディーゼル機関若しくはガス機関、2元燃料機関、又は多元燃料機関とすることができる。このような機関では、ガス状燃料の燃焼が、或いは、液体燃料及び/又はガス状燃料の燃焼が、可能であり、また、自己着火又は強制点火が可能である。
【0004】
内燃機関という用語は、燃料の自己着火を特徴とするディーゼル・モードだけでなく、燃料のポジティブ点火を特徴とするオットー・モードでも、又は例えば火花点火によってなど両者の組合せでも運転可能であるような、大型機関を指す。更に、内燃機関という用語は、特に、燃料の自己着火が別の燃料のポジティブ点火用に使用されるような、2元燃料機関及び大型機関を含む。
【0005】
機関は、内部にピストンを有した少なくとも1つのシリンダを含む。ピストンは、クランクシャフトに対して接続されている。ピストンは、機関の運転時には、上死点(TDC:top dead center)と下死点(BDC:bottom dead center)との間を、往復移動する。シリンダは、典型的には、吸気のための少なくとも1つの空気流通開口であり、特にシリンダのライナに配置された空気導入口と、排気のための少なくとも1つの空気流通開口であり、特にシリンダのカバーに配置された排気導出口と、を有している。空気導入口は、掃気受領器と流体連通していることが好ましい。
【0006】
内燃機関は、長手方向掃気式の2ストローク機関とすることができる。
【0007】
機関回転速度は、800RPM未満であることが好ましく(4ストローク)、低速機関の称号を示す200RPM未満であることがより好ましい(2ストローク)。
【0008】
燃料は、軽油若しくは船舶用軽油、又は重質燃料油、又はエマルジョン、又はスラリー、又はメタノール、又はエタノール、並びに、液化天然ガス(LNG:liquid natural gas)、液化石油ガス(LPG:liquid petrol gas)等のようなガス、とすることができる。
【0009】
要望に応じて追加され得る更なる可能な燃料は、LBG(液化バイオガス:Liquified Biogas)、バイオ燃料(例えば、藻類燃料、又は海藻油)、水素、CO2からの合成燃料(例えば、パワー・トゥ・ガス、又はパワー・トゥ・リキッドにより製造されたもの)、である。
【0010】
大型船舶は、特に貨物輸送のための船舶は、通常、内燃機関、特にディーゼル機関及び/又はガス機関、大部分が2ストロークのクロス・ヘッド機関を動力とする。重質燃料油、船舶用15軽油、軽油、又は他の液体のような液体燃料を、並びに、LNG、LPG、又はその他のようなガス状燃料を、機関で燃焼させる場合には、この燃焼プロセスからの排気は、IMO Tier IIIなどの現行規則に準拠するように清浄化される必要がある。
【0011】
この用途では、内燃機関は、ガス・モードで運転され得ることが好ましい。ガス燃料などの、又はシリンダ内で気化する液体をなす加圧ガスなどの、流体燃料が、ガス導入弁を介して供給され、トルク生成のために使用される。ガス・モードでは、追加的に、時にパイロット噴射と称されるような少量の流体燃料の噴射によって、誘導点火を実行してもよい。
【0012】
内燃機関は、典型的には、シリンダから排出された排気ガスを使用することでシリンダに対して供給される空気量を増加させる過給器を含む。過給器によって圧縮された空気は、吸気のための空気流通開口と流体連通している掃気受領器に対して供給することができる。
【0013】
シリンダ内には、新鮮な空気及び流体燃料に加えて、排気ガスなどの不活性ガスが導入されてもよい。機関は、高圧又は低圧の、排気ガス再循環経路を含んでもよい。低圧での排気ガス再循環の場合、排気ガスは、過給器のタービンを通過した後に新鮮な空気と混合されてから、及び/又は過給器のコンプレッサを通過してから、掃気用空気の一部としてシリンダ内へと導入される。
【0014】
過早着火、ノッキング、又は失火などの異常燃焼は、特に、新鮮な空気とガスとの比率が、すなわちラムダとも称される空燃比若しくは空燃当量比が、特定の範囲内にない時に、発生する。
【0015】
ガス含有量が多すぎると、空気燃料混合気の濃度が、大きくなりすぎる。混合気の燃焼は、例えば自己着火によって、速すぎたり又は早すぎたりすることとなり、これにより、過早着火又は機関のノッキングにつながり得る。空気含有量が多すぎる場合には、空気燃料混合気が、希薄となりすぎてしまい、望ましくない遅発燃焼又は失火さえもが起こる可能性があり、当然のことながら、機関の効率的且つ低公害での運転に対しても、悪影響を及ぼし得る。特に、ガス含有量が多すぎる状態と空気含有量が多すぎる状態との、2つの状態は、異常燃焼プロセスとして指定されている。よって、ガス・モードでは、空気ガス混合気が自己着火しない燃焼プロセスが、目指すところである。燃焼プロセスは、空気ガス混合気が濃すぎることもなく薄すぎることもない範囲内で行われるものとする。
【0016】
ノッキングなどの異常燃焼プロセスを低減又は回避するために、排気ガスなどの不活性ガスをシリンダ内へと導入し得ることが、知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、従来技術の欠点を回避することであり、特に、最適の燃料効率を提供しつつもノッキングを防止し得るような、内燃機関、及び内燃機関の運転方法、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、内燃機関は、少なくともガス・モードで運転可能な、大型船舶用機関又は定置式機関である。
【0019】
ガス・モードで運転可能であるとは、燃料ガスがシリンダ内へと導入されること、或いは、高圧の燃料液体がシリンダ内に導入され、その導入の直後に気化すること、のいずれかを意味する。内燃機関は、シリンダに対して燃料を供給するための少なくとも1つのガス導入弁を含む。各シリンダは、燃料流体導入弁を有してもよい。燃料流体は、例えばLNGタンクから、燃料流体導入弁に対して、供給されてもよい。
【0020】
内燃機関は、少なくとも200mmの内径を有した少なくとも1つのシリンダを含む。シリンダは、例えばパイロット点火システム又は火花点火システムを有したプレ・チャンバを備えている。
【0021】
内燃機関は、排気ガス再循環経路を更に含む。排気再循環経路は、低圧の排気再循環経路であることが好ましい。特に、内燃機関は、過給器を含み、この過給器は、排気ガスの少なくとも一部が過給器のタービンを通過して過給器のコンプレッサへと再循環されるように、更に、再循環された排気ガスが新鮮な空気と一緒にシリンダに対して供給されるように、構成されている。
【0022】
特に、内燃機関は、掃気受領器を含み、掃気受領器からは、新鮮な空気と、再循環された排気ガスとを、シリンダの底部に配置された開口へと、案内することができる。
【0023】
内燃機関は、少なくとも1つのシリンダ内の圧力を表す信号を提供するための少なくとも1つのセンサを有した圧力測定ユニットを、更に含む。圧力測定ユニットは、各シリンダに関して少なくとも1つのセンサを有していることが好ましい。センサは、圧力センサであってもよい。
【0024】
内燃機関は、圧力測定ユニットの信号を受領するように構成された制御ユニットを、特にすべてのシリンダに関するすべての信号を受領するように構成された制御ユニットを、更に含む。制御ユニットは、信号に基づいてノック指数を決定するように、特に各シリンダに関してノック指数を決定するように、更に構成されている。
【0025】
制御ユニットは、ノック指数を所定のノック指数値(knock index value)又はノック指数間隔(knock index interval)と比較するように、更に構成されている。ノック指数値及び/又はノック指数間隔は、例えば、シリンダの寸法に基づいて、シリンダの固有振動数に基づいて、及び/又は工場テスト(shop test)で指定された経験値に基づいて、事前に規定することができる。
【0026】
制御ユニットは、決定されたノック指数が、ノック指数値又はノック指数間隔を下回っているか又は上回っている場合には、排気ガス再循環率(EGR(exhaust gas recirculation)率)、例えばパイロット点火時期若しくはパイロット燃料噴射時期などの点火事象時期、及び/又は供給される流体燃料の量、を修整する(adapt)ように、更に構成されている。
【0027】
制御ユニットは、MAPO値及び/又はIMPO値を決定することにより、ノック指数を決定するように構成されてもよい。
【0028】
典型的には、生の圧力信号が、例えば0.2~20kHzのバンド・パス内で、バンド・パス・フィルタ処理済み圧力信号へと、変換される。0.5kHz~10kHzのバンド・パス・フィルタ処理ウィンドウを適用し得ることが好ましい。
【0029】
バンド・パス・フィルタは、圧力測定ユニットの一部であってもよく、又は、制御ユニットの一部であってもよい。
【0030】
バンド・パス・フィルタ処理済み信号から、絶対値が決定されてもよい。
【0031】
MAPO(maximum amplitude of pressure oscillations)値は、圧力振動の最大振幅であって、次式によって決定される。
【数1】
【0032】
IMPO(integral of the modules of pressure oscillation)値は、圧力振動のモジュールの積分値であって、次式によって決定される。
【数2】

ここで、
【数3】

は、フィルタ処理済みシリンダ内圧力であり、
Nは、計算したサイクル数であり、
θは、計算ウィンドウの開始に対応したクランク角であり、
ζは、計算ウィンドウの値である。
【0033】
ノック指数は、また、圧力振動係数の積分値(IMPG:integral of modulus of pressure oscillations)、熱放出率(ROHR:rate of Heat release)、又は正味の累積熱放出量(CHRNET:net cumulative heat release)、を計算することにより、決定することもできる。
【0034】
排気ガスの再循環がノッキングを低減させることは、知られている。しかしながら、排気ガスが多いと、燃焼効率が悪くなり得る。よって、ノッキングが防止されるよう、最小限の排気ガス量が使用されるべきである。
【0035】
内燃機関は、nを1よりも大きいものとした時に、複数のn個のシリンダを含むことが好ましく、圧力測定ユニットは、各シリンダ内の圧力を表す信号を提供する。
【0036】
制御ユニットは、調整手順を実行するように構成されてもよく、制御ユニットは、第1EGR率を設定するように構成されている。EGR率は、典型的には1つの共通の過給器によって供給されるすべてのシリンダに関して共通のパラメータである。
【0037】
第1設定は、例えば工場テストで事前に規定されたマップから取得されてもよい。
【0038】
EGR率は、第1EGR率のステップの分だけ減少されてもよく、各シリンダに関してノック指数が決定されてもよい。
【0039】
決定されたノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関してノック指数値又はノック指数間隔を下回っているか又は上回っている場合には、制御ユニットは、それぞれ対応するシリンダに関して、例えばパイロット燃料噴射時期若しくは火花点火時期などの点火時期を調整するように、構成されている。
【0040】
n-2個よりも多数の又はn/2個よりも多数のシリンダが調整された場合には、EGR率は、一定に維持されなければならない。
【0041】
そうでない場合には、EGR率を、再び減少させてもよく、各シリンダに関してノック指数を再び決定して、点火時期を調整することにより、個々のシリンダが調整されてもよい。
【0042】
この手順は、EGR率を一定に維持しなければならなくなるまで、繰り返すことができる。
【0043】
代替的には、EGR率は、事前に規定された設定ポイントに従って設定されてもよい。制御ユニットは、各シリンダに関してノック指数を決定するように、構成されてもよい。ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関してノック指数値又はノック指数間隔を上回っている場合には、制御ユニットは、それぞれ対応するシリンダに関して点火時期を調整するように、構成されてもよい。制御ユニットは、n個すべてのシリンダのうち、少なくとも所定数のシリンダが、例えば少なくともn-2個の又は少なくともn/2個のシリンダが、ノック指数値又はノック指数間隔を上回る信号を提供している場合には、EGR率を増加させるように、構成されている。
【0044】
その後、各シリンダに関して、ノック指数が計算されてもよい。制御ユニットは、各修整ラウンドの後には、ノック指数の監視を再開してもよい。
【0045】
ノック指数の監視は、点火タイミング及びEGR率が上述した手順に従って修整されるように、継続的に実行されてもよい。
【0046】
このようにして、少数のユニットだけに、例えばn-2個以下の又はn/2個以下のシリンダだけに、定義した基準に従ったノッキングが発生している場合に、全体的なEGR率の変更を回避することができる。
【0047】
点火時期は、遅らせた時期で点火を引き起こすことにより、例えば直前の点火事象のクランク角から1~2度遅らせて点火を引き起こすことにより、調整することができる。
【0048】
制御ユニットは、特定の時間間隔の後には、特に1~10サイクルの後には、より詳細には、機関運転の5~10サイクルごとに、上述した調整手順を継続的に実行するように構成されてもよい。
【0049】
本出願では、「サイクル」という用語は、クランク軸が1回転する持続時間であって、シリンダ掃気と、圧縮と、熱放出/燃焼と、膨張/動作ストロークと、が行われる持続時間を指す。
【0050】
本発明の好ましい実施例では、内燃機関は、点火事象に基づく振動圧力波と、ノッキング事象に基づく振動圧力波とを、特にノック指数を決定する前に、区別するように構成された制御ユニットを含む。
【0051】
制御ユニットは、点火事象のクランク角近傍での第1クランク角範囲(CR)における振動と、1サイクルの圧力経過における最大値のクランク角近傍での第2クランク角範囲(CRII)における振動と、を確定させて比較するように、構成されてもよい。
【0052】
点火プロセスによって引き起こされる燃焼チャンバ内の圧力振動は、通常、例えばパイロット点火又はパイロット燃料噴射によって引き起こされる点火事象の後に既に短時間存在している。
【0053】
この振動は、点火事象近傍での第1クランク角範囲内において、検出することができる。第1クランク角範囲は、点火事象のクランク角から第1クランク角距離のところで開始し且つ点火事象のクランク角から第2クランク角距離のところで終了するクランク角間隔をカバーしてもよく、ここで、第2クランク角距離は、第1クランク角距離よりも大きい。
【0054】
第1クランク角距離は、2°であってもよく、第2クランク角距離は、4°であってもよい。
【0055】
第1クランク角範囲CRは、次式によって定義されてもよい。
CR={θignition+θ;θignition+θ
ここで、θignitionは、例えばパイロット燃料の噴射によって引き起こされる点火事象のクランク角であり、θは、第1クランク角距離であり、θは、第1角距離よりも大きな第2クランク角距離である。第1クランク角距離θと第2クランク角距離θとは、制御システム内で設定する必要のある変数である。θignition+θは、典型的には、パイロット燃料噴射時のクランク角θPITよりも、およそ1°~2°CAの分だけ、後であってもよい。θignition+θは、典型的には、パイロット燃料噴射時のクランク角θPITよりも、およそ4°~6°CAの分だけ、後であってもよい。
【0056】
ノック事象によって引き起こされる振動は、典型的には、燃焼プロセスの後期段階において、典型的には最大シリンダ圧力のクランク角周辺での第2クランク角範囲内に、存在する。第2クランク角範囲は、例えば、最大シリンダ圧力のクランク角から5°を引いたクランク角あたりから開始し且つ最大シリンダ圧力のクランク角に対して10°を加えたクランク角まで続くクランク角間隔をカバーしてもよい。
【0057】
第2クランク角範囲CRIIは、次式によって定義されてもよい。
CRII={θpmax+θ;θpmax+θ
ここで、θpmaxは、最大シリンダ圧力のクランク角であり、θは、第3クランク角距離であり、θは、第4クランク角距離である。第3クランク角距離θと第4クランク角距離θとは、制御システム内で設定する必要のある変数である。θは、典型的には、およそ、-10°CA~-5°CAである。θは、典型的には、およそ、+5°CA~+10°CAである。
【0058】
可能な規則によれば、第2クランク角範囲CRIIにおける圧力振動が、第1間隔CRにおける圧力振動の係数x倍を超えない場合には、その圧力振動は、ノッキングとしてカウントされない。
【0059】
係数xは、制御システム内で設定する必要のある変数である。典型的には、xは、およそ1.5~2.5である。
【0060】
圧力振動は、それぞれ対応する区間内での、バンド・パス・フィルタ処理済み圧力信号の圧力振動振幅の最大値によって、与えられることができる。
【0061】
代替的には、圧力振動は、それぞれ対応する区間内でのMAPO値若しくはIMPO値などによって、又は任意の他の適切な手法によって、定量化することができる。
【0062】
フィルタ処理済み圧力信号の生成の前には、又はそのような生成の後には、制御ユニットは、圧力信号がノッキング事象として評価されるかどうかを、チェックしてもよい。制御ユニットは、ノック指数を決定するために、圧力経過の第2クランク角範囲CRIIだけを考慮してもよい。
【0063】
大型機関の場合には、振動の周波数が小型機関と比較して、より小さいことのために、計算負荷が大きくなりすぎないように、サンプリング速度を選択することができる。典型的には、1000Hz~5000Hzのサンプリング速度を、特に1000~2500Hzのサンプリング速度を、選択することができる。
【0064】
圧力振動の振幅に対して典型的に最も寄与するノック周波数は、第1接線方向モード、第2接線方向モード、及び第1径方向モードである。2ストローク大口径機関におけるこれらモードに関する典型的なノック周波数fknockは、500Hz~2500Hzの範囲にある。よって、サンプリング速度が振動周波数の少なくとも2倍である必要があることにより、5000Hzのサンプリング速度は、第1接線方向モード、第2接線方向モード、及び第1径方向モードを測定することができる。
【0065】
ノッキングに基づく燃焼チャンバ内の圧力振動には、第1接線方向モードが最も寄与していることから、例えば直径が0.92mの大型口径の場合には1250Hzのサンプリング速度で、例えば直径が0.5mの中型口径の場合には2500Hzのサンプリング速度で、ノッキングを検出するには、充分である。
【0066】
制御ユニットは、ERG弁を設定することにより、及び/又は背圧弁を設定することにより、及び/又はEGRブロワを設定することにより、EGR率を設定するように構成されてもよい。
【0067】
問題点は、また、以下のステップを含む上述したような内燃機関の運転方法によって解決される。少なくとも1つのシリンダ内の圧力を表す信号を、提供する。その信号に基づいて、ノック指数を決定する、特に、MAPO値又はIMPO値を決定することによってノック指数を決定する。
【0068】
ノック指数を、所定のノック指数値又はノック指数間隔と比較する。決定されたノック指数が、ノック指数値又はノック指数間隔を下回っているか又は上回っている場合には、EGR率、例えばパイロット点火時期若しくはパイロット燃料噴射時期などの点火事象時期、及び/又は供給される流体燃料の量、を修整する。
【0069】
ノッキングプロセスの低減は、閉ループ制御手順で実行されてもよい。
【0070】
EGR率は、各シリンダに関してノッキング指数を決定した後に、第1EGR率から開始して、減少又は増加させてもよい。決定されたノッキング指数が、少なくとも1つのシリンダに関してノッキング指数値若しくはノッキング指数間隔を下回っているか又は上回っている場合には、それぞれ対応するシリンダに関して点火時期が調整される。
【0071】
n-2個よりも多数の又はn/2個よりも多数のシリンダが調整された場合には、EGR率は、変更すべきではない。
【0072】
そうでない場合には、EGR率を、再び変更してもよく、すべてのシリンダに関してノック指数を決定して、点火時期を調整してもよい。
【0073】
所定数のシリンダが、例えばn-2個の又はn/2個のシリンダが、調整されるとすぐに、この手順は、停止される。
【0074】
代替的には、EGR率は、事前に規定された設定ポイントに従って設定されてもよい。各シリンダに関して、ノック指数が決定されてもよい。ノック指数が、少なくとも1つのシリンダに関してノック指数値又はノック指数間隔を上回っている場合には、それぞれ対応するシリンダに関して、点火時期が調整されてもよい。制御ユニットは、n個すべてのシリンダのうち、少なくとも所定数のシリンダが、例えば少なくともn-2個の又は少なくともn/2個のシリンダが、ノック指数値又はノック指数間隔を上回る信号を提供している場合には、EGR率は、増加させてもよい。
【0075】
その後、各シリンダに関して、ノック指数が計算されてもよい。制御ユニットは、各修整ラウンドの後には、ノック指数の監視を再開してもよい。
【0076】
この方法は、ノッキング事象に基づく振動圧力波を、例えばパイロット点火又はパイロット燃料噴射などの点火事象に基づく振動圧力波から、識別するステップを含むことが好ましい。
【0077】
内燃機関は、タービンとコンプレッサとを有した過給器を含んでもよい。
【0078】
以下においては、本発明について、図面を使用して、実施例によって更に説明する。同じ参照符号は、機能的に対応した特徴点を示している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】内燃機関の概略図を示している。
図2】ノック指数の決定を概略的に示している。
図3】パイロット燃焼に基づく圧力曲線の振動を概略的に示している。
図4】ノッキング現象に基づく圧力曲線の振動を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0080】
図1は、少なくとも200mmの内径12を有したシリンダ11を含む大型船舶用機関をなす内燃機関10を示している。
【0081】
シリンダは、パイロット噴射システム13を有しており、シリンダは、ガス導入弁14を有している。
【0082】
内燃機関10は、低圧排気ガス再循環経路16を含み、この低圧排気ガス再循環経路16は、排気が、過給機22のタービンを通過するように、更に、新鮮な空気と一緒に過給機22のコンプレッサ23を通して掃気受領器24へと案内されるように、構成されている。
【0083】
再循環される排気ガスの割合(EGR率)は、EGR弁19を設定することにより、及び/又は背圧弁20を設定することにより、設定することができる。
【0084】
内燃機関10は、シリンダ10内の圧力を表す信号を提供するための例えば圧力センサなどのセンサ17を有した圧力測定ユニット16を含む。
【0085】
内燃機関10は、圧力測定ユニット16の信号を受領するように構成された制御ユニット18を更に含み、この制御ユニット18は、圧力信号に基づいてノック指数を決定するように更に構成されている。制御ユニット18は、ノック指数を、所定のノック指数値と比較するように、及び/又はノック指数間隔と比較するように、構成されている。制御ユニット18は、EGR率、過早点火時期、及び/又は供給される流体燃料の量、を修整するように構成されている。
【0086】
図2は、ノック指数の決定を概略的に示している。θをクランク角とした場合の圧力信号p(θ)を、バンド・パス・フィルタ25に通すことで、圧力信号の下降部分に関する振動成分p(θ)を受領する。次に、絶対値を決定し、この絶対値から、MAPO値及び/又はIMPO値を計算することができる。
【0087】
図3及び図4は、異なる理由に基づく圧力曲線の振動を概略的に示している。
【0088】
各図は、1サイクルをなすクランク角θにわたっての、それぞれ対応した圧力経過p(θ)(最大値pmaxを有するとともに、上昇部分と下降部分とが存在する)と、バンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力p(θ)と、を示している。
【0089】
バンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力p(θ)は、両方の場合において、振動している。しかしながら、クランク角制御範囲CR及びCRIIが相違しているために、各バンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力は、振動の程度が相違している。
【0090】
第1制御範囲CRは、パイロット点火の、この実例ではパイロット噴射のクランク角θPIT近傍の角度とされたクランク角θignitionから開始されるクランク角区間を対象としている。
【0091】
第1制御範囲CRは、8°CAの範囲を有してもよい。
【0092】
第2制御範囲CRIIは、シリンダ内の圧力経過における最大圧力値pmaxのクランク角θpmax周辺でのクランク角区間を対象としている。第2制御範囲CRIIは、12°CAの範囲を有し得るものであって、θpmax-4°CAから開始されてもよく、θpmax+8°CAで終了してもよい。
【0093】
典型的には、図3に示すように、
- 第1制御範囲CR内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅が、0.5barよりも大きい場合であり、且つ、
- 第2制御範囲CRII内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅が、第1制御範囲CR内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅に対してx=2.5とされ得る係数xを掛け算した値と比較して、より小さい場合には、
振動は、ノッキングとは見なされない。
【0094】
典型的には、図4に示すように、
- 第2制御範囲CRII内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅が、2.5barよりも大きい場合であり、且つ、
- 第1制御範囲CR内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅が、第2制御範囲CRII内におけるバンド・パス・フィルタ処理済みシリンダ圧力の最大振幅をx=2.5とされ得る係数xによって割り算した値と比較して、より小さい場合には、
振動は、ノッキング事象に基づいて発生したものである。
【0095】
よって、各制御範囲CR及びCRIIにおける振動を確定させて比較することにより、ノッキング事象を、点火事象に基づく振動圧力波と識別することができる。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】