(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117542
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】地震被害推定方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20230817BHJP
【FI】
G01V1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020156
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直泰
(72)【発明者】
【氏名】細川 雄太
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】地震後に駅間で停車した列車を次駅まで移動させる際、次駅までの移動の可否を過去に経験した地震動と無被害の情報をもとに、判断することができる地震被害推定方法を提供する。
【解決手段】鉄道の路線起点からの距離であるキロ程を所定の区間に分ける区間特定工程と、地震発生時に前記区間について、地震動情報及び被害有無の情報を集計する情報集計工程と、前記情報集計工程において集計した情報から安全率スコアを算出するスコア算出工程と、新たな地震発生時に、前記安全率スコアに基づいて前記区間における路線の点検の要否を判定する判定工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の路線起点からの距離であるキロ程を所定の区間に分ける区間特定工程と、
地震発生時に前記区間について、地震動情報及び被害有無の情報を集計する情報集計工程と、
前記情報集計工程において集計した情報から安全率スコアを算出するスコア算出工程と、
新たな地震発生時に、前記安全率スコアに基づいて前記区間における路線の点検の要否を判定する判定工程とを備えることを特徴とする地震被害推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地震被害推定方法において、
前記判定工程は、前記安全率スコアに基づいて、駅間に停止した列車を次の駅へ低速で移動させる判断の支援を行う支援情報提供工程を備えることを特徴とする地震被害推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地震被害推定方法において、
前記判定工程は、前記安全率スコアに基づいて、点検を行う区間の優先順位付けを行うことを特徴とする地震被害推定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の地震被害推定方法において、
前記スコア算出工程は、地震が発生するごとに集計された地震動情報及び被害有無の情報を用いて安全率スコアを更新することを特徴とする地震被害推定方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の地震被害推定方法において、
前記判定工程は、地震発生時の任意の区間における地震動と、前記安全率スコアを参照して点検の要否を判定することを特徴とする地震被害推定方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の地震被害推定方法において、
前記情報集計工程は、鉄道地震被害推定情報配信システムによって推定された地震動を集計することを特徴とする地震被害推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震が発生した際の当該地震による被害状況を推定する地震被害推定方法に関し、特に、地震後の鉄道の運転再開または、路線の設備点検の適正化を支援する情報を提供することができる地震被害推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市近傍で発生する中小規模の地震(例えば、震度5弱から震度5強程度)において、地震発生後の運転再開に時間を要した事例が多数報告されている。地震発生後の運転再開の判断は、線路に沿って設置された地震計が停止基準値を超えた場合には、当該地震計の担当する区間上の列車は停止し、点検基準値を超えた場合には、線路や設備の点検を行い、安全が確認できた場合に運転を再開している。
【0003】
また、地震発生後の早期運転再開の支援に向けて、非特許文献1に記載された鉄道地震被害推定情報配信システムが運用されている。この鉄道地震被害推定情報配信システムによれば、地震が発生するたびに沿線の地震動をキロ程に対応して推定することができる。したがって、当該システムによれば、地震計の観測値が停止基準値を超えた場合であっても、列車の停止位置における震度の推定値が点検基準値を下回っていれば、次駅まで低速で走行し乗客を安全に次駅で下車するように列車の引き抜きを行うことができるか否かの判断の支援を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER(登録商標))を利用して素早く運転を再開する」,RRR,77,2,12-15.2020年2月発表
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既往の地震において、沿線に設置された鉄道事業者の地震計が点検基準値を超過したために、該当区間における設備の点検が実施されたものの、該当区間における設備が無被害であった事例が多数報告されている。
【0006】
また、上述した鉄道地震被害推定情報配信システムによれば、このような過去の地震による鉄道施設の被害状況に関し、無被害であった場合の情報や沿線の地震動の情報が蓄積できる状況にあるものの、このような無被害であった場合の情報が有効活用されていないという問題があった。鉄道地震被害推定情報配信システムは、運用を継続することにより、このような鉄道が経験した地震動と無被害の情報が蓄積することができ、これらの情報を地震後の運転再開の判断に活用することが望まれている。
【0007】
このように、従来の鉄道地震被害推定情報システムによれば、地震後に駅間で停車した列車を次駅まで移動させる際、次駅までの移動の可否を判断する情報が限られており、沿線に沿って離散的に設置されている地震計による観測情報に関し、地震計と地震計との間の情報を推定する手法が確立されていないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、地震後に駅間で停車した列車を次駅まで移動させる際、次駅までの移動の可否を過去に経験した地震動と無被害の情報をもとに、判断することができる地震被害推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る地震被害推定方法は、鉄道の路線起点からの距離であるキロ程を所定の区間に分ける区間特定工程と、地震発生時に前記区間について、地震動情報及び被害有無の情報を集計する情報集計工程と、前記情報集計工程において集計した情報から安全率スコアを算出するスコア算出工程と、新たな地震発生時に、前記安全率スコアに基づいて前記区間における路線の点検の要否を判定する判定工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る地震被害推定方法において、前記判定工程は、前記安全率スコアに基づいて、駅間に停止した列車を次の駅へ低速で移動させる判断の支援を行う支援情報提供工程を備えると好適である。
【0011】
また、本発明に係る地震被害推定方法において、前記判定工程は、前記安全率スコアに基づいて、点検を行う区間の優先順位付けを行うと好適である。
【0012】
また、本発明に係る地震被害推定方法において、前記スコア算出工程は、地震が発生するごとに集計された地震動情報及び被害有無の情報を用いて安全率スコアを更新すると好適である。
【0013】
また、本発明に係る地震被害推定方法において、前記判定工程は、地震発生時の任意の区間における地震動と、前記安全率スコアを参照して点検の要否を判定すると好適である。
【0014】
また、本発明に係る地震被害推定方法において、前記情報集計工程は、鉄道地震被害推定情報配信システムによって推定された地震動を集計すると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る地震被害推定方法は、新たな地震発生時に、過去の地震における地震動情報や無被害情報から算出された安全率スコアに基づいて点検の要否を判断するので、鉄道が経験した地震動と無被害の情報を有効に活用して地震発生時に駅間で停車した列車を次駅へ移動可能か否かの判断の支援を行うことができる。これにより、地震発生後の乗客を降車させて線路上を歩行することなく救済することが可能となり、列車の早期運転再開につなげることが可能となる。
【0016】
また、降車対応が不要となることから、乗客の線路上の移動をなくすことができ、安全性の向上に資する。さらに、沿線に離散的に設置されている地震計の情報を補間することができることから、地震計の設置数を削減して低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法が実行される鉄道地震被害推定情報配信システムの概要図。
【
図2】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法のフロー図。
【
図3】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の区間特定工程を説明するための概要図。
【
図4】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の情報集計工程で収集された情報の一例を説明するためのグラフ。
【
図5】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法のスコア算出工程の概要を示す図。
【
図6】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の安全率スコアの算出方法を説明するためのグラフ。
【
図7】本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の判定工程の概要を説明するための図。
【
図8】実施形態に係る地震被害推定方法の活用事例を説明するための図。
【
図9】実施形態に係る地震被害推定方法の他の活用事例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法が実行される鉄道地震被害推定情報配信システムの概要図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法のフロー図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の区間特定工程を説明するための概要図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の情報集計工程で収集された情報の一例を説明するためのグラフであり、
図5は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法のスコア算出工程の概要を示す図であり、
図6は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の安全率スコアの算出方法を説明するためのグラフであり、
図7は、本発明の実施形態に係る地震被害推定方法の判定工程の概要を説明するための図であり、
図8は、実施形態に係る地震被害推定方法の活用事例を説明するための図であり、
図9は、実施形態に係る地震被害推定方法の他の活用事例を説明するための図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る地震被害推定方法が実行される鉄道地震被害推定情報配信システムは、地震が発生すると、気象庁や防災科学技術研究所などの公的機関により公開される地震情報(気象庁の緊急地震速報や防災科学技術研究所の地震計データ)を利用してこれらの情報を鉄道事業者が列車運転再開の判断などに用いやすいように加工して情報提供を行うシステムである。
【0021】
具体的には、鉄道地震被害推定情報配信システムは、公的機関の地震情報を受信すると、この地震情報に基づき空間補間により面的地震動を推定して地図に表示する(面的地震動の情報表示)。この際、沿線の地盤データベースを用いて地点ごとの地震時の揺れやすさを考慮すると共に、強い地震動が作用した場合の地盤の特性変化を考慮している。
【0022】
面的地震動の推定は、地表の地震動指標値から地盤増幅特性を考慮して基盤での地震動指標値を計算し、この基盤での地震動指標値に基づき空間補間を行い、基盤における各メッシュの面的地震動を計算する。また、各メッシュの地盤増幅特性を用いて地表における地震動指標値の面的地震動を計算する。ここで、鉄道の地震時における列車運転規則に用いられる地震動指標は、最大加速度、最大速度、警報用最大加速度、SI値及び計測震度などである。このように、地表では地盤の条件によって地震動が大きく変化するため、空間補間はその影響を取り除いた地中の仮想的な面上で実施する。また、地盤増幅特性を扱う計算では、強い地震動が作用した場合の地盤増幅特性の変化を考慮している。例えば、地中から伝わってきた地震動の周期と表層地盤の周期の関係や地中から伝わってきた地震動の大きさから地盤の特性変化を評価すると好適である。これを考慮することで、弱い地震動が作用する場合から強い地震動が作用する場合まで、地盤の増幅特性を適切に扱うことが可能となる。
【0023】
その後、面的地震動から沿線に沿った地震動を抽出し、横軸をキロ程、縦軸を地震動としてグラフ表示する(鉄道沿線の情報表示)。そして、鉄道沿線情報を鉄道事業者へ当該情報を配信する。
【0024】
また、配信された情報は、鉄道が経験した地震動の情報と、当該地震による被害有無の情報と共にデータ保存がなされて蓄積される。
【0025】
次に、本実施形態に係る地震被害推定方法について説明を行う。本実施形態に係る地震被害推定方法は、上述した鉄道地震被害推定情報配信システムが備えるコンピュータなどの処理装置によって行われると好適である。処理装置は、当該処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。また、処理装置は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力装置、CRT(Cathode-Ray-Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プリンタなどの出力装置、通信インタフェイスなどを備えると好適である。
【0026】
このような処理装置は、計算機内に構築されたコンピュータシステムであると好適であり、このような計算機は、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、タブレットコンピュータなどが好適に用いられ、記憶装置に記録されたアプリケーションソフトなどのプログラムに従って動作する計算機であれば種々の計算機を用いることができ、単独の計算機であってもよいし、複数台の計算機をネットワークなどで通信可能に接続したコンピュータ群を用いても構わない。
【0027】
図2に示すように、本実施形態に係る地震被害推定方法は、区間特定工程(S101)、情報集計工程(S102)、スコア算出工程(S103)及び判定工程(S104)を備えている。
【0028】
区間特定工程(S101)は、鉄道の線路起点からの距離であるキロ程を所定の区間に区分けする。具体的には、
図3に示すように、例えば、キロ程10km間隔ごとに、区間1,区間2,区間3,…,区間N-1,区間Nを区分けする。なお、
図3は、仮想的な沿線に沿って、過去に発生した地震による地震動と被害発生の有無が記録されている。また、
図3には、発生地震と、その余の既往地震(33地震)の情報が一括に表示されている。ここで、以下の説明においては、区間1~Nの全ての区間において同様の処理を行うが、区間X(78.6km~88.6km)の情報に基づいて処理を進める方法について説明を行う。
【0029】
情報集計工程(S102)は、地震発生後に区間ごとに、地震動情報及び被害有無の情報を集計する。具体的には、
図4(a)に示すように、区間特定工程(S101)で区分けされた区間ごとに、地震動のランク(計測震度の場合は震度階)ごとに地震の経験回数と被害の有無をカウントして集計する。なお、被害の経験回数は、この例では当該区間に存在する設備や建物ごとにカウントしている。したがって、該当区間に設備や建物が多い区間は、相対的に経験回数は多くカウントされる。
【0030】
区間Xでは、
図3に示すように、震度6弱において被害が発生した地点が3カ所記録されているので、被害ありの経験回数として3がカウントされている。
【0031】
また、
図4(b)に示すように、震度4以上の地震動の情報のみを抽出して地震動情報及び被害有無の情報を集計しても構わない。比較的揺れの大きい震度4以上の地震動に限定することで、蓄積するデータ量を削減して、大容量の記憶媒体を用意することなく、本実施形態に係る地震被害推定方法を行うことができる。
【0032】
スコア算出工程(S103)は、情報集計工程(S102)において集計した情報から安全率スコアを算出する。具体的には、
図5に示すように、区間と震度階毎に安全率スコアを算出する。安全率スコアとは、情報集計工程(S102)で集計した被害有無の情報をベイズ更新の手法を用いて無被害率の分布を予測してスコア化しており、ある揺れにおいて無被害を経験した回数が多い方が安全率スコアは高くなる。
【0033】
ベイズ更新は、過去にn回の地震があり、k回被害なしだったという情報から、ベイズ更新により無被害率sの事後分布pを求める手法であり、以下の式により算出する。
【数1】
【0034】
ベイズ更新は、ベルヌーイ試行を仮定した場合、事前確率をベータ分布とすると、ベイズ更新後の確率分布もベータ分布となることから、sの事前確率をα=β=1のベータ分布(一様分布)とすると事後分布はp(s|n,k)=Beta(1+k,1+n-k)となる。
【0035】
また、数1において、右辺分母のp(n,k)は、n回中k回無被害という事象が発生する確率であり、
【数2】
から算出することができる。
【0036】
具体的には、以下の数3及び4に示すベータ分布f(x;α,β)及びベータ関数Β(x,y)を用いて、累積ベータ分布を求める。
【数3】
【数4】
【0037】
その後、
図6に示すように過去にn回中k回無被害であった場合のように、無被害率xと累積確率密度CDFをグラフ化し、累積確率密度が0.05となる無被害率を95%安全経験スコアとして震度階ごとに安全率スコアを算出する。
【0038】
判定工程(S104)は、新たな地震発生時に、安全率スコアに基づいて区間における路線の点検の要否を判定する。具体的には、地震発生時に、
図7に示すように各区間に沿って、当該区間で推定された震度階に対応した安全率スコアを重ね合わせる。
図7に示すように、キロ程230km付近では、過去に経験したことのない地震動であったため、安全率スコアが低くなっている。また、震度5強で被害が発生した区間X(78.6km~88.6km)でも他の区間よりも震度5強に対する安全率スコアが低く出ていることが確認できる。
【0039】
このように、本実施形態に係る地震被害推定方法によれば、発生した地震に対して、過去に経験した地震での被害の有無に基づいた安全率スコアをキロ程に沿って提供することができるので、駅間に停車した列車の移動や点検の優先順位付け等の判断を支援することができる。これにより、過去に同程度の揺れを無被害で多く経験している区間は無事である可能性が高く、今までに経験したことのない揺れを受けた構造物は優先的に点検するなどの、判断を行うことができる。
【0040】
なお、本実施形態に係る地震被害推定方法によって判定された判定結果は、
図1に示すように、鉄道事業者へ情報配信を行う手段(支援情報提供工程)で配信しても構わない。支援情報の提供は、情報の配信を行うことができれば、どのような形式でも構わないが、インターネットなどの情報通信網が好適に用いられる。
【0041】
次に、本実施形態に係る地震被害推定方法の活用事例について説明を行う。
図8に示すように、本実施形態に係る地震被害推定方法は、地震発生時に隣り合う駅間に列車が停車した場合の列車の移動可否(列車引き抜き)の判断について用いられると好適である。従来の列車引き抜きの判断方法では、列車a及びbは列車a及びbが停車した位置を担当する地震計Bが点検実施基準値を超える地震動を検出しているため、両列車ともに該当区間の点検が完了して安全が確認できるまで列車を走行させて次駅に移動することができなかったが、本実施形態に係る地震被害推定方法を活用すれば、キロ程に沿って地震動を推定することができる。このため、列車aの停車位置からA駅までは点検基準値を連続して下回る地震動の推定がなされており、A駅まで低速で走行することで安全に移動し、乗客をA駅で降車させることができると判断することが可能となる。
【0042】
また、列車bは、列車bの停車位置が点検基準値を超える地震動が推定されているため、点検を行って安全を確認する必要があるところ、列車bの停車位置からB駅までは、過去の地震において無被害の経験が多数であり、安全率スコアが高いと判断できる場合には、B駅まで低速で走行することで安全に移動し、乗客をB駅で降車させることができるという判断をすることが可能となる。このように、駅間で停車した列車の引き抜きを適切に行うことができるので、停車位置で乗客を降車させて線路上を徒歩で次駅まで移動させるということを回避することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係る地震被害推定方法の別の活用事例は、
図9に示すように、地震計A及び地震計Bがともに点検基準値を超える地震動を検出した場合、本実施形態に係る地震被害推定方法を用いれば、地震計Aの担当する区間では、今までで過去に経験したことのない揺れが推定され、安全率スコアが低いため、優先度を高く設定し、地震計Bの担当する区間では、同程度の揺れで過去に無被害であった経験が多数あり、安全率スコアが高いため、優先度を落として点検を行うといった点検箇所の優先順位付けに活用することができる。
【0044】
また、点検開始位置および点検方向についても、キロ程に沿った地震動の大きさを推定することができるので、最も地震動が大きく推定された箇所を点検開始位置とし、そこから次に大きな地震動の推定された位置に向かって点検を行うといった、判断も安全率スコアを用いて判断することが可能となる。
【0045】
なお、上述した本実施形態に係る地震被害推定方法は、本発明の一例を説明したものであり、本実施形態に係る地震被害推定方法に種々の変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0046】
S101 区間特定工程, S102 情報集計工程, S103 スコア算出工程, S104 判定工程。