(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117543
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F01P 3/02 20060101AFI20230817BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20230817BHJP
F02F 1/38 20060101ALI20230817BHJP
F02F 1/16 20060101ALI20230817BHJP
F16J 10/04 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
F01P3/02 E
F02F1/10 B
F02F1/10 D
F02F1/38 B
F02F1/16 A
F02F1/16 B
F01P3/02 M
F01P3/02 P
F16J10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020157
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517010493
【氏名又は名称】エフエーファウ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FEV Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Neuenhofstrasse 181, D-52078 Aachen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】柏原 浩
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ザイジンガー
【テーマコード(参考)】
3G024
3J044
【Fターム(参考)】
3G024AA01
3G024AA30
3G024AA38
3G024CA05
3G024CA26
3J044AA09
3J044AA18
3J044BC14
3J044CC10
3J044CC17
3J044DA09
(57)【要約】
【課題】エンジンの高出力化と、シリンダライナの上死点側の部分の冷却の高効率化と、を両立させることを目的とする。
【解決手段】エンジン100は、貫通孔11を有するシリンダブロック1と、貫通孔11に設けられたシリンダライナ4と、を備え、シリンダライナ4は、貫通孔11よりも外径が大きいフランジ部44と、貫通孔11に嵌合する第1嵌合部41及び第2嵌合部42と、を備え、フランジ部11と第1嵌合部41との間に周方向に沿って第1冷媒ジャケット51を形成する第1凹部51Cと、第1嵌合部41と第2嵌合部42との間に第2冷媒ジャケット52を形成する第2凹部52Cと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するシリンダブロックと、
前記貫通孔に設けられたシリンダライナと、を備え、
前記シリンダライナは、
前記貫通孔よりも外径が大きいフランジ部と、
前記貫通孔に嵌合する第1嵌合部及び第2嵌合部と、を備え、
前記フランジ部と前記第1嵌合部との間に周方向に沿って第1冷媒ジャケットを形成する第1凹部と、
前記第1嵌合部と前記第2嵌合部との間に第2冷媒ジャケットを形成する第2凹部と、を備えることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記第1凹部の前記フランジ部側の端部は、前記フランジ部の前記第1凹部側の端面とつながっていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記シリンダブロックは、前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記第1嵌合部は、前記周方向の全域にわたって不連続な箇所がない円環状をなしていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記連通凹部は、前記周方向の幅が径方向の幅よりも大きい扁平形状をなしていることを特徴とする請求項3に記載のエンジン。
【請求項6】
前記シリンダブロックは、
前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部と、
前記第2冷媒ジャケット及び前記連通路を経由せずに直接的に冷媒の供給元から前記第1冷媒ジャケットに前記冷媒を供給する主冷媒通路と、を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項7】
シリンダヘッドを備え、
前記シリンダブロックは、前記第1冷媒ジャケットから前記シリンダヘッドへ冷媒を供給するヘッド連通路を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記シリンダブロックは、
前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部と、
前記第2冷媒ジャケット及び前記連通路を経由せずに直接的に冷媒の供給元から前記第1冷媒ジャケットに前記冷媒を供給する主冷媒通路と、を備え、
前記シリンダヘッドは、1つ以上の給気口と1つ以上の排気口とを備え、
前記第1冷媒ジャケットは、
前記主冷媒通路から前記給気口が偏在する側を経由して前記ヘッド連通路に至る給気側経路と、
前記主冷媒通路から前記排気口が偏在する側を経由して前記ヘッド連通路に至る排気側経路と、を含み、
前記連通凹部は、前記給気側経路と前記排気側経路のそれぞれに設けられ、
前記排気側経路に設けられた前記連通路から前記ヘッド連通路までの距離が、前記給気側経路に設けられた前記連通路から前記ヘッド連通路までの距離よりも長いことを特徴とする請求項7に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダライナを備えるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダライナを備えるエンジンを高出力化する場合、シリンダライナの上死点側の部分に放出される熱量が増加する。そこで、従来、シリンダライナの上死点側の部分の冷却性能を向上させる技術が検討されている。例えば、特許文献1では、シリンダブロックに嵌入された胴部周囲に冷却液通路が形成されるウエット式のシリンダライナであって、シリンダブロックの口部に嵌合する嵌合部の外周面にフランジ部が周設されているシリンダライナの冷却構造において、嵌合部の外周面においてフランジ部よりも冷却液通路側に冷却溝を周設すると共に、冷却溝と冷却液通路とを連通させる連通路を嵌合部に形成してあり、冷却液通路を流れる冷却液の一部が連通路を通して冷却溝へ流入するシリンダライナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された構成では、冷却溝とフランジ部との間に嵌合部の一部が存在するため、フランジ部の冷却性能を向上させることは困難である。冷却性能の向上は、冷媒ポンプの吐出圧を高めて冷媒の流速を速くすることによっても可能であるが、その場合、冷媒ポンプによる軸出力の消費量が増加し、エンジンの高出力化を阻害してしまう。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、エンジンの高出力化と、シリンダライナの上死点側の部分の冷却の高効率化と、を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るエンジンは、貫通孔を有するシリンダブロックと、前記貫通孔に設けられたシリンダライナと、を備え、前記シリンダライナは、前記貫通孔よりも外径が大きいフランジ部と、前記貫通孔に嵌合する第1嵌合部及び第2嵌合部と、を備え、前記フランジ部と前記第1嵌合部との間に周方向に沿って第1冷媒ジャケットを形成する第1凹部と、前記第1嵌合部と前記第2嵌合部との間に第2冷媒ジャケットを形成する第2凹部と、を備える。
【0007】
前記第1凹部の前記フランジ部側の端部は、前記フランジ部の前記第1凹部側の端面とつながっていてもよい。
【0008】
前記シリンダブロックは、前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部を備えていてもよい。
【0009】
前記第1嵌合部は、前記周方向の全域にわたって不連続な箇所がない円環状をなしていてもよい。
【0010】
前記連通凹部は、前記周方向の幅が径方向の幅よりも大きい扁平形状をなしていてもよい。
【0011】
前記シリンダブロックは、前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部と、前記第2冷媒ジャケット及び前記連通路を経由せずに直接的に冷媒の供給元から前記第1冷媒ジャケットに前記冷媒を供給する主冷媒通路と、を備えていてもよい。
【0012】
前記エンジンは、シリンダヘッドを備え、前記シリンダブロックは、前記第1冷媒ジャケットから前記シリンダヘッドへ冷媒を供給するヘッド連通路を備えていてもよい。
【0013】
前記シリンダブロックは、前記貫通孔の内面に設けられ、前記第1冷媒ジャケットと前記第2冷媒ジャケットとを連通させる連通路を形成する連通凹部を備え、前記シリンダヘッドは、1つ以上の給気口と1つ以上の排気口とを備え、前記第1冷媒ジャケットは、前記主冷媒通路から前記給気口が偏在する側を経由して前記ヘッド連通路に至る給気側経路と、前記主冷媒通路から前記排気口が偏在する側を経由して前記ヘッド連通路に至る排気側経路と、を含み、前記連通凹部は、前記給気側経路と前記排気側経路のそれぞれに設けられ、前記排気側経路に設けられた前記連通路から前記ヘッド連通路までの距離が、前記給気側経路に設けられた前記連通路から前記ヘッド連通路までの距離よりも長くてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンジンの高出力化と、シリンダライナの上死点側の部分の冷却の高効率化と、を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るエンジンの断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るエンジンの内部を流れる冷媒を示す側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るエンジンの内部を流れる冷媒を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るエンジンの内部を流れる冷媒を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係るエンジン100について説明する。
【0017】
最初に、エンジン100の全体の構成について説明する。
図1、2は、エンジン100の断面図である。このうち、
図1は、
図2のI-I断面を示し、
図2は、
図1のII-II断面を示す。
図2では、ピストン6の図示は省略されている。本実施形態では、便宜上、シリンダブロック1の上方にシリンダヘッド8が位置する例を示すが、エンジン100は、どのような姿勢で使用されてもよい。
【0018】
エンジン100は、シリンダブロック1、シリンダライナ4、ピストン6、コネクティングロッド7及びシリンダヘッド8を備える。
【0019】
シリンダブロック1は、上下方向に貫通した貫通孔11を備える。上下方向から見た貫通孔11の断面は、円形である。シリンダブロック1の上端部であるトップデッキ13は、平坦に形成されている。シリンダブロック1の下部には、クランクシャフトを収容したクランクケースが設けられている(図示省略)。貫通孔11の周囲には、雌ねじが形成された複数のボルト孔16が周方向に設けられている。
【0020】
シリンダライナ4は、円筒状に形成された円筒部43と、円筒部43の上端部に形成された円筒部43よりも外径が大きいフランジ部44と、を備える。円筒部43が貫通孔11に挿入されており、フランジ部44の下面がトップデッキ13に接触している。
【0021】
ピストン6は、シリンダライナ4の内部に収容されている。ピストン6の上端部には、凹形の燃焼室61が設けられている。ピストン6の外周面には、周方向に沿って複数のリング溝64が設けられており、各リング溝64にピストンリング63が設けられている。シリンダライナ4の円筒部43の内側の上端部には、スクレーパリング45が設けられている。スクレーパリング45は、ピストン6が上死点に位置する場合の最も上のピストンリング63よりも上方に設けられている。
【0022】
コネクティングロッド7の小端部は、ピストンピン62を介してピストン6に結合されている。コネクティングロッド7の大端部は、クランクピンを介してクランクシャフトに結合されている(図示省略)。
【0023】
シリンダヘッド8の下面には、円形の凹部であるヘッド凹部85が設けられている。ヘッド凹部85の内径は、シリンダライナ4のフランジ部44の外径と等しい。ヘッド凹部85の深さは、フランジ部44の上下方向の厚みと等しい。フランジ部44はヘッド凹部85に収容されている。シリンダヘッド8は、シリンダブロック1のボルト孔16に対応するボルト孔を備え、ボルトを用いてシリンダブロック1に固定されている(図示省略)。トップデッキ13とシリンダヘッド8の下面との間には、フランジ部44よりも外側にガスケット14が設けられている。
【0024】
シリンダヘッド8には、燃料を噴射するインジェクタ83が設けられている。インジェクタ83は、ピストン6の中心に対応する位置に設けられている。インジェクタ83の噴射口が、シリンダヘッド8の下面から露出している。1つ以上の給気口81と1つ以上の排気口82がインジェクタ83の周囲に設けられている。この例では、2つの給気口81と2つの排気口82が設けられている。2つの給気口81は、周方向に隣り合っている。2つの排気口82もまた、周方向に隣り合っている。給気口81、排気口82には、それぞれ給気バルブ81V、排気バルブ82Vが設けられている。
【0025】
次に、エンジン100を冷却するための構成について説明する(
図1乃至5参照)。
図3は、エンジン100の内部を流れる冷媒を示す側面図である。
図4、5は、エンジン100の内部を流れる冷媒を示す斜視図である。換言すれば、
図3乃至5は、冷媒が流れる通路の表面を通路の外側から見た仮想的な図である。
【0026】
エンジン100は、貫通孔11を有するシリンダブロック1と、貫通孔11に設けられたシリンダライナ4と、を備え、シリンダライナ4は、貫通孔11よりも外径が大きいフランジ部44と、貫通孔11に嵌合する第1嵌合部41及び第2嵌合部42と、を備え、フランジ部11と第1嵌合部41との間に周方向に沿って第1冷媒ジャケット51を形成する第1凹部51Cと、第1嵌合部41と第2嵌合部42との間に第2冷媒ジャケット52を形成する第2凹部52Cと、を備える。
【0027】
シリンダブロック1とシリンダライナ4の概要については既に述べたとおりであるから、以下では主にシリンダライナ4の円筒部43の構成について詳細に説明する。
【0028】
[第1嵌合部、第2嵌合部]
第1嵌合部41と第2嵌合部42(
図1参照)は、上下方向から見た断面の内周と外周が円形をなしている。換言すれば、第1嵌合部41と第2嵌合部42は、周方向の全域にわたって不連続な箇所がない円環状をなしている。第1嵌合部41は、ピストン6が上死点に位置する場合のピストンリング63の側方に設けられている。第2嵌合部42は、ピストン6が上死点に位置する場合のピストン6の下端部付近の側方に設けられている。第1嵌合部41、第2嵌合部42は、貫通孔11に圧入されている。
【0029】
[第1凹部、第1冷媒ジャケット、第1主冷媒通路]
第1凹部51C(
図1参照)は、フランジ部44と第1嵌合部41との間に設けられている。第1凹部51Cは、周方向に沿って円環状に形成されている。第1冷媒ジャケット51(
図1乃至5参照)は、第1凹部51Cと貫通孔11の内面とで囲われた円環状の通路である。
【0030】
分配室12は、シリンダブロック1の側方に設けられている(
図3乃至5参照)。ポンプ(図示省略)によって分配室12からエンジン100の各所に冷媒が分配される。シリンダブロック1は、分配室12から第1冷媒ジャケット51に冷媒を供給する第1主冷媒通路21(主冷媒通路の一例)を備える。第1主冷媒通路21は、後述する第2冷媒ジャケット52及び連通路23を経由せずに直接的に分配室12から第1冷媒ジャケット51に冷媒を供給する。
【0031】
第1主冷媒通路21は、分配室12から貫通孔11の内面の第1冷媒ジャケット51に対応する位置まで貫通している。第1主冷媒通路21の貫通孔11側の開口部は、第1冷媒ジャケット51への冷媒の入口である主冷媒入口21Aとなっている。主冷媒入口21Aは、第1冷媒ジャケット51の給気口81側の部分に設けられている(
図2参照)。同図の例では、2つの給気口81のうちの右側の給気口81の近傍に主冷媒入口21Aが設けられているが、主冷媒入口21Aは、少なくとも排気口82よりも給気口81に近接した位置に設けられていればよい。
【0032】
第1凹部51Cの上端部(第1凹部51Cのフランジ部44側の端部の一例)は、フランジ部44の下端面(フランジ部44の第1凹部51C側の端面の一例)とつながっている(
図1参照)。すなわち、第1凹部51Cとフランジ部44との間には、貫通孔11に嵌合する(接触する)部分が存在しない。換言すれば、第1冷媒ジャケット51は、フランジ部44と連続している。
【0033】
また、第1凹部51Cの上端部は、フランジ部44の下端面によって構成されている。そのため、第1冷媒ジャケット51の上端部は、径方向に幅を有している。この構成により、フランジ部44の下端面にも冷媒が接触するため、フランジ部44の冷却性能が向上する。
【0034】
第1冷媒ジャケット51の径方向の幅を上部と下部とで比較すると、下部の幅が上部の幅よりも広くなっている。具体的には、第1凹部51Cは、フランジ部44の下端面と、上方から下方に向かって径が小さくなるテーパー部と、テーパー部の下端から第1嵌合部41の外周面に向かって湾曲しながら径が拡がる湾曲面と、を有する。この構成により、第1凹部51Cへの応力集中が緩和される。
【0035】
[第2凹部、第2冷媒ジャケット、第2主冷媒通路]
第2凹部52C(
図1参照)は、第1嵌合部41と第2嵌合部42との間に設けられている。第2凹部52Cは、周方向に沿って円環状に形成されている。第2冷媒ジャケット52(
図1乃至5参照)は、第2凹部52Cと貫通孔11の内面とで囲われた円環状の通路である。第2凹部52Cの上下方向の幅は、第1凹部51Cの上下方向の幅よりも広い。
【0036】
貫通孔11には、第2凹部52Cの上下方向の中央よりも下方の部分に対応する範囲に、周方向に沿って形成された円環状の凹部である貫通孔凹部15が設けられている。この構成により、第2冷媒ジャケット52の下部は上部よりも径方向の幅が広くなっている。
【0037】
シリンダブロック1は、分配室12から第2冷媒ジャケット52に冷媒を供給する第2主冷媒通路22を備える。第2主冷媒通路22は、分配室12から貫通孔11の内面の第2冷媒ジャケット52に対応する位置まで貫通している。
【0038】
[第1ヘッド連通路]
シリンダブロック1は、第1冷媒ジャケット51からシリンダヘッド8に設けられたヘッド冷媒ジャケット84へ冷媒を供給する第1ヘッド連通路31(ヘッド連通路の一例)を備える(
図2乃至5参照)。第1ヘッド連通路31は、貫通孔11の内面の第1冷媒ジャケット51に対応する位置からヘッド冷媒ジャケット84まで貫通している。第1ヘッド連通路31の貫通孔11側の開口部が、第1冷媒ジャケット51からの冷媒の出口である主冷媒出口31Bとなる。主冷媒出口31Bは、第1冷媒ジャケット51の排気口82側の部分に設けられている(
図2参照)。
【0039】
また、主冷媒出口31Bは、貫通孔11の中心を挟んで主冷媒入口21Aと対向する位置に設けられている。この構成により、第1冷媒ジャケット51における主冷媒入口21Aから主冷媒出口31Bまでの距離が、
図2における上側の経路と下側の経路とで等しくなる。
図2の例では、主冷媒入口21Aから主冷媒出口31Bに至る上下2つの経路のうち、上側の経路沿いには給気口81が偏在し、下側の経路沿いには排気口82が偏在している。そのため、上側の経路を給気側経路511、下側の経路を排気側経路512と呼ぶ。
【0040】
[第2ヘッド連通路]
シリンダブロック1は、第2冷媒ジャケット52からヘッド冷媒ジャケット84へ冷媒を供給する第2ヘッド連通路32を備える(
図3乃至5参照)。第2ヘッド連通路32は、貫通孔11の内面の第2冷媒ジャケット52に対応する位置からヘッド冷媒ジャケット84まで貫通している。この例では、4つの第2ヘッド連通路32が貫通孔11の四方に設けられている。
【0041】
[連通凹部、連通路]
シリンダブロック1は、貫通孔11の内面に設けられ、第1冷媒ジャケット51と第2冷媒ジャケット52とを連通させる連通路23を形成する連通凹部23Cを備える(
図2乃至5参照)。連通凹部23Cは、上下方向に沿う溝状をなしている。連通凹部23Cの上端部は、第1冷媒ジャケット51の下端部よりも上方に位置している。連通凹部23Cの下端部は、第2冷媒ジャケット52の上端部よりも下方に位置している。この構成により、第1冷媒ジャケット51と第2冷媒ジャケット52とを連通させる連通路23がシリンダブロック1側に形成される。
【0042】
連通凹部23Cは、周方向の幅が径方向の幅よりも大きい扁平形状をなしている。周方向の幅が広いほど、第1嵌合部41に冷媒が接触する面積が広くなるため、冷却性能が向上する。
【0043】
連通路23は、周方向の少なくとも1箇所に設けられている。この例では、
図2における第1冷媒ジャケット51の給気側経路511と排気側経路512にそれぞれ1つの連通路23が接続されている。給気側経路511と排気側経路512とで、連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離を比較すると、排気側経路512における連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離は、給気側経路511における連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離よりも長い。
【0044】
ここで、主冷媒入口21A、主冷媒出口31B、給気側と排気側の連通路23の位置関係について説明する。排気される気体の温度は給気される気体の温度よりも高いため、シリンダライナ4に対しては、給気口81側よりも排気口82側に多くの熱が放出される。従って、シリンダライナ4を効率的に冷却するためには、主冷媒入口21Aを給気口81に近接した位置に設け、主冷媒出口31Bを排気口82に近接した位置に設けることが望ましい。
【0045】
例えば、
図2において、2つの給気口81から等距離の位置に主冷媒入口21Aを設け、2つの排気口82から等距離の位置に主冷媒出口31Bを設けた場合、反時計回り方向の経路と時計回り方向の経路とを比較すると、主冷媒入口21Aから主冷媒出口31Bへ至る熱の分布が同じであるため、連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離を2つの経路で異ならせる必要はない。
【0046】
ところが、現実には、設計上の制約のために(例えば、クランクシャフトに直交する方向のエンジン100の幅を抑制するために)、
図2に示されるように、2つの給気口81から等距離でない位置に主冷媒入口21Aを設ける場合がある。その結果、2つの経路の一方(前述の給気側経路511)に給気口81が偏在し、他方(前述の排気側経路512)に排気口82が偏在するという構成になる。この場合、排気側経路512には、給気側経路511よりも多くの熱が放出されるから、排気側経路512の冷却性能を給気側経路511よりも高める必要がある。また、給気側経路511を冷却し過ぎると、給気される気体が適正な温度に到達せずに不完全燃焼となるおそれがある。そこで、本実施形態では、排気側経路512における連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離を、給気側経路511における連通路23から主冷媒出口31Bまでの距離よりも長くすることで、排気側経路512の冷却性能を高めるともに、給気側経路511の過冷却を抑制している。
【0047】
次に、上記構成の動作について説明する。分配室12から第1主冷媒通路21を通って主冷媒入口21Aに到達した冷媒は、給気側経路511(
図2の矢印F1)と排気側経路512(矢印F2)とに分かれて流れる。一方、分配室12から第2主冷媒通路22を通じて第2冷媒ジャケット52に供給された冷媒は、シリンダライナ4の第2凹部52Cを冷却して4つの第2ヘッド連通路32、給気側の連通路23及び排気側の連通路23に流入する。
【0048】
第2ヘッド連通路32に流入した冷媒は、ヘッド冷媒ジャケット84に流入してシリンダヘッド8を冷却し、所定の経路(図示省略)を通って分配室12に戻る。給気側の連通路23に流入した冷媒は、主冷媒入口21Aから流入した冷媒(矢印F1)とともに給気側経路511に沿って流れ(矢印F3)、排気側の連通路23に流入した冷媒は、主冷媒入口21Aから流入した冷媒(矢印F2)とともに排気側経路512に沿って流れる(矢印F4)。給気側経路511と排気側経路512を流れる冷媒は、シリンダライナ4の第1凹部51Cを冷却し、主冷媒出口31Bから第1ヘッド連通路31を経てヘッド冷媒ジャケット84に流入してシリンダヘッド8を冷却し、分配室12に戻る。
【0049】
以上説明した本実施形態に係るエンジン100によれば、貫通孔11を有するシリンダブロック1と、貫通孔11に設けられたシリンダライナ4と、を備え、シリンダライナ4は、貫通孔11よりも外径が大きいフランジ部44と、貫通孔11に嵌合する第1嵌合部41及び第2嵌合部42と、を備え、フランジ部11と第1嵌合部41との間に周方向に沿って第1冷媒ジャケット51を形成する第1凹部51Cと、第1嵌合部41と第2嵌合部42との間に第2冷媒ジャケット52を形成する第2凹部52Cと、を備える。この構成によれば、軸出力を消費せずにフランジ部44から第1嵌合部41にわたる部分が冷却されるから、エンジン100の高出力化と、シリンダライナ4の上死点側の部分の冷却の高効率化と、を両立させることができる。
【0050】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、第1凹部51Cのフランジ部44側の端部は、フランジ部44の第1凹部51C側の端面とつながっている。この構成によれば、第1冷媒ジャケット51がフランジ部44側へ拡大されるから、シリンダライナ4の上死点側の部分の冷却を高効率化することができる。
【0051】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、シリンダブロック1は、貫通孔11の内面に設けられ、第1冷媒ジャケット51と第2冷媒ジャケット52とを連通させる連通路23を形成する連通凹部23Cを備える。この構成によれば、第2冷媒ジャケット52と第1冷媒ジャケット51との間で冷媒が流れるから、冷却性能を高めることができる。連通凹部23Cがシリンダライナ4に設けられている場合、シリンダライナ4ごとに連通凹部23Cの位置が異なることを防ぐために、シリンダライナ4の組付け時にシリンダライナ4の周方向の向きを所定方向に合わせる必要がある。これに対して、本実施形態では、連通凹部23Cがシリンダブロック1に設けられているから、シリンダライナ4の周方向の向きに制約がない。よって、シリンダライナ4の組付け作業が軽減される。
【0052】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、第1嵌合部41は、周方向の全域にわたって不連続な箇所がない円環状をなしているから、シリンダライナ4の熱変形を周方向に均一化することができる。
【0053】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、連通凹部23Cは、周方向の幅が径方向の幅よりも大きい扁平形状をなしているから、第1嵌合部41が冷媒に接触する面積を増やすことができる。
【0054】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、シリンダブロック1は、貫通孔11の内面に設けられ、第1冷媒ジャケット51と第2冷媒ジャケット52とを連通させる連通路23を形成する連通凹部23Cと、第2冷媒ジャケット52及び連通路23を経由せずに直接的に冷媒の供給元から第1冷媒ジャケット51に冷媒を供給する第1主冷媒通路21を備えるから、第1冷媒ジャケット51における冷媒の流速を速めることができる。
【0055】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、シリンダヘッド8を備え、シリンダブロック1は、第1冷媒ジャケット51からシリンダヘッド8へ冷媒を供給する第1ヘッド連通路31を備えるから、シリンダヘッド8へスムーズに冷媒を流すことができる。
【0056】
また、本実施形態に係るエンジン100によれば、シリンダブロック1は、貫通孔11の内面に設けられ、第1冷媒ジャケット51と第2冷媒ジャケット52とを連通させる連通路23を形成する連通凹部23Cと、第2冷媒ジャケット52及び連通路23を経由せずに直接的に冷媒の供給元から第1冷媒ジャケット51に冷媒を供給する第1主冷媒通路21と、を備え、シリンダヘッド8は、1つ以上の給気口81と1つ以上の排気口82とを備え、第1冷媒ジャケット51は、第1主冷媒通路21から給気口81が偏在する側を経由して第1ヘッド連通路31に至る給気側経路511と、第1主冷媒通路21から排気口82が偏在する側を経由して第1ヘッド連通路31に至る排気側経路512と、を含み、連通凹部23Cは、給気側経路511と排気側経路512のそれぞれに設けられ、排気側経路512に設けられた連通路23から第1ヘッド連通路31までの距離が、給気側経路511に設けられた連通路23から第1ヘッド連通路31までの距離よりも長い。この構成によれば、排気側経路512の冷却性能を高めるともに、給気側経路511の過冷却を抑制することができる。
【0057】
上記実施形態が以下のように変形されてもよい。
【0058】
上記実施形態では、第1凹部51Cのフランジ部44側の端部がフランジ部44の第1凹部51C側の端面とつながっている例が示されたが、第1凹部51Cとフランジ部44との間に、貫通孔11に嵌合する円環状の部位が設けられていてもよい。すなわち、「フランジ部44と第1嵌合部41との間に円筒部43の周方向に沿って設けられ、貫通孔11の内面との間に円環状の第1冷媒ジャケット51を形成する第1凹部51C」なる構成は、第1凹部51Cとフランジ部44との間に、貫通孔11に嵌合する円環状の部位が設けられている構成も含むものである。
【0059】
上記実施形態に係る構成に加えて、排気側経路512に1つ以上の連通路23が追加されてもよい。この構成によれば、排気側経路512の冷却性能を向上させることができる。
【0060】
上記実施形態に係る構成において、排気側の連通路23の周方向の幅が、給気側の連通路23の周方向の幅よりも広くてもよい。この構成によれば、排気側経路512の冷却性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0061】
100 エンジン
1 シリンダブロック
11 貫通孔
21 第1主冷媒通路(主冷媒通路)
23 連通路
23C 連通凹部
31 第1ヘッド連通路(ヘッド連通路)
4 シリンダライナ
41 第1嵌合部
42 第2嵌合部
43 円筒部
44 フランジ部
44E フランジ部の下端面(フランジ部の第1凹部側の端面)
51 第1冷媒ジャケット
51C 第1凹部
51E 第1凹部の上端部(第1凹部のフランジ側の端部)
511 給気側経路
512 排気側経路
52 第2冷媒ジャケット
52C 第2凹部
8 シリンダヘッド
81 給気口
82 排気口