(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117544
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】リン回収方法及びリン回収装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/143 20190101AFI20230817BHJP
C02F 11/145 20190101ALI20230817BHJP
【FI】
C02F11/143 ZAB
C02F11/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020158
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼時 元汰
(72)【発明者】
【氏名】ギッチャーヌギット サンティサック
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA02
4D059AA05
4D059AA19
4D059BE46
4D059BE49
4D059BE55
4D059BE56
4D059CA22
4D059CA28
4D059CC01
4D059DA03
4D059DA08
4D059DA34
4D059DA35
4D059DB08
4D059DB40
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した余剰汚泥からのリン回収量を増加させる方法及び装置を提供する。
【解決手段】鉄またはアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理された生物処理槽20からの余剰汚泥は、リン酸イオン放出槽40にてpH9未満且つ嫌気性条件下で硫化物又はキレート剤を添加することにより鉄イオン又はアルミニウムイオンが固定化され、余剰汚泥中のリン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンを含むリン酸イオン含有汚泥を形成し、リン酸イオン放出槽40からのリン酸イオン含有汚泥は濃縮機60にて濃縮分離され、リン回収槽80にて濃縮分離液からMAP又はHAPとしてリン酸イオンを回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、硫化物又はキレート剤を添加して鉄イオンを固定化させるとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させてリン酸イオン含有汚泥を形成し、当該リン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加して、リン酸イオンをリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとして回収することを特徴とするリンの回収方法。
【請求項2】
前記硫化物は、硫化水素、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、及びこれらの任意の混合物から選択され、
前記キレート剤は、EDTA、NTA、クエン酸、シュウ酸、サリチル酸、酒石酸、タンニン、及びこれらの任意の混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載のリンの回収方法。
【請求項3】
前記硫化物は、前記余剰汚泥中の鉄1molに対して硫黄が0.2mol以上3.0mol以下となる量で添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のリンの回収方法。
【請求項4】
アルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、キレート剤を添加してアルミニウムイオンを固定化させるとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させてリン酸イオン含有汚泥を形成し、当該リン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加して、リン酸イオンをリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとして回収することを特徴とするリンの回収方法。
【請求項5】
前記嫌気性条件は、余剰汚泥のS-CODCr/MLSSが0.02mg以上0.15mg以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のリンの回収方法。
【請求項6】
前記嫌気性条件は、前記生物処理後の余剰汚泥に対して、生物処理を行っていない汚泥、浄化槽汚泥又は有機物を添加することにより調整することを特徴とする請求項5に記載のリンの回収方法。
【請求項7】
被処理物に、鉄を含む無機凝集剤を添加して生物処理する生物処理槽と、
当該生物処理槽からの余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、硫化物又はキレート剤を添加して鉄イオンを固定化するとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させ、リン酸イオン含有汚泥を形成するリン酸イオン放出槽と、
当該リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収するリン回収槽と、
を具備することを特徴とするリン回収装置。
【請求項8】
被処理物に、アルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理する生物処理槽と、
当該生物処理槽からの余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、キレート剤を添加してアルミニウムイオンを固定化させるとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させ、リン酸イオン含有汚泥を形成するリン酸イオン放出槽と、
当該リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加し、リン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収するリン回収槽と、
を具備することを特徴とするリン回収装置。
【請求項9】
前記リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥に、高分子凝集剤を添加する凝集反応槽と、
当該凝集反応槽からの高分子凝集剤が添加されたリン酸イオン含有汚泥を、濃縮分離液と濃縮汚泥とに濃縮分離する濃縮機と、
当該濃縮機からの汚泥を脱水して、脱水ケーキと脱水分離液とに分離する脱水機と、
をさらに具備し、
濃縮分離液及び脱水分離液を前記リン回収槽に供給し、リン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収することを特徴とする請求項7又は8に記載のリン回収装置。
【請求項10】
前記生物処理槽と前記リン酸イオン放出槽との間に、余剰汚泥のS-CODCr/MLSSを0.02mg以上0.15mg以下に調整する嫌気槽をさらに具備することを特徴とする請求項7~9のいずれか1に記載のリン回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理後の余剰汚泥からリンを回収する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは肥料の主成分である一方、枯渇資源であり、資源の有効利用の点から循環利用が求められている。そこで、上水、下水、し尿系汚水、工業用水、工場排水等の各種廃液及び汚泥等にはリンが含まれていることに着目し、これらからリンを除去及び回収するための様々な装置及び方法が検討されている。廃液、および汚泥からリンを肥料として回収する方法として、例えば、リン酸マグネシウムアンモニウム(以下「MAP」と略記することもある。)、ヒドロキシアパタイト(以下「HAP」と略記することもある。)としてリン酸を結晶化、回収する方法が知られている。以後、MAPを形成する回収法をMAP法、HAPを形成する回収法をHAP法と表記することもある。
【0003】
また、リンの回収にあたっては、リンはリン酸の形態で可溶化している必要があり、リン酸濃度が高いほど回収量が増加する。汚泥のリン酸濃度を増加させるための手法として、以下の手法が知られている。
【0004】
特開2013―119081号公報には、リン放出処理後の汚泥から効率よくリンを回収することを目的として、廃水の生物処理によって得られる余剰汚泥を好気状態に保ったままリン放出槽へ供給して生物脱リン処理し、その後固液分離によって得られたろ液からリンを回収することで、リン回収率を向上させる技術思想が開示されている。具体的には、リン含有廃水を好気処理する生物処理工程と、生物処理工程によって得られる第一余剰汚泥をさらに好気処理する再好気処理工程と、再好気処理工程によって得られる第二余剰汚泥に凝集剤を添加した後に固液分離によって濃縮する濃縮工程と、濃縮処理工程によって得られる濃縮汚泥を嫌気性条件下、15℃以上35℃以下で3時間以上48時間以下滞留させ、濃縮汚泥からリンを放出させるリン放出工程と、第一好気処理前の廃水から得られる初沈汚泥を、リン放出工程後の濃縮汚泥に添加した後、凝集剤を添加して、固液分離する固液分離工程と、固液分離によって得られるろ液にリン回収剤を添加することにより、ろ液に含有されるリンを塩として晶析させて回収するリン回収工程とを有するリン含有廃水の処理方法が記載されている。リン放出工程は、微生物の代謝に基づく生物学的脱リン法を用いるものであり、リン蓄積細菌の代謝が活発な15℃以上35℃以下の温度に維持して微生物に蓄積されているリンを放出させる工程である。固液分離工程及び濃縮工程で使用する凝集剤は、リンが捕捉されやすいアルミニウム系凝集剤又は鉄系凝集剤を用いずに、有機系凝集剤又は高分子凝集剤であり、汚泥中のリンが無機塩として固定化されないようにしている。
【0005】
特開2017―124351号公報には、汚泥中に窒素成分とリン成分とをバランスよく溶出させ、リン酸マグネシウムアンモニウムを効率よく回収することを目的として、汚泥にアルカリ剤を添加して汚泥のpHを11.0以上に維持し、所定時間滞留させることで、汚泥中に窒素成分とリン成分とをバランスよく溶出させる技術思想が開示されている。具体的には、生物処理後の汚泥にアルカリ剤を添加する工程と、アルカリ剤が添加された汚泥を滞留させる工程と、滞留後の汚泥にマグネシウム塩を添加する工程とを含み、汚泥にアルカリ剤を添加する工程において汚泥のpHが11.0以上13.0以下となるようにアルカリ剤を添加し、汚泥を滞留させる工程において汚泥のpHを8.4以上10.5以下に維持して20℃以上50℃未満で30時間以上144時間以下滞留させることにより、アンモニア性窒素及びリン酸態リンを溶出させ、その後、アンモニア性窒素及びリン酸態リンを含む汚泥にマグネシウムを添加してMAPを形成させるリン回収方法が記載されている。ここで、リン溶出は、アルカリ剤を添加して、pHを11.0以上の強アルカリ性とすることにより、リン蓄積微生物の細胞膜を溶かして、微生物に蓄積されているリンを溶出させることにより行われる。アルカリ域ではマグネシウムが存在するとすぐに窒素とリンとマグネシウムとが反応してMAPを形成してしまうため、アルカリ処理槽とリン反応槽を別個に設けて、MAP形成反応の進行を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013―119081号公報
【特許文献2】特開2017―124351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、生物処理の固液分離性の向上や排水中の難分解性の有機物の除去を目的として、生物処理槽に鉄又はアルミニウム系の無機凝集剤を直接添加する処理が増えている。鉄またはアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥には無機凝集剤由来の金属イオンが含まれており、従来のリン回収法でアルカリ剤を添加して強アルカリ雰囲気としてリン蓄積微生物からリン酸イオンを溶出させると、溶出したリン酸イオンと金属イオンとが反応して金属リン酸塩として再度固定化されてしまい、リン酸態リンが増加せず、リンの回収量が増えなかった。また、余剰汚泥をアルカリ域に調整してリン酸態リンを溶出させる方法では、多量の薬品の添加が必要になり、現場の安全性の面でも課題がある。
【0008】
本発明は、鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した余剰汚泥からのリン回収量を増加させる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来のリン回収法では、生物処理後の余剰汚泥中のリンは、リン蓄積微生物の生物膜内に蓄積されていることから、余剰汚泥にアルカリ剤を添加して、pH11程度の強アルカリ雰囲気にしてリン蓄積微生物の生物膜を破壊してリンを溶出させていた。しかし、無機凝集剤を添加して生物処理を行った余剰汚泥中には無機凝集剤由来の金属イオンが存在し、溶出したリンは金属イオンと結合して、リン酸塩となり、再度固定化されてしまうため、余剰汚泥中のリン酸イオンは増加せず、リンの回収効率を向上させることが難しかった。
【0010】
本発明者らは、従来のアルカリ剤を添加して強アルカリ性雰囲気でリン蓄積微生物の生物膜を破壊する方法ではなく、弱アルカリ性乃至弱酸性且つ嫌気性条件下でリン蓄積微生物の代謝によりリン蓄積微生物がポリリン酸として蓄積しているリンをリン酸態リンとして放出させると共に、硫化物又はキレート剤を添加して無機凝集剤由来の金属イオンを固定化してリン酸態リンとの反応を抑制することで、無機凝集剤由来の金属イオンを多量に含む生物処理後の余剰汚泥であってもリンの再固定を抑制することができ、MAP法又はHAP法によるリン回収量を増加させることができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、鉄含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、硫化物又はキレート剤を添加して鉄イオンを固定化し、余剰汚泥中のリン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンを含むリン酸イオン含有汚泥を形成し、当該リン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加して、リン酸イオンをリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとして回収することを特徴とするリンの回収方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、アルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥に、pH9未満で且つ嫌気性条件下で、キレート剤を添加してアルミニウムイオンを固定化し、余剰汚泥中のリン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンを含むリン酸イオン含有汚泥を形成し、当該リン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液に、マグネシウム塩又はカルシウム塩を添加して、リン酸イオンをリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとして回収することを特徴とするリンの回収方法が提供される。
【0013】
本発明において処理対象とする余剰汚泥は、鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した後の余剰汚泥であって、鉄またはアルミニウムと、リンとを含む。たとえば、し尿処理場、民間工場で発生する浄化槽汚泥などに対して鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して生物処理した余剰汚泥、又は下水処理場の沈殿池からの上澄み水に対して鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤を添加して活性汚泥処理(生物処理)した余剰汚泥を好ましく挙げることができる。余剰汚泥の性状としては、全リン(T-P)が10~2000mg-P/L、鉄またはアルミニウムは総量で、全リンに対して物質量比で0.1~10倍程度、好ましくは0.5~5倍程度、すなわち鉄またはアルミニウムの総量は全リン1molに対して0.1mol以上10mol以下、好ましくは0.5mol以上5mol以下であることが望ましい。
【0014】
汚泥又は水の生物処理時に添加する無機凝集剤としては、鉄又はアルミニウムを含むものであればよく、当該技術分野で一般的に用いられている無機凝集剤を制限なく挙げることができ、たとえば、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄を挙げることができる。特に、後述の硫化物を添加する場合は、ポリ鉄、塩化第二鉄等、鉄系凝集剤を添加することが好適である。
【0015】
余剰汚泥に添加する硫化物としては、硫化水素、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、及びこれらの任意の混合物から選択される1種以上の硫化物を好ましく挙げることができる。硫化水素としては、硫化水素を含むガス、たとえば処理場内の高濃度臭気ガスを用いることができる。硫化物の添加量は、余剰汚泥中の鉄の物質量に対して硫黄の物質量が0.2~3倍、好ましくは0.5~1.5倍となる量、すなわち余剰汚泥中の鉄の1molに対して硫黄が0.2mol以上3.0mol以下、好ましくは0.5mol以上1.5mol以下とすることができる。本発明において、処理対象である余剰汚泥中の鉄又はアルミニウムのほとんどは、生物処理時に添加する無機凝集剤に由来すると考えられることから、生物処理時に添加する無機凝集剤中の鉄含有量に基づいて、余剰汚泥に対する硫化物の添加量を概略決めることができる。
【0016】
余剰汚泥に添加するキレート剤としては、鉄又はアルミニウムと錯体を形成するものであればよく、当該技術分野で一般的に用いられているキレート剤を制限なく挙げることができ、たとえば、EDTA、NTA、クエン酸、シュウ酸、サリチル酸、酒石酸、タンニン及びこれらの任意の混合物から選択される1種以上のキレート剤を好ましく挙げることができる。キレート剤の添加量は、キレート剤の物性により異なるが、各キレート剤に固有の鉄又はアルミニウムとの反応当量により定めることができる。例えば、EDTAであれば鉄と物質量比1:1で反応するため、余剰汚泥中の鉄に対してEDTAの物質量比が1倍となる量が理論添加量となる。このように、各キレート剤、金属元素に応じて定まる理論添加量の0.2~3倍、好ましくは0.5~1.5倍となる添加量と定めることができる。
【0017】
本発明において、余剰汚泥への硫化物又はキレート剤の添加は、pH9未満の嫌気性条件下で行う。嫌気性条件としては、S-CODCr/MLSSが0.02mg以上0.15mg以下であり、好ましくは0.04mg以上0.1mg以下とすることができる。嫌気性条件は、生物処理後の余剰汚泥に対して、生物処理を行っていない初沈汚泥、し尿汚泥又は浄化槽汚泥、あるいは有機物(メタノール、エタノール、酢酸、溶解性有機物など)を添加することで調整することができる。ここで、pHが高いと、無機凝集剤由来の金属イオンと硫化物又はキレート剤とが結合するより前に、リン蓄積微生物の生物膜が破壊され、リン蓄積微生物が蓄積しているリンが溶出され、無機凝集剤由来の金属イオンと結合して、リン酸態リンが再度固定化されるおそれがあるため、余剰汚泥のpHは微生物の代謝によるリン酸イオンの放出が進行するが微生物の生物膜の破壊が生じないか又は緩やかに生じる程度の弱酸性乃至弱アルカリ性とすることが好ましい。また、汚泥処理の場合にはリン回収後の上澄み水を生物処理に供するため、生物処理後の余剰汚泥にマグネシウムイオン又はカルシウムイオンが含まれる場合もあり、pHが高いと余剰汚泥から溶出されるリン酸イオンと反応してMAP又はHAPが形成されて沈降してしまい、リン酸イオン含有汚泥中のリン酸イオン濃度が減少する。また、硫化物を添加するため、強酸性域では硫化水素ガスが発生する可能性がある。したがって、余剰汚泥中のリン蓄積微生物からリン酸イオンを放出させる際の余剰汚泥は、pH9.0未満、好ましくはpH8.5以下、より好ましくはpH8.0以下、pH5.5以上、好ましくはpH6.0以上、より好ましくはpH6.5以上とする。
【0018】
嫌気性条件下で、余剰汚泥中のリン蓄積微生物に蓄積されているポリリン酸はリン酸イオンとして放出される。余剰汚泥中のリン酸鉄は、
【化1】
の平衡状態で存在している。pH9未満の弱酸性乃至弱アルカリ性雰囲気下の余剰汚泥に硫化物を添加すると、上記式(1)の平衡が崩れ、リン酸鉄がリン酸イオンとFe
3+及びFe
2+へと解離する方向にシフトする。所定量の硫化物を添加すると、リン酸鉄由来の鉄イオン及び無機凝集剤由来の鉄イオンと硫黄とが優先的に結合して硫化鉄を形成し、リン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンと鉄イオンとの結合が阻害されるので、リン酸イオン含有汚泥が形成される。あるいはキレート剤を添加すると、余剰汚泥中の金属リン酸塩の金属成分及び無機凝集剤由来の金属イオンが吸着されて、放出されたリン酸イオンとの結合が阻害されるので、リン酸イオン含有汚泥が形成される。リン酸イオン含有汚泥は濃縮分離され、リン酸イオンを含む濃縮分離液をMAP法又はHAP法に供して、リン酸イオンをリン酸マグネシウム(MAP)又はヒドロキシアパタイト(HAP)として回収する。
【0019】
MAP法は、濃縮分離液中のアンモニウムイオンがリン酸イオンよりも多い場合に好適である。金属リン酸塩から変換したリン酸イオンを含む濃縮分離液にマグネシウム塩(水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなど)及びアルカリ剤を添加し、pHを7.5以上9.5以下、好ましくは8.0以上9.0以下に調整して、リン酸イオンをリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)として析出させ、リンを回収することができる。マグネシウム塩の添加量は、濃縮分離液中のリン酸イオンの物質量に対し1~1.2倍、すなわちリン酸イオン1molに対してマグネシウムイオンが1mol以上1.2mol以下とすることが好ましい。
【0020】
HAP法は、濃縮分離液中のアンモニウムイオンがリン酸イオンよりも少ない場合に好適である。濃縮分離液にカルシウム塩(水酸化カルシウム、塩化カルシウムなど)及びアルカリ剤を添加し、pHを7.0以上8.5以下、好ましくは7.5以上8.0以下に調整して、リン酸イオンをヒドロキシアパタイトとして析出させ、リンを回収することができる。カルシウム塩の添加量は、濃縮分離液中のリン酸イオンの物質量に対し1.7~1.9倍、すなわちリン酸イオン1molに対してカルシウムイオンが1.7mol以上1.9mol以下とすることが好ましい。
【0021】
濃縮分離液は、リン酸イオン含有汚泥に高分子凝集剤を添加して凝集させた後、濃縮機により濃縮汚泥と濃縮分離液に濃縮分離することによって形成することができる。高分子凝集剤としては一般的に用いられる高分子凝集剤を特に限定なく用いることができる。
【0022】
一般的な汚泥処理法において、汚泥の脱水性向上のために無機凝集剤を添加することが行われる。本発明においては、リン酸イオン含有汚泥に無機凝集剤を添加すると、リン酸イオンが無機凝集剤中の金属イオンと再結合してしまうため、無機凝集剤は濃縮分離後の濃縮汚泥に添加する。無機凝集剤を添加した濃縮汚泥は、脱水処理に供され、脱水ケーキと脱水分離液が形成される。脱水処理により得られる脱水分離液は、無機凝集剤を添加して生物処理に供することができる。リン酸イオンを含む濃縮分離液からリンを回収した後の処理液は、脱水分離液と共に、生物処理に供することができる。生物処理後の余剰汚泥は、再びリン酸イオン放出に供することができる。
【0023】
一般的な下水処理法において、濃縮汚泥に無機凝集剤を添加せずに脱水処理する場合には、脱水分離液を濃縮分離液と一緒にリン回収に供することができる。
【0024】
また、本発明によれば、鉄を含む無機凝集剤を添加する生物処理槽と、当該生物処理槽からの余剰汚泥に、pH9未満且つ嫌気性条件下で硫化物又はキレート剤を添加して鉄イオンを固定化するとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させるリン酸イオン放出槽と、当該リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液からリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収するリン回収槽と、を具備することを特徴とするリン回収装置が提供される。
【0025】
さらに、本発明によれば、アルミニウムを含む無機凝集剤を添加する生物処理槽と、当該生物処理槽からの余剰汚泥に、pH9未満且つ嫌気性条件下でキレート剤を添加してアルミニウムイオンを固定化するとともに、余剰汚泥中のポリリン酸および金属リン酸塩をリン酸イオンとして放出させるリン酸イオン放出槽と、当該リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥を濃縮分離して得られる濃縮分離液からリン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収するリン回収槽と、を具備することを特徴とするリン回収装置が提供される。
【0026】
本発明のリン回収装置は、前記リン酸イオン放出槽からのリン酸イオン含有汚泥に、高分子凝集剤を添加する凝集反応槽と、当該凝集反応槽からの高分子凝集剤が添加されたリン酸イオン含有汚泥を、濃縮分離液及び汚泥に濃縮分離する濃縮機と、当該濃縮機からの汚泥を脱水して、脱水ケーキと脱水分離液とに分離する脱水機と、をさらに具備することが好ましい。濃縮分離液及び脱水分離液を前記リン回収槽に供給し、リン酸マグネシウムアンモニウム又はヒドロキシアパタイトとしてリン酸イオンを回収することができる。
【0027】
本発明のリン回収装置は、さらに、前記生物処理槽と前記リン酸イオン放出槽との間に、余剰汚泥のCODCr/MLSSを0.02mg以上0.15mg以下に調整する嫌気槽を設けることもできる。嫌気槽をリン酸イオン放出槽の前段に設けることで、余剰汚泥をあらかじめ嫌気性条件とすることができ、余剰汚泥中の硫酸イオン(SO4
2-)が硫酸還元によって硫化物イオン(S2-)及び硫化水素イオン(HS-)になるため、リン酸イオン放出槽への硫化物の添加量を削減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のリン回収方法によれば、無機凝集剤由来の金属イオンを多量に含む生物処理後の余剰汚泥であっても、MAP法又はHAP法によるリンの回収量を増加させることができる。
【0029】
また、本発明のリン回収方法は、アルカリ剤を多量に添加して強アルカリ雰囲気とする従来の方法と異なり、リン蓄積微生物の代謝によるリン酸イオンの放出を進行させ、及び生物膜を破壊しないか若しくは緩やかに破壊する程度の弱酸性乃至弱アルカリ性とするため、アルカリ剤添加量の削減と現場の危険度の低減に資する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】一般的な活性汚泥処理に適用した場合の本発明のリン回収装置における処理フローを示す概略説明図である。
【
図2】
図1のリン回収装置において、活性汚泥槽(生物処理槽)とリン酸イオン放出槽との間に嫌気槽を設けた場合の処理フローを示す概略説明図である。
【
図3】一般的なし尿・浄化槽汚泥の生物処理に適用した場合の本発明のリン回収装置における処理フローを示す概略説明図である。
【
図4】
図3のリン回収装置において、生物処理槽とリン酸イオン放出槽との間に嫌気槽を設けた場合の処理フローを示す概略説明図である。
【
図5】実施例におけるS/T-Feのモル比と、滞留時間とリン酸イオン濃度との関係を示すグラフである。
【好ましい実施形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
図1は、一般的な活性汚泥処理に適用した場合の本発明のリン回収装置を用いた処理フローを示す概略説明図である。
図1のリン回収装置は、沈殿池10と、活性汚泥槽20と、最終沈殿池30と、リン酸イオン放出槽40と、凝集反応槽50と、濃縮機60と、脱水機70と、リン回収槽80と、を含む。
【0033】
図1において、下水や産業排水などの処理対象となる原水は、沈殿池10にて大きなごみが取り除かれた後、活性汚泥槽20に送られ、無機凝集剤が添加されて活性汚泥処理(生物処理)に供される。活性汚泥処理水は、最終沈殿池30に送られて処理水と余剰汚泥とに分離される。余剰汚泥は、リン酸イオン放出槽40に送られて、pH9未満で且つ嫌気性条件下で硫化物又はキレート剤が添加されると、無機凝集剤由来の金属イオンが固定化されるとともに、余剰汚泥中のリン蓄積微生物が蓄積しているポリリン酸及び余剰汚泥中の金属リン酸塩がリン酸イオンとして放出されて、リン酸イオン含有汚泥が形成される。リン酸イオン含有汚泥は、凝集反応槽50に送られ、高分子凝集剤が添加されて、凝集汚泥が形成される。凝集汚泥は濃縮機60に送られ、濃縮汚泥と濃縮分離液とに分離される。濃縮汚泥は、脱水機70に送られ、脱水ケーキと脱水分離液とに分離される。濃縮機60からの濃縮分離液及び脱水機70からの脱水分離液は、リン回収槽80に送られ、アルカリ剤と、マグネシウム塩又はカルシウム塩とが添加され、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)又はヒドロキシアパタイト(HAP)が形成される。形成されたMAP又はHAPは、リン回収槽80から回収される。
【0034】
リン酸イオン放出槽40のpHが高いと、リン蓄積微生物からのリン酸イオンの溶出が急激に生じ、余剰汚泥中の金属イオンと結合して金属リン酸塩を形成して再固定化されるおそれがあるため、pHは9.0未満、好ましくは8.5以下、より好ましくは8.0以下、5.5以上、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上とする。リン酸イオン放出槽40のpHは、pH調整剤を適量添加して調整することができる。pH調整剤としては、当該技術分野で一般的に用いられるpH調整剤を用いることができる。たとえば、酸としては硫酸、塩酸等、アルカリ剤としては、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0035】
リン酸イオン放出槽40の嫌気性条件は、CODCr/MLSSが0.02mg以上0.15mg以下、好ましくは0.04mg以上0.10mg以下とすることが望ましい。リン酸イオン放出槽40に導入される余剰汚泥は、0.002mg程度の低いCODCr/MLSSを有するため、生物処理されていない沈殿池10からの初沈汚泥又はメタノール、エタノール、酢酸、溶解性有機物などを適量添加することでCODCr/MLSSを高め、好ましい嫌気性条件に調整することができる。リン酸イオン放出槽40には、沈殿池10からの初沈汚泥供給ライン42が接続されていることが好ましい。
【0036】
リン酸イオン放出槽40において、余剰汚泥をリン酸イオン放出槽40内に所定時間以上貯留させることにより、リン蓄積微生物からのリン酸イオンを放出させるとともに、余剰汚泥と硫化物又はキレート剤とを十分に反応させて、無機凝集剤由来の鉄イオンは硫化物又はキレート剤により固定化され、アルミニウムイオンはキレート剤により固定化されるので、余剰汚泥中のリン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンは無機凝集剤由来の金属イオンと結合しにくくなり、リン酸イオンのまま維持される。リン酸イオン放出槽40における余剰汚泥の滞留時間は2時間以上、好ましくは4時間以上とすることが望ましい。一方、あまり長時間滞留してもリン酸イオンの放出は飽和し、またリン酸イオンと金属イオンとの結合を阻害する効果も飽和してしまうため、滞留時間は24時間以下、好ましくは12時間以下とすることが望ましい。
【0037】
また、リン酸イオン放出槽40において、余剰汚泥に硫化物又はキレート剤を所定量添加することにより、余剰汚泥中の鉄イオンを硫化物又はキレート剤と優先的に反応させて鉄イオンを固定化させ、あるいは余剰汚泥中のアルミニウムイオンをキレート剤と優先的に反応させてアルミニウムイオンを固定化させ、余剰汚泥から放出したリン酸イオンと鉄イオン又はアルミニウムイオンとの結合を阻害する。硫化物としては硫化水素、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、及びこれらの任意の混合物から適宜選択することができる。硫化物の添加量は、余剰汚泥中の総鉄(T-Fe)と硫化物中の硫黄(S)とをS/T-Feのモル比が0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上となる量とすることが望ましい。キレート剤としては鉄又はアルミニウムを固定化できるキレート剤を適宜、適量で用いることができる。
【0038】
リン酸イオン放出槽40において、余剰汚泥の滞留時間と硫化物の添加量について、後述の実施例に示すように、余剰汚泥中の総鉄量と硫化物中の硫黄とのモル比S/T-Feが0.5以上の場合には滞留時間が2時間程度でリン酸イオン濃度は飽和すること、S/T-Feが0.2以上0.5未満の場合には滞留時間を6時間程度にするとリン酸イオン濃度が飽和することが確認できている。
【0039】
図2は、
図1のリン回収装置において、活性汚泥槽(生物処理槽)20とリン酸イオン放出槽40との間に、余剰汚泥を嫌気性条件にするための嫌気槽90を設けた変形例を示す。他の構成は
図1に示すリン回収装置と同じであるから、相違点のみ説明し、重複する説明は割愛する。
【0040】
図2において、嫌気槽90は、最終沈殿池30からの余剰汚泥を嫌気性条件にするため、最終沈殿池30とリン酸イオン放出槽40との間に設けられている。活性汚泥槽20内の汚泥濃度を一定に維持するため、最終沈殿池30からの余剰汚泥の一部を活性汚泥槽20に返送する汚泥返送ライン34が設けられている。嫌気槽90は、最終沈殿池30から余剰汚泥を抜き出す余剰汚泥排出ライン32において、活性汚泥槽20への汚泥返送ライン34が接続されている分岐点よりも下流のリン酸イオン放出槽40の直前に設けることが好ましい。嫌気槽90には、嫌気条件調整のために、沈殿池10からの初沈汚泥を受け入れる初沈汚泥供給ライン92が接続されていることが好ましい。
【0041】
図3は、一般的なし尿・浄化槽汚泥の生物処理に適用した場合の本発明のリン回収装置における処理フローを示す概略説明図である。
図3に示すリン回収装置は、処理対象であるし尿・浄化槽汚泥を受け入れる汚泥貯留槽110と、凝集反応槽120と、濃縮機130と、脱水機140と、生物処理槽150と、リン酸イオン放出槽160と、リン回収槽170と、を含む。
【0042】
図3において、処理対象であるし尿・浄化槽汚泥は汚泥貯留槽110に受け入れられ、大きな夾雑物が除去された後、凝集反応槽120に送られて高分子凝集剤が添加され、凝集フロックが形成される。凝集フロックは、濃縮機130に送られて濃縮され、濃縮汚泥と濃縮分離液とに分離される。濃縮汚泥は、脱水機140に送られ、脱水ケーキと脱水分離液とに分離される。脱水分離液は、生物処理槽150に送られ、無機凝集剤が添加されて、生物処理され、処理水と余剰汚泥が形成される。生物処理後の余剰汚泥は、リン酸イオン放出槽160に送られ、pH9未満の嫌気性条件下で、硫化物又はキレート剤が添加され、無機凝集剤由来の金属イオンが固定化されるとともに余剰汚泥中のリン蓄積微生物からリン酸イオンが放出され、リン酸イオン含有汚泥が形成される。リン酸イオン含有汚泥は、汚泥貯留槽110に送られ、未処理の汚泥と混合される。リン酸イオン含有汚泥を含む混合汚泥は、凝集反応槽120に送られて高分子凝集剤が添加され、リン酸イオン含有汚泥を含む凝集フロックが形成される。リン酸イオン含有汚泥を含む凝集フロックは、濃縮機130に送られて濃縮され、リン酸イオン含有汚泥を含む濃縮汚泥と、リン酸イオンを含む濃縮分離液とに分離される。リン酸イオンを含む濃縮分離液は、リン回収槽170に送られ、マグネシウム塩又はカルシウム塩とアルカリ剤とが添加されて、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)又はヒドロキシアパタイト(HAP)が形成される。形成されたMAP又はHAPは、リン回収槽170から回収される。濃縮汚泥は脱水機140に送られ、脱水ケーキと脱水分離液とに分離される。リン回収槽170からの上澄み水及び脱水機140からの脱水分離液は、生物処理槽150に送られ、鉄又はアルミニウムを含む無機凝集剤が添加されて生物処理される。
【0043】
リン酸イオン放出槽160のpHが高いと、リン蓄積微生物からのリン酸イオンの溶出が急激に生じ、余剰汚泥中の金属イオンと結合して金属リン酸塩を形成して再固定化されるおそれがあるため、pHは9.0未満、好ましくは8.5以下、より好ましくは8.0以下、5.5以上、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上とする。リン酸イオン放出槽170のpHは、pH調整剤を適量添加して調整することができる。pH調整剤としては、当該技術分野で一般的に用いられるpH調整剤を用いることができる。たとえば、酸としては硫酸、塩酸等、アルカリ剤としては、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0044】
リン酸イオン放出槽160の嫌気性条件は、CODCr/MLSSが0.02mg以上0.15mg以下、好ましくは0.04mg以上0.10mg以下とすることが望ましい。リン酸イオン放出槽160に導入される余剰汚泥は、0.002mg程度の低いCODCr/MLSSを有するため、生物処理されていない汚泥貯留槽110に貯留される前のし尿・浄化槽汚泥又はメタノール、エタノール、酢酸、溶解性有機物などを適量添加することでCODCr/MLSSを高め、好ましい嫌気性条件に調整することができる。リン酸イオン放出槽160の嫌気性条件を調整するために、未処理のし尿・浄化槽汚泥を供給するライン162がリン酸イオン放出槽160に接続されていることが好ましい。
【0045】
リン酸イオン放出槽160において、余剰汚泥をリン酸イオン放出槽160内に所定時間以上貯留させてリン蓄積微生物からリン酸イオンを放出させるとともに、余剰汚泥と硫化物又はキレート剤とを十分に反応させて無機凝集剤由来の金属イオンを固定化させ、余剰汚泥中のリン蓄積微生物から放出されたリン酸イオンと金属イオンとの結合を阻害することができる。リン酸イオン放出槽160における余剰汚泥の滞留時間は2時間以上、好ましくは4時間以上とすることが望ましい。一方、あまり長時間滞留してもリン酸イオン放出の効果は飽和してしまうため、滞留時間は24時間以下、好ましくは12時間以下とすることが望ましい。
【0046】
また、リン酸イオン放出槽160において、余剰汚泥に硫化物又はキレート剤を所定量添加することにより、余剰汚泥中の鉄イオンを硫化物又はキレート剤と優先的に反応させて鉄イオンを固定化させるか、または余剰汚泥中のアルミニウムイオンをキレート剤に固定化させて、余剰汚泥から放出したリン酸イオンと金属イオンとの結合を阻害する。硫化物としては硫化水素、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリム、及びこれらの任意の混合物から適宜選択することができる。硫化物の添加量は、余剰汚泥中の総鉄(T-Fe)と硫化物中の硫黄(S)とをS/T-Fe又はS/T-Alのモル比が0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上となる量とすることが望ましい。キレート剤としては鉄又はアルミニウムを固定化できるキレート剤を適宜、適量で用いることができる。
【0047】
リン酸イオン放出槽160において、余剰汚泥の滞留時間と硫化物の添加量について、後述の実施例に示すように、余剰汚泥中の総鉄量と硫化物中の硫黄とのモル比S/T-Feが0.5以上の場合には滞留時間が2時間程度でリン酸イオン濃度は飽和すること、S/T-Feが0.2以上0.5未満の場合には滞留時間を6時間程度にするとリン酸イオン濃度が飽和することが確認できている。
【0048】
図4は、
図3に示すリン回収装置において、生物処理槽150とリン酸イオン放出槽160との間に、余剰汚泥を嫌気性条件にするための嫌気槽180を設けた変形例を示す。他の構成は
図3に示すリン回収装置と同じであるから、相違点のみ説明し、重複する説明は割愛する。
【0049】
嫌気槽180は、生物処理槽150から抜き出された余剰汚泥を受け入れ、嫌気条件に調整した後に、リン酸イオン放出槽160に送るため、生物処理槽150からの余剰汚泥抜き出しライン152において、リン酸イオン放出槽160の直前に設けられることが好ましい。嫌気槽180には、嫌気条件調整のために未処理のし尿・浄化槽汚泥を受け入れることができる未処理汚泥受け入れライン182が接続されていることが好ましい。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実機し尿等処理施設のし尿・浄化槽汚泥及び生物処理後の余剰汚泥を、
図3に示す処理フローにて処理した。このし尿処理施設では、し尿・浄化槽汚泥を汚泥貯留槽にて貯留した後、高分子凝集剤を添加して凝集フロックを形成させ、濃縮機で濃縮して濃縮汚泥と濃縮分離液とに分離し、濃縮汚泥を脱水機で直接脱水し、脱水分離液を生物処理に供している。生物処理槽には、難分解性のCOD及び色度の除去を目的として、鉄を含む無機凝集剤(ポリ硫酸第二鉄)が添加されている。本実施例では、余剰汚泥を嫌気条件にするため、余剰汚泥に未処理のし尿・浄化槽汚泥を添加し、余剰汚泥:未処理し尿・浄化槽汚泥を1:1で混合した混合汚泥を用いてリン酸イオンを放出させた。余剰汚泥、未処理のし尿・浄化槽汚泥及び混合汚泥の性状を表1に示す。
【0051】
【0052】
嫌気条件で且つpH7.0の混合汚泥に対して、硫化ナトリウムをS/T-Fe(硫黄/総鉄)のモル比が0.01、0.1、0.2、0.5、1.0、1.5、3.0となるようにそれぞれ添加し、リン酸イオン濃度の経時変化を調べた。結果を
図5に示す。
【0053】
図5より、S/T-Feのモル比を0.2以上とすることで、2時間の滞留時間でリン酸イオンが約5mg-P/Lに増加し、硫黄が速やかに鉄イオンと結合し、放出されたリン酸イオンをイオンとして維持できることが確認できる。また、S/T-Feのモル比を0.5以上とすることで、約1時間の滞留時間でリン酸イオンが約5mg-P/Lに増加し、より短時間で硫黄と鉄イオンとの結合が進行し、放出されたリン酸イオンを維持できることが確認できる。さらに、S/T-Feのモル比を1.0以上とすることで、急激にリン酸イオンが増加し、約2時間の滞留時間でリン酸イオンが約35mg-P/Lに増加し、非常に短時間で硫黄と鉄イオンとの結合が進行し、放出されたリン酸イオンを維持できることが確認できる。一方、S/T-Feのモル比が1.0以上であれば、3.0でもリン酸イオンは約40mg-P/Lであって、リン酸イオンの濃度はS/T-Feのモル比の増加分ほどには増加せず、硫黄と鉄イオンとの結合及びリン酸イオンの放出がほぼ飽和することが確認できる。また、S/T-Feのモル比が0.2以上であれば、モル比がいずれの場合も約1時間の滞留時間でリン酸イオン濃度が増加し、約2時間でほぼ飽和することがわかる。以上のことから、S/T-Feモル比を0.2以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上として、1時間以上、好ましくは2時間以上の滞留時間とすることで、放出されたリン酸イオンを良好に維持できるといえる。