IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2023-117549ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート
<>
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図1
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図2
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図3
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図4
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図5
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図6
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図7
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図8
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図9
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図10
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図11
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図12
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図13
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図14
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図15
  • 特開-ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023117549
(43)【公開日】2023-08-24
(54)【発明の名称】ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシート
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20230817BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20230817BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230817BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230817BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
C01G33/00 A
B82Y30/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022020168
(22)【出願日】2022-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】坂井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
【テーマコード(参考)】
4G047
4G048
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB04
4G047CC02
4G047CD02
4G047CD08
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC02
4G048AC04
4G048AD02
4G048AD08
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】 ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、それによって得られるナノシートを提供すること。
【解決手段】 本発明のナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法は、ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製することと、凹凸構造を有する基板を準備することと、基板上にナノシート分散液を用い、ナノシートからなるナノシート単層膜を形成することとを包含し、ナノシートおよび基板とが所定の関係を満たす。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法であって、
ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製することと、
凹凸構造を有する基板を準備することと、
前記基板上に前記ナノシート分散液を用い、前記ナノシートからなるナノシート単層膜を形成することと
を包含し、
前記ナノシート、前記有機溶媒および前記基板は、次式を満たす、方法。
nL>(x×E×L)/(S×(A1-A2)×sinθ)
nL>d
ここで、Lは、前記ナノシートのユニットセルの1辺の長さ(m)であり、nLは、前記ナノシートの短手方向の長さ(m)であり、Sは、前記ナノシートのユニットセルの面積(m)であり、Eは、前記ナノシートを構成する原子間の結合エネルギー(J/mol)であり、xは、ユニットセルと同じ大きさのナノシートを仮定した場合に、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合の数(mol)であり、A1は、前記ナノシートと前記基板との間の接着エネルギー(J/m)であり、A2は、前記ナノシートと前記有機溶媒との間の接着エネルギー(J/m)であり、θは、前記基板の前記凹凸構造の側面と、前記基板の主面とのなす角であり、0°より大きく90°未満であり、dは、前記凹凸構造の凸部と凸部との間の距離(m)である。
【請求項2】
前記凹凸構造は、山状または角錐状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノシートは、チタン酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、リン酸、炭素、窒化ホウ素、リン、遷移金属カルコゲナイド、複水酸化物、および、希土類水酸化物からなる群から選択される無機層状物質から単層剥離されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、プロパノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびN,N’-ジメチルプロピレン尿素からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記nLは、460×10-9mより大きく500×10-6m以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記θは、10°以上30°以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ナノシート分散液中の前記ナノシートの濃度は、0.05質量%以上1質量%以下の範囲である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ナノシート単層膜を形成することは、前記基板上に前記有機溶媒からなる液膜を形成し、前記液膜表面に前記ナノシートを浮遊させ、前記有機溶媒の蒸発に伴い、前記ナノシートを前記凹凸構造の側面に転写させる、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ナノシート単層膜を形成することは、スピンコート法またはラングミュア・ブロジェット(LB)法を用いる、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記基板は、ポリマー被覆されている、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ナノシートのアスペクト比は、800以上8000以下の範囲である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記ナノシート単層膜を形成することに続いて、前記ナノシート単層膜を乾燥することをさらに包含する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
結晶軸方位に沿ったエッジを有し、結晶構造を反映した矩形または三角形の形状を有する、ナノシート。
【請求項14】
前記エッジは、[01]方位および[10]方位である、請求項13に記載のナノシート。
【請求項15】
長手方向の長さは、500nm以上5μm以下の範囲である、請求項13または14に記載のナノシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、切断されたナノシートに関する。
【背景技術】
【0002】
層状化合物は化学結合により形成される層が分子間力により積層した構造を持ち、多くの層状化合物を機械的あるいは化学的に1層ずつにまで剥離できる。この単層剥離により得られるナノシートは、原子1個~数個からなる厚みである一方、面内方向には数十μmに及ぶ大きさを持つ二次元結晶である。グラフェンやカルコゲン化物、酸化物、水酸化物など多岐にわたる材料のナノシートがこれまでに合成され、その組成や構造により、高電子移動度、強誘電性、触媒、クロミズム、強磁性などさまざまな魅力的な特性を示すことが知られている。
【0003】
このようなナノシートを用いてナノシート単層膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1によれば、スピンコート法を用いてナノシート単層膜を形成する方法が開示される。特許文献2によれば、ラングミュア・ブロジェット(LB)法により基板上にNbOおよび/またはTiO八面体ユニットからなる光触媒ナノシートからなる薄膜を形成する方法が開示される。
【0004】
一方で、ナノシート(二次元マテリアル)を二次加工(切断や穿孔など)することは、ナノシートの高機能化やナノシートを用いたデバイス作製において重要なプロセスである(例えば、非特許文献1~4を参照)。
【0005】
ナノシートを切断する方法として、非特許文献1は、ナノシートを吸着させた基板を横方向に引っ張ることにより機械的な外力を加える方法、非特許文献2は、ナノシートの上下に部分的に基板を吸着させ、二つの基板を上下に離す方法、非特許文献3は、走査プローブ顕微鏡を用い切断する方法、非特許文献4は、レーザーを用いたリソグラフィ法を開示する。
【0006】
しかしながら、非特許文献1、2の機械的な外力を加える方法では、切断されるナノシートの形状や大きさを制御できない。また、結晶軸方位を制御して切断する方法はこれまで報告がない。原理的にはナノシートの結晶方位を明らかにした上で、その方位と垂直な方向に外力を加える必要があると考えられるが、基板上での結晶軸方位の決定、それに応じた外力印加のいずれのステップでも様々な技術課題が存在し、現時点では現実的でないと考えられる。それに加えて、非特許文献3、4のリソグラフィ法では、1枚のナノシートを処理するのに時間がかかり、大規模な加工には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-253009号公報
【特許文献2】特開2009-292680号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seung Ryul Naら,ACS Nano,2016,10,9616
【非特許文献2】Kyounghwan Kimら,Nano Lett.,2016,16,1989
【非特許文献3】Hongyuan Liら,Nano Lett.,2018,18,8011
【非特許文献4】Xu-Dong Chenら,Adv.Mater.,2016,28,2563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上から、本発明の課題は、ナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法、および、それによって得られるナノシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法は、ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製することと、凹凸構造を有する基板を準備することと、前記基板上に前記ナノシート分散液を用い、前記ナノシートからなるナノシート単層膜を形成することとを包含し、前記ナノシート、前記有機溶媒および前記基板は、次式を満たし、これにより上記課題を解決する。
nL>(x×E×L)/(S×(A1-A2)×sinθ)
nL>d
ここで、Lは、前記ナノシートのユニットセルの1辺の長さ(m)であり、nLは、前記ナノシートの短手方向の長さ(m)であり、Sは、前記ナノシートのユニットセルの面積(m)であり、Eは、前記ナノシートを構成する原子間の結合エネルギー(J/mol)であり、xは、ユニットセルと同じ大きさのナノシートを仮定した場合に、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合の数(mol)であり、A1は、前記ナノシートと前記基板との間の接着エネルギー(J/m)であり、A2は、前記ナノシートと前記有機溶媒との間の接着エネルギー(J/m)であり、θは、前記基板の前記凹凸構造の側面と、前記基板の主面とのなす角であり、0°より大きく90°未満であり、dは、前記凹凸構造の凸部と凸部との間の距離(m)である。
前記凹凸構造は、山状または角錐状であってよい。
前記ナノシートは、チタン酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、リン酸、炭素、窒化ホウ素、リン、遷移金属カルコゲナイド、複水酸化物、および、希土類水酸化物からなる群から選択される無機層状物質から単層剥離されていてよい。
前記有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、プロパノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびN,N’-ジメチルプロピレン尿素からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記nLは、460×10-9mより大きく500×10-6m以下の範囲であってもよい。
前記θは、10°以上30°以下の範囲であってもよい。
前記ナノシート分散液中の前記ナノシートの濃度は、0.05質量%以上1質量%以下の範囲であってもよい。
前記ナノシート単層膜を形成することは、前記基板上に前記有機溶媒からなる液膜を形成し、前記液膜表面に前記ナノシートを浮遊させ、前記有機溶媒の蒸発に伴い、前記ナノシートを前記凹凸構造の側面に転写させてもよい。
前記ナノシート単層膜を形成することは、スピンコート法またはラングミュア・ブロジェット(LB)法を用いてもよい。
前記基板は、ポリマー被覆されていてもよい。
前記ナノシートのアスペクト比は、800以上8000以下の範囲であってもよい。
前記ナノシート単層膜を形成することに続いて、前記ナノシート単層膜を乾燥することをさらに包含してもよい。
本発明によるナノシートは、結晶軸方位に沿ったエッジを有し、結晶構造を反映した矩形または三角形の形状を有し、これにより上記課題を解決する。
前記エッジは、[01]方位および[10]方位であってもよい。
長手方向の長さは、500nm以上5μm以下の範囲であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法は、ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製することと、凹凸構造を有する基板を準備することと、基板上にナノシート分散液を用い、ナノシートからなるナノシート単層膜を形成することとを包含し、ナノシートおよび基板が上述の式を満たす。ナノシート、有機溶媒および基板を、上記式を満たすように選択することにより、ナノシートが基板の凹凸構造に吸着し、ナノシート面内に引張応力が発生する。その結果、ナノシートは結晶軸方位に沿って切断される。
【0012】
このようにして切断されたナノシートは、結晶軸方位に沿ったエッジを有し、結晶構造を反映した矩形または三角形の形状を有する。エッジにおいて、高強誘電性、高い触媒活性、高いクロミズム、高強磁性等を示し得るため、種々のデバイスへの適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明によるナノシートを結晶軸方位に沿って切断するプロセスを示すフローチャート
図2】ナノシートのユニットセルを示す模式図
図3】凹凸構造を有する基板の断面を示す模式図
図4】ナノシートが切断される原理を示す模式図
図5】凹凸構造を有する基板の一例を模式的に示す図
図6】凹凸構造を有する基板の別の一例を模式的に示す図
図7】酸化チタンナノシートの切断に必要なエネルギーと接着エネルギーとの関係を示す図
図8】基板1のAFM像を示す図
図9】基板2のAFM像を示す図
図10】基板1および基板2の表面形状の断面を示す図
図11】例1のNS1/基板1のAFM像を示す図
図12】例2のNS1/基板2のAFM像を示す図
図13】例1のNS1/基板1および例2のNS1/基板2の表面形状の断面を示す図
図14】例1のNS1/基板1のSEM像を示す図
図15】例2のNS1/基板2のSEM像を示す図
図16】例5のNS2/基板1のSEM像および基板上のナノシートの長さ分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
図1は、本発明によるナノシートを結晶軸方位に沿って切断するプロセスを示すフローチャートである。
【0015】
本願発明者らは、ナノシート、有機溶媒および基板を適切に選択することにより、以下のステップS110~S130を実施することにより、ナノシートを結晶軸方位に沿って切断できることを見出した。
ステップS110:ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製すること。ナノシートとは、厚さが原子1個から十数個分の範囲にある二次元のシート状の物質である。典型的には、厚さは0.3nm以上5nm以下である。
ステップS120:凹凸構造を有する基板を準備すること。
ステップS130:基板上にナノシート分散液を用い、ナノシートからなるナノシート単層膜を形成すること。ナノシート単層膜とは、ナノシートが配列して形成する単層膜を意図する。
【0016】
ここで、ナノシート、有機溶媒および基板は、次の関係を満たすように選択される。
nL>(x×E×L)/(S×(A1-A2)×sinθ)・・・(1)
nL>d ・・・(2)
ここで、Lは、ナノシートのユニットセルの1辺の長さ(m)であり、nLは、ナノシートの短手方向の長さ(m)であり、Sは、ナノシートのユニットセルの面積(m)であり、Eは、ナノシートを構成する原子間の結合エネルギー(J/mol)であり、xは、ユニットセルと同じ大きさのナノシートを仮定した場合に、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合の数(mol)であり、A1は、ナノシートと基板との間の接着エネルギー(J/m)であり、A2は、ナノシートと有機溶媒との間の接着エネルギー(J/m)であり、θは、基板の凹凸構造の側面と、基板の主面とのなす角であり、0°より大きく90°未満であり、dは、凹凸構造の凸部と凸部との間の距離(m)である。
【0017】
本願発明者らは、上述のナノシートと有機溶媒と基板との関係を見出し、所定の条件を満たした際に、ナノシートを結晶軸方位に沿って切断することに成功した。式(1)および式(2)について、図面を参照して説明する。
【0018】
図2は、ナノシートのユニットセルを示す模式図である。
図3は、凹凸構造を有する基板の断面を示す模式図である。
図4は、ナノシートが切断される原理を示す模式図である。
【0019】
<ナノシートのユニットセル>
ナノシート210は、無機層状物質220から単層剥離されたシートであり、数原子層の厚さを有する。無機層状物質220およびナノシートの種類について後述する。無機層状物質220のナノシート210は、無機層状物質220の種類によってユニットセルの形状が異なるが、二次元長方格子、二次元正方格子、二次元六方格子、二次元四辺形格子の4種類に分類される。
【0020】
図2では、二次元長方格子のユニットセル230を有する無機層状物質220、および、それから単層剥離されたナノシート210が示される。例えば、このような無機層状物質には酸化チタンがあり、ユニットセル中、大きな原子がO(酸素)であり、小さな原子がTi(チタン)である。参考のため、図2には、酸化チタンナノシート(Ti0.87 0.52-ナノシート)の場合の格子の長さを示す。
【0021】
(1)式において、L(m)は、図2に示されるように、ユニットセル230の短手方向の長さであってよく、面積S(m)は、L×L×c(cは定数、c>1)で表される。なお、ナノシートが二次元正方格子の場合には、Lは一辺の長さであり、SはL×Lとなる。ナノシートが二次元六方格子の場合には、Lは一辺の長さであり、SはL×L×sin60°となる。ナノシートが二次元四辺形格子の場合には、Lは短手方向の長さであり、SはL×L×c×sinα(cおよびαは定数、c≧1、0°<α<90°、ただし、c=1かつα=60°を除く)となる。
【0022】
<ナノシートの形状および大きさ>
ナノシート210は、複数個のユニットセル230から構成されており、基本的にユニットセル230の相似形である。したがって、ナノシート210は各辺をn倍した大きさを有するとする。このとき、ナノシート210の一辺の長さ(二次元長方格子の場合には短手方向の長さ)は、n×L(m)となり、その面積はn×Sとなる。例示的には、nLは、460×10-9mより大きく500×10-6m以下の範囲を選択するとよい。これによりナノシートの切断を促進できる。また、後述する化学結合の数xに関係するが、ナノシートは、好ましくは、800以上8000以下の範囲のアスペクト比を有するものを採用するとよい。これにより、ナノシートは効率的に切断される。
【0023】
<ナノシート内部の化学結合>
図2において、xは、ユニットセルと同じ大きさのナノシートを仮定した場合、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合の数(mol)となる。したがって、ナノシートを構成する原子間の結合エネルギーE(J/mol)、および、ユニットセル230の長さL(m)(二次元長方格子の場合には短手方向の長さ)を用いれば、ユニットセルの長さあたりの結合エネルギーの合計は、E×x/Lとなる。
【0024】
<基板の表面形状>
図3に示すように、本発明では、基板300は、凹凸構造310を有する。基板300の主面320(すなわち、基板300の水平面)に対する凹凸構造310の側面(分かりやすさの観点から斜面とも呼ぶ)のなす角θが0°より大きく90°未満を満たす。θが0°の場合には凹凸構造310とならない。θが90°の場合には、ナノシートが凹凸構造310に接着できないので、ナノシートを切断できない。なす角θは、好ましくは、10°以上30°以下の範囲である。この範囲であれば、ナノシートが凹凸構造310の斜面に吸着し、後述する引張応力が発生し、切断を促進できる。
【0025】
ナノシート210が、凹凸構造310の山と山との距離dを超えて吸着する必要があるため、ナノシート210の長さ(二次元長方格子の場合には短手方向の長さ)は、dよりも大きくなければならない(上記(2)式)。nL≦dの場合には、ナノシート210が距離dを超えて、凹凸構造310の斜面に吸着できず、ナノシート210を切断できない。
【0026】
<接着エネルギー>
次に、ナノシート210の接着エネルギーを求める。ここで、ナノシート210の接着エネルギーには、ナノシート210と基板300との間の接着エネルギーA1(J/m)、および、ナノシート210と有機溶媒との接着エネルギーA2(J/m)とが存在し、この差が、有機溶媒表面に存在するナノシート210が基板300に接着する際の接着エネルギーになる。
【0027】
接着エネルギーA1、A2は、ナノシート210、基板300および有機溶媒の表面自由エネルギーを用いて算出できる。表面自由エネルギーは、文献値を用いてもよいし、接触角測定による測定値を用いてもよい。本願明細書では、プローブ液体には水およびヨウ化メチレンを用い、接触角計(協和界面科学株式会社製、DMe-210)により接触角測定を実施した。
【0028】
ナノシート210、基板300および有機溶媒の表面自由エネルギーをそれぞれG1、G2およびG3(J/m)とすると、A1およびA2はそれぞれ以下のように表せる。
A1=2×√(G1×G2)
A2=2×√(G1×G3)
ここで、A1>A2を満たす。これにより、ナノシート210は、有機溶媒から基板300へと転写される。
【0029】
<基板への吸着時にナノシートに作用する引張応力>
上述のステップS130により、基板300の表面にて有機溶媒410表面に浮遊したナノシートが集積したナノシート単層膜420(図4)を形成するが、有機溶媒410の蒸発に伴い、ナノシート単層膜420は、基板300に転写される。なお、図4では、分かりやすさのために細部を拡大して示すため、ナノシート単層膜420は、単一のナノシートであるが、基板全体に対しては、ナノシートが水平方向に配列したナノシート単層膜を構成することを理解されたい。
【0030】
すなわち、ナノシート210と有機溶媒410との接着エネルギーA2が失われて、ナノシート210と基板300との接着エネルギーA1が生じる。上述したように、A1>A2を満たすので、このときの接着エネルギー差は、A1-A2となる。この接着エネルギー差に基づく接着力が、基板300の凹凸構造310の斜面に垂直な方向に作用する。この水平方向成分がナノシート210に作用する引張応力T(J)となる。引張応力Tは、接着エネルギー差の水平方向成分とナノシートの面積との積として次式で表される。
T=(A1―A2)×sinθ×n×S ・・・(A)
【0031】
θ=0°(凹凸構造を有しない基板)の場合、引張応力Tが0となり、ナノシートは切断されない。また、θ=90°の場合、ナノシートが基板の凹凸構造に追従できず、凹凸構造との接着面積が小さいので、十分な接着エネルギーが生じず、ナノシートは切断されない。
【0032】
<ナノシートを切断するために必要なエネルギー>
ある結晶軸に沿ってナノシートを切断するためには、その結晶軸を含む、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合をナノシートの端から端まで切断する必要がある。そのエネルギーの総和D(J)は、ユニットセルの長さあたりの結合エネルギーの合計(E×x/L)およびナノシートの長さnLを用いて、次式のように表される。
D=E×x/L×nL (B)
【0033】
<凹凸構造の斜面への吸着によりナノシートを切断する条件>
基板300の凹凸構造310の斜面にナノシートが吸着した際に、ナノシートに作用する引張応力Tが、結晶軸方位に沿ってナノシートを切断するために必要なエネルギーを上回ること、すなわちT>Dであることが必要である。したがって、式(A)および式(B)から、上記式(1)を満たすときにナノシートを切断できると導ける。
【0034】
次に、本発明の方法を実施するにあたり、使用する構成要素について詳述する。
切断されるべきナノシートは、上述したように、無機層状物質から単層剥離されたナノシートであれば特に制限はないが、好ましくは、チタン酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、リン酸、炭素、窒化ホウ素、リン、遷移金属カルコゲナイド、複水酸化物、および、希土類水酸化物からなる群から選択される無機層状物質から単層剥離されている。これらの無機層状物質から単層剥離されたナノシートは公知であり、電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の優れた性質を示す、または、期待されており、実用化に有利である。当業者であれば、用途に応じて、ナノシートを適宜選択し得る。
【0035】
チタン酸化物は、単層剥離により酸化チタンナノシートを生成する任意の層状チタン酸化物である。ここで単層剥離された酸化チタンナノシートは、例えば、表1に具体的に示されるように、一般式(Ti,M)O2-d(Mは金属元素または空孔であり、0≦d≦1)で表される。このような酸化チタンナノシートを生成する層状チタン酸化物は、例えば、NaTi、KTi、CsTi11、A(Ti,M)(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、Mは1~3価の金属元素である)等がある。
【0036】
ニオブ酸化物は、単層剥離により酸化ニオブナノシートを生成する任意の層状ニオブ酸化物である。表1に示すように、例示的な酸化ニオブナノシートには、Nb 、Nb17 4-、TiNbO 、TiNbO14 3-、TiNbO 等がある。このような酸化ニオブナノシートを生成する層状ニオブ酸化物には、KNb、KNb17、A[TiNbO]、A[TiNbO14]、A[TiNbO](Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)等がある。
【0037】
タンタル酸化物は、単層剥離により酸化タンタルナノシートを生成する任意の層状タンタル酸化物である。表1に示すように、例示的な酸化タンタルナノシートにはTaO 、TiTaO 等がある。このような酸化タンタルナノシートを生成する層状タンタル酸化物には、RbTaO、A[TiTaO](Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)等がある。
【0038】
ペロブスカイト酸化物は、単層剥離によりペロブスカイトナノシートを生成する任意の層状ペロブスカイト酸化物である。ここで単層剥離されたペロブスカイトナノシートには、例えば、表1に示すように、一般式An-13n+1 (A=Ca、Sr、Ba、Na、K、希土類元素、M=Nb、Ta、Ti、2≦n≦7)で表されるものがある。このようなペロブスカイトナノシートを生成する層状ペロブスカイト酸化物は、A’[An-13n+1]に代表されるDion-Jacobson型(A’:アルカリ金属)、A’[An-13n+1]に代表されるRuddlesden-Popper型、および、(Bi)[An-13n+1]に代表されるAurivillius型が知られている。本化合物系は多様な化学組成をとるが、代表的な層状ペロブスカイト酸化物として、KLaNb、KCaNb10、KSrNb10、CsCaNb10、KCaNaNb13、KCaNaNb16、KCaNaNb19、LiEu2/3Ta、KLaTi10、(K1.5Eu0.5)Ta10等がある。
【0039】
マンガン酸化物は、単層剥離により酸化マンガンナノシートを生成する任意の層状マンガン酸化物である。酸化マンガンナノシートには、例えば、表1に示すように、MnO 0.4-、一般式Mn1-x δ-(Mは金属元素であり、例えば、Ru、Co、0<x≦0.5)で表されるものがある。このような酸化マンガンナノシートを生成する層状マンガン酸化物は、一般式AMnO、AMn1-x(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、0<p≦1)で表される。
【0040】
コバルト酸化物は、単層剥離により酸化コバルトナノシートを生成する任意の層状コバルト酸化物である。酸化コバルトナノシートには、例えば、CoO で表されるものがある。このような酸化コバルトナノシートを生成する層状コバルト酸化物は、一般式ACoO(Aは、少なくとも1種のアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素であり、0<p≦1)で表される。
【0041】
モリブデン酸化物は、単層剥離によりモリブデン酸ナノシートを生成する任意の層状モリブデン酸化物である。ここで、表1に示すように、モリブデン酸ナノシートには、MoO δ-で表されるものがある。このようなモリブデン酸ナノシートを生成する層状モリブデン酸化物には、一般式AMoO(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、Mは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)で表されるものがある。
【0042】
タングステン酸化物は、単層剥離によりタングステン酸ナノシートを生成する任意の層状タングステン酸化物である。ここで、タングステン酸ナノシートには、表1に示すように、Rb2.41135 1.6- Cs1136 2-等のナノシートがある。このようなタングステン酸ナノシートを生成する層状タングステン酸化物には、例えば、Rb1135、Cs6+z1136(0≦z≦0.31)等がある。
【0043】
ルテニウム酸化物は、単層剥離により酸化ルテニウムナノシートを生成する任意の層状ルテニウム酸化物である。ここで、例示的な酸化ルテニウムナノシートは、表1に示すように、RuO 0.2-ならびにRuO2.1 0.2-で表される。このような酸化ルテニウムナノシートを生成する層状ルテニウム酸化物は、一般式ARuO、A0.2RuO2.1(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)で表される。
【0044】
リン酸は、単層剥離により酸化リンナノシートを生成する任意の層状リン酸である。ここで、例示的な酸化リンナノシートは、表2に示すように、Sb14 3-、TaP 等で表される。このような酸化リンナノシートを生成する層状リン酸は、一般式ASb14、ATaP(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)で表される。
【0045】
炭素は、単層剥離によりグラフェン(厚さ0.3nm)、あるいは、酸化グラフェンナノシートを生成する任意の層状炭素であり、グラファイトが知られている。リンは、単層剥離により単層黒リンナノシートを生成する層状黒リンが知られている。遷移金属カルコゲナイドは、単層剥離により単層MXナノシート(Mは、遷移金属であり、Xは、カルコゲンである)、単層BiTeナノシートとなる、層状MX、層状BiTeが知られている。窒化ホウ素は、単層剥離により単層hBNナノシート(厚さ0.3nm)となる層状hBNが知られている。複水酸化物(LDH)および希土類水酸化物は、表2を参照されたい。
【0046】
チタン酸化物、ニオブ酸化物、タンタル酸化物、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物等のナノシート化のための処理は、ソフト化学処理と呼ばれ、酸処理と剥離処理を組み合わせた処理である。
【0047】
例えば、上述の無機層状物質の粉末に塩酸などの酸水溶液を接触させ、生成物をろ過、洗浄後、乾燥させると、処理前に層間に存在していたアルカリ金属イオンがすべて水素イオンまたはオキソニウムイオンに置き換わり、水素イオン交換体が得られる。次に、得られた水素イオン交換体をテトラブチルアンモニウムイオン(TBA)、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n-プロピルアミン、n-エチルアミンおよびエタノールアミンなどの塩基性物質を含有する水溶液中に入れ撹拌すると、コロイド化する。このようにして、層状構造を構成していた層が1枚1枚にまで剥離され、ナノシートが得られる。
【0048】
酸化グラファイトは、黒鉛を化学的に酸化することにより得られる。黒鉛を硫酸、過硫酸カリウム、過マンガン酸カリウムなどの強酸で酸化後、超音波処理により、酸化グラフェン(GOと称する)ナノシートが合成できる。酸化グラフェンは、水酸基、カルボン酸、エポキシ基、カルボニル基等の酸素官能基を表面に含み、親水性であるため、コロイド水溶液として得られる。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
本願明細書において、切断前のナノシートの一辺の長さ、ナノシートの厚さおよびアスペクト比は以下のようにして算出する。凹凸構造を有しない基板上に吸着させたナノシート(160枚)について走査型電子顕微鏡像を取得し、長手方向および短手方向の長さをそれぞれ測定し、それぞれの平均値を長手方向および短手方向の一辺の長さとした。30枚のナノシートについて走査型プローブ顕微鏡像の断面プロファイルを測定し、その平均値を厚さとした。アスペクト比は、上述の平均の一辺の長さ(長手方向の長さおよび短手方向の長さ)を、平均厚さで除することにより算出した。
【0052】
ステップS110において、有機溶媒は、特に制限はないが、好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、プロパノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびN,N’-ジメチルプロピレン尿素からなる群から選択される。これらの有機溶媒は極性溶媒であり、ナノシートが分散しやすい。中でも、DMSOは、適度な粘性(ステップS130のナノシート単層膜の形成時に、のびて薄い液膜を形成しやすい)と蒸気圧(比較的ゆっくり乾燥するので、制御しやすい)との観点から好ましい。
【0053】
ステップS110において、ナノシート分散液中のナノシートの濃度は、ステップS130においてナノシート単層膜が形成される限り特に制限はないが、好ましくは、0.05質量%以上5質量%以下の範囲である。この範囲であれば、ナノシート単層膜の形成を促進する。ナノシート分散液中のナノシートの分散性の観点から、より好ましくは、ナノシート分散液中のナノシートの濃度は、0.05質量%以上1質量%以下の範囲である。
【0054】
ステップS120において、凹凸構造を有する基板は、上述の条件を満たす基板であれば、蒸着法、スパッタ法、化学蒸着法、ゾルゲル法などにより作製したものであってもよいし、あるいは、フォトリソグラフィ法、電気化学エッチング法等により表面加工してもよい。
【0055】
図5は、凹凸構造を有する基板の一例を模式的に示す図である。
図6は、凹凸構造を有する基板の別の一例を模式的に示す図である。
【0056】
基板の凹凸構造は、上述の条件を満たす限り、特に制限はないが、好ましくは、図5に示すような角錐状、または、図6に示すような山状である。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)からなる基板の場合、結晶構造の観点から角錐状中でも三角錐状の凹凸構造を形成しやすい。また、加工の観点から、図6に示す山状の凹凸構造は入手が容易である。なお、基板の材料は、上述に限定されず、Au、Pt等の金属基板、Si、GaAs等の半導体基板、石英、ガラス等の透明基板、サファイア、MgO、SrTiO、SrTiO:Nb(Nb添加されたSrTiO)、SrRuO等の酸化物単結晶基板、プラスチック等の有機基板等任意の基板を採用できる。
【0057】
ステップS120において、基板の表面を洗浄処理により親水化処理してもよい。洗浄処理は、アセトンで表面を拭き、有機物が除去された基板を、メタノールと塩酸との混合溶液(体積比で1:1で混合)に15分~45分浸漬させ、超純水で洗浄後、濃硫酸に15分~45分浸漬、再度、超純水で洗浄すればよい。親水化処理は、酸素プラズマを照射してもよいし、オゾン雰囲気下で、15分~30分間、紫外線照射してもよい。
【0058】
ステップS120において、基板表面をポリマー被覆してもよい。このようなポリマーは、選択したナノシートと同じ電荷を有するポリマーを選択するとよい。これにより、ナノシートが、引張応力が作用する前に、基板の凹凸構造の斜面に密着することを抑制できるので、ナノシートを効率的に切断できる。例えば、カチオン性の電荷を有するポリマーは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)等である。中でも、PDDAおよびPEIは汎用性があるため、好ましい。アニオン性の電荷を有するポリマーは、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA)等である。中でも、PSSは汎用性があるため、好ましい。
【0059】
ステップS130において、図4を参照して説明したように、凹凸構造を有する基板上にナノシート分散液中の有機溶媒からなる液膜を介してナノシート単層膜を形成する手法であれば特に制限はないが、詳細には、基板上に有機溶媒からなる液膜を形成し、液膜表面に浮遊したナノシートを、有機溶媒の蒸発に伴い、凹凸構造の斜面に転写させ、ナノシート単層膜を形成するものである。このような手法として、好ましくは、スピンコート法またはラングミュア・ブロジェット(LB)法を採用できる。
【0060】
スピンコート法におけるナノシート分散液の滴下量、回転数、スピンコート時間は、選択したナノシートの種類、大きさ、濃度等によって変わるが、上述の濃度範囲であれば、例えば、5μL/cm以上30μL/cm以下の範囲の滴下量、500rpm以上8000rpm以下の回転数、1分以上15分以下の範囲のスピンコート時間などを採用できる。
【0061】
LB法における基板の静置時間、圧縮速度、表面圧力、引き上げ速度は、選択したナノシートの種類、大きさ、濃度等によって変わるが、上述の濃度範囲であれば、例えば、10分以上60分以下の範囲の静置時間、0.1mmsec-1以上1mmsec-1以下の圧縮速度、5mNm-1以上20mNm-1以下の範囲の表面圧力、0.5mmsec-1以上5mmsec-1以下の引き上げ速度などを採用できる。
【0062】
このようにナノシート単層膜を形成するだけで、ナノシートは、その結晶軸方位に沿って切断されるが、ステップS130に続いて、ナノシート単層膜を乾燥してもよい。これにより、ナノシートの切断を促進できる。あるいは、ステップS120は、通常、室温(10℃以上35℃以下の温度範囲)、大気下で行うことが可能であるが、スピンコート法の際に基板を加熱してもよいし、LB法の際にトラフを加熱してもよい。
【0063】
このようにして切断されたナノシートは、結晶軸方位に沿ったエッジを有し、結晶構造を反映した矩形または三角形の形状を有する。どの辺も結晶軸方位に沿ったエッジを有するため、ナノシートの特性(例えば、強誘電性、触媒活性、クロミズム、強磁性等)をより高めることができるので、デバイスへ適用できる。
【0064】
このようなエッジは、好ましくは、[01]方位および[10]方位であり、切断後のナノシートの長手方向の長さは、好ましくは、500nm以上5μm以下の範囲である。この範囲であればデバイスとしても使用できる。なお、エッジの方位は、高分解能電子顕微鏡観察や電子線回折によって測定できるが、簡易的には、用いたナノシートの結晶構造およびユニットセルから判断できる。例えば、用いたナノシートが酸化チタンであれば、c軸方向に成長することから、ユニットセルの長手方向はc軸に平行な[01]方位、それに直交する短手方向はa軸に平行な[10]方位と判断できる。また、切断後のナノシートの大きさは、上述したように、基板上のナノシートの走査型電子顕微鏡像から求められる。
【0065】
なお、本願明細書では、ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を用いてナノシートの切断方法を詳述してきたが、有機溶媒からなる液膜を介して、ナノシートを凹凸構造の斜面に転写することによってナノシート単層膜を形成できれば、ナノシート分散液を用いなくてもよい。例えば、凹凸構造を有する基板上に有機溶媒を滴下することにより有機溶媒からなる液膜を形成し、次いで、化学的気相成長法(CVD)によって別の基板上に作製したナノシートを液膜上に転写すれば、同様に、有機溶媒の蒸発に伴い、ナノシートを切断できる。
【0066】
次に、代表的なナノシートを用いて、上記(1)式を満たすnLについて調べた。代表的なナノシートとして、グラフェン、硫化モリブデン、酸化チタン、および、酸化ニオブを、基板として三角錐状の凹凸構造を有する酸化インジウムスズ(ITO)を、有機溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。基板の主面と凹凸構造の斜面(側面)とのなす角θはθ=tan-1(0.4)であった。基板の表面自由エネルギーG2およびDMSOの表面自由エネルギーG3は、それぞれ、74.7×10-3J/m(接触角測定による算出値)および43.5×10-3J/m(H.Lawrence Cleverら,The Journal of Physical Chemistry,1963,67,918)であった。
【0067】
グラフェン、硫化モリブデン、酸化チタン、および、酸化ニオブのユニットセルの形状、ユニットセルの一辺の長さL(m)、結合エネルギーE(J/mol)、ユニットセルと同じ大きさのナノシートを仮定した場合に、ナノシートの水平面に垂直な結晶面を横切る化学結合の数x(mol)、表面自由エネルギーG1(J/m)、ならびに、基板および有機溶媒の表面自由エネルギーG2およびG3を用いて、式(1)からナノシートの一辺の長さnL(m)を算出した。結果を表3に示す。
【表3】
【0068】
表3によれば、所定の凹凸構造を有する基板(ここではITOであり、θ=tan-1(0.4)≒22°)および有機溶媒(ここではDMSO)を用いた場合に、ナノシートをその結晶軸方位に沿って切断するためには、ナノシートの一辺の長さnL(m)に制限があり、その長さは、ナノシートの種類によって異なることが示された。
【0069】
次に、酸化チタンナノシートを用いて、接着エネルギーと切断に必要なエネルギーとの関係を調べた。ここでは、酸化チタンナノシートが有機溶媒(DMSO)を介してITO基板に接着するものとする。
図7は、酸化チタンナノシートの切断に必要なエネルギーと接着エネルギーとの関係を示す図である。
【0070】
図7には図2に示した酸化チタンナノシートのユニットセル(0.38nm×0.30nm)を再度示す。ここでは、酸化チタンナノシートのTiサイトの空孔は、すべて、Ti原子で占有されていると仮定する。ユニットセル内の[01]軸を含む、ナノシートの水平面に垂直な格子面を横切るTi-O結合の数は2となり、これは[01]軸方向の長さあたりの密度6.67nm-1に相当する。
【0071】
Ti-O結合の結合エネルギー(670kJ/mol)を用いると、切断に必要なエネルギーは、ナノシートがユニットセルの相似形であることから、[01]軸方向の長さあたりの密度(6.67nm-1)に比例するため、図7に示すように、ナノシートの長さに対して線形に増加する。
【0072】
一方、ナノシートとITO基板との接着エネルギーは、148mJ/mとなる。また、ナノシートとDMSOとの接着エネルギーは、113mJ/mとなる。これらの接着エネルギーの差(35mJ/m)のうち水平方向成分が引張応力として作用し、この引張応力はナノシートの面積に比例するため、図7に示すように、ナノシートの長さに対して二次関数的に増加する。
【0073】
図7によれば、ナノシートの短手方向の大きさが460×10-9m未満では、接着エネルギーが切断に必要なエネルギーを下回るため、ナノシートは[01]軸方向に切断されないが、460×10-9mを超えると、接着エネルギーが切断に必要なエネルギーを上回るため、ナノシートは[01]軸方向に切断されることが分かった。
【0074】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0075】
[ナノシート]
1.大型の酸化チタンナノシート(Ti0.87 0.52-)の調製(NS1と称する)
層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27)を出発原料に、大型の酸化チタンナノシート(Ti0.87 0.52-)を調製した。
【0076】
層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27)は、固相合成法により合成した。TiO(Rare Metallic社製、純度99.99%)、KCO(Rare Metallic社製、純度99.99%)およびLiCO(Rare Metallic社製、純度99.99%)の原料粉末を、化学量論比TiO:KCO:LiCO=1:0.23:0.078に基づいて秤量し、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕・混合した。なお、焼成の際に、アルカリ金属炭酸塩であるKCOの一部が蒸発するため、モル比で5%過剰に加えた。粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、900℃、1時間電気炉で仮焼成した。その後、仮焼成した原料粉末をアルミナ乳鉢で再度30分間粉砕・混合した。次いで、粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、1000℃で20時間焼成し、層状チタン酸化物K0.8Ti1.73Li0.27を得た。
【0077】
得られた層状チタン酸化物(0.2g)と塩酸水溶液(1mol/L、200mL)とをビーカー中で撹拌、72時間酸処理を行い、水素イオン交換体(H1.07Ti1.73・HO)を得た。次いで、水素イオン交換体を、テトラブチルアンモニウムイオン(TBA)/プロトン(H)の比が1になるように濃度を調整した水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に、4g/Lの割合で混合し、室温にて2週間反応させて、組成式Ti0.87 0.52-で表される、厚さ約1.2nm、長さ5μm~15μmのナノシートが分散した乳白色のコロイド水溶液を作製した。酸化チタンナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.25質量%であった。
【0078】
コロイド水溶液に遠心分離(1500rpm)を行い、未剥離の層状チタン酸化物や再積層したナノシートを除去し、上澄み液を回収し、再度遠心分離(10000rpm)を行った。沈殿物をジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させ、ナノシート分散液とした。なお、ナノシート分散液中のナノシートの濃度は、分散液の吸光度、DMSOに分散したナノシートのモル吸収係数、および、DMSOの密度(ρ=1.10gcm-3)を用いて算出した。スピンコート法によりナノシート単層膜を、凹凸構造を有しない基板上に形成させ、ナノシートの長さおよび厚さを走査型電子顕微鏡および走査型プローブ顕微鏡によって評価した。
【0079】
結果は以下の通りであった。
長手方向の長さ:平均9.0μm、標準偏差3.8μm、最大値20.1μm、最小値2.0μm
短手方向の長さ:平均4.9μm、標準偏差2.4μm、最大値16.8μm、最小値1.2μm
厚さ:1.2nm
アスペクト比(平均長さ/厚さ):長手方向が7500、短手方向が4080
【0080】
2.小型の酸化チタンナノシート(Ti0.87 0.52-)の調製(NS2と称する)
層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27)を出発原料に、小型の酸化チタンナノシート(Ti0.87 0.52-)を調製した。NS1の調製において、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液と反応させる際に180rpmで横方向に振盪した以外は、同様であるため説明を省略する。このようにして、厚さ約1.2nm、長さ200nm~800nmのナノシートが分散した乳白色のコロイド水溶液を作製した。酸化チタンナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.31質量%であった。コロイド水溶液に遠心分離(15000rpm)を行い、沈殿物をDMSOに分散させ、ナノシート分散液を得た。同様に、ナノシートの大きさを評価したところ、結果は以下の通りであった。
【0081】
1辺の長さ:平均439nm、標準偏差148nm、最大値940nm、最小値145nm(長手方向の長さと短手方向の長さとの比が1に近いため、ナノシートの面積を測り、同じ面積の正方形の1辺の長さをナノシートの長さとした。)
厚さ:1.2nm
アスペクト比(平均長さ/厚さ):366
【0082】
3.ペロブスカイトナノシート(CaNb10 )の調製(NS3と称する)
層状ペロブスカイト酸化物(KCaNb10)を出発原料に、ペロブスカイトナノシート(CaNb10 )を調製した。
【0083】
層状ペロブスカイト酸化物(KCaNb10)は、固相合成法により合成した。KCO(Rare Metallic社製、純度99.99%)、CaCO(Rare Metallic社製、純度99.99%)およびNb(Rare Metallic社製、純度99.99%)の原料粉末を、化学量論比KCO:CaCO:Nb=1:4:3に基づいて秤量し、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕・混合した。なお、焼成の際に、アルカリ金属炭酸塩であるKCOの一部が蒸発するため、モル比で10%過剰に加えた。粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、900℃、1時間電気炉で仮焼成後、1200℃で12時間焼成し、層状ペロブスカイト酸化物KCaNb10を得た。
【0084】
得られた層状ペロブスカイト酸化物(5g)と硝酸水溶液(5mol/L、200mL)とをビーカー中で撹拌し、72時間酸処理を行い、水素イオン交換体(HCaNb10・1.5HO)を得た。次いで、水素イオン交換体(0.4g)を、TBA/Hの比が1になるように濃度を調整した水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液(100mL)に混合し、室温にて2週間反応させて、組成式CaNb10 で表される、厚さ約2.2nm、長さ1μm~4μmのナノシートが分散した乳白色のコロイド水溶液を作製した。遠心分離(3000rpm)により未剥離物を除去したあとの、ペロブスカイトナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.26質量%であった。コロイド水溶液に遠心分離(15000rpm)を行い、沈殿物をDMSOに分散させ、ナノシート分散液を得た。同様に、ナノシートの大きさを評価したところ、結果は以下の通りであった。
【0085】
1辺の長さ:平均1.9μm、標準偏差0.7μm、最大値4.5μm、最小値0.5μm(長手方向の長さと短手方向の長さとの比が1に近いため、ナノシートの面積を測り、同じ面積の正方形の1辺の長さをナノシートの長さとした。)
厚さ:2.2nm
アスペクト比(平均長さ/厚さ):864
【0086】
[基板]
基板1~基板4として、それぞれ、未研磨ITO(200nm厚、表面粗さRa=5.0nm)付ガラス板(フルウチ化学株式会社製)、研磨済みITO(180nm厚、表面粗さRa=0.38nm)付ガラス板(株式会社倉元製作所製)、研磨済みSi(100)(表面粗さRa=0.060nm)ウェハー(株式会社SUMCO製)、および、未研磨FTO(1μm厚、表面粗さRa=27nm)付ガラス板(AGC株式会社製)を用いた。いずれも30mm×30mmの大きさであった。カンチレバー(SI-DF20)を備えた走査型プローブ顕微鏡(SPM、株式会社日立ハイテク製、E-sweep)を用いて、これらの基板表面をタッピングモードにより観察し、AFM像を得、表面粗さを測定した。結果を図8図10に示す。
【0087】
図8は、基板1のAFM像を示す図である。
図9は、基板2のAFM像を示す図である。
図10は、基板1および基板2の表面形状の断面を示す図である。
【0088】
図8および図9には、基板1および基板2のAFM像をグレースケールで示すが、未研磨の基板1は、最大20nmの高低差を有する凹凸構造を有し、研磨済みの基板2は、わずか1nm程度の高低差にとどまる平坦な表面を有した。図示しないが、基板4の高低差は100nm程度であるものの、基板1と同様のAFM像を示し、基板3は基板2と同様のAFM像を示した。
【0089】
図10の基板1の断面プロファイルから、基板1の凹凸構造について詳細に調べた。断面プロファイルは、高さ20nmの山の頂が100nm間隔(d)で並んでいるとみなすことができるので、基板1の主面と山の斜面とのなす角は、θ=tan-1(20/50)=tan-1(0.4)と求められる。図示しないが、基板4は、高さ100nmの山の頂が500nm間隔(d)で並んでいるとみなすことができたので、基板4の主面と山の斜面とのなす角は、θ=tan-1(100/250)=tan-1(0.4)と求められる。
【0090】
図示しないが、ITOは、立方晶系の結晶構造を有し、ガラス板表面に三角錐の凹凸構造を形成することを走査型電子顕微鏡により確認した。このことから凹凸構造は三角錐状であった。FTOは、正方晶系の結晶構造を有し、ガラス板表面に三角錐の凹凸構造を形成した。以上の結果を表4にまとめて示す。
【0091】
【表4】
【0092】
[例1~例6]
例1~例6では、ナノシート分散液を用い、基板上にナノシート単層膜を形成した。詳細には、NS1~NS3のナノシートをDMSOに分散させたナノシート分散液を調製した(図1のステップS110)。次いで、基板を準備した(図1のステップS120)。上述の基板をアセトンで洗浄し、プラズマイオンボンバーダー(株式会社真空デバイス製、PIB-20)を用いて、酸素プラズマ処理し、表面を親水性にした。親水化処理された清浄基板をスピンコーター(ミカサ株式会社製、MS-B100)のサンプルホルダに設置し、基板表面にナノシート分散液を滴下し、ナノシート単層膜を形成した(図1のステップS130)。ナノシート分散液中のナノシートの濃度、および、スピンコート条件を簡単のため表5にまとめて示す。このようにして得られた例1~例6の試料を、それぞれ、NS1/基板1、NS1/基板2、NS1/基板3、NS1/基板4、NS2/基板1、および、NS3/基板4と称する場合がある。
【0093】
【表5】
【0094】
例1~例6の試料の表面を、SPMを用いて観察した。得られたAFM像および表面形状の断面を図11図13に示す。
図11は、例1のNS1/基板1のAFM像を示す図である。
図12は、例2のNS1/基板2のAFM像を示す図である。
図13は、例1のNS1/基板1および例2のNS1/基板2の表面形状の断面を示す図である。
【0095】
図11および図12のAFM像は、それぞれ、図8および図9のそれと類似していた。図12の細部を見ると矩形のナノシートが観察され、スピンコート法によりナノシートが稠密に配列したナノシート単層膜が得られたことが示唆される。
【0096】
図13の例1および例2の試料の断面プロファイルは、それぞれ、図10の基板1および基板2のそれと類似していた。これらから、スピンコート法によって形成されたナノシート単層膜は、基板の形状に追随することが分かった。図示しないが、例3~例4の試料のAFM像および断面プロファイルも、基板の形状を反映したものであった。
【0097】
例1~例6の試料の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製、JSM-7001F)を用いて観察した。観察時の加速電圧は5kVであった。観察結果を図14図16に示す。
【0098】
図14は、例1のNS1/基板1のSEM像を示す図である。
図15は、例2のNS1/基板2のSEM像を示す図である。
図16は、例5のNS2/基板1のSEM像および基板上のナノシートの長さ分布を示す図である。
【0099】
図14では、例1のNS1/基板1のSEM像を種々の倍率で示す。高倍率の図14に着目すると、1枚のナノシート内に隙間(クラック)が生じ、ナノシートが格子状に切断されている様子が確認できる。
【0100】
注目すべきは、切断前のナノシートの4辺のエッジそれぞれに対して垂直な方向にクラックが発生し、切断後のナノシートはいずれも矩形の形状を維持した。層状酸化チタンは、c軸方向にもっとも大きく成長することが分かっているため、ナノシートの長手方向はc軸に平行な方向([01]方位)となり、短手方向はa軸に平行な方向([10]方位)となる。また、切断後のナノシートの長手方向の長さは、平均1000nmであった。
【0101】
図示しないが、例4のNS1/基板4および例6のNS3/基板4のSEM像も、図14と同様であり、ナノシートが切断された。切断後のナノシートは、いずれも、矩形の形状を有し、そのエッジは[01]方位および[10]方位であり、長手方向の長さは、平均1000nmであった。
【0102】
一方、図15によれば、凹凸構造を有しない基板を用いた場合には、ナノシートは切断されなかった。例3のNS1/基板3においても、同様にナノシートは切断されなかった。
【0103】
図16の基板上のナノシートの長さ分布には、凹凸構造を有しない基板(基板2)に小型の酸化チタンナノシート(NS2)をスピンコートした際の結果も併せて示す。例2と同様に、基板2上ではナノシートは切断されず、分散液中のナノシートの長さ分布に相当する。一方、凹凸構造を有する基板上では、ナノシートの一辺の長さの平均(439nm)が、切断できる長さの閾値(460nm)を下回る場合、一部のナノシートは切断されないことが分かった。凹凸構造を有する基板への吸着により、一辺の長さが400~500nmの範囲およびそれ以上では、ナノシートの存在割合が減少したことから、ナノシートが切断されたことが示唆された。この長さ範囲が、理論計算により求められた、切断できる長さの閾値と一致することから、上記式(1)および式(2)を満たすことが有効であることが示された。以上の結果を表6にまとめて示す。
【0104】
【表6】
【0105】
また、例1、例4および例6は、式(1)および式(2)を満たすが、例5は、一部のナノシートが式(1)を満たさないことが分かった。以上より、式(1)および式(2)を満たすナノシート、有機溶媒および基板を用いて、ナノシートが有機溶媒に分散したナノシート分散液を調製し、凹凸構造を有する基板を準備し、基板上にナノシートからなるナノシート単層膜を形成することにより、ナノシートを結晶軸方位に沿って切断できることが示された。
【0106】
[例7]
例7では、アニオン性のポリマーで被覆した基板1を用いた以外は、例1と同様であった。アニオン性のポリマーは、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)であり、PSS水溶液に親水性処理した基板1を浸漬させ、ポリマー被覆した。このようにして得られた例7のNS1/ポリマー/基板1のSEM像を観察したところ、図14と同様の様態が見られ、ナノシートが切断されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のナノシートを結晶軸方位に沿って切断する方法は、基板サイズのスケールで一度に多くのナノシートの二次加工が可能である。結晶軸方位に沿ったナノシートの切断が可能になることで、より精密なデバイスの作製やナノシートエッジに起因する物性研究が可能になり、ナノシートの新たな応用研究が展開されることが期待できる。
【符号の説明】
【0108】
210 ナノシート
220 無機層状物質
230 ユニットセル
300 基板
310 凹凸構造
320 主面
410 有機溶媒
420 ナノシート単層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16