(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011756
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】226Raターゲットの製造方法、225Acの製造方法及び226Raターゲット製造用電着液
(51)【国際特許分類】
G21G 1/10 20060101AFI20230117BHJP
G21G 4/04 20060101ALI20230117BHJP
G21K 5/08 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G21G1/10
G21G4/04
G21K5/08 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172471
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2021526877の分割
【原出願日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2019113698
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶白 育男
(72)【発明者】
【氏名】矢納 慎也
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 潤
(57)【要約】
【課題】高電圧を印加しなくても、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができる、226Raターゲットの製造方法等を提供すること。
【解決手段】本発明は、226Raイオン及びpH緩衝剤を含む電着液を用いて、226Ra含有物質を基材に電着させる電着工程を含む、226Raターゲットの製造方法を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
226Raイオン及びpH緩衝剤を含む電着液を用いて、226Ra含有物質を基材に電着させる電着工程を含む、226Raターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記電着液が実質的にアルコールを含まない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記電着液が1種又は2種以上の酸を含み、
当該酸が1価又は2価の酸である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電着液がカルボン酸イオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記電着工程開始時の電着液が酸性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電着工程中の電着液のpHが4~9である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記pH緩衝剤が1価又は2価のカルボン酸塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された226Raターゲットに、荷電粒子、光子及び中性子から選ばれる少なくとも1種を照射する照射工程を含む、225Acの製造方法。
【請求項9】
226Raイオン及びpH緩衝剤を含み、実質的にアルコールを含まない、226Raターゲット製造用電着液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、226Raターゲットの製造方法、225Acの製造方法又は226Raターゲット製造用電着液に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ線放出核種の一つである225Acは、半減期が10日間の放射性核種であり、近年、癌治療等における治療用核種として期待されている。
225Acは、例えば、加速器を用いて226Raターゲットに陽子を照射することで、(p,2n)の核反応により製造される。
【0003】
このような226Raターゲットを製造する方法として、イソプロパノールを含むめっき溶液を用い、アルミニウム表面に226Ra含有物質を電着させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の226Raの電着方法では、電着液の導電性が低下するため、226Raを所定量電着させるには、高電圧を印加することが必要である。そのため、電源や機器等が大型化し、また、発生する熱を除去するための冷却工程が必要となる場合がある。さらに、このように高電圧を印加しても、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができないことが判明した。
【0006】
本発明の一実施形態は、高電圧を印加しなくても、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができる、226Raターゲットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、所定の製造方法によれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一態様は、226Raイオン及びpH緩衝剤を含む電着液を用いて、226Ra含有物質を基材に電着させる電着工程を含む、226Raターゲットの製造方法である。
[1] 226Raイオン及びpH緩衝剤を含む電着液を用いて、226Ra含有物質を基材に電着させる電着工程を含む、226Raターゲットの製造方法。
[2] 前記電着液が実質的にアルコールを含まない、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記電着液が1種又は2種以上の酸を含み、
当該酸が1価又は2価の酸である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記電着液がカルボン酸イオンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記電着工程開始時の電着液が酸性である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記電着工程中の電着液のpHが4~9である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記pH緩衝剤が1価又は2価のカルボン酸塩である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された226Raターゲットに、荷電粒子、光子及び中性子から選ばれる少なくとも1種を照射する照射工程を含む、225Acの製造方法。
[9] 226Raイオン及びpH緩衝剤を含み、実質的にアルコールを含まない、226Raターゲット製造用電着液。
【0009】
また、本発明の別の態様は、上記226Raターゲットの製造方法により製造された226Raターゲットに、荷電粒子、光子及び中性子から選ばれる少なくとも1種を照射する照射工程を含む、225Acの製造方法である。
【0010】
さらに、本発明の別の態様は、226Raイオン及びpH緩衝剤を含み、実質的にアルコールを含まない、226Raターゲット製造用電着液である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、高電圧を印加しなくても、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができる。従って、本発明の一実施形態によれば、226Raターゲットを製造する設備を小型化することができ、また、冷却工程を行うことなく、226Raターゲットを製造することができる。つまり、本発明の一実施形態によれば、省スペース、省エネルギー、及び、簡便な方法で226Raターゲットを製造することができる。
【0012】
また、本発明の一実施形態によれば、所定量の226Ra含有物質を含む226Raターゲットを製造することができるため、該ターゲットを用いることで、所定量の225Acを容易に、省スペース、及び、省エネルギーで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[226Raターゲットの製造方法]
本発明の一実施形態に係る226Raターゲットの製造方法(以下「本製造方法」ともいう。)は、226Raイオン及びpH緩衝剤を含む電着液を用いて、226Ra含有物質を基材に電着させる電着工程を含む。
本製造方法によれば、226Ra含有物質が基材に電着される。該226Ra含有物質としては、226Ra金属又は226Ra塩が挙げられる。つまり、本製造方法で得られる226Raターゲットは、226Ra金属又は226Ra塩を含む。
【0014】
<電着液>
電着液は、226Raイオン及びpH緩衝剤を含む液体であれば特に限定されず、さらに必要により、これら以外のその他の成分を含んでいてもよい。
電着液は、本発明の効果がより発揮される等の点から、水溶液であることが好ましい。この場合、純水や超純水を用いることが好ましい。
本製造方法では、2種以上の電着液を用いてもよいが、通常は、1種の電着液を用いる。
【0015】
上述した従来の226Ra含有物質の電着方法では、イソプロパノール等のアルコールが使用されていた。
しかし、本発明者が検討したところ、本製造方法によれば、アルコールを用いなくても、226Ra含有物質を基材に電着できることが分かった。従って、電着液の導電性の低下を抑制することができ、高電圧を印加しなくても、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができる等の点から、電着液は、実質的にアルコールを含まないことが好ましい。
アルコールとしては、例えば、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1~5のアルキルアルコールが挙げられる。
また、電着液は、実質的にアセトンを含まないことも、アルコールを含まないことと同様の理由から好ましい。
ここで、実質的にアルコールやアセトンを含まないとは、電着液にアルコールやアセトンを意識して添加しないことをいう。具体的には、電着液中のアルコール及びアセトンの含有量は、0.01質量%以下であることが好ましく、該含有量の下限は0質量%である。
【0016】
電着液は、より効率良く226Raイオンを基材に電着させることができる等の点から、カルボン酸イオン(COO-)を含むことが好ましく、酢酸イオンを含むことがより好ましい。
【0017】
226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる等の点から、電着工程開始時の電着液は酸性であることが好ましく、この場合の電着液のpHは、好ましくは4以上、より好ましくは5~6である。また、電着工程中(最中)の電着液のpHは、好ましくは4~9、より好ましくは6~8である。pHは、調製した電着液のpHをpHメーターやpH試験紙等を用いて測定してもよいが、電着液に配合する原材料の種類及び使用量等から算出することが好ましく、電着液に配合する原材料の種類及び使用量等により調整することが好ましい。
【0018】
≪酸≫
電着液は、酸を用いて調製されることが好ましい。
酸としては特に限定されないが、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる等の点から、226Raイオンに対し、キレート作用を有さない酸であることが好ましい。
酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0019】
酸としては、例えば、無機酸、炭素数2~6のカルボン酸が挙げられる。無機酸としては、硝酸、塩酸、ホウ酸が挙げられる。また、炭素数2~6のカルボン酸としては、酢酸、コハク酸、安息香酸が挙げられる。
酸は、225Acの収量を向上させる等の点から、1価又は2価の酸であることが好ましい。
【0020】
電着液中の酸の濃度は、用いる酸の種類に応じて適宜選択すればよいが、電着工程開始時の電着液が酸性となるように用いることが好ましい。具体的な濃度としては、好ましくは0.005~0.2mol/L、より好ましくは0.005~0.05mol/Lである。酸の濃度がこの範囲にあると、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる。
なお、同様の理由から、特に、酸として塩酸を用いる場合、その電着液中の濃度は、好ましくは0.04mol/L以下であり、より好ましくは0.005~0.035mol/Lであり、酸として硝酸を用いる場合、その電着液中の濃度は、好ましくは0.2mol/L以下であり、より好ましくは0.005~0.1mol/Lである。
また、酸として酢酸を用いる場合、その電着液中の濃度は、好ましくは0.2mol/L以下であり、より好ましくは0.05~0.1mol/Lである。
【0021】
226Raイオン0.02mol/Lに対する酸の使用量は、好ましくは0.5mol/L以下であり、より好ましくは0.001~0.4mol/Lである。
本製造方法によれば、このような量で酸を使用しても、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる。
【0022】
≪pH緩衝剤≫
pH緩衝剤としては、pHが急激に変化することを防ぐことができるものであれば特に限定されないが、電着工程中(最中)の電着液のpHを4~9程度、好ましくは6~8程度に維持できるpH緩衝剤を用いることが好ましい。
pH緩衝剤としては特に限定されないが、通常、pH緩衝液が用いられる。
電着液に用いるpH緩衝剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0023】
pH緩衝剤としては、例えば、塩化アンモニウム;炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩;酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩;コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸一カリウム、コハク酸二カリウム、コハク酸一アンモニウム、コハク酸二アンモニウムなどのコハク酸塩;安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸アンモニウムなどの安息香酸塩が挙げられる。これらの中でも、電着工程中の電着液のpHを上記範囲に維持することが容易であり、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる等の点から、カルボン酸塩が好ましく、一価又は二価のカルボン酸塩がより好ましく、酢酸塩がさらに好ましく、酢酸アンモニウムがよりさらに好ましい。
【0024】
電着液中のpH緩衝剤の濃度は、用いるpH緩衝剤の種類に応じて適宜選択すればよいが、電着工程中の電着液のpHが上記範囲となるように用いることが好ましい。具体的な濃度としては、好ましくは0.2~1.0mol/L、より好ましくは0.2~0.8mol/Lである。pH緩衝剤の濃度がこの範囲にあると、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる。
【0025】
また、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる等の点から、電着液中の酸とpH緩衝剤との使用割合は、電着工程開始時の電着液が酸性となるような割合であることが好ましい。
【0026】
226Raイオンをより効率良く基材に電着させることができる等の点から、226Raイオン0.02mol/Lに対するpH緩衝剤の使用量は、好ましくは0.1~11.0mol/L、より好ましくは0.2~11.0mol/Lである。
【0027】
≪226Raイオン≫
226Raイオンとしては、226Raがイオンとして存在していれば特に限定されず、通常、226Ra塩又は該塩を含有する溶液が用いられる。
226Ra塩としては、下記精製等の際に使用する酸やアルカリ溶液の種類によって変化し、具体的には、例えば、226Raの硝酸塩、塩化物塩、水酸化物塩、カルボン酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩が挙げられる。これらのいずれの塩も使用することができるが、電着工程開始時の電着液は酸性であることが好ましいため、この観点から、硝酸塩、塩化物塩、カルボン酸塩が好ましい。
【0028】
本製造方法によれば、電着液に含まれる226Raイオンを効率良く基材に電着させることができるため、電着液中の226Raイオンの量は、電着したい226Ra量に応じて適宜選択すればよい。電着したい226Ra量は、例えば、得られる226Raターゲットを用いて225Acを製造する際の施設に許容される放射線量等を考慮して決定すればよい。
電着液中の226Raイオンの量は、例えば、電着したい226Ra量が50mgである場合、好ましくは50~150mg、より好ましくは50~100mgである。
【0029】
226Raイオンとしては、市販されている226Ra又はこれを精製したもの、医療や産業分野で放射線源として使用された226Raを溶解して得られた226Ra塩を含有する溶液を精製したもの、又は、225Ac製造後の226Raターゲットを溶解して得られた226Ra塩を含有する溶液を精製したもの等を用いることができる。
【0030】
226Ra塩を含有する溶液を精製する方法としては、例えば、226Ra含有溶液(a)を、二価陽イオンを選択的に吸着する機能を有する担体(以下「担体(i)」ともいう。)にアルカリ条件下で接触させて、226Raイオンを担体(i)に吸着させる吸着工程(R1)と、酸性条件下で担体(i)から226Raイオンを溶離させる溶離工程(R2)とを含む方法が挙げられる。この精製を行うことにより、226Raイオンを濃縮して不純物を低減することができ、より効率良く226Raイオンを基材に電着させることができる。
【0031】
担体(i)としては、アルカリ条件下で金属イオンと錯形成し、酸性条件下で金属イオンを溶離することができるものであれば特に限定されないが、例えば、二価陽イオン交換基を有するものが挙げられる。二価陽イオン交換基としては、具体的には、イミノジ酢酸基、ポリアミン基、メチルグリカン基を有する担体が挙げられ、好ましくはイミノジ酢酸基である。二価陽イオン交換基を有する担体は、樹脂などの固相担体に二価陽イオン交換基が保持されていれば特に限定されない。より好ましい例として、イミノジ酢酸基を保持するスチレンジビニルベンゼン共重合体が挙げられる。このようなイミノジ酢酸基を有する樹脂の市販品としては、Bio-Rad社製「Chelex」シリーズ、三菱化学(株)製「ダイヤイオン」シリーズ、ダウケミカル社製「アンバーライト」シリーズ等が挙げられ、より具体的にはBio-Rad社製「Chelex100」(粒径:50~100mesh、イオン型:Na型、Fe型)が挙げられる。
【0032】
担体(i)は、チューブに充填して用いてもよい。チューブは、担体(i)を充填させることができ、柔軟性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはゴムまたは樹脂等からなるフレキシブルチューブ、より好ましくは医療用チューブである。
このようなチューブを用いることで、一般的なガラス製カラムよりも長さを長くする、すなわち理論段数を高くすることができるため、226Raイオンの吸着効率を高めることができる。また、放射性物質(226Ra含有溶液)を通液させた担体(i)をチューブに充填させたまま、その他の器具や機器等を放射能汚染させることなく、簡便に廃棄することができる。
【0033】
溶離工程(R2)の具体例としては、担体(i)に無機酸を通液することで、担体(i)に吸着させた226Raイオンを溶離する方法が挙げられる。
無機酸としては、担体(i)に吸着した226Ra成分を溶解してイオンとすることができるものであれば特に限定されず、例えば、塩酸や硝酸が挙げられる。
なお、226Raイオンを担体から効率的に溶離できる点や、後の工程で無機酸由来の陰イオンを効率的に除去できる点から、無機酸の濃度は好ましくは0.1~12mol/L、より好ましくは0.3~5mol/L、さらに好ましくは0.5~2mol/L、特に好ましくは0.7~1.5mol/Lである。
【0034】
なお、工程(R1)と工程(R2)との間に、担体(i)を洗浄する工程を含んでいてもよい。具体的には、担体(i)に水を通液することが挙げられる。この洗浄を行うことで、不純物の割合をより低減できる。
【0035】
溶離工程(R2)で溶離された226Raイオンを含有する溶液は、陰イオン交換樹脂に通液する陰イオン交換工程(R3)を行うことが好ましい。
溶離工程(R2)で用いた無機酸(例えば塩酸等)に由来する陰イオン(例えば塩化物イオン等)が溶液に残存すると、電着工程における226Raイオンの電着率に影響を及ぼすことがある。そのため、溶離工程(R2)で溶離された226Raイオンを含有する溶液を陰イオン交換工程(R3)で処理することが、無機酸に由来する陰イオンを水酸化物イオンに交換することで減少させることができ、電着工程における226Raイオンの電着効率を向上することができることから好ましい。
【0036】
陰イオン交換樹脂としては、無機酸に由来する陰イオン(例えば塩化物イオン等)を水酸化物イオンに交換することができれば特に限定されないが、強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく、四級アンモニウム塩を有する樹脂がより好ましい。このような陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、ダヴ・ケミカル社製「モノスフィア」シリーズ、Bio-Rad社製「AG」シリーズ等が挙げられ、より具体的には「モノスフィア550A」(粒径:590±50mesh、イオン型:OH形)等が挙げられる。
【0037】
なお、陰イオン交換樹脂は、担体(i)と同様にチューブに充填して用いてもよい。用いることができるチューブとしては、前述した担体(i)を充填させるチューブと同様のものが挙げられる。
【0038】
≪その他の成分≫
電着液には、必要により、本発明の効果を損なわない範囲で、従来の電気めっき等に用いられてきた成分が含まれていてもよい。その他の成分は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
電着液には、水が含まれていることが好ましく、電着液中の水の量は、例えば、電着したい226Ra量が50mgである場合、好ましくは15~50mLである。
電着液のpHを調製する観点から適宜アルカリを使用することも可能であり、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが挙げられる。
【0039】
具体的な電着液の一例としては、下記(a)~(d)を満たす電着液が好ましい。
(a)226Raイオン及びpH緩衝剤を含む
(b)アルコールを実質的に含まない
(c)1種又は2種以上の酸を含み、当該酸が1価又は2価の酸である
(d)カルボン酸イオンを含み、好ましくは酢酸イオンを含む
【0040】
また、具体的な電着液の他の例としては、下記(a)、(b)、(e)及び(f)を満たす電着液が好ましい。
(a)226Raイオン及びpH緩衝剤を含む
(b)アルコールを実質的に含まない
(e)1種又は2種以上の酸を含む
(f)pH緩衝剤として、カルボン酸塩を含み、好ましくは1価又は2価のカルボン酸塩を含み、より好ましくは酢酸塩を含む
【0041】
<電着工程>
電着工程は、基材に226Ra金属又はその塩を電着できれば特に限定されず、従来の電気めっきと同様の工程であってもよいが、例えば、電着液に陽極と陰極とを挿入し、これらの電極間に電流を流す方法が挙げられる。
陽極としては特に限定されず、例えば、白金電極を用いることができる。また、陰極としては、例えば、後述する基材を用いればよい。
【0042】
≪基材≫
226Ra含有物質が電着される基材としては、導電性であれば特に限定されないが、得られるターゲットは、サイクロトロンや線形加速器等の加速器を用いて陽子やγ線等の粒子が照射されることが好ましいため、このような粒子が照射される場合にも好適に使用できる基材であることが好ましく、具体的には、金属製の基材であることが好ましい。
【0043】
基材に用いられる金属としては、アルミニウム、銅、チタン、銀、金、鉄、ニッケル、ニオブ及びこれらの金属を含む合金(例:リン青銅、黄銅、洋白、ベリリウム銅、コルソン合金、ステンレス鋼)が挙げられる。
また、基材としては、これらの金属が導電性の支持体にめっきされた基材でもよい。
【0044】
基材としては、荷電粒子、光子又は中性子の照射の際に用いる装置等に悪影響を及ぼし難く、放射性同位元素(RI)を製造する際に、基材由来の金属の混入や、RIを製造した後のターゲットから226Raイオンを得る際に、基材由来の金属の混入を抑制できる等の点から、金板または金めっき板を用いることが好ましい。また、金板または金めっき板を基材として用いることで、226Raイオンをより効率良く基材に電着させることもできる。
【0045】
基材の形状は特に限定されず、所望のターゲットの形状に応じて適宜選択すればよいが、板状であることが好ましい。
【0046】
≪電着条件≫
電流を流す際の電源としては特に限定されず、直流電源、交流電源、パルス電源、PRパルス電源等を使用することができる。これらの中でも、226Raイオンの拡散を改善して226Ra含有物質を均一に電着させることが容易となり、熱の発生を抑制でき、小型の電源で電着できる等の点から、パルス電源やPRパルス電源を用いることが好ましい。
【0047】
パルス電源やPRパルス電源を用いる場合、オン電流及びオフ電流を小さくし、電着中の電圧を低くすることが好ましい。この場合、例えば、オン電流の値は、好ましくは0.1~0.3Aであり、オフ電流の値は、好ましくは0.0~0.2Aである。
電着中に発生する泡を電極から離脱させやすい等の点から、オン時間及びオフ時間はともに短いことが好ましい。この場合、例えば、オン時間は、好ましくは10~90msecであり、オフ時間は、好ましくは10~90msecである。
【0048】
電着時間は、流す電流に応じて変化し、基材上に電着させたい226Ra量に応じて適宜調整すればよいが、パルス電源やPRパルス電源を用いる場合、所望量の225Acを製造できるターゲットを容易に得ることができる等の点から、好ましくは30分以上、より好ましくは1~24時間である。
【0049】
電着工程の際の温度(電着液の温度)は特に限定されないが、例えば10~80℃程度の温度が挙げられる。
【0050】
[225Acの製造方法]
本発明の一実施形態に係る225Acの製造方法は、本製造方法により製造された226Raターゲットに、荷電粒子、光子及び中性子から選ばれる少なくとも1種の粒子を照射する照射工程を含む。
粒子としては、陽子、重陽子、α粒子又はγ線が好ましく、陽子がより好ましい。
【0051】
照射工程としては、具体的には、サイクロトロンや線形加速器等の加速器、好ましくはサイクロトロンを用いて陽子やγ線等の粒子を加速し、その加速した粒子を本製造方法により製造された226Raターゲットに照射する工程が挙げられる。
226Raターゲットに粒子を照射することにより、場合により壊変等を経て225Acが生成する。このように生成した225Acを含むターゲットから225Acを分離精製することで、精製された225Acを得ることができる。
【0052】
225Acを分離精製する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、225Acを含むターゲットを、酸等を用いて溶解し、得られた溶液にアルカリを添加することで225Acを含む塩を析出させ、該塩を分離精製する方法が挙げられる。
【実施例0053】
以下、試験例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、226Raを用いた試験は、放射能の問題等から容易に行うことができないため、以下の一部の試験では、226Raと同様の結果になると考えられるバリウムを用いて試験を行った。ラジウムは、アルカリ土類金属に属する元素であり、同じくアルカリ土類金属に属し、その中でも質量数が近いバリウムと似た性質を有する。また、かつてウラン抽出後のピッチブレンドからラジウムを抽出する際に、硫酸バリウムとの共沈作用が利用されたことからも、ラジウムとバリウムとは性質が非常に似ていることが知られている。
【0054】
[試験例1]
塩化バリウム二水和物を0.05mol/Lの塩酸水溶液に溶解し、Ba質量が60mg、液量が2mLのBa塩酸水溶液を調製した。0.35mol/Lの酢酸アンモニウム水溶液14.4mL、0.1mol/Lの硝酸水溶液1.6mL、及び、調製したBa塩酸水溶液2mLを混合することで、電着液を調製した。pH試験紙を用いて測定した電着液のpHは5~6であった。なお、各水溶液を調製する際には、超純水を用いた。表1に電着液中の各成分の濃度と、電着液の液量を示す。
【0055】
電着槽に、調製した電着液を入れ、そこに、陽極として、白金電極を挿入し、陰極(基材)として、φ10mmの金板(厚さ:0.2mm)を挿入した。次いで、これらの電極に、電着用電源として、MPS-II-012010S10((株)千代田エレクトロニクス製)を用い、パルス電流[0.1Aの電流を10msec流し、電流値0.0Aで10msec間保持することを連続的に繰り返す(オン電流:0.1A、オン時間:10msec、オフ電流:0.0A、オフ時間:10msec)]を3.5時間流すことで、金板にBa(Ba塩)を電着させた。
【0056】
パルス電流を3.5時間流した後、金板を取り出して、超純水で洗浄し、洗浄後の金板を100℃で1時間乾燥させた。
乾燥後の金板と電着前の金板の質量の変化から、電着後の質量増を算出した。なお、下記表に記載の「電着後の質量増平均」は、何回か同様の試験を行った場合の電着後の質量増の平均値である。結果を表1に示す。
【0057】
[試験例2~20]
電着液中の各成分の種類、量(濃度)、液量、基材、及び、電着時間を表1又は2に記載のように変更した以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増平均を算出した。結果を表1又は2に示す。なお、これらの試験例で得られた電着液のpHはいずれも5~7の範囲にあると考えられる。
【0058】
【0059】
【0060】
[試験例21~25]
電着液中の各成分の量(濃度)、及び、液量を表3に記載のように変更した以外は試験例1と同様にして、電着液を調製した。なお、これらの試験例で得られた電着液のpHはいずれも5~6であると考えられる。
得られた電着液を用い、基材としてSUS板(24×24mm、厚さ:2mm)を用い、パルス電流の条件および電着時間を表3に記載のように変更した以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増平均を算出した。結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
[試験例26]
電着液中の各成分の種類、及び、量(濃度)を表4に記載のように変更し、基材としてφ20mmの金板(厚さ:0.2mm)を用いた以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増平均を算出した。結果を表4に示す。なお、試験例26で得られた電着液のpH試験紙を用いて測定したpHは6であった。
【0063】
【0064】
[試験例27]
電着液中の各成分の量(濃度)を表5に記載のように変更した以外は試験例1と同様にして、電着液を調製した。
得られた電着液を用い、電着用電源として、MPS-II-012010S10((株)千代田エレクトロニクス製)を用い、0.1Aの定電流を210分間流した以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増平均を算出した。結果を表5に示す。なお、試験例27で得られた電着液のpHは6であると考えられる。
【0065】
【0066】
[試験例28]
塩化バリウム二水和物を0.05mol/Lの塩酸水溶液に溶解し、Ba質量が34mg、液量が1.1mLのBa塩酸水溶液を調製した。1mol/Lの酢酸水溶液12.5mL、1.1mol/Lのアンモニア水11.4mL、及び、調製したBa塩酸水溶液1.1mLを混合することで、電着液25mLを調製した。なお、各水溶液を調製する際には、超純水を用いた。
得られた電着液を用い、基材としてφ20mmの金板(厚さ:0.2mm)を用い、電着時間を3時間に変更した以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増を算出した。電着後の質量増は、31.3mgであった。
【0067】
[試験例29]
塩化バリウム二水和物を0.05mol/Lの塩酸水溶液に溶解し、Ba質量が34mg、液量が1.1mLのBa塩酸水溶液を調製した。0.4mol/Lのコハク酸水溶液15.625mL、1.5mol/Lのアンモニア水8.275mL、及び、調製したBa塩酸水溶液1.1mLを混合することで、電着液25mLを調製した。なお、各水溶液を調製する際には、超純水を用いた。
得られた電着液を用い、基材としてφ20mmの金板(厚さ:0.2mm)を用い、電着時間を3時間に変更した以外は試験例1と同様にして、電着後の質量増を算出した。電着後の質量増は、18.4mgであった。
【0068】
[試験例30~32]
陽子を照射済みの226Raターゲット(大きさ:Φ10mm、厚さ5mmの円錐形状、226Ra質量:0.4~0.6mg)を1mol/Lの塩酸3~5mLで溶解して、226Ra含有溶液(a-1)を回収した。
【0069】
次に、Chelex100(Bio-Rad社製、粒径:50~100mesh、イオン型:Na型、使用量:3mL)をNH4
+型に変換したものを用いて、内径3.2mm、外径4.4mm、長さ50cmの医療用チューブ(エックステンションチューブ、(株)八光製、3.2×4.4×500mm(4mL)、MS-FL)に充填して、得られた226Ra含有溶液(a-1)(pH>9)50~80mLを流速1~2mL/minで通液し、その溶出液を廃液とした。次いで、水10mLをChelex100に流速1~2mL/minで通液し、その溶出液も廃液とした。
【0070】
次に、モノスフィア550A(ダヴ・ケミカル社製、粒径:590±50mesh、イオン型:OH形、使用量:20mL)を、塩酸、水、水酸化ナトリウム、水の順番で洗浄後、内径3.2mm、外径4.4mm、長さ200cmの医療用チューブ(エックステンションチューブ、(株)八光製、3.2×4.4×500mm(4mL)、MS-FL)に充填し、前記水10mLを通液した後のChelex100を充填したチューブに接続した。
【0071】
このように接続したチューブのChelex100側から、1.0mol/Lの塩酸10mLを流速1mL/minで通液し、更に水8ccを同様に通液して、水酸化Ra溶液を得た。得られた溶液を蒸発乾固させ、乾固物を0.1mol/Lの塩酸1mLで溶解した。その溶解液に0.5mol/Lの酢酸アンモニウム水溶液2mLを混合することで、電着液を調製した。得られた電着液のpHは5程度であると考えられる。
【0072】
得られた電着液中の226Ra含有量を、EURISYS MESURES社製のゲルマニウム半導体検出器を用い、放射能測定を行うことで測定した。結果を表6に示す。
【0073】
調製した電着液を用い、基材として、φ10mmの金めっき銀板(厚さ:5mmの円錐形状)を用い、電着時間を3時間に変更した以外は試験例1と同様に電着工程を行い、基材に226Ra含有物質を電着させた。
【0074】
電着後の基材に含まれる226Ra含有量自体を測定することは容易ではないため、パルス電流を3時間流し、基材を取り出した後の電着液中の226Ra含有量を、EURISYS MESURES社製のゲルマニウム半導体検出器を用い、放射能測定を行うことで測定し、電着前後の電着液中の226Ra含有量の差分を基材に電着した226Ra含有量(電着Ra量)とした。結果を表6に示す。
【0075】
なお、試験例30~32は、陽子を照射済みの226Raターゲットとして異なるものを用いた以外は同様の試験である。
【0076】